モドル

フィーネの日記より抜粋 Edit

9月6日 晴れ
そろそろ学園生活が始まる。
ガス爺さんがボクに学べと言った理由を少し理解してきた。
素人の上、知識もなかったら経営なんて出来やしない。
そういうシンプルな理由だ。

でもボクにできるだろうか。店を守り、いつか来る終わりまで生き抜くことが。
9月12日 曇り
新入生歓迎会に出た。
でも、モニカ先輩と少し話したくらいだった。
彼女に少し話したけど、ボクは人と違うらしい。
その事実が臆病な子兎のようにボクの足を竦めさせてしまう。

カウンターの向こうにいる時は。自分の心を(よろ)っている時は。
平気なのに。

残りエネルギーは8日と20時間。ヴィルトゥスはまだ発掘された報告はない。
9月17日 晴れ
ヴィルトゥスが発掘されたらしい。
早速、買い取りの交渉に行く。
特に問題なく買い取れたことはボクにとって僥倖だ。
10万ガリオンかかったけれど、いつもと同じ程度の値段と言えるだろう。

何もかも順調に進んでも、ボクの命は最大で二年程度。でも……
残りエネルギーは32日と8時間。まだ、生きていられる。
10月3日 雨
ベレグリエル師匠に言われたことを思い出す。
ボクの短命は本当に運命なのだろうか。
もしかしたら、ずっとずっとヴィルトゥスが発掘され続けるかも知れない。
ひょっとしたら、ヴィルトゥスに代わる代替エネルギーが見つかるかも知れない。

そんな希望的な妄想が、実現しないであろうことも何故か実感としてある。
残りエネルギーは16日と20時間。そろそろ“次”の心配をしなくちゃ。
10月15日 雨
冷たい雨が降る日だ。
あの店の裏に時々来る白猫は凍えていたりしないだろうか。
……そもそもボクが動物を飼っても、動物より先にいなくなるという理由で
あの白猫に名前もつけずに餌だけ与えているのだけれど。

それは正しいのだろうか。ボクにはわからない。
残りエネルギーは4日と8時間。次のヴィルトゥスはまだ見つかっていない。
10月18日 晴れのち曇り
ヴィルトゥスが発掘された。ギリギリ間に合った、というわけだ。
ボクは今日も生きていられる。ボクは今日も動いていられる。
そして買い取りもスムーズに済んで、10万ガリオンの出費。
ガムシャラに生きて、生きて、生き尽くして。
根限り生きてどうしようもなくなったら。

爺さん。ちゃんと笑顔で迎えてくれよな。

残りエネルギーは31日と19時間。ボクの人生に執行猶予。
11月7日 晴れのち曇り
最近、友情というものを強く意識するようになった。
ヒトと違うボクにも友達が持てるのであれば。
これ以上ないもののように思う。
刺激的な炭酸水が飲めなくても、芳醇な果実の味がわからなくても。
ヒトとヒトの(あわい)にあるものを意識することで、
強く前に出ることができるのだ。

残りエネルギーは11日と2時間。少し心許ないか。
11月22日 雪
今日は二つ、書くことがある。
ヴィルトゥスが見つかったことだ。
あまり状態は良くなかったけど、十分に稼働する。
これでまた生き延びることができる。

そしてもう一つ。
店の裏に来ていた白い猫が死んだ。
誰かに河川敷で殺されていたんだ。
どうしてと思うことすら虚しい。

残りエネルギーは23日と15時間。
古いヴィルトゥスは稼働時間こそ短いものの正常に稼働している。

Last-modified: 2024-05-06 Mon 22:16:15 JST (10h)