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「アタシも温くなったもんだね。狼如きに遅れを取るなんてさ……」 いいからもう喋るな。 生き残りの冒険者が、彼女を運びだそうとしている。 討伐は成功したのだ。二人の犠牲者を出して。 「いいじゃないか、喋ったって。アタシのこの傷痕は伊達じゃないよ。 もう死ぬってさ、分かるんだよ。これだけ怪我して初めてだよ、こんなのは」 彼女を運ぶ冒険者は、黙々と歩みを続ける。 街からは一日と離れていない。だからどうしたという話だ。 もう助かるはずなどないのだ。 「……こっちに流れ着いて一年半、随分楽しく暮らしたもんだよ。 あんなに穏やかな気持ちになったのは何年ぶりかね……。 少なくとも山賊やってた頃にはなかった。何人も手にかけて、賞金かかって、命狙われて……。 そんな奴が、のうのうと、幸せな顔して……続くわけ、なかったんだよ」 元山賊。賞金首。生き残りの4人の視線が集まる。 「おっと。悪いが、アンタらに首をくれてやるわけにはいかないね……。 ……陸で死んじゃあ、有翼人の矜持が泣くってもんさ」 見上げれば、木々の切れ目に空が見える。 今日は快晴。初夏の気配漂う青空は澄み切り、限りなく高い。 「死ぬなら空で。……さよならだ」 最後の言葉は、その場の者達に向けられたものではあるまい。 鷲の翼が、力強く空を叩く。最後の力を振り絞り、鷲は宙へ舞った。 どこまでも高く。遠く。 気高き鷲人が、無様に墜落死などするものか。 息絶えて尚羽搏きを止めず、空に在り続ける。 彼女は、空で死んだのだ。
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