ZS/0019

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編集:とある少女の頑張り物語 差分:とある少女の頑張り物語
お名前:
  • 霧の中に溶けていた輪郭が再び「霧島悠里」という存在を形作る)
    (感覚の消えていた手足に血流が漲り、力が籠るのが分かる)
    (私にはこんなにも思ってくれる人がいる。この霧に満ちた異界で幾ら存在を否定されようと―)
    (私は、現世で消えたりなんてしていないから)

    「―何だ、まだ立ち上がるのかい?いい加減諦めなよ。どうせ君の妹も既に霧窓に溶けているんだ」
    「今更君が気張ったところで何一つ自体は好転しないんだからさ」

    (目の前の男が、立ち上がった私を見てため息交じりに言った。そんな言葉なんて知ったことではない)
    (例え妹がこの異界に溶けてしまっていたとしても。だとしても―)

    「それが私の存在を否定する材料になんて、ならないッ!」
    -- 2023-06-17 (土) 23:50:31
    • 「アカリのことだってそうだよ。例え、霧窓異界に溶けてるのがホントだとしても!」
      「今、此処に居る私が消えない限り!」
      「アカリの存在が消えてしまうことなんて、決してない!」
      「こんなちっぽけな怪異に、私たちの存在を否定する力なんて、ないんだ!」
      (叫ぶ。拳に力を籠め、言葉に想いを載せて、叫ぶ)
      「―屁理屈を。それならこの状況をどうにかできるとでも?霧窓異界の中、君一人で私に相対して何が出来るというんだ?」
      (やれやれ、とでも言いたげに男は大げさに肩をすくめて嘲った)
      (私を、霧島悠里という存在が今まで紡いできた縁を、時間を、男は完全に見くびっている)
      -- 2023-06-17 (土) 23:56:16
      • (フラグメントの言葉を思いだす)
        (形の見えた怪異など、名前を、存在を定義された未知など恐れるに足らず)
        (最早霧窓異界は未知などではない。矮小な一人の男が私利私欲のために操っている「手段」の一つに過ぎない)
        (胸ポケットにしまい込んだ小さなピアスを取り出し、握り締める)
        (陰陽師の末裔が長く身に着けた銀で出来た耳飾り。そこに込められた魔力を、思い出という形にして練り上げる)
        (現世と異界を繋ぐ魔力が込められたピアスを媒介に、己に対して向けられる現世からの想いを手繰り寄せる)
        (なんてことは無い。異なる世界から想いを、相手を呼び出すことは日常的に訓練としてやってきたこと)
        (今度はそれが逆になっただけだから―)

        「―おい、何だそれは。生意気な。お前は…お前は退魔の世界と関わってこなかった出来損ないだろう!?」
        「だというのにその魔力、その密度、どういうことだ…!」
        (気焔となって立ち上る想いの力を見て、男が一歩後ずさる)
        (男は知らないのだ。この一年、悠里がどのように過ごしてきたか)
        (男はただ、霧窓異界の闇に怯え、震える姿しか見ようとしていなかったから)
        (だから、彼女にこんなにも頼れる仲間がいたことも。その仲間たちから師事を受けていたことも)
        (霧島悠里が、如何にして霧窓異界と向き合おうとしてきたかを―知らないのだ)
        -- 2023-06-18 (日) 00:05:50
      • 「―アカリ。遅くなってごめん。今更許して欲しいなんてことは言わないし、言えないよ」
        「だけど、こうして此処まで来たから。貴女を、迎えに来たんだ」
        「―帰ろう、アカリ」
        (大樹の中に半ば埋め込まれた形となった妹へと手を伸ばす)
        (最早人としての意識など溶けてなくなってしまったと男は言った)
        (それでも、意思は残っているのだ)
        (「霧窓異界」の意思として―アカリは、妹は生きている)

        (立ち込めていた霧が渦を巻き、悠里を取り囲む)
        (悠里の言葉に何を思ったのか。霧が悠里を取り込まんとより一層濃度を増して渦を巻く―)

        「ハ、ハハハ!ざまぁないね!自分から霧に飲まれようだなんて!」
        「いいさ、君が消えてくれるのなら僕はそれで満足だ!」
        「絶望に染まったまま消え行く君の顔が見られなかったのは残念だが…まぁいい」
        「さようなら、霧島悠里。霧の中で永遠に惑い続けるといい」

        (霧の中に飲まれたユウリを見て、男は勝利宣言をした。優雅に一礼までしてみせた)
        -- 2023-06-18 (日) 00:14:19
      • (そうして男が立ち去ろうと背を向けた瞬間。一陣の風が吹き抜けた)
        (霧に満ち、じっとりとした張り付くような湿気が常であるこの異界で、風が吹き抜けたのだ)

        「―なんだよ、何でお前が。どういうことだよ」

        (思わず男は振り返る。そこで目にした光景に、狼狽を隠すことは出来ない)
        (立ち込めていた筈の霧は晴れ、穏やかな草原が一面に広がっている)
        (霧を吹き晴らしたであろうその中心に立っていたのは―)

        「どうしてお前が、霧窓のコントロールを握っているんだッ!!!」

        (霧に飲まれた筈の霧島悠里が、変わらぬ姿でそこに立っていて)
        (周囲に纏った霧は悠里の背後でもう一人の少女として形を成して、ゆらゆらと漂っている)
        (それこそが霧窓異界の新しい姿。異界に溶けた意思を手繰り寄せ、手にしたピアスに込められた魔力を基に形作られた、新たな怪異)

        「―簡単だよ。姉妹の絆は強い、ってこと」
        「貴方が私のお母さんに抱いてたみたいな、歪んだ一方通行の感情なんか目じゃないんだよ」
        「ね、アカリ」
        (問いかければ、霧の少女は嬉し気にその場でぐるりと宙を舞ってみせる―)
        -- 2023-06-18 (日) 00:26:15
      • 「ふざ、けるなよ…!!これは!霧窓異界は僕たち一族が連綿と受け継いできた秘伝だぞ!?それを、それをお前たちみたいな無能力者が!」
        (男が現実を受け入れられず激昂する。懐から呪符を取り出せば何事か詠唱し、素早く悠里に向けて投げつける)
        (呪符は中空にて呪いを込められた刃へと変化し、悠里へと迫るが―)

        「知らないよ、そんなの。勝手に巻き込んどいてさ」

        (悠里が横一文字に腕を振るえば、あふれ出した霧が飛来する刃を飲み込み、消失させる)
        「もう、霧窓なんて異界は存在しない。この子は―私の妹だから」
        (一歩、悠里が男に向けて歩を進める)
        (悠里の周囲を渦巻く霧の帯が、悠里が歩を進める度に飛来する男の攻撃の悉くを飲み込み、消し去っていく)

        「―ひ、ひぃ」

        (先ほどまでの自信は最早男にはない。悠里を見る視線には、未知なる恐怖を―只人が霧窓に向けるような恐怖が張り付いている)
        -- 2023-06-18 (日) 00:32:53
      • 「精々怖がりなよ。もう、二度と私たちにちょっかいかけてこられないぐらいにね」
        (へたり込んだ男を見下ろし、告げる。無防備な男に足に向けて指先を振るえば、即座に霧が男の足にまとわりつく)
        「や、やめっ、やめてくれ!!わかった、分かったよ!」
        (男は消失の恐怖に我を忘れて叫ぶ。二度と手は出さないと)
        「んー…なら良し!」
        (暫くどうしようか考えたが、そもそも自分に殺しなんて出来るわけがないのだ)
        (これだけ怖がってくれたんなら、もう十分だろうと。ぱち、と指を鳴らして男の足にまとわりついていた霧を祓った)
        「それじゃ、出してあげるからさ。さっさと帰りなよ。そんで…うん、もし今度会うことがあったなら」
        「次は、もうちょっと違った関係で会えたらいいなって。ね、叔父さん?」
        (ぱちん、と柏手を打てば異界は掻き消え、先ほどまで悠里が立っていた裏道へと景色が描き変わる)
        (へたり込んでいた男はおずおずと立ち上がり、服についた埃を祓うと―)
        「―ふん、そんなのはごめんだよ。こんな恐ろしい力をもった姪なんて、冗談じゃないからね」
        (負け惜しみのように吐き捨てると、男は歩き出した)
        「…ダメか。一応…私にとっては数少ない肉親ではあったのに」
        (難しいね、なんて苦笑いすると、背後に霧の少女が姿を現し、励ますかのようにくるくると悠里の周囲を回る)

        「―うん、ありがとね、アカリ。それと…ほんとに、間に合わなくてごめんなさい」
        「でも、これからはずっと一緒だからね」
        「帰ったら、皆にもアカリのこと紹介してあげる」
        「大丈夫、きっとアカリともすぐ仲良くなれるよ」
        「―え?知らない人がちょっと怖い?…ふむ、そうかそうか」
        (ふむ、と顎に指をあてて小さく唸り。やがて、思いついたかのようににんまり笑った)

        「そのお悩み、学生互助部お任せ!」

        「私と、皆で!アカリのお悩み、解決してあげるからね!」

        (そう言って、裏道から表通りへと走り出すのだった)
        -- 2023-06-18 (日) 00:44:04

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Last-modified: 2023-06-18 Sun 00:44:04 JST (313d)