企画/叙事詩
 
 
 



 


 


 

 

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『ああ!うっさい!!あんた何度、弱音吐けば気が済むの!?』
狭い抜け穴とも言えないような、ミミズの掘った穴みたいな土中の穴の中で。
幼き日の宗爛の手引いて。泥だらけで、もう二度と使い物にならないだろうという程に、伸びきった腕を引っ張って。
 黒髪に青い瞳、およそ帝国中のどの民族にも見ない姿の少女は笑った。
『もう少しだから、がんばって。あなたに本当の世界を見せてあげる』

大爛帝国首都、皇帝の住まう内城の壁の地下を掘り進み、夜陰に乗じ、首都郊外の原野へと、
出でようとするこの小さな闖入者は。大爛帝国第72皇子「宗爛」と大爛帝国第63皇女「飛爛」その幼き日の姿であった。

『ひぐっ……えぐっ……』
ただ後ろをついていくだけだというのに、それでも闇と泥に塗れた細い抜け道を往く事は、まだ幼い少年にとっては不安そのものでしかなかった
帝都に無数にある、非常時に皇族が逃げるために使われる脱出用の秘密通路。ここはその一つ
……といっても、すくなくとも自分たちが生まれてから使われたことはおろか、点検されたことすらないであろう帝都のそれだ。何時崩れてもおかしくはない
ロクに返事もできず、ただ怖い、帰りたいと呟きながら、黒い子山羊を大事そうに抱いて飛爛についていく -- 宗爛

『ぷはぁ!』
せまい穴倉の空気をさも鬱陶しそうに吐き出した飛爛の声が、宗爛にも聞こえる。
二つ三つばかり年上で、成長期の男女の体格差の習いの通り。
飛爛が、半ば無理やり宗爛の腕を引っ張って連れ出したのは、大爛首都、城壁の外側。
 満月の照らす荒野だ。 -- 飛爛

『……ひっ!』
突然開けた視界に、つい悲鳴を上げる。薄暗い穴倉から外に出れば、そこは例え夜でもひどく明るく感じた
月明かりに照らされて、地平線の向こうまで荒野が広がっている
『……広い』 -- 宗爛

『広い?』
皇族のみに与えられる高価な絹で編まれた子供服の膝と尻についた土を
ぱむぱむ、と叩き落としながら飛爛は、今だに目をぱちくりさせている宗爛に向き直る。
『本当に広いのはここなんかじゃない』
そういう、飛爛の背後に巨大な黒い影が立っていたのはいつの間だろうか。

 「羽音も立てず、巨体を獲物の元へ滑らせる」その例えの通り、飛爛の背後大きな影を落として
たたずんでいたのは、カタクァの民のみが乗り、翔るという巨鳥シャツァルの姿。
『その羊ちゃんは置いてきなさい、空の上で落っことしたくないでしょう?』
勝気に笑う飛爛の背後で満月の光を浴びて羽を広げた巨鳥の姿は、青空の蒼よりも
まばゆく光をその羽の端に光らせた。 -- 飛爛

『……おおきい』
宵闇に怯え、広漠さを怯え、そして目前の少女にすら怯えた少年……しかし、目前の巨鳥に怯えることはなかった
闇を切り裂くように夜空から舞い降りたシャツァルの姿をみて、目を輝かせる
『や、やだ、黒咲もつれてく……大丈夫、黒咲は暴れないから平気。ね? 黒咲』
小さく語りかければ、一声か細い声でメェと鳴く子山羊。本当に会話しているかのようにすら見える
蒼瞳に紅瞳を交差させて、あとは誘われるままについていく -- 宗爛

『・・・』
思いがけない宗爛の言葉に、飛爛は一瞬黙った。
『いいわ、じゃあこのアニド、あなたとその羊ちゃんに巻いてあげなさい、骨盤の当たりに巻くのよ?』
そういって、巨鳥のまたがるというか、正座するような形で飛び乗った飛爛は
巨鳥の背に乗せられた馬のものよりはるかに頼りない蔵と、その蔵についた
皮の帯を宗爛に指し示す。
装着に難しいことは無いだろうが。
『いい?どんなに地上が離れても決して羽や背中の毛をつかんじゃだめよ?』
用意の済んだ宗爛に、そんな言葉をかける飛爛は、これからこの月夜の草原の斜面を駆け下り、この巨鳥、シャツァルを飛ばして見せようと言うのだ -- 飛爛

『う、うん、わかった、ありがとう』
そう答えながらも、未だ不安そうな顔でついていく
黒山羊を手放したくない理由は、やはり未だその胸中に恐れが渦巻いているせいなのだろう
しかし、鳥で空を飛ぶということには幼いながらも興味があるようで、おっかなびっくり飛爛につれられてついていく -- 宗爛

飛爛は巨鳥の背の上、鞍も命綱もつけずにまたがった飛爛の背後で
宗欄が黒い子羊と一緒に、おっかなびっくり、巨鳥の鞍の上に乗っているのを見た。
『それじゃあ・・・いくわよー!』
掛け声と供に、飛爛と宗爛と羊を乗せた巨鳥は丘を下って加速した。
遥か地平の果てまで続くと、ローディアの詩に謡われた城壁が、満月を受けて
煌々と照っている。蒼く静かな月夜と満天の夜空は美しく・・・。
『・・・・・・・・・飛ばないわね』
十数度目の離陸に失敗して、丘のふもとにたたずむ、皇女と皇子と羊を乗せた巨鳥の姿があった。 -- 飛爛

数度目の離陸失敗。暫く身をこわばらせ、緊張した面持ちでその様子をみていた宗爛だったが
『……くっ』
『ふふ、あはは、はははははは!』
しまいに、笑い出す
『ははは! おねーちゃん、飛ぶはずないよ。だってこの子ずっと痛がってるもの』
『右脚が痛いっていってる、見てあげて』 -- 宗爛

意気込んで連れ出した手前、格好がつかず飛爛はぐぬぬ・・・という顔をしていた。
『え、ほんと!?やだ、怪我しちゃったの!?』
あわてた飛爛は巨鳥の背から飛び降りた。まだ風切羽も生え変わったばかりの子供の鳥とはいえ
その背丈はすでに馬よりも高いが、まったく高さを恐れる様子はなかった。
『こっそり連れ出した上に怪我させたら縛りあげられるわ!?』
巨鳥の腹の下から慌てた飛爛の声がする。
『真っ暗で何も見えないー!』 -- 飛爛

『大丈夫、右足の、爪の間に小石が挟まってるだけだよ。それでちょっと不機嫌なだけみたいだから、とればきっと飛んでくれるよ』
まるで我がことのように暗闇の中で語り、飛爛を促す
そこに既に怯えはなく、声色は喜色を帯びていた -- 宗爛

言われた通りに、腹の下を手で探ってみれば果たして巨大な鍵爪のついた指の間に、ざらざらしたやすりのような巨鳥の
肢の感触とは異なる物があった。
後肢にも羽をもつシャツァルの足指は前方に2本と後方へ1本伸びたY字型をしている。
他の鳥が体重を支えるのに使う指の1本が羽の骨格になっているのだ。
巨体を支えるため残った指は太く肉質なごわごわしたバットで。その指の間に
握りこぶしほどの石ががっちりと挟みこまれていた。
『・・・あった!これね、しゃがんでココロア』
巨鳥の指は空中で獲物をしっかり掴むために、足を持ち上げた状態でぎゅっと丸くなる。
わずかに手綱を引いて飛爛が声をかけると、巨鳥は前傾姿勢をとった、地面に押さえつけられるように
足の指が広がり、挟まっていた石を取り外す事ができた。
『整地してないところでは気をつけないとだめね、宗はすごいね、シャツァルを見たのは初めてでしょ?よく言葉わかったね』
ぽーんと放られた石が、暗い草原のどこかに落ちてボテッと音を立てる。 -- 飛爛

ふとほめられて、嬉しそうに、はにかむように顔を赤らめる
この特技のことで褒められたことなんて、今まで殆どなかった。親ですら褒めてくれなかった
だから、とってもこそばゆくて……だから、咄嗟に……
『うん、彼らは……人と違って、騙らないから』
思い出さなくてもいいことを、思い出して
消え入るような声で、そう答える
『真っ直ぐで、素直だから……人よりよっぽど良く分かる。分かってくれる』
宮殿で、はっきりいってこの皇子と皇女は浮いていた
かたや、羊にしか心を開かない、妾の子
かたや、辺境部族の血を受けた異端児
どちらも、普段語り合う相手は人ではなく……獣であった -- 宗爛

『ふむぅ、人の心も見えたりするのかしら…うん、じゃあ私宗の事かわいそうな子とか思うのはやめるわ』
ふたたび巨鳥の背へ飛び乗って、飛爛は笑った。宗爛へ向き直るその笑顔の横で
ふわりと広がった長い髪が月光を受けて銀糸のように煌いた。
『同情されたり恩着せがましくされるの、嫌でしょ、だから全部はっきり言うわー』
『今日連れ出したのはね、なんかいっつも、隅っこの方でうじうじってしてるの見たらこう・・・イラッと来てね』
どことなく、似た境遇を持ち、歳も近いことから興味が沸くのも当然として。
この皇女にしてはお転婆にすぎる小娘は、そんなことを考えていたようだ。 -- 飛爛

『そこまで細かいことはわからないよ。怒ってるかなとか、哀しいのかなとか、その程度のことが少しよく分かるだけ』
歯に衣着せない、胎違いの姉の言葉はその当時の俺にとってはとても新鮮で、とても気持ちがいいもので
気付けば、よく後ろをついていっていた気がする
あの日も、真白い月の下で輝く彼女の髪は絹よりも細やかに見えて
キラキラ輝く月明かりをその身に受けて振り返るその姿は……まだ小さな俺には、その矮躯もとても頼もしく見えた
手を差し出されれば、もう躊躇う気持ちなんてあるわけもなくて
ただ、導かれるままに、仔山羊と一緒に巨鳥の背にのっていた -- 宗爛

つまる所、飛爛の予想はてんで外れて、早とちりで的外れなことを言ったわけだが。
そんな事はまったく気にしないようで。
『よかった、少しは元気出たようね』
高くて暗い壁の向こう側で、うじうじとしていた宗爛がはっきりと言葉を交わしてくれる事を
ただよろこんでいた。
『あの壁の向こうは、嫌な奴ばっかだけど、全員が悪い奴じゃないしさ、ほら私みたいのもいるし』
『・・・でもやっぱり、おかあさん居なくなっちゃったの寂しいのかな』
ココロアと呼ばれた巨鳥が再び小高い丘の上で足を止めた。
暗い雲が風に吹かれて足早に月の前をかけぬけている。 -- 飛爛

母の話ともなれば、その顔が曇るのも当然だった
凡そ幸せとはいえない死に方をした母。思い出せば自然と目尻には涙が浮かぶ
それでも、少年はなんとか顔をあげて答えた
「大丈夫……死んだ人は、もう二度と帰ってこないから……もう、大丈夫。それに、まだ黒咲もいてくれるもの」
大事に抱き上げたままの仔山羊をみてそういえば、笑顔を見せる
無理やり作り上げた笑顔。本当は今だって泣き出したい。でも、それをできない。できるわけがない
目の前の、胎違いの姉だって同じような思いをしているのだ
自分だけ、泣き出すなんて出来るわけがない
強がりでもなんでも、そのときはそう思ったんだ -- 宗爛

『泣きたいときは泣いたっていいのよ』
最初に泣くなといいながら引っ張りだしておきながら泣いてもいいぞと言い出す胎違いの姉
おかしな奴だった。健気にも幼子が気丈に振舞っているというのに。
『ぬー、こういうの何て言うんだろう、そうやってむりやり気持ちを押し込めてる
みたいなの見てるとなんかこう・・・』
宗爛の肩をつかむ手に力がこもる。彼女は本気で憤っているようだった。
『でも別にあなたが悪いわけじゃないんだからね!』
彼女は自分の事以上に、小さな子供ですら心のままに生きることを許さない世界に
腹を立てていたのかもしれない。

雲が切れて、再び蒼白く光る荒野が地平の向こうまで広がる。その瞬間、羽を大きく
広げたココロアが身を低くして斜面を駆け下り始めた。
ぐんぐん加速していく、今までの滑走よりも段違いに速い。最速の騎馬の横を通り
すぎていくよりも速く景色が後ろへと追いやられていく。
耳元を過ぎ去る風の唸りが一瞬途絶えた後、二人の足元から地面が遠ざかり始める。
二人と1匹を乗せたココロアの6枚の翼が大きく風をはらんで高く高く舞い上がっていく。 -- 飛爛

素直で、真っ直ぐな言葉
初めて飛ぶ空。夜空から眺める帝都の光は、まるで空に浮かぶ星々のそれのようにも見えた
そんな大地の夜空を仰ぎながら、そう語る姉の姿は、真っ直ぐで、嘘偽りなくて
打算も、思惑もなく思ったことをそのまま言葉にするその清々しさは、今眼前に写るどんな絶景よりも眩しくてbr;ただ、その蒼穹のような許容の言葉を前にして
ただ、そのときはそう伝える事しかできなかった
震える言葉で、熱くなる胸を押さえながらただ一言
『……うん、ありがとう……お姉ちゃん』
そう、搾り出すように伝えた
今度は、もう、溢れる涙を我慢したりはしなかった

そんな、大昔の記憶 -- 宗爛



 



 

 

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カタクァ人豆知識「カタクァ人は豆で生きてる」 -- 飛爛

どんぐらい豆で生きてるかというと、毎日3食朝昼晩、加えておやつも大概豆 -- 飛爛

その体はきっと豆でできていた…。 -- 飛爛

姫様誰に何を語ってらっしゃるので -- 側近っぽいの

あのね側近、肉抜きのチリビーンズってチリビーンズじゃないと思うの、ベイクドビーンズだと思うの -- 飛爛

辛ければチリビーンズです -- 側近っぽいの

お肉食べたい -- 飛爛

王族とてそう毎日肉ばかり食べるわけにもいきませんよ、昨今はただでさえ出費がかさんでるんです -- 側近っぽいの

ねぇ、肉 -- 飛爛

私は肉ではありませんが -- 側近っぽいの

姫様は帝都暮らしがながかったですからね、まぁ早く慣れることです -- 側近っぽいの

……… -- 飛爛

ワリの豆なんかはお肉みたいな食感でおいしいですよ(モグモグ -- 側近っぽいの

にぃぃぃぃくぅぅうううう!辛抱ならないわ!ちょっと一狩り行って来るから!!
へーい!ココロアー! (窓からダイブ) -- 飛爛

姫様ー!? -- 側近っぽいの

山羊とってくるわー!晩御飯はジンギスカンねー!!!
(大きく翼を広げてカタクァの雲ひとつない真っ青な空へと舞い上がっていく、巨大な鳥の影。) -- 飛爛

お食事中に飛び出すのは行儀悪いですよー姫サマー! -- 側近っぽいの



 



 

 

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【黄金暦223年某日】

(大爛帝国、中央平原地帯の南端、南部の密林地帯に程近い街道の脇だ。)
(二人の男がいた。ともに帝国風の役人の装束を着ていて。一人はどこにでも居そうな帝国民の)
(特徴を備えているが、もう一人は色白でやや小柄だ。ともすれば少年のようにもみえる。)
まいったね、馬に乗れるお前が足を怪我しては…まさかシャツァルで乗り付けるわけにもいくまい。
(めんぼくないと頭を下げる二人組みの片割れ。帝国内でも辺境にあたるこの地域は)
(宿場の間隔もめっぽう広い、一番近くの村まで何十kmとある。)
(しかし、二人には残された時間は少なかった。一刻も無駄にできない事情があったのだ。)
おや・・・ほっこれは空の助け、いや向こうは地上をあるいてくるわけだが。
(小柄の方の男が、道の遥か遠く、常人では見つけられないような距離に一人街道を行く旅人の)
(姿を見つけた。)
あいつが爛国の役人でないことを祈ろう、あるいは職務よりも懐具合が大事な奴だとうれしいな。

 (那岐李が怪しげな二人組みに、自分達の代わりに大事な書類を届けてきてくれと頼まれる)
(ことになるのはこのすぐ後のことであった。)

(街道を行く途中、使者と思しき男達から頼みをされた。普段であれば一笑に付して立ち去る所であった)
(しかしながら書類を届ける先が煙台となれば話は別だ。自分も煙台に点在する少数部族の遺跡の調査を目論んでいたのだ)
(此処で煙台の支配者とパイプを作っておくのも良いだろう。施政者に媚びへつらい、機嫌を取って調査をする手間が少しは省けるだろうと判断し、引き受けたのであった)
(頼まれた仕事自体はすぐに片付いた。書類を届け、煙台の下見をしてから来た道を戻れば男達が先日の場所で待っているではないか)

おや、待っていて下さったのですか?これはこれは…お待たせいたしました。無事、書類は届けましたよ
(にこり、と馬上から貼り付けたような笑顔を向ける)
しかし…よろしかったのですか?煙台の施政者に直接届けるような書類を私に任せてしまって…貴方方が行けば直接褒美を頂けたでしょうに -- 那岐李

いえいえ、こちらこそ、運悪く立ち往生していた所を助かりましたよ。
(先に那岐李が聞いた話では、正副あわせて二人の伝令が折悪しく二人そろって)
(怪我をしてしまい、そのうえ馬にも一頭逃げられてしまったという事だった。)
約束どおり、お礼を支払いましょう。まずはこれは前金の残り。
(小柄な男が、温和そうな笑顔で那岐李へと金貨の入った袋をさしだす。)
(ところで、分かれる前は二人組みだったはずだが、片方がいない。もう一人の背の高いほうの男はどこへいったのか。)
(その時不意に、近くの藪の中でギラリときらめくものがあった。)

えぇ、確かに受け取りました(手渡された袋の重みでそれなりの金額であることは分かる)
(約束の報酬も受け取り、これでこの取引は終わり―)
(そう思う程、この男は間抜けでは無かった。姿の見えないもう片方の男。視界の隅で煌めく"何か"そもそも感じていたこの話の「違和感」)
(全てのピースが此処に来てカチリ、と嵌る。表面に張り付いていた薄っぺらい笑みが、心底楽しそうな、歪な笑みが浮かび上がる)
―成程、そういうことか(小さくつぶやく。此処で自分を殺し、口封じを図れば金は手元に戻り、事実を知る者も居なくなる)
(大方、昨今頻発している反乱分子の一部なのであろう。先ほどの書類は煙台の施政者に対しての謀反の一端か―)
…随分と物騒な報酬もあったものだな?(先程までとは語調を変え、藪の中に潜んでいるであろう男にも聞こえるよう、本来の言葉で問いかける。) -- 那岐李

放て!
(那岐李の目の前の男は、笑顔のままで叫ぶとまったく躊躇の無い動きで懐より寸胴な)
(切り詰めたショットガンのような銃を取り出した。それは火薬の扱いに長けた帝国内でも珍しい兵器であり)
(主に扱うのは西側の諸国のはずだが。なぜかこの男の手の中にそれはあり、銃口を那岐李へと向けていた。)
(乾いた轟発音。那岐李の前後両面より、矢と銃弾が放たれる!)

(男が叫んだその刹那。ぐにゃりと那岐李の周囲の空気が歪む)
(火薬の爆ぜる音が響くその刹那。那岐李の足元からどす黒い何かが噴出してくる)
(那岐李の周囲を覆う壁のような形をとったそれに銃弾が触れれば、先ほどまで那岐李を貫かんと飛来していた銃弾は中空でぴたりと制止する)
……さて、次はどうする?貴様ら如きが我を駒として使おうなど…分を弁えろ
(威圧の言葉と共に、制止していた銃弾がパラパラと地面に落ちる)貴様らにも下らん策を企てるだけの理由があり、誇りがあるのだろう…?
ならばその誇りを我に示せ。命の限り足掻き、無様に地に臥すといい
(すらり、と腰に差した刀を抜き、目の前に立つ男の首元へと突きつける)
(にたり、と薄気味の悪い笑みと共に、爬虫類の如き鋭い瞳が男を見据えている) -- 那岐李

あっちゃー…
(少年のような笑顔を引きつらせて、こいつはやべぇ、という顔を小柄な男はした。)
渡りに船と思ったら海賊船にございましたよ。
(硝煙をあげる単発式の銃を躊躇なく地面に投げ捨てる。)
いやもう、我らの手に負えるような御仁じゃないことはよっくわかりました。
(代わりに男は首から提げた小さな木の笛をくわえ、吹き鳴らす。草原に鷹の鳴き声のような音が)
(響き渡った。)
(音がところどころ茶色に剥げた草原を遠方へと駆けさっていった後。羽ばたきの音が聞こえる。)
(それはすさまじい速度で近づいてくる。)
グナン、ラチェニカ!
(異国の言葉で男が叫ぶ、那岐李と男の頭上にあった太陽がその巨大な影に隠れる。)
(草原の彼方より一瞬で飛来したのは、巨大な怪鳥、鵬の倍もあろうかという巨体に6枚の翼を)
(そなえた灰蒼色の巨鳥の姿)

(一瞬だった、空より巨体が振ってきたかと思うと、その巨大な鉤爪が那岐李の乗った馬の)
(目玉に食い込み、頭蓋と首の骨が砕ける音がした。)
(馬が末期の悲鳴を上げ、那岐李がその背から投げ出される一瞬前。那岐李の眼前には)
(恐竜めいた巨鳥の肢とたたきつけるような突風の向こうに灰蒼色の胴体があった。)

―っ!!
(突如飛来した巨大な鳥に驚く間も無く、乗っていた馬の頭蓋が一瞬で粉砕される)
(崩れ落ちる馬の背から半ば投げ出されるように飛び降り、地面へと着地する)
……その巨鳥…貴様ら、華桌…いや、カタクァの人間か(古代文明や少数民族を専門とする那岐李が知らぬわけはない)
(天を覆うばかりの灰蒼色の巨鳥を従える民族など、この広い帝国領の中でも彼等以外に居るはずもない)
…く、はは、はははははは!!(恭順を誓い、帝国の傘下に入り、今や王族として一地方を預かる身ともなった一族が反乱を企てている)
(これを笑わずして何を笑おう)…くく…これは天が与えた奇跡か…?好都合だ……貴方方、一つ取り引きをしましょう
(立ち上がり、歩み寄る。到底太刀打ちできぬような巨鳥が二羽。自身の前に立ちふさがっているというのに)
(この男は身じろぎもせず、再び張り付くような笑顔を浮かべ、極めて紳士的な態度で言葉を並べる)
…私は貴方方の謀反の企みは一切口外致しません。その代わりと言ってはなんですが、貴方方のカタクァの歴史、文化を調べさせて頂きたいのです
…いえね、私は帝国内に点在する遺跡や少数民族の歴史、文化の調査を生業としているのですよ
以前から、貴方方カタクァのことにも興味がありましてね……如何です?
(ペラペラと気味が悪い程紳士的な態度だった。先ほどまで纏っていた殺気は形を潜め、張り付いた笑顔で一歩、男達の方へと踏み出した) -- 那岐李

(思わぬ申し出に、営業スマイルも忘れて少年のような男は一瞬あっけに取られた。)
(謀がばれた今、殺すことが難しいなら、せめて脅して本拠地へ連行し、食客として大人しく)
(飼い慣らすが得策かと考え。この男の欲の深さ具合によってはやはり殺すしかないかも)
(知れぬ・・・とカタクァの政務を取り仕切るこの男は考えていた。)
(その矢先に那岐李のこの申し出である。)

ええぇ・・・あんまりにも欲がなさすぎて、私正直ちょっと引き気味でございますが。
(とはいえ、相手の得たいの知れない術は怖かった。どうやら戦力は今天秤の上で拮抗しているとは言え。)
(貴重なシャツァルを闇雲に戦わせて失うことはできない。)
(その巨鳥はカタクァ人にとって自らの半身とも言うべき存在であり、それはこの男も同様であった。)

・・・・・・・・・しかし、あなたも私も互いに仲良くしたいというのであれば。
無用な戦いは避けてしかるべきでしょうかな。
(頭上で2羽の巨鳥が太陽を中心に円を描き、旋回している。怪しい動きがあれば再び鉤爪が)
(振り落ちてくるのだろう。) 
私の名はクラト、あっちの大きいのはコチャ。して、あなたのお名前は?
(近づいてくる那岐李にクラトは何の構えも取らず、待つ。) -- クラト

…なに、研究者としての好奇心に比べればその他の欲など些細なことですよ
私は那岐李。私設ではありますが…古代文明調査機関、間史廼把の長を務めています
(怪しまれて当然。疑われて当然。しかしそれでも、此処でカタクァの人間とパイプを作れるのは那岐李にとってはかなり魅力的だった)
(余計な手間を省いて普段より深くまで調査することが出来る上に、彼等が謀反を企てているとなれば尚更だ)
(彼等が仮に皇帝を打ち倒すようなことがあれば、各地の史跡調査が格段に楽になる。失敗すれば彼らが遺した貴重な文化遺産も自らの手に渡る)
(漏れだしてしまいそうな歪んだ笑顔を、貼り付けた表情で押し隠しながらその手を差し出す)
シャツァル…でしたか。あの巨大な鳥も含めて、カタクァの文化は特異な点が多い
これだけ特殊な文化を築くには相応の深い歴史が必要となります。それらを知りたいと思うのは、研究者としては当然なのですよ -- 那岐李

帝国の人には珍しく、我らのことをよく知っておいでだ。
(上機嫌で語る那岐李にクラトは眉を左右別々の角度にもちあげて、困り半分苦笑い半分な笑いを見せた。)
(那岐李の名乗った機関の名前は知らないでもなかった。付随する嫌な噂とともに。)
(クラトには目の前の男は身も心も捧げた度をすぎた研究者というより、何か得たいのしれない怪物のようにすら思えた。)
 (離れたところにいるコチャに手で合図をすると、ヒュッという短い口笛のあとに、再び耳慣れない)
(カタクァの言葉が聞こえる。)
(その声に促されて頭上を旋回していたシャツァルの1羽が馬の死骸を抱えて飛び去っていった。)

え、では、まずは私達の都にご同行いただきたい。
(カタクァの都、それは聳え立つ台地の上に築かれた古の都市だ。そこに連れて行かれれば、)
(台地上の生物達が長く外界から守られてきたのと同じように、世界から隔絶されることになる。)
何せ物騒な時分でございますのでね。 -- クラト

(クラトの反応もまた予想の範疇であった。これだけ掌を返しておいて不審に思わぬ者など、それこそただの愚者でしかない)
(だがしかし、こうして取引を受け入れた以上、少なくとも調査という表向きの目的はしっかりと果たせるのだ)
(多少の疑いの眼差しなど気に留める程のことでもないだろう)

えぇ、それは此方としても願ってないことで。早速カタクァの文化の中枢に触れられるのですからね
(首都への連行。半ば軟禁状態に陥ることになるだろう。だがそれも大した問題でもない)
(自身に向けられる疑いの眼差しなど、行動で晴らしてしまえばいい。本心を偽ることなど今まで幾らでもやってきたことなのだから)
…本当に、楽しみですよ
(薄っぺらい微笑みの下で渦巻く様々な感情を悟られぬよう、今はただ黙って従おう) -- 那岐李

 

 

 

姫様、新兵器のリサーチが完了しました。 -- 側近っぽいの

花火爆弾? -- 飛爛

いえ、あちらは点火装置の量産がまだなので。以前より進めていた新兵器の方です -- 側近っぽいの

おー…何これちゃっちゃくて革張りになった樽爆弾? -- 飛爛

いえ、中身は油です
(でっかい取っ手が付いたサンドバックみたいな物) -- 側近っぽいの

油 -- 飛爛

シャツァルに持たせたあと、敵の頭上でこのヒモを引っ張ると中身の油が散布されます -- 側近っぽいの

あー…ああー…なんか想像ついたわ -- 飛爛

はい、そのぶちまけた油に後続の部隊が樽爆を投下すると、燃えます -- 側近っぽいの

……… -- 飛爛

こんがりBBQです -- 側近っぽいの

……… (露骨に嫌な顔) -- 飛爛

上手にできましt -- 側近っぽいの

いいから、そういうのはいいから。ただでさえガチな人らから雰囲気浮いてるから -- 飛爛

…はい、しかし威力は絶大だと開発部の方から報告があがっております -- 側近っぽいの

うーえー…でも焼くんでしょ?火責めってすごく苦しくて酷いって言うじゃない、やだなー… -- 飛爛

大きな火があればシャツァルの上昇力もあがりますし…それに、これは戦争ですので。 -- 側近っぽいの

分かってるけど………そういうの持ってると街ごと焼き払って来いとか言われそうで、やだなー… -- 飛爛

そもそもさぁ…シャツァルって戦で使っちゃだめだと思うの。なんていうか…
空を飛ぶときは、救われてなきゃいけないと思うの、一人と一羽で、孤独で…豊かで… -- 飛爛

がぁああああ!(ヒリにアームロックかけられる姫様) -- 飛爛

テンプレはココロア様がなされたので省きますね。
姫様、空を駆けるには羽を休める大地が必要です。そこは帝国の地の上にはありません。 -- 側近っぽいの

…彼らは多くの人々から多くを奪いすぎた。でしょう?
分かってる、わかってるわよ…でも、やっぱり、戦争だから何をしてもいいっていうのは嫌 -- 飛爛

…では、この新兵器は導入を中止しますか -- 側近っぽいの

…しない、そこまでわがまま言わない。
ヤダケドガンバゥー…(ココロアの羽に顔つっこんで変な声) -- 飛爛

どんなに理由つけても殺し会うのは酷い方法も、サクッと殺すのも一緒だし。 -- 飛爛

姫様 -- 側近っぽいの

今は誰かの敵になることでしか、他の誰かの味方になれない私がやらなきゃいけないことだから -- 飛爛



 



 

 

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(大爛帝国の中央部に広がる大平原の南端に位置する都市国家「煙台」)
(首都爛京より遥か南西に位置し、南部の有数な都市六稜よりも南にある。)
(そこは帝国の南部の鎮守として築かれた大都市で、背後には東西を分ける大陸中央山脈、前方は)
(密林を切り開いて作られた広大な開墾地と草原に囲まれ、高台に位置するその都市は万全の守りを誇る。)
 (その都市からの連絡が2〜3ヶ月前より途絶えていた。)
(223年、この年は反乱が相次いでいた、当然南部の守護として置かれたこの地にも兵を派遣せよとの)
(命令はとうに下っているはずだが。巨大な朱色の城門は天を遮る壁のように閉ざされたまま沈黙していた。)
(送り出される伝令の早馬はみな消息を絶っていた。またかの都市より送られる者も皆無であった。)

(草原一面に、血色の旗が翻り、万に達する軍勢の鎧や槍がキラキラと輝いている)
(赤死隊──轟爛が所有する私兵の大軍隊である)
(全てが選りすぐりの精鋭で、帝国最強の部隊とその名を轟かせている)
(小高い丘の上、魔獣「牙王」に跨った轟爛は、沈黙を続けている城門をじっと見下ろしていた)
こちらの軍勢は見えているだろう。さあどう出る。(そう呟くと、傍らの飛爛へと視線を落とす)
これまでの経緯を話してもらおうか。部下から話は聞いたが、この地へ先陣したお前の口から聴いてみたいのだ。飛よ。
-- 轟爛

はい
(呼ばれて進み出たのは兜の代わりに、ゴーグルのついた皮のフードを被った黒髪の少女。)
(白いワンピースとズボン、毛皮のブーツ。その上から複雑な幾何学模様に編まれたカラフルな)
(毛織物の肩掛けをかけた姿は武装した軍勢の中で浮いていた。およそ武器らしいものは)
(腰に下げた弓矢一つだけだろうか。)
 (大柄な轟爛と比べると大人と子供程に体格に差があり。騎獣にまたがった轟爛を見上げて)
(いる。その瞳は晴れ渡った頭上の空と同じ色をしていた。)

すでにお聞き及びの通り、煙台市は南部の守護を任されながら、2ヶ月に渡り
篭城を続けております。粛清の勅命の折、習いに従って私ども、華桌は煙台軍の指揮下に
入る予定だったのですが…。彼らからは何の便りもなく、またこちらの呼びかけにも応じません。
 (まともに言葉を交わしたことのない腹違いの兄へ言葉を述べる飛爛の顔は初陣の緊張からか)
(強張っていた。)
そこで、先日、直接真意を問いただそうと、軍を伴い行ったところ…。
(視線を遠く丘の上へ向ける、平原のなだらかなくぼ地をはさんで、向こう側。)
(そこには城壁の前に柵を築き、布陣する軍勢の姿があった。)
(その数およそ20,000、騎馬も騎獣も多くその戦列の中に観られる。) -- 飛爛

ふん。腑に落ちんな。(部下のそれと変わらない報告を聞いて鼻を鳴らす)
(主人の苛立ちを感じ取ったのか、猪とも、狼ともつかない巨大な魔獣は低く、唸り声を上げた)
人は利で動く。此度の篭城にはいくばくの利も無い。
軍も出さず、ただ篭り続けているだけで何が出来る?不可解な事ばかりだ。
お前はどう見る、飛。(射抜くような視線を、ぎろりと落とした)
-- 轟爛

(飛爛の背に電流の痺れに似た悪寒が走った。まるで目の前の魔獣の口の中に居るようだと思った。)
それは…
(思わず言いよどむ。ほんの一瞬の間に、すさまじく重たい空気が沈殿した。) -- 飛爛

っと、失礼、はい失礼。兵隊さんちょっくら通していただけますかな?
(居並ぶ兵隊の隙間をひょいひょいとくぐりながら、ふらりと割って入った男がいる。)
帝都生まれとはいえ、幼くして華桌へと参られた姫様は巨大な牙を持つ獣が怖くて
泣きそうであられる。なにせ華桌の地では軍獣が少ないので。ほら、姫様スマーイル
(突然割って入った男は、飛爛の頬を指で持ち上げた。あにふんのよー!?と怒る飛ちゃん。)
え、私、姫様の家臣を務めております、クラトと申します。
姫様は戦は未経験にございまして。本件に関する諸事細々、私めに一任成されておられたのですが。
責任感の強い姫様に置かれましては。「帝都より大の兄君がお越しなさるというならば。
私が代表として出なければ失礼に当たる!」と意気込まれまして。
参上仕ったしだいでございますが…。(むーにむーにと顔をこねくられてすげぇ面白い顔になる飛ちゃん)
あとの説明は私が現場責任者といたしまして、横から口を差し挟む非礼をお許しいただけないでしょうか?

ちょっこねすぎよ!離しなさい!? -- 飛爛

おや、これは失礼、姫様は今日もよき柔らか具合でございますね。

どう見ると、聞いている (刃物のように鋭い視線が、飛爛の沈黙により、その冷たさを増していく)
(そんな折に現れた闖入者に、片眉を跳ねて視線を移した)
ほう、貴様が代弁するというのか?だが、些か礼儀に事欠いているようだな
(にやりと笑ったかと思うと、腰の長剣を素早く抜き放ち、真向から振り下ろした。銀色の刃は、クラトの眉間に触れる寸前で止まった)
俺の言葉を遮った非礼は、貴様の首では足りんぞ。俺に忠誠を見せた妹に免じて止めはしたが次は無い (刃を引いて腰に納めた)
話せ
-- 轟爛

(刃が振り落とされる一瞬、クラトは眉一つ動かさずぎらつく切っ先を見つめていた。)
(むしろ驚いたのは飛爛の方であった。)
ははっ、閣下と姫様のご恩情深く愚心に刻みます。
(ひざまずき、深い礼を取るクラト。地面に向けられた額から数滴血が落ちた。)
え、では僭越ながら申し上げます。この南方の地は元来水銀の少ない土地です。
加えて先日の大地震の影響もさほどはうけませんでした。全国的な凶作とはいえ。
もとより豊かな煙台の倉庫にはまだ大量の備蓄がございましょう。
 それらの資源は有事の際、南部諸族のみならず飢餓に苦しむ諸国へと送られるはずですが…
彼らはその義務すらも怠っております。つまり、ただ座して待つだけで、他の都市は弱り
彼らは強くなるというわけです…。
臆病な持てる者が故の反逆の戦法…と私どもはにらんでおります。

(その時、煙台の城の方から、平原を駆けてくる馬が一騎。その背に使者の旗をさしている。)
ほら、いまさら何かいいわけでもしに来たのでしょう。
叛意がなければ、閣下の軍が到着なされた時点で、早々に陣を払い城門を開くものだと思われますが・・・。 -- クラト

滅ぼされるとわかっていてか?(一つの都市国家が反旗を翻したところで、すぐさま粛清されるのは眼に見えている)
だとしたら、随分と悠長な反逆だな。(くっくっく、と唇から漏らすように笑うと、遠方よりこちらへと駆けてくる使者を見た)
言い分は聞いてやらねばなるまい。どのような答えであれ、罪は免れえぬがな。もうよい、下がれ (クラトを視線で下がるように命じると、飛爛をじっと見下ろした)
華桌には…帝国でも類を見ない航空戦力があったな、飛よ。シャツァルといったか。あれは素晴しいな。
帝国全土へ配備できれば、戦の歴史は変わるだろう…。地形に邪魔立てされず、馬よりも早い。
隠密裏にことを運ぶにはまさにうってつけではないか、なあ、飛。(いつの間にか、轟爛は身を乗り出し、飛爛の顔を覗き込むように凶悪な笑みを見せている)
-- 轟爛

(恭しく礼をしたクラトが下がると、飛欄は再び一人その場に残される。)
彼らは…我ら南方の諸族を蛮族と蔑み、帝都から離れているのをいいことに自ら王のように
振舞うことも少なからずありましたので。
(獲物を狙う獰猛な巨大トカゲのような兄の視線に、今度はひるむことはなかった。)
兄上様、恐れながら申し上げますが、シャツァルは本来戦のための道具ではありません。
赤子と雛とを対の兄弟として育つ巨鳥は華桌の民にとって家族であり、身体の一部であり、
心の在り処そのものです。
(しかと、蒼色の瞳に力をこめて見つめ返す。)
それを危険な戦場に持ち込むことは、身も心も差し出して忠誠を誓う事とお思いください。 -- 飛爛

(青色の瞳…帝国においてそれは珍しい。カクタァの血筋を引くその眼には、確かに覚悟の輝きを見て取れた)
(しかし、気に食わんな)
(その輝きを、轟爛は今までに幾度となく目にしてきたように思う)
(生き残ったものが見せる、復讐誓った眼に、それはよく似ていた)
ふん、そういったものか。(覗き込むように乗り出していた背を戻し、騎獣を起こす)
使者が着けば俺に通せ。(そういって、自軍の陣へと戻り始めた)
-- 轟爛

はい
(一礼し、戻っていく大きな後姿を見送る。その姿が見えなくなったところで、飛欄は)
(意識して開いたままにしていた手をぎゅっと握る。いまさらになって心臓が激しく鼓動していた。)-- 飛爛

大丈夫ですよ姫様、今はこちらが選ばれたようですから。私どもの首がちゃんとつながってるのが
何よりの証拠でございます。しかし剣圧だけで切れるとは、いやはやなんとも恐ろしい。
(傍に居た兵士から手ぬぐいを受け取ると、額にまきつけるクラト。)
(轟爛が自陣へと引いたあと、飛爛とクラトの周りに残ったのはカタクァの歩兵達だけだ。)
(シャツァルの部隊はもっと後方の丘の上で離陸の準備に入っている。)-- クラト

あ…クラトさっきはありがとう…傷、大丈夫?
(自分が打ち合わせどおりにやれなかったせいで、傷を負わせてしまったことが気になるのか)
(飛爛が心配そうな顔をする。)-- 飛爛

いやぁ、あまりに鋭い切れ味すぎてもう皮がくっついてしまいましたよハッハッハ!
それよりも、今回の戦、姫様は後方の編隊に居てもらいます。なるべく高度を取って決して敵の上に
降りませんようお願いします。
(でも、と反論しようとする飛爛を抑える。)
大規模な実戦は我々もシャツァル達もはじめてです、姫様を失うわけには行きませんので。
それに、あの兄君様は私達を信用してはおられないようです、気が変わって下からバックリ・・・
なんてことになられても困りますからね。-- クラト

(その後、斬り捨てられた煙台の使者の首が草原に転がり戦端は切って落された。)
(黄金暦223年冬、帝国南方の鎮守都市煙台は反逆の罪により粛清された。)
(シャツァルの飛行部隊が大規模な軍事作戦に投入された最初の戦いではあったが、)
(赤死隊の猛烈な突進の前に煙台軍はほとんど反撃する間も無くわずか半刻ほどで潰滅。)
(城門の上から煙台総督の斬首体が投げ落とさるも時すでに遅く。)
(結局その街の中で何が起こっていたのか、知る者は誰一人残らなかった。)

ふん、飛め。(煙台の塔の上から、手中に落ちた街を見下ろしながら笑う)
何を企んでいるかは知らんが、まあいい。今は策に乗ってやろう。この地を得られたことは俺にとっても利を齎す訳だからな。
だが。(上空を飛ぶ一際美しいシャツァルを睨み上げる。飛爛とその愛鳥だ)
最期に全てを得るのはこの俺だ。せいぜいそのときまで、籠の中を飛び回っているといい。
羽を撒き散らし、落ちるまでな!ふふふ・・・はははははは!!!(屍が折り重なる煙台の街に、悪鬼の笑いが木霊した・・・)
-- 轟爛



 



 

 

  〓 〓  

 

【黄金暦223年3月】

(帝国南部の密林地帯は通年寒さとは無縁の世界だが、その上空2000m近いところに位置する)
(カタクァ首都、マクン・バシルは涼しいを通り越して寒い。ことに朝晩の冷え込みはかなりのものがある。)
(那岐李が石造りの大広間に通されたのは、まだ太陽が低い位置にある冷えた朝のことだった。)

(数日ほど宛がわれた部屋から自由に出る事の許されなかった身には、その広間の大きさは)
(ことさらに巨大に写ったかもしれない。)
(縦横20mと11m高さは13mあまり、細長い台形の空間で小規模な体育館くらいありそうだ。)
 (中は入り口と細長い窓の部分を除いて壁沿いに3段の階段が連なっていた。階段には少々高すぎるが)
(腰掛けるにはちょうどよさそうな高さの石段だ。)
 (そしてすべてが石で出来ていた。床も天井も壁も柱も、複雑な形に切り出された石が形作っている。)
(天井付近にはまっている石など、ほぼ岩といっても差し支えなさそうなほど巨大であった。)
 (しばらくここで待つように、と言われ那岐李は一人その巨大な石の広間に残される。)
(那岐李を連れてきた王宮詰の兵士は一つきりな広間の出入り口の前で見張っているらしい。)

(古代文明や少数民族独自の文化を調べている那岐李にとっては、そこで目にする全てが輝いて見えた)
(これほどまでの高所に、こうも巨大な都市を築き上げたこと自体がそもそも驚嘆に値する。彼等が操る巨鳥の力無くしては有り得ない)
(幽閉に近い扱いを受けていた間も、彼は微塵も退屈しなかった。宛がわれた石作りの部屋から、そこに至るまでの通路や都市の外観などをスケッチし、考察を深めるだけで時間は過ぎていく)
(想像を絶する程の長い歴史が、こうまで特異な文化を生み出したのだ)
(その歴史に想いを馳せていたある日、彼は唐突に呼び出しを受けた。通された広間もまた、彼の知的探究心をおおいに刺激する)
……素晴らしい。この石を加工する技術だけでも、帝国内の技術とは一線を画している
そして何より…こんな僻地へとこれだけの石を運び、こうして巨大な城を、都市を作り上げる等……信じられない
(もっと、もっと知りたい。この一族がどのような技術を持っており、どのような歴史を辿ったのか)
(彼等の歴史を辿れば、自身が求める祖先の歴史にも交わることもあるかもしれない)
(故郷を出てから追い求めてきた自身のルーツにたどり着けるかもしれないのだ)
(だだっ広い石造りの広間で那岐李の好奇心と野心は静かに燃え上っていた) -- 那岐李

(静かに盛り上がる那岐李を細長い溝のような窓から差し込んだ朝日が照らす。)
(腕を差し込んでも外へと届かないほどに外壁の石材も分厚い。)
北の湖の近くに石切り場があるらしいよ。
(那岐李の独り言に答える黒い髪の少女。青いゆったりとしたワンピースに赤と黄色の)
(紐帯を腰に締めている、カタクァでよく観られるタイプの服だ。下に白いズボンも穿いている)
(が足は素足にサンダルであった、冷えないのだろうか。)
(その少女がほいっと那岐李に抱えていたものを差し出す。これまた実にカラフルな毛織物の)
(クッションであった。これに座りなされということらしい。この子供は召使か何かであろうか。)

(差し込む陽光に照らされ、石造りの広間は柔らかな空気に満ちる)
(ともすれば幻想的とも言える光景の中、一人の少女が自身の疑問に解を与えてくれた)
北の…だとしても此処まで巨大な石を運ぶのは並大抵のことではない。やはり、巨鳥の力を…?
(自力で運んだのだとしてもそれはそれで興味深い。見たところこの城は建てられてからかなりの年月が経過しているようにも思えた)
(現代使われている運搬技術を建設当時に使用していたのだとすれば驚くべき文化レベルである)
…っと、失礼しました。私は那岐李。此方に通され、待つように指示を受けたのですが……貴方は使者の方で…?
(クッションを差し出され、思考をようやく中断する。意識を目の前の少女に向ければ、想像以上に幼い)
(カタクァの長は女性だとは聞いていたが、まさかこのような少女に長が務まるとも思えない)
(差し出されたクッションに腰かけ、少し砕けた口調で話しかけてみた) -- 那岐李

(那岐李の横にクッションを置くと、ひょいっと飛び上がるようにして腰掛ける少女。)
(つま先がぎりぎり地面についている。平均身長が低いカタクァ人だが彼女は確実に平均以下だ。)
どうやってこのお城の石を運んだのかは今はもう分からないの、ずっと昔に巨大な石を
使うのは止めちゃったから。でもシャツァルに引っ張らせるのは無理ね、だって空は飛べる
けど荷物を運ぶのなら山羊や牛の方が強いもの。
(話しながらずいずい、と那岐李の方へクッションごと横移動して近づく少女。)
(彼女も相当に歴史大好きっ子なのであろうか、いわゆる歴女なのであろうか。)
あ、ごめん言い忘れてた、私飛爛ね、よろしく那岐李!
(皇女でした。ただし、その空の色にも似た青い瞳は間違いなくカタクァ人のそれも特に王族によく)
(見られる瞳の色であった。) -- 飛爛

(随分人懐っこい少女だな、と内心思う。同時に、なぜこのような場所に?という疑問も湧く)
(飛爛…だったであろうか。長である少女の侍女であると見るのが妥当であろう)
(謁見の時が来るまで、この少女から知識を引き出しておくのも悪くは無いだろう)
やはり…口伝では伝わってはいませんか。いえ、だからこそ調査のしがいがあるというものですけれど
しかし…巨鳥ではないとすればそれこそ牛やヤギを…?今でこそ普通にこの都市近辺での酪農も行われているでしょうが…
そもそもこの高地に飼いならされた家畜を運ぶこと自体が困難な筈。元々存在していた野生のものを飼いならして家畜化した…?
だとすればそれこそ私が想像しているより長い歴史がありそうですね…
(少女の言葉に逐一頷きつつ、興味深げに手にした手帳にペンを走らせる)
えぇ、はい…ふむふむ、名前は飛爛……飛爛…?(ぺらぺらとよく喋る少女の次の言葉をメモしようとしてペンが止まる)
…これは失礼いたしました。まさか長大な歴史を誇るカタクァの長が貴方のような見目麗しい少女とは思わず…!
(即座にクッションから離れ、飛爛の足元に傅いて頭を垂れた)
(しくじった。学術的好奇心が逸り過ぎた。これから取り入ろうという一族の長に早々に無礼を働くとは―) -- 那岐李

あっはっははは!!やっぱひっかかったー!
(いよっしゃっ!とガッツポーズしながら大爆笑する飛爛の声がガランドウな石広間に響いた。)
初対面の人って大体私のこと総督だって気付けないのよね
(それは為政者としてどうなのだろうか。)
ごめんね、馬鹿にしたわけじゃないの。正体分からない方が便利なこと多くてね。
(そういいながら、傅く那岐李の横にしゃがむ飛爛の顔はまだにやけていた。絶対楽しんでる。)

お世辞も社交辞令も今は要らないわ、そのために部下を追い出したんだから。
(那岐李に立つよう促しながら、再びぴょこんっと毛織のクッションの上に飛び乗る飛爛。)
(やっぱりどう見てもどこにでも居そうな普通の少女にしか見えない。) -- 飛爛

(快活な笑い声が大広間に響く間、那岐李は考えていた)
(この少女は―何だ?)
(カタクァの長である飛爛その人であるならば、どうにも自身が思い描いていたカタクァの実情とのズレがある)
(帝国の傘下にあるたかだか一部族が皇帝に反旗を翻すなど、並大抵の覚悟ではない)
(それを指揮しているのであれば、それ相応の威厳とカリスマがあって然る筈。目の前の少女にはお世辞でもそれが備わっているとは言い難い)
……お戯れを。失礼ながら申し上げれば、飛爛様の外見に依るところが大きいのでしょう
重ね重ね失礼を承知で申し上げますが……どうにも、ね(朗らかな少女の声と仕草に少し、緊張が和らいだ)
しかし飛欄様。人払いをしてまで何故このような…?(顔を上げ、少し砕けた口調で真意を問う) -- 那岐李

シャツァルに乗るには小柄な方がいいし
(少女のような・・・下手すると幼児体系な身体の事を言われても一向に気にしていない様子。)
部下の前ではちゃんと王様らしくしないといけないし
(実に分かりやすい理由であった。ようは堅苦しいことが嫌いなのである。)

それに…あなたは私達の今一番大事な秘密を知っちゃったのよ。
生きて居たかったら私と仲良くなってくれなくちゃ。・・・でしょ?
(屈託のない笑顔のままでさらりと言ったが、ようは仲間orDIEということである。) -- 飛爛

―(思わず、息をのむ)
(自身が抱いていたこの少女への浅はかな印象を早急に書き換えなければならない)
…えぇ、それは勿論。喜んで協力させていただきますよ
貴方方の独自の文化に裏打ちされた特異な戦術には興味もありますし、ね
(極力表情を変えぬまま答える。生殺与奪の権利は完全に相手にある。此方から提案など望めぬ筈もない)
(だがしかし。此方にも引けぬ一線はあるのだ。あくまで協力者として、食客としての立ち位置は意地せねば調査も覚束ない)
しかし、私にも目的が無いでもないのです。貴方方に協力する代わりに…とは言ってもなんですが
貴方方カタクァの祖先が遺した遺跡、資料等を優先的に調べさせて頂きたい―
(しっかりと飛爛の目を見て。口調こそ丁寧ではあるものの、その瞳に見える強大な意志と、自身の目的に掛ける執念を隠そうとはしない)
(ここで今後の立ち位置全てが決まる。いばらの道へは既に足を踏み入れているのだ。何を躊躇することがある―) -- 那岐李

そんなに怖い眼しなくてもいいよ。
(那岐李に向けられたのはやわらかい微笑みだった、この少女は笑顔だけで喜怒哀楽)
(全部表せるのではないかと思えるほどによく笑い、そして色んな表情を見せる。)
目的が別にあるにしたって、普通もっとマシな嘘つくものでしょ
(立ち上がった飛爛は石段を軽快に跳び上って、最上段から細い石窓のそばに立つ。)
だから良いよ、カタクァの歴史のこと調べてくれるっていうなら歓迎する、私も
故郷の事をもっとたくさん知りたいし、忘れられている事も全部思い出してあげたいの。
(細い窓の向こうには、高く上った、さえぎるもののない陽をあびて煌くカタクァの街があった。)
 (彼女にとって、命がけで帝国へ反逆を企てることも、祖先から受け継いだ地の現在を生きる事も)
(まるで等しい事なのだ。だから、二つを並べてどちらかを取るなどということは端から考えていなかった。)

ただし、今みんなすごい忙しい時期だからあんまりお手伝いとかは期待しないでね -- 飛爛

―…失礼しました。少し、熱くなってしまったようで(拍子抜け。そんな言葉が似合う程にあっさりと了承された)
(そして那岐李は知った。やはりこの少女はカタクァの長であるに足る人物であったと)
(王たる者の威圧感も、迫力も無い。だがこの少女には人を惹きつける何かがあった)
(出会ったばかりの自分がそう思うのだ。それこそ同じ民族からすれば圧倒的な求心力となるのだろう)
……分かりました。私も研究者を名乗る以上、しっかりと結果は出してみせましょう
いえ、許可を頂けただけで十分ですよ。基本的には遺跡の場所と内部の簡単な情報を頂ければそれで結構です
(石窓から差し込む光を受けた少女は、どこか神々しさすら感じさせる程であった)
(石段の下から少女を見上げ、もう一度頭を下げる)
(我が一族にも彼女のような指導者が居れば、何かが変わったのだろうか)
(反乱を企て、実行に移す程の胆力と頭脳、求心力を兼ね備えた人物が居れば―)
(内心に渦巻く嫉妬にも似た感情を押し殺しながら)

(この時より、那岐李は改めてカタクァの共犯者となったのであった) -- 那岐李



 



 

 

  〓 〓  

 

(陣幕の中に集められた人数は200あまり、皆同じような格好をしているが、その肩掛けやあるいはツナギ)
(のような服の色はそれぞれ皆個性的でカラフルなため、その場は南国の花畑か極彩色のペルシャ絨毯)
(が敷き詰められているような景観だった。年齢も体格もみなバラバラで、男女入り混じっている。)
(だが、全員一様に厳しく引き締まった顔をしていた。)
目的地はここですよ、国境から一番近くにあって、もっとも大きな都市。
(指示棒でキャンバスの上に広げられた大きな筆書きの地図を指し示す男はクラト、飛爛の側近だ。)
敵の頭上で失速すれば、周囲数km離陸に適した地形はないので。必ず高度は高く取るように。
国境沿いにすでに大部隊が展開していますがぁ…ま、アテにはできないでしょうね。
我々は彼らの頭上を飛び越し、遥かに敵地の奥へと食い込むので。しかし、すでに2度実戦を経験
した勇士諸君にとって、今回の作戦は敵地に爆弾投げ込んでくるだけの簡単なお仕事に終わるでしょう。
では、姫様。
(一見少年のようにも見えてしまう、年齢不詳の男クラトが説明を終えると、一礼し、横で座っていた)
(飛爛へと場所を譲る。)

(白くて短いワンピースにズボン、そして毛皮のブーツという姿はいつもどおり。だけど普段のような肩掛け)
(の代わりに金で編まれたショールを身に付けて居た、その胸元で紅いルビーがいくつも連なって揺れている。)
(巨鳥や天に住まうとされる星々の神を象形した造形に飾られたその金のショールは豪奢である以前に)
(どこか神聖さをその輝きの中に見せていた。それはカタクァの祭事の折に王が見につける装身具だった。)
私達はついにここまで来た、でもここからが本当の始まり。
(ゆっくりと青い瞳を開きながら、この場に集った全員へ向けて飛爛は語りかける。)
空に抱かれて生きる地上に支配者なんて居ない。だけど彼らは多くを殺し、多くを奪った。
(飛爛の語る彼らは…ローディアの国々のことではない。)
羽を休める足場があれば人は生きていけるのだということを、私達がかつて同じ空の兄弟であった彼ら
にも思い出させなくてはならない。そうでなければ、この地上はいつまでも悲しいままだから…。
臥した翼を広げよ!これより我らは空を翔る!
(陣幕の中に大きな歓声が巻き起こった。その歓喜の声を小さな身体で受け止める飛爛の横顔が)
(泣き出しそうなことに気付いた者は少ない。)

(少女の声に唸りを上げるかのように揺れる陣幕)
(部隊の士気が熱狂とも言える渦の中にあるというのに、一人。この男は普段と変わらぬ冷徹な瞳で飛爛を見つめて居た)
……随分と、大層な文句だな。指導者としては立派なものだが…正視に耐えん
(年端もいかぬ少女の外見とは似つかわしくない彼女の言葉に、ニタリと口元をゆがませる)
…だが、良い余興だよ。一度地に臥した鳥がどこまで飛べるのか、観察するのも悪くは無い
…これが巨鳥の再生の羽ばたきだというのなら。今はその羽が巻き起こす風に身を任せるとしようか

(爆撃部隊が離陸の準備を進める中、歩兵部隊の一員として、切り伏せるべき敵に視線を移すのだった) -- 那岐李

 

 

(山の斜面に翼を広げ、灰蒼色の風となって巨鳥が駆け下りていく。やがて翼に風を纏わりつかせ空へと舞い上がった。)
(地上に投げかけられていた巨大な影が見る見る小さくなっていく。)
(すでに頭上は旋回しながら高度を上げていくシャツァルが群れていた。その数およそ90羽。)
(地上戦力の輸送を任された者は一足先に目的地へと飛び立っていく。やがて空の上に残ったのは)
(その巨大な鉤爪で取って付きの五右衛門風呂のようなものを抱えた30羽のみ。)
(地上でその取っ手付き五右衛門風呂…投下爆薬を用意していた人々の頭上を一際巨大な影が)
(飛びすぎていく。それは飛爛の乗るシャツァル、ココロアの姿。)
(鮮やかに蒼く煌くココロアが一直線、駆け上がるように空へ昇る、空で待機していた者たちは)
(彼女を頂点にくの字の編隊となってまっすぐに飛び出して行った。)
(時に時速100kmを超えることもあるシャツァルの翼は重荷を持っていても、風のように飛んでいく)
(駱駝を連れた隊商の頭上を飛び越え。小高い丘の上に居た羊の群れを驚かせ。追い風を捕まえて)
(ついに標的を眼下に捉えた。)
(手信号で飛爛が合図を送る、編隊は一糸乱れぬ動きで高度を下げながら旋回し投下地点へと近づいていく。)
見つけた!………落せぇッ!!!
(突然飛来した巨大な鳥の群れに、住人達が驚いて空を見上げる中、一際大きな壁と敷地を持つ)
(建物があった、中から弓矢を持った兵士達が飛び出して来る。)
(その矢が飛び出すよりも早く、シャツァル達が肢に抱えていた物を落した。)
(空中に投げ出されると、先ずパンッと乾いた音を立てて荷物を支えていた2本の柄が弾け飛んだ。)
(それは導火線に火が付いた合図。大きな塊が地面に鈍い音を立てて落ち跳ねながら転がった瞬間。)
(一際大きな爆発音が響く。次々に乾いた炸裂音が鼓膜を揺さぶり、あっという間にあたり一面が)
(黒い霧に包まれていく。建物の壁が割れ、砕けた城壁のレンガが地面を叩いた。)
(火薬の上げる爆煙がのろしのようにいくつも風にたなびいて昇っていった。仲間を求めて)
(建物からも煙が噴出し交じり合っていく。そこへさらに後続の鳥が落した爆弾が吸い込まれる様に)
(落ちて行き…激しい火柱が立ち上った。)
(立ち上る炎を見てそれまで地に伏せて隠れていたカタクァの歩兵たちも進撃を開始した。)
(弓と極めて短い投槍で武装した軽装の歩兵達が火災に見舞われた敵拠点へと殺到していく。)
(逃げ出そうとする者、消火しようとする者、前線とはいえかなり後方に位置していたその基地は)
(突然の奇襲にたった数分で大混乱に陥っていた。)
(そこへ500ばかりの身軽なカタクァ兵達が乱入し弓矢を浴びせかける。)
(頭上には炎の上を悠々と飛び回る巨鳥の群れ、そして突然の侵入者達、混乱はさらに加速していく。)
(炎と煙に包まれた乱戦の頭上で、爆撃を終えたシャツァルの部隊が旋回している。)
(飛爛の横を飛んでいたクラトが、すぐに後方へと引くよう飛爛に合図を送る。)
(この作戦は奇襲だ、長いは無用。だが、合図を送られた彼女はじっと地上を見つめている。)
(熱く焼けた空気、目と喉を焼く黒煙。空の上にまで地上で巻き起こる悲鳴が届いてくる。)
・・・・・・・・・私に続け!!
(完全な奇襲であってもこちらは寡兵、地上での戦いの不利は否めない。現に混乱の最中にも)
(騎馬を持ち出し、反撃の力を強めている共和国兵の姿があった。)
(猛々しい嘶きと供に前足を振り上げてカタクァの歩兵を踏み潰さんとしている。)

(翼を畳んだココロアが急降下を始めた。炎と煙を突き破り。敵地の真っ只中で大きく翼を広げる。)
(空から振り落とされた巨大な鉤爪が兜諸共騎馬兵の頭蓋を粉砕した。)
(首を肩にめり込ませながら絶命した兵士を踏み台にココロアは再び高く舞い上がっていく。) -- 飛爛

(あーあー…と困ったように飛行帽を被った頭を振るクラト。)
(姫様のご活躍で地上も空の部隊もすっかり興奮して舞い上がっていた。駄洒落ではない。)
(数騎の熟練なシャツァル兵だけについてくるよう指示を出し。彼もまた愛鳥を駆って急降下を開始した。) -- クラト

(矢を構える暇すら与えられない混乱と、地上と空両方からの襲撃に、その基地を守っていた総ての)
(兵達が僅かに焼け残った建物の中へ逃げ込もうとするようになるのは時間の問題だった。)
(それはいつもの様に順調に終わる筈だった、戦に紛れ村々を破壊し、人を殺し、女を犯し金品を略奪する)
(単調過ぎて退屈さすら感じる程の、いつも通りに進む日常…だが、それは突如現れた大爛の者達により、終焉を告げる)

 

 

あいつらマジでこっちまで来やがったのか…!!
(襲い来る大爛の者達を切り捨て、一先ずは売り物…奴隷達を商人に引かせて、一刻も早くこの場から逃げ出せようとする) -- 胡久美

(後方より迫り来る大爛の軍勢を一人、二人と切り捨てて胡久美が逃げ出そうと身をひるがえしたその時であった)
(先に逃がした筈の奴隷商の断末魔が響く。崩れ落ちる奴隷商の死体を踏み越え、一人の男が胡久美を見据えている)
(本隊に先行して陣地を撹乱する役目をおったカタクァの尖兵である)
…奴隷商か。下らん…西方の愚図共の倫理は帝国よりよほど愚劣であるらしいな
(そう吐き捨てると、手にした曲刀についた血を振り払いながら胡久美の方へと歩を進めた) -- 那岐李

あーあ…(別段悲しむ様子もなく、奴隷商へは目もくれず、那岐李へ目を移す)
どうしてくれんだよ、まだそいつから報酬も貰ってねえってのによ…(やれやれと大袈裟にため息をつき、顔を手で抑える。だが、指の隙間から見えるその口元は、喜びに釣り上がり)
…ま、いっか。楽しめそうな奴が代わりに来てくれたしな。
(両の手に持った刀を、那岐李へ向け構える。その二本の内、右手の赤い刀身の刀からは、明らかに危険な気配を漂わせている…恐らく、何らかの曰くつきの武器だろう) -- 胡久美

…中々興味深い物を持っているな。貴様如き下郎には勿体ないのではないかな?
(胡久美が手にした赤い刀から発する異様な気配に口元が更に吊り上る)
その刀…報酬代わりに頂いて行く―ッ!!
(言うが早いか、身を低くしたまま地を蹴り、まるで這うかの如く距離を詰める)
(そこから振るわれる一閃は胡久美の左膝から右わき腹を両断せんとしたものだ)
(速さに任せた乱雑とも言える一撃。そして足を切り裂き、相手の動きを封じるためとも言える一撃だ) -- 那岐李

オカマ野郎には勿体ない位立派だ…ろっ!!
(悪態をつきつつ、襲い来る一撃は後退し何なく避ける…が、その一撃は予想よりも素早かったのか、甲冑の繋ぎ目、膝の辺りからは一筋の血が流れる。)
(だが、その顔はますます邪悪に歪み)
いい根性してるじゃねえか…いきなり足狙いたあ、てめえもまともな兵士じゃ無さそうだな…(言いながら、背中のもう一対の腕に、短刀を握らせる。)
今度はこっちからいくぜ!(何の変哲もない、単なる右の剣による突き放つ。特別工夫もない…それどころか、手を抜いた様にすら感じられる一撃。)
(だがそれはフェイク、本命は背中のもう一対の腕から繰り出される、短刀による一撃。それは異形体のみが放てる技)
(放つ事即ち勝利を意味する、邪道の一撃…否、二撃必殺の型) -- 胡久美

…フン、戦場を荒し私欲を満たす人以下の屑よりは真っ当なつもりだがな
(微かな手ごたえと、胡久美の膝から流れ出る少量の血に愉悦の色を深めていく)
大層な事を言う割には、単調な一撃だn―っ!?
(この身に宿る異形の力が警鐘を鳴らす。この一撃を受け止めてはいけないと)
(野生の勘にも似た判断で、右方向に飛びのいて距離を取る)
(が、咄嗟の判断故に体勢を崩してしまう。放たれたフェイクの突きに胸元を切り裂かれながらも無様に飛びのいた) -- 那岐李

なっ・・・!(驚いたのはこちらも同じ。その性格から完全に見切り、反撃に転じると思った筈が)
(後退され、目論見は崩れる。そして、一瞬の後、那岐李の直感を裏付けるかのように、複腕による横薙ぎが、丁度那岐李の首のあったであろう場所を通過する。あのまま反撃に転じていたら…)
(四本の腕を持つ異形の戦士は、短刀を刀へ、四本の刀を持つと那岐李へ訝しむ様な表情を向ける)
どうしてわかった?テメエからは完全に死角だった筈なんだが…
(周囲では、胡久美の仲間と大乱の兵士が互角の戦いを繰り広げている、とはいえ数で負けているせいか、徐々に胡久美の側が押されつつある) -- 胡久美

……っ、随分と…奇妙な身体をしているな。西方の化け物というわけか…
(切り裂かれた胸元から流れる血を拳で拭い、歯噛みする。先ほどまでの愉悦は消え、苛立ちと殺気に満ちた瞳で胡久美を見据えた)
…なに、異形なのは貴様だけでは無いということだ。この身体に満ちる血を流させたこと、公開させてくれる…
(周囲の状況を考えれば、このまま行けば数で押し切れる。全滅するまで粘る程この男も愚かではないはずだ)
(再び身を低くし、弓を引くかの如き姿勢で剣を構えれば、胸の傷から沁み出した血が、霧のように那岐李の身体に纏わりつく)
―その奇怪な腕、切り落としてくれよう
(再び地を蹴るもその速度は先程よりも更に上がっている)
(獣の如き速さから繰り出されるその突きの先端から、まとわりついた黒い霧が蛇の如き咢を成して胡久美の左後腕に迫る) -- 那岐李

おいおい、化物たぁ言ひでえ言い草だな…ま、否定はしねえけど
(先程よりも更なる勢いで迫る那岐李に、青年は4本の刀を構え迎撃の体勢を取る)
(迫りくる疾風の如き刺突を、紙一重で避けようとして)っくそが!
(迫りくる蛇に狙われた左後ろの腕を、咄嗟に大きく逸らす。それでも避けきれなかったのか、蛇はその腕に巻きつくや、深々と牙を食いこませる)
やってくれんじゃねえか…!!(痛みにより怒りに燃えた表情は、さながら鬼の如く。避けた後ろの腕を除いた、両の手の刀を、交差させるようにそれぞれ袈裟切りに斬りかかる!)
け、ちゃちな手品見せやがって!とっととくたばりな!(言いつつも、ちらりと周りを見回せば、劣勢に追い込まれているのはこちら。とっとと逃げたい所だが、目の前の敵はそうやすやすと逃がしてくれるほど甘くは無い) -- 胡久美

…ふん、どうやら貴様の血は我が蛇神の舌には合わんようだな?
(一撃で腕を食いちぎる算段だったが、胡久美の咄嗟の判断で攻撃を逸らされたことへの皮肉を語れば、再び口元が吊り上る)
それは此方の、台詞だ―ッ!!(左右の肩口を切り裂かんと振り下ろされる二本の刀)
(正直に刀で受ければ、後ろに隠された残りの腕からの攻撃がこの身を両断するだろう。単純明快ながら、その効果は絶大だ)
さ、せるかッ!!(単純に避けるだけでも残った腕が即座に追撃をかける筈。それを封じるには後の先を取るしかない)
(右手に持った曲刀を横一文字に構え、胡久美が振り下ろした二本の刀を受ける寸前でその身を胡久身の背後へ回り込むように右へと滑らせる)
(が、相手もまた異形の力を宿した尋常ならざる使い手であった。振り下ろされた刀を交わしきれずに、左腕が大きく切り裂かれる)
ぐ、ぬぅぅぅぁぁぁぁっ!!(苦悶の表情を浮かべながらも、渾身の力で残った右手の曲刀を叩きつけるように胡久美の背後へと振るう―!) -- 那岐李

(本隊から離れて胡久美達と競り合いをしていた 那岐李とカタクァ歩兵達の部隊の上に突然)
(大きな鳥の影が落ちた。空より急降下で降りてきた6枚羽の猛禽類、シャツァルの巨大な鉤爪が)
(カタクァ兵を刺し貫こうとしていた敵兵を空へと持ち上げて放り上げた。遠くでドチャッだのメメタァッだの)
(何か嫌な音がした。)
那岐李!よく敵兵をひきつけて置いてくれた、撤収だ!奴らはもうおしまいですよ!
(低空を旋回するクラトが弓で指し示す方向、街の中から大きな煙がもうもうと立ち上っていた。) -- クラト

っがぁああ!!(右後ろ腕の刀を酒場に持ち、寸での所で叩き斬られるのを避ける。技術も何もない力任せの防御は、その痩身からは想像もつかない力で容易く刀を撓ませる)
(不意に聞こえた声に視線を移せば、そこには巨鳥に跨る増援の姿)
ち…こりゃあ…潮時だな、おい!(仲間に合図すると、奴隷を捉えていた折を青年の仲間が断ち切る、すると)
(捉えられていた者達が一斉に、我先にと逃げ出し、大爛の者に助けと感謝の言葉を見舞う)
勝負はお預けだ、また会おうぜ…(最後に、邪悪な笑みを残すと胡久美と名乗った青年は、仲間と共にその場から逃げだす、追おうにも解放された奴隷が邪魔で、思う様に追跡できない…諦めるしかないだろう) -- 胡久美

―ッ!!!(全力で振り抜いた筈の一撃が、激しい音を打ち鳴らして防がれた)
(反動でバランスを崩し、後ろへとたたらを踏んだ時、上空より一羽の巨鳥が飛来した)
…っ、く…おの、れ…っ!(切り裂かれた左腕を抑えながら、撤退していく胡久美を見逃すしかなかった)
(どの道これ以上の戦闘は那岐李にも不可能だった。左腕を失い、渾身の一撃を防がれて体勢を崩していた)
(クラトの乱入が無ければ間違いなくやられていたのだ)
…っは、ぁ…はぁ…助かりましたよ。まさか、此処までの傷を負うとは…
次は…必ず、仕留める……!
(流れ出る血液でふらつく意識を何とか保ったまま、撤退する一団の中にその身を紛れ込ませるのだった―) -- 那岐李

 

 

ひっ! ひっ! な、なんなんだあいつ等……! 名乗りあげも無しに突然襲い掛かってきやがって……これだから蛮族共は!
神殿騎士A「隊長! 逃げましょう! 物量差がありすぎます!」
バカいえ! 今逃げたら丸損だ! 最低でも活きの良い女2,3人はつれてかえるぞ! -- カルロ

(巨大な蠍や山羊に乗った弓騎兵達によって機動性を生かして滅多撃ちにされ、最後に爆薬による一撃が加えられる)
(爆風は殺傷力よりも戦意を喪失させることが目的のようだ)

神殿騎士A「ひ、ひぃいい! もう追いつかれ……かこまれた!?」
神殿騎士B「た、隊長やつらどこからか火砲まで持ってきてますよ! 逃げましょうよぉ!」
火砲があんな手軽に連射できてたまるか! 火薬をそのまま投げつけているだけだ、おちつけ、おちつかんか!!(いくら喚いてそれ以上の音量の爆風に負ける声が出せるわけもない)
(支持が適切に飛ばされることはなく、虚しく声が空へと消えていく) -- カルロ

(カルロの声が吸い込まれていく空から逆にけたたましい羽ばたきの音が聞こえる。)
(6枚羽の巨大な鳥の影が数十の群れとなって頭上を飛び越えていった。その後に突風が吹き荒れる。)
(そしてさらに、飛び去っていった一団の後から、十数羽の編隊が空を滑り降りるように近づいてくる。)

神殿騎士A「ろ、ロック鳥!?」
神殿騎士B「違う、大きい!」
神殿騎士C「隊長! どどd、どうします!?」
ええい、うろたえるなアホ共! 交戦にきまってるだろうが!
逃げようにも相手の足をとめねばしょうがない! 全員武器を持て!(そういってハルバードを握り締め、一歩前にでる)
やぁやぁ、我こそは神国が神殿騎士! カルロ・ブレンゴーラ! 貴殿ら、何者だ! 誰の許しを得て我等が神の祝福された土地を侵す!? -- カルロ

(名乗りに答える声は無かった。この時の飛爛はたった今まで殺し合いの最中に居て。)
(全身の血が逆流するような鼓動と風切音を聞きながら、空色の瞳を氷のように冷たく光らせて)
(獲物を探す猛禽のように猛っていた。だから答える声は無く。)
ギィィィィィィィィィィィィィッッッッッ
(血と硝煙の匂いを張り付かせた神殿騎士達の前に壁のような巨大な翼を広げて巨鳥が)
(ガラスをこすり合わせたような凄まじい咆哮を放った。その鉤爪と皮の鎧に覆われた腹は)
(ドス黒く返り血に染まっている。) -- 飛爛

神殿騎士A「ひひいい、ひぃいい!」
神殿騎士B「あ、悪魔! 悪魔だ!」
ぐっ……ええい、言葉を交わす礼すら持ち合わせておらんか、蛮族共め!
クソ! 落ちろぉ!(半ば半狂乱になりつつ、ハルバードを大空を舞う巨鳥に対して投擲する) -- カルロ

(重砲の一撃のごとくほとんど一直線に投げ出されたハルバード、その切っ先めがけて飛び込む巨鳥が)
(翼を畳んで空中で一回転した。腹と背を天地逆にした巨鳥の背の上に小柄な人影。)
(ハルバードが掠めて吹き飛ばされた皮の飛行帽子とゴーグルの下はまだ年端もいかないような)
(黒髪の少女の顔で。金細工のショールを身に着けた少女の蒼い瞳が冷たく眼下の敵兵達をにらんでいた。)

(再び巨鳥が大きく翼を広げる、空中で宙返りを打ち、鉤爪を突き出して敵の真っ只中へ突撃していく。) -- 飛爛

なっ!? 女……?(一瞬、その姿に看取れたが、それがいけなかった)
ああ、っぐあああ!?(滑空し、突撃してきた巨鳥に額の三目をやられ、もんどりうって倒れる。神殿騎士の恐ろしいタフネスにより、即死は免れたが、目に見える重傷だ)
神殿騎士A「た、隊長!」
神殿騎士B「カルロ様がやられた! かついて運べ! 退くぞ!」
あああああああ! 見えないぃ、みえない見えないぃいいい! くそ、くっそ、くっそぉおおおおお!
殺してやる殺してやるぞ蛮族共!! 1人残らず挽肉にして枢機卿の玩具にしてやる! させてやる! 壊してやる、殺してやる、殺してやるからなぁああああああ!
(呪詛をはきながら、撤退していく) -- カルロ

(飛爛のシャツァルを追って飛んできた編隊が低く神殿騎士達の頭上を掠めて飛んでいく。)
(彼らは再び一つの編隊へと戻ると迫ってきていた大爛の部隊のさらに向こう側へと飛び去っていった。) -- 飛爛



 



 

 

  〓 〓  

 

【黄金暦223年6月、ガルガの門付近、カタクァの陣地】

大爛の戦に昼も夜もない、必要とあればいつでも出撃の命が下される。
だがこの夜は静かに休むことができた。カタクァの陣地から見下ろせる眼下の大地は昼間の戦が
夢だったかのように静かで、やさしい月明かりの下では無残な戦いの傷跡も見えない。
どこまでも青く広がる荒野は海底に居るようで本当に夢の中にいるような光景だった。
 そんな夢幻の中に沈んだ光景に背を向けて、飛爛は焚き火の側にしゃがんでいる。
飛爛の手の中で絞られた布切れがボタボタと水を落した。滴り落ちる水は赤く黒く淀んで血の匂いがした。
 絞った布で、傍らに立っていた愛鳥ココロアの巨大な鉤爪付きの足をぬぐってやる。
少し綺麗になると、すぐに乾いた血を吸った布切れは血糊を広げる、それをまた濯ぐ。

シャツァル特有の後肢の羽にも血は飛び散っていたが、羽毛にしみこんだそれはぬぐっても取れなかった。
夏へと向かう6月の生暖かい夜気に溶けた血の匂い、飛爛の手が震えて、小さく嗚咽が漏れた。
蒼い羽に染み込んだのは人の血、ほんの数時間前まで生きていた誰か、彼女がココロアを駆って
その鉤爪に握りつぶさせた身体に流れていた血。
 自覚してしまったら、もう震えを止めることは出来ず、零れ落ちる涙も抑えることができなかった。
だが、彼女は手を止めることはしなかった。いくら涙を流しても、戦場の道理に乗っ取った言葉を
尽くしても、奪ったこの血を返すことはできない。
今ここで立ち止まってしまえば、彼女の言葉に従って命をかけた仲間達を裏切ることになる。
だから、この涙は誰のためにも流すことは許されないと、自身に言い聞かせ。必死になって血を拭い続けた。

そんな主人、いや雛の時より寄り添うようにして育てられた姉妹とも言うべき巨鳥は
その大きな背を丸めて飛爛の背中を嘴で撫でた。
くっくっと小さく喉を鳴らし、慰めるように天蓋のように大きな翼で、飛爛の身体を包み込む。
 その暖かな覆いの中で飛爛は声をあげて泣いた。泣きながら詫びた。自分が奪った命に
自分の言葉によって奪わせた命に、そして天と地の間を生命の在るがままに飛び生きていた気高い
シャツァルの魂を人の血と欲で汚したことを。彼女の懺悔を聞き届ける者は何も無かった。

 彼女はこの後も戦場の空を飛び続けることになる。そしてより大きな戦乱へと人々を
駆り立てることになるのだ。大いなる歴史の分岐点で翼をもがれ終の地に墜ちるその時まで。



 



 

 

  〓 〓  

 

【黄金暦223年7月 ひがしろーでぃあぞるどヴぁ】

姫様 -- クラト

なにー? -- 飛爛

ふと思ったのですが、シャツァルって6枚羽で有名ですよね -- クラト

うん、そういう設定だよね。首と主翼とあと肢に -- 飛爛

尾羽を入れたら7枚羽なのでは? -- クラト

・・・・・・・・・ -- 飛爛

・・・・・・・・・ -- クラト

以後シャツァルの羽の枚数は最重要機密とする! -- 飛爛

御意! -- クラト



 



 

 

  〓 〓  

 

【黄金暦223年 7月  神聖ローディア共和国 ゾルドヴァ古代遺跡群にて】

(開戦よりわずか二ヶ月、医薬品に対する需要は予想をはるかに超えるペースで膨らんでいる)
(よほどの短期決戦でも望めぬかぎり、医療の質、量共にこれから落ちていく一方だろう)
(それらをいかにして食い止め、損耗を抑えるのか)
(虎塞の医師や薬種商たちに寄せられる期待とは、つまりそういうことだ)
(今のところ、拒む理由もない)

(兵站の人間や主計官たちにその場をまかせ、色とりどりの旗幟がはためく広大な帷幄を歩く)
(故国の香りがする風に顔を上げれば、相変わらずどこか浮世離れした姉がそこにいた)姉者…? -- 喬爛

(シャツァルは身体がでかい、そのうえ空を飛ぶために半端無いカロリーを必要とする。)
(地元であるカタクァが水銀害や震災の影響をあまり受けなかったため、カタクァ軍の兵糧は)
(大分余裕があったとはいえ。)
(行軍が長引けば、現地調達も多くなりなかなか苦労していた。輜重隊へ陳情へいく回数も)
(かなり増えていた。)
ん、誰ー?
(眉間をぐにぐにしていた指を離しながら、呼びかけられた方に振り向く。) -- 飛爛

覚えておられぬのか…(この姉と最後に会ったのはいつのことだろう まだ都に暮らしていた頃だった気がする)
(ましてや己の姿は似ても似つかぬ あれから黒髪は白く抜け、瞳は真紅に染まってしまった 一目でそれとわかる方が珍しいのだ)
(そう自分に言い聞かせて)
この顔、見忘れたとあっては名乗らねばならぬが道理(二房の髪を解いて手櫛を入れ)喬爛だ 姉者もこちらにおられたか -- 喬爛

にょあっ!?
(飛爛は襟から背中に毛虫が入り込んだような声を上げた。その名前と記憶の中にあった容姿に)
(あまりに差がありすぎたせいであって、べつにまずい相手に会ったとかそういう意味はない。)
(その証拠に驚きのあまりまんまるくしていた空色の瞳と表情は、すぐにうれしそうな笑顔に変わり。)
そのしゃべり方・・・喬なの!?わっすっごーい!ひっさしぶりー!
 (すごくうれしそうに駆け寄る、この時飛爛にしっぽが付いていれば振っていたのではあるまいか。)
(帝都の王宮で変人扱いされていた幼き日の飛爛にとって、すっかり姿は変わっていても彼女は)
(数少ないまともに付き合いのあった姉妹の一人なのだ。) -- 飛爛

え…あ、はっ…姉者!?(あまりの落差に面食らいつつ目を瞬き、花の咲く様な笑顔になって)…覚えていて下さったのか
ふふ、おいくつになられたのだ? 姉者はまるで変わっておられぬ なるほど華桌の民が羨まれる訳であるな
聞けば目覚しいご活躍ぶりだとか、この喬爛の耳にも噂ばかり届いていたのだが…やはり人は見かけによらぬもの、お強くなられたのだな
その方もだ、ココロア!(蒼い巨鳥に近づき、その背をなでて)見違えたな…さすがは姉者の本体(さわさわ)
…兄者のことは(ぽつり、と思い出すままに呟く 煙台を治めた男のことを言っている)残念であったな 心中お察しする -- 喬爛

(喬はすっかり背も伸びてかっこよくなったよね!私よりも背たかいじゃんッ等とはしゃぎつつ)
(全身で喜びを表現する。ココロアも、オプション扱いの飛爛と違い、数年の間で2倍くらいには)
(なったのでは?という巨体を喬爛へ寄せてくっくっと喉を鳴らした。)
私とココロアはカタクァで一番速くて強いんだから、へへーん・・・あ、と・・・うん、アレはね・・・うん
(能天気そのものに笑っていた笑顔が俄かに曇った。反逆の罪により粛清され、轟爛の手へと渡った)
(南方都市煙台。)
 (煙台は飛爛のカタクァ、喬爛の虎塞にも近い所にあった。過去形なのは、轟爛の支配下となった後に)
(城と街と後は彼が必要としたもの以外何も残されなかったからだ。)
・・・みんなで助け合えれば、もっと他にやり方があったかもしれないけど・・・しょうがないよ。 -- 飛爛

姉者は肉親の情にとらわれず務めを果たされたのだ そんな顔をするものではない(自然と頭に手が伸びて、気付けばそっと撫でていた)
…さぞお辛かったであろうな 血を分けた者同士が喰らいあわねばならぬなど 兄者もなにゆえ乱心などされたのだ!
今はその相手が(声のトーンを落として)この国の者らにすり替わったにすぎぬ 我らの敵は一体どこにいるのだろうな
それがわからぬ限り…この戦、いつまでも終わるまい 時に姉者、その「しょうがない」というのは好かぬ どうも嫌いなのだ
剣を振るい、弓引くばかりが戦にあらず! 姉者も翼を持っておられるではないか(ドヤ顔気味にふふんと笑って)
民心を安んずることこそ我らが務め ならばこの生業、私のような者より姉者の方がずっと向いておられよう -- 喬爛

うん、そうだよね・・・私もそう思う。
(煙台の粛清に関して、そう仕向けたのは他でもない自分自身。あの街があるかぎり自分達や)
(他の南に住まう諸族たちにチャンスはなかったから・・・だから、思わずいつもの自分らしくない)
(しょうがないという言葉が口をついて出た。)
空から見れば大地のどこにも線引きなんてされて無い、故郷の土は人の胸の中に
あるものなのに、みんな目に見える何かを手に入れようとする・・・たぶん、私も。
 (何年かぶりに明けられた記憶の小箱、その中にある喬爛の姿は今と変わらないまっすぐで)
(素直な女の子の姿だったことが、今更ありありと思い出され。)
(そのまっすぐさが、今の飛爛の胸の奥につきささってくる。)
(思わず泣いてしまっていた。堪えようと思っても、涙があふれてくる。元より彼女は感情の起伏が)
(激しいのだ、それはむしろ子供の時代より成長した今の方がいっそう強くなっているような気すらする。) -- 飛爛

…ああ、少しも変わっておられぬ(泣きじゃくる姉に胸を貸し、背中をさすって)お優しい、泣き虫の姉者のままなのだな
(胸の奥の、そのまた奥に幽かに残ったわだかまりが洗い落とされていく心地がして、自然と安堵の笑みが浮かんだ)

「しかし、何故こんな事になったのだろう」「分らぬ」「全く何事も我々には判らぬ」
「理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ」
(見世物ではない、とたしなめる様な一瞥に駆けつけた兵らが散って)ふふ、つらいものだな 泣き言のひとつも漏らせぬとは
私でよければ今だけ姉者の枕となろう(帝姫たる身に相応しい盛装も誇らしげに胸を張り)その涙、涸れるまで存分に泣かれるがよい
…とはいえ、ここは人が多すぎるな姉者 誰もおらぬところへ参ろう(と天空を指差して その日は少し遅くに帰陣したのだった) -- 喬爛

(喬爛を宿営地まで送ってから飛爛も帰路についた。満点の星空の下にココロアは翼を広げて飛んでいく。)
(最初に思わず泣き出してしまった後は完全に相手のペースだったような気する。これではどっちが姉で)
(どっちが妹なのかわからない。だが、表裏のない妹の存在は飛爛にとって本当に救いであった。)
 (もしかして、彼女も決起の日、仲間に加わってくれるかもしれない・・・。そう思って飛爛は)
(頭を振った。もしも失敗すれば彼女もまた反逆者として処罰されるだろう。それはだめだ・・・。)
 (満点の空の下をココロアの背にのり、ゆっくりと飛ぶ彼女はまた泣きそうになった。)
(すでに、来るべき日に帝国へ反攻することを決めた諸族達を炊きつけたのは自分だ。)
(なのに今更、妹だからという理由で守る命とそうでない命を選択してしまっている自分を嫌悪した。)
 (また、泣きそうになった。今度は堪える、もう自分の流す涙は贖罪にも懺悔にもならないと分かっているから。)
ねぇ、ココロア・・・喬はとても良い子なの、へへっ頭はあんまりよくないんだけどね?
(他に誰もいない地上から数十mの空の上。飛爛はココロアに語りかける。)
・・・私は少しでも世界を変えられるかな・・・もしも変えられたら・・・その後を彼女のような人たちが
引き継いでくれるかな・・・。
 (ココロアは答えずに、ただ大きく羽ばたくと、より高度をあげる。カタクァ人が本当の故郷と信じる)
(星々の世界へ近づくように大きく羽ばたきながら、8月の暑い夜気の中を昇っていった。) -- 飛爛



 



 

 

  〓 〓  

 

【223年ゾルドヴァの戦いに揺れる東ローディア】

(3ヶ月に及ぶことになるこの戦いも大規模であるが故に、その総ての日と夜が戦いだけに費やされたわけではない。)
(日々塗り換わっていく互いの勢力範囲を固め、相手の手を探りあい、そしてすでに数ヶ月以上行軍を続けている)
(兵士達を食わせ続けなければならない。およそ大部分の時間がそのために費やされた。)

(そんな緊張感の解けない、凪の中に居るようなある日のことだ。)
(六稜軍の陣の上をにわかに強い風が吹き抜けて、陣幕を揺らした。)

(最前線。ひとまず前線拠点として制圧したレムザに、一陣の強い風が吹く)
(すわ、砂嵐か、それとも西の魔術かと身構える)
……何事だ? -- 宗爛

(目の前に現れたものは見上げるほどに巨大なのに、あまりに素早く急降下してきたため。)
(ほとんどだれも気付けなかった。地面スレスレで広がった翼が突風を巻き起こす。)
(蒼く輝くその身体はまるで晴れ渡った空が雫を落したようだった。)
 (六稜の兵が突然現れたシャツァルを見上げるなか、それが飛爛の翼であるココロアだと)
(気付けるのは、幼き日にその背に乗ったことのある宗爛だけだろう。記憶の中にある姿より)
(かなり大きくはなっているが。)
宗いるー?
(そして鳥の大きな背中から、ひょっこりと顔を出した黒髪の少女は、昔の姿からあまり変わって)
(居なかった。) -- 飛爛

(兵士たちが怯えるなか、一歩前にでる)
(忘れようはずもない。ココロアに「久しいな」と小さく声をかけながら一歩前に出て、膝を突いて迎える)
……お久しゅうございます。姉上。ご健勝なようで何よりです
(6つ目の仮面をつけたまま、自分よりも位階が上の姉に恭しく挨拶をする) -- 宗爛

(軽い足音、巨鳥の背の上から重さを感じさせない跳躍で地面に降り立つ飛爛。相変わらず高所恐怖症とは無縁なようだ。)
ええ、あなたも無事でなによりです。
(型どおりの礼をする宗爛に、部下の目もあるためか、簡略ながら礼を返す。)
(その横を太い首を伸ばしてココロアが頬を宗爛に寄せてくっくっと喉を鳴らした、そこで限界だった。)
あはぁっひっさしぶりぃー!すっかり声がわりしちゃってもー!
(ココロアの反対側からおもいっきり抱きついていた。) -- 飛爛

ありがとうございます……それもこれも姉上の前線での働……ごふっ!?
(突然抱き締められ、もがく。仮面をつけているせいで息が上手くできない)
もごご!? あが……(がくり)
(相変わらずの虚弱体質) -- 宗爛

・・・おおぅ
 (飛爛の細腕にホールドを決め込まれ、ダウンした彼の名誉のために一言そえるならば、)
(簡単な命綱と取っ手だけを頼りに巨鳥の背に乗り、激しく3次元機動するシャツァル兵は、)
(たとえ小柄でも腕力は相当なものになり、それはこの王女にしても同じことであった。)
(それでもいささか、あっさりフォールされすぎではあるが。)
ご、ごめっ大丈夫!?そのお面外したほうがいいよ、息苦しそうだよ?
(あわてて腕を離す飛爛、すぐよこで、ココロアが笑うようにクァッと嘴を開いた。人の頭が豆粒みたいに)
(咥えられそうなでかさだった。) -- 飛爛

(あっさりと仮面を外され、なんとか息を吹き返す宗爛)
……ぜぇ、ぜぇ……ふぇ、飛姉……兵もみています……ひとまず、こちらへ……
(なんとかそう平静を装い、陣幕の内側を指差す)
(部下たちに軽く人払いをさせたところで、何とか落ち着いた)
……はぁ、『本当に』お変わりないようでなによりです。姉上
今日はどんな御用向きで?
(外れた仮面の下の顔は、幼い頃の面影を残してはいるが、大分男らしいそれにかわっていた) -- 宗爛

へっへっへ、シャツァル乗りは小柄な方がいいんだよ、下手に大柄だと振り回されて落っこちちゃうからね!
(宗爛を見て、大分男らしくなってるけど・・・線が細いのはあいかわらずだねぇ。などと笑う飛爛自身、もっと肉食え)
(胸が育たんぞと言われそうなほどの少女体系でよく言うものである。)
まぁ用ってほどのことはないんだ、最近はうちらの実力も認められたのはいいけど
偵察してこいとか伝令やれとか、いろいろ鳥使い荒くて、今は総司令部様のお使いの帰り。 -- 飛爛

ふふ、つまりは不肖の弟の様子を見に来てくれたというわけですか……ありがたい限りです
(在りし日と同じ笑顔を姉に向けるが、総司令の話がでれば少し顔が曇る)
第五皇子……玄爛様、ですか
余りに高位のお方ゆえ、あまりは話はききませんが……姉上と私の武功両方が届いているのならありがたいことですね
今は苦労しても、いつかは中央で安寧に暮らせる日が来ます
(姉の胸中を知ってか知らずか、そう呟く) -- 宗爛

私も直接あってるわけじゃないけどね
 (苦笑い。いかに飛爛のシャツァル部隊が驚異的な戦力をもたらしていようと、宗爛が武功を立て、)
(東ローディアの街を帝国の統治下に加えようと。しょせん、どちらも外様の王族でしかない。)
(その行き着く先はおのずと見えていた。)
・・・私、たぶんもうあの場所には戻らないと思う。
 (あの場所、とは帝都爛京のことだろうか。それなら、今は彼女は遥か南の辺境地、華桌を預かる身である)
(それも当然かもしれない。)
宗は・・・爛国が好き? -- 飛爛

(一瞬、姉の問いに対する返答に窮するが……この姉に嘘をついても仕方が無いことは分かっている)
(しかし、どこで兵を聞き耳を立てているか分からない、手前その言葉を口にすることはできない……故に)
……姉上の御想像通りかと
(どうとでも取れるが、飛爛には意味の伝わる言葉で答える)
(互いに見詰め合えば、もうそれで分かる)
(互いの言いたい事が、それで概ね) -- 宗爛

そっか
 (飛爛は笑った、そう彼女はよく笑う、笑顔だけで喜怒哀楽全部表現できるのではというくらい。)
(この時彼女が見せたのは、なんだか泣き出しそうな笑顔だった。)
うん、宗はすっごくがんばってると思う。空からね、街の様子とか見てたんだ。
 (宗爛が大爛帝国の範図に加えたレムザの街は、征服から2ヶ月余りにも関わらず、実によく栄えている)
(同時にその周りに広がる、死か、恐怖を捧げた恭順の2択を迫る帝国式の戦いの跡も見下ろした。)
 (飛爛が今日ここに降りたのは、昔を思い出したかったからかもしれない。)
(彼女自身、姿こそ昔のままと大差なかったが、もう幾度も戦場でココロアの爪に命を握り潰させてきた。)
(さらに、この時すでに彼女の心にはもう帝国への忠誠は無く・・・。)
 (それでも、まだどこか決意とやさしい記憶の中で揺れていた彼女は。自分の心を確かめるように)
(ここへ来たのかもしれない。) -- 飛爛

(飛爛のその笑顔を見た瞬間……抱き締めたい衝動に駆られる)
(なんて、なんて哀しい笑い方をするようになってしまったのかと)
(その笑顔を今強いてしまった自分に苛立ちを覚えつつも……同時に彼女のハラも理解していまう)
(彼女は……本気だ)
(昔から変わっていない。変わっているのは覚悟と、笑顔だけ)
(いつのまにか傍らに近寄っていた黒咲が、飛爛に寄り添う)
……なぁ『飛姉』……
他に生き方は……なかったのか? -- 宗爛

(黒咲のあごひげに額をあて、その頬をやさしく撫でる飛爛。彼女達が顔を合わせたのはまだ黒咲が)
(ほんの子山羊の頃であっただろうが、ココロアが宗爛にそうしたように、黒咲もまた彼女に優しかった。)
・・・・・・・・・あったと思う、たくさん。
(互いに、動物感応能力が特別高い者同士でしか成立しない会話だった。)
(宗は幼い時より、生まれつきに。飛は、彼の持つ特別な力の事を知って後に。)
 (言葉にせずとも、偽ろうとさえしなければ、なんとなく思っていることは分かるのだ。)
でも、これはあなたが悪いんじゃないのよ
(大きく息を吸って、彼女は笑った。)
宗、私はね今よりも、もっともっと・・・幸せに生きられる人達を増やしたいの。
(すっと胸に自分の手を当て、ながら彼女は続けた)
人は足元じゃなくて、ここに故郷の土を持てば、ずっと自由になれる。
大地に引いた線の右と左で、憎みあったり奪い合ったりしなくていい世界は・・・作れるよ
隣人の死を笑わずに泣き、豊穣のときも飢える日も、そしてその命を空へ返す日まで。
供に笑いながら、生きる術を私は・・・ううん、私達カタクァは知ってるから。
(今度は、明るく笑っていた。その言葉の真意を知るものが聞けば明らかに反乱の意図を)
(知れるだろう、だが、その時彼女は何のためらいもなくその心を見せた。) -- 飛爛

(胸が、熱くなる。目頭が、熱くなる)
(姉は、之ほどまでに気高い我が胎違いの姉は……)
(その身が血に塗れても、その名誉が泥に塗れても)
(何も変わっていなかった。自分の知る優しく、そして気高い姉のままだった)
(しかし、だからこそ……それゆえに)
違う……

そんなものは幻想だ

(そんな絵空事には、賛同できない)
飛姉……貴女は強く、美しい。見栄えだの体躯だのではない
その魂が、その心が、その生き様が……美しい
(紅い瞳が揺れる。毒を孕み、濁りきった瞳)
故に、理解していない。地を這う者共の現実を。その醜さを
(そこに光はない。あるのは闇。影。世界が彼に見せ続けた、景色の写し身)
世界の幸せの総量は決まっている。故に、人は限られたそれを奪いあって生きる他ない
あなたのような翼のある鳥には、地を這う事しか出来ない毒蟲を理解することはできない……遠見の幸せを手にすることはできない
……俺はそれを何度も「父」に教えられた。一言も語らず、一目と見ることの叶わない父に。何度も……何度も!
(仮面を、付け直す。6つ目の仮面を。六道の辻より出ずる、異形の鬼を模した面を)
……夢を語るのも、夢を見るのも結構だ
だが、貴女は皇女だ
忘れるな。支配者の夢は、貴女の夢は民に伝播する
伝播したその夢は……民を殺す。甘美なその悪夢に人々は群がり、理想という名の毒に侵されて死ぬ

砂漠で必要なものは確かに地図だろう。だが、今目の前で餓えている民に必要なものは水だ

……ご自重なされよ飛爛。我等の生きる内に、貴女の見る夢が熟す事は無い -- 宗爛

・・・・・・・・・うん、わかってる
 (弟である宗爛の言うことは何も間違ってなどいなかった、そうだこの世界は一握りの希望と、)
(望んだが故に生まれる大多数の絶望と諦めの上に成り立っている。)
(総ての人間が幸せになれば、人は自分が幸福であることを自覚できなくなるだろう。)
 (だけど、彼女はそれを受け入れる気にはならなかった。そもそも、昔を懐かしんで仲の良い)
(姉と弟として、会いたかったのなら、こんな話はしなければよかったのだ。宗爛のことを仲間に)
(できるという確証があったわけじゃない、それどころか、彼が帝国民として務めを果たせば。)
(命取りになりかねない。それなのに、飛爛にはそんな打算を差し挟む気すらおきなかった。)

 (飛爛は宗の辛そうな顔を見過ごすことはできなかった。)
(そうだ、あの日も彼女はただ・・・高い壁に囲われておびえている彼を見て・・・)
私はね誰もが願いながらも言葉にできなかった、最初から諦めてた夢を、
多くの人が私に託してくれなければきっと、夢を見る事すらできなかった。
 (幼い子供が声を上げて泣くことすら許さないあの冷たい壁を作った世界を許せないと思ったのだ。)
理想に命をかけられる人が少ないのと同じように、非情なままで生きていける人間だって多くは無いはずだよ
 (大儀や野心なんて関係なかった、あの日の幼子と同じように、涙すら仮面で隠さないといけない)
(のがこの世界なのだとしたら・・・間違っているのは、世界の方だと、飛爛はそう確信した。)
私は自分が皇女だからとか、あるいは王様だから、なんとかしようって思ったんじゃないんだ。
みんなが願っていることがあるのに、誰もそれを叶えようとしないのを納得できなかっただけ。
生きてる間に総てを叶えられなくても・・・困ったときに、助け合うよりも奪い合いを当たり前の
ように選ばせる世界はおかしいって、気付かせることはできるかもしれない。

 (長い言葉だった、一息で吐き出してしまってから、ふっと飛爛は笑った。)
それにね・・・私に翼は生えてない、ココロアが居なければ空を飛べない。
私は特別な何かなんかじゃない、あなたと同じように、この地上を悩みながら、苦しみながらそれでも
懸命に生きている人間だよ。 -- 飛爛

だからといって、そんな理想の人柱に、貴女がなる必要はないと俺はいっているんだよ!
(声を荒げ、叫ぶ)
(心の底から、懇願するように)
……今の話は、聞かなかったことにしておきましょう
姉上……個人の力で世界は変わりなんてしない。国も変わりなんてしない。変わるとしたら……それはゆっくりと、多くの人々の痛みと嘆きによって変わるものだ……
(踵を返し、陣幕を出ていく)
……お帰りください、姉上。そして、もう一度よく考えて下さい
……全てを忘れて生きる道もあれば、1人の女として生きる道も貴女にはあるのです
ですが、そのままその道を進むのなら……いつかはこの宗爛と刃を交える事となるでしょう
……不肖の弟は、その日が来ないことを切に願っております -- 宗爛

ありがと、宗は・・・やっぱり優しい子だね。
 (出入り口の覆いを押しのけて、真夏の強い日に影を落す背中に飛爛は静かに声をかけた。)
(人柱ということ、なるほど、誰か他の人間が理想を掲げるのにちょうど良い旗印が自分だったから、)
(担ぎ上げられたかもしれないという事を飛爛は今まで考えすらしなかった。)
(彼女が弟のことを想うように、彼もまた自分を想ってくれたのだと分かると、思わず、ありがとうと言っていた。)


(黒咲を最後に一撫でして別れを告げると、彼女もまた陣幕の中を後にした。)
(僅かな間に色々と考えが頭をめぐった。一番笑顔にしてあげたかった相手に、そんな事をしても)
(絶対に不幸になるだけだと、泣きそうな顔で怒られてしまった。)
 (だけどもう止められはしなかった。この時すでに、爛国内で相次いだ反乱の折、難民となったもの達を)
(カタクァは多く抱え込み、棄民をも手厚く救済してくれるとの噂は方々に飛び。予想を遥かに超えた数の)
(民がその地へ流れ込んでいた。)
 (帝国へ対する怨嗟と新天地への渇望は極限にまで高まってしまっていたのだ。もうその圧力を止める)
(術を誰も持ち合わせていなかった。)


 (飛爛をその背にのせるため、身体を低く伏せたココロアの鞍に足をかけながら、彼女は仮面をつけた)
(宗爛をじっと見つめた。何があっても、彼だけは決して傷つけたくないと思った時、ふと突拍子もない)
(言葉が浮かんできた。でもそれは、飛び切り素敵なようなことにも思えて、思わず・・・。)
ねぇ宗、私をお嫁さんにしない?
(その場にいる誰の頭上よりも高いところにあるココロアの翼が広がった、鮮やかな蒼い羽が)
(真夏の陽光を受けてよりいっそう強烈に輝く。その背で飛爛はとびっきりの笑顔で笑っていた。) -- 飛爛

(優しいといわれて、静かに首を振る)
(優しくなんて、ない。自分はただ……自分の手が届く場所にある幸せを、手放したくないだけだ)
(例え、多くの民が不幸になろうと)
(自分の民と、自分の愛する者達が幸せなら、自分はそれでいい)
(その為に世界のその他全てが不幸になるというのなら、喜んで彼らを不幸にしよう)
(世界の幸せの総量は決まっている。だったら、自分の為に全ての幸せを奪えばいい)
(かつて、世界の全てが自分にそうしてきたように)

(彼女を取り巻く環境も、きっと俺と同じなんだ)
(きっと、俺のように幸せを奪いたい誰かが彼女の傍にいて)
(きっと、彼女を……飛爛を不幸にすることで、幸福になろうとしている)
(もう、その歯車は回り始めている。だからこそ、彼女は俺にまで謀反の話を持ちかけた)
(……そうせざるを得ないところにまで、愛する姉は追い詰められた)

(なら、いいだろう)

(お前たちが、俺から姉を奪おうというのなら)
(お前たちが、俺から母を奪ったように)

互いに生きて帰れたならば、その時にこそ喜んで

俺は、お前たちから幸福を奪ってやろう
(誰の笑顔が曇っても良い。だが、俺から、俺がが笑顔でいて欲しいと思う者の笑顔を奪うというのなら)

(俺は一辺の容赦もしない) -- 宗爛

あっはっは、冗談よ!
 (とびっきりの笑顔のままで彼女は言った。)
(何を考えているのかまでは分からなかったが、とても強い決意で彼がそう言ったのは分かったから。)
(あわてて、びっくりするかなという予想がはずれて、それがうれしくもあり、同時に寂しくもあったけど)
(それ以上に張り裂けそうな程に張り詰めたその心の気配が心配で。)
でも生きて戻ったらなんて、死亡フラグみたいな口説き文句はダメだと思うの
お嫁さんっていうのは、幸せで幸せで、幸せの絶頂にいるときになるものだって、誰かが言ってたわ。
 (ばさりっとココロアが羽ばたいた、風が吹き抜けていく。)
困ったことがあったら、いつでも頼っていいからね、私とココロアがいつだって飛んでいってあげるんだから!
 (羽ばたきが強く繰り返される、吹き荒れる風が目を開けているのも辛いほどになった瞬間。)
(地面を強く蹴ったココロアの蒼い体は宙に浮いていた。)
(普通は滑走するか断崖から飛び降りなければ飛び立てないシャツァルの巨大な体が、重力の束縛を)
(断ち切ったように浮かんで、飛んでいった。あとには、砂塵を吹き飛ばした風だけが残っていた。) -- 飛爛

でしょうな
(悲しみを秘めた姉の顔を見て、そう仮面の下で笑い返す)
(半ば本気で言った言葉に対して、わざと茶化して返してくれる)
(心配してくれたようだ。でもそれでいい)

なら、宗にとっては姉上が生きていてくれることが幸せです
何も違いはありませんよ&br
姉上も、お困りの際は弟を頼ってください
くれぐれも……お1人で無理はなさいませんように

(そう、暗に釘をさして見送る)
(大空を舞う、ココロアが見えなくなるまでずっと)

……空を舞いながらも、鎖は既にその首についている
……理想という名の鎖が……

飛姉、どうかご無事で -- 宗爛



 



 



 



 



 


Last-modified: 2014-10-24 Fri 05:44:37 JST (2527d)