島の村家出身 案山子 343026 †
案山子が佇んでいる
案山子日記 †
やっとしずかになったよ
24 †
ただ遠くを見た。ただ虚空を見た
今はただ時が経つのを待って、いずれが訪れるのか
そればかりを求めている
何が何にどうするのだろう
僕はただここにあり続ける
23 †
猫は何を探して彷徨うのか
猫は何を求めて話しかけるのか
僕はあの猫を嫌ってなどはいないけれど
何を考えているのかはよく分からない
なぜなら僕は案山子だから
ただ佇む案山子だから
只管に時の過ぎ行くを待つことしか、今は出来ない
22 †
日を浴びて、雨を浴びる
温もりは底冷えに転じ、僕の体を芯までぬらした
太陽の香りを吸った体は雨の匂いもえて
多分奇妙な匂いがしていたに違いない、と思う
僕には確認できない事柄だから、分からないけれども
21 †
明けぬ夜はない……のだろうか
今日はあの猫もなんだか饒舌で色々喋ってくれた
何を言っているのかは分からなかったけれど
久しぶりに賑やかで
ちょっとした懐かしさを感じなかったわけじゃない
20 †
赤い空、赤の世界、赤の夢、赤の赤
彼は何を思い何を願い、そして、どこへ行こうとしたのだろう
僕はただ、それを眺めているだけだ
完結した世界の完結。いずれは来る終わりのとき
近い事は、僕も感じている
その訪れが果たしていつになるのか、それはとんと分からないけれど
19 †
ここのところ、彼の奇行が加速してきた気がする
幽霊なのだから推し量れないところがあるのは良いとしても
一体何を考え、何をしようとしているのか
そこからは汲み取り難いものすらある
まず確実に、彼に関わる何かだとは思うのだけれども
18 †
今はただ、風が行く。重たい風が、吹き抜ける
生臭さは固まりになって、僕を殴って過ぎてゆく
ああ、ただ時は過ぎ行くばかり
僕はただ、ここにいるだけ
17 †
交わる物も事も失せて、ただ静かな時間が過ぎていく
いい時間だ。鳥すらも近寄ってこないから作物が無事に育つ
僕の仕事の成果かどうか、それは妖しいところだけれど
このまま静寂に収斂していくのだとしたら
それもあるいは、悪くないことだと思った
16 †
風ばかりは凪ぐことなく、せわしなく島中を駆け巡っている
体から抜け出た命をすすり上げ、血の匂いを飲み込もうとするかのように
彼は後どれだけそれを望むというのだろうか
今はもう、静寂が横たわるばかりだというのに
未だ風は止まない。渦を巻いて、延々と、延々と
僕はただ、風に揺らされている
15 †
半月が経過した。もう、誰も見かけない
ただ唯一あの、猫のような幽霊のような何かだけは、僕のまわりっをうろついている
昨日は何を言っているか分かったけれど、今日は分からなかった
何をしたかったんだろう。謎は深まるばかりである
そして世界は今も完結したまま
もはや、開かれることはないのかな
14 †
昔とかわった事といえば、幽霊が出るようになった
それからこれ2まで姿を見たことのない人も、ちらほらいる気がする
あとはもう、時を過ごすばかりの空間
いずれ僕たちの誰かだけが立っているようにきっとなるのだ
孤立の王国
あとは、時が来るのをまつだけだ
13 †
静寂
島は、もう以前の状態に帰ったと言って良いと思う
青い空、白い雲、降り注ぐ日差しに、植物は育っていく
ただ風だけは重みを増して、圧し掛かってくるけれど
それもいずれは、消えてしまうのだろうか
12 †
行けるものの死に絶え行けば、ここは空気の底
賑わいは刹那のことに過ぎず、それもまた過去においてきてしまった
全てはただ一時の夢、いつ覚めるとも知れぬ幻
僕は変わらずここに佇んでいる、静かなる時間
いつ僕が、絶えるものだろうかとお考えながら
11 †
島は静かにもとの静寂へ帰ろうとしている
しかも今度は微かな音すらも捨てて、ただ、自然に帰ろうとしている
僕もまたいずれ自然へ帰っていくことになるだろう
どれくらいかの後に、物好き誰かがやってこない限り
そして僕がいつその一員になるのか
遅くとも早くとも、変わりのないことではあるのだけれど
10 †
沈黙していく世界
物言う彼らもいずれは喉を失い
笛はむなしく風を通すばかり
意思なくしてはただ在るばかりに過ぎず
意思あろうともその可能性は否定できない
生命の活動は確かにあり
だけれどもそれを照明することは叶わぬ
それでも世界は回っている
完結していようともそれは限られた範囲のことかもしれない
あるいは、既に入り込んでいたのかもしれない
何が彼に降りかかったんだろうか
狂気に囚われて死んでいった彼は
ああ、それは狂気だったのかな?
もしかしたら正気を取り戻したのかもしれない
やっとあの猫がなんていったのか分かったけれど
やっぱり僕にはそれほど関係の無いことだったように思う
僕の知っている赤は、夕焼けの赤。それと、血の赤
他に赤いものなんてあっただろうか
時折通るひとが、その色と似ている色の服を着ていたりするけれど
僕にとっての赤は今の2つくらいなんだ
いや、そういえば時々そういう虫も見かけなくはない
色鮮やかなる自然の神秘
今日もまた、空気が淀んでいた気がした
再び空気のよどみが増したような気がする
風の重みは肩にのしかかるほどになって、「安定」はいまや遠い
幽霊は相変わらず語りかけてくるけれど要領をえず
あの子はベンチに腰掛けて笑うだけ
館にいる人たちは何をしているんだろう
僕には知る由もないことだけれど
ここは空の青の餌場にはならない
全て、完結した風が巻き上げていく
今日は、これと言った変化はないようだった
ここの所連続していた、風の重量化は見送られたらしく
同じ重さを維持している
あの子が、今日は話しかけてきてくれた、それから幽霊も
どちらも何を言っているのかさっぱり分からなかったけれど
僕に話しかけてくるなんて、感受性が豊かなのか
或いはちょっぴり能天気なのか
もしかしたら、自分を慰めるために相手が必要だったのかもしれない
今日は、そよ風だった
霊の存在
一時は賑やかになった島も、空気が重くなるにつれてまた静かになってきた
あの子は変わらず僕の前に姿を見せるけれど、廃屋暮らし……
言葉も分からない彼女は、いつまでそうしているのだろう
どこかで、なにかの気配がする
この世のものではない存在、これまでにも見かけないことも無かった
完結した世界……霊も、逃れることはかなわないのかな
今日も、必ずしも平和だったとはいえないだろう
相変わらずあちこちから普段に無い匂いが漂ってくるし
完結した風はすっかり重くなってしまっている
僕の周りでは一人通り過ぎて言ったくらいで変化はないけど
遠く伝わってくるものは様々なことを教えてくれた
異形の存在、異形の存在……その他諸々
まさかこの島の変化が、こういうことになるとは思わなかったな
血の匂いが漂っている
死の匂いが香ってくる
島のあちこちから立ち上って、完結した風が満遍なくいきわたらせていた
今日は、僕に話しかける子がいた。昔はそういうこともたまにあったけど、最近は滅多に無い
だからひさしぶりで、ちょっと嬉しかった用に思う。眠る支えにもしてくれた
それに夜になってからは、僕から服を取っていった子が返しに来てくれたけえ
もう誰も住んでいない家に住み付くつもりらしいけど、ちょっと不安そうなのが、その嬉しさを曇らせてしまう
さらに死体を引き摺っっている子が来て、その家の見えないところに行って、それから出てきたし
ああ、完結した世界は完結していくなあと思った
また空気が変わった気がする
全てがこの島で完結して、おしまいになってしまったような感じ
今日も昨日の子が現れた、僕の服を持っていった子
なんだか少しつらそうに見えた、畑を掘り返してたからお腹がすいていたんだろう
それから引っこ抜かれて持ち運ばれたりもしたっけ
なんだか、風の匂いが変わった
今日はこの土地に変化が齎された
風に乗って、嗅いだことのない匂いが幾つか僕に届いている
長いこと着ていた服も裸の子が持っていって
少し開放的な格好になってしまった
前から住んでいる人たちも新しい人たちに気づいたみたいで、ちょっと賑やか
これからどんな風になっていくのかな
日差しだけは、これまでと同じく降り注いでいた
ありがとう