企画/叙事詩
 
 
 



 


 


 

 

  〓 〓  

 

音がする。何か重い物を引きずる不規則な足音。
冷気と闇に支配された世界の中で、場違いなその音は確実に近付いてきていた。
足が地の上を滑る音や、慌ててたたらを踏むような音を織り交ぜながら、ゆっくりと、着実に

他の砂漠の例に漏れず凄まじく冷え込む夜、月明かりに照らされる荒涼とした大地が
余計に寒々しさを増していた。
掲げられた『爛』の軍旗が垂れ下がっている、兵士達は穴も汚れもそのままにされた
円形のテントの中で毛布を被って眠っているのだろう、見張りの兵も焚き火の側に
立ちすくんで砂漠の夜をやり過ごしている。
兵士達のよりも少しばかり上等で大きなテントの中ではうずくまったシャツァル達が
古代遺跡の列石のように整列して自分の羽の中に頭を突っ込んでいた。

長期に及ぶ強行軍と昼間の戦いの疲れから、誰もが泥のように眠っていた。
その時起きていたのは、半分眠っている歩哨の他は飛爛だけで。
どこにも上る場所のない平坦な荒野に立って、ぼんやりとしていた彼女は不意に聞こえてきた
妙な音の方へふと顔を上げると、灯りも持たずに歩み始めた。 -- 飛爛

暗闇の中、近付いてきていたのは人間だった。小柄な少女、場所に似つかわしくないという点では飛爛といい勝負だ
時折手首で顔をこすったりしつつ、紐で繋いだ何かを引きずっている。時折地面と予期せぬ引っ掛かりを生じ、その度に運搬車は転びそうになったり転んだりしていたようだ
どれだけの道のりをこうして歩いてきたのかは分からないほど剥き出しの手足は汚れてはいたが、不思議にも出血の痕跡が見られない。
疲労のせいか、どこか目指す所があるのか。長い髪を側頭部で二つに縛った少女は飛爛の接近に気付く事もなく歩み続けている -- フェロミア

毛編みのマフラー越しに白い息を吐きながら、暗い月明かりの下でようやく視認できる距離に
来た時、飛爛は気付いた。
「あ・・・・・・・・・フェロミア!?」
聞こえていたのはなにか大きなモノを乗せた荷車が引かれて立てる音で、引っ張っている
少女の特徴的なシルエットを見て、ぼんやりとしていた飛爛は驚いたような声をあげた。 -- 飛爛

深呼吸のようなため息のような、立ち止まってそんな呼吸をしていると突然かかる声。
別に驚いてはいない。色々と話を聞きながら彼女を追ってきたのだ、いつか出会える可能性は決して低くはないはずだったのだから
でも何故かとっさに声は出ない。声以上に心情を語る物が零れ落ちる。慌てて目の下をぐしぐしと拭ってから、やっと答えられた
         「……うん」 -- フェロミア

驚いたまま息を吐くのも忘れて固まってしまった飛爛だったが、涙ぐんだその声を聞いて、ふぅっと
大きく白い息を吐く。そうして本当に自然に笑って居た。なんだか久々に笑えたような気がした。
「よかった・・・」
ここは最前線で、よく見ればもどって来たフェロミア自身、無事な感じでなかったが、口をついて
でたのはそんな言葉だった。戦場で別れたあと、考えれば考えるほどに自分には
彼女が戻ってくるような理由を持ち合わせているとは思えなかったせいもあって、何故かこの
再開に飛爛はひどく安堵したのだ。
「ほんとうに・・・・・・・・・」
安心したら今度は泣けてきたらしい、半笑いで半泣きだ。自分にかけていたマフラーを
取ると、寒そうな格好をした彼女の肩にかけた。 -- 飛爛

「うん」
自分で言うのもおかしいとは思う。だけど、自分も良かったと思ったのは確かだ。安堵や安心よりももっと強い物。強いて言うなら、救われた気分。
目の前の少女は本来敵で、自分を待っている訳がない。理性ではそう思いつつも何故か彼女を探し、彷徨い、再会した。
今まで信じていなかった幸運と言う言葉を、今回ばかりは信じずにはいられない。こうして再び出会えて、受け入れてくれているのだから。
「外したら、寒いだろ……あ、ぅ……」
自分は寒さには強いが、飛爛は違う。マフラーは彼女がつけておくべきだと思った。でも、肩にかけられたそれに残る仄かな暖かさに、飛爛の目が反射する月明かりに、つき返す力さえ奪われて。
生まれて初めて声を上げて泣いた。空を見上げて、子供の様に泣きじゃくった。兵器としての自覚も誇りもどこかに置き忘れた、と言った風情でわぁわぁと泣き叫び、しゃくりあげた。
何だかそれが……小さなぬくもりの中で泣き叫ぶ事が、とても気持ち良かった。 -- フェロミア



 



 

 

  〓 〓  

 

(カタクァの軍勢が元東ローディアのとある拠点で休息を取っている折、暫く別行動を取っていた那岐李が彼等の陣を訪ねてきた)
(軍勢に出会うや否や、「飛欄様は何処におられるか。是非、是非報告差し上げたいことがあるのだ…!」とまくしたてた)
(普段の冷静で本心を覗かせない彼の姿からは想像もつかない程取乱していた。いや、高揚していたというべきだろうか―)
(ともかく、彼はカタクァの陣を駆け抜け飛欄が休んでいる陣幕の中へと飛び込んできたのだ)
―飛爛様!急ぎ、ご報告したいことが…!! -- 那岐李

な、何事!?
 (赤い毛織絨毯の敷かれた陣幕の中で、外から体半分だけ突っ込んでいたココロアの)
(羽を毛づくろいしていた飛爛は突然飛び込んできた那岐李にびっくりした。)
(驚きが伝播したのか、横でココロアまで大きく嘴を開けて真っ赤な口の中を覗かせていた。)
 (何事だ?おおっ誰かとおもったらナギリじゃねぇか、等とテントの入り口からカタクァ兵達も)
(覗き込んでいた。) -- 飛爛

―っ……失礼、しました(飛欄やココロア、他のカタクァの兵の驚く様子を見てようやく冷静さを取り戻す)
(ごほん、と小さく咳払いしてその場に傅いた)…カタクァのルーツと思われる民族の遺跡を発見致しました
同時に―……(言いよどむ。これを告げることは、自身の出自を明かすことに他ならない)
(彼等とて、己がカガチ人だと知れば侮蔑の目を向けるのでは―?)
(とうに捨て去った筈の弱い心が、彼の言葉を阻害する) -- 那岐李

ルーツ・・・ああ!前に言ってたご先祖はもしかしたらローディアから山を越えて来たのかも
知れないって話ね!うん、いいよいいよ顔あげて、めっちゃ待ってたよあの続き!
 (無邪気に絨毯の上に腰を下ろす飛爛、外で覗き込んでいた人だかりがさらに増える)
(街と街の間もまばらで外界から隔絶された荒野を1ヶ月以上も進んでいた退屈も手伝って)
(外から戻ってきた那岐李の話はみな興味津々らしい。)
文官たちは一足さきに目的地に入らせてるから、とりあえず今は先に話しだけでも
聞かせてほしいな
 (那岐李の内心の葛藤も知らずわくわくしてる飛爛、気楽なものである。) -- 飛爛

……分かりました。以前話したカタクァのルーツに関する推測は当っていましたよ
…遥か昔、それこそ統一王朝が存在するより前に僻地に暮らしていた竜信仰を特徴とする一民族…それがカタクァのルーツかと思われます
それだけではない。彼等は現存する幾つかの民族の共通のルーツとも思われます
(そこまで行って、言葉を区切る。この先を、言うべきか否か―)
(一度、息をのんで顔を上げる。この事実を知った時から、心の奥に湧き上がるこの衝動を止めてはいけない。そんな気がしたから)
―……時に飛欄様。…カガチ人、という民族について…ご存じですか? -- 那岐李

おー実は結構親戚多かったんだ、私達がカタクァの最後の生き残りだって、長老達に教えられてた。
 (ふむふむとうなずく飛爛、戦いの話しをしてるときよりよほど楽しそうだ。他の者達も首を縮めて)
(目を細めているココロア以外、その歴史の話しを知っているものも知らないものもじっと聞いて)
(いる。)
カガチの?えーと・・・・・・・・・ああ、何年か前にすごい噂が流れてたよね、呪いだか病だかで
国一つ滅ぼしたとか。
 (彼女の本国であるカタクァは帝国でもかなり僻地の方にある、伝言ゲームの末に聞いた)
(所はそういう話だったのだろう。) -- 飛爛

…でしょうね。現存している、とは言いましたが枝分かれした民族はそのルーツを皆忘れ去っているでしょう…統一王朝前のことですし、当然ですが
(飛爛の答えに小さく息をつく。いわれなき差別を知らぬのであれば、まだ話易い―)
いえ、彼らは何もしてやいませんよ。ただ、黙って差別を、滅びを受け入れ死んでいった…それだけの民族です
そして…私はそのカガチ人の末裔なのですよ、飛爛様
(飛爛の瞳に僅かでも侮蔑の色が浮かべば、この場で彼等の元を離れようと思った)
(だがしかし。もしも。もしも飛爛が那岐李の想像する以上に純粋であるとすれば―話は変わってくる) -- 那岐李

 (カガチ人の話しとカタクァの歴史の話しがどうつながるのか、ちょっと飛爛は頭をひねった。)
(なにやら予想していた話しと違うので、謎かけでもされているのような。)
 (彼女は元々思考が子供じみて直球な所があって、難しい話しが苦手なのだ、大体そういう)
(難しい話しは側近であり、遠い兄に当たるクラトの担当だった。だから、正解を見つけるのは)
(そうそうにやめてしまい、ただ今まで聞いても答えようとしなかった自らのルーツを)
(那岐李がいつにもまして不景気そうな顔で話そうとしていたので・・・)
元々敵の騎士で、たまに本とに人間なの?って思うことあるようなフェロミアだって
今はみんなと仲良しなんだよ、那岐李を今更仲間はずれにするわけないじゃん
 (そもそもがカタクァの民自体帝国から見れば異邦人なのだ、帝国の中の常識など)
(真に受けてたまるかというような、反発心も少なからずあっただろう。)
(『んだなぁ、ナギリの術は強いしなぁ』『姫様のお使いがなきゃ、ずっと一緒に戦ってもらい)
(たいくらいだ俺達も楽できる!』等と調子のいい若い兵士達の言葉が続いた。) -- 飛爛

―(言葉を失う。これほどまでにカガチ人がすんなりと受け入れられるとは)
(飛爛の、カタクァの寛容さを試す意味での言葉でもあった。そして帰って来たのは「仲間」という言葉)
……もし、神がこの世に居るというのなら。私は今初めてその存在を信じよう
(胸に手を当て、強く握りしめた。数奇な運命もあったものだと、口元が緩む)
……我々カガチ人も、あなた方カタクァとルーツを同じくするものだと、今回の調査で判明しました
これより先、私はただ食客としてでなく―
根源を同じくし、同じ血をこの身に宿す者としてあなた方と運命を共にしよう
遥か昔…天と地とで分かたれた二つの民族がこうして今一つに戻る。……我が悲願は、此処に果されました
(再度頭を垂れて語る。飛爛が、カタクァの民がカガチ人を受け入れてくれたのなら)
(わが身は彼等と共に。共に帝国の支配から脱却すべく、全身全霊を持って駆け抜ける覚悟を決めたのだった) -- 那岐李

 (口がλの字みたくなって、飛爛は一瞬びっくりした小動物のような顔をした。)
(突然礼をとる那岐李に、あつまっていた兵士達も驚いたようだった。)
(だが、すぐに飛爛は微笑んだ。)
よかった、仲間が増えてくれて
 (本当に安堵したような笑みだった。那岐李はもう長いことカタクァにとどまっていて)
(実質的にはほとんど他の部下達と同じような関係ではあったが。)
(そうするように、仕向けたわけでもなく、ただ素直に自分の心に従って出た言葉で)
(相手が自分達の元へ来てくれたということが本当にうれしかった。) -- 飛爛

私は…ずっとカガチ人のルーツを探っていました。ただ嬲られ、石を投げられるだけの存在であるはずがないと
わが身に宿る異能のように、カガチ人には必ず誇り高き力と歴史があるはずだと、そう信じていた
私は、間違ってはいなかった…!カガチ人はやはり、誇り無き民族などではなかったのだ…!
(飛爛の顔を見つめるその瞳にはいつしか暗い炎が灯っていた)
(彼の悲願は達成された。だがしかし、それは最初の一歩でしかないのだ)
さぁ、我が身を剣として存分に振うといいでしょう。この大陸で最も誇り高く、歴史深き民族が何であるのか帝国の民に思い知らせる必要がある…!
カタクァが得た翼と、カガチが得た咢、この二つがそろって打ち崩せぬ城などあろうはずもないのですから!
(大げさな台詞を大げさな仕草で口にする。しかしそれは演技でもなんでもない)
(祖の根源に至った男が目指すのは、虐げて来た者達への復讐ただ一つであるのだから―) -- 那岐李

『おお!ナギリはいい事を言う!その通りだ!俺達には無敵のシャツァルがついている!』
『そうだとも!俺達は絶対に負けない!』
 (那岐李の持つ力をバルトリアの会戦で目の当たりにしていた兵士達は、力強い言葉に賛同し喜んだ。)
(戦場に現れた巨人を倒すのに他国の軍は自分達よりも大きな犠牲を払ったという話しを、戦いの)
(後に聞いていたせいもあっただろう。)
 (この時カタクァの兵士達は自分達の戦力を最強と信じて疑わず、反帝国という言葉をただの)
(夢物語だとは思っていなかった。)
 (ただ、飛爛が一瞬だけ泣きそうな横顔をしていたのに気付いたものはほとんど居なかった。)
(閉じていたまぶたを開けて、水晶球よりも大きな黄色い目玉でココロアだけが飛爛を見つめていた。)



 



 

 

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(宗爛より届いた文は、個人的な要件の書かれたものだった)
(飛爛にあてて書かれたその手紙は普通の手紙に紛れておくれてきており、読み方も少々特殊なものだった。小さな頃に2人でとりきめた、些細な暗号によって読み解けるようになっている)
(子供らしい暗号だ。しかし、一件稚拙な文の方が実際はあっさりと届いてしまうものだ。物々しい暗号文よりよほど伝わりやすく、届きやすい)

(内容は、こうだった)

(次に会戦で、西ローディアへ打ってでる。その際に)
(本爛の首を取る)
(出来る事なら、現地では手伝って欲しい。これはただの個人的な要望であって、それ以上でもそれ以下でもない)
(追伸:飛姉。無茶はしないでくれ。飛姉が死ぬのは、嫌だ) -- 宗爛



 



 

 

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(そいつはまたも、いきなりやって来た。突風を引き連れて師団となった六稜軍の拠点の上空に)
(飛来したのは巨大な鳥だ。その巨鳥、シャツァルを駆る華桌の軍勢は山脈沿いに遥か)
(遥か南方へ下っているというのに。)
大至急宗をお願いします!大事なことなのでッ!
 (その総大将たる飛爛が単身、あきれ返るほどの身軽さでもってとんできたのだった。) -- 飛爛

(執務室に篭り、書類の整理をしていた宗爛だったが、飛欄が来たと伝えられれば仮面もつけずに部屋を飛び出し、空に一番近い場所……飛爛のおりたった城の屋上にまでやってくる)
……姉上。お久しぶりです
その様子ですと、文は確かに届いたようですな -- 宗爛

一昨日ついたよ、そっから飛び出して2日でここだから、最速記録かもしんない。
 (飛爛を降ろすとココロアは屋上の縁で翼を広げて、近くの水辺に向かって飛んでいく。)
(そうとう喉が渇いていたらしい。)
手紙の返事を直接持ってきたよ・・・と、そのまえに伝えとかないとね。
 (人払いをさせるよう宗爛に頼んだあと。屋上にとどまって、話はじめる。)
あのね、私本兄に会ったよ -- 飛爛

……でしょうな(驚きもせずに、冷めた口調でそういう)
俺も、先日会いました。恐らく、飛姉より先に
そして今……フリストフォンという名で西ローディアで爵位を持っていることも知りました
俺の前に姿を現したということは、飛姉の前にも出てくるだろうなと思っていましたよ
アレのことだから俺が生きているとしれば、飛姉を利用しようと接近してくるだろうと思っていました
だから、ただアレを殺すとだけ手紙にも書いたのです
(冬の湖のような口調で、雪山の吹雪よりも冷たい瞳で)
(そう、淡々と語った) -- 宗爛

本兄は私たちと戦いたくないって、傷つけあうのを見るには嫌だって言ってたよ
 (自分に本爛から手紙が来て、たった一人で本爛が会いに来たときの話をした。)
(本爛が国を出て西に渡ることになった理由や、あくまでも戦いを続けようとするなら)
(もっと辛いことになると、悲しそうに語っていた事。)
(直接伝えることは出来なかったから、飛爛から宗へつたえて欲しいと頼まれた事、そして・・・)
私がきめて、やろうとしてることを、本兄は応援してくれるとも言ってた・・・
・・・あ、別に前に宗にバレちゃったような事は本兄にはいってないからね! -- 飛爛

なるほど……そうですか(背を向ければ空を仰いで小さく笑う)
あの男らしい言葉ですな。一緒にいたころも……三人でいたあの頃も同じようなことをいっていた
それが嬉しかったし、暖かかったし……俺は……僕は、兄様の威厳ある言葉と、姉さんの優しい言葉さえあればそれでよかった……
(懐かしむように、やわらかく、暖かく、そう呟いたあと)

しかし、あの男は俺の前から消えた。俺と母さんを置いていなくなった。その事実には何の違いも、変わりもない

(蒼穹すら曇るほどの憎悪と、冷気すら吹き飛ぶほどの憤怒によって……言葉が吐き出される)
飛姉。アナタのいう事を確かにアレは応援するでしょう。言葉通りにこなして、恐らく、下手をすればそれを成してしまうでしょう。昔と同じように。何も変わりなく。何の感動もなく。何の感慨もなく

だが、それだけだ。アレがくれるのは結果だけだ
実の伴わないカラッポの結果だけ
アナタに与える結果も、きっとそういう類のものですよ -- 宗爛

ごめん・・・宗の元を離れたのは私も一緒だよね・・・
 (いつもの無尽蔵な笑顔もなりを潜めて、飛爛は俯いていた。仮面をつけない素顔の弟が怒りを)
(あらわにするのを見て、今更お互いの知らない10年余りの時間を理解したのだ。)
私はカタクァに戻った後、結構幸せだったから・・・みんな、きっと同じだろうって勝手に思ってた。
でも違うんだよね・・・ごめん、私全然気付いてなかったんだ。こっちで再開したときも
昔のまんまの宗だと思ってた。
 (現実は違っていた、ほんとうに何もかも・・・・・・・・・)

あはぁっごめんね、私本当に頭あんまりよくないんだ。今だって、宗と本兄と私と、また昔
みたいに仲良くできたらいいなって思って、そう言おうと思って・・・飛んできたのに・・・・・・・・・
もう、なんて言えばいいのかわかんないや・・・。
ううん、それだけじゃない・・・私が帝国なんて無くなったほうがきっとみんな幸せなれるって
言ったとき、宗は本当に困っちゃったんだよね。だって・・・今の宗にはきっと、変わりたくても
どうしようもない理由がいっぱいありすぎるんだから。 -- 飛爛

……姉上。いや、飛姉。いいんですよ
(振り返る。そこにあったものは笑顔。昔と全く違わない、宗爛らしい幼いはにかみ笑顔)
だって、飛姉は戻ってきてくれたじゃないですか
(そういって、つかつかと歩みよれば)
(ためらいなく抱き締める。周りに人目などない。見ているのはココロアと、広い蒼穹だけ)

飛姉はアイツとは違う
飛姉は戻ってきてくれた
飛姉は今も此処にいてくれる
それが嬉しい。だから其れ以上なんて望まない
僕だって本当はみんな一緒がいい。みんな一緒に楽しくやれればそれでいい
でも、フォン兄様はきっとそう思ってない
あの男はだって……昔と何も変わってなかった
昔と同じ、僕が憧れたころと同じ、冷徹な王であり続けてくれた
なら、彼の台詞の意味だって何もかわらない。昔と同じなら、今の彼の言葉だって王の言葉さ
そして、敵として、敵の「王」がそう語ったのならば……

あの男の言葉はもう信用できない

僕には兄なんていない。姉が一人、飛姉だけいればいい
だから……どこにもいかないで、飛姉……お願いだよ……

(柔らかい微笑みのまま、顔を合わせる。そこにあった顔は……)

飛姉まで僕の前から去ってしまうと言うのなら……きっと殺してしまうから

(昔と全く同じ笑顔のまま、昔と全く違う狂気を孕んでいた)

(その皇子は何もかわっていなかった)
(昔と同じ、泣き虫の皇子だった)
(そんな泣き虫が今までこの狐の巣で、蟲毒の壷の底でどうやって生きてきたのか)
(その地獄の片鱗が……宗爛の紅い瞳の向こうから垣間見える) -- 宗爛

あ・・・ッ
 (抵抗する間もなく、武人にしては細身なその腕の中に飛爛は抱え込まれてしまっていた。)
(水のみ場から音も無く舞い戻っていたココロアは二人を見下ろすばかりで何もしない。)
(飛爛が嫌がれば、その巨大な嘴が鉤爪が即座に凶器と化すのだろうが、彼女の半身とも)
(言うべき蒼い巨鳥は羽ばたき一つしなかった。)
 (飛爛は自分の体が弟である宗よりもずっと華奢で小さなものになっていたのをまた今更実感し、)
(彼女の空色とは正反対の紅い瞳に写った不自然なまでにやさしい微笑に暗い狂気を感じた。)
 (だけどふしぎと恐れる気は起きなかった。抱きしめられたまま、飛爛はその腕の中で顔を伏せ、)
(そして右腕をぐっと上にかかげるようにして相手の頭を撫でていた。)
そんな、悲しそうな顔で笑うなバカ・・・
 (なぜならその笑顔は、爛京の高く壮麗な牢獄のような宮殿の壁に囲われた庭の中で、)
(本当は今にも泣き出しそうなのに、無理に笑っていた少年の顔に被ってみえてしまったから。) -- 飛爛



 



 

 

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《 第 二 次 バ ル ト リ ア 会 戦 》

(私は、連合国の澱である)
(底に沈殿し、撹拌せねば表面に浮いてもこない、そういう役割を十年以上前に一人の王と一人の皇によって与えられた)
(方や象徴として、方や供物として、そこに自己の意思を介在する余地など微塵もなかったが、私はそれですら何方でも良かった)
(主張すべき自己の意思すらも、私は所持していなかったからだ)
(だが、そんな空虚な澱ですら、この戦場に足並みを揃えて槍を並べる一つとならねばならぬほど、戦況は逼迫していた)
(何しろ帝国兵の数が多い。単純にして明確な差として存在するその優位性を、帝国は余すことなく酷使し続けている) -- フリストフォン

(侵略戦というものは、フィールドという点で大きく侵略側が不利であるにも関わらず、歴史の上で何度も攻城が成る理由は)
(何をも得られない戦いというものが兵士の志気を大きく削り続けるからである)
(今回の戦も例外ではなく、兵士の志気はその圧倒的な数を前に削られ続けていた)
(故に、西側の軍党指揮を採れる者全てが駆りだされ、総力戦を余儀なくされていた)
(それは恐らく……現王ですら、例外でいられるのは僅かな時間だろうと、実際の戦場に立って思う)
(等しく、ここは誰もが死を感じざるを得ない地獄だ)
(鼓舞による志気向上も限界に達しようという、与えられた兵の顔色を馬上で睥睨しつつ、戦場の遥か先、帝国の方を見据えた) -- フリストフォン

(平原を吹きぬける風。その風が不自然に……東から西へと吹き込みはじめる)
(同時に……)
(黒煙が戦塵と共にフリストフォンの軍勢へと踊り掛かって来る)

(見据える先。誇示するかのごとく掲げられた軍の旗を見て、指揮官は呟く)
……来たか。シュウ。
いいだろう。それが……お前の出した結論であるなら、それを正してやらねばなるまい。
戦場で得られる物など、何もないのだと。何もないことを愉しいと思える私のような性質がない限り、居るべき場所ではないと。
(伝令に陣形を整えるように告げる。陣は横陣。横一列に並ぶ、シンプルにして最古の陣形)
さあ、来い。……兄の首級は此処ぞ。 -- フリストフォン

(わかる……あそこにいる。ここにいる。まるで、互いにその吐息が聞こえるかのようだ)
(遙か後方にいるにも拘らず、その声が聞こえる。吐息が漏れるように、六稜の旗が囁く)

わかっているさ。戦場は俺の居場所じゃないことくらい、最初からわかっているよ
でも、関係ないんだ。関係ないからいいんだ。だって兄様がいるもの。兄様がそこにいるんだもの
だったらそれ以上なんて何も要らない。何1つ必要ない
アナタのいる場所が俺のいる場所だ
俺はそう強いられて生きてきた。アンタがいなくなったばかりになぁああ!!!

(まるで怒気がそのまま形になったかのように……黒煙がフリストフォンの横陣へと撒きついてくる)
(そうそれは……戦塵、砂煙に偽装した毒)
(風も風読みによって操作したものだ。既に戦争は始まっている) -- 宗爛

(黒煙が地を這い、意思を持っているかのごとく隊列の一部を苦悶に歪ませる)
(……成る程。毒か。……考えている)
(そして、お前らしいな、自らの手を汚すことで、味方の被害を最小限にする、敵のみを傷つける戦法だ)
(横陣を組まず、例えば一列にて中央突破を狙っていれば、一箇所に集中した毒によって一網打尽にされていたかもしれない。良く、学んでいる)

(だが。それでは王足りえないのだよ、シュウ。それは利と理を良しとする、私の考えだろう)陣形。偃月
――二つに裂けろ、本陣。(元より、横陣の形を取っていれば、数として上回っている相手であるなら、中央突破をして然るべきだと読んでいた)
(少数精鋭の定石であるところの中央を厚く構える魚鱗ではなく、横陣の構えを取ったのは、あえてそれを誘っていた手管なのだが)
(招き入れたのが毒であるなら、その策を別の形で使わせてもらおう)
構えろ。(信号弾による号令で、味方が一斉に横陣の中央に向けて盾を構える

(瞬間、爆風が地をなぎ払い、閃光が眩く六稜軍の瞳を焼く。心象に深く刻み込まれるまでに)
(それを以って毒煙を晴らし、土煙の中から中央にて馬で歩み出る)

戦力や立場とは保持し、守るものではない。有効に使い、消費してこその意味だ。
どちらでもいいという私の生き方を踏襲しての、どちらもいらないというその無欲に似た強欲が。
お前が私足りえない最大の理由だ、シュウ。
(アルメナの技術。死葬兵を、借りての……自爆という手段
(死葬兵は数こそ少ないが、味方と同じ武装をさせている。誰が爆発するか分からない軍勢となった西ローディア軍が、毒の風下を避けた二手に別れ、斜めに進軍をしてくる) -- フリストフォン

(信号弾の爆風により毒は薙ぎ払われるが、帝国軍は丘を取った有為を捨てる心算はないらしく、全軍疎らに布陣したまま矢を放ってくる)
(無論唯の弓ではなく、水銀弓である。しかも、風読みによって風にのって飛んでくるそれはより鋭く、より遠くから届く。西の弓の飛距離から鑑みれば最早冗談としか思えないような遠距離からだ。疎らに布陣された弓兵達は二手に分かれた西ローディアの軍勢に対してもムラなく応射撃、御丁寧に兵士よりも馬を優先して狙っている。レンジ外から続けられるそれは、明らかに機動性を殺ぐために行われている)

(そして同時に……声が響いてくる。風にのり、威圧のあるその声。否、声ならぬ咆哮)

跪け

(動物感応の応用。騎馬に対する威圧) -- 六稜兵

(高台からの矢による一斉射撃に、堅牢に固めた鎧の隙間を穿たれ、全面に立った者達がその毒と痛みに喘ぐ)
(結果、苦しまぬ兵が死葬兵のそれと分かる形となり、陣形が徐々に乱れ始める)
(馬上で剣を振り、状況の不利を以って小さく嗤った)
(定石に勝る奇策なしと。そう判断して定石に定石を重ねて来ている)
(数の有利に驕ることなく、感情を理由にすることなく)
(ただ妄執にも似た自身の性質を飼い慣らした上で、全てを理と利で御している)

(先んじて戦線の先端に触れた死葬兵もまた、陣を崩すには至らず、自爆という手段を有効に使えないまま、爆散し果てていく)
(自身の指揮する機動力も、攻撃範囲を面としている高台からの射撃には圧倒的に不利は否めない)

そうか。
これは。
(小さく、呟く)
……成る程、これが。執着か、ヴァイド。
(口内で弄ぶように呟いた瞬間、動物感応によって騎馬が一斉に足を鈍らせる)
(機動力を削がれた騎馬隊を狙ったように矢が居抜き、ただでさえ少ない戦力は、十全に隊という形が成り立たないまでに削られ始めている)
……この不利は。この攻の焦りは。
私の執着が生み出した結果というわけか。
成る程な。
(男は、生まれて初めて、嗤った)
……シュウ。いつの間にかお前は……私の敵となっていたのだな。 -- フリストフォン

(機先を挫かれ、突撃に失敗した西ローディアの兵達に止めをさすかのように)
総員!! 全軍突撃!!
(号令を共に、高台から重装騎兵と魔獣……そして蟲が逆落としを仕掛けてくる)
(機動性と、勢いと、そしてなにより物量を減じた西ローディア軍に対して再び定石を重ねる)
(しかし、今回はただの定石ではない。確実に討ち取るための策。陣形戦術を基礎とする西には恐らくない、秘策)

(まばらな集団が固まった集団が崩れた際に使う戦術……浸透戦術)
(戦線にムラができ、機動性を失った西ローディア軍の前線を蹴散らし、時には素通りし、陣形と陣形の隙間に浸透するかの如く帝国軍がなだれ込んでくる)
(無論、前方からだけではない)
(左翼、右翼、そして中央3方同時。物量と、まばらな布陣を生かした突撃)
(そして、その先頭にて陣頭指揮を執る旗頭は……)

(六つ目の異形面をつけた……六道鬼と呼ばれた帝国将軍)

迎え(利用し)にきましたよ……フォン兄様 -- 宗爛

(もはや、戦線は瓦解したと言っていい)
(間隙を縫うようにして攻め入ってくる帝国軍は、急造の軍隊の戦列など容易く蹴散らし邁進してくる)
(認めざるを得ない。何らかの感情が自分の中に芽生えつつあり、それが足枷として作用したと)
(これは――皇の定石に王が奇策を以って挑んだ結果の敗戦であると)

……よもや。
此れほどまでに、盤上で正着を指すに至っているとはな。
シュウ。

(単騎ではないが孤軍。しかも三方を遮られ、恐らく退路も断たれているだろう)
(眼前に立つ、六つ眼の瞳を持つ鬼は、帝国の傀儡ではなく。自らの妄執を利用せしめる魍魎であった)

……一つだけ、勘違いを正そう。
私は……お前を……そしてお前の母を捨てたわけではない。
それは……シュウ、お前の勘違いだ。
(命乞いにも取れる言葉を放ち、小さく顔を伏せる) -- フリストフォン

(巨大な黒山羊にのった鬼は、フリストフォンの目前にまで踏み込み、水銀槍の穂先をぴたりと突きつけ……止まる)

……フォン兄様が悪いんですよ
フォン兄様がいなかったから、僕は「フォン兄様になるしかなかった」
周りがそう強いた。母がそう強いた
そうしなければ生き残れなかった

(周囲から近衛兵や生き残った護衛などが鬼へと切りかかるが)
(鬼の周囲に控えた異形……骨面の異形達と、蜘蛛糸を編んでつくった覆面の重装騎兵達が槍を振るい、弓を射れば途端に大人しくなる)
(それでも、決死の思い出突破を果たした一人の剣士が宗爛へ肉薄し……黒咲に噛み殺される)

(返り血が、お互いの頬を染める。互い違いの頬。右頬と左頬にそれぞれ左右対称の紅化粧)
(小さく顔を伏せるフリストフォンの言葉をきけば、小さく溜息)

関係ありませんよ。フォン兄様。何も関係ないんですそんなこと
アナタが『帝国』を裏切ったか裏切らなかったかなんて、どうでもいいことなんですよ

大事なことはたった一つ。たった一つだけなんです。フォン兄様

アナタが僕の前からきえて、『僕の』気持ちを裏切ったことが問題なんです

突然アナタが目の前に現れたときは、殺さなければ気がすまなかった
アナタがいなくなったせいで母は死んだ。僕もこんな人生を歩むハメになった
僕はね、フォン兄様。アナタがいてくれればそれでよかったんです
アナタが皇帝になって、アナタの隣で補佐をして、みんなで笑って帝国を食いつぶせればそれでよかったんです

でもアナタは消えた。アナタがいなくなったせいで……
(わなわなと震える。狂気が膨れ上がる。捻じ曲がった感情が歪に腐爛して)

俺は……アンタの代わりにされた!!!

(張り裂ける)

フォン兄様。一度だけ、一度だけ言います
一緒に帝国に戻りましょう。一緒に、昔みたいに、飛姉と、僕と、三人で笑って暮らしましょう
僕と飛姉の為に一生嘘を吐き続けて生きてくださいよ

(仮面越しに、口角がつりあがる。瞳孔が開ききり、涙が自然と流れていく)
(そう、俺はそうだ。俺は卑怯者だ。俺は卑屈なガキだ。知っている)

昔みたいに。カラッポなままのフォン兄様として、戻ってきてくださいよ

(でも、それでいい。コイツさえいれば、この人さえいてくれれば、この大好きで愛してて凄くて完璧で完全で無欠で無血な偶像さえあれば)
(彼以外の全てはずっと幸せでいられるのだから)
(エゴ丸出しの兄弟愛。汚物のような愛憎の感情)
(いくら汚れていようと構わない。いくら歪と罵られても構わない。それでも変わりなんてないんだ)

(僕は未だに……彼を愛しているのだから)
(愛という言葉が、その人のことを必要としているという意味でなら、誰よりも強く。誰よりも深く。誰よりも……重く) -- 宗爛

(それは宗爛という男の慟哭であった)
(長年、真っ直ぐに突きつけられてきた愛は、その矛先が存在を消したことで、ベクトルとして歪んでいった)
(虚無に対して押し付けられた直線が根本を同じくしてその頭身を撓ませるように、深く、歪に)
(それは静謐なる狂気。虚無なる正常の対局に位置する、真っ直ぐな曲線)

(世の中の全ては自分という力に寄り添うだけで、他愛なくへし折れて来た)
(相対してくる物はもちろんのこと、寄り添おうとした物、付き従おうとした物ですら、その影響からは逃れられなかった)
(万物に触れることが出来ない性質は、触感を持たぬ人間が自意識を育成出来ないのと同じように、大いなる虚無を齎してきた)
(だが)
(今ここで)
(その力によって折れ曲がった存在が、その愛を歪な直線で向けてきている)

(そうか)
(これが、ヴァイドの言う。私が興味を持つに値する、宗爛という男の、弟の価値か)

……そうか。
お前は、私を……。
それほどまでに、必要としていたのだな。

すまない。
シュウ。
……すまない。
(それは、悲しみと後悔、そして絶望に彩られた声色であった)

……本当に、すまない。
……何一つ、理解してやれなくて

(瞳に、手を触れると、そこには灼熱の瞳の色が存在している)

シュウ、『俺』はな。
お前を裏切ったわけでも、お前を捨てたわけでもないんだ。
(両手を広げると、男の顔の上で鮮烈な笑顔の華が咲く)

今の今まで。
お前は、『俺』の世界の中にすらいなかったのだから

(絶対虚無の暴虐が、目覚める)
(それは、予備動作も、呪文詠唱も、待機時間も、瞬間予兆すらない)
(完璧な構成を持った緻密さと、人の捉えられない速度で編みこまれた咒式)

(かつて、誰もが問い、やがて問わなくなった問いがある)
本爛よ。お前にあれは出来るか?と

(その問いの意味を行動という答えで示してきた男が、今、生まれて初めてその言葉に二つの重なった意味を持つ言葉を以って返す)
――何故……それを出来ないのかだけは、『俺』に理解できない唯一だよ。

(地面が鳴動し)
(その場に散らばる沢山の死体を原料として、膨大なる呪術の儀式を冷酷で無尽蔵な魔力にて強引にねじ伏せ)
(その魔術は、成る)

柱の騎士が、男の呼応によって、再びバルトリアの大地を揺るがした
(その肩で。『本爛』という存在が。宗爛を敵と認めた零指向の悪が。灼熱の瞳で嗤っている)
その、願いは叶えてやれない。
私はそれすらも……どちらでもいいのだから。-- 本爛

(突如出現した柱の騎士の一団。しかし、既に帝国軍は柱の騎士に対する対処法を学んでおり……尚且つ、宗爛の率いる六稜軍は殊更詳しく柱の騎士について調べていたためにそれにより潰走することはなかった)
(しかし、前線で……フリストフォンたった一人のデタラメな神業によって生み出されたその様を見た者達は……例外である)

「な?! な、なんだ死体が……突然……!?」
「バカな、何の予備動作もなく……!」
「こ、こんなに簡単につくれるなんて聞いてないぞ!!」

(白兵戦において最大の優位とか如何であるか?)
(単純で明確な答がそこにあった。即ち)
(圧倒的質量による蹂躙)
(柱の騎士が一度腕を振るうたびに、血飛沫があがる)
(柱の騎士が一度脚を踏みしめるたびに、大地が悲鳴を上げる)
(前線は混乱し、敵味方入り混じった混戦の様相を呈する)

は、ははは……

(昔から、コイツは何も変わっていなかった。本当に何も変わっていなかった)
(出来ないことなんて何もない。誰かが出来るなら出来るのだ)
(否)

はははは……

(数字の上で出来るのならば)

ははははははははははははは!!

(即ち全てがこの男は出来るのだ)

そうだ!! アンタはいつだってそうだった! アンタの瞳には俺も!! 母も!! 皇帝すらも映っていなかった!!
深紅はただの血の色で、その奥の『病み』には誰も近づけなかった!
近付こうとした俺がこの有様だ……近付こうと思ったのに、近づけると思ったのに……

結局全部勘違いだったわけだ!! ひぃひひひ!! はーっはっははっは! やっぱりフォン兄様は凄いや!! はははは、はははははははは!!
(近くに近衛もいなければ、近隣の部隊すら敵味方構わず逃げ出しているこの状況)
(あと数分もすれば冷静さを取り戻した部隊がそれぞれ柱の騎士を各個撃破するだろうが、それまでは戦場は一種の麻痺状態になる)
(この男は、そんな状況をたった一人で、ただの一瞬で作り出した)

確信したよフォン兄様。やはり僕はアナタを愛している
なんでもできるアナタを愛している。そんなアナタが大好きだ
今だってすぐにでも手元に起きたい。今すぐにでも……利用してやりたい

どうせアンタは何をしたって不幸なんだ
なんでもできるんだから何をしたって満たされやしない。何をしたってどうでもいい。アナタは神なんだ。人の身をした神だ
どうせなにをしてもどうでもよくて、どうせ何をしても不幸なら

アナタはもっと、他人の為に不幸になるべきだ

導いてやるよ。本爛
俺が皇として……アンタの王たる姿を正しく利用してやる

それが叶わないから
手元にこないのなら

必ず……殺してやる

殺して、利用して……歴史の中で永遠にしてあげるよ

大事な大事な、僕の王様

(自分でなんでも出来てしまった男と、自分では何も出来なかった男)
(何も出来ない男が何かを成すためには、成せる何かを使うしかない)
(目前の男ですら、考えてみればそういうものなのだ)

(この男が好きな理由なんて突き詰めればひとつしかない)

(この完全な、神の如き兄が一人いるだけで)

(この兄以外の全ては幸福にすることができるのだから)

さて、頃合か……

(柱の騎士の拳を紙一重で避けつつ、黒咲を駆り、後退する)
(同時に、帝国軍の反撃が始まる。対柱の騎士装備。爆撃。酸撃。炎撃……呪毒によるディスエンチャントから、地教術を利用した足場の操作まで)
(既に完全に研究し尽くしているといわんがばかりに帝国軍は柔軟に対応した)

フォン兄様。忘れないでください
アナタは絶対に幸せになれません。詩あわせの意味を理解できないアナタは一生幸せになれない……だから……

アナタは僕の幸せのダシになるべきなんだ

また会いましょう……フォン兄様。アナタこそ、皇帝に相応しい唯一のお方です

(感情が暴走しても、利は追い続ける)
(目前の男にそうされたその男は……意外なほどにあっさりとその場から引き下がった) -- 宗爛

(宗爛という男が準備を重ね、正着手を重ねて陣取った高さよりなお、遥かなる高みより男は嗤う)
(暗く、昏く、儚い、空虚な笑みを以って、世界を嘲笑った)

最初から、何もこの手にはなく。全てがこの手の中にあった。
そして今でも、何も手の中にないから、何であろうが掴むことが出来たのだ。

触れることが出来ないのだから、壊れていく何かに手を伸ばし救おうとすることも、
救われようとする何かを毀すこともできない。
ただ、在るだけの悪。そんな私という形をした何かが、私の本質なのやもしれんな。

(眼下に広がる惨状も)
(戦況ですら、男には興味の埒外にある)

(ただ一つ、或いは生まれて初めて知る、その感触は)
(好奇心と呼ばれる物であるのだとしたら……男は、柱の騎士の上で顔を抑えて、嗤う)

導こうじゃないか。宗爛。
私が、王として。お前の皇たる有り様を、私のために歪めよう。

私は生まれて初めて、自分の意思で何かを選ぼうと思う。
今まで与えられた全てに反応を返すだけだった私が、生まれて初めてだ。
宗爛。
お前は私が戯れとして……壊そうとしてやろう。

壊れてくれるなよ……大切な私の弟。 -- 本爛

 

 

【 六稜軍 本陣 】

(小高い丘に布陣を済ませた宗爛。此処までは帝国でとる戦術の定石である)
(これだけで本爛を……いや、フリストフォンの軍勢を挫く事は難しいだろう。奴がこの程度の策とも呼べぬ策でうろたえるとも思えない)
(しかし、それでいい。そこまではお互いに予想の範疇)
……既に戦線は拡大しきっている。援軍もすぐには到着しない
せいぜい来たとしても余所の諸侯が手勢を連れて現れる程度。その程度なら……我が六稜軍7000余の前では問題にもならない
さぁ、帰ろうフォン兄様。かえって姉さんと僕と…3人で帝国を喰らい潰そう
蟲の子は蟲らしくするべきだ……なぁ、姉さんもそう思うだろ?
(背後に振り向き、そう呟く)
(六つ目の仮面をつけて相貌のその奥。そこまでは伺えない) -- 宗爛

本当に、本兄を連れ帰るんだよね・・・?
 (爆薬を装填された皮鎧を着込んだココロアの足元に立って飛爛は問い返した。)
(その仮面の下で弟がどんな顔をしてるのか想像したら、また泣きだしそうな気がしてしまった。)
 (手紙で、本爛を打つために手伝ってほしいと言われたあと。飛爛は散々迷って結局手を貸す)
(ことにした。すでに六稜軍の後方の空には矢尻形編隊を連ねた巨鳥の群れが飛んでいる。) -- 飛爛

ああ、勿論さ。『冷静』に考えて調べてみれば、今のフォン兄様は幸いにも西方諸侯の一人であらせられる
それなら、骨の髄まで利用するなら生け捕りにしたほうが帝国としても都合が良い筈。裏切り者だろうと問題なく連れ帰ることができるさ
そしたら名前を変えてもらって、次に顔を変えてもらえばいい。そしてフォン兄様ではないフォン兄様にすればいいのさ
……まぁ、返答次第ではあるけれどね
飛姉。早速仕事を頼みたい。まずは西方の道を爆撃して潰してきてくれ
退路と連絡線を絶ちたい。そうなれば邪魔は入りにくくなるはずだ -- 宗爛

(周囲の兵士に邪魔にされようと、露骨に嫌な顔をされようと、一回り大きくなった金属の塊を纏った少女は飛爛の側から離れない)
(彼女が何処に行くにも無言で着いていくのだった。飛爛から話しかけられれば口を開くが、そうでなければ大体黙って突っ立っているだけである。今も作戦内容を聞いて飛爛がどう答えるかだけを気にしている) -- フェロミア

くくく……はじまったか
(眼下に広がるフリストフォンの軍勢。その横隊陣形をみながら笑う)
(密集しなかったことはまずは流石である。重装騎兵の打撃力は西のほうが上である以上、一点突破をねらったところで陣形を整えられてしまえばそれで終わりだ)
(ならばまずは挫く必要がある。相手の流れを。動きを。気勢を)
(さすれば自然と陣は崩れる)
(だが、しかし……)
フォン兄様がこの程度の手を読めないわけもない……同じ帝国にいたのだ。むしろ定石として当たり前のように認識しているだろう
返し手はいくらでもある……さぁ、どう返してくる……ふふふ -- 宗爛

(ためらいのない言葉、確かに今はそうするのが正しいと理解はできる。)
(冷静でいられるはずがないな・・・と飛爛は思った。ただ、宗爛は必死になって今も)
(自分に課せられた運命と戦おうとしてるんだと、思えば。今は迷っていられない。)
・・・わかった、編隊の爆装は済んでるから、私が上がればすぐに取り掛かれる。
フェロミアは私の直援にまわってね。
(短く答えて、飛爛はココロアの蒼い背中に飛び乗った。飛爛をのせるためにしゃがんだ鳥が)
(再び立ち上がると、地上に居ながらもうすでに誰の手にも届かない高さだった。)
あ、そうだ・・・ね、宗 -- 飛爛

……? どうしたんだい飛姉?
何か質問でも?
(普段よりも勤めて柔らかくたずねる)
(いっそ不自然なほどに、柔らかく) -- 宗爛

 (周囲の兵士の頭上を大樹の枝のように覆い隠す巨大な翼は、すでに戦場の風を受けて膨らみ)
(はじめていた。あとは一気に駆け下りて飛びたてばいい。その背にのって飛爛は笑っていた。)
(これから戦いだというのに、無邪気そうな顔で。)
私はいつだって、宗の味方だよ、絶対にね!
 (いまさら当たり前な言葉だったが、それは最後に二人きりで会った、あの日の続きの言葉だった。)
(あの時は言いそびれたけれど、悲しそうな顔をして笑う弟に一番言うべきだった言葉だと思う。)
 (風を押しのけてココロアが翼をしならせると、高い澄んだ不思議な鳴き声を飛爛に呼応するようにあげた。) -- 飛爛

(姉と弟の交わす感動的な会話すら聞こえていないかのように、飛爛に向かってうんと頷く)
(今の自分の存在意義は自らの性能の証明と持ち主に勝利をもたらす事にある。他は瑣末な事。)
(そのはずが、胸の奥が不快な熱さで炙られていた。最近、飛爛が自分以外の存在と触れ合っていると時々こうなる。今はこの感覚がなんなのか分からないが)
(とにかく、早く空に上がりたかった。そうして存分に戦おう。静かにココロアの横に並ぶ) -- フェロミア

え……ふぇ、飛姉……
(姉のその言葉をうけて……放心して姉を見送ったあと)

(仮面の下で笑う)
……ああ、僕もそうだよ飛姉。だから -- 宗爛

裏切らないでね。フォン兄様みたいに

(誰にもきこえないその囁きは、蒼穹に溶けて消えた)

……さて、裏切り者のフォン兄様はどう動くかな -- 宗爛

二手にわけたか……一つの軍隊を柔軟に機動させうるその采配は見事といえるが……
あいにくと同じ土俵で戦うつもりはないのですよ、フォン兄様
(射程で勝る以上、この有為を捨てる理由も、心算も、意味も、一切ない)
(定石ではあるが、定石であるからこそ破られにくい。定石であるからこそ磐石)
(奇策とは少勢が行うもの。数で勝るなら普通に戦い、普通に殺し、普通に勝てば良い)
(戦争に、華など必要ない) -- 宗爛

(高台から、睥睨する。崩れ落ちていく西の軍勢を。意味も成せずに爆散していく自爆兵達を)
さて……そろそろ頃合か
……狗面。本陣は任せる。応答は必要ない。これは命令だ
(そう尤も信頼し、尤も疑っている側近に命令を下し、自信は黒咲と共に前線へと降りていく) -- 宗爛

 

 

 (翼に風を孕ませて、蒼い巨鳥は戦場の空へと舞い上がった。その背に乗る飛爛の視界も上がっていく。)
(どこまでも遠くに続く地平線が見えた。連合国軍の砦や陣地が小島のように点在し、その周りに)
(無数の帝国軍が群れ、攻め立てている。)
 (火線を引いて無数の龍勢が飛び出し、横一列に並んだ柱の騎士に当たって爆ぜた。)
(風切羽の遥か下を燃えながらゆっくりと倒れる巨体が前から後へ流れていくのを横目に、)
 (矢尻形編隊を組んだシャツァルの群れを従えて、飛爛達飛行兵は戦場の空を飛んでいる。)
(5羽で一つの<を作り、それをさらに7つ連ねて一つの編隊だ。それが3つ。100羽以上の大編隊)
(本国からの増援も得てシャツァル飛行兵の編隊はますますその数を増している。)
 (その一番先頭で、斜め右後の飛行形態フェロミアと並んで飛ぶのが飛爛とココロアだ。)

<<第一はこのまま私と一緒に直進、第二第三は散開!敵拠点を各個爆撃>>
<<了解しました姫様。>>
<<了解ッ姫様御武運を!>>
 (飛行帽に仕込んだ小道具の調子はいいようだ、耳あてから第二編隊を率いるクラトと第三編隊長の)
(声がはっきりと聞こえた。)
 (この通信機はフェロミアの鎧の修理を通じて得た、魔石を動力にした機械仕掛けの技術を解析して)
(作られたものだ、100mも離れると使えないが、それでも手信号よりずっと便利だった。)
 (巨鳥の群れが3つに分かれて飛んでいく、先頭を飛んでいた飛爛達の編隊は真っ直ぐに)
(敵の頭上を跳び越して、遥か後方、戦場の西側にある橋梁や街道沿いの拠点を爆撃に向かう。)
<<フェロミア、あれ私の弟なんだ>>
 (その途上で、ふいに傍らを飛ぶフェロミアへ通信石を通して飛爛が語りかけた。)

(蒼い鳥に付き従う青い魚。巨鳥の編隊の中では異質で非常に目立つ物が空を泳ぐ。)
(それは以前より巨大化し、ココロアの巨体にも見劣りしない。周囲の状況を観察しつつ飛ぶ。普段通りクールに仕事をしているように見えて、胸に潜むもやもやに苦しんでいる)
(要するにイラついているのだ。その原因は一つではないが、先ほどの自分は蚊帳の外な会話はその内に数えていいだろう。いきなり無条件に、兵器としての性能以外の部分で褒められ、愛されたと感じていたから。)
(要するに嫉妬である)
(とは言え誰に八つ当たりするでもなく黙々と指示に従う。多分、褒めてもらいたいのだろう)
(部隊が分散してややあって、飛爛から声がかかる。興味なさそうに「そう」と短く答えを返した。あの男の事なんか気にもしていない、と伝えようとしているのだが、声色がスネているのが丸分かりだ) -- フェロミア

 (飛爛はちょっとにやついてしまった。矢の届かない高さとはいえ、真下は戦場の真っ只中だというのに。)
<<あはっ拗ねないでよ、紹介し忘れたのは悪かったってば>>
 (だがおかげで宗爛と顔を合わせた時から、もやもやしたもので胸焼けした気持ちが少しスッとした。)
(飛爛は物心ついたときから、今乗っているココロア以外の動物を特別可愛がったりした経験はないが)
(ペットを飼う人の気持ちもなんだかわかるなぁと、嫉妬心全開な返事を聞いて思った。)
 (思っただけで絶対言わない、これ以上気を悪くさせてもかわいそうだ。)
<<でも、お願い・・・あいつを助けるのを手伝って欲しい>>
<<命令して手伝わせるだけじゃ、あんまりに大変すぎて私がもたないかもしれないから>>
<<だから、お願い>> -- 飛爛

<<別に>>
(拗ねてなんていない、と拗ねた声で答える。飛爛でもこんな受け答えをされるのは初めてだろう、これまでは不満でもあればストレートにぶつけてきていた)
(今回は違う。血の繋がりと言う人間ならではの関係性を見せ付けられたり、付き合いの長さや有用性についての自信のなさを突かれたりして心が揺れている。元々素直に友好や愛を求める事の出来ない性格でもあった)
(だからちょっと拗ねて見せたり、自分が役に立つところを見せようとする。愛して欲しいと請うて得た愛にはそれほど価値を見出せない。だから)
<<分かった、手伝う。手伝うけど、あいつの為じゃないからな>>
(だから、願われれば引き受けてしまう。わざとらしい注釈までつけてしまう所は、この少女の初期の感情機能を思えば成長といえるのかも知れなかった)
<<要するに、戦えばいいんだろ?慣れてる>> -- フェロミア

<<ありがとうフェロミア>>
 (フェロミアの拗ねたような声聞くと飛爛が他のシャツァルを構っていると、ココロアが嘴で背中を)
(ついばんでくるのを思い出してしまった。)
 (しかも、飛爛となかよくしてた宗がよほど気に食わなかったのか、『あいつのためじゃない』なんて)
(言われると、ストレートにあなたのため、と言われてるようでツンとした態度とあいまって、)
(飛爛はますます頬が緩んでしまう。ここは一つ気合を入れなおさなければならない。)

<<私には戦う力が必要何だってことが、やっと覚悟できたから・・・あなたが居てくれて、幸運だよ>>
 (立ち上っていた煙を一つ突き抜けた。まもなく作戦地点が近い。) -- 飛爛

<<うん……>>
(礼に対する答えもそっけない。鎧の中に隠れた表情は見えない。だが声色は大分変わった。いつもの無表情の口元が少し緩んだ、時折見せる顔を想像させるほどに)
<<私は優秀だからな>>
(得意げに言葉を返す。大口を叩く程度には回復した自信を胸に、近付いてきた目的地を観察しつつ独り言)
<<幸運……私のも、続けばいいけど>> -- フェロミア

 (フェロミアの独り言に、飛爛は小さくうなずいた。)
 (やがて地上に敵の姿が見え始めた、街道を両脇から挟んで進む部隊の列。並んだ柱の騎士を動く)
(城壁のように配置してその後ろに歩兵が続いている。上空から見れば四角い歩兵の列が、間隔を開けて)
(地上にチェック柄を描いて、街道を戦場へと進んでいく。)
 (胸中をよぎる不安を振り払うように、飛爛は強く全員へ声を飛ばした。)
<<急降下爆撃用意!ユパンキ班、セルパ班は敵最前列へ!リョサ班、ヤワル班は中央!>>
<<残りは私に続け!>>
 (了解!という返事とともに矢尻編隊を組んでいた巨鳥達が後方から順々に、頭を地面に向けて)
(まっさかさまに落ちていく。その鉤爪には対柱の騎士専用に調合された新たな爆薬を掴んでいた。)
<<行くよフェロミアッ今度は迷子になっちゃダメだかんね!>>
(進む速度を速めながら飛爛達の編隊もぐんぐんと敵へと迫っていく。) -- 飛爛

(その言葉を待っていた、とばかりに軽くブーストをふかす。以前はココロアのスピードについていけなかったが、今は自らの鎧を巨大化してなおいい勝負をしていた。ココロアが大量の爆薬を積んでいるからか、そばにいたいという心が武具結晶に力を与えたのか)
(ともかくスピードを上げつつ着いて行く。敵の大群も、以前苦渋を舐めさせられた巨大な騎士も何故だか脅威に感じない。共に戦えればそれでいい。)
<<もう、離れない>>
(口にはしないが、それは約束のつもりだった。これまでは困難な要望には努力するとか、最善を尽くすとか、そんな言葉で誤魔化して来た。今回は違う) -- フェロミア

 (放たれる矢を避けて波打つように鳥の群れは兵士めがけて下降していく。)
(柱の騎士が頭上に振り上げる巨大な腕の間合いも飛行兵達は見切っていた。)
 (次々と鉤爪に抱えられていた爆薬が投下されて、巨大な火球が横一列に吹き)
(上がった。巨人の釜戸と名づけられたその爆薬は聳え立つ柱の騎士を一瞬で)
(炎の中に飲み込み、炎は時間差をおいて一列また一列と巨人を飲み込んでいった。)
 (爆弾を投下した巨鳥達は吹き上がる炎に押し上げられて、再び地上の兵士が手の)
(届かない空の上へと舞い上がっていく。)

(中々の威力だ、と思う。ただただ爆撃するだけなんて、と馬鹿にしていないでもなかったがこれだけの火力があれば問題あるまい)
(こうなったら負けていられない。折角火槍をマウントできる場所を増やしたのだから使わない手はあるまい)
(空からの攻撃の有利な点の一つは、重要な部分を探せてそこを直接攻撃出来ることである。もちろん迎撃は激しいだろうがそのリスクに見合う戦果を得られよう)
(弓兵部隊の指揮官と思しき者を探し、彼らに火槍を放つ。人には大げさすぎるが外れても怪我をさせることは出来るだろう。指揮系統を乱すべく攻撃をかける)
(今の所柱の騎士に対しては他の飛兵任せではあるが、様子は伺っている。臨機応変・効率重視の戦術は変わらない) -- フェロミア

 (壁を失い、指揮官を失った兵士の大半がばらばらと街道から離れて散っていく。)
(これで敵から、この街道を押さえる力は大きく削がれた。)
 (巨鳥達は上空で円を描き、再び一つの群れへと戻る)
<<念のためもういっかい爆装を…って、何あれ!?>>
 (上空から遥かに後方を睨む飛爛、その空色の瞳に映ったのは、遠めにもはっきりと分かるほどに)
(柱の騎士の群れが次々に立ち上がっていた、まるで火山が地の底から黒煙を吹き上げるようで、)
(先のバルトリア会戦で、突然巨人が生まれたときと同じような威圧感を伴っていた。)
 (あれは周りにいる統率された柱の騎士達とはあきらかに異なる・・・。あれはただ憎悪が懲り方って)
(死者の肉を纏っただけの存在ではない・・・。)
<<8時方向に回頭、六稜軍の援護に向かう!>>
 (酷く嫌な予感がして飛爛はココロアの体を大きく傾けて急旋回を切った。) -- 飛爛

(ここらで補給するのもいいだろう、自分はかなり弾薬を渋っていたのでもう少し行けそうではあるが他の兵士は分からない)
(突撃であろうと補給であろうと、どの道飛爛に従って飛ぶつもりだったのだから問題は無い。そう、予想していなかった増援が来たとしても)
(確かに新たに現れた柱の騎士たちはどこか違う。感情を抑え、機械的に物を見ている自分でさえ根源的な恐怖や嫌悪感を覚えるほどである。本当ならあまり戦いたくない相手ではあった)
<<了解>>
(でも、それに挑むというのなら。剣は相手を選ばない、選ぶのは使い手だ。自分もまた同じ)
<<でも、弾は持っておけよ>>
(ただの剣とは違う所は少しは戦況を判断出来る所だ。残弾を一部の兵士に集めて戦わせ、他の兵士は一旦補給に戻るのはどうかと提案をする) -- フェロミア

 (急旋回する飛爛とココロアの動きについてこれたのはフェロミアだけだった。)
(これでも相当抑えていたつもりだったが、また悪いくせが出たらしい、部下を置いてきぼりにする)
(ところだった。)
<<忘れるとこだったよ、サンキューフェロミア>>
<<弾薬を抱えてる者は私についてきて!他は陣地へ!>>
 (速度を緩めた飛爛の元にすぐ互いがぶつかり合うほどスレスレに場所を入れ替えて編隊は)
(組みなおされた。)
<<大丈夫前みたいな無茶はしないから・・・>>
 (自分に言い聞かせるように飛爛はつぶやいた。) -- 飛爛

<<うん>>
(素っ気無く、嬉しそうな返事を返して自らは飛爛の後に続く。空では自分しかついていけないと言う事実は優越感や占有感を喚起して士気も上がる)
(だが状況は刻々と変わる。ただ守る為ならくっついていればいいが勝利をもたらすためには時には離れねばならない事もある。背後よりも側面の敵が恐ろしい時だってあるのだから。)
<<しなきゃダメなら、無茶していいよ>>(その時は喜んで別働隊となろう。盾ともなろう)<<私が……助けるから>> -- フェロミア



 



 



 



 



 


Last-modified: 2012-10-10 Wed 00:42:47 JST (3271d)