月明かり落ちる夜、一人空を見上げる人影がある。
男のようにも女のようにも見える。 調子はずれな鼻歌。校舎の屋上に一人。 夜は深く、星明り落ちる空間は孤独だ。 地より離れて音を失い、日は月へ変わり色を失い、世界は別世界の如く。 その場所は、今、確かに神域であった。 そして坐する神はただ、空を見ている。 地を見ぬ神に価値はあるのか。 問うのは人ばかりであり、ここに人はあらず。 ここに在るのは、剣の名を持つ神。 一柱。二柱。 気づけば世界に何かが増えた。 背の高い。2mを優に超える、偉丈夫。 きぃん、と、岩を鏨で叩いたような音。 音と色を失った世界が、再び何かを失った。 小柄な影、先客が声を発した。 くるとおもっておりました。 大柄な影は重い声。 答えを聞こう。 果たして失われたのは時であったのか。 両者とも動かず、長いような、短いような合間の後。 きれぬ理由は、見出しました。 小柄な影の言葉を聞いて、大柄な影は身じろぎ一つ。 しかし小柄な影の次いだ言葉に、失った世界が与えられた。 けれどととさま。ボクはそれでよいのです。 殺気と憐憫。失ったものすべての代わりに、満たす。 それの意味を分かっているか。 低い声。問いかける。 答えは謡うように。 それが、ボクの選択です。 そこに篭められた意味を、大きな影が悟ったか否かは、知る術などあるはずもなく。 鞘走りの音など響く必要もない。 剣の神は、ここに在る。 全てが断ち切られた。 世界すべてが、一つから二つに。 何もかもを断ち切った後。大柄な影は姿を消した。 そこに何が残ったか。 God's in his heaven, all's right with the world.
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