けれど鳴かずにゃいられない
- ※凄惨なシーンを含みます
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- 1時間ほど前から集団に終われ続け、路地裏を逃げ回っていたキジであったが、ついに袋小路に追いつめられてしまう。
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- 「キジャァ!!!! 手間かけさせやがってこの野郎! あっちこっちふらふらふらふらしやがって、ようやく捕まえたぞ」
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- 集団の中から一際威圧感のある男が前に出て、キジに向かって声を投げかける。恐らくこの集団のボスである。
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- 「人違いじゃないッスかねー、俺っちそんな人間知らないッスよ。そりゃこんなおっかない人達に追っかけられたら誰だってあっちこっち逃げ回ると思うッスよ?」
-- キジ
- 「今のことを言ってんじゃねーよ……キジャ、お前住処を頻繁に変えてただろう。そのせいでこんなに時間食っちまった。出来りゃあもっと早くぶっ殺してやりたかったのによぉ」
-- ボス?
- 「だから人違いじゃないッスかーって言ってるんスよ、聞こえてるッスかー? もしもーし?」
-- キジ
- 「すっとぼけんのもいい加減にしろ、そのタッパでそのツラで……おまけにその口調で、キジャツリス以外の誰だってつーんだよ。他人の振りすらまともにできちゃいねーじゃねーか」
-- ボス?
- 「他人の振りも何も……俺っちはキジッスよ。他のなにもんでもない、キジッスよ」
-- キジ
- 「偽名もロクに考えられねーちっぽけな脳みそで偉そうに。……おい」
-- ボス?
- ボスがあごで指示を出すと、集団から一際体の大きな男がキジの前に立つ。
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- そのまま前方へ進みキジとの距離を詰める大男、後ずさりして距離を保とうとするキジ。
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- しかし袋小路であるがゆえにすぐに壁に背中が当たり追い詰められてしまう。
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- 「くっ……!」
-- キジ
- 意を決して大男の横をすり抜けようと低い姿勢で駆け出すキジ。
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- そのキジの顔めがけて大男の強烈なフックが襲い、もろに受けてしまったキジはそのまま背後の壁に叩きつけられる。
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- 「ぐぁ……!」
-- キジ
- 「あきらめな。おめーうちで一番弱かったくせにこの状態から逃げられるわけないだろうが」
-- ボス?
- そう言いながらボスは大男とキジがいる場所へと近づく。
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- 「しかし運がよかったな、偶然だろうがこの街に逃げたのは正解だったぜ」
-- ボス?
- 大男の隣に立ち、ボスは話を続ける。
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- 「この街は俺らにとっちゃ宝の山でな…………人も、物も、とびきり高く売れそうなもんが山ほどありやがる」
-- ボス?
- 「だがここは冒険者の街だ。それこそ本物の化け物みたいに強い奴らもごろごろしてやがる」
-- ボス?
- 「派手にやりゃ俺達でも危険だろう…………だがなぁ、お前がいる。口も態度も軽くて、無駄に知り合いだけは多いお前がな、恐らくここでもそうなんだろう?」
-- ボス?
- 「俺も鬼じゃねぇんだ、お前がここで俺らに協力して……そうだな、お前が盗んだ金の5倍ほど稼げればお前を生かしてやるさ。いやそれどころかうちへ復帰してもかまわないぞ?」
-- ボス?
- 復帰してもかまわないという言葉に集団がざわつき、集団の中の一人が声を出す。
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- 「復帰って……裏切ったこいつを許すんですか? ボス!」
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- 「ふふふふ……こいつぁなぁ……金のなる木なんだよ。いや、このドでかい金鉱を掘れる唯一の鉱夫と言った方がいいか」
-- ボス?
- 「高く売れそうな変わった能力だの血を持ってる奴をこいつに呼び出させて拉致ったり、こいつが知ってる場所へ忍び込むのに使ったり、いくらでも稼ぎようはある」
-- ボス?
- 「そういやキジャ、お前あの怪しげな図書館へも最近出入りしてたな、なんでもあそこも貴重なもんが山ほどあるらしいじゃねぇか……くくくっ、いくら稼げるか予想もつかねぇなぁ!」
-- ボス?
- 「というわけだ、文句はねぇよなぁ? お前ら」
-- ボス?
- そう言って後ろの集団に睨みをきかせるボス。
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- ざわついていた集団はその一睨みですっかり静まり返ってしまった。
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- 「キジャ、お前の稼ぎ次第では幹部にしてやることだって考えてやる。悪い話じゃねぇだろ、むしろとびきりいい話だ!」
-- ボス?
- 「そうすりゃうちももっとでかくなる! でかくなりゃいずれこの街ごと飲み込むことだってできる! 恐れることなんて何もないんだぜ」
-- ボス?
- 「さぁ、手を取れキジャ……お前には輝かしい未来が待ってる…………この街ごと飲み込んで、さらにでかくなったうちの幹部になる未来がな」
-- ボス?
- キジへと手を伸ばすボス。
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- 「……………………キジャって誰ッスかねぇ…………俺っちはただのキジっつー人間ッスけど」
-- キジ
- 「何とぼけたこと言ってやがる、迷う必要なんかないだろうが、この手を取れ、キジャ」
-- ボス?
- 「……………………」
-- キジ
- 反応もせず、ぼんやりと虚空を眺めているキジ。
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- 「…………ちっ! おい、わからせてやれ。…………殺すなよ」
-- ボス?
- 「へい」
-- 大男?
- 返事をしてすぐに大男はキジへと向き直り、強烈なボディブローをキジへ放つ。
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- 「ぐぅっ……!!」
-- キジ
- 衝撃と激痛で息ができずにいるキジへ次は顔面への殴打が見舞われる。
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- 衝撃のまま地面へと顔をつくキジ。さらにそこに大男の肘落としが入り、血の混じった吐瀉物をキジがぶちまける。
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- 「起こせ」
-- ボス?
- 命令された大男がキジの髪をつかみ無理やり顔をあげさせる。
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- 「お前もこのまま痛い思いなんかしたくないだろう、俺達に協力すればすべて上手くいくんだ。わかるだろう? ……よろしく頼むぜ」
-- ボス?
- そう言って再びキジに手を差し出すボス。
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- 「……………………」
-- キジ
- キジは焦点の定まらない目でじっとボスの方向を見ていた。
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- 「何腑抜けてんだ! 目を覚ませキジャ! 長い休暇はもう終わったんだよ! 俺達のところにもどってこい! 今なら全部水に流してやるって言ってるんだぞ!!!」
-- ボス?
- 「……はははっ、休暇ッスか…………懐かしい言葉ッスねぇ……俺っちにももうすぐ、天使のお迎えがくるんスかねぇ……」
-- キジ
- 「くそっ! 話にならねぇ! おい! 死なない程度に痛めつけてやれ!」
-- ボス?
- 「へい!」
-- 大男?
- それから1時間ほど……殴られ、蹴られ、絞められ、潰され、引きずられ、叩きつけられ、様々な暴行をその身に受け続けたキジ。
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- 「さて、いい加減目ぇ覚めたか。キジャ、返事しろ」
-- ボス?
- 「……………………」
-- キジ
- ボスがあごで指示を出すと大男がキジの髪を掴み強引にキジの頭を持ち上げる。
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- 「あだっ……だっ」
-- キジ
- 「意識はちゃんとあるみてーだな、おい! もうわかっただろ! 逆らったところでどうにもならねぇし、痛い思いももう十分だろう?」
-- ボス?
- 「あいつみてーな気味悪い盾でも出せれば……俺っちもどうにかなったッスかねぇ……」
-- キジ
- 「おい」
-- ボス?
- ボスが低い声を出すと、大男がキジの髪を掴んでるのとは別の手で、キジの腹部を思いきり殴打した。
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- 「げはっ! ごほっ……」
-- キジ
- 「いつまでわけわかんねー振りしてやがる…………なんだ、この街の奴らにほだされでもしたのか、そんなガラでもねーだろうが!」
-- ボス?
- 「このままだと死ぬだけだぞ……いい加減意地を張るのはやめたらどうだ?」
-- ボス?
- 「ははっ! はははは…………死ぬ準備なら、ちょうどし終わったところッスよ……墓も自分で……用意したんスよ……」
-- キジ
- 「……………………」
-- ボス?
- キジの言葉を聞いたボスは、何かを考えるようにしばらく無言になった後、拳銃を取り出しキジの額へと銃口を押しあてた。
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- 「泣いても笑ってもこれが最後だ、俺達に協力するか? YESかNOで答えろ」
-- ボス?
- 「…………………………………………NOッス」
-- キジ
- 銃声が響いた。
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- 翌日、路地裏にてキジの死体が発見された。
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