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身長:178 体重:52 髪の色;黒 目の色:ハシバミ 肌の色:白 好みのタイプ:可愛い子全般 胸:美乳 「ダート。ダート、ちょっと」 「どうしたの、母さん。なにかあった?」 「ちょっと座りなさい」 「うん。いいけど」 「あんたが二十歳を過ぎて一年が過ぎました」 「うん」 「そろそろ母の我慢も限界ですのでちょっと旅にでも出てきなさい」 「え」 二十歳を過ぎたので結婚相手でも探して来い、と実家の旅籠を放り出された女。 とりあえず冒険者でもして、ほとぼりが冷めるのを待つ心積もりらしい。
初めて生み出されたとき、それは旅客機の体を持つ、ただの人工知能だった。 飛行機を飛ばし、目的地に下ろす。 人工知能と言うには、あまりにも幼稚ですらあったかもしれない。 名を持たないそれは、ただ、機体番号でのみ呼ばれていた。JAS15586と。 戦争が始まった。切欠は単純で、資源の取り合いが発展し、領土問題に繋がり、一つの国が痺れを切らして先制した。 それを待っていたかのように、攻撃を受けた国は即応で反撃した。 仕掛けた側は、最初の一撃で相手を沈黙させるべきだったのだ。 泥沼の戦争が始まった。 人を戦争に引きずり出すのは徴兵である。 では、人工知能であればどうだろうか。 彼ら、あるいは彼女らにはまだ意思といえるものが根付いているとは言い切れなかったことを考えれば、供出とでもいえばいいのかもしれない。 ただ、それでは主体は人になる。だから、あえて徴兵と、ここでは呼ぼうと思う。 JAS15586も、例に漏れずその体を変えた。 機体を複合材料で組み上げたその機体は、キャノピーから垂直尾翼に至るまでを、レーダー波反射のために黒で塗装されていた。 見ようによっては、長くなびく髪に見えたかもしれない。 これまでJAS15586の飛ばしていた旅客機とはサイズも、エンジンの推力比も、何もかも違う。 旅客機の飛ばし方しか知らないJAS15586に、この体は噛み合わなかった。 面倒くさい法律さえなければ、全く新しい人工知能を戦闘機に組み込んだのに。 そう、研究者たちはぼやいた。 だが、決まりごとをどうにかできるはずもない。 だから、徴兵された人工知能には、教師がついた。 パイロットが一人。そのパイロット達も、決して熟練の腕を持っているわけではなかった。 むしろ研究者たちは、早く既存の人工知能の乗った機体を全て落とし、破壊して、新たなものを作り上げたいというかのようですらあった。 JAS15586についたパイロットは、その機体と似た、しかし短い黒い髪を持つ女だった。 芝一子(しば かずこ)。それが、JAS15586とともに棺桶を飛ばす、女の名だった。 多くのパイロットは、愛機に名前をつけた。 あるものはペットの名を。あるものは人名を。 だが、総じて言えば、比率的な話ではあるが、男は機体に女の名を。女は機体に男の名をつけることが多かった。 人生の最後を預けることになるかもしれないその機体は、まだ歳若い彼ら、彼女らにとっては、恋人のようなものであったかのかもしれない。 あるいはせめて、恋人であってほしいと願ったのかもしれない。 そんな中、芝一子は、比率としては少ない側に属していた。 彼女は愛機に女の名をつけた。 ヘルメットを外し、短い髪をがしがしと指で梳る。 柔らかい髪質のそれは、中に篭った汗と石鹸の匂いを散らしながら風に舞った。 対Gで体を締め付ける飛行服で、歩く姿勢は何処かぎこちない。 滑走路の地面に埋め込まれた誘導灯は、機上から見れば星に見えるのに、間近に寄れば眩しいただのライトだった。 ふと足を止め、足で灯りを隠し、足をずらしを繰り返す。 頚部に埋め込まれた振動端子から、頭骨を通じて鼓膜に声が聞こえた。 JAS15586の問いかけに、一子は別になんでも、と緩く首を振った。 モールスを打ったわけでも、何らかの信号でも、なんでもない。 己の背後、今降りてきたばかりの戦闘機を見上げる。 地震の背丈の何倍あるかわからないそれは、夜闇の中で、黒い塗装が闇に溶けたように見えた。 空中でスライドするような挙動。固定ベルトが一子の体を荒縄のように締め付ける。 続いてバレルロール。JAS15586が新たな体になってから身に付けた挙動。 回転にあわせて機体腹部から勢い良く撒き散らされた子機が、ジャベリンのように加速し、敵機に喰らい付いた。 JAS15586の一部コピーは的確に相手に向けて我が身を向け、その役割を果たし終えた。 距離が近い。破片をかわす様に、操縦桿をぐん、と倒す。 体の奥から聞こえるぎしぎしという軋み。 男に抱かれたことはないけれど、こんな音がすると聞いたこともある。 私は今抱かれている。他愛もない考えを端に上らせて、次の敵機を求めて視線をずらした。 喉の付け根をくくく、と数度鳴らす。 JAS15586は応えるように、一子の目の奥に敵の位置を投影した。 次の敵を追う。敵を打ち落とすために体を軋ませる。 絶頂したくて体のリズムを合わせるみたいで、なんだかおかしな気持ちになった。 JAS15586にとって、機体の軋みと性交を結びつけるような考えなどあるはずもなかった。 しかし、操縦桿を一子に預け、彼女の求めるままに己を差し出し、奉仕し、体を開く。 女が男に抱かれるのと、そう変わるものでもなかった。 名を得てから、人工知能の多くはパイロットとの意思疎通のために、己のパーソナリティを固定した。 JAS15586であれば、便宜上は女として振舞った。 旅客機時代は中性的な合成音声だった声も、今では別の声に変わっている。 聞き手に配慮したか、人工知能の音声はパイロットの意思で融通が利く。 一子はJAS15586に声を与えた。パターン録音した己の声を。 JAS15586は女になった。 一方の国が新たな技術を開発すれば、もう一方の国は即座にそれを封じる手段を実現した。 結局のところ、互いの国には相手の国のスパイがどこまでも深く食い込んでいたのだろう。 これまでの戦争の例に漏れず、次々と開発される殺しのための技術によって、両国の技術水準は上昇を続けていた。 殺し合いは複雑化し、先鋭化し、そして逆行するように単純化していった。 索敵が、攻撃が、阻止が。上昇し続けた結果、戦闘はとてもシンプルになった。 敵より早く見つけ、一撃当てる。 レシプロ機の時代と違うのは、武装射程の大きさと、パイロットの神経操作による戦闘の高速化だけ。 泥臭い殺し合いが、両国間の国境線を押し引きしていた。