目録 Edit

第十三次ローディア大戦 Edit

時は黄金暦223年。
かつて統一王朝が築き上げた豊穣の地は、その栄光が瓦解した後もその地に住まう人々に等しく恵みをもたらしていた。
……しかし、長く続いた特権階級による政治の私物化により、母なる恵みの大地も衰えの兆しを見せていた。
恵みの衰えた大地は、人々から潤いを奪う。
徐々に、だが確実に減っていく作物。それとは反比例して増えていく人口。
物と人との釣り合いがとれていない状態が、長く続いた。
そうなってしまえば、口減らしを兼ねた威力外交という名の戦乱が蔓延るまで、そう時間はかからなかった。
もう彼是十三度目を数える東西ローディアによる戦争。
お題目は山ほどある。しかし、厳密に考えれば戦争の理由など何もない。
あくまで戦争特需による経済活性化が目的の戦争である。
つまりは、戦後の捕虜交換と利権取引が目的の御遊戯だ。
収穫期に入るか、雪が降るか、もしくはどちらかの損耗率が1割を越えればそれで終わりの、命を使った高級遊戯。
そんな御遊戯からでも財は生まれる。
舞台に投げ込まれる小銭のお零れに預かるべく、あらゆる周辺諸国も共に踊る。
見る馬鹿は儲からない。踊る馬鹿は儲かる。
最終的に西ローディアには協定連盟と公領がつき、東ローディアには神国と連邦が加担した。
果たして一番儲ける馬鹿は誰か。血塗られた道化の舞踏が幕を開ける。
かくして、黄金暦223年1月25日。
西ローディア2万 対 東ローディア1万8000
いつものように、バルトリア平原にて互いに向き合い、雄々しく名乗り上げの後に華々しく開戦。
しかし、もとより長く戦乱するつもりがない冬の会戦……士気は低く、流れ作業のような倦怠感のある戦が続く。
貴族は談笑し、将軍は鬨声に陶酔し、死に物狂いで戦うのは前線の兵士のみ。
血の舞踏は栄光という名の虚実で塗り固められ、耳当たりの良い大義名分が醜態を覆い隠す。

しかし、戦争を始めて数週間そこら……丁度、互いの掛け金がつりあい始めた頃……災禍が賭場を吹き飛ばした。
遙か北東、ヌーザ山の頂より、緑竜が気紛れに飛来したのである。
元より士気など、双方無きに等しい。そんな有様の中、肉を得た災いが一声吠えれば、それだけで前線はあえなく崩壊した。
混乱した軍勢を立て直す気など、双方あるわけもない。体の良い停戦の口実と撤退し、あとはテーブル上で話を進める。
戦争はいつもと違う結末で終わったが、結局結果は同じに終わる。
緩やかに、しかし確実に崩れていく負の連鎖を止めることは誰にも叶わない。

一方、東。大爛帝国。 数百続くかの大帝国の有様も、蓋を開ければ似たり寄ったりである。
物と人の釣り合いがとれないのはどこも同じこと。凶作、凶災、そして凶政。
中央は不作による財の不足を税で補った。
重税を課せられた各地方都市は喘いだが、中央は省みもしない。
なぜなら、重税とはいえ、普通の都市が払えないわけではないのだ。
払えないのは、不良債権を抱えている都市か、中央から冷や飯を食わされている外様の治めている土地である。
つまり、元より帝国に財を与えない都市と、翻意ありと見なされた都市だけが篩にかけらえたのである。

進退窮まったそれらの都市は、成す術もなく粛清されるか……もしくは中央に反発し、挙兵した。
だが、皇帝は省みない。天壌帝からすればこれも政策の一部に過ぎないのだ。
不穏分子を駆り出し、側近に力と土地とを与える口実でしかない。
むしろここぞとばかりに皇帝勅命を発し、大粛清を各都市に命じる。
夥しい血が流れ、その血により帝国の大地は栄える。
粛清による思想統一は、着々と進んでいた。

北方震災 Edit

先日の竜害の影響で、大陸北部中央山脈付近にて大規模地震が発生。
この地震は西側各国に被害を齎し、特に直撃を受けたバルバランドとウラスエダール連邦は甚大な損害を蒙った。
連邦は雪崩の影響でいくつかの都市が消え、バルバランドからは生活基盤を失った難民が流出。
特にバルバランドの一部の部族が蛮族となって西ローディアに侵攻したが、速やかに連合王国軍によって鎮圧された。
重装騎兵による突撃と、圧倒的な物量に蛮勇だけで対抗できるわけもなく、逆に反撃を受けたバルバランド南部のいくつかの集落が王国領となった。
しかし、最終的には協定連盟の長たる胎内洞窟の大長が講和を申し入れ、王国と協定連盟の間で同盟が結ばれることとなった。
調印式は王都にて行われ、これによって王国に制圧された集落もまた返還されることとなった。
条約については、此度はバルバランド側に非があったため、王国主導で終始話は進み、いくつかの不平等条約を半ば強制的に締結させることで、王国は国力を増大させた。
以後、この条約によって徴発されたバルバランドのバーサーカーが王国兵として、各地の戦場で散見されるようになる。

一方、帝国もまた震災と無縁でいることはできなかった。
帝国は遠方にあったため、全体が直接打撃を受けることはなかったが、帝国地下の地盤は大きな影響を受け、帝国各地で水銀が地表へと噴出。
中央平原の穀倉地帯が汚染され、相当数の農地が使いものにならなくなった。
数年続いた不作の関係もあり、流通が滞ったいくつかの都市が経済破綻。連鎖的に多くの都市が都市としての機能を果たせなくなってしまう。
中央はコレに対応するために各都市へ資金及び物資の援助を行い、帝都進駐軍を派遣して水銀を除去するなど迅速に対応したが、政争の影響で血縁的により中央権力に近い氏族や都市が露骨に優先されたため、辺境では中央に対する不信感が高まった。
それは直ぐに形となり、いくつかの部族が物資を求めて挙兵したが、悉く中央に粛清された。

第四次教化救済 Edit

地震による津波の影響で打撃を蒙った神国は首都である古都アルマスが被害を受け、経済力が低下。
コレに対し、教会は速やかな経済回復と失地回復のため、第四次教化救済を発令。
既に4度目を数えるコレは要するに侵略戦争のことであり、未開地の教化という大義名分のもと行われる虐殺である。
今回、獲物となったのは南東及び東部のまつろわざる都市国家群。
無補給遠征を嫌った神国は東ローディアと同盟を結び、いくつかの密約の元、轡を並べて聖戦という名の侵略戦争を開始した。
神殿騎士も投入されたこの自称救済により、多くの罪無き人々の血が流れたことは言うまでも無い。

同じく津波と汚染地区の拡大による打撃を受けたスリュヘイムでは食料が高騰し、最下層で餓死者が続出。労働力を補うために死体はほぼ全てアンデッド化され、アンデッドの人口が急増した。
しかし、ゴーレムやアンデッドでは単純作業はこなせても能動的かつ臨機応変な働きをすることはできない。
結局の所人の手は必要なのだ。
そのため、人的資源確保の為、公国評議会は労働者の入国審査基準の引き下げを決議。
これにより、異国人の人口が急増した。

一方、権力が内地の平野部に集中している王国と共和国は震災の影響を殆ど受けずにすんだため、外交に力をいれることで逆に都市機能の麻痺したいくつかの辺境都市を併呑し、国力を増大させた。
西の富が東西ローディアに集中し、より勢力図が露骨になっていった。

西侵大号令 Edit

帝国では水銀汚染が深刻化。
手作業の除染では土地の回復が間に合うはずもなく、多くの領民、特に下層民の間で飢餓が広がり、路頭に迷った彼らの凶行によって、かつてないほどに治安が悪化していた。
また、水銀汚染された事で使い物にならなくなった家畜たちが野に放され、野生化してしまい、これも深刻な社会問題となっていた。
各地の総督府及び中央は無論、これらに対応したが、それでも失われた食料や土地が直ぐに戻ってくるわけでもない。
具体的な打開策が見出せないまま、時だけが過ぎていった。
そして、そんな状況の中、打開策を練っていた宮廷の学者たちが汚染後の国内総生産を数年分試算した結果、どうあがいても、今のままでは数年のうちに帝国の巨体を維持できなくなる事が明白となった。
この試算結果を重く考えた天壌帝は、農耕地及び放牧地確保の為、大陸西部への大規模侵攻を決意。
帝国中の皇族、氏族、豪族に西侵挙兵の旨を認めた肉筆の檄文を贈りつけた。
後に語られる西侵大号令である。
侵略地の専制統治権を餌に、未だ力を持っている皇子皇女、各氏族や豪族達の挙兵を促し、同時に全体の士気高揚を図ったのである。
結果、彼等もまた自領土の領民を救うため、或いは野心のためにこの号令に迎合し、多くの将軍が自主的に挙兵した。
最終的には西侵のため、大陸中央部の盆地……険しい山脈の間にぽっかりと存在している大渓谷「ガルガの門」へ大軍団が集結するに至った。

宣戦布告 Edit

大陸中央東部、帝国との国境付近にて。
共和国軍や傭兵たちを引きつれ、第四次教化救済に従事していた神国の救済部隊が中立都市国家の教化中、帝国軍の偵察部隊と接触。
交戦するが、帝国軍の合理的な集団戦術、高機動な弓騎兵、魔獣、爆薬などの化学兵器に翻弄され、あえなく敗走。
多くの共和国兵、神国兵が戦死した。
神国の支配より解き放たれた各都市国家は帝国の侵攻を解放と受け取り、帝国軍を歓迎。
かくして早々に帝国軍の補給線が確保されることとなった。


しかし、同時に神国部隊の敗走により帝国の侵攻が西側諸国に知れることにもなった。
これにより、西の列強諸国は帝国軍襲来の報を受けるも、「所詮蛮族のすること」と事態を軽く考え、日和見。
西ローディア、スリュヘイム、バルバランドは軍事大国である東ローディアの国力疲弊を望み、静観を決め込んだ。
震災後の疲弊から未だ脱していない関係もあり、自国の内政整備を優先したのである。
その後、ついに帝国軍より軍使が東ローディアへと改めて派遣され、公式に宣戦布告と降伏勧告が東ローディアに通達された。
しかし、東ローディアは東侵の口実として都合がいいと逆に歓喜。
共和国政府は徹底抗戦を選択。軍使を殺害し、その首にて帝国への返答とした。
共和国は迎撃の為、大軍を編成し、猛将として名高い《鉄血伯》ダグラス=ガーランド伯爵を将軍に任命。
ガーランド伯は統一王朝時代より続く由緒ある貴族の家系にして歴戦の勇士と名高い騎士であり、この時点で多くの兵士達が必勝を確信したという。
神国軍もまた、報復の為、大規模派兵を決定。
連邦も東ローディアに圧力をかけられ、小規模ではあるが派兵を決定した。
その他、こちらもまた全体から見れば小規模であったが、異郷の侵攻を善しとしない他国の有志達なども傭兵、もしくは自発的に私兵を連れ、援軍として参戦。
無論、金目的の無法者も多く参戦した。
最終的に西側諸国連合軍は3万を越える大軍となり、帝国軍を迎え撃つ為、大陸中央東部の古代遺跡群に布陣。万全を期した。

ゾルドヴァの戦い Edit

第5皇子「玄爛」将軍率いる帝国軍先発隊は援軍を待たず、数の不利など意にも介さず進軍。
先の戦いで敵の脆弱さを学んだ帝国軍先発隊は既に必勝を確信していたためである。
また、彼らの殆どは野心の強い下位皇族の他、有力豪族や氏族の軍団によって編成されていたため、迅速な侵略による領地の確保を望んだという側面もあった。

かくして、黄金暦223年7月20日。
諸国連合軍3万 対 大爛帝国軍先発遠征師団1万5千、ゾルドヴァ古代遺跡群にて開戦。
後の歴史に血戦として語られる、ゾルドヴァの戦いの幕開けである。
下馬評では先に布陣を済ませて地の利を得た上、物量でも勝る連合軍の圧勝かと思われていたが、長年に渡り、あくまで戦後の捕虜売買と条約締結による経済活性化が目的の御遊戯戦争に馴れきっていた連合軍では、開闢以来の数百年間ただひたすら殲滅戦を繰り返してきた帝国軍に敵うはずもなく、開戦間もなく多くの部隊が混乱し、敗走。
帝国軍の生物兵器や化学兵器に対して、化学に対する知識のない連合軍ではほぼ対処ができず、馬も西側主流の重種の馬では帝国で主流の軽種を振り払うことができなかったため、早々に潰走した。
さらに、帝国に寝返った都市国家の兵士や傭兵、更には商人連合の統治していた商業都市の私兵達が敗走中の兵士たちを挟撃。
敗走を続ける連合軍は悉く各個撃破された。
元々、帝国と懇意の商人を多く抱えていた都市連合は最初から帝国に寝返るつもりであり、この裏切りもまた仕組まれたものであったのである。
知らなかったのは商人連合と反目していた貴族達だけであったという。
指揮系統もバラバラであった連合軍は蓋を開けてみれば寄せ集めの烏合の衆でしかなく、一度混乱してしまえば、抵抗らしい抵抗も出来ずに敗北した。
また、余談ではあるが、決戦前の名乗り上げなどを悠長に行う貴族も多く、それらのだいたいはそのまま醜態を晒して戦死したという。
鉄血伯ことガーランド将軍もまた例外ではなく、最前線にて声高に名乗り上げをしていた最中に矢を脳天に受け、即死したと伝えられている。
かくして、東ローディアの趨勢を決めるこの戦いは、西の大惨敗という形で幕を閉じることとなった。

東ローディア滅亡 Edit

破竹の勢いで緒戦を制した帝国軍はそのまま西進し、守備部隊の消えた東ローディアの東方都市群を恫喝。
そのほぼ全てが無条件降伏し、帝国の軍門へと下った。
商人連合は以前から帝国と懇意であったため、帝国による征服はスムーズに進み、帝国軍は各地の戦で快勝をかさねた。
各国家より正義感と愛国心を携えて参戦した義勇軍及び腕利きの傭兵達……特にスリュヘイムの傭兵や義勇兵が連れるゴーレムとアンデッドは帝国軍の軍馬をおびえさせたため、一定の戦果を挙げていたが、それでも圧倒的物量と正体不明の兵器、そして西側から見れば魔物以外の何者でもない各種獣や虫を扱う帝国軍の勢いをとどめることは叶わず、ついに東ローディア首都、「ゾド」にまで帝国軍の手が伸びることとなった。
しかし、結局会戦にはいたらず、最後まで抵抗を続けていた東ローディア首脳陣は帝国軍のゾド攻略に至って全面降伏を選択。
命惜しさに要塞という有利なカードを自ら切り捨て、無血開城したのである。
誇りを投げ捨て、あっさり無血開城したのには他にも理由があり、そのうちの一つが水銀毒の蔓延であった。
各地で振るわれた帝国軍の水銀兵器による水銀毒が後退した兵士達を蝕んでいたため、共和国正規軍で動ける兵士はもう全体の6割ほどしかおらず、共和国正規軍の士気は既に底を突いていたのである。
東ローディア首脳陣はここに至ってゾドの要塞といくつかの称号授与(無論西側でしか意味がないもの)を手土産に帝国軍に下ろうとしたが、そんな甘えた要求を帝国軍が受け入れるわけもなく、宣戦布告の際に告げた内容通り、徹底抗戦した際の報復を淀みなく敢行 。首脳陣たちは極刑に処されることとなった。
要塞を無傷で譲り渡した功績は大きいと帝国軍は考えたため、せめてもの慈悲として彼ら首脳陣を蠍闘刑に処したが、残念ながら彼らにそのチャンスを生かすことは敵わず、残らず大蠍の餌になったという。
その後、動ける兵士は奴兵として手枷をはめられ、動けない兵士や反抗的な市民は一人残らず殺された。
そのほか、抵抗を続けたものはそれらの女子供はおろか、その縁者や親しい友人に至るまで皆殺しにされ、根絶やしとなった。
かくして東ローディアこと神聖ローディア共和国は事実上解体され、滅亡。
東ローディアの広大な領土は、地図上では大爛帝国と表記されることとなった。

ローランシア首脳会談 Edit

東ローディア滅亡の報を受け、西方列強は震撼。
ことここに来て初めて自分達が置かれている状況を理解し、急遽、西ローディア王都「ローランシア」にて国際会談の場を設ける。
この国際会談には主催者であるローディア国王「アランドロス四世」は勿論のこと、神国の教皇、連邦の首相「ジン=シャクロージャ」、バルバランドの大長といった錚々たる面子が出席し、あの『汚染公』スリュヘイム大公爵ですら代理として遠隔操作の超高級ゴーレムを遣わせたほどである。
会談は各国首脳が集ったことで一見スムーズに進み、かくして西側諸国は未知の侵略者たる大爛帝国に対抗するべく急速に結束。
『統一連合』と名乗る巨大勢力となった。
対して帝国もまたその公布を受け、統一連合に対して宣戦を布告。全面戦争の様相を呈することとなる。
後の歴史にて文字通り一大叙事詩として語り継がれることになる、「西爛戦争」の火蓋が、この時まさに切って落とされた。
各地で小規模な小競り合いや都市規模の戦が絶え間なく続き、国境線が日替わりで引き直される、動乱の時代の幕開けである。

第一次バルトリア会戦 Edit

宣戦布告後、帝国軍は間を置かず即座に西進。連合盟主国である西ローディアに対して電撃的な中央突破作戦を仕掛ける。
対する西ローディアは同盟各国に増援要請を出し、統一連合軍を編成。
ローディアの重装騎兵、バルバランドのエルフとバーサーカーと重装歩兵、神国のファランクスと神殿騎士、スリュヘイムの不死兵とゴーレム、連邦の竜貴兵と西側の精鋭が集結した。
この大軍団を率いるべく、ローディア国王アランドロス四世も自ら出陣し、総大将として大本営を設置した。
対する玄爛将軍率いる帝国軍本隊は撃ち滅ぼした東ローディアの兵士達を奴兵として引きつれ、さらには合流した元東ローディア商人連合軍を麾下に加え、進軍。
かくして統一連合軍5万 対 帝国軍先発遠征師団3万
かつて西ローディアと東ローディアが幾度も争いあった名戦地、西ローディア国境、バルトリア平原にて開戦。
東西の戦力が結集した初の東西大戦、第一次バルトリア会戦である。
2万の不利。普通ならこの時点で尋常な西の軍勢なら退くはずだが、帝国軍は気にも留めず前進。
それもそのはず、情報戦を重要視していた帝国軍は西側諸国に対して以前から調べを進めており、元々反目していた国同士が急場凌ぎの為に徒党を組もうと足並みが揃うはずがないと確信していたのである。
事実、命令系統もバラバラな即席連合軍は大幅に初動が遅れ、数の有利を生かせぬまま各個撃破を繰り返され、多くの都市がろくな抵抗もできないままに帝国軍に蹂躙された。
その強襲の際、もっとも前線で使い潰され、そして活躍した兵士たちが元東ローディアの奴兵達であったことは皮肉という他ない。
そして遂に帝国軍は西ローディア国境線を侵し、中央街道周辺の防衛の要、ランス要塞を突破。制圧する。
これにより、中央街道を制し、王都への通行路を手に入れた帝国軍は一点突破作戦を強行。その機動性を用いて王都へと迫った。
一方的に続く苛烈な帝国軍の攻勢により、西ローディア陥落も時間の問題かと思われていたが、その進軍は唐突に終わりを告げる。
謎の第三勢力が帝国軍の後背より出現し、最前線の帝国軍を連合軍と共に挟撃。
分断された帝国軍前線部隊は壊滅し、後背の帝国軍本隊を退けさせるに至ったのである。
この謎の第三勢力こそが後に「柱の騎士」と呼ばれる巨大なアンデッドのゴーレムたちである。
彼らは誰かに作られたものではなく、最前線で死亡した夥しい数の西側の戦死者たちの無念が、西側特有の魔術汚染によって突然変異し、偶然生まれたモンスターである。
バルバランドの不屈の闘志、ローディアの屈強な肉体、アルメナのキメラ魔術、スリュヘイムのネクロマンシー……今まで隣り合ってはいても決して交わる事のなかったこれらの技術が戦場という異常な空間の中で歪に組み合わさり、死という形で結実したのである。
完全な偶然の産物ではさすがの帝国軍もその存在を予期できるはずもなく、大いに動揺し、最終的にはこの謎の怪物達を恐れて後退。
奪取したランス要塞を完全に放棄し、東ローディアへと撤退していった。情報戦を重視するが故に、不確定要素に対しては強気に出る事ができなかったのである。
こうして、帝国軍の電撃的な中央突破は失敗に終わり、連合は首の皮一枚を残して滅亡を免れることとなった。
辛うじて勝利を収めた連合ではあったが、敗走した帝国軍を追撃できるほどの力は最早なく、また、帝国軍も強行の連続で補給が途絶えており、互いに軍備を整えるための時間が必要になったため、束の間の冷戦が訪れることになった。

戦時に於ける日常 Edit

互いに多少の落ち着きをとりもどせば、戦争状態に突入したことで連合、帝国問わず、各地で戦闘特需による経済の混乱やそれに伴う暴動などがおき始め、連合、帝国共に内政整備に時を割かれることとなった。
どこの国でも生活の安定を求めるため、職を失った低層市民はやむにやまれず兵士になり 愚連隊同然の即席兵士が増え、治安も悪化の一途を辿っていた。
戦時という異常環境の毒が、徐々にそれぞれの国を侵していたのである。
また、その他の小競り合いや初戦でも西側の連敗が続き、西側各国、特に異人種の多いスリュヘイムで人種差別が深刻化。
一部の集落では東方の血を引く人間の虐殺事件などが起きる。
帝国でも特に最前線の都市や兵士達の間で同じような嫌西感情が育ち、無意味な虐殺や略奪が目立つようになる。
当然どちらの国も国家そのものはこれらの行いに対して厳正に対応したが、劇的な効果が生まれることはなかった。
むしろ、これは無理からぬことである。彼らは互いに最前線にたち、互いに互いの大事なものを奪い合っているのだ。
ある意味で、当然の結果といえた。

ゼナン要塞攻略戦 Edit

依然帝国の有利は動いていなかったとはいえ、互いに内政整備に力を入れていた関係もあり、しばらくは小康状態が続いていた。
しかし、その静寂を破り、ついに帝国の大規模増援が本国より到着。
圧倒的な物量と優れた連携戦術により、帝国軍は再び前線を突破した。
柱の騎士他、西ローディアの重装騎兵、バルバランドのバーサーカー、そしてスリュヘイムのアンデッドとゴーレムが守る中央はなんとか膠着状態を作り出していたが、まず最初に脆弱なウラスエダールの守る北方守備軍が敗走し、次いで歩兵中心の神国軍が守る南方守備軍が壊滅。
ウラスエダールは包囲されるも、竜害と厳しい自然環境が天然の防壁として機能し、なんとか持ちこたえていたが……神国では本土決戦の様相を呈することとなる。
かくして黄金暦224年7月29日……

神国軍1万3千 対 大爛帝国南方々面軍3万。

神国軍前線最終防衛線、城塞都市ゼナン城壁前にて開戦。
後にゼナン要塞攻略戦、もしくはゼナンの悲劇と呼ばれる戦いである。
防衛戦にかけては不敗神話を誇る、神国軍の本領が期待された一戦だった。
何故なら、他国の軍は主力が帝国軍の他方面軍と闘っていたため、思うように増援が出せなかったためである。

緒戦では要塞化された城塞都市と城壁という決定力を持ち、それらに大量にしつらえた火砲とバリスタによって神国軍が盤面を優位に進めていたが、要塞前に敵主力をひきつけている間に帝国軍の別働隊が南方の丘陵地帯を制圧。
風読みにより、風上からゼナン要塞に向けて大規模な毒攻めを敢行した。
毒草や毒虫を乾燥させ、粉末状にしたそれらの毒煙は空気よりも比重が重く、相当な長時間城塞都市を蹂躙し、城壁の内側に住んでいた一般市民や貴族達ごと兵士達を悶死させた。

こうして守備隊、住民ともにほぼ全滅したゼナン要塞はあえなく陥落し、神国の防衛不敗神話も崩れ去ることとなった。

ゼナン焦土作戦 Edit

最終防衛線であるゼナン陥落の報を受け、形振り構っていられなくなった神国は、こと、ここにいたり、ついに虎の子の神聖騎士団1個師団、約5000の投入を決定する。
かくして、《アークパラディン》エミリオ=エゼキエーレ率いる5000人の神殿騎士達は近隣の城塞都市より出撃し、神国中枢にまで続く補給線と侵攻路を断つべく焦土作戦を敢行。
自陣から陥落したゼナンまでの間に存在する全ての村落、橋、街道を無差別に焼き払いつつゼナンへと侵攻した。
その後、ゼナン要塞に対し自爆特攻さながらの強撃を行い、全滅するも、帝国軍とゼナンに多大な打撃をあたえ、その命を賭して南部前線の拡大を防いだ。
このとき、帝国側の記述では神聖騎士団の異形と、そのおぞましい戦術の数々が記されているが、どれも余りに突飛な内容で信憑性が薄く、今日でも歴史家の間で議論が続けられている。

対して、西側の記述にはただ「神聖騎士団による決死作戦」とだけ記されており、後の歴史でも詳細は定かではない。

柱の王 Edit

南部戦線は神国の焦土作戦が功を相し、有力な侵攻ルートと補給線の分断により帝国軍の足が完全に止まる。
おぞましい神殿騎士達の狂信と正体により、多くの帝国兵が精神を犯され、心を病んだためである。
制海権を依然手放さない神国は海沿いの侵攻を断固として許さず、さらには後続で到着したスリュヘイムのアンデッド、ゴーレムによる24時間体制の警戒により、帝国軍は思うように進めずにいた。
中央戦線は度重なる戦闘により、今度は西の魔術師により人工的に生み出された柱の騎士の出現……特に柱の騎士たちを統制するために生み出された柱の王達の出現……により持ち直し、泥沼の持久戦の様相を呈し、北部戦線は竜害により双方共に遅滞。
暫く大規模な戦闘はなく、終わりの見えぬ小競り合いが続いた。
また、柱の王を開発するにあたり、多くの貴族達が「貴い犠牲」となったが……その殆どが国を、民を、平和を願う真の国士であったことは、皮肉であったとしかいいようがない。

戦争が齎したもの Edit

戦乱が長引いた結果、西側各地で帝国軍の水銀兵器による汚染が深刻化。
水銀中毒による死者が増加する。
しかし、水銀に対する知識の稀薄な西側では、それは帝国軍の呪術師による疫病であるといった迷信が流布され、謎の疫病を恐れた多くの市民たちによる自主的な「浄化焼却」が相次いだ。
大規模なものでは、集落ごと焼却された事例などもあったという。
それに伴い、スリュヘイムでは防毒マスクの売り上げが増加し、神国では免罪符の売り上げと治療による布施が増加。
特に先のゼナンでの戦いで多くの神殿騎士を失った神国は新たな神殿騎士を育成するため、国内より志願者を募り、同時に多くの奴隷を買い上げた……中には他国より拉致された兵士などもいたという。
王国とバルバランドでは柱の王になる為に相当数の有能な指導者や貴族が自国を守るため、生贄に志願してしまったため、内政整備が滞り、無数の街道を失った影響なども重なり、経済力が低下。
王国金貨の価値が暴落し、各地で経済混乱が起きた。

第二次バルトリア会戦 Edit

南部戦線が神国軍の焦土作戦により停滞し、北部戦線も測らずも度重なる竜害によって双方共に衰弱。
そして、中央戦線も柱の騎士とそれを従える柱の王という決定力が生まれたことで膠着していたが、何度も柱の騎士達と戦う内に帝国軍は対処法を学習してしまい、徐々に西の有利が失われていった。
そして、黄金暦225年3月20日。
帝国軍北方々面軍は、竜害の被害著しいウラスエダール連邦には帝国軍の後背をつく力はないことを確認し、全軍転進。
中央にその矛先を向けた。
かくして、帝国軍はローディア北東、東の2方向より進軍を開始。
対し、度重なる内政混乱によって疲弊し、内部での反乱や暴動を鎮圧するために兵を割いていた連合にはこれを全力で迎え撃つだけの体力はなく、万事休す状況となった。
それでも盟主国たる西ローディアは疲弊したとはいえ他国に比べれば未だ国力健在であり、重装騎兵を中心とした連合王国軍を派兵。
バルバランドの各部族も諸々の戦いで討ち果たされた盟友の仇を討つべく、大規模な数のバーサーカーがエルフの呪歌、呪舞遣いと共に参戦した。
しかし、スリュヘイムと神国は依然進軍を続ける帝国軍南方々面軍の相手に手一杯であり、僅かな手勢しか送る事は叶わなかった。
国家総力戦の予感を強めつつ、ローディア国王アランドロス四世も自らこの3万の大軍を率いて王都より出陣。
かくして、統一連合軍3万 対 大爛帝国軍5万、未だ戦禍の爪痕残るバルトリア平原にて再び相見える。
史上名高い、第二次バルトリア会戦の幕開けである。
数の不利から守勢に回らざるを得ない連合軍は各所に設置した砦や城に篭城しつつ、柱の騎士をさながら装甲兵器のように利用して慎重に進軍し、今までの戦いから考えれば想像も出来ないほど善戦した。
中でも連合王国軍の重装騎兵は十分に間合いをひきつけることさえ出来れば白兵戦において無類の強さを誇り、特にバルバランドより大量に輸入したミスリル合金製の鎧で全身を固めた騎士達は帝国軍を圧倒した。
それでも包囲戦術を駆使し、さらには魔術基点の設置によって機能し始めた東方魔術によって地の利を味方につけた帝国軍は物量によりこれらを圧殺。
わずか数日のうちに前線の砦は全て陥落し、第一次会戦を髣髴とさせる状況となる。
ついに中央戦線が帝国軍に突破され、連合側の不利が決定的なものとなれば、戦場にその状況が伝播。
主に第一会戦を生き残った部隊から逃亡者が続出した。
帝国の流布した恐怖という名の病は、既に前線の兵士を侵していたのである。
脱走兵の続出により、統制を失った連合軍の約半数が落伍。状況は絶望的となる。
ついにはアランドロス四世自ら剣を取り、陣頭指揮を執る事態にまでなるが、状況は好転せず、ついにアランドロス四世は連邦より引き抜いた数人の術師に最後の命令を下すこととなる。
その最後の命令こそが、自らと、そして志願者への竜印の使用である。
無論、竜印はかの魔術宗主国アルメナですら使用を諦めた曰くつきの禁呪であり、まともな動作などするはずもなく、ほぼ全ての志願者が鱗交じりの醜悪な肉塊となって果てたが……アランドロス四世はその強靭な精神力と義憤により最後まで変異に耐え抜き、巨大な白竜「グランドドラゴン」へと変化。
柱の騎士と柱の王を引き連れ、単身帝国軍へと突貫し、その爪牙とフレイムブレスにより、獅子奮迅の活躍で帝国軍を圧倒した。
しかし、竜印による変化に人間が耐え切れるはずもなく、3度目のブレス放射と共に身体が内側から焼け落ち、自滅。
帝国軍は数を減らしつつも未だ士気を失わず、むしろ白竜撃破により士気を高めて前進したが、アランドロス四世の決死の活躍により時は稼がれ、ついに後方よりスリュヘイム、神国の増援が到着。
さらに、密かにスリュヘイムが開発を進めていた新兵器、超重魔導砲ゲヴァルト・リヒトがはるか遠方スリュヘイム本土より発射され、帝国軍の前線基地を攻撃した。
規格外の長射程を誇る魔導砲の砲撃には流石に手も足も出ず、帝国軍は再び撤退。
大きな被害を出しながらも、なんとか連合軍は勝利を収めた。

魔性の研究 Edit

魔導砲は実は数度の稼動が限界であり、既に発射は不可能になっていたのだが、帝国軍にその情報が知れるわけもなく、帝国軍は魔導砲の長射程を恐れて中央突破を断念。南方と北方に再び力を入れる。その影響で中央の守備が滞り、連合軍の攻勢が暫し続くこととなった。
しかし、連合軍にもそれほど力が残っているわけではなく、前線を押し返されない程度の消極的な攻勢が主であり、大勢は結局変化していなかった。
このままではいつ状況を打開されるか知れたものではないと、連合内に緊張が走り、主に王国と神国が新戦術の開発に力を入れだす。
その新戦術こそが前回の会戦でアランドロス四世が使った禁呪、竜印及びドラゴンの新たな利用法である。
王国と神国は密かに決死隊を組織してドラゴンの巣へと幾度となく調査に赴いた。
決死隊は僅かなデータと甚大な被害を王国と神国に齎したが、これらのデータは結局今まであった情報を裏付ける程度の力しかもっておらず、有用に使われることは最後までなかったという。
同時に、柱の騎士達の有用性も再確認されたため、主に神国の神官とスリュヘイムの技術者達を中心に研究が進められ、本格的な量産が開始される。
一部の領主や貴族達はこのおぞましい所業に嫌悪感を露にしたが、状況が倫理観よりも実用性を求め、そして世論もそちらに傾いていった。
ついには、この柱の騎士の人工作成に口を挟むものは消え去り、連合の土壌はより邪悪なものへと変質していった。
また、戦乱が長く続いたことで負傷者の数も増え、それに伴いアルメナ教に治療を施された兵士の数も増えていき、前線では全身甲冑やローブ、もしくはガスマスクで素顔を隠す事が自然と推奨されるようになっていった。

ウラスエダール連邦崩壊 Edit

中央戦線が膠着を続ける中、ついに竜害の隙間を縫い、帝国軍北方々面軍と帝国本土より派遣された山岳騎兵師団が南、東の二方向より連邦を挟撃。
4万を越える大軍が連邦を包囲し、降伏勧告を行った。
対し連邦はそれを受け入れ、全面降伏を選択。
元々、西側に冷や飯を食わされていた連邦には西に対する愛着はそれほどなく、むしろ好条件をちらつかせる帝国についたほうが得策と考えたためである。
無抵抗降伏に寛大な帝国は連邦を歓迎し、物資援助と資金援助を約束。
連邦は帝国麗下の属国となり、正式な調印式が連邦首都にて行われる運びとなった。
しかし、西方列強諸国がそれを許すはずもなく、王国兵と神国兵が主な連合軍決死隊が調印式を強襲。
同時にドラゴンの巣への強行調査で手に入れた貴重な資料にして爆弾、ドラゴンの卵を投石器にて連邦首都に投下するという暴挙に出た。
程なくして西の空より現れた巨大な赤竜は激怒し、暴走。
七日七晩フレイムブレスを吐き続け、連合軍、帝国軍、連邦の全てを悉く焼き尽くし、連邦の大地を焦土へと変えた。
総勢死者10万を優に越えるこの大竜害により、ウラスエダール連邦は滅亡。
山脈の形は変わり、巻き上がった粉塵が雨雲となり、黒い雨となった頃……既に連邦の大地に生けるものの姿はなく、高熱溶解後に急速に冷やされた大地はガラス化し、文字通りの不毛の大地となった。
ガラスの荒野と化した連邦の大地には最早戦略的価値は一切存在せず、また、踏みしめるだけでも家畜が足を痛めるこのガラスの大地には、駐留は愚か、補給線を延ばすことすら困難であった。
この焼野を前にして、流石の帝国軍も北方の元連邦領征服を断念。
連合もまた同じくこれを断念し、同時に強大すぎる竜の力の制御は人間には不可能であると、畏怖と共に再認識した。

バルバラの誇り Edit

連合、帝国共々北の竜害で手痛い被害を蒙り、特に北方々面軍をほぼ全て失った帝国軍は今までの広大な戦線が維持できなくなったため、あえなく南方侵攻を断念。
長らく南方の拠点として聳えていたゼナン要塞を破棄し、南方方々軍を撤退させ、解体。
その後、主力と共にゾド要塞に集結させ、再編した。
これにより、帝国軍本隊は総勢15万を越える大軍団となった。
戦線を収縮した代わりにこの大軍団は全てが滞りなく補給を受けることが可能になり、一度は後退させた戦線を再び連携と物量により、ジリジリと押し上げ始めた。
しかし、連合軍も無力ではなく、ここまでに蓄積してきた帝国軍への対応策を生かして各地で善戦。
長い戦いの中で指揮系統のある程度の統一化がなされ、毒にはアンデッドとゴーレム、弓には神殿騎士とファランクス、そして白兵戦では重装騎兵とバーサーカーと、帝国軍のとる戦略にあわせて各兵科の特徴を生かしつつ戦うようになったのである。
だが、学習を続けていた事は帝国軍のほうも違いがなく、むしろここにきてやっとお互いに対等な戦いが出来るようになってきたといえる有様であった。
戦術が拮抗したところで経験差が覆るわけもなく、未だ鼻先一つの差で帝国軍の有利は揺るがなかったが……そんな時、転機が訪れる。
北方の元連邦領にバルバランドの軍隊が今は亡き連邦の竜鱗装備を携えて突如出現し、帝国軍を幽鬼の如く北方より強襲したのである。
雪崩の如く突き進んでくるバルバランドのバーサーカーたちは吹雪と森林を味方につけ、雪山の中から負傷も凍傷も気にせず帝国軍へと躍り掛かり、破壊の限りを尽くした。
北方の守りが手薄になっていた帝国軍はこの突然の強襲に対応できず、北方守備隊は全滅。残存部隊は命からがら撤退した。
この突如現れた戦士達は、バルバランドの部族の中でもかつてのウラスエダール連邦と親密な関係にあった特に屈強な部族であり、「友の墓標を立てるために」という動機で極寒の山脈を切り開き、ガラスの地獄を越えてウラスエダールの地に集落を築いていたのである。
無数の墓標と共に生まれたそのいくつかの集落には村としての機能などは一切備わっていなかったが、彼らの切り開いた新たな山道によって王国から北方への迂回路が出現したことになり、さらには集落が存在する事によって、非常にお粗末ではあるが、補給路が確保された状態となったのである。
これにより、北をバルバランド、西をローディア、南を神国とスリュヘイムによって包囲され、熾烈な二正面作戦を展開せざるを得なくなった帝国軍はジリジリと前線を後退させ、ついに本隊がゾド要塞に下がらざるを得ない状況にまで追い込まれることとなる。

ゾド要塞包囲戦 Edit

包囲網の完成による敵戦力の分散により、物量差を覆した連合軍は各地で快勝を重ね、進軍。
各国の特色ある兵科が見事に連携し、柔軟に帝国軍を撃破していった。
西ローディアは王室貴族が祭り上げた傀儡をひとまずの王として据え、元老院も今はそれを支援する形で結託。これにより、今まで分散していた西ローディアの権力が一手にまとめられた形となり、間接的に統一連合全体の統率を高めたのである。
アンデッドや柱の騎士達を盾にしつつ距離をつめ、至近距離に入ってからは公領軍のマスケットの一斉射で敵の突撃を阻害、最後に重装騎兵がバーサーカーと神殿騎士の援護を受けつつ圧殺するという定石は、物量差を覆された帝国軍には劇的に作用し、さながら第一次会戦の状況を真反対にしたような一方的な展開が続いていた。
最終的に戦線はついに帝国軍前線の最重要拠点、元神聖ローディア共和国首都ゾドにまで迫る事となった。
かくして、統一連合軍12万対大爛帝国軍8万……ゾド要塞前にて会戦。ゾド要塞攻略戦である。
第5皇子玄爛率いる帝国軍は篭城を敢行し、守備を固めたが、石城が主な西側諸国の方が攻城戦の技術に優れている事は以前より明白であり、状況は危機的となった。
ついに兵糧尽き、ゾド要塞内の帝国兵達は重傷者に止めをさして食すまでの極限状況にまで陥ったが、そのとき東の地平線を埋め尽くし、友軍が到着。
長期出兵に業を煮やした天壌帝がついに本国主力の一部を増援として投入したのである。その数、実に10万。総大将として送られたのは次期皇帝候補の1人とすら言われている実力者、第2皇子鳳爛。
圧倒的物量と帝国本土の主力による高度な連携戦術により連合軍は圧倒され、撤退。
いつかの連合軍のそれと同じように、首の皮一枚で帝国軍は全滅を免れた。

王都決戦 Edit

帝国本土より届いた10万の増援は宛ら野火の如く戦線を侵し、その帝国軍の圧倒的物量によって連合の前線は加速度的に崩壊していった。
連合軍は帝国軍の包囲を行うために全軍を各方面に分散していたため、それが仇となったのである。
第5皇子玄爛にかわって全軍の指揮を執ることになった第2皇子鳳爛は物量を余すことなく用い、多大な犠牲を出しつつも前線を押し上げ、中央からはその手腕を賞賛されたが、現場からの評判は頗る悪かったという。
そして、ついに帝国軍の諜報部隊により魔導砲が既に発射不能になっているという情報が帝国軍に齎され、帝国軍は再び中央突破を強行。
未だ各地に部隊が散ったままの連合軍ではこれを留める事は叶わず、各地で敗走を続け、全軍なんとか集結したころには、ついに王都決戦にまで持ち込まれていた。
連合軍は指揮系統は統一されていたが、今度は半端に統一された指揮系統が現場の柔軟な行動を阻害する結果となってしまい、決戦には強い体質になるかわりに散発的な戦闘に対しては脆弱になってしまっていたのである。
かくして、黄金暦226年9月15日。
統一連合軍10万対大爛帝国軍15万……。
西ローディア王都 " ローランシア " 前にて開戦。
統一連合はこの戦で負ければ中央水源を奪われることになり、それは重農主義を掲げるローディア連合王国の国家体制崩壊を意味する。
まさに、西爛戦争の趨勢をきめる天下分け目の一戦であった。
緒戦は帝国軍が物量により圧倒したが、城砦・要塞前にて公領のマスケットが火を吹き、帝国軍の突撃を阻害。
それでも突出してきた兵士は神殿騎士とバーサーカーが撃退し、隙を見せれば連合王国の重装騎兵による突撃により悉く帝国軍を殲滅した。
しかし、帝国軍は圧倒的物量と化学兵器、そして蟲や毒による生物兵器のほか、徹底的に距離を取った弓騎兵による引き撃ち、火計、夜襲などで冷静にこれらに対処した。
戦の後半では水銀毒なども連合軍内で蔓延し、前線復帰する兵の数もかなり少なくなっていた。
数の有利から依然帝国軍が僅かな優勢を保ってはいたが、それでも、最早そのような優勢などいつ吹き飛ぶとも知れない切迫した戦いが各所で展開されており、お互い既に一歩も引かず、前線では完全に戦局は拮抗していた。
帝国軍は続々と届く増援を前線にひたすらつぎ込み、連合軍はそれを食い止めるべく焦土作戦なども交えて遅延策を講じたことで、会戦は長期戦の様相を呈する事となった。
この時点では、未だ勝負の行方は誰にも分からなかった。

皇帝崩御 Edit

戦争もいよいよ長期化し、ついに黄金暦227年の初めにさしかかったとき……帝国本土よりさらに5万の増援が届き、帝国軍が完全に前線を掌握。
ついに王都の城壁が崩れ、陥落間近となった。
この時。誰もが王都ローランシア陥落及び統一連合の敗北を確信したが……そのとき突如、第二皇子凰爛率いる帝国軍本隊が転進。帝国本土へと撤退を始めたことで状況は一変する。後詰めの帝国軍5万も混乱し、同じく撤退を始めた。
この謎の転進の理由……それこそがこの西爛戦争に終止符を打つ決定打であった。
そう、本国でついに天壌帝が崩御したのである。
この報を受け、後方に控えていた有力皇族は中央の権力闘争に遅れをとるまいと、悉く本土にまで退却してしまう。
結果、突出した前線部隊だけ取り残される形となり、戦場に置去りにされた帝国軍残党は完全に連合軍に包囲される形となってしまった。
前線部隊は必死の応戦で包囲網からの脱出を図ったが、半数以上はあえなく戦死。
前線で陣頭指揮を取り続けていた第五皇子玄爛も討ち死にし、帝国軍は世紀の大敗北を喫することとなった。
無論、残された部隊に前線を押し上げる力があるはずもなく、皆悉くゾドにまで撤退していった。

こうして王都決戦は統一連合軍の完全勝利で幕を閉じた。

帝国残党掃討戦 Edit

前線に取り残された帝国軍残党はゾドにまで後退したが、状況は全く好転しなかった。
無論彼らは即脱出を試みたが、連合軍の追撃部隊を振り切る事は叶わず、殿が本隊の撤退支援の為、ゾド要塞にて連合軍を迎え撃つこととなった。
残された下位皇族のほか、現地昇進した武将などの多くは生きて帰った後の立場を保証する後ろ盾がどうしても必要だったのである。
正しく苦渋の選択であった。
かくして黄金暦227年3月5日。
統一連合軍追撃隊5万対帝国軍残党1万5千……ゾド要塞前にて開戦。
最後まで最前線に残された帝国兵は皆歴戦の勇士であり、熟練の古強者たちであった。
しかし、既に高位の皇族はほとんど前線には残っておらず、指揮系統が完全に崩壊した帝国軍は散発的な抵抗をすることしか叶わなかった。
それでも、帝国軍の統治は現地民には好評を得ていたため、彼らは現地の人間の協力も受けて最後までゾド要塞にて篭城を続け、善戦したが、終始連合の有利は微塵も動かず、敗北。
最終的に元東ローディア商人連合に裏切られ、地下の補給ルートを連合軍に押さえられたことで帝国軍は完全に沈黙。降伏した。
しかし、連合軍は降伏を拒否。
連合の帝国に対する憎悪は根深く、要塞内の帝国兵は誰1人として捕虜にされず、無惨に虐殺、拷問、リンチされ、ひどいものは神国の邪悪な魔術の生贄に捧げられた。
かくしてゾド要塞は統一連合の手に渡ることとなり、東ローディアの要所を抑えられた帝国軍はいよいよ大規模に敗走を始める事となる。
戦の時間は終わり、屠殺の時間が始まったのである。

統一連合勝利宣言 Edit

ゾド要塞を奪取し、元東ローディアの地をとりかえした統一連合は西爛戦争の終結と共に自らの勝利を宣言。
帝国側からの声明は特になかった。既に本土で内輪もめが始まっており、内戦の兆しを見せていた帝国には最早対外戦争にかかずりあっている暇はなかったのである。
無論、統一連合側にとってそのような都合など関係あるはずもなく、帝国側の返答も待たず、未だ各地に潜伏する帝国軍残党を狩り出すべく、各地に大軍を派遣した。
今まで帝国軍に散々煮え湯を飲まされてきた連合兵の士気は非常に高く、驚異的な執念と嗅覚で各地に潜伏する帝国軍残党を発見し、各個撃破していった。
多くの帝国兵の血が流され、また、帝国兵に協力する村々や都市国家なども悉く粛清された。
ついには東ローディアの地は再び連合の手によって征服を果たされ、かつて統一王朝によって統一された大地は今再び統一連合の手によって統一された。

そして、各地で快勝を重ねた連合は対帝国戦のノウハウを身につけ、一部の過激派と決戦主義者が増長。
帝国に戦争借款の賠償を求めるべく、大規模東侵の必要性を訴え、強行するに至る。
こうして、半ば強引に総勢5万の先発隊の帝国出兵が決定された。
識者の多くはこれを強く批判したが、世論と決戦主義者の強論がこれを許さず、結局再び連合は戦火へと身を投じる事となった。

帝国国境攻防戦 Edit

再編成された統一連合軍の繰り出した先発部隊5万は未だ併合ままならぬ東ローディアの地へと侵攻。
総大将はローディア王国元老院の有力貴族にして騎士である『聖剣公』アルバート=シュタイン公爵が務めたが、お飾りの将軍であったため、公爵が前線に出ることは最後までなかったという。
統一連合軍は帝国が通った街道をそのまま通り、東侵したが、東側の各都市国家はここ数年に渡る帝国軍の統治によって親帝国に傾いていたため、連合への協力を拒否。
それらの都市国家を悉く併呑しつつ行軍したため、行軍が遅れ、帝国国境にたどり着くころには既に季節は冬になっていた。
ここに来て西と東の微妙な気候の違いと冬将軍の猛攻によって連合兵士は体力を奪われ、軍内で奇病が流行り始める。
それは所謂風土病というものであり、それ自体は実際はたいしたものではなかったのだが、薬学の知識に乏しい西側各国ではこれらに有効に対処する事ができず、また、帝国の呪術師による攻撃であるという噂話が流布され、著しく士気が低下。
帝国国境沿いの国境要塞にたどり着く頃にはすでに全体の3割前後が落伍しており、その後は戦闘らしい戦闘にもならず、帝国軍の反撃によって撤退した。
帝国も帝国で皇位争いによる内乱の真っ最中であったため、追撃はせず、この戦闘の結果は有耶無耶となった。
なお、この帝国国境攻防戦という名称も、連合軍の武将の1人が勝手につけただけの名称であり、東側ではそもそも戦闘の記録として残されていない。

かくして、西爛戦争に纏わる戦乱は一応の決着を迎え、東西各々、戦後処理に追われることとなる。
しかし、その準備もまた次の戦乱の為のものでしかない。
既に次の大戦へと続く戦火は……燻り始めていた。


Last-modified: 2012-09-07 Fri 12:41:34 JST (4211d)