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酒場に小さな妖精があらわれて、なにやら人間たちにお願いしているのを背の高い大人たちの間から覗き込む銀髪の少年がひとり。 「僕も力を貸してあげるよ。宝石を集めればいいんだろう?」 小さな妖精は冒険者でもない少年に何ができるのかと心配になりましたが、 彼が長生きで名のある魔法使いの家系の子供だと周りの冒険者から教えられて、頼んでみることにしました。 「あとは…弱っている妖精も育ててあげればいいのかな…? …じゃあ、いちばん弱っている子を頂戴 僕の命は宝石でできているから、きっと妖精さんと相性が良いよ。魔力を分けてあげられるし」 「大丈夫、きっと僕が一番のレディに育ててあげる」 かくして一番みすぼらしく弱々しい妖精は銀髪の少年の元へ。 冒険者の町で一番古い娼館の執務室に、骨董品屋から買ったドールハウスが置かれていて、 その中でジュエリーケースのソファーをベッドにして、羽のすみが千切れた妖精が眠っています。 今にも消えそうなほど弱ってしまった妖精に少年が手をかざすとその体は淡く金色に光って、少しずつ魔力を吸収していきます。 弱かった呼吸が深く安らかなものとなり、少年はほっとため息。 「これでよし…起きたら名前をつけてあげなくちゃね。まだないみたいだから あとは、散らばった宝石を集める人員だなぁ…うちはいつでも人手不足…… …………………………ふむ」 妖精の寝顔を眺めて思案顔だった少年は立ち上がり、月夜の中どこかへ出かけていくのでした。
場所は変わって真っ暗な森の中、遠くに見えるのは矛盾の魔王が棲むという宮殿。 恨みのこもった人の顔のようにも見える木々の節や洞の間を通り抜けてもう少しで森を抜ける…… ……そんなあたりで真っ黒な髪に真っ黒なドレスを纏った金色の瞳の少女が現れました。 「矛盾の魔王に何の用でありますか」 少年のようにも見える中世的な顔立ちの少女が無表情につぶやきます。 「用事があるのは魔王にじゃない、君にさ。一つ頼みたいことがあってね」 死人のように真っ白な顔をして、幽霊のように現われた少女に驚きもせず少年は答えます。 「私はもう兄上殿の妹ではなく魔王の眷属。頼みなど……」 「もちろん、兄妹だった時の頼みとは違って、ちゃんと代価は払うよ。カミラ」 漆黒の少女の金色の瞳を、少年の紫色の瞳が覗き込んで無邪気に笑い 幼子の声で誘惑の言葉をつぶやきました。まるで彼女の主と同じ様に。 銀髪の子供が示した代価に、表情のなかった少女の顔は一瞬まるで人間のように強張って……歪んで。 ……そして彼女は少年の代わりに散らばった宝石を集めることになりました。 「ユランに二人だけであわせてあげるよ」 妹の夫に、妹には秘密で、二人っきりで合わせること。それが代価。 娘同然に、それ以上にすべてを投げ打って育て愛した妹への裏切り行為だというのに。 少女は首を横に振ることができなかったのです。
暖かい朝日に包まれて妖精が目を覚ますと、 銀髪の少年と、その少年よりも少し年上に見える黒髪の少女が、離れた場所からこちらを眺めていました。 「おはよう、今日からここが君のお家だよ。いろいろ事情があって生まれたばかりの君を預かることになったのさ」 きょとんと見つめる妖精に笑顔で語りかける少年は黒髪の少女を振り返って 「僕はねーラズールカ。ラズなの。あっちの黒いのはカミラだよ…ほんとに言葉通じてるまう?」 ぱっと視線をそらした黒髪の少女はしばらく間をおいてから答えます。 「…理解できてはいると思うでありますよ…ただ、まだ話せないだけだと ホムンクルスとは違うので生まれてすぐしゃべったり歩いたりは難しいのでありますよ」 「ふーん…まあいいか、よろしくね?君の名前を考えたんだけど ”ティターニア”ってどうかな?遠い国の妖精の女王様の名前さ。神様の娘という意味なんだって ……苗字は、そうだな…ローズにしよう 君と同じように別の世界から来て、幸せになれた女の子のものだ 今日から君は”ティターニア・ローズ”……おっけーまう? ……ねえカミラこの子まだやっぱりわかってないんじゃないかな?」 光に満ちた明るい部屋で、名付け親を見つめ続けるだけの妖精に、少年は困った顔で笑って その後ろでこっそりと黒髪の少女も目を細めるのでした。