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  • LOG R1-3(Provisional) Replay
    • ──おかしい。前二回の遭遇戦と今回は明らかに異なっているが、その理由、意図が分からない。
      前回まではこちらの動きをきちんと見て反応してこそいるが、回避や防御、攻撃、全ての場合において決まったモーションを全く同じ速度で繰り返していた。
      マシナリーを想定したシミュレーションだとしてもあまりにお粗末。
      しかし今目の前の相手はその兆候が全く見られない。攻撃すれば慌てて避け、もしもしと言わんばかりの振りかぶりと共に攻撃を仕掛けてくる。
      こんな素人のような《CS》、居るはずがない。
      つまり私が当初利用しようとしていた仮想訓練システムではないと結論付けられるが、とすればこのような仮想空間を誰が作ったのか。
      《文化芸術保全委員会》が地球時代の東京近辺を再現した?……否、とてもそのようには思えない。
      著名なランドマークはほぼ正しい位置に再現されているものの、店舗等は架空の物であり、資料価値としては非常に薄い。
      あるいは東京の再現が目的ではなく、東京を舞台にしたゲームの再現?だとするとキャラクターの行動そのものは理解出来る。
      しかし、いかにもゲーム然とした動きのキャラクターと生身のような動きのキャラクターを両方用意する必要があるのだろうか?
      ……生身。今、相対している者の中身が生身の人間であるならばその疑問は解消されるが、今度は別の疑問が生じる。
      いくらこの『ゲーム』が《文化芸術保全委員会》の管轄下にあるデータ領域であるとは言え、民間人と推定される者が《ユグドラシル》の仮想空間にアクセスできるのだろうか。
      よしんばアクセスを許可されているのだとして、ハッキングによってログアウト等が出来ない現状は《アスガルド》全体の危機なのでは?
      ……そして話は変わるが、こうした仮想現実に於いてしばしばリアル過ぎる体験をした人間は時として本当に死んでしまう事があると聞く。加減を、考えなければなるまい。

      ……等と余計な事を考えていたら被弾、装甲が全損した。私の頭上に脱衣KOと派手派手しく表示されている。この仕様も大概な気がする。
      《CS》になった時から《アスガルド》の戦乙女として地球奪還に身を尽くすと誓った身ではあるが、こうして不意に肌を晒す事態に陥ると──羞恥というものがどう身体に作用するかを思い出す事になった。
  • LOG R3-3(Provisional) Replay
    • 3、という数字は恐らくこのゲーム(・・・)の中の自分にとっては凶数なのかもしれない。
      3週目の3試合目、その上相手は3人の蛮族(バーバリアン)を召喚する。
      この蛮族、いかにもHELL WARな外見をしていながら両手に持ったマシンガンを絶え間なく乱射してくる。その上倒しても概算50%程の確率で5秒後には復活するのだ。
      まじふざけんなよ……
      合計6つの銃口がこちらを狙って常時火を吹いている中、本体はと言えば高みの見物である。これが上位ランカー……バランスがどうかしていると言わざるを得ない。

      結局、幾度も蛮族を全滅させたが驚異のガン逃げで引き撃ちされ、こちらのシールドが切れ脱衣KO。二度と相手をしたくない。
  • LOG R3-4(Provisional) Replay
    • またお前か。
      相手にするのも面倒になり、即サレ(即刻サレンダーの略)。同時に装備が吹き飛ぶ。
      そろそろこのふざけた世界にも付き合い切れなくなって来たが、《ユグドラシル》は、《アスガルド》はどうなっているのか……
      あるいは既に、ボディは《アスガルド》ごと失われ、残された模倣精神体が幽鬼の如く彷徨っているだけなのだろうか。
  • LOG R3-5(Provisional) Replay
    • 即サ
      3連続ともなると偶然とは思えない……一度勝ちを譲った所為で楽に稼げるカモと思われているのか。
      ……まあ、カピバラとやらに私の望みを叶えられるとは思えないし、賞金等も不要だ。いっそ、開放されるまでのらりくらりと躱し続けるのもありかもしれない。

      開放されるならば、だが。
  • LOG R3-7(Provisional) Replay
    • よくよく考えてみれば、機体や武装の性能に制限の掛けられた状況での戦いなど珍しいものではない。私は、この異常な状況下に置かれた事で視野狭窄を起こしていたのだろう。
      環境、状況、その場にある物全てを十全に利用し尽くして初めて全力を出したと言える。その意味で私はまだスタート地点に立ってすら居ないのだ。
      そしてなによりも、あの引き撃ち蛮族バニーに負けたまま終わるなど、自分で自分を許せそうにない。
      ──折よく、最終戦の相手はまたしても件の"引き蛮"。今度こそ、私は勝つ。勝って……終わった後の事はその時考えればいい。

      蛮族共は3人で分厚い弾幕を形成している……と見せかけて巧みにそれぞれのリロードタイムをカバーしあっている。
      しかしそこは蛮族。リロード中に身を隠すような事はしないし、射線が通らない状況になるとのそのそと索敵を始める。複雑な思考は皆無だ。
      故に私は、一人がリロードを始めたタイミングで残り二人から死角になるポジションを保ちながら肉薄する。そうして一人を倒すと同じ手順で二人目を倒す。
      最後の一人を斬り伏せる頃には一人目が復活したりしなかったり、あるいは本体が物陰でリキャスト。前回はそうして増えた蛮族を処理するのに手間取り延々それを繰り返す羽目になったが、今回は違う。
      三人目の消滅前にその手からサブマシンガンを奪うと、再び現れた蛮族の眉間を即座に撃ち抜いた。
      ──上手く行って少し安堵を覚える。実は前日、相手の武器を奪ってとどめを刺すプレイヤーを見かけた。召喚された蛮族にも適用可能かどうかは正直賭けだったが、こうして上手く行ったという事は、賭けに勝ったという事だ。
      旗色悪しと見た本体が直ちに逃走に入るが、逃がす訳がない。私は、その遠ざかる背目掛けてありったけの弾を撃ち込んだ。
      脱衣KOの文字と勝利アナウンス、華々しい音楽の流れる中、私の視界は突然ホワイトアウトした──
  • LOG 02/11 2XXX
    • ──次の瞬間、私は《ユグドラシル》内に展開された訓練用仮想空間に立っていた。
      時間は私があの異様なゲームに取り込まれる以前、シチュエーションを設定し、訓練開始のボタンをタッチした瞬間から僅かに数秒後。
      設定通りにポップした《アルコーン》侵食体が襲いかかってくる。
      私は、致命の一撃を狙う侵食体の爪を難なく躱し、次々に反撃を見舞い、早々と訓練メニューを消化した。
      身体は軽く、視界はくっきりとしている。先程まで掛かっていた制限らしき物は一切無くなっている。その後の仮想空間の終了処理もきちんと完了し、私は元の機体に、《アスガルド》に戻る事が出来たようだった。
      ……その後《ユグドラシル》のログを照会したが、私が割り当て領域以外に接続された形跡もなければ、シミュレーションの記録データにも異常な動作は確認されなかった。

      単なる白昼夢ならば良かったが、私の中に確かに記録されている3週間分の戦闘ログの説明が付かない。
      指揮官への報告と相談、必要であればカウンセリング、あるいはオーバーホール……
      いっそ、無かった事にしてしまいたいが、《ユグドラシル》にも波及する恐れがある以上、そうも行くまい。憂鬱だ。

      〜END〜

Last-modified: 2023-02-11 Sat 23:17:36 JST (401d)