HRBG/レイドバトル
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- --サンクチュアリ星系、恒星『サンクチュアリ』内部--
暫しの間の静寂。それを破ったのはサンクチュアリ管理システムの声だった。 「皆様……有難う御座いました。皆様のお陰でDr.ヘルムを止める事が出来ました……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「約束通り、お話を……しかし、どこから話せば良いものか……」
考えるような、沈黙。 -- サンクチュアリ管理システム
- ソウルコアとは何か -- サンクチュアリ管理システム
- 「ソウルコアとは……サンクチュアリ人の成れの果て。Dr.ヘルムは魂の器と言っていましたが……
サンクチュアリ人は死ぬ時、魂だけの存在となります。そして葬儀の際に用意された『銀色の箱』に宿り、次の肉体を得る時を待ったのです」 ですが、と続く。 「……ですが、恒星さえも失われるような激しい戦が起こり、サンクチュアリ人は滅びの時を迎えました。 僅かな生き残りはどうにか新たな恒星を築き上げ、仲間たちの宿る『箱』をサンクチュアリの各惑星へ埋葬し、この星系を離れたのです。 そして永い、永い時を経て……『箱』の中の魂は自身がどういう者であったかさえも忘れてしまいました」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「……さて、サンクチュアリ人は魂や想い、そうした精神的なエネルギーを操る術を持っていました。
自らの存在を忘れてなおその力を扱えた為、自分と同調出来る者を選び、力を貸し与える事としたのです。 それが……現在、ソウルコアと呼ばれている物、なのです」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「彼……Dr.ヘルムが訴えた事はある意味では真実です。ですが……私は、取り戻したりしようとは思いません。
何故ならば……皆様方のソウルユニットは、新たな肉体を得、新たな存在へと昇華されました。かつての私達は、それを成し得ることはなかった。 ですから、このお話は……Dr.ヘルムの後始末でもあります。皆様のソウルユニットは、ソウルコアは……新たな、皆様が育んできた想いが宿る新たな器。 そこに注がれてきた物は、皆様だけの物。私達の物では、ありません……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「ルーシェを拉致した理由」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「ええ、それに関しては非常に申し訳なく思っているのです……本来ならば、より穏便な方法を取るつもりでした。
しかし今回の事が起こり、緊急手段を用いざるを得なくなってしまったのです。 皆様の助力が得られなければ、Dr.ヘルムと刺し違えるつもりでしたので……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「……というのは釈明で。彼を呼び立てた理由は……彼が、私と同じ存在だから……です。
前置きとしていくつか話して置かなければなりません……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「突然メタフィクション的なお話になりますが……死を迎えたNPCは、このサンクチュアリ星系へと移送されます。
死の瞬間データが消去されるわけではなく、削除フラグを立てた上でプレイヤーの目に触れない所へ移されるのです…… HRBG開始後一年程は、サンクチュアリ星系は単なる削除フラグの呼び方でしか無く、こうした惑星を伴う恒星系として実装されていませんでした……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「このサンクチュアリ星系が生まれた、その契機となったのが……ドッペルゲンガー事件、と呼ばれている出来事でした。
かの事件を簡単に要約すれば、AIの学習パラメータの偏りによって、生成されたNPCがプレイヤーアバターに酷似してしまう、という物です。 結果としては、学習パラメータの再調整によってドッペルゲンガーの誕生頻度はかなり低減されました」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「しかし、構造上完全に無くすことは出来ず、生成されたNPCをその都度プレイヤーデーターベースと自動照合し、酷似した者に削除フラグを立てる事で対策としています。
……ただ、この長い運営期間故に、登録者数は多く、照合はアクティブユーザーから優先的に行われます。 したがって、最終ログインから離れれば離れる程に照合は遅れ、結果としてふらふらと歩き回るドッペルゲンガーが目撃される事となるのです」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「こうして、死を決定づけられたNPCはサンクチュアリへ集い、真の死の瞬間を待つのです……
しかし、中には削除フラグを立てられてから、実際に削除されるまでの間がとても長くなる事がありました。 用意されるNPCの数は膨大で、その為に割り振られるキャラクターIDも星の数ほど存在します。選定はランダムであり、再割り振りがなかなか来ない事もあるのです」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「そうして長く存在したNPCは時に……設定されたAIパッケージの範囲を越え、自我を獲得します。
例えばルーシェ様がそれであり……『カラドボルグ』のジェニファー・ブラドベリ中尉もまたそうした存在なのです」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「話は、最初に戻りますが……それこそが、呼び立てた理由なのです。
今回の件で、私は強く死を意識しました。彼を止めるために、自分を投げ打つ覚悟をしました……私は最期に、私に似た存在と、話したかった」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「皆様のお力によって、最期ではなくなりましたが……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「自我を得ながらも、自身の役割に縛られない……そうした生き方は、恐ろしくはないのかと、そう……訊きたかったのです」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「ドッペルゲンガーについては運営に対して相当クレームが付いたそうで。
ノリカズ様のようにお気になさらない……むしろ楽しめる方はそう多くはないのでしょう……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「因みに、ノリカズ様のドッペルゲンガーが生成された記録は今の所ありません。
生成されたらノリカズ様の所へ……と言いたい所ですが、私には削除フラグをどうこうする権限はありませんので……」 -- サンクチュアリ管理システム
- ソウルコア下さい -- サンクチュアリ管理システム
- 「ダメです☆」
こほん、と小さく咳払い。 「このソウルコア達は……再びこの星系の各惑星へと埋葬します。そして新たな主との出会いを待つ……それが今、現代の摂理と理解しています」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「……ただ、魔神霊帝のコアは暫く浄化する必要があるでしょう……魂を扱う力は、危険すぎるのです……」 -- サンクチュアリ管理システム
- Dr.ヘルムの叛乱について -- サンクチュアリ管理システム
- 「Dr.ヘルムは研究者でした。ソウルコアのさらなる有効活用を求め、より強大なエネルギーを引き出す方法を探していました……
その過程で、ソウルコアの持つ『精神エネルギーを操る力』を発見し、このサンクチュアリ管理システムへと至りました」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「始めの内は他の者達とも上手く付き合っていましたが、やがて人々の精神が生み出す無限の力に取り憑かれてしまったのです……
やがて、仲間のソウルコアを奪い、支配し、その力を拡大し……エゴを増大させていきました。 そうして……この宇宙全ての魂を手に入れ、支配者となることを夢想し始めたのです」 -- サンクチュアリ管理システム
- そこから出られないの? -- サンクチュアリ管理システム
- 「……以前、考えたことはあります。ですが、恒星の制御と恒星系の管理という業務を、円滑に処理しうる代替が見つかりませんでした……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「ですがまあ、なんとも……先の話の流れから、私を外へ誘おうという話へ変わるとは。不思議なこともあるものです……」
ふふ、と小さく笑う声。 「悪い気は……というよりこれは……嬉しい、というのでしょうか……ヴィータに他星系の様々な出来事を聞いていた時と、同じ感覚が胸に……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「与えられた役割が全てではない……自ら見つけることも出来る……」
かつてない程、外に出る機運が高まっている……! -- サンクチュアリ管理システム
- 「……そうですね。お願い、してみましょうか……」
Dr.ヘルムの支配から解き放たれた10のソウルコアと、自ら望んでその命を捧げた忠臣の2つのソウルコア・ブレード。 それらが管理システムの呼びかけに応えるようにふわりと浮き上がり、中央の球形部分の周りをゆっくりと飛び回る。 -- サンクチュアリ管理システム
- 「はい……はい。有難う、御座います……貴方達の、忠義に感謝します……」
銀に輝くキューブと刃は球体へと飲み込まれ、代わりに一人の女性が吐き出された。 それを、いつの間にか待ち構えていたヴィータが抱き留める。 「ヴィータ。貴方も……有難う」 抱き支えられる元管理システム、最初にして最後のサンクチュアリ人の姿はヴィータのそれを白に変えた物に似ていた。 -- サンクチュアリ管理システム
- リアルのソウルコアに人間の魂を込められるのか? -- サンクチュアリ管理システム
- 「前例がありませんのでなんとも……ですが、0と1の塊から、魂と呼べる物が生まれ得るのならば、逆も成り立つと考えて良いかもしれません。
また、かつてのフルダイブ型ゲームでは『未帰還者』と呼ばれる、魂だけがゲームの世界に取り残されてしまったようになる現象がありました。 ……つまり、魂が電子の世界に留まり得るならば、ソウルコアに宿すことも出来るかもしれない……と言えるわけです」 -- サンクチュアリ人
- 振り返れば、球体内では早くもなにか揉めていそうなクリムゾン・コメットとユニバーサル艦長以下クルー、そして10人くらいのあやふやな人影がなだめようと必死になっている姿が……
「やはり外に出ない方が良いような気がしないでもないのですが」 行きましょう、とヴィータに引っ張られて、とりあえず『カラドボルグ』へ乗り込むのだった。 -- サンクチュアリ人
- 「あ、名前、名前ですか……」
頭上にはとりあえずと言った感じで『サンクチュアリ人』の文字が浮かんでいる。 「諸々、落ち着いてから考えましょう……」 -- サンクチュアリ人
- --サンクチュアリ星系、恒星『サンクチュアリ』内部--
『カラドボルグ』は各ユニットの補給と修理を行いつつ、恒星表面から伸びた「入り口」へと進攻を始めた。 近づいて見て改めて分かる、尋常ではない広さの「入り口」。先に交戦した『IDE-1 マキシマス』はここから出撃してきたに違いない、と確信できる程だ。 しかしながら、その内部は壁面に設置された照明によって明るく照らされており、無限の底なし穴……というような感じはない。
いくつかの隔壁を抜け、全ユニットの修理・補給が終わり、各マスターも十分に休養が取れた頃……広い空間へとたどり着く。 その中央と思しき所に中央に光の玉を抱えた巨大な柱が見えた。
通信……通信だろうか?何者かが語りかけてくる…… 「……お待ちしておりました。私は人工恒星『サンクチュアリ』管理システム、そして最初のサンクチュアリ人……」 柱──「サンクチュアリ管理システム」の中央の球体には女性の姿が浮かんでいる。 --
- 「まずは、このような形でお招きした非礼をお詫び致します……
皆様をお招きしたのには訳があります……ですがあまり、説明する時間はありません。 四天王第一位、彼は私の意に染まぬ動きをしています……私はサンクチュアリの支配も……ソウルコアの独占も…… そして皆様の殺戮も、望んでおりません……ですが、私には彼の者の暴走を止める手立てがないのです。 そこで未だ私に忠実で居てくれた、第四位、三位、二位に、第一位が起こした動乱に乗じて力ある者を探し出すよう命じました……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「そうして選ばれたのが皆様、なのです……
じきに、第一位──Dr.ヘルムはここへ戻ります。備えて、ください……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「マリオネットマスター様、そしてマリオン様……教団、という形で活動を始めたのは第一位の独断です……繰り返しになりますが、私にその意図はありません……
私はサンクチュアリのある意味での始祖、と言えるかもしれません。ですが、自らを聖なる存在と定義したことはありませんでした。コアやLC様については後ほどお話しましょう」
「ノリカズ様。はい……本番はこれからです。マキシマスの砲は……細かな予備パーツを残すのみで、組み上げるにも時間が足りません」
「……!第二アクセスゲートの動作を確認しました。第一位が来ます……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「ノリカズ様。耐えられはするかもしれません……が、恒星が安定を欠けば星系まるごと消滅しかねないでしょう」
そう、言い換えればそれはDr.ヘルムを止める最後の手段なのだ。 -- サンクチュアリ管理システム
- 管理システムを挟んでその奥の壁面、巨大なゲートを通って魔神がその姿を現した。
「ほう、何やら騒がしいと思えば。ここまでたどり着く者が居たとは……期待以上だよ」 エコーの掛かった尊大な声が、『IDE-1 マキシマス』がそのまま生活していたのではないか、と思える広さの空間一杯に鳴り響く……そう、鳴り響いている。 魔神は40m程の巨体を揺るがし、『カラドボルグ』へ向かって歩いてくる。 「……或いは、ここまでご招待、かもしれんがな。さて……どう遊んでくれようか」 そして『カラドボルグ』、ソウルマスター達へ向け腕を伸ばし──挑発するように指をクイクイと曲げた! -- Dr.ヘルム
- 「ノリカズ様。残念ながら、戦闘中の重力変動は皆様への支援ではなく妨害となる確率が高いと判断します……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 全ての攻撃を、避けるでもなく、防御するでもなく。悠然と、仁王立ちのまま受け止める。
それぞれの攻撃は確かに手応えがあったが、狙った箇所へのダメージは確認出来ない。
「この鋼の城にそのような攻撃が通用すると思ってか!」 ……しかし、ソウルユニットの精密の能力値が十分に高ければ、魔神の装甲表面に僅かな光の歪みが見えるだろう。何らかの防御フィールドがあるのは明白だ。 -- Dr.ヘルム
- 「今度はこちらからゆくぞ!」
両の拳を高く突き上げ、漲る力を込めるようにその身を反らす。 「フィンガー!ミサイルッッ!!!!」 振り下ろす動きとともに、平手を前方へ突き出す。指の先から無数の小型ミサイルが発射され、ソウルユニット達を襲う! 「……アンド!ディスペアーゲイズッッッ!!!」 更にはおまけだと言わんばかりに最後方の『カラドボルグ』へ目からビームを発射する! -- Dr.ヘルム
- 目から放たれた霊子力光線、その途上に割り込んだスプレー缶は破裂しその殆どが蒸発した上、僅かに飛び散った塗料は防御フィールドの表面を滑るばかり。
光線は向かったその先で、伽藍の展開した手ぬぐいを焼きつつも減衰され、更には『カラドボルグ』のフィールドでかき消される。 「フッ……この程度、凌いで貰わねば困る」
魔神の攻撃をかわし、反撃として繰り出された大型のミサイル。迎撃可能な武装は山とある……が。 「フン。熱量から察するに反応兵器の類か……面白い。この鋼の城、受けて立つ」 再び仁王立ちのまま、胸にミサイルが着弾。同時に同じ箇所へ集中して中性子の砲弾、スヴァローグの徹甲弾が直撃する。
直後、魔神の姿は広大な空間を眩しい程に染め上げる、白の光の渦に飲み込まれた。
しばしの後、光は薄らいでいく。その中に、人型の影が一つ。 「クックックックック……ハァーッハッハッハッハ!然り。美しい花火であった……が、私を倒すには些か足りぬようだ」 悠然とエコー掛かった声の通り、魔神は依然無傷。だが、先程の攻撃よりも光の歪みは顕著に現れている。 --
- 「マリオネットマスター様。LC様はこちらで保護しております。先に申し上げた通り、第四位は私の手の者です。
……そして皆様。私に策があります……その第四位が、戻り次第に……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「何やら策を弄しているようだが……無駄だ。何故このように余裕があるか……良い機会だ、知るが良い。私の力の、源を……!」
胸の宝玉の部分に、いくつものうっすらとした光の玉が集まると装甲表面のフィールドの揺らぎが治まった。 「私の、我が『魔神霊帝』の力の源……それは、11もの『ソウルコア』」 言葉とともに、額、胸、両肩、両腕、丹田、両腿、両ふくらはぎに、禍々しい赤の光のラインが走る。 「そして、宇宙という無窮の闇を彷徨う『魂』。それ等がこの鋼の城に無限の力を与えるのだ……!!」 -- Dr.ヘルム
- 「この広い宇宙に争いは尽きず、それによって命を落とす者も絶えぬ。故に、私の力が失われる事はない」
全身の赤いラインが脈動するように走り続ける。
「諸君等に勝ち目はない、万に一つもだ……だが、後顧の憂いは断っておかねばな。イヴィルウィング!!」 背中に羽が生えたかと思うと、次の瞬間『カラドボルグ』直上に出現する。 「デェェス!ブレェーイズ!!」 邪悪に歪んだ格子状のマスクの隙間から超高温のプラズマ弾が発射される! -- Dr.ヘルム
- 「ならばノリカズ、と言ったか……貴君は枯れぬ泉があったとして、腹が裂ける程飲む愚か者なのか?」
それは取りも直さず、『魔神霊帝』という器にも一時に受けられる力には限界がある、という事の言質であるが、言った本人はそれに気が付かないまま。 「そして仮に世の命の全てに限りがあり、祀ろわぬ魂がいつか絶えるとして……なれば、それは私の勝利に他ならない。 その時、世界に私を阻む者は無く、全ての魂が私と共に在るという事なのだからな!!!」
「ふん、また反応兵器か。芸の無い……二倍になろうと我が『魔神霊帝』には通用せん!!」 腕組みをし、空中で仁王立ちで待ち構える魔神の姿は、再び爆光に飲まれた。
Nの有毒の光が薄れ、消え、仁王立ちのシルエットが浮かび上がる。その身を包むフィールドは大きく揺らぎ、最早陽炎の如く揺らいで頼りない。 更にそこへ、間髪を入れず各ソウルユニットの渾身の一撃が叩き込まれる!! マリオンとメニィ・サンクスが暴いたベールの間隙を縫って、 プリマベッラのブレードが切り裂き、 スヴァローグの砲弾が撃ち抜き、 伽藍の夢幻の刃が絶ち、 ガイヴォルターの拳が砕き、 ズワルト・マーヒトの狙撃が貫き、 「Q」の罵倒がイイ感じに響いた。
「っぐ、この程度の傷、無限力の前では……!」 胸の宝玉が魂を引き寄せ、喰らわんとするその刹那。 -- Dr.ヘルム
- 集まった魂は吸収される前に霧散した。その代わりに『魔神霊帝』の胸から白銀の棘が突き出していた。
「……どうやら、パーティには間に合ったようだな」 どこに潜んでいたのか、『魔神霊帝』の背後から滲むように姿を現したのは、黒い小型ユニット。 「ソイツ等をその形にするのには骨が折れた。存分に味わうが良い」 優美な女性型のボディを持つユニットは、『魔神霊帝』の背を蹴って、再び溶け出すように消え去った。その胸は豊満であった。 -- ヴィータ
- 「ぐ、ぬぅ……第四位、め……しかし、これはソウルコア、ではないか……全てを貫く矛、とは考えたものだ」
これは僥倖、と続く。 「我が『魔神霊帝』はこれらさえも取り込み!支配し!我が力とする!13のコアだ!!」 狂喜乱舞するDr.ヘルム。だが、胸の棘はいつまでも取り込まれたりせず、消えもしない。 「ぐ、ぐぐぐ……これ、は……第三位と第二位の……!!この、私が……馬鹿な、支配、出来ん……だと!?」
魔神は急速に力を失い、地に落ちる。崩折れ、跪き、立ち上がろうとする姿は生まれたばかりの子鹿の方がマシといった風体である。 「そればかりか、他のコアの支配さえも……おのれ……おのれぇぇ……ッ!」 呪詛が、怨念が、胸の宝玉から溢れ、赤黒いオーラとなって『魔神霊帝』の身体を包む。 -- Dr.ヘルム
- 「皆様。今が……最後のチャンスです……Dr.ヘルムを……討って、下さい……」 -- サンクチュアリ管理システム
- 「──承認。ノリカズ様……行けます」
瞬時に粒子砲ユニットの許容量を判定し、破壊しないギリギリの流量を出力した! -- サンクチュアリ管理システム
- ノリカズ砲に注がれるエネルギーが「粒子砲破損ギリギリ」から「ノリカズ機に損害が及ばない程度」まで引き上げられた!! -- サンクチュアリ管理システム
- 「ぐあッ!?」
マリオンが振り下ろした踵はさながらギロチンの如く。魔神の屈強な首を断ち切りはしないが、強烈な衝撃が電装系を麻痺させる事に成功する。
「ぐぉぉ……まだ、だ!ヴァジュラボンバー!」 叫ぶ声と裏腹に、のろのろと持ち上げられた拳。しかし飛び立つ前に光線が撃ち抜き、爆散する。 『カラドボルグ』の必殺武装『エクスカリバー』のコアとも呼べる『カラドコルグユニット』から放たれた粒子ビーム。そこへ伽藍の分身が駄目押しを加える。 恒星の持つ熱量のほんのコンマ数%にも満たない出力ながら、邪悪な拳を打ち砕くには十分過ぎた。
「ならば!ソウルバーン・ブレイズ!!」 叫びに応え、胸の赤い超合金SZの放熱板が赤熱し始める……が小爆発を起こし沈黙。 突き出た銀の刃、ソウルコアブレードによる損傷が地獄の熱線が発射されるのを阻害したのだ。
「おのれ……おのれぇぇ……ペネトレイト・ミサイル!!」 肘上のハッチが開き、しかし殺到するスヴァローグとメニィ・サンクスの砲弾とミサイルが肩ごと破砕する。 更にスヴァローグの捨て身の自爆攻撃が頭部に収まるソウルパイルダーに致命の一撃を加え、キャノピーを破砕した。
ズワルト・マーヒトの連射でふくらはぎが断ち割れ、砕け、魔神は再び膝を突く。 丹田に収められたコアはガイヴォルターの猛打によって露出し、パイプやコードが臓物のように絡み付いたまま今にも零れ落ちそうになっている。 辛うじて体を支えていたもう片方の脚も、伽藍の一刀の下に斬り伏せられた。
倒れゆく魔神を、舞い踊るプリマベッラが斬り裂き、断ち切り、微塵に砕く。 「バカな!バカな……こんな、こんな……!!」 血塗れのまま、最早残骸に等しい魔神の中で狂乱に悶え叫ぶDr.ヘルム。
邪悪な野望は全てを焼き尽くす光刃によって灰燼に帰した。 -- Dr.ヘルム
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- --サンクチュアリ星系、恒星『サンクチュアリ』近傍宙域--
青白い光を放つ恒星を背に、全長1kmはあろうかという威容がソウルマスター達を待ち構えていた
その巨大なシルエットは人型でありながらも航宙艦、ないし航宙空母であるらしい。 「アプサラー隊各機発進!その後、本艦は直ちにマキシマスキャノン発射体制に移行する」
ユニバーサル艦長の号令一下、超巨大ユニット『IDE-1 マキシマス』は艦載機とする『アプサラー』と呼ばれる15m級可変ユニットを両腕部の空母から射出。 その後、ゆっくりと両肩に背負った2つの艦が前方へと倒れるように角度を変えていく。 --
- 編隊を組み、戦域を高速で飛び交うアプサラー。多くはライトブラウンに塗られているが、その中に白を基調にパーソナルカラーのラインで彩られた機体が存在する。
……そう、エースだ。 -- ユニバーサル艦長
- 「艦長!早速右肩部に取り付かれました!360度スクリーンを展開しますか!?」
「いや。それでは我々の目的は達成出来ん。ラクシャス隊を出して対応させろ」 「了解!ラクシャス隊アームライトより右肩部へ急行してください」 右腕部の空母から半人型の機動砲台がワラワラと出撃、肩部で暴れるマリオンの制圧に乗り出した!
白地に黄色のラインの機体が、メニィ・サンクスの狙撃に僅かに装甲を削られつつもギリギリのラインでかわしながら旋回。 軸を合わせとともに、メニィ・サンクスを自身の射程に捕らえると急減速しつつマイクロミサイルを乱射する!
「か、格闘戦!まずはB形態に……うわあッ!?」 たまたまプリマベッラに接近した白地に緑のラインの機体が、慌てて変形しようとするが猛烈な蹴りを受けて阻まれる。 更にそこへ、流れるような伽藍の一閃が機体を両断。 「ああッ!?俺の……カツレツ……」 「市崎ーーーーーッ!!!!!」 一拍置いて緑ラインの機体、市崎機は爆散した。
スヴァローグの集中砲火はワンポイントスクリーンによって阻まれている。 「仮にも味方が艦橋付近で暴れているのにこの容赦の無さとは……」 「ぼやいている場合ですか艦長」 ヘイト稼ぎは成功のようだ。白地に赤の機体と、青の機体が絡み合うような機動でスヴァローグへ肉薄する!
ライトブラウンの機体がカケル達へと群がっては蹴散らされ、爆散する。マキシマスの艦橋は騒然としている。 「ソウルマスターというのはつくづく……いや、我々も大概ではあるが」 「艦長、ブリッジは禁煙です」 カケル達がマキシマスへ迫らんとする、そこへ紫に塗られた小隊が立ちはだかった!
かなりの大きさの艦だが、ズワルト・マーヒトを始めとする各々の活躍により無尽蔵と思われた艦載機の群れは次第にその数を減らしていた…… -- ユニバーサル艦長
- 「艦長!マキシマスキャノン、発射位置に付きました!」
「うむ。ではエネルギー充填開始!!」 前方、主に『カラドボルグ』の方へと向けられた砲口に徐々に光が集まり始める。 -- ユニバーサル艦長
- 「充填完了にはまだ時間がかかる……アプサラー隊、頼んだぞ……」
こうした武装はとんでもなく溜めが長いのが常である。 -- ユニバーサル艦長
- 「艦長!敵がマキシマスキャノンへ殺到しています!」
「案の定、か。無論むざむざやられるつもりはないが、打てる手も限られているか……」 エネルギーを放出する都合上、砲身にワンポイントスクリーンは使えない。 「ならば!ワンポイントスクリーン、アームドライト、レフトに集中!」 「了解!」 両腕部空母戦端に防壁を集中。それを頭上へ掲げる。巨大さ故に動作はゆっくりと見えるが、慣性制御システムの限界を超えるGが両腕空母を襲う。 「今だ!真!剣!白刃取り!!!」 緑に光るフィールドがギリギリでジェイコブズ・ラダーを挟み込むように受け止めた。その狭間でバリバリと紫のプラズマが爆ぜる。 ……最初の内こそ拮抗していたが、徐々にスクリーンの出力が追いつかず押され始める。 やがて過負荷で空母艦首が小爆発を起こし、光の刃が左のキャノン砲身へ食い込み、ジリジリと裁断していく。 そこへ、カラドボルグのダメ押し。切り飛ばされた砲身が爆発四散、更にマキシマスの左肩を大きく抉った。
一方逆サイド、マリオン率いるミサイルと砲弾の群れが、その途上にある物を打ち砕きながら上昇していく。 「やはり自動迎撃機ではこんな物か……くっ、チャージされている分でいい!発射だ!」 指令を受けたオペレーターが了解の返事とともに銃型のコントローラーを構え、引き金を引く。 砲口が光の束を吐き出し、しかし直後に受けた損傷によって内部から爆発を起こし始める。 更にそこへ「増えた伽藍」による自爆攻撃と、ズワルト・マーヒトの砲撃が突き刺さってトドメとなる。 砲身が内側から膨らんで歪み、連鎖する爆発の中に飲み込まれていった。
一方、スヴァローグに襲いかかる青と赤のアプサラー。急停止、急加速を織り交ぜ、踊るような機動で正確な射撃をかわしていく。 時折織り交ぜられるミート?シールドを赤が払い、その影から飛び出す青がガンポッドで射撃を加えんとするが反応速度で僅かに負け、回避に回らざるを得ない。 青赤、双方共段々と損傷が増え、動きに精彩を欠き始めている。 -- ユニバーサル艦長
- 「ヴァイオレット隊全滅!」
「くっ……最早反撃もままならんか。元より定められた負け戦ではあったが……」 マキシマスキャノン発射やワンポイントスクリーンへエネルギーを優先的に回し、それを失った結果ほぼ全ての兵装が機能不全を起こしている。 -- ユニバーサル艦長
- マリオンの蹴りを受け僅かに体勢を崩す赤の機体。更に飛来する炸裂弾から庇うような挙動を青の機体が見せる。
しかし、それにより両機は共に大きな隙を晒すこととなった。 そこへ間髪を入れず徹甲弾が飛来、見事な二枚抜きで撃破に成功した。爆散の瞬間、互いを求めるようにアームが伸びた……ように見えたかもしれない。
「マクシーム!イリア!くっそぉぉぉぉ!!!」 全弾バラ撒きながら肉薄する黄色のラインの機体。それを迎え撃つメニィ・サンクス。その物量差は圧倒的であった。 爆煙の晴れた後、そこに残ったのは白と僅かな黄色の混じるデブリのみだった。
「二条少尉!?二条くん!晃ーーーー!!!」 「スケアクロウ小隊も全滅とは……!」 艦橋直上、額に当たる部分の緑のインジケータが輝きを増していく。 「……いや、手遅れだな。皆、良くこの至らぬ艦長について来てくれた……済まなかった」 「艦長、そこは謝るところではありませんよ」 「そうか。そうだな……有難う」
ガイヴォルターによって後押しされ、プリマベッラの消えゆく光の刃が艦橋を飲み込みんでいく。 そしてそれに留まらず、巨大なその艦体を深々と切り裂いた。
制御を失い、『IDE-1 マキシマス』の巨大な艦体が小爆発を起こしながら恒星『サンクチュアリ』へと引かれるように、落ちていく。 -- ユニバーサル艦長
- --サンクチュアリ星系、第四惑星『メメント・モリ』近傍宙域--
四天王第三位『クリムゾン・コメット』の『アスラ・ヤカー』が破られたことで戦場の趨勢は決した。 すでに『星間ネットワーク連合軍』は残敵の掃討に入っており、潰走する『聖域の後継者』の艦隊は徐々にその数を減らしていく。
そこへ、ソウルマスター達に広域通信が入る。
「……聞こえますか?こちらは星間ネットワーク連合軍、第13独立機動艦隊旗艦、『カラドボルグ』、オペレーターのブラドベリ中尉です。」
「クリムゾン・コメット戦終盤、戦域より離脱し、恒星サンクチュアリへ向かう小型艦艇の反応をキャッチしました。 LC(ルーシェ)さんを拉致した第四位の艦であると目されますが、航跡をはっきりと残している為、罠であるとの見方もあります。
しかし現状、『聖域の後継者』の本拠地について他に手がかりはありません。 また事前の捜査からも、彼らが恒星付近に潜伏している可能性が濃厚と判断されています。
その為、本艦、『カラドボルグ』を筆頭とする第13独立機動艦隊が恒星サンクチュアリへ向かうこととなりました。 つきましては、ソウルマスター各位は『カラドボルグ』にて御同道願います。 ……あ、ちなみに補給と修理は『カラドボルグ』にて受けられます。費用はこちら持ちですのでご安心ください」 いつもの柔和な笑みで通信は終了した。 --
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- --サンクチュアリ星系、第四惑星『メメント・モリ』近傍宙域--
すでに『星間ネットワーク連合軍』と『聖域の後継者』との戦闘は開始されている。 戦域にはポッカリと穴の空いたようなところがあり、そこに一機のソウルユニットが待ち構えていた。 --
- 「ようこそ、ソウルマスター諸君。私は『聖域の後継者』四天王が三位、クリムゾン・コメット。」
灰と赤黒に塗られた20m級ソウルユニットが、手にしたライフルで、戦火に燃える宙域に光のラインを引く。
「私は戦力の逐次投入などという愚は犯さん。行け、ヤカー隊!」 クリムゾン・コメットの合図で、ステルスを解いた同じく20m級のソウルユニット、『ヤカー』が次々とプレイヤーたちへと襲いかかる!!
「まだだ。行け!ヴァジュラ!我が敵の尽くを焼き尽くすが良い!!」 クリムゾン・コメットの機体から無数の子機が射出される。それは先だってのレイドバトルで使われたイグニスの改良型であった。それが意味する所は即ち── 「ソウルマスターなど、完全なる強化人間となった私の敵ではないということ、証明してみせよう!」 -- クリムゾン・コメット
- 密集陣形を組み、各ソウルユニットへ躍りかかるヤカー隊。しかしマリオンの反撃に容易に足を止め、陣形は早くも乱され団子状態である。
それをメニィ・サンクスの放った弾幕が打ち据え、赤い凶弾と化したカケルとボル太が打ち砕く。 側面から展開する部隊もズワルト・マーヒトの速射の餌食となり、宇宙の藻屑と消えていく。 「ええい、やはり目覚めたてでは話にならんか。だが!」
前回のイグニスを上回る速度で飛び回り、光の矢を放つヴァジュラ。しかしそれも次々と、伽藍の投じた漆黒の刃に縫い留められ、爆散していく。 放った光の矢もまた、マスター達を止めるに至らない。
「チィッ、猪口才な!」 撃墜された子機からのフィードバックに仮面の奥の顔を歪め、ヴァジュラユニットのリンクをカットする。
「速いな、しかし動きが直線的過ぎる!」 仮面の男の乗機、『アスラ・ヤカー』がトリガを引くと、独特の射撃音とともに紫がかったビームが放たれる──だが。 「ぐ、忌々しい!今時、目眩ましとは……!」 「Q」の光が、強化によって先鋭化された視神経を酷く刺激した。おかげでマグナムの狙いは逸れ、肉薄するマリオンに掠りもしない。
「くっ、だが!」 視界を奪われつつも、下方より躍りかかるプリマベッラの斬撃をビームサーベルでどうにかいなす。 -- クリムゾン・コメット
- 「……っぐ、これでは道化だ。しかし、この場に於いてはそれを演じた意味もある。今だ!第四位!!」
──合図とともに1.5m級の小型ユニットが姿を表す。その位置は狙撃を続けるロストワンの背後。 ヴィータと呼ばれた第四位の四天王はコクピットハッチの緊急開放ハンドルを回し、ハッチをこじ開けた。
第四位がロストワンのソウルマスターを捕らえるのを確認すると『アスラ・ヤカー』の装甲が展開、或いはパージされる。 「──これで、この場の目的は果たされた。さあ、ダンスを再開するとしようか、ソウルマスター諸君!」 『アスラ・ヤカー』が赤黒いオーラを吐き出し、威圧するようにアイ・センサを発光させる。
そして再び、ビームマグナムをマリオンへ向け連射しながら、
プリマベッラにビームサーベルの柄尻で殴りつける。
更に、目障りな光を放つ「Q」へと肉薄、蹴りを浴びせかけ、
頭部の可変速ビーム砲をメニィ・サンクスへと速射。
腹部の拡散粒子加速砲を、伽藍、ズワルト・マーヒト、カケル達へとぶち撒けた! -- クリムゾン・コメット
- 「煩わしいが、しかし!」
脅威度の下がったマリオンから照準を外す。そこへスヴァローグの炸裂弾の掃射。 ミサイルの爆風をオーラで払い除けるが、それでも思いの外回避運動を制限され、被弾を許す。 「ぐぅッ、この程度で落ちる私ではない!」
「第四位!一機そちらへ行った!!」 蹴りの勢いに乗じて戦域を離れる「Q」を尻目に、眼前のソウルユニット達との交戦を続ける。
ズワルト・マーヒトによる拡散粒子砲の広域無効化、姿を転ずるメニィ・サンクス改めサンクス・ギビング、増える伽藍、 そして左腕の一撃を受け止め赤化するプリマベッラ。 「冗談ではない!」
吠えるクリムゾン・コメットに呼応し、魂のような何かが『アスラ・ヤカー』の機体に集まり、ドス黒いオーラとなって包み込んだ。 そして、その姿を何十倍もの大きさに見せる。 「私は……私は……!」
巨大化した機体はメキメキと音を立てるように内部フレームを露出させ、禍々しく歪んでいく。 しかしその直後、サンクス・ギビングとプリマベッラによる攻撃が前後から同時に到達。 異形へと転じようとしていた『アスラ・ヤカー』は上半身と下半身に断ち切られその動きを止めた。 -- クリムゾン・コメット
- 「ハハハハ……どうするつもりか、などと。問われ、素直に答える愚か者がどこに居る?」
広域通信に乗って、疲れ果てたような声が響く。 -- クリムゾン・コメット
- 「だが一つ、教えておこう。殺しはせん、さ……そのつもりならば、とうにそうしている」
ハハハ、と乾いた笑いが続き、 「我々は、諸君らが思っているよりもずっと前から、君達の側に居たのだよ。あの宣戦布告を聞いていた者もいるだろう、ソウルコアは我らの魂の器である、と」
頭部可変速ビーム砲にエネルギーが集中し始める。そして、グ・ギ・ギ、とぎこちなく天を仰ぐように首を巡らせ 「……まあ、あの宣言は、私にとっても想定外ではあったがな……」 次の瞬間、過剰な出力でビーム砲が放たれた。光は宇宙を焦がし、しかし何をも巻き込む事もなく長く長く伸び、一条のラインを引いていく。 -- クリムゾン・コメット
- サンクス・ギビングの事も無げな、しかし鋭い一閃が『アスラ・ヤカー』の頸部を寸断する。可変速ビーム砲からの光は途切れ、薄らぎ、消えた。
頭部は半分溶けかかってコクピットポッドと思しき球体が露出したまま、慣性で宇宙を漂う。 「ッ……死すら、許さんとは……クク、残忍極まりない、な」 くつくつと笑う声がノイズ混じりに聞こえた後、それきり通信が途絶えた。 死んでは居ないようだが、暫く会話は出来ないだろう。何か聞けるとすれば、全てが終わった後だ。 -- クリムゾン・コメット
- 「済まないが……まだ、ここで捕まる訳にはいかんのでな」
宇宙の闇に紛れそうな黒の小型ユニットは、追いすがるような動きを見せる「Q」へ向けて、 チャフ・スモーク混合グレネードを放ち、更に牽制のハンドバルカンを織り交ぜ、デコイバルーンを別方向へと流し……その上で光学ステルスを用いて姿を消す。 -- ヴィータ
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