企画/叙事詩
 
 
 



 


 


 

 

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【 黄金歴224年 バルトリア平原 】 
(地上を埋め尽くすのは黒い人だかり、剣戟が火花を散らし槍が腹を割く。大混戦だった。)
(ほんの少し前まで、圧倒的に帝国軍が優位であったのに、今は敵も味方も入り乱れてしまっている。)
(別の巣穴の蟻同士が総出で戦っているようだった。統率された陣はなく、切り結びあう歩兵を)
(敵味方の区別も付かないままに騎馬、騎獣、蟲が蹴散らして回る。)
(混乱に支配された地上を眼下に見ながら飛爛は飛んだ。)
(ほんの少し前に、快進撃を続ける帝国軍前線部隊の背後に伏兵が現れた、本当に突然に、しかもそいつらは)
(岩のように巨大で、怪物じみて強く、あっという間に戦線をめちゃくちゃにしてしまった。)
(さらに最悪だったのが奴らの現れた場所だ。そこは常に帝国軍の後方に陣取り)
(続けてきたカタクァの陣地だったのだ。奴らの名は後にこう記されることになる『柱の騎士』と。)

投下弾は全部捨てて!火槍も半分だけでいい、身を軽くして全力で戻って!!
 (後方でおこった緊急事態に際して、飛爛は飛行部隊を総て後方へと転進させた。)
(巣へと舞い戻ったシャツァルの飛行部隊を待っていたのは、上空から見下ろしてもなお巨大にそびえる)
(異形の怪物に取り囲まれたカタクァの陣地の姿だった。)

これは……(これはなんだ。竜といいこいつらといい、自分の兵器としての質を疑ってしまう。生まれつき強いなんて卑怯だ。だが今はそれを嘆いている時ではない)
……囲まれたか(見れば分かるが再確認せずにはいられなかった。出来れば1体ずつ出てきて研究の時間を与えて欲しいと思った。
突如現れて戦を乱した新たな勢力、どのくらいの威力で叩けば倒せるのか見当もつかない。それでも、自分は)
……様子でも、見てこようか?
(自分は兵器だから、暫定的とはいえ所有者の力にならなければならない。攻撃を仕掛けてみれば硬さくらいは分かるかもしれない) -- フェロミア

全力で撤退だよ!フェロミアも手伝ってー!
(急降下したあと、頭の上を撫でるように旋回する飛爛とココロアの前に)
(ゴミ山が人型を成したような怪物が振り上げた拳の影が落ちる!)
(飛爛が鞍のよこにある取っ手を引く、点火装置が火花を散らして、ココロアの胴体に取り付けられた)
(弾帯から10本、火花の尾を引lきロケット花火の勢いで火槍が飛び出した。)
(ほぼ90度に急上昇して怪物の拳から逃れる飛爛達。ココロアの青い尾羽を掴もうと怪物がさらに)
(腕を伸ばした瞬間、特大の爆竹が一斉に炸裂した。腋の下と胸にかけて、火槍を突き刺されて)
(居た怪物は上半身を大きくえぐられ、大きな振動を起こしながら片腕を地面に落とした。)
(だがまだ奴は生きていた。いやそもそも生き物なのか不明だから、奴は動いていた。)

そいつらだけじゃない!連合の兵士がだんだん集まって押し返して来てる!
地上部隊と一緒に後ろへ下がって!こいつら私がなんとかするから!
(空を行けるシャツァル兵と違って、混戦の中では脆い歩兵部隊の保護をフェロミアに頼みたい)
(というのも本音ではあったが、とにかく安全な場所へさがるように飛爛は指示を出す。) -- 飛爛

シャツァルを空へ上げろ!一羽たりとも死なせるんじゃないぞ!荷物は全部捨てて行け!
爆薬は支柱を外して化け物供の方に転がしてから火矢を放て!あいつら足は遅いぞ!いそげいそげ!
(飛爛の家臣であるクラトも怪物たちの間を縫うように低空で飛びながら、地上へと指示を出す。)
(地上で待機していたシャツァル達が羽を広げて、次々に滑走をはじめる。その背に飛び乗ったり)
(あるいは地面から飛び上がって足に捕まって運んでもらう地上部隊の兵士達。)
(しかし3000人以上も居るとなると、圧倒的に鳥が足りない。ほかの大部分の兵士達は)
(一塊になって、頭上を舞う飛爛達の飛行部隊が退路を開いてくれるのを待つよりなかった。) -- クラト

―これ、は……(目の前で圧倒的な力を持って歩兵を蹂躙する巨人を目にして思わず動きが止まる)
これは、ゴーレム……?いや違う。ゴーレムがこのような―っ!?
(思索を巡らせる暇も無い。ぼやぼやしていると足元ごと巨大な手で抉られてミンチになってしまいそうだった)
(事実、逃げ遅れた者達は既にあちこちで鮮血の花を咲かせている)今はとにかく、撤退することが先決か…!
(連合軍も息を吹き返して今が好機と反撃に転じてきている) -- 那岐李

撤退か……(無表情に柱の騎士を見上げて呟く)
仕方ないな、こりゃ(彼我の戦力差は圧倒的にも程がある。生きてるのかどうか知らないが、先ほどの火槍の一撃を見ても今の戦力では殺しきれないであろう事は明らかだ。)
殿は一番辛いんだけどな、と(だがそれゆえにやりきったときはさぞいい評価が下されるだろう。地上部隊の後ろに一人降り立ち、鎧から突き出す杭で体を地面に固定する)
(柱の騎士たち全てを射程に捕らえ、動きを待つ。
一人で敵を引付けようと言う飛爛の方も援護しなければ、どうしても動きの鈍る地上部隊を守る任務など果たせまいと判断した結果の行動である) -- フェロミア

ちょっ、フェロミアー!?
(その場に踏みとどまるフェロミアに飛爛が驚いた声をあげると同時にココロアは羽を畳み、)
(ダーツの矢のようになって歪な巨人…柱の騎士の頭上をすり抜ける、尾羽を巨大な斧が掠めていった。) -- 飛爛

(爆薬のあげた煤煙の向こうに一体、また一体と巨大なシルエットが湧き上がる。)
(状況はいよいよ逼迫してきた、早く巨人の垣根の間に抜け穴を穿たなければ、全員ぺしゃんこに)
(されてしまいそうな威圧感だ。高速道路で4方向をトラックに囲まれた時の圧迫感にそっくりだった。)
(この時代に車はないが。)
 (それに立ち上がった柱の騎士達の木の幹のごとく太い腕に、城壁の柱のごとく堅牢な脚に)
(いいや、動くたびにうめきにも悲鳴にもにたその鎧と死体をかき集めて出来上がったからだ総てに・・・)
(ありとあらゆる武器が生えだした。人型の針刺しのようだった。)
 (唸りにも恨み言にも似た音を全身から垂れ流して、フェロミアへむけて巨人は包囲をせばめていく)

(呼びかけには応えずバイザーを下ろす。どいつを狙うのが今、一番効率的なのか……まずは手負いの騎士に狙いを定め、鎧のサイドを翼のように広げた)
(未だ弾の生産が叶わず封印されていた武装、推進式爆筒装填管。
そこにオーバーテクノロジーの産物の代わりに鳥からでさえ発射できる火槍を詰め込んでいた。逃げる兵士が捨てた物を回収し適当に放り込んだだけではあるが)
……行け(声とともに、武具結晶の力で着火された火槍が真っ直ぐに飛ぶ。
飛ぶ事を考えず詰め込んだ結果飛爛の使った数の倍以上を一度に発射する事になった。固定された体がほんの少し後方に下がる)
(狙ったのは飛爛を追う柱の騎士の柱の部分、人の体で言うなら足。他の連中が包囲を狭めてきているのは分かっているが、足止めくらいは今の武装で出来ると言う事の証明が欲しかった。
「武装」し近付いてくる敵の威圧感をひしひしと肌に感じる。だがこれでいい、殿を務めるとはこう言うことだ。)
逃げてろよ(後方を確認して地上部隊の撤退の様子を確認しておく。戦いにだけ集中できないのが辛いところだ) -- フェロミア

あのヒレあんなことできたんだ!?ありがとーフェロミアー!
(火槍を作った自分達よりもずっと効果的に使いこなすフェロミアの姿が、
(強烈に飛爛の脳裏に焼きついた。かけた声はいつもと同じく軽かったけれど)
(獲物を狙う猛禽類のような空色の瞳で見ほれていたかもしれない。)

(ココロアが地面スレスレを掠めて飛ぶ、湿った土すら風圧に跳ね飛ばされて泥の雨となった。)
(槍ふすまになった腕を巨人が振り落とす、だが、青い羽にはかすりもしない。)
(羽ばたきがさらに泥を舞い上げて、飛爛と鳥が巨人の頭上に舞い上がった。鉤爪に二つ)
(見事に爆弾を抱え上げていた。投下、落下をはじめた瞬間、爆弾の支持架にある点火装置に)
(火が付いて、支持架が弾け飛んだ。そのまま爆弾は地面に落ちて転がる・・・不発かと思われた)
(その瞬間、2〜3体の巨人を巻き込んで爆炎を吹き上げた。) -- 飛爛

(展開した鎧を畳み、杭を引き抜く。どうやらそれなりに効果はあったようだ、と一安心。こう言う道具を使えば自分の継戦能力もカバーできるか)
(飛爛の方にちらりと視線を投げかけた。得意げではあったが誇っているというよりは褒められるのを期待しているような目。見事投げられたボールをキャッチした犬のような)
(そんな目付きは一瞬で消え、飛爛の戦い振りを鋭い視線で観察し始めた。あの爆弾も使えるな、と思いつつ次の行動に向けて準備を始める)
(爆薬。誤れば我が身を焼く程に強力な武器。使用後に漂う何故だか懐かしい香り。)
(次に取り出だしたるは大きく長い筒。武具結晶の魔力を凝らして作った礫を撃ちだす為の道具。出来れば奴らの中心部がいい、先ほどの飛爛の爆弾投下によって出来たであろう亀裂に向かって一発。)
(命中から一呼吸置いて魔術的な爆発が起こった。火薬に比べればとても小さく可愛い物だが、亀裂深くに潜り込んでいる事がその威力を高めるであろう。殺せるかどうかは分からないが) -- フェロミア

(泥人形の巨人がメキメキと枯れ木の折れるような音を立てながら、泥人形さながらに)
(形を失っていく。崩壊の中心は巨体に開いた大穴だった。)
(飛爛が散々、戦に用いるのをためらってきたのがまったくバカの所業のように、)
(フェロミアはその機能を存分に発揮して、歩兵部隊を襲う巨人達の包囲を着々と切り崩していく。)
(総大将である飛爛直属のシャツァル兵達も精鋭の名に負けじと、飛爛、フェロミアに続き)
(各々の騎鳥を操って、奇岩谷間のように不気味な巨人が林立する地上めがけて羽ばたいた。)
(急降下しざまに爪で巨人の頭を蹴りつけ、地面に転がった爆薬を拾い上げて爆撃していく。)

(空からの助けを得て散り散りになりかけた歩兵達もようやく開き始めた活路へめがけて)
(駆け出す、この死の谷間から抜け出せるのも後少しだ・・・その矢先。)
(矢が飛んだ、撤退するカタクァ軍の後方から、大混戦を抜けて、連合国軍が連携を取り戻しながら)
(迫ってきたのだ。巨人達の足元をすり抜けて、鉄鎧の兵士があふれだす。)

高度を取れッ!!散開ーッ!!
(飛爛が叫ぶ、巨人の相手をするために低空を旋回し続けていたシャツァルの飛行部隊は)
(このままでは格好の的になってしまう。)
(再び無数の矢が放たれる。数十m後方から山なり黒い豪雨が飛爛達めがけて降り注ぐ!)
(数十羽の鳥の群れはサッと旋回、急上昇し、矢ふすまの隙間を縫って難なくかわしていく)
(飛爛自身も他の鳥よりも大きなココロアを巧みに操り、かすりもせずに、空へ舞い上がる。)
(すでに幾たびの戦いを潜り抜けてきたシャツァル兵達だ、この程度の弾幕は軽いものだった。)
(だが・・・敵の矢とて決して無為なものではないのだ。)
(飛爛の横を飛んでいたシャツァル兵の一人が首を射抜かれ、命綱で鞍に縛り付けられたまま)
(空へと血を撒き散らした。搭乗者の異変に巨鳥がしきりに背後を気にして、ヨタヨタと)
(低空でふらつき始め、それを狙って連合軍の兵士の弓矢が再びギリッと引き絞られた。)

(火薬が弾け飛んだような音が鳴り響く、それは飛爛の乗るココロアの羽が激しく大気を打った)
(音だった。ムチの先端が音速を超えて破裂音を発するのと同じ原理で、巨大な翼が一瞬で180度)
(翻った一瞬に蒼く輝く風切り羽の先端が音の壁を越えたのだ。)
(編隊を組むだれよりも早く、空中を足で蹴るように急転回した飛爛とココロアは)
(上空より斜めに一直線、連合軍の弓隊の真っ只中に突っ込む。)
(弓兵が上空から突進するその影に狙いをつけなおした時にはもう遅く、巨大な鉤爪は一度に)
(5人の兵士の頭を握りつぶしていた。)
(上あごから脳天を鉤爪に貫通された体が、後続の兵士達を押し倒しながら宙へ持ち上がる。)
(途中で首の骨が折れてちぎれた体が地面に落ちて、その遥か後方へ首が投げ落とされた。)

(持ち主が認識に至るかどうかはともかく、バイザーは周辺の状況を捉えている。固体識別は出来ないまでも、飛爛とココロアの所在は動きで大体把握できた)
(射落とされる鳥達を見ても分かる、彼ら飛兵は機動力はあれど防御力は生身に過ぎない。持ち場を離れてでも助けに行くべきか、彼女らを信じて地上部隊を逃がすべきか。逡巡しつつもその銃口は柱の騎士の足止めに徹した。)
(いくら強くとも1対多数ではいつか疲労し隙が生まれ、そこを突かれる事になろう。それはこちらも同じではあるが……弓兵の陣に切り込む飛爛と地上部隊を援護し殿を務めるフェロミア。両者の距離は刻々と広がっていく一方であった) -- フェロミア

(襲撃された兵士達が飛び去った鳥の背を撃とうと振り返った時にはもうすでに鉤爪が迫っていた。)
(飛爛と鳥が振り子のように速度を落さないまま何度も兵士達の頭上を往復するたびに血しぶきがあがる、)
(ほんの僅かの間に何人蹴り殺されただろうか。ココロアの鉤爪と青い腹の羽毛が真っ赤にそまっていた。)
(取り残された編隊が遅れて飛爛の元に舞い戻る。ようやく気が済んだかのように飛爛はココロアを)
(羽ばたかせて敗走する自軍の方へと騎首をまわしながら編隊へ戻った。)
(もし仲間が来なければ皆殺しにするまで続ける気だったのかもしれない。)

(大きく突出してしまった飛爛を含む数羽が陣形を立て直そうと高度を上げ始めた。)
(突然それを遮るように地面から何かが突き上げる!それは新たな柱の騎士、まるで地の底から沸き上がる)
(ドス黒いヘドロの噴水、空へと突き出したその異形の拳を突き破って、巨大なバリスタの矢が飛んだ!)
「うわっあ!!」
(目の前に突き出した杭に驚いて、飛爛の横を飛んでいたシャツァル兵が思わず急制動をかけた。)
(失速する、巨体を飛ばすだけの速度を失った鳥が急速に巨人の上へと落ちていく。)
「羽ばたかせて!!」
(速度を失った鳥が墜落する寸前、ココロアがその後ろを押した。他の鳥よりも二回りはデカイ体が)
(仲間が落ちるのを防いだ・・・しかし。)
「・・・あ、やばッ・・・ 」
 (飛爛の目の前に、無貌の顔を覗かせる異形の巨体・・・、衝突をとっさに回避したときには遅かった。)
(翼はあっという間に揚力を失って、落ちる勢いそのままにココロアは地面を走るはめになる。)
(着地の衝撃で、小さな飛爛の体はゴムまりのように鞍の上を跳ね飛んだ。)
(地に引きずり落とされた獲物を狙って、背後には連合軍の兵士が、そして前には柱の騎士がその)
(威容を林立させていた・・・。)

(油断していた訳ではないし、柱の騎士の事を忘れていた訳でもない。唯一つ、人間とは他人を助けて自分が無防備になる事もあるものだ、と言う事を忘れていた)
(以前ならこう言う時……そう、例えば少女が巨人の攻撃を受けて地面に叩き付けられた様な時。助けに行っても助かる見込みはないとか、危険を冒す程の価値はないとか、そういう判断をしただろう)
(今回は違う。まだ答えを得ていない。暫く一緒に過ごした者と戦うリスクを背負ってまで飛爛についた目的はまだ果たされていなかった。もしかしたら、そんな事がなくてもこうしたかも知れない)
退がれよ、走れ!(地上部隊に発破をかけ、自分は飛爛の方へ走る。きっかり12歩走って今度は跳ぶ。走っている時に既に位置を変え始めていた鎧がフェロミアを包み、戦場の空気を裂く様に鎧が象った金属の鰭が空を翔る)
(低空飛行からほぼ直角に急上昇。我と目標の間を阻む巨人の注意を引き、人が羽虫を追い払うように振られた巨大な腕をすり抜け、その頭上を越える)
(それと同時に地面に向かって急降下をかけた。地上を見下ろして飛爛を発見すると、効果角度を微調整した後に鎧を戻し、先ほど一体の柱の騎士をしとめた筒を構える)
(今回の相手は亀裂はない。この一撃で倒せる訳もない。だが怯ませられればそれでいい。何処で物を見ているのか、見ているのかどうかすら分からないが、振り向いた巨人の顔面と思しき位置に向けて一発の爆裂弾を飛ばす。恐らくそこで何かを感じ取っている可能性が高いだろう。数少ない条件から引き出した計算の上では、このまま自由落下すれば飛爛の近辺に落ちるはず……大きく腕を広げて目を閉じた。不慮の風などを感じ取って早く対処するために。)
(神頼みはしない。だが、背中から落ちていく少女の姿は地上に大きな十字架の影を落とした) -- フェロミア

(飛爛の頭上でぐらりっと巨大な影が傾いだ。頭をから煙を吐き出しながら巨人が仰向けに倒れていく。)
(そのさらに上にシャツァルとは違うシルエットが浮かんでいた。鋭角なウロコを連ねたその装甲は)
(ともすれば無機質で刺々しい印象を与えるが、その時飛爛の目には風に舞う綿毛のように見えた。)
フェロミア!どうしてこんなところまで・・・危ないよ!戻って!
(地上ではほとんど役に立たない翼でバランスをとりながら、鍵爪がステップを踏んだ。)
(飛爛は空から舞い降りてきたフェロミアに並ぶよう向き直る。) -- 飛爛

(地面が近付くと一旦空中でホバリングし、落下速度を殺して着地する。大きく広がっていた鎧が閉じて、綿毛から元の鉄の塊に戻る)
それは私より危なくない時に言え(バイザーをあげ、いつもの無表情で向き合う。無表情なりに安心はしている様であるがあまり深くは読み取れない)
(短い会話を勝手に打ち切ると周囲の状況を伺う。あちらの敵は多い。そしてこちらのは大きい。逃げるにしろ戦うにしろ、こちらに有利な点があるとすれば……)まだ、飛べる?(飛爛とココロア、双方に投げかけられた言葉。再び空中戦に洒落込もうと言う提案らしい) -- フェロミア

(フェロミアは無表情でぶっきらぼうないつもの物言いだったが、無事でよかったと言われているような気がして、)
(飛爛は感情に任せて飛び出したことを一瞬だけ後悔した。)
(バイザーをあげるフェロミアにあわせるように、飛行帽のゴーグルを上げた。)
大丈夫、翼も足も無事だけど・・・
(思わず言いよどむ飛爛、再び迫りつつある敵勢をにらみながら、あせりが顔に浮かぶ。)
(体が並の鳥の比ではないシャツァルは一度地面に下りてしまうと、再び離陸するのは難儀だった。) -- 飛爛

……助走がいるのか(高い所から滑空するという手もあるのだろうが、時間のない時にこれは痛い。だがこの鳥を置いていく事など飛爛は許さないだろうし、今後の戦況にも影響するだろう)
(そうなると手段は一つ、あまりにもそのまますぎて作戦とすら呼べないが)なるべく早く飛ぶ準備をして。時間は私が何とかする
(何とかするとは言ったもののどうすればいいのか。弓兵の方が相手をしやすい、と言うか矢を何とかしないといけない気はする。) -- フェロミア

なんとかって・・・!
(しかし、言い争ってる時間がないのだけは明白で。)
・・・・・・・・・わかった、すぐに上がるから!
(あたりの空気を押しのけるように蒼く輝く翼が広げられた。フェロミアに背を向けると首を低く構えて)
(巨鳥は一目散に怒号と爆音の鳴り響く戦場の真っ只中を駆け出した。)
(流れ矢が飛爛の頭上を掠めていく、放棄された投石器の残骸、そして巨人達が平原を路地へと変えていた)
(その狭い道の中を翼をはためかせながら真っ青な鳥が全力疾走した。) -- 飛爛

何とかは、何とか……(具体的な行動は考えていない、とにかく最大限に周りに反応して動く事は決めた)
(駆け出すココロアの後を追って自分も走る。その内追いつけなくなるのだろうが飛び立つまで何とかなればいい、矢やら石やら、飛んでくるもので飛爛に当たりそうなものは片っ端から撃ち落した)
(正確な射撃、飛来物の攻撃力を失わせる威力、両立させるには相当のエネルギーが要る。息が切れ、肌も普段より白くなっていく。武具結晶の力で戦闘と生命活動を同時に賄っているのだから、戦闘での消耗が激しければ当然の事ではあった)
早く……(珍しく焦りの呟きをもらす。自分以外に聞こえるほど大きな声ではない。それでも唇の動きが苦しそうなのが見て取れるほどであった) -- フェロミア

(鉤爪が地面を蹴る感覚が長くなり始めた、広げられた翼が大きく弓なりに膨らみ再び風を捉え始める。)
(その時だ、飛爛達が駆け抜ける地面が突然、ぐずぐずとヘドロのように沸き立ち、新たな巨人がその汚泥の)
(中から立ち上がろうとしていた。)
ココロアッあがって!!
(今上がらなければ、背中を任せたフェロミアまでやれてしまう・・・飛爛が叫んだ瞬間。)
(鉤爪が地面を蹴り上げた、跳躍、重力の束縛がその体から次々に抜け落ちる、さらに跳躍、)
(羽ばたきながら、立ち上がろうとする巨人頭を踏みつけて、翼が再び空へと舞った!)
やった・・・!あがったー!このまま一気に振り切る・・・! -- 飛爛

(喜んだのもつかの間、飛爛とフェロミアのすぐ真下に赤い光点が灯った瞬間。)
(いくつ者汚泥の噴流が立ち上がった。それは周囲の死体を飲み込み、周囲の残骸を飲み込み・・・)
(急速に膨れ上がって、新たな巨人として、二人の行く手を遮る。)

よし、そのまま……(そのまま上がれ、と言いかけた時。足元に起こる違和感が言葉を遮った)
(嫌な予感、正確には何かが起きるという確信に従って射撃を中断し、飛びのけば)反則だろ……(足元からの「増援」。奇襲も甚だしい所だ。だが飛爛は飛び立った、このまま行けば逃げるチャンスもあるだろう)
行けー!(叫んで自分は逆方向へ向かう。付き従っていたくてもそれを押し通してどちらかが危険になっては意味がない。ここは二手に別れるべき、と脳の冷静な部分が決定したのだった) -- フェロミア

フェロミア!
(地面から突き上げる巨大な拳が起こした風圧に煽られるように前のめりになるココロア、)
(飛爛が後を振り返れば、一人敵の方へと進むフェロミアの鎧姿があった。)
・・・ッ!
(すぐさま、ココロアを回頭させようとしするが、左右を別のシャツァル兵達に挟まれた) -- 飛爛


姫様!危険です!もう弾薬も武器もありません、すぐに引いてください!
(なおもフェロミアの後を追おうとする飛爛の前を遮るように別のシャツァル兵も飛んだ。)
ここで姫様に死なれるわけにはいけないのです!どうしてもというなら私達が代わりに
行きます!!

(これ以上自分がここに踏みとどまれば、ふたたび犠牲が増える、従えたシャツァル兵達と)
(フェロミアの両方を無事に助ける手はなかった。)
(ぎりっと歯噛みした、飛爛はココロアを羽ばたかせて弓兵の矢から逃れ高度を取る。)
南よ!私達は南にいくから!!
(遠ざかるココロアの背の上から飛爛は叫ぶ、フェロミアの姿はすぐに巨人の背に)
(隠れてみえなくなってしまった。)
(戦場を後に残して羽ばたきは飛爛を運んでいく。待っているとは言えなかった。)
(彼女は元々西側の人間だ、むしろあっち側へ行けば、混戦をぬけて原隊へ復帰する)
(ことも出来るだろう。)
(だけど飛爛は何故かあの時、そう考えるよりも先に、フェロミアが自分を守るために)
(残ったと思ったのだ。あるいはそう思いたかったのかもしれない。)
(再び風に乗ったシャツァルはすぐに、敗走する自軍へと追いついた。) -- 飛爛

 

 

(飛爛達が戦っていたのと同時に、三千の兵士達を逃がすため。飛爛の隊から別れたクラトは)
(散り散りになっていく仲間達の頭上を飛んだ。)
散らばるなァッ!円陣を組め!
(飛びながら潰走しようとする味方の兵へ指示を飛ばす。)
(巨人の出現からものの十分と立たずに、安全だったはずの後方陣地は阿鼻叫喚の地獄と化した。)
(ひき潰された者がいた、引きちぎられた者がいた。巨大な滑り台のような木組みの滑走路はなぎ倒され)
(散乱して、引火した爆薬があちこちで火災を引き起こす。もはや収集のつけようのない混乱状態であった。)

(クラトの駆る灰蒼色の巨鳥、グナンが地面に転がっていた皮袋を飛び去り様、爪で高く放り投げた。)
(放物線を描いて皮袋は巨人の歪な頭部に当たった。頭に引っかかった皮袋を巨木の枝のような)
(指が摘み上げる、パンッと軽い発砲音、球状の弾丸が皮袋を打ち抜き、爆炎が巨人の上半身を飲み込んだ!)
(上半身を吹っ飛ばされた怪物の足がボロボロと崩れてなくなっていく。)
(銃身を切り詰めたライフルのような銃を真ん中から折り、火薬袋とセットになった弾丸を装填するクラト。)
(低空を高速で旋回する鳥の背中からよく当てられたものだ。飛爛一の家臣だけあって、実力も)
(彼は申し分ないらしかった。)

(だが、誰もが同じ事をできるとは限らない。現に巨大な怪物と対等以上に渡りあえているのは)
(飛爛やクラトの他数えるほどのシャツァル乗りしかいない。)
(飛行部隊の強みはとりもなおさずその装備した爆薬の強さだった、だが今鳥に爆薬を抱えさせる)
(余裕がない、そもそも飛び立つときに滑走しなければならないシャツァルは一度飛び立ってから)
(かなりの速度で掻っ攫うようにハンドバック型に作られた爆弾の柄を掴まないといけないのだ。)
 (重量物である爆薬を空に持ち上げる事、それ自体熟練と準備が必要なもので、とてもじゃないが)
(敵巨人に包囲された中で出来ることではなかった。)
 (装備した爆薬、火槍を使い切ってしまえば、後の武器は搭乗者の弓矢や槍、そしてシャツァル自身)
(が持つ鉤爪しかない。戦況は芳しくなかった、これまで連戦連勝を続けてきたカタクァの兵士達にとって)
(初めて経験する苦難だった。しかも・・・)

 (皮鎧に身を包み、投槍と手投げの爆薬で応戦していた歩兵部隊の中隊長が、巨人の手の平で)
(押しつぶされた。ゆっくりとあがっていく掌の下にぼたぼだと、吐き気を催す赤い滴り・・・。)
っち・・・!なんて間の悪い・・・・・・・・・那岐李ッ!!指揮を引き継げ!姫様と私が包囲を切り崩すまで
持ちこたえさせろッ!!
 (再び高く高度をとりながらクラトが叫んだ。)

―っ 中々無茶を、仰る…!
(クラトの指示に苦笑いを浮かべる。恐慌状態の歩兵たちを取りまとめて体勢を立て直し、時間を稼げだと?)
(だがそうでもしなければここで部隊は壊滅だ。自分一人脱出するだけならどうとでもなるだろう)
(しかし、此処でカタクァに滅びて貰っては困る。ならば―)

(逃げ惑う歩兵に向けてその拳を振り下ろす巨人に向けて距離を詰め、巨人と歩兵の間に割って入る)
(抜き放った刀に纏わせた黒い霧の力を解放し、その身体能力を瞬間的に増幅させる)
…っぐ、ぅ……っ!!言葉も知らぬ木偶如きに…!我が身に宿りし蛇神を打ち砕けると、思うな…っっ!!
(刀の腹で拳をじりじりと押し返し、弾き飛ばす。体勢を崩された巨人が後方へと地響きを立てながら転倒した)
誇り高きカタクァの民よ!!汝等の誇りはこのような木偶如きに蹂躙されるようなものではないはずだ!
幾千年もの間培われた歴史を此処で費やすつもりか!?体勢を立て直せ!汝等の首長が血路を切り開くまで持ちこたえてみせよ!
(刀を掲げ、声を張り上げる。萎縮してしまった兵を奮い立たせるために)
(まだ彼等の歴史には調べていないことが山ほどあるのだ)
(此処で終わらせてなるものか―) -- 那岐李

「そ、そうだ・・・俺達が残ってるから姫様が逃げられないんだ!!」
「手投げ弾を持ってる奴は前へ出ろ!足を狙え!爆薬は効くぞ!」
「あそこに落ちてる鞍を拾って来い!火槍が装填されたままだ!急げ!!」
(浮き足立ち、ばらばらに逃げ出す寸前だった歩兵達が、懸命に生き延びるために駆け出し始めた。)
(巨人の攻撃を防いだ那岐李に勇気付けられ、辺りに散乱した使えそうな武器をかき集めながら)
(退却のための陣形に集まっていく。)

やっぱりね、こういうの得意そうだと思ったんですよ、さぁグナンこっちもがんばりますよ
(ガラスをすり合わせたような強烈な咆哮が巨人供を身震いさせた。その一瞬の隙をついて)
(地面をこするような急降下そして急上昇をみせ、また一つ爆薬を拾い上げる。)
(投下そして狙撃、炎が薄暗く煙る戦場を真っ赤に照らした。右半身と左半身、それぞれ半分)
(づつを失った巨人2体が崩れ落ちて形をうしなっていく。 -- クラト

(戦意を取り戻した歩兵たちは、先ほどまでとは見違える動きを見せ始めた)
(クラトが切り開いた道に陣形を保ったまま突入し、進路をふさぐ巨人たちに恐れることなく立ち向かっていく)
(火槍が、手投げ弾が巨人を穿つ)
(那岐李はその先頭集団に於いて歩兵の戦意を損なわせぬように、巨人たちに向けて刀を振るい続けていた)
朧気ではあるが…見えて来たぞ、貴様ら木偶の正体が…!
(巨人を切る度に、身に宿した黒い霧が力を増していく)貴様らは、陰の世界に属するものだ!
恐れ・恨み・悲しみ・悔恨…それら負の思念渦巻く貴様ら木偶が、我が宿した蛇神に勝てる道理は無い―
(那岐李が刀を振るえば切っ先から伸びた蛇の牙がいとも容易く巨人の腕を、足を穿つ)
(那岐李が宿した異能は即ち陰の神である蛇神の力)
(それを振う那岐李の刀が、たかだか人の陰の感情の集合体を切れぬ道理はない)
(しかし、あくまで那岐李の力は少数を相手にするためのもの。集団を同時に相手にするには些か分が悪い)
―まだ、か…っ!?
(更に歩兵を守りながらとなると思うように戦える筈も無い。力の代償として蓄積される疲労が、徐々に那岐李の刀を鈍らせ始める―) -- 那岐李

「ナギリッ!前へ出過ぎるとあぶない!」
(投槍を構えた歩兵の小隊が那岐李の援護に回るように駆け出してきた。だが兵士達は手持ちの)
(弾薬が尽き、普通の武器では突いても切っても巨人、柱の騎士にはなかなかダメージが通らない。)
(正直まともな戦力といえるのは術を操る 那岐李だけだった。)
(巨大な腕が振り上げられて、煙った頭上を大きな影が覆う。相手は絶望的なまでに巨大で、そして)
(それに倍する殺意を立ち上らせていた。いや、その姿は無念と殺意そのものだったかもしれない。)

(振り上げられた巨人の腕に燃えさかる投槍が突き刺さった。)
(台風で枝葉を振り回す大樹の勢いで巨人が腕を振っても炎は容易に消えない。)
「うぉおおい!火だ!火ぃつかえ!」
(横から全員半裸の一団が那岐李達のいる部隊へとかけて来た。)
(別にテンションがあがってしまったわけではない、彼らは何の防御も望めない)
(皮鎧をそうそうに捨てると上着を裂いて投槍に巻き付け火投槍にしたのだ。)
(燃料は引っ張ってきたシャツァル用投下焼夷弾の中身、油だった。投槍で皮袋をついて)
(たっぷり染み込ませ、松明から火をつける。)
(そして生き残りカタクァ歩兵達が次々に燃え盛る投槍を巨人めがけて投げつけた。)
(正式装備に投槍が採用されているだけに、その威力や精度はかなりのものだ。)

あと一息だ!そのまま真っ直ぐ突っ切れ!!
(半裸の一団はクラトが誘導してきたものらしい、灰蒼色の巨鳥が頭上を飛び去りついでに)
(思い切り巨人の顔面と思しき部分を蹴り飛ばして行った。)
(生き残りがバラバラにならないよう空から誘導しつつ、とかく使えるものを引っ張り出してきたようだ。)
(混戦とはいえ、鳥瞰できるというのはなかなかに有利であるらしかった。) -- クラト

貴様ら…フン、カタクァの誇り、というわけか
(図らずも彼等に窮地を救われる形となり、カタクァの民の結束の高さとそのポテンシャルを改めて確認した)
(やはり、脈々と受け継がれてきた誇り高き血の繋がりというものはここぞという時に抜群の力を発揮するものだ)
(クラトが操る巨鳥の一撃で崩れ落ちる巨人の姿に大地を揺るがす歓声が響き渡る)
(此処に居る者に、死の恐怖に怯えている者はいない)
(自らに流れる血の誇りに掛けて、目的を完遂せんと団結する戦士たちの姿に歯噛みすると同時に、心底妬ましくもあった)
(彼等と自分達の違いは一体なんだ。歴史の深さというだけでは語り切れぬ何か―)
(絶望的なまでの隔たりがあるような気がした)

道は開けた!汝等の進むべき道は此処に!汝等は生き、自らの誇りと血の尊さを示さねばならない!
此処で死ぬことは許されぬ!クラトが開いた道を突き進めぇ!
(再び刀を掲げ、切り開かれた道を歩兵隊と共に突き進む)
(威勢の良い言葉を吐くその心の内、暗い、嫉妬にも似た醜い感情が渦巻くのをひた隠しにしながら那岐李は走る)
(今はまだ死ぬわけにはいかない。彼等に死んでもらうわけにも行かない)
(何時の日か、カガチ人もまた、誇り高きカタクァに並ぶべき存在であると)
(彼等に知らしめるその時まで―) -- 那岐李

 

 

 

 

(224年1月某日、ローランシア首脳会議が行われ、西側の諸国が統一連合の旗の元に集い)
(第一次バルトリア会戦へ向けて準備が進められていたときのことだ)
 (神殿騎士であり、アルメナの司教でもあるカルロの下を訪ねた一段があった。)
(彼らは先日、帝国の手に落ちた東ローディアの、まだ帝国の手が及ばぬ南部都市国家郡の)
(代表使節であるという。)
 (彼らがやってきた理由はこれから、使節の代表とやらが述べるのだろう。)
(東ローディア風の白いローブを纏い、深く被ったフードから長い金髪が垂れていた、)
(背格好からしてそのローブの下は少女のように思える。)
 (そして彼らがすんなりここまで入れた理由が、カルロの前に燦然と輝いていた。)
(それは枝葉にたわわな実をつけた高さ1m程の観葉の果樹。葉には葉脈が見て取れる)
(実った果実にはりんごの表面のような模様があり、枝は樹皮の質感もここちよく生き生きと)
(天へむかってひろがっている。だがその木は生きては居ない。それら総ては純金の黄金細工。)
 (他にも、川からしぶきをあげて跳ねる大魚、木の枝に羽を広げる鷹、総て果樹と同じくらい精巧に)
(作られた黄金細工が並び、指輪に首飾り、果ては靴まで、西ローディアの宮殿にも同じものは)
(無いのではという程の、気でも狂ったように精緻な純金工芸品が並んでいた。)

んー、なるほど……これほどまでの布施を当教会にしていただけるとは驚きだ
(筆舌に尽くしがたい豪華絢爛な黄金装飾を前にすれば、傷ついて未だに聖骸布の巻かれている額に手を置き、考えるような仕草をする)
(そして直ぐににっこりと微笑んで顔をあげる)
これだけの篤信を積んだとあれば、神も貴女方を手厚く遇してくれることでしょう
さ、どのようなお話なのか聞かせてください -- カルロ 2012-07-30 (月) 04:43:27

はい
(使節の代表と名乗った少女が、ひざまづいて伏せていた顔をあげた。)
我々は今、異民族の不当な侵略により、危難の淵に立たされています。
今までは共和国と反目しあうことも少なくなかったとはいえ・・・東の飢えた野獣にとってみれば
私たちは狩り残した西の羊でございましょう。
ゾドが敵の手に落ちてしまった今、我々には頼るものが必要です。
 (それは侵略してきた大爛ではなく、今までが決して良好な関係ではなかったとしても)
(同じローディアに根付くアルメナのほかに無いという。)
(献上品は敵意の無いことを示した上で、自分達にかけられた異教徒として「教化」対象の)
(指定を取り消して欲しいと願うためのものであった。)
 (大爛の西侵以降、それ以前に行われていた教化救済戦争のことなど当然うやむやのうちに)
(霧散霧消しているというのに律儀なことである、あるいは南の蛮族らしく政治の機微には疎いのだろうか。) -- 飛爛

(なんだその程度のことか。教化救済で結局大して懐が潤わなくて難儀していたのだが……思わぬところで臨時収入じゃあないか。ぐふふふ)
(と、まぁ、そんな思惑はおくびにも見せず、にこりと柔らかく微笑み)
それは……東の馬賊に故郷を脅かされ、さぞかし辛い想いをしたでしょう
しかし、ご安心ください。たとえ東ローディアが滅び、その貴族達が民を守る役目を果たせなくなろうと……神は決して貴女達を見捨てたりはしません
(さっと、手をとり、それなりに整った真摯な顔つきで応える)
同じ西の民として、共に戦い、そして共に歩んでいきましょう
我等が神は必ず貴女方にも祝福の光をお与えになることでしょう……おい、お前たち。彼女に礼の証書を -- カルロ

(カルロに見えるのは、フードのしたの、思いのほか口調よりもずっと幼く見える女の顔。)
(白い肌そして金髪碧眼、どれも西側の人間の特徴だが・・・その目は、碧というより、空色に似て)
(ともすれば、凍りついた海のような色にも見えたかもしれない。)
苦境の底に落とされた時こそ、人そして物事の本質は見えます。
あなた方が尊敬すべき隣人であったように、我らもまたそうならんと努めましょう。
(その瞳を伏せて、女は恭しく頭を下げた。) -- 飛爛

(フードの下の顔……そこに映る瞳の色の深さに、つい怖気が奔る)
……は、はは、何をおっしゃいますか。我々神国は人のあるべき道を示し、そして共に歩んでいるだけです……
さて、名残惜しいですが、私は公務がありますのでこれで……
(書類をさっさと渡し、ひっこんでいく)

(……なんなんだ、あの瞳の色は……まるで、真冬の湖の底のような……)
(ええい、とにかく、金さえもらえばあとは用済みだ……適当に往なして返してしまえ) -- カルロ

献上された宝を召使に運ばせ、奥へともどっていくカルロの背中を空色の瞳の主はひざまづいたまま
じっと見送った。フードと金髪の下にある視線の鋭さは天空から獲物を探す猛禽にも似ていた。

公式にも有効と証された書状を手に使節の一団はカルロのもとを辞する、その帰り道。
「はー・・・この書類1枚手に入れるのに、カタクァの秘宝が6点も・・・ナギリが聞いたら絶対
もったいないって怒るよねぇ。」
宗教的装飾も華麗に、神国アルメナの重要書類の書式に乗っ取ってしたためられた書類を片手に
つまんで眺める金髪の少女。それは髪を染めた飛爛だった。
「返せば伝来の家宝6つだけで国が手に入ったということですよ姫様」
並んで歩くともすれば少年のようにも見える男は飛爛の臣下であるクラト。彼も黒髪を金色に染めていた。
「んー・・・悪くない買い物だった?かな、うん」
飛爛の手に入れた証書の内容、それは神国アルメナが元東ローディア南部のまつろわぬ部族に
対して特別の許しを出すというもの、いうなれば免罪符のすごいやつである。
亡国の危難に際し、蛮勇奮う侵略者の甘言を退け、我らへ恭順を示すのはまさしくアルメナが諭す
所の真実の愛情であり、尊き行為であり、神は悪人の改心する事こそを大いに喜ばれ、
また彼の者は身の財を惜しげもなく削り証を立てたことにより、最大限の寛容の心でもって
神に代わりこれまでの彼らの悪すべてに許しを与え、その魂を祝福しその権利を認め、うんぬんかんぬん・・・・・・・・・。
「その証書があるかぎり、あの街が帝国へ寝返らない限りは『対等に』彼らと付き合えるという
証ですからね。それにしても姫様」
クラトは飛爛の手から、証書を受け取ると油紙に包み、皮袋へいれ、箱にしまって封をする。
「なにー?」
「交渉の席に現れた司教殿、あれは姫様がガルガの門で蹴っ飛ばした御仁にございますよ。」
引見の最中、それに気付いたクラトは実際笑いを堪えるのに必死であった。
「え、マジで?うわっ全然きづかんかった!」
そして飛爛はまったく彼のことを覚えておらず、とうとう飛爛の後ろでクラトは爆笑してしまった。



 



 

 

  〓 〓  

 

【 黄金歴224年5月頃 】
(うっすらと東の空に明るみが差し始めた頃、暗い平原の上を這うように飛ぶ鳥の群れがあった。)
(木の上を巨大な影が奔りぬけると、嵐にでもあったかのように大きく枝を揺らし葉を散らした。)
(馬ですら軽々と、その鉤爪で天高く連れ去りそうな巨鳥が6枚の翼を広げて飛んでいく。)
(彼らの向かう先にあるのは今は西だけが残ったローディアとスリュヘイム、アルメナの)
(3国が国境を接するウルトウルド山脈の黒い山陰だった。)

(日が頭上に高く上った頃、バルトリア会戦の余韻も冷め切らず、何かとあわただしい騎士団に)
(妙な二人組みが現れた、少女と歳の若い男、金髪碧眼の二人組みでローランシアで流行の)
(服に身を包んでいる。門番に金でも渡したのかしれっと中に入り込み誰彼問わず何事か聞いて)
(回っているようだ、あきらかに不審者だがあまりに堂々としてるもんで、皆追い出すのを忘れている。)

この人を探してるんだけど
(そういって少女が掲げ上げるように突き出すのは、少女騎士の姿の描かれた版画・・・)
(いわゆるブロマイド的なあれで、聖少女騎士団のメンバーを探しているのであった。)

(誰も彼もが慌しかった、会戦で開いた穴を埋めるためという理由は無論だが、もう一つ)
(仕事に忙殺されていれば、会戦でのあの光景を思い出す暇もないであろうから)
(それゆえに見慣れぬ二人組みに対する対応はぞんざいだった、写真を見ても知らない知らないと手を振り走り去って行くだけ)

(そんな中ではあるが、不審に不思議に思った騎士の一人が、しかるべき責任者へと報告したのだろう)
(二人のほうへまっすぐ歩み寄ってくる人影が在る)
(目が覚めるような鮮やかなオレンジ色の髪、尻尾、そして耳、ローディアの騎士とは思えぬ風体ではあるが……)

こちらに何か御用ですか?人を探しているとは聞きましたけれど……

(ローランシアの服装をしているのが功を奏したのだろう、必要以上に警戒する事も無くそう話しかける)
-- アリシア

この人を探してます!
(間髪居れずに、ずびしっと紙面を突き出しなさる少女。小さい、こんな子供がなんでここへ?)
(という雰囲気がまんまんである、サイズが微妙に合わずにだぶつき気味の衣装がなおのこと)
(小柄さを強調していた。) -- 飛爛

えー、お忙しいところ申し訳ございません。こちらのフェイリスお嬢様はローランシアの呉服商の
娘でございまして・・・先の戦の折に行方知れずとなられました聖少女騎士団のフェロミア様を
お探しなのでございます。お嬢様はかの騎士嬢と個人的に親密になされておられました故・・・
(横の男が代わりに説明した。身長はアリシアとそう変わらない細身のこの男は従者だろうか。)
(フロフレック侯爵領は武具結晶が発掘されたスリュヘイム国境に近い、確かに探しにくる)
(理由としては見当はずれでもない。)

何か手がかりだけでも無いかと方々訪ねているしだいでありまして・・・ -- クラト

(そんな飛爛の幼さが残る直球的な行動を見れば自然と頬が緩んでしまう)
(こほん、任務中と小さな咳払いと共に気持ちを引き締め、紙面を見れば、どこかしら引っかかる所があった)
この人、この人……
(確かにどこかで見た覚えがある、そしてその記憶の扉を開いたのは自分ではなくクラトの言葉だった)
ああ!そうだ、確かに聖少女騎士団に所属していた騎士です、名前までは聞いておりませんでしたが、確かにこの人ですね
(いいんです気にしないでください、と礼儀正しく頭を下げるクラトを手で制しつつそう口にするアリシア)
(確か戦闘において行方不明になったと聞いていた、と言う事はこの人たちは近い方なのだろうか……)
ですが、私も貴方がた以上の事は聞いておりません、もし尋ねて来たのであれば少なくとも私の耳には入ってるはずですので……
(申し訳なさそうにそう答えるアリシア、少なくとも嘘を言っているようには見えないだろう)
-- アリシア

そうかぁー・・・
(ふぅっと切りそろえられた金色の前髪を息で吹き上げる飛爛、もとい今はフェイリス。)
隊長さんが知らないんじゃここにも手がかりは無しね
(他の団員達と明らかに雰囲気が異なるアリシアを風体をみて、そう判断したのか)
(飛爛はそうつぶやきながら頷いた。)
それに耳はとてもよさそうだし、聞き逃がすことはないでしょう
(にっこり会釈しながら毛並みもふわふわの思わず手でつまみたくなるようなアリシアの)
(耳を見る少女。横からクラトに、だめですよ、いきなり飛びついたりしたら、等と言われていた。) -- 飛爛

期待に答えられず申し訳ないでありますねフェイリス殿
(あと隊長ではないでありますが、と口にしかけて、お世辞かな?そう思い直し唇を結ぶ)
連絡先を教えていただけるのであれば、もしフェロミア殿を見つけましたら連絡しますけれど
それとも、フェイリス殿が探していた、とお伝えしたほうが良いでありますかね?
(いかにも天真爛漫な飛爛をみれば、ついつい親切に世話を焼きたくなる、悪い人ではないらしい)
(ついでに触りたければ触っても良いでありますよ、と耳パタするアリシアであった)
ああそうそう、私はアリシア・フロフレックと申しますので、もし何かありましたなら
-- アリシア

フェイリス・カーターと申します、お忙しい所もうしわけございませんでした。
(改めて自己紹介して礼をする金髪の少女。パタパタする耳に手を伸ばそうとしてまた止められていた。)
ありがとうアリシアさん、でもあまり邪魔をしても悪いし・・・もしフェロミアに会えたならコレを
渡してくれるとうれしいな。
(そういってレース付きの白い絹手袋に握ったのは蒼い鳥の羽だった。サイズは大きなカラス)
(の風切羽くらいだろうか。) -- 飛爛

いえいえ、良いのでありますよフェイリス・カーター殿
(と、差し出された物を手に取れば)
綺麗な羽根でありますね……わかりました、フェロミア殿に会う機会がありましたら必ず!
(手持ちのハンカチに乗せて大事そうに懐にしまいつつ)
フェイリス殿はこれから別の場所へと向かわれるのですよね?このような時勢でありますし、旅路も安全とは言えませぬから、どうかお気をつけて
-- アリシア

うん、この地を平穏を守る騎士様たちにもどうか幸運のありますように
(そういってフェイリスと名乗った飛爛は来たときと同じく、堂々と庁舎を後にした。) -- 飛爛

(時刻は夕方、山腹に築かれた町並みから見下ろす大平原に赤い陽が近づいていく、)
(紅茶のグラスを透かして見たような晴れた夕暮れで、眼下にはウルトウルド山脈の向こうに)
(内海の水平線まで見えそうな気がする広々とした景観が広がっていた。)
(飛爛は1人、崖の際に作られた石垣の上に立って町並みと平原を眺める、)
(故郷から何千キロも離れた異国の地であるのに、なぜか懐かしいような気持ちがこみ上げた)
(家々の窓に明かりが灯り始める夕暮れ時だからだろうか、それとも今だ帝国の手の及ばない)
(往時の静けさが残っていたからだろうか。)

(時の頃は5月と言え、夜の帳が降りようとしている山間に吹く風は決して優しいものではなく、吹きさらしの階段を上るのは少々肌寒い)
(とは言え夕焼けに染まるこの景色は好きだった、日々の激務や戦争の事を考えささくれ立った心を癒してくれる気がするか)
(階段を上り開けた場所に出る、いつもと同じ景色、しかしその中に一つだけ違うところがある)
また、お会いましたね
(こちらを気に止める風も無く、眼下を、その先を見る飛爛の後ろ姿を認め、そう声をかけるアリシア)
(飛爛が立つ石垣へ歩を進め、夕餉の準備と思われる煙が立ち始めた街並みを眺める)
-- アリシア

あはっこんばんわ
(長い髪とドレスの裾を夕山風に弄ばれながら、飛爛はふわりと石垣の上に腰掛ける、)
(羽毛がふんわりと落ちるような重さを感じさせない動きだった。)
 (胸の高さほどの石垣の前に立つアリシアの横で、石垣に座る飛爛。)
(微笑んで挨拶したあと、その瞳はまた暮れて行く夕景をみている。夕焼けの下でみると)
(周りが茜色に染まっているせいか、青いというより空色をした瞳がよく目立った。)

アリシアはこの街の人なの?
(しばらく黙って夕景を見つめた後、彼女は不意にそんな事を聞いた。) -- 飛爛

こんばんは、フェイリス殿、でしたか
(ぴっと手を上げて挨拶に答えるアリシア、暫くは夕日に照らされ風に吹かれるまま二人で夕闇に染まる街を眺める)
(やがて夕焼けの色がアリシアの髪にのみ残る頃に飛爛の声を聞いた)
ええ、生まれも育ちもこの街で、ずっと小さい頃からこの景色を見て、それで育ったといっても過言はないでありますね
(石垣に頬杖を突いて尻尾を振る、口にせずともこの風景が好きだと言う事が滲み出ているようだった)
フェイリス殿はやけに熱心に見ていましたが、似たような風景に何かご執心でもあったでありますかね……?
-- アリシア

似てる場所は知らない、でもざわざわしてる場所も1日中人の少ない場所も
日暮れはみんなどこかほっとしてる感じがどの街でも一緒だなって。
えへへっ・・・この街が大好きなんだね、私もいいところだと思うよ、フェロミアを探しにきたのに
途中から町中あちこち回るのに夢中になっちゃってたし。
(ゆったり揺れる尻尾を見て楽しそうに笑う飛爛、上品に会釈したりするかと思えば)
(まるで童女が転がって笑うような顔もする、年齢がいったりきたり10歳くらいは上下してるようだった。) -- 飛爛

ああーなるほど、国や場所が変わっても朝は来るし日は暮れるし見てる空は同じ、と師匠も言ってたでありましたっけ
何となく安心するような気分を感じるのはきっとどこでも同じなのでありましょうね……
(この街が好きと言われればにっこり笑って返す、それだけにこの戦争による害は与えたくないと心にする)
(特に関係はないと考えている故に飛爛にはその様な顔は見せないが)
んー、なんと言いますか、フェイリス殿は不思議な感じがするですね
風に舞う羽のようにあっちにこっちにと予測が付かないでありますよ
(昼に見たお付の人はさぞ苦労してるだろうな、と笑ってみせる、公務での顔もそうだがこちらの顔もまた紛れもない一面であろう)
(茜色に焼けた最後の雲がその色を変えようと言う頃、頬杖を付いていた手を伸ばし、よしと小さく気合を入れる、おそらくまだ公務があるのだろう)
-- アリシア

(それは褒められてるのかな?そうだといいけど、そういって今度はアリシアにつられるようにして)
(また笑った、本当によく笑う奴であった。)
私もそろそろ行くね
(また石垣の上で立ち上がった飛爛は伸びをするアリシアに言う。挨拶を待たずにすっかり)
(藍色になった空と明るい星を背に小さな少女の髪とドレスが無重力に浮かんでふわりとひるがった。)
(石畳を革靴で跳ねるような軽い音が何度か響く、崖の際の石垣から崖の方へと飛び降りた)
(飛爛はその下の道路から手を振って。)
それじゃあねー!ここがずっと平和でいられますように
(大きな声で別れをいいながらアリシアに笑いかけていた。) -- 飛爛

(えっ?と思った、その笑い顔とお別れの挨拶がそれとはまるでかけ離れてるが故に)
(慌てて駆け出して、石垣の下を見ざるを得ないアリシア)
はぁ、びっくりさせないで欲しいでありますよ……ん、ありがとう!フェイリスも元気で!フェロミア殿が見つかると良いでありますね!
(身を乗り出すようにそう答え、宵闇の中にその姿が消えるまでその場に居たのだった)
……それにしても身軽な人でありましたね、さて、公務公務っと
-- アリシア



 



 

 

  〓 〓  

 

戦場を見渡せる断崖の上から見ると、そこは大河の水が一滴残らず干上がって出来た谷のように見えた。
その川底から帝国軍と連合国軍がどろどろと足音を響かせて連日合戦を繰り広げている。
対岸にあたる遥か向こう側の崖に霞んで見えるのが神国アルメナの巨大要塞ゼナンだ、城壁は
黒々として巨大、重厚にして壮麗、城壁の遥か下でたむろする軍馬がアリンコのように見えてしまった。

「はー・・・さすがにカタクァにもあんなにでっかい石造建築はないわねぇ・・・あ、また大砲撃った、うはっ射程すごい。」
望遠鏡で敵の要塞を眺める飛爛、巨大な城壁に白煙が上がった瞬間、遥か下方で爆発が巻き起こる。
要塞都市の名前は半端ではなく、相手の壁は分厚いだけでなく、ハリネズミも丸まって可愛くなるほどに
全方位に死角なく火砲、バリスタ等で武装されていた。 -- 飛爛

「まともに相手をさせられなくて良かったですね姫様」
飛爛の横で岩い足をかけ手を額にかざして遠くを見るクラト、彼は裸眼でもよく見えるらしい。

こんな時こそ真っ先に活躍するはずのシャツァル達は大きな翼を畳み、岩山の乏しい芝生に
藁を敷いてもらい、そこにうずくまって目を細めていた。
他のカタクァ兵達も流れ弾も飛んでこない、馬も蟲も上ってこれない断崖の上から高みの見物である。
彼らの持つ投下爆薬を使えばあの分厚い城壁とても無事ではすまないだろう、まさに活躍のチャンス
だというのに、彼らは座して待っていた。

・・・・・・・・・ゼナン攻略戦の前に遡る、シャツァルと新兵器を用いた空爆で、攻城戦において目覚しい戦果を
上げその力を見せ付けたあと。
『爆弾は特殊な装置で制御するんで残段数が少ないでーす』
『あんまり長旅で鳥が疲れちゃいましたー最近うまく飛べませーん』
『別に逆らうわけじゃないですけど、私らいなくなったらこの後が大変じゃないのかなぁー?』
・・・等々、たとえ代表が皇女でも断頭台送りになりそうなワガママを飛爛はためらいもなく連ねた。
それと同時に、ますます荒れる大爛本国の自領の事が気になる位階の高い皇族へ、災害を免れ
たくわえも十分であったカタクァより金や物資を送らせる約束を餌に自分達の後ろ盾としたのだ。
結果、大戦の真っ最中ではあっても、互いを喰らい合う事を忘れない皇族達のハングリー精神を利用し
『華桌の軍は貴重な決戦兵力であるゆえ、ここぞというときで使う』
という、命令を受けることに成功したのである。

飛爛に話を持ちかけられた皇子の一人は、強力なおもちゃを手に入れ、他のライバルに差を
付けられるとホクホク顔で、見事に利用されているとも気付かずにいい気なものであった。

「この間は肝を冷やしましたが、形成は以前大爛有利、将軍方は手柄の奪い合いにご熱心であられる
我々もうまくその隙に入れましたね、あれでは帝国も連合も消耗は避けられますまい。」

自らの書いた計略がうまく行ったことがうれしいのか、戦場を眺め渡しながらクラトは上機嫌そうだ。

「うん・・・・・・・・・ぬぅあああ〜〜ッ!」
「ど、どうしました姫様!?腹痛ですか!?」

クラトの言葉にうなずいたあと、へなへなっと頭を抱えてうずくまる飛爛。抑えてるのは頭だ。

「すっごい自然に両方殺しあって弱ればいいなーって思った自分に自己嫌悪・・・」
「・・・いい加減、覚悟きめて慣れてくださいよ姫様、いざってとき失敗しますよ」
「・・・うん」

戦に出てから1年余り、元来感情の起伏が激しかった飛爛は日増しに不安定になっているようで。
戦場で怒り任せの八つ当たりのように敵兵を鉤爪で切り刻むこともあった。
笑っていたとか思えば、突然、泣き出すこともしばしばあった。
(戦う技は日ごとに成長しておられるが、姫様の心が追いつかないのかもしれぬ・・・・・・・・・)
そう思ったクラトの心配そうな顔に気付いたのか、飛爛は小さな体をバネ仕掛けのようにシャキッと伸ばした。

「両方の力が削げるのは私達には有利だけど、いつまでも高見の見物とはいかないわね、
今は曲りなりにも友軍よ、偵察を飛ばして、弾幕の薄い箇所を探って空爆をしかけるわ!
言い訳が立つ程度には、仕事しとかなきゃね」
「承知いたしました」

執事のように恭しく頭をさげ、飛爛の元から下がるクラト。小高い岩のうえに立って地上を見下ろす
飛爛の横顔と空色の瞳は鋭かった。吹き上がってくる戦場の匂い交じりの風に広がる黒髪が翼を広げる
猛禽のようだった。
その凛々しく気高い姿を一体いつまで保っていられるのか、クラトは岩場の下から見上げながらそう思った。



 



 

 

  〓 〓  

 

【 黄金歴224年8月頃 】

(アルメナと東ローディアの国境沿い。人里離れたと言っても過言ではない、丘陵地帯)
(前線からは遠く、未だに戦火の煙すら見えないこの地域に、従者も付けず一人佇む)
(遥か東にカタクァから北西へと続く山脈を望み、眩い陽射しに天を仰いだ)
(私の待ち人は、空から来る)
(来る可能性は五分といった所だ。賭けるに分の悪い勝負ではない)
(先日、使者に持たせた伝書が巡り巡って飛爛の手に渡っていれば、そしてそこに記された本爛の名が、飛爛という妹に効力を残していれば、の話だが。こちらを踏まえると確率は二割程度)
(幸運が味方してくれることだけを願いながら、静かに天を仰いだまま待った) -- フリストフォン

(太陽の中を影がよぎった。普通の鳥のシルエットとは明らかに異なる6枚羽、間近に見るのは)
(西爛開戦以来見るのは2度目、首とドラゴンじみた鉤爪付きの後肢にも翼を生やした鳥、)
(間違いなくそれはカタクァにのみ生息する巨鳥シャツァルの姿で、そして空を音も無く滑る)
(羽の色はその背景にある空と同じ輝きだった。)
(鳥は丘の上に立つフリストフォンの周囲をうかがうようにゆっくりと旋回していた。)
(やがて本当に一人だと分かると、羽を畳んで急降下、地面すれすれで羽ばたいて)
(地面を蹴るように再び急上昇したとき、突風が丘の上を吹きぬけていった。)
・・・・・・・・・ぶはっ!
(風が吹きすぎたあと、背の高い夏草の茂みから、草まみれになりながら顔をあげる少女が居た。)
(微妙に着地失敗した飛爛本人であった。) -- 飛爛

(それは過去に何度も見たような郷愁を胸に抱かせる。そんな感傷がまだ自分の中に残っていたのかと、そう思えるくらいには)
(或いは飛爛の姿が、当時の面影を残していたことも大きく起因しているのかもしれない)
(ただ、幸運なことに、一目見てその相手が待ち人であると分かる程度には、妹の姿は記憶の中のそれと相違なかった)
(近場の岩に腰を下ろす)……大丈夫かい、あるいは……久しぶり、と言う資格は、まだ私に残っているかな。フェイ。
(幼少時、良く呼んでいた名前で呼ぶ。この華桌の皇女とはシュウと共に懇意にしていた)
(最も、それは自身の字に刻まれた「爛」の字に、誰もが無自覚であった無邪気な頃の記憶でしかないが)
君が、私の名を、書簡を信じて此処に来てくれたこと……私は嬉しいよ。
(例えそれが、本意を探り探りの行動だったとしても、少なくとも最初に鼻を付きあわせなければ、何も始めることができないから)
(静かに目を伏せ、感謝の意を述べた) -- 本爛

(しばらく、静かに語る姿を、髪の毛に葉っぱをくっつけたまま、じっと空色の瞳が見つめていた。)
(飛爛の相棒であるココロアも天空に輪を描いて滑りながら地上を睨んでいるようだった。)
久しぶり、本兄
(本爛の記憶の中にある飛爛の姿はおそらく笑っている姿だろう、変り者で友人も少ない)
(彼女だったが、その数少ない友人達の前では笑顔だけで喜怒哀楽全部表せるのでは、)
(というほど、彼女はいつも笑っていた。その時と同じ笑顔があった。)
(だけど彼女の風貌も笑顔も確かに、遠い日にみた飛爛と同一と思わせるに十分だったが)
(今ここにこうしているいるということは、幼き日から長い時を経て、幾多の戦いを抜けてきた)
(証拠でもあった、それは彼も彼女も同じであっただろう。)

まさかこんな所にいるなんて思わなかったよ。
(巨鳥はずっと頭上を旋回している、地面に下りてこないのは、何かあればすぐにこの場から)
(飛び去るためだろうか、あるいは、あの凶暴な鉤爪が即座に振り落ちてくるのかもしれない。) -- 飛爛

驚かせた、かな。
済まない。不躾であるとは承知していたが、どうしても早急に話しておかねばと思ってね。
それに、何しろこのような時勢だ。正式な申し出にて場を設けて会う、ということは中々出来なかろうしな。
それが……西方と東方の人間であるなら、もはや絶望的にな。(言いながら、唯一の武装である剣を目の前の地面に刺す。柄には西方候の龍を象った文様が描かれている)
(自分に敵意がないことと、自分が今まで何処にいたかを、言外に相手に伝える)
……重ねて驚かせて、済まない。
私は、今西ローディアにいるのだ。フリストフォンと、名を変えてね。
多数の策謀に巻き込まれた結果、今此処にいるのは帝国が皇子の一人、本爛であり、また西ローディア西方候フリストフォン・ラヴェル・フォランであるんだ。
……自分でも、よくもまあこの位置と場所に……流れ着いた物だと思うがね。
(自分ではその大きな流れに抗いようがもなかった、という憂いを、溜息に載せて告げた) -- 本爛

私なら、どこへでもすぐに飛んでいけるもんね
(今までと現在、簡単ではあったが説明を聞いて、何故自分が呼び出されたのか)
(納得が行った様に飛爛は頷いた。)
(本欄が腰掛ける岩の側へ飛爛が歩み寄る、座っている本欄と立っている飛爛の)
(目線が大体同じであった。)
でも、西の総督が本兄だったなんてほんとにびっくりすることばかりだね
戦場で怖い思いさせてたらごめんね?
(兄と妹といっても二人の年はかなり近いせいもあって、普通に友に接するような調子だ)
(ズボンの膝についた土を払い、長い黒髪と、白いワンピースのような上着にひっついた)
(とりながら飛爛は笑う、笑いながら急にがくっとうなだれた。)
ごめん、自分で言ってて自分で笑えなかったよ・・・下手したら気付かないで、殺してた
かもしれないんだよね・・・はぁぁ・・・・・・・・・ -- 飛爛

(憂いの表情を浮かべる妹の顔を見て、同じように表情を沈ませて見せた)
むしろ……予めその可能性が予見できていた私の方が、やはり先んじて手を打つべきであったのだ。
フェイや、シュウ(宗爛)がこの戦に参加していない、などという幻想は、開戦した当初から抱いていなかったのだからな。
(小さくため息を吐く)……シュウに会ったよ。皮肉なことに、戦場でね。
だが、互いに立場が立場だ。抜いた剣を己が意志だけで収めることは難しかったのだろうな。
私は……恨むよ。自分の運命を。……帝が私を西へと送り出したことは、ある意味では和平の証であったと思っていた。
結果はどうだ。結局、より大きな力と切迫した理由で戦争は始まってしまい、私たち兄妹ですら互いに剣を向け合うことになった。

(顔を、悲痛に押さえる)
聞けば、帝国の西進の理由は、水銀汚染の悪化による国域の拡大にあるというじゃないか……。
私が、本爛であった頃と……帝国は、何一つ変わっちゃいない。
そのようなことを理由に争いを肯定してしまえば、一つの戦争が終わっても……いくらでも理由が補充されてしまう。
かつてカタクァが侵されていた頃と同じように……より利用できる土地を求めて、今度はそのカタクァの者が駆り出される始末だ。
私は……心底、帝国の在り様を軽蔑したよ……。
フェイ。ここに呼び出した理由は、一つだ。……せめて君くらいは……この戦争から、手を引いてくれ。
君が帝国にいる限り、君は……君の守りたい物は永遠に戦から逃れられない
私は同じ事を……シュウにも伝えたかったのだが……この私の願いは、馬鹿げていると思うか……? -- 本爛

私も昔人質だったことあるし、本兄の言ってること間違ってないと思う。
(心の底から悲しそうに語る言葉に、素直に切りそろえた黒い前髪を揺らして頷く。)
(飛爛は兄が嘘を言ってるとは思わなかった。)
(一緒にいたときは、まだ飛べない雛鳥だったココロアの背中にのってヨタヨタ駆け回る)
(だけだった自分が今こうして、何十km離れていても一飛びに出来るようになると)
(本当によく覚えていなければ思いつきもしないのであろうから。)
(だから、他でもない自分に文を託したことだけで、本爛が本当に仲の良かった兄弟達の事を)
(案じているのだろうと思えた。)

 (同時に、この乱世を嘆く兄の姿に直感的に違和感を感じた。)
(『こいつこんなキャラだっけ?』身も蓋もない言い方するとそういう感じである。)
(だから、飛爛はすぐに返答を返すでもなく、兄の願いをかなえられない理由を連ねるでも)
(なく、空をぐるぐると回るココロアを見上げながら、つぶやいた。)
ねぇ、本兄と逢ったとき、宗は悲しそうな顔してた? -- 飛爛

(昔から、掴みどころの無い妹であるとは思っていた)
(多分それは他の人間が地に足をつけて生きている事との違いより、もっと深い)
(飛爛の名に相応しく、彼女の心は何かに縛られることなく自由にあり続ける)
……ああ。残念ながらね。
恐らく、彼にとって私は……国を、祖国を捨てた裏切り者でしかない。
何も告げられないことを理由として、何も告げずに国を出たことを……シュウはずっと恨み続けているのかもしれない。
そんな私の声は……今の互いの関係では、正確に伝えることは出来なかった。
……だからこそ、フェイ、君に伝えようと思ったんだ。
シュウは未熟だ、まだ戦場に出るべきではない。戦争を甘く見すぎている……。敵軍に捕まるような愚を、進んで犯すような者に、戦の非情さはまだ早すぎる。
それは、王としての行いではなく、個としての行いだ。そして帝国は、個としての駒を求めてなどいない……!
捕虜として捕まった彼を助けたのは、君の部隊なんだろう、フェイ。
(アリシアより報告を受けていた、宗爛を助けた飛来した何者かの見当を、半ば推測という形で投げてみる)
だからこそ、君を呼んだというのもあるんだ……私では伝えられないことを、君なら聞き、そして或いは伝えられるかもしれない。
私はシュウにもフェイにも。……こんな無益な戦争で、何かを失って欲しくはないんだ。
(苦渋に満ちた顔で言葉を漏らす)……今直ぐに、剣を置けなどと言うつもりはない。それが無理であることは重々承知した上で……私は告げたかったんだ。
帝国の在り様は、いつか個を個と見做さなくなる。帝国の求める戦争とは、そういう物だ。略奪を主とする、最も原始的な闘争……。そこには何の義も理念も、民を慮る気持ちも個の意志も介在しない。
私は、西方諸国の全てを肯定するつもりはない。だが、私はあるいは帝国にいた頃より、爛という王族の名ではなく、本(フォン)という個人がどう思い、どうしたいかという気持ちを尊重するようになった。
だから、この王として来たとしたら自らの身すら顧みない、果てしない愚行に見えるかもしれない独行も……王の一人として来たのではなく……本爛として。
個の意志を全う出来る国に居る、一人の男として。自分が生命を賭けるものや時期は、自分で決められる世界があるのだと……その個の意見を伝えたかったんだ。 -- 本爛

恨みかぁ・・・そっか、本兄には宗のあの顔がそう見えたんだね・・・
 (前に言葉を交わしたのは10年以上前だというのに、まるでつい昨日まで側にいた)
(かのように飛爛は自然に呼吸していた。)
ふふっ実はね、捕まった宗を助けにいったのは私だよ、敵に捕まったって聞いたら
居ても立っても居られなくなっちゃってさ。
(つまり十二分に彼女も指導者としてはどーなんだという未熟さであった。)
 (飛爛はにんまり笑いながら、空を見上げていた視線を本爛へむける、)
(ずっと見上げていた空の色が移ったような瞳の色だった。)

本兄の考えてること、やっぱり私と似てるとおもう。私もね、血を分けた者同士で
戦いあわせる大爛のやり方は好きじゃないんだ。
騙したり、傷つけたり、殺しあったり・・・王様達がそうだから、国中の人たちも
いつでも自分が優位になろうと必死なんだ。違うのはやり方だけ、みんな自分が大事で・・・
こないだの災害の時だって、みんな奪い合ってた、本当は助け合う事だって出来たのに、
大爛っていう国が、皇帝が、それを許さないから・・・。
 (飛爛の頭に浮かぶのは、皇の血を引いたという理由だけで、泣くことすら許されない)
(一人ぼっちの少年であり、戦いを強いられる数多の人々であり・・・)

だから、そんな国ぶっ壊しちゃってもっといいところにしようぜ!って宗に言ったら
めっちゃ怒られちゃった、そんな無茶なことはやめろってさ。
(悪戯っぽく笑うその顔は、さらりと、帝国への忠誠など微塵もないことを暴露した。)

たぶんその時、宗は本兄と戦場であったのと同じ顔してたと思うよ。
すごく怒ってたけど、私には今にも泣き出しそうに見えたな。
(それは暗に、見ている世界が少しだけ違うんだと、言っているようでもあった。)
(1つ2つ、大きな羽ばたきが聞こえる、太陽の周りをまだ蒼い巨鳥はめぐっていた。)
宗は生真面目な子だからね・・・きっと私が言っても剣を置けないよ、だから私も
今すぐにも、後ででも戦いをやめることはできない。 -- 飛爛

そうか……。こんな時、私はどの立場の顔をしていいのか、こちらに来てすぐは分からなかったよ。
西の王として、捕虜を奪われた苦渋を表せばいいのか、東の宗の兄として、無事に保護してくれた礼を言えばいいのか。
……でもね(瞳に触れ、瞳の色を偽る色幕を取る。本爛の真紅の瞳がそこにある)今なら分かる。……済まない。飛爛のその稚気に、私は感謝する。

……中にいては、分からないことも多い。そこには、異常が普通として転がっている物だからな。
フェイ、君は俯瞰の視点を持っている。私たちが地面を這う視線しか持てないのに比べて、遥か空から見下ろすことが出来た。
だから、シュウが未だ辿りつけず、私が国外に出て初めて至ることが出来た理(ことわり)に、国の中にいながら到達できたのかもしれない。

私も、この位置と地位に来て初めて自分の剣を、自分の為に使う意味を知った。
……それは、本来ならば誰もが持ち合わせているはずの、当たり前のことなんだ。
自身で、何を成す為に、何をすればいいかを……今は考えて欲しい。
(戦いを辞めることはできないというフェイの言葉に目を伏せ)……結論を出すことは、何も今すぐでなくていい。
ただ、何かを決めることに間に合わない悲劇だけは避けると、それだけ約束してくれれば。
私は、自分がフェイやシュウにどうあって欲しいか、それだけは伝えることが出来たと、そう思っているから。
フェイが決め、フェイが行うと決めたことに、協力することが出来るなら……それが本爛としてでも西の王としてでも……できる限り力になりたいと思っている。
(言葉にはしない。飛爛の言うように、帝国を毀すという行動を自分の立場で箴言してしまえば、それこそが飛爛を縛る鎖となってしまう)
(あくまで、飛爛は……その名にもあるように。自由で、思うように飛べてこそ、自分にとっての彼女なのだから)

(立ち上がり、東の方向を見る。そこには、華桌を隠すようにして、山脈が連なっている)
戦火が遠い地にいることを、本来は西の王として恥じねばならぬだろうに。
……それでも、私の目には、この美しい華桌の山々を望むのは……静謐の中にありたいと。そう、フェイの隣に居るときは……思ってしまう。
(小さく笑い)済まない、飛爛。君の立場を以って、この時間を裂くには容易ではなかったろうに。
……また、何処かで会えればと、そして同じ方向を見れればと、そう思わずにはいられない。
もし君もそうであるなら……兄としてはこの上なく嬉しいよ。(小さく、肩を竦めた) -- 本爛

(本爛の視線の先にある、青く霞む山脈をみた、それは遥かに遠くあったが間違いなく)
(その麓にカタクァを抱く大陸中央山脈の背であった。いや実際は違ったとしても)
(地平線から青く聳え立ち、頂が雲の中へ消えるその山々の姿は、飛爛にも故郷を)
(思わせるのに十分で、なんでこんな場所を会談の場所に選んだのか、分かった気がした。)
(昔から、大人よりも賢く、どこか何を考え感じているのか分からない兄だったが)
(その抜け目なさはいよいよ磨きがかかっているらしいと、飛爛は思った。)
(そんな風に冷静に思いながら、元来感情の起伏が激しい彼女は同時に抑え切れない)
(心の鷹揚も感じていた。)
(兄は自分が帝国に叛意を持っていることを伝えても、寝返れとは言わない、最初に)
(手を引いて欲しいといわれたときは、暗に寝返りを要求されたのかとおもったが。)

(そもそも、密書を受け取ったときから少なからず期待はしていたのだ、もしも、)
(この本爛兄が自分達の味方になってくれるなら・・・どれだけ心強いことだろうと。)
(だけど彼女は瞳を閉じた。打算や計算ではない、今完全に大爛と決別してしまえば)
(きっともう、宗とは会えなくなるのだろうとおもったから。)

私は・・・辛い顔を仮面で隠してでも生きなきゃいけない世界が、もう少しだけ優しく
なればいいなって、そう思ってるだけだよ。
 (長く続く戦で、不安定になっていた彼女の心では、今だ先が見通せない現状で)
(何かを決断することはできなかった。)
(ただ、昔の事を覚えていて自分達を心配してくれる兄の存在はうれしかった、たとえ)
(その背後に何か得体の知れないものを感じたとしても・・・。だから彼女はもう一度笑って、)
なんかおかしいと思ってたけどそうだった、本兄は宗と同じ眼の色だったね
うん、そっちのがいいよ。 -- 飛爛

(どれくらい、本心と懐内が伝わったか、それが捉えられぬ相手は厄介ではあるな、と自省する)
(掴み所がないという利点は、その動きを手繰ろうとしている者にとっては厄介な性質となる)
(ただ、今はその進行方向にそっと石を置くだけでいい)
(空を飛ぶ者には、道を歩く者よりも些細な関心しか引くことが出来ないであろうが)
(逆を言えば躓いた経験のない者の印象に、その躓きは、深く根付く)

西ローディア西方には珍しい灼熱色の瞳の色は、今は隠しておくべきだという、私の前の西方候の判断なのだ。
だが、私も、フェイと同じように。
……いずれは、この仮面を取り、堂々と自分の名と生まれを明かす日がくればいいと。
そう思いながら、仮初の瞳の色を通して……今を見ている。
帝国ではなく、あるいはこの灼熱の瞳も、蒼空の瞳すら受け入れられるかもしれない、私の統治するローディアの……懐の深さを期待して、な。
(言いながら剣を地面から抜き、腰に挿した。西ローディアの王の一人として) -- フリストフォン

(飛爛とて、皇女として総督して、あるいはカタクァの王として立場というものを意識しないという)
(事は無かったが、骨の鬼面で素顔を隠す弟宗爛や、10年以上にわたって自身の素性を)
(隠し続けてきた兄本爛の心の内に秘めた思いはどれほどだろうと飛爛は思う、)
(だから、自然とそう言っていた。)
できるよ、心を偽らないまま、誰もが幸せになれる方法はきっとある、そんな国は絶対に作れるから
本兄も宗ももっと素直になればいいと思うな、あはぁっ私はそのためにちょっとがんばって
きちゃおうかな!

(本爛が評したように、ほんとうに彼女は子供のようだった、年は本爛と大差ないはずなのに)
(彼女とて、戦場というむごい現実のむき出しになる場所を幾多も過ぎてきただろうに。)
(彼女がやってきたときと同じように、風が強く吹く。音も無く蒼色の翼をした巨体は飛爛の)
(後に降り立っていた。)
(それじゃあ、またね、と言い残して重さを感じさせない猫のような身軽さで馬よりも高い)
(巨鳥の背に乗る。翼を広げた巨鳥は丘の斜面を駆け下って空へと舞い上がっていった。) -- 飛爛

(妹を、ぎこちない笑みで送り出し、静かに目を伏せる)
(遥か遠く、雄々しき翼を広げて飛び去るその姿は、矮躯である妹との対比で、酷く痛ましくあった)
(そして、思惑どおり事が運べば――あるいはその心だけを縛りつけて、羽を自由に空を舞う……一つの駒となり得るかもしれない)

(ポケットの中、弄ぶようにしていた騎士の駒を少しだけ撫で)
……心を偽らないまま、誰もが幸せになれる方法、か。
本当にお前は……昔のままだな。
その理論では。

最初から心を持たぬ者は、救われぬではないか。
(小さく嗤い、その場を後にした) -- 本爛



 



 

 

  〓 〓  

 

【 黄金暦224年10月 ゼナン要塞南東 丘陵地帯 】

(大乱戦である。またもや前線に取り残される形となった統一王朝の騎士は、ゼナンを奪還…いや、蹂躪に進軍してきたアルメナ・神殿騎士団に追われていた)
ええい!何の因果か!(裏拳一発、鎖の音が絡みつく。狂乱状態にある神殿騎士達は、見境というものを失っていたらしい…目に付くもの、すべてが敵という勢いだ ことに、無駄に強力な鎧騎士とあっては) -- レーヴェンフック

(視界を奪う濃霧が地上にある一切の命を撫で殺した後、気の早い者達が戦利品を漁る。)
(彼らの踏む石畳は道端に転がる死体の吐いた血と吐瀉物で汚れ、手をついた壁には今だ)
(べったりと付着した毒の残留物で汚れていた。)
 (そんな汚れきった神国の街を無数の足音が揺らす、燃え盛る浄化の炎を背負って)
(血まみれの鈍器を振るって、あたるものなら帝国兵もゼナンの城壁も区別無く打ち砕く。)
(鋼鉄に鎧われた異形の狂気が足並みをそろえて行進していた。)
(奴らは切られてもとまらない、突き通されても止まらない、死してなお死することすらなく。)
(恐怖を武器としてばら撒き続けた帝国軍もこの時ばかりは恐れおののき、)
(逃げることを忘れて手にした武器を振りかざすしかなかった。)
(その結果が大乱戦、バルトリアの再来のような凄まじい大混乱だった。数を頼んで敵を押し)
(つぶそうとした帝国軍のせいで、混乱に拍車がかかり、自体はすでに収集不能の様相を呈する。)
(爆薬が炸裂して誤爆された兵士がバラバラに地面に降り注ぐ横でメイスをぶち当てられた)
(騎馬小隊はその騎馬の肉と混ざって見分けがつかなくなった。)
(毒にまかれて死に絶えたゼナンとその前に広がる平野は今、黒煙と血煙に覆われていた。)

(立ち上る黒い煙を吹き飛ばして、頭上を突風が過ぎ去った。)
(ゆうに10m以上はあろうかという翼を広げた数十羽の巨鳥が矢尻の編隊を組んで急降下)
(そして神殿騎士をなぐりつけるようにその鉤爪に掴ませた爆薬を叩きつけて首を上向きに)
(急上昇していく。)
(間をおいて凄まじい大爆発が巻き起こる、他の帝国軍が使う爆薬の比ではない衝撃と爆炎)
(が周囲を焼き、揺さぶった。)

ぬおお?!(投下された爆裂弾に巻き込まれ。暴風に晒され、しかし熱量により活力を取り戻す)
あれは…何ぞ?公国の増援…か?(この乱戦である。敵味方の区別は、神殿騎士にあらずとも最早容易には付き難い)
(であれば、本国でも開発中との噂を聞く航空戦力…あるいは、長距離炸薬砲のそれと考えるのもまた仕方のない事である)

(神殿騎士らは、統一王朝の騎士よりかは冷静であったらしい)
(実棍が、石礫が。常識外の膂力で射出され、再びの爆撃を期して下降する巨鳥の編隊に突き刺さる) -- レーヴェンフック

散開ッ!
(ただでさえ黒く煙視界が悪いなか、誰よりも早く地上の敵の動きを察知して飛爛は手信号を)
(かざしながら叫んだ。)
(巨鳥の群れが畳よりも大きな翼を羽ばたかせてさっと左右に割れ地面すれすれを飛んでいく、)

(ハリネズミのような防御を誇ったゼナンに真正面から突っ込まずにすんでほっとしたのも束の間)
(今度は東国の巨大生物もかくやという化け物の軍勢だった。)
(何もしないままでいるのが許されるはずもなく、飛爛の率いるカタクァの軍に爆撃支援)
(命令が下った。敵陣に爆弾を落すのと違って、こうも混戦ではわざわざ急降下して確実に)
(敵頭上に投下せざるを得ない。ここでもまた、仲間が落とされはしないかと飛爛の不安が募った。)

(打ち出された礫を避けて巨鳥の群れが再び高度を取り始めた。地面を転がった爆薬が再び)
(戦場を大きく振るわせた。)
(爆弾は全部落とした、ひとまずはまた陣地まで戻って爆装のしなおしだ。)
(なるべくゆっくり戻ろうか、そうすればどうせまた今回も帝国の勝ちで終わるだろうこのやり辛い)
(戦いも決着がついてくれるかもしれない・・・。)
(そう思考をめぐらせながら飛爛が騒乱から上空へ逃れようとした瞬間だ、凄まじい叫び声が響いた)
(ガラス編で黒板をおもいきり轢き掻いたような絶叫。それが自分達の乗る巨鳥シャツァルの声だと)
(飛爛にはすぐに分かって、その尋常ではない叫び声に振り返ったとき、見たのは神殿騎士の)
(異形の腕に肢をつかまれて地面に叩き落とされた仲間の姿だった。)
(鈍い蒼色の羽が撒き散らされる、乗っていた人と鞍ごと鳥の背骨がメイスに砕かれて鮮血が吹き上げた。)

(蒼く煌く鳥が空中で前転し、その頭を縦にめぐらせた。余りに急激な方向転換のせいで)
(翻った巨大な翼が再び開いたときに、パンッと風切羽の先端が音の壁を裂く。)
(飛爛とその騎鳥であるココロアを誰も止める暇は無く、付き従っていた編隊が向きを変えたときには)
(すでにその後姿は天空からまっさかさま、鳥の亡骸の側に立つ神殿騎士めがけて落ちていた。)
殺せッ!!あいつの頭を潰せぇッッ!!
(飛爛が叫び、怪物染みた咆哮でココロアも吼えた。鉤爪がローブを纏った頭に深々と突き刺さる)
(だが、恐るべき耐久力で頭から血を撒き散らしながらもまだ神殿騎士は生きていた。)
叩き折れッ!
(落下の勢いそのままに上昇したココロアがその鉤爪に獲物を掴んだまま、波を打つように急降下しはじめる。)
(行く先に平原に突き出した巨大な岩。頭を砕かれたまま振り回されて、抵抗することが出来ない)
(神殿騎士の体が岩にたたきつけられて真っ二つにへし折られた。砕けた鎖の破片が岩に)
(めり込むほど激しく打ち付けられ、水風船のように肉が散る。) -- 飛爛

(大空を舞う翼は地に墜ち、蜘蛛の如き腕に絡め取られ…断末魔の叫びを上げた)
(少なくとも、窮地を救われたのは確かである。それが、意図したものかどうかは…五分五分であったが)
(何より、部下の死に激昂し。単騎引き返してくる情、これまで見た帝国兵のどれにも見られない装束)
(であれば、彼の者は西の将である…そんな期待が、先行した)
我こそは統一王朝が騎士!エルネスト・フォン・レーヴェンフック!
(名乗りを上げ、今正に地上へ降り敵を潰した大鳥に押しかからんとする神殿騎士らとの間に割って入る一騎!)
クレイエ(カラス)の騎士よ!此奴らは正気を失っておる、脚を止めては捕まるぞ!(囲む一体に打ちかかりつつも、背中越しに声をかけ) -- レーヴェンフック

はぁ・・・はっ・・・!
(怒りのままに敵を地面にたたきつけた結果、速度が保てず、地面に降り立ってしまった。)
(まだ破裂した怒りは収まらない・・・が、不意に後からかけられた時代がかったセリフに)
(思わず振り返った。獲物を狙う猛禽ような空色の瞳が見たのは、背後からくる巨体を)
(切り伏せる、全身隙間無く甲冑姿の騎士の姿。)
(一瞬、怒りの表情のまま、理解が追いつかなくて飛爛は固まった。)
(が、すぐに気を取り直し、手綱を繰ってココロアをかけさせた、巨大な鉤爪が跳躍とともに)
(真正面の神殿騎士を前蹴りで吹っ飛ばす。)
こんなに突出してあなた何やってるの!?戻らないとあぶないよ!?
 (きっと捕虜になった西方の武将か何かが奴兵に混じって戦っているのだろうと思う。)
(普通の奴兵とはまったく見た目が違うが、飛爛は捕らえた相手をそのままの状態にしておいた)
(こともあったので、たぶん似たような変わり者が他にもいたのだろうと納得した。) -- 飛爛

(あれだけの体躯、一度地上に降り立てば囲まれた状況で…飛び立つ事は困難か!であれば、目の端で追うだけであったその操者の姿も実像を伴って…)
レディ?!(戦場には不釣り合いな。小柄で、吹けば飛ぶような…言っては何だが、淑女と言うよりも少女であった。)
…ッ!此方の台詞であるぞ!
(戻るところで捕まってしまってな!と言葉を続けつつも、長槍…マスケット銃、据付のウォーピックでメイスの一撃を捌き、西側特有の絡み突きで5つある目玉の尽くを潰し無力化する。傷病手当の上退役は間違いない損傷…であるといいが)
彼の者は勇敢に戦った!不意の終わりであろうとも、眠りにレディの付き添いを望む戦士ではあるまい!
(騎馬と大鳥、地上にて並び立つ。図らずも東西の機動戦力が共闘の形をとった) -- レーヴェンフック

今は女だって戦えるなら戦士よ!
(そこはかとなくバカにされた気がしたのでムキになって叫び返す飛爛。)
(滑走するだけの隙も距離も、敵味方引っ掻き回されたサラダボウルのような状態では望めない)
(だが、その羽を使い巨鳥は跳躍を繰り返しながら、地上でも軽快に立ち回っている。)
(化け物染みた腕力を持った敵ばかりとはいえ、相手が基本的に歩兵なのが幸いした。)
うりゃっ!!
(鞍にすえつけられた取っ手を引く、巨鳥の腹を覆う皮鎧に弾帯のごとく連ねられたロケット弾)
(が点火、白煙を引いて飛び出し、先端の鏃が神殿騎士の鎧にがっちりと食い込んだ。)
(炸裂音、10連装の火槍が一斉に爆裂して鎧ごと神殿騎士を吹っ飛ばした。) -- 飛爛

(新兵器!目が醒めるような威力、公国の技術力を実感する…その実、てんで的外れではあるのだが)
(正気を失った神殿騎士の膂力は、この人類を遠く越えた地平にある甲冑騎士に迫るほどのものだ)
(だが、機動力では比べ物にならない。騎馬と、それに準ずる巨鳥シャツァルが駆け、包囲を打開するため火砲が煌めく)
(数の不利を覆すには理由がある。近づけば騎士が投げ飛ばし、支援に飛爛が火箭を飛ばす)
やるではないか!だが…(レディ、と言いかけたところで)君の名は!(戦士に対する礼として、名を聞くことにした) -- レーヴェンフック

フェイランッ!
(攻撃を避けるために神殿騎士を踏んづけて舞い上がったり、頭よりも高い位置から落ちたり)
(するせいで飛爛の言葉はぶつ切りになりがちだった、長々としゃべってたら舌を噛む上下動のせいだ。)
(メイスの一撃を飛び上がって避け、着地ざまに、腰から抜いた馬上筒とおぼしき短銃で狙撃する。)
(ローブの下の顔にぶら下げられた鎖が弾け飛んで、神殿騎士の体が仰向けにのけぞった。)
(だが、元々地上戦力である騎士とは違って、シャツァル兵は地上での継戦能力も突撃力も騎馬)
(には遥かに劣っていた。飛爛が地上に降りてからの僅かの間ですでに武器は底を付き掛け、)
(空を翔る翼は地上では重たく枷となる。)
(正直、1人だったらもっと大ピンチだっただろう・・・はっとそこで思いついた。)
エルネストって言ったわね!突撃はできるんでしょ、でっかい馬乗ってるんだから!
(でかさで言えば飛爛の乗るシャツァルとて全長7mを越そうかという恐竜に羽が生えた)
(ような奴だが、このさい問題なのはその突撃力である。)
50・・・40mでいいから!ココロアを上げて! -- 飛爛

ヘラ殿か!(西方と東方の発音の違いである。加えて戦場での短いやり取り、公国風の名前にて理解するのに時間は要さなかった)
(槍の一振りは神殿騎士の過剰な重量を数体纏めて投げ飛ばし、山を築かん勢いだが。連携に陰りが見え始める)
(いずれ圧殺も見えていたはずだ、この戦場に騎士一人では。ならば、この少女の存在は天佑と言う他はない。)
…!たとえ不可能とて、覆してみせよう!翔べい、コ・クレイエ!
(些か大きすぎる守護鳥は、戦場に在れば抜群に目立つ。象徴的な…民の、望んだ力として彼女はまさに煌めくばかりである。ここで地に這うべきではない)
Feuer!!!(馬上で、マスケット銃が火を噴く。ほぼ同時に騎馬突撃が、長い長い坂道の街道に陣取る神殿騎士の一党を軒並み吹き飛ばし駆ける!) -- レーヴェンフック

ああ・・・変な兜被ってるからよく聞こえなかったんだね・・・
(などと呟いている余裕は無い。豪砲一喝一気に黒く焼けた大地を駆け下る蹄の後を鉤爪が追った。)
(重厚な鎧の金鳴りも激しく、トレーラーで軽自動車を跳ね飛ばす派手なカーチェイスよろしく)
(一直線上に滑走路を切り開く騎士の後を飛爛はココロアに乗って駆けた。)
(追いかける神殿騎士のローブから垂れ下がった鎖が激しく音を立てた、疾走する獣の速度に)
(人間の足で追いつくなどありえないことだが、化け物染みた彼らの脚力はそれすらも可能に)
(するらしい。だが大地を蹴る鉤爪の力がついには勝った。)
(十分にその体が速度に乗ったとき、その太い首と、胴の翼が、風切羽の1本まで大きく広がり)
(風を捕らえ始めた。)
(早鐘のように打っていた鉤爪の足音がドッドッと感覚を広げていく)
上がれぇーッ!!
(走る巨体が跳躍した瞬間、翼が地面へ風を打ちつける。蒼く煌くその体は再び舞い上がっていた。)
(疾走する騎士の頭上を追い越して風に乗った巨体が地面を6枚羽の影で覆いながら加速する。)
(空へあがった飛爛の元へ、先ほど彼女に置いて行かれたシャツァルの編隊が)
(戦場の黒煙を割いて駆けつけ、ぐるぐると螺旋を描きながら一つの群れへと上空で合流した。)

火槍用意ッ!あの騎士の前に居る敵に弾幕を集中ッ!!
(数十羽から成る編隊がくの字を連ねるように矢尻形編隊の列を作り、飛爛を先頭に陣形を整えなおす) -- 飛爛

…美しい(大空を舞う鳥たち。その中央に今加わったのは、先ほど飛び上がった…一際大きな、蒼色の翼だ)
(地上より見上げる騎士と騎馬は、朝焼けの中に未だ囲まれたままで。しかし、そう呟かずには居られなかった)

(一瞬後、目前の敵を航空支援により排除せしめた束の間の共同軍は挨拶もそこそこに解散することとなる)
(理由は単純、自陣に―飛爛の認識では、帝国軍―戻るはずの騎馬が、槍を掲げる略式の礼をした後てんで見当違いの方向へ駆け出したからで)
(本陣以外の野営地でも確保してあるのだろうか?ともかく、敵勢から逃げる向きなのは間違いない。)
(すぐに森へと入り、見えなくなった騎士が、彼女の率いる軍…その付近に陣取る方面軍に、帰って来なかったことだけは確かであった) -- レーヴェンフック



 



 

 

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224年も暮れに近づいた頃だった。飛爛の率いるカタクァの軍勢はゼナンで足止めを食った
帝国南方方面軍の後方を固めるため、大陸中央山脈沿いに南下していく。
西を広くアルメナと国境を接し、東と北を中央山脈に囲まれたこの地域は
東ローディア健在の頃から中央政府に反抗的な都市国家や民族が多く、
元々都市ごとに独立した国家群といってもいいほどまとまりの無かったために
帝国侵攻以来、多数派の親帝国派と親ローディア派に別れ、さらには部族間の権利
争いまで持ち上がって、内乱状態となっていた。
飛爛達に任されたのは内乱を静め、主要な都市国家を帝国側につける任務だった。
戦線が膠着した今、早急に足場を固めたい帝国側としては、騎馬の3倍の速度で侵攻
できるシャツァル飛行部隊はまさにうってつけだったであろう。
そしてローディア南部に地道に築き上げてきた自分達のための足場へ合流したい
飛爛にとってもこの南行きは願っていた事であった。 その進軍は協力的な都市国家と連携して、その他の都市を威圧、あるいは説得していく
もので、攻城戦においてどんな城壁も備えも無効化するシャツァルによる空からの
攻撃もあり、頑固な首長の治める都市も爆弾の2〜3発と他の都市群からの説得で
3日とかからず爛の軍旗に下っていく、北方の街が東ローディア統治下よりも栄えている
という風聞も良い方向に働いて、大きな戦闘もなく順調なものであった。

だが、飛爛達が南進の道途中にあった都市でそれは起きた。今となっては何故その時の
交渉が長引いたのか、そこにどんな人たちが居たのはうかがい知る資料は極端に少ない。
ただ、分かっているのは半月に及ぶ篭城戦と抵抗の末にやっとその街の首長を会談の
席に着かせた時に、話あい半ばで突然飛爛が席を蹴って刃を履き相手に襲いかかったのだ。
顎から額まで、下から真っ二つに割られた男が仰向けに倒れた。陣幕の中に敷かれた
赤い毛長絨毯の複雑な幾何模様を血が塗りつぶしていく。
それまで言葉を尽くして相手を説得しようとしていた飛爛が豹変するのは一瞬だった
誰もそれを止めることはできず、カタクァ特有の足につける刃を彼女が履いた次の瞬間、
飛爛はシャツァルが爪で獲物を引き裂くように、都市の首長を蹴り殺していた。
「殺せ、全員だ」
半月に及ぶ会談の結果にその場に居合わせた全員が唖然となり、
側にいたカタクァ兵が動き出す前に、彼女は首長の護衛まで含めた全員を瞬く間に蹴り殺していた。
飛爛側近として最初の交渉から同行していたクラトにも一体何がどうなってしまったのか理解できず
何故?と問うことすら忘れて、突然の凶行に隣のカタクァ兵同様、呆けたように固まってしまった。
「もういいや・・・こいつらはいいよ・・・全員鳥の餌にしちゃおう」
 静かな声でそれだけ言い残すと、飛爛は陣幕を蹴り割いて腕でおしあげた。

「・・・・・・・・・ッ!何してんだこのっバカ!!」
呪縛を振り切るように駆け出したクラトの手に肩をつかまれて飛爛は陣幕の中に
引き戻される。
「あ・・・ああぁ・・・・・・・・・やっちゃた・・・」
クラトは無表情に呟く飛爛の瞳が、自分と同じその空色の瞳が何か恐ろしいもののように
見えて表情をこわばらせた。
いつかこんな事もあるんじゃないかと、クラトは薄々感じていた。飛爛は戦いの場において
後先を忘れて激情のままに飛び出してしまうことが少なくなかった、そして戦いが長引く
程にその頻度は高くなっている。
見た目通りに成長を止めてしまったように飛爛の心にはどこか幼稚なところがあり、
民や臣下にはそれが心に翼を持つように自由で好ましいものに見えただろう。
だが彼女がカタクァの長として戻るより以前から、そして今までもずっと政治向きの事を支え
続けてきたクラトには、それは酷く不安定なものとして見えていた。
事件は飛爛が心を乱すような味方に被害の及ぶ戦いもなく、強行軍ではあったが淡々と
仕事が進むこの南進の間は不安定な彼女の心も大丈夫だとクラトが油断した矢先に起きたのだ。

クラトが振り返れば背後には悲鳴を上げる間もなく、蹴り殺された死体が転がる。
「・・・お前達、姫様をすぐに連れ戻せ。・・・後の指揮は私が取ります、よろしいですね姫様」
兵達に指示を出し、腕の中で飛爛がぼんやりとうなずくのを見ると、切り裂かれた陣幕を破って
クラトは外へ飛び出した。
「シャツァルを上げろ!奴らは卑劣にも交渉の場において、姫様の命を狙った!
 もはや話し合いの余地はない!」
自分達はこの南方の地で、西の連中とも他の帝国軍とも違うということを示さねばならない、
自由と平和という旗の下に反攻の勢力を作り上げねばならないのだ。
汚名を着るのはカタクァではあってはならない、飛爛の名に傷をつけるわけにはいかなかった。

後は一方的な蹂躙だった、かつて東ローディアの城砦を数時間で壊滅させた
シャツァル飛行部隊は日暮れまでに街一つを荒野から消しさってしまった。
連携する地上部隊がおらず、ほぼ総て爆撃で片をつけたために、残された廃墟は以前の戦いよりさらに
凄惨を極めた。崩れていない建物はない、燃えるものは総て黒こげになった。
かろうじて逃げ出した住人は一切の区別なく女も子供も殺されて、荒野に点々と散らばる
むくろに群がった巨鳥がその嘴を血で濡らした。

戦場には出ずに、地上から戦いを見守った飛爛はもどってきたクラトの報告を
無言で聞くと、その後はずっと黙ってしまった。会談の場に居合わせた兵士達は厳重な監視と
口止めがされ、飛爛が何故あの場で凶行に及んだのか
誰も知るものはいない。



 



 



 



 



 


Last-modified: 2012-10-10 Wed 00:42:12 JST (3271d)