かつて、愛に身を焦がした者がいた。
蠍の炎に身を焼かれようとも、透明な硝子の破片に成り果てようとも、
旧友たちと違う時間を歩もうとも、けして心は折れず。
冒険者として生きることで、遠く遠く離れた女と繋がっていられると信じて。
その魂は今だ健在。
しかし、遂に彼は歩み出す。諦め、別の生き方を模索しようというのではない。
未知なる可能性を追うために、遙か世界へ旅立つのだ。

言葉にしてしまえば簡単だろう。無限の命を持って、異世界へと向かう方法を模索する。
現実的に言って、それは限りなく不可能である。そういう理がそこに立ちはだかる以上、如何ともし難かろう。

それでも。
それでも諦めぬものがいるとすれば?
「諦めちまえばそこで終わりなら、オレはとことんやってやるさ」
赤い外套を翻し、光の前に立つ男。
その手には師より授かった魔術手袋が黒く鈍く輝いている。
色々な思い出の詰まった、古びたトランクケースに視線を落として、そして。

「行くか。遅れずについてこいよ、ルナ」
背後に立つ女に声をかける。使い魔たる彼女は、明るい笑顔を見せて。
「ああ、言われずとも。アマンハ嬢の元へ向かうのだろう? ならば急ごうじゃないか。一刻も惜しい」

夏九は呵呵と笑った。そして一瞬だけ、この街で過ごした時間を思い返して――

光の中へと、ルナを伴って消え去った。
彼は戻ってくるだろうか? この街に。――それは、誰にもわかるまい。

他ならぬ彼自身にも、ルナにも、そして愛すべき少女アマンハにすらも。
けれども。彼らが再びまみえ言葉を交わし、そしてこの地に戻ることを「観測者」は願わずにはいられなかった。
願わくは、そこに幸福な終わりがあらんことを。



――Le trajet de la vie continue.
qst073960.gif相談室  最終更新:2014-06-16 (月) 00:48:28

Last-modified: 2012-07-03 Tue 21:17:47 JST (3736d)