EV/0011
- 環境が人を変えることがあると言うがそれは嘘だと和紗は思っている。
それはたった11年間しか生きていないが、しかし11年間生きていた間ずっと感じていたことだ。 剣道場でも、自分は試合や教導の時間以外、他の人と話すことなどしてこなかった。 世間話が得意ではなかった。 趣味の会う友人などいたことがない。 友達もいないわけではなかったが、その友情を確認したことなどない。 この異様な事象に巻き込まれてから、その思いは強まっていた。 目を覚ませば突然連れてこられたとしか思えない謎の洋館に、見も知らぬモノたちと閉じ込められている。 動揺したし、恐怖もある。 しかし、同じ境遇の人たち相手にも、能動的に声をかけて回ることなど人見知りの上に吃りがちな自分では中々出来なかったのだ。 こんなに心細く、こんなに不安で、こんなに怖いのに。 それでも和紗は、自ら動けぬためにここでも孤独なままだった。 だから、環境に人は変えられない。 薄暗がりで人目を避けながらうずくまり、お気に入りのハンドクリームを少しだけ出してその香りを嗅ぐ。 ちょうど最近買い換えたばかりだからたっぷりと残ってはいるが、それでも使いすぎればいつ解放されるのか、そもそも解放されることなどあり得るのかわからない。 現状では温存するのが得策だと言うのはわかっていた。 それでも、少しでも震え、恐怖に泡立つ肌を落ち着けるには普段嗅ぎなれたこの甘い香りが必要だった。 すぅ、はぁ、と何度か塗り広げたミルクの香りを吸い込んでから、和紗は周囲を見る。 部屋の隅。 身を隠すには持って来いの場所に収まりながら、今は心の支えである竹刀をぎゅっと抱え込む。 その時、視界の隅で何か蠢いた…様な気がした。 全身が、総毛立った。 ここには自分しかいないはずで、しかし近くの部屋に同じ境遇の人達がいるはずだ。 しかしそうか、とも思う。 ここには孤立した人間がいて、そして…もし、何かが狙うとすればそんなヤツをターゲットとするのは利に叶っている。 金魚すくいで、一匹だけ集団から外れた金魚を狙いたくなる気持ちに似ている。 無差別に狙うのであれば、そして一匹でも、なんでもいいから掬いたいときには群れにポイを突っ込むのがいい。 しかし、これだと決めうちして…そいつだけを狙うのであれば。 孤立した存在が、一番狙いやすいだろう。 そんなことを考えながら和紗は…少しだけ、嬉しくなってしまったことにゾッとした。 不明の存在…いるかどうかもわからない存在だが…それが、自分の近くにいて…自分に対してどのようなものかわからないがアプローチをかけてきている。 長らく他人から手を差し伸べられてこなかった和紗は、例え怪異であろうともそんな…誰かが自分を選んでくれたかもしれないと思ってしまったことに、恐怖していた。 気持ちを整えるために、再びハンドクリームを塗り広げた手のひらを口元に近付け…そのまま、和紗は突然その命を失った。 音も、痛みも、苦しみもなく、本当に突然…しかし、確実に。 篠原和紗という命はここで終わりを訃げたのだ。 --
- うぅ…どうしてこんなことに…… -- 和紗
- 他に言う場所もないので…ここを使いますが…!
とりあえずもう少し(任意期間終了まで)まってから…化けてでますね…! -- 和紗
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