名簿/498227

  • 魔女の囁きに耳を貸してはならない。それは取りも直さず、身の破滅を意味する。
    しかし、待て。我らは証明できるのか? 魔女が真に魔女であるか。
    それは本当に、魔性で人を惑わすものか? 彼女は裁かれて然るべき存在か?

    刮目してみよ、その本質を。
    そして万民よ照覧あれ、自らを魔女と称するものの戦いのひとひらを。
    • 決闘状とは随分と時代錯誤な、と思わないでもない。はっきり言えば貴族制度や合衆国のならず者(アウトロー)の残り香を感じさせる、意固地さがそこにはある。
      だがそれはそれだ。仮にこのやり方や堅苦しい文面が旧態然としていたとしても、それと当人の性質が必ずしも一致するとは限らない。
      これを鵜呑みにして相手を見くびるのは悪手だろう。
       
      • この決闘状なるものが届いたのは、1週間ほど前のことである。羊皮紙のスクロールに上質なリボン、そして百合が描かれた封蝋。
        相手はかの名高きメスメルの碩学であるピエレッテ・ジャネ。メスメルの申し子、女傑、才媛。どういった賛辞も彼女の本質を捉えきれてはいまい。
        伏し目がちだというのに美しく、服の上からも劣情を誘うその肢体は男を魅了してやまぬ。それもまあ、メスメルとは別の暗示ではあるのだろうか?
         
      • ――普段にはないことだが路面電車に揺られ、統治塔へ向かう。馬鹿正直に決闘状に添えられたチケットを使ってみたのだ。
        罠の一つでもあるかとおもいきや、拍子抜けするほどに何事もない。昼間ではけしてありえない行き先を表示した電光掲示板、
        周囲が暗示迷彩によって静まり返っていること以外は、学園都市の普通の夜がそこにはある。
         
      • 窓の外に目をやれば街灯が規則正しく視界を流れてゆき、視線を戻せば自分以外誰もいない車内。
        わかりやすい異常事態に気を引き締める。本来ならば誰かを援軍に――権兵衛やレーチェル――据えるべきほどの状況にある。
         
      • だが、それは叶わなかった。ピエレッテの暗示迷彩はアンヘリカと外世界を切り離していたのだ。
        《大心理迷彩》もかくや、というばかりの圧倒的な力。
        ともかく取り残されたのがアンヘリカであれ、他の学生全員であれ、孤立無援であることに違いはない。
        戦うしかあるまい。そう仕向けられているのかもしれないが、立ち向かえるのが自分だけならば。

        ――意識を現実に戻す。いよいよ目的地に到着したのだ。タラップを降り、乗っていた電車が霧の中に消えるのを見送る。
         
      • 改めて統治塔に向き直り歩き出す。目と鼻の先にある尖塔へ。
        塔への短い通路の壁には『アンヘリカ・リラはこちら』と書かれた看板が張り付いていた。いつかどこかで見たことがあるようなそれに心の中で苦笑した。
        「…いかにも安っぽい。模倣犯(コピーキャット)ならもう少し似せる努力をしなさいな」
        誰ともなく呟いて、そしていよいよ辿り着く。決闘の時間は眼前にまで迫っていた。

      • 「賓客がいらっしゃったよう」尖塔の上、ピエレッテは街を見下ろす大硝子の窓から魔女の姿を認めた。
        「時間も寸分違わず」懐中時計を見る彼女の――黒のローブ・デコルテと同色のロンググローブで装った――肢体は、逆光で縁取られたシルエットですら蠱惑的である。
        待ち人来る。それだけのことに喜びを感じているのか、彼女は笑みを浮べていた。誰もを魅了するほどのたおやかな微笑みを。
        だが、その中に嗜虐的な色が混ざっているのに誰が気付けただろうか。彼女の他に誰も居ない、真っ暗な夜の統治塔で誰が。

      • 自動扉が軋む音を立てながら開く。薄らぼんやりとした間接照明を辿って行くと、歴史を感じさせる昇降機へと行き着いた。
        無機質な格子状の安全ドアを手で滑らせて乗り込みながら、考える。
        ――私はこの戦いの向こうで、真理を得る事ができるのだろうか。そも、真理とは。私は何を追い求めている?
        眼前の脅威を取り除くのが精一杯、探究心はどこへやら。そんな揺らぎっぱなしの私に、何が得られる。
        …最上階を知らせる合成音声が、思案するアンヘリカを非日常へと引き戻す。

      • 昇降機から降りた。背後で「箱」が下階へと自動で戻っていった音がした。退路はないということだろう、随分と用意周到なことである。
        「――お招き頂き感謝いたします。ピエレッテ・ジャネ子爵」
        静謐と仄明かりしか見えぬ暗い室内、外光で影だけが映しだされている女に向け、アンヘリカは一礼する。
        「…いいえ、こちらこそ招待に応じて頂けて何よりです。魔女アンヘリカ・リラ」
        ピエレッテの淡々とした返礼と同時に、室内の間接照明が不意に点る。円卓を中心に設えられた無機質なそこは、俗世とは切り離された異界さながらの様相を呈していた。

      • 「それで、この私に何用ですか? パーティ…にしては随分と陰気臭い」生活感がない、とでも言えばいいのか。
        掃除の手が行き届いているわけではない。そもそも統治塔に立ち入れるのは統治会の人間だけなのだから、
        その理屈で言えば彼らが自分で掃除をしている事になる。随分と愉快な絵面だろうが、まずありえまい。
        この部屋は、そもそもあまり使われていないのだろう。
        ――少なくともかのシニスター・シックスとは違う。絆も縁もなく、ただ名目だけの形骸化した“元老院”。
        ここはきっとそういう象徴的な場所に過ぎず、彼らはそういう関係に過ぎないのだろう。
  • 宿した異能が箸にも棒にもかからぬような、薄鈍の無能者諸兄。その心痛は察して余りある、ああなんと痛ましいことか。
    上を見れば遥けき超越者、対して其が身は誰にも彼にも愛されぬ。故にこの貧困街を、この無法の巷に身をやつしているのだろう?
    だが安心し給え。――貴兄らはけして、この吹き溜まりに骨を埋めることはないのだ。異能を、この世にあらざる法を持って復讐をなす事ができる。
    さあ乞うといい、人にあらざる、異端の力を。
    • 強制発現 ―狼男事件―1
      • それはここ、落伍街で発生している事案である。
        それはあまりにも奇妙な事実である。なぜならこの一帯は総会によって牛耳られているため、逆説的に一定の治安が保たれているはずだからだ。
      • だが、現に抑止力は機能していない。
        数週間前のことである。中心街からやや離れた海浜地区において、一人の女性の遺体が発見された。
      • その損傷は激しく――いや、凄惨を極めていた。喉元から乳房までを獣の歯牙と思しき鋭利なもので引き裂かれ、
        腹部はほとんど元の形をとどめていなかった。内蔵は四方にばら撒かれ、まるで悪趣味な前衛芸術じみていたという。
      • その事件の収拾すらつかない、数日後の朝。同様の遺体が、現場から数十メートル離れた砂浜に打ち捨てられていた。
        今度は男。懐を物色された痕跡もなく、ただ猟奇じみた変死体がそこにはあったのだ。
      • この連続殺人はひとつの始まりに過ぎない。風紀警察や総会の自警組織による徹底的な調査を尻目に、凶行は繰り返されたのだ。
        それは同時多発的であり、不可視の怪物との関連も強く疑われた。しかし、ひとつの証拠がその可能性を打ち消す。
      • 体毛である。遺伝子レベルの解析の結果、それは「イヌ」に限りなく近い動物のものであると判明した。
        対して、不可視の怪物の姿を「見た」ものは、口をそろえて猿のような姿であったと証言する。もう一つ、不可視の異名をとる以上は、偶然以外で証拠を残す蓋然性はない。
        選択肢はひとつに絞られた。これは新手の、異能犯罪である。それも各地域に拠点を持っているか、強い力を持つものの仕業である。アンヘリカとレーチェルはそう判断を下したのだった。
    • 強制発現 ―狼男事件―2
      • 人の往来もまばらな、落伍街の裏路地。学園近くの雑木林。デートスポットとして有名なビーチ。
        そこで繰り広げられた惨劇を、人はもう不可視の怪物の仕業とは言うまい。
        彼は討伐された。勇敢なる学生たちが、異能と己の力によっておぞましきものを葬ったのである。
        ならば、彼が去ってからも続くこの猟奇殺人の犯人は一体誰なのか。あちこちで繰り広げられる殺人。
        風紀警察による巡回を掻い潜り犯行を繰り返す者たちの正体は、一体何だというのか。
      • 狼男伝説という書籍がある。いささか誇張が過ぎた眉唾ものの項も多い、マニア向けの本だ。
        世界中に共通して存在する猟奇犯罪の中でも、似通った事件を取り上げて伝承と照らし合わせていくという内容であるが、
        本の全章を通して全く度外視されていることがある。狼男、ないし狼男と呼ばれる猟奇殺人者はけして群れて行動をすることはないというのだ。
      • 無論、協力者は存在する。例えばジルドレイ。青髭として有名な彼は、子供を拐かしては殺害する筋金入りの殺人者であった。
        犯行が彼の仕業であると知れる前は、すべてが狼男の仕業であったとされていた。村や街の住民は恐れおののき、子どもたちを外で遊ばせないようにしたとすら言われる。
        実際のところ、彼は自身の従者を使って「狩り」を行ったらしい。
      • だが、学園都市で起きている狼男事件に関しては不明瞭なところが多い。協力者の有無、犯人像、目的。その全てがだ。
        協力者なくして、犯罪を同時多発的に発生させることは難しい。仮に協力者がいたとしても、全く同様の手口で被害者を手に掛けるのは難しいのではないだろうか?
        今回の事件では、幸いそれぞれに信用できる目撃者や証拠が存在している。おざなりな犯行ではあるが、解決を試みる側としては不幸中の幸いといえよう。

        ともあれ、以上のことから一人の犯罪者が複数の現場で同様の事件を起こすのはまず不可能と仮定した場合、加害者は複数存在していることになる。
        ――個性豊かな「異能」を以て行われるのが異能犯罪であるとするなら、これは不自然ではないか? 単一の異能が、複数に発現する。
        新技術であるクローニングでさえ、すべての個体に同一アイデンティティを 持たせることは不可能だというのに。
    • 強制発現 ―狼男事件―3 Encount & Ageinst Them
      • アンヘリカの持つマジックアイテムは、時に異能よりも役に立つ場合がある。例えば、街の巡視を行うとき。
        飛行スキルによって周囲を巡回すれば、徒歩や気配感知による方法以上に広い範囲をカバーできる。

        今日も、日課の警らは続く。アトランダムの出現パターン、狼男たちの同時出現、これが果たして統治会の内部に近づくための賽足りえるのか?
        今のアンヘリカにはわからない。ただ、異能という不自然の中に『さらなる不自然』を見出した以上、それは解決すべき懸案に違いない。
      • こうして日課は淡々と、そして鷹の目のように鋭い視線を以てこなされていく。
        だが今日に限っては、奇妙な腥風に顔を顰める羽目になった。――非日常の中に更なる非日常が、どこかで起きているようだ。
        海風の生臭さだけではない、血と肉の臭いに箒を加速させる。被害者の命と、加害者の身柄に思いを馳せて、アンヘリカの表情はいよいよ険しくなった。
      • ガス灯の橙が水面に揺らめいている。潮の香りは夏の暑さを帯びて頬を撫でる。
        箒から降りて、目にしたのは四肢と内臓が撒き散らされた遺体。口元にハンカチを当てつつ、人間だったものを観察する。
        透き通るような金髪は赤黒い血をこびりつかせ、目も当てられない。制服であったろう布切れは元の色すら判別できないほどの状態だ。言わずもがな、その下にあった体もまた。

        やはり、獣の仕業か。見覚えのある体毛が今度はごっそりと残っている。被害者の手に握られたそれは、弱々しく繰り出した最後の抵抗だったのだろうか。
      • 夜闇は深く、この時間帯に屯するような人間は市街地にでも繰り出しているだろう。不気味な静けさを感じながらも、犠牲者の姿を写真に収めた。
        細かいところまで写そうと努力しているのに気づいて、まるで野次馬のようだ、と自嘲する。犯人像を掴むためとはいえ、死者への冒涜とも取れる真似をしなければならないとは。
      • ――全てはやむを得ぬこと。真実のためにという建前以上に、ある種の義憤が彼女をつき動かしていた。レーチェルの影響かもしれない。もしくは、学園でいくばくかの時間を共有した友人たちのおかげか。
        頭を振った。無意味な自問自答よりも、まずは解決すべき問題があろう。ため息ひとつ、懐から取り出した球体を地面に置く。
        一瞬のまたたきの後、筆舌に尽くし難い程におぞましい、生き物のようなものがその場に現れた。この世のものではなく、生命の系統樹の外にあるもの。青みがかった液体を全身から滴らせるそれは、異様な存在感を見せつけている。
        ……臭いは覚えたか。なれば行くがいい、狩り出せ、叶わずばあかしの一つも持ち帰れ。アンヘリカは異形を睨めつけそう命じる。命を受けたそれは煙となって立ち消えた。

        人払いの結界を解いて風紀警察へ匿名の連絡を入れる。彼らや彼らの息のかかった連中に現場を荒らされずに済んだのは、今回が初めてだ。
        だというに、目ぼしい物証や真実に至る要石を得るには至らなかった。唯一の収穫といえば、臭いが消える前に「あれ」を使役できたことくらいだろうか。
      • とまれ、これ以上ここにとどまる必要もあるまい。惨憺たる現場に踵を返し、箒を取り出したその時。&br
        GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
        耳を劈くような唸り声、いや咆哮か。その招かれざる客は唐突に、かの存在を待ちかねていた探求者の前に姿を表したのだった。
    • 落第街外れ、港湾地区
      • 鉄と獣とヘドロの臭いが漂っていた。海風は止み、淀んだ生ぬるい空気が気味の悪さを更に高める。
        風紀紊乱甚だしい落第街にあっても、ここは異様な有様であった。転がる死体に一人の魔女、そして二足で立つ狼。そこは言うなれば、修羅の巷であろう。
      • (箒を後ろ手に、右手には黒耀の刃を構え) ようやく尻尾を出してくれましたか。タイミングが良すぎて「わざと」出てきてくれたようにすら思えますけど。
        (人払いの結界が完全に解けるまでには幾分時間もあろう。うまく行けば情報が手に入るが、下手をすればそこに転がる肉片と同じ末路を辿りかねない)
        (彼我の戦力差は読み切れないが、自分が武闘派ではない以上やれることは限られるだろう…) -- アン
      • GRRRR......GRAAAAAAF!!!(地面を蹴り、よだれをまき散らしながらアンへ襲いかかる! 大きく振り上げた丸太のような右腕、左腕を交互に袈裟で振り下ろしながら徐々に彼女を交代させていく)
        (全くもって人智を超えた膂力である。的を外した爪は石畳をひっぺがして、まるで手裏剣のごとく襲い来るほどの威力だ) -- ?
      • っ!(バックステップとバックスウェーを繰り返しながら、鼻先をかすめる爪を躱す。人並み以上の動体視力はあるが、さすがにこうも素早いと防戦一方にならざるをえない)
        (身体能力では明らかに劣っていた。切り返さなければ壁を背中にするはめに――そこへ不意打ちじみた石畳。左肩を強か打たれよろめく。ほんの僅かの隙ではあるが、一瞬一秒の戦いを繰り広げる場では致命的だ) ぐっ!?(もっとも、隙を「わざと生んだ」のなら別だが) -- アン
      • GRR...AAAAA....AAAAAAAAAAAHHHH!!!(動きの止まったアンめがけて、次々に石畳を投げつける。一瞬で学習したのだろう、弾丸じみた勢いで投擲されたそれは、風切音と砂煙を巻き上げながら数m先の女目掛け飛んでいく。防御と回避に時間を割かせ、次の一撃を躱す間を与えぬ波状攻撃)
        (この獣はやはり、多少なりとも頭を使って狩りをしているのだ。タイミングをずらして、一気に距離を詰めた。相手が弱り切ったその瞬間を狙う肉食獣さながらに、とどめのあぎとを食わせようと) -- ?
      • (私を痛めつけて情報を引き出そうとか、そういった賢しさは一切感じられない。一撃一撃は確実に致命的たりうる重さを秘めているからだ)
        (どうにも相手は「いつも通りに」誰かを殺したいだけのようだ。過程も目的も一緒くた、私が誰であるかとかは関係ない…そう、全くもっての偶然がこの遭遇を導いた)
        (この程度の偶然は、全体を見ればゆらぎに過ぎまい。――研ぎ澄まれた思考は、次に起こすべき行動を体に伝えている)
        しゅっ(飛んできた石礫を睨めつけ、後ろ手に掴んでいた箒で爆発的に飛翔する! 勢いの着いた爪牙をかろうじて躱すと、サマーソルトめいた動きで狼男の背後をとる)
        まだまだここからですよ。 -- アン
      • 小賢しい…ッ!(空を切ったあぎとはバラックを破壊して宙に巻き上げた。アンにはいささか届かぬが、砕け散った柱や屋根は周囲四方に雨の如く降り注いだ)
        のらりくらりと躱そうが一発喰らえばおっ死ぬのによお(人語を解し、操り、ついに挑発までしてみせた。再びアンを睨みつけると獣の脚力を以て二度目の攻撃にかかる)
        (姿勢を低く取り、全身のバネを脚に伝えて大きな一撃を放つつもりか、石畳がクレーターめいて深く抉られた) -- ?
      • あら、喋れたんですね? それじゃあやっぱり異能の類か(茶化すように笑いながら周囲のガス灯を睨め付け、刃で地面に印を描くと二歩下がった)
        (――ほんの一瞬である。狼男は口を広げ、舌を投げ出し、地面を抉りながらアッパーカットをアンの喉元へと) -- アン
      • GRAAAAAAAAAAAAHAHHHHHHAHAHAHA!(獲った、と感じた。確かな手応え、吹き飛ぶ女。惜しむらくは今の一撃で四散させられなかったことだが)
        二人目がこうも手強いたあ聞いちゃねえが、なあに…始末はついた…GR....(砂煙と潮風で効かない眼と鼻を凝らして、女の吹き飛んだ先を探す。生きていれば殺しながら犯し、死んでいれば犯す。脳が沸騰するような感覚に、彼は酔いしれていた) -- ?
      • …げほっ、いや、ほんとうに困りますね。こういう荒事は先輩にお任せしたいんですけど…(肩と脇腹をさすって、骨が折れていることを確認する。あまり時間はかけていられない、か)
        (ふらりと立ち上がって、黒耀の剣を正眼に構える。目に宿っているのは終局の因子、ことに一区切りつけるための「返答」)――残 念 だ っ た な !
        (周囲のガス灯が次々と砕け散り、火は消えて失せる。と同時に、狼男が立つ「印」が炎の輝きを帯びて――爆発する!)
        《マクスウェルズデモン》、まずは一つ目。脂の乗ったその毛皮はよく燃えるでしょうね(炎上する狼男が消し炭になる前に、アンは再び駆け出す。風紀警察が来る前に、これは証拠として入手しなければならない) -- アン
      • (現に沸騰していた。血潮は熱を受けてぐつぐつと、体毛は薪のごとく燃え盛っていた。苦痛、苦痛、苦痛、苦痛)
        (こうなったのは誰のせいだ、それはまごうことなき、目の前にいる女、こいつが邪魔をしなければ――)
        (燃え盛る狼男は、すべての殺意を込めて襲い掛かる。知性はいささか失われているが、それでも立体機動や飛び道具を使う程度には自我が保たれている)
        動きは読めまいぃぃぃいいいいAHHHHHHHHHHHHHHH!!!!(彼は気づいていない、自らの咆哮が恐れに染まっていることを。相手にすべき人間を間違えていることを)
        (壊れたガス灯を蹴り、放つのは頭上から乾坤一擲の爪)
      • 二つ目(飛んでくる石畳めがけ、同様に石畳を放った。それはちょうど狼男が先ほど投擲したそれと同じ勢いでそれぞれを叩き落としていく)
        (弾幕のように煙る砂礫の中、ついに狼男が天を割って逆襲の一撃を――) 三つ目。動きが単調すぎますよ、アドバイスにしてはもう遅いかもしれないですけど。
        (相手の腕に沿わせるように、黒曜の刃を撫で付けた。かすっているだけだというに、相当な圧力がアンの全身を襲ったが)
        演算終了。おのが力にはじけ飛ぶか、それともはじけ飛ばぬか。イチバチかけてみるといいですよ。 -- アン
      • (全身全霊の一撃を放ったというのに、奇妙だ。体がどうにも、悲鳴を挙げ) A..Ah....AAAAAAAAAAAA!!!!!!
        (拳に罅が入り、そこから拡散するように腕が、半身が、グズグズと砕けていく。その様を見て、狼男は膝をつきついに地面に伏す)
        (あたかも己が殺めた人間と同じように、惨めに、這いずりまわる) 何故、何故、異能の力を得て、僕は、強く…
        (その声はすでに、あの狼男の声ではない。姿も恐ろしげな怪物のそれではなく、髪の長い女の肢体へと徐々に変わっていく) -- ?
      • さて、これで事件解決…になるといいんだけれど(狼男だったそれを引きずり上げて、目を細める)
        …話はゆっくりと聞かせてもらいましょう。ええ、それはもうゆっくりと、じっくりと(拘束呪文で箒に縛り付けると、いよいよ現場を後にする。いい加減風紀警察もお出ましになるだろうし、これだけ騒げば周りも気がつくだろうから)

        さ、行きましょうか。 -- アン 2013-05-09 (木) 00:31:01
    • 強制発現 ―狼男事件―4 Paragraph
      • アンヘリカのアパルトメントから遠く離れた、防砂林にある小さな小屋。例の戦闘から既に半月が過ぎて、当事者である二人の傷もずいぶんと癒えていた。
        狼男の正体たる少女は、自らを蔵敷瀬里と名乗った。学園普通科所属1年、いわゆる一般生徒の中でも最下級で異能未発現の「マンデイン」。
        自嘲めかして自己紹介を済ませた瀬里に、アンヘリカは優しい口調でしかし厳しく詰問する。
      • 学園名簿において、該当する名前が見つからなかったこと。総会に問い合わせた下級学生の「輸入歴」にもそれらしいものがなかったこと。
        最後に、彼女が住んでいたという安宿にも荷物の一つも残ってはいなかったことを、アンヘリカは告げた。つまるところ、瀬里という少女は社会的に死んでいると言えた。
        物理的に死んでいるのであれば「生きていた証」は記憶ないし記録に残され、死者はその証の中に眠れるのだからまだいい。
        彼女は自身の拠り所であった全てを否定され、この世界で孤立して生きていかねばならないのだ。
      • 事件から幾分経ったとはいえ、未だに混乱している瀬里にとってその事実はあまりにも衝撃的だった。
        でも、とアンヘリカは付け足す。もしかしたら、個人的な付き合いや島外に住む知己であれば瀬里のことを見知っているかもしれない。
        ただし、そういった部分での折衝には身分証明や金銭の授受が必要になるのは明白。そこで私に協力してくれれば、そういった類の手配は全て請け負ってあげよう、と。
      • 是非もない。この都市に限ったことではないが、身元が不確かな女が生計を立てうる仕事などたかが知れている。もともと学生であったろう彼女には、「それ」を選ぶ勇気はなかった。
        こうして、瀬里はアンヘリカのもとに身を寄せたのだった。彼女の持つ情報、そして近い将来に訪れる囮としての試練とを引き換えに。
      • もうこれで何体目になるだろうか。夜な夜な街を行き、銀髪の男と人狼を探し歩いていた。
        前者は噂だけが先走りしている。正直その実在すら疑わしいところだ。
        いかに充実したネットワークを持っていても、肝心の情報源が口さがない巷の学生たちではさもあらんといったところか…
        思考を切り替える。後者の人狼は瀬里から得た情報を元に、出現する地域をかなり絞り込めた。
        黒幕はいずれ突き止めるとして、今は対症療法的に潰していくしかない。
      • さすがに《電気王》さながらにとはいかない。この身はあくまでもこの世界に縛り付けられているもの。
        多少の俯瞰視や恐怖麻痺は可能でも、箱庭を外から見守るような絶対的な観測者たりえはしないのだ。
        10万人の全てを詳らかにできるのはそれこそ、統治会かそれ以上の存在に限られよう。
      • なんにせよ。
        人狼は現れ続けた、夜に、闇に、蠢く残虐なそれはまるで果てのないが如く。
        風紀警察の培ってきた「死亡退学者0」のプライドはへし折られ、正当ならざる盛り場は鳴りを潜める。
        そこに正常はない。元よりあった異常に拍車がかかっていく。

        ――尻尾を掴む必要があった。
    • 強制発現 ―狼男事件―5
      • 夜間の自然発光現象というのはままあることであり、たいていは科学で説明される。
        だが、それはどうだったろう? 空からの警ら中に視界の下を漂うその燐光は、ゆったりと漂っていた。
        その先には、定期監査の一段とはぐれたと思しき風紀警察の…下っ端か。彼らは異能を持たない。持たずして、起きる犯罪へ立ち向かう勇敢な者たち。
        その勇者は気づいているか、背後に迫る幽光に。介入すべきだろうか? 小さな迷いが、再び悲劇の幕を切って落とす。

Last-modified: 2013-06-06 Thu 17:07:31 JST (3988d)