アリシア>名簿/484511 &color(orangered){};
後世に語られる西爛戦争が一応の終結を見てから一ヶ月、未だローディア各地で続く混乱は収束の気配をみせない。東ローディアとウラスエダールの滅亡、アルメナやスリュヘイムの動向、それら全ての歪みは大爛という共通の巨大な敵により一時的に覆い隠されていただけに過ぎずその傘が払拭された今、ゆっくりとではあるが確実に顕在化しつつあった。それは無論、辺境ゆえ直接の戦火に晒されなかったフロフレック侯爵領と言えど例外ではない。生き残った騎士達は問題に対応すべく忙殺の日々を送っている。ただ、それでも、あの戦争よりは良い、と騎士団を率いるオレンジ色の髪をなびかせる女騎士は思う。復興によって石材や木材、鉱物の需要が高まり、いつになく活気に満ちる街を眺めながら、彼女は今編当主である兄の執務室にいた。話題は領内の事に始まり、隣接する領地について、国の動向、他の兄弟の事家族の事、そして自分たちのこれからの事。 -- 2012-10-12 (金) 12:54:38
先の戦争の功績を認められ侯爵家は隣接するいくつかの領地を拝領する事となった。これは、その土地を治める貴族や騎士が亡くなったため実質的統治が不可能となり王国直轄となっていた領であり、これによりフロフレック侯爵領はスリュヘイムとの国境線の実に半分を占める事となる。それと同時にいくつかの提案ももたらされた、力を与えたからにはその手綱を握らねばならない、ローディアでは古くから行われてきた縁談、つまりは政略結婚である。当主であるアルフレッドには有力貴族の子女を、こちらからは王族の側室としてアリシアを、との内容だった。アルフレッドは未だ独身ゆえ前者はすんなりと行け入れられた、しかしながら後者は、アリシアではなくその一つ上の姉を出すと言う事で決着が図られる。当然、それなりの理由が求められる事となったが、侯爵家の見解はこうだった。曰く、アリシアには既に決まった相手がいると言う事、その相手と言うのはローディアの四方を固める四方公が一人東方公に仕える有力騎士候の当主である事水面下の思惑はどうあれ荒れ果てたバルトリア平原一体の復興は急務である、そこに戦争の功労者である彼女が嫁ぐと言う事は人や物を集める材料としては申し分なくフロフレック侯爵家が増長を考えた場合への牽制にもなる、ともすれば表立った反対の意見が出るはずもない。 -- 2012-10-12 (金) 12:55:01
「お手数をおかけしたでありますね兄上」「気にするなアリシア、可愛い妹の頼みだ、これくらい手間でも何でもないさ」この場合の手数とは無論婚姻の話である、表立った要請ではなかったが為にこうして折中する事も出来たとは言えそれなりの対価を支払わされる事にはなったが、復興の需要に沸く領内の景気を思えばさほど痛いものでもない。もっとも、先方もこうなる事は予想の範疇であったのだろう、そう感じるほどに交渉は迅速かつ柔軟に行われたのだから。 -- 2012-11-05 (月) 15:30:47
「しかしまぁ……それでも王家の姻族として名を連ねる栄誉をあっさり蹴ったのは、懇意にしている相手が居た事共々に驚いたぞ」机に両肘を付き掌を下に手を組む、その上に乗るアルフレッドの顔は騎士候の当主とは思えぬほどに粗野で下卑た笑みだった。しかしアリシアは気を悪くした風もなく「子飼いになるなど嫌でありますから、それと、よもやそのニヤニヤ顔は他で出してないでありますよね?」断った理由と、兄の下卑た詮索に対する牽制を心底呆れた顔で言ってのける。このような会話をする機会が今後あるかどうかも分からない、それが実の兄妹であってもだ。それが分かるからこそ止めろとは言わなかったし、兄にして止めるつもりはなかった「心配するなここだけだ、俺はてっきりあの師匠とくっつくもんだと思ってたが……ふむ、そう言えばユアフ殿はどうした?」「師匠は先月故郷の街に帰られました、確かに憧れはあったでありますが……あの奔放な生き方は私にとって少し毒だったので、憧れは憧れのままにしておくであります」そうか、と呟き飄々としたかの者の顔を思い浮かべる。決して表に出ることは無いだろう彼の働きは、戦場すら知らぬ弱冠15の娘が今の今まで生き延びたと言う事実、それを持って何よりの証左とするに足るであろう。正式に礼も言ってなかったな、と自責の念が募るが後悔しても詮無き事と気持ちを切り替えた。その道に祝福があることを祈ろう、と。 -- 2012-11-05 (月) 15:31:00
「兄上、父上の行方は……まだ分からないのでありますか?」「わからん、方々手を尽くしてはいるが……」そして話はフロフレック侯爵家の前当主であり、二人の父であるハインスへと及ぶ。しかしながらそれには負の感情が付きまとった、ハインスに対する、ではない。敢えて言葉を当てるのなら……失踪に至った顛末と、ローディアに蔓延る闇に対してである。 -- 2012-11-05 (月) 15:31:10
失踪、ハインス侯爵の今に充てられるその言葉通り、彼は王都決戦の最中に姿を消した。それも彼一人ではなく、護衛として随伴していたアリシアの母ロゥナを伴って。陰謀論からゴシップ紛いの噂まで理由は際限なく上げられた、しかしどれもその裏を取れるだけの説得力は無くやがて終戦へと至る気運の中で有耶無耶のまま闇へと沈んでいったのだ。柱の騎士の人為的製造に至る為の震源そして橋渡し、密約と外交、ハインスが行ったそれらの行動は断片的ながらも二人の耳には届いている。思う所はそれぞれであるが一つの認識は共通していた、それは、生死を問わずして彼が再びその姿を見せることはないであろうと言う事だ。 -- 2012-11-05 (月) 15:31:19
「……辛いものだ」父と母を同時に失ったその心中は容易に測れるものではないが、その不幸の中にも新たに得た関係もあるはずだ。いつの間にか雪へと変わった街、その様子を見る妹の後ろ姿にそのような声なき声をかける。季節はやがてうつろい春を迎えるであろう、しかしこの戦争の傷が癒えるのに一体いくつの春を過ごさねばならぬのか……そんな先の見えぬ状況の中であっても、せめて妹の幸せだけは願っていたい、と考えるのであった -- 2012-11-05 (月) 15:31:28
かくして、終戦より一年経たずして出来あがった新たな体制で本格的な復興へと歩みを進める。しかし、戦争が残した爪後がより深く寄り暗い場所に未だに残り続けている事を疑う余地は無い、それを薄々と感じ取りながらも今は一時の安寧を…… -- 2012-11-05 (月) 15:32:20
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