HNH/0216

かんぺきすぎてふるえる…

異界学。
 この世界は、どこからが初めからこの世界が獲得したもので、
どこまでが異なる世界から獲得したものなのか、よくわかっていません。
私たちは、それはそうと便利だし、困り事も少ないし、都合もいいからと、習合された文化を享受しています。
 ――でも、人は疑問を持つ生き物ですから。
やっぱり、どこから・どこまで、と、物事を切り分けてみたくなるものです。
わたし、ティマが学んでいるのは、異界学の一つ・異界史学です。
並行して、黄金暦・黄昏暦の歴史も学んでいます。
それらを統合して、歴史学の面から、文化の流入や習合を整理するのが、ティマ式異界学なのです。

まあ、男社会です。そんなものです。
思うように行かないのも、大人の世界です。
異界学なんて、突飛な学説が飛び出すなんて当たり前のことなのに、
色眼鏡で見られて、序文も読んでくれないなんて、それも当たり前なのです。

……。

『ティマくんがいると、場が華やぐなあ』『論文？　ああ、そこに置いておきたまえよ。それより…』
『私からのドレスは気に入ったかね？』『美しい、あの花の遺物にも劣らないよ』
『一廉の学者になりたいなら、こういう場にも慣れておきたまえ』
『色目を使ってでも、成功したいのだろう？』『今晩、どうかね？』
『お高く止まっているな』『お前はとても恵まれた境遇にいるんだぞ』
『――論文？　“あんなもの”より、君はもっと着飾ってスポンサーを――』

……。
　

異界史と言っても、色々な異界がありますが。
ティマは、魔法文明より、機械文明に拠った異界の方を主に調べています。
ちょっと、ニガテ意識がありまして。ジャンルを絞ると、視野も狭まっちゃうなって思ってはいるんですけど。

……ああ、いえ。そんな大変なことでもないんです。
魔法文明由来の遺物で、ちょっと事故があって、思いっきり寝込んだことがありまして。
電源が生きていてしびればびれぶーならまだ多少納得は行くけど、
呪文が生きていてカエルさんにー…は、ちょっとイヤ、くらいの、好みの話ですよ。
実際、機械文明由来でも微小体による人体変質事例の報告はありますし、
本当、体験に拠る好き嫌いの域ですから……。

教授は亡くなられました。
心臓が良くなかったそうです。
同僚も、何人か行方が知れません。
きっと、今回研究していた遺物の影響です。
この界隈では、よくあることですから。
……そうに、違いありません。

研究は、凍結。チームは、実質解散だと思いました。
どっちにしても、私はもう去るつもりでした。

黒蓮の遺物は失われた。
異界の祝福があらんことを。

今、彼女が過度にぽんこつで、半ば自爆体質なのは、心を守るために身に着けた処世術。
……だと思うんですけど。
恐らくそうだと思うんですけど。
そうだったらいいと思うんだけどなあ……。

Mentooth 紫眼の一族
元はメントゥースと読む　Mantoothの変形と推測できる
その血統のルーツこそ異界のものであるが　血族が此の地に訪れたのは遥か遠い黄金暦のこと
彼女が知る由もない　誰か知ってるんじゃないの　知ってますかアナタ？

　　　　遺物仮称：コードライター（書き込み装置）
　　　　製造次元：不明
　推測できる用途：対象者への知識の挿入
書込み可能な容量：共通語５億３６８７万９１２字分
　　　　動物実験：終了済　マウス・イヌ・サルを使用　詳細は別紙
志願者による実験：終了済　最終的な参加者は１６名　　詳細は別紙
　　　　特記事項：実験後の検査にて、一部参加者に不調を訴える・昏睡・人格変質等の症状が見られたため、
　　　　　　　　　今後は呪文・[削除済]・[削除済]等の情報の挿入は禁止とする。

　　　　主任より：まず今回危険行為とされた呪文知識の挿入であるが、
　　　　　　　　　本来呪文とは起動可能な魔力・信仰・精神力・瞑想が必須であり、
　　　　　　　　　当方の実験の際には魔術適正が見込まれない志願者を選別しており、
　　　　　　　　　爾後の危険性は一切ないことである。
　　　　　　　　　[削除済]、[削除済]に関しても同様に適合するリソースが必須であり
　　　　　　　　　こちらもまた事前検査にて問題が顕在化する見込みのない志願者を選別していることは明らかである。
　　　　　　　　　何より当遺物は遍く無知蒙昧な学徒に均しく叡智を授ける特級遺物であり、
　　　　　　　　　当方は今回の措置に関し遺憾の意を表するものである。

　　　監査部より：該当する実験に関し、志願者の合意なく危険情報の挿入が行われていたことが判明したため、
　　　　　　　　　当遺物の研究主任は解雇されました。
　　　　　　　　　また、知識の挿入に関しては動物実験の時点で非可逆性が確認されており、
　　　　　　　　　今後、新規にガイドラインが制定されるまで該当する遺物による人体実験は禁止されます。
　　　　　　　　　なお、該当する実験参加者各位については、希望者には再検査が実施されます。
　　　　　　　　　詳細な日程は後日通知が行われます。


　　　　　　　　　　　　-T女史はどこ？　監査部が呼びかけしてた
　　　　　　　　　　　　　--一人だけ例の実験で全部入りされたんだと
　　　　　　　　　　　　　　---教授のお気に入りだったか？　歪んだ愛され方してるな
　　　　　　　　　　　　　　　---脳カラで何の才能もなかったってことじゃないの？（体以外は！）

　　　　　-同じ担当で黒い大蓮の遺物もなんかの拍子にバラバラに散ったって
　　　　　　--あの研究チームも本格的に終わりだな
　　　　　　　---もう何人かいなくなってる　噂のT女史もだ　もったいない

• 胎内に収納されたなぞの巨大黒蓮から発されたマナを起動リソースとして、変異が始まる。
  • えろくなる。
  • 目が紅く光る。
  • 人格が変貌し始める。
    • もう始まっている。
  • そのうち命に関わる種類のドレインを自覚的に使い始める。
  • 倫理観が変化し始める。
  • そのうち肉体が完全に変異してヒューマンじゃなくなる可能性もある。
    • そこまで行ってもまともに魔法が使えるようになるのはもう二段階くらい先。
      地の才能が無さすぎる。
  • えろくなる。

• 異界の魔性の記憶が転写され、その邪悪な人格と狡知が意識に組み込まれる。
  無論進行形の人格は彼女そのものだが、膨大な魔性の記憶が、
  何かを切っ掛けに、脆弱な人の意志を飲み込んでしまってもおかしくはなかった。
  • そして、堕落する機会があった。
    正し、癒そうとする者がいた。
    やがて、歪な継ぎ目が消え去ったとき……
    どうしようもなくぽんこつな女がそこにはいた。
    • 唯一持つ生得の特異性がぽんこつだった件。

• 最終的な人格構造のイメージとしては、多重人格ではなく、一つの人格の別側面。
  一枚のスクロールの余白に追記・接ぎ木・同一レイヤーにうっかり結合したまま作業継続といった喩え方ができる。

• 大黒蓮について
  • 異界から漂着した遺物の一つ。
    本来一度使ったら四散消滅し、よしんば回収・修復できても満足に再利用は期待できない代物。
    しかし、『胎内に根を張らせ、自身を苗床として、修復を行う』……
    そうして、邪悪な意思を以て、仮初ながら強力な魔力源を得た。
    ――何によって殖やしたのか、今は四輪の花が咲いている。
    • 下腹部に黒い蓮の花を象ったような紋様が薄っすらと浮かんでいる。
      花弁は4枚。チャージ数に対応していると考えられる。
    • 体より分離させるには、医術と魔術双方の高度な知識が必要。