名簿/465014

  • 第22回

    声が聞こえる。私に向けて話しかける声
    この声を聞いているだけでとても安らかな気持ちになる

    リーシェが私を地上へ一緒に連れてきてくれたこと、迷惑でなんてあるはずない
    そう答えたいのにもう声がでない

    もう少し、せめて意識が無くなるまではリーシェの声を聞いていたいのに

    ・・・・・

    何も聞こえない。何の感触も感じない。大切な人の温度も感じられない
    ただ、意識だけが虚空に薄く広がっていくような感覚

    これが天使の死なのだろうか

    そんな薄れゆく私の心に、不思議な音が響いてくる
    それを聞いているだけで感情の起伏が少ない筈の私の心が大きく波立つ

    ……これは……泣き声……?

    胸が締めつけられるように痛くなる。胸が焼かれるように熱くなる
    (嫌……こんな声聞きたくない……止めて……)

    虚空に広がっていくかに思えた私の意識が、身を竦めるように小さく萎縮する
    (泣かないで……お願い……胸が引き裂かれるように、痛いの……)

    きっと身体がまともに機能していたのならば、涙が溢れて止まらなかっただろう
    暫しの間、胸を切りつけれられるような悲痛に曝されていたが、ふとそれが静まる

    痛みから解放された私は、自らが何かに包まれていることを感じとることができた
    暖かくて、優しくて、とても心地いい……
    姿を見ずとも、体温を感じずとも、声を聞かずとも私には解る
    私は今、リーシェの心に包まれている

    先ほどの泣き声は……リーシェのものだったのだろう
    それが私にとって辛かったのは、きっと……

    「あー……こほん。ルミエ、私はルミエが好きだ」

    ……何か、聞こえてきた

    「世界で一番愛してる」

    あぁ、そうか……私は今になって、ようやく理解できた気がする
    リーシェのことを大切だと思う気持ち。多分、これが愛という感情だったんだ

    さっきの胸の痛みは、大切な人……ううん。愛する人の悲しむ姿が辛かったから心が痛みを感じたのだろう
    そうか、こんな私にも……誰かを愛する心はあったんだ……

    (ねぇ、リーシェ。私も、私も世界で一番あなたのことを愛しています)

    「ずっと、ずっと一緒だよ」

    (私も)

    今までは、私の命を投げ出して、リーシェの為に何かが出来ればそれが一番の恩返しだと思っていた
    でもそれは違った。パティさんに言われたこと。あの時は解らなかったけど、今なら解る

    (一緒に居たい)

    私の浅はかな考えでリーシェを泣かせてしまったから
    どうしてもっと早く気づかなかったのだろう
    自分の心に気がついて、今まで堰き止められていた他人の気持ちが私の心に流れこんで来る

    (いつまでも一緒に……リーシェの傍で)

    このまま永遠に寄り添っていたい。そう思ったのも束の間、私を包む命の灯火がだんだんと弱くなっていく
    もしかして私を助ける為に、命を削って力を使っているんじゃ……

    ダメ……ダメよ……リーシェ……一緒に生きるんでしょう?私を置いて行かないで
    しかし、このままでは私は死んでしまうし、いずれにせよどちらかが欠けるのは必然
    でも結末は嫌。そんな運命は認めたくない

    運命に抗う力が欲しい。共に生きる道を選び取れる力が欲しいと強く願う
    思いに呼応するかのように、胸の中を熱い渦が渦巻き溢れてくる。今までに感じたことのない大きな力

    それが何かは解らないけど……これなら
    私を助けようとしてくれているリーシェを助けられる
    二人で一緒に未来を生きる為に

    少しだけ回復してきた身体に力を入れ、ゆっくりと動かして

    「ルミ……ッんむぅ!?」

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    突然の出来事に目を白黒させるリーシェ
    舌と舌が絡みあう水音が静寂に小さく響く

    今二人は世界で一番近い距離に居て、融け合うように混ざり合うように熱を共有している

    (あわわわ……なんだこの状況なんだこの状況……!あれ……ルミエから熱い何かが流れこんでくる……?)

    触れ合った唇から大きな力が流れこんでくる。いつかどこかで感じたことのあるような、懐かしさすら感じる力
    解らないことだらけだけど、その中ではっきりと解ることは、今二人の気持ちは通じ合っているということ
    そして、これからも共に生きていけるということ

    長い口付けのあと、唇と唇をそっと離す

    お互いしばし顔を確かめ合ってから、誓い合うように言葉を紡ぐ

    「なぁ、ルミエ。いつまでも一緒に居ような。これからもずっと……ずっと」
    「うん……この手を離さないで。私もリーシェのことを離したくない。約束……一番大切な約束」

    お互いがお互いだけをを映し出している瞳からは、後から後から涙が零れ落ちていた

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Last-modified: 2012-02-21 Tue 22:59:40 JST (3876d)