名簿/498480?
- とある喫茶店にて Soro --
- その喫茶店は大通りから少し外れた用水路沿いにある。
店内よりもオープンテラスの方が広く面積を取っていて、テーブルの数も倍ほど多くなっている。 外の席には大傘も幾つか用意されているので、雨の日にも居座る事は可能ではあったが、そういうもの好きは少ないものだ。 雨の日と分かれば適当に休みを貰って、空いてる席の一つにでも座って、本をぼーっと読むのが私の日課になっていた。 ぼーっと読む、と言うのはほとんど頭に内容が入っていかないが、文字だけを目で追っている状態の事を言う。 その日は朝型から雨模様の天気で、店長も早々とお店を閉めて留守番を一言頼んでどこかへ出掛けて行ってしまった。 何だか心細い反面、羽を伸ばしていられる時間を与えられた事で心が軽くなったりもする。 学園は今、卒業の季節である。卒業間近の生徒たちが何人も爛々と希望の入り雑じる瞳を持ってお店にやってくるのには どうにも心がきゅ、っと絞られるような気分にさせられた。 それだけならいいが、もしも同級生だった人に会ってしまったらどうしようと、不安にもなるのだ。 その不安は、「私が私である」と言うなんでもない感覚がぽかりと穴あきになってしまっていることにも起因していた。 あの日、確かに私は分離した方のエルを自らの記憶の中に迎え入れた。 それはラジオが電波を受信するのと同じくらいに簡単な事だったのだが、電気を体内に流し込まれた様な刺激でもあった。 私は籠の中の鳥を放してやることで、それを身代わりに、研究施設の為にある道具を卒業したのだ。 後悔をしていないといえば嘘になる。しかしただ殺されるのを待つことは出来なかった。 私ではないエルが殺されたのも一つの結果である。それは「自由」への見せしめであると言ってもいいのだろう。 肌寒い小雨がそうさせるのか、読書をしながら陰鬱とした思考に陥っていると、ふと視界に黒いリボンが目に入る。 何時からそこにいたのか雨に濡れ、鳥篭を片手に立ちんぼになっている。 --
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