夏休みの話(仮) Edit


  • 少女の柔い髪が、風に靡く。
    横からの夕日にきらめいて、長い金髪は綿飴の糸が宙に溶けるように
    漂っている。
     黒々とした床の上、壁も天井も無い場所で、少女は髪を抑えながら
    足を投げ出して座っていた。
     屋根の上であった。
     赤い夕雲が、木々の梢の上に連なって展望台の上に立ったような眺
    めである。
     少女の隣に、髪を短く切りそろえた以外は、瓜二つの少女が座る。
     そして、手招きをした。
     招かれて、Tシャツにジーンズの日焼けした少年が2人の側へ行く。
     少年が、長い髪の少女の横に座ると、短い金髪の少女が立ち上がり、
    長い髪の少女と挟むようにして少年の横に座った。
     風になびくメイド服の長いスカートを抑えながら、3人に向けて侍女
    はシャッターを切った。
     遠い昔の日の事である。
     山深い館の屋根で、双子の少女と、海辺の少年がいた。
     半世紀も前のある日の夕暮れであった。





    •  アミとロワナの姉妹が、山の中にある館へ行く日の早朝であった。
       燃え上がるように赤い水平線を背に、少女が一人海の上にあった。
       まだ暗い海の上を、機銃を据え付けたボートで高い波を乗り越える。
      顔にかかる飛沫の向こう側を睨む目は、淡い金色に黒い瞳孔が大きく
      開いていて、獲物を凝視する猫科の肉食獣を思わせた。
       未明の海にある、遠くの漁船の明かりを横に通り過ぎて、一直線に
      黒々とした陸地を目指している。
       少女の背を追うように、遠く爆音が響く。彼女は振り返る事はなく、
      猟犬のような目つきで、ゆっくりと迫る山影を睨んでいた。
       牙を剥くように唇をあげると、唸るように噛み締められた、まさに獣
      の牙があった。




  •  その館は、草木に埋もれた定かならぬ砂利道の果てにあった。
    灰色の煉瓦壁を、蔦が覆い隠すように絡みつき。切妻屋根の横にそび
    える、低い塔の屋根が槍のように夏の空へ伸びていた。
     館を囲う高い槍柵の向こう側は、夏だというのに下生えもまばらで、
    黒々とした土は焦土のようである。青空の下にあってなお暗いその館
    はまるで、手の届かぬ蒼穹を井戸の底から恨めしげに見上げているよ
    うで、主を無くして半世紀以上を経ているというのに、時を止めた静
    寂の中に形をとどめている。
     アミとロワナは、背の高い雑草をかき分けて、錆びついた門扉に手
    をかけた時、窓に人の姿を見た。
     長い年月を閲し、今は死のような静寂と影を住まわせ、幻夢の井戸
    の底へ沈む館の中に、幻とはいい難い確かな実在を感じた。
     廃屋の窓辺に立つ少女に、不思議な懐かしさを覚え、自分たちと同
    じ色の瞳が、こちらを見つめ返しているのに気づく。
    そして、2人は門を押し開けていた。



    • 遠くで少し寝坊をしたニワトリの鳴き声が聞こえる。太陽はまだ山の向こうから顔を出したばかり
      朝の空気はまだ涼しいが、空に見える雲は僅かで今日も暑くなる予感をさせる
      そんな事を思いながら二人の少女は歩いて行く、舗装のされていない海辺の田舎道をてくてくと

    • んー、今日もいい天気になりそうなの。あ、おはよー -- ロワナ
    • (少女の声に応じ草むらから白い影がゆらゆらと手を振り返す
      おぼろげな姿のゆらゆらと揺れる不思議な白い影)
    • おっはよーう! -- アミ
    • (ロワナの横でアミも手を振る)
    • おや、ロワナちゃん、アミちゃん。早いねぇおでかけかい?
    • (2人の後ろから、大きな籠を背負ったおばあさんが声をかけてくる。
       お隣さんちのおばあちゃんである)。
    • あかぎのおばーちゃんおはよなの
      うん、アトイちゃんとクレハちゃんのおうちに遊びに行くの♪ -- ロワナ
    • (大きく頭を下げると手にもった包みを掲げ満面の笑み)。。
    • 気をつけていってらっしゃい。
    • 行ってきますなの! -- アミ
    • (元気よく返事をする、双子のような姉妹を、老婆は見送ると、白い
      もやもやの横を素通りしていった。
       そこに何かいるのを気づいていないのである)

    •  (そして、2人がたどり着いたのは、あかぎおばあちゃんとは反対側
      のお隣さん、アトイとクレハの家である)
    • んー………ああ、おはようございます…。 -- アトイ
    • (アミとロワナの元気の良い返事に、アトイさんは生返事を返す。
       和装のミニスカートで足を組んで縁側に座り、ちいさな膝の上に肘
      を乗せて、手のひらの上に顎をつける、あまりお上品でない座り方で
      ある)。
    • ふに? アトイちゃん元気が無いね? -- ロワナ
    • うん…ちょっと色々とね…? -- クレハ
    • (何かテンションの低いアトイ。アミと顔を見合わせた後クレハへと疑問の視線を投げかける
      そんな視線に、これまた微妙な表情を浮かべながら二人に麦茶をお出しするクレハさん)
    • 色々とー? ありがとうなの♪

      アミ、アトイちゃんもクレハちゃんも何か変なの…どうしようか? -- ロワナ
    • (曖昧な答えにまたアミと顔を見わせるロワナ。麦茶を受け取ると
      アミと相談モードへ)
    • んー…。 -- アミ
    • (汗をかくグラスの麦茶に口をつけながら、横目でアトイの様子を伺
      うアミ。
       いつも飄々として余裕綽々で能天気なアトイは、縁側で足をぶらぶ
      らさせたまま何やら考えこんでいる様子である)
    • とりあえず…誘ってみる? -- アミ
    • (反対側にいるロワナに目配せしつつ、アミは頷く)。
    • うん、とりあえず誘ってみるの。何事も挑戦するのが大事っておじいちゃんも! -- ロワナ
    • (祖父の言葉は偉大だ。こくりと頷き合えば相談の結論が出た所で誘いを持ちかけてみる)
    • ねぇねぇ? アトイちゃんクレハちゃん
      山の方におっきな屋敷があるの知ってるー? -- ロワナ
    • ん…大きな屋敷…? 教会の大掃除の時に聞いた様な聞かない様な……
      それがどうかしたのかしら…?。。 -- クレハ
    • 今日ね、探検行こうって思ったの!
      ほんとは山の奥の方にあるから、いっちゃダメーって言われてるんだ
      けど…みんなよく遊び場にしてるし。幽霊とかよくでるよ! -- アミ
    • ふんふん、探検それは面白そう……幽霊…? -- クレハ
    • (その単語を聞いた瞬間、クレハの動きが止まる
      そして白い肌からサーッと血が引き青ざめた)
    • クレハちゃんどうかしたの? きっと探検楽しいよ? -- ロワナ -- {
    • 無理無理無理無理無理…私、幽霊とかお化けは無理なのぉ〜…… -- クレハ
    • (顔を蒼くしたまま手をパタパタ大きく振りなさるクレハさん)。
    • (お化け苦手だったんだ…、とアミとロワナが顔を見合わせ、アトイ
      の方を振り返る。
       今度は、右膝の上に左足を乗っけて、左膝に肘を突いて手のひらに
      顎を乗っけていた。
       およそ美少女がやる座り方ではない)
    • クレハさんが行かないなら、私も遠慮しておきましょうかねー。 -- アトイ
    • (そう言うと、アトイは縁側にゴロリと寝転がった。  まったく動きに落ち着きのないことである)
    • しょうがないにゃー。。 -- アミ
    • しょうがないにゃー -- ロワナ
    • (顔を見合わせた後、仲良く肩を竦めるアミロワ姉妹)
    • うん、今度また別の時に遊んでね? -- ロワナ
    • ええ、ごめんね…? また今度…… -- クレハ
    • なんかよくわかんないけど、元気だせーアトイちゃーん。 -- アミ
    • は゛な゛つ゛ま゛ま゛な゛い゛でく゛れ゛ま゛す゛か゛。 -- アトイ
    • (縁側に寝っ転がってたアトイが鼻声を出した)
    • アトイちゃん面白い顔なのー♪ -- ロワナ
    • まぁまぁ、アトイさんも悪気は無いのよ…今日は日が悪かったの…ね…? …ぷふっ…… -- クレハ
    • (同意を求める様にアトイを見つめればため息を吐いて
      …でも面白い顔なのでちょっと吹いた)。。

    • (アトイ達の家を後にしたアミロワ達は、村の背後にある山へ向かう
      道すがら他の友達にも声を掛けてみたわけだが…)
    • みんな忙しそうだねー、やっぱり夏休みもうすぐ終わりだからかなー。。 -- アミ
    • かもしれないねぇ、でも今日はなぜかみんな忙しい気がするの…… -- ロワナ
    • (あの後二人は学校の友人達の家々を巡り歩いていた。しかし、結果は惨敗)
      (今日に限って皆なぜか用事や外出で二人の誘いを受ける事が出来ない状態だった)
    • (ちはやは家族との用事で街へ外出中。兄貴は山で収穫作業の手伝い)
      (悪ガキコンビオリバーとサムは、命がけのミッションの最中)
      (……いや父親達に追われていただけだが)
      (しらせ君はカブトムシをじっと見つめたまま観察中だと示された)
      (すみちゃんは自由研究なのか手伝いなのか漁船の上から手を振っているのを目撃した)。。
    • しょうがない…2人でいこっか!。 -- アミ
    • んー…そだねー、もう二人で行くの! そうと決まればれっつごー♪ -- ロワナ
    • (アミと手を繋ぐと幽霊屋敷のあると言う山の方へと足を向けて)。。

    • (木立の上に、山腹を切り開いて立てられた教会の屋根が見える。
      振り返れば、海へ向かってなだらかに傾斜した村の全景が見えた。
       分かれ道を、林道へと続く方へ進んでいくと程なくして舗装された
      道路は終わり土の道になる)
    • お昼どこで食べようかなー。 -- アミ
    • (アミは、歩きながら水筒に口をつける。
       下生えの短く刈り込まれた、太い杉の林を風が吹いてきて、長い金
      色の髪を揺らした。
       日はすでに高いが、林道の木陰道はなかなか居心地がいい)。
    • うーん、御屋敷の中に食堂があったりするかもーあむ、アミもたべる? -- ロワナ
    • (ロワナの方は飴玉を口に放り込むと、飴玉の入った缶を妹に差し出す)
      (のんきに言葉を交わしながら姉妹は歩を進める)
      (都会の子には不慣れな土の道も二人にとっては慣れた遊び場)。。
    • …中かぁ…かび臭くないかな。下の沢の方のがいいかも?
      ん、ミルク味。 -- アミ
    • (口に放り込んだ飴は、アミの好きな味だった)
    • (言葉をかわしつつ林道を進んでいくと、周りの木々は杉から、広葉樹の
      雑木の森へと代わり、道は、奥の登山道へと続いている。
       2人の目指すお化け屋敷は、ちょうど更に奥の山への入り口近くに
      建っていた。
       細くなった林道の横に、錆びついた鎖が垂れ下がる脇道があった。
      立入禁止を示す鎖は、口を開けた洞窟のような脇道の入り口で、節く
      れた木の間を渡されている。
       大きな蜘蛛の巣が鎖の上にかかっていた。
       もう長いこと誰も触れていないのだ。
       そして、この鎖が、何の障害にもなっていない事は、村の子供達の
      公然の秘密である)。
    • 入口付近も匂うもんね、じゃあ沢で…あそこなら涼しくていいかも? -- ロワナ
    • (蜘蛛の巣を払いながら鎖を乗り越えさらに道を進んで行く
      鎖は子供達にとって道を塞ぐ障害にはならないが
      アミとロワナだけは感じていた。鎖を境界線として空気が変わる事を)
    • …お化けの庭に入ったね -- ロワナ
    • (アミの手をぎゅっとにぎりながらロワナが呟いた
      霊的感覚の鋭い二人にとってお化けや怪異は日常的な存在
      それでも、領域に入る事は何か特別な事な気がして)。。
    • いつ来てもひゅっ!てするねぇココ。 -- アミ
    • (ロワナの手を握り返して、アミは足元の砂利を覆い隠す茂みへ足を
      踏み入れる。
       手入れも何もされていない脇道は、今は草に埋もれ隠される。
       山の獣は、下生えに隙間のあるような場所を獣道としてよく利用す
      るものだが、ここには獣すら通わないのだ。
       洞窟のようになった森へ踏み込むと、温度が低くなり、日の明かり
      も遠のいた)
    • …あれ? -- アミ
    • (何度も訪れたことのある、少しだけ危ない遊び場に、何故か今日は
      今までになかったものを感じたのは。この小道が、街灯の消えた深夜の
      路地や、人の居ない校舎と同じ不気味さに満ちているからではない)
    • なんか…いつもと雰囲気違う? -- アミ
    • (アミは確認するように、ロワナの顔を見る)。
    • うん、いつもと何か違うの -- ロワナ
    • (動物や小鳥達の声が無く静まり返っている
      形あるものだけない。森の精や霊等の形無き者達も身を潜めている
      なのに、空気だけは何かざわめいていて)
    • 静かなのに、なにかわさわさ…ううんだらだらしてるの -- ロワナ
    • (ロワナ得意の擬音語表現。これは仕方の無い事
      霊的感覚を子供の語彙で言葉にするのは難しい事なのだから
      しかしそれでも言葉に出来る事がある)
    • きっとお化け屋敷で何かあったの。。 -- ロワナ
    • うん! -- アミ
    • (頷き合うと、2人は草をかき分けて進んだ。
      高い槍柵に囲われた、薄暗い焦土のような庭に立つ館が見える。
       夏の昼間だというのに、セミの声もない。
       曇っているわけでもないのに、影の差したように暗い)
    • …!ロワナ、窓の所…。。 -- アミ
    • アミ?窓の所…あ…!? -- ロワナ
    • (青空の下にあってなお暗い屋敷
      槍柵に囲まれたそれは小さな姉妹にとってそびえ立つ城の様で
      しかし今は主無き廃城。主無きはずであった
      姉妹が見上げるそこには確かに主の姿、窓辺から二人を見つめ返す少女の姿がある)
    • …アミ行ってみよう。。 -- ロワナ
    • …うん! -- アミ
    • (そして、錆びついた鉄扉は、小さな手によって押し開けられた)。




  • (アミとロワナの家も、決して小さくは無い田舎の日本家屋なのだが、
    目の前にそびえる館の半分ほどの大きさも無い。
     人が住まなくなって、半世紀以上が経っているという噂だが、ゴシ
    ック調の館は、何百年も前からここに立っていたような重厚感を漂わ
    せ、要塞のように近づくものを威圧した。
     崩れ落ちた西側の棟が、左手にある。
     崩れ落ちた石組みの瓦礫山から、格子状の黒い骨組みがつきだし、
    蔦と苔に覆われていた。
     それだけで、小屋1つ分はありそうな館の玄関アーチに入り込むと、
    アミとロワナは 玄関の扉に体を押し付けるようにして開く。
     錆びついたノッカーを咥えた、鉄の獣が2人を見下ろしている)。
    • …こんにちわー? -- アミ
      • (吹き抜けになったエントランスホールは、いかにも古風な屋敷のつ
        くりで、孤を描く長く高い階段は、人が両腕を差し出す様に伸びる。
        円形のホールの床には、埃の積もったむき出しの大理石が、黒々として
        広がるばかり。
         天井には、かつてホールを照らすシャンデリアがあったのだろうが、
        今は取り払われて何も無く、がらん堂のホール内は、些細な物音で
        すら大きく響く)。
      • 誰かいるー? -- アミ
      • (不気味な程の静寂の中に、ふたたびアミの声が反響した)。
      • ねー誰かいるんでしょー? -- ロワナ
      • (今度はロワナの声がホール内に響き反響する
        声は静寂の奥へと吸い込まれるばかりで、二人への返答は無く)

      • …むぅ、返事ないね、上の方行ってみる? -- ロワナ
      • (白い影があったのは上の部屋。返事が無いならばこちらから
        高い高い天井を指差しながらアミに問うて)。。
      • 行ってみよ。 -- アミ
      • (石造りの階段を上がり二階へと登る、
         階段は硬く、石造りの壁は冷たい。
         来る度にアミは思う、ここは屋敷というより牢獄のようだと)
      • 二階…だよね、誰か居たの。 -- アミ
      • (廊下には窓が並んでいるが、薄暗かった。
         アミとロワナが館に入った後、にわかに天気が変わり、雨でも降り
        だしたかのように。
         窓の外には青い空の広がっているのが見えていたが。眩しさも熱も
        感じられなかった。
         窓に、絵がはまっているだけのような…手の届かない、遥か遠くに
        あるような…)。
      • やっぱりいつもと違う感じだね? どの部屋だったかな -- ロワナ
      • (絵画の窓を片手に求める部屋を捜し廊下を進む
        何度か入った事のある屋敷内、なのに今日は迷宮に入ったかのように感じ
        まっすぐな廊下すらだまし絵の様に傾いでる様で
        古びた廊下は時おり壊れた弦楽器の音を奏でる)。。
      • 二階の部屋、たしか全部空き部屋だったよね…。
        ううん…なんかちょっと危ないのが、居る感じしてきた………あれ? -- アミ
      • (アミはロワナと手をつないだまま、1枚のドアの前で立ち止まる。
         廊下に等間隔に並んだ、無機質な真っ黒なドアである。
         いつもの遊び場に満ちる違和感を、その扉が強烈に示しているような
        気がする)。
      • ここだね? えーっと、誰かいますかー? -- ロワナ
      • (霊的に敏感な二人ですらこれまで感じた事の無い感覚
        いつもならば容赦なく飛び込む二人ですら、何か戸惑いをの様な物を感じ
        恐る恐ると扉の向こうにいるであろう少女に呼びかけてみた)。。
      • ここドアあったっけ? -- アミ
      • (静まり返ったドアの前で、アミがぽつりつぶやいた瞬間だった)
      • ひゃぁあ!? -- アミ
      • (アミは、背中に氷を滑りこまされたような悲鳴をあげた。
        その腹から白い誰かの手が生えて、ドアノブに指をかけている)。
      • え?無かったかも…ひゃぁあ!? アミ!手!手が増えてるのー!? -- ロワナ
      • (自分でも何を言っているのかわからない混乱状態
        ただわかる事は妹のお腹にもう一本腕が増えていると言う事)
      • えっと、えっと…引っ張るのー! …あれ? -- ロワナ
      • (とりあえずその腕を引っこ抜こうと掴むが…スカっとすり抜けた)。。
      • ほぁぁぁ!?ひやっとするぅ!! -- アミ
      • (アミの腹から生えた手は肘まで伸び、胸のあたりから肩が出る。
        するり、とアミの体を通り抜け、人影が、開いたドアの隙間から部屋
        の中へ飛び込んだ。
         ドアは音を立てて閉められて。あっけに取られる2人の前で、また少
        しだけ開かれた…)
      • ………………。
      • (隙間から、アミとロワナと同じ、淡い緑色の瞳がじぃー…っと、み
        つめていた)
      • (…どうしようロワナ、めっちゃ見られてる。) -- アミ
      • (こそこそと、アミがロワナに囁く)。
      • (…うん、めっちゃ見られてるの……) -- ロワナ
      • (これまたこそこそと囁き返す
        二人が相談している間も姉妹と同じ色の瞳はじっと二人を見つめ返していて)
      • あのー…部屋に…… -- ロワナ
      • (とりあえずコミュニケーションを取ろうと声をかけて)
      • (しばし場を沈黙が支配した。
         しかし、無言ではなく。扉の隙間から覗き見ている何者かは、ぶつ
        ぶつと唱えるように何か呟いている)
      • もしもーし? -- アミ
      • (アミがそう声を掛けて、2人で身を乗り出し、顔を近づけると…。
         伝わらないことに苛立ったのか、相手が若干声量を上げてきた。
        それでも、蚊の羽ばたきよりもか細い声で。何を言っているのかさっ
        ぱりである。
         アミとロワナは、顔を見合わせて頷く。
         その時、ドアの隙間でもう一段声量があがり)
      • …カエr
      • おじゃましまーす!。 -- アミ
      • おじゃましまーす! -- ロワナ
      • 「「どーん! わっ?わわっ!?」」
      • (仲良く三式d…ではなく扉を押し開けて部屋へと飛び込む二人
        勢いよく行きすぎたのか、飛び込むから転がりこむ様に部屋へと……)。。
      • うわーっ!?
      • (そして、2人に突進されて中で転がったのは、まつげばっちりな、
        真っ白い幼女ではなく。
        おかっぱで、黒い振り袖のいかにも幽霊のような少女である。
        古びた洋館に取り付くイメージとも違うし、和装のおかっぱなのに金髪
        なのが、これもまたミスマッチだ)
      • (というか、さっきアミの体をすり抜けたのに、なぜ今転がっている
        のだろうか。
         しかも、転げた拍子に、バサバサと派手な音を立てて何かを崩壊さ
        せている)
      • あやー…ちょっと失敗。ロワナ大丈夫?…お? -- アミ
      • (目の前で、仰向けに転がったおかっぱ少女に上に、バサリッと落ちた
        のは、アミとロワナもよく知る漫画雑誌であった)。
      • ふぃー…私は大丈夫なの、アミこそ大丈…わ?わわっ?
        この部屋なに? 漫画でいっぱいなのー? -- ロワナ
      • (乱れた髪を整えながら妹に返答するも
        会話よりもその部屋に満ちる漫画の山に驚きの声が出てしまう
        アミとロワナの知る漫画雑誌は当然ながら、この村では入手の難しい漫画雑誌まである)
      • わ、この雑誌、テレビのCMでしか見た事が無いのーしかも最新号なの! -- ロワナ
      • (飾り棚を見れば雑誌付録のフィギュアまで並んでいなさる)。。
      • おお…ゲーム機もいっぱい…。 -- アミ
      • (無論PCもある。
        石造りの大きな室内には、2つ並んだ天蓋付きのベッド。
        3面鏡を備えた本格的なドレッサーは子供用なのか、丈が短い。
         アンティークといって差し支えない豪華なタンスや蝋燭台があり、高
        い窓にかかる、刺繍入りの真紅のカーテンも、床のペルシャ絨毯も朽ち
        る事無く鮮やかな色合いだ。
         そして、それら豪華な家具や、伝統的なビスクドールの合間を埋める
        漫画、BDBOX、雑誌付録のフィギュアに、閃いて乱れる感じの美少女
        くのいちのフィギュアの一群や、全長80センチくらいある棒を装備した
        白いロボット。その横にあるのは漬物石にでもできそうな位の、そこは
        かとなく恐竜っぽいデカブツロボフィギュアである。
         たぶん核弾頭とか装備してる設定だ)
      • …おお…でっかいレックス…。 -- アミ
      • (古今の玩具がごった返すその部屋は、まごうことなき子供部屋であ
        った)
      • ぐ、ぬぬ………!カエレ!って言ってんでしょ!!
      • (そして、その部屋の主は、頭から分厚い雑誌を落としながら
        起き上がった)。
      • たくさんあるの、あ、縞だ……起きた? -- ロワナ
      • (みっくみっくにする感じの大型フィギュアを下から覗きこみなさるロワナさん
        アンティークなビスクドールとフィギュアの並ぶ不思議な光景の中を夢中でうろうろする姉妹だが
        カエレ!の言葉でやっと主の事を思い出した)
      • ねぇねぇ?これ全部おねーちゃんが集めたの?凄いの! -- ロワナ
      • (起き上がった振袖少女の側にひょこひょこと寄って行く姉妹
        振袖少女と同じ色のその瞳には恐怖よりも好奇心で輝いていて)。。
      • ハァ!?
      • これ来週のチャンピオンじゃん!ねぇねぇ、ちょっと読んでもいい!? -- アミ
      • (アミの方は、金髪のおかっぱ少女が突っ込んだ、雑誌の山の中から、
        愛読誌の最新号を見つけて、キラキラとした瞳を向けていた)
      • はぁぁ!?
      • ああ、もう!あんたたち!大人しくしなさい!呪い殺すわよ!!
      • (さらさらとした金髪を、短いおかっぱに刈り込んで。
        黒い生地に黒いイモリ模様の振り袖を着た少女が、立ち上がって
        腰に手をあてながら一喝した。
         そのつま先は床からわずかに浮き上がり、振り袖や着物の裾は、煙が
        虚空へ消えるように、ゆらゆら、と黒く立ち上り霞んでいた)。
      • わっ、怒ったー…あ、やっぱり透けてるの? -- ロワナ
      • (少女が怒りを見せた事に驚くも。それよりも少女が透けている事に興味が行って)
      • ひんやり…お姉ちゃん本当に幽霊なの? -- ロワナ
      • (透けている部分に手を突っ込んでみるロワナさん
        少女の身はまるで冷蔵庫に手を入れた時の様に冷たくて)。。
      • 和服だねー、ドレスとかじゃないんだー?ほぉぉぉう!ひゃっこい。 -- アミ
      • (アミも一緒に手を突っ込んでプルプルとしている。
         幽霊の少女の方は、触んな!というように身を翻してふわり逃げた)
      • (そして今度は、ベッドの天蓋の上から顔を覗かせて、2人を睨むように
        しながら様子を伺っておられる。
         なんか猫みたいだ)。
      • あ、逃げちゃった? えっと、どうしようか? -- ロワナ
      • (ひらひらと天蓋の上と逃げ込む少女を見ながら、まるで猫が逃げ出し方の様な物言い
        少女からの威嚇を受けながらどうしたものかと暫し相談して)
      • んっと、自己紹介なの! わたしはロワナ、万丈ロワナ!。。 -- ロワナ
      • 私は万丈アミー! -- アミ
      • …万丈…。
      • (毛を逆立てた猫のようだった少女が、低く伏せていた身を起こした。
         今度は警戒ではなく、驚きをもって見つめる瞳に、哀しみとも怒り
        ともつかない、懐かしい光景を遠望するのにも似た色が浮かんでいる
        ようでもあった。
         それも一瞬のことだけで。
         少女は音もなく、アミとロワナの前に、黒い羽が落ちるように降り
        てきた)
      • 双子なの?
      • んーん、ロワナが1個上だよ。 -- アミ
      • (警戒していた野良猫が近寄って来た時に似た嬉しさでもって、アミは
        笑顔で答える)。
      • うん!ロワナの方がお姉さんなのー♪(えへん) -- ロワナ
      • (ふわりと舞い降りて来た少女の元によれば満面の笑みと共に言葉を返せば
        金色の髪がふわふわと楽しげに揺れて)
      • お姉ちゃんのお名前はー?。。 -- ロワナ
      • …ネオン。 -- ネオン
      • (ネオンは、むすっとした表情で2人から目を逸しつつ名乗った。
         人の目を見て話すのが苦手という、ひきこもり精神故である。
         あるいは、懐から取り出したスマホで何か調べているせいか)
      • 何見てるの? -- アミ
      • 今日の日付。 -- ネオン
      • 日付わかないなの?? -- アミ
      • やめてよ、なんか私が、世間からドロップアウトして今日が何曜日か
        もわかんない引きこもりみたいじゃない。 -- ネオン
      • (じっさい部屋の中の有り様は、ひきこもりのオタク部屋そのもので
        ある。アニメキャラプリントの抱き枕まであるんだから)
      • (ため息を一つつくと、アミとロワナを横目に見ながらネオンが低く
        呟くように言う)
      • あなた達の母親…じゃないね、時間的に…祖母かな?
        レインって…言うの? -- ネオン
      • ふに? うん、ロワナ達のおばあちゃんはレインだよ
        もしかして、ネオンお姉ちゃんは、おばあちゃんの事知ってるの? お友達さん? -- ロワナ
      • (アミに同意の視線を送った後、何度も首を傾げる姉妹
        目の前の少女は自分達よりもほんの少し上程度の年齢にしか見えないが
        幽霊ならば大昔(?)の事を知っていても不思議ではないと)。。
      • そういえば、ネオンおねーちゃん、おばーちゃんの若いころの写真に
        そっくり…おあっぷ!? -- アミ
      • 知り合いよ、ただのね。それはくれてやるから余計なこと聞かないで。 -- ネオン
      • えーなんでー? -- アミ
      • (投げつけられた漫画雑誌は、ありがたくいただくことにしたが。
        それはそれとして、興味はすっかり目の前の幽霊少女に移っているア
        ミロワちゃん達である。
         そう簡単には引き下がらない、子犬が人の服すそを噛むように、無邪
        気に食い下がる)。
      • えーなんでー? -- ロワナ
      • (アミと並び食い下がるロワナ。双子ではないが並んで立つ姿はそっくりで
        姉妹の瞳はどちらも好奇心でキラキラと輝いている)。。
      • (不機嫌を隠そうともしない表情で、眉根にシワを寄せるネオンさん。
         間違いない、子供が苦手なタイプな人である。
         しかし、何か思いついたように上品な形の口を歪め、にたりと笑う。
         間違いなく、中身はガキなタイプである。見た目お嬢様なのに)
      • …ふん…そうねぇ…。 -- ネオン
      • それじゃあ、私が死んだ時の話しでもしてあげようかしら?
        私はね、館の火事で焼け死んだのよ?すごーく熱かったんだから…。 -- ネオン
      • (そういって、2人を覗きこむネオンの顔を見て、アミはひぃっ!と悲鳴を上げた)。
      • (ロワナもまたひぃっと小さな悲鳴を上げた
        覗きこむ顔が一瞬だが恐ろしい物へと変わったから。それはきっとネオンが体験した真実の姿)
      • …うー…いいですー -- ロワナ
      • (半泣きの顔でぷるぷると震える姉妹
        ネオンの迫力ある脅しは幼い姉妹にとって衝撃的すぎた)。。
      • へっはっはっは! -- ネオン
      • (手のひらを顔に当てながら、ネオンは愉快そうに笑う。
        その指の間に覗く頬の肉が、赤黒く焼け爛れていた)
      • …っと、何よ、そんなにビビらなくてもいいじゃない。
        泣きそうな顔しないでよ、泣いても謝らないわよ。 -- ネオン
      • (手をどけた彼女の顔は元の通りである。
         大人げなく、いたいけな少女達を脅したネオンは、少々やり過ぎた
        気配を感じて、子供のようにバツの悪そうな拗ねた顔をした)。
      • だってぇ……
        ネオンお姉ちゃんの事怒らせちゃったから…… -- ロワナ
      • (半泣きのままネオンを見上げる姉妹
        ネオンの脅かしに驚いた事もあるが……
        新しい友達を怒らせてしまった事の方がより悲しくて)。。
      • (アミの方もロワナと一緒に、泣きそうな顔で、上目遣いに見上げて
        いるのであるから。ひきもりのニートが家族会議の場に引きずり出さ
        れたような気まずい結界が、ネオンを捕縛したわけである。
         しかし、小学生2人を涙目にさせておきながら、反省するでもなく、
        『ああもうめんどくさい、だから子供って嫌だわ』とでも言いたげな
        ふてぶてしい表情を浮かべて目を逸らしておられる)
      • 別に怒ったりはしてないし、あなた達に怒る理由なんかないし…。 -- ネオン
      • (つか、鬱陶しいから泣くんじゃないわよ。とは、聞こえないように
        ごにょごにょ声を潜める程度の気遣いは、ネオンにも存在した)。
      • …ほんとにー? -- ロワナ
      • (ぼやきともとれるネオンの言葉
        上目遣いの視線のままにおどおどと問い尋ねる姉妹)。。
      • ほんとよ、ほんとー。ほら、全然おこってないしー。 -- ネオン
      • (ネオンが、ひきつった笑顔で無理やり笑って見せると。
        アミとロワナの2人は、ぱっと笑顔になって飛びつく。
         この2人、ともすれば若干うざいくらい人懐っこい、駄犬のような性
        格しているのかもしれない。
         しかし、2人のつきだした両手は、湯気に手を入れるごとくネオンの
        腹に入り込み、勢いあまって背中から飛び出して床に倒れこむ)
      • いっったーい!…なんでぇ?さっき触れたのにぃ。。 -- アミ
      • いたいの…なんでぇ? -- ロワナ
      • (起き向き直ると、打って赤くなった額をさすりながら首を傾げるロワナ
        そしてネオンの方に手を伸ばせば、確かめる様に触れようとして)。。
      • 気安く触るんじゃないの。 -- ネオン
      • (ロワナのデコを、ネオンの人差し指が弾くように押す。
         その指には確かに感触が、そして体温すらもあった。
         ネオンは得意顔である)
      • そこら辺の雑霊と一緒にしてもらっちゃ困るわ。
        いつ姿を表すか、触れることを許すのか、決めるのは常に私よ。
        人の干渉なんて受けないんだから。 -- ネオン
      • あーだから、今までここ来ても会えなかったのー? -- アミ
      • (大量の漫画やゲームが所狭しと陳列され、すわり心地の良さそうなリ
        クライニングチェアに、オットマンまで備えたPC周り。
         ネオンが昨日今日ここに住み着いたとは思えない品揃えであるから、
        アミの疑問はもっともである。
         机の上の食べかけの袋麺の袋に、割り箸が突っ込まれている。袋か
        ら直に食べてたようです)
      • とーぜん!あんたたちが私の家をうろうろしてたのは昔から知ってるわ
        ま、外界のことになんて今更興味ないしね。この部屋は隠してたけど。 -- ネオン
      • …引きこもりなの。。 -- アミ
      • …引き籠りさんのなのー? -- ロワナ
      • (同じ様な質問を投げつける姉妹。この村に引き籠りはいない
        たまにニャー先生が保険室や自室に籠る事があるがそのくらいだ
        それでも知識としては知っていて、それに当てはめるならばネオンは……)。。
      • 引きこもりじゃないですわよ!親の遺産とかデイトレで、ちょっと人
        生イージーモードすぎワロタ、なだけですしー。 -- ネオン
      • まぁーなんでもいいや、ねーねー、ネオンちゃん。
        もうちょっとここ居て良い?
         今日友達みんな忙しくて私達だけだし、お昼もまだだし。 -- アミ
      • (ちょうど時間は昼過ぎである、お弁当持参でやってきたアミとロワナ
        の2人が、お化け屋敷で発見したネオンの部屋は、程よく小奇麗で、空調
        も効いて居心地は抜群であった)
      • はぁん? -- ネオン
      • (黙っていればお嬢様然として、上品で儚げな雰囲気のネオンは、ぷ
        かぷかと浮かびながら、あまりお上品でない表情でアミを見る)。
      • ネオンお姉ちゃんともっとお話もしたいし
        だから…いい? -- ロワナ
      • (アミとは対照的にお嬢様な雰囲気のロワナだが、こう言う時は積極的だ
        姉妹仲良くお願いの視線を送るロワナ。同じ色の四つの瞳がじっとネオンを見つめ返す)。。
      • (そしてネオンは、同じ薄緑色の目を逸らす。
         逸しつつ、ふてくされたように答える)
      • だから人に見つかるの嫌だったのよ…。
        …まぁいいわよ、でも!私の事誰かにバラしたり、他の人間連れ込ん
        だら承知しないんだからねっ。 -- ネオン
      • はーい! -- アミ
      • (アミは即答した)。
      • はーい! -- ロワナ
      • (ロワナも即答した)
      • (そして早速とばかりに持ってきた包みを広げ始める姉妹。包みの中身はお弁当
        皆で食べようと思っていた物なので量もそれなりにある)。。
      • って、いきなり人の部屋でお弁当広げる!? -- ネオン
      • 他の部屋ほこりっぽいんだもーん、ネオンちゃんもお昼食べてたところ
        じゃん。 -- アミ
      • (アミがPCのデスクの上の、食べかけの袋麺を指さす。
         袋から割り箸が突き出ている)
      • …あれは新商品の味見よ、私は別に食べないでも死にはしないわ。 -- ネオン
      • じゃあ、これも味見であげる! -- アミ
      • んぐ!? -- ネオン
      • (また顔を逸しながら文句を言っていたネオンの口に、玉子焼きが放
        り込まれる)。
      • (放り込まれたのなら食すわ!とばかりに卵焼きをもきゅもきゅと咀嚼するネオンさん
        その姿をじっと見守る姉妹。そしてごくりと言う音が小さく響き)
      • お、おいしいじゃない -- ネオン
      • (照れ隠しの様に紡がれる賛辞の言葉
        その言葉に姉妹の顔がぱぁっと笑顔に代わる)
      • それアミが作ったんだよ、こっちは私が作ったの♪ -- ロワナ
      • (今度は小さなハンバーグ…ミニハンバーグをネオンさんの口に放り込むなさる
        新鮮な魚肉を使ったハンバーグだ)。。
      • お肉…じゃないわね。ん、そっちのは? -- ネオン
      • (ネオンは、ハンバークといえばお肉派なようである。
         しかし気に入らなかったわけではない、二人の肩越しにお弁当を覗
        きこんでいる。
         いい食い付きのよさである、物理的に)
      • ネオンちゃん食いしん坊さんなの、ごはん食べられるゆーれいさんって
        珍しいね! -- アミ
      • (そう言って今度は、アミが、アスパラガスのベーコン巻きをネオンに
        差し出した。
         爪楊枝にささったそれに、ぱくりっとネオンが食いつく)
      • ん〜!ちゃんとした料理って何十年ぶりかしらー。
        昔は、料理人もメイドも居たけど、長いこと一人だったから。 -- ネオン
      • ふむ、ネオンちゃんはお嬢様の幽霊なんだね。-- アミ
      • (辛気臭い表情ばかりしていたネオンが、お弁当のおかず1個で心底幸
        せそうになる横で、一緒に笑いながらおにぎりを食みアミが言うと)
      • お嬢様ね…その呼び方は好きじゃないわ。。 -- ネオン
      • ふに? じゃあ、普通の幽霊で!
        ネオンちゃんはネオンちゃんだもんね、あむ♪ -- ロワナ
      • (小さく首を傾げた後、嫌ならばそう呼ばない事に
        そう呼ばずともネオンはネオンであり、もう姉妹の友人なのだから
        それ以上は追及しないとばかりにロワナもおにぎりをぱくりと)。。
      • そうね、まぁ、それでいいわ。 -- ネオン
      • (ネオンは、二人の横に並ぶとひとりごとのように頷いた)。

アトイさん Edit





  • (幽霊屋敷での出来事から遡る事数時間前……
    舟屋ハウス内は微妙な空気に包まれていた
    ちゃぶ台を挟みアトイとクレハの前に鎮座するは長老、クレハの故郷の長老だ
    海の王、全龍、海神とも呼ばれる人物で…要するにかなり偉い存在だ
    予想外すぎる来訪者に困惑の表情を隠せないクレハ
    そもそも長老は割と面倒くさがりでこんな所に赴く事自体が珍しい)

    • (ちゃぶ台の上には、水滴をまとった、麦茶のグラスが3つあり。
      アトイとクレハの二人はまだ手を付けていない。
       長老様には麦茶と、あと水ようかん。
       老舗銘店のおみやげ用の奴である)
      • やー、それにしてもお久しぶり…というほどでもないですね。
        二週間くらい?前にもあったばかりですし。 -- アトイ
      • (お盆と法事の時くらいにしか、顔を合わせない親戚へのような話しの
        振りをしなさるアトイさんだ。
         アトイまで何故か緊張気味である。
         別に長老様が苦手なわけではない。
         長老様は、小学生並なアトイと似たような背丈で、悠久の時を生き
        てきたロリババァで、同じドラゴン仲間なので。アトイはむしろ常に
        親しみを感じているくらいである。
         アトイの母親の一人である、強壮なる古代竜アトリアと、長老様は
        知己であるわけだし)
      • そうじゃなー…大体そのくらいになるかのー? -- 長老
      • (極めてのんきに受け答えすると麦茶をズズーッと啜りなさる長老
        後ろに伸びた蒼の髪は流れる様で、薄絹の衣はこの暑さにあって汗で張りつく事無く
        そのあり様は悠々にして堂々
        他者の家にあって緊張無くくつろぐ様はまさに神か王の風格か
        そんな長老に奥する事無く接するアトイもまたやはり神々の眷族と
        そんな二人に対し緊張の表情消えぬクレハ。三人分の麦茶を運んだきり口数も少なく黙している)
      • クレハよ?そんなに緊張せずとも良いぞ?
        今日の目的はそなたよりもアトイの方にあって来たのだからな?
        まぁ…あんな場面を見られては、やはり乙女にとって恥ずかしいかのぉ?
        -- 長老
      • …! あ…… -- クレハ
      • (長老の言葉にぽぽっと赤くなるクレハさん
        あんな場面とはアトイとクレハにとっては日常的な事)。。
      • (朝食の仕度に台所に立つクレハを、先に頂いてしまおうと指とか指以
        外とか、色々絡ませて甘い雰囲気を醸し出していた所。
        ガラリッとリビングの戸を開けて、長老様が、邪魔するぞーと海から上
        がり込んで来たんであった。それがついさっき。
      • はぁ、私に用事ですか?あ、そのまえにレヴィアおかーさんお元気ですか? -- アトイ
      • ふむ?レヴィアなら息災にしておるぞ? 毎日元気に海を泳ぎ回っておる
        クレハの許可されあれば後妻にほしいんじゃがのぉ…お?冗談じゃ冗談じゃ?
        -- 長老
      • (クレハの抗議の眼差しに気付けば、カカッと笑い肩を竦める長老
        この長老どこまで本気なのかは分からないが、多くの神がそうである様に好き者でもあるようだ)
      • (それかクレハは神様的なものに好かれやすい体質なのかもしれない。
         人の世でも神の世でも、巨乳は強い)
      • 長老様のノリは相変わらずですー。 -- アトイ
      • (セリフのセクハラ率に関してはアトイも似たようなものである)。
      • …神様同士…波長が合うのかしら…… -- クレハ
      • (二人の神様に挟まれてふぅっとため息しなさるクレハさん
        多くの神話でそうである様に神様に好かれる少女は気苦労も多い)
      • かっかっか、ともあれ二人とも元気そうでなによりじゃ
        さて、そろそろ本題と行こうかの? アトイよ
        -- 長老
      • はい? -- アトイ
      • …? -- クレハ
      • (本題と言う言葉にアトイよりもクレハの方が緊張の表情を浮かべてしまう
        アトイとの交際の許可は以前故郷を訪れた際に貰っている
        それでも今になって長老が直接来訪したを見れば、何かあるのかと思ってしまうのは当然の事で)
      • そう緊張せずと良い…いやアトイの方はもう少し緊張しても良いが
        ん、こほん、アトイよこの辺りの守護神やってみんか?
        -- 長老
      • (極めて呑気に、そしてさらりと告げた)。。
      • 守護神ですかぁー。 -- アトイ
      • (アトイは冷静に答えると、麦茶を一口含む。
         半龍半神の身であれば、守護神をやれという話が来たとして、さも
        ありなん。まったく落ち着いている。
         むせた。むせまくって咳き込んだ。
         思った以上にびっくりしていた)
      • ぜひゅぅぅ…い、いきなりですね!?長老様。。 -- アトイ
      • …ひゃっ? あ、アトイさん大丈夫…? 長老様…? -- クレハ
      • (めっちゃむせたアトイの背をなで口を拭きながら長老へと視線を向ける
        その視線にはただただ困惑と混乱しかなくて)
      • まぁ、驚くのは然りじゃな、まずは順番に説明するかのぉ -- 長老
      • (波の形の杖を持つととある方向を指し示す)
      • あっちに社があるじゃろ? あれはワシを祀った社じゃ -- 長老
      • あっちの方っていうと…。 -- アトイ
      • (アトイとクレハの家の側にある、神社の方向であった。
         近所に越したのも何かの縁と思い。アトイとクレハの二人で修理し
        たことがあった)
      • ええー、あの社長老様のだったんですか。どうりで祀られてるご神体
        の気配がないわけですよ。 -- アトイ
      • いや、まぁそれはこの際いいんですが。
        長老様の気配すら感じなかったくらい、ここを不在にしてたじゃない
        ですか。
        でもここは平和だし土地も元気だし、いまさら世話しなくてもこのま
        までいいんでは…。 -- アトイ
      • (麦茶のグラスを静かに置きながら、アトイが言う。
         めずらしく消極的である)。
      • あの社…長老様のだったのですね……
        でも、なんでこんな所に…? -- クレハ
      • こらこら、そう急くな。順番に説明すると言っておろうが?
        まずはこれを見ろ
        -- 長老
      • (疑問や抗議の言葉をどっと長老に浴びせかけるアトイとクレハ
        そんな二人を制すると、長老は座ったまま波の杖で床をトンっと
        すると卓袱台の上に丸い球体が浮かび上がる
        半透明の球、その表面には図の様な物が。取引のために世界を飛び回るアトイにはわかる
        これは地図、この星の地形図だ)。。
      • はい…あ、これいいなーインテリアに欲しいかも。 -- アトイ
      • (怪訝そうな顔をしていたアトイが、ちゃぶ台に手をついて浮かぶ球を
        興味深げに覗きこむ。
         アトイさんはこういうおもしろ雑貨が大好きである)。
      • あ、ここがこの村ですね…? こっちは私の故郷の…… -- クレハ
      • いやいや、これはいんてりあでなく、この星の写し絵図の様なものじゃ
        視覚や感覚の拡張がわかるならばおまえさんにも…その講義はこちらにおこう
        クレハも座るのじゃ
        さて、これが千年から二千年程前までのワシの力の及ぶ範囲じゃ
        -- 長老
      • (もう一度波の杖をコンっすれば球体の表面が蒼の色で塗りつぶされて行く
        その範囲はほぼ海の全域にもおよび
        最盛期の長老の力が如何に大きかったが伺える)
      • そして…恥ずかしながら、これが今のワシの力の及ぶ範囲じゃ…… -- 長老
      • (さらにもう一度波の杖をコンっとすれば……
        塗りつぶされた範囲がぐんぐんと減って行く。減った後には別の色が
        それはまるで何かの侵攻か侵略図を見ているかの様で……
        やがて蒼の範囲はクレハの故郷を中心とした海とこの村やいくつの衛星の様にぽつぽつと点在するばかりに)
      • 随分コンパクトになりましたね。
        千年くらい前っていうと、長老様とかうちの龍の方のおかん的には、
        つい最近じゃないですか? -- アトイ
      • (長老様の暮らす北の海は、人魚の里でもあり。人魚でも八百年とか
        くらい余裕で生きる者も居る。
         竜種の方々にはもっと長寿なのもザラに居るし、中には天地開闢以
        来、長生きしてる者もおられる。
         そんな悠久の時間を生きる者の話にしては、千年という単位はいか
        にも短い)。
      • …千年がここ最近って…タイムスケールが…… -- クレハ
      • (思わずくらぁっとしなさるクレハさん
        クレハも人魚の血を引くから寿命は長いはずだが、まだまだ年齢的に幼すぎる)
      • ふぅ…… -- 長老
      • (ため息の後、アトイの頭を波の杖でコンッと軽く叩く)
      • アトイよ、おまえならばすぐにわかると思ったのだがのぉ……
        とりあえず説明しよう。色のそれぞれは新しき神々の勢力じゃ
        救世主を信仰する十字教、悟りを開きし者の起こした如来教……
        これらはどれも人の起こした新しき教えの神々、人の文明と共にある神々じゃ
        。。 -- 長老
      • この手の話はあまり首を突っ込まないことにしてるもので…。 -- アトイ
      • (アトイは、パッツン気味な前髪の垂れるデコを抑えながら、曖昧に
        笑う)
      • ふむ、それでーこの図と、私が土地神やれーってのとどう関係してくる
        んでしょう?。 -- アトイ
      • おまえさんはクレハとの生活の方が大切そうじゃからのぉ……
        多くの神がそうである様に、私もワシを慕い信仰してくれる者を愛しておる
        出来る事ならば災厄や災害等から守護し加護を与えたい、じゃが……
        -- 長老
      • (すっと前に手を伸ばす、アトイそしてクレハを見つめ)
      • 今や新たな神々に阻まれ全てに手を伸ばす事は出来ぬ……
        幸いにもお前達が社を修復したお陰でこの村へと再び足を運ぶ事が出来たが
        ワシの力の一部を無理やり通したにすぎぬ
      • (笑みを浮かべると「社を修理してくれてありがとうじゃ」と二人の頭を撫でる
        しかしその笑みはどこか憂いを感じさせて)。。
      • まぁ、出歩けないのは、確かにこまりますからねぃ…。 -- アトイ
      • (撫でられつつ、アトイはまた曖昧に笑う。
         褒められて嬉しくないわけではない)。
      • アトイさん…どうするの…? -- クレハ
      • (アトイが神をやりたくないのはクレハも良く知っている
        それはアトイが神に対し面倒を感じていると同時にクレハを想っての事)
      • …ワシも何度か強引な方法で村を護った事もあるが、それも限度がある
        まぁ、なんだ…今すぐにとは言わん、じっくり考えて決めるがいい
        さて、客室はどこじゃろう?ワシは少し寝る
        -- 長老
      • …え゛っ? 寝るって…… -- クレハ
      • せっかくじゃからな、しばしばかんすじゃ
        夜の生活は邪魔せんから安心せい、かっかっか
        。。 -- 長老
      • え、まだ午前中…あー………。
        2階に客間がありますので、しばしお待ちを、ちょっと片付けてきます
        ので! -- アトイ
      • (アトイは、クレハの立つ前に立ち上がり、被せた布を取るように着
        物を脱いだと思ったら、何故かメイド服姿であった)。




  • (長老の来訪から暫し後……
    舟屋ハウス内は微妙な沈黙に包まれていた
    アトイは縁側に座したままぼんやり
    クレハは卓袱台によりかかる様に胸を乗せぼんやりと
    いつもならばそれぞれの日課に励む時間を沈黙で過ごしていた)
    • ふぅむ…これは少々やっかいな展開になりましたね。 -- アトイ
      • (縁側に両手をつけ、座して空を見上げたままアトイがつぶやく)。
      • …あ…うん、長老様も突然よね……
        元々気まぐれな所のある方ではあったけれど…… -- クレハ
      • (先に沈黙を破ったのはアトイ、少し遅れてクレハは言葉を返す
        そう、今回の一件は突然にしてやっかいだ
        神様業を面倒と感じているアトイに、守護神の代行を頼んできたのだから)。。
      • しかしこう、今は忘れられていても、昔縁のあった人達を見守りたい
        と言われてしまうと……… -- アトイ
      • (断りづらい。
         アトイは、人の形をとってから、まだ10年にも満たない。
         それでも、心に留まる出会いや思い出というものは多い。100倍以上も
        の時間を生きてる長老様の中にある思いというのは、どれほどに深い
        ことであろうか。
         それこそきっと海のようにというものである)。
      • うん、私達の交際を許してくれた時も…長老なりに気をつかってくれたものね…… -- クレハ
      • (守護すべき場は狭まったが、心は今なお海の如く深く広い
        長老の見せた地図には加護すべき場が各地に点在していた
        力が届くならばその全てを守護したいと考えているのだろう……)。。
      • わざわざ自分で頼みにくるくらいですからね。
        それに、遠出してなんだか随分とお疲れだったみたいですし。 -- アトイ
      • (まだ午前中も早い時間だが、客室にお通しした長老様は、お休み中
        だ)
      • ここからクレハさんの故郷まで、確かに星を半周する距離ですが。
         私でも余裕でひとっ飛びできますのに…。 -- アトイ
      • (神様としての格、という意味なら。神様業はニートを決め込んでる
        アトイより、長老様の方が断然上である。
         きっと、さっきの長老様の話にあった、影響力の縮小は無関係では
        あるまい)
      • やっかいですねぇ…。 -- アトイ
      • (アトイはもう一度、繰り返した)。
      • やっかいねぇ…… -- クレハ
      • (二人同じ言葉を呟いてからため息
        やっかいと言いつつも真剣に考えているのは二人の顔に出ている
        どうすればいいのかすぐに答えの出せない問題
        同じ事を何度も繰り返しながら、ただただ時間だけが流れて行く……)。。
      • (縁側の上で、ぬいぐるみのようなミニドラゴンがごろごろと転がさ
        れている。
        自身の半身であるミニドラを、粘土のように転がしていた手を止め。
        アトイは、足を組んで座ると膝の上に肘をついて、手のひらに顎を乗っ
        ける。あまりお上品ではない座り方である。
         そうしながら、ため息のように)
      • それに…なんだか不安なんですよね。 -- アトイ
      • (呟いた)。
      • 不安…? アトイさん…… -- クレハ
      • (アトイは大きな力を持つ。しかし内面はまだまだ子供であり少女
        さらに、アオイとの出会いで内面が大きく変化し、物事を深く考える様になった
        それは多くの悩みや不安を抱える事でもあり……
        そんなアトイをクレハ支え助けたいと思っている
        だから問い尋ねながらアトイの側へ……)。。
      • 神も悪魔もいる世界で、私は神とかの側に近い存在です。
        だから真面目に、神様としての仕事しろってのもとーぜんです。
        書類整理とかいたずらとか、お掃除に使うには私の力は大き過ぎるのです。 -- アトイ
      • だから、それはいいんです。 -- アトイ
      • (クレハに言うというより、独り言をするようにアトイは庭のどこを見
        るともなく、話している)
      • …でも、私のこの力が、実際にどれくらいの大きさなのか、まったく分
        からないんです…。 -- アトイ
      • (遠く、遠くをアトイは見つめている。
         庭も水平線も雲も、目に映る景色もその瞳には無く)
      • この村を満たすのに十分でしょう、十分すぎて山の向こうへも溢れるの
        です。
         海のすべてを埋めて、それでもきっと注ぎ切るには足りません。
        …この星の中心核から大気の層の一番外側までの領域も、ちっぽけな
        空の卵に思える時があるのです。 -- アトイ
      • (まるで心がここにないように、目の前にいる小さなアトイの姿が、
        ただの虚像で、どこからか遠く声を当てられているように、呟きは続
        いて)
      • 夜空にある満点の星が、手のひらに隠れる、街の夜景と重なって思える
        のです。自分の本当の大きさを考えだすと、なぜだか何もかもが小さ
        く思えてならないんです。
         街はみんな砂の城で、指先で触れただけで崩れてしまうのです。立ち上
        がった私は、空を満天に満たす星に、頭を支えてしまうのです。
         考える程に、毎日飛び回り、無限に広いはずのこの世界が、とても…。 -- アトイ
      • …やめましょう、コレを考えだすと、私は本当にどうしようもなく不
        安な気持ちになってくるのです。 -- アトイ
      • (クレハのすぐ側で、アトイのため息がひとつ、あった)
      • ……アトイさん…… -- クレハ
      • (アトイの肩にそっと自分の肩を寄せる
        アトイの悩みは持つ者にしかわからぬ悩み。クレハの小さな力ではどうしようも無い悩み
        それでも側にいる事が自分に出来る事、アトイを愛した自分にしか出来ない事)
      • …長老はだからアトイさんに任せようとしているのかもしれないわね……
        アトイさんにその力の使い方を学んでほしいと……。。 -- クレハ
      • (アトイが何かを言いかけた時、道路の方から元気な声がした)
      • おっはよーアトイちゃんクレハちゃーん。 -- アミ
      • (垣根の向こうからアミとロワナの二人が顔を出す)。
      • おっはよーなの、アトイちゃんクレハちゃん♪ ふに? -- ロワナ
      • (周囲にこだまするほどの元気な挨拶
        挨拶をした直後、クレハが妙な動きをした様な気がしたが多分気のせい)。。
      • (200m先に住む一番近いお隣さんの小学生姉妹が、手提げやリュックを
        装備して、小走りに縁側へかけよってくる。遠足でもするつもりなの
        だろうか。
         それにしても、朝から元気なことである)
      • んー………ああ、おはようございます…。 -- アトイ
      • (そんな二人に、足を組んで座ったまま、アトイは気の抜けた返事を
        返した)



      • (山のお化け屋敷へ探検へ行くというアミとロワナを見送ると、また
        アトイとクレハの二人きりになる。
         日もだいぶ高くなってきて、縁側の戸を開け放したリビングの中は、
        洞穴のような日陰で、アトイは柱に背もたれして座っていた。
         凪いだ海の、小さな波音だけが聞こえる。
         普段なら、二人きりの家でも何かと賑やかな事であるが、今日は例
        外だ)。
      • ん、二人には悪い事をしちゃったかもしれないわね…… -- クレハ
      • (二人が去った先を見つめれば、空になったコップを片付けながら小さく呟く
        小さな姉妹、二人に遊んで欲しかったのは容易に想像出来て)。。
      • うーん…そうですねぇ…。 -- アトイ
      • (相変わらず、アトイは心此処にあらずといった風である)。
      • むぅ…今日は行かなくて正解だったかもしれないわね…… -- クレハ
      • (コップを片付け終えるとアトイの隣に腰を降ろし、そして本日何度目かのため息……)。。
      • (普段悩む事などめったにないアトイが、一旦悩みだすとこのザマで
        ある。
         半身であるミニドラゴンも微動だにせず、うずくまったまま本当に
        ぬいぐるみになったかのようであり。アトイの方は、悟りを開くまで
        動かぬと誓った禅僧のごとしである。
         いや、時々、足で脛とか掻いてるからその実、ただぼんやりしてる
        だけかもしれなかった。
         
         結局の所、この日1日アトイがそんな状態だったもので、だらだらと
        凪いだ海を庭先に眺めつつ、のろのろと時間だけが時計の上を這って
        いった)
      • (状況が変わったのは、夕刻になってからである。
         それもまた、訪問者によってだ)
      • なぁ、アミとロワナの奴を見なかったかい。
      • (これまたお隣さんの、万丈宗右衛門さんが庭先に立っていた。
         辺りはすっかり夕焼けで、海も凪いでいた)。
      • はっ…!? 寝て無いですへにょ…あ、アミちゃんロワナちゃんのおじいさん…?
        えっと…二人なら朝に…アミちゃんとロワナちゃんに何か…!? -- クレハ
      • (どう見ても寝ていました。膝には仔猫の様に丸くなったミニドラ
        アトイと一緒に悩むつもりがうっかり寝てしまった自分に恥ずかしく
        それでもアミロワに何かあったのかと不安はあり……)。。
      • 大したことじゃねんだ。ちっと帰りが遅いから気になってな。
      • んや?あー…なんか山の方行くとか、お弁当もって。 -- アトイ
      • (クレハの声で、ぼんやりしていたアトイも万丈さんに気づくと、思
        い出したように言う。
         行き先については知っていたようで、万丈さんも頷きで答える)
      • お前さんらを誘って行くって言ってたんでな、まだこっちで遊んでんの
        かと思ったんだが…。。
      • …え…二人はまだ帰ってないんです…? …アトイさん…… -- クレハ
      • (万丈さんからの言葉を聞けばアトイの顔を見る
        今はもう夕方、いくら平和な村でも小学生の少女二人が遊んでいて良い時間帯ではない
        この辺りは街灯も少なく日が落ちれば都会よりも暗い)。。
      • ん〜〜っ。わっかりました!行き先は聞いてますんで、ひとっ走り探してきましょう! -- アトイ
      • (悩むのを一旦中断したアトイさんは、伸びをして数時間ぶりに立ち上がる)
      • 俺も行くよ、山の方だと今からじゃ夜になる。
      • 大丈夫ですよ、くろこさんにバイク借りますので。おじいさんは待ってて
        くださいな。歩くよりずっと早いです。 -- アトイ
      • そうか、悪いな。
      • (渋い良い声で返事をするご老人である。アトイはクレハの方へ振り向くと)
      • ではクレハさん、行きましょうか。。 -- アトイ
      • うん…あ、そうだ… -- クレハ
      • (アトイに頷いた後、何か思いついたのか台所へ
        そして暫しの後、大きめのタッパ容器を持ってを戻って来た。中身は鶏肉と茹で卵を酢と醤油で煮た物)
      • これ、二人が帰ったら一緒に食べてください…お腹すかせて帰って来ますよ…?
        それでは二人の事は任せてください…アトイさん…… -- クレハ
      • (万丈さんにタッパを渡すと笑みを浮かべた後アトイの方へと)。。
      • ありがとう、じゃあ、頼むよ。
      • (タッパを受け取りつつ、やっぱり渋い良い声で礼を言う万丈さんに、
        今朝ぶりに笑って頷くとアトイは、クレハと連れ立ってアミとロワナ
        を迎えに行くことにした)




    • なかなか、信用されているというのも、悪くないものです。 -- アトイ
      • (沈む夕日に、下から照らされながらアトイが言った。
         バス程の大きさになった、ドラゴンの背の上である。
         バイクを借りに行くといったのは方便で、今二人はアトイのドラゴ
        ンに乗って飛んでいる)。
      • うん、アミちゃんやロワナちゃんだけでなく…おじいさんにもお世話になっているものね……
        その信用に答えないと…… -- クレハ
      • (姉妹の姿を捜し夕闇に閉ざされ始めた地上に目を凝らしていたクレハが振り返り笑みを見せる
        200m隣のお隣さん、アトイとクレハにとってかけがえのない友人であり
        今や家族も同然の人達)。。
      • 最初会った時は、いかにも気難しそうなご老体って感じでとっつきに
        くかったんですけどね。っと、あそこかな? -- アトイ
      • (薄暗くなっていく地上の、山の中にぽつんと1軒だけ立つ館を見つけ
        ると。ドラゴンは、体を傾け、ゆっくりと螺旋を描いて降下を始めた)。
      • ええ、最初はね…でも今は…あ…? あそこが…二人が言ってた…はぅぅぅ…… -- クレハ
      • (幽霊屋敷と言う言葉を思い出せば背筋に冷たい物が走りブルっと震えるクレハさん
        クレハさんは幽霊やお化けの類が苦手なのであった)。。
      • はっはっは、相変わらずですねぃクレハさん。
        なぁに、ピクニックがてら遊びにいくようなとこですよ? -- アトイ
      • (ドラゴンは、ふわりと、焦土のように黒い庭に足をつけた。
         井戸の底から見上げたような黒く狭い森の切れ目が、口を開け。血の
        ように赤い夕暮れが、音も無く頭上を覆う。
         あたりは、空よりも先に夜が降りていて闇い…)
      • ………。 -- アトイ
      • (その庭に降りた瞬間、アトイは無言でドラゴンの頭の方に移動して
        手招きする)。
      • だってぇ…怖いのは怖いもん…… -- クレハ
      • (むぅっと頬を膨らませれば目に涙を浮かべながら抗議しなさるクレハさん
        そうこうしている間にドラゴンはその闇き庭へと降り立ち)
      • …ん…? アトイさんなに…? -- クレハ
      • (手招きを受けると首を傾げながら、ドラゴンの背そして首を伝いアトイの元へと)。。
      • (二人を頭に乗せたまま、ドラゴンが首をもたげる。
        重厚で巨大な、ゴシック調建築な館の、ちょうど2階の窓ぐらいの高さ
        まで首は持ち上がった。
         なんだかドラゴンの大きさが、いつの間にかまた変わっている気が
        するが、そんなのはいつものことである。
         そして特に前触れもなく、懐中電灯のスイッチでも入れるように。
        アトイのドラゴンが、わっ、と金色の光を纏う。
         こういう演出も、ふつーは手順なり準備なりあるものだが、アトイ
        にしてみれば、ホタルイカが、自分の体を光らせるのと同じ感覚であ
        る。自身の体の一部の事である。できて当然。なんの不思議もない。
         故に無駄に気取ったり、構えたりしない)
      • 本当に幽霊屋敷だったようですね、しかもあまり質がよろしくないよ
        うです。。 -- アトイ
      • おぅっ? まぶし…?
        …え…本当に幽霊屋敷って…冗談はやめてよ〜…… -- クレハ
      • (いきなりの輝きにアザラシの様な驚きの声をあげなさるクレハさん
        しかし続く幽霊屋敷と言う言葉を聞けばへにゃりアトイさんに抱き付く)。。
      • ええ、なので神々しい感じの光で、嫌な感じを除菌してますので。 -- アトイ
      • (消臭剤でも撒いてるかのようなノリである。
         アトイは、クレハの頭をよしよしと撫でつつ。おもむろにドラゴン
        の鼻面を、窓に一つに突っ込ませる。
         鎧戸ごと窓を突き破り二人は難なく要塞のように近寄りがたい雰囲
        気だった館の中へ侵入を果たした)
      • お、アミロワちゃんみっけー。。 -- アトイ
      • そ、そうなんだ…ならアトイさんにくっついていれば安心ね……
        わっ…? アトイさんいきなり…… -- クレハ
      • (撫でられながら仔猫の様に目を細めるが……
        ドラゴンの頭部が解体重機の如くに屋敷内に突っ込めば今度は目を丸く)
      • うひゃあ!? -- ロワナ
      • アトイちゃんにクレハちゃんじゃんー。 -- アミ
      • (ロワナは驚ろき、アミはネオンとゲームの対戦の真っ最中だった)
      • お二人とも、帰りが遅いからおじいさんが心配してますよ。 -- アトイ
      • え、もうそんな時間なの!?全然気付かなかった!
        ネオンちゃん………す、透けてる…! -- アミ
      • 誰ですか?その黒っぽいの、っていうか和服キャラとか私と被るんで
        すけど。 -- アトイ
      • (ネオンは座したまま、怨念成仏光線などを浴びた亡霊のように。
         ドラゴンが放つ光の中で、ふわ〜…と消えかけている。
         アミは慌ててアトイを止めた)。
      • アトイちゃん光止めてー! ネオンちゃんが消えちゃうのー! -- ロワナ
      • えっえっえ…? 何この状況…そしてなにこの部屋…? -- クレハ
      • (アトイの最初の検分ではこの屋敷は嫌な雰囲気が…と言う事だった
        しかし、突撃したその先には棚にはフィギュアとコミックが並び
        そしてアミはゲームに興じ、ロワナはゆるキャラのぬいぐるみを抱きしめていて)。。
      • (趣味が、PCの前で日がな1日過ごす人種のそれに偏っていることを別
        とすれば。何かと小物、大物を貯めこむ癖のあるアトイのガレージと
        似たような部屋であった。
         こちらは、元は石造りの西洋の城の一室のような立派な部屋だが)
      • はい。 -- アトイ
      • (アトイがドラゴンの髭をいっぱると、電灯を消す如く成仏光線が止ま
        る)
      • …ぬぬぅぅぉあああ!いきなり何をするの!?危うく成仏する所だっ
        たのよ! -- ネオン
      • (水に放り込まれた猫めいた悲鳴を上げたあと、巨大なドラゴンの首
        にも動じずに、アトイさんに詰め寄りなさるネオンさん)。
      • ……この子が幽霊…なの…? -- クレハ
      • うん!ネオンちゃんは幽霊だよ、普通の幽霊さん♪ -- ロワナ
      • 普通の幽霊さん? この屋敷の主よね…どう見てもそうよね…… -- クレハ
      • (アトイに詰め寄るネオンを見ながら、なんとか状況を理解しようとする
        部屋全体から感じる満喫臭、怠惰に趣味を満喫している感
        この部屋は間違いなく少女の…ネオンと呼ばれる少女の物なのだろう)。。
      • お友達になったんだよー。 -- アミ
      • (クレハの左右にアミとロワナがついて、楽しげに話す一方で。
        アトイとネオンは、じっと睨み合っていた)
      • ふむ…なにやら二人とやけに仲良しじゃないですか? -- アトイ
      • ………いきなり、踏み込んで来た上に、不躾に値踏みしようなんて、
        野盗並に品がないわよ。 -- ネオン
      • (何やら、二人の間の空気が重い)。
      • ふぅ…これはまずいわね…… -- クレハ
      • (アトイは時に強情な時がある、そしてその傾向が幽霊少女にも見える
        何より…二人は良く似ている、何がどうとは言えないが似た者である気がした
        …キャラ被り的な意味かもしれないが
        ともかくこの二人の争いは止まらない、恐らく千日戦争だ)
      • はいはい…二人ともそこまでいったん落ち着きましょうね…? -- クレハ
      • (だからクレハは二人の間に割り込む様にしながら入って行く
        幽霊が苦手なクレハではあるが、この状況で恐怖はどこかへ行ったようだ)
      • クレハちゃんの言う通りなのー 喧嘩はダメー! -- ロワナ
      • (クレハに続く様にアミとロワナも二人の間に割って入って行く)。。
      • (すると、ネオンは、アミとロワナの手を引いて。袂の後ろに隠すよ
        うに後ろから抱いた)
      • …ああいう奴には、関わらない方がいいわ。あなた達の為に言うのよ? -- ネオン
      • (ネオンが陰に篭った声で、そう囁やけば。
         アトイは無言のままネオンを睨んでいる。
         牙を剥き、唸っていた獣が、飛び掛かる一瞬前に、息を潜めるのと
        同じ沈黙である)。
      • (「ダメだこの二人…早くなんとかしないと……」
        クレハは二度目のため息の後こう思った
        ネオンもネオンだが、アトイの方は本気モードに入りつつある、これは危険だ
        切れる一歩手前、ネオンがさらなるアクションを起こす前になんとかしないと)
      • アトイさんステイ…アミちゃんロワナちゃん…おじいさんが心配してるから今日はそろそろ帰らない…?
        ネオンちゃんだったかしら…? そんな訳だから…今日は…ねっ…? -- クレハ
      • (アトイの首に腕を回すと胸に埋める様にしてから頭を撫でる。わんこかにゃんこを押さえる様である
        そしてネオンの方にも説得を試みて)。。
      • ぬぁっ!?そうだよ!もう6時過ぎてんじゃん!帰って夕飯の仕度しな
        きゃおじいちゃんに怒られる! -- アミ
      • (漂う緊張感をぶった切るように声を上げたのはアミである)。
      • ぬぁっ!お外も真っ暗なの!?
        うん、おじいちゃんこう言う時は怖いの、心配かけちゃう! -- ロワナ
      • (続きロワナもおろおろと。
        遅くなった事もだが真っ先に祖父を気にするあたりおじいちゃんが大好きなのだろう)。。
      • 私がすぐに送ってあげますよ。 -- アトイ
      • (若干不機嫌そうな顔のまま、アトイが言うと)
      • じゃあ、ダッシュでお願い! -- アミ
      • (ネオンの腕の中から、アミとロワナが抜けだすと。
        掴んで引き止めるでもなく、ネオンは黒い振り袖を小さく翻して、袂
        に手を隠した)。
      • ネオンちゃん、また今度早い時間に遊びにくるねー
        あ?でも幽霊さんだか遅い時間のほうがいいのかなー? -- ロワナ
      • (アトイのほうへと向かいつつ振り替えるとネオンにそう告げて)。。
      • 鬱陶しいから来なくていいわよ。 -- ネオン
      • (アミとロワナは視線を合わせると、そっぽを向くネオンに、二人で声
        を揃え、またね!と言ってドラゴンの頭によじ登った)

        (ドラゴンはすぐに、館を離れて空へと舞い上がる)。




      • (ドラゴンは巨大な翼を羽ばたき夜空を行く。その背にはアトイ、クレハ…そしてアミとロワナ
        ドラゴンの速度ならば一瞬で姉妹の家に到着するが
        二人にいくつか聞きたいこともあり、緩めの速度で飛行している)
      • 星の海を飛んでいるみたいなのー♪ -- ロワナ
      • …ええ、そうね…この光景を空からならではよね…… -- クレハ
      • (ドラゴンでの夜間飛行にはしゃぐ姉妹を横目に
        クレハは何から聞いたものかとアトイにアイコンタクト)。。
      • ふむ…アミロワちゃん、彼女とは昔から知り合いなのですか? -- アトイ
      • んーん、今日はじめてあったよ? -- アミ
      • 荷物の多いオタクは引っ越しを嫌うものです。
        棚の中に10年前のアニメの初回限定版等もありました…、その隣は、
        今期アニメの1巻でしたね当然のように初回版でした。 -- アトイ
      • うんー、ネオンちゃん漫画とかゲームとかすごい詳しいよ? -- アミ
      • (それがどうかしたの?と首をかしげるアミをよそに、アトイは何やら思案顔である)
      • 今まで、あのお化け屋敷に行っても気配すら感じなかったですか? -- アトイ
      • …アトイさん良く見ているわね…そう言えばかなり前のCMで見た様なフィギュアを並んでいたわね…… -- クレハ
      • うーん…何かいるかなーとは思っていたの
        でもネオンちゃんに会ったのは今日がはじめてなの -- ロワナ
      • (アミにねー?と言う視線を向けるロワナ
        やはりと言うべきか。この姉妹は極めて強い霊的あるいは神的感覚をもつ
        クレハとレヴィアが人魚であることを見抜いたり、アトイの分身達を見つける等の
        人間離れした直感を見せてこともある)。。
      • …あの黒い奴は、嫌な予感を感じます。
        間違いなく私達より以前から、この地に住んでいるでしょうが。
        半年前、私達が越してくる時、あれだけ巨大な嫌な気配に、私ですらま
        ったく気づけませんでした。-- アトイ
      • (かわいく頷き合う二人に聞こえないよう。クレハに、アトイはそっ
        と耳打ちする)。
      • …ん…そうよね、この地に留まっている様な幽霊だし…はぅぅ……
        でも、アミちゃんとロワナちゃんをどうやって説得すれば…… -- クレハ
      • (同じくアトイにしか聞こえない小声で言葉を返すも
        あの少女が幽霊と言う事を改めて思い出して小さく震えた)。。
      • はぁ、またやっかい事が増えてしまいましたね。
        …ま、私が本気になれば敵じゃありません、大丈夫ですよ。 -- アトイ
      • (4人を乗せたドラゴンは、ゆっくりと首を下へめぐらせて、海岸近
        くの家灯りへと降りていった)。




      • (玄関戸の向うから近づく足音、駈け足の音が聞こえる
        万丈宗右衛門にはわかる、孫達の足音だと
        そしてアトイとクレハが自分の頼みをやりとげたのだと理解する
        孫達を迎えねば、そしてアトイとクレハに礼を言わねば
        そんな事を思いながら老人はゆっくり立ち上がると玄関の方へと向かった)

      • おじいちゃん、ただいまなの…… -- ロワナ
      • (玄関戸を横に僅かにひらくと覗きこむ様にしながら帰りの挨拶を告げた)。。
      • ただいまー…。 -- アミ
      • ただいまですよー。 -- アトイ
      • (そのロワナの下に、アミが顔を出して、アトイと小さくなったドラ
        ゴンが続く。
         なんのトーテムポールだろうか)。
      • あ…えっと……
        ただいま…… -- クレハ
      • (しばし悩んだ後ロワナの頭の上から顔を覗かせるクレハさん
        このメンバーの中で一番背が高い故、屋内を見るにはそうせざるを得ないのだが
        何か恥ずかしい)。。
      • …何してんだおめぇら。
      • (万丈さんは、ちょっと呆れたように首を傾げた)
      • (一発芸が功を奏したか否か、定かではないが若干門限を過ぎていた
        ものの怒られずに済みました)

      • 今日はうちで飯喰ってくかい、煮物、貰ったしさ。
      • (時刻はすでに夕飯時である。
         姉妹の両親は出稼ぎでよく家を留守にするため、アトイとクレハは
        ちょくちょく夕飯に呼ばれることがあった。代わりに、万丈さんが漁
        で忙しい時等は、姉妹がアトイ達の家に来るのである)
      • あー…私は……… -- アトイ
      • (いつもなら、すぐに頷くところだが。アトイがちょっと答えに詰ま
        ると…)
      • いいね、私アトイちゃんの好きなの作るよ!。 -- アミ
      • 私も私も! 私も作るよー♪ -- ロワナ
      • (はしゃぐように言うとアトイの右手を握った。そして続く様にアミはアトイの左手を
        姉妹に手を引かれ戸惑うアトイの背に柔らかい物が押し付けられた)
      • …ふぅ…ここはもう乗るしか無さそうよ…? -- クレハ
      • (アトイの肩に顎を乗せる様にしながらクレハが囁いた
        アトイ包囲網が完成した今、もうお呼ばれに乗るしかない
        アトイはため息すると不承不承と言う風に首を縦にふった
        こうして夕食にお呼ばれする事になったのであった)。。



      • ふぅー…、結構遅くなってしまいましたね。 -- アトイ
      • (アトイとクレハは、海沿いの道を歩いている。
         途中に街灯はひとつだけ。周りは海と畑だけなので月もないとほぼ
        真っ暗だ)。
      • ええ…やっぱり夕食一緒して正解だったわね…… -- クレハ
      • (真っ暗な道をアトイと並んで歩く
        夏の夜はまだ蒸し暑さを感じるが、時おり肌を撫でる海風が心地よい
        潮の香りは鼻腔をくすぐり、それだけで人魚のクレハには活力となる)。。
      • はいー?…あー。 -- アトイ
      • (クレハの方を振り返ると、少し間をおいて頷いた。
         アトイの事をアトイ以上に、クレハはよく分かっているのだ)
      • そうですね、今日は少しあれこれと考え込みすぎましたし。。 -- アトイ
      • さらに、アミちゃんロワナちゃんの事が重なって……
        もう、頭がいっぱいいっぱい…… -- クレハ
      • (笑みを向ければを肩を竦める。今日は本当に色々とあった
        そして考えるべき、憂うべき事も山積みだ
        事件や厄介事の神様はアトイ以上に気まぐれで強引な様で
        アトイに…そしてクレハに問題を放り投げてくる)
      • 焦らずに考えましょう…私も一緒に考えるから…ね…?
        一緒に考え…ん…? -- クレハ
      • (隣を歩くアトイに身を寄せると頭に手を回し抱きしめ
        もう一度今日一日を振り返るが…何か心の隅に引っかかる気がして)。。
      • どうしましたかクレハさん…。
        あれ、うち出る時電気つけっぱなしでしたか? -- アトイ
      • (ほんの数十m先に見えてきた自宅の窓から明かりが漏れておられる)。
      • え…? そんなはずないわ…急だったけれど火元と電気の確認はするもの…?
        泥棒ではないと思うし…誰か来たのかし…あ゛! -- クレハ
      • (二人はほぼ同時に思いだし、大きめの声と共に顔を見合わせた
        来訪者はあった、二人が出かける前に来訪者はあった)。。

      • (アトイさんちのリビング………。
         一眠りして起きたら、放ったらかしにされていた長老様が、お留守
        番をしておられました)。
      • いいんじゃ、いいんじゃ……
        ワシの様な古い神はおする番しているのがお似合いなんじゃ……
        …さびしくなんかないんじゃぞ…? -- 長老
      • (そこには、居間の真ん中で体育座りでポツンと一人寂しく呟く海神の姿があったそうな)

祭壇と猟犬 Edit





    • (青黒く底の計り知れない大洋の、光の差し込む浅い場所。
      プランクトンの少ない澄んだ海域は、海の砂漠とも呼ばれる。
       その砂漠を渡る鳥のように、青魚の群れが回遊している。
       背に陽光を受け、鱗を輝かせる群れが、爆発のように膨れ上がった。
       魚の雲を割って現れたのは、人を一飲みにできそうなサメだ。
       サメのすぐ横を、真っ暗な水底から、矢のように駆け上がってきた影
      がかすめる。
       トカゲの頭に海獣類の尾をつけたモンスターが、水底からの矢ぶす
      まのごとくに、サメと魚の群れめがけて次々と突進すると、獲物の群れ
      は、四散と集合を繰り返しながら無定形の生物のように逃げ出ていく。
       混乱してもつれあう魚群の只中に、突如サメよりも巨大なものが出
      現した。
       鼻先をかすめた巨大な筒に、驚いて逃げ出すサメの後ろを、スクリ
      ューが泡立って航跡を引く。

      人の気配のなかった海に、突如現れたのは、一隻の船である。
       艦首は、まるで衝角だ。甲板から海面へ滑り台のように傾斜した
      独特な形状であり、金属に覆われた甲板は大砲と機銃で武装され
      ていた。
       武装を施され、一目に巨大と分かる。
       その船は、艦であった。
       横から見ると、ビル程もある水平線の巨大な写真の裏から、軍艦が
      出てくるようであった。
       海に串を刺すような尖った艦首の側から見れば。その艦は繭のよう
      な物に包まれている。
       水平線にテレビを置いて、その裏側の映像を写して窓のように見せる
      トリック。まったくそれと同じ原理で。何万枚も集まった符が作る、
      巨大な繭は、すっぽりと艦一隻を隠していたのだ。
       繭が破れ、除々に灰色の船体が、水平線の上に現れ出す)
      • (紙吹雪舞う灰色の甲板の上に、ただ一人少女が居る。
         着ているものは、カーキ色のズボンに、黒い革のブーツ、そして飾
        り気のないシャツだけである。
         軍艦の上に居る。
         兵士のような出で立ちである。
         しかし、風になびく柔らかな髪と、あまり筋肉のついていない体つ
        きはどう見ても、十代そこそこの、少女のようにしか見えない。
         ただ、その瞳は猫のように、瞳孔が縦に細い。
        揺れる甲板上で何にも掴まらず、まっすぐに立つ姿は、まるで細身の獣
        のようであった。)
      • (海面に無数の魚が跳ねあがる。それを、トカゲ面のモンスターが大きく
        胸鰭まで海面にせり出し、追いすがり、喰らう。
         にわかに騒ぎ立つ海の向こう側から、ボートが一艘近づいてきた)
      • (光学迷彩を施す繭の中から、完全に抜けだし、停止した艦へ、ボート
        …内火艇は、横付けされた。
         内火艇の中に居たのは、アクション映画のスクリーンから抜けだし
        て来たかのような、逞しい二の腕を晒す、荒くれた男共であり。ご丁
        寧に機関銃で武装している。
         そんな男共が、狭い内火艇の中で、両脇にどいて道を開けた。
         全員が屈強であるゆえ、船縁から落っこちそうなくらい窮屈である。
        その間を、一際大きな男が通り、甲板より垂らされた梯子を掴む)
      • (その黒人の男は、頭に毛は無く、短くそろえた顎ヒゲが、実にマッチ
        ョで、体格はそれ以上である。
         銃は持っておらず。腰に、大振りなナイフをケースに収めて差し
        ていた)
      • 久しぶりだ、ムンガ。 -- ハウンド
      • (ムンガが、甲板に指を掛けた時、目の前に、陽を遮るようにして少女
        が立っていた)
      • ハウンド! -- ムンガ
      • (ハウンドと呼ばれた少女に差し出された手を取って、ムンガは甲板
        の上に登る)
      • はっはっ!2年ぶりじゃないかぁハウンド。少し大きくなったか? -- ムンガ
      • お前もな。 -- ハウンド
      • (親子程も体格差のある二人が、抱き合って背を叩き、再会を喜ぶ。
         彼らは戦友であった)
      • (内火艇に乗っていた男たちが、乗組員に誘導されて艦内へ入ってい
        ゆく。内火艇もウィンチにつられて艦に収納されようとしていた。
         それを、艦首に据えられた大砲の側から、ハウンドとムンガが眺め
        ている)
      • お前たちの部隊は、今何をしている? -- ハウンド
      • 去年、南の支部が潰されただろ。その始末で家に帰る間もない。まぁ、いつも通りだ。 -- ムンガ
      • …いつも通りか。 -- ハウンド
      • ああ。 -- ムンガ
      • (そう言って、二人はニヤリと笑いあう。
         そして、しばしの間があり)
      • …アルフリーダの事は、聞いた。 -- ムンガ
      • …ああ。 -- ハウンド
      • (ムンガがつま先を見ながら言うと、ハウンドは、表情を変えず相槌
        を打つ)
      • 俺も、あの龍神の捕獲に向かうべきだった。すまない…。 -- ムンガ
      • (さらなる沈黙があって…。ハウンドは、細い腕で、静かに腕組み
        をすると言った)
      • 私も、あいつと直接は戦ってないんだ。もし…戦っていたら、私はこ
        こに居なかっただろう。…お前もだ。 -- ハウンド
      • へっひっひ、無名の神相手に、随分と臆病なことじゃあないか。 -- クローズ
      • (声は二人の上から落ちて来た。小屋程の大きさもある砲台の上に、
        いつのまにか男が居る。
         ハウンドとムンガの二人は、見上げることもなく同時に黙った)
      • ああ、何て言ったっけなぁ、あのトカゲの神様?あーアー…。はっ!
        名前も思い出せやしない! -- クローズ
      • (無視する二人の前に、音も無く降りたのは。黒い長髪に鷲鼻をした
        東欧の雰囲気のある顔立ちの、小男だった。
         少女であるハウンドと、大差ない身長の男は、楽しそうにニヤつく)
      • 何の用だ、クローズ。 -- ムンガ
      • (ムンガが言うと)
      • 何の用だ?一番遅れて来て偉そうに言うじゃあないか。 -- クローズ
      • …。 -- ムンガ
      • (指定された時刻と場所に、間違いなく到着したムンガは、言い返す
        必要も感じずにむっつりと、厚い唇を閉ざした。
         黙るだけで迫力満点であるが、クローズにその脅しは通じない)
      • ふん、そういう態度を取れるのも今日までだ。お前らが持ってるのは
        所詮、どこの馬の骨とも知れない無名の神性の力だ。 -- クローズ
      • (クローズが二人に背を向け、大仰に天を仰ぐと、その右手に、青く
        輝く宝石をはめ込んだ、短い矛のような杖が現れる)
      • 偉大なる神話に由来する力とは比べることもできるまい。 -- クローズ
      • それが、本当にあの北欧神話の神の持ち物ならな。 -- ムンガ
      • (芝居がかった動作にムンガが、呆れ気味にそう言った瞬間。
        クローズは、その喉元に切っ先のように
        鋭い杖の先端を向けた)
      • ほぉう、試して見るか?お前らの使役する神はなんだったかな。
        あの、エセ魔導科学者の女が捕えた有象無象の雑神だったよな。 -- クローズ
      • なるほど、多少便利だったようだが、性能も即席だ。
        アルフリーダとか言ったか、結局返り討ちにあって自滅した。
        バカな奴…ッおっヒュッ!? -- クローズ
      • (言葉の途中で、クローズのつま先が甲板から浮いた。
         動いたとも感じさせない素早さで、ハウンドが、その胸ぐらを掴み
        あげていたのだ。
         牙を剥いた形相は、少女の柔らかさは欠片もない。瞳孔は細く引き
        絞られ、開いた口にはギリッギリッと音を立てながら噛み合う牙がある。
         食うための獲物でなく、敵に相対する獣そのものの貌であった。
         慌てたように宙をふらついていた杖の切っ先が、獣に向けられる)
      • おい、よせっ。
        クローズ、お前もだ、そのオモチャをしまえ。ハウンドは脅しはしな
        い本気で食いちぎられるぞ。 -- ムンガ
      • ははっ…オモチャだと? -- クローズ
      • (大洋の照りつける陽光を浴びながら、冷や汗をかくクローズは口の端
        をつりあげた)
      • (三人の間に漂う一触即発の空気を叩きつぶす様に船が唸りを上げた
        それはまるで伝説に聞く海獣の咆哮の様でもあり
        その咆哮を迎えのファンファーレとする様に足音が近づいてくる)
      • んー?私の船で喧嘩しているのは誰かしら? -- 真榊
      • (涼やかなそれでいて険しい声。気を抜けば心を抜かれそうになる声
        三人が声の方へと視線をやれば女性が近づいてくる
        金色の髪の上には海賊帽、背には黒きマントをひるがえす)。。
      • キャプテンマサカキ。 -- ムンガ
      • (ムンガは、ほっ、と息をついた。
         海賊風コスプレをした金髪の姐さんが、艦長の真榊である。
         左右には、今にもブッチガイの髑髏を艦橋の上に掲げそうな男共が
        付き従い。ムンガよりも大柄で、チェーンガンで武装した大男や、ナ
        イフをもて遊ぶ危ない道化師なんてのまでいる。
         ドゥォッホッホとかヒョヒョッヒョ…とか笑っている。
         ハロウィンの仮装集団に見えなくもないが、艦長とその手下である)
      • ………。 -- ハウンド
      • (ハウンドは、無言のまま大人しく手を離した。
         奇妙奇怪な真榊艦長とその手下共だが、なかなか強者であるらしい)
      • へっ、………。 -- クローズ
      • (拘束を解かれたクローズは、2〜3歩よろけた後、何か言いたげに
        真榊やハウンド達を、ふらふらと指差して居たが。わざとらしく襟を正
        すと、足早にその場を離れていった)。
      • まったくあの子は相変わらずね、教主様もなんで……
        そうそう、こんな事をしている場合ではないわ -- 真榊
      • (吐き捨てる様な視線を残し立ち去るクローズにため息すればぼやく様に呟く
        そして空気を切りかえる様にハウンドとムンガの方へと視線を向けた
        装束はふざけていても大勢の男達を束ねる者そして船の艦長、その視線は強い
        歴戦の戦士であるムンガですら威圧の様な物を感じてしまう)
      • そろそろ会議が始まるわ、議題は…言うまでもないわね
        だから遅れない様にしなさい -- 真榊
      • (「言うまでもない」
        それはハウンドがこの船へと召喚された理由でもある)。。
      • 分かっている。 -- ハウンド
      • (真榊の言葉に、少女が面をこわばらせて頷いたのは、緊張のためで
        ある)
      • …ハウンド、お前それ…。 -- ムンガ
      • なんだ? -- ハウンド
      • (ムンガが、横を通りすぎようとしたハウンドを呼び止める。
         彼女の胸元にあるネックレスを見たからだ)
      • アルフリーダのか? -- ムンガ
      • …うん。 -- ハウンド
      • (神を祭る祭壇の金細工。神ではなく、神を祭る祭壇をシンボルとする
        彼らの組織の印である)
      • 遺体は出なかった、掘り出せたのはこれだけだ。 -- ハウンド
      • ………。 -- ムンガ
      • (ハウンドは、ひしゃげたそれを、シャツに押し込むと、艦内の入
        り口へと歩いていった)
      • この組織に似合うのか似合わないのかわからない子よね
        さて、私達は出発の準備と -- 真榊
      • (船内へ消えるハウンドの背を見ながらそんな事呟き
        そして手と手をぱんっと叩くと海賊帽をかぶり直し)
      • さぁ、野郎ども!出発の準備よ!
        クールアイとイヤーズは周辺警戒を強化! もしもの時は光学迷彩で対応、最近弾使いすぎよ! -- 真榊
      • (号令を激を飛ばせば男達は一斉に動き出す
        身なりは奇妙な連中だがその統制された動きは熟練を感じさせる)。。
      • (やがて艦は、帆を風で膨らませたように走りだした。
         この艦は、鋼板に覆われタービン機関で推進する船である。
         しかし、艦長の姿が、この上なくわかりやすい美意識を体現している
        のだから。一切の疑問の余地も許さぬ示唆なのだから。
        まさしくこの艦は風を帆に孕み走っているとしか言い様がない。
         尋常の船が水上を滑る刃の形とすれば、水面から振り上げる刃の
        形をした鋭い艦首。その上に立つ艦長真榊は、蒼穹を睨む大砲を背に
        して、黒マントをはためかせているのだ。
         風を切り、大洋に住まうケダモノを白い航跡の中でキリキリ舞いさ
        せる速度で艦は走り。
         手で抑えた海賊帽の下で、金髪は、野生の人魚の如く放埒に、風に
        踊る。
         そんな人物の操る艦というのは、なんであれ、一つの様式美を持って
        海賊船と呼ばれるのだ。
         従ってこの船は、風に乗りて走るものであるのだ)
      • (やがて速度が最高潮に達すると、天頂を欠いたピラミッドのような
        艦橋の上に、旗が翻る。
         祭壇をシンボルとする彼ら『ララリウム』の旗。
         そして、黒地に白で染め抜かれた『浅』の一文字。
         ステルス巡洋艦『浅草寺』
         それが、艦名であった。
         舳先に立ち、風を一身に受ける女の命名であった。
         そして、彼女は漢字をよく知らないのであった)。

  • (真っ暗な部屋の中に、どこからとも知れない明かりが10余り灯る。
     焚き火で照らされるような明かりを受けて、姿が闇に浮かんだ。
     男も女も老人も居る、人の姿をしていない者も居た。
     ハウンドやムンガ、真榊そしてクローズの姿もあり。彼らは長机の
    周りに座するように並んでいる。
     そして、最も最後に、机の頂点にフードを被った人影が浮かんだ。
     その瞬間、全員が同時に起立してその人物を迎えた)

    • (フードに顔が半分隠されて分からないが、若い女のようである)
      全員、揃いましたねぇ。
      (しかし、開いた唇からは、囁くような男の声がして)
      • それでは…
      • (今度は柔い女の声でそう言いかけた瞬間)
      • 教主さまぁーお茶とコーヒーどちらがよろしいでしょうかー。
      • (どこからともなく、若干変な声気味な、高い少女の声が…)
      • 私はココアがいいかなぁ。それとね、もう会議始まっちゃってるから
        ちょっと静かにしてくれると嬉しいな〜って。
      • ハゥアっ!?し、失礼しました!?
      • いいよぉ〜。
      • (フードの人物が、誰もいない後ろに振り返り頷くと、隣に立つモノク
        ルメガネの老爺が)
      • …よろしいで御座いますかな?教主様
      • あ、うん。ごめんねぇ。
      • (フードを取る、夕日に映える小麦畑のような色をした髪である。
         穏やかな波のようにふわふわとした長い髪の少女であった)
      • 皆さんおひさしぶりです。それでは、はじめましょうか。
      • (暗がりの中にあって、一人だけ、柔い日差しを受けるように明るい。
         その明かりは、黒い板に白を塗っただけのように眩しさはない。
         だから、居並ぶ誰よりこの闇に溶け込んでいるとも言えた。
         その人物は、また少女の姿のまま、優しげな男の声で囁いた)。




      • (会議は淡々と進行していく。いくつかの議題が可決し時に否決される
        その間、教主と呼ばれた人物は、笑みのまま、ただ無言で座しているだけで
        しかし、彼あるいは彼女がそこにあるだけで、会議は滞りなく進行していく
        そして今また一つの議題の決がとられ様と)
      • では、東国へは某が赴くと言う事で
      • 異議なし
      • 異議無しよ -- 真榊
      • ………
      • 異議無しと言ってます
      • では全員一致ですな、次の議題は……
      • (その言葉と同時に視線が一点に、一人の少女に集中した)。。
      • (ハウンドは頷くと言った)
      • 捕えそこねた龍神を捕まえる。 -- ハウンド
      • (例のモノクルメガネの老爺が続けた)
      • アルフリーダ嬢の残した、最後の祭壇を使うわけであるな。。
      • やれる見込みはあるのか?
      • うむ、あれは最後の祭壇、無駄に消費するのは惜しい
      • あの龍神にこれ以上かかわるのは得策で無い様に思えるが……
      • ………
      • 北方の姫に使う方が有効だと言ってます
      • (闇の中に溶け込んだ者達がそれぞれの意見を述べる
        男の声、女の声、少年の声、少女の声、獣じみた声もある)。。
      • 彼女は、子飼いの部下だった故。主の仇を討ちたいというのでしょう。
        泣ける話しですなぁ。 -- クローズ
      • (そう言ったのはクローズである)
      • …私は…。 -- ハウンド
      • しかし、我々には感傷的になる余裕などないのですよ。 -- クローズ
      • (身を乗り出すハウンドを遮るように、クローズが言葉を続けた)。
      • クローズそこまでにしなさい、仲間内で煽り合ってどうするの? -- 真榊
      • (今度はクローズを真榊が制した。極めて冷静な声
        なのに身を押さえこまれる様な感覚)
      • ハウンド、貴女も提案した以上は何か策があるのでしょう?
        まずはそれを聞かせてほしいわ -- 真榊
      • そうですな、否定ばかりもよくありませぬ
      • (老爺はモノクルを指で押し上げるとハウンドへと視線をやる)
      • 異議無し、有効な策であるならば試してみる価値はあるでしょう
      • うむ、聞くだけでも聞かせてもらおう。。
      • (クローズが苦味ばしった顔で黙ると、ハウンドが言った)
      • あいつを2つに引きちぎる。 -- ハウンド
      • (説明というには乱暴すぎ、伏せた獣が獲物に食らい付くような唐突さ
        であった。
         当然………)
      • どういうことだ?
      • (エイリアンのような頭の人物の横に座った、大柄な男が聞いた)
      • あの龍神は、龍と、よく分からないナニカで出来ていた。
        表裏一体の創造神と破壊神とか、そういうんじゃない。
        『強大な龍』と『得体のしれないナニか』だ。 -- ハウンド
      • (言葉を待つ沈黙に、ハウンドは続けた)
      • 龍の力だけなら強大でも単純だ。祭壇の檻に入れられる。。 -- ハウンド
      • 半分の力だけでも我々の手に収める事が出来れば、その恩恵は計り知れない……
      • 確かに半分ならばどうにか出来そうだな。だがそんな事が本当に可能なのか?
      • いやまて、一度失敗しているのだぞ?そう簡単に行くものか
      • …ハウンド、それであの龍神をどうやって…貴女の言う所の、どうやって引き千切るのかしら? -- 真榊
      • (ハウンドの案を聞き沸き上がる者達とは対象的に真榊の言葉は極めて冷静だ
        同じ様に、モノクルの老爺や獣じみた声の者も真榊と同意見の様だ
        反応を見るにハウンドの言葉次第で賛成反対どちらにも流れて行きそうだが……)。。
      • 古い協力者の末裔が、居る。 -- ハウンド
      • (ハウンドは、机の上に1冊のファイルを置く。
         黒紐で閉じられた、油紙の色をして、朽ちかけた紙の束だ)
      • おまえ、地下書庫からそんなもの引っ張りだして来やがったのか…! -- クローズ
      • (それを見て、驚いたのはクローズだけではない)
      • 強大なモノと取り成しを付ける力だ。巫女だ。
        祭壇と巫女があれば、できる。 -- ハウンド
      • (ムンガが、無言でファイルの上の写真を取る。
         写っていたのは…無邪気な笑顔で笑う、まるで双子のような姉妹、
        アミとロワナの姿だった。
         だが、この場に姉妹の身を案ずる者は居ない。議場のざわめきはま
        ったく別の理由である)
      • おあつらえ向きに、今あの龍神は、巫女の末裔が住む地に居る。
        深く潜んだ狂気の顎の上とも知らずに、呑気を決め込んでやがる。
        狩るなら今だ。 -- ハウンド
      • (最後にそう言ったハウンドの顔は、笑いとも威嚇ともつかない
        牙をむきだした表情だった)。
      • 無茶だ…無茶すぎる、君は龍一匹を捉えるために邪神の力を呼び覚ますのか?
      • むしろそちらの末裔を…巫女を捕まえる方が得策ではないか?
        誘拐ならば我が部隊の得意とするところだ
      • 話にならんな…やはり祭壇は別の目的に使う方がいいだろう
      • ………
      • 北方の姫に使うべきだと言ってます
      • いや、だがもし邪神の制御が可能ならばやってみる価値はあるかもしれぬ
      • その巫女の力を使うと言うのは面白い発想だと思うけれど…… -- 真榊
      • くくっ…ハウンドの責任のもとで試してみるのもおもしろいかもしれない
      • (意見はほぼ真っ二つに分かれた
        ハイリスクハイリターン…ハウンドの提案はまさにそれだった
        ファイルに記された邪神の力は危険すぎる
        それゆえに、ララリウムですらこれまで手を出す事を避けていた存在
        太古の邪神、混沌と創生に関わる危険な存在……
        そしてその力を呼び起こす事の出来る巫女)。。
      • (一方で、ララリウムの力の源は、神を捕える術にある。
         神も悪魔も実在する世界で、より強力な神の力は是が非でも欲しい)
      • アルフリーダ嬢が居なくなってしまったのが痛いですな。
        神を捕らえる祭壇の運用は、彼女あったればこそ…。
      • (モノクルメガネの老爺が、つぶやくと)
      • 私がまた頑張ってもいいけどぉ?
      • (それまで、ただ微笑みながら会議を見守っていた教主が、微笑んだ
        まま言った)
      • …それは…畏れ多いことです。
      • そぅ?ふふっ、それじゃあ…。
        そろそろ、多数決で決めるの、どうかなぁ?
      • (少女の柔い声がそう言った瞬間、ざわめきが止まる)
      • ふぅむ、私は反対です、リスクが高すぎる。
      • (まずそう言ったのはクローズ)
      • いいんじゃないか、やる価値はある。
      • 私めも、やる価値はあると思いますな。
      • ………
      • 北方の姫に使うべきだと言ってます。。
      • ワタシも反対ダ今はリスクを犯すべきトキではない
      • 某は賛成に投じよう、虎児を得ずの諺もある
      • 僕は反対かなーアルフリーダの件は残念だと思うけどさー
      • 私は賛成ね?ハウンドがそこまで言うならやらせてもいいんじゃない? -- 真榊
      • (教主の言葉を口火としてそれぞれが意思を示して行く
        ここまで賛成反対ほぼ半分半分。最終的な決は残る数人へと委ねられる)。。
      • 命令とあらば、妾達も異存ありゃせん。しかし先の戦いで我らの隊は
        痛手を負ったでな。
      • (反対ということである)
      • 安心しろよ、俺らがカバーに回ってやる。俺は乗るぜ。
      • (賛成である)
      • ………。 -- ムンガ
      • (そして最後の一人、今まで、ただ黙して居たムンガである。
         ここまで賛成と反対が半々に割れている。
         ムンガは、何度もハウンドと並んで戦線に立ってきた戦友だ。
         雨宿りする影すらない、雨止まぬ南の密林で戦い。
         体から抜け出た水が、霜となって服に付く極乾の極北砂漠も戦った。
         孤立無援の死地で、互いの背を守るため、手足に受けた銃弾、槍疵の
         数は数え切れない)
      • (居並ぶ幹部たちの中で、これほど同じ場数を踏んできた者は居ない。
         だから、ハウンドは、険しい獣のような横顔に、安堵のような表情を
        浮かべていて。
         それを見たムンガは言った)
      • …反対だ。 -- ムンガ
      • (音を立てて、ハウンドが席を蹴って立ち上がる。
         だが、なぜと問う前に)
      • はい、それじゃあ決まりですねぇ。
        それでは、大陸で合流しましょうか。みなさん、おつかされさまです。
      • (席次の頂点に居る者が、優しい声でそう言えば。
         それで終わりであった)
      • (焚き火のような明かりで照らされていた人物達は、蝋燭を吹き消す
        ように消えた。
         あたりは一瞬闇に閉ざされ。蛍光灯の白い明かりが灯る。
         灰色の鋼板の床と乳白色一色の壁板に囲まれた小部屋だった。
         低い天井の下で、長机の周りに座っていたのは、ムンガと真榊とク
        ローズ、そしてハウンドの四人だけであった)。
      • (遠距離会議
        遠話と幻影の術を組み合わせた遠距離通信による会議
        この場には四人以外存在しない
        それぞれの使命と任務を行っている地から姿と声だけがこの場へと)
      • …ふぅ、今日の会議はこれでおしまいね -- 真榊
      • (四人だけになった室内で最初に口を開いたのは真榊
        大きく背伸びをすると他の三人をぐるりと見渡し
        そしてまずハウンドの元へと)
      • まぁ、仕方が無いわよ。教主様が多数決でと言ったのならばその結果は絶対だもの
        生きていれば次の機会はくるわよ。。 -- 真榊
      • 何故だ…。 -- ハウンド
      • (押し殺した声は、真榊ではなく、その向こう側に座るムンガへ向け
        られている)
      • …何故かって?それは俺が聞きたい。 -- ムンガ
      • (ムンガはハウンドの側に立つと、顔を伏せる彼女に背丈をあわせる
        ように屈む)
      • 龍神を捕らえるのに、邪神を呼び起こす?
        どう考えても正気じゃない!よくて両方の力が暴走して殺し合いを始
        めるだけだ。辺り中を巻き込んでな! -- ムンガ
      • ボスの命令なら、そんな地獄にも行くさ。
        だが、お前はそんな地獄を作りたいのか? -- ムンガ
      • …ッ! -- ハウンド
      • (払いのけるように背を向けたハウンドの肩を、ムンガが掴む)
      • どう考えても!
        あの作戦は、お前らしくない。
        俺も、お前も、神が居るこの世で、理不尽な地獄を掴まされたからコ
        コに居るんじゃあないのか。 -- ムンガ
      • お前だって、アルフリーダに救われた!
        …私と同じだった。 -- ハウンド
      • (黄金色の、獣の瞳で睨みつけると、ハウンドはムンガの手を払い、
        頭の支えそうな防水扉をくぐって、足音だけを残して出て行った)
      • …くっくっ、くっ。 -- クローズ
      • (2人の背後で、足を汲んで座したままのクローズが低く笑う)
      • はぁ…。 -- ムンガ
      • 乙女心を理解するには経験値不足だったみたいね? -- 真榊
      • (ため息するムンガの肩をぽんっと誰かが叩いた
        振り向けば手の主は真榊、肩を竦めながらムンガに苦笑を向ける)
      • 未だに整理しきれないのでしょうね、あの子ああ見えて一途な所あるし
        ま、この組織にいる人は誰も何かに一途なのかもしれないけれど。。
      • それでも、…今まであいつがあんなに執着を見せる事なんかなかった。
        いい傾向とは言えない。
        …マサカキ、お前はなんでハウンドに賛成したんだ。 -- ムンガ
      • (大きな背を丸めるようにしながら、若干恨みっぽい声でムンガは言
        った)。
      • 私はあの子の過去をあまり知らないけれど、過去にもそう言う経験があったのかもしれないわね……
        ん? なんでって…うーん、そうね…… -- 真榊
      • (ムンガの恨みっぽい声を受け流す様にしながら腕を組み考え始め)
      • おもしろそうだったから…と言うのもあるけれど、無茶を承知で進もうとする子は応援したいから
        それと…… -- 真榊
      • (くすくすと微笑む様にしながら言葉を紡ぐ。海賊の頭を務めるだけあって破天荒な物言いだ
        そして、背を丸めるムンガの耳元に口を寄せ囁く様さらに告げる)
      • …同じ意見にするのも癪だったし? -- 真榊
      • (そう言うとクローズを一瞥してニヤリと笑みを浮かべた)。。





    • (壁をツタのように覆う配管が、赤い照明に照らされている。
       洞窟か巨大な生物の(はらわた)のようであった。
       そこを、足音もなくハウンドが歩いていた。
       ブーツを履いて居るのに、鋼板の床を踏んでも音がない)
      • ハウンドさんじゃねぇっすか、どうしやしたこんな夜中に。
      • (閉ざされた扉の前に立つ男がそう言うと)
      • レシーバーを貸してくれ。 -- ハウンド
      • はぁ、はいどうぞ。
      • (男は、やや訝しみながら、銃を肩にかけると腰からトランシーバーを
        引き抜いて渡す。
         そして床に転がされていた)
      • ―――ッ!?
      • (ハウンドは、一瞬以下の間で男をダクトテープで縛り上げていた。
        口から延髄までテープを巻きつけ、男の顔下半分をマスクのごとく、
        テープで巻き上げる。雑な猿轡だが、顎を動かしてもこの拘束は容易
        には解けない。
        そうしてから、ハウンドは鍵束を取り上げ扉をあけた。
         それなりに広く、不気味な部屋である。無機質で工業的な艦内を這
        いまわる管の類や、照明は無い。代わりに奇妙な文字を壁一面に
        書き連ねてある。
         その中央に、台座に乗せられた金属の箱があった。
         あるいは、台座の上に、台座のミニチュアが乗っている)
      • はっはぁ!やっぱりなぁ、やると思ったんだよ俺は。 -- クローズ
      • (一抱え程のおおきさの箱を、ハウンドが抱えようとした時だった。
         台座の向こう側に、クローズが出現した)
      • おっと、動くなよ。 -- クローズ
      • (身構えようとしたハウンドに、矛のような杖を向けてクローズが制
        する。入り口の方に慌ただしい足音がいくつも聞こえる)
      • あれハウンドさんだ、侵入者は?
      • クローズ様これはえーと…。
      • むぐー(ほどいてー)
      • (銃を構えたむくつけき大男共が、戸惑っていると)
      • バカ共が、こいつが侵入者だボサっとしてないでさっさと撃ち殺せ! -- クローズ
      • (一応銃を構えはするが誰も撃たない。
         ハウンドの前からクローズの姿が消えた)
      • まったく、あいつは我らを裏切る気なのだ。容赦するな! -- クローズ
      • (突如男たちの背後に現れたクローズが杖を掲げると、埋め込まれた
        大きな宝石が、不気味に揺れ動く光を発する。
         その途端、男達は、頭をフラフラと振りながら銃口をハウンドに向け
        銃を乱射しはじめる。
         だが、無数の弾丸は彼女にかすりもしない。動き出したと見えた次
        の瞬間。銃撃の反響を背に受けながら既に男たちの前に、身を屈めて
        いて。排莢された薬莢が、床で跳ねるのと同時、左右の二人を掌底で
        天井に叩きつけると、外側に立っていた一人を蹴りで、数m先の壁まで
        ふっ飛ばし。蹴った反動で飛ぶ。
        そして、反対側に居た男の首を、一蹴して気絶させた)
      • ひぃ!?ま、待て!止まれぇぇええ! -- クローズ
      • (後ろに飛び退いたクローズが、壁に背を打ちつけながら、悲鳴を上
        げるように叫ぶ。抱きかかえた杖が、また怪しげな光を放つと、 顔面ぎ
        りぎりのところで、牙を剥きだしたハウンドが停止していた)
      • さ、下がれ…下がれぇ! -- クローズ
      • (瞳孔が大きく開いた瞳は、まだ相手を睨みつけていたが、唸り声を
        上げ、腕を震わせながらハウンドが一歩後退する)
      • は、ハハ…。そうだ、大人しくしていろよ獣めが。
        所詮貴様等、この俺の力には敵わぬのだ。 -- クローズ
      • (壁に背を擦り付けるようにしてクローズが、立ち上がった。
         引き攣った笑いにいやらしいものがまじる)
      • さて、どうしてくれようか…まずはその醜い牙を仕舞え、口を閉じる
        のだ。 -- クローズ
      • (唸りをあげるハウンドが、牙の生えた顎を閉じた)
      • ふぅ、お前のその歯、確か自分のは全部引きぬかれたんだったな。
        残らず妖精にもって行ってもらったか?んん?
        そうだな、二度と歯向かえないように、もう一度全て引き抜いてやる
        のもいいな…。
        薄汚い獣が、この私に噛み付こうなどと許されない事だk………オゴゥッ!? -- クローズ
      • (殴った。
         ハウンドの拳が顔面にめり込み、バナナみたいに顔をひしゃげさせ
        ながら、クローズは吹っ飛び壁にめりこむ。
         面白い音の息を、ひん曲がった顔でひゅぅぅと吐いた)
      • (全員を沈黙させると、転がる男どもを踏み越えて。
         今度こそ箱を袋に詰めてハウンドは、踵をかえす)
      • どうしても行ってしまうのでしょうか。 -- _
      • (ローブを纏った男が立っている。
         青年とも少年ともつかない、柔い声であった)
      • あ…。 -- ハウンド
      • う〜ん…それを持って行かれてしまうと、困ってしまう人がいっぱい
        いるのですけどぉ…。 -- _
      • (今度は、少女の姿である。
        夕陽に映える小麦畑が風に
      • (ハウンドは、スゥアという虎の神の力を持っている。
        獰猛な捕食者である彼女が、今哀れな獲物のように身をすくめていた。
         彼女、あるいは彼は、今この艦に居ない、何千キロも彼方に居るは
        ずであった。
         会議の時のようなホログラムではない。
         泡を吹いて伸びる、クローズのようなチャチな瞬間移動とも違う)
      • (ハウンドは、全身の毛が怯えに逆立つのを感じた。
         彼女の中の、スゥアの力が、獣の本能で恐怖を感じているのだ。
         目の前の、自分と背丈の大差ないやせっぽちな人間に、
        獣の神が怯えているのだ)
      • ………ボス…。 -- ハウンド
      • はい。 -- _
      • (やっとハウンドが絞り出した言葉に、少女は笑って答えた)
      • ………。 -- ハウンド
      • (気まずそうに、目を逸らしてうつむくハウンドは、まるで叱られた
        子供のようである。
         だからなのか、ボスはまるで幼子でも相手にするような口調で)
      • でも、それがないと君が困ってしまう。 -- _
      • じゃあ、あなたと彼らの違いを考えましょう。 -- _
      • どうでしょうか? -- _
      • どうかなぁ? -- _
      • わからないですね。 -- _
      • わかりませんねぇ。 -- _
      • (青年と少女の声がくるくると入れ替わるように、自問自答している)
      • どうやら、どちらが困ってしまっても大差ないようです。 -- _
      • え、と………あの…。 -- ハウンド
      • あなたも分からないって顔していますね。
        でも、それでいいんですよ。人は選択をしなければ何もできません、
        そうして、どうしようもない選択肢を前にしたとき、つい祈ってしま
        うのです。 -- _
      • (青年が、ローブの袖で、汗の浮いたハウンドの額を撫でる)
      • 自分の選択を、常に正しいと信じたい、信じようとした時に。
        信仰が生まれるのですねぇ。そこに疑問や、不完全さを差し挟む余地
        はないのです。 -- _
      • (少女が、両手を頬に差し伸べて微笑む)
      • 神を必要とする事をやめた私達は、常に疑い続け、常に迷い続ける宿命
        なのです。
        けれど、そっちの方が楽しそうじゃないですかぁ。 -- _
      • (ふわふわと捉え処の無い言葉で、煙に巻かれたように困惑するハウ
        ンドの背に、青年が促すように手を差し伸べる)
      • さあ、行くといいでしょう。
        ボクらを、おおいに困らせてくれて結構ですよ。 -- _
      • (そして少女が、肩に手を置いて笑いながら言った)
      • あなたは何にも従属してはいけないんですよ、それが例え私であったと
        してもです。
        それにしても…ふふっ、あなたってやっぱり、トラというよりワンち
        ゃんだったね。
      • (くすくすと、笑った)。



    • (男達の怒号が飛び交う。焦りと混乱の混じった声が飛び交う
      ステルス巡洋艦「浅草寺」の艦橋内は混乱状態だった
      いや、艦橋内だけでない甲板も機関室も全てが混乱状態にあった)
      • ああ、全員落ちつきなさい!もう!
        捜索班はとっととチーム組んで出るの! ええ?一隻足りない?
        いいから泳いででもいきなさい! -- 真榊
      • (艦橋内からではなく艦橋上に仁王立ちした真榊が指示を飛ばす
        金の髪と黒きマントを海風に靡かす姿は正に威風堂々
        拡声器等無くとも彼女の声は艦の隅々まで届く
        頭の声を聞いた男達は落ちつきを取り戻しそれぞれの行動を開始する)
      • ふぅ、あの子が動くのは予想していたけれど…こんなに早く動くなんてねぇ…… -- 真榊
      • (本部に持ち帰るべき重要アイテム「祭壇」が奪い去られた、それも味方の手によって
        神を捕えその力を行使する事の出来る魔導科学の産物
        なのにその声は楽しげだ、この混乱を楽しんでいる風にさえ見える
        実際、楽しんでいるのだろうキャプテン真榊とはそう言う女だ)。。
      • オイッ!レーダーで行き先追えないのか!? -- ムンガ
      • そんな事言われたって、内火艇にゃキャプテンの幻惑の術がかかってる
        にぇ。簡単にゃ見つけられんッスよ…。
      • ッッ!ア゛ア゛! -- ムンガ
      • (真榊とは正反対に、普段の冷静さを失ったムンガは拳で机を叩いた。
         顔面よりも大きな拳が、鉄板で作られた機器の外装をひしゃげさせ、
        ゴーグルメガネのレーダー監視員は驚愕した)。
      • こらー!ムンガ大福ー!!
      • (窓の外から怒鳴り声。雷鳴の如く響く声に艦橋全体がビリビリと震える
        怒声に耳をジンジンとさせながらも船員の一人が素早く立ち上がればと窓を開け放つ
        潮の香りと共に疾風が飛び込んできた)
      • もう、それ高いのよ? この間交換したばかりなのに
        修理費は貴方の所の予算からもらうからね? -- 真榊
      • (疾風は真榊。着地と同時に金の髪を靡かせながらツカツカとムンガに歩み寄ると
        どっと抗議の声を浴びせかける)。。
      • ………スマン。 -- ムンガ
      • (両手を小さく挙げて、ムンガは一歩下がった。
         熊の如き大男が、仔犬のようである)。
      • ふふっ、素直でよろしい
        この件はまた後で問うとして、今は先に目の前の事を処理しましょう -- 真榊
      • (ムンガが謝罪すればニコリと笑みを浮かべ、今成すべき事への切り替えを行う
        目の前の事とは勿論ハウンド逃亡の件。この混乱の原因でもあり
        どうにか処理せねば二人の上司である教主に困った報告をせねばならない
        ハウンドの同僚であるムンガだけでなく、現場にもっとも近い位置にいる真榊も当然の事である)
      • あの子がどう動くかは大体予想がついてるとして…… -- 真榊
      • (ボソリとそしてさらりとムンガにとって聞き流す事の出来ない事を呟いた)。。
      • 分かるのかッ…!?あの龍神の所か! -- ムンガ
      • (思い当たるのはその一つだけだ)
      • ハウンドの部下は…乗って来てないな。元々あいつは独りで動く奴だ。 -- ムンガ
      • ええ、それ以外無いと思うわ?
        でも気まぐれを起こす可能性を想定して四方に船を出したけれど、今の所報告も無いし -- 真榊
      • (ムンガの言葉にこくりと頷くとカツカツ艦橋内を歩き回りながら
        捜索班からの報告を確認して行く。どれも返答はネガティブ)
      • そうなると…嵐の匂いもするし、おやっさん! -- 真榊
      • (真榊が呼びかけると艦橋の隅で寝転がっていた翁が顔を上げた
        頭には海賊マーク入りのバンダナ、そして丸眼鏡、いかにもと言った風情の翁)
      • (翁は真榊の顔を見れば頷いてから艦橋の中央にある作戦マップに歩み寄って
        まずは陸へと向け黒で一本の線を引いた。この船から龍神の暮らす村…アトイ達の村まで一直線に
        そこから赤で曲線を上書きして行く)。。
      • 海の上で捕まえられるか?陸であいつに抵抗されると厄介だぞ。 -- ムンガ
      • (地図を前に、ムンガは真榊の横に立つと、険しい顔をした)
      • 手下率いる戦いならともかく…。野放しになったあいつとやり合うのは…
        できれば避けたい。 -- ムンガ
      • 大丈夫大丈夫、この子(船)で追えば十分に間にあうわ -- 真榊
      • (翁の描いた予想航路見れば納得したように頷く
        嵐の接近にともない海は荒れる、内火艇では波に翻弄され真っすぐ進むことは難しい
        しかし「浅草寺」ならばその馬力と速度で波をねじ伏せ最短で進む事が可能、しかし……)
      • その代わり威嚇砲撃の二、三発はするけれど…異論はないわね? -- 真榊
      • (小型とは言え内火艇には火器が搭載されている
        こちらの接近に気付いたハウンドが反撃してくるのは当然の事として予想出来て)。。
      • いや…。 -- ムンガ
      • (ムンガは太い腕を、分厚い胸板の前で組むと、丸太のような首を横
        に振った)
      • あいつを心配してるんじゃない。
        もしも、ハウンドが本気で俺たちを裏切るなら、命の保証が無いのは俺たち二人の方だ。 -- ムンガ
      • (ハウンドが脱走した今、神を捉える祭壇を確保する責任を負うのは、
        真榊とそしてムンガ、二人の幹部である。
         当然、命に代えてもだ。それだけの品なのだ。
         ちなみに、クローズは医務室で伸びているので数に入れなかった)
      • やるなら威嚇じゃなく、確実に当てるつもりで狙ってくれ。 -- ムンガ
      • (ムンガは、本気でそう言っていた。その表情は冷徹な割り切りとは程遠い苦悶を
        彫りの深い顔に刻んでいながら)。
      • あらまぁ? -- 真榊
      • (ムンガの言葉に目を数度パチクリとそして肩を竦めればくすくすと笑みを浮かべた
        その言葉が心底楽しいと言った表情)
      • いいわ、貴方が良いと言うのならば確実に当てましょう
        うちの砲手の腕は世界でも最高レベルよ? そうと決まれば出港よ時間が惜しいわ -- 真榊
      • (もう一度クスリと微笑めばパンっと手を叩き号令をかける
        真榊の声に艦橋内のそして艦の空気が切り替わる)
      • …まったく不器用な男よね、こじらせた男って本当にどうしようもないわ…… -- 真榊
      • (男達の怒声が飛び交い始める中、落ちつかぬ表情を浮かべたままのムンガを見て呟く
        ムンガとハウンド、親子程にも歳が離れて見える二人
        ムンガが抱く執着は恋なのか父性なのか……
        その心はムンガ自身にもわかっていない様に見えて)。。

      • (そして、高い笛にも似たエンジンの響きが甲板上にも響き。艦は水
        上を滑るように走りだした。
         慣性が、背中を引き倒そうとするのを感じるほどの加速である。
         東の水平線が赤黒く、朝焼けに染まり始め。刀のようなシルエットは
        切っ先に飛沫を上げながら突き進む。
         100Mを越える大きさの船が、モーターボートのように疾走している
        と見える程である、その船足は恐ろしく早かった)
      • (艦橋の窓から、双眼鏡で薄暗い海を覗く手下が言った)
      • ボートでどんなに飛ばしたって、こいつの足ならあっちゅう間に追い
        つけますぜ。もうそろそろケツが見えてんじゃねぇですかね。.
      • そのはずだけど…ん! 300前方、右! -- 真榊
      • (身を乗り出す様にしながら境界曖昧な水平線を睨みつけていた真榊が叫んだ
        双眼鏡をもった手下が慌ててそちらにレンズを向ければ
        海上に歪み。朝焼けの赤と海の黒が混じり合う歪みが海に白い線を引いている)
      • ふふっ、みーつけた。機関室!もっと回しなさい!
        砲手はディスペル弾用意! 作るの面倒だから確実に当てるのよ! -- 真榊
      • アイアイサー!
      • (一層速度を早める艦の前甲板で、砲塔が動き精密に照準を定める。
        ッカァン、と高い炸裂音が響いて砲弾が発射された。
         水面を走る見えない何かが、大きく舵を切る。急カーブを描く
        航跡に覆いかぶさるように、空中で炸裂した砲弾が水しぶきを上げ、たたきつけられた)
      • (続けざまに2発目が発射。波飛沫に混じって紙吹雪が何も無い虚空から
        湧き出すように散る。
         光学迷彩の繭を剥ぎ取られたボートは、洋上にその姿を現わし立ち
        上る水しぶきを突き破り、水を切る石のように跳ねながら走った。
         間髪入れずに、駐退機によって再びせり出す砲が3発目を撃とうとし
        た瞬間。
         爆発が鳴り響く)
      • なんだ!? -- ムンガ
      • (艦橋から外への階段を降りようとしていたムンガは、あわてて手す
        りにすがった。捕まりそこねた手下の男が一気に階下まで転げていく)
      • お頭ァ!船尾で爆発が!だめだ速度がでねぇ!。
      • わかってる! やられたわ、完全にしてやられた! -- 真榊
      • (手下に怒鳴り声をぶつける。自分らしくないと思うが仕方が無い
        艦橋にある全ての通信機器そして伝声管から怒声と混乱の声が聞こえてくる
        内容はどれもネガティブ。船の航行の困難を伝える物ばかり
        爆発の原因はハウンド。恐らく時限爆弾をセットしていたのだろう
        予想出来たはずなのに完全に失念していた、それが悔しい)
      • ダメージコントロールは浸水の確認! 機関室は安全が確認できるまで止める!
        …そう言う事だから、この船での追跡はここまで -- 真榊
      • (指示を飛ばした後、ムンガの方へと振り向いて肩を竦める)。。
      • ボートを借りるぞ。 -- ムンガ
      • (頷いたムンガは、返事を待たずに階段を駆け下りて行った)



    • (爆発を背中で聞きながら、ハウンドは海の上を疾走していた。
       浅草寺の艦影がみるみる遠ざかっていく。
       一度だけ、振り返ると、立ち上る煙が見えた。一筋の黒煙が赤い空
      にぬるぬると登っていく。
       それを見ながら、彼女は、なぜだか唐突に青い空を思った。
       それは、私が8歳の誕生日を迎えて間もない頃だった)

      • (あの日の空はとても青かった。
         大平原の上にある雲ひとつない空は、南国の海を思わせる程青く澄
        んでいて。丘の上からそれを見る私は、海を知らなかった。
         その青一面の中に、風もないからまっすぐと、黒色の煙が登る)
      • 回収出来た人達だけですが。少し雑でも獣の餌にされるよりはずっと
        マシでしょう。
      • (私に言い訳でもするかのように、その女の人は、言った。
         長い後ろ髪を獣のように跳ねさせた女性(ひと)だった。あるいは蟹の足だ。
         その時、私は歯を殆ど引っこ抜かれ、膿んだ歯茎はまともに喋るには
        難しかったから。ただ、だまって頷いた)
      • ありがとうございます。
      • (なぜだか、その女性は、私にお礼を言ったのだった。
         私は、たくさんの人の体が燃えて煙になるのを見つめていた。
         父と母の体も、彼らの中にあった。燃えて、煙になって、空へと登
        って行くのを私は遠くから見つめていた)

      • (飛沫が顔にかかり、ハウンドは、まだ暗い水平線を再び睨む。
         やがて、陸地の黒々とした山影が見えてくる。
         遠くの漁船の明かりを横に通り過ぎ、陸が近づいてくると、ハウン
        ドは唸るように牙を剥いた)

      • (適当な岩場を見つけると、岩の間に隠すようにボートを止めた。
         荷物は背負った袋と、銃等の武器が幾つかだけである。
         殆ど垂直に切り立った岩場を、手も使わずにハウンドは登った)

        (切り立った崖にせり出した林の中から、数百m先に人家の明かりが1
        つ2つ灯っているのを見て。
         歩き出そうとした、その時…)
      • 待て。 -- ムンガ
      • (まだ夜の暗さを残す林の中から、重たい声がした)。
      • やっと追いついた -- 真榊
      • (さらに女性の声が続き、暗がりから男と女が姿を見せる
        前を進むのはムンガ、そしてその後ろにマスケット銃を肩に担いだ真榊が続く)。。
      • 出し抜いたつもりだろうが、あいにくだったな。マサカキの術はそん
        なに甘くはねぇってこった。 -- ムンガ
      • (そう言いながら、ムンガは手を差し出す。
         その手を、ハウンドはじっと無言で見る。
         ムンガは、ため息をつきながらもう一度、手を差し伸べた)
      • バカみたいにボケっと見てるんじゃない、帰るんだ。 -- ムンガ
      • …帰る? -- ハウンド
      • そうだ、祭壇を返して、船に帰るんだ。
        今戻れば、船を壊した事も大目に見てくれるそうだ…なぁ? -- ムンガ
      • (わざとらしく明るい声で、真榊を振り返りながらムンガは言う)。
      • え?まぁ、修理を手伝うくらいで許してあげてもいいわ
        だから、戻りなさい -- 真榊
      • (肩を竦めつつ返答を返す。間に合うとは言わない
        恐らくそんな言葉を付けても無駄であろうから)。。
      • (ハウンドは切り立った断崖を右に見て、ムンガ達は左に見ている。
        向かい合ったままハウンドが言った)
      • …さっき、ボスに会った。 -- ハウンド
      • 何!? -- ムンガ
      • 好きにしろって、行っていいってそう言ったんだ。 -- ハウンド
      • …いいかねんなあの人なら。 -- ムンガ
      • そうしてきっと、お前たちには、私を殺してでもこいつを奪い返せって
        言うんだろう。 -- ハウンド
      • (背負ったバックを掲げるハウンドに、ムンガは頷く。
        組織の中で自分の仕事が何か、ここにいる3人は言われるまでもなく
        分かっているのだ)
      • 俺は、あの人のそういうわけの分からなさに救われてると思ってる。
        お前も、俺も、利益であれ思想であれ国であれ、分かり易いものを掲げ
        た連中に故郷と家族を奪われた。 -- ムンガ
      • (ムンガは言いながら一歩、ハウンドに近づく。
         彼女は動かない、もう一歩…)
      • そんな連中の片棒担がされてたからよ、本当にそう思う。 -- ムンガ
      • 分かってるよ、私達の生まれた場所は、戦うか一生惨めに逃げまわる
        かしか選べない、そういう所だったんだ。 -- ハウンド
      • (ハウンドがそう言うと、ムンガは足を止めた)
      • ああ、だけども見ないふりして遠くへ逃げる気にもなれなかった。
        だから、俺達は戦ってきた。それとも、お前は今更それを止めにする
        気なのか! -- ムンガ
      • 違う!違う…けど。 -- ハウンド
      • (牙を隠したその口は、硬く閉ざされて何も言わない。
        口下手な少女は、10年余りも重ねたその記憶と思いを表す言葉を知ら
        なかった。
         嵐のように胸の内をかき回すモノをなんと言えばいいのか。怒りも
        悲しみも懐かしさも混ざりすぎて。感情として面に表せないのだ。
         ただ、その中心にいるただ一人の姿だけははっきりとしていて。
         ヒドイくせっ毛が、獣のようにはねたその後姿だけが、はっきりと)
      • …甘ったれやがって。 -- ムンガ
      • (その心中を察するように、叱るような、呆れるような声でムンガは
        低く呟いた)
      • (どさり、とバックが足元に落とされる。
         ハウンドは口を開く。言葉を発するためではない。
         ムンガも、応えるように腰のナイフを引き抜いた)。
      • ふぅ、結局そうなるのねぇ -- 真榊
      • (ここまで無言で二人を見守っていた真榊がため息交じりに呟いた)
      • 手は出さないから二人で決めなさい…私は見ててあげるから -- 真榊
      • (一歩下がるとマスケット銃で肩を叩いて、またため息
        「決めなさい」…つまり二人なりのやり方で決着をつけろと言う事)
      • (この二人にはどんな言葉も意味も出さない。真榊は海賊…賢人の様な上手い言葉を持たない
        ならばハウンドとムンガ…二人が納得する方法を持って決をとるしかない)。。
      • (真榊が一歩引いたのを合図に、ムンガのナイフが、金属をすり合わ
        せる音を立てて形を変え始めた。
         1枚に見えていた肉厚なククリナイフが、幾重にも折りたたまれてい
        たかのように広がりつづけ。樹木の象形図にも似た、刃物としてはまっ
        たく奇妙な形を取った)
      • ふんっ! -- ムンガ
      • (その奇体なナイフを顔の前に両手で構えたムンガが、両手を開くと。
         ナイフは2本に増えて、右手と左手に握られていた。
         尋常の技ではない。
         ハウンドが虎の神の力を得ているのと同様に、ムンガもまた神の力を
        与えられているのだ)
      • うおおおお! -- ムンガ
      • (ムンガが両腕を振るった。その瞬間、ナイフの数は10にも20にも増え
        全てが激しく回りだし、不規則に飛び交いながら木々を粉微塵に切り
        裂き、竜巻となって荒れ狂う。
         森をまるごと、ミキサーに放り込んだようである、もはやどこをナ
        イフが飛び交っているのか見えはしない。
         切り裂かれた木片、木の葉、飛び散った土や石の礫に、ムンガの姿も
        隠れ消えた)
      • (耳元で電動のこぎりを振り回されているような圧力と音だけがある。
         飛び散る礫が、顔と言わず耳と言わず小さなムチで打ち
        据えるように当たった。
         ナイフの一つが耳を掠め、髪を散らし、肩を浅く切り裂いた。
         だが、ハウンドは、瞬きもせず、一歩も動かない。
         その瞳孔が、肉食動物のように散大している)
      • ゴォゥッ
      • (獣の咆哮が風を切り裂いた。
         吹きすさぶ疾風の中で、影が踊った。
         ナイフを切り上げたムンガの腕を、ハウンドが払うのが見えた。
         礫が視界を遮る。次に切れ間が覗いた瞬間。
         獣が牙を剥いていた。そして、すさまじい衝撃が竜巻を吹き飛ばす)
      • …ッは…ごほっ! -- ムンガ
      • (呻きを上げるムンガは、地面にめり込みながら倒れている。
         側に見下ろすようにハウンドが立っていた。
         円形に抉られた地面の底であった。樹木も岩も粉微塵に砕かれて、
        音も無く霧のように沈殿しゆき。掘り返された木の根は、天を向く。
         ドサッドサッ、と音を立て、ムンガのナイフが地面に突き刺さった)
      • …ムンガ。 -- ハウンド
      • (血の混じった息を吐くムンガを見下ろして、ハウンドが口を開く。
         腹に深く突き刺さったナイフを引き抜くと、黒い土に赤い血が滴っ
        てこぼれ落ちた)
      • …じゃあな。 -- ハウンド
      • ッぐっ…!待てよ…ッ!まて!! -- ムンガ
      • (だが、もはやムンガは立ち上がれず。
         血を滴らせながらも、ハウンドは背を向けて歩き出していた)
      • 後は…頼む。 -- ハウンド
      • ふぅ、約束だから仕方が無いわね…でも、私も仕事だから -- 真榊
      • (緊張を解く様にため息した。二人の決闘をじっと見守っていた真榊だが
        肩に担いでいたマスケット銃を片手でかまえるとハウンドの背に銃口を向けて)
      • よし、これで私の仕事は完了。ムンガの事は気にせず行きなさい
        その代わり次に会った時は相応の対応を取らせてもらうから -- 真榊
      • (語り終えるとマスケット銃を肩に担ぎなおし、ムンガの状態を確認し始めた)。。
      • (ハウンドは、ゆっくりと振り返った。
         真榊が銃を下げてからである。もしも引き金が引かれていたら。相
        打ちも覚悟で襲いかかるしかなかった。ムンガ以上に真榊は手強い相
        手であった。
         しばし、じっと見つめ何も言わず、小さく頭を下げるようにしてま
        た背を向ける。
         獣のような礼だった。そうして、彼女はゆっくりと森の暗がりの中
        へと姿を消す)。
      • ん? ほら行きなさい、そっちが貴女の道でしょう? -- 真榊
      • (こちらを見つめるハウンドに気付けば笑みを浮かべ獣を払う様にひろひろと手をふる
        その笑みに殺気はなく。
        そしてハウンドが森の中に消えれば負傷したムンガを肩に担ぎ
        ハウンドと反対の森の暗がりの中へと姿を消した……)。。

ネオン=トリガーレック Edit



    • …。 -- アミ

    • (日焼けした縁側に仰向けに寝転びながら、アミは、雲の多い空を見
      ていた。
       丸い大きな目を細めているのは、眩しいからだけではない。
       太陽は、時々雲がかかって霞むように隠されたりする空模様だった)。
      • … -- ロワナ
      • (アミの隣。手足を伸ばし腹這いで転がるロワナ、まるで猫の様だ
        視線の先遠くには潮が寄せては返す、いつもより白く見えるのは波が高い証
        水平線の向こうには嵐が来ているのかもしれない)。。
      • 家から出れない…夏休みなのに…。。 -- アミ
      • なのー…なんで泥棒さんなんか出るんだろうねー…うにゃぁ -- ロワナ
      • (ぐだぐだと愚痴りながらごろごろ転がる姉妹。縁側がぴかぴかになって行く
        二人が外出禁止な理由は泥棒。今朝方学校に泥棒が入ったらしい
        被害程度はまだ調査中だが、みゃーちゃん先生ことミア先生の酒のツマミ等が荒らされたらしい)。。
      • (朝、いつものように。遊びにいってくるねー。と祖父に元気よく、
        言ったところ『ダメだ』の一言であった。いつもは渋い声で『ああ』
        と一言返事をするだけなのに。
         基本的には、寡黙で優しいおじいちゃんが、同時に昔気質で頑固な
        事も、姉妹はよくわかっていて。一度ダメだと言ったら、こち亀が最
        終回になる事態が訪れようとダメなのである)
      • ネオンちゃんとこ遊び行こうと思ってたのにねー。 -- アミ
      • (雲が切れて、庭先が再び明るくなる。
         アミは、長い金髪を巻き込むように寝返りを打って庭の方を向く)。
      • うん、でも…おじいちゃんが強く言う時は本当に危ない時だから -- ロワナ
      • (姉妹の祖父は決して不条理な否定をしない、基本的に姉妹のやりたい様にさせてくれる
        今回も件も今だ正体わからぬ侵入者から姉妹を護りたいと思っての事)
      • やっぱり退屈なのー -- ロワナ
      • (ころんと転がるとアミの方へと寄っておさげをいじいじ
        せっかくの夏休み、そして新しい友達が出来たと言うのに外出禁止
        それは遊びたい盛りの小学生にとって酷は話であった)。。
      • …ん、そういえば…昨日聞きそびれたんだけど。
        ネオンちゃんって、おばあちゃんの事知ってた感じじゃなかった?。 -- アミ
      • あ、うん…なんだかそんな感じだったの
        それにネオンちゃんってなんとなく若い時のおばあちゃんに似ていた気がする…… -- ロワナ
      • (アミの髪を弄りながら言葉を返すロワナ
        身がうずうずとする。気になる事が出来てしまえば動きたくなる)
      • 今ひまだし…少し調べてみる?。。 -- ロワナ
      • うん!庭の中なら、外出てても怒られないよね。
        蔵の中にたしかおばあちゃんの物とかしまってたからー。
        もしかして、ネオンちゃんが生きてた時の写真とかあったり! -- アミ
      • 決まりなの♪ -- ロワナ
      • (ころんと起き上がるとこくりと頷いた。やる気と体力のあり余った状況
        する事が決まれば行動は早い)
      • 蔵に行こ♪。。 -- ロワナ
      • うん! -- アミ



      • (アミとロワナの家は、古い日本家屋で漁師の家だ。
        大きな母屋と、おじいさんの船がしまわれた離れの舟屋があるので。
        海に接するように建っている事を除けば、田舎の農家のようでもある。
         蔵は、母屋と舟屋に挟まれた中庭の脇に建っていた。蔵といっても
        あまり大きなものではない。物置2個分程度の面積で、一応2階建ての作
        りだが、同じ2階建ての母屋より背は低い。
         しかし、鋲打ちのされた観音開きの重い扉に、高く小さな窓と漆喰の
        壁である。
         時代がかった蔵のイメージそのままであり。おじいさんと一緒に、
        時代劇をよく見ているのでアミとロワナも、自然に蔵と呼ぶ)
      • あれ、鍵かけ忘れてたのかな? -- アミ
      • (L字型のスケルトンキーを、鍵穴に差し込みアミは首をかしげた)。
      • ふに、アミどうしたの、鍵…空いてるの? -- ロワナ
      • (アミの肩から覗きこんで首を傾げる
        犯罪などとは無縁の村だが、それでも戸締りはする
        特に蔵の内部は薄暗く、なるべく入らぬ様にとの意味で施錠してあった…はずだ)。。
      • (さすがに、今朝、泥棒の話しを聞いたばかりなので。
         アミは、少しだけ扉を開いて中を覗きこんで見た。
         細く開いた扉から差し込んだ日差しの中を細かな埃が漂っている。
         その細明かりの差し込んだ先に、肩幅の狭い急な階段があって。小さな
        天窓からの明かりにぼんやり光っていた。
         日が陰る。
         蔵の中は薄暗さが増す)
      • うん、誰も居ないみたい。。 -- アミ
      • うん、じゃあ中に入ろっか? 少し暗くなってきたの、灯…灯…あった -- ロワナ
      • (誰もいない事を確認すれば頷き合う
        そして蔵の入り口すぐ側にあるランタンをよいしょっと手に)。。
      • (夏でも少しひやりとする蔵の中が、オレンジ色に染まる。
         ランタンの明かりを細めて調節すると、低い天井の梁1本1本、積み
        重ねられて、棚の暗がりから顔を出す箱の一つ一つまではっきりと見
        て取れた)
      • ふむぅー…。 -- アミ
      • (狭い蔵の中は箱、ダンボール箱、木箱、唐櫃、宝箱なんてのもある。
         箱、箱、箱である几帳面にみんなきちんとしまい込まれていて、一
        つづつ開けていては日が暮れそうであった)
      • うん、久々にアレやろっか、ロワナ! -- アミ
      • (組んだ手をぐっと前に突き出しながら、アミが言う)
      • たまには整理しないとだねー…アレ? あ、うん、やろう♪ -- ロワナ
      • (こくりと頷くとすっと右手を突き出す
        そして同じ様に突き出されたアミの左手と指を絡めるようにしながら手を繋ぐ)
      • これやるのも久しぶりだね? -- ロワナ
      • (手を繋いだまま今度は互いの背と背を合わせる
        触れ合う髪がうなじにくすぐったい)。。
      • おばあちゃんの持ち物なら、きっとすぐ分かるよ。 -- アミ
      • (薄暗い蔵の中で、2人は背中合わせに手をつないで目を閉じる。
         別に薄暗い場所で雰囲気出しているわけでない。2人は年子の姉妹で
        あり、まっすぐで素直な性格の小学生であるわけなので。
         2人は、これを『魔法』だと思っている。
         この世界には、魔法がある。神も悪魔も、モンスターだって実在し
        ている。
        しかし、田舎を絵に描いたような、海辺の村では縁遠いものだった)
      • (きっかけは幼い頃。
         出稼ぎをする両親は、長く家を不在にした。
         祖父は、優しい人ではあったが、無愛想な性分で。幼い
        妹のアミが、寂しがって泣く事も少なくなかった。
         そんな折、いつも一つだけ年上のロワナが、手を握ってなだめてい
        たのだ。
         2人で手をついないでいると、なぜだか遠く離れた両親が、どうして
        いるのか、分かる気がして安心したのだ)
      • (そして、ある日、2人が手をつないでいると。
         アミが『お母さんたち、かえって来るって』
         そう、言った。
         ロワナも同じように、そんな事を聞いた気がしていて。
         不思議なことに、その日の夜。2人の両親の帰宅が早まったという連
        絡が届いたのだ)
      • (不思議な力であった。
        そして、力は、成長すると共に強まった。
         2人が手を繋いで思うと、失くしたものや、友達の迷子の犬の居所が、
        直接見るように分かったのだ。
         ただ、見えるのは、自分達に近しい事柄だけで。
         この力の事は、お化けや幽霊なようなものが見える事と合わせて、
        2人だけの秘密であった)
      • (………手を繋いで、しばらく)。
      • あ、あれとあれかな? -- ロワナ
      • (最初に呟いたのはロワナ
        頭の中に光の点が浮かぶ、最初は一つ次に二つ、そして二つ三つと
        そこへ蔵の姿が重なる。いつもよりも鮮明なビジョン)
      • (多数ある光の点一つ一つに懐かしい物を感じる。優しさと温かさが心に満ちる
        その中で一つだけ他と違う感情の込められた物を見つけた
        優しさと温かさの中に悲しさの入り混じるそれは……)
      • 本…あ、日記だ…日記だよね? -- ロワナ
      • (感覚が現実に帰って来る。手を繋いだままアミの方へと首を回す)。。
      • (ぎゅっ、と強く。アミは、手の平を合わせたロワナの手を握った。
         俯いたままである)。
      • (アミの手を強く握り返した
        何も言わずともわかる、二人は姉妹だから)
      • 大丈夫だよ? 二人一緒だから、ね? -- ロワナ
      • (背中合わせのまま自分の頭をアミの頭にすりよせる
        頭で頭を撫でる様にして)
      • (ロワナが悲しみの心を見つけた様にアミは別の心を見つけてしまったのだろう
        それはきっと、それぞれが知るべき想い
        そして二人で分かち合い知るべき想い)。。
      • ん…へいき、ちょっとゾクッてしただけだから。 -- アミ
      • (一つ息をついて、アミは背中越しに小さく頷く。
         すこし怖い気配を感じてもいたが、それ以上に強く自分たち2人を
        呼んでいるような気もしたのだ)
      • 本の入った箱は…あそこだね。。 -- アミ
      • うん -- ロワナ
      • (もう一度頭を擦り寄せてからこくりと頷く
        そして片方の手は繋いだままその箱の方へと)
      • んっと…これだね? -- ロワナ
      • (埋もれる様にしてその箱はあった。ほんのり埃を被った飾り箱
        かつては鮮やかであったろう装飾は褪せ、長い時そこで眠っていた事を感じさせる)
      • アミ、いい? -- ロワナ
      • (箱に手を伸ばす前に妹に問い尋ねる。強いイメージをもって二人を引き寄せた箱
        触れる事で何かが始まる予感がして……)。。
      • うん…! -- アミ
      • (2人は左右からそれぞれ、背伸びをして手を伸ばすと、2人で箱を手
        にとった。
         不安の混じった好奇心に、妙に胸をざわつかせながら、古ぼけた箱を
        ゆっくりと棚の暗がりから引き出した)




    • (アミとロワナが蔵に入っていたのと同じ頃…。姉妹の家からは、小
      さな岬を挟んで200m程離れたアトイとクレハの家…のリビング)
      • いやぁ、ホント昨日はすいませんでした。お疲れのご様子だったので、
        寝ていらっしゃるものだとばかり…。 -- アトイ
      • (クレハの横に座ったアトイが、誤魔化すような苦笑いをしていらっ
        しゃる。
         誰に対してもいつも無駄に堂々としているアトイが、歴戦の中間管
        理職ばりの愛想のふりようである。多分クレハでも初めてみるんじゃ
        ないかってくらいのこの上なく爽やかな苦笑いであった)。
      • かっかっか。ワシも神と呼ばれる身、些細な事でいつまでも怒っとらんよ
        まぁな…そりゃあさ、人眠りしている間に誰もいなくて真っ暗な家にぽつーん……
        そんな事もあったが…ワシはちーっとも怒っとらんよー
        -- 長老
      • ……はぅ -- クレハ
      • (「…やっぱり怒ってますよね」。そんな視線をアトイに送る
        朝からずっとこの調子である
        太古から拗ねた神と言うのは面倒であるが、この長老も例に漏れないようだ)。。
      • (アトイの方はまだ誤魔化すように笑顔であったが。
        肩に乗った小さなドラゴンが、ため息でもつきそうな顔をしている。
         昨日、長老様が泊まりに来ていたのをうっかり忘れた結果であった)
      • (長老様の好きなものとか、何か知りませんか?こりゃ宥めるのまだ
        掛かりそうです…) -- アトイ
      • (アトイは小声で横のクレハにぽそぽそとつぶやく)。
      • (…え?長老の好きな物ですか…? お祭とかお酒とか…あ、甘いお菓子も……) -- クレハ
      • (これまたぼそぼそとアトイに呟き返す
        流石に今すぐ祭と言うのは無理で。ならば酒か菓子か……)。。
      • (お祭り…確かもうすぐ夏祭りがあったはずですが…) -- アトイ
      • (若干左に傾いたアトイが、少し右に傾いたクレハと小声で囁きあっ
        ていた時であった)
      • アトイちゃーん、クレハちゃーん、居るー?
        おう、居るじゃん…あれ?お客さん? -- ミア
      • (玄関からでなく、気軽に庭の方へ顔を出す田舎スタイルである。
         ホットパンツにキャミソールの上に白衣を来た女医スタイルのミア
        先生が縁側の外に立っていた。
         ボリュームのある長い赤毛が、知的な大人の女性の雰囲気だ。
         これであと身長が15センチも高くて、サンダル履きで無ければ完璧
        なのであるが。
         ともあれ、小さなお姉さん兼校長兼保険医兼村医者なミア先生がや
        ってきた)。
      • あ、みゃーちゃん先生…? こんにちわです……
        えーっと…この方…この子は…… -- クレハ
      • (ミア先生の登場で気まずい空気が壊れた事にほっと息を吐くも
        続く質問で言葉どう答える物かと悩んでしまう)
      • ワシはクレハの親戚じゃ。気軽にヴァイアちゃんと呼ぶが良い -- 長老
      • (クレハより先に長老が先に言葉を返した
        どう見ても幼女が偉そうに自己紹介した様にしか見えないが)。。
      • あ、そうなんだ。私はミア。
        学校の先生とか医者の先生とかしてます。 -- ミア
      • (年の頃なら、アトイとどっこいな幼女のヴァイアの、実に尊大な挨
        拶に。ペコリ、と極自然にお辞儀して挨拶を返すミャー先生。
         この奇抜な格好の幼女を、極自然に受け入れたのは。
        普通の人間しか居ないこの村で。どう見ても小学生なアトイと、ク
        レハの親子でもないのに女所帯が、なんの疑問もなく受け入れられて
        いるのと同じ理由である。
         改変の力だ。
         人の認識を操作して、違和感を違和感と感じさせない能力。あるい
        は世界に干渉して自在に操る力。
         ヴァイアもまたアトイと同様に人ではなく、神の側の存在であった)
      • あ、それでー…。 -- ミア
      • (お邪魔じゃない?という風にミャー先生が目配せするので。
         長老様が鷹揚に頷くと)
      • 昨日、私んところ泥棒入ってさー。一応近所を回って気をつけてーっ
        て言ってるとこなんだけど。。 -- ミア
      • …あ、えっと…泥棒ですか…? -- クレハ
      • (ミア先生の様子で改変が使われたのだと気付けば苦笑
        長老の頷きを確認してからミアに聞き返した
        この村で泥棒なんて珍しい話だ。泥棒どころか犯罪その物と無縁に近い村
        時おりオリバやサムの悪戯が発生するがその程度)。。
      • ミャー先生の所…というと…学校ですか? -- アトイ
      • 病院の方ね、お金とか貴重品は大丈夫だったけど。 -- ミア
      • (昨日の夜の事であった。
         この村の学校は、大きさの割に生徒数が少ないので。保健室を拡張
        して、村で唯一の開業医をしているミアの診療所も兼ねている。
         だから、ミアが学校で寝泊まりする事も少なくなかった。
         そして、普段から往診や、村人への応急医療教育の甲斐あって、学
        校の校長を兼任できる程度には余裕があり、今は夏休みであった)
      • ちょーっと屋上でうたた寝しちゃってさ。冷えてきたんでちゃんとベ
        ッドで寝ようって思って下に降りたんだけど。 -- ミア
      • (夕日を眺めながら、大好きな地元産の自家製ワインを飲んで一杯やる
        うちに眠ってしまったことは伏せておく。
         星空の下起きだしたミアは、くしゃみをして、はだけた白衣を着直し
        ながら階段を降りた。
         明かりもついていない、誰もいない夜の校舎である。
         不気味ではあったが、慣れたものなので。迷わず診療所へ歩いて行
        った。そこで違和感に気づく)
      • 窓がね、網戸まで全開だったのよ。そんで薬の棚とかこじ開けられて
        てさ。
        幾つか薬盗られたのが痛いのよねぇ…。 -- ミア
      • ふむ、なるほど、あとお酒が被害に。 -- アトイ
      • そーそー、大事にとっといた大吟醸が………。 -- ミア
      • 昼間から呑んでましたね? -- アトイ
      • …ゆ、夕方からだし………。 -- ミア
      • (にやっとするアトイからミアは目を逸らした)。
      • (そんなやりとりをする二人にふぅっとため息するクレハ
        ミア先生が酒好きなのは今に始まった事では無い、だから今はその事はこっちに置く)
      • 薬が盗まれたと言うのは気になるわね……
        他には何か気になる所ってあったりします…?。。 -- クレハ
      • 他に?ああ、そうそう! -- ミア
      • (縁側に腰掛けたミアは、アトイのドラゴンを手招きして。
        犬みたいに撫でながら頷く)
      • ほら、学校って役場もあるんだけど。 -- ミア
      • あったんですか? -- アトイ
      • あれ、知らなかった? -- ミア
      • 転居届とか隣町の市役所に出してました…。 -- アトイ
      • うちの村、道が不便でしょ。だから村にね役所の出張所があるのよ。
        ちなみに管理してるのも私。 -- ミア
      • (校長兼保険の先生兼村医者兼村役場の人でもあった。
        どんどん肩書が長くなっていくお姉さんである。ちなみに独身)
      • ああ、まぁそれはどうでもよくて。その役場の方もなぜか荒らされて
        たからさー。 -- ミア
      • (ドラゴンの羽をみょーんと広げながら、ミアは言った)
      • …。 -- アトイ
      • (アトイは黙して、何やら思案している風な表情である。
         金品目的ではなく、何かを探っているかのような犯人の行動に、自
        分の事を探られているような気配を感じる)。
      • みゃーちゃん先生色々やっているんですね……
        良かったら今度お手伝い等しますよ…でも、今は泥棒の方ですね…… -- クレハ
      • (それだけこの村は人材不足なのだろう
        しかし今はそれよりも重要な事がある
        先の様にアトイに頭を寄せるとそっと耳打ち)
      • (やっぱり私達の事を調べているのかしら…?) -- クレハ
      • (ミアの方はドラゴン弄りに夢中でこちらの様子はあまり気にしてない様だ
        時おり「ペットにほしいわー」なんて呟いている)。。
      • (以前にも、一度クレハさんが攫われた事ありましたからね…)
      • (顔を寄せるクレハにアトイは、囁き返す。
        なんとなく小声になってしまう)
      • まーただのコソ泥だし、大した事ないとは思うんだけどねー。
        派出所のじーさんが頑張っちゃって。現場保存だーとかで診療所に縄
        張っちゃってさ。閉めだされて参っちゃったわ。 -- ミア
      • (だからぶらぶら出歩いてたんですねミア先生。
         ふと、ドラゴンを膝に乗っけて、アトイとクレハ、そしてちょっと
        背景と化しているヴァイアの方へ顔を向け)
      • アトイちゃん達も、なんか変わった人とか見かけなかったー? -- ミア
      • (そう聞いてきた。
         自分が被害者だというのに、事件のことを心配してというより。
        殆ど興味本意みたいな雰囲気である。
         まぁ実害はさしてなかったし。なにぶん刺激の少ない村であるので。
        警戒するより先に、わくわくしてしまうのかもしれない)。
      • え…私達…? 私もアトイさんも昨日はほとんど出歩いていないし…ねぇ…? -- クレハ
      • (長老をちらりと見た後アトイと頷き合う
        昨日は長老との一件でほぼ引き籠り状態であった
        ネオンとの出会いはあったがそれ以外は無く)
      • …ふむ? ワシに聞かれてものぉ…昨日村に来たばかりで住民の顔はほとんど知らぬ -- 長老
      • (背景でまた拗ねかけていた長老が嬉しそうに顔を上げた
        そして這う様に三人の元へと行くとドラゴンを突きつつ言葉を紡ぐ)
      • ああ、そう言えば印象的な娘だったら道中見かけたのぉ?
        こうギザ歯が印象的な獣系ガールと言う奴か?
        -- 長老
      • え…… -- クレハ
      • (長老の言葉ではっとしたクレハが目を見開く様にしてアトイの方へと視線を向けた
        その顔には驚きと焦りが見てとれて)。。
      • どうしましたクレハさん?。 -- アトイ
      • え、えっと…その…… -- クレハ
      • (ドラゴン弄りに夢中になっているミアを横目に見ながら言葉を詰まらせるクレハ
        この話題は極めてデリケート。ミアは一般人、知らぬなら知らぬ方が良い話題)
      • あ…! そだ…… -- クレハ
      • (だからアトイの手をとると掌に指で文字を書いた
        「祭壇」と。アトイならば意味のわかる単語を) 。。
      • (アトイの身が強張った。
         ミアにもふられていたドラゴンも、急に警戒したように、かつっと
        爪を床で鳴らして立つ)
      • どうしたん? -- ミア
      • (ミアとヴァイアが、不思議そうに2人を覗きこむと)
      • いえ、べつに…何でもないですよ。 -- アトイ
      • (小さく手を振ってアトイは笑ってごまかす。
         机の下で、ぎゅっとクレハの手を強く握っていた)。
      • …え…あ、うん、なんでもないの…… -- クレハ
      • (アトイが怯えを感じている
        その事に気付けばアトイの手を強く優しく握り返した
        思い返せば、ララリウムとの一件はアトイとクレハにとって衝撃的な事件だったが
        アトイにとっては過ぎた事件では済まない、心に深い傷を残す事件だった)
      • ふむ…… -- 長老
      • (その一方で長老は二人の…特にアトイの様子に意味ありげに頷いた)。。
      • ミア先生は、まだこれから家を回るつもりですか? -- アトイ
      • いやー、もう朝からあるいてて疲れたしー
        いい加減診療所開けて貰わないと困るから、帰るわー。 -- ミア
      • それがよろしいでしょう。 -- アトイ
      • (つま先にサンダルを引っ掛けて脚をパタパタさせていたミアに、
         アトイは静かにそう言った)。
      • うむ、今日は家なり診療所なりで静かにするのが良いじゃろう -- 長老
      • みゃーちゃん先生も大変ですね…ん…? -- クレハ
      • (これまた意味ありげに呟く長老の言葉に小さく首を傾げなさるクレハ)。。
      • 色々やってるからね、ほらお祭りも近いし。クレハちゃん達も暇なら
        手伝いきてくれると嬉しいわー。っと、そろそろ帰るねー。 -- ミア
      • それなら、私が送って行きましょう。 -- アトイ
      • 別に大丈夫だって、心配性だな〜………あれ? -- ミア
      • (アトイが、立ち上がろうと膝を立てた時だ。
         庭先に立つミアは不思議そうに空を見上げている。
         今日は日が陰る、少し薄暗い日だった。それにしてもさっきから、
        アトイ達の雰囲気に合わせるように、やけに暗いと思っていたら…)
      • 今まだお昼前よね…? -- ミア
      • (そう言って時計を確かめるミアは、夕焼けの中に立っていた。
         太陽はまだ、頭上にあるのに。
         空は、赤い膜を通したような色に染まっていて。
        ヒグラシの声がどこからとも無く響いた)




    • (ミアが、真昼に夕焼け空を見上げる少し前の事だ。
       海辺の村にあって、もっとも海から遠い館の屋根に、ネオンが立っ
      ている。
       おかっぱに揃えた金髪も、喪服のように黒い振り袖も、風に揺らさ
      れているが。
       ネオン自身は、実体の無い幻のように、その足元は屋根からわず
      かに浮かんでいた)
      • (数十年ぶりの外の光景であった。
        雲が切れて、日が差すと。ネオンは鬱陶しそうに目を細める)
      • …気に食わないわね…。 -- ネオン
      • (ネオンは一人呟いた。胸の奥がざわついている。
         張り付くような夏の日差しと、見下ろした村の事だろうか。
         昨日出会った、アミとロワナの事だろうか。
         それとも、アトイとか言う嫌な感じのやつと、一緒にいた無
        駄に乳がでかい女のコンビへの苛立ちだろうか)
      • …気に食わない…。 -- ネオン
      • (何もかもであった)
      • (ネオンは、締め付けるように苦しむ胸に手を置いた。
         手の平は、水に浸すように体内へ手首まで潜る。
         そして、胸の中から、乳白色の奇妙な水晶体を引きずりだす。
         まるで自分の心臓を抉りだすのに似た、ゾッとするような行為であ
        った。ネオンの細い指が、ぼんやりとした光を内に秘めた水晶を撫で
        ると…。
         頭上に顔を出していた太陽の熱は、急激に引き。眩しさも色あせ。
         空は夕焼けの色の中に沈んでいた)。




      • (昼の空が夕焼けへと染められたのと同じ頃、一つの記憶が蘇ろうとしていた
        それは語り部、もの言わぬ語り部、されど記憶が記されし者
        長い時を眠りで過ごし、やがて朽ち埋もれ行く運命にあった者
        しかしそれを呼び覚ます声があった)
      • よいしょっと…ふに?なんか、空がまた暗くなったの? -- ロワナ
      • (色褪せた飾り箱を背を伸ばし引き出した直後、蔵の中へと差し込む日差しが薄暗くなった
        もしその時、蔵の中にランタンの光が無ければその色が夕日の色であった事に気付いたかもしれない
        さらに今の姉妹は目の前の物に興味を奪われており外の変化等気付き様も無かった)。。
      • 雨でも降るのかな?洗濯物………ま、いっか! -- アミ
      • (アミの方は、今まで震えていたのはどこへやら。目の前の箱に興味
        津々である。
         アンティークな飾り箱だ。装飾は色褪せているが、髪の毛程の
        太さの装飾の細部にも、傷や欠けの一つも無かった。
         この世界には魔法がある。熟練の職工が、作品に、長持ちするよう
        魔法を掛けることもある。
         そういったものは高価で、庶民が気軽に手を出せるような代物でな
        いのだが。
         魔法や奇跡とは少々縁遠い、この村に暮らす姉妹には知る由もない)
      • やっぱり日記だ。。 -- アミ
      • (薄く積もった埃を、アミは無造作に手で払う)
      • うん、日記なの…でもしんぷるだね? -- ロワナ
      • (飾り箱の中に入っていたのは日記帳
        しかし外箱の細やかな装飾に対し、日記帳の方は極めてシンプルで
        村の唯一の商店でも見かける事が出来そうな程に質素な物であった
        それが何か不思議な感覚を覚えさせて)。。
      • 日付は…50年前だ。 -- アミ
      • (50年前、2人のおばあちゃんが、この村で過ごしたある日の出
        来事だ。アミとロワナは指を折って数えてみる。
         その頃のおばあちゃんは、15歳なはずだ。小学生である姉妹より少
        しばかり大人のお姉さんである。学校では最年長のアニキやちはや姉
        よりも2つ年上だ。
         そう思うと、会ったこともないおばあちゃんが、急に近くなったよ
        うに感じる)
      • (丁寧な文字で書かれた文章を、古文書のような色の紙面に追った。
         ちょうど、今と同じ夏の頃の話しで。
         よく晴れた、暑い日の事だった………)
      •  
      • みぎゃぁああああああああああああ!?
      • (夏の日差しよりも熱いパンケーキを顔面に乗せて。少女は絶叫した)
      • お嬢様お顔が!お顔が!冷やさなくては
      • ああ、またやってしまいました…お顔は大丈夫ですか?
      • (メイド服姿の女性は慌ててパンケーキを顔に乗せた少女の元へと駆けよると
        パンケーキを皿に移して代わりに濡れタオルを顔に乗せた
        それに遅れる様に和服の少女が金の髪を靡かせおっとりと駆けよる)。。
      • 姉様!?ほんとにわざとじゃ無いんですよね!?
      • (濡れタオルで潤んだ瞳を抑えながら、エプロンドレスの少女が叫ぶ。
         本日5度目のパンケーキ直撃であった)。
      • そんなぁ、私の玉遊びの下手さは貴女が一番良く知っているでしょう?
      • (姉様と呼んだ少女の抗議にしゅんっと肩を落とす少女
        普段の遊びでは抗議した少女に負ける事が多く、その運動神経の低さは自身でも自覚している
        なのに、今日に限ってフライパンから打ち上げたパンケーキは
        狙う様に妹の顔へと吸い込まれていく)
      • あの…それで、お嬢様このパンケーキはどうされますか?
      • ああ、そうでした、食べ物は大事にしなくてはいけませんわよね…?
        では、味見だけも…あら、美味しい?
      • はい、上出来ですお嬢様!
      • (メイド姿の女性の問いかけに暫し暫し思案した後
        先程まで妹の顔に乗っていたパンケーキを指で摘まみ口へと運ぶ
        それに続いてメイド服姿の女性もパンケーキを指で摘まみ口へと運んだ
        二人の口の中にふわふわとした柔らかさ、そして甘い香りと味が口いっぱいに広がって
        少女は笑みを浮かべ、メイドはその出来を褒める)。。
      • 人の顔に落ちたものを普通に食べないでください!
      • (幸せそうな顔で頬を抑える2人に、顔面パンケーキされた少女は叫ん
        だのだった)

      • …。 -- アミ
      • (日記から目を離して、思わず横のロワナを見るアミである)。
      • … -- ロワナ
      • (ロワナが横のアミを見たのはほぼ二人同時であった
        二人とも同じ感想であったのは互いの顔を見れば良く分かる)
      • …おばあちゃんって…どじっ子…?。。 -- ロワナ
      • しかも天然っぽい…。 -- アミ
      • (そして2人は頷きあう。
         もうちょっとこう…お嬢様らしい人かと…。そう思いながらページ
        をめくると、次のページはいきなり落書き帳になっていた。
         猫だの花だの魚だの、奇妙な水晶塊だの、なにやらカワイイレリー
        フ模様だの、思いつく限り自由に書きつらねてあるので、日記帳が自
        由帳と化していた)
      • おばあちゃん、自由過ぎる………お? -- アミ
      • (そんな、結構上手い落書きの群れの中に、少女漫画風にデフォルメ
        されて、花に囲まれた背中合わせの少女の絵と、その下に…。
        『RAIN』『NEON』と可愛く書かれてある)
      • (ネオンが、レインの関係者であることはあっさり暴露された。
         さっきの日記の内容からすると。顔面パンケーキされていた少女が、
        在りし日のネオンなのかもしれない…。
         そしてネオンを差し示す矢印が1本その先には…。
         『8才までおねしょ』)。
      • おねしょって…わざわざ日記に書くかなー
        おばあちゃんのイメージがどんどん崩れて行くの…… -- ロワナ
      • (もう一度を顔を見合わせる姉妹
        姉妹がおばあちゃと呼ぶ祖母は二人が生まれる前に亡くなっている
        だから姉妹の知る祖母の姿は全て祖父から伝え聞かされた物
        しかし日記には祖父から聞く祖母の姿とは違う像があった)
      • でもこれでネオンちゃんが私達と関係のある事はよーくわかったの -- ロワナ
      • (ネオンが姉妹と関係の深い人物である事は良く分かった
        そうなるとここでまた新しい疑問が出てくる)
      • なんで幽霊さんやってるんだろう?。。 -- ロワナ
      • 焼け死んだって言ってたけど。 -- アミ
      • (そう言って、ネオンに見せられた焼けただれた悍ましい姿を思い出
        してちょっとゾクッとした)
      • そういえば…おばあちゃんはもともと山のほうの人で、お家は火事で
        なくなっちゃったってあれ?
        でもネオンちゃんの家は焼けてなかったし…。 -- アミ
      • (それに、この落書きの中のネオンは、長髪で描かれている。
         デフォルメされているとはいえ、特徴はよく捉えられていて。少し
        むすっとした不機嫌そうな表情は、確かにアミとロワナの出会った
        ネオンが、よく見せていた)。
      • うん、わからない事ばかりなの…日記の先の方に書いてあるかな? -- ロワナ
      • (一度気になりだせば疑問は後から後から湧いてくる
        真実を知る手掛かりは目の前の日記 しかし先を読めば真実がわかるかもしれない…しかし)
      • …どうする? -- ロワナ
      • (どうするとは日記の先を読むかと言う事
        知ってはいけない真実をも知ってしまうかもしれない……)。。
      • きっと読まなくても気になって仕方ないよ。 -- アミ
      • (こういう時、妹のアミの方が若干向こう見ずな所もある。
         アミは、迷わずページを捲った)。

      • (夕暮れの色に染まった空の下で、館の屋根にネオンはゆるりと腰掛
        けている。
         屋根に体はついていない。風も無いのに、振り袖は、ふわふわ
        と広がって。袂の端が、解けるように、黒い霧となって大気に溶ける。
         幽鬼の姿である。
         じっとりと濡れて滴るような夕日の中で、喪服のように黒い着物の
        肩におかっぱの金髪が揺れる。
         鼓動のような不安な明滅を繰り返す、乳白色の水晶を撫でる指は、
        透けるほど白く生気を感じさせない…)
      • ………なんで。 -- ネオン
      • (俯きながら、ネオンは一人唸るように呟いた)
      • なんでおねしょの事思い出したのよ! -- ネオン
      • (乳白色の水晶を放り出して、ネオンは頭を抱えてうがーと吠える。
         引きこもりやコミュニケーション障害者がよく発症する、恥ずかしい
        記憶がフラッシュバックして死にたくなるアレであった。
         放り出された水晶は、ぷかぷかと浮かぶ)
      • 姉様のせいだわ…。絶対内緒にしてって何度も言ったのに。思い
        出したようにネタにしてくるから! -- ネオン
      • (姉は上品で、とても優しい人であったが。なんというか…時々天然
        で突拍子もなく予想外な人なのである)
      • ふぅ…。 -- ネオン
      • (ネオンは息を一つ吐いて、自分の胸に手を置いた。
         双子の姉と一緒に、生まれてからずっと屋敷の中で育てられた。
         母は早くに亡くなったから、使用人の他は、姉妹と父だけの家族。
         村の学校には行かなかったから、同年代の友達などおらず。姉妹は
        世界で唯一の友であった)
      • …まったく、姉様は…。 -- ネオン




  • (少女が海へと駆けて行く。少女が足を踏み出す度に砂が粉雪の様に宙を舞う
    さらに何かが宙を舞った、数は二つ…草履だ。赤い鼻緒は花弁の様で
    素足となった少女はそのまま海へと足を踏み入れた)
  • きゃっ冷たい♪ これが海なのですね
    ネオン、宗右衛門、早く早く
  • (打ち寄せる波に足を付けたまま呼びかける
    振り返る表情は童子の様な笑顔で。金の髪が吹き流しの様に潮風に舞う)。。
  •  
  • 宗右衛門…おじいちゃん!? -- アミ
  • (新しいページを開いたアミが、驚いた声をあげる)
  • おじいちゃんは、おばあちゃんと結婚してるんだからデートもするでしょ? -- ロワナ
  • そういえば…そうだったの。 -- アミ
  • (クリント・イーストウッドの吹き替え版みたいな渋い声で、1日に
    一言二言話す寡黙な人というのが、アミのおじいちゃんに対する印象
    であった。
     がっしりとした太い腕と、皺の刻まれた眼光の鋭い顔つきは、赤銅
    色に日焼けして。まさに硬派な男そのものであるというのに)
  • ………おじいちゃん、女の子とデートしたりしてたんだ…。 -- アミ
  • (ここまで読んだ所で、レインおばあちゃんは、若いころかなりお茶
    目で愉快などじっ子お嬢様という事はよくわかったが。
     現在、ダンディの塊みたいな自分の祖父が、そんなふわふわお嬢様と
    デートしていたという事実に面食らう)。
  •  
  • 実際のところ、なんで姉様はあいつの事好きになったりしたのかしら。 -- ネオン
  • (ネオンが、ポツリと呟いた。
     3人で初めてピクニックに行った日、姉のレインは、初めて見るくらいはしゃいでいた。
     何日も前からお弁当を用意するために手料理を練習していたりした
    のだから、気合の入りようというのがよく分かる)
  • 姉様ー足が汚れますわよー。 -- ネオン
  • (波に足を洗わせるレインから少し離れて、ネオンは麦わら帽子を押
    さえる。
     風がつよいし、なんだか粘っこくて生臭い気もする。
     なにより、暑い…。
     よくそんな塩っ辛い水たまりに入れますわね…、とネオンは思った。
    そして、視線を横にずらす。
     帽子のつばの下に、少年の広い背中と、日に焼けた腕が見えた)。
  • 大丈夫よー とっても気持ちいいの、それに砂の感触が面白いのよー? -- レイン
  • (夏に合わせた向日葵の浴衣の裾を両手で摘まみ笑みを向ける
    その場でクルリと一回転、海を舞台に舞っている様で
    それに応じる様に太陽の光がまたひときわ強く輝いた様に見えた)。。
  • まぁ…姉様、素敵ですわ! -- ネオン
  • (ネオンは、頬に手をあてて、うっとりした表情をみせる。
     少年の姿を視界から追い出して、不機嫌もどこへやら。双子で瓜二
    つの姿なので、じゃっかんナルシスト入ってそうな反応だがそんなこ
    と、どうだっていいのである)
  • あっ。 -- ネオン
  • (油断した所に、帽子が潮風に攫われる。
     頭上より高い所を、帽子が翻って沖の方へ飛んで行く。
     それを、少年が跳び上がって、掴む)。
  • まぁ! 宗右衛門すごいですわ♪ -- レイン
  • (水飛沫をキラキラと纏いながら駆けよって行く
    そして彼にニコリと笑みを向けてからネオンの方へと手を振って
    そして帽子を受け取るとネオンの方へと)。。
  • ありがとうございます、姉様。 -- ネオン
  • (そう言ったネオンにレインの笑顔が、宗右衛門にも、と言っている
    ので、ひょいっと目を逸らしても、すっ…とついてくるので)
  • …あ、あなたもありがと…。 -- ネオン
  • (ネオンがつぶやくように、そう言うと)
  • ああ。
  • (宗右衛門は、笑って答えた。
     潮風の似合う、日に焼けた無邪気な笑顔であった)。
  • ふふっ♪ 三人で来てよかったわね -- レイン
  • (そんなやりとりをする二人に無邪気な笑みを向けるレイン
    ネオンとは対照的に三人でいることに心地良さを感じている様だ)。。
  • (ネオンは、帽子のつばを引っ張って深く被りながら、ふいっと横を
    向いた。
     戸惑っているような、照れているような…。
     両腕の間で、ネオンは顔真っ赤にしつつ、歯ぎしりするような表情
    である。目とかぐるぐる巻になってるし。
    一体何考えてるのか全然分からない形相であった)
  • …あ、そろそろお昼の時間でしょうか? -- ネオン
  • (そして、すまし顔でふっと面をあげて言った)。
  • ネオン……
    ん、そうですわね、では…あのお船さんの側はどうでしょう? -- レイン
  • (ネオンの様子に何かを感じたのか空気を変えるように提案にのる事に
    そして船…浜へと上げられた漁船を指さした。そこは丁度いい感じの日影が出来ていて)。。
  • (レインの提案に、宗右衛門はまた短く答えて頷いただけだった。
     もう少し気の聞いた事でも言えないのかと、ネオンは思う。
     村の男という奴は、みんなこんな感じであろうかととも。といっても
    館から殆ど出ないネオンは、男性というものを父しかしらない。
     他に、館には使用人のおじさんが一人いるが。彼は、ネオン達を見
    ると、白髪頭に乗せているハンチング帽で、顔を隠すように頭を下げて
    離れて行ってしまうので。物心ついた時から話したこともない。
     自然、比べる対象は父とになり、その結果。
     『どう考えても、お父様の足元にも及びませんわね』
     ということになる。
     父は、長身で代々の貴族の家柄に相応しい品格があり、しかし温和で
    知性のひらめきを備えた。魔術の神秘を日々探求する学究の徒である
    のだ。あと娘の自分から見ても超美男子だと思ってる。
     一介の漁師の息子とは、比べるまでもない。
     ネオンは、シスコンな上にファザコンであった)
  • お嬢様、準備が出来ましたよ〜。
  • (とかなんとか考えてたら、メイドが呼んでいた)。
  • ネオン、早く来ないと先に食べてしまいますわよ? -- レイン
  • (敷物の上で正座をしたレインが手招きをするのが見える
    漁船の日影に敷かれた花模様の敷物、その中央には重箱が大きく鎮座し
    それを囲む様にレインと宗右衛門が座っている
    ネオンに呼びかけたメイドは携帯式蒸気コンロで茶の準備を)。。
  • はい!今行きますわ! -- ネオン
  • (ネオンも敷物の上に滑りこむように座った。
     毛織の分厚い敷物だ。
     その上で湯気を上げる蒸気コンロも、円筒形の光沢あるオーク材の
    周りにごてごてと金の金具や配管が這いまわり。工場ミニチュア、プ
    レミアムモデルみたいな雰囲気に。重厚感があふれる)
  • (加えて漆塗りの重箱である。
     運ぶのが疲れそうな荷物を、線の細いメイドさんが、担いできたわ
    けではない。
     浜辺の側に乗り物が一台停めてある。
     19世紀の乗用車、あるいは馬車と自動車のハイブリッド。
    馬が居るべきフロント部分は、重厚な機関の剥きだしになった重工業
    アールヌーボー的構造で。一見して趣味の芸術品にもみえた。
    馬車がまだ現役なこの村で、蒸気自動車を個人所有しているのは、姉
    妹の家だけである)
  • (そして、蓋を取られた重箱の中身も、豪華な黄金色の………。
     大地に広がる麦穂の畑のごとくの………パンケーキの山であった。
     そして谷でもあり台地もあり、平原も広がっていた。
     全てがそこにあった、そして全てがパンケーキであった)
  • …っぅ。 -- ネオン
  • (姉の手料理だからと、ワクワクしていたネオンは。顔面パンケェー
    キのトラウマを思い起こし。
     レインの手料理と聞いた宗右衛門は、ほんの僅かだが、警戒した)。
  • ん? あーもう…二人ともそんなに変な顔をしないでくださいまし
    あの時の様にはもう、だから安心して食べてください? -- レイン
  • (自然豊かな(?)パンケーキ王国を前に満面の笑みを浮かべるも
    それぞれに微妙な顔をするネオンと宗右衛門にむぅっと頬を膨らませるお嬢様
    二人の顔の理由はわかっている
    ネオンは顔面パンケーキ、宗右衛門は塩味パンケーキ煎餅……)
  • …ええ、絶対大丈夫ですから -- レイン
  • (それぞれの理由を思い出せばふっと遠い目になった)。。
  • 前のもあれはあれで、結構斬新だったとは思うぞ。 -- 宗右衛門
  • あら、あなたお世辞言う位の気遣いはあるんですのね。 -- ネオン
  • (宗右衛門が、割りと本気でそう思っていそうな思い切った笑顔を見
    せると。ネオンがそう言った)
  • どういう意味だよ。 -- 宗右衛門
  • え? -- ネオン
  • …うん? -- 宗右衛門
  • (ネオンは思ったままを言っただけで、皮肉ったつもりは無く、なん
    か妙な間が出来たが。
     まぁ、なんでもいいか、と宗右衛門は、パンケーキを1枚手に取る)
  • とりあえず貰うな、いただきまーす。…おっ、うまい。 -- 宗右衛門
  • (まるごと放り込んだ1枚をあっという間に食べてしまい、自然と2枚
    目に手が伸びている)。
  • んー? あ♪ まぁ、今回のはお口にあったみたいですね…よかった
    さぁ、ネオンも食べてくださいな -- レイン
  • (二人のやりとりに首を傾げるも、うまいの言葉に笑みを浮かべ
    手を合わせほわほわと金の髪を揺らす
    そして皆が食べ始めるタイミングに合わせメイドが紅茶の入ったティーカップを並べる
    海岸で金の縁取りの入った茶器と言う愉快な組み合わせ)。。
  • (そして、2段目も3段目も一杯のパンケーキの重箱である。
     高原でピクニックでも似合いそうなお嬢様が二人、一人は和装で、
    一人はエプロンドレス。そしてメイドさんが一歩下がって侍っている。
     そんな3人に比べれば、日に焼けた田舎の少年は、もはや野生の域だ。
     しかし、不思議と違和感は無かった。
     その場に笑顔が絶えなかったからであろうか。あるいは、全員普段
    通りのままで居た結果が、この奇妙なピクニックだったからだろう)
  • (ちまちまと、若干不機嫌そうにパンケーキをフォークで口に運ぶ
    ネオンも、それは同じで)

  • あいつに…嫌な感じがしなかったのは…私もだったけど…。 -- ネオン
  • (夕焼けの空の下で、ネオンは、独り呟いた。
     今、その傍らには誰もいない。
     ただ、白く濁った水晶だけが、鼓動のように明滅していた)。




  • (夕焼け色に染まる蔵の中
    大きな息を吐きながらアミとロワナが日記から顔を上げた
    長編小説に集中していたかの疲労感
    所々に不可思議なラクガキが無ければ途中で眠っていたかもしれない)
  • ふひー…なんだか妙に緊張するの……。。 -- ロワナ
  • うんー。おばあちゃん文章書く所、すごい一杯書くのー。 -- アミ
  • (合間にラクガキとかしてるのに)
  • それだけ、残して置きたかったことたくさんなのかな? -- アミ
  • むぃー何かを書くのが好きだったのかも? 絵もいっぱい書いてあるし
    …私も日記つけてみようかなぁ? -- ロワナ
  • (祖母の日記は小学生の姉妹が読むには多すぎる文章だった
    それでも姉妹は集中し読み続けた。普段は使わぬほどの集中力でもって)
  • おじいちゃんとおばあちゃんとネオンちゃんって仲良しさんだよねー
    こんなに仲良しさんなのに何があったんだろう…… -- ロワナ
  • (なぜあの屋敷に一人留まり引き籠りの様な生活をしているのか
    日記を読み進める事でその疑問はますます強くなって)。。
  • うん、それにー…ネオンちゃんって…。 -- アミ
  • うん、やっぱりそうだよね…ネオンちゃんって…… -- ロワナ
  • (言葉を交わすとコクリと頷き合う
    祖母の日記は伝え教えてくれた。ネオンと出会った時から感じている不思議な感覚の正体を
    なぜこんなにネオンの事が気になるのかを)。。
  • やっぱり、おばあちゃんの双子の妹…。ってことは…あのお化け屋敷
    って、おばあちゃんの実家?。 -- アミ
  • うん、そう言う事になると思うの
    じゃあ…おばあちゃんは火事から逃れておじいちゃんの所に来たのかな……。。 -- ロワナ
  • でも…あのお化け屋敷って全然無事っぽい?
    ネオンちゃんの部屋も綺麗だったし。 -- アミ
  • (顎を親指で掻きながら、アミは蔵の暗い天上を見上げる。
     村はずれの山奥にある館は、確かに陰気臭いし、日当たりが悪いし、
    普段は、幽霊がうようよしているが。
     大人達に禁じられて居ても、代々の村の子どもたちが暗黙の遊び場に
    しても、何の問題もなかったような場所なのだ。
     幽霊にしたって、アミロワ以外は殆ど感付かないし、ネオンも含めて
    害のありそうなものが居た記憶がない。
     友達のしらせ君などは、何度か、幽霊と目線を合わせて居たような
    事もあったが)
  • (そして何より、大きな疑問が一つ)
  • …あそこが、おばあちゃんちだったなら。
    何で、おじいちゃんは何も教えてくれなかったんだろう。ネオンちゃ
    んの事も。。 -- アミ
  • なんでだろ? うー…わからない事だらけなのー! -- ロワナ
  • (思考が爆発しそうとばかりに唸るロワナ
    ネオンが見せた火傷は火事による物だと言っていた
    しかし屋敷や部屋は今もそこに残っている
    祖母は山奥のあの屋敷で暮らしていてネオンと言う妹がいた
    日記にはアミとロワナの祖父である宗右衛門もあり
    それらに関わっていたのは間違いないはず
    なのに二人には伏せていた……)
  • もう少し先に書いてあるのかなー…ふに? -- ロワナ
  • (そう言って日記のページを捲ると、またラクガキに満ちたページであった
    ここまでと同じありふれたラクガキに満ちたページ……
    なのにロワナのそしてアミの視線は真っ先にそこに止まった
    いや惹きつけられた。這う様に移動する生物のラクガキに……)。。
  • (病に侵されて痺れる病人が、その震える指先で紙面に直線を描こうと
    したが叶わなかった跡のようなS字の線。
    苦しげにのたうつ、なりそこないのSの字から、4つの出来物のような
    膨らみがあって。その先は血膨れのはじけたような細かな点であった)
  • …イモリ…? -- アミ
  • (少女漫画風の、可愛らしい筆使いなレインのラクガキの。
     その中に、まったく異質な筆致のその絵を真っ黒なイモリの絵を見
    た時。アミも、ロワナも、何故かそれがまったく別人の筆によるもの
    だとは思わず。
     油紙の色をした紙面に、漆黒の爬虫類が踊っていた)。




    • (黒い何かのラクガキをじっと見入っていると、なんだか妙に不安に
      なる。紙面の隅で踊るイモリから目を逸らすと、アミは次の頁で隠す
      ように日記を捲る)
      • とりあえず、次の頁なの…。 -- アミ
      • う…うん、捲るの -- ロワナ
      • (アミが横目で見ればロワナの顔色も優れない。ロワナもまた不安を感じている様だ
        だからなのかページを捲る指に力が籠り)
      • ……… -- ロワナ
      • ……… -- アミ
      • (そこはまたラクガキのページであった
        前ページの雰囲気をリセットしたいのか可愛い物に満ちたページ
        ネコやウサギやわんこ…その他愛らしい動物達の描かれたページ)。。
      • 『お父様が爆発した』
      • 爆発!?。 -- アミ
      • 爆発!? -- ロワナ
      • (二人ほぼ同時に声を上げた。そして二人揃って目が丸くなっている
        わくわく動物ランドに和んだ直後の出だしがこれである
        驚くなと言うのが無理な話だ)
      • 『まただ』
      • また!?。。 -- ロワナ
      • またぁ!? -- アミ
      • (淡々とした文章で綴られているのだから、余計に謎は深る。
         いったい自分たちの曽祖父は何者なのか。二人は困惑しながらも続
        きへと目を移した)
      • 『その日は…』
      • (レインは体調を崩して寝込んでいた。
         それが昼過ぎに、突然爆音と地震のような揺れに起こされる)。
      • はぁ、お父様と来たら…コホンコホン -- レイン
      • (呟きと共にレインが階段を下りてくる、しかし咳と共に足が止まってしまう。
        寝間着浴衣に毛織物を羽織った姿
        病の身に天井高く吹き抜けとなったエントランスホールは涼しすぎた)。。
      • (さらに、黒光りする、鉄扉の如き玄関扉をバーンと勢い良く開いて
        飛び込んで来たのは、宗右衛門である)
      • レイン、大丈夫か!うわっ火事か!? -- 宗右衛門
      • (石造りのエントランスホールに、なにやら黒い煙まで流れこんできて
        片手に籠を持った宗右衛門の声が響く)。
      • あら、宗右衛門? なぜ…コホン…ケホケホ -- レイン
      • (館へ?と聞こうとした所でさらに咳み
        寝間着浴衣の袂で口元を押さえながらその場にしゃがみ込んでしまう
        黒煙の強い匂いに咽てしまった様だ)
      • ああ、お嬢様大丈夫ですか?
      • (宗右衛門の背後からスライドする様に歩み出たメイドが
        急ぎ足でレインの元へと駆けよった)。。
      • お父様ー!? -- ネオン
      • (そう叫びながら、ホール左の廊下を小走りに来たのはネオンである。
         ボファッ、とさらに黒煙が下から噴出した。
         しかも酷く臭い、焦げ臭いというより、ありとあらゆる生物から生
        理的嫌悪を抽出したような、本能に訴えかける腐臭である。
         宗右衛門は、思わず身を引いた。
         煙の中に、長身な人影が、ゆらりと這い上がるように出てくる)。
      • お父様…? あ…この香りは…… -- レイン
      • (ネオンとほぼ同時に叫んだ
        しかし違うのは匂いに気付いた直後の行動
        自分を支えるメイドに視線を送ると頷いて)
      • 宗右衛門様、これを、そしてこちらへ……
      • (レインの指示を受けたメイドは宗右衛門の側に駆けよると
        手ぬぐいで口を覆う様に促し匂いの届かぬ位置へと移動させた)。。
      • お、おう…。 -- 宗右衛門
      • (手ぬぐいに染みた微かな香りのお陰か、すこし朦朧としかけた頭の
        中が明瞭になるのを宗右衛門は感じる。
         突然、薄れゆく黒煙の中から、切り裂くような勢いで長い腕が突出
        される。その白い手袋には、黒い染みが疎らに浮かび…)
      • げほっ!ごほっ!ウォェエエッごフォホ!エフッ!ゴフッフゥゥッ!!
      • (手袋の主は、長身な背を丸めて、命に関わりそうな咳をしていた)
      • おっとうさまーーーーーー! -- ネオン
      • …ん?…ああ、ネオンの方k…ぶっへぇ!!!!
      • (走り寄ってきたネオンに、タックル気味の抱擁を受けて、彼は、盛大
        に血を吹く)
      • 大丈夫かおじさん!? -- 宗右衛門
      • (っていうか、ネオンはこの臭い平気なのか、と宗右衛門は思った)。
      • あらあら、ネオン落ちつきなさい
        そんなに強く抱擁しては、お父様がまた昇天してしまいますわよ? -- レイン
      • (そう告げて、空宗右衛門に困った笑みを向けると
        毛織物に身を包む様にしながらふらふらと残りの階段を下りてきた)。。


      • そうか、君はレイン達の友達か。
        アシュトン・トリガーレックだ。よろしくね。 -- トリガーレック
      • (煙も収まった玄関ホールで、宗右衛門が挨拶すると。黒い染みの
        ついた手袋を外しながら、白衣のような白いフロックコートの男は言った。
         その下のシャツやズボンも、中世の城のような舘の主に相応しい時
        代がかった感じで。時代の流れには取り残され気味な田舎の村にあっ
        てなお、奇妙に時が止まったような印象があった。
        しかし、トリガーレック氏の放埒に伸びた栗色の髪は、古風とは言
        いがたい斬新さであり。その色白な顔立ちは、十代の娘二人の父とは
        思えない程若々しかった。
         なるほど、ネオンが自身の父親を、超イケメンと言っていたのも
        なんとなく理解ができる。
         そのネオンは、トリガーレック氏の左腕にぶら下がっている)
      • どうも…。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、もう一度小さく頭を下げた)
      • 万丈様は、レインお嬢様のお見舞いにいらしました。
      • 見舞い?体調でも崩してたのかい? -- トリガーレック
      • (メイドが、付け加えるように言うと、トリガーレックは懐からメガ
        ネを取り出して掛けながら、レインの方を向く)。
      • え…あ、はい…少々……コホン…ぁ…コホコホ…… -- レイン
      • お嬢様は今朝方に熱を出されまして、先程まで床に伏せておりまして
      • (父からの視線と問いかけに一瞬だけ表情が固まるも
        直ぐに姿勢を正し返答しようと、しかし咳で言葉が止まってしまう
        そんなレインに代わりメイドが言葉を続けた)。。
      • ふむ…。 -- トリガーレック
      • (具合を聞くでもなく。身を屈めて、トリガーレックはレインをただ
        覗きこむと言った)
      • 重大な異常ではないようだ。 -- トリガーレック
      • 姉様なら大丈夫ですわ、しっかり看病するよう頼んでますもの。
        ね? -- ネオン
      • (父の長い腕に抱きつきながらネオンが、そう言うと、メイドが頷い
        て答える。
         いつもレインにべったりなネオンだが、姉よりも父の方が特に好き
        らしい。ネオンの子供っぽい振る舞いはいつものことだ。
         ただ、宗右衛門はなにか、レインの父の方に違和感を覚えた。
        あれは、病にかかった娘にかける言葉なのだろうか)
      • それじゃあ、私の方はいいから、引き続きレインを見ておいてくれ。
        君も…まぁゆっくりしていくと良い。悪いね外に出たのは2週間ばかり
        ぶりで疲れているんだ。 -- トリガーレック
      • (それだけ言うと、ゆっくりとした足取りで、ネオンと一緒に廊下の
        向こうへと歩いて行く)。
      • ネオンも…お父様も風邪には注意してくださいね…? -- レイン
      • (去っていく二人の背に呟くように声をかけると
        背中でため息してから宗右衛門の方へと向き直って)
      • 変な所をお見せしてしまいましたね?
        ネオンったらお父様が籠った後はいつもああなんですよ?)。。 -- レイン
      • 2週間とか言ってた気がするけど…。 -- 宗右衛門
      • (地下室にだろうか…きっとそうなんだろう。宗右衛門は思わず床を
        見た。まぁ、それは置いといて)
      • それよか、体大丈夫なのか? -- 宗右衛門
      • ひと月籠り切りの事もありますし、今回はよほど煙たかったのでしょうね…あ?
        はい、朝と比べれば随分と楽になってきました -- レイン
      • (またため息した後、宗右衛門の心配の言葉で話題を切り替える
        ふわふわと笑みを返すも、病の所為かどこか儚げにも見えて)
      • でも…今日はごめんなさい、約束を破ってしま…コホン…コホコホッ -- レイン
      • ああ、お嬢様そろそろお部屋に戻った方がよろしいかと
      • (約束。海と山、離れた場所に暮らす二人は毎週決まった日に会う約束をしていた
        しかし今回はレインの風邪でそれが叶わぬ事に
        それがレインには申し訳なくて……
        さらに会話を続けようとした所でまた咳こんでしまう
        寝間着浴衣の袂で口を押さえるも咳はなかなか止まらず
        暫しメイドがその背をさすり続けた)。。
      • そうだな。俺の事は気にしなくていいから、ちゃんと寝てないと。 -- 宗右衛門
      • (具合はよくないようだ。
         長居をしては、レインがまた無理をしそうだから、とまでは言わず。
        メイドに、持ってきた籠を渡して、帰ろうとした)。
      • (メイドは宗右衛門から籠を受け取ると小さく頭を垂れた
        そしてレインの背に手を回す様にすると部屋へと戻ろうとするが)
      • ……… -- レイン
      • (レインは足を止めたまま俯き動こうとしない
        良く見れば足の代わりに手が動いている。その手が掴むのは宗右衛門のシャツの裾
        俯いたまま、だらしなくはみ出たシャツの裾を掴んでいて)。。
      • (足を止めて思わず振り返る宗右衛門と。そのシャツの裾を子供のよ
        うに掴んだまま顔を赤くするレインである。
         その顔の赤いのは熱のせいばかりではあるまい。
         両手で籠を持ったメイドさんが、お姉さんのような笑みをしながら)
      • では、お嬢様のお部屋へご案内さしあげますね。
      • (そう言った)


      • (宗右衛門が通されたのは、レインの自室であった)
      • …広いなぁ…。 -- 宗右衛門
      • (高い石造りの天井を見上げながら宗右衛門は思わずつぶやく。
         自分の部屋なら、一人っ子の宗右衛門にもあるが。この部屋と比べ
        れば、ドヤ街とビバリーヒルズぐらいの差はあるのではなかろうか。
         あるいは特上うな重と蒲焼さんごはんくらいの差である。
         凝った柄の高そうな赤い絨毯だけで、自分の家の居間よりでかい)
      • 外は結構見慣れたけど、入ってみるとレインんちってホントお城見た
        いだよな。。 -- 宗右衛門
      • ん、そうでしょうか? 宗右衛門の家も素敵な和風家屋だと思いますが…… -- レイン
      • (風邪薬を飲み終えたレインが宗右衛門の言葉に小さく首を傾げる
        世界の狭い範囲を知らない故の反応。
        半身を布団に潜らせ肩には先程まで身をくるんでいた毛織物
        ちょこんと座った天蓋付きベッドはそれだけで宗右衛門の部屋を占めそうな大きさで)。。
      • うちは、ボロイだけだ。
        ああ、熱あるってメイドさん言ってたけど、寝てなくて辛くないか? -- 宗右衛門
      • (その2つ並んだベッドの横に椅子を置いて宗右衛門が座っている)。
      • ん〜…? あ、ええ…薬を飲んだら随分と楽になってきました
        お父様の趣味で薬類は豊富にあるので -- レイン
      • (ボロイと言う言葉にまた首を傾げる。この辺り価値基準がおかしい様だ
        そしてサイドテーブルに置かれた小瓶を手に取ればふわりと笑みを浮かべる
        手書きのラベルには『解熱、鎮痛、風邪、その他』とある)。。
      • 趣味って…もしかして、親父さん薬とかの学者なのか。 -- 宗右衛門
      • (以前、ネオンが、自分の父は学者なのだと自慢気に言っていた記憶
        がある。
         さっきの、奇抜な登場の仕方も、屋敷の地下には、研究室かなんか
        があって。そこで薬の調合や実験でもしているからか。
         あの様子では、何か盛大に失敗していたようだが)
      • ………あ、痛ッ! -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、こめかみを押さえる)。
      • んー…そう言った類のお仕事を…あ?宗右衛門大丈夫…!? -- レイン
      • (父の職業を問われれば言い淀むが
        宗右衛門が不調を訴えれば布団から身を乗り出す様にして顔を寄せ
        そして不安げな瞳で宗右衛門の顔を覗きこんだ)
      • 大丈夫ですか?吐き気等はありませんか?変な物が見えたり……。。 -- レイン
      • 起きなくってもいいって、ちょっと…。 -- 宗右衛門
      • (まつげを数えられそうな程顔が近い。前髪の揺れる音の聞こえそう
        な程顔が近い。
         よほど心配したのか、思い切り顔を寄せてきたレインさんが、すごく
        近い。
         思わず、宗右衛門の顔まで、熱が移ったかのように赤くなる)。
      • でも、先の煙の影響なら…あ…… -- レイン
      • (レインもまた気付いた、互いの顔の近さに
        思わず顔を寄せてしまったが、父以外の異性とここまで近付いたのは
        いや、父とですらここまで近付いた事はない。
        互いの吐息が聞こえるほどの距離
        太陽に晒された褐色の顔は潮風の香りがしそうで
        黒き瞳はじっと自分を見つめる
        それらを意識してしまえばレインの白い肌は一気に朱に)
      • (顔を赤く染めたまま動けなくなる二人
        机に置かれた銀細工の時計のカチコチと言う音が妙に大きく聞こえる)。。
      • ちょ、ちょっと煙の臭い思い出しただけだから!全然平気だから! -- 宗右衛門
      • (目を逸らしつつ、背を反らせながら宗右衛門は言った)
      • ああーあの…うん、ちょっと凄かったからなアレは。ほんと親父さん
        下で何してたんだろうな。 -- 宗右衛門
      • (照れ隠しに、半笑いで宗右衛門がそう言うと)。
      • あ、え、はい、大丈夫ならばそれで……え…? -- レイン
      • (宗右衛門の言葉で硬直から解かれると
        慌てて布団の中へと身を沈め、両手で顔の半分を隠す様に布団を引き上げた。
        しかし、話題が父の事になれば朱に染まっていた肌が一気に白へと
        白よりも白く、亡者の様に青褪めた顔色へ)
      • (父の事を語る事は、この家の…レイン自身に関わる事
        それゆえにレインは父に苦手意識を持っており
        時にその存在を心の隅へと追いやる事さえあった)。。
      • (また、だ。宗右衛門は思った。
         レインは父親の話しになると暗い顔になる。ネオンの方は、無邪気
        に懐いているようだったが…。
        不意に彼は、ネオンのベッドの脇にあった大きなぬいぐるみを指さして)
      • そのぬいぐるみ…。 -- 宗右衛門
      • ………え? あ、この子…可愛いでしょう? -- レイン
      • (亡者の虚ろになっていた瞳に光が戻る
        ベッドの脇にあったぬいぐるみを引き寄せると頬を寄せる
        緑のワニにも似た太古の生物を模したぬいぐるみ
        エルギネルペトンのぬいぐるみだ)
      • 抱っこして寝るにも丁度良いんですよ? -- レイン
      • (そう言うとぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた
        先まで虚ろだった表情に生気が戻り笑みとなる)。。
      • そいつにそっくりなのが泳いでるとこ、うちの近所にあるぜ。
        あと、そのぬいぐるみよりデカイ魚も居るんだ。
        レインは、まだ海の中は見たことなかったろ。 -- 宗右衛門
      • (釣られるように、宗右衛門も笑いながらそう言った)。
      • まぁ?この子にそっくりな子が、それに大きな魚さんもですか?
        …あ、はい、宗右衛門と会うまで、海へ足を運んだ事が無かったので…… -- レイン
      • (ヌイグルミを抱きしめたまま宗右衛門の語る話に
        瞳を宝石の様にキラキラと煌めかせる。その表情は無邪気な子供の様で)
      • 海の底には様々な生き物達が沢山いると聞きました
        きっと不思議な世界な世界なのでしょうね……。。 -- レイン
      • ああ、俺銛付きもやるからさ。治ったら泳ぎ方教えてやるよ。
        海の中は面白いぞ。ここらの海は深いけど、波は静かだから泳ぎの練
        習にもちょうどいいんだ。 -- 宗右衛門
      • 泳ぎ? 泳ぎを教えてくださるのですか?
        ああ…あの広い海を泳ぐ事が出来るのですね…… -- レイン
      • (手を合わせると夢見る様な瞳となり想いを馳せる
        ここは山奥の森の中の館。海は見えないが宗右衛門と見た海の記憶は鮮明で)。。
      • ああ、また3人で行こう。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は無邪気に笑って、それでは、水着を用意しないといけま
        せんね、とレインが言ったので、また思い出したように赤くなったり
        したのだった。
         開け放した窓から、森の中を吹き抜けてきた風が入り込んでくる。
         夏の盛りの香りがしていた)。





    • 二人とも、すごく仲良さそうだ。 -- アミ
      • (床に置いた日記を、二人で覗きこむようにしながらアミが言う)。
      • うん、二人とも仲良すぎてなんだかムズムズするの…… -- ロワナ
      • (アミの隣、日記を覗きこんだままコクリと頷く
        色恋沙汰とはまだまだ無縁な二人だが
        それでも日記に書かれた若い日の祖父と祖母の初々しい関係は
        心の何かを刺激するもので)。。
      • 私は好きだよ、おじいちゃんもおばあちゃんも仲よかったのが嬉しいの。
        おじいちゃん、全然おばあちゃんの話ししてくれないじゃない?。 -- アミ
      • うん、そうだね。二人とも仲良しで嬉しい♪
        あ、もしかしたら…おじいちゃん恥ずかしくて話さないのかな? -- ロワナ
      • あはっかもねー♪ -- アミ
      • (日記の中に記された二人の側で。日焼けした少年が、羽毛に包まれ
        た卵のような少女に、ささやかな海の冒険を語って居るのを。
         アミとロワナも、カーテン越しに覗きこんで居るような感じがして。
        二人して笑う)
      • (こんなにも、情景がすんなりと思い浮かべられるのは、やはりこれ
        が祖母の記した日記だからなのだろうか。
         少し不思議な魔法の使える自分たちと同じように、祖母もそういう
        力があったのかもしれない。
         そんな事を思いながら、また新しい頁を捲る。
         どこからか入り込んだ蝶が、ランタンの周りに、
        ふわふわと羽ばたいた)



      • (舘の近くの山の中に、珍しい蝶の群生があると。
         昔、姉とそんな話しをしたかも知れない)
      • …まぁ、別に蝶等興味は無かったんですけれど。 -- ネオン
      • (ネオンは、一人呟いた。
         舘の屋根の上を、ゆっくりと歩いている。地に足を付けないまま、
        振り袖をゆるゆると羽のように広げながらである)
      • 籠に入れるのなら、虫よりも鳥の方がいいじゃない。 -- ネオン
      • (自分たちも、籠に入れられて居るようなものなのだから。
         生れてからずっと、レインとネオンは、舘の中で生きてきた。
        そんな生活に、ネオンは疑問や不満を持ったことはない。
         母は、レインとネオンの幼い頃になくなっている。
        遺した物は僅かな物と、短い記憶だけ)
      • (しかし、ネオンには父が居た、双子の姉のレインもである。
        幼い頃から、世話をしてくれるメイドはお気に入りであった。
         気まぐれに、時折外へ飛び出す事はあっても、籠の中へ戻って来る
        事になんの疑問も抱かない鳥だと、自分達の事をそう思っていた)
      • ああ、そうだ…姉様は、蝶の群れを見てみたいと言って…。 -- ネオン
      • (梅雨の明けた頃だったろうか、一人で出かけたのだ)。



      • ピチャン……
      • (屋敷のホールに水の垂れる音が響いた
        一回では無く二回、三回と。外に雨の気配は無く雨漏りでは無い
        水が滴り落ちるのは少女の着物。雨に濡れ重く肌に張り付く着物から)
      • …ただいまー -- レイン
      • (少女の金の髪は頬とに張り付き、その姿はまるで幽鬼の様で
        白い足は裸足で黒く泥塗れで)。。
      • ホントに出たーーーッ!? -- ネオン
      • (両手で1本のロウソクを持った、ネオンとメイドがロウソクを握った
        まま手を取り合って悲鳴をあげた)。
      • で、出たーって…?
        …もしかして、私の事ですか? もぉ、私の事を幽霊みたいに…… -- レイン
      • (二人の反応に暫し唖然とするも、幽霊扱いに気付けば頬を膨らませた
        髪をかきあげれば二人の良く知った顔、レインの顔があった)。。
      • 姉様!? -- ネオン
      • まぁまぁ、大変。今タオルをお持ちしますので。
      • (メイドがロウソクをネオンに渡すと、バスルームの方へと下がる)
      • 一体どうしたんですの姉様。 -- ネオン
      • 蝶々を捜していたら、急に足元が消えて…気付いたら水の中にチャプンっと -- レイン
      • (身ぶり手ぶりで説明するレイン
        どうやら森をうろうろとしているうちに池か沼に落ちてしまったようだ)。。
      • ちゃぷんって…だ、大丈夫なんですの!?姉様!ど、どこか怪我など…。。 -- ネオン
      • ありがとう、全然大丈夫よ? ほら? -- レイン
      • (その場でクルリと回って見せる
        普段なら着物がふわふわと愛らしいのだろうが
        濡れている今日は水飛沫が周囲に……)
      • ね? すこーし危なかったけれど、助けていただいたの。。 -- レイン
      • おぅッ!あまり嬉しくない感じの姉様汁が! -- ネオン
      • (ドロ混じりの雫を拡散するレインから、服が汚れるのを気にして、
        ネオンが一歩引くと、スッとメイドさんが横からスライドしてきてタ
        オルで雫をガード)
      • レインお嬢様、お風呂の支度が整いました。さあ、コレでお顔をお拭
        きになってください。
      • (仕事の早いメイドさんである)。
      • ん、ありがとう。ネオンも一緒に入る?ふふっ -- レイン
      • (メイドさんからタオルを受け取れば顔をくしくしと拭き
        そしてニコニコと微笑みながらネオンにお風呂のお誘い)。。
      • はい! -- ネオン
      • (ネオンは即答した)



      • その日からだったっけ、姉様がよく舘の外へ出るようになったのは。 -- ネオン
  • (特に、外出を禁じられていたわけではない。
     村の学校には通わせて貰わなかったが、代わりに家庭教師が雇われ
    ていたし。
     古城のような屋敷も、菜園まである庭も、レインとネオンの遊び場に
    は十分だった。
     父は、普段姿をあまり表さないというだけで、ネオンの必要な物を
    何もかも十二分に与えてくれた。
     友達だって、姉妹二人だけで寂しさを感じたことなどなかったのだ。
     生れてからずっと一緒に居るレインも、まったく同じように感じて
    生きていると信じて疑わなかった。
     実際、何も違わなかったのかもしれない。
     服装と性格が少し違うだけで、鏡合わせのような双子の姉妹に、決定
    的な違いが生まれたのは。ネオンの生きていた最後の夏の事で…)
  • まぁ、そのきっかけが、池に落ちたところを。あいつに釣り上げられたって
    のはねぇ。 -- ネオン
  • (実際釣られたらしいことは、後日聞いた。
     釣り竿によってである。
    蝶を追うのに夢中になって池に沈んだレインは、偶々山へ釣りに来てい
    た宗右衛門に釣り上げられたのだそうだ。
     レインが、泥だらけになって帰ってきた日のことである)
  • 私は何を考えていたんだっけ………。
    ああ、そうだ。
    その日から、姉様が私を放って外へ出て行く事が増えて…。 -- ネオン
  • (そしてレインは、外で誰かに会っているのだという。
     そのことが、1日、2日と。
     レインが自分の知らない誰かに会いに行くのが。
     3日、4日と。
     生れてから、いつも一緒にいた姉が、自分の事をほったらかしにするのが
    腹立たしくて。
     ある日。では、ネオンお嬢様もその方とお知り合いになればよろしいでは
    ありませんか。とメイドに言われたのがきっかけだったような気がする)



  • 何よこんなところ服が汚れちゃうじゃない。 -- ネオン
  • (エプロンドレスの裾を持ち上げて、細い獣道の草を踏む。
     山の中に住んで居ても、ネオンはこんな道を歩いた事は無く、何度
    も木の根に躓きそうになりながら、やっとの思いで、森の中を縫う
    ように流れる沢に出た。
     両岸から大木の枝が張り出して流れの上に屋根をかけている。
     縞模様の岩は厚く苔むして、その苔にシダが群生し、イワタバコの
    紫の花が緑一色の中にはえている。
     原生林を思わせる、立派な渓流であった。よほどこの山は生命力に
    溢れているのであろう。
     清らかな水の楽園である。梢から降り注ぐ陽光ですら、渓流の飛沫
    を含んで柔らかくなっているようだ。
     そんな沢沿いに、大きな岩がいくつも重なって、斜面にそって防波
    堤のようになっていた。
     山の主が腰掛けて涼んで居そうな、神聖さすら漂う雰囲気であったが。
    ネオンにとってはただのジメジメしてるし暑いし、服が汚れて鬱陶しい
    山!である。
     ブチブチと独り言が止まらない、無論文句である。
     しかし、苦労の甲斐があって、やっと目的の人影を見つけた)
  • (岩の上に腰掛けて、釣り糸を垂れる宗右衛門の背後に近づき)
  • あんたがそうよね。 -- ネオン
  • (岩の上から見下ろしながら、ネオンが言うと。何がそうなのかとは
    言わずに、宗右衛門は)
  • 君は? -- 宗右衛門
  • (そう言った)
  • ネオンよ。 -- ネオン
  • レインと似てるな名前。 -- 宗右衛門
  • 当然よ、レイン姉様は私の姉様だもの。 -- ネオン
  • ああ、そうだろうと思った。 -- 宗右衛門
  • (日に焼けた顔で、無邪気に宗右衛門が笑うのだから、むすっとした
    顔のネオンは小さな段差を飛び降りて…コケた)
  • 大丈夫か? -- 宗右衛門
  • 痛ったー!もうなによ痛いじゃない! -- ネオン
  • (そして、極自然に手を差し伸ばした宗右衛門の手を取って立ち上がり)
  • 何で手繋いでんのよ! -- ネオン
  • (逆にキレて、勢い良く手を離すネオンさん)
  • ああ、それで、俺に何か用かい? -- 宗右衛門
  • 今のショックで忘れちゃったわよ! -- ネオン
  • お前面白いな。さすがレインの妹だ。 -- 宗右衛門
  • 何よ!? -- ネオン
  • (ネオンが巨人かオカマだったら、宗右衛門を踏んづけてそうなセリフ
    を叫びながら、ケラケラと楽しそうに笑う彼を睨んだ。
     それが二人の出会いであった。
     結局その後、山奥の舘の姉妹と、海辺に住む宗右衛門は、レインの
    希望もあって、その夏の間3人で遊ぶようになって)
  • まぁ、私も嫌ではなかったのよ…最初も。。 -- ネオン
  • (それは、ネオンの秘密。
     生れてからずっと互いの事で知らない事は無いレインにも、何故
    かネオンは、この日の事は、語ることはなかった)



    • (薄暗い岸壁に波が寄せては砕ける。
       海を背にして立つ小さな蔵の窓から、明かりが漏れていた。
       日記を読むアミとロワナも、昼だというのにまるで外が夕暮れのよ
      うに赤く暗い事には気づいていたが。
       どうしても、日記を読むのをやめる気にはなれずに、どちらもその
      事を言い出そうとはしなかった)
      • (開かれた新しいページには、油紙色の紙面のどこにも、日付が書か
        れていない。
         代わりに、何かの暗号を示すかのように、あの黒いイモリの印が付
        けられていて…)。
      • (「イモリだ」。アミとロワナはほぼ同時に呟いた
        以前のページにあった絵と異なり簡略化され記号化されたイモリの姿…印
        なぜだかわからないが二人はその印を忘れてはいけない気がした
        今はその印に込められた意味をわからずとも……)



      • 『その日は妙に静かな夜だったのを良く覚えている
        全ての音が闇に食われ吸いつくされたかのような静かな夜。
        静かな夜、ぐっすり朝まで怠惰な睡眠を満喫出来そうな、そんな夜
        なのに、私は喉の乾きで目を覚まされてしまった。そういう時に限って水差しは空
        いつもは遅くまで起きているメイドの(掠れて読めない)もその日は早く寝付いてしまい
        だから私は仕方なく自分の足で炊事場へと向かう事にしたのだった』

      • ふぅ、眠いですわ…でも喉は乾きますわ…… -- レイン
      • (手すりに縋る様にしながらエントランスの階段を下りて行く
        目指す炊事場に行くにはここを降りて行くのが一番安全確実だ
        他の階段もあるが夜は暗すぎる。段を踏み外してネオンに笑われてから
        夜は使わない事にしている)
      • ふぅ、夜は階段を下りるのも難儀ですわ…あら? -- レイン
      • (やっと階段を下り終え一息した所で廊下の奥に灯の気配を感じた
        目指すべき炊事場とは向きが反対となる
        そこに何があるかを知るレインにとっては足を向けるべき理由がある
        そこにはレインにとって…家族にとって大事な物があるから
        だからレインは喉の渇きよりもそちらに向かう事を優先した)。。
      • (月の灯りが、窓から音もなく滴り落ちて、長い廊下の絨毯を濡らし
        ているようであった。
         その上を、レインは音も無く歩き灯りの漏れる部屋の前で止まる。
         そっと隙間から覗いて見れば…。
         椅子に座った父が居た。
         本棚から溢れだして、床にまで積み上げられた古書の上に、煤けた
        ランプが一つだけ灯っていた。
         高い、古びた木の天井までは、灯りが届かない。
         壁に、大型の獣の骨の影が揺れている。
         山積みにされた、表紙の擦り切れた古書の影に、標本瓶の中のトカ
        ゲがいて。ちろちろと風も無いのに炎が揺れて、暗がりの中で、標本が
        生きて這っているような錯覚を覚えさせる。
         そういったモノの中に、埋もれるように。錠前付きの鉄で装丁をさ
        れた分厚い本に手を置き、父が座っている。
         じっと、身動ぎもせずに。壁にかかった一枚の絵を見つめていた。
         白いドレスを着た、長い金髪の女性の絵であった。その顔立ちは、レ
        インとネオンを、ちょうど10歳ばかり成長させたようである。
         等身大の、母の肖像画だ)。
      • (「お父様…?」) -- レイン
      • (レインは口に出さずに呟いた。いや声が出無かったと言った方が良い
        肖像画をじっと見つめる父が何か儚げで…そして歪に感じられて
        高き塔を成す古書とゆらゆらと踊る影絵達は、積み木とパズルの様で
        声を出せば父と共に崩れ壊れてしまいそうに見えたから……)
      • (肖像画の母は淡く優しい笑みのまま父を見つめ続けている
        それは時の止まった姿、どんなに待っても手を伸ばしても
        言葉を返す事は無く、温もりを返す事も無い)
      • ……ぁ…… -- レイン
      • (吐息が漏れた。あまりにも長い時間息を止めてしまっていたから
        何より揺れるランプの明かりで母の瞳と口元が動いた様に見えたから
        レインは慌て口を押さえる、しかし……
        父は動かない。肖像画と共に時を止めたかの様に)。。
      • (ただ、光だけがゆらゆらと揺れて、部屋にあるものの影をすべて不
        気味に踊らせる。
         黙したままのレインが、よくよくもう一度見てみれば…揺れている
        のはランプの灯りではなく。父の傍らに置かれた奇妙な水晶体である。
         ランプの灯りを反射して居るようにも、自ら濃い白色の光を放って
        いるようにも見える。
         レインの居る戸口からは、椅子の背の影にあって、全部は見えない。
         もう少しだけ、部屋に身を潜り込ませれば、見えるかもしれない)。
      • (気付かず動かぬ父にほっと息を吐くと同時に何か失望と悲しみを感じる
        その心を何かが手招きをした、それは光。ゆらゆらと揺らめく光が手招きをした様に見えた
        父の傍ら何かが淡く蠢く様に光の触手を伸ばしている
        宝石…水晶だ、乳白色の水晶が呼吸をするように周囲へと)
      • (レインはその水晶をもっと近くで見たいと思った
        後から思えばそれは自分の意思では無かったのかもしれない
        手招きに誘われるまま一歩そしてまた一歩と
        そして水晶がはっきりと見えた時……
        光に照らされる父の横顔が視界に入って来た)
      • (レインは逃げ出していた。バタバタと言う足音と共に
        太鼓を叩く様な足音があってなお、父はレインの存在に気付く事は無く
        部屋に入った時と同じ姿勢のままに母の肖像画を見つめ続けていた)。。


      • 水晶?さあ、お父様の書庫になら石コロもいっぱい在ったような気も
        しますけれど? -- ネオン
      • (ヴァイオリンをケースから取り出しながら、ネオンは言った)。
      • こうぼんやり光る水晶なのだけど…記憶にありません? -- レイン
      • (ヴァイオリンの糸巻を調整をしながら何度も問いかける
        普段はぼんやりとしたレインには珍しい事だ)。。
      • どんなものか分からないと、ちょっと答えづらいですわね…。
        あ、そうだ、それなら姉様の見たものを、私にも見せてくれればい
        いんです! -- ネオン
      • (そう言って、ネオンは、右手で手のひらを合わせるように、レイン
        の左手を握る。
         二人には、不思議な力がある。手をつないでいると、相手の考えて
        いることが、自分の頭で思っているように感じ取れるのが一つ。
         だから、ネオンは、レインが気がかりにしているものを直接覗いて
        みようと思った)。
      • あ…その方法が……
        でも…… -- レイン
      • (スルリと手を解いた。
        力を使えばネオンに見た事を鮮明に伝える事が出来る
        しかし、それはあの夜みた父の姿をネオンに伝える事にもなり)
      • ん、やっぱりいいですわ…見た事がないのはわかりましたし。。 -- レイン
      • あら、そう? -- ネオン
      • (あんなに何度も聞いていたのに、あっさりと手を引くレインに、
        ネオンは不思議そうに首をかしげたが。
         ちょうど、音楽の家庭教師が部屋へ入ってきて、その話しはそれま
        でになった)。


      • (数日が経って、あの水晶を追うチャンスは不意に訪れる。
         また何日も地下室に篭っていた父が、また特に前触れもなく今度は
        一週間程で地上に出てきたのだ。
         顔は青ざめ、憔悴しきっていた。いつもなら、父と顔を合わせると
        真っ先に飛びつくネオンですら困った様にレインの方を見ていたくら
        いだから。よほど消耗したらしい。
         今にも崩れそうな足取りで、自室へ入るとすぐに眠ってしまったよ
        うである。
         当分、目を覚ます気配はない)。
      • (やはりと言うか当然ながら肖像画の部屋に水晶は無く
        父が自室に持ち込んでいるような雰囲気も無かった
        そうなると水晶のある可能性が一番高いのは……)
      • …ここしかないと思うのだけど…やっぱり開かない…… -- レイン
      • (レインは鋼鉄の扉の前に居た。年月を経てなお錆を浮かさず金属の黒金色を保った扉
        この先に父の書斎がある。いや書斎と聞いているだけで本当に書斎なのかは姉妹も知らない
        しかし、この部屋が父にとって重要な部屋であるのは間違いない
        だが、扉は押しても引いても開く気配はなく)
      • 今日まで気にした事はなかったけれど…地下に書斎を作るってどうなのかしら? -- レイン
      • (西館から繋がる地下室。父が書斎と呼ぶ場所は地下にあった
        この扉の向こうに水晶はある、それは核心となりはじめている…が
        そこに至るには扉を開くための物が必要だった)



      • ネオン? ちょっといいかしら…?。。 -- レイン
      • はいー、なんですの姉様? -- ネオン
      • (読むとも無しに、開いていた本を脇にやり、ネオンが振り返る)。
      • うん、捜し物があるのだけど…… -- レイン
      • (短く告げる。ネオンにはこれで通じる
        二人の間だからこそ通じる会話)。。
      • お父様もお疲れすぎで暇ですしー。
        久々に、やりましょうか。 -- ネオン
      • (そう言って、向き合ったままネオンはレインの右手を右手で握る。
         そして左手を左手で取って、ダンスをするように体の前後を入れ替
        えて背中を合わせた)
      • それで何を探しますの?。 -- ネオン
      • あ…えーと、その…… -- レイン
      • (ここに来て困った事になった、父の部屋の鍵とは言えない
        しかしここで言葉を伏しても「力」を使えばネオンには伝わってしまうだろう)。。
      • 探しものが、よくわからないのかしら、姉様らしいです。
        大丈夫、私がちゃんと見てあげますから。 -- ネオン
      • (瞳を閉じて、やや得意気にネオンは言った。
         瞳を閉じて、手をつなぐと。自分がもう一人、背中合わせに立って
        いる感覚を覚える。
         前と後ろに目があるような奇妙な感覚。
         自分の周囲から、死角がなくなると同時に、自分の視界域が展望台に
        登るように遠く、広くなってゆく。
         目という器官が、光を写す物理的器官から進化して、『見る』という
        行為が意味する所を、すべて余すこと無く実現するモノになり変わっ
        ていくような感覚)
      • ん…鍵?上着の…ポケットの中…? -- ネオン
      • (それが、2階の父の寝室の椅子に掛かっているものだというのはす
        ぐに分かった。
         父の寝室は、二人の居る子供部屋からは、反対側の棟にある)。
      • ええ、鍵…ありましたわ…… -- レイン
      • (手を繋ぎ背中合わせのままに言葉を交わす
        鍵の形、感触までわかる、手を伸ばせば届きそうな感覚
        力を使う時のこの感覚は時を重ねるほどに強くなっている気がする
        しかし今はその事は後でいい
        目的の物がみつかり繋いだ手を解こうと……)。。
      • ところで、なぜ地下室の鍵なんて探してたんです? -- ネオン
      • (手をにぎにぎとしたまま、ネオンが言った)。
      • あ、えー…それは…… -- レイン
      • (一瞬だけ水晶の事が浮かぶも、尋ねられた事で集中が解けていた事が幸いした
        便利な力ではあるがなんてでも伝わると言うのは時に困りもの)
      • お父様に頼まれましたの、鍵が無いって
        お疲れの様でしたし、勘違いなされたみたいですわね -- レイン
      • (ネオンの後頭部にコツンと自分の後頭部を合わせ
        にぎにぎされていた手をきゅっと強く手を握り返してから解いた)。。
      • (混ざり合っていたお互いの髪が解けるように別れて、ネオンは何も
        疑わず、小さく笑いながら言う)
      • お父様ったらうっかりしてます。。
      • ふふっ、ネオンもね? -- レイン
      • (微笑むと妹の襟元を直してからその場を後にした)



      • (レインは再び鋼鉄の扉の前に居た、父が書斎と呼ぶ地下室へ続く扉。手の中には扉を開くための鍵。
        ネオンと別れてあの後レインはすぐに父の寝室へと向かった
        眠る父はレインの侵入に気付く事無く、目的の鍵は苦もなく身付ける事が出来た)
      • さて…… -- レイン
      • (鍵をカギ穴に差し込みながら眠る父の顔を思いだしていた
        眠る父の顔は穏やかで、あの夜見た父は別人ではないかかとさえ思える
        しかし、あの夜の出来事は真実、この先にあの水晶はある)。。
      • (一歩ずつ、暗がりの中へ降りていく。
         手元でランタンの火が揺れる。
         誰も入ってこないように、と。あの不気味な鉄扉を閉めたまでは良
        かったが、閉じた瞬間、真っ暗闇に閉ざされてレインは、慌ててマッチ
        を擦ることになった。
         頼りないランタンの灯りが、長く暗い階段の上に揺れる。
         地の底にまで降りて行くような雰囲気だったが、意外に早く底に辿
        り着き、もう一枚の扉がレインの前に聳える。
         赤く塗られた、格子付きの鉄の扉である。
         鍵はついておらず、取っ手を引くと、ギィギィと地下の中でけたた
        ましい音を反響させる)。
      • ん…!? -- レイン
      • (反響する音が悲鳴の様に聞こえ思わず身構える様に固まってしまう
        そしてはっとした様に後ろへと振り返るが人の来る気配は無い
        ただ闇がそこにあるだけであった)
      • ふぅ、大丈夫ですわね…… -- レイン
      • (一呼吸し気持ちを沈めてから再度取っ手を引き始める
        やはり先と同じ様に扉はギィギィと悲鳴の様な音を上げながら開かれて行き
        やがてレインの身が入る程に開かれた)
      • おじゃましまーす…… -- レイン
      • (返答は無い。もしあったのならばレインは慌てて逃げ出していた。
        闇に閉ざされた室内に身を滑り込ませると、手にしたランタンで部屋を照らし……)。。
      • (返事の代わりに牙を剥き出した顔で、大ネズミがレインを出迎えた。
         ぎりぎりの所で、レインが悲鳴を飲み込みランタンを突き出すと、
        ガラス玉の目玉が鈍く光る。
         剥製だ。
         犬。
         鹿。
         烏。
        黒く濡れた鼻や、大きな角、黒い羽が、ランタンの灯りの中に浮かび 。
         大サソリ。
         コボルド。
         インプ。
         それらの巨大な鋏や、毛むくじゃらの腕、牙の生えた恐ろしげな顔が
        闇の中から現れてはまた暗がりに沈んでゆく。
         頭上に対となった刺のようなものがズラリと並んでいるのに気付き、
        灯りを掲げて、追っていくと。末端で、クマ猟に使う罠のような巨大な
        顎と、不気味な複眼の並ぶのが見えて。
         それが、超巨大ムカデだと知れる)。
      • 書斎?本当にここは書斎なのですか…… -- レイン
      • (驚きと恐怖で激しく上下する胸を片手で押えながら
        その場で一回転する様にしながら部屋の様子を伺う
        光の移動に合わせ住人達のシルエットが奇妙な行進を描く
        父はここを書斎と呼んでいた、しかしここは書斎と呼ぶには程遠い
        本で読んだ博物館に似た部屋であった)。。
      • (ここは、一体なんの部屋であるのか。
         ランタンの灯りでは、左右の石造りの壁は見えても、前後は闇に消
        えて見えない。
         地下坑道のような部屋である。
         剥製の間を無数の配管が血管のごとく這いまわり、ソコ、ココに置か
        れているのは、大型のエバポレーターやデシケーターといった化学実
        験の器具である。
         他にも、いくつもの大げさな機械の群れが、古木の根のように錆び
        を浮かせて横たわる。
         レインはそれが如何なる道具なのかは知らない。
         ただ、あたりを埋め尽くす、不気味な地下室の住人達と、
        機械とが、血管のような管に繋げられて居るようにすら見えて。
         例えるならば、太く錆の浮いた管は動脈であり、無数に枝分かれする
        末端が、根のようになったものは抹消神経と毛細血管である。
         そして、臓器たる剥製の住人達に注がれているのだ。
         この坑道のような地下室は、博物館ではなく、ましてや書斎ですら
        無く、まるで……)。
      • お父様はここで一体…… -- レイン
      • (書斎で無いとするならここは何であるのか
        並ぶ不可思議な機械と奇妙な生物たちの標本や剝製
        作動も活動もしていない様にも見えても触れる事には恐怖さえ感じる
        身を竦めランタンを小さく掲げる様にしそれらの合間を進んで行く
        時おり視線の隅に入る標本の瞳が睨む様に見えるのは気のせい?
        極力存在を意識の外に追い出そうとするも
        周囲にから感じる圧迫感に息が苦しい)
      • 早く見つけないと…ひゃっ…? -- レイン
      • (目的とする物、白濁の水晶を見つける事が出来れば
        そんな事を思えば思うほどに足は進まない
        床にまで伸びた配管の触手やぬるりとした何かが進む足を妨げる)。。
      • (蠢くように這う何かがレインの足元をすり抜けた。
         ネズミではない、ヘビとも違う、何か生きたゴムの塊のようなものが
        一瞬だけランタンで照らされて、つきだした爬虫類のような足が石の
        壁をつかむのが見える)。
      • ひ……!? い、イモリ? -- レイン
      • (出かけた悲鳴を手で無理に押さえこむ
        這い去って行こうとするソレを目で追う
        違う、目が追ってしまう、目を離せない
        ソレはイモリにも似た不可思議な姿
        気付けばレインの足はそれを追う様に動いていた)
      • (ランタンの灯を大きく掲げ、壁を這う様に進むソレを追いかける
        進んでは止まり進んでは止まりを繰り返し、レインは奥へ奥へと歩を進め
        やがて機械と標本の森が開けた
        そこはこの不気味で不可思議な空間の中にあってさらに異質であった)
      • 棺…桶…? -- レイン
      • (棺桶、開けた空間の中央に棺桶が一つを置かれてあった
        追っていた生物は見失ってしまったがそんな事はもうどうでもいい
        レインの視線はその棺桶から離せなくなっていたから)。。
      • (雑然とした、博物館の倉庫のような空間の中で、ここだけが祭壇の
        ように整然としていた。
         レインの足を止めさせたのは、まずその違和感。
         剥製の群れに命はない、当然である。だが、生き姿を留めたそれは
        生あるものに近しいとも言える。
         対して、棺は完全な死の象徴だ。
         そこに入れられる者は、かつて生きて、蓋の閉じられると同時に、
        永劫の死へと身を委ねた者である。
         歳月を経ても姿を留める剥製と違い、年月を閲してやがて朽ちゆく
        姿を覆い隠す箱である。
         なぜ、そんなものがここにあるのか。
         そして、もう一つ…名付ける事のできない感覚が、レインを強くそ
        の棺に惹きつける。
         ネオンと手を取りあう時にも似た、五感を超えた感覚に訴えかけて
        いるような…。
         音が背後から響いた。
         棺に魅入られたようになっていたレインを、現実に引き戻すように、
        地下室の入り口の方から扉を開く音が響いた。
         続いて、カツン、カツン…、と階段を降りる足音)。
      • (レインはその棺桶を知っている。既におぼろげな記憶なっているが知っている
        だから同時に思うなぜこれここにあるのか……
        様々な想いと感覚に惹かれるまま棺桶に手を伸ばす。呼吸と鼓動が早くなる)
      • あ! ああ…? -- レイン
      • (誰かが近づいてくる。この状況誰が来ても誤魔化し様がない
        レインは黙ってこの部屋へと入った事実は隠し様がない
        どうすると考えるより先にとった行動は……
        棺桶の影に隠れるだった)。。
      • (けたたましい音を立てて、錆びついた鉄扉が開かれる。
         ランタンの灯りを消して、闇の中にレインが身を沈めたのも一瞬。
         目を刺す程の白い電球が点く度に、バンッバンッという耳を叩く音を
        響かせて、坑道のような地下室の中を、延々と照らした。
         棺の影に隠れたレインからは、地下室の住人たちが、白々しい灯り
        の下にさらされるのは見えない。
         代わりに、足音が近づいてくるのを聞く。
         足音は棺の前で止まり。ゆっくりと、棺の蓋を開く音がした)。
      • (棺桶の影で頭を抱える様にしながら屈み俯く
        足音が近づいてくる。カツカツと言う足音が大きくなる
        急に部屋が明るくなった。部屋を照らす灯の電源が入ったのだ
        照らす灯はレインの姿をはっきりと浮き上がらせる
        それでもレインは頭を抱えたまま屈み続けた)
      • ぇ…? -- レイン
      • (頭の上で音がした、棺の蓋が開く重苦しい音だ
        その音を聞きながらレインは急に寂しくそして悲しくなった
        まるでかくれんぼう遊びで見つけてもらえない子供の様に
        レインにわかっていた、ここでこうして屈んでも隠れようが無い事を
        そして気付いてしまった、父はレインの存在に気付きながらも無視していてるのだと)
      • ……… -- レイン
      • (だから立ち上がった。俯きながら静かに立ちあがった)。。
      • (棺の蓋が、衝立のように立っていたから、棺の中を見つめる父の死角
        になっていたのか。
         あるいは、父の視線はその棺の中しか見ていなかったのか。
         レインに一瞥もくれることなく、淡く光る棺の中を見つめていた。
         その横顔は、レインにも、きっと父を慕うネオンにも見せた事のな
        い程に優しく、愛しい者に向ける表情をしていて…)
      • 無事でよかった、テトラ。 -- トリガーレック
      • (とてもとても優しい声で、そう言った)。
      • お父…様…テトラ…? -- レイン
      • (レインが立ちあがっても父は無関心であった
        声も姿も父には届いていない、棺の中を見つめ棺の中に声をかける
        そして呼びかけた名で記憶が鮮明となり確信となる
        この棺が誰の物であるのかを……
        テトラ…それはレインの、レインとネオンの母の名
        一族の墓標の下にあるはずの棺……)。。
      • (棺の蓋が、音もなく静かに閉められて。
         踵を返した父の足音が、一つだけ地下室の中に響いた。
         そして、背を向けたまま、父は言った)
      • ここに入ってはいけないよ、今はまだ、その時では無いのだから。。 -- トリガーレック
      • あ…お父様…ごめんなさい……
        でも、その時とは一体…それに…… -- レイン
      • (レインが父を見つめている間に棺の蓋は閉じられてしまった
        今更、中を確認するために蓋を開く勇気をレインは持ち合わせていなかった
        なにより父が自分に声をかけたから
        全ての答えを求める様に、その背に手を伸ばし問い尋ねる)。。
      • (だが、レインの手は長身な父の背に届くことはなかった。
         長身で、狭い肩幅で。まるで泥臭い環境とはまったく無縁に培養さ
        れたように涼しげで気品のある目鼻を持つ父。
         妹のネオンがイケメンと称して憚らない、優しげな父の顔が)
      • ここに入ってはいけない。 -- トリガーレック
      • (振り返った父の顔は、凄まじく恐ろしげなものだった)
      • …よく覚えておきなさい。 -- トリガーレック
      • (その横顔は、あの夜に、レインが見た顔そのものであった。
         乳白色の水晶に照らされながら、母の肖像を見つめる顔であった。
         それは、この地下室に居並ぶモンスターの顔よりも怪物のようで。
         白々しい灯りは、一切の演出も情緒も排して、レインに地下室の全景を
        はっきりと見せた。
         今まで見てきた剥製のすべては、剥製ではなく。
         剥製のようにされながら、それでもなお、すべてが生きていたのだ)
      • 出て行け。 -- トリガーレック
      • (死にながら、生かされる獣の群れを背に。
         父は凍りつく湖のような色をした目でレインを睨み、言った)。




    • (ぼんやりとした影が、狭い蔵の中を撫でた。
       いつの間にか、ランタンのすぐ側に止まった蝶が、ゆるりと動かす
      羽の影である。
       影に撫でられながら、アミとロワナの二人は、息を潜め。
       息を潜めた胸の奥で、鼓動がその速度を増している。
       理由の分からない不安感が、正体不明という事実を持ってさらに鼓
      動を早めた。
       よく分からないモノなら、二人はいつも見ていた。
       朧気な姿の人が、交差点に消えていくのは毎日のことだし。
       夜の庭に、頭も尾も無い黒い獣が、人の声で呟きながら佇んでいる
      のもよく見かける。
       山よりも背が高い、竿の胴に頭だけの案山子のような影が、音も無
      く夕映えの中を歩いているのを、見上げたこともある。
       しかし、それらは、時々家にまで入ってくる厄介なムカデやネズミ。
      あるいは、近所の野良猫と、何ら変わらない物だと二人は思っていた。
       何が危険で、どう接すればいいのか。なんとなく察しはつくのだ。
       物心つく以前から、そんなものに慣れてきた二人だから、この時感
      じた不安感は、生まれて初めてだったかもしれない。
       その正体の図り知れないという事への不安。どう対処していいのか、
      想像つかないという恐怖。慣れ親しんだ遊び場の足元にあった秘密。
       そして、自分たちに自身の体に……決して口外してはならない、何か
      が今なお息づいているかもしれないという……)。
      • ……ん -- ロワナ
      • (呻きの様な息を吐き日記から顔を上げると、額からたらりと汗の滴が床へと落ちた
        額だけでなく服の中にも汗をかいている、なのに空気が妙に寒い
        もう一度小さく息を吐いて隣の顔、妹へと視線を向けると
        青褪めた顔が自分を見返した、幽霊の様に蒼白となった妹の顔
        わかる、きっと自分も同じ様な顔をしている)
      • アミ…もう…… -- ロワナ
      • (そこまで言葉を紡いだ時点でアミが頷いた
        この日記をこれ以上読んではいけない、いや違う
        これ以上読みたくない、「もう」読むのをやめようと言う姉の意思を察したのだ
        それは二人が同じ事を考え、同じ答えに至っている事の証)。。
      • (まだ、何の核心にも触れていない。
         山奥の舘は祖母レインの生家。幽霊のネオンは自分たちの大叔母で、
        50年も前に死んでいて、舘には、秘密の地下室があった。
         分かった事実は、ただそれだけだ。
         それだけなのに)
      • 何か……知らない方がいいことが書いてある気がするの……。 -- アミ
      • (アミは、胸に詰めていた息を吐き出すように、言った)。
      • (アミの言葉に今度はロワナが頷いた
        多くの不可思議を見て来た姉妹にだからこそわかる、感じる事がある
        この世界には好奇心だけで踏み込んではいけない領域がある
        そして知ってはいけない事がある
        それは姉妹だけではどうにもならない事、取り返しのつかなくなる事)
      • 私もそう思うの、知ったら帰れなくなる気がするの……
        …きっとおじいちゃんが悲しくなる -- ロワナ
      • うん……。 -- アミ
      • (頷きながら、古びた日記のページは静かに閉じられて……。
         けれども、日記が完全に完全に閉じられてしまう前に。指先一つ分
        だけページの間にひっかかった。
         好奇心とも恐怖違う、別の理由が、過去を完全に閉ざすことを躊躇
        わせた)
      • でも……。ネオンちゃんは、どうなっちゃうんだろう。。 -- アミ
      • …わかんないよ、ネオンちゃんの事はなんとかしてあげたいけど…… -- ロワナ
      • (ロワナにも僅かな躊躇いがあった。今の幸せを祖父を大事にしたい気持ちは強い
        しかしネオンの事を思えば過去から目をそむけ閉ざすことにも躊躇いはある
        ネオンが自分達の大叔母である事を知ってしまった今、それは二人を留めるに十分すぎる事で)
      • ……あ…? -- ロワナ
      • (黙したまま俯く姉妹の頬を風が撫でた。ふわりと優しい風が撫でた
        心の奥にぽっと温かな光が灯る、身を包み温めくれる温かな光)
      • アミ…これ…… -- ロワナ
      • (パラパラと音がした。振り向けばそては日記のページが捲れる音
        日記のページが捲れ先へと進む、時と物語が進む)。。
      • 読んで欲しいの?……じゃあ、やっぱり、おばあちゃんが? -- アミ
      • (二人が、再び古びた日記に向かい合うと。見届けたかのように、ラ
        ンタンの側の蝶は、風に乗って、窓から出て行った。
         外はまだ、夕暮れの色である)。



    • 『約束と言うのはとても大切な物。どんな約束であれ一度交わした約束を破るのは良く無い事。
      私達が幼い日、お母様は言っていた「約束を交わし合える相手は大切にしなさい」と
      だからあれは私が悪かったのだ。今思い返せばあの頃の私は浮かれていたのだろう
      妹があそこまで拗ねるのは当然の事だったのだから……』

      • だから、ごめんなさいって…… -- レイン
      • (何度声をかけてもネオンは振り向かない
        ネオンはベッドの上で膝を抱えたまま背中で返事をする
        飛んでくるのは怒りと拗ねの混じった声)。。
      • ……私の方が、先に約束してましたのにー。 -- ネオン
      • (子供部屋に、二つ並んだベッドの右側の上で、ネオンがつぶやく。
         あからさまに不機嫌である。メイドさんがきちんとベッドメイクし
        てくれたシーツも乱れておられる。
         原因は些細な事であった。
         8月も半ばに差し掛かった頃、流星群の夜が近づいていた。それを、
        レインとネオンは、連れ立って二人で見に行こうと大分前から約束し
        ていて。
         ちょっと前過ぎて、レインはコロッと忘れていたのだ。
         まぁそれだけなら、ネオンも取り立てて怒ったりはしないのだが)。
      • あ…ですから、三人で一緒にと言うのは駄目ですの?
        宗右衛門との約束を次にするのは難しいですし…… -- レイン
      • (流星群を見る事の出来る機会は少ない、特に今回の流星群は十年に一度の大規模な物
        だからどちらかの約束を先延ばしにする事は難しい。
        それゆえにどちらの約束をも破棄しない方法として提案するのだが
        返って来るのは拒否のオーラ、とりつくしまも無い)。。
      • むぅ〜〜……じゃあもういいです!私は一人で見に行きますので! -- ネオン
      • (ネオンは、急にベッドから飛び降りるとレインに背を向けたまま、
        早足にドアから出て行ってしまった)。
      • あ、ネ…ネオン? -- レイン
      • (バタンと大きな音ともに閉じられるドア
        後にはぽかんとした表情を浮かべたままのレインが残された)。。


      • あの時、どうして私は、あんなに不機嫌だったのかしら?
        (ネオンは、他人事のように呟いてみたが。
         思い出すまでもなく、考えるまでもなく、思考を要せずに。答えは
        はっきり憶えていた。
        むしろそれは、今まで必死に目を逸らし続けていた過去なのだから)
        姉様が、アイツに余所見をするものだから……。
        (屋根の棟の上、膝を抱えて座ったネオンは呟く。
         着物の袖に顔を埋めて、恥じているかのようなポーズを取る。そして
        傍らに浮かんでいた水晶を殴りつけて、見た目通りのその硬さに少し
        赤くなった指先を、夕焼けに突き上げてブラブラと振った。
         落ち着きの無さは筋金で入りである)
        ……はぁぁぁ〜……。
        (顔を上げたネオンが、深淵のようなため息をつく。
         とっくに呼吸することをやめた身体なのに、便利のよさも一級品だ。
         そして、とうに鼓動を止めた心臓が、未だに疼くのを、ネオンは感
        じた。
         傷口を爪で掻くのに似た、痛みと、身を痺れさせる甘さである。
         ジクジクと、いつまでも蟠って消えない思いに、のたうち回るのに
        疲れたから、目を背けて来たのに。
         死して、時を止めたこの身は、1日前と紀元前の区別もしてくれな
        いのだ。
         どれだけ時が経とうとも、生前の記憶が消えてくれない)
        思い出さなきゃよかったかしら。ああ……でも、忘れたことなんかも、
        一瞬だってなかったんだ。。




      • 『やはり私は浮かれていたのだろう
        この日の出来事に夢中になるあまり
        一人で行くと拗ねた妹の言葉を頭の隅へとおいやっていたのだから
        だがこの日の出来事は私にとって…素晴らしい、人生の中でも最高の一場面であったと思いだされる
        …それもいい訳なのだろう、振り返れば振り返るほどにとりつくろう自分が恥ずかしい
        思い返せば妹はこの時……(掠れて読めない)』

      • (キラリと星が流れた
        一個、二個、三個、数えるのが追いつかない数の星が流れて行く
        星が流れる度、少女が喜びと驚きの声をあげる
        あっち、こっちと少女が流れる星を指さし声をあげる

        少女の隣に座る少年は少女が星を指差す度その方向へと視線を向ける
        黙したまま少女の指差す星を目で追う

        少女が立ちあがった。朝顔色の浴衣をふわりと揺らし立ち上がった
        くるりくるり、少女が舞う、少年の周囲をくるりくるりと舞う
        少女の舞に合わせる様、流れる星の数が増えた

        少年の目が少女へとくぎ付けとなる
        流れてくる星の全てが少女へと集まる様に見えたから

        「あ」小さな声をあげ少女の身が揺らめいた
        流れる星に見惚れつまづいたのだ
        転がりそうになる少女の身を抱きとめる腕があった
        思わず閉じていた瞳を恐る恐る開けばそこには少年の顔
        少年は驚いた顔で少女の顔を覗きこみ、その身を支えている
        海に鍛えられたその腕はがっしりと逞しく少女の身を支えていた)
      • (民家の灯りも遠い、山の中である。月も無く、雲も無い。
         夜空に隙間なく、針で、穴を開けたような光が満ちる。その穴から、
        流れ星が音を響かせるように降るのを背にして、人影は、寄り添って居た。
         星以外の灯りの無い丘の上で、その輪郭だけは浮かび上がるように
        鮮明で。
         反対に、丘の下、木立の影に居たネオンの姿は、闇と同一であった。
         星は地上を照らしはしない。音も無く、光も無い道を、二人に背を
        向けたネオンが、駆けて行ったのを、夜の獣すらも気づけなかった)。



      • (夕暮れの色の中で、淡く白く輝く水晶が、水車のように回る。
         ネオンは、宙に浮かぶ乳白色の水晶を指先で弾きながら弄んでいる)
      • 私はどっちに嫉妬したんだろう。アイツか、姉様か……。 -- ネオン
      • (レインの気持ちを、自分から攫っていく宗右衛門か。
         自分の知らない外の世界へ、一人で踏み出すレインか)
      • ……両方かな。 -- ネオン
      • (だから、流星群の夜の後、あんな悪戯を思いついたのだ。
         それはある日の昼下がり、いつものようによく晴れて。中庭で回廊の
        柱が、黒と眩しい白の縞模様を廊下に投げかけていた)
      • ね、姉様、お願い♥。 -- ネオン
      • うーん…そう言われてもぉ -- ロワナ
      • (妹のお願いに困った表情を浮かべるレイン
        愛すべき妹の願い、普段ならば即座にとは言わないもある程度は受けて来た
        それが我儘に近い物であっても、しかし今回は勝手が違う)。。
      • 姉様だけ、いつも二人で出かけてるし、いいじゃないですかぁ。 -- ネオン
      • (ネオンはそう言うが、レインが宗右衛門に会いに屋敷の外へ行くと
        きは、いつもネオンも誘っていた。
         暑いとか、読みたい本があるとか、眠いとか、2階の窓の外から覗い
        てくる白いおじさんを睨み返すのに忙しいとか。
         そんな風に、あまり同行したがらないのはネオンの方である。
         だから三人で一緒に、と言うならレインも答えを渋ったりはしない
        のだが)
      • だから、私も姉様見たく彼と二人で会ってみたくなったの。。 -- ネオン
      • それはそうなんだけど…二人きりでと言うのは…… -- レイン
      • (今日に限って妙に食い下がる妹に何か引っかかる物を感じ素直に返答を返せない
        だからと完全に断る事も出来ない。
        流星群の夜での一件で約束を破ってしまったと言う後ろめたさがレインの心に残っているから
        返答に迷い唸りながら中庭をクマの様にうろうろとする
        その後ろにはネオンがピタリと親鳥を追う雛に様に付いてくる)。。
      • 姉様、この間私との約束すっかり忘れていたじゃないですか。
        わがまま聞いてくれたら、それは忘れてあげます。 -- ネオン
      • (レインの心を見透かしたように、背中越しにネオンが言う)。
      • うっ -- レイン
      • (約束と言う言葉に小さな声を上げレインの足がピタリと止まった
        急に止まるものだからネオンが背にぶつかりかけるが、鼻を軽く当てた程度で惨事には至らなかった
        ネオンの思惑通りにその言葉はレインにとって図星だった)
      • はぁ…… -- レイン
      • (大きく息を吐きレインの肩ががくりと落ち、降参ですと言った空気が背に漂う
        このやりとりネオンの完全勝利であった)。。


      • (レインはいつも着物で、ネオンは洋服だった。
         特に決まりがあるわけじゃない。
         ただ、自分たちでさえ、向かい合っていると鏡と勘違いする事がある。
        それぐらい似ているから、服くらいは変えていたくなるのも確かだ)
      • ……これでよしっ、と。 -- ネオン
      • (ネオンが、帯を締めて姿見の前に立つと、鏡の中にレインが居る。
         着物を着たネオンであった。
         その場でくるり、と回ってみると、振り袖が後を追うようになびく。どこ
        からどう見てもレインそのもので。いつも見ている姉の笑顔も真似てみると、
        自分でも見分けがつかない位そっくりだ。
         思わずニヤリっとしてしまって、鏡の中のレインがネオンの顔になった)
      • ふむす、これならアイツには絶対見分けつかないでしょう。 -- ネオン
      • (悪戯である。
         自分をそっちのけで、何やら最近、懇ろな宗右衛門とレインに対する子ど
        もじみた嫌がらせだ。
         レインに化けて、宗右衛門に、一泡吹かせてやろうというのである。
         だから、この着物も借りたわけではなく、元々レインとお揃いのネオンの
        着物だ)
      • とはいえ、何をしてやろうかしら? -- ネオン
      • (鏡に写した背中を振り返りながら、呟く)
      • まぁ、会えば何か思いつくでしょう。 -- ネオン
      • (ちょっと、レインになりすます準備が楽しすぎて、忘れていたが。
        面倒だから考えるのは後回しである。
         それよりも、と。
         ネオンは、姿見の前に立ってじっくりと自分の姿を見る。
         何度見ても、そっくりだ。本当に、自分ではなく姉のレインの姿を見
        ている気分になる。
         しかし、同時にこれは自分の姿だという認識もある。
         奇妙な感覚であった。
         レインと手を繫ぎ、感覚を共有する魔法を使う時にも似た、彼我の
        境界が曖昧になる感触。
         ふと、ネオンの脳裏に、ネオン自身の姿が浮かんだ。
         決して自分では見ることの出来ない、鏡写しではない、他人の目を通
        してみた自分の後ろ姿である。
         それは、きっとレインの視点でみたネオンの姿で。
         そして、星の降る丘の上で。同い年とは思えないほど、逞しく大人び
        た少年の腕に、自分の体重が支えられる感触が意識に割り込んで来ると
        ネオンは、慌てて頭を振る)
      • ……ぬぁー!って何考えてますの私は!やだ、何これ……感応能力がまた上
        がったのかしら……? -- ネオン
      • (頭を振りつつ、ネオンは、さっさと宗右衛門の元へ行くことにした。
         レインには見つからないように)



      • レインはどうしたんだ? -- 宗右衛門
      • (待ち合わせ場所に行ってみれば、ネオンが何か言うに前に宗右衛門がそう
        言ったので。ネオンの計画は出落ちになった)
      • なんで分かるの!? -- ネオン
      • 何でって……見りゃわかる。 -- 宗右衛門
      • 信じられない……。メイドでさえたまに間違えるのに、私達でも、鏡見てる
        って時々勘違いするのに……。 -- ネオン
      • あ、アクセサリーとか……。 -- ネオン
      • (思わずネオンは頭を抱える。抱えついでに、いつも自分がつけているアク
        セサリーの類をうっかり付けていないか確かめたが、それも無い)
      • レインは、何かあったのか? -- 宗右衛門
      • 別にー、どうもしないわよ。ちょっと用事が出来ただけー。 -- ネオン
      • そっか。 -- 宗右衛門
      • (目論見が外れて、ふくれっ面でそっぽ向くネオンさんである。
         少しは驚いてやった方が良かったかな、と宗右衛門が思ったかどうかは知
        らないが。少し気まずそうに、宗右衛門は頭を掻きながら)
      • それじゃあ、行くか。 -- 宗右衛門
      • (そう、短く言った)
      • 行くって、姉様と約束してたんでしょあんた。 -- ネオン
      • ああ、そんで、来れないからネオンが来たんだろ。 -- 宗右衛門
      • ふむ。 -- ネオン
      • (この少年は、レインが急用で来れなくなった代わりに、約束のために、自
        分をよこしたと思っているのだと、ネオンは納得して頷いた)
      • (言葉が少ないから、会話も頭使わされるわこいつは) -- ネオン
      • (そう思いながら。元々ただの悪戯、付き合う義理もないし帰ろうとして。
        ふと、気になって踵を返しかけた足を止める)
      • そういえば、なんで私が姉様じゃないってわかったの? -- ネオン
      • だから見れば分かるって。 -- 宗右衛門
      • わーかーんーなーいー!私がレイン姉様じゃないから分かったの!? -- ネオン
      • そんな事言われてもなぁ……。 -- 宗右衛門
      • (半分睨むようにして聞いてくるネオンに、宗右衛門は困ったような顔をして
        腕組みしながら)
      • 俺、お前たちを見間違えたこと無いだろ。最初っから。 -- 宗右衛門
      • ……あ。 -- ネオン
      • (そうだった。
         初めてネオンと宗右衛門が出会った時、側にレインが居なくても。
        彼は、ネオンの事を服装の違うレインだとは思わなかった。
         ただ、それだけの事なのに。妙に、胸の奥がざわついた。
         ネオンは、レインの事が大好きなのだから。レインと見分けのつかないく
        らいそっくりな自分も好きだ。
         けれども、レインの事ばかりを見ていると思っていた宗右衛門が、自分の
        事をレインとは別にはっきり意識していたのだと知ると。
         まるで不意打ちのように、胸が高鳴る)
      • 行くか。 -- 宗右衛門
      • え、あ……。 -- ネオン
      • (もう一度、宗右衛門が短く言うと)
      • まぁ、付き合ってあげなくもないわ。 -- ネオン
      • (ネオンは、そう言った)。




    • ようは、私は誰かに見ていて欲しかったのよ。 -- ネオン
      • (また、夕暮れの空の下である。そして屋根の上だ。
         手のひらに乗せた乳白色の光を放つ水晶に、話しかけるようにネオ
        ンは独り言った)
      • いいえ……きっと、みんな私を愛しているのだと思ってた。
        姉様も、お父様も、メイドも……アイツも。 -- ネオン
      • (ネオンが自嘲すると、じくり、と胸の奥の傷が疼く気がして。見えない
        痛みに呼応するように、水晶も明滅する  細い金色の前髪が、目の前ですだれのように揺れた)
      • (その向こうには、まだ盛夏の山が、紅茶を透かしてみたような色
        で広がっている。
         何年も何十年も、窓辺から外を見ていたから。その景色は夏の終わ
        るのが早いこの村で、すでに晩夏にさしかかろうとしているのだと、
        ネオンには分かった。
         季節の変わり方だけはずっと変わらない。
         ちょうど、同じ頃だったのだ。ネオンとレイン、そして宗右衛門の
        3人の間にある空気が、少しづつ変わり始めたのは。
         ちょうど境目を見せずに、いつの間にか移ろっていく目の前の景色と
        同じように)。



      • 『私は皆を見ていたかった、皆が笑顔で過ごす日々を見ていたかった
        でもそれは叶わぬ願い、日々は変わっていく
        季節の変わり方は変わらずとも、そこで過ごす私達は変わっていく』
      • 『母が他界し父が変わった様に、宗右衛門との出会いでネオンも変わった
        ううん違う、ネオンを変えたのはきっと私
        私とネオンと宗右衛門の三人で過ごす日々が楽しくてずっと続けば良い思っていた
        ネオンも、お父様も、メイドも、宗右衛門も…皆が私を見ていると思っていたから
        そうだ、私は見ていたかったのではない、見ていてほしかったのだ
        だからネオンの変化に気付けなかった……』。。
      • 絞りはこのぐらいで…ああ、みなさん足を滑らせないように気をつけ
        てくださいね!
      • (三脚の後ろから、メイドが言うと。ひょいひょいと棟の上を歩いて
        いたネオンが)
      • 平気よ、平なところが廊下くらいあるもの。 -- ネオン
      • (そう言いながら、振り返る)。
      • ネオンぅぅぅ…… -- レイン
      • (そこにはふるふるとおっかなびっくりに足を震わせる姉の姿があった
        この姉、思い返せば何もない所で転ぶわ、夜の階段で足を滑らせるわ
        所謂ドジッ子であった
        今もまた前を進む妹にヘルプの視線を送っている)。。
      • 姉様怖がりすぎですわ。 -- ネオン
      • ネオンお嬢様が、どうしても屋根で撮るとおっしゃるから…。
      • ほら。 -- 宗右衛門
      • (震えるレインの手を取ったのは、宗右衛門だった。
         レインが震えたのも無理は無かった。
         4人は今、屋敷の屋根の上に居る。周りを囲う木々を見下ろす屋根の
        上からは、麓の村や其の先の海まで視界を遮るものが無い。
         一望千里の天上の眺めであり、または断崖絶壁とも言えた)。
      • だってぇぇぇ…高いし高いし…あ、宗右衛門ありがとう -- レイン
      • (瞳をぐにゃぐにゃの形にしながらネオンに抗議するレイン
        そんなレインの手を宗右衛門が取った。
        震えていたレインの足が落ち着きを取り戻した)。。
      • それなら、私も手を取ってもらおうかしら。 -- ネオン
      • (跳ねるように戻ってきたネオンが、スカートの裾を翻しながら。
         レインの反対側から宗右衛門の腕に抱きついた)
      • お、おう…。。 -- 宗右衛門
      • (少女二人に挟まれギクシャクと返事する宗右衛門
        そんな三人を見てメイドがクスリと微笑んだ
        知らぬ者から見れば実に微笑ましい光景であった)
      • もう、ネオンったら…ここぞとばかりに甘え過ぎです -- レイン
      • (宗右衛門を挟んだ反対から抗議の言葉を投げるレイン
        しかし笑みの混じった表情は決して怒りを含んだ物で無い事がわかる)。。
      • ふふんっ。 -- ネオン
      • (そして、ネオンは子供のような、無邪気で満面の笑みを浮かべて。
        短く切りそろえておかっぱにした髪がより一層幼く見えた)。
      • 良く似合っていますわその髪型、ふふっ -- レイン
      • (短く告げるとふわりと笑みを返す
        宗右衛門を挟み合わせ鏡の様に微笑む姉妹。長さの異なる髪が風にさらさらと揺れる)。。
      • (不意に、シャッターの切られる音がした。
         振り返れば、メイドが微笑みながら言う)
      • シャッターチャンスでしたので。
        それでは、もう一枚……。
      • ん、ちょっと待って! -- ネオン
      • (そう言ってネオンは、屋根の端まで行くと空を背に立った。
         夏の太陽が、去り際空と海の全てを自身の炎の色と同じにした。
        そんな色の空だった。
         あるいは海かもしれない。遠くに煌めく海が水面で、朱色に染まった
        海の中を逆さまになって、眺めているのだ。
         一足先に夜の訪れ始めた陸地は、陽光を受けて漂うモノの底である。
        黒の中に、一つ、二つ、一番星よりも早く光も灯り始める)
      • こっちの方がいいよ。 -- ネオン
      • (棟の突端に立つネオンを、メイドが慌てて止めようとするが、彼女
        はお構いなしだ。
         そして、レインがおっかなびっくり続いて、出窓の屋根の上に恐る
        恐る座ると、ネオンは手招きして宗右衛門を呼んだ。
         レインの隣に座った彼を挟むように、ネオンが滑り込む。
         風に、レインの長い髪が靡く。
         最後に三脚を抱えてやってきたメイドは、はためくスカートを抑えなが
        ら3人に向けて、シャッターを切った)。


      • (色褪せた写真が1枚、栞のように日記の間に挟まっていた。
         おじいちゃんとおばあちゃんの昔の姿、そしてネオン)
      • 3人共、すごく楽しそう。 -- アミ
      • (そう呟いたアミの声は、どこか寂しげで)。
      • うん、楽しそう…… -- ロワナ
      • (写真を見つめロワナもまた呟いた
        今を生きる姉妹にとって遠い過去の出来事
        しかし日記を読んだ今、それが近い日の出来事の様にも感じられて)
      • 楽しそう…なのに…なんでだろ…… -- ロワナ
      • (ロワナは俯き言葉を詰まらせる
        伏せられた顔を見えぬが肩は震えていて)。。
      • (アミは、黙ったままロワナの方へ頭を寄せて、肩を抱く)
      • ……きっと、このあと悲しい、怖い事があったから。
        でも、知らないといけないんだ、私達は。 -- アミ
      • でも、でも…でもさ…… -- ロワナ
      • (ロワナはアミに肩を抱かれながらますます肩を震わせえる
        この写真の先に何が起こるのか…… 姉妹にはもう想像がついてしまっている
        いや、ネオンと言う答えに会ってしまっている
        だからそれが余計にやるせなくて……)
      • (肩を寄せ合う姉妹を温もりが包んだ
        ふわりと柔らかで温かな温もり、いつかどこかで感じた事のある温もりが包んだ)。。


      • (ネオンは独り、夕暮れの中にしゃがみ込む。
         色こそ夕暮れであったが、空にも、地上にも煌めくものはなく、くす
        んだ朱色に沈んだ世界である。
         屋敷の屋根の、棟の突端に座ったネオンは、独り言にも飽きたのか、
        ただ座り込んだままだった。
         ただ、鼓動を止めた胸の内で、膿んだ傷のように疼く記憶だけが思
        い出される)
      • (あれは、夏祭りの少しだけ前の日で。
         少し気が早いが、祭りに着て行く服を選んでいた)
      • やっぱり着物がいいかしら。 -- ネオン
      • (ベッドの上一杯に、衣装部屋から持ちだした服を積んで、ネオンは、
        ウキウキと胸に当てて袖をひっぱったりしている)
      • ……… -- レイン
      • (浴衣を手にもったままぼんやりと窓の外を見つめるレイン
        元々ぼんやりとした所のあるレインだが、今日はまるで人形の様に動きが少ない)。。
      • (窓の外には、鉛色の雲が、低く重たく垂れ込める。
         黒い雲の切れ目からは白い雲と青空が見えて、まるで雨雲が空を塗
        りつぶしていくようだった)
      • おねーさま? -- ネオン
      • (不意に、窓に映るレインの顔が二つに増えて。レインの肩に顎を載
        せるようにして、ネオンが後ろから覗きこんでいた)。
      • ………………あ…? -- レイン
      • (ネオンが声かけてきっかり5秒ほど経過して反応を示す声が漏れる
        数度目をぱちくりとしてやっと窓に映る顔が二つに増えた事に気付く)
      • ネオンどうかしたの…? -- レイン
      • (窓に映る顔に笑みを向けた後
        自分に問われるべき質問を妹にしてしまう)。。
      • あれこれ質問をしているのに、上の空なんですもの。 -- ネオン
      • (服をベッドに投げると、飛び乗るようにしてネオンは、その横に座っ
        た)。
      • あー…ごめんなさいね? 色々と考え事をしていたものだから、つい…ね? -- レイン
      • (妹の指摘に自分がぼんやりしていた事に気付けば頬が朱に染まる
        どれほどの時間が経過していたのだろう……
        それほどに自分は考えごとに耽っていたのだ)。。
      • ふぅ……。 -- ネオン
      • (何か言うでもなく、ネオンはため息のような吐息を一つだけ。
         自分の話しがスルーされた事に対する不満の一つも漏らさない)
      • 姉様、何を考えて居たの?。 -- ネオン
      • え?何をって…色々と、色々とよ? -- レイン
      • (覗きこむ瞳に何か見透かされた様な物を感じ思わず言葉がどもる
        自分が考えていた事を妹に語るのは躊躇われた……
        今の楽しさに浮かれる妹の事を思えばなおさらに)。。
      • そう……。 -- ネオン
      • (ネオンは、レインから視線を外して、見るともなしに窓の外を見る。
         はしゃいでいたネオンが、静かにベッドの上の衣を意味もなく弄る
        だけになると、強く吹く風に揺れる窓の音だけが部屋にある)
      • あのね、姉様。 -- ネオン
      • (不意に、ネオンが言った。
         きっと、姉も、レインも同じ事で思い悩んでいるのだと、そう思っ
        たから)。
      • な、何かしら? -- レイン
      • (妹の呼びかけにはっと我に返る。僅かな沈黙の中また考えごとに嵌っていた
        思考の無限ループに嵌りかけている、ここ最近ずっとそうだ
        そして今、もしかしたら妹は気付いてしまったのだろうか、そんな事まで思う)。。
      • 私、宗右衛門の事が、好きなの。 -- ネオン
      • (着物の袖を頬に当てるようにして、ネオンはそう告白した)。
      • え…? -- レイン
      • (眼を数度ぱちくりとして、レインの動きがぴたりと止まる
        そして深呼吸をしてから妹の言葉を頭の中で復唱した
        「私、宗右衛門の事が、好きなの」…妹は確かにそう言った
        まったくの予想外の言葉……)
      • あー…うん
        私も宗右衛門の事が好きよ -- レイン
      • (だからレインもそう告げた
        なぜかわからないがそう言葉を返していた)。。
      • はい!それは知ってます!でも……やっぱり私も好きなんです! -- ネオン
      • (ネオンは、立ち上がると詰め寄るような勢いでレインの前に)。
      • わ? -- レイン
      • (ぐっと迫る妹に圧倒され、思わず背を逸らし気味に後ろに手をつく)
      • う、うん…だから私も宗右衛門の事が好きよ? -- レイン
      • (またぼんやりと言葉を返す。いきなりの事で思考の整理が追いついていない
        先程まで全く別の事を考えていたのも思考を混乱させる要因となっていた)。。
      • それは、最初に出会ったのは姉様ですし……。
        最近のいろいろな事が変わったのもみんな彼のせいです……。 -- ネオン
      • (不思議そうに見つめるレインの前で、ネオンは、胸を抑えたりしな
        がら、至って真剣な風である)。
      • 変わった? 彼の…宗右衛門の所為…? -- レイン
      • (また目を数度ぱちくりとする。そしてネオンの言葉について考える
        そう、ネオンの指摘する様に確かに変わった、宗右衛門との出会いで色々な物が変わった)
      • …変わった…色々な物が…私が…… -- レイン
      • (うわ言の様に呟きながら自分の胸を手で押さえる
        胸の奥にある物、そこにある想いが何か特別な物の様に感じられ
        宗右衛門との出会いそして過ごした日々が一気に流れて行く)。。
      • そして変わったのは、姉様だけじゃなくて……。 -- ネオン
      • (そこで言葉を止めて、ネオンは、さっとレインの両手を包むように
        握った。
         同じ、淡い緑色同士の瞳が、じっと見つめ合う。
         ネオンの瞳の奥にあるのは、決意にも似た熱さで)。
      • ……… -- レイン
      • (沈黙。この状態の姉妹に言葉はいらない、語らずとも伝わってしまう
        二人の共通とする物を接点として互いの意思が交差する
        接点となるのは一人の人、それは黒髪の青年、村に暮らす青年……)。。
      • (レインが見つめた潮風の中の背中と、ネオンの知る苔むした岩の上に
        立つ姿が、重なった。
         二人の心は同じだった。
         意思を共感させ、記憶を共有することができる二人だから、もうこ
        れ以上言葉は必要がなかった。
         しかし、ネオンはもう一度言った)
      • 姉様……私、宗右衛門の事が、好きなんです……。。 -- ネオン
      • ……… -- レイン
      • (レインは何も言えなかった
        心が重なる事で二人の想いとする所が同じと知ってしまったから
        なによりレインには気がかりとする事があるから
        ならばネオンに…と思うも、心のどこか譲れない気持ちもあり
        結果、自分がどうすれば良いのか考えると何も言えなくなってしまったのだ)

      • (この日の会話はそこで終わった
        黙ったままのレインに何も言えなくなったネオン
        ネオンの言葉に沈黙してしまったレイン
        互いにこれ以上どうすればよいのかわからなくなってしまったから……)。。



  • 『今になって思う、やはり私達はどこまで行っても姉妹なのだと
    あの人を挟み合わせ鏡となった姉妹……
    だから私はあの時、妹の告白を聞いてどこか嬉しさの様な物を感じていたのかもしれない
    しかし、あの時の私にはその事に気付く余裕は無かった
    もし気付けていたのなら、また違った未来があったのかもしれない……
    二人で…いや三人で立ち向かえていたのかもしれない……
    挑むべき相手がお父様であったとしても……』。。
  • おばあちゃんとネオンちゃんがまさか恋のライバルだったなんて……! -- アミ
  • (薄暗く蒸し暑い蔵の中で、そう言ったのはアミだ)。
  • びっくりなの!おじいちゃんモテモテなの! -- ロワナ
  • (ロワナもまた同じ感想だったのかアミに同意する様にコクコクと何度も頷く
    先程までの緊張感が嘘の様な反応であった!)。。
  • (日記を書いたレイン本人が側に居たら、苦笑の一つもしていたかも
    しれない)



    • (数日が過ぎて、夏祭りの日。
       時刻は5時を過ぎた頃だが、空はまだ赤く色づいて明るい。
       だが、少し前よりは、地表に残る熱気も少ない。すでに、蜻蛉が、
      伸び放題の青い草むらの上を飛んでいた。
       蜻蛉の群れが、さっと散るように飛び立つ。
       夕日に照る、乾いた土の道に、黒塗りの蒸気自動車が滑り込み。蒸
      気機関特有のシュウシュゥとなる排気を立てた)
      • 行ってらっしゃいませ、お嬢様。
      • (運転していたメイドが、降りて後部座席のドアを開く)
      • うん! -- ネオン
      • (降り立ったのは、ネオン一人だけ。
         ネオンを下ろすと、車は走り去っていった)
      • ふむ、少し早かったかしら……。 -- ネオン
      • (腕時計を見ながらネオンが呟き。まぁ、いいか、と鼻歌でも口ずさ
        みそうな上機嫌な顔で歩き出す。
         振り袖をはためかせて、下駄を小気味よく鳴らしていく)
      • (今日は、宗右衛門と二人きり……ふふんっ) -- ネオン
      • (ネオンは、そんな事を考えていた。
         数日前の告白以来、少し雰囲気の気まずかったレインが、当日の朝に
        なって突然『お祭りには二人で行ってきて』とそう言ったのだ)
      • (少し驚いたけれど、これって、姉様が私が宗右衛門と恋人にな
        るのを了承してくれたって事よね) -- ネオン
      • (レイン姉様は、いつだって私の幸せを応援してくれる。お願
        いを聞いて、叶えてくれる。
         そう、思うとネオンの足取りは一層軽くなった)
      • (服だって、浴衣じゃなくてばっちり着物で決めたし、姉様の好意
        はばっちり受け止めますわ!
         ふふっこの服、宗右衛門も気に入ってくれるかしら) -- ネオン
      • (赤い帯の黒い着物だ。
         刺繍された柄は黒いイモリがモチーフで、晴れ着というよりハロウ
        ィンの仮装っぽいが。黒一色に見えて、微妙な濃淡で複雑な幾何模様が
        隠し絵のように施されたデザインは、ネオンのお気に入りであった。
         様々な鉱物の結晶のような模様の中を、あちらこちらと這う黒いイ
        モリの柄も、手足や腹のぷっくりしたところが、可愛らしいと思う。
         だから、きっと。宗右衛門もこの格好を可愛いと言ってくれるはず。
         誰もが、皆、自分の事を愛してくれている。
         ネオンは、そう思っていた)



      • …ネオンがんばってね…… -- レイン
      • (子供部屋の窓の側、カーテンに身を隠す様にし木々の向こうへと走り去る自動車を見送る
        ベッドには着る事の無いであろう浴衣が畳まれたまま置いてある)
      • これでいいのよね…… -- レイン
      • (あの日、ネオンの想いを知る事で自分の想いに気付く事が出来た
        しかしそれは同時に苦しみを背負う事にもなった)
      • (わかってしまったから、お父様が何をしようとしているのかを
        あの夜、母の肖像画を見つめていた父の顔の意味を
        地下室にあった棺桶の意味を
        そしてこの家の血に流れる物に、私達姉妹の力の意味に……)
      • (だからレインは決めた。消えるのは私一人で良いと
        妹になら…ネオンになら宗右衛門を任せる事が出来る
        妹であるネオンにしか任せる事ができない
        想いを同じくする自分の半身……)
      • (レインが、子供部屋の戸を開くと屋敷の中は、静まり返っていた。
         ネオンも、メイドも近くには居ない。
         見慣れた筈の廊下は、自分の心臓の音が反響しそうな程静かで。音が
        死に絶えたようだ。
         窓から滴り落ちるのは赤い夕陽の明かり。廊下に落ちた木立の影は、
        絵に描いたように動かない。
         少し早めに、ネオンに家を出させたのは正解だったかもしれない。
         側に居れば、きっとネオンも、この気配に気づいただろうから)。
      • はぁ、ふぅ…… -- レイン
      • (小さく息を吐き呼吸を整える
        しかし落ち着こうとするほどに心臓は早鐘の様に鼓動を叩き
        額には気持ちの悪い汗が浮かび髪がが貼りつく
        初めて感じる気持ち…これはきっと恐怖と言う気持ち)
      • ダメ…決めたのだから…… -- レイン
      • (竦む足を無理に押し出しながら廊下を進む
        まるで誰もいない世界に放りだされたかのような孤独感
        手を伸ばせ隣にいた妹は今はいない……)。。
      • (覚悟を決めても、重く強張るレインの足取りに焦れたのか。
         ソレは、向こうの方から迎えに来た。
         階下で、扉が開く音がする。響く足音は、ネオンやメイドの立てる
        軽やかなものではなく。重々しい。
         今、この館に居るレインの他の唯一の人間。真実を知ってしまった
        レインにとって、狂気の館の主であり、実の父の足音に他ならない)。
      • …お父様…? -- レイン
      • (その音に足が止まる。恐怖が臨界を越え石の様にこわばる
        恐怖が迫る、実の父によって……
        しかしここで立ち止まる訳にはいかない、ネオンには幸せになってほしいから
        着物の袂に手を触れる、そこには細く硬い感触……
        もしもの時は……)。。
      • (足音は、一歩一歩、ホールの階段を登って近づく。
         同時に、身体の奥から拒絶感を掴んで引き釣りだされるような、す
        さまじい臭いが漂い始める。
         廊下の角の壁に、細い指がすがりつき。ゆらり、と父が姿を表す。
         やつれ、乾いた肌は老人のように灰色に近かった。もとより色素の
        薄い栗色の毛は、白髪に近い。
         その下の、血走った目だけが、狂気じみた生気を炯々と光らせて
        いた)
      • ……レイン、か…? -- トリガーレック
      • (声だけは、いつも通りの父であった。
         それが逆に不気味である)。
      • は、は、はい…レ、レインですわ -- レイン
      • (緊張のまま無理に返事をしたものだから妙に上ずってしまう
        それで空気が和むならば良いが、父の反応はそんな事には無関心と言った様子
        いや父の目と顔だけを見れば、無関心と言う事にさえ興味が無い様に見える)
      • (そしてレインは思う、予感は的中していたと
        ここ一ヶ月ほど父の様子に変化が現れた
        以前よりも地下に籠る時間が増え、地下を出る時も疲労よりも興奮状態を持続させている事が多くなった
        だから気付いた、父の研究が完成しつつあると……
        そして父の呟きの断片を繋ぎ合わせて出た予測される期日が今日であると)。。
      • そうか……。 -- トリガーレック
      • (父は、細長い指で前髪を掻き上げるように顔を覆うと言った。
         やがて指は這うように胸ポケットから、銀縁の丸いメガネを取り出
        してかける。
         笑っていた。
         とても穏やかな顔で)。
      • きょ、今日はお加減がよろしいようで…なによりですわ -- レイン
      • (その笑みに何かゾワリとした物を感じる
        自分の父であるはずの人物…なのにその笑顔が怖い
        それでも極めて冷静を保ちつつ会話を続けるが
        演技の才等は持たぬ身、紡ぐ言葉は震えぎこちなさが滲みでてしまう)。。
      • (父のその笑顔は、確かに笑顔だった。いつも紳士然とした穏やかな
        表情を崩したことのない父なのだから、満面の笑みと言っても良い。
         だが、レインがそれを知る由はなかった。
         生れてから一度も、父に笑顔を向けられたことなど無いのだから。
         故にその笑顔は、今まで見たこともないものなのだから。
         あの夜に、母の肖像の前で、乳白色の水晶の明滅に浮かんだあの横
        顔と、同じに映る)。
      • (父の笑顔は仮面。その内にある物を隠すための仮面
        父だけでは無い、今の私も仮面を付けている……
        父が狂気を隠す様に、私も心のうちに狂気をもっている
        ううん…この家の者は皆狂気に捕らわれてしまっている……
        ならばせめて妹だけ…ネオンだけでもこの狂気から解放したい……
        でもまだ迷いがある…それは仄かな希望……
        そんな事を思いながら、立ちはだかる様に父をじっと見つめる)。。
      • そうだな、お前はネオンと違って賢しい娘であった。 -- トリガーレック
      • (壁に肩から寄りかかりながら、父が言う)
      • だから、一族の秘密を、地下室に潜むモノも、もう勘付いては居るのだ
        ろう。 -- トリガーレック
      • (ぽたっぽたっ、と壁に押し着けられた右腕から、黒い液体が、赤い絨毯
        の上に落ちていく)。
      • ……… -- レイン
      • (ぽたりぽたりと父の腕から何かが零れる
        それが血なのかそうでないのか……
        聞く事に恐怖感じ無言のまま父の言葉を聞く
        そして父がなぜ自分…レインにその事を語り聞かせたのかを考える
        父の研究に必要とされているのはネオンで無く自分?
        もしそうならばそれは安堵へと変わるだろう
        父に必要とされる喜びではない、ネオンが助かると言う安堵
        いや、僅かに喜びはあるかもしれない……
        無関心を装う父が自分を必要としてくれる喜び……
        そんな事を思うと心の中で自嘲の笑みが浮かぶ)
      • ……はい -- レイン
      • (レインはこくりと頷いた
        父の真意がどこにあるか分からずとも
        自分が犠牲となる事でこの件は解決する事がわかったのだから)。。
      • あれはな……あれは、本来お前たちが受け継ぐべきものだった。
        覚えている筈もないだろうが、私の父は……お前たちの祖父はな。
        お前たちが、生まれた日に、歓喜の余りに死んだのだよ。 -- トリガーレック
      • 元々、躯と見分けも付かない病人だったけれどね。
        ゆりかごに、骨と皮ばかりの黒ずんだ手をかけて、末期の老犬のように
        咽び泣きながら逝ったんだ。 -- トリガーレック
      • 齢300を越える魔術師がだ、トリガーレックと言えば、氏族の名では
        なく父の名として通っていた。
        その稀代の魔術師が、死ぬ間際、お前たちの誕生を何より寿いだのだ。。 -- トリガーレック
      • …え…? -- レイン
      • (数度瞬きをする
        祖父が孫の誕生を祝福するのは当然の事だ、しかし…その意味する所は狂気であった
        そう、レインとネオンは呪われた狂気の祝福の中に誕生したのだ
        『ああ…そうか、私達が幸せになろうなんて遠い夢……』
        それでも、ならばこそ自分が全てを背負う事でネオンを解放したい
        もしかしたら、今回はその最後の機会なのでは……
        そう思うと喉が異常に乾く)。。
      • (ぽたり、ぽたり、と。
        父の指先からしたたる黒い液体は、絨毯に染み込まずに、水銀の雫の
        ごとく床の上を漂った)
      • ……だが、私には、そんな事はどうでもよかった。
        一族の悲願も、それをお前たちが成せるだろうという事も……。 -- トリガーレック
      • (そう言うと、ゆっくりと右手を上げて……)。
      • あ、あの…お父様…もしかしてお怪我を…… -- レイン
      • (持ちあがる右手の動きがコマ送りの様に見える
        現実感が薄れる中、聞く事を躊躇っていた事を言葉にする)。。
      • (父は、小さく首を横に振ると、窓ガラスを叩き割った。
         大音響と共に、天井まであった大きな窓は粉々に吹きとぶ。
         男にしては細く繊細な腕は、黒い液体がまとわりつき無毛の熊を
        思わせる盛り上がった筋肉に覆われた獣の腕を成していた。)
      • あまりアレを待たせておく事もできないんだ。不安定でね。 -- トリガーレック
      • (床にこぼれた黒い液体が、逆向きの雨のごとくに立ち上りながら。
         不定形に泡立つ単細胞生物の群れの様相で不気味に踊る)。
      • ひゃ…!? -- レイン
      • (屋敷を揺るがす破砕音に悲鳴が出る。人ならざる力の片鱗
        足からガクリと力が抜け、尻餅をつく様にその場へとへたり込む)
      • 不安定…? アレ…… -- レイン
      • (獣に変容する父の腕、そして蠢く黒い液体
        父の背後に何かが沸き上がるのを感じる
        屋敷に満ちつつあるなにか、父がアレと呼ぶ存在
        祖父が求めた物、この家の血に流れる狂気の発端たる存在)
      • あははっ…… -- レイン
      • (笑っていた。レインにはわかる自分も父と同じ様に狂気にとらわれ始めている
        ならば自分の心があるうちに全てを終わらせなくては……
        そう考えるとゆるりと立ち上がりながら袂に手をしのばせ……)。。
      • (その時、父の胸の前でちいさく光る物があった。
         ロケットペンダントである。
         中身は、見なくとも分かった。同じ物をレインもネオンも持ってい
        るのだから)。
      • あは……あ…? -- レイン
      • (狂った笑いのまま歩を進めるレインの足を止める物があった
        ごくごくありふれたロケットペンダント、それは家族の証
        あの中には家族しか知らぬ思い出が入っている
        笑い顔が固まり、瞳から涙が溢れる……
        なぜ涙が溢れたのかわからない
        思い出? 父が身に付けていたから? わからない……
        その困惑はレインの決意を鈍らせるには十分であった)。。
      • (そうして、父は、レインへと手を……伸ばさなかった。
         その涙を一瞥することすらもなかった。
         ただ、窓の外を見ながら言ったのだ。ぞっとするような冷たい声で)--
      • なんだ、ネオンは居ないのか……。。 -- トリガーレック
      • ……え…? ネオン…? -- レイン
      • (困惑が混乱へと変わる。ここでなぜ妹の…ネオンの名が出るのか
        混乱する思考の中、雷鳴のごとく閃く物があった)
      • お父様…もしかしてもしかして…ネオンを……ですの? -- レイン
      • (人は時に混乱の中から聡明な閃きを拾いだす
        レインは理解した、父が捜し求め必要としているのは自分では無く妹…ネオン
        それはつまり、父がネオンから幸せを奪おうとしているに他ならない
        今ネオンは宗右衛門と楽しい一時を過ごしているはず
        その一時を奪おうとしている)。。
      • (父は何も言わなかった。
         いつの間にか、廊下のあちこちから染みだした黒い粘体に、二人は
        周りを囲まれている。
         まるで触手を伸ばすように、黒い粘体の突端がレインの手に触れた)。
      • …いやっ! -- レイン
      • (レインが叫ぶと同時に黒い粘体が中を舞四散した
        息を弾ませる少女の手には銀のナイフ
        この日に備え厨房からひそかに持ち出した物
        さらに一閃。迫る触手を斬り飛ばす)
      • (『私にもこんな事が出来てしまうのね……』
        まるで自分の事では無い様に感じる
        夢を見ているかの様にすべてが曖昧だ
        それでもすべき事はわかる)
      • お父様…お覚悟を! -- レイン
      • (さらに迫る粘体を切り払うと父の元へ一気に踏み込み
        銀の刃を突き立て様と握る手に力を込め……
        『ネオンさようなら……貴女だけでも……』
        これで全てが終わる
        この家の呪われた歴史が終わる、狂気の歴史が終わる
        罪を背負うのは私だけでいい、妹の中には優しいままの父の姿が残る
        代わりに自分は憎しみの対象となるがそれでいい……
        宗右衛門ならばネオンの心を癒し支えてくれるだろう
        そう思うと悲しいと同時に心穏やかでもあり……)。。
      • (あっさりと、ナイフは脇腹に突き立った。
         そして、当たり前のように赤い血が刃から滴った。
         映画や芝居の演出の方が、らしく見える位ただただ血があふれる。
        それは、黒く悪臭を放つ液体でも、怪物のような体液でもなかった)
      • (あの夜に、書斎で見た父の横顔は、とても人間のようには見えなか
        ったのに。
         調べる程に、一族の伝えてきた秘密は、一言でも漏らせばレインも
        ネオンも、人としての何もかもを失い兼ねない悍ましき物で。幾夜も
        レインから眠りを奪う程の狂気だったのに。
         とうに、狂気の只中に生きている筈の父は、赤い血を流す)
      • レイン? -- トリガーレック
      • (咎めるでも悲鳴でもなく、ただ父は、不思議そうにつぶやいた。
         まったく何故彼女がこんな事をするのか、理解どころか想像すらし
        ていなかったら、そんな反応もするのかもしれない)
      • ふふっ…くっはっはっは! -- トリガーレック
      • (そして、何故か笑った。
         笑ったら腹が痛いのか、背を丸め身体を捩りながら、くっくっと引き
        つった声をだす)。
      • お父…様…? あ…ああ………え…? -- レイン
      • (肉の感触、続いて液体…血が指と手と身を塗らす
        人を刺したのだ、それも肉親である父親を……
        なのに恐怖を感じない、だからと喜びを感じる訳でもない
        ただただ刺したと言う事実だけがそこにあった

        自分の名を呼ぶ父の声で現実に返り身が震える
        これで良かったのだと自分を言い聞かせるも震えは止まらない
        そんなレインの耳に笑い声が聞こえた
        怒りの声でも怨嗟の声でも無く、笑い声が)。。
      • (刺したナイフを握ったままのレインを、父の手が軽く押し返した。
         黒い粘体は、意思を持つように父の身体を足から覆い尽くし、頭ま
        で完全に飲み込むと、抜け落ちたナイフが床でからんっ、と鳴った。
         翼が生える。
         溶けた蝋の塊のようになった粘体の繭から、蛾とも鳥ともつかない
        翼が突き出し、レインの目の前で羽ばたいた。
         風圧で、廊下の窓ガラスが全てはじけ飛び、壁や天井にぶつかりな
        がら奇っ怪な飛翔体は、外へと飛び出す。
         その後を、蝗の群衆のような礫を伴う風が、レインを翻弄しながら
        外へと追っていった)。



    • (ドーン! 夏の夜空に大輪の花が咲き誇る
      赤に青に黄に緑、火の花が咲き誇り、そして散る
      ドーン、ドーンと今度は連続して打ち上がる、夏の夜空を彩る火の花
      私の両隣には愛すべき二人の姿、妹のネオンとそして宗右衛門の姿
      二人とも満面の最高の笑顔で夜空の花を見上げている。幸せな一時)
      • 「お姉さま」
      • 「レイン」
      • (二人が私の名を呼び笑みを向けた…そして、私の頭を拳でグリグリとする
        『何?』
        二人は笑みのまま私の頭をグリグリとする、その間も花火は打ち上がる
        グリグリ、ドーン、グリグリ、ドーン
        痛い痛い頭が痛い)
      • 「レイン」
      • (痛い痛い頭が痛い、だから名を呼ばないで……
        なのに名を呼ぶ声が頭に響く、遠く夜空の向こうから呼ぶ声が響く……)

      • レインお嬢様…!
      • …ぇ…あ…? …痛っ -- レイン
      • (意識が覚醒し現実へと返って来る
        ゆっくりと目を開けばそこには自分を覗きこむ顔
        良く知った顔。いつも私達の世話をしてくれるメイドの顔があった
        その顔に安心を覚え身を起こそうするが、頭に痛みを感じ身を屈めてしまう)
      • ああ、良かった。まだじっとしていてください、怪我が……
      • 大丈夫、私…気を失って…… -- レイン
      • (慌てて手を添えるメイドに支えられながら傷む頭を手で押さえるとヌルリとした感触
        血だ、頭のどこかに怪我をしてしまったのだろう)
      • はい、お嬢様の事が心配で様子を見に来たら…ああ?今手当をします
        それにしても一体何が? 屋敷内は奇妙な怪物がうろついているし
      • そう、ありがとう……怪物…? あ…お父様! ネオンが…痛い…… -- レイン
      • (メイドの言葉で全てを思い出す、なぜこんな状況になっているのかを
        気を失う前の父とのやりとりを
        人をやめ、もはや怪物と化してしまった父を…その父を刺してしまった事を……
        そして自分が今やらねばならない事を……)
      • 私…いかないと……痛っ…… -- レイン
      • お嬢様落ち着いてください、これを…冒険者の方々が使う傷薬です
      • 冒険者の使う…傷薬? ポーションと言うものかしら…?
        使えるのなら今は…まずいですわ…へぅ -- レイン
      • (包帯を巻かれながら、小瓶に収まる薬液の不可思議な色を見れば眉がよってしまう
        さらに「冒険者」と言う怪しげな単語
        それでもメイドの勧める物ならばと覚悟を決め薬液を一気に飲みほした
        したならば口の中に広がるは苦さと甘さと辛さ…その味のあまりの酷さに顔をしかめてしまう
        それでも治療薬の効果は抜群で、身体の痛みがスーッと楽になって行くのを感じた)
      • …ん、でも身体は楽に、これで行けますわ
        車を、詳しい事は走りながら話しますわ…… -- レイン
      • はい!お嬢様!
      • (傷薬の効果はあったが傷が完全に治った訳では無い
        やはり立ち上がればまだ身体の所々に痛みが
        それでも今は急を要し、メイドに身を支えられながらガレージへと)。。



      • (森の中を宗右衛門は、走っていた。
         山の稜線に僅かに赤い帯が残っているが、もはやほとんど夜である。
         ましてや、山道だ。
         暗い夜道は慣れたものな筈なのに。黒々とした巨大な何かの腹が、
        長々と横たわっているような、嫌な生々しさを感じてしまう。
         こんな夜だから、あんな物が出てきたのだろうか。
         それとも、まだ近くにさっきの化け物が居るからだろうか)
      • (だめだ、考えるな) -- 宗右衛門
      • (そう思ってはみても、勝手に頭の中であの姿が浮かんでしまう。
         頭の無い蛾であろうか。それとも蟲の繭に囚われた鳥だろうか。
         とにかく、思い出すだけで寒気がしたから、宗右衛門は走った。
         ネオンが攫われたからでもある。
         立ち止まって居たら朝まで震え続けていそうだったからでもある。
         だが決して、彼は臆病とは言えない。きっと大の大人でも、あの黒
        い怪物の姿を直視したら、村へ逃げ帰るので精一杯だったろう)
      • ッッ……!……明かり? -- 宗右衛門
      • (息を切らせて走る宗右衛門は、思わず息を飲んで地面を蹴った。
         飛び退く程に驚いたのは、突然現れた二つの明かりのせい。
         怪物が戻ってきたのかと、息を殺すと。明らかな人工物の立てる走
        行音に心底ホッとした。
         が、それもつかの間、思った以上に猛スピードで蒸気自動車が突っ
        込んでくる!)
      • うわっわ……!?ちょっ危なっ!? -- 宗右衛門
      • (恐ろしい相手を想定して、彼が思わず身を竦ませていた不運を、今は
        誰も責められない。本能であるし、黒い怪物が恐ろしすぎたのが悪い。
         竦み上がった彼を、跳ね飛ばす勢いで突っ込んできた車は、目の前で
        すさまじい勢いでドリフトブレーキをかけた!
         タイヤが宗右衛門のつま先3センチ位の所にあった)
      • 宗右衛門さま!
      • (ドア窓から身を乗り出して叫んだのはメイドだった。レインは居ない。
         そして多分助手席のドアを蹴って開けたのだろう、ドアが吹っ飛び
        兼ねない勢いで開くと)
      • お早く!
      • (メイドがそう叫び。宗右衛門は状況を察した。
         頷いて素早く車に滑りこむと、タイヤは砂利をかんで空転し。再び
        猛スピードで屋敷への道を走り始めた)。



      • (獣の呻きが聞こえる、咆哮なのかもしれない、声の様にも聞こえた
        何かがズルリズルリと粘着質の足音を立てながら通り過ぎて行く
        おぞましい気配に耐えながら少女は息を殺し身を強く抱きしめた
        そして、確認する様に手の中の短刀を強く握りしめる
        短く頼りない刃、それでも今は自分の身を護るための唯一の物)
      • (すべてが通りすぎ周囲が静かになったのを確認し扉を開き顔を覗かせる
        少女が潜んでいたのは普段は華を飾るための棚の中
        無理やりに身を押しこんでいたので身体のあちこちが痛い)
      • いけるかしら…? -- レイン
      • (手足を伸ばしながら慎重に周囲に視線を巡らせる
        住み慣れていたはずの屋敷の広さが今は疎ましい
        少女の…少女達の思い出の詰まった屋敷
        それが今や怪物達が蠢く魔性の棲みかと化していた)
      • いけますわね…… -- レイン
      • (小さく呟くと一気に駆け出す。目指すは父の居る地下室。
        メイドと別れてどれほどの時間が経ったろうか……
        屋敷の入り口からここまでかなりの時間が経過してしまった
        時間がかかればかかる程にネオンに何が起こるか想像も出来ない
        そしてネオンがあの父を見てどう思ったのか……
        それを考えると、少しでも早く父の…妹の元へと到達せねばならない)
      • (ようやくたどり着いた地下室の扉は、開かれていた。
         というより、内側から凄まじい力で打ち破られたように、鉄製の扉は、
        ひしゃげている。
         生きたまま剥製にされた地下の獣達を、閉じ込める檻が失われている)。
      • ……これは…いったいなんですの…? -- レイン
      • (松明の灯に照らし出されたのは破壊の痕跡
        父の書斎へと続く重き金属の扉、それが今はゴミ屑の様にねじ曲がっている
        レインはごくりと唾を飲み込むと右手の中にある短刀を確認する
        こんな武器で大丈夫か?心の中で誰かが語りかける
        左手にはテーブルの足で作った即席の松明、これも武器としては心もとない)
      • ううん、見つからなければ良いのですわ
        これは外へと飛び出した痕跡ならば戻って来る前に……。。 -- レイン
      • (ジュゥッ、とレインの足元で音がして、何か強い薬品の匂いがする。
         ギチギチギチ、と頭上で、鈴なりの何かが蠢めいて鳴る。
         ほとんど明かりの無い廊下の天井に、オオムカデが身を潜めていた。
         超巨大ムカデと通称されるサイズの、1mのムカデである。
        長さではない、幅が1mなのである。
         ドザリッ
         天井から飛び降りたオオムカデが、レインの目の前で鎌首を擡げて
        大顎を開く。
         とっさにレインが松明を振り回すも、まったく怯む気配もない。気
        色の悪い無数の足が闇に蠢き、赤い6つの目が炎に反射する。
         レインの胴を両断できそうな大顎が、黒い粘液を滴らせて迫った。
        その瞬間である)
      • ギィィィィィィイイイイッッ!!!
      • (咄嗟にオオムカデは、すさまじい鳴き声を発して、のけぞるように
        後ろを向いた。
         水っ気の多いスイカを踏みつぶすような音が響く。
         松明に照らされたのは、蛾とも鳥とも付かない、歪な翼であった。
         その足元で、鉤爪に、オオムカデの体が一節、一節と、赤い絨毯の
        ごとく踏みつけられる度、潰れ、黒い粘液が散る。
         体の半分を潰されるまでは、オオムカデも顎で噛み付いて抵抗して
        いたが、やがてビクビクと顎を震わせる頭部を潰されて死んだ。
         長い死体の絨毯を、堂々と渡って来たのは。間違いない、黒い粘体
        の化け物と化した父であった。
         梟のような胴から突き出した腕に、意識を失ったネオンを抱く)。
      • ……ネオン…? …あ、あれ…? -- レイン
      • (化け物が化け物を踏み砕き蹂躙して行く、悪夢の様な光景
        地獄と絵図と言う言葉はこの様な時に使うのだろう
        その中に光があった、掴むべき光…救うべき光
        手を伸ばし立ち上がろうとするが足が立たない動かない
        すっかり腰が抜けてしまっていた、そして下肢が生温かい
        あまりの恐怖の光景に失禁をしてしまったのだ)
      • うう…くっ……ネオン…ネオン…… -- レイン
      • (羞恥に耐えながら無理やりに足に力を込める
        力の入らぬ足腰がガクガクと震えるそれでも無理やりに力を込め立ち上がる
        そんな娘の姿に父は振り向く事無く奥へ奥へと進んで行く)
      • …うあ…お父様…! -- レイン
      • (叫んだ直後、足からまた力が抜けた
        自分はまだこの化け物を父と呼べるのだと自嘲の笑みが浮かぶ
        もう一度足に力を込めると手にした短刀を父へと投げ放った)。。
      • (刃が、暗い階段の底へ転げ落ち行く音が虚しく響き。
        暗がりの中へと怪物と化した父とネオンは消えていく。
         深い地の底へ続く穴のような暗がりへ落ちる刃が、最後の一段に響く
        前に。爪が岩を掻く音、獰猛な息遣いが無数に沸き起こる。
         離れても分かる程の凄まじい獣臭と、粘質な体液をまき散らす無数
        の音が迫る)
        (断末魔がこだました。
         腐臭を伴った血の臭い、遅れて鼻先から尻まで半身におろされた狼
        の体が、暗闇から飛び出しレインの足元に転がった)。
      • ひっ!? -- レイン
      • (それを見た瞬間またぺたりと座りこんだ
        奮い立たせた気力が削ぎ落とされる様な感覚)
      • …だ、大丈夫ですわよね?
        追わないと…でもその前に呼吸を…… -- レイン
      • (すぐ側に転がる狼の死骸。生ある物としての形を止めぬ狼にほっと息を吐く
        もしそれが動いたのならば自分に命は無いだろう事は容易に想像が出来る
        そんな考えると心に僅かなゆとりが出来た
        少しでも呼吸を整え、再びネオンを…父を追わねば……)
      • 新しい武器が必要ですわね、あ…角…牙…? 使えそうですわ…… -- レイン
      • (短刀を投げた事で今のレインは丸腰の状態であった
        幸い松明はまだ使えるがそれだけは足りない
        そんな事を思った時、狼の死骸の横に角…恐らくオオカムデの牙であろう物を見つけ……)。。
      • (牙を取り上げようと、レインが手を伸ばした瞬間。牙を、狼の足が
        踏んだ。
         形は犬そのもの、だが、足先は大人の握りこぶし程で、華奢な筈の
        前足ですら棍棒のように太い。
         剥製の狼達が、剥きだした牙から黒い粘体を滴らせつつ、階段の闇
        から続々と登ってくる)。
      • ひゃっ!? -- レイン
      • (小さな叫びと共に手を慌てて手を引っ込めた
        あまりにも勢い良く引っ込めたものだから半ば転がる様にのけぞってしまう
        それほどまでにレインは驚いた
        動かぬと思っていた物が動き、さらに新たな恐怖を呼び寄せてきたから)
      • あ…あ…… -- レイン
      • (剥製の狼達への恐怖に言葉にならない声が漏れる。息が苦しい
        恐怖から少しでも逃れようと強張る身を動かしずりずりと後ずさる
        レインが後ずさるほどに狼達は距離を詰めてくる
        ペキン 踏みつけられていた牙が軽い音を立て砕け散った)。。
      • (音を合図に、開かれた牙が一斉にレイン目掛けて迫った。
         松明の炎が風圧に消えかけ、着物の袖に黒い粘液を飛ばす牙が、ま
        さに肉を抉ろうとしたその瞬間だ)
      • 下がるんだ、早く! -- 宗右衛門
      • (飛びかかった狼が、横に吹っ飛ぶ。鋼鉄の罠が弾けるような音を立て
        牙は空振りした。
         松明に照らされ槍の柄が、反射する。
         レインの後ろから、狼を串刺しにしたのは宗右衛門だった。
         穂先は壁にめり込み、胴をメザシにされた狼が2匹、その場で牙を
        鳴らし足掻き吠える
         館に飾られていた甲冑鎧の槍を手に、宗右衛門が駆けつけたのだ)。
      • (もう駄目だと目を瞑った瞬間、声が響いた
        それは聞きたかった人の声、もう会えないと思っていた人の声
        だから身体が自然に動いていた、捨てかけた命を繋ぎたいと身体が動いた
        手を足を無理やりに使いその場から後退する
        這う様な不格好な動き、それでも命を繋ぐために)
      • そ…あ……ああ…… -- レイン
      • (目を開け見上げればそこには会いたい人の顔があった
        槍で獣を串刺しにした勇ましい姿は物語の勇士の様で
        海の風に鍛えられた笑みを向ける
        名を呼びたい、でも声が出無い。代わりに出るのは涙
        これがきっとうれし涙と言う物……)。。
      • 大丈夫か? -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は背中越しにレインに声をかける。
         顔に大粒の汗をうかべ、荒く肩で息をしながら)。
      • あ…はい…! -- レイン
      • (声を振り絞り返事を返す。そして首振り人形の様に何度も頷く
        しかし、声をかけた宗右衛門には疲労の色が見えて
        喜びの表情が心配の表情へと変わってしまう……)。。
      • よかった! -- 宗右衛門
      • (短く言った宗右衛門が、再び槍の柄に手をかけると。
        警戒した狼の群れは、二人を睨むようにして身構え唸った。
         宗右衛門は、槍を引き抜こうとするも、狼ごと深々と壁に食い込んで、
        なかなか抜けない。
         その上、串刺しにされたままの2匹が未だに吠え猛るのだ。
         黒い粘液を目と口から垂らしながら、ゴボゴボッ、と下水の底から
        吠え立てるような犬の声。
         気力も正気もがりがりと削られ、怖気に手の力も萎えそうになる)
      • ……くっぬぉぉおお! -- 宗右衛門
      • (だが、刺さった狼が、自らの腹を置き去りに再びレインを襲おうと
        する。ちぎれた半身から、腐肉のように糸を引きながら。
         それを見た、後続の狼たちも、飛びかかる姿勢を見せ。
         宗右衛門は、咄嗟に槍の石突を掴み。思い切り柄の真ん中を蹴った!)
      • (穂先が、壁からはじけ飛んで、廊下一杯に大きく弧を描く。
         串刺しのままの狼は、壁に叩きつけられ。跳びかかった者は撓る鉄
        の棒に強かに叩き落とされる)。
      • ひゃぁ…!? -- レイン
      • (頭を抱え身を竦める。その頭の上で嵐が起こった
        宗右衛門の起こした破砕の嵐、戦いに不慣れな少年が少女を守るために起こした嵐
        嵐に吹き飛ばされた獣達の絶叫が響く、飛び散り砕け散る音が響いた)。。
      • はぁはぁ……。うっ、まだ生きてる……。 -- 宗右衛門
      • (首だけで這う狼を、槍で廊下の隅に押しやる宗右衛門。
         折れ曲がった槍を放ると、レインに手を差し伸べる)
      • 立てるか?。 -- 宗右衛門
      • え…は、はい………駄目みたいです…… -- レイン
      • (差し出された手をとりコクリと頷く
        そして立ち上がろうとするが…足腰に力が入らずへたり込んでしまう
        だからレインは視線を向ける。宗右衛門だけでもと言う視線を)。。
      • (今この屋敷には、人気も明かりもない。
         宗右衛門が、庭に入った時、巨人の歩くような足音も聞いた。
         とてもまともな状態とは思えない。
         彼は、レインに背を向けてしゃがんだ)
      • とりあえず、ここから離れなきゃ。乗って。。 -- 宗右衛門
      • 離れる…? ダメ!ネオンを助けないと…… -- レイン
      • (背を見ればおぶされと言う意図だと言う事は直ぐにわかった
        今の自分は歩く事もままならない、ならば宗右衛門に頼ってしまう他無い
        だが、よじ登る様にしながら宗右衛門の背に上がった直後
        レインは宗右衛門の言葉に拒否の言葉を発した
        妹を…ネオンを放って逃げる訳にはいかないと……)。。
      • ネオンもここに居るのか!? -- 宗右衛門
      • (いつも、年の割に落ち着いた風であった宗右衛門が、さすがに驚い
        たように言うと。
         レインは、宗右衛門の背で頷いた。
         その視線が示す先を、宗右衛門も見る。
         床に壁に天井に散乱し、黒い体液の中で未だに痙攣を続ける獣と蟲
        の肉片の先。
         彼らの体液で黒く塗った板を立てかけたような入り口があった。
         地下室へ続く階段である)


  • (■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■)
  • (自分が、夢の中に居て急激に覚醒しつつある事を悟ると。ネオンは、
    息苦しさを覚えて息を吸い込んだ)
  • かふっ……!げほっ!はっ……ひっ、ひゅっけほっ!! -- ネオン
  • (大きく咳き込むと、凄まじく苦しく、その上意識も朦朧とする。
     誰も底を見たことの無い奈落の上に居た筈なのに。
     キラキラと輝く銀糸の橋をネオンは渡って居たような気がする)
  • あ……れ……お、とうさま?あ…っ -- ネオン
  • (いや、つい先程まで、自分はどこまでも凍りついた大洋の下に居たはずだ。
     いや……。まだ地平線に赤色の残る夕暮れの中を、宗右衛門と歩いてい
    たのだ。
     赤い水平線。
     赤い夕暮れの雲。
     赤い。
     項垂れて見る自分の足元に、大量の赤がある)
  • おとう……ま……ぅっく……!?んぅッッ! -- ネオン
  • (血だ。今自分が吐き出したのも、口中にこみ上げてくるのも。
     口を抑えようとしたが、磔にされた手足は直立したまま動かせない)
  • げほっ……!ごほっ!はっひっぅ……ッ。 -- ネオン
  • (吐瀉物混じりの血が、足元に落ちる。
     ああ、着物が汚れた……。そんな事をぼんやりと思いながらネオンは咳き
    込む。だが、胸に力が入らず、口に残った血がこぼれた)
  • 喋らない方がいい、また肺に血が詰まる。 -- トリガーレック
  • (機械の群れに埋もれるように棺の傍らに立つ父が、言った。
     まだ、赤紫色の空の下に、海面からぬるぬるとした岩の突き出す海を漂
    っているような気がしていたが。父の姿にネオンの意識は、徐々にネオンへ、
    戻って来るのを眺める。
     そうして、周囲を見渡せば。そこは天井の高い洞窟の中であった。鍾乳洞の
    大聖堂と言える程の天然の威容である。
     果たしてどれほどの歳月がこの空間を作ったのか、数百、数千……いや、億
    の年月ですらまだ及ばない。
     壁には列柱が並び、洞窟を補強しているようにも見え。
     電灯も松明の一つも無いのに、辺りは何故か夕暮れ程度に明るく。
     大聖堂のように高い天井を持つ洞窟の中央に、島のような円形の石畳の舞台
    があって、ネオンと父はその真中に居る)
  • おとうさま……。 -- ネオン
  • (何がどうなっているのか聞きたかったが。息をするにも力なく、父を呼ん
    で、か細く鳴くのが精一杯だった。
     父は、振り返らない)
  • お父様……。 -- ネオン
  • (相変わらず、父はマイペースに作業を続けていて)
  • お父様……! -- ネオン
  • (声は掠れたように力が入らず。胸の奥にじくりっと命に関わるよ
    うな鈍痛を覚えた。だが縛られた身体は動かない。
     そして、冷や汗が頬を伝うのに、さっきから、心臓は一つも鼓動を
    していない。
     不安になって、ネオンはもう一度周囲を見た。特に、壁に沿ってぐるりと
    島を堀のように取り囲む暗がりを。
     島の周りは、明かりが届いていないと思っていた。
     違った。
     堀のようなその中に、タールよりも黒く、不定形に泡立つ何かが満ちて居
    たのだ。
     巨大なムカデの顎。
     腕のようなヒレを持つ怪魚の腹。
     何mあるか想像も付かない巨大な獣の牙。
     とうに滅びた節足動物の蠢く脚。
     恐ろしい爪を持つ人のような腕。
     一つ目の巨大な頭。
     あらゆる生物が、煮えたつタールの中で煮られもがくような悍ましい光景。
     そして、父の傍らに置かれた、古代エジプト様式を思わせる獣頭の人物を
    象った壷に目が止まると。ネオンの不安は一層掻き立てられた。
     思い出さなくても良いことを頭が勝手に思い出す。
     カノポスの壷。
     たしかそんな名前で、ミイラを作る時、死体から腐りやすい臓器を抜き出
    して収めておく壷だったはずだ。
     ああ、でも心臓は心が宿ると考えられていたから取り出さなかったんだっ
    け……。そんな事をぐるぐると考えて居ると、不意に父が)
  • さあ、始めようか。 -- トリガーレック
  • (獣頭の壷が、父の足元から湧きだした黒い粘体の中に飲まれていく。
     ネオンはゾッとして、必死になって声を絞り出す)
  • いや……外してくだ、さい……お父様、わたし、今日は宗右
    衛門と約束が……あっ。 -- ネオン
  • (着物の合わせを、父が無理やり開いた時、ネオンは言葉を失った。
     そこに大きな穴が空いていたりはしなかった。
     ただ、柔そうな白い乳房の下に、長々と切り傷があって。ネオンの胸の中か
    ら管が幾本も伸びていた。
     傷口に、鼓動のように明滅を繰り返す、乳白色の水晶体が押し当てられる)
  • はっ……!あっ……!! -- ネオン
  • (水晶が、何の抵抗もなく胸の奥に潜り込んだ瞬間、ネオンは、自身の可聴
    域すらも超えた悲鳴を上げた。
     叫びながら見た、いや強制的にまぶたをこじ開けて眼球を掴まれながら凝
    視させられたのだ。
     街が見えた、星空よりもまばゆく輝く摩天楼の巨大都市、一際巨大な塔は、
    雲を越えて遥か天空にまで伸びて、星の明かりを吸い込んで地へ流している
    かのように見えた。
     その都市の主は人類ではなく、直立する甲虫であった。
     逆廻しに都市は建築と逆の過程を、早廻しにさかのぼり荒野となる。
     一瞬の瞬きの間に、あらゆる武器と殺戮手段の飛び交ったのが見えたかと
    思うと、また都市があり、都市は一瞬で村へと変わり、深い森へと飲まれ
    ていく。
     少しだけ、時間の戻る早さがゆるくなり、ネオンの意識は、原始の深い森
    の中で、肉を奪い喰らう、あるいは岩の苔をこそいで貪り続ける獣の中にあ
    った。
     闇が全てを閉ざし、何もかも死に絶えたような冬がきて。閃光が弾ける。
     また時間の戻るのが遅くなった。
     毛のある獣は木の根や葉の陰に怯え、巨大な竜の時代であった。深い森を
    抜けた峻嶺の奥に、壮麗な石造の都市があり、蛇がその主である。
     その光景は、早足に過ぎ去りながらも、長く長く視界にとどまり続ける。
     だが、いつしか地上は、太古の森だけが存在する世界になっていった。
     再び、閃光があった。
     夜を昼の如く照らす凶星の輝きが幾夜幾昼にも渡り続く。
     やがて気がつけば辺りはすべて海である、動く物、動かず漂うもの。その
    全ての意識を共有すると、個々の境界がずっと曖昧で、彼我の区別が徐々に
    付きづらくなるのを感じる。
     時の流れはいよいよ遅くなり、ネオンの意識はまどろむように溶ける。
     気がつけば、もはや馴染みのある生物の形は皆無であった。
     全てが、泥の中の泡のように不確かで、矮小な雫となる。時間の流れはつ
    いに、停滞して。
     目にも見えない微生物が、相食むだけの。知性や感情とも縁遠い時代が、
    気の遠くなる程に長く続いたのだと知れた。

     その中心にあったのは、酸素すら存在しない原初の星の上で、踊り
    身をくねらせながら、その身体から沸き立つ黒い粘体を零す、巨大な何かの
    姿であった。
    吹き出す蒸気の中で、延々と、無限の昼と無限の夜の下でのたうつ巨体。
     石版を抱いて蠢き泡立つ泥。
     頭部の肥大した醜悪な爬虫類をも思わせるその姿を、目の当たりにした時。
    ネオンは、何故か相喰らい、喰らわれするだけの単細胞生物の群れから抜
    け出して。人の姿を取り戻した)
  • あ……? -- ネオン
  • (眠ったまま、夢の中で突然覚醒したような感覚に、ネオンは一瞬あっけに
    取られる。
     息ができた。胸の痛みも感じない。
     晴れ着の胸元に手を置いても、血に濡れていることはない。
     それから、ゆっくりと、
  • あー……。 -- ネオン
  • (ネオンは、奇妙な安らぎに似た感覚を感じて、白痴のような、赤ん坊のよ
    うな、意味の無い声で鳴き。
     タールの中で沸き立ち続ける巨体の麓に、傅くように両手を差し伸べた)

  • かはぅ……!あっ……かふっ……。 -- ネオン
  • (ネオンは激しく咳き込んだ。息苦しく、痛い、そして脳が溶けたように朦
    朧とする。
     一瞬にして戻っていた、あの地下の空洞に)
  • はははは!あっはははは!!やった!やったぞ!!! -- トリガーレック
  • (父の笑い声が、木霊する)
  • けふっ……うっ……くっぅひゅ……。 -- ネオン
  • (狂喜する父の背後で、縛り付けられたネオンは、力なく血の混じった嘔吐
    をこぼした。
     吐瀉物が喉に詰まるが、もはや咳をする力も無く、詰まった喉で、ぎりぎ
    りのか細い呼吸をしている)
  • テトラ……ああ!テトラ……さあ、取り戻したよ、約束通り君を死から救い
    上げに来たよ……。 -- トリガーレック
  • (父の言葉は、声というより、ただの音のように、頭の中で反響しては耳か
    ら外へこぼれていく。
     ネオンは、地べたに這って、うれしそうなその声を聞いた。
     這って?
     そこでやっと、ネオンは、自分の頬が痛いのに気づく。拘束がいつの間に
    か解かれていたのだ。
    拘束台から落ちた拍子に、胸の奥から引っこ抜かれた管は、血のついた
    まま垂れ下がる)
  • あー……? -- ネオン
  • (縛られていた筈なのに、地面に倒れている不思議を確かめようと。後ろを
    振り返ろうと思ったが、四肢に力は入らない。
     代わりに、何か大きな手に抱え上げられる感覚がある。
     ネオンの周りには、黒い粘体が木の根のようになって集まっていた。
     その根の脚ほども太いものから、小指ほどの細いものまで、全てが、ネオ
    ンの手足の代わりをしていたのだ。
     思い切って、根で腹と胸を締めあげてみた。
     吐いた。
     血と胃液を盛大に吐き出して、お気に入りの着物もびちゃびちゃになったが
    それで、どうにかネオンは呼吸を取り戻す)
  • ……ッく、お、とう……さま……。 -- ネオン
  • (父を呼ぶ、だが父は、開いた棺の中だけを見つめていた。
     その中から、干からびた死体の手を引っ張りだして頬ずりなどしている)
  • おとう……さまぁ……。 -- ネオン
  • (だが、そんな事はどうでもよく。
     死体のミイラのような手が、逆戻しのように生気を取り戻していくのも、
    ネオンにはなんの興味もない。
     ただ、ただ、腹立たしい……。
     黒い根の群れに縋り付き、やっと立ち上がりながら。今にも消えそうな声で
    必死に、父の元へ這っているというのに。
     たった数歩の距離が、何十kmも先に感じる程に苦しいのに)
  • やっと、目を開けてくれたね……。 -- トリガーレック
  • (父は涙ぐみながら、棺の中だけを見ていた。
     どうして、私を見てくれないのだろう。
     ネオンは、ついに殺意すら覚える)
  • ………。 -- ネオン
  • (そして、地面を這いずりながら、やっと父の身体にしがみついた。
     言葉が聞こえてないなら、その体を揺さぶるしかない。
     黒い根の補助を切り離すと、足は力無くその場に崩折れて、ネオンは、苦
    しい息をしながら、震えながら手を伸ばした。
     その手を、父は、一瞥することも無かった)
  • お父様? -- ネオン
  • (その言葉は呼びかけで、同時に確認であり、決別であった。
     この時に、振り向いてくれさえすれば。
     いいや、振り向かないはずがない。
     しかし、すがりつかれて名を呼ばれたのに、まったく気づきすらしない。
     だから、ネオンは悟ってしまったのだ。
     父は、最初から、私の事を見ていなかった)
  • (ネオンは涙をこぼした。
     ネオンの背に、巨大な獣が立ち上がるように広がる先端の尖った黒い根の群れ。
     影になって表情は、よく見えなかった。
     根が、背中から、父の胸を刺し貫く)
  • おッ……ごぅ……ッ! -- トリガーレック
  • (血を吐きながら、父は初めて、その時ネオンを見たのだ。
     足元にすがりつく、青ざめて濡れたような汗を流すネオンの顔。
     死人のように蒼白で、次の瞬間に事切れてもおかしくないような。そんな
    状態で、笑う娘の顔を。
     父の足元に、黒い粘体がざわつきながら集まった。
     粘体達は、再び命の危機に晒された主を守ろうとしているのだろうか)
  • ……あはっごめんなさい。今、治してあげますからぁ……。 -- ネオン
  • (広間の周囲を取りかこむ黒い粘体の支配権も、黒い根同様、ネオンのもの
    だった。
     だから、父が、粘体を胸を突かれた自身のために使うのなら、ネオンもき
    っと協力したのだ)
  • ……テト、ラ……ッ -- トリガーレック
  • (だが父は、その粘体を、棺に横たわる誰かをネオンから守る盾にしようと
    したのだから)
  • どうして……? -- ネオン
  • (ネオンが言った。
     棺は、黒い根に刺し貫かれて、中身ごと粉々になった。
     絶望の絶叫が父の口から出る前に、根は、無数に刺し体内で爆ぜるように
    根を張って。父を一瞬で絶命させる。
     その体は、根に引き裂かれて、棺と同様に砕かれた)
  • 私を見て……。 -- ネオン
  • (そう呟くネオンの背後で、破壊に巻き込まれた機械が発火し、広間を満た
    す黒い粘液に引火し、赤々と燃え始める)
  • (仰向けに転がる父の首の、閉じた瞼を見下ろすネオン。
     黒い根を背負うように生やしたそのシルエットを、強くなる炎の明かりが
    黒々と照らしだす。
     その時、広間に通じる鉄扉が蹴破られた)。
  • (少年の身が広間へと踊り込む。しかしその勢いはそこまで
    姉妹の父を説得あるいは対決すればすべて解決するであろうと言う
    少年のヒロイックな想像はすべて打ち砕かれてしまったからだ
    死と恐怖と狂気の支配する空間。混沌が蠢き呻く空間
    広間にあるすべてが少年の想像の域を越えていた
    呆然とする少年の背から何かが転がり落ちた
    ここまで背負ってきた少女、狂気の空間の支配者たる者の姉たる存在
    少年ははっとした。これを少女に見せてはいけないと
    だが遅かった、少女の表情が絶望に染まる)
  • ネオン…? お父様…? いや…いやぁぁぁぁぁ…… -- レイン
  • (少女は絶叫した。玉の様に転がる父であった者の頭部を見て
    何より愛すべき妹が救うはずであった妹が怪物に食われ燃え盛っている様に見えたから)
  • ネオンを助けないとネオンを助けないとネオンを助けないとネオンを助けないとネオンを助けないと…… -- レイン
  • (うわ言のように何度も名を呼び、這いずる様に腕の力だけでその狂気の世界へと向かって行く
    力の抜けた足が擦れ地面に血の道を描くが、その顔に痛みの表情は見えず
    ただただ妹を凝視続け……)。。
  • ……お姉さま……。 -- ネオン
  • (心の中身がこぼれ落ちてしまった表情で、ネオンは顔を上げた。
     ネオンの背から生える黒い根が、枝を伸ばすようにレインに近づい
    ていく)
  • レイン! -- 宗右衛門
  • (その時、呆然としていた宗右衛門が叫ぶ。
     燃え盛る広間に入った瞬間に、宗右衛門は魂の消えたような感覚を
    覚えた。実際消えていたのかもしれない。
     抜け出ていく命の尾を、掴めたのはただの幸運であった。
     握った拳は震え続け、恐怖の余り血の滴る程力を込めている。足の
    肉が焦がされるのにも気づけない程追い詰められていた。
     ただの人間である彼が、この部屋で正気を失わなかったのだけでも
    奇跡に近い。
     だのに、手足を振るい立たせ、走った。
     うわ言のようにネオンの名を繰り返すレインへすがり、その体を抱
    きとめる)。
  • いや、いやぁ…離して! ネオンを…ネオンを助けるのぉ! -- レイン
  • (レインには黒き根が妹の手に見えた、だからそれを掴もうとした
    だが掴む事は出来なかった、押し留める者があったから少年が縋りついたから
    炎の色に染まる髪を振り乱し少年を…宗右衛門を振り払おうとする
    その表情は半ば狂気に染まりかけていて
    ガリッ 宗右衛門の腕に痛みが走った、暴れるレインが爪を立てたのだ
    抉れた傷口から血が滲む、それでも少年の腕は少女の身を離す事無くて……)。。
  • ねえさま……そう、えもん……。 -- ネオン
  • (ネオンが、掠れた声で呼ぶ。
    その視界を燃え盛る柱が遮った)
  • くっ……!! -- 宗右衛門
  • (レインを抱きかばう宗右衛門の腕を、炎の塊がかすめた。
     いつの間にか、中央の島を囲う黒い粘体の群れは、炎から逃れるよう
    に壁を這い登り。燃え尽き、落下し始めて。
    足元では、巨人の腕だけが燃えながら、地面を指で掻きむしっている。
     宗右衛門は、思わず目を背けて顔を上げた。
     その瞬間、見てしまった。洞窟の中央に座するネオンの姿を。
     この部屋に入った瞬間、彼の魂を消し飛ばしかけたモノこそ、黒い
    根を宿し、血に濡れたその姿だったのだ)
  • ……あ……。 -- ネオン
  • (黒い根を、手を差し出すように伸ばすネオン。
     無表情だった瞳は、レインと宗右衛門の姿を写すとわずかに濡れる。
     そうして、掠れた喉から、必死に声を絞り出そうとした時。
     レインを抱きとめる宗右衛門が、自分から顔をそむけるのを見た)
  • ああ……ッ -- ネオン
  • (理由など、分かりようもなかった。
     それは拒絶である。
     ネオンの瞳は濡れながら、光を失い。炎に焦がされる鍾乳石の天井
    を見上げて、口を開く。
     慟哭である。
     叫びはなかった。
     涙の変わりに、黒い雫が溢れ。ネオンの体を、網の目に黒い根が
    覆っていく。
     黒い根は、宗右衛門達へと伸びるのを止め、辺りを構わず貫き、薙
    ぎ払い。
     壁が崩れ、岩と炎が降る。
     蹴散らされた黒い粘体達の死骸は、竜巻に巻かれたごとく撒き散ら
    され、炎はいよいよ全てを飲み込み始めた)。
  • ………!! -- レイン
  • (妹の身が炎に包まれる。炎の中で妹は異形の者達と舞い踊る
    黒き狂気の異形が舞い踊る
    その舞台にも幕が落とされた、落下し砕け散る鍾乳石の幕が
    炎に消える妹に少女は手を伸ばし絶叫した、喉が破けるほどの絶叫
    しかしその絶叫も業火と破壊の音にかき消される
    母を失い父を失いそして今妹を失った
    その衝撃は少女の残った意識を叩きつぶし闇へと沈める……
    少年の腕の中で少女は糸の切れた操り人形の様に力を失う
    伸ばした腕がだらりと落ちる
    もはや少女の耳には何も聞こえない、少女の目には何も映らない
    だから記憶はここで途切れた……)

  • 『…私が再びペンを握る事の出来たのはあの夜から数年してからであった
    数年の間に私に何があったかは別の機会に記すとして
    今は私が知り得た事実だけを記そうと思う』
  • 『私が意識を失った後の事は宗右衛門自身も良く覚えていないらしい
    気付けば私を背負ったままふらふらと歩いている所を村人達に発見されたらしい
    屋敷の火災は夜が明ける頃には収まるも、焼け跡から見つかったのはごくごく普通の火事の痕跡だけで
    儀式の跡も化け物達の痕跡も発見されず、あの地下室への通路も見つからなかったと聞いた
    ただ、屋敷の周辺からは骨が…獣や亜人、判別不可能な生き物の骨が大量に見つかったと聞く』
  • 『それでも村人達は宗右衛門の話に火事の恐怖で幻を見たのだろうと笑い
    その後の調査は行われず。屋敷へと続く山道も封鎖され、屋敷へ近づく事を禁止された
    村人達は関わりたくなかったのだろう、屋敷の奥に潜む狂気に……
    それでも私と宗右衛門は知っている
    あの夜が全て事実であると……
    そしてネオンはまだあそこで救いを求めていると……』
  • 『願わくば……』。。




    • (蔵の中から、明かりが漏れている。
       アミとロワナは、日記を覗きこむ。
       床に置いて重ねあわせた手は、今すぐにでも日記を閉じてしまいた
      くなる気持ちを抑えるため。
       二人の意識は、ずっとずっと昔に少女だったレインと同じ所にある。
       
       夕日が、古い舘を赤く濡らしている。
       屋根に居たネオンの姿はもうなかった。
       彼女は、草木の小山の前に浮かんでいる。
       知っている者が見なければ、そこが崩れた舘の一部だとは分から
      ないだろう。
       ネオンは、ここに居る。ずっとずっと昔の祭りの夜から)

少女と猟犬 Edit





    • (日記を閉じることも出来ず、アミとロワナは固まっていた。
       薄暗い蔵の中へ一筋光が差し込み、俯いた二人の顔に影を落とす。
       アブラセミが鳴くのが聞こえて、汗がジワリと首を伝う。
       戸の隙間風が、吊り下げたランタンを揺らしてキィキィと鳴らせた)
      • そう、だったんだ……。 -- アミ
      • (そう呟いたアミは、口に右手を当てている。顔は蒼白だ)。
      • う、うん…… -- ロワナ
      • (ロワナもまたアミと同じ様に顔面を蒼白にしている
        良く見れば小さく震えている。
        そう姉妹にとって日記に書かれた内容はそれほどに
        衝撃であり恐怖へと繋がる内容であった)。。
      • 全然知らなかった……。わかんなかったよ……。
        何度もあそこに行ってたのに。 -- アミ
      • (震えるようにアミは呟く)。
      • なんで? ただの空き家じゃなかったの…?
        だってだって…… -- ロワナ
      • (うわ言の様に呟くばかりでそれ以上言葉が続かない
        まるで天地がひっくり返ったかの様な感覚……
        昨日まで普通に遊んでいた場所が一枚板を剥がせば狂気の舞台だった)。。
      • (そして、二人はその事に気づくどころか、想像すらできずに。
         火に手をかざして居ても、熱くなれば火傷をする前に手を引けるの
        は当たり前の事だと思っていたのに。
         自分たちが、少し人に見えないモノが見えることを過信したつもり
        はなかったが。
         そこに、大地が冷たくも慈悲深く隠した秘密を、感じることすら出
        来ない事には、考え至らなかった。
         世界は、自分たちの見えない部分が、闇がそのほとんどであることを
        初めてつきつけられ、震えた)
      • ……これ……んっ? -- アミ
      • (そんな事を、ぐるぐると考えながら、アミが震えながら何か言おう
        とした時。
         蔵の隅の暗がりに、顔をむけた。
         汗に濡れた額に、前髪が落ちて張り付く)。
      • え……何か…いるの? いる…… -- ロワナ
      • (二人が顔を動かしたのはほぼ同時
        二人は同じ方向そして同じ一点を凝視する、暗闇の向こうに気配を感じたから
        じっと凝視したまま二人は動きを止めた、いや動けない
        今の二人は闇に対し大きな恐怖を持っていた、得体のしれぬ物への恐怖
        二人に力があるからこそ感じてしまった、それが持つ力に……)。。
      • えと……誰か…… -- アミ
      • (居るの?と言いかけたアミの目の前に、恐怖が突出された。
         しかし、祖母の日記の中にあったような、言い知れず底知れぬ恐怖
        ではなく。実に物理的で、分かりやすく、分かりやす過ぎるが故に、
        怯えるよりも先に。え、なんで?という反応をしてしまう)
      • へぇ? -- アミ
      • (実際そんな風な間の抜けた声を出すアミの目の前に、拳銃が突出されていた)
      • ……。 -- ハウンド
      • (大型の獣が、茂みから出てくるような動きで姿を表すと。
         少女は、拳銃を突きつけながら、口元で人差し指を立てた)。
      • ふぇ? ぴすとる? 本物? -- ロワナ
      • (疑問形が続いてしまうが仕方がない
        呆けていた所に突然の状況の変化。そして拳銃などテレビか漫画でしか見た事がない
        それが本物かどうかなんて小学生に判別出来ようもなく
        結果、疑問と非現実感の方が先に来てしまう)。。
      • 騒がなければ危害は加えない。 -- ハウンド
      • (ゆっくりと、手のひらを見せるように、銃を持った手を上げてから、
        静かに下ろす。
         脅しが効いたというより、アミとロワナはきょとんとしていたが。
        目つきの鋭い侵入者は、細かい事は気にしない人物のようである)
      • うん……。 -- アミ
      • (それよりも、その鋭い目だ。
         アミは何か気になって、その目を見る)。
      • う、うん…… -- ロワナ
      • (睨みつける少女の意図はわからないが、その少女の瞳に何か力の様な物を感じた。
        獣の様な瞳、鋭く獲物を睨みつける瞳、獲物を前にした獣性を秘めた瞳
        なのに何か怯えている様にも見えて……
        だからなのか姉妹はきょとんとしつつも少女の言葉に従った)。。
      • よし…。 -- ハウンド
      • (少女は、二人に座ったままで居るよう手で示すと。板の間をブーツで、
        足音を立てずに横切り。扉を背にして立つ。
         背中越しに外の様子を伺っているらしい。
         その腹に大きな赤い染みの広がっているのを、アミが見て)
      • あ、ケガ、してるの? -- アミ
      • ほんとなの! それ普通の怪我じゃないよね? -- ロワナ
      • (姉妹の瞳には赤い染みに重なる黒く淀む物が見えた
        ドロドロとヘドロに様に少女の傷にまとわりつくそれは
        一目で良い物ではないとわかる)
      • ねー大丈夫なの?痛く……。。 -- ロワナ
      • 弱っているように見えるか、余計なお世話だ。 -- ハウンド
      • (少女は、ベストのように着た防弾チョッキで、右の脇腹を隠すと。
         鋭く睨むように言う)
      • んー…、でもそれ放っといたらマズイ奴に見えるよ?…ぉ。 -- アミ
      • (今度は、何故か少女の頭に、金髪の寝癖が跳ねているのを見つけた
        のをアミが言おうとした時だ)
      • ロワナ、アミ。 -- 宗右衛門
      • (おじいちゃんの声がして、扉に背をつけた少女は、銃を構えた。
         獲物を狙う肉食獣のように散大した瞳。頬を、汗が落ちる)。
      • わっ、おじいちゃんだ? アミ! -- ロワナ
      • うん! -- アミ
      • (緊張状態の中で聞こえた祖父の声、悪戯等をしていた訳ではないが
        思わず姉妹は驚きびくぅっと大きく跳ねた、そして頷き合うと反射的に行動を起こしていた
        側にあった大きな籠を、野菜などを入れる背負いを籠を少女に被せようと……)。。
      • (不意を打たれればどんな達人も弱い。スポーツにおけるフェイント
        の技術であり、それを技の域にまで高めた格闘技も存在するという。
         少女が、虎神の力を宿し、野生の獣以上の反応速度を持っていても、
        その事実は覆し難かった)
      • ッ!? -- ハウンド
      • (扉の向こうに神経を集中していた少女が見たのは、自分に覆いかぶ
        さってくる籠である、大根やかぼちゃなどを満載し、おばちゃんが行
        商するサイズの奴で)
      • おい、中に居んのか……なぁにしてんだ、おめぇら。 -- 宗右衛門
      • (扉が開かれた時、アミとロワナは籠の上に折り重なるように乗っか
        って、ぬへへと笑っていた)。
      • んっとんっと…籠がこうころころーって…ねー? -- ロワナ
      • (額に汗マークを張りつけたままアミに同意を求めるロワナ
        とっさのいい訳としてどうかと思うが、こんな言葉しか思いつかなかったのだから仕方が無い)。。
      • (アミが激しく頷くと、宗右衛門おじいちゃんは)
      • ……あんま散らかすなよ。そろそろ昼飯だ。 -- 宗右衛門
      • (そう言うと、母屋の方へともどっていった)
      • ふぃー。危なかったのー。 -- アミ
      • (よいしょ、よいしょ、と二人が籠をどかすと。中で縮こまっていた
        少女は、相変わらず鋭い目つきのまま言う)
      • ……何故だ。 -- ハウンド
      • だって、あなた泥棒さんでしょー?。 -- アミ
      • だから見つかったら大変なの! -- ロワナ
      • (両手をパタパタとしながら語る姉妹だが、明らかにおかしな理屈だ
        泥棒ならば見つかり捕えられるのが当然の存在
        少女は泥棒ではないが、姉妹を攫おう考えている時点で同様の存在ではあるが
        ともかく姉妹は少女を人の目から隠し庇った)。。
      • ミア先生のところ泥棒入ったって聞いたの。
        ケガしてたなら、普通に頼めば先生診てくれるよ? -- アミ
      • ……ああ。 -- ハウンド
      • (少女は合点が行った。
         薬を探して学校らしき場所に忍び込んだ時、酒臭い女に見つかりそ
        うになり、気配を消して逃げたのだ。
         おそらく、その一件が村中に伝えられたのである。
         よほど普段何もなく暇な連中なのであろう)
      • ぅっく! -- ハウンド
      • (傷の事を思い出したら、脇腹が傷み、思わず呻いてしまった)。
      • うん、痛いなら先生に診てもらった方が…ひゃ?
        大丈夫? やっぱり痛いんだよね? アミお薬…あと水とかごはんとか…! -- ロワナ
      • (極めて当然の事の様に言う姉妹。少女が泥棒であるとか犯罪者であるとかどうでも良い事なのだろう
        そして少女が痛みの呻きを発すれば大いに慌て心配そうに顔を覗きこんでから
        蔵を飛び出そうと……)。。
      • 必要ない! -- ハウンド
      • (蔵から飛び出そうとした二人の前に少女が立ちふさがる)
      • でも……放っといたらそれ絶対まずいって!
        そだ、ミア先生がだめなら、きっとお腹のそういうのアトイちゃんなら
        なんとか……。 -- アミ
      • ( アミは竦んだ。
         少女が牙を剥き出して睨む。
         どんな鈍い人間でも、その全身に圧力を感じる程の殺意があった。
         鈍くは無いアミとロワナには、その殺意なり気配が凝って、少女の姿が
        一瞬、巨大な岩をも踏み潰しかねない大きな虎にも見えて)
      • ……ふぅ……いいか、私の狙いはお前たちだ。 -- ハウンド
      • (膨れ上がった殺意を飲み込むように、彼女は言った)。
      • ふぇ? おまえ…私達が狙いって? えっとえっと…それってどう言う…… -- ロワナ
      • (少女の狙いが自分達であると知り姉妹は混乱した
        姉妹は顔を見わせると目をぱちくりとした後
        様々な考えを巡らせる、自分達が狙われる理由等あるだろうかと
        そして思い至る、あったと。そう、今さっき知った事実があった)。。
      • (まだ開いたままの日記を、横目でちらりと見る。
         まさかこの泥棒少女(仮)の狙いは、おばあちゃんの日記に記された
        恐ろしい存在なのだろうか。
         そう考えると、そんな事はダメだという気持ちと、何かの間違いで
        あってほしいという気持ちがまざり。アミは、頭をぷるぷると振ると)
      • そんなの知らないし!とにかく、お薬とってこないと……。 -- アミ
      • (そう言って一歩前に踏み出したアミの足元に穴が開いた。
         銃声はしなかったが、音速を超えた弾丸が、足元で地面にぶつかった
        衝撃を足裏にビリビリと感じる。
         アミは思わず後ろに飛び退った)
      • んひぃっ!? -- アミ
      • おもちゃじゃないぞ。。 -- ハウンド
      • アミ! はぅぅ…じゃ、じゃあ…… -- ロワナ
      • (妹をかばう様にしながら考えを巡らせる
        この少女は本気だ、本気と書いてほんきと読むほどに
        なんとかせねば血が流れてしまう)
      • こ、これはどうかな? 私が残るからアミがお薬を取りに行くの -- ロワナ
      • (そしてこれがロワナが導き出した答え
        自分が人質として残ると言う意味である
        姉妹はこの傷ついた少女をなんとかしたい、ほっとけない
        アミの肩に手を置くと大丈夫と笑みを見せる)。。
      • ううん…………わかった。 -- アミ
      • (触れていると考えていることがなんとなく伝わる、ロワナも本気だ。
         アミは、少し迷ってから、頷く)
      • 薬、とってくるだけだから。誰にも言わないよ。
        包帯だって要るでしょ、おなかに巻いてるのすごく汚れてる。 -- アミ
      • ………。 -- ハウンド
      • (アミの言う通りであった。
         動いたせいで傷が開いたのか、カーキ色の軍装のようなズボンまで
        血で濡れていた)
      • 3分以内に戻ってこい……。 -- ハウンド
      • (少女はロワナの腕を掴むと、サイレンサー付きの拳銃で扉を指す)。
      • 大丈夫だよ -- ロワナ
      • (もう一度アミに微笑みかけた後、肩に置いていた手を背に
        ぽんっと軽く叩いてから妹を送りだした)。。
      • (そっと扉が閉められて、駆け足の足音が遠ざかっていく。
         ロワナと少女の二人だけが、狭い洞窟のような蔵に残された)。

      • ……ん -- ロワナ
      • (再び二人きりとなった蔵の中
        先までと違うのは側にいるのが妹でなく見知らぬ少女と言う事
        その少女はと言うと無言を保ち続けている
        完全に無言と言う訳で無い、時おり苦しげな吐息をこぼす
        傷の痛みが少女の我慢を越えつつあるのだろう)
      • えっと…… -- ロワナ
      • (少女の気を紛らすために何か話かけようとするが
        話しかけるべきネタが出てこない
        少女はどんな話が好きだろうか? 少女の好みは……
        そんな事を考えるうち、ふと閃く事があった)
      • あのさ、名前…名前聞いてもいいかな?
        あ、私はロワナだよ? 走って行ったのはアミ…後でまた自己紹介するとおもうけど……。。 -- ロワナ
      • (少女は、荒い息を吐く口を、真一文字に結び、目だけ動かしてロワナ
        を見る。
         一瞬首をすくめたロワナに)
      • ……ハウンド。 -- ハウンド
      • (猟犬である。
         人の名というより、アダ名のようであったが。たしかに彼女の目つ
        きは、人に甘える事を知らない犬のようである)。
      • あ…ハウンド、ハウンドちゃんだね♪ -- ロワナ
      • (一瞬焦りすぎたかと戸惑ったが、少女はすぐに名を語った
        それがアダ名でも偽名でもかまわない、少女が質問に答えてくれた、それが嬉しい
        だからロワナはにぱーっと満面の笑みを浮かべた)。。
      • ……。 -- ハウンド
      • (ハウンドは、無言のまま視線を扉の方へ戻す。
         あどけない少女の満面の笑みをスルーである)。
      • ふに…… -- ロワナ
      • (笑みには笑み
        そんな期待をしていたロワナの口から変な声が零れる
        そのまま首を右に傾げハウンドと名乗った少女の顔をじっと見つめ)
      • えっとえっと……そだ! どこから来たの? -- ロワナ
      • (ずいっとハウンドの顔に顔を寄せ問い尋ねる
        その顔はめげる事を知らぬかの様に笑顔
        人質にされている感皆無である)。。
      • どこでもいいだろう。 -- ハウンド
      • (そして寄られたハウンドは相変わらずの険しい顔のままだ)。
      • うー…じゃあ、ここから遠い所? お空は綺麗? -- ロワナ
      • (無碍されても質問を続ける
        ここで引いて諦めてしまうのは駄目と思ったから)。。
      • ……そうだな、大体そんなところだ。 -- ハウンド
      • (まったく、無視してしまっても良かったのだが。
         ハウンドは、何故か無視する気になれずに、頷いていた。
         ロワナに空の事を聞かれた時、故郷の空を思い出したせいかもしれ
        ない)。
      • そっかぁ…お空が綺麗な場所なんだねぇ……
        じゃあじゃあ…… -- ロワナ
      • (頷くハウンドを見れば満面の笑みを浮かべるロワナ
        ささやかな反応、それでも無愛想なこの少女から反応があった事が嬉しくて
        だからさらなる質問をしようと瞳をキラキラとさせる)
      • 話の多い奴だな……。 -- ハウンド
      • (ペースを狂わされてるのを感じてか、ハウンドは小さく頭を振って、
        横目でロワナを見る)。
      • う〜…だってハウンドちゃんに色々と聞きたいしー -- ロワナ
      • (ハウンドの横目に一瞬たじろぐもここで諦める様なロワナではなかった
        さらなる質問を繰り出そうと考えを巡らせそして……)
      • そだ! じゃあお仕事関係の質問!
        私達の事を知っていたのに、私達が蔵に来た時なんで出てこなかったの?
        ほら…その後も私達色々とがさごそとしていたのに…… -- ロワナ
      • (ここでまたずいっと顔を寄せるロワナ)。。
      • それは……。 -- ハウンド
      • (今度は気まずそうにハウンドが、目を逸らした)。
      • むぃ?…もしかして寝てたの? あ、髪の毛…跳ねてる…… -- ロワナ
      • (そう質問した所で先程アミが見つけた髪の跳ねをロワナも見つけた
        光が当たればキラリと煌めく金髪の中、ぴんっと自己主張する者
        寝ぐせをみつけた)。。
      • …………。 -- ハウンド
      • (その沈黙は肯定である。
         ロワナが寝癖を指さすと、ハウンドは頭を傾けるようにして避けた)
      • 遅いな、あいつはさっきから家の中で何をしている。
        誰かを呼んでいるわけではないようだが……。 -- ハウンド
      • (さり気なく寝癖を押さえるハウンドが、扉の方を向いて呟いた。
         どうやら薬を取りに行ったアミの事を言っているらしい)。
      • あ……ふぇアミの事? 家の中わかるの? -- ロワナ
      • (『ごまかした……』とロワナはクスリと笑みを浮かべる
        しかし続く言葉に首を傾げた
        その不思議な物言いはまるでここから家の様子がわかっている様にも聞こえ)。。
      • 聞こえているし、気配でわかる。
        だから、逃げようとしても無駄だ……戻ってきたか。 -- ハウンド
      • (ハウンドがそう言ってからしばらくして、パタパタとかける足音が
        ロワナにも聞こえて)
      • お待たせー! -- アミ
      • (アミが蔵の戸を開いた時、ふわりと焼けたパンの香りもした)。
      • ふぇー…そうなんだ、でも私は人質だし逃げないよ? それにアミだって……わっ?
        本当だ戻って来た! アミおかえりなの♪ いい匂い…これは鯖サンドなの -- ロワナ
      • (ハウンドの言葉に驚きつつもむぅっと頬を膨らませる
        しかしハウンドの言う事が本当だと知ればまた驚き
        そして戻って来たアミに思わず拍手してしまう)。。
      • おじーちゃんがお魚焼いてたからね、今日はロワナと外で食べるから
        って言って、お弁当作ってきました! -- アミ
      • (アミの右手にはサンドイッチの入った籠があり、左手には薬箱だ)
      • 扉を閉めろ。 -- ハウンド
      • えー、ここ暑くないー?……ああ、そっか見つかっちゃだめなんだ。 -- アミ
      • (アミが、後ろ向きに左足で扉を閉めると、ハウンドは、銃を置いて薬箱を開く)。
      • アミ、ないす判断なの♪ ハウンドちゃん…あ、この子ハウンドちゃんって言うんだって
        ハウンドちゃんもお腹すいているよね? -- ロワナ
      • (蔵の中に漂う鯖サンドの香りに鼻をヒクヒクさせつつ
        アミに少女の名を紹介した)
      • あ、手当するなら手伝うよ? ほら、自分だとやり辛いでしょ?
        それに…その黒いのなんとかしたほうがいいと思うの…… -- ロワナ
      • (しかし食事よりも先にハウンドが薬箱を開けば空腹を押さえ治療を手伝おうとする
        そして傷口にまとわりつく黒き淀みを指差した)。。
      • 問題ない。構うな。 -- ハウンド
      • (汚れた包帯を解いた傷口は、赤黒く腫れて、消毒液で拭ってもジク
        ジク、と血が滲む。普通に見ても酷い傷である。
         さらに、二人の目には、傷に集る黒い蟲や蛇のような何かが見える。
         黒いのが1匹、シャツをまくり上げた脇腹を登ろうとして。ハウンド
        は、煙でも扇ぐように払う。
         アミやロワナ程じゃないが、一応ハウンドの目にも見えているのだ)
      • 遠慮しなくていいって、あ、私アミね。
        前にもこーいう感じの見たことあるし。 -- アミ
      • 魔術を習ったのか。 -- ハウンド
      • んーん。。 -- アミ
      • んーん -- ロワナ
      • (姉妹はユニゾンするように首を左右に振る)
      • でも、なんとか出来ると思うの
        前にも犬さんに黒いのが絡まっているのなんとかした事あるし……こんな風にぽいって。。 -- ロワナ
      • (言ってロワナは何かを投げる様な仕草をした)。。
      • 犬……。 -- ハウンド
      • (表情にこそ出さなかったが、犬と一緒にするな、とハウンドが思っ
        たのはまず間違いない。
         ついでに言うなら、名こそ猟犬だが。彼女が持つのは虎の神の力で
        ある)
      • ……やめろ、この呪毒は腐っても神の力だ。下手に触ればどうな
        るかわからないんだ。 -- ハウンド
      • (そう言って、さっさと血止めだけ塗って包帯を巻こうとするハウン
        ドの前で、アミとロワナは顔を見合わせ)
      • ははーん、さては怖いんだね。大丈夫!そんなに痛くないよ?
        すぐ済むし……。 -- アミ
      • (アミが身を乗り出して右からハウンドの側ににじり寄る)。
      • うん、大丈夫なの私達に任せるの♪ -- ロワナ
      • (言ってロワナは左からにじり寄る
        結果ハウンドは姉妹に両サイドから挟まれる形となってしまう)
      • じゃあ…行くよーせーの! -- ロワナ
      • (ハウンドが「よせ!」と言うよりも先に姉妹の手が傷口に伸び
        そして黒い淀みを掴んだ。
        常人の目には見えず、実体を持たない曖昧な存在を掴んだのだ)
      • つかめた! -- ロワナ
      • (姉妹の声を聞きながらハウンドは不思議な物を感じていた
        本来、呪いの様な悪しき術に対処する場合、術者も被術者も大きな痛みや苦しみを伴う事が多い
        なのにそれらを全く感じない、むしろ心地良さすら感じ)。。
      • むっ!結構引きが強いのっいっせーの……! -- アミ
      • (せっ、でアミとロワナは同時に大きく背を仰け反らせる。
         ずるんっ、とハウンドの傷口から腕程に太く、綱よりも長いものが
        引きずり出された)
      • なっ……!? -- ハウンド
      • (両手を床につけたまま驚くハウンドから出てきたのは。ムカデと
        蛇の間の子ような気味の悪いモノである。
         それを、難なく脇にかかえて、二人が綱引きのようにぐいぐい引っ
        張ると、ずるずる、と後から後からでてくる)
      • うわー、思ったよりでっかいねこれ。ロワナ全部引っ張り出しちゃお。。 -- アミ
      • おっけーなの♪ あ、ハウンドちゃんもう少しまってね?
        全部引っ張りだしたら痛みも落ちつくと思うの…の…ふにぃー! -- ロワナ
      • (姉妹はさらに力を込め引っ張りだす、ずるずるとずるずると……
        これが呪いの形であるならばハウンドの力だけでどうにか出来る様な物で無かったのは想像に易い)
      • おっ? おおーっ…!? -- ロワナ
      • ちゅるん そんな音が聞こると同時に姉妹がひっくり返った
        呪いの末端を引きずりだした反動で転がったのだ
        引き摺り出された呪いが蔵の床を大蛇の様にのたうつ
        蠢く黒の中に渦の様な目や口が浮かんでは消える)。。
      • ふぃー、ほいっと、ほら外いってー外ー。 -- アミ
      • (のたうつ大蛇を、箒で扉から外に掃き出すアミ。
         すごく恨めしげな鳴き声をあげつつ、呪いは、落ち葉か紙くずのご
        とくお外へぽいっされ、夏の日差しの中で蒸発するように消えた)
      • ……どうなってるんだ、素手でつかんでなんともないのか。 -- ハウンド
      • (脇腹を抑えながら、ハウンドは驚いたように言った)
      • んー、そだね手洗った方がいいかな。 -- アミ
      • (扉を開けて外へ出ようとするアミに、ハウンドは立ち上がりかけるが
         痛みのせいでまた膝をついた。
         そんな彼女に振り返りながら二人は)
      • 大丈夫、外の水道で手洗ってくるだけだけだから。。 -- アミ
      • うん、お外の水道だからすぐそこなの♪ -- ロワナ
      • (と片手で外を指差して、ハウンドにお願いの視線
        姉妹仲良く並んでハウンドをじっと見詰める)。。
      • ……。
      • (ハウンドは、黙って腰を下ろした)
      • ありがとなの♪ -- ロワナ
      • (姉妹はその動作を肯定の返事と受け取った
        そしてそれはハウンドが姉妹を信用してくれた事の証
        それが嬉しくて思わず大きな笑みが零れる
        ハウンドの前に大輪の如くの笑みが二つ)。。





    • (いただきまーす!とアミとロワナの声がシンクロして。出来たての
      ホット鯖サンドに齧り付いた。
       レモンとオリーブの香りが、新鮮で肉厚な鯖の肉汁を、口の中へと
      誘いこんでくる。
       二人が、もぐもぐと頬張る横で、ハウンドは、手の中のサンドイッチ
      の匂いを嗅ぐ。
       小麦の香りのするトーストだった。パンは、きっと朝に焼かれたば
      かりなのだろう)
      • お魚嫌い? -- アミ
      • (頬についた魚の切れっ端を、指で舐めとりながらアミが言うと)
      • ……いや。 -- ハウンド
      • (ハウンドは、口を開けて鯖サンドに噛み付く。
         警戒するまでもなく、毒など入ってはいなかった。
         一気に半分までかぶりつく口に、大きな牙が並んでいるのが覗く)。
      • ねっおいしいでしょ♪ おじいちゃんが朝一番で獲って来たんだよー -- ロワナ
      • (ハウンドが鯖サンドにかぶりつけば、姉妹はにっこりと微笑む
        少女が鯖サンドの味を気にいったのはその顔を見ればわかる)
      • まぐまぐ…あ、歯尖ってるの? -- ロワナ
      • (姉妹もにこにこしながら鯖サンドをほおばる
        三つの口がもぐもぐと動く中、ロワナはハウンドの歯に気付いた)。。
      • (牙だ。
         今まで、ハウンドは、低く唸るように喋っていたから、よく分から
        なかったが。人の歯ではなく、まるで肉食獣のような牙が生えている)
      • ほぁー……あ、ハウンドちゃん獣人さんなの? -- アミ
      • (アミとロワナも、そういう種族の人がいることを聞いたことはある。
         以前、アトイ達に大きな街に連れて行ったもらった時、実際に見た
        事もあった。
         それに、さっき、戸口で凄まれた時も。ハウンドから、まるで猛獣の
        ような気配を感じたのだ)
      • いいや……。 -- ハウンド
      • (ハウンドは、首を横に振ると。残りのサンドイッチを飲み込むように
        口に放り込む。
         食べるのも獣並に速くはあるが)
      • これは移植した、元々の歯は全部失くしたんだ。 -- ハウンド
      • あー……、ちゃんと歯磨かなかったんだね。。 -- アミ
      • 歯磨きは大事なの! それとかるしうむ! -- ロワナ
      • (姉妹は頷きながらのんきな感想を漏らす)。。
      • 歯磨きな……。 -- ハウンド
      • (そう呟くハウンドに、二人は真面目に頷く。
         どう反応したものか。困った彼女は唇についたソースをちろりと舐
        めた)
      • それより、お前たちこんな奴を知らないか。 -- ハウンド
      • (ハウンドが紙に書きつけたのは、女の子のイラストだ。
         早い上にさりげなく上手かった。
         髪は長く、なにやらヒラヒラとした衣装をまとっているようである)。
      • ハウンドちゃん絵上手なの…でも…知らない子なの
        アミは知ってる? -- ロワナ
      • (ロワナはハウンドの描いたイラストに素直な感想を告げた
        この絵が実在する人物の肖像画ならば特徴もはっきりとしわかりやすい
        白黒ゆえ髪や瞳の色はわからぬが、長い髪やその衣装は見た事があるならば忘れるはずがない
        しかしロワナが返したのは否定の言葉、それでも念のためと妹のアミにも問い尋ねた)。。
      • んー…年少組の子?でも、この村の子なら見たことくらいは、ふつー
        あるよね? -- アミ
      • (村人全員と知合という程小さな村では無いが。アミ達の通う学校は全
        校生徒で一クラス分だ。
         子供なら学校に上がってない子も、全員顔見知りである)
      • どこで見たの? -- アミ
      • 昨日の朝、海沿いの崖の方だ、青っぽい奴だったが。 -- ハウンド
      • となり町にいく道のー? -- アミ
      • (ハウンドが、ムンガ、真榊達と別れた直後の事だった。
         腹に受けたナイフ傷を抑えながら、村へ向かおうとした所に、突然
        声をかけられたのだ。
         見た目は幼女のようだが、虎の神の目を通して見えたのは龍の姿で
        ある。
         龍神であるアトイを狙う今、警戒に越したことはなかったが)
      • 知らないなら、いい。 -- ハウンド
      • (首を傾げる二人の姿に、ハウンドがそう言った)
      • あ、もしかして……、私達を捕まえてるのと関係が……。 -- アミ
      • (残ってたサンドイッチを、飲み込み。恐る恐るアミが聞く)。
      • ……ん…えっと…お茶飲む…? -- ロワナ
      • (アミの言葉にロワナの肩がぴくっと震える
        自分への質問では無いがその事はロワナも気になった事
        姉妹は日記を読む事で多くを知ってしまった、ネオンの事だけでなく自分達自身の事も
        だからハウンドが自分達を攫おうとしている理由はもう確信となっている
        呪いの怪我を受けていたのもそれらの理由による事なのだろう
        風に捲れる日記帳を横目で見るとハウンドの言葉を待ちながら三人のコップにお茶を注いで行く)。。
      • 別に、その子供は関係ない……多分な。 -- ハウンド
      • (二人は少しホッとした表情を浮かべる)
      • ただ、山の舘には用がある。 -- ハウンド
      • (外では風が強まったのだろう。開けた窓から入ってきた風が、蔵の
        中をぬるくかき混ぜた)
      • あそこはその……。 -- アミ
      • (コップを両手で持ったままアミがうつむく)。
      • ……入っちゃいけない所なの…… -- ロワナ
      • (うつむき視線を下げたまま呟く様に言う
        やはりハウンドの目的は自分達から繋がり屋敷へと至る物
        わかっていたはずなのに、心がなんだか苦しい)。。
      • (小さな刺のように、ひっかかるのはネオンの事だ。
         触れてはならない、と言葉にしたとたん。彼女から目を逸らしたよ
        うな罪悪感が、二人の心に湧いてしまう)
      • ……そうだな。 -- ハウンド
      • (言葉を濁す二人に、ハウンドも曖昧な返事をしながら傷口に手をやる。
         血は、止まっていた。すでに傷口も塞がりかけているはずだ。
         呪毒が抜けた脇腹に、驚異的な回復力がもたらす熱を感じる。彼女
        本来の力はすでに戻りつつあった。
         銃に手をかけて、持ち上げると……ホルダーに突っ込んだ。
         そして、息を吐いて柱に背をつける)。
      • ……… -- ロワナ
      • (蔵の中が沈黙に包まれる、聞こえるのは三人の吐息と外からの風の音
        ロワナはハウンドの言葉を待ちながら両手でもったコップを口へと運んだ)。。
      • (肝心の返事は一向にこない。ハウンドは黙ったままだ。
         有無を言わせず、今すぐ二人を連れ去る事は彼女には容易い。
         だが、そうもしなかった)
      • あのー……。どうしてもやらなきゃだめな事なのかな。 -- アミ
      • (痺れを切らしたように、アミがそう言った)
      • 今更後戻りはできない。 -- ハウンド
      • (10年以上も過ごした組織を裏切り、戦友を打ち倒してまでここへ来た
        のだ。立ち止まれない理由しかないはずだ)。
      • ねぇ…どうしてそこまでして…… -- ロワナ
      • (ハウンドの目には声には強い意思を感じる
        しかし、それでも何か戸惑いやためらないの様な物も見えて)
      • ううん…なにをしたいの…? -- ロワナ
      • (だからロワナは思い切って聞いてみた)。。
      • (ロワナが、黙したままの横顔を見つめる。
         ハウンドは、極端に無駄な動きをしないのだから、無視している様に
        も見えたが
      • ……お前たちの、そうだなあのじいさんがだ。
         じいさんが、私に噛み殺されたとしよう。
        私が、肉親の仇だったら。お前らは、私から呪毒を引き抜いたりしたか? -- ハウンド
      • (牙を剥き出して睨むハウンドの形相は、二人を竦ませるのに十分で
        あった。
         その瞳に、激しい怒りがあるのを見る。
         燃え盛る火に手を入れるのと、なにも変わらない程の激しく野性的
        な怒りだ)
      • そういうことだ、親の仇を討つのに命をかけて何が悪い。 -- ハウンド
      • (そう言って目を逸らしたハウンドは、今度は自分に言い聞かせてい
        るようでもある)。
      • え…… -- ロワナ
      • (相手を殺したくなるほどの憎しみの感情
        自分も、もし祖父を両親を殺されたらそんな感情を持ってしまうのだろうか?
        そんな事を考えると怖くなる)
      • でも…それでも…私は…私達は…… -- ロワナ
      • (そこまで言ってアミの方を見る
        妹も同じ気持ちであってほしいと言う期待
        レインとネオンはすれ違ってしまったが、自分達はまだ繋がっているから
        それと同じ様に目の前の少女…ハウンドととも繋がれると思ったから)。。
      • …うんっ。 -- アミ
      • (アミは小さく、ロワナに頷く。
         しかし、向き直ったハウンドの横顔は、恐ろしげな獣のようで。口
        を開かけたまま、話かけるのを躊躇していると……)
      • ちわー、アミロワちゃん達いますー? -- アトイ
      • (外の庭から、なんとも気の抜けた声がした)
      • そうですか、じゃあちょっとおじゃましますねー。 -- アトイ
      • あ、アトイちゃん。 -- アミ
      • (隠れているという、建前も忘れて。顔を上げたアミが思わずホッと
        したのは。扉越しに聞こえてくる、気の抜けた声の主に対する信頼で
        からである。
         何か困っても、彼女ならなんとかしてくれるに違いない。
         友達の誰より小さくて、風変わりな子だけれども。誰も持っていな
        い、不思議で大きな力を持っている隣人。
         だから、ハウンドの事もどうにかしてくれる。
         そんな期待から、扉を開けようと立ち上がりかけたアミを、ハウン
        ドの手が掴んだ)
      • ッイ!? -- アミ
      • (アミは、悲鳴を上げるより先に、思わず飲み込んでしまう。
         骨が砕けたとすら思った。
         華奢で、普通の少女と変わらない筈のハウンドの手は、凄まじい力を
        発して。粘土の棒でも掴むごとくアミの腕に食い込んでいる)。
      • アミ!? ハウンドちゃん…… -- ロワナ
      • (「なんで?」と言いかけた口が止まった、そこには姉妹の知らないハウンドがいたから
        今日会ったばかりの少女、それでも言葉を交わし一緒に鯖サンドを食べた
        戸惑いや怒り、短い時間に様々な顔を見せてくれた少女…ハウンド
        だが、そこには姉妹のまったく知らないハウンドがいた
        先までと纏う空気が違うなにより瞳に宿る物が違う
        ロワナはハウンドの瞳に冷たく黒い炎をみた気がした)
      • あ…ハウンドちゃんやめて! アミが痛がっているの! -- ロワナ
      • (首を振り何かを払うと妹を掴むハウンドの腕にすがりついた)。。
      • (バンッ、と扉が勢い良く開かれ、肩にドラゴンを乗せたアトイが踏み込んできた)
      • ふむ、どうしましたか二人とも。 -- アトイ
      • (二人……。
         言われて気づいた。ハウンドの姿は、もうなかった。
         目をつぶっていたわけでもないのに。こつ然と消えている)
      • 誰か居ましたか? -- アトイ
      • (アトイがそう問うと。アミは、半袖シャツの袖を引っ張って、掴まれ
        た腕を隠しながら、慌てて首を振った)。
      • ううん…私達二人だけなの…… -- ロワナ
      • (そう返答するとアミと同じく首を振った
        嘘がいけない事を姉妹は良く知っている、それでも姉妹は嘘をついた
        そうしないと良く無い事が起こりそうな気がしたから)。。
      • そうですか。 -- アトイ
      • あ、アトイちゃんはえーと……なにかご用かなー? -- アミ
      • (若干笑みをひきつらせながらアミが言うと)
      • いえ、特には。
        ミア先生を送りついでに、ちょっと見回ってただけですよ。泥棒が出
        たようなので。 -- アトイ
      • ああ……うん。 -- アミ
      • 何も無いようなら、よかったですー。 -- アトイ
      • (曖昧に頷く二人にアトイは背を向ける。
         赤い瞳だけが、頭の動きから独立したように。怯える姉妹をジロリと見据えていた。
         アトイの目は、大きく丸くくりくりとして可愛らしい。その目を、
        獲物を狙う爬虫類のごとく、目玉だけをギョロリ、と動かして姉妹を
        睨みつけたのだ。
         それは、ほんの一瞬だけのことで)
      • コップは3つね……ふむ。 -- アトイ
      • (そして、聞こえないほど、小さくつぶやいた)





    • (海の見える坂道をハウンドは走っていた。走っているのに足音が無い。
       急に、地を蹴って止まると、近くの電柱の陰に飛び込む。
       ペダルを漕ぐ音がして、自転車が一台坂の向こうからやってくる。
       乗っているのは、駐在の格好をした50ばかりの男である。彼は、ふと自転
      車で通りすがりながら、横を見た。
       根本に、夏草の揺れる電柱があるだけで、向こう側に遠く海を見下ろす。
       今日は、少し波が高いように見えた。
       何故横を見ようと思ったのか、疑問すら一瞬に揮発して。そのまま通りすぎ
      ていく。
       電柱に背をつけたハウンドが、男の背を見送った。
       伏せたわけでも、隠れて居たわけでもないのに。腹を真っ赤に血で染めた、
      見慣れない少女を、男は認識できなかったのだ。
       虎の縞模様は、獲物から身を隠す迷彩である
       虎の神スゥアの力を持つハウンドも、身を隠す術に長けていた)
      • 逃げ足早ぇーっすね。無駄ですよ、私は何処にだって現れます。 -- アトイ
      • (だが、その力も万能ではない。
         ハウンドは、ゆっくりと振り返り、道の土を踏む)
      • まぁそう警戒せずに、問答無用は好きじゃないですので。
        まずは、話でもしてみませんか。 -- アトイ
      • (坂の上に、アトイが立っている。
         白い雲の下を、急流のように黒い雲が低く流れる。
         湿り気を帯びた風に、アトイの振り袖と長いツインテールがはためいた。
         濃い紫色の、丈の短い着物は、暗くなり始めた空に馴染む色のようで)
      • 話だと? -- ハウンド
      • (その姿を見た時、ハウンドは牙を剥き出していた)
      • その牙、なるほどやっぱり間違いねぇようですね。
        ララリウム……そして、クレハさんを攫った奴です。
        その牙と目も、私にしたように、どこかの神様から奪いましたか。 -- アトイ
      • (普段、アトイが絶対にしないような顔つきであった)
      • 私、一般市民のつもりなので。犯罪者の相手なんかしたくないんですが。
        神の力を操って、好き好んで戦争に首を突っ込む連中相手では、そうも言っ
        てられませんかね。 -- アトイ
      • ……私達が好きで戦っているとでも。 -- ハウンド
      • (牙を剥きだしたハウンドを、アトイの赤い瞳が睨み下ろす。
         普段のくりくりとよく動く丸い可愛い目つきではない。
         下等な生物を容赦なく睥睨する、尊大で強壮な龍の目だ)
      • 違いますか? -- アトイ
      • (ハウンドは、ただ、黙って睨み上げる)
      • あなた達の祭神として無理やり捕まった事ありますからね。わかってますよ。 -- アトイ
      • (肩のドラゴンに手をやって、アゴを撫でるアトイ。
         ドラゴンの喉の奥で、小さな遠雷のような音が鳴る。
         アトイはニヤリと笑い)
      • でも、基本的に人は好きなのですよ。
        だから、人のやる事は、それがいい事でも悪い事でも、私は邪魔しないでい
        ようと思ってるんです。
        そりゃ、私は少々規格外な力があるようですが。
        力があれば何してもいいと思ってるあなた達程、おせっかいで傲慢で
        はないですから。 -- アトイ
      • ……ただ、直接ちょっかい出されるのは、やっぱり気に入りません。 -- アトイ
      • いかにも神様が言いそうなことだ。連中はどいつもこいつも高み
        の見物が大好きだったよ。 -- ハウンド
      • (今度はハウンドが笑った)
      • 私の故郷はある日、突然焼かれ両親は殺されたよ。
        信じていた神が違ったから、らしいな。
        だがそんな事、10にもならない私が分かるもんか。 -- ハウンド
      • 分かったのは一つだけだ。
        襲ってきた連中に、歯を全部へし折られ。顔の形が代わる程膿んで、死にか
        けた私に。自分の水を飲ませてくれた友達が居た。 -- ハウンド
      • 売り飛ばされる前に監禁された小屋の中だ。みんな酷く乾いていた。
        そいつは弱った私よりも先に死んだよ、最後まで神に祈ってた。
        分かるのは、そいつが死ななきゃいけない理由なんて無かったことだけだ。
        お前らは、そんな事も我関せずと肯定するんだ。 -- ハウンド
      • そして、そんな地獄から救い出してくれた人を、私から奪った。 -- ハウンド
      • (唸るように、吠えるようにハウンドは言った)
      • いかにも自分の不幸に酔ってそうな人が言いそうな事です。
        言っときますが私達に、先に手を出したのはあなた達ですからね。
        ……クレハさんを攫った事は今も許しちゃいません。 -- アトイ
      • (アトイのドラゴンが、翼を広げた。
         低く、速く流れていく灰色の雲を背にして。翼の落とす陰が空に覆
        いをかけるように巨大化していく。
         まるでアトイに翼が生えていくように)
      • 私は、私の宝物を穢そうとする者を、何であれ一切、許さないのです。 -- アトイ
      • (ハウンドは、虎のように低く地に伏せた。
         アトイは、ハウンドを見下ろしながら、赤い鱗で柔い少女の裸身を半
        分だけ覆ったような姿に変じた。
         葉を広げる枝を思わせる翼を、腰から生やした、半人半龍の大人の
        姿である。
         太く長い尾が地面を打ち、恐竜を思わせる足が、鉤爪を地面に食い込ませる)
      • 今日は、誰も見てないから容赦しませんよ。
        死なないようにはしてやるなんて、甘い事は無しです。 -- アトイ
      • (アトイに陰を落とすドラゴンが吠える。
        咆哮は、もはや衝撃となり。夕立の前の雷鳴のごとく大気を裂いた)。



      • (ハウンドとアトイの対峙から遡る事暫し前……
        姉妹は走っていた。舗装の無い田舎道をひたすらに。
        消える直前のハウンドは尋常では無かった
        姉妹に話した様に、ハウンドの中には深い憎しみの根がある
        それをどうにかしたい、助けたい…放っておけない
        だから姉妹は消えたハウンドを捜すべく蔵を飛び出し走っていた)
      • はぁはぁ…あれ…? -- ロワナ
      • (走りだして十分が経過しようと言う時にロワナが足をゆるめた
        そして奇妙な顔を浮かべると、駈け足のまま数メートル先へと行ったアミに声をかけた)
      • アミー、私達どこへ向かえばいいのかなー…? -- ロワナ
      • (姉妹は行き先を考えていなかった)。。
      • ……ほぁっ!? -- アミ
      • (アミは足踏みしながら、忘れてた!という風な声を上げる)
      • えーと、えーと……あっ痛たた……。。 -- アミ
      • …アミもかー…あ、大丈夫…? -- ロワナ
      • (痛みを訴える妹の元へと急ぎ駆けよる
        見れば白い腕に痣、それはハウンドに強く握られた跡)
      • 大丈夫? あとで湿布貼った方がいいかもなの…… -- ロワナ
      • (いつもならば痛いの飛んでけーをする所だが、今はそんな緩やかな気持ちにもなれず
        それでもせめてもと、アミの頭をそっと撫でた)
      • …早くハウンドちゃんを見つけないと…… -- ロワナ
      • (妹の頭を撫でながら小さく呟いた
        この痣を付けたのはハウンド、この力がもし憎しみのために振るわれたら……
        そんな事を思うと気が気でなくて……)。。
      • ふにゅ……。やっぱり、力を使って探した方がいいのかな……。 -- アミ
      • (アミとロワナの不思議な力、しかし祖母の日記を読んだ今は、恐ろ
        しくて、あまり使いたくない気持も強くて)
      • ネオンちゃんの所……ううん、あそこは遠いから近くで行きそうな所が
        分かれば……あっ! -- アミ
      • (思い当たる場所が一つだけあった)。
      • んー? アミ、どこか…あっ! -- ロワナ
      • (触れ合っていれば考えは伝わる。アミが言わずともロワナにも伝わった
        ハウンドが行きそうな所、そうでなくても何かのヒントがありそうな場所
        だから姉妹はそこへと急ぐべき駆けだした)。。




    • (アミとロワナの家から200m程先に、お隣さんの家がある。
       姉妹の家と同じ舟屋作りの漁師家だが、古民家で純和風な姉妹の家と
      違って、最近改築されたばかりだから真新しい。
       半分海にせり出した特徴的なアトイの家へと、アミとロワナは駆け
      込んだ。
       リビングに面した庭に立てば、家の中にクレハが居るのが見えて
      そしてもう一人……)
      • アトイちゃん居るー!?……ぬぁ!? -- アミ
      • ほわぁぁぁっ!? -- ロワナ
      • 二人ともこんにちわ…ん…?
        アトイさんならお出かけ中だけど…二人ともどうしたの…? -- クレハ
      • なんじゃ? 騒がしいわらしじゃのう? -- 長老
      • (突然やって来て突然大声を上げる姉妹に首を傾げるクレハ…そして長老
        姉妹が驚くのも仕方の無い事
        特徴的な長い髪、そしてひらひらの服を来た少女
        ハウンドの描いた似顔絵の特徴にうり二つの、まさにその物の少女がそこにいたからだ
        しかも知人の家の縁側でお茶まで飲んでいる)。。
      • あ、えっと……ちょっとびっくりしただけ、うん。 -- アミ
      • (どうしようか?と言う風に横のロワナを見るアミ)。
      • うん、私も驚いただけなの…んっと…… -- ロワナ
      • (そっとアミの手を握るとどうするかこっそりと相談し
        とりあえず自己紹介しようと言う事に)
      • は、はじめましてなの、私はロワナです。。 -- ロワナ
      • えっと、あ……アミです!。 -- アミ
      • ふむ、礼儀正しい子達じゃ、飴ちゃんをあげよう
        ワシはヴァイア、親しみを込めてヴァイアちゃんと呼ぶが良いぞ
        -- 長老
      • (姉妹の騒がしい登場に最初はむすっとしていた長老だが
        姉妹が礼儀正しく接すれば破顔し、二人に飴ちゃんをあげなさる長老…ヴァイア)
      • ふぅ…それで二人ともアトイさんに何か用かしら…? -- クレハ
      • (姉妹と長老のやりとりを緊張しながら見守っていたクレハだが
        打ち解けたのを見ればほっと息を吐いてから、改めて来訪要件を尋ねた)。。
      • 飴ちゃんどうも……。あ、そだ、アトイちゃんどこ行くとか聞いて
        ないかなとか。 -- アミ
      • (ヴァイアの事を見ていると、初めて会ったのに前にも見たことがある
        ような、そんな不思議な気がしていたが。
         アミは、もらった飴ちゃんを握りしめながら言った)。
      • あー…アトイさんなら……
        みゃーちゃん先生を学校に送って行ったわ…うん -- クレハ
      • そっかー…… -- ロワナ
      • (ヴァイアと名乗る少女の事も気になるが、今気になるのはアトイの行き先
        胸騒ぎが強くなる中、返って来たのはありふれた答え)
      • 出て随分になるけれど…どこで道草しているのかしら…… -- クレハ
      • ふに? クレハちゃんどうしたの? -- ロワナ
      • (アトイの事を尋ねてからずっと、クレハは何か別の事が気になるのか
        時おり姉妹と話す視線を逸らし空を見つめていて)
      • え? ん…ほら、雨が降りそうでしょう…?  -- クレハ
      • うん、少し暗くなってきたの…おじーちゃん嵐が近いかもって言ってた。。 -- ロワナ
      • ロワナぁ……。 -- アミ
      • (ロワナの服の裾を、アミが不安げにひっぱった。
         空に低く黒い雲が流れ始め、遥か彼方に遠雷の響きが轟いているか
        らではない。
         家にアトイが戻っていれば何も問題はなかった。
         アミは、ほんの10分程前、蔵で見たアトイの目を思い出したのだ。
        あの時は、ハウンドも居てアトイの突然の訪問に驚いていたし、頭が
        混乱していたから見落としていたのだが。
         あれは、半年余りも、ほぼ毎日会っていたアトイとは思えない目つ
        きだったのだ。
         ハウンドの目にも、力強い獣のような不思議な迫力を、アミは感じ
        たが。アトイのそれは……。
         赤い瞳が、眼窩の中でギロリと蠢くのを思い出すと。矮小な小動物が
        遥か高みから、巨大な何かに睨み下ろされる、根源的な恐怖が湧く。
         だから、アミは、もう一度姉の服の裾を握りしめた)。
      • …アミ……あ…… -- ロワナ
      • (触れ合わなくてもわかる、袖を引っ張る妹の瞳の中に見えるから
        あの時の記憶を鮮明に思い出す
        はじめて見るアトイのあの瞳を、全てを圧倒し威圧する恐怖を封じ込めた瞳を
        さらに想いだすハウンドのあの瞳を、憎しみと悲しみを封じ込めた瞳を
        だからわかる、あの二人を出合わせはいけないと
        小さく頷くと袖を握る妹の手をそっと撫で)
      • わかったの、うん…ちょっと用事があっただけだから、また後で来るね? -- ロワナ
      • うん……。また後でーなのクレハちゃん、えと…ヴァイアちゃん。 -- アミ
      • (撫でられた手を握り返してながら、アミは言った)。
      • ええ、アトイさんが戻ったら私の方からも伝えておくわね…? -- クレハ
      • ふむ、もう行くのか? せわしないのぉ -- 長老
      • あははっ、また今度ゆっくりくるね? -- ロワナ
      • (苦笑し肩を竦めるヴァイアに姉妹もまた苦笑を返す
        ヴァイアの言葉ももっともだが、今は急ぐのだから仕方が無い
        そんな姉妹が時間が惜しいと走りだそうとした時、声が飛んできた)
      • ロワナよアミよ、走って行くのは良いが転ばぬ様にな?
        時に飴ちゃんを舐める余裕もだいじぞ、かっかっか
        。。 -- 長老
      • えと……うん!ありがとう! -- アミ
      • (二人は小さく手を振ると、道へと走りだして行った。
         遠くの水平線に雨が降っているのが見えた。
         空はいつの間にか灰色に変わっている、やがて雨はここへ来るだろう。
         二人は、薄暗くなった空の元を走った)。




      • (ジェットエンジンのような甲高いエグゾーストが響いた。
         トラック並の前輪が、舗装されない道路を掴み小石を巻き上げる。
         巨大なバイクだ。チェーンもマフラーも無く、黒一色で、装甲車
        を縦に半分割ったような重々しいデザインである。
         夜の超高層摩天楼を疾走してるのが似合いそうな、重厚な二輪車が、
        田舎の海沿いの道を走っていた)
      • さんだーろーさんだろーまがりくねったそのみちをー♪ -- くろこ
      • (起伏もなだらかで見通しのよい一本道である。
         のんきに鼻歌歌いながら走っていたのは、くろこさんであった。
        真っ黒でスタイリッシュなロングコートと、水色のツインテールをな
        びかせる。
         なんか、エンジン音も気のせいだったのか、近づいてくるハイブリ
        ッド車並に静かだった上に、いかついバイクはサイドカー付きだった。
         一応真っ黒で統一されているのは何かの美学か)。
      • (ご機嫌モードで道を行くくろこさん、自然豊かな田舎道はバイクで走るに心地良い
        そんなくろこさんの目に道の向こうから近づいてくる影が見えた
        パトカー…ではなく少女二人がてっこてっこと走りながら近づいてくる
        速度的に言えばくろこさんの方が少女の方へと近づく形になるのだが、それはどうでもいい
        少女二人には見覚えがある、村で漁師を営む万丈さんところの孫娘だ)
      • アミ急ぐの! 天気が崩れる前に辿りつくの!。。 -- ロワナ
      • でもちょっと遠すぎ……あ! -- アミ
      • アミロワちゃんじゃん、おいーっす、そんじゃねー。 -- くろこ
      • (田舎の道は狭い。くろこさんは徐行しながら二人の間をすり抜けよ
        うとした)
      • ちょっくろこさん待って!ストーップ!! -- アミ
      • (アミの手が横を通り過ぎる水色のツインテールの片方を、すれ違い様
        にがっしとつかみ)。
      • 止まってほしいのー!! -- ロワナ
      • (さらにもう一方のツインテールをロワナが掴んだ
        ※極めて危険な行為なので良い子の皆は真似しないでね♪)
      • 私達急いでるのー! すごく急いでるのー! -- ロワナ
      • (そのまま大きな声でくろこさんに呼びかけてきた)。。
      • ぐぇッ!? -- くろこ
      • ちょっ!やめなさいよ!ムチ打ちになるでしょ!? -- くろこ
      • (くろこさんは、ハンドルを握ったまま思い切りのけぞった状態で急
        停止。
         すかさず二人は側につめよった)
      • このままだとまずいっぽいけどえーと、山は遠いの! -- アミ
      • え、うん……そりゃ結構あるけど。雨もふりそうだけど……。ってか急いで帰るんなら、君ら家海の方の集落でしょ。 -- くろこ
      • (首の座りを確認するくろこさんは、ややシャフ度になりながら首を
        傾げる)。
      • そうじゃなくて…んっとんっと……
        山なの! 山にいかないといけないの! お友達が大変なの! -- ロワナ
      • (興奮気味にぱたぱたと手を振りながら姉妹は告げる
        ツインテールを握ったまま手をふるものだから
        くろこさんはシャフ度のままヘッドバンキング状態になってしまう)。。
      • やめなさいよ!?ツインテールはそんな風にアバババッ!? -- くろこ
      • (テンションがあがるくらい顔がブレたくろこさんは、アミとロワナが
        このままじゃ喋れないと気づくまでシェイクされて目を回す)
      • ハァハァ……もう、なによ慌てちゃって。
        ようわからんけど、バイクで送ってけってんでしょ?
        私、これから店戻るとこなんだけどぉ。 -- くろこ
      • (振り回されすぎて、くろこさんもさすがにちょっと不機嫌そうに言
        った。
         ちなみに彼女は村で唯一の商店の店員である。まだ営業時間中で、
        あまり留守にもしていられないのだが)
      • ……しょーがないわねぇ。 -- くろこ
      • (赤いルビーのような目で、半ば睨むようにしていたが。
         いつも素直で良い子な二人が、本気で泣き出しそうな顔でじっと見
        つめてくるのに根負けした。
         黒いハーフタイプのヘルメットを脱ぎつつ、人差し指を立てて乗る
        ように促す。
         普段の行いがいいとこういう時、無茶ができる)。
      • …! くろこさんありがとうなの! -- ロワナ
      • (姉妹の顔がぱぁっと花が開く様に笑顔となる。子供ならではの満開の笑顔
        ロワナはくろこかさんからヘルメットを受け取るとアミに被せ
        そして自分はサイドカーに積まれていたヘルメットを被る
        そして姉妹仲良くサイドカーへと収まった…なんだか猫の様だ)。。
      • くろこさん、お願い!急いで! -- アミ
      • はいはい……。おっ。 -- くろこ
      • (頼まれはしたが、あまり気の無い返事である。
         雨が降る前に、さっさと帰りたかったくろこさんにしてみれば当然
        の反応ではある、バイクだし。
         アミとロワナにしても、予知のような、曖昧な感覚をどう他人であ
        るくろこに伝えていいのか分からず焦りが募るばかりだ。
         そんなとき、くろこは、きゅっと握ったアミの手に目を止めそして)
      • 急いであげるから、それちょーだい。 -- くろこ
      • え? -- アミ
      • (そういってくろこさんは、あーん、と口を開くから。アミは、自分
        の手をゆっくり開いた。
         飴だった。さっきヴァイアにもらって握ったまま忘れていた。
         包装が手からはみ出ていたのだ。
         だから、握った飴を1つ、放り込んでやった)
      • ふふん、そんじゃ。飛ばすから、しっかり捕まってなよ。 -- くろこ
      • (くろこがスロットを開くと。重く湿りはじめた大気を吹き飛ばすように、エンジンが、甲高い唸りを上げた)



    • (海沿いの田舎道を漆黒の徹甲弾が行く、風を切り裂く轟音を響かせ行く
      行くは重二輪、操るは水色の髪のツインテールの少女
      軍歌メイタ曲を口ずさみ、アクセルグリップを握りしめさらに加速する
      少女二人に急ぐ事をお願いされてしまったのだ、ならば急ぐしかない
      その少女二人はと言うと重二輪のサイドに接続された側車に仲良くすっぽりと収まっている)。。
      • ぐろごさぁぁぁん潰れそうなのぉぉぉ…! -- ロワナ
      • (側車に収まっている少女の一人が悲鳴の様な声で操り手に呼びかけるも
        風を切り裂く轟音とエンジン音に阻まれ操縦者…くろこさんに届かない。
        このルートは少女二人が目的とする屋敷へは若干遠回りとなるが
        重二輪の超加速を生かすならば直線の多い海沿いを通って山へと入るこのルートが最適であると選択された
        …のだが、その超加速が半端なく、かかるGも少女を押しつぶさんと攻めてくる)。。
      • に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!……はふぅっ。 -- アミ
      • (実際アミなんかは、まんべんなく押しつぶされた猫のような悲鳴を
        あげ、加速に耐えかねて気絶した。ブラックアウトという奴である。
         なぜ地面を走るバイクに、戦闘機並のGのかかるのか。
         それはともかく。アミの口から抜けだした人魂が、旗めいてバタバタ
        となびき、今にも千切れ飛びそうである)。
      • あみぃぃぃ!? 魂抜けかけてるのぉぉぉ! -- ロワナ
      • (様々な怪異や不可思議現象が見えるロワナだが、魂が抜けかけているのを見るのは始めてだ
        それも妹の魂が抜けかけている! その魂も本体と同じく瞳をぐるぐるとしていて
        これはやばいとロワナはGに押される腕を持ち上げ、妹の魂をずりずり手繰り寄せ口の中へと押し込んだ)
      • ふぅ〜…危なかったの……へにゃっ……
        く、くろこさんと、止めて…もう無理かも…… -- ロワナ
      • (ほっと息を吐くをつかのま押し付けるGに潰され猫の様な変な声を上げた)。。
      • えー?もうすぐなのに。 -- くろこ
      • (森の中で重二輪は停車した。
         振り返ると海と村は遥か眼下である)
      • おばあちゃんが見えたの……。 -- アミ
      • (多分ほんとに見てたであろうアミが、へろへろと呟く。
         その時、木々の梢が揺れて轟音が鳴り響いた)
      • うわっ、雷近いなぁ……。
        ねぇ、ほんとそろそろ夕立来そうだけどさぁ……。 -- くろこ
      • (背骨まで揺れるような衝撃に、くろこさんが首をすくめながら二人
        を振り返る)。
      • (くろこさんが振り返ると姉妹は小さく震えていた
        雷が怖いとは何か違う、その目を見ればわかる
        姉妹は雷に対し潜在的恐怖以上の何かを感じている)
      • アミ…アミにもわかるよね、この雷普通じゃないの……。。 -- ロワナ
      • (アミは、震えながら小さく頷く。
         遠くの雲の中に、稲光も見え始めていた。だが、今森の中に轟いた
        音は、間違いなく声だった。
         その声が、あまりに強く大気を震わせるから。雷が、数億ボルトの
        エネルギーでもって大気を引き裂くのと同じ音になってしまうのだ
         その存在があまりに強大すぎて、荒れ狂う大河や、天を覆うような
        雷鳴等の自然現象としか、常人には感じられないモノが、すぐ側に居る
        のを二人は感じたのだ)
      • ぜったいそうだ……。行かなきゃ!。 -- アミ
      • うん!くろこさんあの雷のところに行ってなの! -- ロワナ
      • (二人は頷き合うと肩を竦めたまま首を傾げるくろこさんにお願いの視線を向ける
        あそこにいる、あの雷鳴の元にアトイはいる、そして恐らくハウンドも
        雷鳴が大気を震わせるたびに胸の中でもやもやとした予感が広がって行く
        だから急がないといけない、先よりもさらに)。。
      • あそこって……え、森ん中ぁ?
        変なとこ行かせるわね、道ないじゃん。んもぅ、しょうがないなぁ。 -- くろこ
      • (くろこがそう言って、ハンドルを握ると、ぐんっと前輪が持ち上が
        った)
      • 今度は跳ねるから、舌噛まないようにねー。 -- くろこ
      • (重二輪は、エンジン音を高ぶらせ、茂みの中に飛び込んだ。
         停車した状態から……。ほんとになんだろうこのバイク。
         またアミとロワナの悲鳴が響いた)。


      • (太い樹の幹が、真ん中から爆ぜた。
         砲弾を撃ち込まれたかのようである。
        身を屈めたハウンドのつむじを、鞭のごとくドラゴンの尾が掠め。爆
        ぜた木片が、肩を掠めて岩に突き刺さった)
      • ごぉぉあああああああああっ!! -- ハウンド
      • (だが、怯む事無くハウンドは駆けた。ドラゴンは背を向けて、森の
        梢の辺りで頭を巡らせようとしている。
         圧倒的な巨体のドラゴンに対して、出せる札は速さだけ。
         真ん中を砕かれた樹が、ゆっくりと傾ぎながら、葉を舞い散らす。
         牙を剥き出す。右腕はとうにへし折られぶら下がるだけだ。
         狙いを定める。ドラゴンの足元に居る女の喉元をにらみ、瞳孔は細
        く引き絞られた)
      • (スローモーションに、油の中を進む時計の針のように。樹が倒れていく。
         周りの景色が緩慢に動くのは、ハウンドの目を通して見ているからである。
         獣は人よりも速く強い。単純だから、覆しようのない事実である。
         ハウンドに宿った虎神スゥアは、獣の神だから。圧倒的な速さと、力が最強の武器で)
      • (パンッ、と高く音が響いて。
         アトイの喉元に食らいつくまえに、ハウンドは、また地面に叩きつ
        けられ、跳ねた。
         その場から一歩も動かずに、アトイの鱗に覆われた手が、虫でも払
        うかのように実に鬱陶しそうに叩いたのだ。
         高く鳴った音は、頬を張った音ではなく。アトイの軽く振った手が、
        ちょっと音速を超えただけの音だった。)
      • がっは…! -- ハウンド
      • (龍と人が半分づつになったようなアトイが、一歩を踏み出す。
         血を吐きながら、ハウンドは左手で拳銃を引き抜き、撃つ。
         マシンガンのごとく弾倉の20発は一瞬で空になった。素手による改造
        銃並の連射も、気を逸らすことすらできなかった。
         全弾命中して、アトイは一発も気にせず。舞い散る木の葉の雨の中
        を、ただただ距離を詰める。もしかすると顔に当たる葉っぱの方が、鬱
        陶しく思っているかもしれない。
         そもそも、ハウンドだって、何か意味があるなどとは考えていなかった。
         込めていた弾に魔法が掛けてあろうが。足が折れて動けなくなるまで
        フルに装填したまま使わなかったのだから。
         アトイの後ろで、ドラゴンが、巨木よりも太い足で地面を踏んでこち
        らへ向き直り。
         左腕と、折れた右腕で上半身を起こすハウンドの前に、アトイが立つ)
      • ……。 -- アトイ
      • (睨み上げてくるハウンドの頭に、アトイは無言のまま鉤爪の付いた
        足をのせると。
         地面に踏みつけた。
         大きな衝撃を伴って、森が地震のように揺れた。
         葉に混じって、やがて曇天から大粒の雨も落ち始める)
      • がはっ!……くっ…ふっ、はっはっ……! -- ハウンド
      • (足元から、血を吐くような、ぜぃぜぃという音の交じる笑い声。
         笑ったのは、ハウンドの方である。
         アトイは、無言のまま睨み下ろしている)
      • どうした……殺せよ。それとも、なぶり殺しが趣味か。くっ……ふっ。 -- ハウンド
      • (雨は激しく降りだす。たちまち、アトイの踏みつけで抉れた地面の
        底はぬかるみになっていく。
         泥水に浸かり、土を噛みながら、ハウンドは牙を剥く)
      • 殺せねぇんだろ……。怖いんだよなぁ?コレがさ……。 -- ハウンド
      • (這いつくばったまま、取り出したのは。小さな箱である。
         その箱を見た瞬間、僅かだけアトイの表情に変化があった)
      • まんまと捕まったから……。私とこいつをどうこうするのが怖いんだ
        ろうさ……。
        はっ!がはっ……!ハハッ!大したことねぇなぁ、龍神って奴もさぁ。 -- ハウンド
      • 私が、それを壊せないとでも? -- アトイ
      • (アトイが言った。
         ハウンドが、睨み上げる頭上に、ぬぅ、とドラゴンの鱗面が現れる。
         そして、その喉の奥で、遠雷のような唸りをあげ。削岩機の刃より
        も大きな牙の並ぶ口の中に光を発する)
      • ぐっ……!ぬぉああ!! -- ハウンド
      • (ドラゴンが炎を吹く、なんて生易しい物ではなかった。
         溶鉱炉のフタが目の前で開いたような光と熱量に、思わずハウンド
        が呻く。
         激しく降っていた雨が、地上に落ちる前に蒸発して霧になる。地面
        は一瞬で干上がってひび割れた。
         太陽を剥き出しにしてその場に呼び出したかのような熱量が、容赦
        なく辺りを照らし、焼き、木々は生きたまま炎上して、燃える葉の雨
        を落とす。
         アトイだけが、その光の中で平然として)
      • 今から、あれをココに落としますが。
        それでもなんとかできるなら……その時は、またきっちり殺してやり
        ますから。
         大人しく消えておくのを一応おすすめしておきますよ。 -- アトイ
      • (中心温度が1000万度を越える、ボーリング大の天体であった。
         水爆よりも巨大な威力を持つ熱源を、一切の物理法則を都合のいい
        ように書換えて。
         アトイは、燃え盛る恒星を、竜の息吹として吐き出す。
         制御を失った圧倒的熱量は、白く爆ぜた。
         地面は溶岩のごとく煮え、数十mに渡って一瞬に木々は炭化する。
        空は、雨雲が払いのけられて、青空をのぞかせた)--



      • 音が止まったの? いひゃ…! -- ロワナ
      • (重二輪の上で首を傾げたロワナは舌を噛みそうになった
        舗装の無い森の道は平時でも重二輪を揺らすが、つい先程まではもっと酷かった
        雷鳴が響く度に地面は揺れ重二輪は大きく跳ねるのだから何度もお尻を打ってしまった
        それが急に収まったのだ
        姉妹は胸騒ぎが急速に強くなって行くのを感じ、そしてそれは的中した)
      • (まるで太陽が落ちて来たかのような閃光が世界を白に染め
        続き爆音が重二輪を叩く。圧力を持った音に耳と身体が痛い
        慌てて耳を押さえる姉妹は前方に恐るべき物を見た、破壊が近づいてくる
        大地が波の様に揺れ木々が凪払われる、それが近づいてくる)
      • くろこさ……………!? -- ロワナ
      • (ロワナが言葉を言い終えるよりも先に重二輪を衝撃波が襲う
        姉妹が経験したの事のあるどんな嵐よりも台風よりも激しい暴風が重二輪に襲いかかる
        まるで巨大な怪物の尻尾に凪払われる様な感覚
        周囲の木々は軋む程に折れ曲がり、枝葉は破砕音と共に弾け吹き飛ぶ)。。
      • ぎゃー!?なんかきt……ぐえっ!! -- くろこ
      • (くろこの姿が高く放り出されたのが見えた直後、アミとロワナの二人
        は真っ暗闇に閉じ込められた)
      • むきゅうっ!?なんか狭いっ! -- アミ
      • (そして圧迫感とシェイカーの中身になったような振動の両方が二人を襲う)。
      • むきゅうっ!?これ風船?ふわふわして動けない…… -- ロワナ
      • (風船の正体はエアバッグ、そして闇に閉ざしたのはシャルター
        衝撃から二人を保護すべく緊急作動したのだ
        当然バイクにそんな機能はなくくろこさんは吹き飛ばれる事に。
        そんな事は知らぬ姉妹は暗闇の中エアバッグに圧迫されもごもごともがいていた)
      • ガンガン音がするけど大丈夫かな?
        お外どうなってるの?くろこさーん! -- ロワナ
      • (外殻を叩く鈍い音が何度もシェルター内に響く
        もし姉妹が外からこの状況を見る事が出来たのなら肝を冷やしていただろう
        折れた枝、高速弾となった小石、撒き上がる土砂、それらが嵐の様に通り抜けていたのだから)。。
      • (周りが静かになると、エアバッグが収納された。
         代わりに淡い緑色の文字が、見えないモニタがあるように浮かび、
        二人の顔をぼんやり照らしだす。
         黒い繭のようになっていたサイドカーの天井が開いた)
      • ……焦げ臭い……。 -- アミ
      • (森が黒く焼け焦げていた。地面は抉れて黒く焼け。そのクレーター
        の中心側だけ木々は、炭化していた。
         辺りを白い霧のように煙が閉ざしている)。
      • ふぅ…けふっ…こほこほっ、なにこれ?けほっ -- ロワナ
      • (圧迫から解放されたロワナは深呼吸しようとして大いにむせた
        むせながら周囲の状況に気付くとまたむせた
        緑の文字は二人に何かを告げようとしているようだがさっぱりで)
      • なんか凄いのが来てたよね?でもなにが起こったんだろう?
        あれ? くろこさんは…えっと…… -- ロワナ
      • (きょろきょろと周囲を見ているアミに告げながら
        シェルターが閉じる前の状況を思い出していく
        重二輪に近づく破壊、そして重二輪から吹き飛ぶくろこさんの姿……)
      • アミ!くろこさんを捜さないとなの! ハウンドちゃんも…! -- ロワナ
      • (突然の状況で混乱していたが、ここへと来た本来の目的を思い出す
        消えたハウンドの手がかりを捜す事。ロワンはポンっと手を叩くと側車から飛びおりた)。。
      • 隕石かなぁ……?あっくろこさん! -- アミ
      • おっふぅぃぇ〜……。 -- くろこ
      • (くろこさんは頭上の樹の枝にぶら下がっていた。
         全身真っ黒な上に爆風で焦げたから、いよいよ天日干しにされる昆
        布のごとく真っ黒であったが、まぁ無事なようである)
      • 下ろさないと……んっ!? -- アミ
      • (踏み出した地面の感触がやけにぐにっとしたのに驚いて、アミは慌
        てて足をあげる)。
      • 縄積んでないかな…アミどうしたの?
        誰か倒れてる…くろこさんはあっちにいるし…もしかして! -- ロワナ
      • (何か縄でもないかと側車を漁っていたロワナが顔を上げた
        驚くアミの足元を見ればそこには人の姿
        うっかりすればボロ布と見間違えてしまうありさまだが
        それは間違いなく姉妹の知る少女、ハウンドだった)
      • ハウンドちゃ……わっ、なんかぬるっと剥がれたの! -- ロワナ
      • (助け起こそうと手を伸ばしたロワナはまた驚いた
        ハウンドの身から何かが剥がれた。まるで昆虫から殻が剥がれる様に糸を引くソレ)。。
      • ひぃっ!?崩れちゃった!? -- アミ
      • (とてつもなくグロテスクな事を思わず想像して、アミは思わず息を
        飲んだが。よく見れば、剥がれたのは防弾チョッキの装甲板である。
         生地が高熱で溶けて崩れたのだ)
      • 大丈夫かな……生きてる? -- アミ
      • (倒れ伏したハウンドは、かすかに息はある。
         酷い火傷を負っていた。
         二人で協力して、半ば埋まったハウンドを掘り起こそうとした、そ
        の時。遠雷のごとき唸り声が、深い煙の向こう側で鳴った。
         鉤爪の付いた巨大な足が動いて、煙が渦を巻いた、とっさに上を見
        上げたのは、本能に刻まれた危機対処で。
         濃霧のような煙の中にそびえる、巨大なドラゴンのシルエットがゆ
        っくりと頭を巡らせている)。
      • …! …!? …!! -- ロワナ
      • (人は強すぎる驚きを感じるとその衝撃で悲鳴すら失う
        巨大な姿と圧倒的な存在感、煙の向こうに見え隠れするそれは夢でも無く幻でもない
        ロワナは金魚の様に口をぱくぱくとしながら妹の方へと視線を降ろした
        そこにはロワナと同様に驚き顔で口をぱくぱくとする妹の姿
        姉妹は無言の驚きのままに口をぱくぱく手をぱたぱた
        だがこれではいけないと互いの肩に手を置くと深呼吸
        触れ合った事で互いの意思は交換され共通した答えで結論となった
        それは「逃げよう、とにかく逃げよう」と)
      • はぅあぅ…くろこさん! -- ロワナ
      • (姉妹は急ぎハウンドを掘り出すと重二輪の側車へと寝かせる
        意識を失ったままのハウンドは呻き声をあげるが今は仕方がない
        そして木にぶら下がったままのくろこさんの元へと駆けよると
        その勢いで飛びあがり、木の幹にキック!)。。
      • (木が大きくぐらつく。緩慢なメトロノームのように揺れて、焦げた
        枝や葉がバラバラと落ちてきた。
         根本が爆発で露出して元々ぐらついてたのだ)
      • あっ…ちょっ!すとっぷ! -- アミ
      • (揺れ動く木に反応して、煙の中のドラゴンがこっちを向いた。
         二人は慌てて身を屈める。
         巨大な爬虫類の目玉が、焼け焦げた木々の間に見えた。十mは離れ
        ているのに、ボーリング玉より断然大きく感じる。
         あまりに非日常的なサイズなのに、その動きは生々しく、瞬きに合
        わせて透明な瞬膜が、目玉を覆うのまで見えた。
         だが、二人は見つからずに済んだようで。ドラゴンは別の方向に首
        を向ける。
         煙の中に巨大な鱗面が消えていくとき。首のあたりに、翼をつけた
        赤い人影がちらりと見えた。
         間違いなくアトイと、そのドラゴンだ。
         だが、今は二人共、見つからない事だけを祈る)。

      • ……………へふぅ…… -- ロワナ
      • (ドラゴンの姿が煙に消えると同時に大きくを息を吐き脱力する
        冷や汗で濡れた額に金の髪がはりつく緊張で強張った手足が痛い)
      • アトイちゃんがいた様な気がした……
        でも今は見つかっちゃいけない気がするの -- ロワナ
      • (屈んだ状態のままアミに告げると側車の方をちらりと見る
        その中にはまだ意識を失ったままのハウンドが
        ハウンドとアトイ…今二人を合わせるのは良く無い、何か危険な事が起こる
        それは予感で無く確信としてある
        この一帯がそうなったのもその事に原因があるとわかる)。。
      • うん、はやくここを離れなきゃ……。
        くろこさーん…おきてー…! -- アミ
      • (アミは小声で、枝の上でぶらぶらするくろこに声をかける。
         真っ黒焦げで気絶していたおかげで、ドラゴンに気づかれなかった
        のは幸いだったが。早く起きてもらわないと重二輪が動かせない)
      • んもぅ、しょうがないなぁ! -- アミ
      • (下枝も無い木に、躊躇なく飛びつき、アミがするすると木を登る。
         炭化した樹皮のせいで服も顔も真っ黒になるが、仕方ない。
         木がまた、ぐらぐらと揺れた)。
      • アミ気を付けてねー…ひゃっ!? -- ロワナ
      • (木に登って行くアミに心配の声をかけた直後、ズシーンと雷鳴の様な音が響いた
        腹にまで響く振動、間違いなくドラゴンの足音だ
        先の位置からは離れた様だが、いつまた来るかわからない)
      • アミ!急いで!急ぐの! -- ロワナ
      • (先の心配の声とは反対になったが仕方がない
        今は急を要す。一刻も早くここを離れなくてはと気持ちばかりが焦る)。。
      • いそぐよー! -- アミ
      • (こうなったらと、枝にひっかかったくろこを下に落とそうと。アミが
        腕を掴んだ瞬間。
         ぶわっと煙が煙が吹き付けてきた。煙幕の中で、長い尾の陰が弧を
        描く。煙の向こうでドラゴンが振り返ろうとしている)
      • うわっわ……ロワナ、危なっ……! -- アミ
      • (そして、もう一度ズシンッとさっきよりも大きく地響きがして。
         ぐらついていた木はアミとくろこを引っ掛けたまま倒れる)。
      • アミ!? わっわわっ……? -- ロワナ
      • (ロワナは揺れる大地に尻餅を付く様にしながら後ろへと転がる
        その直後、目の前にアミとくろこさんを乗せた木がメキメキと言う音と共に倒れて来た)
      • アミ…くろこさん…大丈夫?
        なんかぐえーって声がしたの…… -- ロワナ
      • (お尻をさすりながら立ち上がると倒れた木の元へと寄って行く)。。
      • んっ……むぅっ……んん?? -- くろこ
      • (頭に手をやりながら、くろこは身を起こした)
      • おー……びっくりしたぁ……あっ。 -- アミ
      • (アミの方も真っ黒な以外無事だ。むくり、と地面から起き上がり。
        目の前に聳える塊に、静かに驚愕)
      • 雷でも目の前に落ちたのかしら……。
        うわっ!髪の毛まで真っ黒じゃない!やだもー……。 -- くろこ
      • くろこさん!しっ!しぃー!こっち来て!ロワナもー! -- アミ
      • 痛ッ!やめてツインテールひっぱらないでぇ!?……ひぃっ!? -- くろこ
      • (アミが慌てて倒木の陰に飛び込んだ。
         ドラゴンの巨大な足が3人のすぐ側にあった。
         気絶から復帰直後にもかかわらず、くろこさんはすごい機敏な動きで
        シャカシャカと倒木の後ろに潜り込む。
         全身まっくろだから、その動きはちょっとGっぽい)。
      • (もしこれが平時ならばくろこさんの動きに笑っていたかもしれない
        しかし今は少しの声も出せない、驚きで出そうになる声と悲鳴を三人がそれぞれ手で口を塞ぐ。
        息をも止めた沈黙のまま石の様に固まり、巨大な足が通りすぎるのを待つ三人)
      • …! -- ロワナ
      • (重二輪の側をドラゴンの足が通り抜ける
        もし踏みつぶされていたのなら重二輪は即座に薄い金属版となっていただろう
        そして側車で気を失ったままのハウンドも……
        どちらも無事ではあったが持ち主のくろこさんは気が気でない
        思わず飛びだそうとした所をまたツインテールを、今度は姉妹ダブルで引き戻された)。。
      • 今のうちじゃない? -- くろこ
      • (今度は、そーっ……と倒木の向こう側を伺いつつ、くろこが言った)。
      • …うん、今のうちかもなの…… -- ロワナ
      • (くろこさんの頭の下から顔を覗かせつつ頷く
        ドラゴンの足はまた煙の中へと隠れ、今は見えず
        響いてくる足音も離れている様に感じる)。。
      • (三人は頷き合うと、倒木から飛び出した。
         重二輪はタイヤが半分土に埋まっていたが。くろこが触れると、自動
        で這い出してシステムを起動させる)
      • おしっバイクは壊れてない!ほらっちゃっちゃと乗って! -- くろこ
      • (くろこがそう言うと。アミとロワナは、ハウンドを突っ込んだサイ
        ドカーに無理やり乗り込む。
         というか、ぞんざいに放り込んだハウンドの上に乗っかったので、明らかに過積載であった。
         手足とかがはみ出て、死体を無理やりつっこんでるみたいだ)
      • くろこさん早く! -- アミ
      • あんた達が落っこちるでしょ!そんなん捨てちゃいなさいよ、もう死
        んでるって!多分! -- くろこ
      • 生きてるよぅ! -- アミ
      • (アミがハウンドの腹の上で跳ねると、げふっ!と吐息が漏れた)
      • しょうがないわねぇ、じゃあそっちは降りて、二人は私の後ろに、早く!。 -- くろこ
      • まって!シートベルト締める…の…出来た! 行くの! -- ロワナ
      • (吐息と共に口から飛びだしかけたハウンドの魂を押し戻すと
        シートベルトで固定してから素早くくろこさんの背中にしがみつきなさる)
      • アミ!私の背中にしがみつくの!。。 -- ロワナ
      • アミちゃーん!何してんの早く!でっかいの戻ってきちゃうよ!? -- くろこ
      • ぬぁっ!うん! -- アミ
      • (サイドカーの脇にしゃがんでいたアミが、跳ねるよう立ち上がる。
         ポケットのファスナーを閉めると、ロワナの後ろに飛び乗った)
      • お願いだから振り落とされないでよ! -- くろこ
      • (くろこがスロットルを開き、バイクはジェットエンジンに似たエグ
        ゾーストを上げて、森の中を一気に加速した)





    • (山の中を重二輪が疾走する。
       捻くれた木の幹が顔のすぐ横を後ろにすっ飛んで、突き破った下生
      えが、激しい雨と共に顔を叩いた。
       走っているというよりほとんど飛んでいるような状態で。
       くろこにしがみつくアミとロワナも吹っ飛びそうだ)。
      • (その上、走って逃げる途中、何度も咆哮のような雷鳴が追ってくる
        かのように響く)
      • ひぃっ!?まだその辺に居んのあれ!? -- くろこ
      • くろこさん!?前みてぇ!前ぇ!!!。 -- アミ
      • わっ?くろこさん前!前に木! -- ロワナ
      • (前に視線をやれば倒木が道の半分を塞いでいる
        しかしくろこさんは後ろを向いたままハンドルを操作しひょいっと避ける)
      • へふぅ…後ろ見るならせめて止まってー
        イライラしてるだけだから多分こっちには来ないと思うの。。 -- ロワナ
      • やだ怖ぃ!! -- くろこ
      • (くろこは再びアクセルを吹かせる!
         重二輪の強靭な車体と駆動力は、壁のように高い木の根も、聳える
        岩をも飛び越えていく。
         山中の道なき道を何も問題にしない。
         問題があるとすれば、どこを走っているのかまったく分からないこ
        とである)。
      • (幼子の様な物言いのくろこさんに姉妹は思わずため息した
        あの様な恐怖を見てしまったのだ、この反応は当然と言えば当然だが
        いささか怖がりすぎかもしれない。
        ふと気付けば館へと向かう道からは大きく逸れている)
      • えっと、くろこさん道間違って…いひゃっ! -- ロワナ
      • (間違えを指摘しようとした所で重二輪は大きく跳ね
        ロワナはまた舌を噛み掛けてしまった。
        半分涙目になりながら指摘をアミにバトンタッチ)。。
      • くろこさん右ぃ!ここ右いってー! -- アミ
      • (体を左側に引っ張られながら、苔むした巨木の幹をタイヤが蹴り、森の中を直角に右へ走った)。
      • わわわ? あ!ちょっと右すぎ少し左になの! -- ロワナ
      • (今度はロワナの指示を受け岩を踏み台に空中で進行方向を修正する。
        そんな風に二人が指示を出す度、重二輪は左右に揺られ
        右へ左へと強い横Gが振り落とさんとしてくる
        それでも姉妹は必死に堪え、ロワナはくろこさんに、アミはロワナにしがみつく)。。
      • (山の中を上下左右満遍なく走り回り、やがて暗い木立を抜けた瞬間に
        トンネルから抜けた時と同じに、音が広がって散っていくのを感じた。
         3人を乗せた重二輪は大きくジャンプして荒涼とした空き地の上へ飛
        び出す)
      • ストォーップ!!
      • (アミとロワナが声を揃えて叫び、バイクは飛沫を上げて着地した)
      • ここ?ここでいいの?うわっ暗っ!何時よ今!? -- くろこ
      • おしり打った……。 -- アミ
      • (アイドリングするバイクシートの上で、アミはおしりを擦る)。
      • ここであってるの、あー私も身体がガクガクする…時間? -- ロワナ
      • (バイクのシートの上で肩をカクカクと回しつつ、くろこさんの問いかけに首を傾げた。
        昼なお暗い森の中そして悪天候、太陽で時間を見る姉妹に正確な時間はわかり様もないが)
      • んー少しお腹すいたから三時くらいかなー? あ、ハウンドちゃんは…… -- ロワナ
      • (それでもお腹の様子で大体の時間を告げ
        それから側車に収まったままのハウンドへと視線を落とす)。。
      • 私、草むしりした後の草なんか乗せたかしら……? -- くろこ
      • ハウンドちゃーん!?しっかりしてぇ?!。 -- アミ
      • にゃー!? ハウンドちゃんが緑の毛玉になってるのー!? -- ロワナ
      • (所謂クサマミレン状態であった、どこかの万博のマスコット状態であった
        しかし考えればこうなって然りの状態かもしれない
        泥と血に塗れた身のまま森の中を突っ切ったのだ、葉や枝が纏わりつくのも仕方の無い事
        良く良く見ればアミとロワナの身や髪、くろこさんのツインテールにも枝や葉が絡んでいて)
      • 剥がさないと…でも運ぶのが先かな…あ…… -- ロワナ
      • (このままの状態では怪我の手当もままならない
        しかし先に安全な場所へと運びこむべきか……
        そんな事を考えながら視線を上げたロワナの言葉が止まった
        そこには三人を圧迫するように屋敷が暗い影を落としてくる
        昨日の今日なのに何か違って見えてしまうのは日記の所為?)。。
      • やっぱりちょっと怖いね……。 -- アミ
      • (ロワナの横でアミも古城のような舘の玄関を見上げた。
          大粒の雨が顔を叩いていたが、下着までずぶ濡れなので今更、気にも
        ならない)。
      • うん、でも今はここしか…… -- ロワナ
      • (館を見上げながらアミと手を繋ぐとこくりと頷き合い
        雨に濡れた顔で笑みを交わす
        まだ恐怖心はある、しかし今は他に頼るべき場所は無く、だから二人は覚悟を決めた)
      • じゃあ、行こうか? うんしょ…アミはそっちを持って -- ロワナ
      • (覚悟が決まれば行動は早い。姉妹は眠ったままのハウンドをなんとか担ぎだそうとする
        しかし水と泥と草に塗れた身は見た目以上に重くて)。。
      • さっきの怪獣は追ってきて無いわよね……。
        ちょっとまって、今屋根のとこまで動かすから……って、やだここお
        化け屋敷………… -- くろこ
      • (重二輪は静かに屋根の下へ入った。
         シャワーのような雨から逃れたくろこが、今更気づいて暗い扉を見
        上げるのと同時に、玄関のランタンが1人でに灯る)。
      • あれ……ここ、誰も住んでないんじゃ……。。 -- くろこ
      • あ、ネオンちゃんなの、だから大丈夫なの -- ロワナ
      • (村でも立ち入り禁止として知られているこの屋敷
        そこへと入ろうとする姉妹に、何がどう大丈夫なのかと困惑するばかりのくろこさん)
      • 入るよー?…おぅっ? -- ロワナ
      • (ノックした後、玄関のノブに手をかけると扉は音も無くすぅっと開かれた
        ネオンの存在を知ってる姉妹も、驚きに思わず変な声が出てしまった)。。
      • (中は明かりが灯っておらずに暗かった。
         元々昼間でも薄暗かったこの舘だから、雨となるとほとんど日暮れ
        と変わらない暗さだ)
      • ねぇ、ホントに入っていいの?誰か引っ越してきたなんて私聞いたこ
        ともないんだけど……。 -- くろこ
      • (二人の後ろから、恐々とくろこが覗き込む。
         暗いエントランスホールの中に、ぼぅ、と灯りが浮かび悲鳴をあげ
        そうになったのだが)
      • うわっ!?出たぁーーッ!? -- ネオン
      • (先に、中に居た奴が悲鳴をあげて飛び上がる。
         ろうそくをもったネオンだった)。
      • うわっ!?何ーーッ!? -- ロワナ
      • (ネオンの大声に姉妹もまた驚いた。姉妹の後ろにいたくろこさんはもっと驚きなさった
        四つの悲鳴が屋敷の入り口から中へと森へと響き渡り
        玄関屋根の下で昼寝をしていた蝙蝠達が一斉に逃げ出した)
      • わわっ? 何?なんなのー? -- ロワナ
      • (訳のわからぬ状況に混乱する姉妹だが
        雨と泥と草に塗れた衣服、金の髪は泥と雨で薄汚れて額に張り付き
        その顔を知った者でも一目見で誰と判別は難しく
        この薄暗い中では幽霊か怪異に見間違えるのも仕方の無い事だった)。。
      • なんだ、あなた達なのね?……ん。 -- ネオン
      • (ずぶ濡れのアミとロワナを覗きこんでから。横のくろこに
        誰よあんた、という視線を向けるネオンさん。
         遠慮無く悪い目つきが、断固とした不機嫌さを表しており)
      • ……くろこっす。 -- くろこ
      • んっ。 -- ネオン
      • (迫力に気圧されたくろこが、答えると、肩に担がれたハウンドを睨む)
      • ……こっちは知らない。 -- くろこ
      • (今度はくろこが、横のアミロワに視線を向ける)。
      • え?えっと、こ、この子は…… -- ロワナ
      • (くろこからの問いかけに姉妹は思わず焦りどもってしまう
        ここへと運ぶ事ばかり考えてどう説明するかまったく考えていなかった)
      • ハウンドちゃん、どろぼ…じゃなくてじゃなくて…えっとえっと私達のお友達! ねー? -- ロワナ
      • (それでもなんとか説明すると、アミと視線を合わせ仲良くハモる)。。
      • へー、見ない顔だけど旅人かなんかかな…。あっそうだよ!このハウンド?さん?
        ぐったりしてるけど、こんなとこ連れて来てていいの?早くミア先生に見せないとまずいんじゃ…。 -- くろこ
      • こんなとこ……。 -- ネオン
      • (ネオンがジト目で片眉だけあげると。暗かったエントランスホール
        に灯りがついた。
         頭上のシャンデリアに、ろうそくが灯り。蜘蛛の巣がちぎれたカー
        テンのように垂れ下がる壁が、不気味に照らしだされ。
         その下に、埃にまみれた甲冑鎧が、皆を取り囲むように並んでいた)
      • (ホールの真ん中に立つネオンを、アミは伺うようにちらりと見る。
         金髪のおかっぱで、黒のいもり柄の振り袖。
         昨日会った時と同じだが、その姿は、なんだかとても恐ろしげにも見
        えて。
         だからアミは、こっそりと首を伸ばすようにしてネオンの背中を覗
        きこんでみた)
      • 何よ、背中に何かついてる? -- ネオン
      • (ネオンの後ろ側は、蝶々結びにされた黒い着物の帯があるだけだった。
        袖の末端が、ぼんやりと透けているが、薄暗いせいかくろこさんは気づいていないようで)
      • なっなんでもないなんでもないよ? -- アミ
      • ねー、聞いてるー?コレどーすんのー? -- くろこ
      • (ハウンドの脈を取りながらくろこが言った)。
      • ふに? あ、うん! どこかに寝かせないと…お水とかお薬とかあるかなー? -- ロワナ
      • (アミの反対側からネオンの背を覗きこんでいたロワナ
        くろこさんの呼びかけではっとした様に振りむいて
        今度は扉の向こうの森を見つめてから、ハウンドへと視線を。
        ハウンドはまだ眠ったままくろこさんに担がれている
        出血は止まった様に見えるが、手や足の怪我は軽いとは言い難く)。。
      • あれ、もしかして君お医者かなんか? -- くろこ
      • 私が医者に見えまして?死人の相手なら得意よ。あと、君はやめてよねネオンよ。 -- ネオン
      • (ねぇやっぱりここダメダヨって顔でくろこはロワナを見た)。
      • んーでも村には…… -- ロワナ
      • (くろこさんの顔にロワナは困った顔を浮かべた
        そして屋敷の敷居の外に広がる森、自分達が来た方向をちらりと見る
        やはりハウンドを連れて村に戻る訳にはいかない
        なによりハウンドを連れたままで村に戻れるかも怪しくて)。。
      • ……さっきのドラゴンが、ハウンドちゃんを追っかけてきちゃうかも。 -- アミ
      • (そうアミが言うと)
      • あれドラゴンだったの!?ゴジラだと思ってたわ、そうでなきゃジュ
        ラシックパークの新作ね。
        よし、それならこいつ今から山に捨ててくるわ! -- くろこ
      • それはダメェ!。 -- アミ
      • 捨てるのダメェ! -- ロワナ
      • (くろこさんの左右からステレオ音声でダメェの声が突き刺さる
        耳をキンキンとさせながらくろこさんが左右を見れば
        これまた姉妹同じ様に頬を膨らませておられる)。
      • ええ〜……だって、あんなの村に来たら危ないじゃん……。 -- くろこ
      • 捨てにいくんなら早くしてよね。あとその二人も連れて帰って。 -- ネオン
      • そんな事言わないでよぉ、今ネオンちゃんしか頼れないの……。
        お願い!あ、飴ちゃんあげるから……。 -- アミ
      • (アミが差し出した飴を、ネオンは口に放り込む)
      • リコリス味ね。
        悪いけど私昨日から、ここ50年で最高に最低な気分なの。とっとと出
        て行ってくれるかしら。 -- ネオン
      • (泣きそうな顔するアミとロワナに、しっしっ、と追い払うネオンで
        ある。
         だが、不意に払う手を裏返して、手招いた)
      • んぃ? -- アミ
      • アミ、あなたそのポケットに何いれてるの? -- ネオン
      • (アミのパーカーのポケットの中身が、怪しく光っている。
         取り出して、軽く泥を払う。
         幾何学模様と、非幾何学的模様が表面に彫り込まれた、金属のよう
        な石の箱が、アミの手の中でゆらめき光っていた)。
      • むぃ?アミそれどうしたの? -- ロワナ
      • (普段ならば「綺麗」と言う感想が来たであろう程にその箱は美しかった
        まるで財宝の中から拾い上げた最高の宝石にも匹敵する輝き
        泥に塗れてなおその輝きは褪せる事無く……
        なのに綺麗と言う感想が口から出る事は無かった
        その輝きに隠された奥にある、何か危うい物を感じていたから)
      • あ、そう言えばさっき…もしかしてその箱…… -- ロワナ
      • (ふと重二輪に乗りこむ前の事を思い出した
        急ぐ中、屈み何かを拾い上げる妹の姿を)。。
      • うん、さっき森の中で拾ったんだけど。 -- アミ
      • (ロワナにうなずき、ネオンの方へ振り返ると……。ネオンは、忌々し
        げに箱を睨んでいた。
         彼女の影が、壁に大きく広がっている。
         まるで、巨大な蜘蛛を背負ったような、あるいは不気味に捻くれた
        巨木に似るネオンの影。
         恐ろしげな形に、思わずアミが、声を上げそうになった瞬間、横か
        ら箱を掴む手が伸びる)
      • ハウンドちゃん!? -- アミ
      • (酷い火傷を負ったその手は、ハウンドの手であった)。
      • …え?なんで? -- ロワナ
      • (ネオンの影に日記を思い出し恐怖が心を占めようした時
        それは起きた。言葉は違えど姉妹の思う所は同じ、困惑と驚き)。。
      • (ハウンドは息を吹き返し。アミの手から箱をもぎ取った。
         手から、焦げた肉が剥がれ落ち、火傷の上を新しい皮膚が、
        目に見える速度で再生していた。異常なほどの回復速度である。
         充血して腫れ上がった、獣のような黄金色の瞳に、睨まれた二人
        は言葉を失い)
      • あ、あれ?いつの間に……。
        ちょっと君、大丈夫なの……おぅわっ!? -- くろこ
      • (不用意に近づいたくろこは投げ飛ばされて床に転がった。
         ハウンドは、箱を……祭壇を床に叩きつけるように押し付けた。
         祭壇を中心に景色が圧縮され、そして再び膨張する。鼓動のように
        圧縮と膨張を、空間が何度も繰り返す。
         目眩を誘う揺らぎが何度も、何度も。何度目かで)
      • オオオオオオオオッッッ!!!! -- ハウンド
      • (ハウンドが低く重い獣の声で吠えた。
         少女の姿が、金色の毛を逆立てた巨大な虎の姿と重なって見える。
         幻影の虎は、牙を剥き、吠え立て。咆哮は炎となって燃え上がり。
         炎が渦を巻き、弦の形を取る。吹き上がって葉を成し、突端に花を
        開く。
         それは、密林の光景だった。
         炎のごとく輝く密林が、祭壇を中心に湧き上がり、エントランスホ
        ール全体を飲み込んだ)。
      • おぅっ!? あつ、あつい…あれ? 熱く無いの? なにこれ? -- ロワナ
      • (突然の出来事に思考が追いつかない、まるで夢を見ている様な感覚
        朝の目覚め前の一時に見る不可思議な夢にも似た、でもこれは現実。
        灼熱の輝きで我に返ると、自分達を包むこれまた不可思議な光景に混乱してしまう
        自分達はネオンの屋敷にいたはず、なのにこの輝く木々は一体?
        もし太陽に森があったらこんな感じだろうか?困惑のままそんな事を思う)。。
      • うわっわっ!?なに重たい!……わっ!? -- アミ
      • (アミとロワナの足を弦が締めあげ、足元からは炎の樹木がせり上が
        って来る。
         逃げ出そうともがいても、足は底なし沼に深くはまったように動かせない。
         バランスを崩したアミは、転んで両手を突いた。するとその腕にも
        茂みは這い上がってくる)。
      • アミ? わっ動けないの! -- ロワナ
      • (アミを助けようと手を伸ばすが届かない、足がその場から上がらない
        気付けばロワナの足にも弦と茂みが絡みついている
        もがけばもぐほどに足は飲みこまれ、そのぞわぞわとした感触がくすぐったい)
      • ハウンドちゃんやめて!ダメだよー! -- ロワナ
      • (ハウンドがこうする理由は知っている
        それでも、こうされた今でもハウンドの事を信じたくて)。。
      • (ロワナとハウンドの目が合う。
         ハウンドは、血走っては居るが、静かな目でじっと見つめていた。
         突然、二人の間を黒い線が走る。輝く炎の木々は、その線に触れた
        途端に、消し飛んで火の粉になって舞った。
         黒い木の根だ。
         それが、触手のように動き、ハウンドを打ち据えると、巨大な虎の
        幻影もかき消される)
      • 私、機嫌悪いって言ったでしょう。 -- ネオン
      • (黒い根は、ネオンの背中から生えていた。
         下等な軟体生物の触腕のごとく、無数に生えた不気味な根を使って。
        ネオンは、まとわりついた木々を払い除ける。
         そして、舐めていた飴を、苛立たしそうに奥歯で噛み砕いた)
      • ネオンちゃん……それ……っ。 -- アミ
      • (炎の密林は未だ消えず。
         赤々と照らしだされたネオンの姿は、業火の中に立つように見えた。
         日記にあった、祖母レインが見たであろうネオンの最後の姿に重な
        るようで……。
         だから、黒い根の一本が自分の方へ伸びてきた時、アミは恐怖を感
        じた。だが)
      • ぐえっ!?おわっ抜けたー! -- アミ
      • (ネオンの黒い根は、アミを炎の樹木の拘束から引っ張りあげた。
         同時に、ロワナにまとわり付いたものも、払い散らす)。
      • わわっ? 助かったのありが…はぅ!? -- ロワナ
      • (やはり思い出すのは日記の事、迫る黒き根に思わず身を固くしてしまう
        しかし払い散らされたのはロワナの身で無く、身を拘束していた炎の樹木。
        ネオンの黒き根は破壊をもってロワナをそしてアミを解放したのだ。
        それだけは終わらない、黒き根は驚くロワナの身を絡め取るとひょいと持ち上げた)。。
      • お礼は要らないわ。別にあなた達を助けたくてやったわけじゃないもの。
        私、大嫌いなのよね、こういうの。 -- ネオン
      • (黒い根で、アミとロワナを左右に抱え上げながら、ネオンが言った)
      • この鬱陶しい雑草に飲まれていたら、あなた達の命は、なかったわ。
        友達はよく選んだ方がいいわね。
        悪い子には、お仕置きが必要よ。 -- ネオン
      • (ふらふら、と起き上がるハウンド目掛け、黒い根の触手が殺到する。
         ハウンドは、爪で根を切り払い。口を大きく開き牙で噛みちぎった。
         だが、それは濁流の中でもがく程度の抵抗にしかならず。黒い根は
        あっという間にハウンドの体を縛り上げた)
      • がっ…ッ!!! -- ハウンド
      • (ハウンドの口から血しぶきが散る)
      • 少しずつ締めあげてあげる。
        すぐには死ねないよ? -- ネオン
      • (黒い根が、徐々に締めあげられる万力の如く、ハウンドの肉と骨を
        きしませた)。
      • ネオンちゃんやめて! ハウンドちゃんが死んじゃうの! -- ロワナ
      • (血しぶきを吐きだすハウンドに姉妹は絶叫した
        友達は選べと言われたが、捕らわれそうになったが
        姉妹にとってハウンドはネオンと同じくらいに友達で
        その想いは一方通行かもしれないが、それでも……)
      • やめて!やめて!うにぃ………おぅっ!? -- ロワナ
      • (ロナワは叫びながらもがく、自分を絡めたままの触手を解こうと
        あっさり抜けた。ロワナはちゅるんっと音ともに床へと
        ネオンの意識がハウンドに集中した事で拘束が緩んだのかもしれない。
        かくして拘束から抜けたロワナは打ったお尻をさすりながら立ち上がり駆け出した)。。
      • ロワナ!……ぐっぬぬ……ふぅーッハ!! -- アミ
      • (アミは、縛り上げられたまま身動きがとれず。顔が真っ赤になるまで
        黒い根を押しても引っ張っても解けないので。
         大きく口を開くと、ハウンドの真似をして、思いきり噛み付いた)
      • ひっ!?
        何するのよ!? -- ネオン
      • (すると、何故かネオンの黒い根は、解けて。
         アミは、真下の地面にお尻を打った)
      • イッ……!!ん? -- アミ
      • (落下すると、すぐにまた輝く樹木が、飲み込むように取り囲み始め
        たが。
         アミは、急いで立ちあがり、足元にあった箱をロワナへ蹴った。
         それは、輝く密林を発生させたあの箱だ。
         それがなんなのか、全く知識は無い。ただ、これが現状を変えられる
        アイテムだという直感だけがあり)
      • ロワナ!パス! 。-- アミ
      • うん!わ…わわ!? はふぅ…セーフ -- ロワナ
      • (アミに大きく頷けばドッヂボールの要領で飛んでくる箱を受けとめた
        しかし、思わずバランスを崩し転びそうになってしまう
        それでもなんとか体勢を立て直すと額の汗をぬぐう)
      • おおぅ?ネオンちゃんたんま、たんまなのー! -- ロワナ
      • (安心したのも束の間
        ロワナとアミを再び捕えるべく黒き根が大蛇の群れの様に迫って来た)。。
      • もう一回! -- アミ
      • (迫る黒い根に、アミは再びがぶぅ、と噛み付く。
        二人の周りから、根が逃げるように退いた)。
      • アミないす! 今なの、そぉい! -- ロワナ
      • (根が引いた事でネオンの身が僅かに無防備となった
        それを好機とロナナは箱をネオンへと投げつけた
        箱にどんな効果があるかわからないが
        アミが思った様にロワナもまたこの箱が現状を変えうる力を持つと)。。
      • (投げつけられた箱は、ゆっくりとネオンへ飛んだ。
         極めて鬱陶しそうに黒い根が、箱を弾こうとした時。
         玉光が弾けた。
         七色に分割された光の帯は虹である。虹が箱を中心に円を描く)
      • これは……!だめぇ!!見ないでぇ!! -- ネオン
      • (ネオンが叫ぶ。
         燃え盛る炎の密林は、虹の中へ消え去っていた。
         辺りに広がるのは、一切の無である。
         天井も壁もない。エントランスのシャンデリアも無いのに、真っ暗
        闇の中で、自分の手の皺まで見えるほど明るい。
         光が、光であるという物理的法則を忘却した時、世界の根底は泥沼
        の上に建てた砂の楼閣の如く脆弱となる。
         あるいは、すでになったのだ。
         星の世界へ届く摩天楼。
         甲虫類の知的生命体。
         終末戦争と荒野。
         人類の時代。
         人類前の時代。
         億年の時を支配する竜と、歩く爬虫類の時。
         甲殻類の海。
         そして世界は蠢く泥濘へ回帰する。
         貪り、貪りあうだけの、知性も感情も持ち合わせない原始の生命の
        蠢く泡の中で、そそり立つ石版があった。
         その素材は石ではなく、今現在、そしてこれから未来の、どんな知性
        でも解明できない、素材でできていた。
         刻まれた言葉は、人類が知恵を発して以来、有形無形に関わらず生
        み出した知識を全て束ねたよりも多くの情報量を有していた。
         黒く泡立つその山は、ちっぽけな存在には、山のように見えるそれは
        1個の生命である。
         彼の者の巨体から、こぼれ落ちるフケのごとく、泡だつ原始の生命が
        生まれ落ちるのだ。
         永遠の夜と昼にのたうち回るその姿は、黒い爬虫類にも似て。
         石版はその中にある)。
      • これ…なに…? -- ロワナ
      • (目をパチクリとしてからアミの方を見る
        自分のした事で何かが起きた、しかし何が起きているのかわからない
        それでもこの光景は頭のどこかで知っている様にも思えて)。。
      • わからない……でも……。 -- アミ
      • (そう言いながら、アミはふらふらと立ち上がった。
         濁流のごとく押し寄せた景色が流れ去った後。辺りは何処までも続
        く浅海の真っ只中であった。
         遠くに見える陸地は茶色い岩の崖だけで、夕方か朝焼けか判断でき
        ない空が地表に覆いかぶさっている。
         惑星の上から、すべて消え去ったような茫漠とした空虚さがあった。
         その、広大な空間で、唯一蠢き、生きているのは。天へそびえ立つ
        黒い泥の山だけである。
         アミは、その麓へ引き寄せられるように、浅い海に膝まで浸かりな
        がら歩く)。
      • これを見てるとなんだか頭が…… -- ロワナ
      • (ぼんやりしていると心が何かに飲まれそうに。心が吸われどこかへと攫われそうになる感覚
        ふと気付けば妹が…アミがふらふらと奥へと進んで行くではないか)
      • …あ?アミ!行ったらダメなの…!ていっ! -- ロワナ
      • (パンッと自分の頬を両手で叩くと
        足で海を掻き分ける様にしながらアミを追いかける
        そして追いつくとそのままアミの頭頂部に軽く空手チョップ)。。
      • おぅ!?あ、あれ……ロワナ?
        なんだか、ぼぅっとしちゃって……ん、なにこれ鼻血? -- アミ
      • (鼻血を手の甲でこするアミの背後で、地響きのような音がする)。
      • アミ大丈夫? はいハンカチなの
        私も気を抜くとぼぉっとしちゃうの、気を抜かない様にしないと…ふにっ! -- ロワナ
      • (強く叩きすぎたろうかと反省しつつハンカチを渡す
        アミに注意を促すと自分の頬をもう一度叩く)
      • …むぃ、なにこの音? 逃げた方がいいかも? -- ロワナ
      • (そして地響きを聞けばアミの手を握りその場から離れようと)。。
      • むこうのお山の方から……。 -- アミ
      • (まだぼうっとするアミが、手を引かれながら、後ろを振り返ると)
      • (ゆっくりと、黒い泥山の表面が崩れて滑り落ちていた。
         山があまりに巨大で、周りの風景は遠近感を欠いていたせいで。す
        ぐ側にあるように見えていたが、実際はかなりの距離があったようだ。
         高く高く体積した泥濘が、のたうつ巨体に崩され、斜面の上を滑り
        落ちてくる。
         徐々に地響きが高まる。黒い雪崩が浅海に達した時、壁のようにそ
        そり立つ飛沫があがった。
         これは不味いのではないか、そう思った次の瞬間には、水平線を端か
        ら端まで覆い尽くす黒い津波が、立ち上がる!)
      • ちょっ……無理無理無理ぃ!死んじゃう絶対死んじゃうって!! -- アミ
      • あ、アミ逃げるの!だっしゅなの! -- ロワナ
      • (ロワナはアミの手を握ったまま駆け出した
        海に足をとられ走り辛い、それでも逃げねば妹を守らねばと言う気持ちが足を前に進ませる)。。
      • (だが、子供の足で逃げきれるはずもなく。
         何処までも続く水平線の何処へ逃げ込めばいいというのか。
         二人は、あっという間に黒い津波の中に飲み込まれた)。
      • (津波は海を撹拌しそれは激しい水流となって姉妹を翻弄する
        それでも姉妹は離れまいと繋いだ手を引き寄せると互いを庇いあう様に抱きしめる)
      • どんどん沈むの…… -- ロワナ
      • (暗く深い海の底へと落ちて行く
        いや、もしかしたら浮き上がっているのかもしれない、上下の感覚が薄れる
        不思議と息は苦しくない
        もし互いの心音が無ければ生きているのかすら曖昧になっていたろう。
        暗い海の中に光が灯った
        夜光虫の光、原始的な生命達が姉妹の周囲をくるくると舞い踊っていた
        その光を見つめていると保っていた物が曖昧になって行く様で)。。
      • (光の輪が加速しはじめた。
         星のように散らばっていた灯りは、渦巻きとなって遥か底の一点へと
        目掛けて吸い込まれていく)
      • 底に何かあるよ。 -- アミ
      • (暗い中にあってさらに暗い点があった。
         そこへ光が、栓を抜いた湯船の水のごとく落ちていく。
         黒の中にあって、周囲に一切なじまない黒。
         それはまるで、可視不可視いずれの光をも逃さないブラックホールの
        ようであった)
      • 引き込まれる!? -- アミ
      • (引力に気づいたとき、アミはロワナの体を強く抱いた)。
      • 引き込まれるの!アミ! -- ロワナ
      • (ロワナもアミの身体を強く抱きしめた
        そのまま足で水を掻く、しかし幼き姉妹ではその力に抗う事は出来ず
        ぐんぐん、ぐんぐん、、全てが黒き一点へと引きこまれていく)。。
      • (そして二人は宙へ投げ出されていた。
         硬い大理石の床の感触が尻を打つ)
      • 痛ッた!?……あれっ戻った? -- アミ
      • (そこは薄暗い、ネオンの舘のエントランスホールだった。
         無限に続く夜と昼も、大浅海も無い。
         ホールの中央に、怪しく光を放つ、あの小さな箱があった。
         箱を挟んで反対側に、ネオンもアミ達と同様に倒れている。背中から
        生えていた黒い根は消えていた)。
      • うーまたお尻打ったの……、戻ったけどさっきのは…? -- ロワナ
      • (アミと抱き合ったまま目をパチクリとする
        先までのは一体なんだったのだろう? 夢か幻か……
        わかるのはそれが箱を投げた事で起こったと言う事のみ)。。
      • 何で……なんなのよこの箱。 -- ネオン
      • (ネオンは、目を見開いてホールの中央に転がる箱を見た。
         声が若干上ずっている)
      • 祭壇だ…。 -- ハウンド
      • 祭壇? -- アミ
      • (アミの手が、ロワナの服をぎゅっと掴む)
      • そうだ。 -- ハウンド
      • (柱に持たれるようにして立ち上がったハウンドが、掠れた声で言う。
         ブーツが、静まったホールに足音を立てた)
      • 神を祀り、囚える檻だ。 -- ハウンド
      • (重たい足音が、引きずるように一歩一歩。
        未だ怪しく輝き続ける祭壇へと近づいていく)
      • そう、それでなのね。
        私はこれを知っている……。 -- ネオン
      • (祭壇は、ハウンドの目の前で、ネオンに取り上げられた。
        ネオンの体が宙に浮かんでいる。実態の無いホログラムのように。
         黒い振り袖の先端は、煙のように朧になって虚空へ消えていた。
         ネオンが、両手で祭壇を小さく胸の前に掲げると。再び、その背中に
        悍ましい黒い根が、空中に
      • ネオンちゃん? 何を…それ使うのダメだよ
        さっきよりもっと良く無い事が起きる気がするの…… -- ロワナ
      • (服を握るアミの手に触れると大きく頷いて
        ネオンへと呼びかける。細かな理屈はわからぬがあの箱…祭壇は良く無い物
        それだけはわかる)
      • ハウンドちゃんもやめようよこんな事…… -- ロワナ
      • (そしてハウンドにも
        ハウンドをここへと連れて来たのは自分達、ネオンに出会わせてしまったのも
        だから二人を止めなくてはと、手遅れになる前に)。。
      • そうだよ!ネオンちゃんもハウンドちゃんも……みんな私達と友達に
        なってくれたのに……。 -- アミ
  • 私は、友を裏切ってここまで来たんだ。大切な人ももう居ない……。
    止まれない理由しか無いんだ……! -- ハウンド
  • (ハウンドだけが、二人に答え。牙の生えた口から血を吐きながら、その血を噛むように言った)
  • 次、私を噛んだら今度は刺し殺しますわよ。 -- ネオン
  • (そして、ハウンドを横目で睨みながら、ネオンが言う)
  • でも、あなたが何をしたいのかは興味ないけれど。
     気が変わったの、条件しだいでは話しを聞いてやってもいいわ。
    私から、この背中の忌々しい雑草を引き抜いてくれるのならね。 -- ネオン
  • (ネオンは、上から見下ろしながら祭壇を、ハウンドへ差し出す。
     しばし睨み合い、その上に血まみれの手が乗せられた)
  • ネオンちゃん!おばあちゃんに頼まれたの、だから私達はネオンちゃ
    んを……。 -- アミ
  • 悪いけど。私、あなた達の事それほど好きになれないみたい。。 -- ネオン
  • いいよ!それでも! -- ロワナ
  • (ロワナは叫んだ。エントランスホールに何度も木霊するほどの大きな声で)
  • 私は…私達はネオンちゃんの事好きだから!
    ハウンドちゃんの事も好きだから! -- ロワナ
  • (相手が自分達を嫌いでも、自分達も相手を嫌いになってはいけない
    ロワナは直感的にそう思った、だから大きな声で叫んだ)。。
  • そう……。 -- ネオン
  • (浮かんでいた宙空から、音も無く下り、ネオンは素足で床を踏んだ。
     俯いていて、切りそろえた金色の前髪が表情を隠す。
     ゆっくりと、顔を上げたネオンは、笑っていた。
     そして自分の表情を確かめるように頬に指をあて)
  • そういう所も本当に似ているのね、姉様に。
    でも私はもう、そんな言葉なんか信じない。
    だって、私は……1人で死んで、今までずぅっと1人なの。
    そうよ、これからも。 -- ネオン
  • (頬の指先に触れた部分から、ネオンの顔に焼けただれた跡が広がっ
    ていく)
  • あの子達が必要なのよね。
    かつて、私が生贄にされたのと同じように。 -- ネオン
  • (顔から手を離し、ネオンが冷たい声で言った。
     黒い根は太く束になって一斉にアミとロワナへ迫る)。
  • まって!本当に一人になっちゃう…… -- ロワナ
  • (必死に叫ぶも声はネオンに届かず、それでもネオンの瞳が悲しそうだから
    でもこれ以上何をすればいいのかわからず
    戸惑いのまま、迫る根からアミを守る様に抱きしめて……)。。
  • (その瞬間、甲高いエグゾーストと、横殴りの風がアミとロワナに吹
    きつけた。
     二人が、千地に乱れる金色の髪を顔に絡ませながら見上げると。そ
    こには、バイクの前輪を暴れ馬のごとく跳ね上げたくろこが)
  • くろこさん!? -- アミ
  • アミロワちゃんは、ぼさっとしてないで早く乗る!
    そんでそっちの奴は動かない!当たるよ! -- くろこ
  • (トラック並の前輪が、黒い根を粉砕しながら床に落ちた。
    黒いコートの裾を翻し、くろこは重二輪から、黒い角棒のような物を
    引き抜き、銃のように構え。
     撃った!
     ドォンッと重たい発砲音が、天井の高いエントランスホールに乱反射
    する。発砲の瞬間、カメラのフラッシュよりも眩しく銃口が光った)
  • ちぃっ! -- ハウンド
  • (ハウンドが、横へ飛び退く。
     散弾が柱を削り、甲冑鎧はガランガラン、とけたたましい音を立て
    て崩れる。
     黒い角棒のようなショットガンから、排莢された薬莢が床に跳ねた)。
  • なんかすごいの撃ったの!? そだ…アミ! 今は逃げるの! -- ロワナ
  • (雷鳴の様に轟く発砲音に驚き飛び跳ねる姉妹
    そしてネオンをハウンドをちらりと見ると今はどうしようもないと
    アミの手を引きくろこさんの重二輪へと)。。
  • 逃がさないわ。 -- ネオン
  • (サイドカーへ逃げ込もうとする二人の目の前に、巨大なドリル状に
    なった根が降り落ちる)
  • わぁっ!? -- アミ
  • (黒い根が、サイドカーに突き刺さり、粉砕された破片が弾け飛ぶ。
    くろこがシートから飛び降りるとバイクだけが動き出した。
     サイドカーを切り離した重二輪が、床で火花を散らしながらターン
    をしてアミとロワナへ迫った根へ体当たりをかます)
  • バイク壊すなバカァー!!!! -- くろこ
  • (くろこさんはちょっと泣きそうになりながら、サイドカーを粉砕した
    根へ目掛けてショットガンを連射した。
    木の幹程もある根が、破片をまき散らして銃撃で切断される。
     一瞬、ネオンが怯む。チャンスだ、くろこがそう思った時。
     柱の影からハウンドが飛び出し、襲いかかってくる。
    くろこは、飛び込んで来たハウンドの顔面に銃口を向けた。
     だが、ショットガンは引き金を引くより先に蹴り上げられ、天井を
    撃ってシャンデリアのろうそくを何本か吹き飛ばした。
     大きく足を蹴りあげたハウンドに、すかさず足払いを仕掛ける。
    ハウンドは、片足だけで宙に身を踊らせ難なく回避する)
  • ゴォァアアアッ!! -- ハウンド
  • (血を飛ばしながら、牙を剥く。ハウンドがまさに喰らいつこうとした
    その瞬間、眼前に銀色のものが割り込んだ。
     発砲音がホール内に甲高く響く。
     頭を傾けたハウンドのすぐ側を、50口径弾がかすめた)
  • アミ!ロワナ!今よ!こっちへ!早く! -- くろこ
  • (くろこが、深くしゃがんだ状態から跳ね起きながら、拳銃を続けざまに2発撃つ。
     弾丸を回避してハウンドは後ろに跳びさがる)。
  • …は?はいなの!アミ! -- ロワナ
  • (粉砕の衝撃で驚き尻餅をついたまま呆けていた姉妹
    くろこさんの呼びかけで我に返ると
    互いに手を繋ぎくろこさんの待つ玄関へと駆けて行く
    背後で何度も破砕音が響くが今は振り返っている余裕は無い
    ただひたすら駆ける)。。
  • もう何がなんだかわかんなーい! -- アミ
  • いいからさっさと走るー! -- くろこ
  • (アミとロワナが、くろこの横をすり抜けて玄関へむかって走る。
    二人の背中を守り立つくろこの右手にはショットガン、左手に拳銃。
     それを、とにかく撃ちまくった。
     拳銃を撃ち尽くすと、ショットガンを放り上げ、弾倉にスピードロ
    ーダーを押し込む。
     その一瞬、鋭く槍のごとく黒い根が迫る。だが、無人の重二輪がく
    ろこと根の間に飛び込み盾となり弾く。
     火花が散った。
     装填の完了した拳銃が火を吹いて、黒い根は千切れ飛んだ。
    落ちて来たショットガンをキャッチ、くろこはシートへ跨り、重二輪の
    航空機に似た音のするエンジンを強く吹かす)
  • 飛び乗って! -- くろこ
  • (玄関へむかって走るアミとロワナへ、手を伸ばしながらくろこが横
    をすり抜けるように加速する)。
  • にゃー! はわっ!? アミ!私の背中につかまってー! -- ロワナ
  • (轟き続けるショットガンの雷鳴に猫の様な声を上げるロワナ
    くろこさんの声に頷くとアミに声をかけ、くろこさんの手を取った
    その勢いのままくろこさんは姉妹を引っ張りあげると
    釣りあげられた魚の様に姉妹はくろこさんの背に収まった)
  • へふーっ…アミだいじょうぶ?…あ…… -- ロワナ
  • (ほっと息を吐きながら首を回しアミに声かけると
    アミの肩の向こうにネオンそしてハウンドの姿が見えた)。。
  • (そして、ハウンドもまた、ロワナ達を見ていた。
     一瞬だけのことである。
     血と泥に塗れた少女は、己の傷を少しも顧みずに、獣の目で睨んで
    いた。
     彼女が、今の自身になんの興味も持たないのは。きっとそこが、あり
    ふれた当然の世界だからなのだ。
     雷鳴のような轟音がロワナのすぐ側で響く。
     ショットガンに穿たれた、黒い根が飛び散って、ハウンドの姿はその
    後ろに隠れた)
  • お願いだから振り落とされないでよ! -- くろこ
  • くろこさんなんで銃とか持ってるのー!? -- アミ
  • 熊避け! -- くろこ
  • (滝のような雨の中へ、3人は飛び出した。
    荒々しく着地したタイヤが、泥の飛沫を跳ね上げ、一気に加速する。
     速度を緩めず。閉ざされた舘の門扉を、重二輪は突き破った。
     雨の飛沫と、黒雲に閉ざされた山道は、すでに夜のように暗く。
     全速力で走るくろこ達の頭上で、稲妻が光った)

La Tormenta Edit




    • (宗右衛門は急ぎ足で坂道を歩いていた。
       上を見上げると、レインコートのフードを雨が叩く。
       彼は、アミとロワナを探している。二人に、家に居るように言って
      あったのに、いつの間にか居なくなっていた)

    • ……。 -- 宗右衛門
      • (あたりに人影がないか、顔に刻まれた皺をさらに深くして見回す。
         雨だ、日暮れも迫ってますます暗い。
         眼下には、斜面の牧草地と畑が海まで続いて、僅かな街灯と民家に
        ぽつぽつ、と灯りが灯っている)
      • どこへ行ったんだ…。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が、用事も無く村の山側へ来ることはほとんどなかった。
         子供の頃からそうだ。あまり山へ近づきたくないのだ。
         それに、今日の雨は、天候に敏感な漁師である彼の肌に、悪寒すら
        感じさせていた。
         それは遠い日に刻まれた恐怖によるのかもしれない)
      • アミ!ロワナ! -- 宗右衛門
      • (濡れた足元から這い登るような怖気を振り落とすように。
        彼は孫の名を呼んだ。
         その時である、雨の中から、へッドライトが1つ近づいてくる。
         目を凝らしても乗っている人物がよく見えない。
         それもそのはずだった。バイクは真っ黒で乗ってるのも全身黒尽くめ
        の女だからだ。
         くろこさんであった。
         顔まで真っ黒で、フェイスペイント状態である)。
      • (名前以上に黒に塗れたくろこさんの背には少女二人の姿、アミとロワナの姿
        姉妹はくろこさんにもたれかかる様にしがみ付いていた
        しかしその表情はぼんやりとしていて、まるで生気が無い
        虚ろな瞳のままに流れる風景を見つめる姿は死人の様にさえ見える)
      • あ…… -- ロワナ
      • (そんな姉妹を呼ぶ声があった。優しくて温かくて懐かしい声
        それに答える様に姉妹は声を、ほぼ同時に小さな声を上げた
        それは姉妹がまだ生きていると言う証、まだこちらいると言う証)。。
      • おじいちゃん! -- アミ
      • 無事だったか……。 -- 宗右衛門
      • (くろこの後ろから、アミとロワナが顔を出すのを見て、宗右衛門は
        安堵したように言った。
         くろこが停車させると、すぐさま駆け寄る)
      • 今まで何処行ってたんだ!? -- 宗右衛門
      • (今度は少し語気を強めて言いかけたところで)
      • ううー……バイク…バイクがぁ……ッ。 -- くろこ
      • (何故かまっくろくろすけなくろこさんが滴る雨よりも激しく、滂沱
        として泣いて居るものだから。続く言葉が思わずひっこんだ)。
      • おじいちゃ…うわーん……! -- ロワナ
      • (唖然とする宗右衛門に抱きつく者があった、アミとロワナだ
        姉妹は重二輪から跳ねる様に降りると宗右衛門の腰を左右から挟みこむ様に抱きついた
        そして宗右衛門の顔を見上げると同時に泣き始めた、雨音を打ち消す程の号泣
        姉妹を赤子の時から見守って来た宗右衛門も始めて聞くほどの激しい声
        まるで押さえていた物すべてを吐きださんとする程の号泣)。。
      • どうしたってんだ……。 -- 宗右衛門
      • (説明を求めるようにくろこの方を見ても。くろこまで子供のように泣
        いて居るのでどうしようもない。
         彼は、黙ってレインコートを脱ぎ、姉妹に被せるように羽織らせた)
      • 帰るぞ、風邪ひいちまう。 -- 宗右衛門
      • (それから、皺だらけの大きな手を、二人の背におく)。
      • おじいちゃ…えっく……
        あのねあのね…ネオ…えっくえっく…ふぇぇーん -- ロワナ
      • (宗右衛門の問いかけに姉妹は言葉を返そうとするも
        潮の香りするレインコートを羽織ればまた泣きだしてしまう
        今は何も考える事も語る事も出来ない
        皺の刻まれた大きな手の温もりだけが姉妹の心を支える全てにも見えて
        だからせめて頷くだけもしようと、姉妹は泥と涙に塗れた顔を上下に振る)。。
      • そんで……あんたも、大丈夫かい? -- 宗右衛門
      • ぅぅーぐすっだいじょうぶー……。
        私お店帰るから、あとよろしくぅぅ……。 -- くろこ
      • (くろこは三人の横を、ヨタヨタと通り過ぎていく。
         大型バイクの上で背を丸めた後ろ姿は、雨に打たれ哀愁をかもしだし
        ていた。)
      • ……帰ろう。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、もう一度、泣きじゃくる姉妹の背をそっと押した)。
      • えっく…うん…… -- ロワナ
      • (普段ならばくろこさんの頭を撫でる等したであろう姉妹だが
        今は自分達の事で一杯一杯で
        背を押す祖父の言葉にうなずくと濡れて重い足をゆっくと前に進めた。
        暗く重い雲の向こうにあった太陽は山の向うへと顔を隠し
        村はいよいよ夜の帳に覆われ様としていた)。。


      • (くろこが店に帰り着いた時、すでに夜だった。
         雨は少し弱まったかわりに、やや風が出てきている。
        地中海の農家を思わせる洒落た建物の裏を通り過ぎ。密接して建つ日本
        家屋の脇に、くろこは、重二輪を停車させた)。
      • …待ち人来たらず…少し違いますね…… -- しろこ
      • (そんな日本家屋の奥で少女は呟いた
        普段ならばくろこさんが座している店舗スペースレジ横のくたびれた丸椅子
        そこに金の髪を纏ったメイド服姿の少女があった、しろこさんだ
        彼女の脇の置かれたティーポットは空となって随分経つ
        蒼と金の瞳で外を見るも、日没後の村に見える物は少ない
        そんな風にしろこさんがぼんやりとしていると
        雨音に紛れる様にしてその音は聞こえた)
      • ……あ、この音は重二輪の音ですね…でも…? -- しろこ
      • (それは重二輪のタイヤが転がる音、しかし聞きなれた音とは何か違う
        どこかガタピシとした音が混じり聞こえて)。。
      • (そして、ダメ押しをするかのように、ボンッ、という爆発音と悲鳴が
        響いた。
         日本家屋の1階はコンビニのように改造されているから。しろこから
        は、暗い窓の外を悲鳴の主がべそかきながら歩いてくるのが見えて)
      • ぬぁぁぁーん、しろこぉ!!ばいく壊れたぁぁあ!! -- くろこ
      • (商店の自動ドアが開くなり、くろこは泣きながら言った。
         ぼろぼろの見た目も相まって、まるで泥道で転んだ小学生であった)。
      • …何? く、くろこ…一体どうしたのですか…? -- しろこ
      • (村人からはお人形の様だと言われるほどに
        めったに表情を崩さないしろこさんが目を丸くした
        立ち上がり外へと向かおうとするが、それよりも先にくろこさんが入って来た)
      • 事故ですか…? 怪我は…落ち着いてください……
        私はここにいますから…… -- しろこ
      • (見ればすぐにただならぬ状況と言うのがわかる
        まるで戦場を掻い潜って来たかのようにコートの所々は破け
        愛らしいはずの青のツインテールには枝葉が絡んでいる。
        だから先にすべきは落ち着かせる事
        くろこさんの背に手を回すと頭をそっと撫でて)。。
      • うぅっ……ぐす。事故じゃないー、お化けにやられたー。
        うぇぇーん、おみせさぼったから親父にもおごられるぅぅ……。 -- くろこ
      • …すいません、中に入ってもいいですか?
      • (泣きじゃくるくろこの後ろから声がした)。
      • …お化け…ですか…? お店の方なら私が…はい…? -- しろこ
      • (くろこさんの頭を撫でながら、くろこさんの語る言葉に首を傾げるしろこさん
        確かにこの村には様々な怪異の噂はあるが、やられたとはどういう事だろう?
        店の事もだがそれより先にくろこさんの治療等が先だろうと
        そんな事をしろこさんが考えていると新たな声がした)
      • 失礼しました…この様な状況なので……
        お会計はセルフになりますが…… -- しろこ
      • (しろこさんが振りむけばそこには見なれぬ少女の姿
        しかしどこかで見た事のある様な、既視感とはまた何か違う感覚)。。
      • …ふむ。
      • (ビニール傘を、傘立てにぶっさし。ストレートな長い黒髪をなびか
        せて、小柄な少女は二人の横を通り過ぎる。
         黒を基調とした上品なブレザー風の制服を着ていた。
         村にはもちろん、隣の街にもこんな制服の学校はない)
      • …セルフ?
      • (レジカウンターの前で、少女は、肉まんや唐揚げのホットスナック
        の入ったボックスを指さしながらしろこに視線を向ける)。
      • はい…お金はそこの…レジの横においてください…… -- しろこ
      • (少女の問いかけにしろこさんはこくりと頷く
        村の外から来た者には馴染み薄いがこれもまたこの村でのやりかた
        嘘やごまかしを微塵も考えぬやり方)。。
      • …ふむ。
      • (少女はもう一度頷くと、全く躊躇なくレジに入り。肉まんあんまん、
        カレーにピザまん、そしてファミチキやLチキっぽい何かに、串物まで。
        片っ端に紙袋に放り込んで行く。
         戸口のところでガチ泣きしてる人がいるのに、特に触れないのは、
        ある意味都会的である)
      • …おふりはいいでふ。
      • (レジの上にお札を3枚置くと、肉まんを頬張りながら少女は、しろ
        ことくろこの横を通り過ぎる。
         戸口から出た彼女が、片手で器用にビニール傘を開くと。暗がりの
        中から肩に飛び乗ったものがあった。
         小さな猫だ。
         丸い瞳で二人を見つめながら、肩に乗った小さな猫は、少女と一緒に
        雨の暗がりへ消えていった)
      • ううー…まいどありぃ……ぐすっ。
        あれ……今のアトイさん? -- くろこ
      • (鼻をすすりながら、戸口を振り返り、くろこが言う)。
      • …まいどありがとうございます……え…? -- しろこ
      • (少女一人と仔猫一匹で食すにはあまりにも多すぎる量
        唖然としたまま少女と仔猫を見送ったしろこさんだが
        くろこさんの言葉を聞くと振り返りもう一度去って行く少女を見た)
      • 違うと思います…けれど…… -- しろこ
      • (「けれど」そうは言ったがその先が続かない
        違うと言いきれない何かを感じていたから
        しかし今はそれより先にする事があった
        首を振りぼんやりとした思考を切りかえ)
      • それより…くろこそろそろ着替えましょう……
        先にお風呂をわかしましょうか…?。。 -- しろこ
      • あい……。 -- くろこ
      • (黒いレザーコートの袖で、涙をこすりながらくろこは頷いた)。



    • (海に面した舟屋ハウスの縁側に佇むは少女一人、金の髪と蒼の瞳の少女
      篠突く雨が小雨へと変わる様を少女はぼんやりと見つめていた
      膝に抱かれた小竜を模したぬいぐるみは縦に横にと伸ばされては縮む
      雲の向こうにあった太陽が山の向うへと落ちそして沈むと
      少女は薄暗い中でぼんやりを続ける)
      • ふむ…暗くなって来たの -- 長老
      • (声がした。少女の物ではない、幼さの中に年輪を感じさせる不思議な声
        暗がりの中で金の髪の少女と同じ様に座していたが
        やおら立ち上がると、吊るされた紐を引き部屋の電灯を灯した
        しかし縁側に座した少女は無反応のままにぼんやりを続けていて
        そしてまた小竜のぬいぐるみが伸ばされた)。。
      • (アトイが、ミアを送って行ったのが昼頃で、今もう夜だ。
         携帯端末に連絡も無い。
         私1人で大丈夫ですから。とアトイが言って出かけたから、クレハは
        長老様とお留守番中である。
         ほとんど、クレハの側を離れないアトイにして、奇妙なくらい帰りが
        遅かった。
         そして、クレハの方も探しにも行かずただ待っている。普段の二人
        からしたら、それもそれで妙な話しではある。
         不意に、玄関の方からガラリ、と戸を引く音がした)。
      • …! -- クレハ
      • おっ?戻ったようじ…… -- 長老
      • (長老が「ようじゃな」と言い終えるよりも早くクレハが動いた
        それは御主人の帰宅を出迎える猫の様でもあり
        もしクレハに猫耳があったのならぴこっと動く姿が見れただろう)。。
      • …ただいま。 -- アトイ
      • (玄関に滑りこんで来たクレハに、アトイはじっとりした声で言った。
         実際海にでも放り込んだようにじっとりしていた。
         風呂桶に放り込まれた犬猫の有り様である)。
      • (そのアトイに砲弾の様な物が抱きついてきた、金色の砲弾…むしろ猫まっしぐら
        アトイの顔にふわりと柔らかい物が押し付けられる
        服が濡れる事もかまわずに抱きしめて来たクレハの胸だ)。。
      • ……ッ!ッッ! -- アトイ
      • (しばし、無言で抱き合っていたように見えた。
         が、クレハの肩をアトイが、最初は軽く、やがて割りと必死そうに叩く。
         黙っていたのではなく。胸に埋もれて声が届かなかったのであった)
      • ぶはぁ!落ち着いてくださいよ、別になんともないですから。 -- アトイ
      • (アトイは、息継ぎしながら、クレハを見上げて言う)。
      • …う〜…… -- クレハ
      • (アトイが見上げればクレハの顔、しかしそこにあるのは普段の笑顔ではなく
        威嚇する様な唸り声を上げ、拗ねとも泣きべそともとれる表情のクレハ)
      • …ふぅ -- 長老
      • (息を吐く音が聞こえた、長老だ
        長老は呆れる様にため息するとくるりと反転し二人に背を向けた)。。
      • …あ、えーと……。 -- アトイ
      • (わしゃ知らんぞ、と長老様の背中に言われてしまったので。
         アトイは、仕方なく自分のドラゴンと目を合わせた。
         抱き合う二人の横で、ミニドラは困った顔で、ふわふわ飛ぶ。
         アトイも、困った顔をした)
      • …その、ひとまず着替えないと。クレハさんも濡れてしまいますので。。 -- アトイ
      • むぅ…! -- クレハ
      • (またクレハが猫の様に唸った
        もうここまでくればわかる、クレハは拗ねている怒っている
        アトイが横目で時計を見れば夕餉とする時間から随分と過ぎている
        何事も無かったと言うには遅い時間)。。
      • …むぅ…。 -- アトイ
      • (クレハと同じような声をアトイも出す。気まずそうに。
         一体今までどこ行ってたの。とクレハの瞳は抗議していた。
         一体何をしていたのか、と)
      • …………。 -- アトイ
      • (アトイは、口を開きかけて閉じた。
         頭の内に、ほんの数時間前の光景がよぎる。
         木々が生きたまま炎に包まれる、雨は、地面に届く前に蒸発して。
        ぬかるみは、一瞬で乾きひび割れていく。
         巨大なドラゴンの、牙の檻に閉じ込められるように太陽があった。
         物理法則をねじ曲げて、地上に発生した恒星が、凶暴に地を照らし、
        焼く。
         影の跡すら永遠に焼き付いてしまいそうな光の中で、ドラゴンの目で
        アトイは見下ろしていた。
         大木よりも巨大な姿になったドラゴンの足元に、息も絶え絶えの少
        女が、踏みつけにされている。
         だが、一切の哀れみも慈悲も無く。
         足元のちっぽけな存在に向けて、アトイは恒星を吐き出し。
         回想にとんだアトイの意識を、強まる圧迫と不満気な声が、引き戻した)。
      • ……うー…… -- クレハ
      • (叱られた子供の様に口を閉ざすアトイを見れば
        クレハは何も言えなくなってしまう。
        家を出る時にアトイは言った「大丈夫ですから」と、その言葉を信じてクレハは家に残り留守番をした
        だがしかし、戻ってきたアトイは大丈夫とは言えない雰囲気で
        だから全てを分かち合いと思っているクレハには、語らぬアトイにじれったい物を感じてしまう)。。
      • (雨の音が、黙って見つめ合う二人の間に横たわった。
         二人は、じぃっと見つめ合っていて。
         アトイの濡れた前髪から滴った雫が、彼女の赤い瞳の中に入って、
        その下端に涙のように溜まった。
         雫はこぼれ落ちない。アトイは、瞬きもしない。
         ガラス玉をはめ込んだような、無機質な爬虫類の目が、クレハを凝視
        する。その瞳を、まつ毛を、唇を。
         アトイが、手を伸ばす。そして、クレハの金色の髪を掴み。引き寄
        せて唇に口付けをした。
         噛み付くような、キスをした)
      • (良く知る瞳、なのに知らない瞳、そんな事思った一瞬
        クレハを見つめる瞳が赤き恒星の様に広がった様な気がした
        気付けばすぐ間近にアトイの瞳があった
        クレハが状況を理解するよりも先に唇に熱を感じた
        竜の吐息。痛みと荒々しさを感じる口付け
        金の髪を無造作に握られアトイの高さへと引き寄せての口付け…キス
        蹂躙される感覚。アトイと交わしたどのキスとも異なるキス。
        驚きにアトイの肩に手を置く、しかし直ぐに意思が熱で溶かされ燃やされる)。。
      • (小柄なアトイに、かぶさるように抱きついていたクレハが、今度は逆
        に、引きずり込まれるように主導権を握られていた。
         唇を離した二人の間に、吐息が混ざって熱い。
         絡み合う二人の視線が、濡れる)。
      • (身のうちから炎が溢れる感覚、唇から吹き込まれた炎は身体の中を巡り
        そして瞳から熱となって溢れだし、互いの熱は交差し再び引きあう。
        アトイの手が宝玉の様なクレハの胸へと伸びる、…が)
      • コホン、あーワシいるんだけど
      • (声がした。そう昨晩に引き続き忘れていたが
        ここには二人以外にもう一人いた)。。
      • おっ…と。 -- アトイ
      • (アトイは、瞳を閉じてクレハからはなれる)
      • ちょっと、ずぶ濡れになりすぎましたので。お風呂いってきますね。。 -- アトイ
      • は、はひ! いってらっしゃい! -- クレハ
      • (上ずった声でアトイを見送ろうとするクレハ
        さっきの雰囲気もどこへやら真っ赤である)。。
      • ふぅ、まったくのぉ…アトイよなにごとかあったか? -- 長老
      • (長老は不器用な恋人達に呆れたのかため息混じりに呟くと
        風呂場へと向かおうとするアトイの背に言葉を投げた)。。
      • …いえ、何も。 -- アトイ
      • そうか…… -- 長老
      • ……? -- クレハ
      • (短く言葉を交わすアトイと長老
        その傍らでクレハはただ首を傾げるばかりで)。。
      • ……あ…? アトイさん…… -- クレハ
      • (今度はクレハがアトイの背に言葉を投げた
        風呂場へと消えようとしたアトイがぴたりと止まる)
      • お風呂行くなら私も一緒に…… -- クレハ
      • (首を傾げたままためらい気味に言葉を続ける
        先の続き…と言うより、今はアトイと一緒に居たいと言う気持ちが強く)。。
      • いえ、ちょっと1人で……。その、すぐ戻りますから。 -- アトイ
      • (振り向かずにアトイは、曖昧に言った。
         雨の振る、縁側のガラス戸に映る顔は無表情だ。
         そして、足早にリビングを
        横切って風呂場へ行ってしまった)。
      • あ…うん…… -- クレハ
      • (いつもならば強引にでも付いて行ったであろう
        しかし振り向く事すらしないアトイの背には何か壁の様な物を感じ
        放った言葉だけが空に消えて行った)。。
      • やれやれじゃのぅ -- 長老
      • (床に転がる小竜のぬいぐるみを足で突きながら
        長老は誰にでもなく呟いた)。。
      • (すると、返事をするように、にぃー、と足元で仔猫が鳴いた。
         小突かれて揺れるぬいぐるみに、同じくらいふわふわな前足でパン
        チを入れている)。
      • おっ?ぬしいつのまに? -- 長老
      • あら?猫さん…どこから…… -- クレハ
      • (黒い小さな仔猫だ。二人が驚きの声するともう一度にぃーっと小さく鳴いた
        ぬいぐるみにネコパンチを放つ度ぽふぽふと愛らしい音が。
        どこから見てもごくごく普通の仔猫…なのにクレハは妙な感覚を覚えていた
        いつかどこかで見た事のある、そんな不思議な感覚)。。
      • (仔猫が、クレハの足元に擦り寄った。そして白い靴下を履いている
        ような、先だけが白い前足を手招きするように動かす)。
      • ん、何かしら…お腹すいたの…? -- クレハ
      • ふむ -- 長老
      • (仔猫に問い尋ねながらも何か妙に視線が外せない
        黒の中で揺れる白、まるでふわふわと何かに導かれている様で
        手招きされる方へと視線が誘導されて……)。。
      • (いつの間にか、仔猫は縁側の側に立っていた。
         暗いガラス戸の向こうは、雨の降る庭だ。ガラスにはクレハの姿が
        映っている。
         そして、その隣に、もう一つ小さな人影があった。
         黒い制服を着て、長い黒髪だから、ほんとうによく見ないと見失い
        そうな、幻のような雰囲気の少女である。
         庭への戸の前で、もう一度仔猫がにぃ、と鳴いた)。
      • アオイ…さん…? -- クレハ
      • (クレハはぽつりとその名を呟いた
        夜の闇に溶け込むその姿、目では無い感覚がその存在を直感させた
        同時に不思議な気持ちが沸き上がる、ここは夢なのか現なのか……
        だからそれを確認すべく横開きの戸を右手ですっと転がし解放し)。。
      • (クレハが庭の外を見た時、すでに少女の姿はなく。ビニール傘が、
        垣根の上を、横へ移動している。
         庭に飛び降りた仔猫も、それを追って、真っ暗な道へ駆け込んで見
        えなくなって。
         雨と、暗闇の中から寄せる波の音だけが残った)。

少女たち Edit






    • (外の風に煽られて、風呂場の換気扇が1人でに回る。
       磨りガラスの窓の向こうは、外の世界が消え失せたかのように真っ
      暗で、ただ荒れた海の音だけがする)
      • ……ぐすっ。 -- アミ
      • (すすり上げたアミの声が、狭い浴室に反響した。
         背中合わせに、ロワナと一緒に湯船に入っている。二人とも、背中
        をくっつけたまま膝を抱える。
         窓が風にガタガタと揺さぶられて、湯気の立ち込めた天井で、
        垂れ下がる電球も、小さく振り子のように動いた)。
      • ……ぅ…… -- ロワナ
      • (ロワナの口から短く声が零れる、嗚咽とも呻きともとれる声
        声が零れる度に唇は強く噛みしめられ
        湯を見つめる瞳に涙は無く、それでも諦めと苦しみが混じり
        幼き少女がするには憂うべき表情)

      • (姉妹はくろこさんと別れた後、祖父に背を支えられる様に帰宅した
        号泣は家に付く頃には落ち着くも、心の疲労は酷使した身から気力を奪い
        祖父の用意してくれた夕食もほとんど喉を通らない状態で
        だからなのか姉妹の中に湯船までの記憶がほとんど無い
        それでも唯一覚えているのは自分達を見つめる祖父の瞳
        いつも通りに姉妹を見守らんとする祖父の瞳
        それが嬉しくて悲しくて、何も言えない自分達が苦しくて)

      • (姉妹は背中合わせのまま言葉を交わさぬ時間を続ける
        言葉にせずとも二人の心は伝わる。伝わるからこそ言葉に出来ない
        言葉に出来ないからこそ姉妹は背中合わせの時間を続ける
        そうする事が今の姉妹の心を支え繋ぐ物だから)
      • (やがて、すすり泣く声も止まり、二人は息を潜めるように湯船の中
        に縮こまっている。
         長いことそうしているのに、温まっている気もしなかった)
      • ……風、つよくなったね。 -- アミ
      • (沈黙が息苦しくなったのか、アミが呟く。
         立ち込める湯気に消えてしまいそうなくらい小さな声だ)。
      • …うん……また、嵐になるのかな…… -- ロワナ
      • (髪と髪が擦れロワナ頷いた事がアミに伝わり、暫しの間を開け言葉が紡がれた
        しかしアミには紡がれるより先に言葉が、そして心が伝わる
        姉妹の思う所は同じ、風の先にある嵐にどう立ち向かうか
        いや、立ち向かうべきなのか……)。。
      • (不安が、背中越しに高まるのを感じる。
         窓が真っ暗なのは、ガラス一枚向こう側で、触手のような黒い根に
        家が包まれてしまったのかもしれないと。
         風の唸りは、凶暴な獣の唸り声かもしれない、そう二人に思わせる)
      • ……ッ! -- アミ
      • (ざばり、と音を立ててアミが立ち上がった。
         湯船の中で、波が幾重にも広がる)。
      • ……にゃっ…? -- クレハ
      • (顔に湯を浴びたロワナが猫の様な声を上げた
        心が繋がっていても急な変化までは伝わりきらない事もある
        それでもわかる、アミは耐えきれなくなったのだと
        だが今はどうしようもない
        ロワナ自身も涙が零れそうになるのを押さえるので精一杯だから)
      • 先、上がるね……。 -- アミ
      • (俯いたまま、アミが言った。
        恐ろしいイメージは、二人の肌が離れると同時に、頭の中から掻き
        消えた。
         窓は揺れているだけである。
         風は少し強く吹いているだけである。
         不安を頭から胸の奥へ押し込んで、見ないことにしただけでもある)
      • (風呂の戸が開かれると、立ち込めていた湯気が薄らいで。
        雫を落としながら、アミは脱衣所へ逃げ込むように入っていった)。
      • …ぁ…うん…… -- ロワナ
      • (逃げるように風呂場から去る妹をただ見送る事しか出来ない
        一人だけとなった湯船は妙に広く感じ
        戸の向うの気配が消えると風の音はますます強く聞こえ
        広い世界にぽつりと一人取り残された感覚さえ覚えてしまう)
      • (それからロワナが湯からあがったのは
        アミが風呂場を後にして10分ほどしてからであった)。。



      • (まだ少し湿った髪を、枕に押し当てて、アミはベッドの中に縮こま
        っている。
         窓の外に灯りは1つも無い。荒れた波と、雨の音だけが、真っ暗な部
        屋の中で静かに聞こえる。
         まだ早い時間だったが、アミもロワナもすでに疲れきっていた。
         なのに、まったく眠れる気がしない)。
      • …ふに…… -- ロワナ
      • (吐息の様な声を漏らすと寝返りを打った
        そして数秒としないうちにまた寝返りを打つ、先からこれの繰り返しだ
        二段ベッドの一階部分、二階にはアミが寝ているが動きを感じない
        そのせいか窓の向こうの雨と波の音よりも
        自分自身の立てる音の方が妙に大きく聞こえてしまう
        眠ればきっと穏やかな時を過ごせるはず、なのにまったく眠る事が出来ない)。。
      • ロワナ。 -- アミ
      • (アミの声がした。
         二段ベッドの上から身を乗り出して、逆さまに覗きこんで居る)
      • ……眠れないね。 -- アミ
      • (そして、ぽつり、と言った)。
      • ん…アミ…? -- ロワナ
      • (もう一度寝返りを打つと同時にアミの声がした
        視線を上げればそこには夜の中に逆さまのアミの顔があった)
      • …うん、眠れないの…… -- ロワナ
      • (言葉を返してから少し嬉しくなった
        上下に離れ触れ合っていなくても二人は同じ
        今はそれがなんだかたまらなく嬉しい)。。
      • そっち行っていい? 。-- アミ
      • いいよ…… -- ロワナ
      • (少しだけ顔を上げるとこくりと頷いた
        そして夏掛け布団の一方を開くとアミを手招きした)。。
      • (小さく笑ったアミの顔が上に引っ込んだ。
         梯子をぺたぺた、と素足で踏んで、アミが降りてくる。
         そして、ベッドに膝を乗り上げてロワナの横に滑りこむ)。
      • いらっしゃいなの -- ロワナ
      • (滑りこんで来る妹ににこりと笑みを向ける
        大きめの枕に二つの頭、自然と顔と顔が近くになる
        外は嵐で締め切った部屋、若干の蒸し暑さを感じるが
        不思議と気にならない)。。
      • うん。 -- アミ
      • …手…大丈夫…? -- ロワナ
      • (手とは言ったが腕の事だろう。あの時ハウンドに強く掴まれた腕
        暗がりで痕は見えないが、それでもアミの腕に手に触れればそっと撫でる
        痛まぬ様、何か宝物に触れる様にそっと撫でる)。。
      • うん……。 -- アミ
      • (アミは、撫でられながら小さく頷いた。
         並んでいると、双子にしか見えないが。ロワナの方が、1つ年上でお姉
        ちゃんなのである。
         だから、アミは、甘えん坊で泣き虫な所があって、ロワナもそれを
        よく分かっていた。
         幼い時から、留守がちだった両親の代わりに、アミの世話をする事も
        よくあった。
         そんな事を思い返すのは、久しぶりに、アミが甘えて来たからだろ
        うか。
         そして、触れ合った手と腕から、考えが流れこんで)
      • ……ちっちゃい時も、よくこうしてたよね。 -- アミ
      • (体の下側にした手を出すと、アミが、ロワナの撫でる手を握りか
        えしながら言った)。
      • あはっ、今もちっちゃいけどね…? -- ロワナ
      • (小さく微笑むと、握り返す手にもう一方の手を重ねる
        流れ込むのは幼い日の思い出。重なる手と手の様に互いの思い出が重なり合う
        今だからこそわかる
        寂しかったのはアミだけではない、ロワナもまた寂しかったのだ
        アミがロワナに慰められた様に、ロワナもまたアミの存在に慰められていた。
        そんな思い出を重ねながら、姉妹は手を組み直すと互いの手を握り重ねる様にして)。。
      • むぅ、今はロワナも私とおんなじ身長じゃん。 -- アミ
      • (アミは少し唇と尖らせる。
         そしてすぐに、二人は、おでこをくっつけるようにして小さく笑う。
         また、少し悲しげな顔になる)
      • 手をつないでると、やっぱり考えてる事全部分かっちゃうね。
        ……おばあちゃん達と、おんなじだ。。 -- アミ
      • うん、おんなじなの…でも…… -- ロワナ
      • (日記を読む事で知った、祖母であるレインそしてネオンにも
        姉妹と同じ力があり、その源流は同じである事を。
        しかしレインとネオンはすれ違ってしまった
        心と心を通じ合う事が出来たのに……
        もしかしたら自分達もいつかすれ違ってしまうのでは
        そんな事を考えると姉妹の心にはまた不安が押し寄せてくる)。。
      • ネオンちゃん、私達の事を好きになれないって。
         おばあちゃんの事も、今はもう嫌いだから……なのかな。 -- アミ
      • (言う程に、アミは涙ぐむ)
      • ……ひどいよ、レインおばあちゃんは、本当にネオンちゃんの事大好
        きで。命がけで守ろうって思ってたのに……。。 -- アミ
      • うん、おばあちゃん凄くがんばったんだよね…… -- ロワナ
      • (涙するアミをそっと撫でるとこくりと頷く。頷いた事で額と額が軽く触れ合う
        そしてそのまま暫し沈黙
        沈黙の間も姉妹の心は重なり伝わり合い、言葉にせずともわかる
        今したい事が、だからあえて言葉にする)
      • ネオンちゃんに教えたい…おばあちゃんの本当の気持ち……。。 -- ロワナ
      • うん……。でも、でもね。なんかね……。
        ネオンちゃん、もう全部知ってる気がするの。。 -- アミ
      • (ロワナはアミの言葉に目をぱちくりとする
        そして考える、それは姉妹二人一緒に考え思い返す事と同じ)
      • …うん、そうだよね…ネオンちゃん私達の事おばあちゃんと似てるって言ってた
        でも…だったらなんで素直になれないのかな? -- ロワナ
      • (レインとその孫である姉妹が似ている、それはネオンがレインの本質に気付いていると言う事
        レインが姉妹と同じ事をしようとしていた事に気付いていると言う事……)
      • うーわかんない……。。 -- ロワナ
      • うん……わかんない。 -- アミ
      • (弱々しく、アミは頷く。
         愛されているのに、なぜ拒むのか分からない)
      • ……ハウンドちゃんもだよ。 -- アミ
      • (手のひらを、正面から重ね合いながらアミが言った。
        指に、少しだけ力がくっ、と入る)
      • 掴まれた時、一瞬だけ、ね?いっぱい流れ込んできたの。
        ハウンドちゃん、怖い顔して、銃で撃ってきたり脅かしたりするけど。
         ホントは泣きたくて、いっぱいいっぱい謝りたいって思ってる。
        でも、悪い事してると思ってるのに、謝っちゃいけないって思ってる…どうして? -- アミ
      • (もはや、許しも理解も求めることを諦めながら、命をすり減らすよう
        な戦いに身を投じ続ける生き方が分からない)
      • どうすれば、お話聞いてくれるの?もう、ほんとにわかんないよ……。 -- アミ
      • (アミはまたじわりと、と涙ぐむ)。
      • (重なるアミの手を通じ伝わって来る
        アミの感じた心、ハウンドが心の内に押し込めた記憶が
        それは幼い姉妹には想像する事も出来なかった過酷な物で)
      • わかんない事でいっぱいなの…… -- ロワナ
      • (指でアミの涙をぬぐうと繋いでいた手を解き背へ、そして抱きしめる
        ロワナもまたアミと同じに涙が溢れそうで
        でも涙の気持ちと気持ちが重なればそれに潰されてしまいそうで
        だから涙するよりも我慢するよりも、二人強く気持ちを重ね)
      • でも、きっと何か方法はあるの…だから考えるの……
        ううん、考えるより、もう一度ネオンちゃんとハウンドちゃんに会うの。。 -- ロワナ
      • ……ほんとうに? -- アミ
      • (それでも、まだアミは不安気で)。
      • …わかんない…でも、二人一緒でならなんとかなる気がするの -- ロワナ
      • (ロワナが言って頷いた直後アミの口に何かが入ってきた
        それはほんのり甘酸っぱい…飴ちゃんだ
        驚くアミがロワナの顔を見れば
        「おじいちゃんには内緒なの♪」とそんな笑みを浮かべていて)。。
      • (アミも、釣られるように笑った。
         夜に、ベッドでお菓子を食べる、とても小さな秘密だった。
         二人が、自宅の蔵や、山の館で出会った。過去に隠された秘密に
        比べれば、他愛なさすぎる程の。
         たった一日の間に、多くの秘密と重たすぎる過去を背負い、知って
        しまった二人に、飴玉1つ分ほどの秘密が優しい)
      • これ、ヴァイアちゃんに貰った奴だよね? -- アミ
      • (アトイの家に居た、小さな女の子に貰った飴の1つだ)
      • 私も、まだ残してあるよ。ロワナにもあげるね。 -- アミ
      • (そう言って、アミはベッドから、床に足をつけた)。
      • うん、私ももらうの -- ロワナ
      • (まだあるのならもう一個出せば良い話
        姉妹にとってはそうではない、お互いがお互いに贈る事が大事
        だからロワナは起き上がるアミににっこりと笑みを向ける)。。
      • (暗がりの中で、少し離れるとお互いの顔はよく見えない。
         それでも、アミは、ちゃんと笑い返していた。
         暗闇越しに、笑顔の気配だけが、ロワナにも伝わる)
      • はい、ロワナ。 -- アミ
      • (手探りで、机の上の電灯を点けると。机の上に、飴が、いくつか転が
        っていた。
         アミは、ミルク味を1つ指先に摘み上げると、ロワナに差し出す)。
      • あーん、あむっ -- ロワナ
      • (半分身を起こしたロワナの口に白の飴玉がころんっと入って来る
        甘ったるいミルクの飴は舌で転がせば懐かしい様な味がして)
      • おいしいね♪。。 -- ロワナ
      • うん♪ -- アミ
      • (二人は頷きあった。
         電灯はつけたままにして、二段ベッドの下に、並んで座る。
         眠れない、というよりは。もう少し、こうしていようと思ったのだ。
        小さくなっていく飴を、口の中でゆっくり転がす)
      • ……ちょっと考えたんだけど、ネオンちゃんとハウンドちゃんに、会いに行ったら。
        また捕まっちゃわないかな、私達……。 -- アミ
      • (アミが言った。
         本棚やベッドの影が、天井に向かって長く伸びている)。
      • …どうかなぁ、でもハウンドちゃんはこの家を知ってるもんね…… -- ロワナ
      • (不安を口にするアミ、慰める様に肩を寄せると頭と頭をコツンと合わせ
        もう一度会いに行こうとは言ったが、捕まることへの恐怖はまだあって
        その所為か伸びる影はあのネオンの根を思い出してしまう)。。
      • また私達を捕まえに来るのかな……。
        アトイちゃんちに居れば、大丈夫だったり……でも……。 -- アミ
      • (アトイとクレハなら、事情を話せば助けてくれる気がする。
         一方で、二人がアトイのドラゴンの影に隠れたら、ネオンもハウンド
        も、話しを聞いてくれないだろう)
      • ん、そういえば……アトイちゃんは何で……。 -- アミ
      • (ハウンドちゃんと喧嘩してたんだろう、とアミが、言いかけた時だ。
         ドン、ドン、と窓が、叩かれた)。
      • …ひゃっ!? -- ロワナ
      • (不意打ちの様に響く音に、姉妹は仲良く驚き跳ねた
        話していた内容も驚きに加算され心臓が破裂するほどに驚いた)
      • え、何か飛んできたのかな…ひゃっ!?少しと違うの…わっ? -- ロワナ
      • (姉妹は互いに抱き合う様にしながら窓の方を見る
        今宵は嵐、窓に打ち付ける飛来物があってもおかしくはない
        そう思っているとまた音がした、先と同じ回数
        そしてまた叩く音がした、また同じ回数)。。
      • ……ねぇ、開けてよ。
      • (そして、風の音に交じり、少女の声が窓越しに聞こえた。
         部屋の中は電灯が点いているから、カーテン越しには外は何も見えない。
         だが、間違いない。ネオンだ。
         アミとロワナは、思わず同時に返事をしそうになって。ロワナはア
        ミの、アミはロワナの口を手で塞ぐ。
         互いの手を交差させたまま、頭を寄せて無言で頷きあう。
         ――このまま黙っていよう)
      • いるのでしょう?
      • (バンッとさっきよりも強く窓が叩かれて、ネオンの声に若干苛立ちが
        混じる)
      • ……。。 -- アミ
      • …… -- ロワナ
      • (噂をすれば影。外から聞こえてくるのは姉妹の良く知った声
        姉妹は黙したまま頷き合う
        不思議な力を持ち何度も怪異と出会った事のある姉妹だからこその行動
        怪異の中には行動に制限のある物もいる、例えば特定の場所に入る事の出来ない等だ
        だから姉妹は黙したままじっと息を潜める
        もしネオンがそうならば部屋へと入って来る事は出来ないはずだから)。。
      • ……そう、開けてくれないんだ。
      • (悲しげな声が、風の唸る窓越しに聞こえた。
         少し俯いて、二人は沈黙したままで居る)
      • (ネオンちゃん、1人かなぁ?) -- アミ
      • (たまらずに、吐息だけで声を出すようにして、アミはそっとロワナに
        囁く。
         ハウンドが一緒なら、きっと問答無用で突入してきたはずだ。
         招かれねば、家という結界の中に入れないネオン1人で来たのなら。
        それは、アミとロワナが、自分を受け入れてくれると思っての事では
        ないだろうか)
      • (……ハウンドちゃんと、何かあったのかも……)。 -- アミ
      • (わかんない…でもネオンちゃんの声、少しさびしそうなの……) -- ロワナ
      • (小さく呟くとアミの手を少しだけ強く握りしめる
        そしてふと気付く。今、自分達のしている事はなんだろうか…と
        ネオンにもう一度会おうと話ながらも、ネオンを避けようとしている
        その事に気付くと心が何か切なくて、だから……)
      • …アミ…窓開けようか……。。 -- ロワナ
      • (ロワナが、そう言って。抱き合うようにくっついていたアミは、体
        を離す。
         そして、片足を、ベッドから床に下しながら振り返って、頷こうと
        した。
         その瞬間に。バシャンッ、ベキンッ、と窓が砕け散り、壁が引き裂
        かれる大音響が響く)
      • わっ!? -- アミ
      • (とっさに、アミは、二段ベッドの縁に捕まって体を支えた。
         机の上から落ちた電灯が、火花を散らして消える)
      • どうして開けてくれなかったの? -- ネオン
      • (二階の、姉妹の部屋の壁のあった所に、ネオンがいた。
         背中から、無数に生やした黒い根を、塔のように束ねて上に立つ)
      • 私に無理矢理押し入らせるだなんて、ひどいじゃない。 -- ネオン
      • (月も星も無い、嵐の夜なのに。ネオンが、三日月のごとく目を細めて口
        の端を釣り上げて笑うのがはっきり見える。
         嵐の中に居るのに、黒い振り袖も、金色のおかっぱ髪も、風にそよ
        ぐように揺れるだけで。
        姉妹の上に、抉り飛ばされた天井から、ざぁ、と雨が吹きつけた)。




    • いたた…ネオンちゃん…… -- ロワナ
      • (ベッドから転げおちたロワナがお尻をさすりながら顔を上げれば
        そこには姉妹を見下ろすネオンの姿、その表情は怒りにも悲しみにも見えて
        姉妹はただ呆然としながら雨に打たれ……)
      • 迎えに、きたわよ……。 -- ネオン
      • (ネオンが言った。
         黒い根が、触手のごとく、ざわめき、蠢いた。そして、まさに二人を捕らようと、根が鋭く伸びる。
         その瞬間、横から飛んで来た銛が、根を突き刺して床に縫い止めた)
      • アミ!ロワナ!! -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が、二人の名を叫びながら、戸口から飛び込む。
         60過ぎとは思えない瞬発力である。一飛に姉妹の元に飛び込むと、
        二人を、腕で抱きかかえるように掴む)。
      • わっ? お、おじいちゃん…? -- ロワナ
      • (根が姉妹を捉えるよりも先に抱きかかえる者があった、姉妹の祖父宗右衛門だ
        宗右衛門は姉妹を両脇に抱える様にすると、バックステップで根から距離を取る)
      • おじいちゃんなんか凄いの……。。 -- ロワナ
      • はう、はわ、わ……。 -- アミ
      • (戸口を後ろにして、宗右衛門が二人を背に隠し、黒い根の群れと
        対峙する。
         背中にしがみつくアミは、変な悲鳴をあげている。
         メキリミシリ…、と樹木の折れ曲がる音を立てながら。黒い根が再
        び尖った先端を3人に向けた)
      • おおっ! -- 宗右衛門
      • (宗右衛門の気合と共に、暗闇で、鉈の刃が一閃した。
         ただでさえ暗く、雨のせいで視界も悪いというのに。その中で、真
        っ黒な根を、正確に両断したのだ。
         重たい音を立て、タコの触手のように根が足元でうねっているのが
        わかる。
         2度も阻まれて、黒い根の群れは、少し躊躇するように引く)
      • やりづらいわね…。 -- ネオン
      • (絡み合って、壁を成した根の向こうから、苛立った声がする)
      • 動かしづらいのよ、この雑草は。 -- ネオン
      • (根が、1本1本解けていく。ゆっくりと、頭と素足のつま先から、人
        の姿が見え始める。
         絡まりあった、不気味な根の籠の中に、ネオンが立って居た。
         ネオンの姿だけ、ぼんやりと光りに照らされるように、黒い振り袖
        の井守模様まではっきりと見て取れる。
         その姿が顕になった時、宗右衛門は、鉈を手から取り落とした)。
      • ……おじい…ちゃん…? -- ロワナ
      • (宗右衛門の背後、背にしがみつき頭を伏せていた姉妹が顔を上げた
        ガランと金属音と共に床へと落ちた鉈、それは先まで祖父がふるっていた物
        なぜそれが落ちたのか分からずに顔を上げれば、そこには立ちつくす祖父の背があった
        怪我による物ではない、背から感じるのは呆然あるいは驚愕の感情)。。
      • (異変を感じて、アミも、しがみついたまま恐る恐ると、顔を上げた)
      • 邪魔をするなら手荒くいかないと…………。 -- ネオン
      • (一段高くなった根の上から、ネオンが見下ろす。そして、言葉を言
        いかけたまま、突然無言になる。ややあって)
      • ……老けたわね。 -- ネオン
      • (ネオンは、思わずそう呟いていた。宗右衛門は、口を開けたまま何も
        言えず。しがみついた姉妹が、揺さぶっても固まったまま)
      • あはっ、私はどう?変わって無いでしょう、ねぇ宗右衛門、あの日のままよ。
      • (笑みを浮かべて、ネオンが言った。
        それでも、宗右衛門は、呼吸をすることすら忘れたように、ただ、驚愕し、沈黙して。
         奥歯を噛み締め、睨むような目をネオンはした。
         黒い根が、大きな手のように広がっていく。
         大きく。
         大きく。
         アミとロワナの家の屋根よりも遥かに高く、禍々しき巨木のごとく
        黒い根が、広がる。
         2階の高さまで、黒い根は、幹のように束なり、そこから上に、掌を広
        げるごとく根が広がっているのだ。
         雷がひらめく、半壊した家を、地面からつきだした巨大な腕が掴も
        うとするシルエットが、嵐の中に浮かぶ)。
      • おじいちゃん! おじいちゃんしっかりして! -- ロワナ
      • (姉妹は祖父の身を必死になって揺すり叩く
        日記を読む事で過去を知った姉妹はネオンと祖父との間に何があったのかを知っている
        それが僅かな時間と言葉では解決出来ない事も、だから今は逃げるしかない
        しかし、いくら身を揺すっても叩いても祖父は呆然と立ち尽くすばかりで
        その間にも黒き根の巨腕は巨獣の顎の如く閉じられ様としていて)
      • ネオンちゃんやめ…… -- ロワナ
      • (ロワナが絶叫しようとした時そてれは起こった
        「太陽が落ちて来た」。ネオンは一瞬そう感じた
        それは目を潰さんばかりの閃光、夜を昼に変えるほどの輝き
        同時に黒き根を動かす事が出来なくなった、黒き根の全てが光の鎖に捉えられたのだ)。。
      • あっ……! -- ネオン
      • (ネオンが、思わず腕で顔を隠す、黒い根は動かない。
         袖で顔を覆っても、閃光で眩んだ目は、白い闇を見つめるように何
        も見えない。
         その、白い闇の中で、声を聞いた気がした。
         『何をしているの』
         叱るような声、半世紀ぶりに聞いても、ついさっきまで耳にしてい
        たのと同じに感じる、懐かしい決して聞き間違えない声……)
      • 姉様……! -- ネオン
      • (頭を振り、無理矢理目をこじ開けながら、ネオンは叫び、手を伸ばした)。
      • (ぼやける視界の中、煌めく金の髪が降りてくるのが見えた
        キラキラと光を纏いながら降りてくる姿に懐かしい面影が重なり見える
        その姿に誘われるようにネオンの手が伸びようとした時)
      • 何をしているの! -- クレハ
      • (声が聞こえた。ネオンは一瞬、時が逆行した様な奇妙な感覚を覚えた
        それでもしっかり視界を定めれば、そこにあったのは懐かしい顔でなく
        しかし知っている顔、先日不作法な竜と共にやってきた少女だ
        ご丁寧な事に、その少女のさらに上方を見やれば件の竜が巨大な影を落としている)。。
      • ……。 -- ネオン
      • (眩しさに眩み、睨むような目つきで。ネオンは、クレハを睨む)
      • ……なんですの、それは。 -- ネオン
      • (光を纏うクレハが、宗右衛門に代わり、アミとロワナとの間に立ち
        はだかる)
      • お前さんは……ッ! -- 宗右衛門
      • (クレハの姿を見た宗右衛門が、正気を取り戻し、取り落とした鉈を
        拾いあげる。
         彼は、手でアミとロワナに後ろへ下がるようにした。
         巨樹の如き黒い根は、光の鎖に拘束されたまま、動かせない。
         ネオンの、肩が小さく震える。そして……)
      • 姉様の姿をォッッ!!何なんだって!!言うのよ!!! -- ネオン
      • (ネオンの絶叫が響いた、軋む音を立て黒い根が揺れ動きだし、光の
        鎖が、少しずつ引き伸ばされ細くなっていく)。
      • はいー!?…ととっ…… -- クレハ
      • (クレハの足が床に付くと同時に飛んでくる怒りの声
        優雅に光の粒子を纏っていたクレハは思わず転びそうになってしまう
        さらに拘束していた根が暴れる物だから集中まで途切れそうに)
      • あぶないあぶない……
        いきなり何…私こそ何って言いたいわよ…? -- クレハ
      • (後ろ手でアミとロワナ、そして宗右衛門に手を振りながら
        抗議してくるネオンの前に立ちはだかる
        しかしネオンの言わんとする内容はとんと理解が出来ず首を傾げてしまう)。。
      • バカにして!私を……姉様を愚弄して!許さない……!絶対に許さないッッ!!-- ネオン
      • (ネオンは黒い根にこめる力を更に強める。
         ついに、黒い根が、拘束を引きちぎりクレハ達めがけて降り落ちる。
         ビルが丸ごと崩壊して、降り注ぐのと同等の体積と質量が頭上を覆
        い尽くす!
         再び、光が走った。
         今度は上からではない、横薙ぎにすさまじい閃光が、黒い根と、夜空を貫いた)
      • えっ……?きゃぁっ!! -- ネオン
      • (悲鳴をあげ、ネオンが倒れる。
         頭の上を掠めて、夜空を切り裂く光の名を、その場の誰もが分から
        なかった。
         レーザーのようであった、しかしあまりに巨大で、太く、宙を走る川
        にも見える。
         天の川が地に降りたようでもある、だが、その放つ光は、夜が白く
        染まる光の中にあって、燦然と輝く程に明るく、熱く、騒々しく。
         溶鉱の大河、あらゆる物質の溶ける熱の河である。
         万の稲妻を束ねた咆哮、もはや衝撃を伴う音の圧力である。
         目を閉じて尚、頭の奥に刺さる光、地にあり得ざるべき力である)
      • (光が、水平線の彼方へ消え去る。嵐の夜が、一瞬夜明けのような真っ
        赤な色に染まった。雨は横殴りの風に吹き飛び、雨雲が茜の色に照ら
        しだされる。
         グゥオル、グゥオル、と遠くの雷のような音がする……。
         その場の全員が、激しい耳鳴りと、眩しさから解放された時。
         赤い鱗に、少女の柔肌を半分だけ包んだアトイが、竜の翼を広げて
        立っていた。
         嵐の夜が戻る、雨が頭を打ち、首へ伝う。
         立ち込めた湯気の中で、半竜半人の大人の姿へ変じたアトイが、
        クレハの前に、立つ。
         半壊した家屋の後ろには、天をつくような巨大な、アトイのドラゴン
        が聳えて、遠雷の如き喉の唸りを鳴らす)
      • ……っう……くぅ! -- ネオン
      • (一瞬、気を失ったネオンが、意識を取り戻す。
         黒い根は、半分以上が消し飛ばされて消え去っていた)。
      • アトイさん…! …アトイさん…? -- クレハ
      • (防御が間に合わぬと思わず閉じていた目を開けば
        そこには竜神へと化身した恋人の姿、しかし何か様子がおかしい
        もう見なれた姿、頼もしき姿…なのに何か様子がおかしい)
      • …アミ…… -- ロワナ
      • (困惑するクレハの後方、宗右衛門の背の影から顔を出していた姉妹が身を硬くした
        霧の中でみた竜が今まさにそこにいる
        姉妹は身を硬くしたまま互いの手をぎゅっと握り合う)。。
      • (アミはロワナに身を寄せて。宗右衛門の腕の中で二人は震える)
      • ああいうブレスは、初めてやりましたが結構できるもんですね。
        大丈夫、全然大丈夫ですよ……。 -- アトイ
      • (不安気な気配を感じて、アトイは振り向かずに言った。
         アトイの長い尾が、ゆるり、と鞭のように撓り床を叩く)。
      • …アトイさん…何か怒ってない…? ううん…怒ってるでしょう…? -- クレハ
      • (アトイの尻尾が床を叩けば家屋は大きく揺れ、崩れかけた壁から漆喰が零れ落ちる
        その光景に思わずクレハの肩が震えた、アトイの背に不機嫌の三文字が見えたから
        先刻、アトイが帰宅した時から感じていた物がさらに強くなっている
        このままでは良く無い、クレハにはわかる。だからクレハはアトイの背に手を伸ばした)。。
      • (その手が掴まれて、クレハは強引にアトイに抱き寄せられる。
         抱き合った二人のすぐ側を、黒い根が掠めた)。
      • きゃっ? わっ!? -- クレハ
      • (強引でもアトイの腕に収まれば、こんな所で…なんてつい思ってしまうクレハさん
        そう思ったのは一瞬、それはすぐに驚きと冷や汗に変わる
        黒き根が金のポニテから髪を数本中に舞わせたから)。。
      • あなた…昨日の!ドラゴンの! -- ネオン
      • (睨みつけつけるネオンの元へ、黒い根が引き戻される。そして、再び
        丸太杭が降り落ちる如く根は突進した。
         クレハを抱き上げると、アトイは思い切り身体を傾けて足を高く蹴
        りあげ。
         鉤爪の付いた長い足が、スカスカの木炭でも踏み砕くように黒い根
        を粉砕する)
      • アトイですが、覚えてもらわなくて結構……っと! -- アトイ
      • (とっさに、翼で身を包むようにして守ったアトイに、暗がりから衝撃
        が叩きつけられる。
         ハウンドだ。
         完全に気配を消して潜んでいたハウンドが、崩れた屋根を跳ね上げ
        て飛びかかってきた)。
      • わっ!? 今度は何…? -- クレハ
      • (アトイに抱き上げられたまま小さな悲鳴を上げ続けていたクレハ
        一瞬の暗闇と衝撃音にまた驚きの声を上げた
        そして衝撃が収まると翼の影から顔を出し目を丸くした)
      • 貴女は確か…あの時の…… -- クレハ
      • (衣服などは変わっているがその特徴的な瞳は忘れようがない
        長老が見かけたと言っていた少女は間違いなくこの少女
        クレハを誘拐し、アトイが祭壇に囚われる切欠を作った少女)。。
      • (暗がりの中で、ハウンドの目が獣のように光っていた。
         黒目の散大した、獲物を狙う猛獣の目である。
         アトイは、無言でクレハを自分の側に下ろして、睨み返した。
         家の側で、ドラゴンが苛立たしげに、唸り、地面を踏むと、大きな
        地震の如く家は揺れ傾ぐ)。
      • ひっ…!待ってアトイちゃん!お願い!! -- アミ
      • (宗右衛門とロワナにしがみついて震えていたアミが叫ぶ。
         アトイとハウンドを、止めなきゃいけない、今、どうしても。そう
        強く思った)。
      • アトイちゃんダメなのー!戦うのダメー! -- ロワナ
      • (アミとほぼ同時にロワナも叫ぶ、同時にアミの心とロワナの心が共有される
        行動と共有の逆行。強い想いが思考と行動を逆行させた
        いや、もともと姉妹が思う所は同じだったのだろう
        アトイとハウンドが戦えば、森で見たあの光景がもう一度繰り返される
        何より、アトイもハウンドも姉妹にとっては大事な友人)
      • …! アトイさん!そうよ、ここで戦っては駄目…! -- クレハ
      • (姉妹の言葉を聞いたクレハも素早く行動を起こす
        確かに獣目の少女はクレハにとってもアトイにとっても因縁浅からぬ相手
        しかし今のアトイが力を振るえばどれほどの事になるかは容易に想像出来て)。。
      • …………。 -- アトイ
      • (アトイは、無言のまま動きを止めた。
         姉妹の部屋だった場所は、屋根も壁も無くなって、2段ベッドの残骸の
        側で、アミとロワナが震える。
         宗右衛門は、姉妹を守るように抱きしめ。
         アトイの腕を、クレハが掴む。
         黒い根の大半を失ったネオンは、両手を床につけて、恨めしげに睨んでいる。
         嵐の雨が、崩れた家の2階部分に、立つ全員を等しく叩く)
      • ……ハッ。 -- ハウンド
      • (そんな中で、ハウンドは、笑った)
      • ハッ、ハハ! -- ハウンド
      • (ハウンドだけが、笑った)。
      • (嵐にも負けぬ笑い声。いや嵐さえハウンドを讃えている様に聞こえる
        場にいる全ての者が笑う少女へと視線をやり動けなくなった)
      • ハウンド…ちゃん…? -- ロワナ
      • (宗右衛門の背から顔を出したロワナがポツリと呟いた
        その反対側からはアミが顔を出した)。。
      • (牙を剥き出した獣のような顔で笑うハウンドは、嘲るというよりは、
        むしろ愉快そうですらあり。
         反対に、アトイは、歯を噛み締めて、唸るような顔をしている)
      • そうか、お前……。私を殺す所を見られたくなかったのか。
        そいつらに。 -- ハウンド
      • うっさいですよ。 -- アトイ
      • (愛する者達に、恐ろしい自分の姿を見られたくないという。ごく当
        たり前の事である。
         人ならば。
         だが、アトイには人の血は一滴も流れていないのだ。
         巨大なドラゴンも、神々(こうごう)たる半人半竜の姿も、むしろ、人の手及ばぬ
        恐怖と破壊の側のモノであるのだから)
      • 笑えるな。気に食わなければ人も物も容赦なく殺す怪物が、人間のふりにご執心だ。
        私を消し飛ばしてやると言っただろう。
         後ろのでかいトカゲでやったらどうだ、この村ごとな。 -- ハウンド
      • (いきなり、アトイの足の鉤爪が、振り落とされた。
         ハウンドの立っていた辺りの床と壁が、粉々になって嵐に吹き飛ぶ。
         何も言わず、吠える事すら忘れて、アトイが蹴りつけたのだ。
         だが、そこにハウンドはおらず、周りのどこにも見えず。
         雷が閃く。
         アトイの背後に周りこんだハウンドが、逆にその背を蹴りつけ。
        その姿が、一瞬、雷光に照らしだされた。
         嵐の暗闇に獣の吠えるような雷鳴が轟く)
      • そんなもん、効かねーですよ! -- アトイ
      • (蹴りをまともに食らった、アトイが叫びながら振り返る。
         だが、そこにもすでにハウンドの姿は無く。クレハの目の前で、爪
        を立てるかのように腕を大きく振り上げていた。
         血走った獣の目が、コバルトのようなクレハの瞳を覗きこむ)。
      • …え…? -- クレハ
      • (クレハの口から小さな声が零れた。その表情は困惑
        獣の目と目が合うと、クレハはそのまま動けなくなった
        そして冒険者としての経験と本能的な直感で理解する
        この後、自分に起こりうる事を。動けば死ぬ、動かずとも一瞬の後に死ぬと。
        冒険者として、海賊部として、経験を積んだクレハにはわかってしまった
        獣の目をした少女と自分との圧倒的な戦闘力の差を
        この少女はクレハが行動を起こすよりも先に爪を振り降ろす事が出来ると)。。
      • (だが、爪が振り下ろされる事はなく。
         ハウンドの姿が叩き落とされるように掻き消えた。
         クレハの視界の端を、一瞬だけ赤い色が掠めて消える)。
      • グゥォォォォォォッ!!-- アトイ
      • (アトイが吠えた、もつれ合った二人は1階の床も砕く。床下に激突し
        た衝撃で、畳が浮き上がり、壁が崩れた。
         止めを刺す。
         瓦礫の降り落ちる中、鱗に覆われ爪の付いた腕をアトイは振り上げ、
        その瞬間。
         砲弾を、柔らかい粘土の土手に叩きつけたような鈍い音が響く)
      • ……はぅっ!?-- アトイ
      • (肘が、アトイの剥き出しの腹に深々とめり込む。
         顔面を地面に押し付けられたまま、凄まじい柔軟性と、驚異的な
        背筋力でもって、ハウンドは肘を叩きこんだ。
         ハウンドの頭を押し付ける力が緩む、即座、反発する磁石のご
        とく跳ね起きて)
      • オオオオオオオオッッ!!-- ハウンド
      • (今度は、ハウンドが吠えた。
         二人が、破壊した天井から降り落ちる瓦礫はまだ全て落下しきってい
        ない。宙に浮かぶ水滴のようになった雨粒の中をゆっくりと落ちる。
         人間を遥かに超えた獣の知覚には、1秒が何倍にも引き伸ばされて見える。
         速い事、そして強い事、これは単純な故に容易に覆せない戦力の差になる。
        どちらも兼ね備えたアトイに対して、ハウンドが切れる札は速さだけ。
         だが、全力を出した虎神スゥアは、龍神アトイにも勝る速度で。
         アトイが、体勢を整える前に、ハウンドの拳が、アトイの胸に突き刺さった)。
      • …あ…ははっ…… -- クレハ
      • (乾いた笑いを張りつけながらぺたりと座りこんだ
        一瞬の赤はアトイ。クレハにはわかるアトイに救われたのだと
        下方から聞こえる衝撃音
        クレハの目の前には人が抜ける程の穴が穿たれている、これもアトイの仕業)
      • …ふぅ…後で修理しないといけないわね…… -- クレハ
      • (小さく息を吐くと、後で怯えているであろうアミとロワナの方へと)。。
      • (一瞬で、何が起きたのか、アミもロワナも、宗右衛門も分からず。
         気がつけばアトイとハウンドの姿が無く……。
         姉妹は、不安気にクレハを見る)。
      • 大丈夫よ…とは言い切れないわね、でも、退避した方がいいかも…… -- クレハ
      • (じっとクレハを見つめる姉妹に笑みを向け告げた
        階下から時折聞こえる破砕音は戦いがまだ続いている事を知らせる
        今クレハに出来るのはその戦闘に参加する事では無く、姉妹と宗右衛門を退避させる事
        濡れて張り付く髪を掻き上げると、立ち上がろうとするが…どうにも足元がおぼつかない)
      • ふに…クレハちゃんこそ大丈夫なの? -- ロワナ
      • (そんなクレハを見れば、姉妹はさらに不安の色を濃くしてしまう)。。
      • (また、ドォン、と爆発のような音がして、家が大きく揺れる。
         半分以上が無くなった屋根から、瓦が落ちて床で砕けた)
      • 大丈夫だ……大丈夫。 -- 宗右衛門
      • (震える姉妹を抱きしめて、宗右衛門はゆっくりと立ち上がった。
         アトイとハウンドの戦いで吹き飛ばされた嵐が、戻ってきたような
        感覚がある。
         横殴りの風に、雨がザァッ、と強く顔を叩く)
      • ……っあいつぅ……私を囮にしてぇッ! -- ネオン
      • (宗右衛門の視線の先には、黒い根の中に、ネオンが座り込んでいた。
         黒い根は、ほとんどが消失して。かろうじて、ネオンが足場にして
        いた幹の部分だけが残っていた。
         へし折れた根から、白い煙が燻る)。
      • 私も大丈夫よ…っと……さて -- クレハ
      • (足を叩きながら立ち上がればアミとロワナに笑みを見せる
        思わずびびってしまったが、いつまでも及び腰ではいられない
        今は自分のすべき事をする時
        ネオンはアトイから受けたダメージでまた動けそうにない
        ならば姉妹と共にいる宗右衛門と協力すればこの危機を乗り越える事も出来ようと)。。
      • 二人を。 -- 宗右衛門
      • (クレハの方を向きながら、宗右衛門が言った)。
      • ……… -- クレハ
      • (宗右衛門の言葉に黙したまま頷く
        「二人を」それはクレハがアミとロワナを逃がせと言う事。姉妹の祖父は自ら姉妹のために囮を買って出たのだ
        宗右衛門は普通の人間…危険な賭けではあるが、この場の役割配分としては他には無いだろう。
        動けぬネオンを横目で見るとクレハ行動を開始した)。。
      • (クレハは、アミとロワナの方へ、そして宗右衛門は、姉妹を彼女に
        任せて、一歩。うずくまるネオンへ足を踏み出した。
         ギッ、とネオンが睨む)
      • ……ネオン。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が静かに呼んだ。手には鉈を握っている)
      • 生きていたのか……。 -- 宗右衛門
      • 死んでるに決まってるでしょ。 -- ネオン
      • (ネオンは、睨みながら言った)
      • それは……そうだな。 -- 宗右衛門
      • ええ、あなたの目の前で燃え尽きたのよ。
        ……なのに、助けてくれなかったじゃない。 -- ネオン
      • (ゆらり、とネオンが立ち上がる)
      • 違うんだ!俺もレインも……お前を……。 -- 宗右衛門
      • 姉様を選んだ!……私じゃなくて……ッ! -- ネオン
      • (俯いたまま、叫んだネオンが、瓦礫の中に素足を踏み出して)
      • ……でも、今更すぎるわ……。私は本当に何をしてるんだろう。
        あれ、そういえば姉様は? -- ネオン
      • ネオン、レインは……。 -- 宗右衛門
      • あ……いいわ。やっぱりいい……。 -- ネオン
      • ネオン……。 -- 宗右衛門
      • 聞きたく無いって!言ってるのよ!!! -- ネオン
      • (俯いた顔を上げたネオンの瞳から涙が散って、すぐに雨の中掻き消
        える。
         激しく降る雨の中で、うすく光を放っている事以外、まるでネオンは
        本当に生きているようにしか見えない。
         50年前の、あの日の夕方と同じ姿……)
      • なぁ、ネオン……。もう、やめてくれないか。
        俺なら、どうなったっていい……だから。 -- 宗右衛門
      • (泣いているような、半ば呆けているような顔をしたネオンを見つめ
        ながら、宗右衛門は言った)
      • ……。 -- ネオン
      • ネオン! -- 宗右衛門
      • ……やだ。 -- ネオン
      • (表情を変えないまま、ネオンが言う。
         その瞬間、動きを止めていた黒い根が動き出す)。
      • …まずっ…!? -- クレハ
      • (身を低く屈めていたクレハが小さく呟いた
        ネオンと宗右衛門の会話が拗れた事で、黒き根が再び暴れ出そうとしている。
        詳しい事情を知らぬクレハだが、ネオンと宗右衛門の間には何か深い溝があるのがわかる
        それは深いだけでなく暗い物で、即座に解決出来る様なもので無い事も。
        それでも、関わってしまった以上もう無関係ではいられない)
      • アミちゃん!ロワナちゃん! -- クレハ
      • (姉妹に声をかけると同時に駆け出す
        今、姉妹が捕まれば、ネオンと宗右衛門との溝はさらにさらに深くなる
        それはなんとしても防がねばならない)。。
      • …クレハちゃん…? -- ロワナ
      • (ぼんやりネオンと祖父の会話を聞いていたロワナは我に返った
        呼びかける方向を見ればクレハが駆けてくるではないか
        ロワナはアミの方を見るとコクリと頷き手を繋いだ)。。
      • (まだ足が震える。それでもなんとか立ち上がった。
         二人には戦う力はない、それを歯がゆく思うも、今は迷っていられ
        なかった)
      • 離れなきゃ、おじいちゃんも危ない! -- アミ
      • (だが、そんな二人とクレハを遮るように、再生した黒い根が飛び込
        んでくる)。
      • えーい、もう! -- クレハ
      • (駆ける足を止めず黒き根に手刀を放つ左から右へと一線に
        ただの手刀だったならば柔軟な根には効果は無かったろう
        しかしクレハの放った手刀は光を纏っていた。異能による光の剣)。。
      • (切り飛ばされた根が、壁を飛び越えて暗闇の中へ消えていった)
      • ネオン!もう……。 -- 宗右衛門
      • (やめてくれと叫びかけた宗右衛門を、手で払いのけるように根が打
        った。
         ネオンの背後には、次々に黒い根が触手のごとく再生し、絡まりあい
        蠢いている)
      • おじいちゃん! 。-- アミ
      • おじいちゃん! -- クロワナ
      • お祖父さん? -- クレハ
      • (姉妹が叫び、続けてクレハが叫ぶ
        状況は刻一刻と悪くなっている。このままでは姉妹だけでなくお祖父さんも危ない
        しかし次々と再生する根に阻まれ近づく事もままならない)
      • ネオンちゃんやめて!おじいちゃんが死んじゃう!。。 -- ロワナ
      • お願い! -- アミ
      • (アミとロワナが叫ぶ。
         だが、ネオンは答えず)
      • 大丈夫だ!早く!早く逃げろ! -- 宗右衛門
      • (一つ切り払われる度に、その切り口から二つの根が生える。
         これではクレハがいくら切り払おうとキリがない。それどころか益
        々黒い根は辺りを覆うばかりで。
         不気味なフラクタル模様を描く根は樹海となって、4人をバラバラに
        分断した。
         宗右衛門の叫びが、夜の闇より黒い根の中へ埋もれていく……)
      • おじいちゃん!?クレハちゃーん!?……どうしよう。 -- アミ
      • (アミは、ロワナの手をぎゅっと握りしめる)。
      • 大丈夫!おじいちゃんもクレハちゃんも大丈夫なの! -- ロワナ
      • (泣きたくなるのをぐっと堪え妹の手を強く握りしめた
        耳を澄ませば聞こえる声が祖父もクレハもまだ諦めていない事を知らせるから
        ならば自分達も諦めてはいけない)。。
      • 諦めちゃいなよ。 -- ネオン
      • (黒い森の底から響くような声がした)
      • もう、決めたから……何しても無駄だよ? -- ネオン
      • (メリメリと音を立てて樹海が開き、その中をネオンが歩み寄る)。
      • やだ、あきらめないの!
        ネオンちゃんだって本当はあきらめたくないんだよね? -- ロワナ
      • (瞳に力を込めネオンを見る。その瞳はありしのレインにも似て
        触手の樹海に囲まれた三人の姿は、あの日の地下洞窟の三人に重なり見えて)
      • そうだよ!ネオンちゃんだって、まだおじいちゃんの事もおばあちゃ
        んの事も、ほんとは……。 -- アミ
      • うるさい!もうたくさんよ!! -- ネオン
      • (ネオンの声が、二人の言葉を遮る。
         顔を伏せ、握った拳を震わせてネオンは叫んだ)
      • そうね……。どうせあなた達も私と同じ力を持ってるから……。
        何も知らない癖になんて言わない。 -- ネオン
      • ネオンちゃん、それなら……。 -- アミ
      • 余計に腹が立つのよ! -- ネオン
      • (顔をあげたネオンは、泣いていた。
         嵐を遮った樹海の梢から雨が滴り、涙と混じった。
         顔を歪ませて、絞りだすような声を出す)
      • ……だって、あなた達は……。
        私が生きられなかった未来そのものじゃない。
        死ぬことも出来ずに、ずぅっと忘れようとしてたのに……。 -- ネオン
      • (アミとロワナに懐かしい面影を見る度に。拭い去り難い憎しみが湧
        く。湧いてしまう。
         黒い根が、ネオンの身体を侵したように、愛すべき記憶に憎悪が根
        を張る。
         どうしても堪え切れない、だから目をそむけた、館の子供部屋に閉
        じこもることで。
         しかし、扉は開かれてしまった)
      • 会わなきゃ良かった、声を聞かなきゃよかった……。
        だって、幸せそうなあなた達を見てしまったら……。
        なのに……何度も!何度も私の前に現れて!!
        どうにもならないの、私は、とっくに死んで終わってるのよ。 -- ネオン
      • ううん、ネオンちゃんはまだ私達と話が出来るの…だから…… -- ロワナ
      • (アミの言葉に続く様にロワナが言葉を繋げる
        しかしネオンは駄々をこねる子供の様に根で床を叩くと
        蠢く根の全てをもってアミとロワナを絡め取らんと伸ばす)
      • ネオンちゃ…! -- ロワナ
      • (黒き根が姉妹の言葉を閉ざそうとした時それは起こった
        閃光。光の帯が高速の列車のように横から貫き根を焼き払ったのだ
        焼かれた根はくたりと床に落ちブスブスと焦げた匂いを放つ。
        ネオンが驚きに見開いた眼で光の出元を見やれば、そこには先程の金髪の少女…クレハの姿
        黒き根の壁に大穴を穿ち佇んでいた)
      • ふぅ、もう…大体の状況は見えたわ、そこの貴女…!
        もう少し話しを聞いた方がいいわよ…? まったく暴れまくって……。。 -- クレハ
      • お前はぁ……また、邪魔をして!! -- ネオン
      • (一転、怒りの形相になったネオンに呼応するように。
        四方八方から、黒い根の槍衾がクレハめがけて突き出され)。
      • もう、貴女自身が貴女の邪魔をしているの…ひゃっ…!? -- クレハ
      • (啖呵切ろうとするも、四方八方から迫る根に叩き戻されてしまう
        幸い、異能の盾を展開する事で負傷は最小に止めたが
        それでも異能の出足の遅さが仇となり動きを封じられてしまった)。。
      • クレハちゃん!! -- アミ
      • (アミが叫ぶ)
      • うるさいのよ、みんな。私に何を諭そうって言うの?
        もう何も……聞きたくなんかない!! -- ネオン
      • (クレハの開けた穴も、瞬く間に黒い根が覆っていく。
        黒い根は、止めどなく増殖して、全てを覆い尽くすように侵食してゆく)



  • (アトイが拳を振り上げた瞬間に、ハウンドのボディブローが腹を打った。
     壁を突き破り、二人は庭へと飛び出す。)
  • クレハさん!? -- アトイ
  • (その瞬間、アトイは家の2階が樹海化しているのを見た。
     一瞬動きが止まる、その隙を逃さず、ハウンドの鋭い飛び蹴りが突き刺さり
    二人は飛沫をあげて海中へ落ちた)
  • グゥオオオオオオオッッ!!!! -- アトイ
  • (海中を震わせてアトイが吠え、巨大なドラゴンの足が海の中へ振り落ち、
    岸壁をもろとも海底を踏み抜いた。
     海中に舞い上がる土砂と礫の中から、ハウンドが飛び出す)
  • 効かねぇーっていってんでしょ!ちょこまかと腹の立つ!! -- アトイ
  • (再び地上へ叩きこまれたアトイは、苛立って叫ぶ。
     アトイが動けば、それを上回る速度でハウンドがカウンターを叩き込む。
    さっきからこの繰返しだ。
     ダメージは殆ど無い、だが、無償に頭に来てアトイは唸る)
  • (昼間はあんなに楽勝だったのに……) -- アトイ
  • (目の前のハウンドを睨みながら、逡巡する。
     まったく苛立たしい。
     力は、今の状態の方が有り余るほど湧いてくるのに。
     神が憑いてるとはいえ、あんなちっぽけな奴、一瞬で消し飛ばせるのに。
     そう思った瞬間、アトイのドラゴンが、口内に光を発した。
     アトイとハウンドの、遥か頭上で発した光に、豪雨がまたたくまに蒸
    発していく。)
  • ……やれよ。 -- ハウンド
  • (ハウンドが、口の端を釣り上げ、笑う。
     だめだ。
     それを見たアトイは、慌ててドラゴンの口を閉じた。
     その隙に再び、ハウンドの拳がアトイを打つ)
  • げほっ……!!くっそぅ!! -- アトイ
  • (跳ね起きながら、アトイは、初めて敵から距離を取る。
     冷静にならければ。まったく苛立たしいけれども。
     以前、学園都市の地下で、対ドラゴン用の巨大機龍を前にして。理性のタ
    ガが外れた事を思い出す。
     その時も、怒りに我を忘れるほど力が膨れ上がり。その力に振り回されか
    けたのだ。
     理性が塗りつぶされて、自分の存在が、どこまでも膨れ上がっていく感覚。
    それはいっそ、解放感に身を委ねるのにも似て……)
  • (だめだ、そんな事したら。きっと取り返しが付かないです) -- アトイ
  • (すぐ側には、クレハ達がいるのだ。力任せに巨大化させすぎたドラゴンは
    動くだけで周囲を壊しかねず、この状況では上手く連携も取れない。
     睨み合いながらアトイは必死に衝動を抑える)
  • (一度、いつもの姿に戻りましょう) -- アトイ
  • (そうすれば、いつものように余裕で、アイツの思惑に斜め45度上から抉り
    込むようなアイデアが浮かぶはず。
     だが、そこでアトイは固まった)
  • (私は、どうやって姿を変えていたんでしょうか…?) -- アトイ
  • (分からない、戻り方が。
     姿を変えられる気がしない)
  • ゴゥォォオオオ!!! -- ハウンド
  • (一瞬の隙に、再びハウンドの拳が、突き上げてきた。
     肋骨の下から横隔膜を抉るような強烈なアッパーだ)
  • がはっ!! -- アトイ
  • (さすがに、アトイも呻いた)
  • ……くぅっのぉ!!しつこいなぁ!! -- アトイ
  • (隙を見せれば必ずやられる。
     だが、いつまでもここで足止めされているわけには行かない。
     反撃を覚悟でアトイは翼を広げ跳躍した。すかさず、ハウンドが牙を剥く。
     山のように巨大な獣の咆哮が轟く。
     ハウンドの姿が、金色の虎と重なって、翼の片方を食いちぎった!)。



  • クレハちゃん! ネオンちゃんやめてやめて! -- ロワナ
  • (ロワナが悲痛な叫び声をあげた
    黒き根はクレハの盾を丸ごと飲み込む様に侵食し、クレハの姿を覆い隠していく
    さらに嫌な音が聞こえてきた、メキメキと何かが砕け潰されて行く様な音
    このままではクレハの命が消えてしまう……
    助けに飛び出したくとも根に阻まれ動けない
    そもそも自分達が飛び出せばクレハはますますピンチになってしまう
    ならばこの状況をなんとか出来るのは)
  • アトイちゃぁぁぁん!!。。 -- ロワナ
  • ぬぅぉぉおおおおお!!! -- アトイ
  • (黒い根が、飛び込んできた真っ赤な砲弾に穿たれた。
     アトイだ)
  • アトイちゃん!……あっ! -- アミ
  • (一瞬喜びの声をあげかけたアミが、息を呑む。
     半人半龍の姿のアトイは、その翼を片方もがれていた)
  • クレハさんにぃ……触るなぁあ!!! -- アトイ
  • (絶叫と咆哮が入り交じる怒号を発し、鮮血をまき散らして、アトイは
    黒い根の群れに食らいつく。
     爪で引き裂く、牙で噛み砕く。
     そして、先にドラゴンが放ったような光線をアトイ自身が吐いた。
     辺りが一瞬にして、炎に包まれる)。
  • (焼かれた黒き根が一瞬で灰となり塵となり散っていく
    雨で濡れていた床や柱からは光線の熱でもうもう湯気が立ち上る
    塵と湯気の中に人影があった、クレハだ)
  • あはっ…アトイさん無様な所をみせちゃったわね……アトイさん…? -- クレハ
  • (ふらつく足なれどアトイの姿を見つけ、助けに来てくれたと知れば自然と笑みが零れる
    しかしその笑みも直ぐに消えた、アトイの状態に尋常ならざるものを感じたから
    無敵の竜であるアトイが怪我をしている事もだが、纏う空気がなにかおかしい
    いつかどこかで見たアトイの空気、そしてクレハ思い出した
    洋上学園の地下、機竜ファフニールと戦った時のあらぶるアトイの空気だと)。。
  • ふぅぅぅ……ッ。 -- アトイ
  • (吐息が、アトイの口から漏れる。
     グルグル、と喉の奥で遠雷のような唸りが鳴った。
     一瞬、身を強ばらせるクレハを、アトイが見下ろす。
     その赤い瞳は、ガラス球をはめ込んだような無機質な爬虫類めいた目
    に見えた)
  • ……大丈夫ですか。 -- アトイ
  • (アトイの声だった。
     鱗に覆われて、鉤爪のついた大きな手で、クレハの腕を傷つかない
    ように掴むと、少し乱暴に胸元に手繰りよせる)。
  • え…? あ、うん大丈夫…久しぶりに異能を使ったから…少しへたれちゃったかも…? -- クレハ
  • (見つめる瞳にゾワリとした物を感じる、しかしそれは一瞬だけ
    クレハを心配するアトイの声は冷たい咆哮ではなく体温のある声だったから
    握る手は鉤爪なれどアトイの手だったから
    収まった胸元からは聞きなれた心音が聞こえたから)
  • …そうだ? アミちゃんとロワナちゃんは…… -- クレハ
  • (胸の中から不安は消えぬが今はもっと気にするべき事がある、アミとロワナだ
    周囲は炎に包まれ危険な状況。クレハは姉妹の姿を求め首をぐるりと巡らせた)。。
  • クレハちゃ〜ん、アトイちゃ〜ん…… -- ロワナ
  • (逆さまのロワナと目があった)
  • うっくぅ……。 -- アミ
  • (すぐ側には、アミも黒い根に捕まり吊るしあげられて、苦しげに呻く)
  • やめろ!やめてくれ……!放してくれ!頼む!ネオン!! -- 宗右衛門
  • (辺りを覆っていた樹海は赤く燃え盛り、炎の壁の向こう側で宗右衛
    門が叫ぶ)
  • あいつら! -- アトイ
  • (アミとロワナの二人は、黒い根を束ねた幹の上に立つネオン
    に捕らえられていた)
  • お前の負けだ、龍神アトイ。 -- ハウンド
  • (黒い根でネオンの左右に縛り上げられた、姉妹は、重力に髪を引かれ
    力なく釣り上げられる。
    傍らにハウンドが立って、牙をのぞかせながら笑った。
     ハウンドは、常に唯一アトイに勝る速度でもって勝負をかけ続けた
    のだ。
     その戦略に翻弄された結果である)
  • ネオン!! -- 宗右衛門
  • (掠れた声で叫ぶ宗右衛門を、ネオンは、もはや一瞥もすることなく。
     ネオンの前に、ひときわ歪な根の塊がせりあがる。
     悍ましい、オドロの花が開くがごとく、根は開く。
     その中央、怪しげな極彩色の輝く箱があった。
     紫、赤、橙、緑、黄、青、水色、赤、黄、紫、橙、青、緑……。
     狂った虹色が、一片の光もない夜空に、禍々しく、神々しく光
    を放ち、極彩色の光線が乱舞する)
  • 祭壇は整った。
    我が祭壇は檻。
    囚われ、猛り、狂え、龍神アトイ。 -- ハウンド
  • (獣の咆哮が混じる声が、高らかに告げた)。

龍神アトイ Edit





    • (廊下の窓が、がたがた、と割れるのが心配になるくらい震えている)
      • うわぁ……。外すっごい風強い。うちの船大丈夫かな。 -- ちはや
      • (開け放たれた教室の扉から、外を見ながらジャージ姿のちはやは言
        った)
      • 予報より大分強くなったみたいだなこの台風。 -- 兄貴
      • (答えた少年は、兄貴である。兄妹ではない、アダ名だ)
      • 学校に泊まりとか久々でおもしれーじゃん。どうせならオリバの奴も
        来ればいいのにな。あ、俺2枚チェンジな。 -- サム
      • (机を後ろ側へ片付けた教室で、ポーカーに興じているがきんちょは、
        サムである。
         向かいに座ったポーカーフェイスなしらせ君が、手慣れた手つきで
        山札から、2枚カードを投げて寄越した)
      • のんきなんだから。 -- おおすみ
      • (そういうおおすみちゃんも、ゲームに混じっていた。
         彼らは皆、アミとロワナのクラスメイトで、予想外に強まった台風の
        ために、村の海辺に住む彼らは、家族共々学校へ避難していたのだ。
         子供を含めて大人たちも20名ばかりが、普段アミとロワナ達の通う
        学校の教室にいる)。
      • 『緊急警報、緊急警報です〜
        気象術協会から大型の台風の接近にともなう緊急避難警報が発令されました〜
        えっと? 海沿いの皆さんは戸締りをしたらなるべく早く学校へと避難してくださ〜い』 -- ソア先生
      • …ふぅ、10分くらいしたらもう一回放送しましょうね -- ソア先生
      • (マイクから口を離すとソア先生は大きく深呼吸をした。何度か放送を繰り返しこれで三度目になる
        気象術協会(※精霊と交信し気象を予報する組織)から天候への警戒通達があったのが小一時間ほど前
        酔って寝ていたミア先生を「転がし」起こしたのがその暫く後
        放送を聞いた村民たちは即座に避難を始め、今に至るのだが)
      • ん〜万丈さん達の姿がありませんね〜どうしたのでしょう? -- ソア先生
      • (万丈とは勿論アミとロワナ達の事。先から何度も連絡を試みているがいっこうに通じない
        この嵐、心配ではあるが暴風雨に阻まれ外に出る事もままならない)。。
      • んもぅ……。嵐だから今夜はゆっくり出来るって思ってたのにぃ。 -- ミア
      • パイプ椅子に足を汲んで座りながら、短パンTシャツの上から白衣を
        着たミアは、頭をガリガリと掻いた。若干目が充血している)
      • みゃー先生ー。炊き出しのおにぎり持ってきたよー。 -- くろこ
      • (放送室の戸を開いて、顔を覗かせたのはくろこさんだ。
         みゃー先生に負けず劣らず、げんなりとした表情をしていた)
      • みゃーせんせー言うなー。。 -- ミア
      • みゃー先生…ソア先生…ごきげんよう……
        これはどちらにおけば…よろしいでしょうか…? -- しろこ
      • (くろこさんに続く様に顔を出したのはしろこさん
        こちらはいつも通りに無表情だが、メイド服の上に外套を纏い手には大きな包みを下げている)
      • くろこさんしろこさん、こんにちわ〜
        うん、食べ物は黒板前のテーブルの所にお願いするわね〜?。。 -- ソア先生
      • むぅ……。 -- ミア
      • (むすり、とした表情で、ミアは教室へと向かう二人を見送る。
         やおら立ち上がると、窓へ歩み寄り)
      • うぉぉーい!万丈ぅー!無事ならとっとと返事しろー!!! -- ミア
      • (窓を開けて叫んだ。
         その時だ、暗闇の向こうに、奇妙な光を見た。
         地上から、虹の吹き出すような歪な七色が立ち上る、見ていると気分
        の悪くなるような極彩色に照らされて。一瞬、山よりも巨大な影が、
        海に聳えているのが見える)
      • んん? -- ミア
      • (目を凝らそうと、窓枠から身を乗り出すと……。
         突如、万雷が地を穿つような轟音と衝撃が迫った!)
      • にょわぁあああああ!? -- ミア
      • (嵐の風が、突然何倍にもなって吹き付ける衝撃。
         木造の校舎が、地震にあったかのように揺れ、ふっとばされたミアは
        床に尻もちを着く)。
      • わ、何、地震!? -- ソア先生
      • (大きく揺れる校舎にソア先生は壁に手を付く事で耐えたが
        その側にミア先生が尻餅を着きながらスライディングしてきた
        廊下の向こうからは生徒達の驚きの声が聞こえる)
      • み、みあちゃんどうしたの? ああ、窓閉めないと〜機材が濡れちゃう! -- ソア先生
      • (ミアを助け起こすと、慌てて風雨の吹き込む窓へと駆けよった)。。
      • (頭上で、チカチカ、と蛍光灯が明滅する)
      • か、雷?いや……ううん……。 -- ミア
      • (ソアに助け起こされ、額に手をあてて首を振りながらミアは言った)
      • ……今、窓の外にさ……なんかゴジラみたいなのが居たのが見えたん
        だけど……。。 -- ミア
      • ゴジラ…怪獣の…? -- ソア先生
      • (ミア先生の言葉を聞きながら窓を閉めると、ソア先生は首を傾げてから目をパチクリとした
        ガラス向こうの闇へと目を凝らすも、打ち付ける雨ばかりで何も見る事は出来ない
        暫し悩んだ後、その大きな身をミア先生の側に屈めると、こう呟いた)
      • まだ酔ってる?。。 -- ソア先生



      • (吹き付ける雨を、アトイのドラゴンが放った咆哮が押し返す。
         その声は、もはや音を越え、衝撃となって周囲の建物のガラスを叩
        き割った)
      • そうだ!吠えろ!狂え!壊し尽くせ!
        お前の力で、お前が守ろうとした全てを壊してしまうがいい! -- ハウンド
      • (崩壊したアミとロワナの家。その2階だった床に立つアトイを見下
        ろしながら、ハウンドが叫んだ。
         歪に絡まり合い、巨樹の幹のごとくなったネオンの黒い根の上に立
        っている)
      • グゥォォォォ……。 -- アトイ
      • (アトイが、抱いていたクレハの手を離した。
         ハウンドを睨み上げ、その喉で低く畏怖を誘う、巨大な獣の唸り声を
        響かせる)
      • 来い、私を殺しに来い。
        この時を待っていたんだ。首を跳ねられようと、首だけでお前の喉笛を
        噛みちぎり、刺し違えてやる。 -- ハウンド
      • (ハウンドが、吠えた)。
      • アトイさんダメ! 挑発にのってはダメ!あの時みたいになる! -- クレハ
      • (離された手にもう一度縋りつこうとする。あの時とはアトイが祭壇に囚われた時の事
        状況は完全に獣目の少女…ハウンドの望む流れとなってしまっている
        今止めねば状況はさらに悪くなる、だからむりくりにでも止めねば)。。
      • (クレハの手を、爪のついたアトイの手が掴んで払った。
         次の瞬間アトイは飛び出していた。
         握った拳をハウンドに向けて叩きつける、絡まりあう黒い根が壁を
        成してそれを受け止めた。
         飛び散った木片が散弾のごとく当たり中にばら撒かれ)。
      • きゃっ…!? -- クレハ
      • (手を払われ、続く衝撃に尻餅をついてしまった
        目でアトイを追おうとするも降り注ぐ木片に顔を上げる事もままならず)
      • アトイさん…アトイさん…… -- クレハ
      • (顔を伏したまま愛しい人の名を呼び続けるも返答はなく
        アトイの声は遠く咆哮となり、黒き嵐の中を雷鳴の如く轟き続ける)。。
      • なんて事だ……!アミ、ロワナ……ッ!危ない!逃げろぉ!! -- 宗右衛門
      • (咆哮と嵐にかき消されそうになりながら、クレハに向かって宗右衛
        門が叫んだ。
         巨大なものがすぐ側で動く圧力の変化を感じる。
         ドラゴンが動き出した。
         山よりも巨大な身体が、少し動いただけで、半壊した家屋は積み木
        を蹴飛ばす如くバラバラに砕け散る)。
      • アトイさんアトイさん………はい…? わっ、きゃっ…!? -- クレハ
      • (俯いたまま呆然自失状態のクレハだったが
        宗右衛門の呼びかけと、冒険者として培った物が身の危険を察知させた
        気付けば周囲の破壊は進み、このままでは瓦礫の下に埋もれてしまう)
      • ええ、逃げましょう…! -- クレハ
      • (宗右衛門に頷くと家の外へと向かい駆けだす、その直後
        間一髪、先までクレハの居た場所へと天井の梁だった物が落下してきた)。。
      • (ほとんど半壊状態だった家が、完全に崩れ去って行く。
         宗右衛門は、かろうじて残っていた庇から庭へ飛び降りた)
      • (危うく難を逃れた二人の頭上を、ドラゴンの巨大な足が通りすぎて行
        く。
         ドラゴンが、ネオン達を一気に踏み潰そうとしているのだ。
         突如、地響きとともに地面が割れた。
         中から火山のごとく、大量の黒いタールのような粘体が吹き出す)。
      • うひゃあ…!? もう、危ない危ない…こらー! アトイさん!… -- クレハ
      • (クレハもまた光の異能を足場にし庭へと飛び出した
        そして上を見上げるとドラゴンに向かい大声を張り上げる
        しかし声は届く事無く、巨大なドラゴンの足は通り過ぎて行った)
      • …って聞こえて無いわね…もう、…? 今度は何、石油…タール…?。。 -- クレハ
      • (ネオン達の立つ黒い根を中心に、楔を穿たれた一点から、タール状
        の粘体が、地面を切り裂き広がっていく、海をも割り、地割れが村の中
        を一直線に背後の山まで及んだ。
         激震が襲う。黒ぐろとした夜の大地が、暗闇の中で、荒れる海と同
        様に、うねり、脈動しているのだ。
         あるいは、大地の腹を突き破り、何かが出ようとする痛みにのたう
        ち回っている。
         一瞬で、吹き出した粘体はアトイのドラゴンをも凌ぐ高さまで、巨
        大な壁となって立ち上がり、ネオン達もアミもロワナも、ハウンドも
        飲み込まれて消えた。
         片方の翼だけで飛んでいたアトイもである。
         揺れは激しさを増し、粘体の壁は竜巻に吸い上げられるように一箇
        所に集りだす。
         形が現れ出す、ありとあらゆる獣の牙である。
         飛ぶもの、泳ぐもの、駆けるもの、全ての獣の手足である。
         殻に覆われた無数の蟲共が、蟲毒の中身の如く這いずっている。
         それを何と呼称すればいいのか、言葉は無く。
         ただ、紛れもなくそれは、1個の生命だという確信だけがあった。
         巨大な質量を得た黒い粘体は、アトイのドラゴンに喰らいつく。
         二匹の、圧倒的質量を誇る生命体が、嵐の海の中へ飛沫を上げても
        つれ合って倒れこむ)。
      • …あー…えっと…… -- クレハ
      • (クレハは数度瞬きをすると、光の障壁を解き呆然とした表情を浮かべた
        髪の一房を指で摘まむと上を見て下を見てから小さくこう呟いた)
      • どうするのよこの状況…… -- クレハ
      • (もはやクレハ一人でどうこう出来る限界を越えている
        夜を背景に海で暴れる二体の巨獣、少し前にも似た光景を見た気がした
        あの時はどうやって解決したのだろうか?ぼんやりとした頭でそんな事を考える)。。
      • なんだ……これは……。 -- 宗右衛門
      • (その横で、膝をついた宗右衛門も、愕然として言った。
         とうに人の理解の範囲を超えていた。
         全ての雷を束ねたかのような咆哮が轟き。耳を塞ぐ事すら忘れ。
         その時)
      • (雨が止まった。
         光が、燦然と輝いて夜を払拭する。
         だが、それは夜明けと呼ぶには破壊的に過ぎた。
         ドラゴンの牙の中に生まれた恒星が、その本来が圧倒的な熱と光の
        暴虐である事を知らしめるように轟々、と燃え盛り。
         頭を厚く覆っていた雲は消え、青空の上に夜がある、異常な光景とな
        った。
        海は一瞬で蒸発して、海面に白い塩の結晶が流氷のよう
        に浮かぶ。
         もはや制御された力では無かった。
         側に近寄る事すらを許されない、猛威という名の神の領域。
         地上に生み出されてしまった新星は、際限なく膨れ上がっていく。
         その力が解放されれば、古の邪神の身体をも貫くのは必至だ。その
        背後にある村の全てをも、地殻もろとも消滅させて。惑星そのものを
        大きく抉るような大惨事を引き起こす筈であった)。
      • なんだと聞かれても…なんて説明したら良いの…えっ!? 伏せ…… -- クレハ
      • (あまりにも酷い状況。クレハはなんと説明するべきかと頭を抱える
        その悩みは長くは続かなかった、追撃する様に新たな事態が起きてしまったから
        巨大すぎる閃光。アトイのブレスだ
        それも躊躇い(ためらい)も躊躇(ちゅうちょ)も無い本気のドラゴンブレス
        それを見た瞬間クレハにはわかった次に起こる事が……)。。
      • (クレハの予感を肯定するように、光は益々強まり全てが白く塗りつ
        ぶされていく。
        村の前の湾を囲う山よりも巨大な二つの影が、極白の中に聳え……。
         圧倒的な光と熱の猛威に、ついに音すら溶解する。
         極小の恒星が爆ぜる。
         その瞬間の間隙を縫って、それは姿を表した)
      • にゃぁ
      • (音すらも光に塗りつぶされた中で
      • (クレハと宗右衛門の前に、突然巨大な壁が現れた。
         何十センチもの塩の結晶板と、大量の海水を押し上げて。それは、
        流氷を突き破るように浮上する。
         膨大な量の海水が大瀑布となって甲板からあふれだす。
         同時に、二人の目の前に、小さな少女の背があった。
         暴虐の光を遮り、ドラゴンにも黒き怪獣にも劣らない、大長城を見
        上げる少女の姿。
         そして、光の中で、重厚な砲塔と高くそびえる艦橋のシルエットが
        浮かび上がる。
         非常識な程巨大な、それでいて、それが示すモノはただひとつしか
        無いという、説得力でもって鎮座する。
         突然現れた戦艦が、アトイの放ったブレスを遮っていたのだ。
         黒い怪獣の身体をも貫いた光を受けても、微動だにしない。
         それはまるで、目の前の小さな少女が、アトイの力を全て受け止め
        ているようにも見える)。
      • …もうダメ………にゃぁ…? -- クレハ
      • (音も光も感覚も全てが消されんとした時それは聞こえた
        そして顔の前に掲げた両手の指の間からそれは見えた
        それは破壊の光の中、燦然と立ちはだかっていた)。。
      • …どうもー。
      • (黒を基調とした制服を着た少女が振り返る。
         アトイと同じ顔で、アトイとは違う長い黒髪を下ろした髪型。
        そして、もう一つ違うのが)
      • …お久しぶりです。
      • (青い細フレームのメガネを、指ですちゃっ、と押し上げた)。
      • ア、アオイさん…!? やっぱりアオイさんだったのね…! -- クレハ
      • (暫し呆然としていたが、その顔が知った顔とわかれば
        そして見間違えで無かったと知れば飛び付く様に抱きついた
        その名はアオイもう一人のアトイ、狭間の世界に住まう少女。
        そんなアオイとの再会を喜び抱きしめるクレハの頭に白い長靴の仔猫が飛び乗った)
      • そっか…あなたはアオイさんの所に居た……。。 -- クレハ
      • …はい、猫です。 -- アオイ
      • (アオイは、メガネをたたみながら言った)
      • お前さん……隣の、あの……アトイ……。 -- 宗右衛門
      • (分厚い鋼鉄の壁に遮られて、天を覆わんばかりの大きさだったドラ
        ゴンも黒い塊も見えない。
         息吹き返した宗右衛門は、驚いて、アオイとクレハを交互に見る)
      • …あ、それ姉です。今あっちで暴れてた奴。あのドラゴン。 -- アオイ
      • 何!? -- 宗右衛門
      • …私は、アオイ。説明は後で。 -- アオイ
      • (ちょっと待ってね、という感じに、アオイは右手をあげる。
        そしてクレハの方へ向き)
      • …あまり、のんびりもしていられません。急いでお姉様を止めにかか
        ります。。
      • あれで行くのね…? なら私も行くわ…!ううん…絶対についていくから…! -- クレハ
      • (鋼鉄の要塞の如く聳える戦艦を指差し告げると、頭に乗っていた猫を胸元に抱き
        アオイの顔にぐっと自分の顔を寄せ告げた
        強い意志の籠った瞳は「待っていてと言っても無駄よ?」と語りかける)。。
      • …今回は2対1になります、安全の保証はしかねますよ。 -- アオイ
      • (そう言いながら、アオイはにやりっと笑う。
         口の端を釣り上げる、少しだけ意地悪な笑みだった)。
      • ふふっ、違うわ…2対2よ…? -- クレハ
      • (アオイを指差し、自分を指差すと同じ様ににやりっと笑みを浮かべた
        かつてアオイとアトイの大喧嘩に巻き込まれた経験のあるクレハ
        怪獣同士の戦いに巻き込まれるくらいなんとも無かった
        先まで呆然としていたのが嘘の様だ)。。
      • …はい。
        では、そっちのご老体はー……。 -- アオイ
      • ……俺は……。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が言いかける。
         突如、轟音が響き。身体の芯で音叉が揺れるようなビリビリとした
        衝撃が走った。
         巨大な戦艦によって遮られ、少しだけ静かになっていた海が、風も無
        いのにさざ波立つ。
         戦いは、続いているのだ)
      • …不味い。急ぎます。階段を出すので……。 -- アオイ
      • (アオイがそう言うと。遥か上に仰ぎ見る戦艦の甲板から、クレーン
        のアームのようなものが張り出してきて。
         下ろす、というよりは、落す勢いで先端が海の中へ降り落ちた!
         派手に水柱が上がる、甲板から海面まで、大型クレーンが引っかか
        ったようになる)
      • …こっちですよ。 -- アオイ
      • (錆びついて、ところどころ鉄骨が抜けて、正直言ってアオイが下ろ
        したのか、崩落したのか見分けがつかないタラップモドキへ向けて、
        アオイは躊躇なく、海に入った。
         見れば、非常に雑ではあるが、鉄骨の中は一応手すりと階段らしきも
        のがあるし、ぶら下げられた裸電球の照明もついていた。
         明かりに照らされてわかる、アオイの戦艦は、船舷が錆に凹みに汚れ
        だらけで、つぎはぎのリベットだらけだった。
         よくこれであのドラゴンの一撃に耐えたものだ)。
      • ま、まぁ…大雑把な方が丈夫と聞くし…大丈夫よね…… -- クレハ
      • (落ちてくるタラップモドキに唖然としたが
        直ぐに気を取り直しアオイを追う様に海の中へと入って行く
        クレハは人魚濡れる事にはまったく躊躇いは無かった)。。
      • …………。 -- 宗右衛門
      • (待ってくれ、と言いかけて宗右衛門は言葉を飲んだ。
         自分も行くと言おうとしたのだろうか。
         何故。
         アミとロワナを、救わねばならない。それは確かだ。
         だが、自分が行って何ができるというのか)
      • ……。 -- 宗右衛門
      • (この世界には、常識を超えたモノ達が実在するのだ。
         彼女たちは、きっとそう言った類なのだ。
         海辺の村は、そういったモノとは縁遠い場所だから、まさか目の前
        に現れるとは、彼は思いもしていなかっただけで……)
      • (赤い鱗の半龍の女や、アミとロワナを攫った獣のような少女。
        そして、今目の前に現れた、戦艦を操る子供も。
         知るよしもなかった、遠い世界からの来訪者達なのだ。
         いや、違う。
         1つだけ、宗右衛門は知っていた。
         ネオン……。
         彼女の黒い根と、一族に纏わる秘密を、ずっと昔に聞かされていた
        はずだ。だから、館の一族の血を引く、アミとロワナを命あるかぎり
        必ず守ると誓っていた。
         誓っていたのに、どうして。今までネオンの事も、あの夜の惨劇も
        忘れようとしていたのか。
         到底自分の手には負えないと、心のどこかで諦めて居たのか)。
      • ……俺は。 -- 宗右衛門
      • (俯いたまま、宗右衛門は呟く)。
      • (風が頬を撫でた
        その風は嵐の中にあって温かで柔らかで、そしてどこか懐かし香りがした
        その風は宗右衛門の頬を撫で、髪をそっと揺らした
        風が通りすぎると、一瞬だけ全ての風と音が止まった)
      •  
      • (宗右衛門の背後から声がした。いや声が聞こえた様な気がした、音の無い声
        声の主の名を呼ぼうとした時ぽんっと背を押された、振り向くよりも先に背を押された)。。
      • はっ!? -- 宗右衛門
      • (辺りを見回しても、人影は無い。
         ただ、決して聞き間違えの無い声を聞いた気がして)
      • ……そうだった、俺達ぁ、きっと助けるんだって決めたんじゃねぇか。 -- 宗右衛門
      • (声に、強く、優しく、励まされたように思えて。それだけで、手足に力の蘇ってくるのを感じる)
      • 待ってくれ!俺も行く! -- 宗右衛門
      • (錆びた鉄骨の階段を登っていたアオイとクレハの背に、そう叫んだ)。




    • (頭上には再び、嵐の雲がとぐろを巻くように流れ、波は壁が連なる
      ごとくに立ち上がり荒れた。
       波の壁を、そびえ立つ舳先がぶち破って突き進む。
       走る稲妻に、左右非対称に並べられた、大きさも不揃いな主砲が真
      っ暗な水平線に伸びるのが見える。
       アオイの戦艦は、異様な姿をしていた。
       シルエットは確かに、古式ゆかしい大戦艦である。しかし乗り込ん
      でみると。艦というよりは、鉄骨製のジェンガのような構造物郡が、
      なんとなく戦艦のような形を取った。としか言いようがなく。
       無秩序な構造物の間を、うねうねと煙突や配管がのたうち周り。隙間
      恐怖症患者の執念でもって、砲だ、機銃だ、と突っ込めるだけ突っ込
      んだような様相であった。
       そして、ある種の美学でもってそうしているように、錆とつぎはぎで
      彩られていて、意味があるのか無いのかしれない、漢字とアルファ
      ベットによる、大小の書き込みと看板に装われて居た)
      • だ、大丈夫なのか、この船!? -- 宗右衛門
      • …私の戦艦は一向に無敵ですが? -- アオイ
      • (薄暗い艦橋内で、宗右衛門が思わず言うと。
         アオイは無表情に答えた。
         おそらくkm単位の巨大艦なはずだが、漁師である宗右衛門が難儀する
        程、凄まじく揺れる。
         窓に、艦体から剥がれ落ちた、何かがぶつかって、暗闇の海に吸い
        込まれていった)。
      • 無敵なのはさっきのを見ればわかるけれど…居住性は最悪ね…? わわ…!? -- クレハ
      • (さっきとはアトイの放ったドラゴンブレスを防いだ時の事
        宇宙規模のエネルギーを船体で受けとめたのだ、その頑丈さは容易に想像できる
        しかし頑丈さと引き換えにしたかの様に居住性は酷い物で
        船乗りである宗右衛門が難儀する以上に、クレハは何度も転がりそうになっていた)
      • 船の揺れなんぞ自然体でおれば造作も無い事よ -- 長老
      • そうは言うけれど…この揺れは海の中に居る方がマシな…長老…? -- クレハ
      • (いつの間に乗りこんだのか振り向けば座布団にあぐらする長老の姿
        膝の上には白い長靴の猫が心地よさそうに居眠りしている)。。
      • …私の美的感覚を否定されたようで、ちょっとショック。おや、あなたは? -- アオイ
      • (揺れに合わせて、棒立ちのまま、右へ左へと横滑りするアオイが首
        をかしげて)
      • うぉ!? -- 宗右衛門
      • (突然現れた青い少女に、柱に掴まりながら宗右衛門は驚く)。
      • 海底の漁礁の様でワシは好きじゃが…なんぞ?おのれら驚きおってからに
        まぁ…そうじゃな、クレハはワシの事を知っておるだろうが……
        そこの二人とは初めてになるかのう?
        -- 長老
      • …長老はどこでもマイペースね…… -- クレハ
      • 気にするな。ワシはヴァイア、クレハの…そうじゃな親戚の様なものだ
        そんな訳でしばし世話になるぞアオイとやら、そして宗右衛門
        -- 長老
      • (頭を抱えるクレハを横目に、短く自己紹介をするとにっ笑みを浮かべた
        膝の上で寝ていた猫が小さく欠伸をしなさった)。。
      • …はい、アオイです。 -- アオイ
      • どうして、俺の名を……。 -- 宗右衛門
      • (アオイは頷き、宗右衛門は首をかしげて。
         その時、咆哮の混じる衝撃が響き、艦橋の分厚いガラスがビリビリ
        と震えた。
         古い電話のような警報のベルが断続的に響いて、艦橋内照明が仄暗い
        赤へ変わる)
      • …ごゆっくり、とは行かないようです。長老様、猫をよろしく。 -- アオイ
      • (カツッカツッ、と足音を鳴らし。アオイが艦橋の窓辺に立った。
         眼下で、砲塔郡が重たく駆動し、照準を定め始める。
         村からはかなりの沖合で500m以上の水深のある海域に、身体の半分
        以上を海に浸かりながら、島と見紛う程に巨大な影が二つ。
         その頂部が、牙の並んだ巨大な顎を開いて吠え猛り、獲物へ食らい
        つかんと荒れ狂う様が、遥か遠方からでもはっきり見える)
      • …ひっさびさです、容赦なく行きますよ。 -- アオイ
      • (口の端だけをニタリッと釣り上げる笑みで、アオイが笑った)。
      • うむ、猫はワシに任せておくがよい -- 長老
      • ええ、思いっきり行っちゃって…!
        今のアトイさんは本気で行かないと無理そうだから…私の代わりに…… -- クレハ
      • (艦橋の窓に顔を寄せながらクレハが告げた、その視線の先にはあらぶるアトイの姿
        竜は天変地異の象徴と言うが、今のアトイはまさに荒れ狂う嵐その物
        手抜きは出来ない、気を抜けばこちらが危ない、それがアトイと対存在であるアオイの力をもってしてもだ)。。
      • …クレハさんの許可もでましたので。 -- アオイ
      • (アオイは、スカートからすっ、とメガネを取り出して掛けた。
        対閃光防御である)


      • オオオオオオオオッ!!! -- アトイ
      • (嵐を吹き飛ばす雄叫びを上げ、アトイは黒ぐろと畝る地面の上を
        飛んで。拳を、ハウンドへ叩きつけた)
      • ハッァァ!! -- ハウンド
      • (その拳を、ハウンドは前転からの踵で下に叩き落とす。
         即座、鉤爪のついたアトイの蹴りが薙ぎ払い、バックステップで回
        避するハウンドの腹を浅く切り裂く)
      • ハハハッ!鈍いな! -- ハウンド
      • (傷は瞬時に回復していく。
         両腕を足元の地面に突き入れたハウンドへ、再びアトイが拳を振り
        かざして。ハウンドは、難なくアッパーでアトイを吹き飛ばした。
         その両腕へ黒い粘体がまとわり付き、流動して、歪な程に分厚い筋肉
        と巨大な獣の爪を形成した)
      • これなら、私の手でお前を殺してやれる! -- ハウンド
      • (今度は、ハウンドがアトイへ飛びかかる。
         横から、牙の生えた断崖が突然割り込み、地面を大きく抉った。
         ドラゴンの顎だ。
         牙1つで、遥かにハウンドよりも巨大で、血走った目玉が頭上を覆う
        ように睨みつける)
      • (そのドラゴンの首を、更に巨大な顎が捉えた。
         屹立する奇岩のごとく。突然、黒い地面から生えたのは、蟲の大顎
        である。
         二人は今、アトイのドラゴンと対を成す、黒い粘体の上に居た)
      • グゥゥッ……ゴァァァァッ!! -- アトイ
      • (アトイと、ドラゴンが同時に吠える。
         衝撃で、黒い粘体の地面は波紋を描いて震えた。
         大顎をドラゴンの腕が掴み、へし折ると。すかさず無数の触手が飛
        び出し、寄生樹が絡みつくようにドラゴンを絡めとる。
         一瞬にして、辺りは黒い密林の様相を呈する。
         密林をぶち破り、アトイは一直線に走った。
         ハウンドが迎え撃つ。
         拳を叩きつけあい、掴み上げられたハウンドの身体が幹に叩きつけ
        られる)
      • 無駄だぁ! -- ハウンド
      • (だが、さしてダメージは無く。
         跳ね起きるハウンドにアトイが追撃をかけようとした時。その足元に
        無数の蟲や、毛の無い猿ようなモノが這い登って動きを封じた。
         獣の咆哮が響く。
         牙を剥いたハウンドは、片方だけ残っていたアトイの翼を顎に捉え、
        噛みちぎった)
      • お前も地べたを這いずれ……ははっはっはっは!! -- ハウンド
      • (振り返るアトイは、牙を剥き出して唸る。
         唸り合う獣が二匹睨み合う。
         その時だ、炎が上がった。
         ドラゴンを捉える、黒い木々の枝が、次々と巻き起こる爆発に砕け
        散っていく)
      • ドラゴンか!? -- ハウンド
      • (違う。爆発は容赦なくアトイのドラゴンにも降り注いで。打ちのめ
        している)
      • ……ッ! -- ハウンド
      • (迫る圧力を感じて、ハウンドはすかさず飛び退いた)
      • 砲撃!? -- ハウンド


      • …全弾命中ー……いよっし! -- アオイ
      • (双眼鏡を覗きつつ、嬉しそうに拳を握るアオイさんである。
        黒い巨獣のみならず、容赦なくアトイのドラゴンにも着弾させている
        が、心配するどころかむしろすごく楽しげである)。
      • どう、行けそう…? 命中はしているみたいだけど…… -- クレハ
      • おお派手じゃのう?
        今時の戦船(いくさぶね)はこんなごっつい大砲を載せておるんじゃなぁ
        -- 長老
      • (アオイの隣、アオイと同じメガネをかけたクレハが呟く様に言った
        雨の様に降り注ぐ砲弾を受けるドラゴンの姿はまるで怪獣映画の一場面にも見えて
        それゆえ近代兵器の攻撃が怪獣…ドラゴンにどれほどの効果があるかの不安がある
        同時に、自分からお願いしたとは言えアトイに攻撃する事への後ろめたさもあって。
        それとは対照的なのは長老
        まるで花火大会でも観戦するかの様やんややんやと喜んでおられる)。。
      • あそこにアミやロワナも居るんじゃないのか!? -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が、真っ青になりながら叫ぶ)
      • …え? -- アオイ
      • (アオイがクレハの方を振り返る。
         何それ、初耳。とでも言ってるような顔である、無表情だが)。
      • …え? -- クレハ
      • (クレハがアオイの方を見返す
        すっかり忘れていたと言う表情である。無理もないこんな事態だ
        そもそも他に方法があったろうか?手を抜く事等出来ぬ状況……
        それはいい訳。クレハは固まったままどうしようと言う顔を浮かべる)
      • 大丈夫じゃろう。ワシの見立てでは、ちみっこ二人はあの中におる
        核とでも言うべきじゃろうか?あの荒ら神のど真ん中付近にある様じゃな
        -- 長老
      • (皆が固まる中、長老が口を開いた
        やおら立ち上がると猫を頭にのせ、コツコツと杖を鳴らしながら窓辺へ
        そして黒き邪神を杖で指し示しすとそう告げてニッと笑みを見せた)。。
      • まだ無事なんだな! -- 宗右衛門
      • …と、なると。……ど真ん中に飛び込まないと……あっ。 -- アオイ
      • (メガネを取りながらアオイが、急に窓の外を振り返る)。
      • ふぅ…二人は大丈夫なのね…よかった……ん?アオイさんどうしたの…? -- クレハ
      • (アミとロワナがまだ無事と言う事を知ればほっと息を吐くが
        アオイが窓の外を見れば、続く様にクレハも窓に顔を寄せた)。。
      • …危ない、伏せ……。 -- アオイ
      • (アオイが言い終わる前に、一瞬、すべての音が消えた。
         津波の直前に、音もなく海が引いていくのに似た、不気味な静寂。
         次の瞬間。大気が、爆ぜた。
         大洋の只中、どこまでも広がる広大な空間の全てが、破裂した。
         アトイのドラゴンが、咆哮を放った時。強大に過ぎる力で、音は、
        音という概念を砕かれて、衝撃と化して荒れ狂う。
         黒い巨獣すら、その圧力にのけぞり、引きちぎられた体表がすり潰
        されながら飛ばされ、衝撃をモロに受けた戦艦は、艦首が水没し、艦
        尾が海面から浮き上がった。
         ドラゴンを中心に、海面が半球を描いて陥没し。
        荒れ狂るっていた大海原は、磨かれたガラス面の如く一様に平にされて
        凄まじい振動に霧となって吹き飛ばされていく。
         ただ、吠えた。
         それだけで、海原すら形を変え、海底の岩盤はひび割れて砕けた。
         もはや、アトイがそこに存在するだけで、星そのものが悲鳴を上げ
        始めるまでに、力は膨れ上がっていたのだ)
      • …ぐぬににに!!バカ力なんだからこのっ!! -- アオイ
      • (激しく傾斜する艦を操り、アオイは衝撃を受け流そうとする。
         分厚い艦橋のガラスにヒビが入り、上部構造物はへしゃげ、あるいは
        吹き飛ばされて砕かれるものすらある)
      • …あ、やば。 -- アオイ
      • (アトイの咆哮で、クレーターのようになった海の底へ、海水が渦を巻
        いて落ちていく。
         水流に翻弄され、一〇〇〇mを越える巨大な戦艦が、池に浮かぶ笹舟の
        如く揺れ。アトイへと引きずり込まれて。
         そこをさらに、追い撃つ。
         夜空が、凶悪な光に押しのけられて行く。
         ドラゴンが、再びブレスを叩きつけようとしている。
         艦へめがけて!)。
      • やばって…バリアとかは…あ、私の障壁で…やっぱり無理ぃ…! -- クレハ
      • (攻撃に揺られ尻餅をついていたクレハが悲鳴の様な声をあげる
        万策尽きたとはまさにこの状況の事を言うのだろう
        頑強な超巨大戦艦と言えど、艦橋部に直撃を受ければひとたまりもない
        その事態はどうしても避けねばならなかった、しかしその事態が起きてしまった
        ドラゴンの口から解き放たれた閃光は海の水を蒸発させ海底に新たな海溝を穿ちながら迫って来る
        艦橋の中は圧倒的な光に塗りつぶされ、視界が白に閉ざされて行く……)
      • あ、あれ…生きてる…? -- クレハ
      • (不意に視界が戻った
        まだ目はチカチカとするが全ての色が見え、五感もある、つまりまだ生きている
        きょとんとした表情のまま窓の外、ブレスの来た方向を見れば「蒼」があった
        「蒼」がブレスを折り曲げ弾いていた)。。
      • …これは……いよしっ! -- アオイ
      • おおお!? -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が柱に捕まって、ほとんどぶら下がるような状態になるほ
        どに床が傾いた。
         そびえ立つ艦橋よりも高く水柱を上げて、艦尾が着水すると。艦内に
        鉄骨の軋む音を響かせて。戦艦は、破壊の光を遮る「蒼」に沿って激し
        くカーブを切る)
      • …このままど真ん中に突っ込みます。皆さんは退避準備を……。
        …猫に付いて行けば大丈夫ですので。 -- アオイ
      • (足を開いて、床に直立し、アオイが言う。
         その髪が、急激な加速で後ろへ引かれ、風になびくようになる)。
      • ど真ん中はいいけれど…退避ってアオイさんは大丈夫なの…? -- クレハ
      • (壁際に転がっていたクレハが立ち上がりながら言う
        突っ込むとはつまり体当たりと言う事
        かつてアオイはアトイと激闘を繰り広げた、だが今回はあの時とは勝手が違う
        アトイは理性の箍を外した暴走状態、戦闘力に限界が無い
        直接のぶつかり合いになればアオイも無事ではすまないだろうと)
      • 大丈夫と言うのだから大丈夫なんじゃろう? -- 長老
      • でも……ひゃんっ…長老…! -- クレハ
      • かっかっか、もたもたしておるからじゃ、ほれほれ行くぞ、猫が待ちくたびれておる -- 長老
      • (嗜める様に言うと長老はクレハの尻をパンっと叩き猫を指差す
        扉の方を見れば猫は「くぁっ」と退屈そうに欠伸をしている)。。
      • …はい、アオイは大丈夫です。
        …長老様、お願いしますね。 -- アオイ
      • 良い子だ。おまえさんはアトイより出来る子のようじゃ、飴ちゃんをあげよう -- 長老
      • (アオイの頭を軽くぽんっと撫でると口に飴ちゃんを放り込みなさった
        そしてこっちは任せろと言う様にニッと笑い顔を浮かべた)。。




    • くそっ! -- ハウンド
      • (濛々と煙が立ち込める。
        突然の砲撃にさらされた、黒い巨獣の頂は、山野火災に巻き込まれた
        ようである、タールのような粘体の山は、ゴムタイヤが燃える時のよ
        うな臭いを出す。
         極小の恒星をぶつける、アトイのブレスを食らっても平気な癖に、
        何故こいつらは、ただの火に巻かれるとこうもよく燃えるのか)
      • くそがぁ!! -- ハウンド
      • (ハウンドはもう一度悪態をついた。
         忌々しげに熊のような手で、横にあった真っ黒な樹を殴りつける。
         幹が吹っ飛んで、炎の中に消えた)
      • よそ見をするな……ッ!こっちを向け! -- ハウンド
      • (炎の中で、アトイはハウンドではなく、眼下に迫る一隻の戦艦を見
        下ろしていた。
         理性を失くし、本能のまま暴れるだけの状態の筈であるのに。目の
        前のハウンドを無視している)
      • ガァァアッ! -- ハウンド
      • (ハウンドが爪を振り上げ、吠え猛る。
         アトイはそれを回避した。
         再生した翼でもって、上空へ)
      • 縛りあげろ!! -- ハウンド
      • (立ち込める煙と炎の中から、無数の黒い触手が、ツタ植物が急速に
        伸びていく如く生えて、アトイを追った。
         そこへ、再び衝撃、そして砲声が轟く!)
      • …ふははっ在庫一掃です撃てる砲は全部、撃って撃って撃ちまくれぇ。
        …ですよ! -- アオイ
      • (ドラゴンと、黒い巨獣へぐんぐん近づいて行く戦艦の砲が一斉に火
        を吹いた。
         アオイが、戦艦の艦橋に仁王立ちとなり、低テンションに叫ぶ。
         照準など必要無い。
         艦橋から見上げれば、まるで海を仕切る壁のごとくに、2つの巨体
        が聳えている)
      • オオオオオンッ
      • (霧笛にも似た不気味な声が響いて、目の前に新月の夜が広がる。
         手だ。
         真っ黒な手が、戦艦の行く手を遮ろうとしている。
         それは、巨獣の腹から生えた人間の上腕から先の部分で、アオイの
        戦艦を掴み上げられそうなほど巨大)
      • …おっと。 -- アオイ
      • (高層ビルが左右から崩落するような圧迫感で、指が閉じられようと
        する。このまま突っ込めば、戦艦は、確実に粉々に握りつぶされる。
         鋼鉄が軋みを上げた。
         唸り、軋み、構造物は、崩壊して砲塔に突き刺さる。破片は大量の
        水柱をあげながら、海に落ちる。
         そのナイアガラの大瀑布をも思わせる水柱の中から、左舷の砲塔が、
        流れを切って上へと持ち上がっていく!)
      • …いっぺん、やってみたかったんですよね、戦艦ドリフト。 -- アオイ
      • (最高速で巨大な腕に突っ込んだ戦艦は、艦首の錨を打ち込んで、横
        滑りを決めたのだ。
         色んなものが、だいたい45度位に傾斜したアオイの横を、左へ落
        っこちて。
         喫水線下まで覗かせた右舷側が、大津波を起こして水中へと没して
        いく。
          巨獣の黒い手は、爪で装甲を掠めただけ。そして、戦艦の巻き起
        こした大津波をぶっかけられた)
      • …ッてー! -- アオイ
      • (至近距離で主砲も副砲も機銃まで全部。
         撃てる物全てを打ち放し。
         撃つ端から、さらに砲塔が増設されてめった撃ち。
         側面装甲に何故か次々と窓が開いて、大砲が突出し乱れ撃った。
         黒い手は粉々に散り散り。水平線の向こうまでスコールとなって降り落ちる)
      • …あっはっは。超愉快ー……うわぁっ!? -- アオイ
      • (笑うアオイが、横っ飛びに吹っ飛ぶ。
         戦艦の横っ腹が、突然巨大な塔に衝突したのだ。
         頭上で、アトイのドラゴンが、グルグル、と唸っていた。
         塔と見えたのは尾である。
         海面から飛び出した巨大な尾の先端が、鞭の如く打ち据えたのだ。
         ドラゴンが、吠える。
         その頭上に立ったアトイも苛立たしげに吠えた)


      • ッ!!何だ!?何が起こってんだ!? -- 宗右衛門
      • (激しく壁に叩きつけられながら、宗右衛門が叫んだ)。
      • ひゃっ…!? 今度は何…!? …あ、アトイさんが何かやらかした気がした…… -- クレハ
      • にゃあ
      • まったくのう…… -- 長老
      • (クレハは本日何度目かになる尻餅を付き、転がって来た猫はその尻に当たった
        長老は「こばた」と書かれた看板に乗ったまま通路を滑って行く。
        猫の案内で入り組んだ通路を進んでいた三人と一匹だが
        戦闘の影響をもろに受けた艦内はミキサーの様な状態となっていた
        激しく揺れれば壁は剥がれ電柱は倒れ、大きく傾けば椅子は滑り樽は転がって行く)。。
      • (艦内は、まるで路地だった。
         路地裏が、幾つもの防水扉で仕切られながら伸びている。
         実際に、無人の商店や飲み屋通りが軒を連ねているのだから、そう
        としか言い様がない。規格外に大きな、鋼鉄の通路の中に、木とトタン
        とコンクートからなるノスタルジックな裏通りが延々と連なっている)
      • にゃぁ。
      • (しっぽと、足の先だけが靴下を履いたように白い黒猫が。斜めに傾
        いだ壁の上に立って鳴いた)
      • つ、次はそっちなのか? -- 宗右衛門
      • (傾斜したまま戻らない床の上を、壁に手を付いて宗右衛門が歩く。
         嫌な予感がする。
         さっきから、激しく揺れ動くことはあっても、一応床はきちんと下
        へ戻ってきたのだ。
         なのに、今は傾いたまま傾斜は回復しない)
      • なあ、クレハさん。あのお嬢ちゃんは本当に大丈夫なのか?。 -- 宗右衛門
      • え…? んー……大丈夫だと思う…ううん、大丈夫…!
        だって大丈夫って言ったから…… -- クレハ
      • (宗右衛門の質問に眉を寄せ考える顔を見せるクレハ
        それは最初だけ、大きく頷くと確信を持った顔で言葉を返した)
      • うむ、良い顔じゃ。信じる事は大事ぞ
        宗右衛門も少し落ちつくと良い、飴ちゃん食べるか?
        -- 長老
      • (斜めに傾いた円柱ポストに腰かけていた長老が大きく笑った)。。
      • いや、今は……。 -- 宗右衛門
      • (首を振りながら宗右衛門が言う)
      • それより、これからどうすりゃいいんだ……。アミもロワナも怪物の腹
        ん中なんだろう。
        それに、本当に、あの龍はあんたんとこの、アトイなのか?
        なら、何故あんな……。 -- 宗右衛門
      • (寡黙な宗右衛門から、一気に言葉が出る。
         取り乱してもどうにもならないと、必死に冷静を保っていたが。焦
        りは募っていた。
         アミとロワナを、助けださなければという思いと。理解を拒みたく
        なるほど桁外れなモノを、目の当たりにした恐怖がせめぎ合う。
         どうすれば良いのか考えながら、その場で足踏みだけをするように
        思考は一向にまとまってくれないのだ)。
      • あー…うん、あれは間違いなくアトイさんよ……
        この村には人間以外の種族は少ないから…驚きも多いと思うけれど…… -- クレハ
      • (宗右衛門からのさらなる質問に、クレハはまた眉を寄せてしまう
        それも仕方の無い話
        村人との間に波風立てないためとはいえ、自分達の秘密を今日まで隠していたのだから)
      • ふむ、二人とも少し落ちつけ額に皺が寄っておるぞ? 特に宗右衛門よ
        おまえが落ちつかずになんとする?
        -- 長老
      • (コンっと言う音が通路に響く。長老が杖で床を強く突いたのだ
        長老は二人の顔を順番に見ながら告げると腰掛けていたポストから飛び降り)
      • 長老…? 飴ちゃん…… -- クレハ
      • こう言う時は甘い物じゃ、かっかっか -- 長老
      • (二人の手に飴ちゃんを握らせればまたニッと笑い顔を見せた)
      • ガキじゃあねぇんだが……。 -- 宗右衛門
      • (飴を握った手をポケットに突っ込みながら、宗右衛門は言った。
         しかし、幼女にしか見えない、長老の笑みを見ていると。まるで、
        自分の方が、強がっている子供のように思えて。
         妙な塩梅である。なぜか頼りにしていいのだという安心感が湧く)
      • にゃぁ〜。
      • (3人を呼ぶように仔猫が鳴いた)
      • にゃん。
      • (間を置かず、催促するようにもう一つ)。
      • 猫さんどうしたの…? あ、もしかしてアオイさんに何か…… -- クレハ
      • その様じゃな、少々急ぐのが良さそうじゃ -- 長老
      • (長老はクレハ、宗右衛門と順番に顔を見ると、大きく頷いてから猫の方へと向き直る
        現状三人に出来る事はない、ならば急ぎ退避しアオイの憂いを少しでも減らすのが先決)。。
      • (突然、耳を劈くような金属の破断音が通路を突き抜けて行った。
         一瞬の沈黙、嫌な予感が今度は胸を通り過ぎて。仔猫は前足で顔
        を覆った)
      • (凄まじい揺れが再び全員を襲う。
         通路が見る間に坂の角度となり、ほとんど壁のように立ち上がる。
         照明は火花を散らして消え、赤い非常灯に切り替わる)
      • うぉおおお!? -- 宗右衛門
      • (とっさに、近くにあった電柱にしがみついた宗右衛門の足が浮く。
         破断音はどんどん大きくなりながら近づいて、3人の居る通路の壁
        はひしゃげ、裂け、雑多な店舗の中にあったものが、かき回されて
        辺り中を飛び交った)。
      • ぴゃぁぁぁ…!? -- クレハ
      • (手を突こうとした壁が消えた。手の先にあるのは虚空、身体が大きく傾きそして浮き上がる
        今度は床が消えた、正確には床の一部が倒壊したのだ
        クレハが落ちると思った直後、今度は新たな床が持ち上がって来た
        下層区画の一部が上層に上がってきた様だ)
      • ふーむ、遅かった様じゃな? -- 長老
      • にゃあ?
      • (よろずやと書かれた看板に乗った長老がのんきに呟きながら
        膝に乗せた猫と一緒にくるくると滑って行く)。。
      • 遅かったって……ッ -- 宗右衛門
      • (叫び声が、かき消される。
         耳を劈く金属の破断音が間断なく、絶叫の如く反響し、身体を掠めて
        鉄骨が壁を突き破り、反対側の壁に突き刺さった。
         どうするか?祈るしか無い。
         鉄錆とカビた匂いに満たされていた艦内に、一気に磯臭さが広がっ
        た。
         最後に見たのは、滝壷を真下から見上げたような奔流が迫る所で。
         非常灯すら消えて、視界は闇に閉ざされた)
      • (クレハ達の居る艦内から離れ、艦橋では。
         炎を上げ、各部で起こる爆発に揺れながら、艦は傾斜し続けた。
         無人の艦橋で、ドラゴンと、黒い巨獣が互いに喰らい合う、その
        身体の一部だけが窓の外にあった。
         巨体が、窓いっぱいに迫り来る。
         衝突。
         ひび割れた分厚いガラスは粉々に砕け散り、押しつぶされた艦橋は
        崩落して、数十mの水柱を上げて海へ没した)
      • (戦艦は完全に転覆した。
         穴を穿たれ、ひしゃげた艦体は、バラバラになりながら暗い水底へと
        落ちていく。
         くぐもった爆発音が、断末魔のように海中に響いた。
         海に投げ出された宗右衛門のすぐ側を、巨大な煙突が、逆さまになっ
        て落ちる。
         巻き起こった海流に抗う術はなく、彼の身体も深海へと引きずり込
        まれていく)。
      • うひゃあ…? もう、完全に轟沈じゃない…!? -- クレハ
      • (クレハは「海中で呟く」と指先にポッと異能の光を灯す
        灯に照らし出された海中はまさに船の墓場、魔のサルガッソー海域にも似た状態であった
        戦艦の外壁だったもの内壁だった物、内部構造物であったもの、椅子に看板に箪笥に電柱に……
        それらの残骸が漂い撹拌され、気を抜けば押しつぶされる危険さえあった)
      • アオイさん大丈夫かしら…それにお祖父さんと長老は…… -- クレハ
      • ワシは大丈夫じゃ -- 長老
      • にゃふ?
      • (「声がした」、振り向けば蒼い髪を水に漂わせる長老の姿
        手の中には泡に包まれた猫の姿もあった)
      • 宗右衛門は……。。 -- 長老
      • (暗い海中は、2匹の巨体が暴れたせいで撹拌され。戦艦の体積が沈
        み込む勢いで渦を巻いて下降していた。
         視界は無い、ただ、下へ下へと引きずり込む力を感じる)
      • (このままでは……!) -- 宗右衛門
      • (身を任せれば、二度と浮上できないことを、宗右衛門は直感する。
         海で生きてきた彼だから、この海流の異常さが分かった。
         だから必死にもがいた。
         それが無駄な抵抗だとしても)。
      • (「大丈夫、無駄じゃない」声が聞こえた
        その瞬間、宗右衛門を引きこむ力が止まった、正確には止まっていない抵抗する力が生まれた
        宗右衛門の身を支える者があった。
        水に歪む視界の中に金の髪、蒼の瞳…そして魚の尾びれ、伝説に聞く人魚の姿があった)。。
      • (人魚!?) -- 宗右衛門
      • (一瞬、朦朧とした意識が見せた幻覚かと、宗右衛門は思った。
         海に棲む怪異が、魂を引きに来たのかとも。
         だが、そのどちらでもなく。
         彼は、しっかりと身体を掴まれて浮上していくのを実感した。
         ぐんぐんと赤く揺れる海面が近づいていく)。
      • ふはっ…ふぅ、危ない危ない……って、火事だらけじゃない、これどうするのよ…わっ…? -- クレハ
      • (宗右衛門の身が海上に飛び出すと同時に隣で金の髪が舞った
        良く見れば知った顔、良く知ったお隣さん、クレハだ、しかも下半身が人魚となった
        だが驚いている余裕は無かった、海上のそこらじゅうに戦艦であった物の残骸が漂い
        それらの多くが炎を放ち、まるで火の海の様なあり様であった
        さらに残骸を押しのけるように巨大な影が津波を起こし海を揺らす
        そう巨大な影はドラゴンの足、すぐ側には黒き邪神の姿
        危機はまだ去っていなかった……)。。 -- クレハ
      • オオオオオオンッ
      • (背筋を凍らせるような、霧笛に似た雄叫びが荒れる海に反響した。
         海面で燃え盛る油は、その声に共鳴するように震え燃え盛り。
         遥か頭上で、ぶつかり合う巨大な影を照らす。
         ドラゴンの殴打が、粘体の山にぶつかり、爆音が轟く。腕はそのま
        ま泥の中へ突き入れたように沈み、沈み。突き入れた箇所は、突然
        ヤツメウナギの、グロテスクな円形の口へ変貌した。
         無数の牙がドラゴンの腕に突き立ち、鱗が剥がれて血が吹き出す)
      • がはっ!はぁっ!……!?うぉお!こっちに来るぞ!! -- 宗右衛門
      • (クレハに捕まった宗右衛門が叫んだ。
        波に揉まれながら、やっとの思いで顔を出したクレハ達の上に、血しぶ
        きが振り、剥がれた鱗が降る。
         当たれば胴を寸断されそうな程大きな鱗が、降って水柱をあげた)。
      • はい、わかってます…! アトイさんったら暴れすぎ…!! -- クレハ
      • まったくのう、後でお仕置きせねばならんな -- 長老
      • ふーっ!
      • (目上の者に対し失礼な言葉遣いとは思うが仕方が無い、今は必死な状況
        尾びれで大きく水を叩きこの場から逃れようとするが
        嵐に加え残骸と不規則な波に翻弄され、人魚のクレハでも如何ともし難い。
        そんなクレハ達の横にプカリと長老が浮き上がり並走する
        頭の上に乗った猫が身を振り飛沫を飛ばすが、すぐにまた水を被ってしまう)。。
      • (全員の頭上に影が差した。
        黒き巨獣に食らいつかれた腕を、アトイのドラゴンが無理矢理引きぬ
        いたのだ。
         逆向きに突き刺さる牙を、力任せに引きずり出す。
         鱗が散り、肉は削げ、血の滝が流れでた。
         勢いのついた腕は、止まらずに、海面に浮かぶクレハ達へと降り落
        ちる!
         あまりに巨大すぎて、それは酷く緩慢に迫って来るようで……)。
      • くあっ! もう無理!無理!間に合わないってば…アトイさんの馬…… -- クレハ
      • (巨大な質量が隕石の様に迫って来る。巨大すぎがゆえ、海に潜り回避する事もできない
        戦艦の残骸を避け、落ちる鱗の刃を避け、必死に泳ぐも、もはや限界も近く……
        クレハがやけ気味に「馬鹿ぁ!」と叫ぼうとした瞬間それは起きた
        三人と一匹の足下の海中から巨大な何かが浮き上がって来たのだ
        島としか形容しようのない巨大な何かはクレハ達を掬いあげる様にしながら
        浮き上がり、そそり立つとドラゴンの巨大な腕を圧倒し押し戻した
        島の突起にへばりつき呆然とするクレハ達
        やがて水平となり海水が引けば、島はその鋼鉄の全貌を現し……)。。
      • …大丈夫ですかー。 -- アオイ
      • (ひょっこり、とアオイが顔を出した。
         潜水艦の艦橋からである。
         黒くうねる海に、松明で照らされるように姿を表したのは、とて
        つもなく大きな潜水艦であった。
         その船体の中央、高くつきだした塔のような艦橋の部分にアオイは
        立っていて。
         クレハと宗右衛門が、しがみついたのは、艦橋から横に張り出した
        潜舵の上だったのだ)
      • アオイさん…! 助かったぁ…でも、こんな潜水艦どこから…… -- クレハ
      • (アオイの登場にほっと息を吐くクレハだが、潜水艦の巨大さに唖然としてしまう。
        さきの戦艦程ではないがこの潜水艦もとてつもなくデカい
        伝説の海獣クラーケンは島と見間違うほどの大きさと伝え聞くが
        足元の潜水艦はまさにそれに匹敵するであろう大きさだ)
      • …戦艦がひっくり返ったら潜水艦。これもいっぺんやってみたかったんですよね。
        …さ、潜りますよ。クレハさん達は中へ。
      • ワシは先に行くぞ、宗右衛門もぽかんとせず早よ来い。。 -- 長老
      • わ、わかった……! -- 宗右衛門
      • …やってみたかったって…もう、こっちは心配したんだから…… -- クレハ
      • (ぶつぶつと言いながら長老、宗右衛門に続き潜水艦の中へと入って行くクレハ
        『そう言う所アトイさんとそっくりよね……』なんて思うも、口にはしなかった
        この様に思うのも久しぶり、しかし今は感慨に浸っている余裕は無く)。。
      • …すみません……でも、大丈夫です。 -- アオイ
      • (アオイは、顔を上げる。
         雲間に雷を覗かせる空を背に、2体の巨獣が嵐の中に聳え立つ。
         アオイの潜水艦は、巨大ではあったが。
        ドラゴンと黒き巨獣共の前では、いかにも頼りなく小さく見えてしまう。
         見上げる2体は、標高と言うのが正しい程に高く。大山脈が生きて
        動いているのともはや同じである。
         だが、アオイは一向に動じず)
      • …こっからが私の本気ですので。 -- アオイ
      • (海は未だ荒れ狂い、喫水の低い潜水艦の甲板に、高い波が被った。
        迫る2体を見ながら、アオイは口の両端を釣り上げるあの笑みをする。
         突如、天を突くような水柱が上がる。
         1つ2つどころか、矢継ぎ早に次々と連なって壁を成す!
         水中で巻き起こった爆轟と衝撃に、聳え立つ巨体すらも傾いだ)
      • …急速潜行! -- アオイ
      • (滔々と巻き上げられた海水が滝となって降りぐ中、アオイは、艦橋
        に屹立し号令した)。

君へと手を伸ばすのはそこに君が居るから Edit




    • (ドラゴンと黒い粘体の塊の巨獣は、海原を荒立てなおも闘争を続け
      ていた。
       黒き巨獣の頂上から、何百mも下で砕ける波の飛沫。その一滴一滴
      まで、動くのが見える。
       視界が、ビリビリと震えた。巨獣が吠えた瞬間、光も無いのに鮮明
      に像を結ぶ視界は、膨れ上がるように広がって。咆哮を反射する海面の
      辺りを一層輝かせる。
       それは音の視覚化で、反射してくる音の差異が、映像のように頭の
      中で結ばれているのだ。
       次の瞬間、また視界は別の有り様へ変貌した。
       星明かりすら無い夜の筈なのに、雲が輝いて見え、風に激しく流さ
      れて行くのが見える。
       遠くで光る稲妻の光が眩しい位に輝いた。
       色は無い。白と黒の濃淡で描かれた、精密な白黒画像のような視界。
       熱を見ていた。
       だから、目の前のドラゴンも、鱗に覆われていない口だけが、蠢く
      肉の皺まで見える程に明るくて。
       突然、その口の中にまばゆいばかりの光球が生まれれば、釣られて
      熱を帯びる周囲の物体の、輪郭までがはっきりと浮かび上がる。
       ドラゴンが、発した熱を解き放つよりも先に、空から降ってきた幾
      つもの熱の玉が爆ぜて、辺り中を眩しく塗りつぶす)

      (それは、黒き巨獣の目だった。
       あるいは知覚である。
       潰された目の代わりを、新たな知覚器官を求めて、粘体が蠕動し、
      脈動している。
       感じる、自分の全身がぶくぶくと泡だって、中からありとあらゆる
      生物、怪物の身体が浮いては沈んで行くのを感じる。
       これは、外ではなく内の知覚。
       感じているのは……自分自身だ。
       突然、そう思った。
       その瞬間に、アミは視界を取り戻した)
      • 何……これ……。 -- アミ
      • (そうつぶやいたアミの目の前いっぱいに、アトイのドラゴンの牙が
        広がって……)
      • ひゃぁぁ!? -- アミ
      • (喰われた、と見えたが、身体は無傷で。
         自分の視界が、全く別の視界とごちゃまぜになっていると気付いた。
         気付いた途端に、凄まじい吐き気と頭痛を覚えて蹲る)
      • う……ぐぅっひゃに、これぇ……いや、いやぁぁ!。 -- アミ
      • こっち来ないで…くっ…あ…ああ…… -- ロワナ
      • (アミの隣、呻きの様な声をあげるロワナの顎の先から滴が垂れた、冷や汗だ
        吹き出した冷や汗は全身を濡らし髪と寝間着は肌に張り付く。
        目を閉じても聞こえてしまう、耳を閉ざしても見えてしまう
        人の限界を越えた感覚があらゆる方向からやってくる
        それは幼い少女の身には責め苦にも等しいもので)。。
      • (黒き巨獣が、ドラゴンと、血しぶきと粘体を散らしてぶつかり合う。
         爪が粘体を切り裂く度に、二人の身体にも激痛が走った。
         獣の口吻が形成され、ドラゴンへ牙を突き立てれば、血の匂いがする。
         海中に潜んだ何かが、爆発を巻き起こす。
         衝撃と鈍痛が、腹から背骨へ駆け上がっていく。
         黒い粘体の腹に飲まれた二人は、その感覚と繋がり、悶えた)
      • んぬぁぁぁぁあああ! -- ネオン
      • (叫び声が聞こえる。怪物の声ではない、人の声)
      • ふっざけないでよ!何なのよ!あいつぅ!!私を騙したわね!! -- ネオン
      • ッッくぅ!!……痛ッッたいじゃない!こんのトカゲぇ!! -- ネオン
      • (目の前の、血走った眼を剥き出したドラゴンに怒鳴るネオン。
         その背から生えた黒い根が剥き出しの動脈のように震える。
         視界の中に、巨大な大顎が付きだした。
         大顎の真ん中から、液体が噴出する。液体は、雨に触れて煙をだし、
        ドラゴンへ降りかかって、更に盛大に煙幕を上げた。
         強烈な薬品臭が鼻を焼く。
         鱗を溶かされ、ドラゴンの剥き出しの肉が、血の泡を立てて溶ける)
      • あははは!骨まで溶けちゃえ!! -- ネオン
      • (ドラゴンが、足元の海へ逃げるように潜るのをみて、ネオンが笑う。
         ゼィゼィ、と荒い呼気を吐く)。
      • …ネオンちゃん…痛そう…… -- ロワナ
      • (俯いたままのロワナがぽつりと呟いた
        「感覚」の責め苦を受け息も絶え絶えの状態、なのにはっきりとした声)。。
      • ネオン……ちゃん……。ネオンちゃん!! -- アミ
      • (アミが、声を振り絞るように叫んだ。
         ネオンが、振り返る。
         金色のおかっぱの髪を振り乱して、汗で、額に髪が張り付いている。
         急に膝をついて、顔の下半分を手で覆った。
         その指の間から、あふれた血が滴る)。
      • ネオンちゃん? なんで?なんで? -- ロワナ
      • (アミの声で顔を上げたロワナ、ネオンの姿を見るや悲鳴の様な声を上げた
        血を垂らすネオンは既に限界の様にも見えて、なのに止めないネオン
        それがなんだか悲しくて……)。。
      • 何で……?
        ふふっ……あはははっ!! -- ネオン
      • (突然ネオンが笑い出す、滴る血を乱暴にこすりとると、真っ赤な血が
        引きすぎた口紅のように塗りたくられて、歪な道化の笑みを描いたか
        のようになって……)
      • 知らないわよ!そんなの!!
        頭にくる……苛々する……何もかも!壊れちゃえばいいんだ!! -- ネオン
      • (ネオンの叫んだ瞬間、爆発が三人の周囲に吹き荒れた!)
      • っく!ああああ!! -- アミ
      • (熱と痛みにアミが両肩を抱いて、倒れ縮こまる)。
      • あぅッ! -- ロワナ
      • (短く声を漏らし金の髪を振り乱した。あまりの苦痛に悲鳴すら続かない
        肉体にはまったく損傷はない、なのに超高熱の業火が身を包み焼け焦がす感覚が襲ってくる)。。
      • 痛いって……痛いって言ってるのよ! -- ネオン
      • (焼け焦げた臭気の中で、ネオンは後ろを振り向き海面を睨んだ)
      • 海の中に、もう一匹居る……。
        引きずりあげてやるぅ……ッ! -- ネオン
      • (炎を上げる、黒い粘体が鈍く蠢きはじめた。
         焼かれ、泡立ち、その動きは鈍く)
      • 動きなさいよ……早く!動きなさいって言ってるのよ!! -- ネオン
      • (ネオンの苛立ちが爆発した。
         粘体は爆発的に膨れ上がり、芽吹き、開いた芽から枝をせり出す。
         様々な生物の部位を、形成し続けた不定形な黒き巨獣は、その姿全
        体を、1つの形へと変貌させゆく。
         樹だ。
         途方も無く巨大な大樹が、海に根を下し、嵐の雲を突き抜けて枝を
        伸ばしていく。
         絡まり合う根は、大陸の隆起の規模で、海中からせり上がり。
         無限に伸びていく枝は、星の世界を侵食する如くに伸びた。
         葉は無く、花も無く。
         嵐の流れすらも変える程の巨大樹は、まるで巨大な死骸である。
         力強い生命を象徴する巨木が、死に最も近い形を取りながら、歪に
        成長を続ける)
      • あはぁっ見つけたぁ。 -- ネオン
      • (隆起する根に絡め取られて、持ち上げられた、1つの海域の海水総量
        にも匹敵する量の海水が、流れ落ち。この瞬間、世界で最大の大瀑布
        を成す。
         何百mも立ち込める、滝霧の中に、根の大陸に擱座して横倒しにな
        った潜水艦の姿があった。
         それ自体巨大なものであるはずなのに、まるで食中植物に絡め取ら
        れた虫けらのようにちっぽけにすら見えてしまう)。
      • ふっ……あはっ、はっ……。 -- ネオン
      • (ネオンが息を切らしながら笑った。
         3人の周りは黒い枝に囲まれて、枯れた樹冠に囚われた小動物が、
        見る世界のようである。
         樹のどこに目があるのか知れないが。
         巨木となった黒き巨獣との知覚は未だ途切れず。
         遥か眼下にある潜水艦に、根がまとわりつくのが見える。
         根は、高張力鋼の船体を締めあげ、軋みを上げさせた)。
      • (そのさらに下の海が光を放つ。
         そこに、太陽の海から登るための穴が、存在すると言われば納得して
        しまいそうな程の膨大な光である。
         水底に何が潜んでいるのか、明白であった。
         海が水平線の向こうまで沸騰して泡立つ。
         黒き大樹の根を真下から、陽光が、照らした瞬間、ネオンの視界は
        閉ざされた)
      • オオオオオオオッ!!! -- アトイ
      • (ドラゴンの頭上に立つアトイが雄叫びを上げた。ドラゴン
        の放った光線は、大樹を貫く。
         枝は燃え盛りながら落ち。
         一面炎の海となった大樹の根に、ドラゴンが爪を掛けて上半身をせり出す)
      • ……。 -- アトイ
      • (炎に包まれた大樹を、アトイは無言に睨み上げた。
         雲の上で、太い枝が折れ、火の塊となって落ちる、天空に浮かんだ
        大地が最後の日を迎え、墜落するような光景であった。
         アトイの姿が、ドラゴンの頭上から消えた)
      • 逃がさない……今度こそ!死ねぇ!! -- ハウンド
      • (ハウンドに、横合いから完全に不意を撃たれ。アトイは首を掴まれ
        たまま地面へ向かって落ちる)
      • …しつこい。 -- アトイ
      • (牙を剥き出し、アトイが睨む)
      • はっ!ははっ!! -- ハウンド
      • (牙を剥き出し、ハウンドが笑った)
      • (炎の海と化した根の大地に、隕石のごとく落下した二人は、そのま
        ま根を破砕しながら滑る。
         アトイを掴んだハウンドが、地面に叩きつけながら滑走している。
         その足に、手と同じ黒い粘体が、まとわりつき、獣の脚を成した。
         粘体はさらにハウンドの身体を覆っていく。
         走りながら、その身体が大きく膨れ上がり変わりゆく)
      • ガァァッ!! -- アトイ
      • (アトイが振り上げた腕を、黒い粘体の塊は軽々と飛んで回避した。
         その高さは優に50mを超えただろう。
         黒い根を踏みしめ、着地したのは、一匹の虎であった。
         粘体が、虎の形を取ったものだった。
         山のように大きな、黒い虎が咆哮する。炎は恐れおののき、波が引く
        ごとく周囲から掻き消える。
         虎はハウンドが変じたもの。
         恐らくは、彼女が身に取り込んだ、虎の神スゥアの姿そのもので。
         アトイを見据える眼に、殺意をたぎらせていた)。



      • (魔竜と魔獣の戦いからそう遠く無い離れた場所に横たわる巨体がある
        アオイの潜水艦だ、黒き邪神の根に自由を奪われ海中へと戻る事も出来ず
        戦闘で所々が破損した姿はまるで金属の小山の様で
        その潜水艦のハッチがキシキシと言う音を立て、開かれた)
      • へふぅ〜…死ぬかと思ったわ…… -- クレハ
      • うむむ、ワシの美しき髪が焼け焦げてしまったぞい -- 長老
      • にゃふっ
      • (潜水艦の中からクレハ、アオイ、長老、そして猫の三人と一匹が零れる様に飛び出してきた
        見れば、三人と一匹の誰も所々が黒焦げ煤け、まるで火災を潜り抜けて来たような姿だ)。。
      • げほっ!ごほっ!!船で火事なんて初めてだ! -- 宗右衛門
      • (最後にハッチから這い出した宗右衛門が咳き込みながら言う)
      • …いやー、怖いですね艦内火災って。 -- アオイ
      • 潜水艦は最強じゃあなかったのかい。 -- 宗右衛門
      • …浮上させられてしまっては、その限りではありません。 -- アオイ
      • (制服についた煤を払い落としながら、けろりとした顔で答えるアオ
        イを、宗右衛門は少し恨めしげに睨んだ)
      • (獣の咆哮がビリビリと身体を震わせる。
         宗右衛門が、後ろを振り返れば、夜空を焦がさんばかりに、赤々と
        燃える黒い樹海があった。
         その中を、黒く巨大な虎が、アトイともつれ合いながら落ちる。
         燃える枝を蹴散らして、ドラゴンの頭が虎を鼻面で弾いた。
         虎は、身を翻して、ドラゴンの首に飛びつき牙を立て、鱗を砕き肉
        を噛む。
         その戦いの余波で、こちら側でもバサバサと燃える樹の枝が、炎の
        雨となって降り注ぐ)。
      • …生きていただけ幸運と思いましょう…あ…アトイさんまだ暴れてるし…… -- クレハ
      • うーむ、アトイの奴どうしようもないのぉ -- 長老
      • (クレハは潜水艦のハッチから抜け出すとぺたりとその場に座りこんだ
        火炎と黒煙から逃れるべく潜水艦内部を駆けまわったせいで足は棒の様で
        額には周囲からの熱風で汗が浮かび、クレハの身から体力を奪って行く
        しかし遠くを見れば一息入れる余裕はない事がわかる
        そう、まだ戦いを続けるアトイが…巨大な虎と戦うアトイの姿が見えたから)。。
      • …黒いのもまだ生きてる。 -- アオイ
      • (足元に、心音のような振動を感じる。
         燃えながら、燃え尽きる端から新しい枝が伸びる。
         大樹に変貌した黒き巨獣は未だその悍ましい生命力を発揮していた。
         つまり、まだネオンやアミ、ロワナは囚われたままで)
      • …しかし、怪獣が樹になったのは幸い。上陸できましたし。
        このまま中に……。 -- アオイ
      • (言いかけたアオイに、影が差した。
         潜水艦の船体を、爪が引っ掻く嫌な音がする……。
         炎を背に、血に塗れたアトイが来てしまったのだ。
         クレハ達を睨み下ろす赤い瞳に、いつものような愛嬌等微塵もなく)
      • あー。どうも、お久しぶりで……。 -- アオイ
      • グゥォオオオオオオッッ!! -- アトイ
      • (アトイの突撃を受けて、アオイの小さな身体が100m以上もふっとば
        されて黒い大樹の幹に激突した)。
      • ええ…これは最大のチャ…え? アトイ…アオイさぁーん…!? -- クレハ
      • (今は危機を好機とすべき時、だがそれよりも先に動く者があった、アトイだ
        アオイの気配を感じたアトイが誰よりも早く動き強襲してきた
        アトイの一撃で吹き飛ぶアオイ、その衝撃は突風となり皆の髪と炎を大きく揺らす)
      • おお?見事に吹き飛んだのぉ? -- 長老
      • 長老…呑気な……アオイさん大丈夫…!?。。 -- クレハ
      • …だ、大丈夫でー……げほぅっ!? -- アオイ
      • (漂う黒い噴煙の中から叫び返そうとしたアオイの首に、鉤爪のついた
        アトイの手が食い込んだ。
         普段は瓜二つの姿の二人だが、半人半竜の姿となったアトイとでは
        大人と子供以上の体格差がある)
      • …やっぱり、心の底じゃ私が、弱い自分が怖いのですか。
        相変わらず、まだまだ子供のようですね。
      • (不敵な笑みを浮かべていたアオイに、アトイは鉤爪に込める力を強
        めて答える。アオイの表情が苦しげに歪む。
         細い首が、締まる音がした。
         窒息か、握り潰されるのが先か。
         アオイを救ったのは、意外なモノだった)
      • ゴォォォオオッ! -- ハウンド
      • (噴煙を払い散らして、アトイの背に、巨大な虎が躍りかかった!
         アオイの身体は投げ飛ばされ、根の間に転がる)。
      • アトイさんいい加減にしなさいってば…! -- クレハ
      • (ぶんぶんと手を振り抗議するも、暴走するアトイの耳には届いておらず
        近づきたくとも三つ巴となった戦いの衝撃は周囲に嵐の如く吹き荒れ壁となって拒む
        そもそもクレハの力ではこの限界を越えた戦いをどうこう出来る訳もなく)
      • …もうどうするのよこれ…長老なんとか…ん?おっおっ…おーっ…!? -- クレハ
      • なんとかと言われてものぉ…お?おーこれまた育ったのぉ -- 長老
      • (地面が大きく揺れた。地面とは言っても大地では無い
        邪神の根が絡み合う事で形成された植物と生物の混合物の様な地面
        それが大きく揺れた。蠢くとは違う、まるで波打つ様に、何かの接近を伝える様に
        だから振り向いた、そこには赤い山があった。それをぐっと見上げれば真っ赤に燃え盛る瞳
        アトイの竜だ、竜が邪神の根を掻き分け引き千切りながら接近してくる
        頭と肩しか見えぬがそれでも山の如く巨大さ
        まるで黒き海にそそり立つ大山、それが衝撃と共にやってくる)。。
      • 逃げ場は!? -- 宗右衛門
      • (根が、竜の進撃を阻もうと絡みつくも、僅かにその速度を落すだけで
        止まる気配はない。宗右衛門は、必死に周りを探した。
         もう一度潜水艦の中に逃げ込んでも、天に蓋をするかのように見える
        その爪で、諸共砕かれる末路しか思い浮かばない)
      • …クレハさん!!その場で防御を! -- アオイ
      • (横倒しになった潜水艦の艦首の辺りから、アオイの声が響いた。
         アオイは、アトイに掴まれて地面に押し付けられている。
         そのアトイの喉笛に噛み付こうと、アトイよりも大きな黒い虎がの
        しかかる。それを、アトイは片腕でぎりぎり抑えこみ、二人と一匹が
        組み合って膠着していた)。
      • え?でもアオイさんは…!? -- クレハ
      • ほれ!いいから早よ防御せい -- 長老
      • 痛ッ?は、はい…! -- クレハ
      • (あまりの状況に混乱し取り乱しかけていたクレハだが
        杖で叩かれる事でやっと冷静さを取り戻す。落ちつけば行動は早い
        クレハが腕をスっと振れば空から光の粒子が沸き出でて、クレハ、長老、宗右衛門、そして猫を守る障壁となる
        障壁が完成すると同時にアオイにコクリと頷いた)。。
      • (絡みつく根を引きちぎりながら、ドラゴンの首がアオイへ近づく。
         首をこちらへ向けて、開いた口に圧倒的な熱と光が生まれ始め……)
      • …ふふん、やれっぱなしになるほど、私もいい子じゃ無いですよ。 -- アオイ
      • (潜水艦の艦首、魚雷発射口が八つ開いた。
         圧搾された空気が吹き出し、中から魚雷が飛び出して、ガスボンベ
        が道路に転がり落ちたような音を立てる)
      • ……。 -- アトイ
      • (アトイの足元で、魚雷のスクリューが空転して……。
         カチリッと音を立てて止まった。
         膨れ上がる火球が、何もかもを飲み込んだ!
         魚雷が八つ同時に炸裂!爆発の中にドラゴンの姿も掻き消える)
      • (クレハの張った障壁に、砕かれた潜水艦の破片が、ガンッガンッ、と
        音を立てて衝突し、弾き飛ばされる!
         すぐ横で、艦首をひしゃげさせた巨大な船体が持ち上がり、軋みを
        上げながら後方へと滑った)。
      • きゃあっ!? -- クレハ
      • (目を閉じていてなお眩むほどの閃光、降り注ぐ火の粉と金属片
        衝撃に緩みそうになる障壁を必死で維持する)
      • アオイさんは…? それにアトイさんは…… -- クレハ
      • (それでも薄く目を開き状況を確認しようとするが
        閃光だけでなく黒煙に阻まれ周囲を見通す事が出来ない)。。
      • あいつ、まさか自分ごと……。 -- 宗右衛門
      • まさかそんな…… -- クレハ
      • にゃあ……
      • (宗右衛門の言葉にクレハの顔から血の気が引き青くなる
        アオイとアトイは同一の存在、その力も方向性は違えどほぼ互角
        しかしアトイは暴走状態でその力に際限が無い
        アオイが負ける可能性は十分にあり)
      • …身を挺して自爆は、最後にやる事でいいかなって。 -- アオイ
      • (ふわりと、煙を払って姿を表したのはアオイ。
         制服は焼けてしまったのか着ていない。その代わりに、フリルとリ
        ボンで装飾過剰なドレスを着ている。
      • …アオイさん! 衣装まで変えて余裕ね、ふふっ…… -- クレハ
      • (クレハの瞳が翳ろうとした時、声がした、アオイの声だ
        顔を上げればアオイの姿、しかも懐かしい衣装まで纏っている)。。
      • …私も一応不死身で無敵。当然です。
        …それより、今ので樹の中へ入れそうです。急ぎましょう。。 -- アオイ
      • そうだったわね、行きましょう…! この騒動を終わらせるために…! -- クレハ
      • (アオイの言葉に笑みを浮かべそして頷いた
        アミとロワナ、騒動の原因たるネオンがいるのは邪神の中心部
        今、クレハ達が立っているのはその邪神の上、今を逃してなんとする)。。
      • …奴らの手の内は把握済み……。制御している祭壇さえどうにかして
        しまえばこっちの勝ちですよ。 -- アオイ
      • わかった! -- 宗右衛門
      • (宗右衛門も頷く。
         爆発の煙はまだ辺りに立ち込めて、ちょうど煙幕にもなっている。
         恐ろしい化け物共の姿を直視しないで済むのは、僅かばかりではあ
        っても救いとなった)
      • …安全なルートはまた猫に。 -- アオイ
      • (そう言って、アオイはクレハたちに背を向けた。
         その場に立ち、動かない)。
      • …アオイさん…? どうし…… -- クレハ
      • ふむ…ヌシ、ここに残ると言うのか? -- 長老
      • (長老はクレハを制すると、アオイの背をじっと見る
        射抜く様な視線。ここまで呑気であった長老が眉を潜め縦皺を浮かべた
        クレハは気付いていないが長老は気付いてしまった
        アオイが衣装を変えた意味に、衣の下に隠そうとした物に
        だから、大きくため息すると手にしていた杖をアオイへと投げやった)
      • 貸してやろう、こんな物でも「今のおまえさん」には無いよりマシであろう?。。 -- 長老
      • …おっ、と……。 -- アオイ
      • (杖を受け取り損ねて、ちょっとのけぞる。
         アオイは、割りとトロ臭いところがある。
         わたわたとしながら、右腕で、杖を抱きかかえて掴まえた)
      • …ありがとう……ございます……。 -- アオイ
      • (アオイが言った。
         そして、クレハの方を見て)
      • …じきに夜が明けます。私の本来は、夢……。
        …陽が登ってしまえば、力を維持できる保証はないです。
        …姉様は私を追ってきますから、私が足止めしている間に……。。 -- アオイ
      • もう…アオイさんったらその辺り変わらないのね……
        保証なんて私の方だって無いんだから… -- クレハ
      • (クレハもため息した。まるで永遠の別れの様な言葉を口にするアオイ
        だからトンっとステップするとアオイの方へと寄り、不意打ちの様にその額に唇を寄せ
        そしてふわりと笑みを浮かべると金の髪を舞わせた)
      • ふむ、最高の加護じゃな、かっかっか -- 長老
      • 長老…! あ、そんな訳だから…また後で会いましょう…… -- クレハ
      • (もう一度アオイに笑みを向けるとクルリと反転し駆けだした)。。
      • …はい。 -- アオイ
      • (クレハの背に、アオイはにこりと、微笑んだ)
      • すまん、すぐに戻る……。 -- 宗右衛門
      • …ええ、さあ早く。 -- アオイ
      • (宗右衛門も、後を追ってかけ出し。アオイだけが濛々と立ち込める
        煙の中に残った。
         間を置かず、近づいてくる気配がある。煙の中で、蛇のように、長
        く赤い尾の揺れ動くのが見え、反対側からは、低く獣の唸る声がする)
      • …ここは私にまかせて、先に行けってのも、やってみたかったんです
        よねぇ。 -- アオイ
      • (アオイの笑みが、いつもの不敵なあの笑みになって。
         左腕を、身体から離すと袖とその腹は黒く濡れていた。
         血だ。
         だが、アオイはあくまで強気に、杖を構え)
      • …ここは私の趣味じゃあないのです。改築、させてもらいましょうか。 -- アオイ





    • (立ち込める煙の中を進んだ。
       黒い樹自体が、未だに爆発の熱で燻り続けているのかもしれない。
       足元で絡まり合う木の根は、表面が溶けて、柔らかくなったプラス
      チックのように足裏に張り付く)
      • 霧ん中を進んでるみてぇだ……。 -- 宗右衛門
      • (口元を腕で庇うようにして、宗右衛門が言う。
         数歩前、ぎりぎり姿が視認出来る距離を、黒猫が歩いて。
         白いしっぽの先だけが、誘導灯のように黒煙の中で揺れる)。
      • うーん…灯を付けてもあまり照らせないわね…… -- クレハ
      • (指先に異能の光を灯したクレハがぼやく様に言う
        何かが明かされる事を拒んでいる、そんな奇妙な感覚
        足に絡みつく根はまるで掴み押しとどめようとする手の様でもあり
        先の見えぬ道に疲労ばかりが溜まっていく)
      • うむ、この中は「そう言う」空間のようじゃからな -- 長老
      • (二人のやや後方を歩く様に走る長老がぽつりと告げた)。。
      • どういう事だ、この奥へ進めば、みんな居るんじゃねぇのか? -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が、手にした鉈で、垂れ下がった木の根を切り払いながら
        振り向く。
         今まではまったく何の役にも立たなかったが、一応落とさなくてよ
        かったようだ)。
      • ふむ、進めば居るじゃろうなぁ…… -- 長老
      • 長老ぉ〜いるのよね…? -- クレハ
      • (宗右衛門の質問にのらりと言葉を返す長老にクレハまでもが不安を感じてしまう
        思えば邪神の大樹は頂上が見えぬほどに巨大であった
        ならばその内部は途方も無く広いであろうことは用意に想像できて)
      • かっかっか、お前さん達は今この荒ら神の大きさを考えたな?
        荒ら神とは何ぞ?なぜ荒らぶるぞ?おっと…余計な事をいってしまったかのぉ
        -- 長老
      • (長老の言葉にクレハと宗右衛門が唖然としていると
        何かが胎動する様な音が響いた
        ドクンドクン、まるでこの空間自体が蠢き目を覚ます様な音)。。
      • 今度はなん……わっ!? -- 宗右衛門
      • (突然、宗右衛門の顔に仔猫が飛びつく。
         宗右衛門は慌てて転びそうになり、その頭を、何かが掠めた)
      • 根っこ!? -- 宗右衛門
      • (仔猫の脚をどかして見れば、それは蠢く木の根の群れだ。
         霧のような煙の中で、何百匹もの蛇の群れが絡まり合うごとくに、
        不気味な音を立てている)。
      • ただでは通らせてくれないと言う事ね…… -- クレハ
      • よほど来てほしく無い様じゃなぁ…… -- 長老
      • (それ自体が一つの生物であるかのようにざわざわと蠢く根
        そのざわめきは怒りの様でもあり苛立ちの様でもあり
        ただわかる事は、クレハ達を先へ通さぬと言う拒絶の意思)。。
      • (巨大樹の幹に開いた穴が、その中に居る3人と1匹諸共押しつぶそう
        とするように、根は無数に生え。
         徐々に、道が狭まっていくのが、肌に感じられる)
      • ネオンッ! -- 宗右衛門
      • (突然、宗右衛門が叫んだ。
         鉈が振るわれる、目の前の太い木の根が、切り落とされて地面に落
        ちる。
         開いた道に、仔猫を小脇に抱えたまま、宗右衛門は強く脚を踏み出
        した)
      • 俺は絶対に諦めないぞ!今度こそ、絶対に!!。 -- 宗右衛門
      • 私だって…! アトイさん…! アオイさん…! -- クレハ
      • (クレハの身がクルリと舞う回転すれば、両手に纏った光の刃が一閃二閃し
        迫る黒き根をたやすく切り落とし、道と成す)
      • 良き哉良き哉。人とはそうであらねばならん。。 -- 長老
      • (強気意思を見せる二人の姿に長老はかかっと笑いを浮かべる
        人が強く生きる姿は長老にとって最も好ましい物で。
        そんな長老はひょいひょいと根の合間を抜ける様にしながら二人の後をついて行く)。。
      • 閉じられる前に、走りぬけちまうぞ。 -- 宗右衛門
      • (四方八方から、根が迫る。
         その中をがむしゃらに切り分進む。
         一本の樹の根が、宗右衛門の脚を鋭く掠めて、バランスを崩した)
      • くっ!しまった……! -- 宗右衛門
      • (その瞬間、隙をついて、太い根が一本宗右衛門の身体を絡めとる)。
      • …! 今、助けます…! -- クレハ
      • (何十本目かの根を斬り落とした時、クレハは宗右衛門の声を聞いた
        振りむけば動きを封じられた宗右衛門に、鋭く束ねられた根が迫ろうとしている
        考えるよりも先にクレハは駆けだした
        猶予は無い、根が宗右衛門を貫くよりも先に切り落とさねばと)。。
      • …あああー!クレハさんそこ退い……ぎゃにゃん! -- アオイ
      • (そのクレハの背に、叫び声が。
         続けて、バキバキと、根をへし折りながら何かが飛んできて……)。
      • え…ぐえーっ…!? -- クレハ
      • (背に衝撃を受ければ乙女にあるまじき声を発してしまうクレハさん
        だがそれだけに留まらない、さらなる衝撃がクレハそしてアオイを襲う)。。
      • …あいたたぁ……あっ。 -- アオイ
      • (何事か問う間も無く。
         クレハの背に激突して、もつれ合って倒れこんだアオイの目の前で、
        絡まりあった木の根が、めりめりと膨れ上がる)
      • ゴォォァアアアアアアアアアアア!!!!! -- ハウンド
      • (身体を芯から揺さぶる咆哮と共に、木の根を、粉砕して飛び出した
        のは、虎だ。
        踏み出した前足は、太い根よりも雄々しく逞しく。
         小木の茂みでもかき分ける如く、真っ黒な虎が姿を表す。
         立ち込めていた煙は、今の一声で全て吹っ飛んでしまった。狭い場所
        で見あげれば、元々大岩よりも大きなその身体は、より一層巨大)
      • …おいおいおい……。 -- 宗右衛門
      • (驚くよりも先に、木の根に絡め取られた宗右衛門は、呆れたような
        声を出した)
      • …うりゃぁ! -- アオイ
      • (肩で根を砕きながら、全速力で突っ込んでくる虎へ向け、アオイは
        手にした杖を向ける。
         ガラガラ、と音を響かせて、錆びついた鉄のシャッターが、虎の行
        く手を遮るように落ちて来た。
         だが、食い止める事を期待するよりも早く。あっけなくシャッター
        は破られて。
         肉の洞穴のような口が覗き、人の頭よりも大きな牙が並ぶのが見え。
         咆哮が、走った。
         その声は、アトイのドラゴンの叫びにも似て。もはや音ではなく衝撃
        となって襲いかかる)。
      • なんなのこの状況は…ひゃぁっ…!? -- クレハ
      • (腰をさすりながら立ち上がればぼやく様に呟いた
        幸いにも、宗右衛門を狙っていた根は先の騒動で消し飛んでいた
        安心したのも束の間、嵐の様な衝撃が襲って来る
        ぬめる地面を掴み必死に堪えるクレハだが……)。。
      • …ちょっまっ!?あああー!? -- アオイ
      • (アオイは吹っ飛んだ。
         小さくて軽いから)
      • 嬢ちゃん掴ま……ぶふっ!? -- 宗右衛門
      • (そして木の根に囚われていた宗右衛門はアオイを受け止めようとし
        たが、そもそも手が出ない。
         激突した。
         千切れそうなほどしなっていた木の根はへし折れて二人まとめて、奥
        へとふっ飛ばされる)。
      • ああ…アオイさん…? お祖父さんまで…!? -- クレハ
      • これも流れと言う奴じゃな…じゃな…じゃな…… -- 長老
      • にゃふ?
      • 長ろ…きゃぁぁぁ…!? -- クレハ
      • (宗右衛門がアオイと共に闇の彼方へと消えるのが見えた
        続く様に猫を抱っこした長老が残響音と共にクレハの視界を横切って行く
        そこでクレハも限界だった
        外れかけた看板が嵐に飛ばされるが如く、くるくると吹っ飛んだ)。。
      • (千切れた木っ端とともに、風に飛ばされる木の葉のごとく。
         突然、周囲が明るく開けた。
         盛大に水柱が上がり、絡まり合う木の根の代わりに水面が全員を受
        け止める)
      • ぶはっ!……海!?外にでちまったのか。 -- 宗右衛門
      • (水に浮かぶ黒い根に掴まり、宗右衛門は辺りを見回す)。
      • はふぅ…助かったぁ……
        うーん、外では無い気がする…何か違うのよね…… -- クレハ
      • (水から顔を出したクレハが一呼吸の後、立ち泳ぎをしながら告げた
        肌に触れる感触も味も海その物、しかし何か違う)
      • クレハの指摘の通り、ここはまだ荒ら神の中…腹の中じゃな -- 長老
      • にゃぅ!
      • (宗右衛門とクレハの間に顔を出した長老が頷きながら語り
        頭にのった猫がぷるぷると水気を払った)。。
      • (はねた飛沫がパタパタと水面に波紋を描く。
         水は塩辛いが、波は無く。黒い樹の内部に海水が溜まっているのだと
        容易に想像がついた。
         ただ、その規模は当然のように想像の上を行く。
         一行の目の前には、聳え立つ白い絶壁があった。世界の最高峰を麓
        から見上げても、きっとこの壁よりは低く小さく見えるのだろう。
         今しがた飛び出してきた、根の洞窟は、小さな虫食いの穴のように
        黒い点でしかない。
         真っ黒だった外側とは違い、巨大樹の内側は、白く輝く樹皮に覆わ
        れて、上を見上げても、左右を向いても、遠くの光景は白く煙に巻か
        れたようになって果てが見えない。
         樹の内側に、海が1つ囚われて在る。
        海の上には、空があった。
         幹の中で、気流が渦を巻いて、雲までが漂う。夕暮れとも朝焼けとも
        付かない明かりが周囲を満たしていた)
      • …ぷはぁ、もうやだ。私ああいう脳筋連中キライ。 -- アオイ
      • お前も無事だったか。 -- 宗右衛門
      • (塩水を吹いて、ぺっ、と舌を付きだすアオイに宗右衛門が言った)。
      • アオイさん…! 無事だったのね……
        でも、あっという間の再会になってしまったわね…ふふっ…… -- クレハ
      • (アオイの姿を見れば立ち泳ぎで側へと泳ぎ歩いて行く
        そして軽く抱きしめるとそっと頭を撫でて)
      • かっかっか、アトイが見たらますます拗ねそうじゃのう -- 長老
      • もう!長老ったら…暴れん坊なアトイさんなんて……
        でも、アトイさん…それにあの子は…… -- クレハ
      • (長老の言葉にむぅっと頬を膨らませるが、今はそんな状況ではないと
        改めて周囲を確認すべく首をぐるりと巡らせた。
        曖昧な世界、まるで長き夢の後の様なぼんやりとした光景
        朝とも夜ともわからぬ、それでいてどこか懐かしい海にも似た
        そんな不思議な光景……)。。
      • そうだ、外であいつらを止めてたんじゃ……。 -- 宗右衛門
      • (当然のように静寂はすぐ打ち破られた。
         静かだった海面がにわかに荒れ始める。ドンッドンッ、と爆発するよ
        うな音が、近づいて、その度に広大な樹の内海は揺さぶられる。
         赤と黒の塊が、穴を押し広げて飛び出した)
      • オオオオオッ!! -- アトイ
      • (低い雄叫びが突風のように、海を吹き抜けて。
         アトイの振り下ろした拳が、虎を海へ叩き落す。
         立ち上がった波が、津波となって押し寄せる)。
      • おおおー…って、アトイさん何してくれるのー…! -- クレハ
      • (竜と虎の戦いは静寂の海を一気に嵐の海へと変える
        津波となった海水は巨大な壁となりクレハ達を押しつぶさんと迫りくる
        人魚のクレハと言えど巨大津波に巻き込まれてはただでは済まない)。。
      • こっちが襲われねぇだけ、まだマシなのかなぁ。 -- 宗右衛門
      • (もはや恐怖する事に疲れたのか、宗右衛門はひどく冷静に呟くと
         浮かぶ木の根にしっかりと腕を絡めた)
      • …クレハさん達は、早くあっちの島へ、今度こそ私が足止めします。 -- アオイ
      • (指差す方を振り向けば、天から細い黒い糸が垂れ下がっている。
         空洞な巨樹の内部から、何本もの糸が吊り下げられて、撚り合わさ
        れて一本になっている黒い大木。
         薄暮と白の空間にあって、唯一黒いそれは、遠くからでもよく目立つ)。
      • 島…あそこね、わかったわ……
        もう、ここまで来たら無茶しなくても大丈夫と思うから…… -- クレハ
      • (白の空間を切り分ける様にそそり立つ黒き線、目指すべき場所
        アオイをぎゅっと抱きしめるとこくりと頷いてから身を離す)
      • うむ、あそこがこの荒ら神の中心にしてど真ん中となる場所じゃ。。 -- 長老
      • …はい、ではみなさん、お気をつけてー。 -- アオイ
      • (大きな影が、海面に浮かぶ全員の上に差した。
         波ではなく、迫る津波よりも高いコンクリートの壁が、海中からせ
        り上がり、アオイを上に乗せて。みるみるうちに高さを増す!
         津波は、壁に衝突し。壁を越えて押し寄せる波も次々とせり上が
        った鉄骨や朽ちたビル群に遮られ。
         突如出現した人工物の岩礁の内に守られたクレハ達は、うねる大波へ
        変わった海流に押し流されるように沖へ沖へと運ばれる)。
      • お気をつけてとは言われたけれどー…どうするのよこの状況…… -- クレハ
      • 流れに身を任せるのも道じゃなー -- 長老
      • にゃう
      • (水の力は強い、束となり固まりとなればその力は圧倒的だ
        人魚でもその力に抗うのは難しい事で、ただただ波に押されるまま流されて行く)。。
      • うまい事流されてる、悪くないぞ! -- 宗右衛門
      • (大きく持ち上がった波の頂点で、宗右衛門が叫んだ。
         アオイの作り出した防壁は、暴走する力をうまくいなしている)
      • …私の力は、壊すより作る方が得意ですので。 -- アオイ
      • (そのアオイは、最初に波を受け止めた巨大な壁の上に立っている。
         津波を受け止めた壁は、倒れるように傾いで行き。慌てる事もなく、
        アオイは、角度に身を任せ。立って居られないまで傾いた時に、背中
        から下へ落ちる。
         ゆるりと、回転して足を下にすれば、足音も無く、付きだした鉄骨
        の突端に立った)
      • …かもーん、お・ね・え・さ・ま♥ -- アオイ
      • (意地悪く笑うアオイの視線のずっと先で、水柱があがる。
         赤い弾丸となって、アトイが飛び出した。
         その行く手を遮り、海中から壁がせり上がり。
         1枚。
         顔面から突っ込んだアトイが、壁を粉砕する。
         2枚。
         次の壁は、手の甲で払われて。
         3枚!
         アトイの拳が、10m以上もある鉄筋コンクリを粉微塵にして)
      • …うりゃぁ! -- アオイ
      • (粉塵を飛び出したアトイの顔面に、杖がめり込む!
         パッカーン、といい音を立てて、アトイが吹っ飛んだ)
      • …ホームラン……。 -- アオイ
      • (長老に借りた杖を、アトイの吹っ飛んだ方向へ向けて、アオイはニ
        ヤッと笑った)
      • …さあて、次は虎狩りと……。 -- アオイ
      • (振動が走る。アオイの立っていた鉄骨が倒れて。アオイはふたたび
        落下に身を任せて、倒壊したビルの角に、器用に足を着ける。
         振動は止まらない。
         さっき、アトイ達が飛び出してきた来た時以上の揺れが、ビリビリと
        樹の中の海を揺さぶる。
         アオイの足元で、崩れたコンクリートが海面へ落ちていく)
      • …ああ、このパターンって……。 -- アオイ
      • (もはや音を越えて、爆発となった咆哮が、静かな大樹の海を一瞬で
        嵐に変えた。
         それは先の、津波の衝撃が、さざ波に思える程である。
         白い断崖の壁を突き破り、アトイのドラゴンが頭を突っ込んできた!
         爪に、腕に、付きだした鼻面に木の根を絡みつかせ。
         口を縛るように絡んだ木の根を、引きちぎりながら、顎を開いて
        ドラゴンが吠え猛る!)。

      • 痛ッ…何か嫌な予感が……ああ、やっぱりぃ…!? -- クレハ
      • うむぅ、これは少々やばそうじゃのぉ…… -- 長老
      • (波に乗り海を行くクレハ達の背後で爆音が響いた
        鼓膜が破裂しそうになるほどの激しい爆音、今日何度も聞いた爆音が
        恐る恐る後ろへと視線をやれば、そこには爆発する海があった
        海水、瓦礫、黒き根…あらゆる物を撹拌し破砕しながら、ぐんぐんと広がり迫って来る)。。
      • くそっ!またあいつか!!! -- 宗右衛門
      • (壁のように立ち上がった波が、宗右衛門の目の前に覆いかぶさる。
         今度はアオイの防壁は無い。
         波に飲まれ、押し流されて、近づいていた島は巻き起こる飛沫の向
        こうへ遠ざかっていく)
      • …クレハさん!!…ってぇ!ちょっと邪魔しないで! -- アオイ
      • (アオイの立っていた廃ビルが、ドラゴンの手に叩き潰されて海中に
        没する)
      • …ぐえっ!? -- アオイ
      • (宙に身を躍らせたアオイに、波を突き破ってアトイが掴みかかる)
      • …がおーじゃねーですよ!目を覚ませって……。
        …ああ、やっぱり私、こいつらキライ。 -- アオイ
      • (荒れ狂う波の上を、丘を駆ける身のこなしで、アトイの背後から黒
        い虎が覆いかぶさり。
         諸共、盛大な水柱を立てて海中に没した。
         そのすぐ横を、海底からせり上がる鋭く、黒い木の根が伸びていく)
      • (海面から、剣山の如く付きだした根が、ドラゴンへ襲いかかる。
         大樹の内海は、今再び荒れ狂う巨大な力同士がぶつかり合う嵐の只
        中となり。
         その場へと踏み込んでしまった者達を、抗いようもない災禍が容赦
        なく翻弄する)。
      • けふっ…! -- クレハ
      • (咽たクレハの口から大きな泡が零れる。海の中で人魚が溺れていた
        衝撃を伴う波の一撃はクレハの身を激しく殴りつけ、一瞬意識を消し飛ばす程であった
        朦朧とする意識の中、視界がぐるぐると回る、いやクレハ自身が回っていた
        荒れ狂う海はまるで巨大な洗濯機の様で、泳ぐ事もままならない)
      • くっ…こんな事してる場合じゃない…早くお祖父さんを捜さないと……え、おぅっ…? -- クレハ
      • (視界が通らぬ濁った水の中、目を凝らし必死に宗右衛門の姿を捜す
        宗右衛門は普通の人間、漁師の経験があるとは言ってもこの荒れる海では危険すぎる
        焦りばかりが募る中、何かがクレハを持ちあげ様としている
        目に見えぬがこの感触に近い物をクレハは知っている)
      • (荒れる狂う海を切り裂き何かがせり上がる、水で出来た何か
        水棲爬虫類にも似たそれは水竜。水の牙と角を携え威風堂々と海を突き進む
        クレハはその水竜の頭部に転がっていた、見れば宗右衛門の姿もあり
        水竜の鼻先には頭に猫を乗せた長老の姿があった)
      • にゃあ♪
      • 今回はさーびすじゃぞ? -- 長老
      • (長老は振り返るとにかっと笑い顔を浮かべた)。。
      • こりゃ……あんた、一体……いや、助かった!
        頼む!アミとロワナ達のところまで! -- 宗右衛門
      • (角を掴み、立ち上がった宗右衛門が、長老の背に叫ぶ。
         ドラゴンとアトイも、虎も、今は互いに喰らい合いこちらに目を向け
        ていない)。
      • は、はい…行くなら今のうち…! -- クレハ
      • うむ!まかせておくが良い、しっかりつかまっておれ! -- 長老
      • にゃふ!
      • (長老の頷きに応じ水竜がグンっと加速し、頭の上の猫がぎゅっと髪にしがみつく
        荒れる海を切り裂き、瓦礫を押しのけ、三人と一匹を乗せた水竜は突き進む
        竜と虎の戦場が遠く彼方となって行く、が、しかし……)
      • …長老…何か空気が…… -- クレハ
      • うーむ、なるべくならば穏便に行きたかったのじゃがなぁ……。。 -- 長老
      • (黒く、糸のようにか細く見えていた黒い樹が、やはりそれも、大木
        であったと知れる距離まで近づいた時。
         海面から飛び出した黒く鋭利な根が、水竜の脇を掠める。
         それも無数の剣山のように。
         それだけではない、行く手を遮るように、根は束なり、絡まり合い、
        無数の蛇が群れを成すように。根が、一匹の大蛇の形を取る。
         水竜の頭の上からでも、見上げる程に巨大な黒蛇が、顎を開く。
         その真っ黒な口の中は、無尽蔵の太ったヒルが蠢いているようで)。
      • …! ちょ、長老…!? -- クレハ
      • クレハ胸を借りるぞ -- 長老
      • にゃ?
      • (極めて危険な状況の中、驚き慌てるクレハを制すると
        頭に乗っていた猫をクレハの胸へと押し付けた)
      • きゃっ?長老! -- クレハ
      • また成長したのぉ、かっかっか
        さて…クレハ宗右衛門よ頭を下げ屈んでおれ
        -- 長老
      • (長老がそう言った直後、黒き蛇の顎が迫って来た
        蠢く蟲の巣の様な黒き穴が獲物を喰らわんと落ちてくる
        しかし水竜は避ける事せず、逆に首を高く擡げれば突っ込んで行く
        鎧袖一触。黒き蛇と激突する寸前、水竜は僅かに首を傾けるとねじり絡み合う様にしながら
        黒き根の蛇とすれ違って行く)。。
      • 無茶な避け方をする!? -- 宗右衛門
      • (黒い蛇の身体が、水竜に巻き付いて、黒と蒼の糸を撚り合わせたよ
        うになる。
         クレハ達のすぐ傍を、特急列車の通過する圧力で、蛇の身体が通り過
        ぎて行く。
         蛇の身体がどんどん巻き付いていく。だが、水竜はとらえどころの
        無い水流そのもので、速度を落とさぬままに、螺旋状に突き進んだ。
         ゆるり、と蛇の頭が解けた。
         綱のように撚り合わせた木の根が、端から解けていく。
         解けた木の根が、プロペラのように回転を始める。
         解ける程に、速度と巻き込む半径が増して、増して……。
         海面に先端が触れて、逆向きの豪雨のごとく海水を巻き上げ。
         尾の方から水竜の身を切り刻みながら、裁断機と化した根の回転が迫る!)。
      • 長老!どんどん近づいて…! それに…長老は大丈夫なの…? -- クレハ
      • ワシの身を心配してくれとるのか?照れるのぉ
        安心せい、ワシの身は大丈夫じゃ
        -- 長老
      • (振りむけば刃なった黒き蛇がぐんぐん迫って来る、まるで刃のスクリュー
        水竜の身はかき氷機に吸い込まれる氷の如くスライスされその身を飛沫へと変える
        恐るべき光景にクレハは思わす絶叫にも近い声を上げてしまう
        そんなクレハに長老はにかっと笑みを浮かべ答えとした)
      • だが、ちょいと厄介じゃのぉ…ふむ……
        仕方あるまい、お前達はちょい先に行け…!
        -- 長老
      • 厄介って…えっ…ひゃあ…!? -- クレハ
      • (長老が珍しく深刻の表情を浮かべたかと思えば、クレハそして宗右衛門の身が中へと跳ねた
        直後、水竜の身が蠢き姿が変化する、複数の触腕もつ海の獣…海獣へと
        海獣は触腕を振るい上げると迫る刃に自ら突っ込み…そして絡みあげた)。。
      • (回転する木の根は、海獣に当たると、切り裂くことはできずに、鞭
        のようにしなって巻き付く。
         しかし、締め上げる力は海獣の触腕の方が上。
         根の塊は押さえ込まれる)
      • 食い止めた!……で、こっちはどうすんだぁ!? -- 宗右衛門
      • (残念ながら、宗右衛門達に空を飛ぶ力は無い。残念。
         大樹の根からなる島の地面は、まだまだ遥か下にあって。
         ダメ押しのように、そこから無数の木の根が槍となって突進してくる)。
      • こっちは手いっぱいじゃ、ヌシらでなんとかせい -- 長老
      • なんとかって…もう、なんか沢山きちゃったじゃない…! -- クレハ
      • (実際、長老の方を見やれば海獣と黒き蛇の戦いは削り合いとなっていた
        海獣が触腕を打ちつければ、黒き蛇は新たな顎を生成し齧りつき
        その顎を粉砕しようと別の触腕で打ち付け…破壊と生成の無限の連鎖)
      • 仕方が無いか…猫さん少し我慢してね…? そいや…! -- クレハ
      • にゃん!
      • (長老を頼れないのならば自分でなんとかするしかない
        クレハは猫を胸元に収めると両手を前に突き出し光の障壁を展開した、異能による防御壁だ
        障壁に阻まれた槍は粉砕され塵へ、しかし即座に槍の二陣が迫りくる
        障壁を前へと撃ち出すとその反動で宗右衛門の方へと跳躍した
        足下を見れば光の壁が槍を粉砕しながら突き進むのが見える)。。
      • ふっ!……おおっ!? -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、突き出した枝を掴んで止まろうとするも。
         黒い大木の枝は、ゴムのように伸びて役に立たない)
      • 海か、海の方に落ちれば、まだ……!。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門の上方で閃光が走った
        見上げればクレハの姿があり、その前方には炎に包まれ焼け焦げ落ちる黒き根が
        宗右衛門は見逃してしまったが、クレハが光線の異能を放ったのだ
        光の粒子を加速し対象を焼き穿ち粉砕する異能。
        もう一度閃光が走った、今度は右から左へと薙ぎ払う様に
        下から見ればそれは光の扇が開く様にも見えて……)
      • (光の中から、黒い影が飛びした。
         黒い大木の一部が、剥がれ落ち、めりめりと音を立て、下へ下へと
        柳の枝がしなる形で落ちていく)
      • うおお!! -- 宗右衛門
      • (掴んでいた枝の伸びが止まり、ふたたび宙に投げ出されそうになった
        宗右衛門は、思い切って手を離す。
         剥がれ落ちる、撓る枝に飛び移れれば、あるいは下まで行けるかも
        しれない)。
      • (確信した宗右衛門の手が根をがしりと掴んだ、ぐんっと撓る根を強くつかみ堪える
        これを起点に新たな枝に移れば、アミとロワナそしてネオンのいる大樹は直ぐそこだ
        宗右衛門がそう思った直後、海から黒き柱が伸びあがった
        狩りを終えた海鳥の群れにも似たそれは、黒き根の束だ
        黒き根は一気に伸びきると鋭角に向きを変える、宗右衛門の居る方向へと)
      • お祖父さん…!行って…! -- クレハ
      • (黒き根が槍となろうとした時、声がした、クレハの声
        クレハは落下の勢いで黒き根を蹴りあげると
        指先から光の鎖を放ち、黒き根をがんじがらめに捕縛した)。。
      • (迷っている暇はなかった。
         今まで、怪獣達の戦いに巻き込まれるだけだった自分たちに。人では
        抗い難い暴力が、向けられている)
      • 頼んだぞ!クレハ嬢ちゃん!! -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が叫ぶ。
         すぐ、傍にあるのは、かつて見たネオンの樹だ。
         50年前のあの日、地下で、ただ恐怖するしかなかった、その恐怖そ
        のものだ。
         だが、今は)
      • 俺は!今度こそ!! -- 宗右衛門
      • (落下していく根から足を離し、宗右衛門は全力で飛んだ!)
      • ぬおおお!! -- 宗右衛門
      • (渾身の力を込めて、鉈を大木の幹に突き刺す。
         幹を切り裂いて、鉈を握った宗右衛門も一気に下ってゆく。
         パキンッ、と音を立てて鉈が折れる。
         減速はぎりぎり間に合って、宗右衛門の身体は、絡まり合う大木の
        根の中に落ちた)。
      • ふぅ…お祖父さんは大丈夫みたいね……
        さてと…私の方もなんとかしないと…とと…… -- クレハ
      • (宗右衛門が無事に到着したのを見れば、クレハはほっと息を吐いた
        しかしクレハ自身はまだ無事とは言えない状態、右手の鎖の先には捕縛されもがく黒き根が
        黒き根が蠢けばその先のクレハも蓑虫の様にゆらりゆらり揺れてしまう)。。
      • (突然、ぼんやりとした薄暮の明かりの中にあった空間に、明確な光
        源が出現した。
         消えないフラッシュの眩しさと、光を浴びるだけで燃えるような熱が
        暴力的に、辺りを照らしつける)
      • これは……!まずい! -- 宗右衛門
      • (暴虐の光に、一瞬にして大樹の内海が、白く塗りつぶされていく。
         真っ白な闇の中で、巨大な影が、膨れ上がって行く青白い恒星へ突
        き進むのが瞬きの間だけ見えて、白さにかき消される。
         海が、冒涜的な熱量に、湯気になる間もなく蒸発していく。
         視界はもう効かない、だが、何が起ころうとしているかは、嫌とい
        うほど理解できた)
      • ここまで来てなぁ……! -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、根の間から立ち上がる。
         どうすればいいのか。
         地上へ星を生み出す、ドラゴンの力を前にして。
         次の瞬間には、蒸発していてもおかしくない脆弱な人の身で)
      • アミィ!ロワナァ!!ネオォン!!! -- 宗右衛門
      • (彼は、黒き大木の根を掴み叫んだ。
         どうしようもない力に、翻弄されるだけ。
         そんなものは、選択肢になかった)
      • そこに居るんだろ!助けに来た!! -- 宗右衛門
      • (乾いた血の張り付く右腕は、痺れ、震えて動かない。
         血を流しながら、左手で根をかき分け、引きちぎり。
         全身の力を振り絞って、宗右衛門は、呼んだ)。




    • (薄暮の空の下で、アミは目を覚ました。
       目の前には、瞬かない星の浮かぶ夜空がある。
       顔を僅かに横に向けてみる。水平線に沿って、オレンジと青の空が、
      混じり合わずに堆積する液体の層のように広がっていた)
      • あ……。 -- アミ
      • (身体を起こそうと、地面に手を着くと、腕は肘まで潜ってしまった。
         海の上に、倒れていたのだ。
         何も無い、暗く深い青の海の中に、手だけが潜って、僅かな気泡を
        立てる。
         けれども、浮かんでいるのとも違う。
         今度は慎重に、そっと立ち上がると、まるで水たまりの上に立つよ
        うに身体を起こす事ができた)
      • (どこまでも広がる薄暮の空と、風も波も無い、海だけがある。
         音も無く、気配も無い、世界の全てが消え去り。永遠の海と空だけ
        が残された光景であった。
         あるいは、全ての命が始まる以前の、死に近い無なのかもしれない)。
      • 静かなの…… -- ロワナ
      • (画用紙に絵の具を伸ばし描いた様な世界の中、アミは声を聞いた
        その声は彼方から様で、すぐ隣からの様で、自分の耳で聞いたのかもわからない
        でも誰の声なのかはわかる、だからその姿を見つけるのは容易だった。
        振り向けばロワナの姿があった、深い青の上にぽつんっと佇む姉の姿
        その瞳はどこか遠くを見つめていて……)。。
      • ロワナッ。 -- アミ
      • (足元に小さな波紋を描きながら、アミは駆け寄った)
      • 身体は、平気なの?。 -- アミ
      • あ?アミ…うん、多分大丈夫なの -- ロワナ
      • (アミの呼びかけにロワナは暫しの間を開け反応した
        そして問いかけに対し、首を傾げながら返答)
      • アミこそ…大丈夫? -- ロワナ
      • (ロワナはアミの身を手でぺたぺたしながら無事を確かめる
        そこには先までの狂った感覚とは違う、確かな感触があり)。。 
      • うん。 -- アミ
      • (アミは頷く。
         気を失う前に、嵐のように体中を苛んでいた苦痛や感覚はなかった。
         黒き巨獣からの知覚は、消え去っている)
      • ここ……どこなんだろう……? -- アミ
      • ……バケモノの腹の中よ。 -- ネオン
      • (二人から、すこし離れた場所に、暗がりの中で膝を抱えて座るネオン
        の背中があった。
         背に、黒い木の根は生えていない)。
      • ネオンちゃん! ネオンちゃん…? -- ロワナ
      • (この不可思議な世界にあってネオンの姿はさらに不可思議に感じられて
        でもそれよりも、ネオンの背中が何か悲しそうで苦しそうで
        だからロワナはアミと頷き合うと手を繋ぎ、水に波紋を描きながら歩いてゆく)。。
      • (アミとロワナが近づいても、ネオンは振り返らない。
         膝を抱えたまま、じっと暗い水面を見つめている。
         二人が起こした静かな波紋に漂い、黒い振り袖の、刺繍のいもり柄が
        蠢いているようで)
      • ここから出よう?ネオンちゃん。 -- アミ
      • (アミが、背中に声を掛ける)
      • ……勝手に行きなさいよ。あなた達ならなんとか出来るでしょ。
        なんなら、それもくれてやるわよ。 -- ネオン
      • (ネオンが、後ろ手に何か放った。
         アミとロワナの足元に、飛沫を立てて、乳白色の水晶が落ちる。
         鼓動のように、不気味な明滅を繰り返す光が、二人を下から照らす)
      • これは……? -- アミ
      • 知らない、黒いネバネバを何かする何かじゃないの。
        それを埋め込まれてから、私はもうめちゃくちゃよ……。
        要らないわ、そんなの。。 -- ネオン
      • そうなんだ? でも…にゃっ? -- ロワナ
      • (ロワナはネオンの言葉に首を傾げると
        腰を曲げ、鼓動の様に明滅する乳白色の水晶に手を伸ばした
        瞬間、輝きの中に何かを見た
        化学物質が混ざり合い生命のスープとなり原初の生命が誕生する一瞬、万年億年の一瞬)
      • …なにこれ? うん、いらないのわかったの……
        だから、こんなのぽいしてお外にでよう? おじいちゃんも待ってるの…それにおばあちゃんも…… -- ロワナ
      • (乳白色の水晶がなんであるかわからないが、ネオンがいらないと言う意味はわかった
        くらくらとする頭を振りはらうと、ポケットからハンカチを取り出し乳白色の水晶を包んだ
        そしてもう一度ネオンに声をかける、日記を読んだ姉妹は知っていたから
        姉妹の祖父と祖母である宗右衛門とレインがあの日伝える事の出来なかった物を)。。
      • (ネオンは、黙ったまま)
      • ネオンちゃん……。 -- アミ
      • (アミが、もう一度声を掛ける)
      • ほっといてよ……。
        私、あなた達に酷い事したのよ?
        ほっときなさいよ……。 -- ネオン
      • (ネオンの言葉は、まるで拗ねた子供のようで。
         だから、アミは言った)
      • あ…飴ちゃんあげるから! -- アミ
      • はぁ!? -- ネオン
      • (ネオンが振り向いた。
         包み紙に包まった、飴を掌に乗せて突き出すアミが居た)
      • ……あのね、私いっぱい考えたの。考えたけど、まだ分からなくて。
        おじいちゃんも、おばあちゃんも、本当にネオンちゃんの事大切に思
        ってて。
         それはネオンちゃんも、同じだって。
         そう、思うんだけど……。 -- アミ
      • ……。 -- ネオン
      • 私達も、ネオンちゃんの事。もう放っておけないよ。
        だから、ネオンちゃんの思ってる事、全部教えて欲しい。。 -- アミ
      • 酷い事なんてもう気にしてないの!
        私だってアミのプリン食べちゃった事あるし、アミが私のクレヨン折っちゃった事あるし
        喧嘩なんかたくさんしたの…… -- ロワナ
      • (てへりと笑みを浮かべたると、アミの方を向き頷いた
        アミもまた思い出したのか笑みを浮かべロワナに頷き返す)
      • ううん、アミとだけじゃないの、お友達…ちはやちゃんやすみちゃんや……
        あ、学校のお友達ね? 喧嘩したけど…ごめんなさいして、一杯お話したらすぐに仲直りできたの
        だからさ、ネオンちゃんも色々な事をお話して教えてほしいの…… -- ロワナ
      • (もう一度アミと頷き合うとアミの手に並べる様に腕を伸ばした
        その掌には包み紙に包まれた飴が
        ころころとした二つの飴は太陽と月の様に煌めいて見えて)
      • (手を、ネオンは払いのける。
         飴が2つ、水面に波紋を描いて、海に沈んでいく。
         ネオンは、立ち上がり涙を堪えるような顔をしながら、言った)
      • 私が分かんないですって?
        そんなの……。そんなの私だって分かんないわよ!!! -- ネオン
      • えっ。。 -- アミ
      • えっ。。 -- ロワナ
      • (きょとん、とする二人に、ネオンは)
      • 姉様が私を愛してるって?知ってるわよそんなの!だって私の姉様なの
        よ!あなた達よりずっと一緒に暮らしてたんだから!
        宗右衛門だって……あの時、助けに来てくれたのだって……。 -- ネオン
      • (涙を滲ませながら、ネオンが顔をあげて)
      • だけど……っ!
        初デートだったのよ!?私が死んじゃった日は!
        この着物だって一番のお気に入りで、一番可愛いやつだったのに!
        熱いし!燃えてるし!気持ち悪いし!頭ぐちゃぐちゃでわけわかんな
        くなってるのに!
        私置いて二人で逃げちゃうし!
        お父様もお父様よ!大好きだったのに!結局私の事も、あまつさえ、
        姉様の事もホントは何とも思ってなかったの!
        もう!悔しいし!むかつくし!! -- ネオン
      • (ますますあっけに取られる二人を前にして、ネオンはますますヒー
        トアップ)
      • 大体あの女もそうよ!何が『お前の願いも叶えられるだろう』よ!
        キモイ歯しちゃってさぁ!
        私は、もう何もかも嫌んなって、ただ消えたいだけだったのに!
        なんで怪獣映画みたいな殴り合いさせられてんのよ!消えてないし! -- ネオン
      • (涙に、声が震えて……)
      • ……あなた達だって……っ。
        何よもう……。私が死んじゃったからって、姉様も宗右衛門も、ちゃ
        っかり結婚して幸せそうになって……。
        悔しかったの!ちょっと仕返ししてやりたかっただけなの!!
        ……もう……何もかも、嫌だったの……。 -- ネオン
      • ネオンちゃん……。 -- アミ
      • (膝を着いて、泣き崩れるネオンに、アミは)
      • ……の、バカァ!! -- アミ
      • ッ痛ッッたぁ!? -- ネオン
      • (グーでげんこつした)。
      • ネオンちゃんのバカァ! -- ロワナ
      • (唖然とするネオンにタックルする様にロワナが抱きついた
        膝を着きうなだれていたネオンの頭をぎゅっと抱きしめるロワナ)
      • 一杯一杯話せるの…ネオンちゃんは話せるの、やっと全部話してくれたの!
        嫌な事、悲しい事、辛い事、全部話してくれたの! もうわかんないじゃないの! -- ロワナ
      • そうだよ! -- アミ
      • (アミも、ロワナと一緒に抱きついて)
      • なっ!? -- ネオン
      • (泣きながら、驚いた顔をするネオンに、アミは言った)
      • 消えちゃうなんてだめなんだから!
        そんな事したら、おじいちゃんもおばあちゃんも、私達も……ネオン
        ちゃんも!悲しいままなんだから! -- アミ
      • (二人の言葉に、ネオンは、脱力してうつむく。
         ネオンを抱きしめる、アミとロワナの、柔い金色の前髪に顔を埋め
        るように)
      • ……けど、もう……何もかも、遅いのよ……。 -- ネオン
      • (そう、消え入る声で呟いたネオンに)
      • ううん、遅くなんかないの!大丈夫なの…だって…… -- ロワナ
      • (空と海だけの世界は、いつしか日が暮れて、闇に閉ざされていた。
         その暗闇の向こうから、声が聞こえる。
         決して諦めないと、強く願いを込めた声が)
      • ほら、おじいちゃんが呼んでるの……。
        手を、伸ばして? -- アミ
      • (ネオンは、震える手を肩まで持ち上げて、止めた)
      • ……違う!違う!!
        あれは、あなた達を迎えに来たんだ……私じゃ……。。 -- ネオン
      • 私達だけじゃないの、ネオンちゃんも迎えに来たの!
        おじいちゃんはネオンちゃん会いに来たの、だから…… -- ロワナ
      • (ロワナはネオンの手に自分の手を添えた
        さらにそこへアミの手が添えられる)。。
      • (二人の手に支えられて、ネオンが、暗い空へ向かって手を伸ばす。
         その手は、しっかりと掴まれて引かれた。
         暗い場所から、ネオンは引き上げられ。飛び出した場所の、眩しさに
        思わず目を細めた)
      • 無事だったか、ネオン。 -- 宗右衛門
      • (声を聞いて。ネオンは目を開いた。
         絡みつく黒い根から、救いだして。彼女の身体を、しっかりと
        抱きとめていたのは、宗右衛門で)
      • 遅くなって、ごめん。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、言った)。


      • (水柱が、高く高く、果ての見えない大樹の空洞の中に上がった。
         飛沫を伴う強い風が、宗右衛門達の方にまで吹き付けて、左腕で抱い
        たネオンの肩を、彼は、強く掴む)
      • (振り返れば、恒星を吐き出そうとしていたドラゴンは、海中に頭を
        没している。
         ドラゴンを囲うように、鉄筋とコンクリの柱だけの廃ビルの群れが、
        林立して。建設途中で放棄したような建造物の群れの上に、砲塔が据
        えられて、要塞と化していた。
         柱の隙間から、基部の重厚な構造物が覗き、砲身は湯気をあげる。
         そして、その雑な要塞群と対となって、宗右衛門を背に乗せて助けた
        長老の海龍が、海に突っ伏するアトイのドラゴンを見下ろしていた)
      • !っそうだ。あの子達が、まだ中に! -- ネオン
      • (はっ、として、ネオンが言った。
         飛沫を浴びて、濡れた顔で、宗右衛門を見上げる)。
      • はーい、私に任せて…! -- クレハ
      • にゃあ!
      • (両手を左右に広げながらストンっとクレハが降りて来た
        着地と同時に猫が胸元から顔を出し一声鳴いた
        見れば服の所々が破けこちらもまた激戦であった事が伺える
        そして抱き合う宗右衛門とネオンを見ればこくりと頷き笑みを見せる)
      • さて…と、アミちゃんロワナちゃん…切り破るから少し離れて…? -- クレハ
      • クレハちゃん? はーいなのー -- ロワナ
      • はーい -- アミ
      • (クレハの呼びかけに絡み合う根の奥からロワナそしてアミの声が聞こえ
        そしてガサガサと言う音が聞こえた後、離れた事を伝える返事が返ってきた)
      • じゃあ…せーの…っと…! -- クレハ
      • (右手に光の刃を纏うと、クレハは構えの後に光の刃を二閃三閃させ
        絡み合う黒き根を切り裂き切り破った
        先までと異なり根は再生する事は無く、ぽっかりと大穴が穿たれたままになり
        転がり出す様にアミとロワナが飛び出してきた)
      • おじいちゃん!ネオンちゃん!。。 -- ロワナ
      • おじいちゃーん!! -- アミ
      • (飛び出してきた二人を、宗右衛門は受け止めて、3人は強く抱き合い)
      • ……よかった、本当に……。 -- 宗右衛門
      • うん!。 -- アミ
      • うん! よかったの♪ -- ロワナ
      • (泣き笑いの笑顔で宗右衛門に抱きつくロワナそしてアミ)
      • ネオンちゃんも! -- ロワナ
      • (そしてネオンの方へと振り向くと手招きをした)。。
      • あ、あら……結構近くに居たのね? -- ネオン
      • (ネオンやアミとロワナが囚われていた場所は、無限とも思える程広
        大で。誰の声も、手も届かない無限の孤独に横たわる場所だとさえ思
        えたのに。
         ずいぶんとあっさりと脱出出来たものであった。
         あんまりにすんなり行き過ぎて、思わずネオンが、拍子抜けしたよ
        うに言うと)
      • うん、ずっとすぐ近くにいたの。ちゃんと分かってたんだから! -- アミ
      • (アミは、笑顔でネオンの手を取って引っぱり)。
      • ほら、こんなに近くなの♪ -- ロワナ
      • (そのまま手を回し抱き合う輪にネオンを加えた
        ネオンに身に触れ合うアミ、ロワナ、宗右衛門の身
        そんなネオンの背をそっと誰かが撫でた気がした)。。
      • うんうん、いいわね……
        …アトイさんはもう暫く静かにしているのがいいわね…… -- クレハ
      • (抱きあう四人を見ながら得心の笑みを浮かべるクレハ、頑張った甲斐があったと言うものだろう
        しかし、横目でぐでるドラゴンを見れば大きなため息が出てしまう)。。
      • …あっちは、片付いたようで。 -- アオイ
      • (ネオンとアミ、ロワナが黒い樹の中から救い出されると。
         大樹の内海はふたたび静寂が戻った。
         海面から突き出した根は、巨大化したマングローブの根のように、海
        面からせり出したまま停止している)
      • ぐっ……ぅぅ!!くそっ!こんな時に! -- ハウンド
      • (黒い虎の身体が溶ける。
         蝋細工が熱せられるのと同じ動きで、巨大な虎の身体を作っていた
        粘体が、崩れ、流れ落ちていく。
         中から、ハウンドの姿が現れ出す)
      • …そろそろ諦めません? -- アオイ
      • (コンクリの廃墟ビルに据えられた砲台の上から、ハウンドを見下ろ
        して、アオイが言う)。
      • ヌシ、もうわかっておるのじゃろう…? -- 長老
      • (別の方向から声がした長老の声だ
        水竜の姿は既になく、アオイとは別の砲台の砲身に腰掛け足をぶらぶらとさせている)。。
      • ぐぅぅぅぅ……ッッ!!ガァアアアアアアアア!!!!! -- ハウンド
      • (答えず、吠えた。
         虎の身体を失ってなお、その咆哮は獣そのものである。
         ハウンドが、跳躍し、アオイの立つ、錆びた砲台に拳を叩きつける)
      • …おっ、と……あっ、ええええー!? -- アオイ
      • (装甲が凹み、大鐘を力いっぱい殴りつけたような音が響く。
         基部のコンクリートに罅が走り、最初から建っているのが不思議な位
        ボロかったビルは、あっさり倒壊して海へ崩れ落ちる)
      • …もうやだこいつらー! -- アオイ
      • (アオイも落っこちた。
         崩壊するビルの瓦礫を蹴って、ハウンドが飛び出す。
         砲塔群の柱に足をつけ、蹴り砕き。海面を水切り石の如く跳んで、
        中央の島へ目掛けて一飛びに)。
      • うーむ、やはり人とは複雑なものじゃのぉ…… -- 長老
      • (腕を組み頷くと海面を跳ねるように走って行くハウンドの背を見ながら呟いた
        口は困っているが、その瞳は何か楽しんでいる様に見えて)。。
      • (1つ2つ、と最後に大きく跳ねたハウンドは、ほとんど激突する勢
        いで着地した。
         根を踏み砕いた足元に血が飛び散る、太ももには、大きな爪で抉ら
        れた傷があり。
         血と粘体のこびりついた腕が、伸びる。
         手負いの獣状態、だが、流れでた血を怒りで補い、その速さに一分
        の衰えも無く)
      • 何故だ!何故止めた!! -- ハウンド
      • (ネオンの胸ぐらを掴みあげて、ハウンドが叫ぶ)。
      • きゃっ!? -- クレハ
      • にゃん?
      • (近づく何かが見えたと思った次の瞬間、それは着地し周囲に衝撃を撒き散らした
        反射的に腕で顔と目を覆うと、胸元に収まったままの猫が驚きの鳴き声をあげた)
      • ハウンドちゃん? -- ロワナ
      • (衝撃で尻餅をついたロワナが目をパチクリとしながら呟く様に声をかけ)。。
      • ハウンドちゃん!だめぇ!! -- アミ
      • あいつ!! -- 宗右衛門
      • (アミが声を上げる、宗右衛門は、アミとロワナを守るように抱きと
        めた。
         ネオンは、ハウンドの手に囚われ、膠着する)
      • あと一息だと言うのに!やっとアイツを殺せるのに!! -- ハウンド
      • ……ッ!ぐっ!そんなの!私はもうごめんなのよ!
        私を騙しておいて!よくも……ッ! -- ネオン
      • (牙を剥き出し、唸るハウンドを、ネオンは睨み返し)
      • そんなにやりたければ、1人でやりなさいな!
        あんた何か、大ッ嫌いよ!
        ……でも、腹立つ、けど……ッ!あんたみたいなのでも、触れたら分
        かっちゃうんだから! -- ネオン
      • (ネオンの手が、傷だらけのハウンドの手を掴む。
         ただ、苦しさからそうしている分けではなく)
      • あの、ドラゴン女も、大っ嫌い……ッ、どうでもいいんだから。
        だけど、アミとロワナは、そうじゃなくて……ッ!
        あんただって!
        ……ここに来るまで、どれだけ、大切な者を無くして来たのよ!
        どれだけ傷つけて、自分もそうなって……バッカじゃないの!? -- ネオン
      • うるさい、うるさい!!! -- ハウンド
      • きゃぁッ!? -- ネオン
      • (ネオンを放り、ハウンドの手がロワナを掴んだ。
         抵抗する間もなく、ロワナは抱え込まれて。
         跳躍したハウンドが、距離を取る)
      • 祭壇はまだ生きている、やれ!
        もう一度神を動かせ!こいつの首を、へし折られたくなければな! -- ハウンド
      • (ロワナの細い首に、ハウンドの指が食いこんだ)。
      • ロワナちゃん…! やめなさい…もうこれ以上は…… -- クレハ
      • (なんとかしたいがクレハにはどうにもできず
        説得を試みるも、少女の瞳には自分の死すら厭わないと言う物が見えて)
      • …クレハちゃん…大丈夫なの……
        ねぇ…ハウンドちゃんなんで…? -- ロワナ
      • (そんなロワナは苦しむよりも、クレハをそしてアミと宗右衛門を安心させるための言葉を告げ
        そしてハウンドの瞳を静かに見つめると問い尋ねた
        その瞳はどこか悲しげで、それでいて憎しみ等はなく穏やかで……)。。
      • (血走った、黄金色の獣の目がロワナを睨む。
         すぐに目を逸らして。
         吐き出した血を噛むように、ハウンドは言った)
      • ……アルフリーダの仇を取るんだ。
        そのために、何もかもを捨てたんだ!組織も、友も!
        今更、止めにできるものか!! -- ハウンド
      • (唯一、家族と呼べる者を奪われた。それが全ての理由で。
         もはや、自分の命ですら、目的のためには手段と成り果てたのだ。
         どんな言葉も届かない、怒りだけが、傷つき、血を流すハウンドの
        全てと成ったのだ)。
      • アルフリーダ…でも、あの時は私だって…… -- クレハ
      • (アルフリーダ。それはクレハとアトイにとって因縁ある人物の名
        ハウンドと呼ばれる少女の侵入に気付いた時から、目的は自分達である事の想像はついていた
        しかし、それがここまで根の深い物である事はまったく予想も想像もしていなくて
        因縁ある相手と言えど、それ以上なにも言えなくなってしまう)
      • …アルフリーダ…ハウンドちゃんにとって大切な人なんだね…… -- ロワナ
      • (苦しい息の中でロワナは思い出す
        ハウンドと初めて会った時の事を、蔵での出来事を
        あの時、ハウンドは姉妹に問い尋ねた、自分にとって大切な存在が奪われた時どうするか?…と
        だからロワナは思う、今こそその答えを返すべきだと)
      • …やっぱり、私…出来ないと思う…どんな大切な人でも……
        だって、ほら…アミもおじいちゃんもクレハちゃんもアトイちゃんも…みんなみんな困ってるもん……
        アルフリーダさんも喜ばないと思う…こんなの誰も笑顔になれないの……。。
      • ハウンドちゃん!お願いロワナを離して!……お願い! -- アミ
      • (アミが、駆け寄ろうとして)
      • 動くな! -- ハウンド
      • (ハウンドは牙を剥く。
         アミの手を、宗右衛門は無言で掴み引いた)
      • アルフリーダはもう笑ってくれない。死んだのだからな。
         それに、お前はアルフリーダを知らない。
         私達は、神も悪魔も居るこの世界で、神を呪い、世界に唾吐く。
        私達はどっちも、マトモに生きて死ねるなんて、思ってなかったさ。 -- ハウンド
      • (無視してしまっても、よかったのに。
         何故か、その時、ハウンドは語っていた。
         あの、狭い蔵の中でもそうだったように。
         自分を分かって欲しい等とも、思っては居ないのに。何故か……)
      • いつか、自分が踏み入れた泥濘に、足を取られて動けなくなるんだ。
        そして、自分の血とハラワタに顔を突っ込んで死んで行くんだ。
        わかっていたさ…………だけどなぁっ!!
        覚悟していても、理解していても。絶対に!アイツだけは!許せない! -- ハウンド
      • (ハウンドは吠え、そして、ロワナを締め上げる腕に力を込める)
      • 早くしろ、私が子供は手にかけないと思ったか?
        私にとっては、殺した子供の数が1つ増えるだけだ。 -- ハウンド
      • やめなさい! -- ネオン
      • (ネオンが、足元に転がったハンカチの包を横目で睨む。
         生地を透かして、不気味な光が鼓動のように明滅している。
         力は、ハウンドの言う通り、まだ生きている。
         中身は、ロワナに投げたあの乳白色の水晶である)。
      • あぅ…私、アルフリーダさんに会った事はないけど……
        でもねでもね、気持ちは死なないの……
        だって、おじいちゃんもネオンちゃんも…ずっと大切に思ってたから仲良くなれた…の…… -- ロワナ
      • ロワナちゃん…!? -- クレハ
      • (息も絶え絶えとなりながら語り続けるロワナ
        自分はまだ大丈夫と言う風に手ををにぎにぎとして見せる)。。
      • (その時、ロワナを捕まえるハウンドが揺れた。
         大樹の内海そのものが、揺れていたのだ。
         遠く、膨大な量の水が、滂沱の滝となって落ちる音がする。
         低く、遠雷の轟く音がする。
         アトイのドラゴンが、目を覚ましたのだ。
        ドラゴンの前に、水柱をあげて。海中に没していたアトイが、赤い鱗の
        翼を広げて、飛び上がり)
      • ッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!! -- アトイ
      • (咆哮を、響かせた)
      • ちぃ!もう目覚めてしまったかっ!
        急げ!私がアイツを殺さなければ、貴様ら諸共潰されるぞ!
        さっさとしろ!祭壇を動かせ!さあ!!! -- ハウンド
      • とっとっと…まさかこの振動…あ゛やっぱり…アトイさんこんな時に…… -- クレハ
      • (振動に転がりそうになりながらも咆哮の方へと振り向けば
        案の定、そこには目覚め再び荒らぶるドラゴンの姿があった。
        クレハは後にこう思ったそうな
        恋人の目覚めが嬉しく無い日が来るなんて想像も出来なかったと)。。
      • ……ッ!やるわよ!やれば……いいんでしょ……あっ!? -- ネオン
      • (明滅する乳白色の水晶を、ネオンは掴みあげ……。
         そのネオンの横を、突き飛ばすようにして、宗右衛門が駆け出して
        いた)
      • (ただの人間である彼が、虎の神の力を持つハウンドに、敵うわけが
        ない。ハウンドは、暴走したアトイとすら互角以上に渡り合ったのだ。
         神の力を差し引いたとしても。幼少の頃から、殺し、殺されの戦場に
        実際に身を置いて生きてきた彼女と、平和な村の漁師の宗右衛門とでは
        比べるべくもないのだ。
         だけど、この瞬間だけは、違った。
         今、この場でだけは、違ったのだ)
      • うおおおおっ!!! -- 宗右衛門
      • (アトイに、完全に気を取られていたハウンドが振り返った時。
         眼前には拳を振り上げた宗右衛門……そして、もう1人。
         宗右衛門と同じように、歳を経た女が居る。
         彼女は、ネオンの面影もあって。まるで輝く金の鱗粉で、空中に描き
        出された朧げな姿で。
         まっすぐに、ハウンドを見据え、振袖と長い髪を翻して、拳を振り
        上げて居たのだから。
         次の瞬間には、二人の拳が重なり、全身全霊の力を込めて、ハウンド
        の顔面にめり込んだ!)
      • がっはぁッッ!? -- ハウンド
      • (ロワナを掴んで居た手が、空を掻き。ハウンドの爪先は地面から浮
        いて、その身体は、ほとんど叩きつけられるように絡まりあった根の
        上を跳ねる)。
      • お、お祖父さん…!? それに…… -- クレハ
      • (アトイですら苦戦した少女が老人の一撃をくらっている、それもクリティカルな一撃を
        宗右衛門のその一撃に、クレハの目は丸くなり唖然となってしまう
        そして宗右衛門に寄り添うに現れた女性、彼女は?…とクレハがそんな事を思っていると)
      • おじいちゃん!おばあちゃん?。。 -- ロワナ
      • おじいちゃん!?おばあちゃん!? -- アミ
      • 姉…様…? -- ネオン
      • (ロワナとアミ、そしてネオンが、宗右衛門と淡く光る人影を唖然、
        とした顔で見上げる。
         確かに、歳は経ていたが、ネオンと同じ面影のある顔立ちは、アミと
        ロワナが、写真で見た姿によく似ていて)
      • 姉様!! -- ネオン
      • (ネオンの記憶にある、微笑みと同じで。
         レインの人影は、ロワナの頭を、そっと撫でると。
         駆け寄ってくるネオンに、微笑み返して、霧の晴れるように姿を消
        した)。
      • えっと…うん、これにて解決かしら…… -- クレハ
      • (ただ一人ぽかーんとしたままのクレハ
        それでもハウンドと呼ばれた少女が突っ伏したままなのを見れば
        納得し、こくりと頷いた…が……)。。
      • …あああああ!クレハさんもっかいそこ退いてぇぇ!! -- アオイ
      • (静かな空気をぶち壊すように、間の抜けた悲鳴が上方より接近)。
      • …? うん…この声はアオイさん…上………ぐえー…!? -- クレハ
      • (上を向けば落下してくるアオイの姿
        クレハがえっ?と思うよりも早く、クレハはアオイの下敷きに
        しかし幸いにも水と根の地面はやわらかなクッションとなった)
      • クレハちゃん大丈夫? -- ロワナ
      • にゃあ
      • (祖母に撫でられ元気を気力を取り戻したロワナが慌てクレハの元に駆け寄る
        大の字にのびるクレハ、そしてその豊かな胸に顔を埋めるアオイ
        二人を交互に突いてみるロワナ
        その側ではいち早く難を逃れたねこが顔を洗っておられる)。。
      • (絡まり合う根の間に溜まった水の中に、半分浸かった二人である)
      • …う、うーん……はっ!?大丈夫ですか、クレハさん。
        …すみません、何故かお姉さまが未だに止まらず……ほらキター!? -- アオイ
      • (絡まり合う根の間に溜まった水の中に、半分浸かった二人である)
      • (ここぞとばかりに、クレハの胸に顔をくっつけたまま、アオイが後
        ろを指差す。
         ドラゴンとアトイが、飽きるほど聞いた猛る雄叫びを上げ、波を荒
        立てているではないか。
         高く吹き上げられた海水が、その場の全員と、倒れたまま動かない
        ハウンドにもぶっかけられ。
         親子水入らずに盛大に水を差す)。
      • けふっ…私は大丈夫だけど…もう!アトイさ…… -- クレハ
      • ばっかもーん!いつまでやっとるー! -- 長老
      • (クレハが怒りの声を上げるよりも先に轟く声があった
        雷鳴の如く根の大樹内に響く声、全てをビリビリと揺らす声
        そしてクレハはアオイはアミはロワナはネオンは宗右衛門そして猫は…皆が見た
        蒼き少女が昇竜の如く舞いあがりドラゴンの顎を打ち上げるのを)。。
      • ぐぉぉッッ……おっごふっ!? -- アトイ
      • (断崖にも匹敵するドラゴンの顎が、小さな拳1つで殴りあげられ。
         長いその首が、ムチ打ちになるのが心配な角度までのけぞって。
         ドラゴンの頭に強打されたアトイも鼻を打ってのけぞった。
         今まで、山を消し海を割るような戦いの中で、決して揺らがなかった
        ドラゴンが。この世の暴虐の全てを結晶させたような、強壮なるその
        身が、たった一発で、脱力したのだ。
         再び、高い、高い水柱を上げて、ドラゴンは海に頭を没し、水柱が
        切れた時には、すでに天を覆う程だった巨体は無く……)
      • …………。 -- アトイ
      • (水面に、うつ伏せで浮かぶぬいぐるみ大のドラゴンの横に、まったく
        同じ姿勢でアトイが、プカリ……、と浮かんだ。
         死ーん、とするその姿は、いつもの子供の姿に戻っていた)
      • …わぁ。 -- アオイ
      • (アオイは、クレハに抱きついたまま、呆けたような声を出した)。
      • にゃあ
      • はぁ…まぁ…アトイさんにはいい薬よね…さて…… -- クレハ
      • (大きくため息すると。アオイに苦笑を向けてから立ち上がり
        アトイの方へと歩いて行く。流石に放っておくわけにはいかない
        代わりにアオイの足元には猫が寄って来た)
      • まったくのぉ、面倒をかけさせおってからに…… -- 長老
      • きゃん? もう、長老ったら……ありがとうございます…… -- クレハ
      • かっかっか、アトイには後でお説教12時間コースじゃ -- 長老
      • (ぶつぶつと不機嫌な表情で水面を歩いていくる長老
        だがクレハとのすれ違いざまにぽんっと尻を叩くといつもの笑い顔を浮かべた)。。
      • 今度こそ、俺達ぁ助かった……のか? -- 宗右衛門
      • おー、ヴァイアちゃんつえー……。 -- アミ
      • …長老さまぁ、一発でKOできるんなら最初からやってくださいよー。 -- アオイ
      • (アトイに、ぽんぽん投げ飛ばされて大変うんざりしていたアオイは、
        ぼやく様に言った。
         腕の中で猫もにゃぁ〜と鳴く)。
      • …もしかしてヴァイアちゃんめっちゃ凄い? -- ロワナ
      • かっかっか、めっちゃ凄いから褒めて良いぞ?
        ほれ、ぼやくなぼやくな飴ちゃんをやろう
        -- 長老
      • (アミとロワナの驚きに長老は上機嫌と言った笑いをあげ
        そしてアオイの頭をぽふぽふ撫でると飴ちゃんをあげた)。。
      • (今度こそ、戦いは終わり静寂が訪れた。
        ネオンは、皆から少し離れた所に、立っている。
         今は沈黙した、黒い大木の根に手を置き、無言で)
      • ネオンちゃーん!一緒に帰ろうー! -- アミ
      • (アミが手を振って、宗右衛門もロワナも頷く。
         その時だ、再び大樹の内海が揺れ始めた。
         ハウンドは、今だ意識を失い。念のためとアオイに鎖で縛り上げら
        れている。
         アトイは、海の上にぷかり、と浮かんだままで。
         ネオンも、すでに黒き大樹から自身を切り離したのに。
         だからこそであった)
      • これは……!逃げて!早く!!! -- ネオン
      • (ネオンが叫ぶ。
        大樹の内海の中央に聳える、黒の大木が、突然輝き始めたのだ。
         幹の中に、埋め込まれた何かが、狂った七色の極彩色を放ち。
         それは、黒き巨獣が現れだした時と同じ光。
         光は不安定に明滅して、めちゃくちゃな虹色を放ち、揺れる)
      • わっわわ? ぴかぴか光ってるのー!? -- ロワナ
      • (揺れる地面にゆらゆらと揺られ狂った輝きに照らされロワナは手をぱたぱたする
        ロワナには、そしてアミにもわかる
        これが危険の兆候である事が、大樹の崩壊が始まろうとしている事が)
      • 早く逃げてと言われても…どこへ…? -- クレハ
      • (アトイの元へ向かおうとしていたクレハが振り向きながら大声で尋ねる
        ここは大樹の最奥であり中心部であり、飛ばされ落下し辿りついた場所)。。
      • とりあえず外に出よう……。 -- 宗右衛門
      • (そういった宗右衛門の頬に、ぽたり、と黒い雫が落ちる。
         オイルのような、タールのような……。
         酷く臭い。
         指で拭った宗右衛門は、思わず顔をしかめ。そして、上を見上げて
        目を見開いた)
      • 樹が……! -- 宗右衛門
      • (白く輝いていた大樹の幹が、黒く消えていくではないか。
         まるで幹の内側の空洞に、黒いペンキを流し込むように。
         そして、実際に、激しくなる揺れと共に、黒い粘体が霰の様に降り
        注いで落ちる。
         もはや、ただの黒い塊となってパチャリ、とドボン、と。次々に落
        ちて来て。豪雨というより石つぶてである)
      • …お約束。
        …祀る神を失い、祭司を行う者を失い、捧げる祈りも途絶えたとなれば
        神殿は朽ちてゆくのが道理というものです。 -- アオイ
      • (フリルの付いた傘で落下する粘体を弾き返し、アオイは余裕そうである。
         なにその傘、強い)。
      • にゃー!私も傘に入れて…アトイちゃんのお姉ちゃん?妹? -- ロワナ
      • (ぼたりぼたりと落下してくる黒い塊、落下の衝撃は衝撃となり
        黒き大樹の神殿の崩壊を加速させる。
        そんな中、飛び込む様にしながらアオイの傘へと入るロワナだが
        アトイと似た気配なれど、初めて見る顔に小さく首を傾げてしまう)
      • くあっ…これじゃアトイさんに近付けない…… -- クレハ
      • アトイなら勝手になんとかするじゃろう、これもお仕置きじゃ -- 長老
      • (崩壊の衝撃に翻弄され動く事もままならないクレハ
        そんな中で長老は苦も無く歩いていくるとクレハの側でバサっと古びた唐傘を広げた)。。
      • …私はアトイのヤツの妹みたいなもんですが。
        …それはまた後で……。 -- アオイ
      • うわっわ!?足元も溶けてきた!? -- アミ
      • (粘体から形成されていた、黒き巨樹そのものが崩れようとしている。
         アオイの傘の下に逃げ込みながら、アミは、地面から慌てて片足を
        上げた。
         今立っている場所すらも、形を失おうとしている)
      • ネオン、あっちまで一気に走り抜けるぞ。 -- 宗右衛門
      • (かろうじて形を保っている、内海中央の大木の根本に身を潜めながら
        宗右衛門は、ネオンへ手を差し伸ばす。
         しかし、ネオンは手を取らずに)
      • ネオン? -- 宗右衛門
      • 先に行って。私が何とかする。 -- ネオン
      • (ネオンは、そう言って拾い上げたハンカチの包を解いた。
         明滅する乳白色の水晶を伸ばした両手の中に抱え上げて……)
      • ネオン! -- 宗右衛門
      • (水晶は、ネオンの胸の中へ、静かに沈む。
         ネオンの背から、黒い根が生えた。
         たった一粒の種から、無尽蔵に芽が吹き出すような歪な勢いで。
         その身体の何百倍にも達する体積が、際限なく膨れ上がっていく)
      • ふっ……くぅ!……ッ!さあ早く!行って! -- ネオン
      • (根の先端が、海面に、白い大樹の壁面に突き刺さると、落下してくる
        粘体の数が減り、揺れが収まり始め)。
      • …ネオンちゃん?…あ…… -- ロワナ
      • (大樹を支えるネオンの姿に日記で読んだ炎に包まれたあの姿が重なる
        時を経てネオンは宗右衛門と理解し合う事が出来たが
        もし今このままネオンを置いて行ったら今度は……
        そんな事を想い戸惑うロワナの手を握る者があった、妹の…アミの手だ
        そう姉妹は同じ事を思い考えたのだ)
      • ダメなの!私達も手伝うの! -- ロワナ
      • (悲しい思い出はもういらない、みな笑顔で帰りたい
        姉妹は頷き合うと傘から飛び出しネオンの元へと駆けて行く)。。
      • な!?何してるのよ!あなた達!早く逃げなさいよ!
        私だって、いつまで持つか……。 -- ネオン
      • 絶対一緒じゃなきゃ嫌!もう、置き去りになんてさせないの! -- アミ
      • (根を張り、動けなくなったネオンを左右から支えるように、二人は
        寄り添う)
      • 聞き分けの無い!ちょっと宗右衛門!見てないでこの子達を連れて行
        きなさい!死んじゃうわよ!? -- ネオン
      • (睨むように、ネオンは言ったが。
         宗右衛門もやはり立ち去ろうとはせずに)
      • 何よ、もう……!
        私は、とっくに死んでるからいいの!それに、元々私が……。
        だから……せめて、あなた達を、姉様の大切なものを……。 -- ネオン
      • 今更、詫びなんて無しだ。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、ただ、そう言った。
         穏やかに頷く祖父に、アミとロワナも笑顔で頷いて。
         ネオンは、涙で言葉を詰まらせ)
      • …あー、じゃあちょっとそのまま頑張っててもらえますかー?
        すぐ逃げますんで。 -- アオイ
      • (その様子を見ていたアオイが、まるで他人事のように)。
      • うにゃ…!? -- ロワナ
      • アオイさん…!? 急に何を言い出すの…!? -- クレハ
      • (シリアスな空気を叩き壊す様にアオイの発言に唖然とする一同
        先の水を差したアトイと言い、この二人まさに姉妹であった)。。
      • …だって、頑張ってるのを無駄にしては、可哀想でしょう? -- アオイ
      • (アオイは、口の端だけ釣り上げる意地悪な笑みを浮かべて、傘を閉
        じた。
         前触れもなく、けたたましい工事の騒音響く。
         大樹の崩壊が再び始まったのとか思わせたが、そうではなく。
         並行して並ぶ鉄錆たレールが、遥か後方より伸びて、中央の島近く
        まで壮大なスロープをあっという間に竣工させて)
      • …あなた達が動かないと、クレハさんも逃げてくれないので。 -- アオイ
      • (鉄道のスロープは、クレハ達が大樹の内海へ放り出された小さな穴へと
        つながっていて。
         そこから、幹の壁を、突き破り!アオイの潜水艦が突入した!
         黒い粘体を跳ね飛ばし、火花を散らしてまっすぐに滑り下りてくる)
      • ……う、むむ……。あれ、なんですかここ……。
        ……うぉわぁあ!? -- アトイ
      • (金属の擦れる大騒音に目を覚ましたアトイが、うつ伏せで漂ってい
        た状態から仰向けになると、目の前いっぱいに迫り来るひしゃげた鋼
        鉄の構造物が……。
         盛大な水飛沫をあげて、着水した潜水艦は、すぐに浮上航行に移る。
         アトイは、再びうつ伏せでぷかり……、と浮かんだ)。
      • わっわわ…? -- ロワナ
      • (潜水艦が着水する衝撃と飛沫にびしょ濡れになりながら
        驚き跳ねるロワナとアミ、その横ではネオンだけでなく宗右衛門も唖然としている)
      • あれは潜水艦…あ゛…アトイさーん…!? -- クレハ
      • (連続して起こる状況の変化に驚きの声をあげ唖然とするクレハ
        もはや何をどこから突っ込めば良いのか思考が追いつかない)
      • さてさて、こんな所でのたくたしているのも危険じゃし…ワシは行くぞ
        あーアトイも拾わねばならんか…まったくのぉ
        -- 長老
      • (そんなクレハを横目に長老はてくてくと潜水艦へと歩いて行く
        ついでと言う風に長老が呟くと
        水面から水の触手がひょいと伸びあがり、アトイとミニドラを拾い上げ潜水艦へと放り込んだ)。。
      • …さ、クレハさんも、皆さんも早く。 -- アオイ
      • (ついでみたくアトイに嫌がらせも果たしたアオイは、今度は満面の
        笑みで振り返る。
         艦首は引きちぎられたようになって、船体は穴が開き、金属板を無
        理やり引き剥がしたような箇所すらあるが、それでもまだ機能はして
        いるし、今この潜水艦の他に選択肢は無い)
      • ……いくわ! -- ネオン
      • (ネオンがそう言うと、長く伸びていた背中の木の根が、途中から切
        れて。アミやロワナ、そして宗右衛門を包むように根が掴んだ)
      • ま、待って!ハウンドちゃんも! -- アミ
      • (縛り上げられたハウンドは、打ち捨てられたまま気を失っている)
      • お願い! -- アミ
      • お願いなの! -- ロワナ
      • (躊躇するネオンに、アミとロワナは二人で声を揃えた)
      • ッもう!しょうがないっ……わね! -- ネオン
      • (ネオンの黒い根が、ハウンドを引っ掛けると、4人分の重みに足元がぐ
        らついた)。
      • ネオン!俺は大丈夫だ!二人と、お前は先に……。 -- 宗右衛門
      • (再び始まった巨樹の崩壊は、さっきよりも激しく。
         黒い粘体が、中央の島に立つネオンの足元までせり上がってきた。
         雲の遥か上まで突き抜けた巨大な樹が溶けようとしているのだ。
         幹の内側の世界では、降り落ちていた粘体の塊は、ついに滝となっ
        て流れだし。
         黒い粘体は、逆巻く波のごとくうねり、渦巻く。
         巨樹の白い輝きは徐々に失われ。夜の、嵐の海の様相を呈する)
      • あなたじゃ大丈夫なわけないでしょう!
        この根っこは大嫌いだけど!こんな時くらい!役に立ちなさいっての! -- ネオン
      • (背から新たに生えた根が、粘体の海に突き立つ。それをアンカーと
        して身体を支え、潜水艦の甲板上へ宗右衛門達を放り上げた!)
      • よし、私も……あっ!? -- ネオン
      • (すでに、粘体は、腰のところまで水位を増していた。
         渦巻く流れにネオンは、足をとられ、押し流される。
         とっさに、根を伸ばして、潜水艦にひっかけようとする。
         極端に突起の少ない潜水艦の船体の上に、投げ出された根が、ずる
        ずる、と滑り落ちていく。
         掴まる場所が無い)
      • ちょっ……なんで、力が……ッ!? -- ネオン
      • (今まで、さんざん暴れまわった根が、急に萎びくたくた、となって
        いくではないか。
         黒い粘体に浸かったせいか、おそらくそうであろう。
         根も、粘体も同じモノだから、溶けあってしまって不思議は無い。
         道理は通っている、が)
      • 冗談じゃないわ!あと、少しなのに! -- ネオン
      • (今は、そんな道理など1つも有りがたくないのだ。
         それが正しくても、納得などしてたまるものか)
      • ネオン! -- 宗右衛門
      • (流されるネオンの身体が、ガクンッと止まった。
         甲板の上で、宗右衛門が黒い根を両手で掴んで踏みとどまったのだ!
         右腕は、傷つきうごかないはずなのに。
         彼の後ろで、アミもロワナも根を掴み、さらにクレハまで並んでネオ
        ンを引っ張り上げようとしている)
      • 宗右衛門!? -- ネオン
      • (粘体の中に、沈みかけていたネオンが、肩まで引き上げられ)
      • 釣り上げんなら、俺でもやれる! -- 宗右衛門
      • 私もがんばるー!。 -- アミ
      • 私もやるのー! -- ロワナ
      • (姉妹が気合いの言葉と共にぐっと力を込めて根を引けば
        ネオンの身体は胸まで引き上げられ)
      • んー…まさかこんな風にコレを引っ張る事になるなんてね…っと…! -- クレハ
      • (コレ…黒き根
        ここに到達するまでに嫌という程に阻まれ邪魔されそして殺されそうになった存在
        それを今は操り手を救うために引っ張っている、なんとも愉快な話だ
        だがクレハは思う、こんな展開も悪くないと、むしろこうあるべきと
        そんな事を思いながら腕に力を込めればネオンの身体はさらに腰まで引き上げられ)
      • おーし!後一息じゃぞー! -- 長老
      • (ネオンを引っ張り上げようとしている四人の後ろでやんややんやと応援する長老であった)。。
      • あなたたち……ッ!あと少し……少しだけ、だから! -- ネオン
      • (綱引きのごとく、ネオンを攫おうとする粘体の波と引き合い。
         潜水艦の近くまで引いた時に、細くなった根が、ついに千切れた。
         だが、ネオンの身体は引き上げられ)
      • ああ、そういや昔、あいつもこうやって釣り上げた事があったな……。 -- 宗右衛門
      • (ネオンの手を掴んで、宗右衛門は、安堵したように言う。
         彼の身体を掴んで、アミとロワナ、それにクレハも支えていた)
      • …全員乗艦しましたね。後はお任せを、さあ早く中へ。 -- アオイ
      • (潜水艦の艦橋から、頭を出したアオイに促されて。全員艦内へと転
        がり込む。
         閉められたハッチの上を、粘体の波が被り)
      • …潜行開始! -- アオイ
      • (号令と共に、潜水艦は、荒れ狂う粘体の海の中へ姿を消した。
         誰も居なくなった大樹の内海は、大木の倒れる軋みを響かせ、漆黒に
        閉ざされた……)。

猟犬と…… Edit




    • (静かに凪いだ海が、まだ水平線の下にある太陽の明かりに染まって
      いた。
       夕焼けの様に赤い、けれども、確かに夜が明けた光である。
       東の空に浮かぶ雲は、眠りから覚めるように鮮やかな色へと変わろ
      うとしている。
       海面に、黒いクジラのような影があった。
       浮上した潜水艦だ)

    • しくしく……。 -- アトイ
      • (足元の近い場所で波が揺れ、爽やかな朝風の吹き抜ける甲板の上で、
        縮こまって、さめざめと泣く奴がおる。
         アトイであった)。
      • もう…… -- クレハ
      • (アトイの頭を撫でながら、クレハはずっとため息と同じ言葉を繰り返す
        なんと励ませば良いのかわからない、今回の一件はこれまでとは全く異なるから)
      • クレハちゃんさっきからモーしか言ってないの……。。 -- ロワナ
      • だって、だって……私がクレハさんを潰し掛けてたなんて。
        うわーん!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃーッッッ! -- アトイ
      • もー!ほんとだよー!私達も、アトイちゃんにポカポカやられてすっご
        い痛かったし怖かったんだからねー! -- アミ
      • (クレハに泣きつくアトイに、アミはむぅーっと膨れて怒った。
         そして、お返しとばかりにアトイをポカポカ、と小突く)
      • …そうそう、悪いお姉さまには、お仕置きですよね。 -- アオイ
      • (ベチッビシッ)。
      • ん…でも、アトイさんも悪気あった訳ではないし…… -- クレハ
      • クレハちゃんも少しは怒った方がいいと思うのー -- ロワナ
      • (アトイを甘やかすクレハに、ロワナはむぅっと頬を膨らませる)
      • ちみっこ達の言う通りじゃ、甘やかすばかりが愛ではないぞ? -- 長老
      • (場から少し離れた所に敷物を敷き座していた長老が口を開いた
        手にはどこから取り出したのか湯呑が)。。
      • 今回ばっかりは、はい……。 -- アトイ
      • (うなだれ、小さくなるアトイ。
         ベチッビシッと音がする)
      • …愛の鞭ですよね。そうそう……。 -- アオイ
      • はい……って痛ッ!痛い!なんですかさっきからこのベチベチ言って
        るのは!?
        ってお前かぁ!アオイィ……!久々に出てきたと思ったら。
        砲撃するわ、雷撃するわ、潜水艦で轢くわ、ミサイル撃ちこむわ……。
        しかも、さり気なく核弾頭混ぜて……に゛ゃ゛んっ!? -- アトイ
      • (鼻の頭に、エアガンの弾が、ベチッと当たった。
         赤くなった鼻を抑えて、アトイが恨めしげにアオイを睨む)
      • …私が止めてあげたのですよ?お姉さま……おやぁ?また鱗が生えて
        来てませんかぁ? -- アオイ
      • ぐぬっ……ぐっ……。 -- アトイ
      • (口の端だけ釣り上げる、意地の悪い笑みを見せるアオイに、アトイは
        ぐぬった。小さくなったドラゴンも一緒に)。
      • 愛の鞭なら!私はクレハさんに受けますので!
        クレハさん!愚かな私に、どうか罰を……! -- アトイ
      • (後ろでまだアオイがしつこくエアガンを撃っているが、アトイは無視し
        てクレハの方へ両腕を広げ)。
      • え…? ええーっ…!? 愛の鞭って…… -- クレハ
      • (十字教の聖者の如く両腕を広げ罰を懇願するアトイ
        どうしたものかと周囲の者達を見渡せば……)
      • うむ、どーんっと一発行くが良い -- 長老
      • そうなの、クレハちゃんも色々大変だったの!
        悪い子はちゃんと怒ってあげないといけないの、ねー? -- ロワナ
      • うーん…確かに…確かに大変だったけど……けど…… -- クレハ
      • (アミとロワナが頷き合う。しっかりと躾けられて来たのだろう
        一方のクレハは悩みながら、夕方から今に至るまで出来事を思い返していた)。。
      • クレハさん……今回の事は、朧げながら、私も覚えているのですよ。 -- アトイ
      • (急に、アトイは声のトーンを落として……)
      • 以前に、ララリウムの祭壇に囚われた時も……私は手も足もだせずに、
        今回もこの様なのです……。
         クレハさんは、とても優しいのです。
         でも、不甲斐ない私に、少しくらい怒っていいと思うので……。
         ……思うので、さあ!さあ!
      • (なんか良いこと言ったと思ったら、すごく期待に満ちた顔でキラキラ
        としながらクレハを見上げていなさる)。
      • アトイさん……
        うん、そうよね…怒らないのもアトイさんのためには…アトイさん…? -- クレハ
      • (キラキラとしたアトイを見るうち、脳裏に様々な事が巡り思い出されてくる
        夕暮れを過ぎ暗くなっても戻らないアトイ。帰ってもどこかそっけないアトイ
        巨大ドラゴンと共に荒らぶるアトイ、さらに超高熱のドラゴンブレス
        さらに全て解決してなお暴れるアトイ…そんな事を思い返せば徐々に怒りゲージが溜まって行き……)
      • カッ
      • (アトイは一瞬カットイン的な映像を見た気がした
        直後、迫るクレハの拳。あれあれ?何やら光を纏っていますよ?)
      • ごっふぅ!? -- アトイ
      • (アトイの身体は、横っ飛びにすっ飛び、飛び散った汁が陽光にキラ
        キラ、と輝いた)
      • おおー……。 -- アミ
      • (打撃の風圧で、アミとロワナの長い髪が、ふわり、となびき。
         アトイは、海へ落ちて小さな水柱を上げた)
      • ……おじいちゃんも、おしおきする? -- ロワナ
      • いや、なんか……バカらしくなった。 -- 宗右衛門
      • (ロワナが、横の宗右衛門を見上げながらいうと、彼はため息をつきながら、周囲へ視線を巡らせ)
      • それよか、ネオンの姿が、見えねぇんだが……。。 -- 宗右衛門
      • …はっ…? ああ、私ったら…つい……
        え? ネオンさんならそこに…… -- クレハ
      • (伸ばしきった拳を維持していたクレハだが
        拳の光が空に散ると同時に我に返り、顔を朱にし両手で頬を押さえた
        しかし宗右衛門の奇妙な言葉を聞けば首を傾げ、ネオンを指差した)。。
      • ちゃんと居るよー? -- アミ
      • (アミも、首をかしげる。
         今まで黙って何も言わないが、確かにネオンは、皆のすぐ傍に佇んで
        いるのだ)
      • ……私の身体は、もう無いから。
         しかたないのよ。 -- ネオン
      • (悲しげに、ネオンはつぶやいた。
         黒い着物の振袖が、朝日に透けて。半透明になって揺れる。
         きっとその声も、もう宗右衛門には届いていないのだが)
      • 無事か? -- 宗右衛門
      • (誰を見るとも無く、宗右衛門は言って。
         アミとロワナが、それに、うん、と答えると)
      • そうか……。よかった。 -- 宗右衛門
      • (そう言って微笑んだ彼の顔が、ネオンを見ていたのは、ただの偶然
        かもしれない。
         けれど、ネオンは)
      • ……ありがとう。 -- ネオン
      • (少し、嬉しそうな顔で、そうつぶやいた)。
      • うん、ネオンちゃん笑ってるの -- ロワナ
      • (ネオンの顔を見、宗右衛門の顔を見上げるとロワナはふわりと笑って見せた)。。
      • えっへへ。 -- アミ
      • (アミも釣られて笑って)。
      • アミちゃんとロワナちゃんって本当に不思議な子達ね…ふふっ…… -- クレハ
      • (姿は見えずとも心は通じ合える……
        そんな事を思うとクレハの顔も自然と笑顔になって)。。
      • うむ、良き哉良き哉、これだから人間は面白い…かっかっか -- 長老
      • 長老…? -- クレハ
      • (やおら立ち上がれば、これ愉快と破顔一笑
        そしてかつかつとクレハの隣まで歩いてくればまた呟く)
      • 神にも竜にも出来ぬ事をちみっこ…ロワナとアミはたやすくやってのけた
        ワシらもまだまだ多くを人から学ばねばならんのぉ
        さて…あの者はどうするのじゃ?ハウンドとか言ったかのぉ?
        -- 長老
      • はぁ…アトイさんは特にね……あ…… -- クレハ
      • (長老の言葉にクレハはアトイの落ちた海を見て大きくため息する
        しかし、続く言葉に…ハウンドの名が出れば思い出した様にはっとなる
        それはクレハだけではく、この場にいる一同がだ)。。
      • (ジャラッ、と鎖が鳴った。一端はアオイが握って、その先に拘束されたハウンドの姿がある)
      • うぉ!?そこに居たのか!? -- 宗右衛門
      • (艦橋の影に立っていたハウンドを見て、宗右衛門が驚く)
      • …最初から居た。
        …気をつけて、気配とか姿を隠すのが上手いようなので。それに、まだ
        何か企んでいるようですしね。虎は執念深いと言います。 -- アオイ
      • ぶはぁ、あ、何ですかそいつも持ってきたんですか。 -- アトイ
      • (甲板によじ登ったアトイが、頭に海藻を乗っけたまま、露骨に嫌そ
        うな顔でハウンドを睨む。
         ミニドラは、魚を咥えていた)
      • ちょうどいい、アオイ、潜水艦をこのまま沖に回してください。
        重りつけて海溝に沈めてやりましょう。。 -- アトイ
      • そんなのダメなのー! -- ロワナ
      • ダメー! -- アミ
      • (アトイが言うな否や、アミとロワナが叫びながらアトイとハウンドの間に飛び込んで来た
        姉妹は両手を広げ頬を膨らませると、アトイをじっと睨む様に見上げ)
      • …あ、アトイさん…これはどうしたものかしらね…? -- クレハ
      • (肩を竦めれば困った様な瞳でよじ登って来たアトイの方を見る
        確かにハウンドと呼ばれる少女には言いたい事も多くあり
        なんらかの処理をしなければ、先に続くであろう憂いを残す事にもなり
        しかし、クレハもまた殺生と言う形での解決は望むところではなくて……)。。
      • わかってます、わーってますって。
        今回は、私も、至らない事だらけでしたので……。
        殺しはしませんよ、絶対に死なないようにしてですね。ちょっと頭を冷
        やしておいてもらおうかと……半永久的に。 -- アトイ
      • 余計ダメなのー! -- アミ
      • (アミにポカポカされた)
      • …私は、何でもいいですよ。クレハさんさえ無事なら……。
        …ただ、普通に警察に突き出してってわけには行かないでしょうね。
        …今は、私や姉様、それに長老様がいるから大人しくしているだけで
        しょう? -- アオイ
      • (薄く、意地悪く笑いながら、アオイがハウンドを横目に見る。
         黄金色の獣の瞳は、力を失っていない。片目は赤く充血している。
         薄く、牙の並んだ口を開き)
      • 殺せ。私を止めるにはそれしか無いぞ。 -- ハウンド
      • (噛み付くような笑みで、言った)。
      • ハウンドちゃんもそんな事言ったらダメなのー! -- ロワナ
      • (ロワナはハウンドをポカポカとしながら半泣きとなり)
      • ロワナちゃん……
        本当に困ったわ…アオイさんの言う通りでもあるのよね……
        仮に力を封じたとしても解決にはならないだろうし…… -- クレハ
      • (今回の一件はクレハが初めて経験する類の物
        迷宮で怪物を倒すのは違う、人と人との関わりがもたらした因縁
        この一件を解決するにはその因縁を絶たねばならない
        しかし、クレハにはその方法が思いつかず……)
      • あのねあのね……
        ハウンドちゃんはアルフリーダさんが居なくなっていっぱい悲しいの…… -- ロワナ
      • (皆が行き詰まる中、ロワナが半泣きのままぽつりと呟いた
        根の大樹にて、ハウンドに人質として囚われた時に交わした言葉
        ハウンドを救うにはあの時の言葉を解決せねばと思ったから)。。
      • そんな奴触ってると、また噛まれますよ。 -- アトイ
      • (ハウンドを縛る、鎖を叩くロワナ。
         その手をアトイは、引いてハウンドから引き離して、軽く宗右衛門の
        方へ押しやり……。
         アトイとハウンドの視線が交わり合い、睨み合った。
         視線を外したアトイを、今度は宗右衛門が見ていて)
      • ……ふむ。 -- アトイ
      • (小さく唸って、アトイは少し困ったように見つめ返してから)
      • 少し、本当の所をいうと……。
        今更ですが、私は人間じゃありません。半分はドラゴンで、もう半分は
        何か不思議な生き物で……。 -- アトイ
      • …手短に言えば、人よりは神様とかの方の存在ですよ。
        …ちなみに私がアトイの不思議な生き物分担当。 -- アオイ
      • (ニヤッとしながらアオイが、言葉をつなげると、アトイもさらに続
        けて言った)
      • このハウンドと、アルフリーダって奴は、1年程前に私達を襲って来たの
        ですよ。。 -- アトイ
      • …あ…私も今更だけど人魚の血を引いているわ…… -- クレハ
      • 知ってるの、クレハちゃんママが人魚さんだもんね -- ロワナ
      • ええ、そうよ…… -- クレハ
      • (アトイとアオイが自身について語れば、クレハもまた語り始める
        既に事情を知っていたアミとロワナはこくこく頷き落ちついた態度を見せているが
        意外なのは宗右衛門だ、驚く事無く黙したままで耳を傾けている
        ここまでの異常事態で感覚が麻痺したのか慣れてしまったのか……)
      • でも、なんで襲われたの?アトイちゃんが竜だからやっつけに来たの? -- ロワナ
      • うん…この二人はなんて言うか……
        そうね…とある組織の一員で、神様の力を手に入れるのが目的なの…… -- クレハ
      • 神様の力を?。。 -- ロワナ
      • 神様かぁ……。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、ちらりと長老の方を見た。
         ヴァイアと名乗った少女は、少し離れた場所で、相変わらずのんび
        りとしている)。
      • む、なんぞ?ワシに惚れたか? -- 長老
      • (宗右衛門の視線に気づくと、長老は啜っていた湯呑から口を離しニッと笑って見せる
        そして続く言葉に宗右衛門は頭痛の様なものを感じ、自分のこめかみを指でぐりぐりとした
        しかし、この見た目にそぐわぬ物言いに飄々とした立居振舞いは確かに神様なのかもしれない)。。
      • 聞いては居たが、本当に居るもんなんだな……。 -- 宗右衛門
      • はい……。ただこの辺りは、そういうモノとはあまり縁が無いし。
        追々説明して行こうと思っていたのですが。その……私の力は危険な面
        もあるので……。 -- アトイ
      • (アトイが、申し訳無さそうに言うと。宗右衛門は)
      • いきなり自分が神様だなんて言う奴が居たら、変に思うだろうしな。
        いつも世話になってるし、別に俺ぁ構わねぇよ。
        クレハ嬢ちゃん達のおかげでアミもロワナも無事だったしな。 -- 宗右衛門
      • (それだけ言って、特に詮索するでも恐れるでもない宗右衛門に。
         アトイは、少し照れたように笑った)
      • だが、それは人とは相容れない力だ。
        救われる者とそうでない者を、人の意志と関係なく気まぐれで裁定す
        るのが、こいつらだ。 -- ハウンド
      • (ハウンドが、噛み付くような笑みのまま言葉を挟むと。アトイは再び
        睨み)
      • 何度も言いますが!最初にちょっかい出してきたのあんたですからね! -- アトイ
      • …やっぱこいつ沈めようぜお姉さま。自業自得……。 -- アオイ
      • (そういうアトイ達に、アミとロワナから抗議の視線が刺さる。
         だが、それを制したのはハウンドで)
      • やれよ、私は生きている限り、何度でもお前の命を狙う。 -- ハウンド
      • もう!待ってってば!どうして!?
        ハウンドちゃんはどうしてそんな……。 -- アミ
      • (挑発し続けるハウンドの前にアミが割って入り、じっと見つめる)
      • ……祭壇を失った私は、もう組織には戻れない。
        アルフリーダの復讐を果たす以外、もう何も残っちゃいないんだ!
        だから、ただ一言でも……嘘だとしても、そいつには屈しない。
         それに、どうせ生かして返すつもりも無いんだろう。
        やれよ、アルフリーダと同じように殺せ。 -- ハウンド
      • さっきから聞いてれば。ちょっとやめてくださいよね。アミロワちゃん
        達が、勘違いするでしょう。
        あいつなら、ちゃんと生きてますよ。 -- アトイ
      • 嘘を言うな!
        ……どうやら、本当に自分の本性を、このガキ共に晒すのが怖い
        みたいだな。
        笑わせる。
        不都合なものを容赦なく裁定して見せろ、それがお前たちだろう。 -- ハウンド
      • (牙を剥き出し、ハウンドが吠えるように言った。
         神に救われなかった者の怒りであり、神の敷いた理不尽な世界に、
        身一つで挑んだ人としての矜持でもあった)
      • 何もできないから、今度は嫌がらせですかこいつは!
        あーもう、頭来ました!いいでしょう!やってやりますよ!
        お前もあの女と同じように、絶対死ねないようにして、死ぬより痛い目
        合わせてやりますよ!
        オラッ!遺言あるなら今のうちだ!ですよ! -- アトイ
      • (ゴゥ、と甲板の上を突風が吹いた。
        アトイは、赤い鱗に覆われた半人半竜の姿へ変わり。
        鉤爪の手でハウンドの胸ぐらを掴みあげた!)。
      • ああ、もう!だからアトイさん落ちついて、話が余計に拗れ…あ…… -- クレハ
      • アトイちゃん! 暴力は、めっなの! -- ロワナ
      • (たやすくハウンドの挑発に乗ってしまうアトイにクレハは眩暈の様な物を感じ
        嗜めようとするが
        それよりも先にロワナが飛び上がり、アトイの頭をぽこりと叩いた)。。
      • おぅ!? -- アトイ
      • (大してダメージもあろうはずが無いが。アトイはするする、と元の
        着物を来た子供の姿へと戻った。
         ついさっきまで、アミとロワナには迷惑かけまくっていたので、あ
        まり強く出れない)。
      • かっかっか、アトイよ直ぐに激昂するのは未熟な証拠ぞ?
        ちみっこ達の方ができておるのぉ
        -- 長老
      • うん、今はちゃんとお話をしないといけないの! -- ロワナ
      • (アトイを睨みむぅっと頬を膨らませるロワナを見れば
        長老はこれ愉快と大きく笑って見せる)
      • ふぅ…ロワナちゃんの言う通りよ……
        でも、わかるでしょう? アトイさんって、まだまだ子供なの…… -- クレハ
      • (クレハは、アトイを抱き寄せれば、その頭をぐりぐりとしながら
        ハウンドへと視線をやり語り始める)
      • この大地を焼きつくすほどの力をもっているのに、笑っちゃうわよね……
        だからこそ、嘘はつかないわ、まぁ…たまに隠しごとはしたわね…?
        それもヘタなんだけど…ふふっ -- クレハ
      • (そこまで言うとアトイの方へと視線を戻しふわりと笑みを見せる
        昨日の夕刻、家に戻ってからの事だ、それに家を建てる時に隠しごとあったこと……
        そして目を閉じると、これまでのアトイとのやりとりとを思い出す
        そうアトイは常にクレハとの約束を守ってきた。純粋なほど真っすぐに……)。。
      • ……私は、ただ、大切なものを守りたいだけです。
        力を好き勝手に振るう事など、望みではないので……。
        あいつらとは、違うのです、だから許せないんです。 -- アトイ
      • (まだ納得の行かないアトイは、不満気な声をだした。
         クレハに抱かれたままなので、拗ねてる子供みたいである)
      • え、と……。アルフリーダさんは、まだ生きてるんだよね?
        それなら、ハウンドちゃんも、もう戦わないでいいと思うんだけど。 -- アミ
      • (死ぬより痛い目に合にあっていると聞いた気もしたが。
        それは置いといて……。
         たしかに、アトイは生きていると言ったのだ。
         だから、アミは、ハウンドへ向き直って、今一度見つめた。
         ハウンドは、アオイに鎖を引かれ、今にも飛びかかろうとしている。
         低い、唸りが聞こえる)
      • ふざけるな!ならば何故アルフリーダは帰って来なかった!
        私は……何日も何日も掘り続けたんだ。埋められたと聞いたから……。
        だが、どれだけ探しても……死体も見つけられずに……。
        生きているなら!どうして!
        アルフリーダが……ララリウムを、私を!見捨てるはずがない! -- ハウンド
      • んなもん、私が生き埋めにして、出てこれないようにしたからに決ま
        ってるでしょう。
        私がそうと決めたんだから、簡単に破られるものですか。 -- アトイ
      • (ギリギリ、と歯を噛み鳴らすハウンドに。クレハにひっついたまま
        意地悪く、アトイが言った)
      • …ですよねー。 -- アオイ
      • (アオイもにやりとしつつ頷き)
      • この世から消し去ったからだろう!お前が!。 -- ハウンド
      • ハウンドちゃんはアルフリーダさんのためにがんばったんだね…… -- ロワナ
      • (アルフリーダを捜し求め、掘り続けるハウンドの姿を想像すると
        悲しいでは収まらない、収まりきらないもっと苦しい物を感じ
        ロワナの瞳からは自然と涙が溢れだし
        荒らぶるハウンドを恐れる事無くぎゅっと抱きしめた)
      • ロワナちゃん……
        もう、アトイさん!アオイさんも! -- クレハ
      • (ロワナの涙を見れば、言い過ぎとアトイの首をぐりぐりと締め
        にやりとしたアオイももう片方の腕でぐりぐり締める)
      • …あ…でもさ、アトイちゃんが決めたのなら
        アトイちゃんが出て来いって決めれば、アルフリーダさん出てこれるんだよね? -- ロワナ
      • え?そうね…そう言う事になるわね…そうよね…? -- クレハ
      • (ロワナははっとした様に顔を上げると、クレハ達の方へと振り返り尋ねる
        その問いかけに対し、クレハはアトイとアオイの首を締めたままアトイに問い尋ねる)。。
      • うっぐえ……ま、まぁ、そうなりますが……。
        クレハさん、ちょっと苦し……。 -- アトイ
      • …これは、これで……。 -- アオイ
      • (圧迫されるアトイと、アオイである)
      • 騙されるものか!アルフリーダの死すら、私から奪おうと言うのか!
        龍神!!! -- ハウンド
      • (ハウンドが、吠える。
         すると、不意に宗右衛門が)
      • じゃあよ。アミ、ロワナ、手をつないでやりゃぁ、いいんじゃねぇか。 -- 宗右衛門
      • (そう言った)
      • え?……あっ! -- アミ
      • (何の事か、一瞬不思議そうな顔をしたアミは、はっ、と気づいた)
      • あ、あれ、おじいちゃん知ってたの? -- アミ
      • 昔な、ネオンとレインにもやって貰った事があるしよ。
         だから、婆ちゃん達と同じ力、あるんだろ? -- 宗右衛門
      • (宗右衛門の後ろで、ネオンが、そう言えばそんな事あったわね、と
        頷いている)
      • 内緒にしてたのに……。 -- アミ
      • 一緒に暮らしてんだ、見てりゃ分かる。 -- 宗右衛門
      • 何の話しをしている……! -- ハウンド
      • (ハウンドは、なおも牙を剥き出し、荒ぶっていたが)
      • お前さんにゃ、色々言いたいことぁあるがな。
        うちの孫が、どうしても助けたいらしい。。 -- 宗右衛門
      • おじいちゃん、ありがとうなの
        ハウンドちゃん…私達を信じてほしいの! -- ロワナ
      • (アトイが嘘をついてない事。アルフリーダが本当に生きていると言う事
        それをハウンドが信じればハウンドを真に救う事が出来る
        そのための力をアミとロワナは持っている
        だからロワナはハウンドをじっと見つめ訴えかける
        まだ涙で濡れたままの瞳。その瞳はどこまでもまっすぐで曇りは無く)
      • …? アミちゃん、ロワナちゃん…それにお祖父さん…? -- クレハ
      • (一方で、わけがわからぬまま唖然としているクレハ
        だがわかる事がある、場の空気が変わった
        アミとロワナを中心として空気が変わっている)。。
      • 言葉だけじゃ分からない事、いっぱいあるの……。
        アトイちゃんが、間違った事してるって、私達は思わないし。
        ハウンドちゃんが、悪い人だとも、思えないの。
        だから、もう少しだけ……分かって欲しくて。 -- アミ
      • (アミは、クレハの左手を右手で握って。
         ロワナは、右手を左手で握った)
      • アオイちゃん、お願い。
        鎖を解いて。 -- アミ
      • …いいのですか? -- アオイ
      • お願いなの…! -- ロワナ
      • いいわ…アミちゃんとロワナちゃんを信じましょう…… -- クレハ
      • (姉妹からの願いの言葉にアオイの眉が微妙に寄った
        クレハ以外に対し無関心を示すアオイも
        未だ暴れる兆候を見せ続けるハウンドを解放する事には抵抗がある様で
        そんなアオイに許可の言葉を投げたのはクレハだ)
      • 正直言って、私にも迷いはあるわ……
        でも、ハウンドを信じるアミちゃんとロワナちゃんの言葉を信じてみたいの……
        二人ならなんとか出来るんじゃないかって…… -- クレハ
      • (そう言うとクレハはアミとロワナに笑みを送り
        そしてその笑みのままハウンドを見つめた)。。
      • 何のマネだ。 -- ハウンド
      • (重たい鎖が、じゃらり、とハウンドの足元に落ちる)
      • 手をつないでると、色々な事が分かるんだよ。
        思ってる事とか、感じてる事とか……。
        私達、そういう事ができるんだ。 -- アミ
      • (その力の根源は、この村の地下深くに眠る悍ましき黒い粘体へ、祈り
        を捧げるため。狂気に取り憑かれた一族が、人為的に作り上げてきた
        ものであった。
         ネオンはその犠牲となって死に。残された祖母レインは、日記という
        形で、後悔と祈りを残した。
         彼女らと同じ力が、孫のアミとロワナにも受け継がれて。
         だけど今はもう、この力を、2人とも恐れてはいなかった)。
      • だから、ハウンドちゃんも感じてほしいの
        私達を通じて…クレハちゃんやアトイちゃんが嘘をついていない事を -- ロワナ
      • (今の姉妹にはわかる
        どんな力も表と裏がある、それを決めるのは自分達の心
        ならば絶望を希望に変える事も出来る
        確信と希望に満ちた瞳をもって
        アミとロワナはそれぞれの片手をハウンドへと差し出す)。。
      • 選べ、と言うのか。 -- ハウンド
      • (鎖は解かれた。
         アトイは、クレハ達を守るように睨んでいるが。
         ハウンドの全力を持って脱走を図るのは不可能ではない。
         無理やりに手を掴むのではなく。姉妹は、ハウンドに手を差し伸べているだけで)
      • ……。 -- ハウンド
      • (しばし、沈黙があった。
         差し出された手を、ハウンドは、じっと見つめて……。
         躊躇うように、傷ついた指先が触れた時、小さな左手と右手が、包
        むように握りしめる)
      • ね?嘘じゃなかったでしょ? -- アミ
      • (アミが、微笑んで言うと。
         ハウンドは、その場に立ちすくみ、そして膝を屈した。
         その黄金色の瞳は、もう獣ではなかった)。
      • ハウンドちゃん、だからもういいの……
        がんばらなくても大丈夫なの…… -- ロワナ
      • (ロワナは膝を屈したハウンドを背中から抱きしめると
        幼子をあやす様に金の髪をそっと撫でて)
      • ふぅ、少し緊張したけれど…そっか…… -- クレハ
      • (ハウンドをあやすロワナを見つめながら、クレハは小さく吐息した
        ハウンドがクレハに真実を見た様に、クレハもまたハウンドに真実を見たから)。。
      • ……で、なんか急に大人しくなったようですが。 -- アトイ
      • (アトイが、クレハの脇から顔を出した。
         手を繋いでは居ないので、4人が見たものをアトイは知らない)
      • あー……ははっ。アトイちゃん、ほんとにアルフリーダさんの事生き
        埋めにしてたんだね。 -- アミ
      • だから、最初からそう言ってるじゃないですか?
        どんな悪い奴でも、クレハさんの目の前で人死になんて出したくあり
        ませんよ。私は。 -- アトイ
      • うんっ。 -- アミ
      • (その言葉が、本当にアトイの本心からだという事が分かったから。
        アミは、そしてロワナはちょっと苦笑いしたあと、しっかりと頷き)
      • ハウンドちゃんは、これからどうしたいの? -- アミ
      • (優しい声で、アミは言った。
         水平線の下にあった太陽が、いつの間にか顔をだしていて。
         海面を輝かせはじめている。
         夜は、もう空のどこにもなく)
      • 私……は……。 -- ハウンド
      • (彼女は、アミ、ロワナと、同じものを知った。
         アルフリーダの死へ報いる意味を失ったハウンドに、新しく生まれた
        願いは)
      • ……ッ!お願い、します……!アルフリーダを……助けて。 -- ハウンド
      • (膝を屈したまま、そう言っていた)
      • 許して下さい……。私は、どうなってもいいから!
        お願いします!アルフリーダを……お母さんをっ!返して……ッ。 -- ハウンド
      • (両の手も、地につけて。
         涙で震える声で、はっきりと、アトイへ向かいそう懇願したのだ。
         もう二度と、大切な人と会えない事実へ、復讐を誓った心は。
         僅かでも、救いがあるならプライドも、命すらも差し出して構わな
        いという決心と表裏であった)
      • ……ぇーと。 -- アトイ
      • (困ったように頭を掻くアトイに、アオイが)
      • …じゃあ、こいつは沈めて、アルフリーダを掘り出しますか? -- アオイ
      • いや、そういうわけにゃ行かんでしょう……。 -- アトイ
      • それでも構わない、私が代わりになるなら……だから! -- ハウンド
      • ちょっと、ややこしくなるから、あなた少し黙ってて貰えます?
        もう、どうしましょうかこれ……。 -- アトイ
      • (そう言いながら、アトイは横のクレハやアミ、ロワナを見て。
        それから、宗右衛門と、その側に浮かんでいるネオンの方へも視線を
        向けて。
         相変わらず、1人悠然としている長老様の方も見てみたりしたのだが)
      • ……しょうがないなぁ。 -- アトイ
      • (アトイは、ため息をつくように、言った)

夏は終わり行き Edit




    • (2日ばかり経って、海辺の村は、いつものように長閑であった。
       夏の終わりの嵐も過ぎ去り、空も海もあくびが出るほど静かだ。
       アミとロワナは、自宅の縁側でまどろんでいる。
       嵐の夜に、アトイに踏み潰されたはずの家は、何故か無傷だった。
       『嵐の時?地震と雷すごかったねー。それより私のバイクが……』
      翌日に、くろこがそう言っていた。2人が、くろこに申し訳なさそうに
      謝ると。
      『別にアミロワちゃん達のせいじゃないしさー』と言った。
       だから、アミとロワナは、今は身体を休めている)

    • ん……。 -- アミ
      • (まだ、熱気の篭もる風に、アミは目を覚ました。
         庇が、居間の奥の畳まで、影を投げている。
         夕方であった)。
      • …おはよなの……ふに…… -- ロワナ
      • (ロワナも今さっき目を覚ましたばかりなのだろうか
        おはようの挨拶もどこかまだ半分寝ている様で
        それでももぞもぞとアミの側に寄って来ると
        その背に寄りかかる様にもたれかかった)。。
      • んぃー……。 -- アミ
      • (アミはロワナよりも寝ぼけたような声を出す。
         嵐の夜の戦いは、2人に過度な消耗を強いた。
         元々、孫には甘い宗右衛門は、大事ないならまぁゆっくり休め、と
        言ったので。お言葉に甘え中である。
         しかし、食事と入浴以外は、ほとんど寝っぱなしであるので。退屈が
        何より耐えられない小学生な身としては、飽きてきた感もあり)
      • (まだ、お祭り始まってないよね?) -- アミ
      • (声を出すのを横着して、触れ合ったロワナに、アミは意思疎通の能力
        で持って聞いてみた)。
      • (うん、太鼓とか笛の音が聞こえないからまだなの) -- ロワナ
      • (髪と髪の擦れあう小さな音が聞こえる、声は出さずとも頷いたのだろう
        その音以外は遠くから聞こえる音は、波と蝉の声くらいだ)
      • (あの嵐の夜が嘘の様に穏やかな時間
        もしかしたら夢だったのではないかとさえ思えてしまう
        それと言うのも、姉妹がまどろんでいる縁側はあの夜に破砕されたはずであった
        縁側だけでなく、天井も箪笥もテレビさえも、あの夜に破砕されたはずであった
        それが何事も無かったかのように元のままで存在している)。。
      • (今年も無事にお祭りできて。ヴァイアちゃんに感謝だねー)。 -- アミ
      • (ほんとなの、ヴァイアちゃんもお祭楽しみだって言ってたし
        お祭で会えるかもなの♪) -- ロワナ
      • (姉妹の口から小さな笑いが零れた
        楽しい事、嬉しい事は疲れていても声に出てしまうものなのだろう)。。
      • うんっ。 -- アミ
      • (アミは、うれしそうに頷いて)
      • ネオンちゃんも、来てくれるかな?。 -- アミ
      • きっと来ると思うの、ううん絶対来るの -- ロワナ
      • (いつの間にか声を出していた
        誘った時には曖昧な返事を返してきたネオンだが
        ネオンは祭に来る、それは強い予感としてあって)。。
      • 気が向いたらねー。なんて言ってたけど。
        ネオンちゃん素直じゃないから……ふふっ。 -- アミ
      • (そう言って笑いながら、アミは、ロワナの方へ寝返りを打って)
      • そういえば、おじいちゃん居ないみたいだけど。
        おばあちゃんのお墓参りいったのかな?
        ……そっちも、ネオンちゃん、行ってくれたかな?。 -- アミ
      • ネオンちゃんおばあちゃんに会いたがっていたの、だから多分…… -- ロワナ
      • (ころんとロワナも寝返りを打つと頷きながらコツンとアミと額を合わせて)。。



  • (くろこの商店で、宗右衛門は、台帳に記帳してカウンターに代金を
    置いた。
     祭りの手伝いに出ているので、いつも店番しているくろこは居ない)
  • 少し、歩く。 -- 宗右衛門
  • (片手に仏花の束を持って、入り口から出た彼は、独り言を言う。
     他には誰も居ない。
     しばらく、健脚な彼にしては、ゆっくりと歩く。
    墓所は、集落の山側にある教会の近くだった。
     海から、なだらかに続く坂道が、少し急になり始めた辺りである)
  • (洋風と和風の墓石の入り交じる墓所は、斜陽に照らされて、ヒグラシ
    の鳴く声だけが響く。
     吹いているとも分からない幽かな風に、赤い彼岸花が揺れた。
     ネオンは、何も言わず宗右衛門についてきていて。
     井戸で水を汲んで来た宗右衛門が、ネオンの横を通り過ぎると。腕が
    触れ合ったが、振袖は揺れずに身体をすり抜けた)
  • (無言のまま。墓石を拭い、花をたむけると。宗右衛門は、線香の束に
    火をつけた。
     香りのする煙が、静かに立ち上る)
  • ……何から言えゃいいかな……。 -- 宗右衛門
  • (線香の灰も大分伸びてから。合わせていた両手を離し。
    宗右衛門は語りだした)
  • レイン、やっとネオンを助け出すことができたよ。 -- 宗右衛門
  • (墓へ向かい、少ししゃがれた静かな声で)
  • 随分と、長くかかっちまった……。
    俺達も、あの夜の後、何度もあそこへは行ったんだけどな。
    見つけてやれなくてすまなかった。 -- 宗右衛門
  • (背後に立つネオンへ語りかけるように、宗右衛門が言うと。
     ネオンは、少しだけ悲しげな表情で宗右衛門の背中を見つめ)
  • ……いいわよ。私が望んで姿を隠していたんだもの。 -- ネオン
  • お前が、あの館で待ってるんだって、レインは、ずっと信じていた。 -- 宗右衛門
  • そう、だったのね……。あ、もしかして私が居るの分かる? -- ネオン
  • (顔を上げたネオンが、そう言った。
     だが、宗右衛門は振り返らず。
     ネオンは、また顔を伏せる)
  • レインは、本当にお前の事を愛してたよ。
    俺達が、出会うより前からもな。絶対そうだ。
    それで、俺ぁそんなお前たちを、レインを見てるのが本当に好きだっ
    たんだ。
    不思議なくらいに綺麗な笑顔をしててさ。 -- 宗右衛門
  • ……知ってたわよ、そんなの。
    あなたも最初から、姉様しか見てなかったでしょ。 -- ネオン
  • (聞こえない事はわかっている。
     ネオンは、自嘲してそう言うと、後ろを向いた)
  • だからな、あの夜の後、俺もレインと同じ気持だったんだ。
    あと一歩、足が前に出ていれば。俺もレインも、お前を失わずに済ん
    だかもしれない。
    そう、思わない日は無かった。 -- 宗右衛門
  • (立ち去ろうとしていたネオンは、足を止めた。
     今は空っぽになったはず胸の奥が、締め付けられるように切ない。
     自分が誰かを愛するよりも強く、愛されていたのだという事実に、
    彼女は立ちすくんだ)
  • もう一度会えて、本当に……よかった。
    ありがとうな、ネオン。 -- 宗右衛門
  • (語り終えて、宗右衛門は墓石の前を後にした。
     ふと、振り返る。
     夕日に照らされる墓に、一輪花が供えられている。
     白い彼岸花が、いつの間にか置いてあった)
  • (宗右衛門の、去っていく背中を、ネオンは見つめる。
     1人、レインの墓の横に佇んだまま)。
  • (坂を下りる宗右衛門の後ろ姿はやがて沈む様に消えて行った
    墓場に一人ぽつんと佇むネオン
    幽霊と墓場
    あまりにもマッチしすぎる情景にネオンが自嘲の笑みを浮かべた時
    風が吹いた、夏にあって温かさを優しさを感じる風
    風に揺れるはずの無いネオンの髪が風に揺れた
    そしてもう一度風が吹いた
    今度はネオンのうなじから頬へと指でなぞるように抜けて行く
    そのくすぐったさにネオンが身を捩った時、視界の片隅で金の髪が揺れた
    ネオンと同じ金の色の髪、見間違えようもない髪……)。。
  • あ……っ! -- ネオン
  • (思わず声を上げて、ネオンは手を伸ばしていた。
     同時に、駈け出して。その背中を追う。
     夕日の中に、時折きらきら、と長い髪から1,2本はぐれた髪の毛が光。
    墓所の入り口まで来た時、ネオンはその光を見失った。
     短いおかっぱの髪を揺らして、辺りを見回しても居ない)
  • そうね……姉様は、私と違ってコレが無いから……。 -- ネオン
  • (ネオンは、自分の胸に手を当てて、小さく呟く)
  • でも、ちゃんと近くに居て、見ていてくれたのは、分かってますから。
    今は、ちゃんと……。 -- ネオン
  • (その時、眼下に広がる村の方から軽快な音色が、微かに風に乗って
    聞こえてきた。
     祭りの音色である)
  • ……お祭り、今日だって言ってたわねあの子達……。 -- ネオン
  • (陽はもうすぐ水平線の向こうへ沈むだろう。
     顔を上げて見れば、宗右衛門の背中が小さく見える。
     長く伸びた彼の影も、直に闇に溶けて分からなくなるのだろう。
     だから、ネオンは、もう一度駈け出していた)
  • ……!
  • (ネオンが宗右衛門の背後にたどり着いた時。
     宗右衛門は、急に立ち止まり振り返ったのだから。ネオンは、一瞬
    驚いた。
     だけど、彼の視線は、ずっと遠くを見ているようで。
     ネオンが見えたわけではなく、何か少しだけ、感じるものがあった
    程度だったのだろう。
     ネオンは、少し笑った。
     そして、再び歩き出した宗右衛門と並んで歩き出す)
  • (海へと、ゆるやかに下る坂道の下に、祭りの明かりがある。
     50年前も、2人はこの道をこうして歩いた。
     宗右衛門の背は、伸びて、それから少し曲がって。ネオンは、あの
    日のままの姿である。
     今はもう、お互いに声をかけあうことすらままならない。
     今は、並んで歩く2人の、邪魔をするものは何も無かった)。

祭の夜 Edit





  • (西の水平線に、まだ僅かな明かりが残っていたが。立ち並んだ屋台や
    連なる提灯の明かりの方が、もうずっと明るい。
     屋台の列が作る狭い通路の間を、たくさんの人々が、歩いては立ち止
    まりしながら行き交う。
     たこ焼き屋と背中合わせに、サンザシの実を串に連ねてリンゴ飴のよ
    うにしたものを売る店があって。
    それぞれの前に通路があるのだから。まるで、小さな街ができたよう
    でもあった。
     そのミニチュアの街は、普段は校庭の場所に建っている)。
    • …人、人が多い……ぅぅっ……。 -- アオイ
      • (アオイは、フリルのついた黒い傘で、自分の姿を隠すようにガードした)。
      • アオイさん大丈夫…どこかで休む…? -- クレハ
      • (傘に身を隠し俯くアオイの視界に魚達が寄って来た
        浴衣の裾、クレハの浴衣だ
        クレハは今宵の祭に備え蒼を基調にした魚模様の浴衣を用意していた)。。
      • おや、具合が悪いのですか。それはいけませんね。
        とっとと自分のフィールドに戻って休むとよろしいでしょう。 -- アトイ
      • (そう言ったアトイは、一見シンプルな白い浴衣である。
        赤い帯と、黒い顔の麒麟の図柄があって。あ、これビールの缶柄だ。
         そして、顔には、左目に眼科の眼帯をしている)
      • っていうかあなた、なんでまだふつーに居るんですか。
        …私は、夢……。
        …夢は眠りから覚めれば消えるもの……。
        とか、儚げにキメて言ってたくせに。一昨日から出ずっぱりじゃねー
        ですか。 -- アトイ
      • …は?人は一向に朝寝も昼寝もしますが?
        …夜も勿論寝るから、夢の時間ですが? -- アオイ
      • どれだけ寝るんですか、寝たきりですか。 -- アトイ
      • (戻る気は微塵も無いと、アオイは傘を閉じる。
         袖にフリルのついた、黒い浴衣であった)。
      • こーらー、二人とも喧嘩しないの……
        もう…ずっとこの調子なんだから…… -- クレハ
      • (猫を抱える様にアトイとアオイの首を両脇に抱えれば、ぎゅむぎゅむと締めなさるクレハさん
        あの事件が落ちついて以降、二人はずっとこの調子だ)
      • かっかっか、喧嘩するほど仲が良いと言うではないか
        まぁ、ほれ、二人ともりんご飴食え、なかなか美味じゃぞ?
        -- 長老
      • (三人のやりとりに愉快愉快と破顔する長老様
        抱えられたままのアトイとアオイの口に、夜店で買ったであろうりんご飴を放り込む
        ちなみに長老は普段と変わらぬ蒼の装束だ)。。
      • むぐっもぐ……がぉー。 -- アトイ
      • …もぐっ……にゃー。 -- アオイ
      • (アトイとアオイが、抱え込まれながら鳴いた)
      • クレハちゃんたちー、こんばんわー。 -- ミア
      • (りんご飴を咥えたまま、アトイとアオイが同時に振り向く。
         そこに居たのは、いつも通りに白衣なミア先生と、学校の悪ガキコ
        ンビなサムとオリバーで)
      • んむ、ミア先生じゃねーですかー。。 -- アトイ
      • あ、ミア先生こんばんわ…わ、とと…… -- クレハ
      • (挨拶をしつつ、クレハは慌ててアトイとアオイを解放した
        悪ガキコンビの何やってんだ?と言う視線に加え
        周囲から大注目を浴びているのに気付いてしまったから)
      • こんばんわじゃ、良き祭じゃな。。 -- 長老
      • ヴァイアちゃんもこんばんわー。
        隣の街からも、人が来るからね、村の人口が今日だけ3倍よー。
      • なぁ、みゃー先生ーいい加減解放してくれよー。 -- サム
      • そうだよ、俺らまだ何もしてねぇじゃんかー。 -- オリバー
      • みゃー先生言うな。お前らは、もうしばらく大人しくしててもらう。 -- ミア
      • (不満気に言うサムとオリバは、むんずと首根っこを掴まれる)
      • どうかしたんですか? -- アトイ
      • (りんご飴を、頭の上に乗せていたドラゴンの方に食わせながら、
        アトイが首をかしげると)
      • こいつらは、去年の祭りの時に、灯籠に花火仕込んで爆発四散させた
        からね。
        そろそろ飛ばす時間だから、私が見張ってんの。
        今は救護室に連行中。 -- ミア
      • ほーぅなるほど。
        だめですねー火遊びは。火事とかなったら危ないので。 -- アトイ
      • …お姉様がそれを言うとは……ふっ。 -- アオイ
      • (アオイが、意地悪い顔して鼻で笑うと、アトイはぐぬった顔をした)
      • アトイーそいつ誰?双子? -- サム
      • (サムが言う)
      • まぁ、妹みたいなもんですよ。 -- アトイ
      • (アトイが、そう言うと。アオイは、こそっとクレハの背に隠れた)。
      • 灯篭を爆発四散って、それは仕方が無いわね……
        あ、アオイさんったら、また…… -- クレハ
      • (アトイとは髪型が違うだけだが。アトイと違って、随分とおどおど
        したアオイに、サムは)
      • ふーん。ほら、たこ焼きやるよ。 -- サム
      • …えっ。 -- アオイ
      • 別に熱くねーよ。 -- サム
      • …んっ……。むぅ……んん!? -- アオイ
      • (押し付けるように差し出された、たこ焼きを口に入れたアオイは、
        その妙な甘ったるさに思わず顔をしかめる)
      • へっへっへ。当たりだな。中身は特製だ。 -- サム
      • こいつはまた……いつの間に仕込んでたのよ。 -- ミア
      • (悪戯成功して笑うサムを、ミアがじろりと睨む。
        すると今度はオリバーが)
      • これで流し込んじゃいな。 -- オリバー
      • …う、うん……。むぐっ!?ぶふぅー!? -- アオイ
      • (渡されたコーラを飲んだ瞬間、アオイは盛大に吹き出した。
         メントスコーラであった)
      • ナーイスコンビネーション……。 -- アトイ
      • (アトイも思わずにやり、として。
        ミアは、ハイタッチする悪ガキ2人にげんこつを食らわせ。盛大に咳き
        込むアオイを覗きこむ)
      • アオイちゃん、大丈夫?
        あら、なんか顔色も悪くない? -- ミア
      • …いや、その……これは、人酔い……。
        …人、多いとこ……苦手……。 -- アオイ
      • (人に近寄られるのも苦手だが、来るなとはっきり言えるほど強気でもない。
         アオイは、そっと目を逸らす)
      • そっか、それならあっちの休憩所の方なら空いてるから。
        そこで休んでてもいいわよ?。 -- ミア
      • まったく、あの二人は相変わらずなんだから……
        そうね…アオイさんは少し休む方がいいかもしれないわね…? -- クレハ
      • (ゲンコツを喰らう悪ガキコンビに肩を竦めれば苦笑し
        アオイの口の周りを拭きながら、どうするかを問い尋ねる
        実際アオイの顔は祭の灯に照らされても青褪めて見えて)
      • うん、やっぱり先に休んで、祭の空気に慣れてからまた歩きましょう…… -- クレハ
      • (アオイが答えるよりも先に答えを出すクレハさん)。。
      • 相変わらずメンタル貧弱な奴です。
        とりあえず、休憩所は反対側なようなので。
        少しは空いてる校舎側から行きますか。 -- アトイ
      • (屋台列の一番端にあたる校舎側は、入り口から一番遠いのもあって
        他の所よりは歩きやすそうだ。
         めずらしく、アトイが、アオイの事を気にかけている)。
      • ふふっ、じゃあ行きましょう…アオイさんもう少し我慢してね…? -- クレハ
      • ふむ?ならばワシはちょい買い物をしてから合流しようかのう -- 長老
      • (アオイを気遣うアトイにクスリと笑みを向けつつ、アオイの手をとる。
        一方でちょこんっと一歩飛び出し屋台の並ぶ通りへと向かって行く長老
        その後ろ姿はどう見ても祭にはしゃぐお子様だ)。。
      • こっちよ。
        ほら、あんたらもこっそり逃げ出そうとしない。 -- ミア
      • (サムとオリバーは再び首根っこを掴まれてぐえった)。


      • (集会用テントの屋根の下に、長机と椅子が並べてあって。
         そこの奥の方で休憩していっていいよー、という事になった。
         祭りの喧騒はすぐ側だが、一歩分だけ外側な場所である)。
      • ミア先生ありがとうございます…さてと…… -- クレハ
      • (一礼するとミア先生はサムとオリバーに引っ張られる様にしながら祭の中へと戻って行った
        そしてクレハは長椅子に座布団を並べアオイが横になれる様に支度し始める。
        誰でも使ってよい休憩所ではあるが、まだ祭が始まったばかりと言う事もあり
        人の姿はまだ少ない)
      • うーお腹ーくるしい…… -- すみちゃん
      • あら…? -- クレハ
      • (良く見れば休憩所の隅に見なれた顔、すみちゃんだ
        どうやら早速食べすぎたのかうなりながら横になっておられる)。。
      • …別に、私は横になるほど具合は……あ。
        …やっぱだめです、私も苦しいですというわけで膝枕お願いします。 -- アオイ
      • (素早く椅子の上に飛び乗るアオイ。
        そして、ぽっこりしたすみちゃんのお腹の上には、黒い仔猫が飛び乗る)。
      • 膝枕…? もぉ…仕方が無いわね……
        でも、落ちついたら祭へGOよ…? -- クレハ
      • (アオイの言葉に少々驚くもクスリと笑みを浮かべれば長椅子に腰かけ
        自分の太腿をぽふぽふと叩き、アオイを招く)
      • へふっ…… -- すみちゃん
      • (すみちゃんのお腹で黒い仔猫が上下に揺られていなさる)。。
      • …私は、お祭りよりこっちの方が……。 -- アオイ
      • クレハさーん、戻りましたー……くっ!ちょっとサービスしすぎじゃ
        ないですか? -- アトイ
      • (屋台で買い込んだものを抱えたアトイが、入り口の方に、苦々しい
        顔で立っておられた)
      • …いやぁ、私も久々にお姉様のせいで無理をさせられましたのでー。
        …疲れがまだ残ってるようですねぇ。 -- アオイ
      • 不死身で無敵な奴が何言ってんですか。
        ダメージだったら、怪獣プロレスやられた私のがあるにきまってるでしょうがー。
        それでも全く疲れてなどいませんがッ! -- アトイ
      • (クレハの膝に頭をのせて、アオイは、ふふん、と笑い。
        アトイはイカ焼きを半分ほどガブリッと咬んだ)。
      • はぁ…もう、二人とも喧嘩しないの…?
        すみちゃんが起きちゃうでしょう…? -- クレハ
      • (アトイが戻るや否や口喧嘩を始めるアトイとアオイに
        クレハは本日何度目かのため息してしまう。
        名の上がったすみちゃんはと言うと、仔猫をお腹に乗せたまま唸っておられる)
      • えっと…そう言えばアトイさん……
        その眼帯…やっぱり私の…そのパンチのせい…? -- クレハ
      • (話題を逸らし喧嘩を収めようと、クレハはずっと気になっていた事を切りだす
        アトイはあの日家に戻ってからずっと左目に眼帯をしていた
        そこはクレハにお仕置きのシャイニングパンチを受けた場所で……)。。
      • これですか?ええ、まぁはい。
        見事に青たんになってますので。 -- アトイ
      • (眼帯をめくると、実際ギャグ漫画みたいな丸い青たんが目の周りに)
      • …不死身で無敵なくせに、綺麗に残ってますね。。 -- アオイ
      • …あ……、はぁ…やっぱりそうなのね…… -- クレハ
      • (アトイの言葉を聞けばクレハはしゅんっと肩を竦めた
        あの時は確かに怒りの感情はあったが
        吹き飛ぶアトイに少々やりすぎてしまったかと言う気持ちもあって
        アオイの髪をいじいじとしながらずーんっと落ち込んで行く)。。
      • あ、いえ。これは決してクレハさんのせいというわけではなく! -- アトイ
      • (眼帯を戻し、取り繕うように両手を振る。
         宙に舞った屋台フードの袋はミニドラが器用にキャッチ)
      • ……まぁ、クレハさんに初めて本気で怒られましたし……。
        反省、的な事ですぐには治してなくて……。。 -- アトイ
      • …そうなの…? -- クレハ
      • そうじゃぞ?アトイの奴、鏡を覗きこんではニヤニヤしておったからのぉ -- 長老
      • 長老…? -- クレハ
      • (入り口の方から声がした。三人と二匹が振り向けば
        そこには祭の戦利品を両手一杯に抱えた長老の姿
        頭にはキュアっぽいパチモノ物なお面を横に被っている)。。
      • ニヤニヤはしてませんよ!?ちゃんと真面目に反省してましたので! -- アトイ
      • かっかっか!わかっておるわかっておる、あの虎神の娘に赦しを与えたものな?
        ほれ拗ねるな、ちょこばなな食え、クレハも食うか?
        -- 長老
      • (不機嫌な表情を浮かべるアトイに、長老大きな笑いを向けると
        その頭を撫でながら祭の戦利品であろうチョコバナナを差し出し
        そしてクレハの隣に座るとナチュラルに膝枕に与ろうする)。。
      • むぐ……っ。 -- アトイ
      • (クレハの左右をアオイと長老様に占拠されてしまったので。
         チョコバナナを咥え、アトイは、長老様の横に座った)
      • あの時は、状況に流されてああしましたが……。
        正直あれで良かったのかまだ、わからんのです。。 -- アトイ
      • もう長老ったら……あ、アトイさん…… -- クレハ
      • それで良いんじゃよ、どんなにその時に最善と思うても
        後になれば別の道がいくつも見えてくる。だが、それが最善であるかもわからぬ
        ならば悩むしかあるまい?先の先のためにな?
        -- 長老
      • (長老からチョコバナナを受け取りながら、クレハはアトイに視線を向ける
        クレハもまたあの日の出来事を思い出していたから。
        一方の長老はそんな二人を見ながらコロンっとクレハに膝枕されると
        諭す様な口調で語る。なりは少女だがその言葉には何か含む物が多くあり)。。
      • それも、分かってはいるんですがー……。 -- アトイ
      • (チョコバナナの串を咥えて揺らすアトイ。

         二日前の嵐の夜の戦いの後、アトイ達は、村へはすぐ戻らずに。海辺
        の村から、数十kmも離れた場所に居た。
         アオイの潜水艦上から、眺めた朝日は、まだ水平線から顔を出した
        ばかりである。
         アトイのドラゴンで飛べば、数秒とかからない移動だった。
         降り立ったのは、森に囲まれてまだ薄暗い、丘の上である)
      • クレハさん達はいいとして、アオイの奴もこの際いいですが……。
        なんで私が、あんな奴まで背中に乗せてやらにゃならんのです。 -- アトイ
      • (不満気に呟いたアトイは、少し離れた場所に立つハウンドの背を、
        じろりと見る)
      • あら、私もよかったのね。 -- ネオン
      • (側に浮かぶネオンが、含み笑いで言うと)
      • ……アミロワちゃんと、おじーちゃんに感謝しなさい。 -- アトイ
      • (けっ、と吐き捨てるように、柄悪くアトイは返事をした。
         ドラゴンは、巨大化して地面に頭を突っ込んでいる。
         山よりも巨大なサイズではなく、大体恐竜くらい。
        黒き巨獣と殴りあった、大山脈をも凌駕した大きさに比べれば、飼い
        犬のように小さなサイズである)。
      • はぁ……
        もう、アトイさんったら…… -- クレハ
      • (アトイの態度にクレハは大きく溜息をした、場の空気はずっとこの調子であった
        地中に埋まったままであろうアルフリーダを発掘すべく、件の事件の跡地へとやってきたが
        どうにも空気が悪い。今すぐ全てを水に流し和解しろというのが無理なのはわかる
        しかし、アトイとネオンの仲の悪さは相性にも関係している様で)
      • ネオンちゃん喧嘩はダメなのー! -- ロワナ
      • (それを見かねたアミとロワナは、てこてことネオンの側へ行くと頬を膨らませ窘める
        この場に置いて一番年少であろうアミとロワナが一番の大人に見える)。。
      • (ネオンは、ひょい、とアトイの後ろの方へ下がってしまったので。
        アミとロワナの正面にアトイだけが残されて)
      • 別に喧嘩はしてないですよ……。 -- アトイ
      • ホントに? -- アミ
      • …ほんとにぃ? -- アオイ
      • (アトイが、目を逸らすと。
         アミが覗きこんできて、その後ろで、アオイがにたり、とする。
         宗右衛門は、とくに何も言わず一歩離れて見守っていた)
      • ほんとですって……あ、そろそろ掘り出せそうですよ。 -- アトイ
      • (ごまかすようにアトイが言う。
         犬が骨でも掘り出すように、地面に首をつっこんで前足で、土を掻
        きだしていたドラゴンが動きを止めた。
         崩れたコンクリートの塹壕が、とぐろを巻く蛇のように連なった、
        丘の頂上である)。
      • ふぅ…ここからは慎重に行きましょう…? -- クレハ
      • ふむ…… -- 長老
      • 長老…どうかしました…? -- クレハ
      • いや、なんでもない -- 長老
      • (アトイの反応にクレハはまたため息してしまう。
        一方、皆の後ろで座していた長老が微妙な表情を見せた
        何かを感じとった様に眉を潜めていて)。。
      • ふむ。 -- アトイ
      • (ドラゴンは、穴から頭を引き抜いた。
         てっきり咥えて引っ張りあげてくるのかと思ったら誰も居ない。
         アトイは、穴のすぐ横にいたハウンドの側まで行く)
      • アルフリーダは……。 -- ハウンド
      • まぁ待ちなさいって。 -- アトイ
      • (思いつめたような表情で見守っていたハウンドだが、アトイにそう
        言われれば再び待つしかなかった)
      • アトイちゃん、どうかしたの? -- アミ
      • (代わりに、アミが聞いて見ると)
      • あいつ、中で抵抗してるんですよね。
        ちょっと直に行ってきます。 -- アトイ
      • (そういって、アトイが穴に飛び込んだ。
         直後、すごい悲鳴と泣き叫ぶ声が穴の奥底から響いてくる)。
      • 抵抗…? あー…トラウマになっているのかしら……
        ずっと地中にいたのだものね…… -- クレハ
      • んっとね…きっと怖いんだと思うの
        だから、ハウンドちゃんが迎えに行くといいと思う -- ロワナ
      • (泣き叫ぶ声を聞けばクレハは眉を潜め考え込む
        それに対しロワナは
        ハウンドの側に行くとぴょこぴょこと跳ねながら提案した)。。
      • アルフリーダ! -- ハウンド
      • (ハウンドは叫び、暗い穴の側に駆け寄った。
         竪穴は、朝日も差し込まず暗く深く、その縁に両手を着いても底は
        知れず。
         遥かな地下から……)
      • おらっ!抵抗すんじゃねぇですよ!手間とらせんな! -- アトイ
      • ひぃ!?やめてよしてやめてぇ!?
        今度こそ殺しにきたんでしょ!この外道!
      • 逆ですよ!わざわざ助け出しにきてやったというのに!ええい! -- アトイ
      • ぎぃやぁああ!?……グエッ!?
      • (緊迫感の欠片もない言い争いの末、ハウンドの目の前で。穴から放り
        出された人物が、高々と宙を舞った。
         落ちた。
         道路でせんべいになったカエルのような格好である)
      • あ……アルフリーダ!!無事か!本当に!? -- ハウンド
      • はぁ……へぇ? -- アルフリーダ
      • (土まみれではあったが、1年以上生き埋めにされていたにしては、
        無事そのものな顔をあげ。アルフリーダは、間の抜けた声を出した)
      • あ、え……えっ?ハウンド? -- アルフリーダ
      • (アルフリーダの、蟹の足か獣のように奔放に外へ跳ねる後ろ髪へ腕を
        回して、ハウンドは彼女を抱きしめる)
      • よかったね、ちゃんと会えて。。 -- アミ
      • ハウンドちゃんよかったの -- ロワナ
      • (アルフリーダを抱きしめるハウンドの側
        アミとロワナはバンザイをする様に手を上げながら二人を祝福する)
      • アトイさんおつかれさま、思ったよりは元気そうね…さて…… -- クレハ
      • (ハウンドをアルフリーダに会わせる事は出来たが
        ここからが色々とと問題で
        クレハはアトイの方へ視線を向けながら小さく首を傾げた)。。
      • ……どうしたものですかね。
        たしかに思ったより元気でした。ほら、あいつの手。 -- アトイ
      • (アトイはクレハにだけ、こっそりと、アルフリーダの手を指し示す。
         その手は、白い鱗に覆われていた。
         アトイが半人半竜の姿を取った時の腕と、同じ形で、色だけが違う)
      • あの時に、私から奪ったドラゴンの力、あいつまだ持ってるようです。。 -- アトイ
      • あ…本当…… -- クレハ
      • (アルフリーダの腕を見ればあの時の戦いの事が鮮明に思い出される
        アトイの竜の力を奪い白い竜の翼を纏ったアルフリーダの姿
        その力は今のアトイに及ばないにしても、人が持つには大きすぎる物で
        クレハとアトイは視線を交わしながらどうするべきかとまた首を捻った)

      • …で、結局どうにもしなかったのよねぇ…あむ -- クレハ
      • (思い出し苦笑するとクレハはチョコバナナを咥えた
        村人の手作りながらその味はしっかりとしていて食べ応えもある)。。
      • ええ、ですから。ホントに、あいつら許してよかったかなって……。 -- アトイ
      • (賑やかに揺れる祭りの灯を眺めながら、アトイはたこ焼きに爪楊枝
        を刺す。
         すでに程よく温んでいた)
      • (アルフリーダを掘り出して、感動の再会となったあと。
         事の経緯は、ハウンドから、アルフリーダへ話された。
         すぐ側で、アトイと、そのドラゴンが睨みを効かせていたので。一度
        死ぬより痛い目に遭わされたアルフリーダは、大人しくしていた)
      • アミロワちゃん達が居た手前、私もつい甘くしましたが。
        あの2人は、二度とララリウムには関わらないと誓いましたが。
        ……組織の方が、放っておいてくれるかは別な話しですし。
        人の業というのは、中々に切れないものでもあります。。 -- アトイ
      • ん、私達やアミちゃんロワナちゃんにはもう危害を加えないとは言ったけれど……
        ララリウムの方が二人を放っておくかは別問題だものね…… -- クレハ
      • (チョコバナナの串を咥えたまま視線をあげれば
        テントの骨組みに吊るされた捕虫用の青白いランプが目に入る
        祭壇の開発者でもあるアルフリーダはララリウムにとっては未だ使い道のある存在
        このまま野放しにしたままでいるとは思えず)
      • 人の業とは縁であり繋がりじゃ、それが良かろう悪かろう関係なくな?
        だが悪し業はより強き良き業にて払う事も変える事も出来る、おヌシ達にならわかるであろう?
        -- 長老
      • (クレハに膝枕されたままの長老が笑いながら告げると
        寝たまま流しこむ様にポン菓子を頬張る)
      • それににゃ、そのためにヌシは新たなかぎょを与えたのにゃろう? -- 長老
      • 長老…ちゃんと飲み込んでから話してください…… -- クレハ
      • (そしてアトイの方へ視線を向けるとポン菓子をポリポリしながら言葉を続ける
        この人本当に神様?と思いたくなるだらしなさだ)。。
      • かぎょ……。ああ、加護ですね。あの2人にくれてやった。。 -- アトイ
      • …ごっくん…うむ、加護じゃな、ささやかではあるが
        あの二人が先を生きて行くには十分なものであろう
        なにより、おまえさんの加護であるしな?
        -- 長老
      • ふふっ…ふりかかる厄から身を守る…だったかしら…? それと…家内安全…? -- クレハ
      • (長老は頬張ったポン菓子をごくりと飲み込むと、アトイをにやりと見やって言葉を続ける
        アトイがハウンドとアルフリーダに与えた加護は「厄払い」そしておまけの「家内安全」
        語る長老にアトイへの評価を見ればクレハはクスリと笑みを浮かべた)。。
      • まさか、あいつらの幸せを保証してやることになるなんて……。
        長老様に言われでもしなければ、やりませんでしたよ。 -- アトイ
      • (アトイは、眉間に皺を寄せつつ目を瞑った。
         思い出すだけで腹立たしいので、知らぬ間に竜の目になって居そう
        な気もしたのだ)

      • (場面をまた、一昨日の朝に戻すと。
         アルフリーダを掘り出した後、これからどうするのか、という話し
        になった)
      • また、ララリウムに戻るつもりなら……。 -- アトイ
      • (朝日に照らされながら、アトイがそう言うと。
         地面に投げられた大きなドラゴンの影が、クワッ、と牙を剥く)
      • しないしない!絶対しません!だからもう埋めないで! -- アルフリーダ
      • (ぷるぷる、と震えながらアルフリーダは、ハウンドの背中に隠れる)
      • ……ララリウムを、裏切り祭壇を奪って逃走した。今更帰れもしない。
        どこかに身を隠すつもりだ。 -- ハウンド
      • (ハウンドは、アルフリーダの腕をなだめるように撫でて言う。
         ボロのローブの下の腕は、白い鱗に覆われている)
      • 私から奪ったドラゴンの力と、あなたの虎があれば。追撃をかわすのも
        不可能ではないでしょう。
        結局、あなたのような人間には、血みどろの戦いがお似合いですね。
        その戦いが、いずれ再び私に向かない事だけを願っておきましょうか? -- アトイ
      • (意地悪くアトイが言うと、ハウンドは黙って俯き)
      • か、返します!ドラゴン力もかえしますー!埋められて苦しかったから
        ちょっと息とかするのに使ってただけなのでー!
        仕返しとか全然全然! -- アルフリーダ
      • (膝をガクガクさせながら、両手を突き出すアルフリーダさんである。
         その手の上に、紫色でキモカワ系のぬいぐるみみたいなドラゴンが)
      • へぶしっ!……寒ッ! -- アルフリーダ
      • (鱗が消えて、普通の人間の手足に戻ったアルフリーダは、くしゃみ
        をした)
      • ……要りませんよ、なんか着古しみたいでばっちぃ感じするし。
        そんな程度のちっさい力、くれてやります。 -- アトイ
      • (アトイは、嫌そうに横を向いてしっしっと手で払う)。
      • ふふっ…あの時は気持ち悪いと思ったけれど…こうなると少し可愛いかも…? -- クレハ
      • (アルフリーダのキモカワドラゴンを見ればクレハは笑みを浮かべた
        しかしその笑みも直ぐに唸りへと変わる)
      • んー…でも、このまま放置と言うのも…どうなのかしらね…? -- クレハ
      • (クレハは肩を竦めながらアトイの方へと視線をやる
        もはや敵対する意思は無い様に見える二人、実際その気は無いのだろう
        特にハウンドはアルフリーダと言う目的を取り戻した
        今更アトイ達との約束を反故にし牙を向くとは思えない
        そうなると気になるのはこの二人の先の事)
      • ハウンドちゃん…大丈夫なの? -- ロワナ
      • (アミとロワナが心配そうな瞳でハウンドの元へと寄って行く
        憂いの消えた今ハウンドは姉妹にとって紛うことなき友人だ
        その先行きを心配するのは当然の事で)。。
      • (ハウンドは、見上げてくる瞳を、朝日よりも眩しく感じて目を細め)
      • ……大丈夫だ、私は、二度とお前たちの前には現れない。 -- ハウンド
      • (微かに、笑ってそう言った。
         泣いているようにも見える。そんな顔であった。
         ハウンドの中で、平穏だった時代はもう朧にも思い出せない程に、
        遠い過去だから。
         アトイの言う通り、もう殺すことも殺されることも必要のない生き方
        が分からないのだ。
         だから、アミとロワナへ、少しでも報いるために選ぶ言葉は、これ
        しかなかった)
      • ハウンドちゃん……。 -- アミ
      • (アミは小さくつぶやき。
         踵を返してアトイの方へ振り返る)。
      • アトイちゃん…… -- ロワナ
      • アトイちゃん…… -- アミ
      • (四つの幼い瞳がじっとアトイを見つめ訴えかける
        暗き闇を抜けださんとするハウンドとアルフリーダの力になってほしいと
        二人の行く先を明るき光で照らしてほしいと)
      • …ふぅ…アトイさん…… -- クレハ
      • (じっとアトイを見つめる姉妹を見れば、クレハは小さく溜息し
        そして、アトイへと視線を向け肩を竦めた
        言葉にせずともアトイにはわかる、クレハが何を言いたいのかが)。。
      • あー……。 -- アトイ
      • (言われずとも分かる。
         アトイは、元々人の願いというものに敏感なので)
      • 気持ちは重々わかりますがね……。
        ちょっと、アミロワちゃんもクレハさんも、状況に流されすぎでは。
        ……アオイ、心にも無いのに便乗しておねだりする犬みたいな目しない
        でくれますか?ムカツクので。 -- アトイ
      • …お姉様ったらいじわる。 -- アオイ
      • (例の口の端だけ持ち上げる笑みをするアオイを睨み。
         懇願するアミロワちゃん達から、目を逸らすアトイさん)。
      • ん、まぁ…そうなんだけど…ねぇ…? -- クレハ
      • かっかっか、それが人と言うものじゃよ -- 長老
      • (皆の視線がアトイに集まる中、笑い声と共にアトイの尻をぽんっと叩く者があった
        長老だ、ここまで静かに流れを見守っていた長老が口を開いたのだ)
      • アトイ、おまえの憂いもわからんでもない
        だが、そうさのう…こうしてみてはどうじゃ?
        。。 -- 長老

      • ……で、結局あいつらに加護をくれてやったわけですが。
        ほんとにあれでよかったんですかね……。 -- アトイ
      • (祭りの夜である。
         休憩所の椅子に座って、ぶらぶら足を揺らしながら。アトイは、難し
        い顔をしたまま、わたあめを食んだ)
      • 私や、アミロワちゃん達の件は、丸く収まりましたが。
        ハウンドや、アルフリーダの奴が、地獄に叩き落とされる事を願っても
        咎められない人はいっぱい居るんですよ。
         あいつらが不幸にしたのは、あの姉妹だけじゃなく。
         奴らの背負った業というのは、そういうものなんです。 -- アトイ
      • (頬にわたあめをつけたまま、アトイは続けて)
      • 私が、奴らを不幸から守るのは。
        奴らに恨みを抱いた人達を、裏切ることじゃないんでしょうか。。 -- アトイ
      • ふむ、ヌシの言う事も然りじゃ…… -- 長老
      • (長老はクレハの膝から頭を上げると
        あぐらを組みそして祭の戦利品の入った袋をガサガサとし始めた)
      • じゃがのぉ、おまえさんはこの世界の罪、全てを裁くつもりか? -- 長老
      • (指先サイズの木べらをアトイに向けて問いかける
        袋から取り出したのはヨーグル。ヨーグルトとは似て非なる駄菓子)。。
      • いえ、そんなつもりは……。 -- アトイ
      • (アトイは、わたあめを持った手を下ろして答えた)
      • 私の力で、それができるかもしれないとしても。
        ……やりたくは無いのです。それは、私の望む人との関わり方ではな
        いのです……。 -- アトイ
      • うむ、ならばあれで良かったと思わんか? -- 長老
      • (アトイの話を聞く間にヨーグルを食し終えた長老は
        頷きながら紙袋を漁ると二個目のヨーグルを取り出した)
      • 断罪はさらなる断罪を生む、それは無限の連鎖に他ならん
        だがそれは、幸もまた同じじゃ、幸福はさらなら幸福へと繋がる
        おまえさんは、あの二人を祝福した事でその可能性を生みだしたのじゃ
        -- 長老
      • 幸せの連鎖…… -- クレハ
      • そうじゃ、連鎖は広がりやがて二人の過去の罪へと至るかもしれぬ
        赦しとは可能性を信じる事じゃからな?
        そう考えるとおまえさんの与えた祝福はあの二人だけに留まらんとおもわぬか?
        -- 長老
      • …一気に喋ったら喉が渇いたのぉ、ちょいと小竜を借りるぞ? -- 長老
      • (一息入れると長老は今度は紙袋からラムネのビンを取り出し
        手招きしたミニドラの口をラムネビンの蓋に当てる
        ちなみに先まで食べていたヨーグルは空の容器の山となっている)。。
      • 長老様、私はラムネ開けじゃないんですが。 -- アトイ
      • (ドラゴンはアトイの体の一部である。
         小さなドラゴンは、鱗面に困った表情を浮かべて、ビー玉は瓶の中で
        カロン、と音を立てる)。
      • ん? かっかっか、神の力も使い様によっては栓抜きと変わらんのぉ…とっとっと -- 長老
      • はぁ…真面目に話したかと思ったらこれだもの…… -- クレハ
      • (冗談めかす様に言うと、長老はシュワシュワと音を立てるラムネを啜る様に口へ
        そしてゴクゴクと喉を鳴らした)。。
      • むぅ……。
        ……その、可能性は、いいのですけど。あの2人が、私が与えた力で全う
        にうまくやれるんでしょうか? -- アトイ
      • (アトイは、頬についたわたあめを指で拭って舐め取りながら言った)。
      • ぷふぁ…やはり炭酸飲料は良いのぉ…ん?
        さぁ、わからんのぉ…?
        -- 長老
      • わ、わからないって…… -- クレハ
      • だが、わからないからこそ見守るのではないか?それが寄り添うと言う事じゃ
        それに、少なくともあの二人は信じておるようじゃ
        -- 長老
      • (そう言うと長老は休憩所の入り口へと視線を向けた
        誰もいない、しかし耳を澄ませば聞こえてくる
        祭の喧騒に混じり聞きなれた足音が近づいてくるのが)
      • はぁはぁ、やっと見つけたのー灯篭飛ばし始まっちゃったよー?。。 -- ロワナ
      • っていうかもう飛ばしてきたー! -- アミ
      • (ロワナの横で、アミは、こっちこっち、と両手を上げて手招きしている)
      • アミロワちゃん達じゃないですか。灯籠?……あ。 -- アトイ
      • (アトイは、椅子から立ち上がり、休憩所の外へ出る。
         真っ暗になった夜空に、たくさんの光が浮かんでいた。
         地上は、祭りの灯りが、煌々と光るので、小さな星の灯りは見えなく
        なっていて。
         だから、黒くなった夜空の中に、浮かぶ灯籠が眩く光る)
      • …ん。 -- アオイ
      • (のそのそ、と起き上がったアオイもクレハの膝から頭を上げた。
         蝋燭の火で膨らんだ小さな熱気球の群れが、風のない空へ高く高く登
        って行く。
         果て無く広がる、暗い空の中で、儚い灯りが。
         それでも、天の星よりも確かに輝いて浮かんでいた)。
      • ふわぁ…綺麗…… -- クレハ
      • (アトイとアオイの間に立ちクレハは夜空を見上げる
        次から次へ絶える事なく舞いあがって行く灯篭
        数え切れぬほどの光が夜空へと舞い上がって行く
        それはまるで地から天へと至る光の河の様にも見えて)
      • 営みの光じゃな…いつ見ても美しいものじゃ -- 長老
      • 私達も行きましょう…♪ -- クレハ
      • うん、まだ灯篭は沢山あるの、クレハちゃん達も行こ!。。 -- ロワナ
      • はい、行きましょうか。
        アミロワちゃん達、姿が見えないと思ったらあれを飛ばしにいってた
        んですねぇ。 -- アトイ
      • (アトイが言うと、アミは)
      • 毎年学校で、灯籠つくってお祭りに飛ばしてるの!
        すみちゃんはー……今年は食べ過ぎでダウンかー。 -- アミ
      • (まるく膨らんだお腹の上で、アオイの仔猫が丸くなって眠っている)
      • こっちの方に居たのか。 -- 宗右衛門
      • (アミとロワナが、同時に振り返る。
         明るいオレンジの光に照らされて、宗右衛門が立っていた)
      • おじいちゃん!……とネオンちゃん!!。 -- アミ
      • うー…私も行くー…… -- すみちゃん
      • やっぱりネオンちゃんも来たの! あ、すみちゃん起きた? -- ロワナ
      • (宗右衛門とネオンに向かって手を振る姉妹の後ろでゾンビの様な声がした
        すみちゃんだ。黒い仔猫に先導される様にしながらふらふらと歩いてくる)
      • ふふっ、一気に人が集まって来たわね…あらら…? -- クレハ
      • ふむ?そこのちみっこ、これを飲むが良い -- 長老
      • ちみっこじゃないやい!…ぐへ、にがぁ〜い -- すみちゃん
      • (苦しそうにするすみちゃんに、長老はなにやら丸薬の様な物を渡した
        奇妙な物体に眉を寄せるすみちゃんだが
        一気に飲み干せば、みるみる顔色が良くなって行く)。。
      • 子供の頃に見た時より、随分賑やかね。目眩がしそう。 -- ネオン
      • (急に人口密度が増した休憩所の中を見回して、ネオンはぼやく。
         そんなネオンの手を取って、アミは笑いかけながら)
      • 賑やかでしょー? -- アミ
      • ……まぁ、ね。 -- ネオン
      • ネオンも、来てんのかい? -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、空中と手をつなぐような動きをするアミを見る)
      • いるよー!ここに! -- アミ
      • そっか。 -- 宗右衛門
      • (彼は小さく頷いた)
      • ……。 -- アオイ
      • ん、な、何よ? -- ネオン
      • (ネオンが、思わず頬を緩ませているのをアオイがじっと見ていたもの
        だから。ネオンは、慌てて取り繕った顔をする。
         アトイと同じ顔のアオイの事も、ネオンは苦手だ)
      • …あっち。 -- アオイ
      • え? -- ネオン
      • (唐突に、アオイは祭りの喧騒の中を指差す)
      • …呼んでるよ? -- アオイ
      • (夜空を見上げる人々の間に金の髪が揺れている
        くるくると舞う様にそしてふわふわと
        顔は遠くではっきりとは見えぬが
        あの姿が誰なのかネオンにははっきりとわかる
        しかし人々はその姿に気付かぬ様で……)
      • ネオンちゃん! -- アミ
      • ネオンちゃん行ってあげて? -- ロワナ
      • (その姿に釘付けになるネオンに声をかけ手を引く者があった
        アミとロワナだ
        気付けばアオイだけでなく皆の視線がネオンへと集まっている)。。
      • (一度、ネオンは振り返り。
         そして、人混みの中へ駆け出していた)
      • 姉様! -- ネオン
      • (大きな声で、その背中に叫んだ。
         だけども、行き交う人々は誰一人振り返るものはない。
         誰ともぶつからない彼女の周りから、人の壁が、舞台の背景のよう
        に遠ざかっていく。
         祭りの灯りは、夜空に浮かぶ灯籠と融け合い。浮かぶ、暖かな灯りの
        中を、ネオンは走った。
         ただ1人の長い後ろ髪が近づいて)。
      • (ネオンは懐かしき後ろ姿を追いかけた
        群れなしていた人々は遠く離れ、舞台を囲む観客にも見えて
        その中をネオンは長き金の髪の姿を追い手を伸ばす
        しかし届かない、近づくのに届かない
        それはまるで幼き日にした鬼ごっこの様で)。。
      • 待って姉様!私……ッ姉様に言わなきゃいけない事が……! -- ネオン
      • (子供の頃、館の庭で追いかけあった時は、すぐにネオンが追いついた
        のに。
         前に伸ばしたその手は、いつまでも追いつけず)。
      • (楽しき遠き日々を思い出せば
        届かぬ姉の姿にネオンの瞳から涙が溢れだす
        幽霊の身になっても瞳は涙を零す事が出来てしまう
        それでもネオンは手を伸ばし追い続ける)
      • (不意に目の前に星の海が広がった、いや夜空へと登り行く灯篭の光
        周囲に祭は無く、気付けば海近くの高台にまで来てしまっていた
        そして求める姿は高台の頂、灯篭達の光を見上げる様に佇んでいて)。。
      • 姉様……。 -- ネオン
      • (ネオンは、駆け寄り。手を伸ばせば届く距離で立ち止まる)。
      • (ネオンの声に答える様に金の髪が揺れる
        横顔が見えた、それはあの戦いの中で見た年を重ねた女性の顔
        それが変わる、二人の母にも似た大人の女性の顔へと
        さらに変わる、ネオンの思い出に強く刻まれた人の顔へと
        その人は伸ばされたネオンの手に触れると握り締め、そして微笑むと涙を一滴)
      • やっと、握る事が出来ましたわ……。。 -- レイン
      • (ネオンは、再び、泣きだしそうな顔をして)
      • 姉様ぁ……。 -- ネオン
      • (彼女の姿も、50年前のあの日のままで。
         触れ合えば、もう思いは全て伝わっていた。
         それでも、ネオンは、言った)
      • ごめんなさい、姉様……。。 -- ネオン
      • ネオン…ううん、私の方こそ、ごめんなさい…… -- レイン
      • (握ったままの手をどちらからとも無く引くと、互いの身を強く抱擁した
        もはや肉の無い身なれど、体温を感じ、そして伝わり合う
        それは半世紀の間、互いの心のうちに封じ込めていた咎と枷と想い)。。
      • 姉様は、何も悪くなんか……。
        ううん……ありがとう、姉様。 -- ネオン
      • (高く登った灯籠の灯りは、いつしか夜空の星々と同じ小さな点とな
        っていた。
         天に瞬く星の時間からすれば、一瞬にも満たない時間。
         けれども、人が生きるにはとても長い時を経て。
         今やっと、想いは通じ合った)



      • (祭りの夜は、まだ終わらない。
         空に浮かぶ灯籠を飛ばすのも、1回だけではないので。
         会場へと、ネオンとレインが戻った時。人混みから外れるように、
        すこし離れた所に佇むアオイと遭遇して)
      • …会えたようだね。 -- アオイ
      • (2人の姿を見て、アオイが、そう言うと)
      • あー!お前ー!-- くろこ
      • (突然、水色のツインテールが割り込んできた。
         くろこさんだった)
      • あら、あなた私が見えるの?-- ネオン
      • (不思議そうに、ネオンが首をかしげ。横のアオイをみると。
        アオイは、肩に黒い仔猫を乗せてニヤッ、とした)
      • バイク!私のバイク弁償しろよー!! -- くろこ
      • バイク?……ああ、あの時の。
        嫌よ、あなたが、勝手に私の家に侵入したから追っ払っただけじゃ
        ないの。 -- ネオン
      • (ネオンは、そう言ってそっぽを向いて。
         横のレインは、苦笑いした)。
      • ああ、貴女がくろこの言っていた…… -- しろこ
      • (くろことネオンのやりとりを見ながらしろこさんが納得した様に頷いた
        祭の夜にあって普段と変わらぬメイド服姿なのは、夜店をやっていたからの様だ)
      • あの時は色々と大変でしたわね、うふふっ -- レイン
      • (ネオンとくろこのやりとりに苦笑を浮かべつつも
        それを見つめる姿はどこかで楽しげ
        朝顔色の浴衣をゆらしながら手を叩いている)。。

      • まだまだ続きそうですね。 -- アトイ
      • (遠く、眼下に祭りの灯りを見下ろしながら、アトイが言った。
         横に、クレハも居て。
         2人は、ドラゴンの頭の上に座っている。
         今、村中の人も、灯りも。学校の校庭に作られた祭りに集まってい
        るのだから。
         そこから離れた小さな社に、巨大化したドラゴンが居ても、誰も
        気が付かないだろう)
      • ……あの灯りを、私は、壊していたかもしれないんですね……。 -- アトイ
      • ふふっ、そうよ…? 後で長老に感謝しないといけないわね…… -- クレハ
      • (クレハは微笑むと意地悪な口調で告げて、アトイの額を指でツンっと突いた
        あれほど激しい戦いがあったと言うのに、村への被害は全くと言ってほど無かった
        どうやら皆の知らぬところで長老が何やらしていた様だ)。。
      • はい……。 -- アトイ
      • (肩を落として、アトイが頷く)。
      • うん、反省しているなら、よし…!
        長老が言っていた様に…これから色々学んでいけばいいの…ね…? -- クレハ
      • (肩を落とすアトイの頭に手を回すと、胸に埋める様にぎゅっと抱きしめ
        その頭を軽く撫でてから唇を寄せた)。。
      • クレハさん……。 -- アトイ
      • (アトイは、クレハに体を預けて寄りかかり)
      • はい。 -- アトイ
      • (頷いて、唇を重ねた)

      • (薄暗い、船内の医務室で、ムンガは目を覚ました。
         頭に巻かれた包帯で、右目は隠れていて。
         天井の、蛍光灯の灯りが眩しく、左目を細める。
         その視界に、ぼんやりと、誰かが覗きこんできて)
      • ……ッ!?ボス!? -- ムンガ
      • おはようございます。 -- _
      • (実った小麦畑の色をした長い髪を、かきあげて。
         柔和な笑みを浮かべた女は言った)
      • ケガが治ったら、また、お願いしてもいいですか? -- _
      • (どこまでも優しい笑みをして。柔い、男の声でそう言った)

      • (遠く離れた街の、夜も灯りの絶えない通りにある食堂で。
         ハウンドと、アルフリーダは向い合って食事をしていた)
      • アルフリーダ、まだ食べるのか。 -- ハウンド
      • (机には、皿の山が高く積まれていて)
      • 1年も土しか食べてなかったんですよ!?これでも足りないくらいです!
        あんの龍神め……。
        いつか同じ目に……いいえ、3倍返ししてやるわ! -- アルフリーダ
      • (燻製の鶏の骨までバリバリと噛むアルフリーダに、ハウンドは)
      • ところでアルフリーダ。私はもう金を持っていないんだ。 -- ハウンド
      • ……えっ。 -- アルフリーダ
      • (口から、骨をはみ出させたアルフリーダの背後に、エプロンをした
        屈強な男が立って)
      • は、ハウンド?あなた、まだスゥアは使えるのよね?ね? -- アルフリーダ
      • ……それは、ダメだろう。
        加護を受ける代わりに。龍神アトイを、二度と怒らせないと誓いを
        立てたのだから。 -- ハウンド
      • (ハウンドは、首を横に振って。アルフリーダは泣きそうになった)。

      • まぁ、たまにはのんびりした航海も悪く無いわね…… -- 真榊
      • (暗き海に溶け込む鋼鉄船の艦橋上に女がいる
        ステルス巡洋艦「浅草寺」の艦長、キャプテン真榊だ
        いつもならばフラッグの如く舞い踊る彼女のマントも今日は大人しい
        爆破により受けたダメージで船の速度が出無いからだ
        それでも九割近くにまで回復しているのだからクルーの優秀さがわかる)
      • …ん、鬼火? 違う…灯篭ね
        どこかで灯篭飛ばしでもやっているのかしら、これは縁起が良いわ
        次は北だったわね、うん行けそう! -- 真榊
      • (腕を組み仁王立ちする彼女の視界の隅に光が見えた
        うっかりすれば見落としそうな淡い光、小さな小さな光の群れ
        ふわふわと鬼火か蛍の様に漂うそれを彼女の目は灯篭と理解した
        おそらくどこかの祭から流れて来たものだろう、彼女はそれを吉兆と捉えた

        次の任地は北方、今回の失敗の咎め無くボスに言い渡された任務であった)。。
      •  
      • はーい、それじゃあ火をつけてくださーい。 -- ミア
      • (ミアがメガホンを構えてそう言うと。
         暗がりの中に、蝋燭の光が次々に浮かび上がる。
         祭りの会場から少し離れた、コンクリートの広場で。灯籠に、一斉に
        火が灯されたのだ)
      • あれ、このマッチ湿気ってる。
        あ、ありがと……火打ち石? -- すみちゃん
      • (すみちゃんが、火を付けるのに手間取っていると。
         向かいに居たしらせ君が、火花を散らして着火した。マグネシウム
        ライターであった)
      • 私、これに掴まってたら飛べないかな……。 -- ちはや
      • いや、ムリだろう。 -- 兄貴
      • (中学生なのに背の小さな、ちはや姉が言うと、頭2つ分は背の高いアニキが
        返す。
         アミとロワナの学校の友達も、みんな来ていた。
         ソア先生に監視されつつ。サムとオリバーも居た。
         他にも村人たちも、それぞれに灯籠を飛ばす準備をしている)
      • あ、おじいちゃん! -- アミ
      • (ロワナと一緒に、灯籠を押さえていたアミは、周りを囲む見物客の中に
        宗右衛門の姿を見つけると、手を振った)。
      • おじいちゃん!こっちこっちなのー! -- ロワナ
      • (灯篭を押さえたまま大声で存在を知らせる
        多くの人の中にあって金の髪の双子は遠くからでも良く目立つ)
      • はーい、灯篭に仕掛けは無さそうですねー?
        あらあら?宗右衛門さんこんばんわ -- ソア先生
      • (サムとオリバーの灯篭をチェックしていたソア先生が顔を上げた
        上から下まで確認をしたが、二人の灯篭に妙な仕掛けは無い様に見えて……)。。
      • (宗右衛門も軽く頷いて会釈して、アミとロワナの横に立つ。
         2人が、両手で支える灯籠は、丸く膨らんでふわりふわり、と浮かぶ
        光の玉になる)
      • 3つ数えたらいきますよー! -- ミア
      • (再びミアの声がして。
         3つ数えて。灯籠は、手を離れて一斉に空へと飛び出した。
         地上に咲いていた、光の花が、風にのって運ばれるように浮かんでいく……。
         校庭の片隅で、屋台の屋根から登る光の群れが見えて。
         海辺、暗い林の梢からもその光を、見上げることができる。
         遠くの街でも、気づく者がいるかもしれない。
         灯籠は、風に押されて、水平線の向こうへと、流れていく。
         地上から離れて、すぐに小さくなった光は、高く登る程に、その輝き
        を遠く遠くまで届かせた)。

      • (灯篭飛ばしの会場から少し離れた岬に人影があった
        足を胡坐に組み長い髪を纏う横顔はどこか幼ささえを感じる
        しかし手に持つは貝殻を削り作りだした盃
        盃に満たされた液体に星と夜空に登る灯篭の光が降り注ぐ
        彼女は祭この日のこの位置からの眺めを気に行っていた
        地の輝きと天の輝き、そして海へと映る全ての輝きの見えるこの眺めを気に行っていた

        毎年のこの日のこの素晴らしき眺めを彼女は知っていた
        最初は篝火を灯すだけだった祭が
        やがて光が天へと登る祭へと変わって行ったのを彼女は知っていた
        あの地で小さな少女二人が、皆を幸せへと導いたのを知っていた

        今年今宵の酒はいつにも増して甘露なりと彼女は思う
        来年の酒は如何に?それは若き竜神そして寄り添う人魚次第か?
        そんな事を考えれば彼女の酒はますます進み
        遠く聞こえる祭の音と登り行く光は留まる事を知らず
        祭の夜はこうして更けて行くのであった)

小さな愛の物語 Edit





    • (祭の夜はまだ続いている
      祭囃子の音は村の隅々にまで染みわたり、揺れる草木さえも舞う様に見え
      そんな草木の合間を風が行く、さわさわそよそよと草木に新たな踊りを教えながら
      やがて風は古き蔵を遊び場とする様に通り抜けて行く
      蔵の中には一冊の日記帳、開かれたままの古びた日記帳
      幼き姉妹に古き記憶を伝え、果たせなかった願いを伝えた日記帳
      通り抜ける風はぱらぱらと日記帳を捲り
      合わせる様に錆びたオルゴールが音色を奏でる
      語られるは日記帳に記されたもう一つの物語、小さな愛の物語)

      • 『あの頃の私の記憶は僅かしかない
        見る事も聞く事も出来た、なのに全てが流れる水の様に零れて行く
        だからこれは後から記憶の断片を繋ぎ合わせ記した物で、もはや日記と呼べるかも怪しい
        それでも書き残そうと思う
        いつかきっとこれを読むであろう愛おしい者達のために』
      • 『あの日、私は彷徨っていた
        炎の迷宮の中を、あの後ろ姿を追いかけながら
        息が切れ灰が焼けるほどに熱くなっても走り続けた、しかし追いつけない……
        あの炎の夜が明けてなお、私は夜の中にいた』

      • (古びた日本家屋の一室で少女が眠っている
        まるで人形の様に血の気の無い顔
        口から時折零れる呻きだけが少女が生を伝える)。。
      • (青白い月明かりが、窓枠の影を、少女の眠る布団の上に落としていた。
         部屋には、他に明かりは無く。影の中に蹲るように誰か座っている。
         体格は男である、微かな明かりに浮かぶ目鼻からして少年のようだ。
         宗右衛門だった。
         彼は、こうして、陽の暮れる前からずっと、眠り続けるレインを見
        守っていた)。
      • …う…うん…… -- レイン
      • (宗右衛門が見守り続けどれほどの時が流れたであろうその時
        眠り続ける少女に変化が起きた、身悶える様な声
        そして、閉じられたままだった瞼がピクリと揺れた)。。
      • レイン……。 -- 宗右衛門
      • (布団の側へ膝をつけて、宗右衛門は、静かに呼んだ。
         月の明かりが、包帯の巻かれた腕や足を照らす。
         包帯の、所々に浮かぶ黒い斑は、血の滲んだ跡である)。
      • ……ぁ…… -- レイン
      • (ゆっくりと瞼が上がり、淡い緑の瞳が露わになるも
        その視点は定まらず、まるで夢の中を漂うに揺れていて
        宗右衛門の呼びかけの声にもすぐには反応が無く)。。
      • レイン。 -- 宗右衛門
      • (少し不安気に、もう一度名前を呼ぶ)。
      • ……そ…うえも…ん…? -- レイン
      • (呼びかけに反応があった、しかしその瞳は未だ虚ろで
        まるで自分を自分と感じていない様にさえ見えて)。。
      • ああ……俺は、ここに居る。
        ……大丈夫だ。 -- 宗右衛門
      • (唇を噛み締め、宗右衛門は、掛け布団の上に投げだされていたレインの
        手を取って両手で握る。
         そのまま、蹲るように布団に額をつけて。
         レインの手を、強く抱いていた)。

      • 『覚えているのは宗右衛門の手の温もり
        ともするれば散り砕けそうになる私の意識を繋ぎとめたのは
        この手の温かさ、彼の存在が無ければ私の心は砕け散り
        狂気のそこへと落ちていたろう
        聞けば医師の診断では私はもう目覚めないかもと言われていたらしい
        永遠に悪夢、炎の悪夢から抜け出せなかった可能性を想像すると
        今だに背筋が冷たくなる
        あるいはそれがネオンへの償いとなったろうかとも
        しかし、私が悪夢から真に解放されるにはまだまだ時間を要した』

      • 『当時の私は闇を恐怖していた、だって知ってしまったから
        闇の奥にある物に、闇の奥に置いてきてしまった物に
        私は夜の闇を恐れた、一人きりになるのを恐れた
        だから当時の記憶の大半を恐怖と非現実が締め
        時に子供の様に泣き叫ぶ事さえあったと聞く
        それを支えてくれたのは、やはり宗右衛門の存在だった
        ネオンへの罪を感じつつも、私は彼にすがるしか無かった
        だが今ならわかる、彼もまた恐怖していたであろう事を
        彼も私と同じ様に知ってしまったから、闇の奥にある物を』

      • 『あの夜から数日して、メイドが尋ねて来た
        長年、私達姉妹を世話してくれたあのメイドだ
        彼女もまた身辺整理等で大変な状態ではあったが
        彼女は私の世話を申し出、宗右衛門の両親はそれを快く了承したと聞く
        この日記でこそしっかり書いているが
        当時の私は精神希薄状態で状態で
        目を離せばすぐに部屋を抜け出し彷徨しだす
        大体の目的地は山の方らしいが
        そんな状態だったらしい

        だから今でも思う
        彼の…宗右衛門の決意が如何に無謀であったかを……』。。

      • (宗右衛門は、デッキブラシで漁船の甲板を擦った。
         魚の血や鱗は簡単に擦り落とされて、バケツの水で洗い流される)
      • ……ふぅ。 -- 宗右衛門
      • (シャツを肩までまくり上げた彼は、額の汗を拭う。
         ネオンの焼失したあの夜から、半月が経っていた。
         日に焼けた腕に、真っさらな包帯が巻かれていて。もう、父親の漁を
        手伝える程には、宗右衛門は回復していた)
      • ……あ。 -- 宗右衛門
      • (ただし、それは肉体だけのことである。
         宗右衛門は、ブラシの柄を両手で持ち、漁港から村の方を見つめる。
         漁のおこぼれに与ろうと、宙を旋回するカモメの群れの下に。
         長身なメイド服姿の人影に、手を引かれて。ふらふらと歩くレインの
        姿が、小さく見えた)
      • …………ッ痛ヅ!?何すんだ親父。 -- 宗右衛門
      • ぼさっとしてんじゃねぇ、上がんぞ。
      • (バケツで、いい音を鳴らされた頭を、宗右衛門は撫でた)
      • 昨日も、嬢ちゃん大丈夫かって赤城んとこのばぁさんに聞かれたな。
      • (漁港から、家へと向かう道で。
         普段はひどく寡黙な宗右衛門の父が、宗右衛門の見上げる背中越しにそう言う)
      • ……うん。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、ただ、頷いて答えた。
         隣人が、様子を聞きに来たのは、レインの身を案じてではない。
         山の館に住む一族は、村の住人と付き合いがほとんど無いという事も
        あり。また、代々非常に裕福な大地主でもあったので。
         嫌われている、という程もないが。
         異質なモノである。と村人に思われて居たのは、宗右衛門も知
        っていた)
      • 気の抜けたぁ返事してんじゃねぇ。
      • (親父はただ、それだけ言って。
         後は、無言で父子は、家への道を歩いた。
         ちょうど、メイドに手を引かれたレインと合流する道だった)。

      • 『そう、私は知らなかったのだ
        あの家が私の血が村人にどの様に思われていたのかを
        いや、目を逸らしていたのだろう
        ずっとずっと目を逸らしていたのだろう
        あの家に私の血に宿る薄暗きモノに
        だから当時を思い返す度に思い知らされてしまう
        私が如何に子供であったのかを

        貴方がいなければ私はきっと……』。。

      • 私達は、屋敷へ戻らせて頂こうと思います。
        今までの格別のご厚意、大変感謝しています、と。
        レインお嬢様が仰っていましたので。
         代わって、私めがお伝えさせていただきます。
      • (9月も終わりになろうという頃である。
         レインが、宗右衛門の家へ来てから、20日ばかりも経って。
         その日も、漁から戻った宗右衛門と、親父が居間に座ると。
         俯いて、正座したままのレインの横で、折り目正しく、メイドが頭
        を下げながら、そう言った)
      • あれまぁ、うちの事なら気にしなくていいんだよ?
        元々無駄にでかい家に、親子3人だ。
        飯を作るのも、頭数多い方が、作りがいあるんよ?
      • (台所から、暖簾をかきわけて居間に顔をのぞかせたのは、宗右衛門の
        母親である。
         メイドさんの言葉に、黙して腕組みした宗右衛門父子2人の代わりに
        彼女が、そう答え)
      • ありがとうございます、お気持ちは嬉しく思いますが
        お嬢様がお決めになった事ですので……
      • (メイドさんは小さく頭を垂れると
        その隣で正座したまま黙しているレインに短く視線を
        それを受ける様にしてレインはコクリと頷いた)。。
      • レイン……大丈夫なのか? -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、今一度確かめるように言った
        この2〜3日で、夢遊病患者だったようなレインの容態は大分回復
        しているようではあったが)。
      • ……うん…大丈夫…… -- レイン
      • (宗右衛門から質問に対し、レインは数秒の沈黙の後、短く返答した
        迷っている様にも決意している様にも、どちらとも取れる表情)。。
      • (宗右衛門は、レインをじっと見つめたが、それ以上何かを言う事は
        できなくて)
      • 好きにしな。
      • (腕組みをしたまま無愛想に答えたのは、宗右衛門の父であった。
         母は、困ったように笑って)
      • ちょっとくらい引き止めてあげなよ?
        ほんとに口下手だね、うちの男共は。
      • レイン! -- 宗右衛門
      • (不意に、宗右衛門がレインの名を強く呼ぶ)。
      • …ふぁ…!? -- レイン
      • (沈黙のまま俯いていたレインだが
        宗右衛門の呼びかけに、全身をビクっと震わし顔を上げた
        そして反射的に短く返答とも吐息とも付かぬ声を発した)
      • 俺と結婚してくれ! -- 宗右衛門
      • (突然、宗右衛門は言った。
         あの夜、怪物を目の当たりにしても動じなかったメイドさんは、目
        を丸くしたまま固まり。
         台所から覗きこんでいた母は、引止めろとは言ったが、求婚しろとは
        言ってないという風に手から菜箸を取り落とし。
         寡黙な親父は、腕組みをしたまま彫刻のごとく微動だにしない)。
      • ………え…? あ…ああ……… -- レイン
      • (全てが停止し時が止まったのかの様にさえ思えてしまう世界
        宗右衛門の細かな呼吸音だけが妙に大きく聞こえる
        そんな中、最初に声を発したのはレインだった
        最初は驚きの声、続いて嗚咽の様な短く続く声
        顔には驚きが刻まれ、それが徐々に朱へと染まって行く)

      • 『当時の記憶が曖昧な中、年輪と共に虚ろい行く中
        この日この時の記憶だけははっきりと覚えている、忘れない
        彼の言葉を そして 自身の恥ずかしさを(何か書いて消した跡がある)』。。

      • (親父は、やおら立ち上がり。グローブを嵌めたようにでかい拳で、
        鉄拳を放った!
         宗右衛門の体は、縁側の窓を突き破って庭へと吹っ飛ぶ)
      • ま、窓!……じゃなくて、宗右衛門様!?
        あ、あの血が……。
      • (ガラスの砕ける音に、驚いたメイドが思わず腰を上げる)
      • このくらいどうって事ぁねぇよ。
      • (親父殿の言葉の通り、庭まで殴り飛ばされた宗右衛門は、体を起こ
        した。
         縁石にでもぶつけたのか、額が割れて血を流していたが。彼は、立
        ち上がり)
      • お前よぅ、お嬢さんが大変だって時にだな……。
      • レインを、独りにさせたく無いんだ。 -- 宗右衛門
      • (宗右衛門は、静かに、だけどはっきりと言った)
      • 俺も、あの夜に、あそこに居たから……。
        レインは、自分が一番傷ついてるのに、なのに、何にもできない俺の事
        まで心配して……。 -- 宗右衛門
      • (だから、屋敷へ戻ると。そう言ったのだと宗右衛門は思ったから。
        ネオンを、自身の命すら投げ出して救おうとしたレインを知って
        いるから。
         真剣な声に、親父も立ったまま腕組みして黙し)
      • 俺もネオンを探す、必ず助けだそう!独りじゃだめだ、2人でやるんだ!
        レインが、笑って居るのが。俺は一番好きなんだ。
        俺が側に居る。ずっと居る。
        だから……もう、泣かないでくれ……。。 -- 宗右衛門
      • ご…めんなさい…私、涙が…止まらない……
        笑いたいのに上手く笑えない…でも…… -- レイン
      • (レインの瞳から涙が溢れる、名の通り雨の如く
        それでも笑おうとするものだからぎこちなくなってしまう)
      • 一緒に笑っても…いいですか…? -- レイン
      • (レインが立ち上がった。陽炎の様に揺れる足で身を支え
        何度も倒れそうになりながら立ち上がった
        しかしまた倒れそうになってしまう
        今度はメイドさんが背を支え、そっと背を押した
        レインは頷くと宗右衛門の方へと向かって歩き出した)。。
      • (それを見た、宗右衛門の母は、日に焼けた顔に岩のような深い皺を
        寄せたまま黙る親父殿の肩を、ぽん、と叩き。
         宗右衛門は、腕で額を拭うと、素足で庭の土を踏み、レインの側へと
        歩み寄り)
      • 初めてあった時も、そんな顔してたな……。
        俺は、それがずっと忘れられなかったんだ。 -- 宗右衛門
      • (縁側に立ったレインの手を、優しく握って、言った)。
      • 言っとかなきゃならねぇことがある。
      • (メイドに支えられながら、レインが振り向くと、腕組みをしたままの
        親父殿が険しい顔で立っていた)
      • 結婚はダメだ。
      • 親父! -- 宗右衛門
      • (宗右衛門が、叫ぶと、腕組みを解いて手で制し)
      • ふざけてんでも、バカでもねぇのは分かったよ。
        でもな、仕事もロクに覚えてねぇガキに、嫁はまかせらんねぇからよ。
      • (ガラスの破片の散った床に、親父は、あぐらをかいて座り)
      • 倅ぁ、甘ったれで頭も悪ぃが。
        俺がちゃんと一人前にする。
        だから、お嬢ちゃん、少しばかりここで待っててやってくれねぇか。
      • (そう言うと、拳を床につけて、レインに頭を下げた)。
      • は…はい…待ちます……
        わ、わたし…何年でも待ちます…! -- レイン
      • (この日一番の大声をレインは上げた
        波音に負けるほどの小さな大声、しかし強く響く声
        その声に親父殿は頷くと大きく笑った
        近所の皆さんが何事かと覗きこむほどに大きな笑い声を上げて)

      • 『この日から数年後、宗右衛門と私は祝言を上げた
        多くの祝福を得られたのはお父様とお母様の力に寄る所が大きい
        お二人は私の事を実の娘の様に愛してくれた
        その感謝を私は娘を孫達を愛する事で返したい

        宗右衛門は良く語っていた
        どんな傷もこの額の傷に比べれば擦り傷みたいな物だと
        それを聞くたび私は笑顔で頷いた
        私は知っているから、あの額の傷には全てが籠っている事を

        ちなみにあのメイドはその後、主従の立場から友人となり
        私達の長き友として村にと…(染みで読めない)

        私は思う、いつか私の受けた愛をネオンとも分かち合いたいと
        長い長い時がかかろうと、私には予感があるから……』

      • (風にページが捲られ、オルゴールが止まる
        遠く聞こえた祭囃子は波音へと変わり
        混じり聞こえてくるのは姉妹と老人の笑い声
        やがてそれも聞こえなくなると
        蔵の窓から見える小さな夜空に寄り添う二つの星が煌めいていた)

        夏休みの話(仮)了-- ▲【戻る】

Last-modified: 2016-03-26 Sat 07:18:12 JST (1703d)