企画/叙事詩
 
 
 



 


 


 

 

  〓 〓  

 

 (新カタクァの建国が宣言されて以降、その西側世界の中で存在感は増していた。)
(しょせん蛮族しか住まぬとされていた、旧東ローディア南部がカタクァという中核を得ることで)
(一夜にして巨大な国家勢力になったような感すらある。)
 (しかし内実はかつて東ローディアやアルメナに対して反目を続けていた南部の都市国家郡)
(と彼らに組する商人連合の寄せ集めにすぎない、長年に渡る根回しがあったとはいえ、非常)
(に不安定なものだった。之までの戦争のように有力な諸侯の力を頼ることなく、その大部分を)
(平民で構成された新カタクァには、掲げた理想を維持するためにもさらに足がかりが必要だった。)

わざわざお運びいただき、感謝いたします。変わらぬご活躍、なによりです。
 (そういって出迎えた今はカタクァ王シャンタクァを名乗る飛爛は、羽毛で編んだようにしか見えない)
(柔らかな金の冠をつけ、胸元に大きなリボンのついた黄色いローディア風のドレスを着ていた。)
(以前に飛爛がスリュヘイムに忍び込んだ時に来ていたドレスだった。その傍らには、件の工房で)
 (オーバーホールされた空を飛ぶ鎧を身に纏った少女騎士フェロミアが従っていた。)

 (レーヴェンフックの一行が招かれたのは川に浮かべられた船の上で、4枚の三角帆が両舷から)
(突き出すように斜めに張られたその船はまるで羽を広げた鳥のようでもある。)
 (その船室に設えられた幾何学模様に編まれた毛織敷物のしかれた会談場で、)
(新カタクァとスリュヘイムの同盟案が提示された。要点としては、新カタクァは旧東ローディア南部を)
(開拓できる力があり、かつ海運を通じてスリュヘイムともつながれるということ。)
(そしてスリュヘイムが後ろ盾につけば、より強力な兵器の開発も可能になり、他の勢力と張り合える)
(さらには、アルメナの力が弱まった今、内陸から内海へ通じる巨大河川の支配権を握ることも不可能)
(ではないと、わざわざ貿易都市トラバを上流に臨む川の上に船を浮かべてみせていた。) -- シャンタクァ

(今回統一王朝の騎士・エルネスト・フォン・レーヴェンフックに課せられた密命は)
(この終末感漂う戦場に、先の独立宣言で表舞台に踊り出た新興国・カタクァとの…秘密同盟の締結)

(公国議会の中でも、突如として現れ「国」を名乗る敵の裏切り者への取扱いは揉めに揉めていた。)
(概ね「利用すべし」「討つべし」の2極に帰結する論調の中、また別の視点での重要な課題の存在が、騎士がこの場にいる理由である)
(つまり、食糧輸入の問題。統一連合という建前の屋台骨を持つ以上、現在の食糧事情は決して悪くないが 戦後の混乱が予想される今後、カードを多く持って損はない)
(勿論、同盟国の手前公然と盟を結ぶには時期尚早。しかし、カタクァを西側社会に「存在」させ、利を得るためには…座して待つのみでは足りぬと、判断した一派が相当数居たのだ)

(使者には、どういうわけか国家元首と縁深い、と報告が上げられ、また調度良く現場近くに駐留していた宣伝相麾下―統一王朝の騎士が遣わされた)
(「人材」不足の公国において、使えるものは藁でも使う精神が色濃く出た形と言えよう)
お招きに預かり光栄であるぞ!シャンタクァ…殿下と呼んだほうがよろしいかな?
(つい先日まで戦場の空で轡…轡?を並べた仲である。その感触は重すぎず)
(しかしやたらと重すぎる鎧である。他の使者は704戦試の連絡官が一名とは言え、船がやや沈み込んだ気がしないでもない)

(提示された条件に、大筋で合意する親書は既に用意されている…唯一つ、連絡官が年を押したのは)
(「非公然同盟であること」 公的で全面的な協力には、やはりまだ早いということが強調された)

(順調に進む会談。その間基本的に頷くばかりであった騎士が、ついに耐え切れなくなったのか言う)
不躾な質問となり申し訳無いが…連合王国に、御姉妹など居られる?
(機械仕掛けの騎士は、修理の際対面したわけではない。何だか魚っぽかったよ、という伝聞を聞いたのみである)
(つまりはそう この期に及んで、騎士は彼女の正体にまだ気付いては居なかったのだ…!)
-- レーヴェンフック

 (秘密裏に行われる会談とはいえ、武官である騎士と連絡官1人というスリュヘイム側に、多くの)
(南部族の首長や大臣が同席した新カタクァの側からは疑問の声があがらないでもなかったが。)
(大丈夫、私の知ってる人だから、というシャンタクァの言葉に皆一応納得はしたようであった。)
 (会談は着々と進んだ、さてその最中に投げかけられた疑問に。一瞬あっけに取られたような顔を)
(したシャンタクァだったが、とうとうたまらなくなったのか、思いっきり笑い出した。)
(彼女の横に居て挨拶の時以外、ずっと何も語らなかったフェロミアでさえ、どうした?と首を傾げる)

あはははっ!ご、ごめんちょっとツボに入っちゃって…!…っく…あはっあはは!
 (お腹を押えて足をバタつかせて彼女は笑う、ついさっきまで、一団の代表として相応に振舞って)
(居た姿とはまるで似つかない、本当に見た目どおりの少女のような笑い転げっぷりだった。)
ごめんなさい、あんまり真面目に聞かれるものだから…このドレス見覚えないかな?
フェイリス・カーター…って私の事だよエルネスト殿?ふふっ…あの時はフェロミアの鎧を直して
くれてありがとう。
 (笑いすぎて滲んだ涙を指先で拭うと、立ち上がって、スカートの裾をつまんでおじぎをしてみせた。)
-- シャンタクァ

(事務的な話の一切は、代表である騎士よりもむしろ連絡官が取り持っていた)
(質問へ淀みなく答え、公国の立場を示し、カタクァへの利を切り出す。これも「人材」不足の公国ならではの光景と言える)

(そんな連絡官もまた、さっぱり関係がないと思われる騎士の急な質問に頭痛を覚え 王女の反応に、目を見開くくらいの人間性は持ち合わせていた)
いや…うむ…え?ヘラ殿がシャンタクァであり、フェイリス殿は別であろう?
うむ…いや、ああ!(ドレスの模様に、ようやく合点が行った体で)
しかし、王国の令嬢たる立ち居振る舞いに疑問の余地など無かったのであるが…本当に謀っておらぬ?
(公国の技術は世界一であるからな!と礼に応えると、やっと自分を取り戻した連絡官が付け加える)
「となれば明らかになるのは、既にして公国とカタクァの技術交流は行われているという事。早速、公国の兵器を提供しカタクァの航空戦力との連携の可能性を探りたい」
(といった内容である)
-- レーヴェンフック

あの時は私が東側の人だってバレたらまずかったもの、だからこっそり行かせてもらったの、
ごめんね?でもややこしくなると困るからみんなには内緒でお願い。
 (人懐っこい笑顔で謝るシャンタクァ。期せずして南部を根城にする内海海賊達の能力の高さと)
(カタクァ王女の無鉄砲さが存分に示されることとなった。)
 (落ち着きを取り戻す場、しかしかなり緊張に包まれていたその場は、すっかり空気が柔らかく)
(されていた。連絡官の言葉に彼女は笑顔でうなずくと。)
願っても無いことです、生まれたばかりの赤ん坊のような国に希望を託した人たちはその助けに
勇気付けられるでしょう。世界は変えられるという願い、今までつながれて居なかった手と手が
結び合う喜びが私達総ての原動力ですから。
-- シャンタクァ

おう!王女の勇気ある姿、騎士の胸にのみ秘めるとしよう!
(胸を叩く姿は頼もしいが…ヒートアップすると、その辺りの配慮が抜け落ちるタチであることを忘れてはならない)
(重量に難があり、また双方に高度な訓練が必要となる不死兵のシャツァルへの騎乗は後に回された)
(さしあたっては、マスケット銃の2000丁と十分な弾薬の供与が約束される。西爛戦争最速の機動力に関しては、やはり期待が大きいのだ)
(また、飛行に向いた軽量かつ防御効果の高い装具―治金技術は、隔世の感がある―の開発と提供。治安維持に当たってのゴーレムの提供。公国法をモデルとした、各種インフラ整備への協力…)
(カタクァを「国」として支援する体制が、纏まっていく)

そう!その言葉である、シャンタクァ(理想を語る王女に、一層強く頷く騎士)
独立宣言、その場で聞けず残念であったが…布告にこの統一王朝の騎士!いたく感銘を受けた…
(純粋。悪く言えば夢見がちな、理想郷じみた統一王朝を信奉する心に、その言葉は実に響いたのだ)
貴殿らは統一連合の民ではない。また、失われた統一王朝に連なる民でもない
しかしその心、よりよく生きようとする心こそはかの王朝を成立させた原動力でもある
覇を唱えよと言うわけではない。心のありように、懐かしき面影を見た…儂は、それが嬉しいのだ
(覇者の素質は、確かに王女に備わっていた。その野心、あるいは彼女の側近であれば―持ち合わせたのかもしれないが)
-- レーヴェンフック

ありがとう、やっぱり貴方は素敵な騎士様ね。
 (この反乱、総てが順風だったわけではない、純粋な願いのみで起こされたわけでもなかった。)
(抑圧された社会があり、飢え渇いた人々の欲望があった。)
 (だがそれでも、この軽い羽一枚のように小さな王女の語る言葉に、地に生きる多くの人がここ)
(ではないどこか遠くのまるで夢物語のような世界へ飛び立てる翼を見たのもまた事実であった。)

大地に芽吹いた新たな希望を私達が飛び去った後も、国の境を越え、流れる血の違いも超えて、
エルネスト殿、あなたが守ってくれるならこんなに頼もしいことはないよ
 (それは統一王朝時代よりよみがえったという騎士の不死性に、戦乱の終結のみに終わらず)
(もっと長い先の未来までを守護して欲しいという願いの言葉だったが。)
 (図らずもどこか終末を予感させるような言葉でもあった。)

 (この会談の後、公国よりの技術提供の一部は海運を経て速やかに送られる事になる。)
(代わりに新カタクァより提供されたのは、かつてカタクァが大陸の東で巨大な国家であった時代の)
(遺物の一部、数十tに及ぶ精緻な自然造形を模写した金塊。そして彼らを急成長せしめた様々な)
(大爛由来とカタクァ伝統の農工業技術と人材。そして彼らが何より大切にしていた巨鳥の生態と)
(その調教法に熟知した者たちが送られた。)
 (交流は長くは続かなかったが、この時たしかに高い山脈の壁も国境も越えて東西を結ぶ)
(道は存在していたのだった。) -- シャンタクァ



 



 

 

  〓 〓  

 

226年のゾド包囲戦の最中に突如命令に反して、飛爛の率いるカタクァ軍は帝国軍から
離脱し、東ローディア南部へと消えた。同時期に帝国本国でカタクァを始めとする南部の
部族達が帝国へ反乱を起こしたとの報がもたらされる。
続く王都決戦で、彼らはついに帝国に牙を剥いた。そして皇帝崩御の知らせをいち早く
知った彼らは建国を宣言、長く続いた西爛戦争の最終局面がいよいよ加速し始めた。
【227年3月・旧東ローディア首都ゾド】
 支援物資に混じって宗爛の届けられたのは、本国からの命令書を装って書かれた封書と
ちっさい伝書用の鳥だった。
 他の誰にも分からない秘密の暗号で書かれたその手紙は時間と日時を書くよう記されて
いるだけだった。これだけでは意味不明だが、持ち込まれた鳥によくみれば蒼穹のような色
をした羽が生えているように偽装され結わえ付けられていた。

(補給物資の中に紛れていたその密書は、そのまま宗爛の元に鳥と共に届けられた)
(元々、彼はこのような暗号文でのやりとりを多くの武将としており、その1つだと部下には思われたのだ)
(しかし、暗号文を届けた兵士は後に語ったと言う)
(「あの時の宗爛様はいつにもなく焦った様子だった。軽く上ずった声で人払いを済ませて、そのまま暗号の解読に没頭してしまった。あんな宗爛様は後似も先にもみたことがない」)
(それほどまでに重要な機密文書なのかと周囲には思われたが、実際には違った)

(確かに、機密は機密であるが、質が全く違う)
(なぜならコレは……いまや敵となった女から届けられた密書なのだから) -- 宗爛

 (返事の手紙を結わえ付けられ、放たれた鳥は羊雲の群れの中へ飛び立っていった。)
(その手紙の差出人は飛爛、そしてただ日時だけを知らせる手紙は、幼い日に、二人して)
(牢獄のような宮廷から抜け出すために落ち合う約束をするためのものだった。)
 (抜け穴を見つけられて塞がれてしまうのを防ぐために、場所は記さない、日にちと時間の)
(書き方で指定するというものだった。)

 (さらに言外に込めた意味は、秘密の面会を求めるその手紙は。必ず二人だけでという事)
(何の飾りもない手紙の文面は、信じられないのなら無視してしまえばいいものであり、何の)
(罠も仕掛けられていないことを、千の言葉より強く語っていた。)

 (そして要塞を包囲する連合軍の間隙にて、細い三日月の灯りを頼りに上空から音もなく)
(巨大な翼の影が螺旋をえがきながら降りてくる。) -- 飛爛

(幼き日の細やかな約束事。大人になってしまえば普通は忘れてしまうようなことも、二人は忘れなかった)
(まるで、昨日の事のように覚えている。だって、たった一人の姉の言葉なのだから)
(ただ1人、父よりも、母よりも、誰よりも……前を向いて歩くことを強く教えてくれた、最愛の姉の言葉)

(要塞の一角。以前、姉と再会を果たした物見塔の上で、2人はまたであった)

……いくらか、痩せましたね。姉上 -- 宗爛

色々大変だったからねー、そういう宗もかなり疲れた顔してるわよ。
 (今まさに篭城する側と包囲する者たちの会話とは思えない暢気さで、確かに長く続いた)
(戦いのせいで、くたびれた印象はあるが、彼女の姿も雰囲気も、何も変わってはいなかった。)
うん、でもちゃんと会ってくれてよかった
 (物見塔の壁の内側にうずくまる、ココロアの蒼い羽を労わるようになでる。)
…ちゃんと生きててくれて、本当に -- 飛爛

当然ですよ。姉上を僕は愛していますからね……
(淀みなくそう呟いて、一歩近付く)
(以前よりも、いくらか上背があるように見える。やつれたその身体は寧ろ萎んでいるはずだというのに、威圧感を感じさせるその偉容)
(宗爛は、変わっていた。より禍々しく。より澱みを孕んで)
(しかし、それでもなお)

でも、その台詞は、僕の台詞だよ、飛姉……

(少年は、そこにいた)
(仮面を外して、開口一番、姉の小さな身体を抱き締める。以前よりも強く。以前よりも求めるように)

生きていてくれてよかった……本当に……! -- 宗爛

 (共に過ごした幼き日には、飛爛の方が背が高かった。今彼女の背は宗爛の肩にとどくか)
(とどかないかというくらいで、簡単にその腕の中に抱え込まれてしまう。)

 (前にもこんなことがあった、あれはバルトリアでの戦いの前で。その時の飛爛は。)
(なんて言えばいいのか、どうしていいのか分からずに、ただ涙を堪えるので精一杯だったが。)
 (この時は違った、小さくて短い腕で、そっと抱き返す。あの時分からなかった気持ちが今は)
(ちゃんと分かるのだ。)
…よく、がんばったね
 (哀れみでも同情でもなく、結果の成否などもお構いなしに。心のそこから縋る相手を受け)
(受け止めるように、まるで母が子にそうするように飛爛は言った。)
 (本当なら、良い事なんてなにも無い酷い戦いの連続であったのに、敵と味方に別れて、)
(殺し、殺されあっている真っ最中だというのに、そういわれずにはいられなかった。) -- 飛爛

(ただ、そういわれて……)
(いとも容易く、欲しい言葉をもらって)
(憚る事なく、嗚咽を漏らす)
(自分よりもずっと小さな身体で、自分よりもずっと大きなものを背負ってしまった姉の身体を掻き抱き、静かに泣く)
……お願いだ、お願いだ、飛姉
もう、やめてくれ。このまま六稜軍に投降してくれ
今ならまだ何とかできる。今ならまだ『あの頃』の真似事が出来る
一緒に帰ろう。僕には飛姉が必要だ
飛姉にだって、僕が必要なはずだ -- 宗爛

 (宗爛と六稜の名が少なからず連合軍の中でも知れ渡っているのを飛爛は知っていた。)
(非常に頭のキレる人心掌握に長けた人物、あるいは智謀に長けた冷酷な武将。そんな風に)
(言われる男が、こうして泣き虫な子供のように泣いている。)
…ごめんね宗、私は一番最初にあなたを守ってあげたかったはずなのに、いっぱい困らせて。
 (泣きながら帰ろうという弟の頭を彼女は優しくなでた。)
私も、宗の居ない世界はいやだな… -- 飛爛

(非業と悪辣ばかりが異名として行き交う自分とちがって、飛姉はどこでも心地好い噂があとについた)
(曰く、気持ちの良いお人だと)
(曰く、高潔にして無垢な少女であると)
(曰く、上天の天女そのものであると)
だったら! だったら、帰ろうよ飛姉!
独立なんて無茶だ、無理だ! 帝国と連合に挟み込まれて取り潰されるだけだ!
このままじゃ飛姉は民の願いに……欲望に、殺される……

ねぇ、飛姉。もうやめようよ全部
今度は僕が、僕が守ってあげるから……今なら、守れるから。今なら、一緒にいられるから
……だから、帰ってきてよ……! -- 宗爛

民の願い…かぁ、うん確かに私はそういうのに押し上げられて今ここに居るのかも知れない。
 (身体を押さずに、飛爛は宗爛の腕の中から抜け出す。)
ごめんね宗、私はきっともう帝国には戻れない…だけど、それは戦いを始めてしまったからとか
たくさんの人が私について来ているからじゃないんだ。私今そんな事全然考えてなかったもん。
 (拒絶の言葉、だけど彼女には泣いている弟を突き放す気なんて微塵もなかった。)
あのね、帝国の敵になってきっと宗の部下の人達も傷つけて、今本土でも帝国を壊そうとしてる
そんな私を、それでも守る、守れるんだって信じられるのなら。
 (手が差し出された、確かに戦場を何年も駆け回ればこうなるのだろうという手だった。)
(だけど、その手は本当に小さくて、何も知らないただの少女のようでもあった。)
あなたはきっとまだ、この世界に絶望しきってないんだ。どんな無茶に思えても本当に手に入れたい
希望を失いたくないって思ってるはずだから………私と来て、宗。
 (その手は、幼い日に泣きじゃくる少年を引いたあの手と同じ思いから差し出されていた。)
希望は呪いなんかじゃない、夢を見ることは罪じゃない…世界は、きっと変えられる。
これからの大地を生きていく沢山の命、そしてなにより、あなたに心の底から笑っていて欲しいんだ。
-- 飛爛 2012-09-06 (木) 01:59:42

(身を離して、彼女はそう誘ってくる)
……アナタたちは、いつもそうだ……
(優しく心からの善意を持って、包み隠さず満面の笑みで)
(誘ってくる。『フォン兄様がそうしたように』、誘ってくる)
(一緒に来いと、云ってくれている。お前が必要だと、云ってくれている)

そうやって、無理も道理も蹴っ飛ばして、気持ちのいい言葉だけをくれて
僕を引っ張りまわして、引っ掻き回して、最後にはキチンと笑顔をくれる
(差し出されたその手は、何よりも欲しかったもの。ずっと欲しくて欲しくて仕方がなかったもの)
(そっと、泣き顔のままそれに手を伸ばして)

でも、だからこそ……ダメなんだ、飛姉

(払い落とす)

飛姉もフォン兄様も、誰よりも僕のことを理解しているくせに

何よりも僕の為になることが、何よりも僕に『退屈』を強いるかを知らない

(そっと、仮面を被る。六つ目の仮面を。蟲の異形面を。無表情な仮面を)

(気付けば、既に周囲は長弓兵と長槍兵によって包囲されていた)
(最初から、この弟はそうしていたのだ)
(姉を愛するが故に。姉を失いたくがない故に)

(姉の信頼を、裏切ったのだ)

(夜目の呪いがついた仮面をつけた異形達は、静かに飛爛とココロアのを監視している)
(その中、一際紅く耀く六つ目の仮面……六道鬼は底冷えした声を漏らす)

飛姉。僕と、飛姉の二人だけならよかったんだ
二人だけなら、本当になんでもできた。どんな我儘も聞いてあげられた
だけどね、僕らは二人だけじゃないんだ。どっちも爛の名に呪われた『群体』なんだ
世界は変わるさ。だが、僕らだけで変わることなんてない
所詮歴史の末端に過ぎない僕らじゃ何もできやしない
義務なき希望は悪であり、力なき夢は罰せられる
それがこの世界で、それが大爛帝国だ
(じりじりと、包囲が狭まっていく)

フォン兄様は僕にいった。僕の為なら世界を変えてくれると。全ての結末を覆してくれると。全てを僕に都合が云いように作り変えてくれると

でも違った。あの人はそう云いながら全てを嘲笑って去っていった
僕がそんなものを望んでいないことを理解しながら最後まで僕を弄んで、結局僕と結末を天秤にかけて結末をとりやがった

それでもいいんだ。あの人はもう僕の『モノ』なんだから

流石はフォン兄様だよ。きっと全部織り込み済みだったんだ
あの人は望む『結末』を手に入れて、僕は望む『モノ』を手に入れた。徹頭徹尾天才だったよ
(うわ言のように意味の分からないことを呟きながら、一歩一歩と近付いていく)

でも、飛姉。アナタは違う。アナタはカリスマだが、天才ではない
アナタでは……僕では、世界は変えられない

さぁ、最後通告だ。飛姉
僕と一緒にいよう
そうすれば、僕は心から笑うよ。ずっと。飛姉の為に

さぁ、僕を笑わせてよ、飛姉

他の全てを不幸にしてでも!!

(一喝して、手を差し伸べる)
(否)
(手を伸ばす)
(欲しいモノを手に入れるために)
(愛する女を手にするために)

(かつての天壌帝が、大陸全土にそうしたように) -- 宗爛

 (ガラスを擦り合わせたような強烈な咆哮が静寂と一緒に取り囲む兵士達の鼓膜を)
(劈く。広げられたココロアの翼が僅かな夜明かりを覆い隠して塔の上を影で覆った。)
 (一瞬だけ開いた間隙、払われた手を胸の前に抱いて飛爛は泣き出しそうな顔で)
(宗爛を見つめていた。)

 (拒絶されたのが悲しいだけじゃない、本爛を自分のモノにしたという弟の言葉が、)
(その紅い瞳ににじみ出たような心奥の思いが…。とても痛々しく思えてしまって。)
宗…どうして、願いを叫ぶのに仮面が必要なの?
 (夜の中にあって、蒼天の色を移したような空色の瞳に涙を浮かべてそう呟いていた。)

 (突風が吹き荒れた。振り下ろされたココロアの翼は立っているのすらままならない程)
(の風を巻き起こし。次の瞬間にはもう彼女の姿は塔の上には居なかった。)

 (ただ一つだけ、一発だけ信号弾の装填された短銃だけがその場に落ちている。)
(その銃把に『待っている』そう一言だけ刻まれていた。) -- シャンタクァ

 

  〓 〓  

 

 (ゾドは間もなく落ちる、227年5月も末の頃だった。)
(新カタクァの軍は独立宣言以来、北上しゾドへと至る途上で次々と旧東ローディアの)
(都市を解放していった。それが撤退する帝国軍の動きに合わせただけのモノだったと)
(しても、破竹の勢いに見えただろう。)
 (事実この時期、クラトに率いられた大爛本国での反乱もローディアでの勝利に後押)
(しされるように勢力を拡大していった。)
 (対シャツァルの戦術が確立し始め、飛行部隊の撃墜数も増えていたが、まだその)
(圧倒的な戦術的優位は覆されていない。スリュヘイムとの秘密同盟も結ばれ、)
(新カタクァの誰もが新世界の夢を信じるようになっていた時の事だ。)

 (夕暮れ、ゾド近郊の町に駐留する新カタクァ軍の陣地を見下ろせる岩山の上。)
(初夏の空の下、荒野へ夕日が沈もうとしていた。遥か遠方に見える岩山肌が)
(赤く燃える様に地平線の上で揺らいでいる。眼下にはシャツァルを離陸させる)
(ための長い滑り台のようなスロープ台が整然と並び、隣接する街並の中に灯りが)
(灯り始めていた。)

おー、こんなとこに居たか那岐李ー
 (不意にシャンタクァの声がした。大きな羽ばたきが聞こえたと思ったときにはすでに)
(音もなく高空から滑り降りてきたココロアが岩山のそばで羽を畳もうとしていた。)
(どこから飛んできたのか気付かせる事もなく、この頃の彼女は本当に翼が生えて)
(いるかのように、他のどの飛行兵よりも自在に空を飛んでいた。)

(シャンタクァが語った新しい理想の国。その夢が現実のものとして捉えられるところまで来ていると)
(カタクァの兵士たちは皆そう思っていた。士気高く、行く先々で多くの都市を開放し、東では帝国への反乱も成功していると聞き皆希望に満ち溢れた目をしていた)
(そんな中、歩兵達を率いていたこの男だけは視界の中にシャンタクァが語った新世界を捉えられないでいた)
……シャンタクァ様。何か、御用ですか?
(そう、端的に答える。近頃の那岐李は戦闘の時と、そうでないときで人が変わったかのようであった)
(平時はこのように生気も無く、ただ淡々と受け答えするだけ)
(しかし戦闘となると鬼気迫る勢いで刀を振るい、敵兵が全て死に絶えるまで猛然と戦い続けていた)
…何か、今後の予定についての相談でも? -- 那岐李

それもあるけどね、那岐李最近あんまり元気なさそうだから。
(ひょいひょいっと身軽に岩山を駆け上る、シャンタクァ。なんだかその動きまで鳥に)
(似てきてるようだ。)
や、むしろ戦いでは元気すぎるくらいだったか…部隊置いてきぼりで一騎がけしすぎ
るって、言われてるよ。 -- シャンタクァ

…姫様こそ、最近は一時期に比べずいぶんと元気がよろしいようで
(自分が進むべき道を、目指すべき場所を見つけたが故だろうか。近頃の彼女は何時にもましてイキイキとしているようにも見える)
……私は最早、戦いの中でしか生きられぬ身ですから
いや、復讐の中でしか…と言い換えたほうがいいかもしれませんね(チャキ、と腰の刀を鳴らして自嘲気味に笑う) -- 那岐李

うーん…ねぇ、きっと今更な事なんだろうけど、あなたの見てきたことを聞いてもいいかな
 (岩山の上に腰掛けながら聞いてみた。)
(カガチという人々の話は、知識としては聞いたことはあった。那岐李の帝国に対する)
(深い恨みの事も知ってはいる。ただ、今まではあえて深く踏み込まないようにしていた)
(ところもある。)
今あなたが将軍だからっていうだけじゃないんだけど、私はほんとうはもっと早く
あなたの事をよく知っておくべきだったんじゃないかって思うんだ……
-- シャンタクァ

…私のこと、ですか。…聞いたところで決して楽しいものではないですよ
(そう前置きしてから、那岐李はゆっくりと己の過去を語り始めた。カガチ人として生まれた時から迫害されてきたこと)
(ある時見かけた橋の向こうの少女に心奪われ、彼女の笑顔を自分に向けて欲しいがために、自力で他の民族に負けない程の学を見につけたこと)
(そうして自分を磨き、彼女にいざ話しかけようとしたところ彼女の護衛に殴り飛ばされ、自分の両親に無理やり地に頭をこすり付けられ「謝れ」とののしられたこと)
(その時に彼女が自分に向けていた目は消して「人」を見る目ではなかったということ)
(そして「なぜカガチ人はこんな扱いを受けねばならないのか」と思うに至ったこと)

……そして私は悟った。同胞の身体に染み付いた卑屈な精神と奴隷根性がある限り、カガチ人はこの扱いからは消して抜け出せないということを
誰かが一度全てを無に帰さねばならぬ。誰かが一度滅ぼさねばならぬ。そう思った。…だから私は、同胞の命を全て奪った
自らはカガチ人であると。だからこの扱いも当然なのだと。そんなくだらない「当たり前」をこの世から消す為に…私は私以外の同胞を全て手にかけた
……カガチ人の歴史と誇りを知った今、私に残っているのはそれを帝国に…世界に知らしめることのみ
カガチ人の優位性を世に知らしめて初めて、私は手にかけた同胞に顔向けが出来ると思っています
それを成す手段は…己が力を…カガチ人の力をもって帝国兵に思い知らせること。そしてルーツを同じくするカタクァが帝国を打ちのめし、奴らより優位に立つことでした
…だが、貴方はそれを止めろという。ならば私は何をすればいい…?貴方が作る国でこれ以上の復讐は許されるはずもない
…ならば、私は今此処で。この戦場で全てを成し遂げるしか道は残っていないのですよ

(長い長い話が終わる。子供染みた自己顕示欲が長年の差別によって拗れに拗れた結果、彼は怨念の塊となった)
(その怨念のままに復讐を遂げることは、シャンタクァが語る国では出来よう筈もない)
(ならば自分は何処へ行けばいいのか。何処でなら己の内で渦巻くこの怨念の存在を許してもらえるのか)
(何処にも居場所などない。ならば今此処で復讐を成し遂げ、命を捨てるしかないと)
(彼はそう思い込んでいる) -- 那岐李

 (語られる那岐李という男の話を黙したまま彼女は聞いていた。)
(語られたのは1人の人間が背負うにはあまりに大きすぎる憎悪の物語。あまりに)
(残酷すぎて救いを求めることすら愚かしい行為であるとさえ思えてしまう。)
 (弱い誰かを捌け口にすることで、より多くの心を救うという人の本性にこびり付いた)
(どうしようもない悪意。それが幾重にも重なって長い年月を経て理屈では救えない)
(魂を生み出した。)

 (条件が違えば、カタクァの民がそうなっていたかもしれないという事はシャンタクァ)
(には痛いほど分かった。)
 (以前にこうして話したとき、那岐李の気持ちも分かるなんて言っておきながら、彼女)
(は圧倒的に恵まれていたのだ。彼女の国は滅びたわけではない、他の皇族から見れば)
(蛮族ではあっても、それでもやはり皇帝の血を引いた特別な存在なのだ。)
 (そして、カタクァの王でもある自分は、多くの人に傅かれ愛され認められる存在でも)
(ある。生まれた時から誰にも愛されなかった者の気持ちなど、どうして分かりえようか。)

………
 (シャンタクァはその手を強く握りしめた。総ての人が分かり合える世界をと語りながら)
(こんなにすぐ側に、願いを持つことすら出来ない者の居ることを見過ごしてきたのだ。)
(自分の能天気さに腹がたったし、同時にとても悲しかった。)
 (復讐を遂げるまで、那岐李の魂が解放されることは無いのだろう、それは理屈では)
(語れないことだった、復讐は成し遂げるまで未来へ進むことを許さない。)
 (そして彼の仇はあまりにも巨大すぎ、憎しみの連鎖を断ち切ろうとする言葉に賛同)
(できないのも当然のことだった。)

那岐李…
 (だけど、それでも。シャンタクァには見過ごすことも見捨てることもできなかった。)
(ただその力を利用したいのであればいくらでも都合良い言葉はあっただろう。)
(危険な人物として追放することもたやすい。しかしそんな考えは微塵も浮かんでこない)

あなたのその憎しみは…捨てなくてもいい…だけど、もう1人で背負い込まないで
 (自らに流れる血の誇りのために、同族を葬ったという彼の言葉に、誇りをしめすため)
(という意味以外のものを感じたとき、彼女はそう言っていた。)

復讐だけが自分の全てなんて…言わないで。おおくの人に戦いを強いて、憎しみの種を
ばら撒いてる私だって…仲間が殺された時に殺した相手を殺すことしか考えられずに
ココロアの爪で何人も人を引き裂いてきた私も未来の事なんか語る資格のない人間なんだ

それでも…諦めたくない。だから…あなたも諦めないで、一杯悪い事してきたわたしの隣
なら、きっとあなただって居心地は悪くないでしょ?
もしかしたら、死ぬより辛い人生を送ることを強制してるかもしれないけど…。
それでも、私と一緒に来て欲しい。那岐李がどんな生き方をして来たとしても、私の大切な
友達だから。那岐李が生きていける未来も私がちゃんと作るから。 -- シャンタクァ

(彼女の言葉一つで、自分の怨念が晴れることはない。しかしその真摯な思いは痛いほどに伝わってくる)
(彼女はここまで怨念のみで刀を振るい、最早他に行き場所など無くなった自分に「共に来て欲しい」と言う)
(正気とは思えない。彼女が語る理想と、自分の中に渦巻くどす黒い感情は確実に相反するものの筈だ)
(それを、捨てなくてもいいと彼女は言う)
(抱えたままで、共に歩もうとまで言ってくれた。それは。その言葉は―)

……有り難き、お言葉です。私のような者でも…貴方の目指す新しい国に、生きていても良いと。そう仰るのですか
なんと、いう……此れほどまでに怨念に染まり、最早手の施しようもない程血に濡れたこの身体を。貴方の国は、受け入れてくださる、と…?
(それは幼き頃より渇望していた言葉。彼女は今、己の本質を知り、その上でまだ自分を見てくれている)
(たったこれだけのことを、彼は延々と欲し続けていたのだ。怨念の根源たる乾きが今、静かに充たされるのを那岐李は確かに感じていた)
(そして思う。目の前のこの方が抱えた理想は決して紛い物ではない。いや、紛い物にさせてはならないのだ)
(この世界に根ざした負の連鎖を断ち切ることが彼女なら出来る筈だと。今、こうして自分にすら視線を向けてくれた彼女なら必ず出来る筈だと思った)
(己の奥底の乾きはこれから充たされて行くことだろう。彼女が「居てもいい」と、そう言ってくれたから)

(だが、だからと言って此処で刀を置くわけには行かない)
(腰にかけた刀に手をやり、静かに抜き放ち天に掲げる)
…此れよりこの刀は、貴方のために振るおう
貴方の理想のために。貴方の理想の成就こそ、私と同じ境遇にある数多の被害者達の救済に他ならない
なればこそ。我が力は今より真に貴方のために
カタクァの反乱を建前に己の復讐心を隠すのはもう終わりにしましょう…
(静かに、そして確かな言葉で那岐李は語る)
(己の内に燃える復讐心は消えることはない)
(己が手にかけた同胞の憎しみや恨みも消えることは無いだろう)
(だがしかし、それでいいと彼女は言った)
(ならば自分は、この恨みも、怨念も抱えたまま前に進めば良い)
(この誇り高き女王と共に道を切り開いていけるのであれば。それは、誇りとなろう)
(彼女が語る新しい世界を、この刀で、この力で現実のものと出来れば。苦しむ人々の希望の光となれるのであれば)
(それは、誇りを無くした同胞たちへの何よりの救いだと。そう思った)
(手にした力も、この刀も、全ては彼女の理想の実現のために)
(今こそこの男は、真にカタクァの一員となったのだった) -- 那岐李



 



 

 

  〓 〓  

 

【 227年7月 旧東ローディア領領 トラバ 】

(先月行われた統一連合勝利宣言の式典に出席してからやはり風向きも変われば人も変わるものだと思う。)
(時代の大きなうねりを感じつつ、このかつてあった東ローディアという国もまたその潮流に翻弄される哀れな国であり人もまた流れる藁の如く)

(本来必要ないであろう最後通告たる書簡をいくつか書き…蝋で印を押した後はカタクァが開放した都市らに遣わせる)
(最後の首都であろうあの都市には自ら赴くゆえによいと下がらせた)
(そして統一連合軍南方平定軍として再編成された彼らは南方候を頭にトラバより大軍を率いて砂塵を巻き上げ南下していく)


(風向きが変わったのは国や人だけではない。その政治においての切り舵もそうである)
(王都決戦より復帰した兵ら、そしてゾド周囲を攻略しおえた連合は旧東ローディアの地を制圧しにかかる)
(大爛の人間を1人残らず殲滅せよ、と。積もりに積もった怒りと怨嗟が歯車を回す)
(旧東ローディアの商人どもは金で国家を売り渡したクズでありそのためバルトリアが起きた)
(旧東ローディアの連中は今も尚大爛のお陰で飯が食えていると尻尾を振っている…等)
(それらはまた節々の末端で起きていた…ついでとも言っていい彼らへの怒り)
(そしてそれらは彼らが組み合い、大爛の人間を頭にすえるカタクァへも同じであった)
(西爛戦争で命がけで大爛を追い出し戦っている最中に火事場泥棒の如く国を建国した)
(裏切りものはやはり裏切りもの、場所はしかも大爛と繋がりがある山)
(戦後も大爛の枝を残しておくための猿芝居だろう、魔女め と…うずたかく積みあがる憎悪と怒り、嗜虐)
(それらはカタクァ配下諸都市への最後通告に現われていた)

『統一連合は独立を認めない』
『大爛の人間を全て差し出し都市を明け渡すか、死を選べ』

(神国アルメナの神聖騎士団がゾド要塞から派遣され、柱の王や騎士らが内海を伝い輸送船で上陸した時)
(絶望が諸都市を襲った)

 (おそかれ早かれこうなることは分かっていた。たとえカタクァが大爛と根本を違える)
(古の民族であったとしても、西側の彼らには同じ東の侵略者共なのだ。)
 (帝国をローディアの地より追い払った彼らは次の戦争をすでにはじめている。勢力図)
(に空隙を空けた旧東ローディアの領土を誰が奪い、支配するのかという領土戦争。)

ま、話し合いだけで済む分け無いとは最初から分かってたけどね。
 (突きつけられた最後通告を机の上に放りだすと、シャンタクァはつぶやいた。)
(トラバから南東、大陸中央山脈から西に突き出した山嶺を背にしたオアシス都市。)
 (新カタクァの拠点の一つであるその都市は、ゾドとトラバを発した統一連合軍を迎え撃つ)
(最前線になった。)

他者を抑圧することで栄える帝国に未来を託すことは出来ない
奪い合い終わりなき戦いをしてきたローディアにだってそれは同じだよ
 (彼女が立つタイル張りのテラスの上をシャツァルの飛行編隊が南方へ向けて出撃)
(していく。反乱の最高潮に立つ新カタクァには自由の旗の下に集った南部諸族の軍)
(が居る、そして彼らの象徴とも言うべき飛行部隊はこの時、ローディアの地だけで)
(3千を越える数の鳥が居た。)
 (勝算はあった、数十羽で戦局を左右しうる最速の機動戦力で南部の荒野に点在する)
(各拠点を足がかりに襲撃を行えば、たとえ全方位から地上戦力が押し寄せてこようと)
(彼らが地を往く時だろうと眠る時であろうと、常に一方的な打撃が可能だ。)
 (そしてそれぞれの拠点には長く南部の厳しい荒野に生きて戦い抜いてきた砂漠の)
(民とその兵士がいる。)
 (スリュヘイムより秘密裏に供与された弾薬と新技術は戦争の最中においてさらに)
(装備の能力を向上させていた。決して無謀な戦いではなかったのだ。)

長い戦いで疲れきった人々の怒りはきっと長くは続かない、冬まで持ちこたえれば
交渉しだいで和平に持ち込めるはず…だから、今は勝たなきゃいけないんだ。
私達の希望が、決して無力な幻想ではないと証明するため。 -- シャンタクァ

(室内で歩兵部隊への今後の指示を出していた那岐李が、一区切りついたのかシャンタクァのほうへと歩み寄る)
(心の渦巻く怨念を抱えたまま、それを未来の希望をつなぐための糧として生きることを決めた男は、)
(以前にも増してカタクァのために尽力するようになっていた)
…我らがこの窮地を乗り切り、真に建国の目的を周囲に知らしめることが出来れば賛同する国も出てくることでしょう
…シャンタクァ様、ご命令を。この刀で降りかかる火の粉を払ってみせましょう。…全てはこの先に待つ未来のために
(歩兵部隊の準備も既に出撃の準備は整っている。先ほど飛び立ったシャツァル部隊に続き、シャンタクァの命を待っている状態だ)
(兵士たちの士気は高く、皆見据える未来は同じ。これが決して無駄な戦いではないことを知っているが故か) -- 那岐李

うん、絶対負けられないんだ。
 (彼女自身もいつもの飛行服の上から、羽のように軽い鎧を身につけて支度をした。)
(あとは全軍の前で出撃を宣言し、彼女の蒼い翼に乗って戦いへと赴くだけである。)
 (そんなとき、不意に彼女は足をとめた、そして那岐李の方へ振り向くと。)
ねぇ、なぎりん -- シャンタクァ

―な、なぎ…?(唐突に妙な呼び方をされ一瞬狼狽するも、特に悪意があるわけでもなかろうと咳払い一つで気を取り直し)
…どうか、なさいましたか? -- 那岐李

絶対死んじゃだめだよ私達は希望に殉じるんじゃない、希望を……作りに行くんだ。
それに、帰ってきたらフェロミアも一緒にあなたも私と同じ一族になってもらうかんね
あなた、クラトのところに置いといたらきっと性格悪くなっちゃうもの。
 (ほんわりと笑った彼女の笑顔は、コレから戦いに赴くとは思えないような自然体で、)
(だが、階下で号令を待つ兵士達の元へと向かうその足取りに決して迷いはなかった。)
-- シャンタクァ

―……えぇ、必ず。フフ、クラト様が聞いたら何といわれるか…
(余りにも自然な一言に思わず小さく笑ってしまう。決戦前だというのにこんな言葉を投げかけてくるのは流石だな、とも思った)
(それでいて、足取りに迷いなど無い。此れが彼女が人を惹きつけ、その理想の先を見てみたいと思わせる所以なのだろう、とも思った)
……必ず、戻ってきましょう。私はまだ、貴方に話さねばならないこともある
(歩を進めるシャンタクァの背中を見て小さく一人呟く)
(自分の一族に加える、という言葉を受け入れるには、己が犯した罪を全てさらけ出さなければならないようにも思えた)
(でなければ、フェアじゃない。彼女はそれを知ってなんと言うだろうか)
(それでも自分を受け入れてくれるのだろうか―?)
(身勝手な話ではあるが。この愚かしいまでに純粋で、同時に崇高でもあるこの人ならば)
(きっと許してくれるのではないかという思いを胸に、那岐李も階下で待つ兵達の下へと歩を進めるのだった) -- 那岐李



 



 

 

  〓 〓  

 

  • 《 帝 国 残 党 掃 討 戦 供 -- 2012-09-08 (土) 22:57:50
    • 【227年8月 旧東ローディア南部、新たなるカタクァの地】

       (今までの戦いが大陸中に点在する都市や拠点を奪い合うものであったように、)
      (この戦いもまたそうであった。)
       (旧東ローディア南部では都市はより顕著に地図上で点として存在し、その間の)
      (面を占拠することを砂漠と荒野が困難としていた。)
       (その点と点を足がかりに文字通り間を飛び越えて行き来できる機動戦力には)
      (圧倒的に有利な地形であった。)
       (しかし戦いは一方的な展開にはならず、押し寄せる統一連合軍と新カタァクの戦い)
      (は日に日にその苛烈さを増していく。)
      -- 2012-09-08 (土) 23:34:28
    • 【統一連合軍本陣】 -- 2012-09-08 (土) 23:50:50
      • (よくやっている)
        (航空戦力と呼べる怪獣を持つ賊軍のことであるが。半ば火事場泥棒の如く建国したあの急ぎの如き体制でこれである)
        (場所が場所であるなら、そのままに繁栄を出来たものの…どうやら政には疎いように思える)
        (いずれにしても滅びる一時の炎、後に続く阿呆が現われぬように徹底的に潰さねばならん)
         
        (西方が始めてあの怪獣に出会い混乱したときより遥かに時間が経っていた)
        (無論片手で数えられる年数ではあるが…戦争という流れの中ではとかく速く、充分な時間である)
        (トラバ、ゼナン、アルメナより出でた連合軍は徹底的に交戦した。しかし炎のような激情ではなく…それを内に秘めた氷のような冷徹さを徹底的に叩き込んだ)
        (曰く、必ずくびり殺す故に真綿で絞め殺すかの如く構えよ、と)
        (積極性の欠いた執拗さで虎視眈々と機会を伺い、歩み、退き、押す)
        (大爛殲滅ではなくカタクァ軍殲滅のために戦術は徹底的に練られた) -- カイル 2012-09-08 (土) 23:58:37
      • 『カタクァ軍の要は巨鳥である』
        (大爛の一部隊であった頃ではなく現在独立した勢力と化したかの者らにとってはまさに主戦力であり切り札、軸である)
        (地上部隊が盾、巨鳥らが矛…兵科による分担は正しく効率的であり、時期が時期なら一方的に狩れただろう)
        (今我々に空を飛ぶ力がないのであるから…先の先を行く戦いといってもいい)
         
        『慣性と弾性の力で物体が高速で飛ぶ音が雨のように響く』
        (しかしそれは戦時真っ只中の話であればこそ…ことこの時期、いやここに集まった連合軍は彼らカタクァを殲滅するために編成されたのだ)
        (ただ連合軍を数だけ寄せ集めたわけではない…対策のためいくつもの実験的な試みが大量運び込まれた)
        (それらのどれもは巨大なトレビュシェット…投擲式の攻城兵器を用いたものであった)
        (ことこの南方候率いる軍団はそれらを人に向けて巧妙に使うことも得意としていたのもある)
        (それによりいくつもの投擲用の兵器が持ち込まれた)
         
        (1つは毒物、主に催涙性や麻痺毒である。巨大な獣であるならば呼吸器官や感覚器官に刺激を与えることは致死的な効果を与える)
        (毒への体制、防毒装備などが整っている場合もあるため最初期の段階でこれらを投擲した)
         
        (次に煙幕である。白、黄色、赤など…これらは主にトレビュシェットや長弓の照準用として用いられた)
        (背景を青空ではなく染めることで浮きだ足せ照準の容易さを向上させる目的で行われる)
        (それに加えて彼らの攻撃は自由落下の投擲等目視のもの、一時的に目を奪うだけでも大きく違う)
         
        (次に網である。漁業用のものを改良したものであるが重しをつけ巨鳥を絡み取り落とすために遣われた)
        (中には油をしみこませ着火したものまで投げ込まれた)
         
        (最後に礫である。岩、石、砂岩など握りこぶし大のものを集め詰めては上空に向かって放り投げた)
        (めくらましなどではない。砲撃である。飛翔する怪獣に向けて高速で岩を雨のようにぶつけてやるのだ。鳥どろこか上に乗るものまでどこかあたれば重傷だろう)
         
         
        (これらをより巨大に建造し、組み上げたトレビュシェットにより打ち出した。)
        (城にむけてアーチ状になげるのではなくアーチの高さがより高くなるように調節しその最頂点で巨鳥らの軍勢に当てて叩き落す戦術)
        (抜けることも覚悟のうえ、長弓兵を配置した間に5列等間隔にトレビュシェットをあるだけ並べた)
        (最前列にいる柱の王や騎士らは守りを固め、迎撃のため構えては歩み、構えては退きを繰り返す)
        (トレビュシェットが鳥を打ち抜き、その先の地上軍にまで被害を出すことを想定しての配置)
        (その砲火を潜り抜けたものを徹底的に柱の騎士や王、重装騎士と狂戦士らで潰す…)
        (今は五分と五分でもいい。だが数は違う。今日は五分でも明日は果たしてどうであるか)
        (すり減らすように、すりつぶすように連合軍は戦う) -- カイル 2012-09-09 (日) 00:19:39
      • 統率がよく取れているな、あの高度で
        「そうね…大爛の技術ではないと思うけど魔術かしら」
        (華麗に巧みに大空を飛ぶ巨鳥は美しくさえ思う。あれらが戦に出ることなどなければ、とも)
        (確実にトレビュシェットを破壊していく様は戦争の兵器と成り下がった獣に対する皮肉か)
        (戦という枠組みの中で死ぬ、人という枠組みの社会システムで死ぬ姿…無様であるか)

        だが数機潰した程度では、どうもなるまいよ
        トラバ方面、ゼナン方面と南西軍と三方に伝えよ。トラバよりの水がある。
        恐れず今の陣形と進軍速度を維持せよ、と
        地上軍に向けての攻撃も継続。第二波状を仕掛ける…後続の展開が終え次第かかれ
        (この戦い、カタクァの飛行部隊には大きなストレスを強いた)
        (いわば空中からのバラまき…広範囲による制圧ではなく、彼らの脅威となるものを多数用意することで)
        (彼らの戦い方を精密な降下からの攻撃に切り替えさせた。つまり、彼らは正確に狙うためにある程度まで降りてこざる負えない)
        (その攻撃の長弓、さらにいえば中程度のトレビュシェットで迎えてばよいと)
        (中には魔術師によるオリハルコンソードの浮遊操作による迎撃もあった)
        (迎撃は五分と五分で行えた…だがそれで充分すぎる)
        (あの巨鳥はネズミや虫ではないのだ、数に限りはある。すりつぶして行けばよい)
        (この制圧軍にあるは執拗さと心的余裕。この勢力は徹底抗戦派と決戦主義者をも巻き込んでいる)
        (最も彼らを引き出すには充分な札である大爛の皇女がこの戦いにおいて存在したのだから容易であった)
        (1を燃やせど少しすれば1が戻り、そんなことが何度も繰り返された)
        (今の時期の制圧戦争を3つに別けるとすれば人員を割かずにすむ北部、そして東部と南部なのだ)
        (いわば連合の半分か…いや駐留させる軍を差し引けばそのさらに半分、4分の1程度戦力が集まっているのだ)
        (一気に出し雪崩れ込めばそれこそ飛行部隊の餌。それらを小出しにしつつ補給も受けさせ一定数を保ちながら押し込む執拗さ)
        (電撃的ではない、ある程度広範囲に時期を見据えた制圧戦とは…と問われれば応えられる最適な回答とも言えるのではないか)


        (地上部隊にも同様のことが言えた)
        (この戦いにおいて有能な将、武将が数多くいる。彼らに率いられた軍勢とはつまり)
        (それだけで大きく戦術を、その戦域をひっくり返す可能性も…穴を開ける可能性がある)
        (故に。ある程度戦況が膠着し、そのようなものが打開するために現われるのが定石)
        (であるからしてそれらが出たのであれば、控えさせているあれらを出させよ…と申しつけておいた)
        (時期は現場の指揮官に任せる、好きなようにと)

        (そして解き放たれたのが1つ、2つ。1つは重度の神聖魔術…キメラ魔術により怪物と化した神聖騎士)
        (彼らはもう後戻りが出来ない。体を弄くられすぎてアルメナの社会生活に戻れないのだ)
        (故に、限界以上に強化し戦場に送り出させる。ここが君らの死に場所だと)
        (最後の華を持たせるために、突出した部隊に叩き込ませる。狂化も施されたそれらは自爆同然に)
        (かつてのゼナン焦土化のときのように雄たけびを上げて駆ける)
        (戦争は、この戦いが末期。既に終わった物に近い…であるため、その数は……察するべし)

        (2つ目。ローディア南方領軍が持ちアルメナまで広めた柱の女王と近衛である)
        (彼女らは、母子である。女王が近衛を守るように近衛もまた女王をエンチャントにより守る…)
        (近衛は騎士ではなく騎兵といってもいい。蠢く足により駆け、叩き潰し、敵兵を喰らう)
        (喰らい、力をつけて貪り続ける。恐怖、絶望を徹底的に与え挫く)

        (初戦であるからこそ、叩く。これまでもなく叩き…自らの力を示す)
        (それはひいてはカタクァの軍、カタクァに組する周辺都市に自らが今どういう立ち位置にいるのか知らしめるためである)
        (ここで押し、引かせれば周辺都市の士気は下がり旗色もドミノ効果により変わる風向きとなろう)
        (故に…まずはこの戦いを制することが鍵なのである) -- カイル 2012-09-09 (日) 08:02:51
      • 陣形は維持、狙うは拠点のみ。突出してきた部隊は通させろ。
        攻城部隊の方向転換などせずともよい。
        (敵の拠点と敵の兵、どちらを先に落とすべきか。定石であるならば後者である。)
        (しかし、ことカタクァの軍においては違う。彼らの主力は空のものら。)
        (その攻撃方法は火薬、であるからして必ず補給が必要となる。)
        (故に…拠点で補給できぬ航空兵などただの人を乗せた鳥である)

        (よって拠点を、砦を潰すことが最優先とされた)
        (城壁から降り注ぐ火攻めが行われようと…である。なにせ先陣を切っているのは柱の騎士らである)
        (そんなものを落とされてひるむようなものではなく、むしろさらに激しくなったといえる)
        (怒り狂い燃え尽きるまで城壁を、敵地上部隊を叩く)
        (燃え盛りながら暴れるその姿はまさに炎の魔人か…無論他の兵はただではすまない)
        (…最も精鋭らはオリハルコンの鎧にて火災による死亡を逃れたが)

        (中央を突破していく部隊を眺める)
        (軍団には兆候が見え次第通し、積極的に出るなと伝えている)
        (本陣のものらもそぞろに道を開け、彼らの突破を許す)
        (いわば大胆な撤退であるが…こちらにとっては何分都合がよい)
        (これでカタクァの軍は撤退したという事実が手に入ったのだ)

        では巨鳥らの死骸を集めよ、些か興味が沸いた
        (燃え盛る砦を眺めながら伝令に伝える)
        (カタクァ殲滅戦はまだ始まったばかりである)
        (まだまだ楽しまなければ損であろうと、到着したアルメナ枢機卿を笑顔で迎えた) -- カイル 2012-09-10 (月) 23:06:17
    • 【新カタクァ飛行部隊最前線】 -- 2012-09-09 (日) 00:31:22
      •  (小鳥の群れが白く煙に濁った空の上を飛んでいく。その群れを吹き飛ばすように)
        (突風をひきつれて巨大な影が横切る。)
        <<全騎散開!>>
         (煙幕の向こう側、地上では長い腕を振りかぶるような動きで連ねられた投擲器が)
        (稼動していた。)
         (飛行帽に仕込まれた石から聞こえる声を合図に、敵の目前でシャツァルの5羽編隊)
        (は6枚の翼をそれぞれ器用に用いて中で急旋回を打つ。彼らの風切羽のすぐそばを)
        (礫の散弾が掠めていった。)

         (その直後だ、連ねられた投石器の真上からまっさかさまに別のシャツァルが降り落)
        (ちていく。そして10発、火線を引いて鳥の胴鎧から放たれた火槍がロケット弾のごとく)
        (投擲器の一つに突き刺さり爆発を巻き起こした。)
         (爆炎よりも早く、空から落ちて来た蒼い翼は高く空の上へ昇っていた。)
        <<1基つぶした、他の状況は?>>
        (垂直落下のような急降下爆撃を見せたシャンタクァとココロアが再び敵の手の届かない)
        (上空で仲間達と編隊を組みなおす。)
        <<こちらは2基、ただヤワルが落とされました>>
        -- 2012-09-09 (日) 01:01:42
      • (状況は厳しい、と思う)
        (対飛行部隊用の戦術を練られている。規模、技術、兵力、どれも相当のものだ。飛行部隊としての性能を存分に見せ付け、情報をばら撒いてきたツケが回ってきたとも言える)
        (毒霧をかわし、網を切り裂き、岩を撃ち落す。矢が鎧を貫き、それでも切り抜けた後に広がる大軍隊。少しどころじゃなくきつい)
        (飛爛は……いや、シャンタクァはとりあえず投石器を潰していくようだ。それも正しいと思えたし、飛爛に従う事が今の自分の使命。矢の雨の中、礫の霧に血を流しても破壊活動にいそしむ)
        (上空まで上れば攻撃が届かない、と言う事はかなり助けになる。安心して情報交換や会話も出来るからだ)
        <<同じく、二つ>>
        (単騎で出た割にはそれなりの戦果だと思う。が、今は褒めてくれと言っている場合ではない)
        (いっその事一人で弾薬を抱えて生きている限り絨毯爆撃でもした方が効率が良くないか。彼我の損失を考えれば十分リターンがあると思える)
        (兵器だった頃の自分ならもっと早く提案できたのに。もはや戦場での死を恐れてしまっている自分が腹立たしい。)
        <<任せてくれれば、残りは私がやる>>
        (全部壊せるかどうかは怪しい、どれだけ壊せるかすら分からない。それでもこの戦況を覆すくらいにはやって見せる、と言う決意を込めた特攻志願。) -- フェロミア 2012-09-09 (日) 01:36:29
      • <<だめ!忘れないで、今は敵を倒せばいいんじゃない。一つでも多く街を守らないといけないの>>
         (そのために1回1回の戦いで消耗戦をしていては立ち行かないのだ。)
        (そしてそのどれか1つでも手を抜ける戦いなどは無かった。)
        <<一度巣へ戻る、全騎焼夷弾を装備、呪術師に敵を風下に立たせるように連絡して。>>
         (そう告げると、再び編隊を拠点へと向けさせた。その途上、2番機として従うフェロミアに)
        <<フェロミア、どんな時が来ても一人で行くなんていっちゃだめ、あなたはこの戦いが終わった
         後に、必ず私と一緒に帰らなきゃだめなんだから>>

         (煙幕と硝煙の下を重鎧と狂気を纏った連合軍の部隊が進んでくる。)
        (巨鳥の群れはもう何往復したか分からない空の上と再び自分達の巣へと急いだ。) -- シャンタクァ 2012-09-09 (日) 02:12:43
      • (じりじりと戦線を押し上げてくる連合軍に対し、那岐李率いる歩兵部隊は大した反撃に出ることが出来ないでいた)
        (基本的にカタクァ軍の戦略はシャツァルの爆撃の後に残存する部隊を歩兵部隊で殲滅するというものだったために)
        (シャツァル部隊が幾つかの投擲機を破壊したところで、残る大部隊を相手にするのはかなりの負担であった)
        ……状況は芳しくない、か(先陣を切った歩兵部隊の報告、シャツァル部隊の一時撤退。次々と舞い込んでくる報告にギリ、と歯噛みする)
        (だがしかし、此処で撤退の命を下すわけには行かない。シャツァル部隊が後方に下がった今、戦線を維持出来るのは歩兵だけだ)
        ……カタクァの兵達よ!今汝らの未来は、シャンタクァ様が描く未来は、我らの剣に託された!
        その誇りを賭けて剣を振るえ!我らの剣の一振りが、恐怖に打ち勝ち振るわれるその一振りが新しい世界を切り開くと心得よ!
        奮起せよ!世界を変えるのは汝らだ!我らには誇りがある!見据える未来がある!
        ただ略奪し、命を奪うことしか考えない連合など我らの道に転がる路端の石でしかないのだ!
        我らが掲げる旗印を支えるは先王とクル・クワンカ老の誇りの槍ぞ!彼らと共に戦場にあって、何を恐れることがあるか!
        誇り高き一振りで、シャンタクァ様の理想を守りぬけ!出陣ッッ!!!

        (兵士達を鼓舞し、先陣を切って敵の大部隊へと進撃を開始する)
        (降り注ぐ礫と矢の嵐を潜り抜け、待ち受ける柱の騎士や狂戦士達の進撃を阻止すべく刀を、槍を振るう)
        (被害は決して少なくない。シャツァルの援護無しにこの大群とやりあうのは正直に言って無謀であった)
        (なれど、カタクァ軍の戦線はその形を維持し続ける)
        (兵士の誰一人として死を恐れるものはない。しかし誰一人として命を投げ出すものもない)
        (皆一様にこの戦いの先を見据えているからであろうか。心無き柱の騎士や狂戦士達に対して微塵も臆することなく、最大の戦力を発揮し続けていた)
        (那岐李もその例に漏れず、その身に宿した異形の力を存分に古い、敵の進行を食い止めることに心血を注ぐ)
        (敵兵の隙間を縫うようにして走る漆黒の蛇の牙が、次々と的確に敵兵の心臓を穿って行く)
        (傍らではためくカタクァの旗印と、それを支えるクル・クワンカの槍が兵士達の心の支えとなる限り、自分もまた負けるわけには行かなかった)
        (この旗印と槍を真に誇るために。犯した過ちを乗り越えるために、那岐李は老人から譲り受けた槍と兵士達の心が折れぬよう最前線にて敵兵を切り続けた) -- 那岐李 2012-09-09 (日) 03:07:18
      • (一人で戦って、それで飛爛が勝てるならそれでよかった。元々自分はシャンタクァではなく飛爛のために戦っている、国の事なんか知らない)
        (それでも国が出来て飛爛がトップに立つのなら、きっと彼女は安全だ。権力争いなんて知らず、家族のような集落だけを見てきたフェロミアはそう思う)
        (だから一人で行こうと、この戦を自分が終わらせて褒めてもらおうと思ったのに。)
        (でもそう言えば飛爛はそんな人じゃなかった。戦火よりもまず生きている事を褒めてくれるような人だった。ピンチ過ぎて、焦りすぎていて忘れていた。)
        <<……了解>>
        (絶対に生き残って、二人で帰る。至上命題の上書き。戦果よりも……自分の存在意義よりも重要な任務を得て、これまで以上に飛爛に近く寄り添うように飛んだ。)
        (近くにいることで新しい存在意義を与えてくれる、そんな気がしているから) -- フェロミア 2012-09-09 (日) 22:19:41
      •  (ついに統一連合の軍はその荒野の街の壁際まで迫っていた。那岐李達に率いられた)
        (歩兵と駱駝騎馬兵達が城砦からの援護射撃を受けながら激しく敵と切り結びあう。)
         (投槍と銃弾がチェインメイルに面貌を隠した歪な巨体に何度も突き刺さる、そうして立)
        (立ちすくんだ敵に黒い刃が一閃してやっと完全に息の根を止めた。)
         (死を恐れず、あるいは死を喰らい来る軍団、その姿の異様と倒しても倒しても波のよう)
        (に押し寄せる執拗さに地上部隊はジワジワと押し込められていく。)
        (神殿騎士、柱の王、そして狂戦士、居並ぶ重装騎士団。焦土と化すゼナンで、あるいは)
        (地獄と化したバルトリアで、そいつらの凄まじい戦いっぷりを目の当たりにしていた兵士)
        (も少なくなかった。恐怖するなという方が酷であったろう、そして恐怖した者から死に、)
        (死んだものは食われて奴らの血肉となった。)
         (城砦の壁に燃え盛る炎弾が突き刺さる、敵はもう門を打ち破らんと迫り来ていた。)
        -- 2012-09-10 (月) 00:45:31
      •  (地上部隊の上を再び爆装を終えたシャツァルの編隊が風となって飛び越えた。)
        (横ではなく縦列に並び、包囲を狭める連合軍の部隊めがけて一直線に!そしてその胴)
        (備え付けられた火槍が点火された瞬間、戦場を一直線に切り裂く連鎖的な爆発の帯が)
        (現れた。)
        怯むなッ!!!
         (そして爆薬の白煙が晴れるのを待たず、地上部隊の鼻先に飛び込んで来たのは、)
        (シャンタクァ本人だった。その足に黄金色に輝く刃を履き、頭上を飛びすぎるココロアの)
        (背中から飛び降り様、目の前に居た神殿騎士の首を甲冑ごと蹴りで斬り飛ばし、地上)
        部隊に発破をかけるように叫んだ。)
         (急降下したシャンタクァとココロアに続き、上空の味方が放った火槍に並んで次々に)
        (シャツァル兵達も急降下を敢行し、鉤爪を敵へ向けて突き立てる。)
        このまま一気に敵の背後まで走り抜ける!空の守りはここにあるっ!翼の下へ続け!!
         (言うが早いか、急降下をしてきたココロアの鉤爪に掴まると再び高く上昇し、次の敵へ)
        (めがけて再び雷光もかくやという勢いで蹴りつけていた。)
         (騎鳥のココロアも空中で何度も前転や後転をくりかえして、次々の敵の頭を鉤爪で潰し)
        (蹴り付けた敵の身体を駆け上がって、手を伸ばす主人を掴んで再び空を引き上げる。)
         (その後をフェロミアが魚のヒレのような機械鎧の翼を広げ、時に敵を切り伏せ、あるいは)
        (火槍で穿ちながらシャンタクァの後ろを守りながら敵の奥深くへと切り込んでいく。)

         (シャツァルによる白兵戦、熟練のシャツァル兵でも出来るものはそうは居ない、そして今)
        (完全に敵が自分達を落とせる敵と認識している今、降下して戦うのは危険な事だった。)
         (だが、このまま無力に押し込められてしまうわけには行かなかった。決して負けられない)
        (のはこちら同じ…。だからこそ、たとえこの拠点が使い物にならなくなったとしても、決して)
        (むざむざと蹂躙されるわけにはいかなかった。)

         (敵攻城兵器を飛行兵よりも容易い破壊できる地上部隊を城壁から引き剥がす、そして)
        (城壁が打ち破られるまえに、後続の飛行部隊と城壁からの焼夷弾投下による火攻め。)
         (この時彼女はある意味賭けにでたのだ。もしも何かの不運で、地上に近づいた自分が)
        (撃ち落されればそれまでだろう。だが決してそうは成らない、直感めいた確信があった。)
        -- シャンタクァ 2012-09-10 (月) 00:46:33
      • (物量にジリジリと押し込まれ、戦線を下げざるを得なくなっていく)
        (背後には城壁が迫り、このままでは戦線の崩壊も近い。この砦を守り抜けなくとも、どうにかして敵の包囲を突き崩し、出来るだけ多くの味方を撤退させなければならない)
        (戦闘に勝利することから、効率的な撤退へと意識がシフトし始めた自分。そんな自分の弱気を見越したかのようにシャンタクァ率いるシャツァル部隊が次々と敵軍へ向けて突撃を敢行する)
        (敵の攻撃が届かない場所からの一方的な爆撃、というアドバンテージを捨ててまで行う攻撃に、那岐李含む歩兵部隊は皆目の覚めるような思いだった)
        (そうだ。逃げることだけを考えては勝てる筈も無い。撤退するにしても、ただ一方的に撤退するだなんてことはあってはならない)
        ……っ!!奮戦せよ!我らが高貴なる姫がその身を持って敵陣に穴を開けようとしてくれているのだぞ!
        此処で我らが後に続かずして何とする!その刀はまだ折れてはいまい!その槍はまだ砕けてはいまい!
        ならば出来ることは!しなければならないことはたった一つだ!
        各自!シャツァルの援護を無駄にするな!
        (声をあげ、再び振るう刀に力を込める)
        (シャンタクァがあそこまでやっているのだ。我々歩兵部隊だけが恐怖に怯えているわけにはいくまい―) -- 那岐李 2012-09-10 (月) 02:10:07
      •  (押しつぶす敵の呪縛から解き放たれた新カタクァの地上部隊はその頭上を舞うシャツァル)
        (翼にも劣らない速さで地上を駆けた。)
         (炎と城壁が連合の軍勢を取り押さえる中、城砦の中に居た民も兵士達もその裏口から)
        (そして秘密の地下道から次々と脱出していった。)
         (拠点を失うこと、それは空を飛ぶための足がかりを失うことだ。本当なら精鋭だけを逃がし)
        (最後の1人まで戦って死ぬことを強いた方が戦略的には正しかったのかもしれない。)
         (その言葉に喜んで従う者もきっと多くいただろう。だがシャンタクァにはそれはできなかった)
        (希望に殉じるのではない、希望を作るために戦うのだという言葉に一片の偽りもなかったのだ。)
        -- 2012-09-11 (火) 00:07:04
      • (その希望の種は、他でもない明日をよりよく生きようと決意した人間にほかならなった) -- 2012-09-11 (火) 00:09:13

 

  〓 〓  

 

 (統一連合軍のカタクァ討滅が始まって2ヶ月、その日また一つ荒野から街が消えた。)
(戦線は徐々に押し下げられて行く、だがそんな状況でも離脱者がほとんど無かったの)
(は幸いだったかもしれない。容赦の無い統一連合軍の破壊ぶりが逆に元来西側世界)
(とは対立する関係にあった南部の諸族に、降伏して助かるという希望を抱かせなかった。)
 (状況はどちらかが力尽きるまで終わる事の無い泥沼の総力戦の様相を呈していた。)

 (旧東ローディア南部、中央付近の町。新たなるカタクァの部隊の駐留するその街に、)
(灰蒼色をした巨鳥の群れが降り立った。)
みんなご苦労様、あなた達はユパンキの班に入ってね。
 (戦線よりも奥地の街を守っていた彼らをシャンタクァが出迎える。彼女は補充兵として)
(やって来た鳥とその乗り手を見て思った、皆若いと。)

 (シャツァルは十数年かけて成鳥になる、やってきた彼らの鳥はやっと大人の風切羽が)
(生えそろったばかりで、乗り手の年もシャンタクァより一回りは下のようだった。)
(いよいよ余裕はないのだ。本国の反乱も戦線は停滞していると伝え聞く。)
 (和平を引き出すにしても戦い続けるとしても、完全に疲弊しきる前に何か大きな戦果が)
(必要とされていた。)

(シャンタクァが増援のシャツァル部隊への指示をしている傍らで、那岐李も増員された歩兵部隊へと指示を飛ばしていた)
(歩兵の損耗はシャツァルよりも激しい。開戦当初から残っている兵士もかなり消耗しており、このまま戦闘が続けば確実に壊滅してしまう有様であった)
…兵達よ。此処まで生き延びた者には最早語る言葉は無い。己が誇りを剣に乗せ、それを振るうのみでいい
…そして増員された兵達よ。お前達には覚悟はあるか。…この戦いはシャンタクァ様が掲げる理想に同調した者達が行っている戦いだ
故に、シャンタクァ様の理想に賛同しかねる者は今のうちに去ったほうがいい。恐らく、我らが降伏することはない
その命が尽きるか、シャンタクァ様の理想が現実のものとなるか。そのどちらか二つだ
無理強いはしない。同調できぬ理想に命を捧げることほど愚かなことはないのだ。よく考えて欲しい
(那岐李の言葉にも、兵士達は動かない。皆理想に燃え、新たな国を築くことを目的として、そのために剣を取った者達だ)
(既に戦線が押し込まれたこの状況で此処まで馳せ参じた者に、この問いは無意味なものであった)
……分かった。ならば暫しお前達の命、私が預かる
別命あるまで身体を休めておけ…直にまた戦場へと戻ることになる
(そういい残し、那岐李はその場を後にしてシャンタクァの元へと駆け寄っていく)

…シャンタクァ様。何か、お考えが…?
(彼女が何かしらの策を講じていることは予想していた)
(どちらにせよこのままでは戦力の総数で劣る此方がジリ貧になるだけなのだ)
(彼女がそんな状況に甘んじている筈は無い。内心で何かしら考えているはず)
(そう考えての問いかけだった)
(そして同時に、もしこれで彼女が無謀な特攻や単機突撃などを考えていたのなら、それを諌めなければ、とも) -- 那岐李

とりあえず、海へ
 (荒野の続く遥かな地平線を見ながら彼女は唐突にそんな事を言い出した。)
(呆れられる前にその趣旨の説明が始まった。)

 (コレから先荒野の中を延々と行軍し続けることになる北部からの進軍は、この厳しい)
(荒野そのものが彼らの敵、そして我らの味方になるだろう。)
 (すると、海を渡りアルメナより東進してくる一団が問題になる、彼らはより短い距離で)
(荒野を渡りきることができ、そして背後にあるのは西爛戦争で疲弊しきった旧東ローディア)
(の街ではなく、比較的戦火の少なかったアルメナなのだ。)

海岸の端からアルメナの港町まで、シャツァルで一飛びに出来ない距離じゃない、ぎりぎり
だけど…。彼らの出発地点を空爆で潰す。

捨て身で突進してくる彼らは戻ることを考えてない、だから敵を迂回してその背後に残存
戦力を結集、アルメナ本土爆撃を敢行する。

 (この作戦の利点は三つあった、敵の港湾を奪うことで西からの増援を遮断、そして)
(殲滅戦のピストン輸送のために多数の艦艇を集めているところを襲えれば、内海における)
(支配力は低下、配下にある内海海賊を用いてスリュヘイムとの連絡が可能だ。)
 (そして何より、足場に自由の利かない海上では圧倒的に翼を持つ者が有利だった。) -- シャンタクァ

(シャンタクァの話を黙って聞き、幾許かの間の後、口を開く)
……確かに、理に適った作戦ではあります。しかし、海上とはいえ歩兵の随伴も無く単独での奇襲は危険も伴います
万一落とされるようなことがあれば、確実に捕らえられるか…そうでなくとも海の藻屑となってしまう
…貴方が直々に行うというリスクを犯すべきではないと私は思います…わが軍は貴方の強い求心力で纏まっています…万が一にでも貴方を失うわけにはいかない
(先の戦闘では連合軍は完全にシャツァルへの対処法を確立していた。海上とはいえ、連合軍が何かしらの対策をしていないとは考えづらい)
(万が一、億が一にでも彼女を失うようなことがあってはならないのだ。そのことを那岐李はシャンタクァに強く訴えた) -- 那岐李

 (那岐李の言葉はたしかに真実だった。港のどこを潰せばその機能を奪えるのか。すでに)
(優秀な海賊達の手よりその情報はもたらされていた。そしてその法にも国家にも属さない)
(無頼の輩をも味方に取り込めてしまったのは。このカタクァの小さな女王がいたからこそで)
(あった。)

 (爆装したまま海峡を飛び越え、作戦を行えるベテランのシャツァル兵はこの時すでに数を)
(減らしていた。彼女とその愛鳥であるココロアが前線にでなければ、この作戦は成功もおぼ)
(つかない。)

落ちないよ
 (だが、不安など微塵も感じていないように彼女は言い放った。)
私は絶対落ちない。いつか私も死ぬのだとしても、私が空へ帰る日は今じゃない。
-- シャンタクァ

しかし……!!……っ…(反論しようと思ったが、言葉が出ない)
(彼女の瞳には一切の迷い等無く、まるでそうであることを本当に知っているかのようだった)
(思えば、兵達もこの迷いの無い瞳と、未来を見透かしたかのような強い言葉に惹かれているのかもしれない)
(この反乱も、彼女のこの強い意思によってはじめられたのだとすれば此処で彼女の言葉に賭けてみるのも悪くは無いのかもしれない)
(事実、何かしらの手を打たなければこのままカタクァ軍が殲滅されてしまうのは火を見るより明らかだった)

…分かり、ました。貴方を、貴方の腕を、貴方の愛鳥を信じます
(苦々しい顔を隠そうとはしない。それでも、彼はシャンタクァに今一度賭けることにした)
(成否よりも、無事に戻ってきてくれさえすればいい。それだけを願っての言葉)
……くれぐれも、お気をつけて。貴女無しに、我々は軍を維持出来ない……
(それだけ言い残し、那岐李はその場を後にするのだった) -- 那岐李

ありがとう、那岐李
 (立ち去る那岐李の背を見送る。思えば奇妙な縁であった。初めて彼と出会うことになった)
(きっかけは偶発的な事故の産物。その後共に戦ううちに、彼が日と月が何千回と廻る遠き)
(日に分かたれた同じ祖先と血をもった人なのだと分かる。)

 (そして復讐と憎しみにのみその刃を振るっていた彼が、今は誰よりも彼女の信じる未来と)
(その希望のために尽力してくれていた。)
(まるで万物はその頭上を覆う空の元に一つであり、すべての命は星海の彼方から落ちた)
(星屑から始まった兄弟なのだという、カタクァの創生神話を信じさせるような出来事の連続)
(だった。)
 (そして彼らは夜明けとともに出撃する。集められた鳥は1000を越す。そしてその何倍もの)
(地上部隊を共に鳥の背にのせ、あるいは翼の下を駆けさせ。西爛最速の機動部隊は一路)
(旧東ローディア西岸へと向けて馳せたのだった。) -- シャンタクァ

 

 

【 黄金暦227年 10月 アルメナ領内海東端 】

(旧東ローディア西岸を望むこの内海を進む輸送船にて…待ちわびる)
(2ヶ月、ほどよい時間を必要とした。その間にも着々と数を揃えていた故に。)
(最初の制圧戦からのことであるがトレビュシェットを使った砲火、そろそろ意に介さぬほどにこなれてきたであろう)
(初戦のあの時からそのさらに先を行くものを生み出す必要性は感じていた。故に。)
(これら柱の女王や近衛、王や騎士、それに加えての彼らが積荷である)
(戦線に投入すればかの飛行部隊を切り裂くことができ、これからもより優位に進められる。)
(愚かなことに最近は海賊も見られた、誰が内海の統治者であることをごろつきに教えてやらねばならぬが)
(ある程度の戦力でサボタージュは抑制できた。最もそれらがスリュヘイムの武装を輸送していたのは重ねて愚かしいあがきにも見える)
(今月に入り輸送船団と地上部隊の増援はさらに派遣を大にされる…もってあと幾ばくの月かと思えば)
(船団に警報の鐘が鳴り響く)


(甲板に出れば複腕の船長が声を荒げていた。何事かと問えば)
「閣下、前方から巨鳥の群れが接近、影からしてカタクァの空軍と報せが」

(笑みが漏れた。何を、と思う船長もまた思い当たり…同時にその三つ眼を瞬かせ微笑んだ)

積荷を開放。グリフォンライダー、ペイルライダーの両神聖騎士、レムナントを出せ
「アイサー!副長、全艦に通達!グリフォンライダー、ペイルライダー、レムナント出陣、船団はこのまま直進せよと」
(副長が答え全輸送船に新たな鐘の音色で通達がなされた)
(輸送船の積荷の一部、あるいは輸送船事態の床が開き続々と黒いシルエットが轟音、暴風を巻き上げて飛び立った。)
(早い。明らかに早い…その速度、今向かいつつある空軍よりも、速い)


(二ヶ月前。既にめぼしはつけていた。カタクァの空の鳥らに対抗するためには何が必要か)
(それは鳥、同じくして鳥である。故にあの制圧戦以降仕留めた巨鳥の死骸を徹底的に回収させた)
(それらはある程度の処置をされてからアルメナに搬送。神聖魔術を用いて中枢神経から身体、脳を弄くり回し)
(骨格からつま先等に仕込める楔は仕込み、肉体を作り変えて対巨鳥の戦力とし整えた。これがペイルライダー、死神であり)
(他にも神聖騎士の者も使い肉体に施術を施した巨鳥と神経を接続させ高速にて空中格闘戦闘を行えるようにしたグリフォンライダー、空獣騎士も生み出した)
(彼らカタクァの鳥らが地上を焼く炎ならば、その炎を切り裂く風となれと編み上げられたのが彼ら)
(理論はいたって簡単。爆装し人を乗せ、さらに人を乗せた鳥よりも軽く、早く…鋭い爪にて弓にて剣にて槍にて切り裂く)
(地対空ではなく空対空の概念という札を切った)
(蘇生ではなく急増養殖したもの…骨格と薄い肉のハゲワシのような姿…レムナントもいる)
(その数300程。うち100は船団護衛、残り200は巨鳥狩りへ…)
(しかし、彼らを狩るには充分すぎる比率であると言っていい。)
(輸送船団上空を竜巻の如く旋回し上昇した彼らは嵐となって狩りに出かける…死の旋風が解き放たれた) -- カイル

 (旧東ローディアの海岸を発った地上部隊の船団の頭上の上が俄かに騒がしくなった。)
(海鳥達がわめき散らしながら点でバラバラに陸地の方へと逃げていく。)
 (行く手の水平線の上に水柱と炎が吹き上がる。先行した飛行部隊に異変が起きていた。)

 (やがて間をおかずに、船団の頭上を羽を血に染めたシャツァルがマストの先を掠めて)
(海上へと墜落していく。)

<<爆薬は捨てろ!編隊を崩すな!昇れ!上がる力はこっちの方が上だ!頭上を取らせるな!!>>
 (通信石を通して聞こえてきたのは、シャンタクァの声だった。彼女の冴えるような蒼い翼が)
(船団の上を突風となって通り過ぎて往く。その後ろにまるで亡霊のような歪な巨鳥の姿が続く)
 (急激に方向転換したシャンタクァとココロアが空を垂直に駆け上がった。そして追いすがる)
(敵の頭上で頭を地面へと急反転した。大きな翼が広がる一瞬、音速を超えた風切羽の先端が)
(破裂音を響かせ、鉤爪が騎乗者もろとも、歪な巨鳥を切り裂いた。)
 (そして彼女の側に寄り添う、空を泳ぐ魚の鎧が撃ちもらした敵を火槍の一掃で撃墜する。)

 (帆に風を受けたカタクァの船団の舳先には、無数の空を飛ぶ影をマストの上に従えた、)
(アルメナの船団が出現していた。)
-- シャンタクァ

(上空で熾烈な空中戦が展開されている。正面には敵の船団が待ち構えている)
(危惧していたことが現実となった。敵は此方の想像以上の「対空戦」の手段を持ち出してきたのだ)
(絶対の支配権を得ていた空からの攻撃に、シャツァル部隊も、船団の地上部隊も一瞬の恐慌状態に陥った)
(数少ない勝算であった制空権を脅かされたのだ。当然の反応と言えた)

―おのれ……っ!!
(歯噛みする。カタクァの誇りの具現とでも言うべきシャツァルを無残な姿に変えただけでなく、それを持ってシャツァルを襲うなど許しがたいことだった)
(血を同じくする民族の誇りを穢されて怒りに燃えぬ筈が無い。恐慌状態に陥る歩兵達に向き直り、口を開く)
―うろたえるなッ!!
今汝らのするべきことは何だ!?怯えることでも、逃げ惑うことでもない筈だ!手にした刀に、心のうちに宿る誇りを忘れたか!
彼奴らを打ち払い、国の守れるのは汝らの刀だということを忘れるな!我らが此処で引けば、シャンタクァ様も、国も、全てが灰燼に帰すのだぞ!
気を引き締めろ!汝らに双肩にこの反乱の成否がかかっているのだ!…総員、抜刀!!

(歩兵が刀を抜き放ち、弓兵が矢を番えて体制を立て直した)
(弓兵達が空中を飛び回るおぞましい敵軌道兵器に向け、一斉に矢を放つ)
(例え当たらなくとも、回避の際に生まれた隙をシャツァル部隊が活かすことだろう)
(歩兵達は眼前に迫るアルメナの船団に対して突撃を敢行せんと声をあげる)
シャツァルを此処で失うわけには行かぬ!私が血路を切り開く!総員、続けぇッ!!(言うが早いか、その身に宿した蛇神の力を解き放った)
(那岐李の身体から噴出した幾つもの黒き蛇が、飛び回るペイルライダー達に一斉に襲い掛かる)
(同時に、那岐李本人も黒き蛇の力を借りてその身を宙へと躍らせた)
貴様らが陰なる外法によって生まれたのなら、更なる陰の力を持ってその身を食い破ってくれようぞ!
我が身に宿すはカガチの力!太古より紡がれし黒き蛇神の力、今こそ貴様らに思い知らせてくれる―!

(上空の敵兵達を、自身も一匹の黒き蛇と化したかの如き那岐李の刀が切り伏せていく) -- 那岐李

(初の実践というのに中々やってくれる。これで数を減らし経験を積めばよりよく後の制圧戦でも役に立とう)
(連中が爆装していた、という点も大きい。初手を制したにちかい。1つ2つ厄介なものがいるが…)
(それらも隊伍の中でのこと。戦局でみれば大きく手綱を得た。)

(そして前進し続ければ見える…また、輸送船。カタクァ軍のものか、ならば早い)
(このまま前進し沈めるのみ。それだけのものがこの船にはある)
(無数の黒い影が織り成す旋風を携え、進路を進める。死を運ぶ船が…)

対船舶用に柱の騎士と楔、並びに鎖を準備させろ艦長、現行の装備でも充分遊べるぞ
「了解、これで片付きますなぁ」

(カタクァの軍は最早爆装しては生を望めない分、船舶の脅威は船舶のみ)
(船舶が引き連れた防空用のグリフォンライダー、ペイルライダー…そして死怪鳥レムナントらが)
(カタクァ地上部隊を輸送する船団に飛びすさぶ)
(おってアルメナ船団、到着はすぐ近く)

(その中で、地上部隊で特に突出した力を持つものがいた。見れば黒いものを纏っているが…)
(はてさて地脈、龍脈とはまた違うものか。何にせよ中々に活躍している)
(空獣騎士であるグリフォンライダーもその異様な術には対処を困らせ羽を、腕を差し込まれ噛まれて落ちていく)
(その死骸を蹴り次々と怪鳥、死鳥、空獣騎士を落としていく姿はまさに翼を得た蛇、神の獣か竜か)
(これだけの量が差し迫る戦場で、である。身軽に空中を駆ける姿…地上部隊の将であろうがカタクァの将たる様相と言えた)
(地上だけではない、ことここに至るまでとなれば八面六臂の武を誇る将であろう)
(しかし)

そこまでだカタクァの将よ

(アルメナ輸送船団が…カタクァ地上部隊に近接した)

この局面に於いて尚、飛び荒ぶはカタクァの将兵故か見事である。
が、これ以上やられては適わぬのでな。そろそろに退いてはくれんか。
(戦場にあるまじき穏やかな声で…白と赤の鎧を纏った紅髪の男が、王が投げる)
(その側で、他の輸送船団の積荷である柱の騎士らが起き上がり鎖や錨、楔を携え地上部隊の船へ投げる)
(その言葉とは裏腹に海上戦闘による決戦、白兵戦が幕を開けた) -- カイル

(ペイルライダーの翼を切り落とし、グリフォンライダーの首を狩り、レムナントを真っ二つに引き裂き、それらの死骸を足場にして飛び回る那岐李は今だ地に足をつけてはいなかった)
(時に味方のシャツァルの背を借りながらも、蛇神の力を持って敵兵の数を減らし続けた)
(その最中、眼下を見ればアルメナの船舶が今正に味方地上部隊の船舶へと白兵戦を仕掛けようとしているではないか)
―くっ、ここまでか……ッ!!
(ギリ、と奥歯をかみ締めて眼下を睨み付けた。幾ら空中の敵を排除したとて味方の地上部隊を放置していては確実に殲滅される)
(東ローディアの新生カタクァの地にたどり着かれて困るのは、200程度の空中戦力ではなく地上戦力だ)
(怪鳥を初めとする敵の空中戦力には指揮官らしきものは居ない。この死兵がカタクァにたどり着いたとて、さしたる脅威ではない)
(しかし、圧倒的な地上戦力が整然とした指揮体系を維持したままでカタクァに到達したとなれば瞬時に国は滅ぼされてしまうだろう)
(本命はあくまで敵地上戦力なのだ。これ以上空中で死兵と斬り合っている場合ではないと。そう判断した)

(近場に居たグリフォンライダーを足場にし最後の跳躍。シャンタクァが操る一際巨大なシャツァルの背にその身を躍らせた)
―シャンタクァ様!これ以上シャツァルを失うわけにはいかない!貴女は撤退を!
此処は我らがその身を、命を持って食い止めます!
(それだけを言い残し、返答も聞かずに遥か上空から眼下のアルメナ船舶に向かって飛び降りる)
(蛇神の力を全身に纏い、すさまじい加速度で舞い降りるその姿は正に黒き弾丸であった)
(無数の船団の中の一艘に狙いを定めると勢いを殺さぬまま、船舶の甲板を突き破る)
(轟音が響き渡り、直撃した船のど真ん中に空いた風穴から黒い影が躍り出る)
貴様ら外道如きが姫様の理想の前に立ちふさがること、断じて許さぬ!
我が身を持って、我が命を持って!姫様が進む道を切り開いてみせようぞ!
(戦場を船の上へと移し、再び黒き蛇が牙を剥く。血塗れの白兵戦の最中、那岐李は刀を振るう)
(ようやく見つけた自身の進むべき道を守るために。道を指し示してくれた人の理想を守るために)
(その身を、命を削り、那岐李の刀は黒き旋風と化して敵船舶を駆け抜ける) -- 那岐李

 (黒く纏いつく死鳥達の血を鉤爪から撒き散らしながら、シャンタクァは怒りに我を忘れていた。)
(鉤爪で切り裂く、火槍で撃墜する、宙を何度も空転し、何もない空を掴んで駆け上がるような)
(機動を見せて、いくつも敵の翼を叩き落した。)
 (自らの半身である巨鳥シャツァルの命、そして彼女の語る未来に命をかけて戦ったその騎手、)
(1人1人の名前すら忘れようもない同胞の命を誇りを外法に貶められて弄ばれた事実に)
(シャンタクァはいや、飛爛は怒り狂った。)
 (こうなればもはや連携も何もあったものではない、カタクァで最大の大きさと速さと戦力を持つ)
(ココロアの挙動について来れるものなど居はしなかった。敵もそして味方すらもでもある。)
……ッ!
 (そんな折に突然投げかけられた言葉に、彼女は我に返った。)
那岐李!!
 (叫んだときには、すでに彼の背は遠く、絡み合い、乱戦を繰り広げる甲板の上へと黒き疾風と)
(なって遠ざかっていたのだ。) -- シャンタクァ

(黒蛇が飛び荒ぶ)
(弾丸、砲弾のように飛んできたそれは見事に船舶を打ち抜き中から這い出てきた)
(が、しかし。孤軍…そもそのはず、彼らは拠点制圧のために集められた)
(海上戦闘をするために集められたのではない。ゆえに集められたのではない)
(無論こちらもそうではあるが、手のうち用においては他にないものを持っている)
(巨人が、柱の騎士が鎖と錨を投げ相手船舶のマスト、縁、船体を抉り取り…白兵戦が始まる)
(そもそも相手の船舶自体心もとないのだ。内海を支配するアルメナである。海賊船籍だろうが拝金主義によりできた統制者であるアルメナの装備とは桁が違う)
(火砲の数、護衛艦ですらその差はある。接近すればもう見えているようなものだ)

…将として名乗るのこともせぬとは度し難い。
面白い術を使うものだから相手をしてやろうと思ったが…よい
(ため息をつき控えていた南方領第三軍ブラックゴートに下す)

適度に弄び楽しめ、死骸はカタクァへの土産としよう
「はーい!」「了解」「確かに」
「楽しもうぜ蛇ちゃーん」「うぃひひひ」
(皆、笑顔で向かう。金属とは異質の武器…竜骨を持つ者までいる)
(将を迎えるは将、対殺人に特化した者らが那岐李を向かえ、他の黒山羊の将らが率いる軍団が船舶を襲う)
(飢えた魔獣が命を喰らいに解き放たれた…)
(王はその中でゆっくりと椅子に腰掛け将の戦いを眺めた) -- カイル

…下衆が。我が名は貴様の冥土への手向けにしてくれようぞ(四方を飢えた獣染みた男達に取り囲まれ、それでも尚那岐李の戦意は消えなかった)
此処が我の死地であると言うのならそれもよし。最早我に迷い等ない。あのお方の示してくれた未来を守るための死であるのならば、甘んじてそれを受け入れよう
……だが、ただでは死なぬ。姫様の理想を理解せぬ貴様らを、カタクァの誇りを踏み躙った貴様らをこの世に残して逝けるものか
我が身に宿すは陰の蛇神!貴様ら外道を冥府へと引き摺り下ろすその役目、閻魔に変わって遂行してみせる!
(咆哮と共にその身を走らせる。手にした刀を振るえば、切っ先から黒蛇が意志を持っているかの如く飛び出して次々と敵兵に襲い掛かる)
(蛇神の力によって強化されたその身体は多少の傷など意に介さない。切りつけられれば、その傷を厭うこともせず、刀を、矢をその身に食い込ませたままで敵兵をなぎ倒す)
シャアァァァァァァァァァァァァァッ!!!!
(吼える。最早その瞳に理性の色など無く。ただ眼前の敵を打ち倒すために黒き蛇は牙を剥き続ける)
(既に味方地上部隊が壊滅状態にあろうとも、那岐李はただ一人敵陣の最中で血の花を咲かせ続けた)
(黒き蛇が足掻く。背には幾本もの矢が突き刺さり、全身に受けた刀傷からはおびただしい量の血が流れ出しても尚)
(その瞳に敵将を捉えたまま、彼の者を切り伏せる。ただそれだけのために、千切れ飛びそうな手足を振り回して波の如く絶え間なく襲い繰る敵兵を斬り続ける)

(幾人の敵を切り伏せただろうか。幾度の致命傷を受けただろうか。身体を濡らす血が、敵兵の物と自分の物とどちらか到底判別出来なくなったその姿は)
(既に彼が外道と罵り、忌み嫌った死兵と何ら代わりの無いものに成り果てていた) -- 那岐李

 (黒き悪鬼となった那岐李の横に走り並ぶ者があった。彼らは火の付いた投槍を投げ、)
(うねる波の上で揺れる狭い甲板も意に介さず、駆けつけた。)
隊長!抜け駆けはひでぇよ!
 (それはカタクァの歩兵達だった、かつてバルトリアで柱の騎士と遭遇した折に共に戦った者)
(あるいは、カタクァ反乱の際に那岐李とクラトによるクーデターの主力部隊として戦った者まで)
(居た。皆一様に傷つき、血を流し。だがそれでも笑っていた。)
やるんでしょう、姫様のために、あいつ等道ずれにしてやるつもりだ。
横に付けた俺らの船、船倉の火薬の導火線はもう燃えてるんですよ。
 (最後まで供をする、そう無言のうちに語り、彼らは持てる全ての武器を体にくくりつけて、柱の騎士)
(そして無数の異形、それらを統べる者の前に那岐李と供に立ちはだかった。)

 (彼らが決死を覚悟したその直後、甲板上にいた柱の騎士の腕を切り飛ばし、鉤爪が降り落ちる)
(座した王へと蒼い雷撃と化したシャンタクァとココロアが降り落ちた。)
 (だが、彼女の狙いは大将首ではない、甲板の木材を鉤爪で撒き散らしながら、羽を畳んだココロアが
(一目散に那岐李達めがけて駆ける。)
 (たとえ一度翼に風を失ったとしてもここは海風の吹く海の上だ。速度さえ失わなければ離陸は容易い。)
(すれ違い様、蒼い翼の上から彼女は手を伸ばした。それは、ただ一度切りのチャンス。) -- シャンタクァ

……お前、たち……(力に囚われていた那岐李の瞳に理性の色が戻る)
(絆など築ける筈も無いと思っていた。カガチである自分に、仲間など出来る筈もないと思っていた)
(それがどうだ。今此処に、己の命を捨ててまで自分に付き合うと言う愚か者がこんなにも居る)
―……死出の旅は、賑やかになりそうだな。…悪くない
(感謝の言葉も、謝罪の言葉も出ては来なかった。ただ、短い言葉のみを残して再び敵兵に向き直ったその時だった)
(上空から唸りを上げて降り来る大きな影。その背にある人影がすれ違いざまに手を伸ばす)
(たった一度きりのチャンス。千載一遇。九死に一生を得る最初で最後の機会を彼は―)

(掴み取ろうとはしなかった。頬を風と共にシャンタクァの手とココロアの羽が掠めていく)
(後方へと飛び去るシャンタクァに、那岐李は振り返ることもせずただ声をあげる)
―シャンタクァ様!
貴女は言った筈だ!此処は貴女が空へ帰るべき場所ではないと!
此処は貴女の死地ではない!此処は…この場所は私の墓標とさせて頂く!!
貴女が見据えた明日はまだ先にあるのだろう!!なればこそ!貴女はそこに向かうべきなのだ!!
地を這う蛇は此処で命を散らせども!!空を舞う翼はどこまでも…どこまでも飛んでいくべきだ!!
―御武運を!!願わくば、我らの死が貴女の道を切り開く切っ先とならんことを!!!
(この声が彼女に届いたかは分からない。しかし、確かめようと振り返る気も無かった)
(明日に向かって飛び続ける彼女に自分たちが追いすがっては、きっと彼女も飛びづらかろうと。そう思ったから)

……さぁ外道共。此処が汝等と我らの死に場所だ!
墓標は此処に!共に冥府へと落ちようぞ―!! -- 那岐李

クククク…ハハハハハハ!
君は些か勘違いをしているようだ、誇り、希望、未来。描く夢には結構。
なんとも美しきことかな
(ゆったりと笑いながら語る。吼え、雄たけび、血飛沫が舞う)
(歴戦の部下も流石にてこずるとは思っていなかったが中々にしてしぶとい)
(だが愉しむのであればこうでなくてはならない。制圧とは…そう、かのときと同じである)
(執拗に、すり減らすように。ことこの相手には全力で、かつ全速で何度も弄ぶように)
(猫がネズミを弄くり殺すが如く…時折猫が殺される、窮鼠のように)
(最後の命と炎と共に投げ出すものらを嘲笑うかのように佇む)

しかしな
国引きにてそれを掲げるは全くもって愚かである。
国作りにおいてそれらはさして重要ではない。それらを必要とするのは扇動者と盲目たる愚民のみ。
汝らの頭は扇動者としては上場ではあったが…執政には向かなかったようだ。
大人しく大爛にて爪を磨いていればよかったのだよ。
鳥が飼われるが如く。この大空、世界を駆けるに鳥では余る。いずれ堕ちる。

(飛来してきた雷撃かのような突撃、童女か…いや、これらの主であるか)
(硬質で高音の金属音が響く…その落雷は白き鋼鉄の大蛇、オリハルコンの蛇腹剣にて防がれた)
(王を中心として広がり感じるこの世界に溢れる魔力、そして死骸から湧き出た魔力を薄く広げれば)
(雷鳴も砲撃も意のままに操る自在剣…竜鱗たる尾にて護るも攻めるも自在故に)
(座を軋ませるまでもない、いわば結界たる物理障壁と化していた)


そして堕ちるときが今なのだ。


(雷撃意に介さず)
(ボロボロの、満身創痍の那岐李の周囲を囲む兵と将ら…そして、上)
(マストを駆けて少年兵ら…手には竜骨、鋼鉄の剣を携えた彼らが…周囲を囲むものらと共に)
(一斉に駆け、各々らの武器を魂を震わせて叫ぶその肉体に突き刺した)

冥府の王たる余が君に応えよう。
国引きに必要なのは血肉と死骸、そして金貨である。
覚えておくがよい。
(それらはかつて…那岐李らカガチの民に敷かれた理の如く。今再びその闇が迎えた…) -- カイル

(―彼女は、無事に逃げおおせただろうか)
(この身体を貫く冷たい刃の感触よりも。今まさに幕を下ろさんとする己の人生よりも。それが気がかりだった)
(あぁしかし。カガチとして忌み嫌われ、己の人生に意味など無いと全てを恨んでいた自分がよくも此処まで来れたものだ)
(この命が全ての虐げられし者達の希望を繋ぐ糧となるのであれば、それで良い)
(ごぷ、と濁った音を立てて肺腑からどす黒い血が逆流し零れ落ちる)
……貴様は、分かっていない……
あの方が、行おうとしているのは…国引き、などでは……ない
…あの方は…蒔いたのだ……種を。希望の種を……
種が咲かすであろう花は……それを、夢想するだけで……我らの…全ての民の、希望となる…ものだった…
貴様は…分かっていない……あの方が蒔いた種は……必ず、芽を出す……
我らの…あの方の願いは…かな…ら、…ず……

(視界が暗転する。漏れ出す血液と臓腑は死神の鎌が首元へと当てられていることへの証だろうか)
(あぁ―)
(世界に彼女が蒔いた花が満ちれば)
(きっとそれは素晴らしい世界になるのだろう)
(この死が花咲かすための肥となるのであれば それでいいのだ)

(あぁ     闇に染まった視界に   何時か手にかけた老人の姿が見える)
(あぁ   薄れ行く意識の中に  何時か憧れた少女の姿が見える)

    我は       
                カガチの
                   …………誇りを……… -- 那岐李

 (背後に上がった爆炎に尾羽を焦がされながら、シャンタクァは空へと舞い上がった。)
(彼女が飛び立った船からだけでなく、その海上にあったカタクァの艦艇が次々に爆破の連鎖を)
(上げ、海上に飛沫と炎を巻き上げた。)
 (決死の覚悟をしたのは、彼らだけではなかったのだ。)
(アルメナの艦艇に肉薄した、あるいはその只中に囲まれ、船殻もマストも砲火にさらされた)
(船も次々と自爆した。)

 (その炎の下で何が起こったのか、空を行く者たちはすべて理解した。そして炎に飲まれず)
(なおも追いすがる黒い翼の影を蹴り落し、あるいは振り切って高く高く舞い上がっていく。)
 (太陽を中心に渦を巻くように生き残ったシャツァル達が一つの群れへと集まった。)
(やがて6枚羽を広げた鳥の群れは、一際大きな蒼い翼を先頭に自らの巣へと飛び去っていく。)

那岐李…
 (高い空の上から今だ黒い炎の立ち上る空を映したような蒼い海原を振り返り、その名を刻むように)
(彼女は呟いた。)
 (希望は、紡がれたのだろうか。水底へと沈んでいくたくさんの命を代償として。)

……ッ!
 (泣き出しそうになるのを堪えて、傍らに付き添ったフェロミアと供に、彼女は翼を羽ばたかせた。) -- シャンタクァ

死骸は仰向けにしてやれ、空の民らしく空を仰いで死なせてやれ
(他の道連れかと言わんばかりに我先にと来る兵らを悉く殺させて哂う)

(穢れた大地…穢土でなんと美しい華であるか、美しすぎる蓮の華か)
(東方の宗教であったか…なんとも美しい思想だ)
(天へ天へと昇る華はいつか照らすことが命題であると信じた姿)

(ゆえに、誰も触れられぬのだ)
(この世界で生きようとする…この今まさに時は明日を生きるために奪い合う)
(それが今である。今飢えて戦い明日の、今の寸時を嗚咽しながら生きようとするものに何が響こうか)
(この時代が終わればこそであろうが…今、時は戦乱の世である。)
(その中で沸いてでた種はなんとも美しく、甘美であり美味であろう。であるからして)

あぁ…その希望の種はよい、喰らえば良い酒の肴になりそうだ。


(無事なものはアルメナへ、再編するという無慈悲な声に紛れて笑い声が響く)
(さてこの一手は未来へ続く希望の一手かそれとも…それはすぐにわかることとなろう)
(こうして電撃的に内海で起きた海上戦闘は幕を閉じた)
(次は幕間か…終幕か)
(今はただ命と炎が天へ昇る煙の如く遥か空へ消え行く波間でしかない) -- カイル



 



 

 

  〓 〓  

 

 (那岐李達、新カタクァの地上部隊のほとんどが海上にて壮絶な最後を遂げた2日後のことだ。)
(シャンタクァに率いられた生き残り…1000に満たない数の兵士達がアトル・イッツァの街へと目指)
(して敗走していく。)

 (まだ飛ぶ力を残していたシャツァル達は力尽きてしまう前に、運べるだけの怪我人を乗せて)
(先行していったが。)
 (傷ついた兵士や飛べなくなった鳥までを連れての行軍は、荒野を飛び越えるというわけにも)
(いかず、統一連合の目を避けるように焦りながらも鈍行を強いられる。)

 (そしてその隊列の中にシャンタクァとココロアの姿もあった。本来ならば真っ先に逃がされて)
(然るべきだったが。それでも彼女には生き残った兵士を、翼を引きずるようにして隊列に続く)
(鳥達を何の助けもなしに荒野に置いて行くという選択肢は無かった。)

 (そんな中での出来事だった。疲れきった彼女達が砂漠の民が仲間内で密かに伝えあう秘密の)
(井戸にたどり着き、やっと一息ついた時に彼らと出くわしたのだ。)

(第704戦術試験部隊。スリュヘイム汚染公領の擁する、新兵器・戦術を実戦で運用評価するための遊撃部隊―)
(統一連合・新カタクァ制圧本隊とは命令系統と思惑・勿論布陣も別にするが故の、偶然の邂逅である)

(そして、偶然とは重なるもので)
…シャンタクァ
(巨鳥・ココロアの、見事な空色は、遠目にも見紛うはずもない。恐らくはこの騎士の、白く輝く竜鉄の鎧も―彼女には見えているはずだ)
(状況は複雑である。公国が一枚噛んで成立を目論んだ新カタクァは 予想以上の西側の反発にあい、大規模な制圧軍が編成されるに至った)
(公国はもちろん統一連合の構成国家のひとつである。こうなれば表はおろか裏からの支援も難しい…)

(騎士の理想は揺るがない。空の女王の、持つ夢もまた揺るぎはしない)
(しかし、戦場で。ひとつの戦闘単位として、出会った以上は―)
やあやあ我こそは統一王朝が騎士!エルネスト・フォン・レーヴェンフック!! -- レーヴェンフック

 (敗残兵を抱えての逃走中、現れたのは見まがえようもなく、時代錯誤など微塵も意に介さず)
(むしろ我こそが歴史であると言わんばかりにヒロイックな鎧姿の騎士であった。)

 (その姿に兵士達は一度は密約を取り交わしたスリュヘイムの彼らが、最早味方ではないとい)
(う事実を突きつけられ、騒然とした。)
 (だが、兵士達の誰よりも早く、心を繋いだ蒼き翼に飛び乗ったシャンタクァはすぐに名乗りを)
(返す。)
先王シャグナ・カルパのひ孫、カルパ族長!レニ・カタクァ(新たなるカタクァ)の王シャンタクァ!
 (ココロアの翼が広げられた、砂塵がその羽から払い落とされ。俄かに砂煙に霞む荒野の太陽を)
(受けて、蒼穹を移したようなその翼は一層蒼く輝いた。)

 (兵士達を手で制して一歩前へと進みでる。ココロアの鞍につけていた黄金の投槍を手に、)
(その足に装飾を施された弧を描く虹のような黄金の刃を履いて、彼女は高らかに名乗った。)
 (潰走中の敵を取り囲み襲撃するのではなく、ただ一騎名乗りをあげた彼の騎士道精神に)
(賭けたのだ。)

私達はこれからアトルの街に戻らなければならない、そこを通して!
-- シャンタクァ

貴殿らの境遇、察するに余りある
(ここを抜ければ、アトル・イッツァは目前。先を急ぐ彼女らに、障害として立ち塞がる…それは、公国としての完全なる敵対を意味するが)
新王シャンタクァ!統一王朝の騎士が御相手いたす…見事儂を打ち破り、道を掴んで見せよ!
(同じく白銀色の騎馬が、背に乗せた騎士と、長槍を振り立て嘶く)

(不死兵に、連絡官、術者ら…公国の利益を最善に行動する者らを後方に控えさせ、一騎打ちにて突破の如何を決する)
(実に単純明快な、お伽噺じみた…状況が、現出する)

ハイ・ヨー!暁號!
(マスケット銃―長槍を、旋風のように振り回し。離陸を狙い、まっすぐ突撃) -- レーヴェンフック

 (翼の無い姉妹を背に乗せたココロアは、言わずとも心が通じ合っているかのように翼を羽ばた)
(かせた。砂塵を巻き上げ、他のシャツァルのように長い滑走も必要とせず。銃槍の切っ先を掠め)
(て舞い上がった。)
 (空を垂直に翼が昇った。まるで鉤爪で宙を掴んで駆け上がっていくように。)
通らせてもらうよ!
 (そして騎士の頭上で巨大な翼が太陽と重なった瞬間、鋼の鎧をも引き裂いて来た鉤爪が一直線)
(空から降り落とされる!)
-- シャンタクァ

通らせはせんさ!(空振り。切り返して天を突いた時には、舞い上がる翼はもう高く)
…相変わらず見事なものよ
(悠長に眺めている暇は無い。天を掌握し、自在に飛び回るココロアとシャンタクアに対し、平地で騎馬が機動力に勝る道理はない)
(よって狙いすました急降下を避けることは叶わず)
よしんば、通った先に何が待つというのだ!(しかしまた。竜を鉄に封じた当代最強の鎧を、切り裂くことも叶わず)
(左腕の手甲を掴まれ、締め上げられるままに問いかける 長槍の、射程内だ―) -- レーヴェンフック

 (ココロアの鉤爪が掴んだ騎士をそのまま空へ連れ去るかと思われた。)
(だが騎士の竜鉄の鎧もその騎馬も規格外の超重量なのだ。如何にカタクァ最大の翼でも持ち上)
(がるはずが無い。)
 (逆に地面に引かれて翼が揚力を失う前に鉤爪の拘束が緩んだ。再びココロアが上昇をはじめた)
(瞬間、ココロアの背からシャンタクアが飛び降りた。)
希望だ!まだ希望は潰えてはないんだ!
 (だから彼女は行かねばならない。それは今まさに包囲されようとしている同胞を彼女の言葉に)
(従った者たちを待ち受ける末路を見過ごすことは出来ないというような、悲壮な声は含んでいな)
(い。誰に責任を求めるでもなく、彼女は今もまっすぐに自身の見た理想の空を見据えていた。)

 (返す言葉を気合に代え、落下の途中で騎士とすれ違い様に黄金槍が長槍を持つ竜鉄騎士の手め)
(がけて振るわれた。) -- シャンタクァ

(交錯。黄金槍は、鎧を突き通さずとも…関節部に食い込んで、その駆動を止めていた またも、至近距離にて睨み合う形)

希望は、彼等の希望こそは貴殿そのものであろう!
(死地へと向かうこと。それ自体をよしとせず…彼女さえ生きていれば、それが希望となる)
(そんな論調も、確かにある。シャンタクァが率いる民は、彼女を旗頭に団結している)

公国へ亡命するのだ、シャンタクァ
(レニ・カタクァ一派を国民自ら追い出した、とあれば…彼の地での、殲滅戦は避けられよう)
(人質同然とはいえ、性急な決戦を避け 国外で西側諸国とパイプを築き、統治体制を固める―)
(レニ・カタクァが国として揺るがせぬところまで大きくなれば。必ずや、彼女はまた国民に望まれるのだ) -- レーヴェンフック

 (その言葉は一つの正しい解答だった。シャンタクァも王を名乗るものだそのくらいの政治の機微は)
(すぐに理解できた。)
…それは、できない
 (しかし否定は迅速に行われ。騎士の間接に食い込んだ槍から手を離した彼女は宙を蹴るように)
(飛び上がると、足に履いた二つの刃で騎馬と騎士の鎧を蹴り付けて斬り付けた。)
 (一瞬の間に行く筋も散った火花が互いの武具に反射して瞬く。)
(暁號の頭の上に鳥のように着地した彼女の頭上を、ココロアがタイミングを計るように加速し)
(円を描きながら滞空している。)
 互いを信じられなかった人々がやっと一つに集った新しい国は赤ん坊だよ。
今母親に見捨てられたら、彼らはきっともう二度と何も信じられなくなる
 (吹けば消えてしまうような、希望の灯火。生まれたての雛のように脆弱なそれは、今一瞬でも)
(独りにされることに耐えられはしないと、彼女は直感していたのだ。)
 (それは、けっして打算や駆け引きからでは生まれようも無い、無茶で無謀な反乱を世界に)
(起こした張本人だからこそ、分かりえる事でもあった。) -- シャンタクァ

くくっ…!
(防戦一方である。重量と膂力では勝っているはずの騎士が、機動力―地上で、身一つといえど―に翻弄されているのだ)

(熱と火花が残る足刀を載せても、暁號は微動だにせず その高さは、王に傅く騎士の光景にも似て)
母は強いもので、あるのだな…
(母の視点は、騎士には無いものだ…その一言に篭った意味を。固い意志を確認すれば)
(王の槍と、騎士の銃槍。絡み止まったままの2本を腕とともに突き出す…銃口は、彼女の心臓を向いて)
決着をつけようか、フロイライン -- レーヴェンフック

うん
 (迷いのない、強い微笑みで騎士の言葉に頷くと、彼女は黄金の槍を手に取った。)
(槍の柄に刻まれている精緻な黄金の立体彫刻は、カタクァの神話と歴史をかたどったレリーフ。)
(およそ戦場で振るうには似使わない、繊細な品物。だがけっして折れも欠けもしないその黄金の)
(投槍は、今再び彼女の手の中で陽光を受けて真っ直ぐに煌いていた。)

 (合図はどちらからとも無く。)
ココロアッ!!
 (騎馬の頭上から飛び上がり、否羽ばたき昇った彼女の声とともに、頭上で舞っていたココロアは)
(一直線に稲妻のような速度で急降下をした。)
やぁあああああああああああ!!!
 (降り落ちる蒼い稲妻と化した鳥の鉤爪を寸分の遅れも無く掴んだシャンタクァは突撃槍を突き)
(わせる騎馬の突進を思わせる猛スピードで騎士めがけて飛んだ。)
 (高速にすれ違う刹那、弾丸のごとく加速した黄金槍が騎士めがけて投げ放たれる!) -- シャンタクァ

(撃てば殺せたはずである。そして、突けばそこで終わったはずだ)
(だが、両者ともにそうはしなかった…決闘の終わりには、相応しきかたちというものがある)

…暁號ッ!
(飛び上がる影を追い、地を蹴り騎馬もまた飛翔する)
(人馬一体、質量弾さながらの軌道で一直線に)
ぜぇぇえええええええええいッッッ!!!!
(槍と槍が交錯し、騎士は天へ 王は地へ 斜めに違う、二者の道)

(逆光が眩しい。その一瞬だけが、永遠に続くのであれば…この世は、お伽噺であり続けられるというのに)
…見事(歴史は、止まってはくれない) -- レーヴェンフック

 (蒼い羽根が舞い散った。一枚一枚短剣ほどの大きさがあるそれは重さを感じさせずに両者が)
(交差した後に熱気を孕んだ空気の上にゆらゆらと降る。)
 (地に降りる前に素早く上下を入れ替えたシャンタクァとココロア、再び蒼い巨鳥の背に乗った)
(彼女は鉤爪に地面を蹴らせて着地する。)
 (まるで舞台の決闘シーンのような激突はそれでいて筋書きや手加減とは無縁なものだった。)
(シャンタクァの武器が投槍でなかったら、騎士の一撃を回避するのに費やせる時間などなかった)
(はずだ。そして互いに戦いを略奪のための手段としか思っていない者同士であったのなら、)
(この一騎打ちはありえなかった。)
 (荒野の中を吹き抜ける風すら声を潜めて背景に徹しているかのような数瞬。)
(白銀の竜鉄騎士と蒼き翼の王女の衝突を見守った者たちもただ張り詰めたような沈黙の中にある) -- シャンタクァ

(降り立った先は、高い崖の端。二度に渡り正確に狙われた腕関節部…綻びを、突き通し)
(長い槍は、鎧の下に潜り込み 動きを完全に殺していた。騎士の構造を知っていれば、あるいはそんな芸当も可能になるのかもしれないが)

…ぐふっ(破裂音。鎧の隙間―右腕から、超高圧の瓦斯が噴出す その勢いは、馬上の騎士をよろめかすには十分な勢いで)
…シャンタクァ!貴殿の勝ちだ
(そう言い残し、逆光の向こうに崩れ落ちた 誰の目にも明らかな、民の元へ急ぐ女王の劇的な勝利) -- レーヴェンフック

 (地に倒れる騎士の姿に、一瞬だけ彼女は後悔した。だがそれはすぐに振り払う。)
(自分の理想を心底信じあえる者同士だからこそ、互いの誇り高さを感じとって分かり合うこともできた)
(誇り高きがゆえに、決して必殺の一撃から手を抜くことなど選べはしなかったのだ。)
 (僅かに伏せた空色の瞳を強く開いて、しかと彼女は顔をあげた。)
この勝利、我が誉れある栄光としていただいていく!
統一王朝の騎士、エルネスト・フォン・レーヴェンフック、硬き鎧の勇者よ
我らが一族の誇りとしてその名と勇姿を刻もう!
 (そう高らかに告げると、シャンタクァはココロアの翼を広げて再び高く空に舞い上がった。)
(そして空の上を旋回しながら、後に続く者たちを導いて荒野の中へと去ってゆく。)
-- シャンタクァ

(大空に舞う王の姿、勝利に沸き、水に喉を潤した…僅かながらも、活気を取り戻した兵たちがゆく)

(さて、ここからは余談ではあるが)
(騎士の指揮能力喪失・もしくは行方不明時には、部隊指揮権が副官に移譲される…)
(つまり、通例であれば 一騎打ちの終了とともに、即座に不死兵に追撃がかかるのである)
(今回、そうは成らなかったのは何故か?答えは単純)

儂に真っ向から立ち向かい、手傷を負わせたのは…シャンタクァ、お前だけであるよ
(蒼穹の向こうへ消えた、幻のような女へ手向けの如く…ひとりごちる)
(腕部安全弁により、瓦斯の放出は腕一本で収まった。後方の部隊へ「見逃せ」と打電し)
(今はただ、愛馬とともに 遠くを見ていたかった―彼女の行く手に、武運を強く祈りながら) -- レーヴェンフック

 

 

―後世に残る、講談や戯曲…「騎士侯列伝」「西爛戦記」などに記された伝説のひとつ
怪鳥王女と竜鉄の騎士が一騎打ちは
兎角暗澹とした逸話の多い中にあって、明快な筋と綺羅びやかな決闘により永く人気を博す事になる…

 

 

 

(辺境の地で繰り広げられる、翼持つ若き王と実体無き騎士の決闘の目撃者は少ない)
(後世の歴史に於いても「そもそも本当にあったのか」とまで言われるこの小さな、しかしレニ・カタクァの存亡をかけた決闘を裏付ける唯一の目撃者が一人)
(小高い丘の上。彼女は何時も戦場の全てを見渡していた。この長き戦争の全てを記録していた)

……逃亡してきたレニ・カタクァ軍とスリュヘイムの704戦術試験部隊が遭遇。即座に代表者による決闘が始まる…
……人鳥一体となったシャンタクァの軌道力に戦術試験部隊の代表者…統一王朝の時代の騎士、レーヴェンフックは翻弄される…
…なれど……その鎧は頑強。これまで記した戦場でそうであったように、その鎧は如何なる攻撃をも通さない……決闘は長期戦へ…
(空ろな目。何処を見ているのか分からないその瞳で、彼女は戦場をただ無感情に見つめて記録し続ける)
(首も、視線も動かさずただペンだけが異様な速度で走る。書いてはめくり、書いてはめくり)
(無感情に記されたその記録は、各国の書物には無い客観的な視点を持って綴られる)
(彼女はただ、記録し続ける。ページを捲るてと、白いページを埋め尽くす走り書きの文字だけが彼女が辛うじて生きていることを示していた)

……決闘開始から数分。シャンタクァは愛鳥の背から降りて白兵戦へと移行……
(互いの立場の違いから起きた不可避の決闘。互いの譲れぬもののために起きた誇り高き決闘を、ただ彼女は記録する)
(互いの胸に秘めた想いも、誇りも。そんなものは余分だと言わんばかりにただ、今此処で起きていることだけを記録し続ける―) -- リコ

 

  〓 〓  

 

黄金暦227年10月 旧東ローディア南奥の地、アトルイッツァ

 (統一連合の軍は、新たなるカタクァを名乗り蜂起した彼らの拠点をついに包囲していた。)
(希望を掲げ未来に命をかけた人々を、死に場所を求め、あるいはすでに死して巨人の一部と)
(なった者たちが取り囲む。)

 (今シャンタクァの元に居るのは僅か十数騎のシャツァル飛行兵だけであった。ほかの鳥達は)
(今だ立てこもり、連合軍に抵抗を続ける荒野の街に釘付けにされ。あるいは今全てを破壊)
(しつくそうと迫る、軍勢にたいして、生き残った地上部隊と共に決死の反攻を繰り広げていた。)

(既に落日のときも近い。そんなとき、部下の1人が飛び立つ直前のシャンタクァに報告をしてくる)
(突如、後方に謎の部隊が現れたと)
(奇妙な獣と蟲を繰る少数精鋭の部隊であり、今も肉薄を続けているらしい)
(このままいけば、統一連合軍の本隊がここに到着する前にその部隊が到着する事になる)

 (その報告を受けたとき、シャンタクァは言った。)
分かった、すぐにそっちに行くから
 (迎え撃つとは言わなかった。確信があったのかもしれない。今敵対する連合の兵は柱の騎士と)
(狂化された兵士たちが主軸であった。それら生を投げ捨てた死兵達を用いない軍団は今の西の)
(地には存在しえない。)
 (そしてそれは同時に、もはや味方であるという事もなかったのだが。彼女は迷いなく、そう言った)
-- シャンタクァ

(だが、しかし、怪鳥に乗り込もうとしたところで……その部下は言った)
いえ、その必要はありませんよ……
(否)

だって、もう迎えにきましたから……飛姉

(部下に扮した宗爛と、その宗爛の側近たちは飛爛を囲んでいた)
部隊が来ていることは本当です
その反応を見るに……余裕がないようですね、飛姉
-- 宗爛

 (異変に気付いた鳥達が威嚇するように羽を広げた。シャンタクァの横に並んでいた飛行兵達も)
(投槍を構える。)
 (だけどそんな中。彼女とその心を繋いだ蒼い巨鳥だけは静かに事態を見守っていた。)
んー、まぁ…ちょっと危ないかなぁ
でも、わざわざこんな所まで来てくれるなんて、おねーちゃん冥利につきますねぇ
 (まるで冗談でも言うみたいに彼女は笑ってみせた。その笑顔は、やっぱり事ここに至ってまで)
(笑顔だけで喜怒哀楽を表せると茶化された、あの日の彼女の笑顔そのままであった。)

宗…今度こそ、私と一緒に来てくれる気になったかな?
 (周りは敵だらけ、味方は少ない。もはや古の石造都市が誇る城壁も長くはあるまい。)
(だが…彼女の空色の瞳は、まだ希望を失ってはいなかった。かつて戦い疲れた人々の前で)
(濁りなき未来を語ったあの日のままで、彼女はそこに立っていた。) -- シャンタクァ

約束……したからね
うん。今日は、飛姉と一緒になるために来たんだよ
(対する弟は……今度こそ仮面を脱ぎ捨て、ただ屈託のない笑みを返す姉に対して)
(泣きそうな顔で、骨槍を向ける)

飛姉を、空から攫うために

飛姉。僕は部下に恵まれた。そのお陰でここにもうすぐ500の部隊を程なく送り込むことができる
それを仮に凌いだとしても……次に控えているのは統一連合の大部隊だ
もう、希望なんてどこにもない。逆転の一手なんて、そんな夢は叶わない

飛姉。本当に……本当にこれが最後だ
名を捨て、国を捨て……投降してくれ

僕だけのお姉ちゃんになってよ、飛姉……お願いだよ
そうじゃないと……今度こそ……
(ぐっと、骨槍を握る手に力を込める) -- 宗爛

 (骨槍を握り締める弟、投稿を促すその言葉に姉は瞳を閉ざした。)
(自体は切迫している、飛び立つ機会を失った飛行兵達は取り囲む六稜の兵に牽制され動けない)
(その長である彼女もまたそうであるように見えた。)
 (だが、違うのだ。もしも泣きそうな顔で槍を突きつける宗爛の心にただ殺意があったのなら。)
(飛爛-シャンタクァの背後に居た蒼きシャツァルが誰も動き出さぬ間にこの場に居並ぶ者全て)
(引き裂くことも容易かった。しかしそうはならない。)
あなた…
 (ゆっくりと瞳を開いた彼女は、同じようにゆっくりと声を発した。)
いつまで泣いていれば気が済むのよ!
 (声が、広いテラス中に響き渡った。きっと睨みつけるようにした彼女の空色の瞳は涙に滲んでいた)
希望なんてどこにもない?バカ言わないで!最初から願うことすら放棄していたら何も変えられる
わけがないじゃない!

本当に小さな火種だけど、吹けば消えてしまうような…生まれたての雛みたいに、すぐそばに死が
絶望が常にあるような…そんな無力なモノかもしれないけど…だからこそ、誰かがその未来を…
信じて全力で守ってあげなくちゃいけないんだ!

あなただって知っているはずだよ…どんなに高い壁だって、その上にある空以上に高い場所なんてない
私達のいる世界は、ほんとうに少し見える場所が違えば…希望はいくらだってあふれてるんだ…
 (泣きながら、彼女は叫んでいた。この戦いに身を投じてからすぐに、もはや誰かを想い泣く資格も)
(無いと、ずっと押し込めていた涙だった。)

(姉の言葉は痛烈に、そして高らかに……響いた)
(それは王者の身が持ちえる風格であり、彼女のカリスマの高さを示す証でもあった)
(彼女がそう願って、そう叫んで高らかに号令をあげれば……そえだけで身を投げ出してしまいそうなほどの『切なさ』がそこには込められていた)
(彼女は、本爛のような天才ではない)
(彼女は、自分のような卑屈者でもない)

(彼女の名は……希望)
(人民の求める、光そのもの。未来という名の耀ける蒼穹)
(今理解する。彼女もそうなのだと。本爛がそうだったように。自分がそうだったように……彼女もまた)

そうやって……未来の為に自分を人身御供にするのかい?
そうやって……自分にしか見えない未来を他人に押し付けるのかい?

(『あの男』の子なのだ)

飛姉。僕は知っているよ。知っているとも
この空より高いものがないことを。この空よりも先に城壁がないことも
そして、同時に知っているんだよ

人は、空では……理想の中では、生きていけない事を

(前に進む。臆することなく一歩前へ)
飛姉……その涙すら民には毒だ

アナタは、美しすぎた

(骨槍を振るう。姉にではない。空に向けて)
(それは号令だった)
(号令と同時に、外から六稜兵達が押し寄せてくる)
(既に伏兵は仕込んでいたのだ)

飛姉。もう悪いけれど時間がない
無理矢理にでも一緒に来てもらうよ。それができないというのなら……ここで死んでもらう

僕は来るかどうかも分からない未来よりも……未来へ続く現在(いま)を守りたいから
飛姉まで僕の者にならずに……誰かに殺される未来が来るくらいなら……今僕が此処で殺してあげるよ
フォン兄様がそうなったみたいにさぁ!!-- 宗爛

本兄を…そう、やっぱりあなたが…
 (沸いてきたのは怒りではない、それよりも。どれだけ辛い目にあっても決して手放そうとしない)
(クセに、それを掴んでいるほどに痛々しく見えてしまう彼の世界が、やっぱり悲しくて。)

 (周囲はすでに囲まれていた、戦えるものは総て連合軍との戦いに出ていてアトルの城が空だ)
(ったとしても、連合軍の中をかいくぐってここまで来れる者はそうは居ないはずだ。)
 (彼は仲間に恵まれたと言った、きっと将としての彼はとても優秀だったのだろう、そうでなければ)
(生きて戻れぬ道行きに従う者など居なかったのだろう。)
 (そして…弟でなかったのなら、反乱を起こした自分を追ってこんな所にまで命がけでくるような)
(苦労をしなくてもよかったのだろうと。)

結局、最後の最後まで言う事聞いてくんないんだから…本とに…
 (それはお互い様ではあった、宗爛のいう事はいちいち真実だったし、実際希望の名の下に、一体)
(どれだけの人が死に、今も血を流しているのだろう。)
 (奪い合いが何も生まないといいながら、誰かがやらなきゃいけないんだと言い訳して、シャンタクァ)
(いや、飛爛も立派に殺し、そして奪って来たのだ。沢山の命を人の誇りを…。)

 (ただ、この土壇場に居たって、身を裂くような矛盾も何も飲み込んで。鬱屈として救われない)
(世界ではあろうが、生きるだけならもっと沢山生きられた人々を戦いに追い込んで、そうまでしても)
 (世界どころか、腹が立つほど卑屈になってしまった弟の心一つさえ変えられないという事実が)
(無償に頭に来た。早い話がブチ切れた。)
 (そう、生来彼女は思慮深くもなければ落ち着いているわけでもなく、衝動的で激情家なのだ。)

………わかった。一緒に行こう…ただし…私が!あなたを連れてく!
 (そしてキレた彼女は獰猛な猛禽類であるシャツァルよりも手が付けられない程に速かった。) -- シャンタクァ

(さっと、一瞬で手を取られ、身を寄せられる。当然、部下達が弓を引こうとするが……)
やめろ!  私は大丈夫だ! お前達は警戒を続けろ!
(動物感応の力を使ってまで制して、飛姉の袂へと引き寄せられる)
(彼女のしようとしていることは理解している)
(それが、自分にとって嬉しくてたまらない提案であることも理解している)
(ああ、もし自分が皇子でなかったのなら)
(ただ、飛姉とフォン兄様だけいてくれたのなら)

(そんな幻想を、夢想せずにはいられない)
(それくらいに、叱咤と共に手を取ってくれる姉は輝かしくて、それくらい、彼女の熱情は強さを秘めていて)

飛姉……飛姉は……本当に、本当に、僕を連れて行ってくれるの?
たった一つの冴えた答を……見つけられると思っているの?
(つい、甘えたくなる) -- 宗爛

 (強く宗爛の手を掴んだその手は、果たして飛爛とシャンタクァ。二つの名を持った彼女のどちら)
(側から伸ばされたのであろうか。)
 (そんな事は今はもう関係なかったのかもしれない。あるいは最初から彼女には自身を定義する)
(ための名前という籠など存在していなかったのかもしれない。)

 (あらゆる束縛から開放された精神は、虐げられた心があれば怒り、救いを求める手があれば)
(掴まずには居られなかった。)

 (気弱な声を発する弟に力強く笑い返す。)
答えが欲しいと思ったのなら、もうきっとその時に解答は生まれてるんだ。
あとは気付くか、気付かないか…それだけ!
 (膠着状態となった兵士達の間に、そしてしっかりと手を掴んだ宗爛へとその声は再び響いた。) -- 飛爛

(姉の言葉は、甘美で。与えてくれる言葉の真意は胸にしみこんで)
(容易く、心が震える)
(自然と、涙が零れる)
(飛姉は、確かに示してくれた。これから生きるための道を)
(これから、進むための道を)
(もう最初から……決まっていた道を)

そっか……飛姉の答えも……僕の答えも……最初から出ていたんだね

(掴まれた手から、全てが伝わる)
(力強い笑顔から、全てが溢れる)
(強く、掴まれた手を引く。今度はこっちが)
(泣き笑いを浮かべたまま、強く、強く手を引く)
(いつか姉がそうしてくれたように)
(彼女が僕を空に連れて行ってくれたときと同じように)
(手を引く。懐まで手繰り寄せる)

飛姉も……同じだったんだね

(奪うように。強請るように)
(もう、哀しくはなかった)
(あの時と全く同じ)
(強く、強く、欲しかったものを胸に抱いて)

飛姉も……フォン兄様と同じだったんだね

(左手に握った短剣で、深く、深く、心臓を刺し貫く)

(そう、もう哀しくはなかった)
(憎しみも、怒りもなかった)

(ただ、すこし、寂しかった)

(兄を失ったあの時と同じ)

飛姉も……フォン兄様も……僕のことを愛してくれながら……

結局、僕を選ぶことはない

フォン兄様は僕よりも結末を選んだ
飛姉は僕よりも希望を選んだ

そして僕は……アナタ達を奪うことを選んだ

(いつか、兄の身体にそうしたように、水銀の刃を突き立てる)

飛姉……アナタの見せる未来は……眩しすぎる
眩しすぎて……誰にも見えない。空には人はいない。空には……アナタしかいない

いつか、空からアナタは奪われる
誰かに奪われる前に……僕が奪うよ

愛する一人の女として

(彼女の答えは決まっていた)
(彼女は、問いを放った瞬間に答を既に得ていた)
(つまり、そこに他人の問いと答が介入する余地はなく)
(誰かの言葉で惑わされることもなく)
(だからこそ、彼女はカリスマであり)
(だからこそ、彼女は彼女たりえた)
(故に、その答がたとえ困難でも)
(その結末が例え間違っていても)

(彼女の答が変わる事は無い)

(理解してしまった……いや、理解していた)
(それでも)

アナタも、フォン兄様も……僕も……

結局、『あの男』の子だったんだね……

(理解なんて……したくなかった) -- 宗爛

 (彼女がその声を聞いた時、もう総ては終わっていた。)
(何度も聞いたその声、10年以上の時を越えて再開した時にも聞いた。)
(幾たびも戦場で会う度にも聞いた。)
(行く道が敵と味方に引き裂かれた後も、それはずっと呼び続けていたのだ。)

 (僕はここに居るんだとそう叫ぶように………。)

 (何度も何度も、聞いたはずなのに、本当に結局最後まで彼女は応えようとはしていなかった事に)
(今ようやく気付かされた。気付いた時にはもう手遅れだった。)

 (フォン兄と同じという言葉の意味。彼がきっと誰よりも強く愛し慕っていた兄をその手にかけた)
(という言葉の意味。数多い兄弟の中で、唯一と言っていい、本当の意味での弟と兄との間に何があったのか。)
 (きっともっと早く気付くべきだったのだ。)

…ッは…くっぅ…!
 (痛みを感じたのは一瞬で、あとはただ、めまいとどうしようもない眠気にも似た脱力感が体を)
(重くさせていく。あふれ出た鮮血が地面に落ちたときには、羽のように軽かった全身を鉛で満)
(たされてしまったように体が重たかった。)

 (彼女には分からなかったのだ、幼少の頃からこの地のどこに立って何を見ているのかまるで)
(見えなかった本兄が。涙ながらに戦うなと説きながら、まるで嬉しそうに死と憎悪の極地にある)
(巨人を手足のように操るあの兄が。)
 (自分と同じなのだという言葉の意味が分からなかった。あえて考えなかったのかもしれない。)
 (ああ…でも今、最早飛ぶ事すら適わないほどに重たくなったからだで、やっと弟の肩を掴んで)
(立ってみて、初めてわかった。あの兄の根幹がどこまでも深く今この地上と人の心の深根にある)
(ものに根ざしていたのだとしたら。………自分は、きっと手の届かない天空と人の心の梢が示す)
(ものの上に居たのだ。)
 (少なくとも、きっと彼の目にはそう映っていたのだろう。)
 (そのどちらも、決して人の手には届かない、場所が違うだけの生の両極地だったのだ。)
(少なくとも、地表に独り取り残された彼の目にはそう………。)

 (言葉にしたら一体どれだけ時間があれば語りつくせるんだろう。)
(時間はもうそんなに残されていなかった。色々分かったような気がしたときにはこの様だ)
(つくづく自分は頭が悪いと思った。だが腹を立てる時間すらもったいない。)

 (………意識は急速に失われていく。そんな時、背後で異変を感じ取ったのか凍りついたように)
(誰も動かない中で、生れ落ちた日から彼女と供に生きてきたココロアが翼を広げてガラスを刷り)
(合せたような鳴き声あげた。)

 (びっくりして心臓が止まるかとおもった。ああ、だけどこの風は悪くないな、そう彼女は思う。)
(その風に押されるようにして、彼女の意識は最後に再び舞い上がる。)
 (事ここに及んで、自分にできることはなんだろう。他の誰でもない、いま目の前にいる彼のために)
(そう考えたとき、彼女は、彼を呪毒のように縛り上げる、一つの勘違いをどうにかしてやろうと決めた。)

………あな、たは…
 (立つことすらままならない体で。息をすることもできなくなったその胸に最後の風を取り込んで。)
(しっかりと抱きしめて、言ってやった。)
ただ…ッこの空と、地の間にある…命、だよ…
 (だから望むままに生きていいのだ、その資格はちゃんとある、と。)
私と…おんなじだ
 (彼と自分の共通点は、ただそれだけなんだと。言い切ると最後に強く、強く抱きしめて。)
(そしてその腕は力を失った。)

(最後に、最愛の姉は……最愛の兄と同じように、毒を放った)
(兄はその毒で弟と同じにしようとした)
(姉はその毒で弟は自分で同じであると解いた)
(どちらの毒も、既に自分にとっては毒ではなく)
(愛おしい、形見でしかなくて)
(それでも、その毒は……いつまでも胸を締め付けていて……)

嘘吐き

(姉の亡骸を抱き返して、強く強く抱き返して、呪詛を呟く)
(もう届くことの無い呪詛を、独り善がりの呪詛を)

同じだったのなら……どうして……

どうして僕と一緒にいてくれなかったのさ

(ただ淡々と)

(制御を失った怪鳥達が、射られて死んでいく)
(ココロアも、その鳴き声を天に響かせる間もなく、主人の後を追う)
(天へと帰っていく彼らの声無き慟哭が……聞こえた気がした)

ねぇ……飛姉

(蒼穹に、力なく問いかける)

『もし』がいくつ重なったら、僕達は幸せになれたんだろうね

(その問いには、誰も答えてくれなかった) -- 宗爛

電撃的な六稜軍の侵攻により、カタクァ本隊は全滅した
六稜総督である第72皇子宗爛は部下や敵捕虜の制止の声もきかず、無数の有力豪族の屍がつまったカタクァ本拠地に火を放ったと言う
その屍の中には、反乱の首魁にして皇族の1人でもある飛爛の姿もあったという
死体の一切を、生きた記録の一切を消しさる火葬に彼らを処すことで、反乱の見せしめにしたといわれている
後世の歴史に於いて宗爛の人物像が冷淡かつ非道の皇族として描かれている理由の一つがこれである
撤退中、宗爛は遠く離れてもなお燃え盛るカタクァの本拠地を見て、仮面越しに笑ったという
乾いた声で、ただ退屈そうに。淡々と

……空に、還るんですね。飛姉
僕らをおいて、遙か高みへ……

本来、アナタが、おわすべき場所に -- 宗爛

 

  〓 〓  

 

【語られなかった物語】

 長い歴史の連続からみれば西爛戦争もかつて数多あり、そしてその先も繰り返され続けた
戦いの中の一つでしかない。
だがその4年余りの間に物語は夜空の星の数ほど生み出された。歴史的な事実として史書に
残された物、あるいは多くの人々の間で語り継がれる事になった物。
そしてそれら燦然と煌く一等星のような物語の側を無数に取り巻く、儚く灯った語られざる
物語が多くあった。
 存在の確かさを得ることも難しい光ではあるが、それは確かに闇ではない。

 (黄金暦227年10月、押し迫る連合軍の大部隊を前にアトル・イッツァは静けさに包まれていた。)
(議論も脱出しようとする者たちの混乱もすでに終わっている。)
(煉瓦と土壁の細長いビルのような建物が立ち並ぶアトルの街は、あちらこちらに居並ぶ兵士の)
(姿がなければ平時のそれと変わらなかった。)

結構人残ったなー、ぶっちゃけ半分以下になってもしょうがないかなって思ってたんだけど。
 (特別な鳥舎の設置されたビルの屋上から赤くなりはじめた陽射しに照らされる街を見下ろし)
(ながらシャンタクァは言った。)
 (10月下旬だというのに、暑い日が続いていたが、夕暮れが来ると急激に気温は下がっていく。)
-- シャンタクァ

(屋上に登りシャンタクァを見つける。ここだと思った、地上に足で立っている時でも彼女は高い所が好きだと言う事を知っていたから。)
飛爛……
(大勢の前でなければシャンタクァとは呼ばなかった。飛爛がシャンタクァとなってからはけじめと言うか、統率面で迷惑をかけないように呼びかけてはいたが、フェロミアにとっては飛爛は飛爛なのだ)
そろそろ寒くなる、中に入るか……これ着て(上着を持って隣に歩み寄る。兵士の士気は高いがこの後起こると予想される戦いは厳しいものになるはずだし、飛爛もそれは分かっているだろう。それでも夕日に翳る町は綺麗だった) -- フェロミア

さんきゅーフェロミアー
 (上着を受け取って羽織る、日が暮れて俄かに吹き付ける埃交じりの風に持ち上がる黒髪を上着の襟で押える)
(ようにして肩にかける。)
 (のそりと、屋上の縁に掴まって羽を畳んでいたココロアが二人の風上にたつように腰をおろ)
(した。)
 (しばし無言のまま、離れたビルの屋上にある発着場へと舞い戻るシャツァル編隊の影を)
(みつめている、千羽を越える数がいた鳥達もすでに見える影は往時の3分の1に満たない。)
 (彼女の憂いを孕んだような空色の瞳は多く散っていった者たちと、今また自らの名のもとに)
(死地へと追い込んでいる者たちを思って悲しんでいるようでもあり…。)
 そういやフェロミア、私が名前変えたあともずっと飛って呼ぶよね。
(全然別のことを考えていたようだ。) -- シャンタクァ

うん
(上着を羽織るのを手伝うが特に何を語る事もない。風景の美しさなど言わなくても分かる事だ。そして戦況の厳しさも。)
(それでも何を考えているのかも少しは伝わってくる気がした。悲しさだったり、心配だったりだろうと思う。ただ、不思議と不安そうには感じなかった……)
(当然である、そんな事考えてなかったのだから)
えっ
(思い切り推測を外されてショックだったりびっくりしたりして少し口ごもるが、疑問には答える)
シャンタクァは国の為の名前でしょ?私の為にいるのは飛爛で……飛爛の為にいるのが私だから
(自分は個人に付き従っているのであって国の為戦っているのではない、と伝えた所で仕方のない事ではあるが、口に出す事で自分の立場をはっきりさせておきたかった。例え国としては負けても飛爛の望みの為に戦う、と言う事を) -- フェロミア

うむっフェロミアはいい子だなぁ!
 (いい笑顔で笑いながらシャンタクァ、いや飛爛はフェロミアの頭をなでくりまわす。)
(相変わらずさらさらと軟らかくて手触りのいい髪の毛だった。)
…本当に、あなたと出会えてそうしてここまで一緒にこれてよかったよ。
-- 飛爛

またそれ……(少し照れの混じった不機嫌そうな表情。頭を撫でられる度にこんな顔になっては来たが、逃げた事や拒否したことは無かった。もしも理性で抑えられない尻尾があったならばたばたとちぎれんばかりに振り回していたのだろう)
……台詞取られた
(ぽつりと呟く。自分としてはこちらが勝手についてきただけと言うつもりでいた。でも最近は一緒に来たんだと思えるようになっている。思い上がりだろうか?と思う事もあるが飛爛の笑顔はそんな不安を消し飛ばすには十分だった。だから一方的に宣言も出来る)
ここまで来れたし……これからも、一緒に行くから -- フェロミア

うん…
 (フェロミアの言葉に頷くと、彼女は羽織っていた上着で二人を包むようにして寄り添った。)
私は与えられた名前で多くの人を戦いに誘って、沢山死なせた。そのことを忘れる気はないけど
それでも、私のことを誰でもない、ただ一人の人として覚えていてくれる友人は数えられるほどしか居ないよ。
 (それが嬉しいんだと、彼女は言う。一方で聖女とも魔女とも呼ばれ、混沌を招いた根源であり)
(形のない希望をその姿に見せる、カリスマとしての彼女とは違うただの見た目相応の小さな少女)
(のような言葉だった。)

 (だがその言葉は決して気弱からでた言葉ではなかった。誰よりも自分を信じてくれる相手に)
(だからこそ、誰よりも信じられるからこそ、彼女は希望を託そうと決意したのだ。)
フェロミア…お願いがあるんだ、ここから脱出してスリュヘイムへ飛んで欲しい。 -- 飛爛

私には、そんなのどうでもいい
(飛爛の肩に頭を預けて呟く。こう言うときは普通の人間では無い事がありがたかった。尋常な価値観であれば「シャンタクァ」の所業はきっとわだかまりとなったのだろうから。)
飛爛は私に心をくれた。友達をくれた。居場所をくれた。欲しいとも思わなかったものを欲しいと思わせて、全部くれた。
名前や体は誰から貰ったか分からないけど……それ以外は殆ど、飛爛がくれたものだから
(だから自分の命でそれに報いる覚悟はあった。聖少女騎士団の皆や飛爛の部下たちにも負う所はあったが、彼らに不義理を働いてでも、だ)
うん、何でも……(何でも言って欲しい、と言おうとして絶句する。ここに来て戦場を、飛爛のそばを離れろと言うのだから)
な、何で……私、役に立つから!(喜びつつもクールな笑顔から一転、捨てられて元飼い主が去る寸前の子犬のような半泣きの顔になる。場所の指定なんて聞こえてはいなかった) -- フェロミア

お願い聞いて…フェロミアにしかお願いできないことなんだ。
 (取り乱すフェロミアの手を握って、飛爛はやさしくあやすように微笑みかけた。)
カマルとラフェニアをここから逃がしてほしい。
 (その名は去年の夏に、このアトルで生まれた少年と、彼の翼として対の兄妹と)
(なったシャツァルの雛の名だった。)
 (もっと早くに安全な場所へ移すことも計画されていたが、雛の体が長旅に耐え)
(られるようになるのを待っている間に状況は加速度的に逼迫していたのだ。)

色んな理由はあるんだけど………あなたぐらいにしかもうわがまま言えないしさ
 (苦笑いだ。大事な事を言うときほど本当に彼女はいつも飄々としている。)
今離脱させたら、あなたも私も危ない事になるのはわかってる………
連合の司令官は一切の区別無く私達を焼き尽くすつもりなんだ。だから、
もしも私が負けてしまっても、手の届かない場所に連れて行かないといけない。
 (生まれてきた雛はたしかにこの地に生まれた最初の雛であり、重要な存在だったが。)
(雛もそして乗り手に選ばれた赤子も、もっとも適正が高かったという以外、理由や意義)
(は存在していなかった。彼らはあくまで重要な実験結果の一つにすぎなかったのだ。)
 (状況が切迫した今、彼らを助けるためだけに割ける余裕は無いというのが現状だったのだ。)
 (いっそ、私かココロアが赤ちゃん産んでればよかったんだけどね、などと冗談ぽく飛爛は)
(付け加えたが、その言葉の端にはつよく苦悩が滲んでいた。)
-- 飛爛

逃がすって、言ったって……
(飛爛の言う事が分からない。今更子供と雛を助けた所でどうなる?それよりも飛爛の助けになりたい、ただそれだけで)
私が危ないのはいいし、飛爛のお願いなら叶えたい……でも私には飛爛があの子達を助けたい理由が分からないし、飛爛の側にいたい。一緒に戦いたい。
こう言う時、本当に友達なら、どうすればいいの?友達が危ないのを分かってて行けばいいの、それともお願いを断ってでも一緒にいればいいの……
(これまででもあまり経験がないくらい感情が溢れてくる。それは言葉になって口から流れ出していった。せめて命令してくれればとも思ったが、飛爛はそんな事はしないだろう)
(そう、いっそ飛爛の子供とだったら恐らく何処まででも逃げた。種の保存と言う生物の本能は理解しているから。だがまだ、憐憫や自己犠牲、または罪滅ぼしと言った機微は分かっていない)
……教えて。他の誰でも、国でもなくて、飛爛の為になるのはどっち?飛爛が自分の為にこうしろって言ってくれれば、私はその通りにするから(手をきゅっと握り返し、涙を溜めた目で飛爛の目を覗く。結局命令を求めているような気はするが、自分だけでは判断できなかった。どっちの選択肢を選ぶにせよ、何かを犠牲にしてしまう予感があった。彼女の役に立てるのは自分だけだと言う自負も。) -- フェロミア

(強く手を握り、涙目で見つめるフェロミアの手を引き寄せると、ぎゅっと抱きしめた。)
あのね、フェロミア…私はあなたに死んで欲しくないんだ…だけど、私が今この国を…
希望を信じた人達を見捨てるわけには行かない…ぜったいに見捨てちゃいけない…
クルおじい様も、一緒にシャツァルの乗り方を教わったヤワルもユパンキも…那岐李も…
みんな死んじゃった…。
 少しだけ…救いが欲しいんだ…ごめんね、ほんとにただのわがままで…。
 (危難の時にあって、けっして結束を緩めない人々が絶対的な希望として信じる王は)
(ほんの少しだけ、自分のための希望が欲しいと涙ぐみながら呟いた。)
戦いで死んで欲しくない命を…今はひとつでもいい、守って欲しいんだ…お願い。 -- 飛爛

(抱きしめられたその瞬間の姿勢のまま黙って飛爛の言葉を聞いていた。例えば自分が飛爛だったとしたら、こんな風に考えるだろうか?付き従われた事もない身には責任や後悔は想像もつかない)
(それでも飛爛の声が、手に篭る力が、悲しみと願いを伝えてくる。飛爛が心底「救い」を求めていて、今は自分しかそれをもたらせないのなら。)
……分かった
(繋いでいない片手をあげて飛爛を優しく抱きしめる。いつもは自分がされる側だが頭も撫でてやった。)
スリュヘイムの、どこ?準備できたらすぐ飛んで……届けたら、またすぐ帰ってくる
(少し体を離して飛爛の涙を指の甲でそっと拭う。指に光る涙を自然に唇に吸い取って、今まで一番の笑顔を浮かべた。これまで貰ってきた心の活力を返すなら、今をおいて他にない)
それまで、待ってて -- フェロミア

フェロミア………ありがとう、そうだね少し弱音言い過ぎた。
 (飛爛は流れでた涙を今度は自分の指でぬぐい、慰めるような優しい手つ)
(きに少し照れたように笑った。)
私はきっと負けない…うん、ぜったい負けないから…。
 (今度こそしっかりと笑ってそう言うと、ココロアに合図を送って頭を下げさせた。)
(その羽毛の中に埋もれるように付けられていた金の鎖で繋いだ蒼い雫型)
(の宝石を外してそれと同じ形をした宝石をもう一つ、自分の髪飾り)
(から外す。) スリュヘイムのエルネスト・レーヴェンフックっていう騎士の所に行って欲しいの
彼はまだこっちの方に居るかもしれないけど、10日くらい前に砂漠で会ったから。
 (そういいながら二つ蒼い雫のついた髪飾りを二つ、ネックレスのようにフェロミア)
(の首にかける。) -- 飛爛

 (これは?と聞かれるまえに飛爛は答えていた。)
シャツァルと兄弟となった人は二つで揃いの物を色々作るんだ。私とココロアの場合は
腕輪と…この髪飾り。
(ネックレスとしては少々長いその髪飾りをフェロミアにかけた。海のように蒼い宝石)
(の中にはどのような技で刻んだのか、飛爛の一族を示す複雑な象形文字が浮かんでいた。)
翼を持つ姉妹がココロア
翼を持たない姉妹が私
鰭をもつ姉妹がフェロミア
…これで、ずっと一緒だよ。
(フェロミアの首にかけた二つの宝石は飛爛の小さな手の中で残光をうけて輝いていた。) -- 飛爛

(急いでいた。が、突然かけられた宝石にしばし気を取られる)
(空と海の色をした宝石はなるほど自分達にふさわしい、そう思った。本当に貰ってもいいのかとか、ずっと一緒なのは嬉しいとか、自分の貧困なボキャブラリーを駆使して伝えたかった)
……うん!
(だが今はそれをしている場合ではない。離れていても一緒だと言ってくれた友人の……姉妹の為に、飛ばないといけないのだから)
(大きく頷いて準備に向かう。飛爛の事だから赤ん坊と雛の準備は整っているのだろう、鎧を着ながら場所と最短ルートの確認をしたら後は飛び立つだけだ)
じゃあ、また後で
(もう一度抱きついてから踵を返して走り去る。振り向いて手を振る時間すら今は惜しい、1秒でも早く無事に届け物をして、再び戻ってくる。それだけの為に、少女は走った) -- フェロミア

―黄金歴227年 10月

公国首都 第一層状都市スリュヘイム 統一王朝記念館(レーヴェンフック邸)

五つ眼の蝙蝠たちが、黒い霧の中に潜む夜。煉瓦道に刻まれた月光すらも歪んで見える
此処は無命と亡者の都―戦時公国法により、厳しく外出を制限された状態では、そう言って差し支えない
空を照らす探査灯も、ゴーレムの手による正確な三六〇度警戒を続けている…

「……」
統一王朝の騎士の表情は、当然普段の鎧甲冑であるため窺い知れないが
少なくともそれが晴れやかならぬ面持ちであることは容易に察せられた
そして、その原因が最新鋭の通信機である魔電信のエンジニアが寄越した、前線の情報に起因するものであることは間違いない…
「曰く、南方が蛮鳥の命運早晩に尽きたり」
状況に歯痒いものを感じざるを得ない…一度は、盟を結んだ人々であるのだ。あの時、もし―
いや、言うまい。彼女が勝利し、騎士が敗北した以上、この椅子に座って大人しくしているのが敗者の勤めというものである
-- レーヴェンフック

(警戒を強める都市の空に無防備な闖入者が現れる。ふらふらしてはいるが、着実に領空を侵犯していた)
(魚の様な形の、まさか飛ぶとは思えない金属の塊は何かを探すように彷徨う。空を切り裂く探査灯の光を避けようとしている所から、何らかの操縦を受けていることは明らかだった)
(しかし、余りにも厳しい警戒についに攻撃を受ける事になる。空の魚は何発かの対空砲火を受けつつも闇に紛れ、姿を消す。少なくとも空からは)
(撃墜、もしくは強行着陸であろう。空から逃れても、大きな金属塊を人の目から覆い隠す事は夜の闇にも不可能であったが。)

直撃弾4、飛翔体判定消失
生存の可能性―高 地上掃討部隊に連絡―不要
-- 防空警戒ゴーレム

騎士邸が、警備機構に組み込まれているが故の判断である。
敷地内に落ちたならば、あとは公国法に照らして処分が降される…そう、決まっていた

「やあやあ我こそは統一王朝が騎士!エルネスト・フォン・レーヴェンフック!
公国が空を侵す賊よ、神妙にお縄に…うむ?」
飛翔体…万一を考えないわけでは無かったが、万に2つの片割れではあった。
その、森に降り立った影は
-- レーヴェンフック

(騎士が対するは金属に食われるように包まれたか細い少女の体。その胸には小さな包みがしっかりと抱えられていた)
(突如聞こえる赤ん坊と鳥の声。けして離すものか、と言う姿勢を取っていた少女は騎士の名乗りに少しだけ警戒を解いた)
エルネスト……飛爛でもシャンタクァでもいい、知ってるか?届け物をしにきた
(焦燥を含む早口でまくし立てる。人間の赤ん坊と鳥の雛が騒ぐ白い包みを差し出す細腕の繋がる先には、華奢な胸元に蒼い宝石が輝いていた。ただの宝石ではない、内部に彫り物が施された珍しい品だ) -- フェロミア

「女王の騎士、か…?」懐刀のはずだ。今此処にいて良い人材では
だがその疑念は、すぐに消えた。託しに来たのだ、主君が命を携えて

「…心得た!」言うより早く快諾する。この子は、雛は。そして機械の乙女は、彼女の未練なのだ
鉄の腕から、鉄の腕へ。脆くも崩れ去った同盟の残滓にしては頼もしい道を渡り、赤子と雛がレーヴェンフックに託される
適度に温かい表面は、安心感を与え…ややすると、泣き止む子ら
-- レーヴェンフック

……友達
(騎士か、と問われて返答する。姉妹だとも言ってくれたけどどっちが姉か確認し忘れたから、ちゃんと確かめてからそう名乗ろうと思う)
お願い……(相手が理解したと言うのならこちらから言う事は何もない。他ならぬ飛爛が指名した相手なのだ、それだけで信頼に値する)
(ふぅ、とため息をついてその場に機械の膝を突く。本来の航続距離を越えて飛びまわった上に、安心して泣き止む子供たちを見て自分も安心してしまったのだった。一瞬解けた緊張が疲労を体に受け入れていく)
確かに預けた、じゃあこれで……(鎧が再び飛び立つ為にはしばし魔力のチャージが必要な様だった。その時間も惜しくてよたよたと歩き出す。一瞬でも早く飛爛の待つ戦場に帰る為に) -- フェロミア

男の子と雛は、寄り添うように寝息を立てる。
彼等を決死の飛行で運んだ翼は、今また戦場に舞い戻ろうとしている…
もはや止めても聞くまい。彼女もまた、彼女が残した希望だということを…決して、認めはすまい

「待て」
呼び止める、声がした
-- 騎士瓦斯

(本当ならば歩みを止めるつもりは無かった。こうしている間にも飛爛はきっと苦しい戦いを強いられている。その時に自分が隣にいなくてどうする)
(ただ、少し気になった。もしかしたら伝言かもしれないし何か役に立つ情報かもしれない。子供達についての質問かも。ここまで来たのだから飛爛が望んだ事を完璧に仕上げておきたいと言う思いがあった)
……何?
(足を止めて問い返しつつ、頭の半分では風や方向の計算をしておく。会話くらいは残り半分で出来るだろう) -- フェロミア

「友がもとへ、急ぐのであろう?」指を鳴らす。潜んでいた高速歩哨部隊があっという間に展開し、屍馬車で乗り付けた機甲整備班が、使えそうな推進装備を片っ端から並べ始める
一気に夜を割って、賑やかなる開戦準備を始めたキャンプには移動工房までが…
「射出は敷地内から、というわけには行かぬが…移動時間を含めても現地まで格段に速い」
「公国の技術は世界一!暫し羽根を休めよ…出撃の誉れ姿、この子らにも見せてやりたい」
今、出来る最善の事を。彼女の装甲を貼り直す手の中には、以前この公国で同じ作業を手がけた職人のものもある
-- レーヴェンフック

急ぐよ、だから……(邪魔しないで。言おうとして言葉を切る。一瞬ここで始末されるのかとも思ったがこれは一体なんだ?)
(言葉を無くして突っ立っている間にも着々と改修が進んで行った。騎士の言うとおり、待っておいた方が却って早く戻れる公算が高いと確信してやっと口を開く)
そうする、ありがとう
(滅多に口にする事のない感謝の言葉を投げかけて目を閉じる。立ったままではあるが飛爛以外にはほぼ見せた事のない無防備な寝顔を晒してしばし休息を取る)
(嵐の前の静けさ。自らが嵐となるときに備えて。) -- フェロミア

公国には数少ない『人材』…鎧の、推進器の、そして兵器の技術者たちは短時間で最高の仕事をした
彼女の礼に口角を僅かに上げるだけに見えて、その実大いに張り切った結果であると言えよう
整流板を兼ねた増加装甲を進行方向に伸長したエクステリアアームに貼り重ね、主翼下パイロンには突撃用の火箭―カタクァ製のものに、改良を加えた特別製―と増槽
背面にはフェロミア本体を吊り下げるように固定する三連装ガスタービンエンジン…そして急加速用の使い捨て熱/魔術式単発ロケットモーターをありったけ
正しく当代最高の科学技術が無節操なまでに注ぎ込まれた、まともに飛ぶかも怪しい装備である
当然のように各種管制は装着者であるフェロミアに一任された
胸部装甲に刻印された文字は『Läufer Melos』統一王朝に伝わる、義のため友のため死地へと舞い戻った叛徒の名である

「準備は良いな?」
超重魔導砲敷設陣地。
物言わぬ鉄の塊は、元を正せばただの数発で稼働を停止した超兵器である。
タレット部を重工業用の鍛造設備に、砲身部を多目的加速投擲器に改造された姿は公国の思想―使えるものは何でも使う―を体現したものと言えるかもしれない
機関部爆縮カタパルトへの設置・最終点検を終えた彼女に、統一王朝様式の安全祈願護符をぺたりと貼って
「…シャンタクァに、よろしくな」
賑やかな様子に、赤子と雛も目を覚まし。何かを感じたか、フェロミアに手と翼を伸ばすと…もう、カウントダウンが始まった
-- レーヴェンフック

(ややあって、目覚める。)
(人間のように寝ぼけたりする事は無い。脳に仕込まれた装置の働きによってほんの十数分でも1秒単位で時間を決めて熟睡し、またその深い眠りから無理やりにでもすっきりと覚醒することが出来る。状況把握能力も起床後すぐに戦闘可能なほどだ)
(今回は違っていた。余りにも予想を上回った改修度合いに圧倒される。もはや自分さえ推進器の一部の様なのだろう。)
(実際に動かさなければ何とも言えないが、予想されるパワーや速度から考えて爆発等の危険は無視できないレベルだと予測される。操作を誤って明後日の方向に飛んでいく可能性もある。それが地面に向けば取りも直さず墜落だ)
(だが不思議と不安は無かった。無事にたどり着くのが奇跡だとしても、自分と飛爛ならそのくらいの奇跡は起こせる気がする。それが焦りから来る興奮が生み出した幻覚だとしても構わない。この騎士や技術者たちに命を預ける覚悟は決まった)
(胸元に刻まれた文字を指でなぞる。意味は分からないが何となく気に入った。そのまま拳を作り、騎士に向けて親指を立てる。護符を含めた諸々の礼には少し足りないかもしれないが、必ず飛爛に伝えると言う意思を込めて)
(カウントダウンも最終に近付いた時、拳が開いた。向けられた小さな手と翼に向かって軽く掌を振る。その時浮かんでいた表情は、幼さを残すものの母が子に送る笑顔に近かったのだった)

(そして秒読みは、ついにゼロを数えた) -- フェロミア



 



 



 



 



 


Last-modified: 2012-10-10 Wed 00:44:18 JST (3271d)