MI/0016

  • 1日目 三白市市民、異世界に召喚される。
    •  王国の城の地下に作られた儀式場。
      私の目の前の魔法陣から強い光が立ち上る。異世界への召喚魔法が放つ光だ。
      宮廷魔術師達と我々ホムンクルスが見守る中、都度3回目となる最後の勇者召喚の試みは成功したようだ。


       ──王国に魔王が現れてから数年が経過した。魔王により生み出された大量の魔物に苦慮した王国首脳陣は百人の勇者召喚を実行する事となった。
      かつて、異世界より召喚された勇者が魔王を撃退したという記録があったためである。
      魔王出現時より検討され続け、魔王直属の配下により王国の騎士団の精鋭が壊滅した頃から本格的に検討・準備が行われていた百の勇者召喚は──
      予定人数の約半分の召喚に終わったが、上位の魔剣に選ばれた勇者の召喚が複数人叶った事から概ね成功とされた。
      一方、『マスコット』として作り出された私の目の前にいる、3度目の召喚で呼ばれた数人の勇者達はいわゆる「外れ」だ。
      召喚時に混乱・錯乱しているうちに眠りの魔術をかけ適正を測る─召喚時に多くの加護を得た上位の勇者には通じない手段である─手法で「外れ」とみなされた彼らの内──


      「お前の担当はこの勇者だ。指定の位置につき務めを果たせ。」

       宮廷魔術師の指示により黒髪の少年。100番聖剣により召喚された彼の担当とされ、王国の城下の召喚場を後にする。
      この時から私は「シエン」と名付けられ勇者を魔王討伐へと導く存在になった。
      •  指定地点は王都から遠く離れた荒野だった。最寄り街は遠くに見える範囲にあるが、魔物の徘徊する圏内だ。
        私はここで待機して、先ほど担当となった勇者を待つ。
        具体的には荒野に剣と服だけで投げ出された勇者が私を見つけるのを待っている。
        私の方からは、魔術で担当の勇者の位置を探る事ができるが勇者側がそうとは限らない。

        勇者は召喚に際して様々な異能を与えられてこの世界に降り立つ。なればこそ勇者召喚が行われるのである。
        しかし、私の担当は木っ端と判定された勇者であり直感や第六感、習ってもいないのに魔術が使えるなどの偶然は期待できないだろう。

        つまり、勇者と出会うよりも先に魔物に襲われる可能性がある。
        その場合、マスコットは勇者の導き手ではなくもう一つの役割…即ち【無残な死体となって勇者に戦意を植え付ける】事に変わるだろう。
        抵抗はできない。マスコットは補助や支援の魔術に優れる代わりに戦闘に使える魔術を持てない様に都合よく調整されているからだ。

        私はそれでも構わなかったのだが…首輪と魔術探知に反応あり。

        こちらを見つけて迫りくる魔物と勇者。別方向で都合がよかった。早速、大きく息を吸い……
        「助け─────」
        『助けてくれーーーー!!』
        私が上げようとしていた助けを求める悲鳴を塗り潰す大声が鳴り響いた。

        ……???

      •  私は今、勇者に抱えられて魔物から逃げている最中である。
        最初手を引かれてから引っ張り上げられて横抱きにされているのだ。
        何重の意味でも茫然としていたがようやく勇者に語り掛ける。

        「何故逃げているのですか!?」
        『えっ怪異とか怖くない!?』

         怪異。耳慣れない言葉だが魔物の事を指しているのはすぐわかった。魔物がいない世界からの召喚者もいるらしいが今回は違ったようだ。
        抱えられたまま後方に視線をやると下級の小人型の魔物。ゴブリンだろう。
        走りながら喋るのに苦は無さそうな所からすると体力はありそうだ。話を続ける。

        「ゴブリンですが…勇者様なら倒せませんか?」
        『ゴブリン。ゴブリンときましたか〜俺戦った事無いよ!?』

         さらに走り続ける。ゴブリン達との差が縮まりつつある…そこで思い出した。
        この勇者、戦う以前に魔剣を持っていない。放置された場所の近くに置いてあるはずなのだが

        「……あの、剣はどうしましたか? 近くにありませんでしたか?」
        『いや、落ちてたものを勝手に拾ったらいけないよね?』
        「ハァ!?」
        『今うさぎみたいな声した!』

         こいつ…
         こいつ…!
        とりあえず仕事をする。つまり勇者へと体力回復の魔術を使っての逃走支援だ

        「逃げるなら町は…あちらです。あちらにいけば逃げきれます!」
        『なんか息が楽になってきた…いける!』

         遠くに見える壁に囲まれた市街の門の方を指さすと逃げ足だけは速いのか、勇者は方向転換すると一気に加速した。
        私を横抱きにしたまま町の門をめがけて走り続けている。
        ゴブリンは…あちらには疲労が見える。
        このまま逃げ切れるだろう。

         ゴブリンから足で逃げきる勇者。期待できるのか出来ないのかわからない。
        生き残っただけマシだと考える事にした。
  • 辿り着いた街の門にて
    • 街の門から門番がこちらを見つけると市の壁上からゴブリンに向かって弓が降り注いでいく。
      それを機にゴブリン達は追撃を諦め、勇者は無事に街の門に駆け込んだ。

       私をゆっくり地面に降ろした後ぜえはあと息を吐いている勇者を街の衛兵達が褒めそやしている。
      ちなみに街にモンスターを連れてきたら怒られるどころか、下手をすると刑罰が発生するのだが今回は私を助けてきたという事情と…後は単に、この町はまだ余裕があり住民がまともでいられているのだと思う。

      「で、どこの街の誰だいお前さんは。それにその女の子は?」
      『いや、さっぱりわからないんだけど…その子も…』

       勇者が事情を聴かれて窮している所に私が割って入った。懐から出した円盤型の紋章を掲げる…王都が勇者に発行した身分証のようなものだ。

      「このお方は、王都で召喚された勇者様です。証拠は此処に。」

      『「「「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーー!!」」」』

      私の勇者はどうにも理解が遅い。と溜息を吐きながら事情の説明をする事にした。
      • 自己紹介をし、勇者として召喚されたことの説明を終え(非常に大変でした。)
        街を案内するたびに寄声を挙げる勇者様にも苦労した。意味不明な事ばかり言い出しますし。

        例えばギルドでは…
        『うわぁ冒険者ギルドだ…テンプレだわ…』
        『ランク制度まであるよ… え? 勇者だから高ランクから登録できる? 一番下からでお願いします。』
        『ここで増長したり因縁をつけてきた冒険者を返り討ちにしたりするとかませ勇者フラグが立つから早く帰りたいんだけど?』

        ギルドから紹介してもらった宿屋では…

        『ステータスオープン!!! でねぇ。』
        『ねぇチートスキルないのシエン。』

        チートスキル?が何かの説明から始めて頂きたいのですが。現在は、宿泊している宿屋の1室で重要な事を告げていた。

        「勇者様。私の持つ路銀は一月も持ちません。」
        『世知辛くない? バイトしないとだめか…年下に養われるのもなんとなくつらいし…』
        「バイト…はわかりませんが魔物を討伐して報酬を得るのがよろしいかと。」
        『平和的に稼ぎたいなあ…チートないし…』
        「勇者様は召喚された際に何か特異な能力を得たりしませんでしたか…?」

         勇者召喚を行った宮廷魔術師達に「外れ」と判定された以上期待はできないが聞いてみる。

        『ないない…けど最初からシエンと喋れてるのは能力?』
        「…翻訳の加護ですね。こちらがかけたもので死ぬ前で永続するでしょう。そうなると後は勇者様に与えられるという存在力の加護でしょうか。」
        『よかった…異世界言語習得から始まる転移じゃなくて本当によかった…存在力って何?』
        「モンスターを退治する事で、勇者様の能力が上がります。伸びしろは個人で異なるようですが。」

         「存在力」についてはややこしくなるので流した。目下研究中であり定義付けが終わってないようですし。
         この「存在力を上昇させる」能力が異世界から召喚される勇者の基本能力であり、わざわざ異世界から召喚した勇者に頼る理由でもある。この能力は遺伝するものの、世代を重ねる毎に発現率が下がるというのが昔の勇者召喚から今までの研究結果らしい。

        『なるほどレベルアップ。でもステータスないんだよなぁ…あれば伸びしろまで分かるのになぁ…。』
        「ステータス…状態? よくわかりませんが…モンスターを倒せば強くなるのは事実ですので。」
        『倒せと。いやあ人生において怪異と戦うとかそういうルートは想定してないからド素人なんだけど?』
        「戦闘経験はありませんか…それでも剣は手元にあった方がいいと思います。」
        『じゃあ今から取りに行こうか。』
        「いえ、呼んでください。勇者様が呼べばその手の内に戻りますので。」
        『なにそれかっこいい。マジで? いまいち勇者とか実感がないけどマジで来たら実感でるかも……来い!』

         制止する間もなく勇者は早速手を掲げて叫び……

        『あっ』
        「あっ」

         宿屋の壁が破壊される音と共に勇者の手に剣が飛来したのであった。
  • 宿屋破壊から始まる勇者生活
    • 宿屋の主に事情を説明すると苦情は来たものの、別の部屋に泊まって滞在中に修理代を返してくれれば良いと言われました。
      これは国家公認の勇者であるという背景があるのもそうだが、勇者自身が弁償するからと謝罪した事が大きいだろう。
      大抵の場合、召喚される高位の勇者は貴族と行動する故に自然と居丈高になるのだが…私の担当勇者は妙に腰が低かった。


      『戦わないでいいバイトない?』
      「いいからギルドにいきましょう勇者様」

      異世界から召喚された勇者が強い力を持たず、なおかつ平民である場合は戦闘に参加させるまでが大変なのだが
      私の担当勇者はどうも平民ではあるもののモンスターが居た世界の出身であるらしく訓練を受け、実際に戦うまではスムーズであった。
      冒険者の援護を受け、初めて魔物を倒す際には一切の無表情の後に勢い余って転ぶレベルで全力で剣を振っていましたが…アレはなんだったのでしょうか?


       しかし、倒してしまえば存在力の吸収により勇者の成長速度は圧倒的である。
      1週間もすれば(その間ほぼ毎日戦闘に出ていた)戦闘に慣れ、街の周辺の魔物なら余裕を持って倒せる程度になっていました。


      『なんか怪異…モンスター多いし倒しても倒しても減らないしどうなってるのこの世界』
      「ご説明しましょうか?」
      『むしろなんで今まで説明なしだったの。チュートリアルスキップしない派なんですけど?』
      「初日に話すべきでしたが…召喚と魔術の説明だけで終わりましたし。宿屋を破壊して以来は魔物退治に専念して規則正しく寝ていらっしゃったからですね。」
      『アッハイ。じゃあ説明お願いします…わかりやすく…』
      「では、箇条書きで示します。」

      ・魔王は存在する限り魔物を無数に呼び出せる。強力な一部の個体を除き消耗も無いと推測されている。
      ・魔王と第1線で戦うはずだった騎士団は精鋭が壊滅し、規模が縮小していて最前線の街と王都の守りしか出来ていない。
      ・そのために、魔王をピンポイントで倒すために勇者を召喚した。勇者召喚には前例があり、今回が初めてではない。

      『今聞かれた点だけだと勇者が完全に暗殺者じゃない?』
      「集団としての戦いでは劣勢なので妥当な例えかと思いますが、勇者様以外が言うと不敬罪に問われますのでご注意下さい。」
      『ゆうしゃさまですけどー』
      「勇者様は下位の勇者様なのでご注意下さい。」
      『わかりやすいけど悲しい話を聞いたッ!』

      さらなる説明を求められたので開示できる部分のみ説明する。
      ・勇者の剣にそれぞれ格があり、上位から下位まで合計100本ある。
      ・勇者の剣は勇者を選び、その順位に従い上位から下位への格付けが行われる。

      『ちなみに俺の剣はどのくらいかなぁ!? 下位っていっても70くらいかなぁ!?』
      「100位です。」
      『ビリかあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!』

       がっくりとした様子だが…表情はそれほど暗くないのであまり気にしてなさそうに感じます。大げさな反応が趣味なのでしょうか。

      「あまり気にされていないようですが。」
      『いや、十分役に立つし勝手に戻ってくるのが気に入ってるからいいかなって。』
      「前向きでよろしいと思います。そろそろ魔物探索依頼の開始時間が近づいてきましたよ。」
      『おおっといけない。今日も食い扶持を稼がないと死んでしまう。行こう。』

       勇者を戦わせるのには難儀する場合もあると聞いていたが、私の担当勇者は前向きで何よりである。
      支援の手間も多いがこれしかやる事がないので仕方ない。私も依頼に同行するための準備を開始した。

       街の周囲にいる魔物を倒し続ける日々が続く。
      いつか、魔王討伐のためにこの街から出発する日が来るのだろうか。

Last-modified: 2021-10-01 Fri 20:07:05 JST (23d)