「これはこれはお会い出来て光栄です旦那。」
30代後半とも取れる髭の男がそうボスに話しかける
「申し遅れました。私の名はミンツ・モードント、しがない傭兵でございます。」
「ええい、堅苦しいのは無しにしましょうか旦那。性に合わねぇもんで。」
「早速ですが日没までに発たなければなりませんので依頼の話をさせて貰いますぜ。」
矢継ぎ早に捲し立てる男は少し悲しげな顔をしながら隣にいた少女の頭に手を置いた
「こいつをここで働かせてやってくれませんかね?」
「何、こう見えてお喋りでも無く、我慢強いもんで。きっと見張りの仕事とかに向いてますぜ。」
「依頼って言うんだから勿論報酬も付けます。ああ、これはこいつ自身の稼いだ金でもあるんで気にしないでくだせえ。」
「無料で働き手が増えて尚且つ金にもなる、どうにか引き受けてやってはくれませんかねえ。」
「ほら、お前も挨拶くらいしたらどうだ。」
そう男が話すと少女は、小さくぺこりとお辞儀をした
「そうですかそうですか。そいつは有難い話だ。じゃあ早速ですがお願いします。」
「ですがね……ちょいとばかしこちらからも条件がありまして……ええ、3つほどです。」
「一つは、こいつに過去の話をさせないでやってくだせえ。」
「ガキが歩むには少しばかり辛い話なもんで……旦那にはすべてお話ししますが
ええ、お仲間の皆さんには孤児を拾ったことにでもしてくだせえ。」
「二つ目はこいつはこんな調子なもんで、出来ればあまり口を使わないような仕事をさせて貰えると有難いです。」
「雑用だったら喜んでするようなやつですから、まぁ……喜んでるような顔はしませんがね。」
ばつが悪そうに男は頬を掻く
「最後に……こいつには"殺し"の仕事には関わらせないでやってくだせえ。」
「ガキだと言う時分もありますが、まぁ……それはこれからお話いたしやすんで……」
……
「それじゃあ私はここで失礼させて貰いますぜ。」
そして少女には聞こえないよう男はボスに耳打ちをする
「私はこれから戻らないかもしれない仕事に出ます。」
「もし何かあった場合はこれを……」
そう言って一通の手紙をボスの懐に入れて男は去っていく
少女と目が合う。まるで感情など無い人形のようにそのまま首を傾げる
「……ドーニャ・ドリフトウッドです。よろしく、お願いします。」
捲し立てて去っていった男とは反対に、初めて口を開いた少女は深々と頭を下げたのだった
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