FA/0070

  •   -- 2017-10-28 (土) 01:28:39
  • カジートからの手紙 -- 2017-10-25 (水) 11:19:36
    • 君がこの手紙を受け取った頃にはこのカジートの死刑は執行日を迎えてる頃だろう 君の友人だった男のね
      そういえばあのとき、君につけてしまった傷の具合はどうだい? 親指を深く切ってしまった 申し訳ない
      今更恨み言を言うつもりなんてない 君が密告したことは十分わかってるがもはやどうでもいい事だ それにまた会える日が来ることは解っている
      昔話をしよう 軍の補給次官だったあんたがまさか軍用硬貨の偽造を持ちかけてくるなんて思いもよらなかった
      それに突然起きた前線部隊での食中毒事件もだ 味方の食料品に毒をまぜるなんて流石のこのカジートにも思いつかなかったさ
      即座に解毒剤を前線へ届けたあんたは英雄になってずいぶん出世したことだろう 兵士たちからの指示も絶大だ -- 2017-10-25 (水) 11:34:33
      • そういえばあの時、君には話して聞かせたね 人を殺せる程度の毒はわりと簡単に作れるんだと
        あの時に使ったのもどこの家の庭にも生えている、デスペルやキョウチクトウなんかで簡単にできてしまう
        大げさな道具も要らない、あとは毒の量を調整してやるだけで強い腹痛や下痢程度にもなるし
        純度を高めれば皮膚からすら浸透して人間なら簡単に殺せる だがカジートの毛皮なら平気だ 素手でこいつを調合することもできる
        そろそろ気付いたかい?その毒はこの羊皮紙にたっぷり塗ってある 君の親指の傷から十分しみこんだはずだ 今更あわてても遅いさ
        まぁ最後まで読んでくれ もうひとつ大事な話がある この手紙についてだ
        この上等な羊皮紙とインクは君の部下の一人から拝借したものだ カジートにとっては毒を作るのと同じくらい錠前を開けるのは簡単だ これは話していなかったな
        この手紙は君の顔が見える所でしたためている I hope I can see you again sometime soon. -- 2017-10-25 (水) 12:02:31
      • ダー・フェンザーの話はおしまい -- 2017-10-25 (水) 12:02:47
  • -- 2017-10-19 (木) 21:06:01
  • 酒場にて -- 2017-10-18 (水) 16:18:02
    • 酒に酔った男は言う「よぉ猫野郎、なぁみんなにあの話をもう一度してやってくれよ」
      猫野郎は答える「あの話をかい? いや今度にしよう 今日は酒代があまりないんだ」
      酔った男は言い返す「このクソ野郎め だったら俺が金をだしてやる」
      「やれやれ、仕方ないね」 -- 2017-10-18 (水) 16:20:59
      • カジートってのは損もするし得をすることもある カジートっていうだけで人間というのはどうしたって好機の目で見る
        カジートからしたら自分達がやたらと歩き回る猿にしか見えないってことを判っていないんだ
        それはレイブクランスの街についた時だ ああ、場所がどこかなんてのはどうでもいいだろう そこにはでっかい屋敷があった 屋敷というよりはほとんど城だ
        金持ちで高慢で、人を金になるかどうかでしか判断しない男が領主で その男に取り入る事しか能がない奥方がいる
        まぁよくある街さ そのころはカジートのキャラバンの用心棒をしていたんだ まぁ今となっては笑い話さ -- 2017-10-18 (水) 16:29:11

      • カジートの集団が町に入ろうとすると、大抵の衛兵は怪訝な顔をする カジートってのは大抵問題ばかり起こすからだ
        自分の印で持って入れた連中が禁制品を売り買いしたり、何か重大な犯罪を犯したら当然その責任を取ることになる
        だから得たいの知れない獣人の集団は特に念入りに拒まれるのさ 人間の場合と比べて賄賂の額も桁違いだ
        申請をしてから入るのに何日も掛かった 半分だった月が完全に三日月になるほどだ
        その上、入れるのは三人だけ 馬車は入れず、持ち込めるのも持ち出せるのも手で持てる分の荷物だけだといわれた 仕方なく何度も馬車と宿を往復した -- 2017-10-19 (木) 13:26:32

      • しけた町さ 最低限の補充を済ませて、あとは何か珍しそうなものを少し仕入れて出ることになった
        だけどせっかくだからと繁盛してそうな酒場に行ったんだ そいつが間違いだった 酒場にも獣人はいたが、カジートは珍しいようだ
        どいつもこいつも絡んできた オイ猫、お前、俺のうちにこないか?上等な敷物にしてやるぜ お前の皮でリュートを作りたいんだが幾らだ?てな具合だ
        うんざりして酒場を出ようとすると、今度は頼んでもない注文の金を払えと言われた 当然そんな金はなかった -- 2017-10-19 (木) 13:38:53
      • 大勢に叩きのめされた上に衛兵に捕まってしまった それから地下の穴倉にいれられて調べられた
        だが当然、証拠は何も出てこなかった 水を飲まされて腹を何度も殴られたけど、胃液しか出てこなかったし
        それに心優しいどこかのやつが無実であると証言までしてくれた だけど相手は薄汚い獣人だ
        今更後には引けないあいつらは、無一文で酒場に入ったのは盗むためだろうと言い出した 金は酒場のヤツらに盗られたんだと言ったけど聞き入れてはもらえなかった
        それで、哀れなカジートはなんと毛を剃られるという罰を受けた 奴らは皮はぎの職人を呼んでげらげらと笑いながら毛を刈られるのを眺めていたよ -- 2017-10-19 (木) 14:19:08

      • その夜だ 裸のカジートの独房に、明かり取りの小さな隙間からネズミが顔を出してきた 正確にはネズミの死骸だ
        これは仲間たちがよくやる手さ そのネズミの腹の中には数本のピックと針金が入ってたんだ
        あとは簡単さ 手錠と、牢屋の鍵を外して 居眠り中の看守を縛りあげて階段を登った
        どうやら地価牢は屋敷そのものと一体化している作りだ ついでだったから館の主の部屋に入るとやつは「夜のお仕事の」真っ最中だっらから 上等なシルクの服を盗んでやった
        あとは大きな窓の部屋に入ってそこから抜け出せばいい 屋敷の外観は見ていたから大まかな位置に当たりは付いていた -- 2017-10-19 (木) 16:41:15
      • まぁまちなよ、ココからが面白いんだ -- 2017-10-19 (木) 16:42:13

      • その部屋はやたらと頑丈な錠前が付いていたがこのカジートの腕前はもっと上手だった 音すら立てずに部屋に入ることができるんだ
        しかし誤算だったのはその部屋には人がいて、しかも真夜中だというのに起きていたって所だ
        「ねぇあなたなの?」女の声がベッドから聞こえた 真っ暗だったがカジートの目なら簡単にわかる
        ベッドに居たのは屋敷の奥方だったんだ ベッドの中で亭主が来るのをまっていたってわけだ
        まったく、その亭主はどこかの尻軽といたしてる最中だってのにだ しかしこのまま窓から出るわけにはいかない
        そこでダー・フェンザーは亭主の服を着てベッドに入った 体の毛は剃られてしまっていたから女も相手を獣人だとは気付かない 尻尾と耳を隠すのが大変だったけどね
        まぁあとはその、まぁそういうことさ 奥方様を満足させて寝かしつけてからそっと窓から外に出たんだ
        その女がベッドの中でなんて言ったか知ってるか?「あなた、今日はワイルドなのね」  -- 2017-10-19 (木) 16:54:34
      • ダー・フェンザーの話はおしまい -- 2017-10-19 (木) 16:55:02
  •   -- 2017-10-18 (水) 15:41:25
    • -- 2017-10-18 (水) 15:41:16
  • その少年はまだ幼かったが誰よりも秀でた技術を持っていた 素早く、静かに、狭いところにもぐりこむ事だ
    そして器用な指先で錠前や鉄格子を外してどこへでも忍び込む 忍耐強く時を待ち、さっと仕事をすませるのだ
    少年の隠れ家にはいくつものトロフィーが飾られていた 血に飢えたオーク達が昼夜なく不気味なうなり声を上げるオルクスディアの砦から盗んだオリハルコンのナイフ
    優秀な鍛冶師でもあるオークの中でも達人級の者にしかなせる見事な作りで 彼らの王族に代々伝わったものだった -- 2017-10-17 (火) 15:39:24
    • またある時は魔術師教会へ忍び込んだ 実験に使われ、廃棄された魔法の薬がしみこんだ危険な排水路を通り
      魔術的に施錠された鍵を、枠をはめ込んだレンガごと削り取って侵入した
      司教の指輪をスリとるのはとても楽だった 白い布を次ぎはぎにしたものを頭からかぶり、信者の子供のふりをして祝賀祭のパレードに加わった
      あとはできるだけ列の先頭にたって、司教の抱擁を受けるだけでよかった 実に簡単なことだ
      そんな宝を少年が薄暗い地下の部屋に飾られたままにしてあるのは、宝があまりに大物すぎて買い手がつかないからだ
      もちろんそれを承知で、盗んできたのだが-- 2017-10-17 (火) 17:11:20

      • ある時は少年はこんな噂を聞きつけた セプティム皇帝からその宝を盗み出した凄腕がいるらしいと言う話だ
        あちこちの物乞いや事情通に金を握らせて聞きだした話しではその達人は「ギルド」と呼ばれる組織の一員で
        こと隠密行動にかけては大陸で一番だと言われているのそうだ それからの二年間、少年はその男を探し回った -- 2017-10-17 (火) 17:26:10

      • そこはずいぶん殺風景な部屋だった 数々のお宝が所狭しと飾られているのを想像していた少年はがっかりした
        粗末な木のテーブルにはつきたてられたナイフが一つとたったの銀貨が六枚 あとはいくつかの着替えや空の酒瓶、それに初歩的な開錠の道具ばかりで大したものはない
        仕方なく少年は部屋の主が戻るを待った 程なくして扉が開き、ろうそくに火がともり部屋を照らすと 部屋の主は無表情に言った
        「こんな所で一体何をしているんだ?」 すると少年は返す「ドロボウに入った でもここにあるのは銀貨がたったの五枚だけ」
        「なるほど、盗れる物が無くて観念したのかい?」男は笑って言った しかし少年はまた言い返す「いや、あんたから盗む 泥棒の技術を」 -- 2017-10-17 (火) 17:44:47

      • 「だめだね」男は短く答えた 「ここを見つけたくらいだ 君はもう十分、技術を持っている それにギルドは仕事で盗む 君みたいに楽しみで盗むわけじゃないんだ」
        「そうかい、だったらこれから宿に戻る そしてここの事を話してやる」そういって少年は窓から身を躍らせた 壁をすべるように降り、猫のごとく屋根に着地した 野犬の騒ぐ薄暗い通りを全速力で走りぬけ、壁を乗り越えて 飛び上がった先は宿屋の二階
        少年が今夜の宿を取った部屋だ しかしほっと一息をつく間も無くそれを飲み込んだ
        男がそこに居た 完全に撒いたと思ったのにだ「まさか、どうやって先回りを?」「君が犬に吼えられ驚いた時さ」
        少年は両手を上げた「あなたの勝ちだ そのすごい技術ならなんでも盗めるはずだ 本当は何か物凄い計画をしてるんだろう? ギルドにいれてくれよ」
        「ギルドに入りたいなら入れてやる、だが三つの約束を覚えてくれ」男の言葉に少年は頷いた -- 2017-10-17 (火) 18:04:40

      • 一、ギルドの者は仲間に隠し事をしたり盗みを働いてはならない 犯したものは死を持って償う
        一つ、貧民から盗んではいけない その代償は金で支払われること
        一つ、盗みにあたり相手を殺してはいけない その代償は血で支払われること
        -- 2017-10-17 (火) 18:06:47

      • それから少年は男の口から壮大な計画を告げられ、目を丸くした そして心の底から男に畏敬を抱いた
        しかし同時に少年は優越感にも浸っていた やがてギルドに迎えられたその後、少年はポケットの中の銀貨を、溶かした金で上から覆って適当な印をつけてお守りにした
        それからしばらくの間、少年は男と共に過ごし、盗賊の技と掟とを叩き込まれるのだった -- 2017-10-17 (火) 18:21:33
      • 新月の冬至の晩 何十年かに一度しかない絶好のタイミングだった その日はもっとも闇が深く、「彼女」を呼び出すには最高の状態だった
        盗賊にも神がいる それは色無き世界から現れ、盗賊たちに一瞬のひらめきと幸運をもたらすと言われている影の女王だ
        男と少年は女王のために建てた聖堂で儀式を執り行った 無数のカラスの羽を敷き詰めた、抜け穴付きの祭壇の中に少年は身をひそめ
        男は祭壇の外から女王の注意をひきつけるという手はずだった
        祭壇は棺のような形で、そこにつめられた羽毛のおかげで普段寝ているベッドよりも快適なほどだ
        後はエルフの魔術師が施した儀式が上手く行くことを祈るだけだ-- 2017-10-17 (火) 18:55:42

      • はたして儀式は正確に執り行われた 闇蛙の油で固めた17のロウソクが風も無く消え 色無き空間が現れる
        青白くおぼろげな輪郭をした存在がそこから現れるのだった 闇の女王ノクターナル 彼女は厳かに祭壇に進み出て言った
        「わらわに捧げられし者はいずこに?」 その深く、耳元で響くような声に少年は恐れを抱いた
        捧げ者だって?そんな話は聞いていない だがここで逃げ出しては計画は全て台無しだ
        少年は金のお守りを取り出しじっと成功を祈った 「おお、そこか 殉教者よ わらわの愛の抱擁を授けよう」
        闇の女王は黒い衣を脱ぎ捨て、裸になり祭壇の前へと進んだ カラスの羽が一斉に舞い上がり少年をあらわにした
        愚かな事に少年は盗賊の神の前で盗みの成功を祈ってしまったのだ 間違いに気付いた時にはすでに何もかも遅かった
        秘密の抜け道を使うことなく、少年は闇の抱擁を受け、その体が徐々に色の無い世界へと消えていく
        しかしその最中、僅かにのこった理性で女王の背後を見ることができた そこに脱ぎ捨てられたはずの黒衣は綺麗に消えていた
        少年は確信した そう、事は成ったのだ 闇が祭壇を多い尽くし、後に残されたのは歪なお守りだけだった


        物語の最後に黒衣を手にした男はこう言ったそうだ
        「ダー・フェンザーの話はおしまい」 -- 2017-10-17 (火) 19:31:05

Last-modified: 2017-10-28 Sat 01:28:39 JST (2372d)