医者を探してみた Edit


  •  昨日、雨が降った。
    一昨日までは、厚い入道雲が濃い青色の空に浮かんでいたのに。
    今日は、綿雲が高い空を静かに泳いでいる。
     ハウンド達と戦った嵐の夜の後、ずっと穏やかな天気が続いていた。

    • 「以前、宗右衛門さんに、祭りが終わると一気に秋になると聞きまし
      たが。本当にそのようです」。 -- アトイ
      •  この村の例年に比べると、本当は異常なくらい暑いのだが。熱帯の
        気候の方が好みなアトイはそう言って。
      • 「ええ…でも、暑さが過ぎるのはまだ先になりそう…ふぅ」 -- クレハ
      • クレハはそう告げると、寝転がったまま吐息した
        アトイの言う様に暑さは秋へと向けて日々弛みつつある
        しかし、寒冷地人魚の血を引くクレハにはこの残暑はまだまだ厳しく
      • 「みー」
      • 転がるクレハの胸の上から猫の様な鳴き声、アトイのミニドラだ
        くつろぐ時はクレハの腕の中で弄られる事の多いミニドラだが
        今日はその身からほんのり冷気を発し、クレハの身を冷やしている。。
      • 「また南極から、氷をここに持ってきましょうか、クーラーよりそっち
        の方が好きですよねクレハさん」 -- アトイ
      •  パシャリッ、と音を立てアトイは、水面を素足で弾く。
        水音は、屋根に反響してリビングの中にまで涼しげに響いた。
         アトイの家のリビングは、庭に面した縁側と、海水を引き込んだ舟屋
        に挟まれている。
         本来、舟屋は漁船などを引き揚げておくための、ガレージのようなも
        のだが。この家のは、海の上に、床の無い部屋を建ててあるといった
        風である。
         壁の一面が無くて、海に口を開けているのだから。小さな洞窟の
        ようでもあり。
         当然、使い道も船の碇泊所ではなく。リビングの床から一段低くな
        った所に腰掛けて、尾びれを海水に浸すクレハのためである。
         時折、人魚の姿にならないと体調を崩すことがあるので。こうして、
        リビングにいながら海水浴ができるのは、なかなか便利なのだ。。
      • 「うん、お願いしようかしら…? あの時の氷のベッドは心地良かったし
        やっぱりクーラーの冷気は少し硬いのよねー……」 -- クレハ
      • アトイの言葉を聞けばクレハの瞳はキラリと輝き
        水に浸けたままの人魚の尾びれははしゃぐ様に水を叩いた
        『あの時』とはクレハの母『レヴィア』が尋ねて来た時の事だ
        アトイは暑さに弱いレヴィアのために
        南極から運んできた流氷でベッドを作り上げたのだ。。
      • 「お安いご用ですとも」 -- アトイ
      •  言って、アトイはにんまりと笑った。しかし、すぐ笑みは引込み。
        考え込むように上を見上げた。
         天井の無い屋根に、海面に反射した陽射しが、ゆらゆら、と揺れて。
      • 「あー……でもいいのかな?」 -- アトイ
      •  自分の長い黒髪のツインテールから、毛を一掬い指先に絡めて回
        しながら、アトイは、呟いた。。
      • 「ありがと…ん、どうかしたの…あ……」 -- クレハ
      • 笑みを交わし合うも、笑みを崩すアトイにクレハは小さく首を傾げた
        気付けばミニドラの尻尾も力なく垂れている
        その理由をクレハは直ぐに察した
        なにより、ここ数日アトイはその事ばかりを考えていたから
      • 「…ふぅ、また考えていたのね…?
        でも、いいんじゃないかしら…? 何も無いのは、ほら、ここが平和と言う証だと思うの」 -- クレハ
      • 胸に抱いたままのミニドラを転がす様に撫でると、諭す様にアトイに告げる
        アトイの悩み、それは……
        長老…海の神にこの村の守護を任された事
        そして、守護神として何をすれば良いのかわからぬ事
        そして、今日まで特に何もしていない事……。。
      • 「元々平和で長閑だから、越してきた場所ですからね。
         私が、何かの間違いで暴れでもしない限り、当然穏やかなわけで」 -- アトイ
      •  ふっ、と皮肉っぽい笑みに顔を歪ませて、アトイは視線を逸らす。
        丈の短いミニスカートな和服の裾から伸びた素足で、海面を蹴った。
         波紋は、静かに広がっていく。
      • 「しかしこう、神様やることにはしましたけれど……。誰に告知したで
        も無し、守護と言っても外敵が居るでもなし。
         結局自分の生活のためにしか力を使ってないんですよねー」 -- アトイ
      •  嵐の夜の一件の後、長老様に言われて、アトイはこの村一帯を守護す
        る神をすることにしたのだ。
         元より、古の龍と生命を生み出す不思議なナニカの間の子である。
        アトイにとって、無茶な話しではなかったが。
         アトイが、仰け反ってリビングを覗くと、分身したアトイがPCの前で
        事務処理などをしていた。
         輸入雑貨の個人通販が、アトイの主な生業で。神の力を持つアトイに
        とって、人手を自分一人で賄う事など朝飯前であった。
         いくら働かせても、販管費も保険も発生しない夢の従業員はアトイ
        の力のうちである。
         今はクレハの冷えピタになっているドラゴンも、山脈をも凌駕する巨
        体となり、天に輝く星を地に生み出せる桁外れの存在で。
         アトイが、やれる気がしますと言えば、一切れのパンが5千人前のシ
        カゴピザになり。うっかり首を切り落とされた者があれば、何かカッコイイもの
        を3つ代わりに据えてキングギドラっぽくできるのだし。
         東に人を食らう怪物があれば行ってむしろ食ってやり、西に海を荒
        らす化獣があれば、行って海を酒に変え、酒池肉林の肴としてその肉
        を供してくれる。
         はっきり言って、アトイは、そのぐらい無敵である。
         しかし、その無敵の力を振るうどころか、小さな田舎村の守護という
        簡単な仕事に手をこまねいて、何もしてないのだ。。 -- アトイ
      • 「…長老の事だから何かしらの考えはあると思うのだけど……
        なんか、うまくかわされっちゃったのよねー…むぅ」 -- クレハ
      • 先日の事件がイレギュラーなだけで、平時のこの村は極めて平和だ
        村人同士の喧嘩があっても夜には酒を飲み笑いあい
        大漁や豊作になれば皆で喜びあう
        起きる犯罪も子供達の悪戯レベルのささやかなもの
        そんな呑気を絵に描いた様な村で、無敵の竜に何をせよと言うのか
        二人にはとんと見当もつかず。。
      • 「地を豊かにし、海に魚を増やして、嵐や干ばつから守るっていうのも
        一応考えましたけど」。 -- アトイ
      • 「あー…ここ海の幸も山の幸も十分に豊かだものね
        嵐はたまに来るみたいだけど…そのくらいか……」。。 -- クレハ
      • 「道が不便で、大都市圏からアクセスが悪いこと位ですからね。この
        村の問題って。
         おかげで、人が増えすぎず自然と、山も海も豊かなのですが」 -- アトイ
      •  つまり、現状アトイが世話をしてやる必要が無い。
         観葉植物等を買ってきては見たが、水やりも肥料もほとんど要らず、
        まったく張り合いが無い時の気持ちに少し似ている。
         忙殺は望む所では無いが、これはこれで、物足りなくもある。
         神ではあるが、アトイは、そんな人間臭い感性をしていた。
      • 「邪魔するわよ。
         あら、アオイは居ないの?」 -- ネオン
      • 壁から首が生えた。
      • 「あ、あった。問題」 -- アトイ
      • その首を見て、アトイは露骨に嫌そうな顔をした。。
      • 「わっ…!? なんだ…ネオンか……
        こんにちは、幽霊にこんにちわって言うのも妙な感じだけど……
        アオイさんなら向こうの世界に帰ったわよ…?」 -- クレハ
      • 幽霊が苦手なクレハ、突然の怪現象に悲鳴を上げそうになってしまう
        しかしそれが見知った顔と分かればほっと息を吐き落ちつきを取り戻す
        胸に抱かれていたミニドラはむぎゅっと潰れたが
      • 「ですわよねー
        やはり幽霊は夜に動いてこその風情と思いますわ?」 -- レイン
      • 今度は天井からネオンとそっくりな顔の少女が降ってきた
        ネオンの双子の姉にして、アミとロワナの祖母レインだ
      • 「ひゃぁっ? その出現の仕方は風情ありすぎるかも……」。。 -- クレハ
      •  壁をすり抜けてきた幽霊2人。
        しかし、体は透けておらず。レインは、振袖に鮮やかな金髪ロングで、
        ネオンは、カジュアルなカントリードレスにおかっぱの金髪である。
        金髪は、クレハも同じなので、空間における金髪濃度は濃密となる。
      • 「クレハさんは、お化けとか苦手なので。
         あまり驚かせないであげてください、レインさん」 -- アトイ
      •  ネオンには、遠慮なく不快感を顕にしたアトイだが、レインにはそ
        うも行かないので遠慮しなさった。。
      • 「あらあら、そうでしたの? 次から気を付けますわ」 -- レイン
      • 「へぅ、そう言う事なので…ん、でも…今日は何の用で…?」 -- クレハ
      • あの夜の件が概ね解決した今
        幽霊姉妹二人がこの家に尋ね来る理由をとんと思いつかず
        それでもとしげしげ姉妹を観察すれば
        ネオンの方はなにやら随分と印象が変わった様にも見えて
      • 「あら、この服気になる?
         昔着ていたのを引っ張りだしたのだけれど」 -- ネオン
      • クレハの視線を、そう解釈したネオンは、その場でくるりと回って見
        せた。
         回っても体の軸はブレずに、まるでバレエのようである。
      • 「用が無いなら帰りなさいよ、私は忙しいんです」 -- アトイ
      •  右膝に左足を乗せて、左膝に肘を乗せ、拳で頬を支えながらアトイは
        言った。
         普段奔放な振る舞いをするネオンが、所作の根の部分に、上品さを
        持っているとしたら、アトイはその逆を行く。
      • 「暇そうにしてたくせに。
         地下の黒いネバネバが、ここ数日ざわついてるから、わざわざ教え
        に来て上げたのよ」 -- ネオン
      • 「ネバネバ……、むっあの邪神の黒い粘体ですか」 -- アトイ
      • アトイは、足を下ろすと腕を組み、真面目な顔になった。。
      • 「ざわついているって…また何か起こるの…?」 -- クレハ
      • 「なんと言いますのかしら? 地脈にこうピリピリと緊張した空気を感じますの
        ネオンも同じ様な物を…ね?」 -- レイン
      • レインは頷くと下を指差しながら語りネオンに視線を。
        姉妹の言葉を聞いたクレハはアトイへ驚きの顔を向ける
        長老から邪神の管理を託されたネオン
        アミロワナ姉妹とネオンを見守る祖霊としてこの地に留まるレイン
        それぞれに守護する者としての立場を持つ身
        その言葉はまごうかたなき真実であろう。。
      • 「長老様が、私と戦った黒い粘体の怪物は全体のごく一部で。
         大部分は、ここの地下で地層を成してると言ってましたね……」 -- アトイ
      •  二週間ほど前の嵐の夜、地層を成す黒い粘体が、怪獣になってアトイ
        のドラゴンと怪獣映画さながらの大激闘をしたのだ。
         発端は、ハウンドと言う少女の復讐であり。ネオンは、彼女に力を
        貸して、何世代にも渡り、地下の黒い粘体を信仰にも近い執着で研究し
        続けてきた一族の力を使ったのだ。
      • 「また、あの時みたいな事になるのだけはごめんですよ」 -- アトイ
      •  アトイは、自分に言い聞かせるようにそう言った。
         視線をそむけるアトイに、ネオンは。
      • 「当然よ。
         もう、姉様や、姉様の孫達を危ない目に合わせたくないもの」 -- ネオン
      • 姉様とは、横に浮かぶレインである。
        そして孫達は、アミとロワナの姉妹の事で。
      • 「アミロワちゃん達は、私の友達でもあるのです。当然です」 -- アトイ
      • 「だから、こうして来たのよ。
         あの黒い粘体は、もう広範囲に地形と融合して動かせないんだから。
         ヴァイアは、私と姉様に、アレを見張っておくよう言ったけど。
         この地を、厄災から守るのがあなたの仕事でしょう?」 -- ネオン
      •  ヴァイアは、長老様の名前である。
         見た目は普段のアトイと同様童女であるが、理性を失くして暴れる
        アトイを、げんこつ一発で沈黙させた事がある海の竜神である。
         そして、クレハの故郷、遥か極北の海が住処であり。
      • 「あーもう!長老様ってば!帰る前に、もうちょっと引き継ぎの説明
        くらいして行ってくれればよかったのにー!」 -- アトイ
      •  アトイは、両手を突き上げ、天井に吠える。
        そして、そのまま仰向けに寝転がってしまった。
      • 「何をどうすれば良いのかわかりません!
         大体、私が神として力を振るったら、馬鹿力すぎて色々大惨事では
        ないですか。
         こないだだって、そうだったし……」 -- アトイ
      •  やる事が無くて暇を持て余していたのに、案件が舞い込んで来たら、
        不貞腐れてそっぽ向いてしまった。。
      • 「アトイさん……」 -- クレハ
      • 不貞腐れるアトイにクレハは小さく溜息し
        幽霊姉妹に苦笑を向けながら肩を竦めた
      • 「どうにかしたいのはアトイさん自身が一番良く分かっているから……
        あまり気を悪くしないでね…?」 -- クレハ
      • 「ええ、無敵と万能は似て非なる物と言う事ですわね
        また何か変化があったらその時に……」 -- レイン
      • レインはクレハの胸の上でへたるミニドラを指で突くとクスクスと笑みを浮かべた。
        実際のところ、ネオンもレインもどうすれば良いかわからないと言うのが現状なのだろう
        邪神のざわめきが地震で言う所の余震なのか予兆なのか……。。
      • 「……ふぅ、ハウンドに利用されてた私が、言うのも何だけれど。
         正直、守護の任なら、今の私のがちゃーんとやれてるようね?」 -- ネオン
      • 「あ?」 -- アトイ
      •  寝っ転がっていたアトイが首を起こして、ネオンを睨む。
        クレハに抱かれた小さなドラゴンも、ギッと眼光を鋭くした。
         しかし、ネオンは怯まず。
      • 「あなた、ヴァイアが帰ってからずっと家でゴロゴロしてるだけじゃ
        ない。
         私は、ちゃんと屋敷の地下を調べたり。先祖の遺した魔導書や稀覯
        書の類を調べたりしてるのよ」 -- ネオン
      •  手を当てて胸を張るネオンに。
      • 「へえ、最近の魔導書は、挿絵と振り仮名でもついてるんですかね。
         それとも、全部ひらがなで書いてあるんですかぁ?」 -- アトイ
      •  嫌味たっぷりな笑みを浮かべて、アトイが言う。。
      • 「アトイさんったらまた喧嘩腰で…はぁ…もう……」 -- クレハ
      • 「ネオンは昔から魔導の才はありましたのよ?
        複雑な書物を紐解くのも得意でしたわね」 -- レイン
      • アトイとネオンの喧嘩の様なやりとりにクレハは頭痛の様な物を感じてしまう
        この二人は出会いの時から相性の悪さを醸し出していたが
        ここまで引っ張るとは想像でも出来ず。
        その一方でレインはミニドラを突きながら楽しげに語る
        まるで思い出話でも語る様に瞳閉じれば口元は笑みで緩み
        このあたり大物なのかもしれない
      • 「でも良かったわ、ネオンにも喧嘩友達が出来て
        ネオンったらずっと引き籠っていたから、お姉ちゃん心配で心配で」 -- レイン
      • レインは着物の袂を口元に当てると
        よよよと泣き崩れるようにしなを作りなさる
        この姉、大物と言うよりマイペースなのか?。。
      • 「「友達じゃない(ですわ!)(です!)」」
      •  お約束の如く、アトイとネオンの声がハモって、舟屋に反響した。
         2人は、ギッ、と視線をぶつけ合い。
      • 「……大体ね、あなたは守護って柄じゃないのよ」 -- ネオン
      •  ネオンがそう言うと。
         見たら発狂モノの、人類以前から存在する何かを祀る巫女が、よく
        言いおる、とアトイは思ったが。
         アミロワの祖母であるレインも同じ邪神の巫女なので、腕組みしたま
        まで黙る。それを、ネオンは、図星を突かれて言い返せないのだと判
        断すると、腰に手を当てて。
      • 「あの夜だって、姉様達や、アオイに止められなければ。
         あなた、本当に何もかも壊してしまうところだったじゃない」 -- ネオン
      •  これは、図星だったので、アトイは、今度は本当に黙ってしまった。。
      • 「ネオンお友達に言いすぎですよ?
        アトイさんだってあの晩の事は反省されているのですし」 -- レイン
      • ここぞとアトイを攻めるネオンをレインの声が止めた
        ふわりとしているのにどこか芯のある声
        指をぴっと立てやんわりネオンを窘めた
      • だがしかし、やはりレインの中ではアトイとネオンは喧嘩友達との認識の様だ
        確かに50年ほど喧嘩等とは無縁だった妹に
        そんな相手が出来たのはある意味喜ばしい事なのだろう
        だから、ネオンを窘めた後その頭をぽふぽふと撫でれば笑みを浮かべた
      • 「ええ、アトイさんもその変は良く分かっているし……
        長い目で……」 -- クレハ
      • 「キュー」
      • 「きゅー…? あら…イルカさん…?」 -- クレハ
      • レインとクレハによって場が落ちつきかけた所に登場するは
        あらたな来客の声、鳥の様な猫の様な高い声を持つ来客、イルカだ
        イルカはアトイとクレハを見上げる様にしながら鼻っ面を海面に出している
        良く見れば一匹だけでは無い、見上げるイルカの後ろにもう二匹いる。。
      • 「イルカ?本物!?あはっ初めてみたー!」 -- ネオン
      •  少ししゅん、としていたネオンは、目を輝かせた。
      • 「なんかぬるぬるするぅー!」 -- ネオン
      •  そして、躊躇なく撫で回す。イルカの方も、まんざらでもないのか
        相槌を打つように頷いたりして愛想を振りまいておる。さすがイルカよ
        あざとい生き物め。
      • 「ん?このイルカ達、ネオンが見えてますかひょっとして」 -- アトイ
      •  霊感の高い動物というのは、特別な存在である場合がよくある。
         すすっと泳ぎ寄って来たイルカを、アトイが覗きこむと。
      • 「オツカイデキター」
      • 「そうでsひゅっゴフゥッ!?」 -- アトイ
      •  イルカのぬめぬめ頭がアトイの腹を突き上げ、アトイは悶絶した。。
      • 「お使い…?…誰か…アトイさん…!?
        …はぁ、アトイさん…もうお約束よね……」 -- クレハ
      • 「まぁ?元気なイルカさんですわね、ふふっ」 -- レイン
      • イルカに腹パンを喰らうアトイに
        クレハは驚くと同時に溜息が出てしまう
        北極ではペンギンに、由良百合の世界ではやりイルカに
        アトイが小動物達からの洗礼を受けるのは、もはや逃れ得ぬ運命なのか……
      • そんな一方でレインとネオンの幽霊姉妹は
        イルカ達と楽しげな触れ合いをしてらっしゃる
        癒されすぎてレインが成仏しかけたが……
      • そんなやりとりの中、イルカの一匹がクレハの側にまでやって来ると
        跳ねるようにしながら告げた
      • 「クレハ!クレハ!オカーサンコマッテルノ!」
      • 「おかーさん…? もしかして…海のおかーさん…!?」 -- クレハ
      • イルカの表情の変化は解り辛いが、声に焦りがある事はわかる
        どうやら急を要する事の様だ。。
      • 「カミサマドコ?」
      • 「神様ですの?」 -- ネオン
      •  イルカの1匹がそう言うと。成仏仕掛けたレインを、必死に引っ張っ
        ていたネオンは、首を傾げた。
         くるくると回って飛沫をあげだすイルカ、人語をよくするとは言って
        も、いまいち要領を得ない。
      • 「ヴァイアチャン」
      • 「ヴァイアチャン」
      •  周りながら1匹がそう言うと、もう1匹も釣られて回りながら声を合
        わせた。同時にエケケケッとも鳴いてるので。
      • 「やかましい、静かに喋ってください!」 -- アトイ
      • さり気なく、腹をドラゴンでガードしながらアトイが立ち上がる。。
      • 「みんな落ちついて…事情がさっぱりだわ…?」 -- クレハ
      • 「イソグノコマルノ」
      • 「ヴァイアチャンドコ?」
      • アトイが荒れるも、クレハが鎮めようとするも
        どうにも騒ぎは収まらない
        イルカ達は急かすばかりで要領を得ない
        そこへ光が差した、成仏しかけたレインが戻ったのだ
      • 「…知らないご先祖様が見えましたわ…?
        詳しい事情はわかりませんが、今はそこのアトイさんがここの神様ですわよ?」 -- レイン
      • 「あ、ええ…長老…ヴァイアちゃんは北の地へ帰ったけれど
        確かに今はアトイさんが……」 -- クレハ
      • 「アトイ?コレ?」
      • 「コレカミサマ?」
      • 騒ぎが収まった、しかしそれは直ぐに破られる
        イルカ達は頷き合うと、身を乗り出しアトイの足のそれぞれを
        パクリパクリと口で咥えたのだ。。
      • 「イルカの歯はするどくとも、それごときでどうにかなる私ではあり
        ません」 -- アトイ
      •  イルカは、腕組みして立ったままのアトイをスッ…と、海面の方へ
        引っ張り出したのだから。
         見ようによっては、2匹のイルカを足場にしてアトイが水面に立って
        いるように見える。
      •  沈んだ。
         波を蹴立てて舟屋から飛び出し、イルカは飛ぶように泳いだ。
      • 「この!海棲哺乳類共めぇえええええええ!!!」 -- アトイ
      • 海面から顔を出したアトイの叫び声が、遠ざかっていった……。。



    • 穏やかな光がカーテンの様に煌めいている
      その合間で遊ぶのは色彩豊かな魚達
      ここは海の中、生命あふれる穏やかな海の中
      そんな穏やかな海を騒がす者達があった
      • 「アトイさん待ってー…!」 -- クレハ
      • 水の中で大声が響いた、発したのは人魚
        尾びれと手で必死に水を掻きながら人魚が行く
        彼女の視線の先には泡の道が海の深くにまで続いている
        道の始点には二匹のイルカ
        そして両足を咥えられたアトイの姿
        不安定な体勢と水圧の所為か、あるいは単に水の屈折か
        アトイの身は妙な角度に折れ曲がって見えて。。
      •  イワシの群れを散らして、色鮮やかな魚達の姿はあっという間に後
        へ消え去っていく。カレイやチンアナゴの潜む丘を超えた辺りから急
        激に海は暗くなり、クレハの横をイカの群れが過ぎ去った。
         イルカ共は、ぐんぐんと深い海へ潜っていく。
         マンボウとすれ違い、真っ暗な中にクラゲやエビの赤や緑の微かな光
        がちらほら、見え始め。チョウチンアンコウの誘引突起(イリシウム)の灯りを吹き消
        すように、巨大なイカが横を通り過ぎた。
         真っ黄色な直径1mの目玉が闇に消えて。辺りは、粉雪のようなマリ
        ンスノーの降り注ぐ大深海であった。
         アトイとよく海中を散歩するクレハだが、コレほどの深い海に来る
        のは初めてである。
         この星の表面の7割は海面であり、海の体積は90%が深海である、従
        って、今ここは星の60%以上を占める領域の只中。
         岩石が煮えたぎる星の骨格の中で生きられるモノ等そうは居ないの
        だから。生命ある者達に取ってここは、『世界の腹の底の底』といって
        差し支えない。
         ふっ、と深海の暗闇の中に灯りが灯る。
         見上げれば、直径の異なるトンガリ屋根の塔を、積み重ねたような
        屋敷のシルエットが見えた。
         真っ黒な屋敷の影に並んだ灯りは、窓だと思える。
         古の時代、木を知り尽くしたヴァイキングの大工が建てたという木
        造の建築に、その形は似ていた。
         今までは一切の闇だったのに、屋敷の灯りを見た途端、辺りは薄暮
        れ程に明るくなる。
         森に迷い込んだ末、偶然遭遇した不気味な館の雰囲気そのままに。
        石や貝殻、珊瑚で出来た深海の屋敷の高い屋根や、聳え立つ石組みの
        塀が、クレハの目の前に現れた。。
      • 「明るい…それに水がいい香り……
        ここは一体…ナニ…?」 -- クレハ
      • 不可思議な館を見上げクレハは呟いた
        無我夢中でアトイを追い、魚達の合間を泳ぎ抜け
        海の深くの深くにまでやってきたが
        そこにはまったく想像していなかった物があり
        初めて見るのにどこか懐かしを感じる
      • 「なんだか故郷の家に似ている…それに……」
      • クレハはこれと似た雰囲気の場所を知っていた
        海の底にありて魚達の集う神聖なる場所を。
        イルカ達が導きたかったのはここのなのか?
        ならばアトイの姿はいずこに?
        そんな事を思いながら
        クレハはアトイの姿を求め塀に沿い視線を巡らせれば……。。
      •  アトイは白目を剥いて、バク宙の途中で止まったような状態で、小
        さなドラゴンと一緒に浮かんでいた。
         矢にも鉄砲にも戦術核にも無傷で耐えられるのに、どうしてだろうか
        動物と子供とノリと流れには勝てない。
      • 「ツイタゾ」
      • 「オキテオキテ」
      •  イルカ共が、死〜ん……。とするアトイを起こそうと、足を咥えて容赦
        なく振り回す。。
      • 「アトイさん?
        きゃーっ? 振り回しちゃダメー!」 -- クレハ
      • 見つけたのは若布か昆布の様に振り回されるアトイの姿
        イルカは賢い生き物ではあるが、こう言う過激な部分も多々あって
        だからクレハは泳ぎ寄ると、止めようと大声で窘める
      • 「フリマワスノダメ?」
      • 「デモオキナイ、ドウスル?」
      • 「めっ!振り回すのは駄目!
        私が起こすから、ね…?」 -- クレハ
      • イルカ達はクレハの言葉を聞くとコクコクと素直に頷いた
        古来よりイルカは人魚の友であれが、この海でもその例に漏れないのだろう
        とにかく……
        振り回される事は止まったアトイだが
        死〜んと動きを止めたままなので、水に漂う様はまるで水死体だ
      • 「はぁ、さて…アトイさん起きて〜…?」 -- クレハ
      • とりあえずと指で突きながら声をかけてみる。。
      •  その時、館の門が開いた。
      • 「うむむ……おや、クレハさん……なんじゃいここ?
         あ、こらー!私を拉致って置いて、どこへ行くというのですか!」 -- アトイ
      •  開かれた門の中へ、イルカ共は入っていく。。
      • 「アトイさんおはよ…?
        イルカさん達はここに案内したかったみたい……」 -- クレハ
      • クレハが声をかければアトイに目覚めは早い
        しかしそれは目の前の問題が一個解決したにすぎず 二人には未だここがどこであるかはわからず
        どうするべきかと、ただ首を傾げるばかりで
        そんな風にしているとクレハの背中を押す者があった
      • 「イソイデイソイデ」
      • 「あんっ…?
        わかったわかった…行けばいいのね…?」 -- クレハ
      • 押しているのは少し遅れて到着した三匹目のイルカ
        イルカがクレハの背を押し続けるものだから
        クレハの金の髪と豊かな胸が水にふわふわと揺れる。
        とにかく、ここでぼんやりしていても何も解決する事が無いのは確かで
        クレハはアトイと頷き合うと、門の中へと歩を進めた

      • イルカに続きイルカに押され
        門をくぐり屋敷の中へと入って行けば
        そこにはエントランスたる広間があり、さらに屋敷の奥へと続く廊下が見えた
        こう書くと普通の屋敷の様であるが
        外観だけでなく屋敷内のほぼ全てが珊瑚や貝、あるいは甲殻類の殻と言った
        海中の素材で作り組み上げられている。
        そしてもう一つの違いがあった、それは大きさだ
        広間の天井は高く奥へと続く通路も広い
        イルカ達の全長は4m前後だが
        その彼らが二匹ならんで泳いでも余裕があった。。
      • 「あのイルカ共、ここがフィリピンなら唐揚げにしてやるところです」 -- アトイ
      •  泳ぐクレハの横を、アトイは、普通に地上を行くように歩く。
         館の中も、海水で満ちて居たが、喋れるし息にも困らないのは、この
        2人だからである。。
      • 「まぁまぁ…あの子達にも悪気はないと思うの……
        ほら、何か急いでいたみたいだし…?」 -- クレハ
      • アトイに苦笑を向けた後に通路の先を見やるが
        イルカ達の背中が見えるばかりで目的地はまだ先の様だ
        この屋敷どれほど広いのであろう。。
      • 「へっ。賢いとは言え、奴らに嘘をつく程の頭はありませんからね。
         久々に、心を探る力を使ってみましたが。誰かの具合が悪いという
        事と、あっイワシだ!くらいしか考えてませんでしたよ」。 -- アトイ
      • 「ふふっ…ある意味、純粋なのよ……
        でも、誰かの具合が悪いって…やっぱりおかーさんの事なのかしら…?」 -- クレハ
      • イルカ達が舟屋ハウスにやってきた時の言葉を思い出す
        『オカーサンガコマッテルノ』
        イルカ達の言うおかーさんがクレハの想像通りの存在であるならば
        この先にいるのは……。。
      • 「家でも言ってましたね。
        そのおかーさんが、私を呼んだのでしょうか……むにゃっ!」 -- アトイ
      •  よそ見をしていたアトイは、壁にぶつかってふわり、と後に押し戻
        される。
      • 「ッ危ないなぁ、私がメガネっ子だったらどうするつもりですか」 -- アトイ
      •  ぶつかってクリングスとか曲がると地味に大変なのである。
         アトイはメガネしてないし、両目共に視力1.9だし千里眼のスキル持ち
        だが。。
      • 「キュオーン…?」
      • 壁から鳴き声がした、まるで歌唄う様な鳴き声
        二人の前にあるソレは壁ではなかった
        ソレは大きな大きな生き物の肌
        薄い桃色の肌は光り輝いている様にさえ見えて
      • 「アトイさん…その子……」 -- クレハ
      • クレハが指差す先で大きなそれでいてつぶらな瞳がこちらを見つめた
        ぬーんと聳え立つソレは…クジラだった。。
      •  扉の前にクジラが居て、壁のように入り口を塞いでいたのだ。
        大きなクジラが、目の前で方向転換すると。延々と続く薄桃色の壁が、
        車窓を左から右へと流れていくような眺めとなった。
         なんという巨体であろうか。
         やがて尾びれが、目の前をゆったりと通り過ぎてから。2人は一際大
        きな広間の中へ入った。
         天井と左右の果ては、証明が照らし切れずに、壁が見えない。前方
        には、延々と白い垂れ幕が下がって壁になっていた。
      • 「なるほど、クジラですか」 -- アトイ
      •  部屋に入るなり、特に驚いた風もなくアトイが言う。
      • 「村の近海に住まう、特別霊力の高い個体ですね。海の主的な。
         ふぅむ、なんとなく察しがついて来ましたよ」。 -- アトイ
      • 「そっか…ここは貴女の家だったのね……」 -- クレハ
      • 「キュォォォーン♪」
      • アトイが説明する横でクレハはクジラに全身で抱きついた
        まるで既知の友人との再会であるかのように
        クレハの反応から実際そうなのだろう、ただそのサイズ差ゆえ
        コバンザメが張り付く様に見えてしまうのは御愛嬌か
      • 「アトイさんの言う様にこの子はこの近海の主の『娘』よ
        私達を呼んだのはこの子のおかーさん…なんだけど…どこにいるのかしら…?」 -- クレハ
      • 「クオォォン…?」
      • 首を傾げるクレハの背後でクジラは不思議そうな声を上げる
        彼女の歌は告げる、彼女の母はここにいると
      • 歌にも聞こえる鳴き声は、クジラ達独自の言葉
        広大な海の中で同胞と情報を交換し合うために発展した言葉…歌
        人の使う言葉とは異なる形だが
        アトイとクレハには理解する事が出来ていた。。
      • 「ん?……あっ、娘さんですか!?」 -- アトイ
      •  アトイは驚いたように桃色なクジラを見た。シロナガスクジラなら
        もう大人といって差し支えないサイズである。
         今の一声で分かった事には、この子クジラは、人で言えばまだ
        幼児位だということも含まれていて。
      • 「えー……じゃあおかーさんってどんだけデカイんですか……。
         この部屋で寝てるって。えー、どこで?」 -- アトイ
      •  母親は、背中に島等ができるサイズであろうか。しかし妙な事に超
        超巨大であろうおかーさんクジラの姿が、見当たらない。
      • 「すみませんーこっちですー」
      • 「はい?」 -- アトイ
      •  アトイは、声のした上の方を向く。。
      • 「はい…?」 -- クレハ
      • クレハも同じ様に上を向けば娘クジラが上昇してゆく姿が視界に
        そこで二人は気付いた
        垂れ幕の様なものと思っていた布が何か大きな建造物から垂れている事に
        そして声はその屋上部分から聞こえて来た事に。。
      •  少し離れて見ると、垂れ幕のかかった四角いものは、3階建てのマンション
        くらいの大きさである。
         アトイは、地面を蹴って浮上する。
         上から見ると、すぐに四角いものはベッドだと知れた。
      • 「こっちがおかーさんですね。大き……あ、あれ、いや小さい?
         お子さんがすごく大きいのでしょうか。まだ年は小さいようですが」 -- アトイ
      •  フットボール場サイズのベッドに身を横たえた女性を見て、アトイは
        軽く混乱した。
         ウェーブのかかった桃色の髪の女性は、もはや身長というより全長
        と言った方が、しっくりくるサイズであるが。
         薄桃色の子クジラと比べると、母親というほど大きくも見えない。
        少女と大型犬位の比率である。
      • 「今は、体を一番小さくしてますから〜」
      • 「これで!?」 -- アトイ
      • アトイは驚いた。。
      • 「私もおかーさんのこの姿ははじめて見ました……
        普段はこうもっとこう…あ、アオイさんの潜水艦くらい…?」 -- クレハ
      • クレハが胸を逸らす様にしながら両手を広げる
        アオイの潜水艦は大戦艦にも匹敵するサイズであったが
        娘クジラのサイズを考えれば、その親であるこの女性の本来の姿が
        超巨大でも不思議ではないのかもしれない
      • 「ふふっ、クレハとこの姿で会うのは初めてになりますね〜?
        屋敷で過ごすには、あの姿は大きすぎるので〜」
      • 女性は微笑みながら語るが
        屋敷や部屋の入り口の事を考えるとこれでも大きすぎる様な気がしないでもない。。
      • 「アオイの奴の潜水艦って、あれ確か600mくらいありますよ……」 -- アトイ
      •  海は広いな、すごく広い。
      • 「まぁそれは置いといて。クレハさんのお知り合いというなら、私も
        協力を惜しみません。
         今度こそ、だいたい状況はわかりましたので」 -- アトイ
      •  クジラのおかーさんは、特別な力を持つ動物で。そういったモノは、
        神に近い存在なのだ、時に神として崇められる事もある。
         馴染み深いとこでいうと干支とか。あと、こないだのハウンドが身に
        宿しているのも、スゥアという虎の神である。
         このクジラのおかーさんも、神様始めてみたアトイにとっては、同業者
        であり、先輩にあたる。
      • 「御悩を患ったので、助けを求めて、長老様の社のあるあの村へ使いを
        出したのですね。
         ええ、今は私が長老様からあの地を任されていますので。しっかり
        お助けしますとも。
         ……ただ、迎えによこす人?選はもうちょっと考えた方がいいです」 -- アトイ
      • アトイ達の後で、イルカがエケケッと鳴きながら泳いでいた。
      • 「ごめんなさいねぇ、急な事故だったものだから〜……あっ」
      •  そう言って、体を起こそうとしたクジラのお母さんは、小さく呻く。
        顔色は少し悪く、彼女は怪我をしているようで。
         ベッドに座り直し、小さな息を短く苦しげに繰り返す。
         そんな彼女の膝の上に、桃色の娘クジラは心配そうに頭を乗せた。


      • 見上げれば大きな女性の顔がそこにある
        神仏象を祀った祭殿でもなかなか見る事の出来ないほどに大きなご尊顔
        ふわふわとした桃色の髪を纏った姿には神々しさと同時に愛らしさがあり
        その瞳は慈愛で満ちている
        くじら模様のファンシーなパジャマを着ていなければ女神と見間違う者もいるだろう
        彼女の正体は『海の母』とも呼ばれる超巨大サイズのクジラ
        超巨大な彼女が海を回遊する事で海のマナは循環し
        海の生命力はより強く豊かな物へと育って行く
      •  彼女の怪我が、レインとネオンから聞いた、黒い粘体の変化の原因
        だと、アトイとクレハにはすぐに分かった。
         世界は盤石なようで、敏感な天秤のようなバランスで成り立ってい
        るのだ。毎年の海流の具合によって、魚の数が増減するように。海の母
        が、動けなくなったせいで、海辺の村近くの色々なモノの流れが、変
        わってしまったのだろう。
         そうと分かれば、守護神を任されたアトイとしても、手を出さない
        理由は無い。

      • 「それでお身体の方は……」 -- クレハ
      • 海の母を見上げながらクレハが呼びかけた
        アトイとクレハは今彼女のベッドの上
        …のさらに海の母の娘たる子クジラの上にいるが
        それでも海の母の顔は遠くに見える様で声はつい大きく
        部屋の中の調度品もビッグサイズゆえ
        なにか大きさの感覚がおかしくなってしまう
        しかしそのご尊顔も今は色が優れぬ様で。。
      • 「寝こむ程の怪我なのですよね?」 -- アトイ
      •  ごそごそ、とアトイは、着物の袂を探る。
         中からピンク色の服が出てきた。。
      • 「あ、ある程度の怪我や病ならばアトイさんの異能で……」 -- クレハ
      • ごそごそとアトイが準備しているのはナースのコスチューム
        『【幾千の貌】(コーディネイター)』は纏った衣装の存在になり切る事で
        そのスキルを得る能力…異能
        ナースコスチュームならば看護師のスキルを得る事が出来る
      • 「あ〜えっと…はい、実は…わき腹付近に少々怪我を〜……」
      • 海の母は少々困った表情を浮かべた後パジャマ捲って見せた
        そこは右のわき腹、肋骨付近まで痛々しく赤黒い痕があった
        海の母の真の姿はとてつもない巨体であると言う
        ならばその巨体がこの様な傷を受けるのはどんな災厄が?
        アトイとクレハがそんな事を考えていると
      • 「くぉーん……」
      • 二人の足元から子クジラの歌の様な鳴き声が聞こえる
        悲しげなそれでいて後悔に満ちた声
        それは自身の至らなさから
        愛する母親に怪我をさせてしまったと嘆く子の声
      • 「貴女を庇っておかーさんが怪我を…それってどう言う……?」 -- クレハ
      • 「ウミニ アナアイター」
      • 「デカイノ アバレター」
      • クレハの疑問に答えるようにイルカ達が騒ぎ始めた
        クルクルと水中を踊る様にしながら口ぐちに
        言葉を投げてくる。。
      • 「ほぉう、それは災難でしたねぇ……。何にやられたか、もっと具体
        的に分かりますか?
         おかーさん位の生命力を持ってして、治りが遅いというのは毒等も
        考えられますので」 -- アトイ
      •  ナース服に着替え、キャップも装着しながらアトイが言う。
         長いツインテールを止める羊角の髪留めも装備である。見るからに
        癒しのオーラが漂いだして。準備は万端だ。
      • 「ドラゴンダナ」
      • 「ナ」
      • 「ドラ……ッ」 -- アトイ
      •  まん丸でつぶらな瞳で頷き合うイルカの言葉を聞いて、アトイは、
        ギクリッと動きを止めた。
      • 「えー……と。それ、どのくらい前でしょうか……」。。 -- アトイ
      • 「………」 -- クレハ
      • アトイが横に視線をやれば
        そこには目を丸くしたままで固まるクレハの姿
        海の中だと言うのに冷や汗をかいている
      • 「あ〜それは……」
      • 「ツキガマッシロカラハンブンニナルクライ?」
      • 「ツキがマックロカラハンブンミエルクライ?」
      • 海の母が答えるより先に、二匹のイルカがそれぞれに答える
        イルカ達の暦計算は夜空の月を基準にしている様だが
        どちらも言わんとする所は一緒、二週間ほど前。。
      • さらに、子クジラがキュゥ〜ンと鳴いて。
        (意訳※嵐の夜に、黒い大きなのと、ドラゴンが来て、海の底が割れる
        位暴れたから。お母さんが、みんなを避難させてたんだけど。
         流れに巻き込まれた私を助けようとして、お母さん、ドラゴンに蹴
        られたの……)
      • 「……ふ、踏み潰されないで、ホント良かったですねぇ……」 -- アトイ
      •  海中で、冷や汗をアトイもかきながら、全力で目を逸らしながらそう
        言った。
         まず間違いなく、まったく確実に、怪我の原因はアトイであった。
      • 「本当にね〜。あんなに大きいドラゴンは、珍しいわ〜。
         いままでどこに居たんでしょうね〜」
      • 「どこでしょうねぇ……」 -- アトイ
      • 「あ、それで〜。その時ヴァイアちゃんを久々に見かけたから〜。
         てっきりこっちに戻ってきたのかなぁって……ウッ!?ゴフゥ!?」
      •  この海の母なクジラおかーさんは、しゃべると動かずに居られない
        ようで。傷が傷んで、血の潮を吹いた。
      • 「おかーさん!?安静に!安静にしてくださいね!?」 -- アトイ
      •  海中が、みるみるウチに赤い靄に染まっていくし、咳き込んだ弾みで
        ベッド脇に積まれていた、10tトラックを満杯にしそうなぬいぐるみの
        群れがグラグラ揺れた。
         ちなみに、量ではなく、サイズがである。
         パジャマだけでなく、おかーさんの部屋は少女趣味であった。
      • 「と、とりあえず。軽く治療をしてみましょうか?ね!」 -- アトイ
      • 「はぁはぁ…はい〜よろしくお願いします〜……ゴホッ」
      • 大きく頭を垂れると同時にまた吐血しなさる海の母
        この方、じっとしているのが苦手な様だ
        普段は広大な海を巡回しているのだから当然と言えば当然だが
        ともかくイルカ達が尾びれで水を循環させて
        水が透明に戻るまでに数十分かかってしまった


      • 「どうアトイさん…?」 -- クレハ
      • 光の異能で患部を照らしていたクレハがアトイの顔を覗きこみながら尋ねた
        治療を開始してすぐにアトイの口数が少なくなった
        最初は治療に集中しているのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。。
      • 「ひとまず十二分に、生命の源っぽい力を注いで見ましたが……」 -- アトイ
      •  アトイは、肩を落として息を吐いた。
         何やら目に優しい色の光をまといながら、おかーさんの怪我の辺りに
        手をかざしてポワポワとやっていたのである。
         特に医療行為っぽくはなかった。ナースの格好は見掛け倒しも甚だ
        しかったが。アトイには、実際に神の力があるのだから、これでも十分
        ヒーリングを期待できそうにも思えたが……。。
      • 「…うーん……
        おかーさんどんな感じですかー…?」 -- クレハ
      • アトイの言葉にクレハは唸る様な声を上げた後
        顔を大きく見上げ海の母に呼びかけた。
        海の母のわき腹に大きく広がる赤黒い痣
        アトイの治療により多少は小さくなった様には見えるが……
      • 「はい〜少し痛みが引いた様な気がしないでもないような〜そうでもないような〜」
      • 「くぉ〜ん……」
      • …どうやらダメな様です
        穏やかに語る海の母だが、そのやつれの見える顔色に変化は無く
        娘クジラはそんな母を慰めるようにその頬へと擦りよって行く
      • 「やっぱりネオンの力を…ううん、やっぱり長老を呼んだ方がいいのかしら……」。。 -- クレハ
      • 「ぐぬぬ、長老様はともかく……ネオンには絶対頼りません!」 -- アトイ
      •  横から囁くクレハに、アトイはつっぱねるように言った。
      • 「原因はわかってるのですから……もうちょっと手を変えれば……」。。 -- アトイ
      • 「でも…手を変えるってどんな……」 -- クレハ
      • 「ドンナー?」
      • 「ドンナー?」
      • 行き詰り感を見せるアトイにクレハは不安の色を隠せない
        そんなアトイの所にイルカ達が寄って来る
        彼らは彼らなりに心配しているらしいが……
        やはり表情の変化が少ないからか煽っている様にも聞こえてしまい。。
      • 「ドンナってそりゃ……やめてください、善意からだとしても鼻先で
        私の頭を突かないでください。
         マッサージですか?そのつもりなんですね、気を使ってくれてあり
        がとうございます。私、心が読めるから分かります。
        でもやめて、やめろって、生臭いんですよあんたら。
         イワシが好き?そんなの今は聞いてませんが……だから、ちょっほ
        んと結構ですから。
         おまっ……ちょっ……取って食いますよ!!」 -- アトイ
      •  アトイの肩に乗って、イルカにぐりぐりヤラれていたミニドラが、
        体を膨れ上がらせた。
         突然大きくなって、熊並の体格になったのだから、イルカは、驚き
        反転して距離を取る。。
      • 「はぁ、こーらー…イルカさん達を威嚇しないのー…?」 -- クレハ
      • アトイとイルカのやりとりにクレハは大きく溜息をし
        大きくなったミニドラ…ドラゴンを人魚の尾びれでぺちりとした
      • 「イルカさん達も、ねっ…? アトイさんがんばってるから……」 -- クレハ
      • 「ハーイ」
      • 「ハーイ」
      • 窘める様なクレハの言葉にイルカ達は返事をするとこくこくと頷いた
        このイルカ達クレハの言葉には素直に従う様だ。。
      • 「ふぬぅぅ……」 -- アトイ
      •  軽く尾びれで叩かれたドラゴンは、するすると元の大きさに戻るも。
        中々上手くいかないせいで、苛立ちに茹だるアトイの頭上付近では、
        熱水噴出孔のごとく海水が煮えるようで……通りがかったカニが旨そ
        うな色になった。
      • 「あらぁ、その子も〜大きさかわるのね〜」
      •  不意に海の母に、声をかけられアトイはどきり、とした。
      • 「え、ええ……ちょっとフグみたいなノリで……」 -- アトイ
      •  超ごまかした。
         娘さんもおかーさんも、そんなアトイを疑う様子などまったく見え
        ずに……これは気まずい。
         だから、アトイはさらにごまかすように。
      • 「えーと、んんっ。
         おかーさんの怪我は、治せはしますが。今の私の装備ではちょっと
        難儀します」 -- アトイ
      •  いかにもよく分かったという風に、専門家ぶってそう言った。
      •  それから、一息小さく吐き出すと、少し真面目な声で。
      • 「ちょっと物理的な手段も必要そうなのです。
         具体的にはお医者さんに手術してもらわないと……」。 -- アトイ
      • 「しゅ!?しゅじゅちゅ…!?かみまみた…ゴフッ」
      • 「お、おかーさん大丈夫ですか…?
        アトイさん手術って誰に…そもそもお医者さん必要なの…?」 -- クレハ
      • 出術と言う言葉に海の母は盛大に驚き舌を噛みなさり
        さらに吐血するものだから、また室内の海水が紅に染まってしまう。
        その一方でクレハはアトイへと疑問を投げた
        アトイの力ならば手術無しでもどうにか出来るのではないかと。。
      • 「私が、コスプレで専門職の能力を発揮するのは知っての通りですが。
         治癒力を高めるのでは追いつかないので、外科手術が必要です。
        今の私は看護師なので、手術はできません」-- アトイ
      •  そして、アトイは、肩をすくめて苦笑いし。
      • 「っていうか、女医のコスプレって女教師とか博士と属性が被るので。
        うまく能力が発揮できないんですよね!」 -- アトイ
      •  Drマリオのコスプレなら、錠剤を投げてウィルスを死滅させられる
        らしい……が、今必要なのは外科医である。。
      • 「えっと…? 衣装が無いからなのはわかるけれど……
        属性が被るからって……」 -- クレハ
      • アトイの告げる事も然りなのかもしれない
        女医、女教師、博士、加えるならば保険医も……
        行使できる知識や能力に違いはあれど思い浮かぶイメージに被る所は多くあり
        それゆえにコスプレしてもイメージが曖昧となって
        能力行使の妨げのなってしまうのだろう
      • 「…確かに被るかも…?
        ん、そう言えばアトイさん治療系は不得意だったわね……」。。 -- クレハ
      • 「そーなんですよー。病気治療のご利益は、神様にはオーソドックス
        な能力ですが。
         それ以上に予防っぽい雰囲気の、無病息災のスキル持ちな神様のが多
        いでしょう。
         悪くなってしまったものを、元に戻すのは実は大変な事なんです」 -- アトイ
      •  アトイが言う。
         そして、イルカ共にも手伝わせて、海の母を安静に横たわらせた。
      • 「きゅぅ〜ん……」
      •  物悲しげに娘クジラが、鳴く。
      • 「ああ、ご安心を。不得意とは言っても、私これでも死人をあの世から
        殴り飛ばして生き返らせたことありますので!
         死ぬことだきゃーねーですよ!」 -- アトイ
      • 「きゅっ!?」
      •  娘クジラは驚愕に鳴いた。。
      • 「アトイさん…!」 -- クレハ
      • 今度はアトイの方に直接尾びれでぺちりと行った
        さきより少々痛い理由はクレハの顔を見ればわかる
        怒っている
      • 「駄目でしょう…?
        子供の前で親の生き死にの事を雑に言っては……」
      • アトイの鼻の指をあてるとぐりぐりとしながら窘めた
        それはアトイ自身が今さっき言った事
        元に戻すのは大変な事だと、それは命も同様の事。。
      • 「ぬぐっ……ごめんなさい……」。。 -- アトイ
      • 「うん、素直でよろしい」 -- クレハ
      • アトイが反省を見せればクレハの表情は柔らかい物へと変わり
        鼻をぐりぐりとしていた指を頭にのせ軽く撫でた
        そのまま笑みを今度は娘クジラの方へと向け
      • 「…大丈夫、アトイさんも全力を尽くすから……」 -- クレハ
      • 「きゅぅん♪」
      • クレハの笑みと言葉に
        涙目となっていた娘クジラは小さく理解の声を告げた
      • 「さて、気をとりなおして…別の方法って奴を試してみましょう…?」。。 -- クレハ
      • 「今の私はナースですからね、お医者さんが居れば能力を100%発揮で
        きるのです」 -- アトイ
      •  アトイは任せろ!と言わんばかりにぐっと拳を握って胸を張る。。
      • 「そうか…! お医者さんを連れて来てサポートする側に回れば……」 -- クレハ
      • ナースとは医者の手の届かぬ場所を守り支える者
        ならば本職の医者を連れてくればその力を存分に発揮する事が出来る
        なによりアトイが補佐するならば、普通の医者でも人外存在の治療が出来るはず
      • 「あの〜……」
      • アトイの提案に盛り上がる二人の頭上から声がした、海の母の声だ
      • 「私〜お医者さんは苦手なんです〜……」
      • 「はい…?」 -- クレハ
      • 海の母の発言に目をパチクリとするアトイとクレハ
        良く良く見れば、彼女の顔を先よりもさらに青褪めており
        苦手どころか「お医者さん怖い」が正解の様だ。。
      • 「ああ、それで医者じゃなくて私をお呼びに……」 -- アトイ
      •  布団を顔の半分まで被ってこっちを見てくるおかーさんである。
         この人本当に一児の母なのかな。
         ちなみに、アトイは多分にマザコンの気があるので、そんな事される
        と引くどころか、よりやる気を出すのである。出した。
      • 「ご安心ください、私が世界中から名医を集めてきますので。
         怖くない人が居たら、治療をお願いしましょう。
         では早速!」 -- アトイ
      •  しゅばっ、と画面外に消えるみたいにアトイの姿が消えた。。
      • 「キエター?」
      • 「ドコイッタ?」
      • 「きゅ?きゅおん?」
      • 「ああ、大丈夫大丈夫……
        言葉の通りお医者さんを集めに行ったの……
        直ぐに戻ってくると思うから…少し待ってね…?」 -- クレハ
      • いきなり姿を消すアトイに室内は驚きの声で満たされた
        唯一アトイの能力を知るクレハだけは極めて冷静で
        皆を落ちつかせるべく手を掲げながらゆっくりと丁寧に説明をする。。
      • 「連れてきましたー!」 -- アトイ
      •  どっかその辺に、かくれんぼでもしてただけじゃないかと思うような
        早さでアトイが戻って来た。
         しかし、アトイの横には見知らぬ白衣の男性が立っている。額帯鏡も
        してるし、医者なのだろう。
      • 「とりあえず、すごく無害そうな人連れてきましたよ」 -- アトイ
      •  黒縁のメガネを掛けた、いかにも人の良さそうな七三分けな男は、
        状況が飲み込めずに、ぽかん、と立ち尽くしているようで。。
      • 「アトイさんおかえりなさい…?
        この人がお医者さんね…先に事情を説明するのが……」 -- クレハ
      • 「まぁこの方がお医者さんなんですか〜?
        遠路はるばるおこしくださいまして〜」
      • やってきたのは極めてテンプレに沿った人間のお医者さん
        急な召喚に唖然とする姿からも、人外的事情からは無縁そうなのが伺える
        ならば先に事情を説明すべきとクレハが口を開くよりも先に海の母が動いた。
        穏やかでゆったりとした声で来訪を歓迎する彼女だが
        やはり初めてその巨大な姿を見る人間にその姿は圧倒的すぎて……
      • 「実は、こちらのおかーさんが、怪我をなされまして。
         手術をしてほしいのですよ」 -- アトイ
      • アトイが、そう言うと男は……
      • 「あの……ボクは歯医者なんですが……」
      •  手に持っていたエアタービンがチュィィーン、と歯医者の例の音を
        立てた。。
      • 「…〜〜〜!」 -- クレハ
      • その音を聞けば誰もがそうせずにいられない様に
        クレハはその背を震わせ、白い肌に鳥肌を浮かべる
        麻酔を使ってなお感じてしまう歯の削られるあの感触
        一度聞けば心に刻まれるあの不快音
        イルカや娘クジラまでのけぞっておられる
        皆がトラウマ的サウンドに心抉られる中、ベッドがガタガタと揺れ出した
      • 「あ、あの、あの……」
      • 震源は海の母、盛大に震えてらっしゃる。。
      • 「すいません、チェンジしてきます!」 -- アトイ
      •  アトイは、歯医者と共に、再びシュバッと姿を消した。
         そして、次に連れてきたのは初老の医者だった。今度は確かに外科医
        であったが。海の母は、ベッドの中でふるふる、と首を振る。
         とっつきにくそうで怖かったらしい。。
      • 「あー…えっと、まことに申し訳ありませんが……」 -- クレハ
      • ふるふると震える海の母に代わりクレハが頭を垂れた
        チェンジと言う事であった。。
      • 「外来はちゃんと受付通してくれないと困るよ君」
      • 「はい、申し訳なく」 -- アトイ
      •  またまたアトイはシュッ、と消える。
         そして。
      • 「魚介系のが馴染み深いですかねー?」 -- アトイ
      •  白衣を着た?被された?そんな感じの生き物を連れてくる。
         8本の足それぞれにメスや鉗子や注射器などなど装備しておられる。
         なるほど医者だろう、タコの。。
      • 「タコなお医者さんなんているんだ……」 -- クレハ
      • 人魚でもあるクレハだがタコが医者をやっているなんて初めて知った
        白衣を纏いうねうねと足を動かす様は不思議で異様だが
        これならば海の母も大丈夫だろうと振り向いた
      • 「きゅ…きゅ……」
      • 「えっ…怖い…? なんで……」 -- クレハ
      • 今度は娘クジラが震えている
        いや、良く見ればやはり海の母も震えている
        聞けば深海でダイオウイカと戦って以来
        多足な生き物は苦手になったと親子は告げる
      •  タコの医者は肩をすくめて苦笑いした。
         肩はどこであろうか?悪いタコではないのだけは確かである。
         次である。
      • 「いいだろう、ただし治療費は5千万だ!」
      • 「払います!一生掛けてでも払います!」 -- アトイ
      • 「その言葉を聞きたかった」
      •  次の医者は、しかし顔がコワイという理由でダメだった。
         絶対名医なんだけどなぁ、と5千万払うと言い切ったアトイはぼや
        いた。
      • 「どうぞ!よろしくお願いします!
         どこが悪いんですか?頭ですね!」
      •  次に連れてきたのはおかーさんと同じ髪色の、キレイなお姉さん。
         アトイの頭にスパナをあてていらっしゃる。
         顔は申し分なかったが、医者じゃなくて修理屋だったので帰って貰
        った。クレーンを背負ってる人な時点で医者じゃないと気づこう。
      • 「体の怪我はクリニックへ。心の怪我はメンタルへ!」
      •  最初の医者にちょっと似たこの人は、精神科の先生だった。
         説明はよく分かる。
         次。
      • 「クソッ……酒が足りねぇ……」
      • 「はい、どうぞ」 -- アトイ
      •  アトイの差し出したスキットルを上に向けて、男は、酒を煽った。
      • 「ようやく震えが止まったぜ……」
      •  むしろ、この人に医者が必要なんじゃないかな。
      • 「依存症の治療には、信仰が有効だというデータがあります。
         信仰を持つ薬物、アルコール依存症患者は、そうでない患者に比べて
        38%も更生率が高かったのです」
      •  よれた白衣を着た男に、さっきのわかりやすい人が治療を進めてい
        らっしゃった。
         アトイは、2人をメンタルまで送っていった。
      • 「おもしろ改造してもいいのぉ〜?」
      • いきなり物騒な事を言いだしたのは赤毛の幼女だ
        白衣を身に付け背には医療器具を背負っているので医者の類ではある様だが
        舌っ足らずな口調ながらもあまりにも物騒すぎる発言
        海の母はガタガタと怯えるばかりなので早々にお帰り願った



      • 「……なかなかいい人居ませんね」 -- アトイ
      •  ふぅー、とアトイがため息をつく。。
      • 「はぁ…どっと疲れたわ……」 -- クレハ
      • 「ツカレター」
      • ツッコミを入れるのにも疲れたのか
        クレハはイルカにもたれたかかりグッタリとしている

      • あれからも大勢の医者が呼ばれては帰っていた
        闇医者を堂々と名乗る家族連れの医者におでこを愛する保険医
        USSに所属していそうな宇宙船の船医…エトセトラエトセトラ
        しかしどの医者も海の母の心を開く事叶わず、そして今に至る。。
      • 「ごめんなさいねぇ〜何度も〜……」
      • 「あ、私は瞬間移動繰り返した程度では疲れないので、ご心配なく」 -- アトイ
      •  アトイはそう言ったが、さすがにこれ以上続けていては、海の母の
        方が疲れて具合が悪くなってしまうかもしれない。
      • 「どーしたもんかなー……」 -- アトイ
      •  アトイは腕組みして、首をひねる。。
      • 「どうしたものかしらねー……」 -- クレハ
      • 「カシラネー」
      • 「きゅるるー」
      • アトイに続く様にクレハ、イルカ、娘クジラが呟いた
        どうにかしたいがどうにもできない
        それでいて何か忘れている様な気がする微妙な状態。。
      • 「あと頼れそうなお医者さんっていうとー……」。。 -- アトイ
      • 「うーん、誰か忘れている気がするの……」 -- クレハ
      • アトイとクレハは何度も首を捻る
        歯にトウモロコシの皮が挟まった様な
        両手が塞がっている時に鼻の頭に埃がついた時の様な
        なにかもどかしい感覚のまま時間だけが過ぎて行く
        だが閃きとは不意打ちの如く、流星の如く舞い降りる
        項垂れていた二人の頭がほぼ同時に起き上がった
      • 「ミャー先生!」 -- アトイ
      • 「ミャー先生…!」 -- クレハ
      • アトイとクレハは同時に同じ名を叫ぶと
        顔を間近で見合わせ大きく頷き合う。。
      • 「……名医かどうかは、知りませんけど」 -- アトイ
      •  顔を見合わせて、2人はちょっと苦笑いした。
      • 「んーまぁ、私はお世話になった事はないですが。
         アミロワちゃん達の話しを聞くに、手当はびっくりするくらい優しく
        してくれるとのことですし。
         地元の人間なら、おかーさんも安心でしょうか?」。 -- アトイ
      • 「うん…お酒好きがたまにきずだけど……
        アミちゃんロワナちゃんもお世話になったと言ってたし…大丈夫よね……」 -- クレハ
      • 「まぁ?地元のお医者さんですか〜、なら〜……」
      • アトイとクレハの得心の笑みと地元と言う言葉に安心したのか
        海の母は頷いた、まだ若干の迷いはあるようだが
        先までの様な無条件の拒否反応は無さそうだ。。
      •  で。
      • 「アトイちゃんに、声を掛けられて振り向いたら。私はどうやら海の中
        に居るようなんだけど、どうしよう……」 -- ミア
      •  今までの通り、次の瞬間にはジーパンTシャツの上に白衣を羽織って、
        サンダルを素足につっかけたミア先生が召喚されていた。
      • 「すいません、いろんな人に、今の状況を説明するのに疲れたんで。
        端折らせてもらいました」 -- アトイ
      • (今直接脳内に情報を送り込みますので) -- アトイ
      • 「やめて!?なんか怖い!」 -- ミア
      •  おでこを押さえてミア先生が、後ずさる。。
      • 「もう!アトイさんったら……
        あのー…詳しい事は後で話しますので、今は先生のお力を貸してください……」 -- クレハ
      • クレハはアトイの頭をペチリと叩くと後ろに下がらせ
        代わりに自分がミア先生の前と歩み…泳ぎ出た
        人魚としての姿をミアに見せる事になるが今は仕方が無い
      • 「その…具体的には治療してほしい方が……
        おかーさんが苦しんでいて、それで先生をここへ……」 -- クレハ。。
      • 「あ、えっと……クレハ、ちゃん?」 -- ミア
      •  案の定、ミアはクレハの尾びれを見て動揺している。
         この世界には、神も悪魔もモンスターも存在するのだが。
         アトイとクレハは、この村に来た時から、普通の人として過ごして
        いたのだから。
         拒絶とまではいかなくても、そりゃ驚く。
      • 「んん、とえー……うん。
         おかーさんっていうと、クレハちゃんの?」 -- ミア
      •  驚きながらも、患者がいればそっちへ気が向くのはさすが医者とい
        ったところであろうか。保険医兼村の開業医の肩書は伊達ではない。
      • 「いえ〜私です〜」
      •  ミアは、声のした方を見上げて。
      • 「……あっ」 -- ミア
      •  超巨大ベッドに横たわる、海の母の大きさに、また驚いて腰を抜か
        すかと思ったらそうでもない。。
      • 「……あら?」
      • 「…? 二人ともどうしたの…?」 -- クレハ
      • 海の母とミア先生は見つめ合ったまま動きを止めた
        イルカ達は「キテル?」「キテル?」と口ぐちに言ってるが
        そう言うのとも何か違う様にも見える
        まるで懐かしい物を見つけた時の様な…そんな物思う瞳。。
      • 「んっ……よし!診てみましょう。
         アトイちゃん、その格好なんだから手伝ってくれるのよね?」 -- ミア
      • 「はい!ただのコスプレではありません。今の私はプロフェッショナル
        ナースだと思ってください!」 -- アトイ
      •  ミアが迷いなく頷くと、アトイも桃色のナース服で両拳を握って、
        あざとくアピール。。
      • 「おかーさん、あの……」 -- クレハ
      • やる気を出すミア先生とアトイを見れば
        クレハは緊張気味に海の母へ視線を向ける
        これでまたお帰り願う事となったらどうするべきか……
        そんな事を思うクレハだったが、海の母に先までの様な怯えや震えは無く
        むしろ落ちついている様にさえ見える
      • 「はい〜ではよろしくお願いします〜」。。
      • 海の母の穏やで大きな声が響き
        そして治療は開始された。




    •  特大の針と、もはや綱レベルなぶっとい糸で、海の母の傷口を縫う。
      アトイとミアとアトイのドラゴンの3人がかりの大仕事である。
       海の母からは、目隠しで見えないが。手術中、側で見守っていたイ
      ルカ共は、生々しい手術光景に仰け反ったり震えたりして。娘クジラも
      心配そうに母に頭を擦りつけて『大丈夫、麻酔で全然痛くないから〜』
      と逆に宥められたりしていた。
      • 「よし、終わりましたよー」 -- ミア
      •  縫い終わってミアがそう言うと。
         ドラゴンが針を口に咥えて、アトイが余った部分をワイヤーカッター
        みたいなハサミでバツンッと切断した。
      • 「二人ともお疲れ様…見ているこっちも緊張したわ……」 -- クレハ
      • 糸が切断されると同時にクレハは異能の光を弱め息を吐いた
        医療スキルの無い彼女に出来る事は少ないが
        それでもと、手術中の灯を担当したのだが
        小一時間ほど異能を使い続けた事で若干の疲労を感じていた
        そんな中、ミア先生の集中力にはアトイもクレハも驚きを隠せないでいた
        アトイの助力があったとはいえ、診察も含め二時間弱の間
        集中を保ち続け、今なお術後処理を施そうとしている。。
      • 「アトイちゃん、包帯お願い」 -- ミア
      • 「はーい」 -- アトイ
      •  アトイが返事をすると、ひょいっ、と牧草ロールくらいある包帯が
        一巻き出現。こんな調子で手術に必要なものを、次から次へとアトイが
        取り出していたので、ミアも流石にもう驚かないが。物理的に超巨大包
        帯は圧巻である。
      • 「包帯巻くのはナーススキルでばっちりです。ミア先生はお休んでく
        ださい。
        あ、クレハさん、ココ押さえててください」。 -- アトイ
      • 「ええ、わかったわ…よっ……」 -- クレハ
      • 「テツダウテツダウ」
      • 「あ?イルカさんありがとう…♪」 -- クレハ
      • 超特大サイズの包帯は巻くのも大変だが
        その幅の広さは押さえるにも難儀する
        そこへイルカの一匹が押さえるの手伝うべく鼻面を押しつけた
        先程まで怯えるばかりであったのが嘘の様だ
        精力的に動くミア先生を見て感化されたのかもしれない。。
      • 「それでは……っと」 -- アトイ
      •  カーペットでも敷くように特大包帯を巻こうとして、アトイは、ふと
        立ち止まった。
         海の母の胴回りに包帯を巻くのだが、寝たままでは無理である。
      • 「あ……えと」 -- アトイ
      •  体を起こして貰おうかと思ったが、今はナースなアトイである。手術
        直後である海の母に、極力負担は掛けたくないと殊勝な気持ちにもな
        るのであるから。
      • 「ちょっと、失礼しますね」 -- アトイ
      •  海の母の巨大な体が、持ち上げられた。
         ベッドの横で、アトイのドラゴンが巨大化して、背に腕を差し入れて
        抱え上げたのだ。。
      • 「まぁ〜?私をお姫様抱っこしてくださるのですか〜?」
      • 「…きゅいー!?」
      • 「え?あら〜そう言えばこのドラゴンさん見覚えが〜…?」
      • 巨竜にお姫様抱っこされた海の母は驚きと喜びの表情を見せた
        当然と言えば当然だろう、このサイズでお姫様抱っこされる事などありえぬ経験だ
        しかし、娘くじらが驚きの声を上げた事でやっと気付いた
        アトイのドラゴンがあの嵐の夜のドラゴンである事に
        ちなみにクジラの視力はあまりよくない
      • 「…あちゃー……」 -- クレハ
      • 海の母の反応を見ればクレハは指で額を押さえた
        ここまで隠していた事実、実は海の母を怪我させた張本人とバレてしまった。。
      • 「おあっ!?このドラゴン……こないだ出てきたゴジラみたいな奴!」 -- ミア
      •  驚いたように、ミアが言うと。
      • 「えーと……」 -- アトイ
      •  包帯をピンで止めたアトイは、気まずそうに目を逸らしそれから、
        海の母の方へ向いて深々と頭を下げ。
      • 「ごめんなさい!おかーさん蹴っ飛ばしたの私なんです!」 -- アトイ
      •  ドラゴンも一緒に、長い首をうなだれた。。
      • 「あらあら〜?」
      • 「むきゅっ!むきゅっ!」
      • アトイの衝撃の告白に海の母は目を丸くし
        その一方で娘くじらはドラゴンの尻尾を咥えカジカジとしている
        母を傷つけられたのだ当然の事であろう。
        アトイの告白に室内は沈黙に包まれ、むきゅむきゅと言う音だけが響く
      • 「………
        そうだったのですか〜……」
      • 沈黙を破ったのは海の母だった
        彼女は笑みを浮かべると大きなドラゴンの頭に
        同じく大きな手をのせ撫で始めた。。
      • 「あ、あの、その。故意にやったわけではなくっ。
         不甲斐ない事に、私は、力を暴走させられてしまい……あっ!でも!
        そう簡単に操られる程脆弱な安全性ではないんです!ララリウムという
        奴らの……えと、これが犯人だったんですが。とにかくそいつらは、
        すごく高位な神性にまで干渉できる、祭壇というシステムを持っている
        のですが。
         あ、大丈夫です、ほんと。長老様に直々に守護神やれって言われたの
        は間違いなく本当なので!
         いざとなったら、長老様のフォローもありますし。その今回の件でも
        しっかりと助けられまして、それで私も今後は重々問題を起こさない
        ように、力の使い方等も色々と工夫してその……あの……」 -- アトイ
      •  しっぽも齧られるまま、アトイは言い訳めいた事を言ったり。。
      • 「そ、そうなの!アトイさんも悪気は無くて…!
        アトイさんを罰するなら……」 -- クレハ
      • アトイを擁護すべくクレハは大きな声を張り上げた
        あの時の事情を彼女は良く知り、当事者の一人でもある
        ならば裁かれるべきが自分もと
      • 「クレハ大丈夫ですよ〜私は誰も罰するつもりはありませんから〜」
      • 「えっ…?」 -- クレハ
      • 「なんとなく気付いていましたけれど、あの時と気配が全然〜
        でも今の言葉でわかりました〜そう言う事だったのですね〜……」
      • その大きさと同じ様に穏やかでそして海の広大さを秘めた様な声
        彼女が海の母と呼ばれる所以、それはどこまでどこまでも広く深い愛情
        彼女は娘クジラをそっと制するとアトイとクレハに笑みを向けた
        語らずともわかる、その瞳は告げているから全てを赦すと。。
      • 「あのえと……ごめんなさい……」 -- アトイ
      •  小さくそう言ったアトイに、海の母は優しく頷いた。。
      • 「やっぱりあの時のは、飲み過ぎでも幻覚でもなかったのねー。
         居るとは知ってたけど、まさか知り合いが神様だったとは意外も意
        外だったわ」 -- ミア
      •  アトイのドラゴンを見上げながらミアが言う。
      • 「ええ、まぁ騙すつもりで黙ってたわけではないのですが。
        事情も色々ありまして……」 -- アトイ
      • 「あ、いいの。だってアトイちゃんでしょ?私は特に気にしないから。
        でも、おもしろそうだから、ちょっと後で色々おしえてよ。
         それよっか、おかーさんに化膿止めと痛み止め出したいんだけど」 -- ミア
      • 「はいっ。処方箋があれば出せますよ!」 -- アトイ
      • 「おっけ、じゃあ今書くから」。 -- ミア
      • 「ふぅ…ミャー先生を呼んだのは私達的にも正解だったのかもしれないわね……」 -- クレハ
      • 大らかな反応を見せるミア先生にクレハはほっと息を吐き
        ミア先生が村で医師だけでなく校長等を任された所以なのだと感じた
        そんな和気藹藹とした空気の中、海の母がぽつりと呟く様に告げた
      • 「あの〜…あまり苦く無いお薬でお願いしますね〜?」。。
      • 「大丈夫です!錠剤なので。
         はい、ロキソニンとトラムセットです。朝晩2回食後ですね」 -- アトイ
      •  アトイが畳2畳分くらいの薬の袋を取り出しなさる。デザインは薬局
        で貰うお馴染みのタイプである。
         人間用の薬で大丈夫なのだろうか、手術が始まる前にミアにも聞か
        れたのだが、アトイ曰く大丈夫とのことなので大丈夫なのだ。。
      • 「苦く無いのなら良かったです〜」
      • 「…わっ?一粒でピザくらいある……」 -- クレハ
      • 「オームガイクライアルー」
      • 興味半分で袋を覗きこんだクレハが小さく驚きの声を上げた
        海の母のサイズに合わせた分量の錠剤は大きかった。。
      • 「あとは、しばらく経過を見ましょう。
         傷んだりしたら、いつでも呼んでくれていいから。
         治りが早ければ一週間くらいで抜糸できるかもね」 -- ミア
      •  治療はこれで一先ず終わりである。アトイは、イルカと娘クジラ達に
        包帯の換え方を教えておられる。。
      • 「はい〜ではその頃にまた〜……
        アトイお願いできますか〜?」
      • お願い出来ますかとは勿論ミア先生をここへと連れてくる事
        いくらミア先生でも海の底に回診するなんて事は不可能で
        しかし、先程まで医者を怖がっていたのが嘘の様に
        海の母はミア先生を信頼しきっている様に見える。。
      • 「お任せください!ただ、またイルカに引きずられるのもあれなので。
        後で電話でも引いておきますね」 -- アトイ
      •  アトイの能力なら、そのぐらいは朝飯前だ。
         手術も無事終わりである。ベッドに背もたれして座る海の母は、まだ
        麻酔が効いているが、心なしか顔色もよくなったように見えた。
      •  ふと、アトイは
      • 「そういえば、おかーさんとミャー先生、もしかしてお知り合いなの
        ですか?」 -- アトイ
      •  娘クジラが、頭の穴から出したクッションのようなバブルに座って
        休憩する、ミアの方を見ながら言った。。
      • 「あ、それは私も気になったわ…?
        最初に会った時からそんな雰囲気だったし……」 -- クレハ
      • バブルにうつ伏せ乗ったクレハも疑問を口にする
        思い返させばミア先生がここへと召喚され
        海の母と顔を合わせたあたりで流れと空気が変わった
      • 「ん〜…知り合いと言えば知り合いなのかもしれませんね〜?」
      • 痛みが落ちついてきたのか海の母の顔色は良好だ
        表情もより穏やかとなり、記憶を手繰る姿もどこか楽しそうに見える。。
      • 「昔ね、このおかーさんに助けて貰った事があるのよ」 -- ミア
      •  ミアが、懐かしそうにそう言った。
         昔、子供だった頃に海で溺れた事があったのだそうだ。
         村の沖合の海は、陸から少し離れると急激に深くなっていて、運悪
        く下降海流に飲み込まれてしまったのだ。
         海中の崖を、落ちていく、光はあっという間に遠ざかって藻掻いても
        脱出はできない。意識が遠のいて、目の前が暗くなっていく……。
         そんな時、気づくと、大きな手に包まれていたのだ。
      • 「それで、水中をすごい勢いで進んでるんだけど、息も苦しくなくてさ
         不思議と全然怖くもなくて。
         目を覚ましたら、岩場に打ち上げられてたのよ」 -- ミア
      •  偶然打ち上げられのだとも、海の竜神様のおかげとも言われたが。
         ミアは、一瞬だけ見た大きくて優しい横顔を忘れなかった。
      • 「だから、命を助けてくれたお礼できてよかったわ。
         ありがとう、おかーさん」。-- ミア
      • 「私こそありがとう〜医者になったミアを見る事出来て、とても誇らしく思います〜
        あの時の出会いで、私は貴女から繋がる多くを救うのが出来たのですね〜」
      • 子供の様に懐かしい思い出を語るミアを見れば海の母の顔は自然と笑みとなる
        海中での出会いは奇跡にも近い確率
        巨大な体躯を持つ海の母と言えど、もしより遠くの地にあったのならば
        ミアとの出会いは無く救う事も無かったろう
        しかし二人の出会いは成され、それは今再びの邂逅となった。。
      • 「アトイちゃんに、クレハちゃんも、ありがとうね!」 -- ミア
      •  そして、ミアは2人にもそう言って。
      • 「えっ、あ、はい。どういたしまして」 -- アトイ
      •  ちょっと驚いたように、アトイは言った。
      • 「は、はい、私達の方こそ」 -- クレハ
      • アトイに続けるようにクレハも言う
        なんだか心の奥がくすぐったい様に感じた。。


      •  アトイとクレハは、地上へとミアを送って行った。
         陽は、すでに傾き始めていたが、まだ夕方には早い空の色である。
         急に呼ばれたから、残してきた仕事片しちゃわないとねー。
         そう言って、ミアはまったく普段通りな様子で学校の方へと去って
        いった。
      • 「ふむ、後でお酒の一本でもお礼として持っていかないとですね」 -- アトイ
      •  特に費用が掛かったわけじゃないから、診療代は別にいいとの事だ
        ったので。遠ざかるミアの白衣を見ながらアトイはそう言う。。
      • 「ええ、ついでに何かオツマミになる物でも……
        そうね…肉ジャガとか…?」 -- クレハ
      • そんな風に語り合うアトイとクレハだが
        今回の一件においては色々と思う所があった様で
        遠く見詰める瞳はどこかぼんやりとしていて
      • 「…ミャー先生にも知られちゃったわね……
        でも、あれで良かったのかも……」 -- クレハ
      • 知られてしまったとはアトイとクレハの正体の事
        アトイはドラゴンの姿を、クレハは人魚としての姿を
        それぞれにミア先生に晒してしまった。。
      • 「意外とみんな戸惑わないものですね、最初に私達の正体を知ったアミ
        ロワちゃん達は、特別な力を持ってましたけど。
         アミロワちゃん達のおじいちゃんも、ミャー先生も、普通の人です
        けど、そんなになのです」。 -- アトイ
      • 「みんな結構たくましいのかもしれないわね、ふふっ……」 -- クレハ
      • アトイとクレハは面倒事を避けるために自分達の事を伏せていたが
        二人が想像する以上に、この村の住人達の精神はタフなのかもしれない
        そんな事を思うとクレハの口からは自然と笑みが零れて
      • 「今回の事も、だから上手く行ったのかも…?」。。 -- クレハ
      • 「そうですねぇ……」 -- アトイ
      •  アトイは、肩の力を抜くように一息、そして。
      • 「案外、私が神様としてしなきゃならない事というのは、大した事じ
        ゃないのかもしれません」 -- アトイ
      •  そう言った。
      • 「私の力は、大きすぎて、あの夜のように力を使ったことで起きる厄
        介な事ばかり考えて悩んでいましたが。
         私じゃなくて、他の人たちが何を出来るのか、それを知る方が大事
        なのかもしれません」。-- アトイ
      • 「うん、アトイさんの力は無敵で万能の近いけれど……
        今回の事で出来ない事があるのがわかったものね……」 -- クレハ
      • アトイは神として竜として多くの力を持っている
        しかし今回の一件では最終的に海の母の傷を癒したのはミア先生だった
        それはアトイの力でも手に届かぬ物があると言う事
      • 「でも、ミャー先生をおかーさんの所に連れて行く事は
        アトイさんにしか出来ない事だし…そう言う事なのかしれないわね…?」 -- クレハ
      • 大きすぎて小さき所に手が届かないのならば
        手の届く者に力を借りれば良い
        そのためには多くと出会い多くを知らねばならない
        それは人と寄り添い生きると言う事であり
        パズルの様な隙間だらけの世界にピースを嵌める事こと
        アトイの役目なのかもしれない
      • 「これから色々と考えないといけな…あ……」 -- クレハ
      • クレハのお腹が小さく鳴った
        続く様にミニドラとアトイのお腹も合唱する
        振り返れば海の母の元へ向かってからずっと何も食していない
        今になってお腹が鳴り始めたのは
        きっと二人の心が少しだけ軽くなったから
        二人は顔を笑みを交わすと足を我が家とは違う方へと向ける
        急ぎ腹を満たすならば向かう所は一つ、白子さんの店
        今日のお勧めメニューはなんだろう?
        そんな事を想像しながらアトイとクレハは夕暮れの道を進んで行くのであった。

        医者を探してみた了-- ▲【戻る】

ゆうれいびより  Edit


  • 【2015/08/04】
    昨日、雨が降った。
    今は、もう9月である。
     学校の長い廊下に、正午を過ぎた陽射しが差し込み、窓枠の影を格
    子状に落としている。
     人気の無い古びた木造校舎の廊下に、ジーィジーィ、と切れかけた
    ぜんまいのようなセミの声が、響いていた。
     昨日の雨に洗われて、例年よりも長く留まっていた入道雲も消え失
    せたのに。いつもの年なら、とうに居ないはずのセミが鳴いている。
     保健室の前に立って、引き戸に手をかけたまま固まるソアの背に、
    ジーィジーィ、と汗を浮かばせるような音が響く。
     まるで、盛夏の頃にしがみつくように。
     ガラリッ、と引き戸は開かれた。

    •  ほんの、少し前の事である。
       開け放たれた窓から、微塵も涼しくない風が入ってきて、ミア
      は、保健室の回転椅子に、熱気に溶けたような姿勢で座っていた。
       夏場にヘタレてしまったフィギュアの趣である。
      「いや、ほんと、嵐の夜にこう…こーんなでっかいの居たんだって。
       今年やけに暑いの長引くのもたぶんそいつのせいだって」
       背もたれに全力で背もたれる姿勢で、両腕を広げるものだから、ミア
      の体はますます、ずるずると、下に下がっていってしまう。
      • 「う〜ん? やっぱりミアちゃん酔っていたんじゃないかな〜
        本当にそんなのがいたのなら、今頃村はぺちゃんこよ〜?」 -- ソア先生
      • 胸元に出席簿を抱いたソア先生が大きく首を傾げた
        ミアの語る話は数日前から何度も聞いているが、やはりどうにも信じ難い。
        村の外の異国にて巨大な竜が街を襲撃した様なニュースを何度か聞いた事はあるが
        その被害を見れば、やはりミアの見た物を夢としか思えず。
      • 「それもそーか……。ああー……それにしても暑い」 -- ミア
      •  ミアは両手を下げて、ますます椅子に沈む…。
         この赤毛のぎりぎりアラサー白衣が、保険医でありしかも校長先生
        である。
         ふと、昼の休み時間の終わりを告げる予鈴が鳴った。。
      • 「あ、鐘が…暑いけれど、お仕事はしっかりしないと〜」
        私もがんばってくるからミアちゃんも?」 -- ソア先生
      • 崩れるミアを見れソアはその表情を笑みにするが
        予鈴を聞けばその表情はきりりとした物へ。
        そしてその大きな身と同じく大きな手で崩れたままのミアの頭をぽふぽふと撫でると
        教室へと向かうべく保険室を出て行こうとする。。
      •  昇降口の方から、トトン、と。踊るような軽い足音がした。
         足踏みの音に、窓の外のセミが、水を打ったごとく静まる。畏れ、
        声を潜め、突然現れた存在に傾注するように。
      • 「ソア先生、こんちわ〜」 -- アトイ
      •  小走りに上がり込んで来たのは、アトイだった。一瞬の沈黙は、気の
        せいだったかもしれない。
         盛大なセミの合唱を背にして、間延びした幼い声でアトイはソアに
        挨拶した。
         そして、返事を待たずに、そのまま保健室に転がるように駆け込む。
         ソアの視界の端を、ピンクのナース服と、羊の角ような髪飾りで止
        められた、アトイの長い黒のツインテールがしっぽのように跳ねて消
        える。。
      • 「ん?アトイちゃんこんにちわ〜」 -- ソア先生
      • 仔猫とすれ違うような感覚でアトイに挨拶を返すが
        そのまま数歩進んだ所でソアの足が止まった
        奇妙な感覚。
        何が奇妙かはわからぬが、胸の奥がざわざわとする
        アトイの服装か?アトイがここにいる事か?
        ソアは反転すると視線の先にある物をじっと見つめる
        保険室の扉。
        今さっきミアと話した保険室へと続く扉があり
        今はピタリと閉じられている
      • 「………」 -- ソア先生
      • ソアは保険室の扉をじっと見つめたまま
        ゆっくりと、いつも以上にゆっくりと歩を進め
        保険室の扉へと向かい、ごくりと唾を飲む込むと
        ノブに手をかけた。。
      •  ガラリ、と音を立てて扉を開く。
         開け放たれた窓に、背を向けた回転椅子だけがある。誰も座ってい
        ない、今しがた駆け込んで行った筈のアトイも居ない。
         ほとんど直感的にソアは、診察台と出入口を仕切る衝立の方を見て
        みるが。気配の絶えた保健室の中は、全開の窓から入ってくる蝉の声
        だけが大きく響いていた。。
      •  
      •  授業中、アミは、教壇に立つソア先生の事を見ていた。
         と、言うより、赤くなったオデコを見ている。
         小2から中1まで、全校生徒8人で一クラスだから、授業は基本的に自
        習形式で、分からないところを聞けば、家庭教師のようにソア先生が、
        1人づつ教えてくれる。
         普段ならば、そんな丁寧な教師ぶりであるのに。なんだか、今日は
        心ここにあらずといった風で。
         普段ならば、どんなに急いで居ても軽く避ける戸口の鴨居にぶつけた
        ソア先生のオデコが赤い。
         彼女は、大人の男ですら見上げる程の高身長であった。
      • 「…ソア先生、なんだか意識がどっかいってるね」 -- アミ
      •  こそこそ、と隣の机に座るロワナに、アミは囁いた。
         なかなか引かない残暑が鬱陶しくて、アミは、長い金髪を後ろでア
        ップにまとめている。。
      • 「うん。えっと、こう言うのたしかー…心ここにあらず、だっけ?」 -- ロワナ
      • アミの言葉にロワナがこくりと頷き、こそこそ言葉を返した。
        アミと同じに髪をアップにまとめているが
        元々双子の様にも見える二人がますます双子じみて見えてしまう。。
      • 「うんー……カブトムシついてるし……」 -- アミ
      •  何か、しきりと外の方を気にするソア先生が、窓の方を向くとその
        背中には、手のひらをいっぱいに広げたくらいでかいカブトムシが。
         そうとう重いだろうに、気づいていないご様子である。。
      • 「おっきいの…キング?ううんカイザーくらいありそうなの」 -- ロワナ
      • キングやカイザーとは村の子供達が勝手につけたカブトムシのランクの事だ
        キングは通常より一回り大きい物、カイザーはそれよりさらに大きい物
        さらに伝説サイズのレジェンドやゴッド等もある。
        ともあれそれほどに大きいカブトムシが背に張り付いていれば
        大抵の人は背に何かしらの異物感を覚えるであろう
        しかしソア先生は全く気付かぬ様子でフラフラとしておられる
      • 「ほんと、先生どうしちゃったのかな……はぅ!?」 -- ロワナ
      • さらに言葉を続けようとしたロワナがぞわりと背と肩を震わせた
        少し猫に似ている。
        教室に立ちこめる殺気にも似た空気……
        姉妹が周囲を見渡せば男子達の目が獲物を狙う狼の様になっている
        彼らの視線にあるのはカブトムシ
        そう、子供達にとって巨大カブトムシは宝石にも匹敵する存在であった。。
      • 「先生そのまま!そのまま動かないで!」 -- サム
      • 「やべぇぞ、こんなでけぇの見たことねぇや」 -- オリバー
      •  そう言って、アミとロワナの斜め左前の席のサムとオリバーは、カ
        ブトムシ(カイザー級)捕獲に乗り出している。
      • 「はい?」 -- ソア
      •  しかし、ぼんやりしていたソアは、急に声をかけられ振り向いたので
        あるから。カブトムシは、鞘羽を広げて飛んで行きなさった。
         プロペラ機のような立派な羽音であった。ため息をつく男子一同。。
      • 「…やっぱりソア先生ぼんやりさんなの……」 -- ロワナ
      • 溜息が教室に満ちる中、ロワナは小さく囁く様に呟いた
        カブトムシは教室の天井付近を大きな羽音と共に一周した後
        開かれた窓から飛び立って行ったが
        ソア先生はそれにすら気付いていない様子であった。。
      •  アミが、ロワナに小さく頭を動かして頷くと。
      • 「すごいおっきいかったのに、ざんねんー、ね?」 -- すみちゃん
      •  ちょうど前の席に座って居た、おおすみが後ろに顔を向けてそう言
        った。すみちゃん、小2の女の子である。
      • 「え?」 -- アミ
      • 「……うん?」 -- すみちゃん
      •  アミが、カブトムシの事など気づいてなかったように返事をすると。
        すみちゃんは、ちいさなおさげを揺らして頭を傾げる。
         普段のアミはどっちかといえば中身は男子小学生である。3000円の
        服を見て高ぇ、と言い。3000円のカブトムシを見て、すげぇ!と言う類の
        お子なのである。
         訝しみながら、すみちゃんが前に向き直ると。
         アミは、横のロワナに腕を伸ばして手を重ねた。
         二人には、少し不思議な力がある。
      • (ソア先生、何か普通じゃないモノが側に居た感じがする) -- アミ
      •  手を繋いで、テレパシーのようにアミは、ロワナに思考を伝える。
      • (うん、変な気配なの…少し嫌かも……) -- ロワナ
      • 触れ合った手をにぎにぎとしながらロワナは眉を寄せる。
        何かはわからぬが、姉妹はソアの身に何かの残り香の様な物を感じ見ていた
        ぐにゃぐにゃと歪んだ、鍋のそこに残った千切れた素麺の様に細く漂うモノ。。
      •  ロワナがイメージした物は、アミにも繋いだ手を通して見える。
         そしてさっき、教室の窓から遠目に見たアトイの姿が意識の端をよぎる。
      • (また、何かあったのかな……) -- アミ
  •  そう、心の中で呟いたアミは、2週間程前の嵐の夜を思い出した。
    村の地下深くで地層を成す何かと、星をもその大質量で割る程巨大な
    ドラゴンと化したアトイとの戦いがあった。
     ヘタしたら、今教室の中に居る友達もその家族も全員死んでいたかも
    知れないような戦いで。
  • (アトイちゃんが関わって起きる、普通じゃないことって。本当に普通
    じゃ済まないから……うん) -- アミ
  •  アミは、怯えているのだ。
  • (………) -- ロワナ
  • 不安に怯えるアミの手が柔らかく包まれた
    触れ合わせていた手と手をロワナが包む様に握り直したのだ
    アミが視線を上げればそこにはロワナの笑み
    口にせずとも心の中で言葉に形にせずとも伝わる
    『大丈夫』と、二人一緒なら大丈夫だと。。
  • (……うんっそうだよね。) -- アミ
  •  アミは頷いた。。
  • (うん、そうなの…♪) -- ロワナ
  • ロワナも頷いた。世の中に怖い事は沢山ある
    でも怖いからと逃げては目を背けては、自分達その物に負けてしまう
    そんな時こそ笑顔で、二人一緒にがんばればきっとどんな時も負けないし
    どんな事にでも勝てる気がする、きっと勝てる
    二人は心の奥がほわほわと温かくなるのを感じる
  • ガタッ
  • 先生…ちょっと用事を思い出したのでじすうにします! -- ソア先生
  • 突然大きな音がした、良い雰囲気を作っていた二人が振り向けば
    そこには万歳をするソア先生の姿
    二人だけでなく全員の視線がソア先生に集まっている
    そして皆が思った
  • (じすう…先生噛んだ)
  • そしてソア先生は再度、鴨居に額をぶつけながら教室を出て行った。。
  • 「先生…やっぱりおかしいの。
    ちょっとついていった方がいいかも……。」 -- アミ
  •  ロワナの方へ椅子を寄せつつ、アミはこそっと言った。
     おでこを抑えながら、廊下を小走りにかけてくソア先生の大きな背
    が教室の廊下の窓越しに見える。。
  • 「うん、何があったか気になるし……
    アトイちゃんが関わっているなら余計になの……」 -- ロワナ
  • アミの言葉に頷きながら小声で言葉を返す
    ソアは先生は普段はおっとりとしているが体格に見合った速度で歩いて行く
    追いかけるならば急いだ方が良い。。
  • 「アーミーっ聞いてる?」 -- ちはや
  • 「ひゃんっ!?」 -- アミ
  •  聞いてなかったから驚いた。
     振り返れば、一番離れた席に座っていた、ちはや姉が、アミのすぐ
    後ろに立っていた。
     背丈は小4のアミより少し小さい中1のちはや姉、通称ちぃ姉。
  • 「二人ともこないだ、山のお化け屋敷行ってたんでしょ?」 -- アミ
  • 「え?お化け屋敷……あ、うん……。」 -- アミ
  • 「あーやっぱり聞いてないー」 -- ちはや
  • 「うにゃ……」 -- ロワナ
  • ロワナは猫の様な声を上げると、アミの顔を見てから皆をぐるりと見渡した
    集まる皆の視線……
    姉妹がソア先生に気を取られている間に、幽霊屋敷に関する話題が始まっていた様だ
  • 「それでどうだったの?」 -- すみちゃん
  • 下の方から声が聞こえた、すみちゃんだ
    わんこの様に机に顎を乗せたすみちゃんが見上げながら問い尋ねる。。
  • 「どうって……なんで急にそんな話しにぃ?」 -- アミ
  •  自習ではあるが、今日は酷く暑いし、夏休み終わってすぐである。
    みんな夏休みロスタイム気分なのも仕方ない。
  • 「あれ、二人ともまだ見たことなかったのか?」 -- サム
  •  いかにも小学生男子という風体のサムが言った。
  • 「夏の終わりぐらいかな、新しい幽霊が出るようになったぜ。
    最近ノーマークだった幽霊スポットは山のお化け屋敷くらいだからな」 -- オリバー
  •  何か関係があるとみんな考えたらしい。
    サムの兄弟のような見た目のオリバーが続ける、ちなみに彼らは
    従兄弟同士である。
  • 「新しい幽霊……」
  •  アミとロワナが顔を見合わせると、アミの左隣りの席のしらせ君が
    小さく頷いた。。
  • 「二人共、この学校が元はお屋敷だったのは知ってるよな?」 -- 兄貴
  • 姉妹の後ろから太めの声が聞こえた、兄貴だ
    椅子で胡坐を組む姿はどこか男っぽさを感じさせる。
    兄貴の言う様に、この学校の校舎は古い屋敷を改装し増築した物だ
    その事は他生徒の話や村人からの話で姉妹も知っている
    だから姉妹は、兄貴の言葉にこくりと頷いた
  • 「うん、だからなのかこの学校には、昔っからいろんな噂があるんだよなぁ」 -- 兄貴
  • いろんな噂、それは古い建物には付き物の不可思議な噂
    生徒達の間では学校の七不思議等と呼ばれる類の物。
  • 「そこに新しいのが加わったの!」 -- すみちゃん
  • すみちゃんの背がシャキーンと伸びると
    興奮した様子で告げた。。
  •  七不思議が増えたり減ったりとは妙であるし、胡散臭い。しかし、
    この学校の子供らは、存在を疑ったりはしない。
     なにせ、実際にナニカが居るのである。
     ここいらではあまり縁が無いが、この世界では実際に魔術があって
    モンスターの巣食う迷宮と、長閑な海辺の村が、同じ1枚の地図上に載
    っているのだから。モンスターでも魔物でもない、ナニカの気配を感じ
    たら、それは霊や怪異だとすんなり信じられるのである。
     それは、さておき。
  • 「あたらしいのー……?」 -- アミ
  •  アミとロワナはまた顔を見合わせた。
     皆には内緒だが、この二人、他の誰より霊感の類が強い。
     だけれども、学校で、見知らぬモノの気配を感じた事はない。
  • 「えーと……8歳くらいのブルネットの女の子の……」 -- アミ
  • 「それは、前から居た子じゃない」 -- ちはや
  • ちぃ姉が、アミに答える。。
  • 「じゃあ…廊下に佇む執事さん…?」 -- ロワナ
  • 「それも前から〜」 -- すみちゃん
  • 今度はすみちゃんがロワナに答えた。
    ちぃ姉、すみちゃんのツッコミの言葉に姉妹は顔を見合わせる
    他にもいくつか思い当たる幽霊や怪異はあるが
    皆の様子からそれらとはまったく事なる、本当に新しい幽霊の住人の様だ。。
  • 「うーん…どんな子なの?」 -- ロワナ
  • 姉妹は首を傾げながら向き直ると
    皆の顔をぐるりと見渡した。
  • 「金髪だな」 -- サム
  • 「ナ」 -- オリバー
  • 「ちぃ姉よりもうちょっと短い奴」 -- オリバー
  • 「ナ」 -- サム
  •  サムとオリバーが口の端に得意気な笑みを乗せて答える。栗色の髪を
    したちぃ姉は、いわゆる長めのボブカットというやつである。
  • 「ちょっと、年上っぽかったから、生徒の霊でもなさそうなんだよな」 -- 兄貴
  •  とクラスで最年長の兄貴君が続けて。
  • 「真っ黒い着物来てたの!」 -- すみちゃん
  • 「ケフッ」 -- アミ
  •  すみちゃんの言葉に、アミは一瞬固まって、小さく、しゃっくりみたいな咳をした。。
  • 「コフッ」 -- ロワナ
  • ロワナは額を机に打ち付けるように突っ伏した
  • 「おぅっ!?二人共そんなに驚いた?」 -- すみちゃん
  • 姉妹は驚いた。皆が思う別の意味でだが
    姉妹が驚くのも仕方の無い事
    皆の語る特徴はどう聞いても姉妹の知った物であり。。
  • 「う、ううん……ちょっとむせただけ。今年はやたら暑いからかな。
    小虫がね、喉にね」 -- アミ
  • 「虫たべたん……」 -- すみちゃん
  •  すみちゃんはちょっと引いた。
  • 「……ねぇロワナ……」 -- アミ
  •  机に突っ伏すロワナの手に触れ、アミは、イメージを共有する。
     金髪のオカッパで、いもり模様の黒い振り袖を着た少女の姿が、目
    の前に見ているかのように頭の中に浮かぶ。
     (ネオンちゃんだよねたぶん…)
     彼女達の大叔母の名である、50年前に死んで以来幽霊なので、
    見た目なら15〜6歳の娘で。
  • 「私、すっごい近くで見たよ」 -- ちはや
  •  ちぃ姉が、少し恐々とした声でそう言って。
  • 「一昨日、忘れ物して1人で教室戻ったらね、いきなり後ろに立ってて
    驚いて転んだの。でも、姿ははっきり見えてたから、ミア先生のところ
    に診察に来た人かなって。そしたら、すぅ……って手を出してきて」
    「引っ張ってくれるのかなって思って、手を取ろうとしたら、すり抜
    けてまた転んじゃってね。
     よく見たら顔だけぼんやりしてて、よく見えなかったんだ。
    でもすごく、にたぁって笑ってたの!それですぐ消えて。
     あれは、間違いないね……かなり大物な幽霊だよ……」 -- ちはや
  • ((絶対ネオンちゃんだ!))
  •  アミとロワナは、心の中で声を揃えた。。
  •  アミロワ姉妹をよそに、ちぃ姉も、他の友達も楽しげである。
    お化けや妖怪の存在を、実在として受け入れているクラスメイト達に
    とって、幽霊の存在は、得たいの知れない恐怖というより。さっき飛
    んで行ったカブトムシと同じ、身近な楽しみであった。
  •  

    •  ミアは校舎の中にも、周りにも居なかった。
       保健室の行動予定表には『学校いるよ』とミアの字で書いてある
      ままで。
      普段のミアなら、勤務中に連絡せずに何処かへ行くことなど無い。
       手を抜くための努力は一切惜しまないが、仕事は確実にこなすのが
      彼女なのである。
       
       夕立の直前のように湿った風が吹いて雲を押し流す。学校のある丘
      から、海までゆるい勾配が続いていて。雲の影は地を舐めるように移
      動していく。切れ間から夏空が覗いても、爽快さとは無縁な日だった。
       ソアは、乾いた地面で列を成すアリを見ている。自分の落とした影の
      中を、アリが仰向けになったセミを運んでいた。
      • 「アリさんアリさん、セミさんはどこ行くの……」 -- ソア先生
      • セミの亡骸が喪服のアリ達に運ばれてゆく
        長く長く続く黒い列、その先にはアリ達の巣穴があり
        セミの亡骸はその奥で彼らの食となり最後の役目を終えるのだろう。
        そんな光景をソアは屈んだ姿勢で
        ぼんやり呟き見つめていた。。
      • ファイナルを迎えたと思ったセミが、突然ジジジッ、と鳴いてソアの
        前髪を掠めるように飛び上がる。。
      • 「うひゃぁ!?」 -- ソア先生
      • ソアは愛らしい叫び声を上げながら後ろに転がる様に倒れ込んだ
        転がりながらもその視線はセミを見つめたままで。
        セミは高く高く舞い上がり青空の中へ去りゆかんとす
        そこまでだった
        セミは青空の一点とならんとした瞬間、動きを止め、落下した。。
      • 「ソアちゃんも腰が痛むかいね」
      •  と、今度は背後から突然人の声が。。
      • 「うひゃっ? あ、おばあちゃん〜?」 -- ソア先生
      • 突然の声にソアは再度驚きの声を上げた
        しかし驚いたのは最初だけ
        転がるソアを覗きこむのは皺に包まれた穏やかな顔
        ソアの事を幼い日から知る学校近所に住む老婆だった。。
      • 「蒸し蒸しすると腰がねぇ。大丈夫いつものことだから」
      •  茂みの側で、丸太に腰掛けながら独り言のように言うおばあちゃん。
         すぐ側に居たのに、全然気づかなかった。気配でも消していたのか。。
      • 「あはは、いえ〜私は腰じゃなくて、こうアリさんがいたので〜
        ……? あ、あら…?」 -- ソア先生
      • ソアの汗にどっと汗が浮かぶ、恥ずかしさだけでない、何か奇妙な感覚
        おばあちゃんとは古くからの知り合い、なのに何か現実感がない
        そこまで考えた所でソアは、ふっと何かに気付く
        心から何かが抜け落ちている様な感覚……。。
      • 「どうかしたかい?」
      •  おばあさんは、どこを見るともない遠い感じの視線で。そう言った。。
      • 「ああ〜!? ミアちゃんを捜さないと!
        お、おばあちゃんまたね〜…?」 -- ソア先生
      • そうソアはミアを捜すために外に出たのだ
        途中で脱線してしまったが、アリを数えている場合ではなかった
        ソアはころんっと起き上がると、おばあちゃんに頭を垂れ
        てっこてっこと走りだした…目的地は決まっていない。。
  •  

  •  再び教室。

    • 「でもさ、最近なんか大きな事件なんて無いし。別に誰か亡くなった
      とかもないよね」 -- ちはや
      •  ちぃ姉は教室のカーテンを引いた。
         西日がきつくなってきたのが半分、すこし暗くして雰囲気作りのた
        めでもある。自習の時間はつつがなく怪談大会とあいなった。
      • 「山のお化け屋敷なら、何度もいってるけど。今までは足音とか人魂
        くらいしか出てこなかったもんな」 -- オリバー
      •  皆椅子を寄せて車座のようになり。オリバーがそう言う。話題の中
        心は、新しく出没するようになった新顔幽霊の事である。
         その人、うちのおばあちゃんの妹です……。とは言いづらいアミと
        ロワナは、微妙に居住まいが悪そうで。
      • 「それに、髪の毛が変わる事もあるんだよな。短い時と長い時がある。
        どっちも着物着てるけど」 -- 兄貴
      •  兄貴の新情報に、みんなが、あーそういえばと頷いて。アミがつい。
      • 「あ、それ双子で二人いるから……」。 -- アミ
      • 「え?アミ何か言った?」 -- すみちゃん
      • 「な、なんでもないのー! ねー?」 -- ロワナ
      • アミの呟きにすみちゃんが振り向き首を傾げれば
        ロワナは慌ててアミの口を塞ぎなさる。。
      • 「う、うんっ」 -- アミ
      • 「双子……」 -- しらせ
      •  ぼそり、と今まで黙ってたしらせ君が言いなさる。普段無口な彼な
        なので、一言何か言うと自然とみんな気を向ける。
      • 「双子かぁ……双子っていうと。おっきな蔵の家の話とか……」 -- すみちゃん
      •  すみちゃんと、ちぃ姉が頷きあった。
         村の海辺に、今は無人の家がある。過疎が進みつつある村だから、
        廃墟自体はそう珍しくないが、その家には目立つ大きな蔵があった。
         ずっと昔に海運で財を成した、裕福な商人の家だったらしい。
      • 「ただ、子供がなかなか生まれ無くて。生まれてもすぐに死んじゃっ
        たりで。それで、海神様にお願いをしたんだったよね」 -- ちはや
      •  願いは聞き届られたが、条件があった。生まれてきたのが双子であ
        ったら、先に生まれた方は、対価として海神が貰い受けると。
         果たして生まれたのは双子の姉妹であった。
      • 「それで、旦那さんは姉を蔵に隠して、こっそり育てて……」 -- ちはや
      •  互いの存在を知らないまま、姉妹は15〜6の美しい娘に成長した。
         そんなある日、ふとした事から妹は、姉と出会ってしまう。
         まるで生き写しのような二人であった。
         蔵から出られない姉を不憫に思い、妹は、誰にも内緒で入れ替わる事にした。
         しばらく、そんな事を続けた後に。ある夜、約束の刻限になっても
         蔵で待つ妹の元に姉はもどってこない。
      • 「蔵は中から開けられないのだけど、その晩は鍵があけられていて」 -- すみちゃん
      •  家の者がすぐに気づいた。妹は、自分は入れ替わっているだけだと
        言ったが誰も信じてくれず。姉は、そんな子は知らないと言った。
         その時、突然大きな波が起こる。折しも大潮の満月で、屋敷のすぐ
        側まで来ていた海が、月明かりを遮る程に高く立ち上がり。妹を、海
        へと攫って行ってしまった。
      • 「実は姉は、妹の許嫁を好きになってしまったから、入れ替わったまま
        妹を海神様に攫わせたんだって」 -- すみちゃん
      • 「だけど、姉も、次の満月。祝言を上げる前日に、病に倒れて。
        つきっきりで看病されていたのに、夜中に1人で部屋を抜けだすと。
        岬から海に身を投げて死んでしまったって……」。 -- ちはや
      • 教室の中がシィンと静かになる
        すみちゃんとちはやの話は、村人の誰もが知る話だ
        御伽噺や昔の様に伝わっている夜話の怪談としても定番
        それでもこんな空気の中で改めて聞けば
        背に寒さの様な物を感じてしまう
      • 「んっと……」 -- ロワナ
      • 時間と共に皆の呼吸とざわめきが再開される中
        ロワナは吐息する様に呟くと、隣で黙しているアミの方へと視線をやった。。
      •  そうして、アミの方はさらに隣へ視線を……。
         すみちゃんとちぃ姉のすぐ後ろに、少女が立っていて、二人は
        全く気づいていない。
         古風な着物を着た15〜6の美しい娘である。
      • 「……うん」 -- アミ
      •  ロワナの方へ振り返って、アミは苦笑いした。
         蔵のある家の怪談に出てきた、妹さん本人であった。
         恨めしげな感じは全くなく、唯一存在に気づいたアミとロワナに、
        にこにこと手など振っている。
      • (あの話、実際に在ったことが元ネタだけど、全然話違うんだよねぇ) -- アミ
      •  何せ、この話してると良く寄ってくるご本人から、実際の所を聞いた
        事のあるアミは、少し遠い目をした。。
      • (うん、二人とも今でも仲良いし……
        今日はお姉ちゃんの方は来てないのかな…?) -- ロワナ
      • 今日は姉の姿が見えないが
        この話が始まると、当事者である姉妹は必ずの様に現れ
        語り部の周囲をうろうろとしながら物語を聞いている。
        悲劇の怪談として伝わってしまったが
        自分達の物語が今の世に残っている事は好ましく思っている様だ
        それほどに当人達は呑気であり、姉妹仲も良い。。
      • 「ふむう……」 -- アミ
      •  怪談として語られ続けるから。彼女たちは、霊としてこの地に留ま
        っていられるのかもしれない。
         それはそれで、悪くなさそうである。
         怪談に興じる友人達は、アミとロワナ以外誰も少女の存在に気づいて
        いない。
         死してなお、生者に強く干渉する霊は、大抵悲しいモノを抱えてい
        る事の方が多いのだ。しかし、話に引き寄せられた少女はそうではなく。
         アミは、少し心に引っかかるものを感じた。ほんの少しだけ。

  • 一方その頃。

    • 大地を踏みしめ巨体が駆けて行く
      舗装の無い田舎道に一歩また一歩と大きめの足跡を穿ち駆けて行く
      2m弱の巨体が駆ける姿は進撃する巨人の如し
      されど道端の人々は驚く事無く笑みを贈り、時に挨拶の言葉を贈りさえする
      そんなエールを受けながら巨体は駆ける
      ひたすらに駆け、駆け続けた、が……
      • 「ミアちゃ〜ん…あら…?」 -- ソア先生
      • 同じ光景を三度目に見た時
        巨体の主であるところのソアは駆ける足を緩めた
        そして額の汗をハンドタオルで拭うと駈け足を歩みへと変える
        消えたミアを捜し求めひたすらに駆け続けたが
        気付けば村の中を三周ほどしてしまっていた
        だが未だミアの姿は見つからず、ただ時間を浪費していただけだった
      • 「う〜ん、どうしましょう」 -- ソア先生
      • 唸りながらソアは途方に暮れた
        がむしゃらに走っていたが、状況に進展は無く
        このまま単に走るだけで良いのかと……。。
      •  結局、学校の近くに戻ってきてしまっていた。振り出しである。
         白く乾いた地面に自分の大きな影だけがあって……ふいに、影が膨
        れ上がったように見えた。
         影の中からもう一つ、影法師がすぅっと出て……。。
      • 「…ふわっ…!? ミアちゃ……」 -- ソア先生
      • 自分の影が何か妖怪になったかの様な感覚を受け
        ソアは思わず悲鳴を上げそうになった
        しかし恐怖は直ぐに別の考えと代わり、別の可能性に至る
        背後に誰かいる、もしかしたらそれは捜し続けた人物ではないかと
        だからソアは期待の心でゆっくりと振り向いた、そこには……。。
      •  また、おばあちゃんだった。
         おばあちゃんは、突然振り返ったミアに、ビクリッと体を震わせて、穏やかな顔のまま硬直。
      • 「おばあちゃ〜ん…へふっ」 -- ソア先生
      • ソアはその場にペタリと座り込んだ
        期待が外れた事による脱力感と
        そこにあったのが知った顔で会った事の安心感。。
      • と、同時に違和感。おばあちゃんが石像のように微動だにせず。
      • 「おばあちゃーん?」 -- ソア
      •  覗きこんでみたら息もしてない。っていうかこれ死んd……
      • 「おばあちゃぁーん!?」 -- ソア
      •  慌てて肩を掴んで揺さぶった。
      • 「ああ、ソアちゃんかい?」
      •  うたた寝してふと目を覚ます感じで、おばあちゃんが息を吹き返す。
         今何か抜けかけていたものがヒュッと体に戻っていったような……。。
      • 「ほわっ!?…お、おばあちゃん生きてた?
        でも、今なにか出て無かったですか〜???」 -- ソア先生
      • 魂抜けかけてた!?
        ソアはおばあちゃんに呼びかけながら、数度瞬きをし目を擦った
        おばあちゃんが生きていた事に安堵はするも
        驚きと緊張で心臓が早鐘の様にバクバクとしている。。
      • 「ソアちゃんが急におっきな声だすからね、はぁ。年取るとねぇよく
        あるんだよねぇ」
      •  よくあるらしいです。。
      • 「よ、よくあるんですか〜??? き、気を付けますね」 -- ソア先生
      • ソアは大きな身を小さくしつつペコペコと頭を下げるも
        同時におばあちゃんが今日まで良く無事に生きていたと驚きを隠せない
        おばあちゃん結構タフ…?。。
      •  また遠くを見ながら立ったまますぅ……、と気配が薄くなっていく
        おばあちゃん。。
      • 「…ん? わぁ? おばあちゃ〜ん?」 -- ソア先生
      • おばあちゃんの霊圧が消えかけるのを感じれば
        ソアは控えめの声で驚きつつおばあちゃんの肩を前後に揺すった
        これまた控えめの力で。。
      • 「……寝てたねぇ、おうおう、ソアちゃんは力持ちだねぇ」
      •  慌てるソアと対照に、おばあちゃんは若干バイブレーションの掛か
        った声でのんびりと言いなさる。。
      • 「生きて…寝てた〜? ああ……」 -- ソア先生
      • 何度目かの驚きの声を上げつつおばあちゃんを揺する手を緩め
        がくりと肩を落とした、そして思う
        このおばあちゃんを放置したら危険だと……
      • 「…おばあちゃん、私の背に乗ってください〜
        おうちまで送って行きます、それとも別の所に〜?」 -- ソア先生
      • ソアは反転しおばあちゃんにその大きな背を向けると
        その場に屈みその背に乗る様に促す
        ミアの事も気がかりだが、目の前のおばあちゃんはもっと放っておけないと。。
      • 「そうかぃ?悪いねぇ、そんならねボチボチ帰ろうかね、じいさんも畑
        から戻ってくる時分だね」。。
      • 「うふふっ、全然大丈夫ですよ〜
        え〜っと、おばあちゃんの家は確かこっちでしたね〜」 -- ソア先生
      • ソアの大きな背に収まるおばあちゃん
        その身の軽さにソアは少し驚くがこれが年を取ると言う事なのだと感じつつ
        自分の母ではこうは行かないだろうと思う。ソアよりも大きいし
        ともあれ、ソアはおばあちゃんを背負い歩きはじめた。。
      • 「ソアちゃんずいぶん大きくなったよねぇ、眺めがいいねぇ……」
      •  そして、空に近くなったおばあちゃんがまた……。。
      • 「私の背に乗るとみんなそう言うんですよ〜……はぅ!?おばあちゃん!?」 -- ソア先生
      • 空にまたソアの叫びが響いた。。

  •  教室のカーテンが、音もなく膨らんで、教室内にたまった空気を僅
    かに揺らした。
     カーテンの隙間から落ちる陽射しは、暗い。外は雲が多くなってき
    ているようである。

    •  「確かに双子だけど、あれ村の海辺の方の話だろ」 -- サム
      •  怪談は続いていて、ちぃ姉とすみちゃんの話の後、サムがそう言う。
      • 「山のお化け屋敷にはあんま関係なくね?
        ってか、昔っからある話だし……」 -- サム
      • 「それもそっか。あ、でもそれ言ったら。最近出てきた幽霊が、ほん
        とに山のお化け屋敷と関係あるかわかんなくない?」 -- ちはや
      •  実際関係大有りなのだが、ちぃ姉は知らない。
      • 「ふふん」
      • 「何そのドヤ顔×2」 -- ちはや
      •  サムとオリバーが、揃ってにやりとした。。
      • 「むぃー…屋敷と学校のは関係あるんだけどねー
        今度は何の話をするんだろう……」 -- ロワナ
      • どや顔をするサムとオリバーを見つつ
        アミにそっと耳打ちをする。
        真相を知る姉妹としては何かもどかしい。。
      • 「教えた方がいいのかなぁ……ううん、でもネオンちゃんあんまり村
        の人は好きじゃない雰囲気あるし……」 -- アミ
      •  ネオン自身は、悪い人じゃないのはアミロワは知っているが。
         何分、その身に宿した力が強すぎる。この村そのものを大地ごとひっ
        くり返して埋めてしまうほどの力と密接に結びついているのだ。
         それは、ドラゴンで神様で、姉妹の隣人でもあるアトイも同じで。
         そんな彼女らが、正体を村人には伏せて、付合い方に一線を引いて
        少し距離を保っているのを知っている。
         それが悪い事だとは思わない。この世界には色々なモノが居て。
        だから住み分けやあまり近づき過ぎない事も大事なのだ。
         アミとロワナ自身、自分たちの力の事はクラスメイトにも内緒にして
        いる。他の子らよりも、明らかに見えるモノが多いという事を。
         海辺の、古い怪談に出てきた幽霊姉妹の片割れは、話が自分たちの事
        でなくなると、霞の晴れるようにいつの間にか消えていた。
         彼女の話も、本当の所をみんなに伝えた方が、いいのかもしれない。
         でも……、と何故か躊躇する気持ちもアミにはあって……。
      • 「実は俺達、こないだ見ちゃったんだよね。
         新人幽霊の正体」 -- サム
      • 「ああ、実はあれは触手のお化けなんだ」 -- オリバー
      • 「ごふっ!?」 -- アミ
      •  考え混んでいたアミは、サムとオリバーの話に盛大に咳き込んだ。。
      • 「えふっ!?」 -- ロワナ
      • ロワナは突っ伏す様に机に額を打ち付けた
        そしてゆっくり顔を上げるとアミを見ながら思う
        通じずともわかる、アミも同じ事を考えていると
      • ((ネオンちゃん何やったの!?))。。
      • 「どしたの?」 -- すみちゃん
      • 「「な、なんでもないよ?」」
      •  アミとロワナは、二人シンクロして返事をした。
         ここ数日、ネオンやレインの姿を見ないと思っていたら、一体本当に
        何をしているのだろう。
         サムとオリバーが語るのは、ネオンが操る黒い樹の根のように見える
        粘体のことで間違いない。
         しかも、古の邪神由来の、強大にすぎる力の末端である。
         アミロワは、その力のせいで、比喩でなく何度も死にかけたので……。
      • 「ホントだぜー?俺もオリバーも山の中で見たんだ。
         夕方でな、こう体から真っ黒い根っこみたいな触手がぶわーって。
        それが体よりでかくてさ」 -- サム
      • 「ああ、だからあいつは実は人に化けてんのさ。間違いないね」 -- オリバー
      • 「ほんとに?それすごい大発見じゃん」 -- ちはや
      •  ちぃ姉が、身を乗り出して話に食いつくと。サムとオリバーの悪ガキ
        コンビは得意満面である。とっておきのネタであった。
      • 「それに、村の山側には、昔っから古い言い伝えがあるだろ」 -- 兄貴
      •  兄貴が、言った。
         それは、とても古い話だ。ちぃ姉達の怪談も昔々の話だが。こっちの
        話には、2〜300年前という具体的な記録があった。
         山に棲まう、怪物の伝承だ。。
      • 兄貴の話に皆が大きく頷いた
        山側に住まう村民達から広まった伝承だが
        古いながらも記録がいくつか残っていた事もあり
        村人の多くがその存在を信じているし
        なにより二〜三十年ほど前にも
        その怪物が関わっていたとされる事件が起こっていた
      • 「むぃ」 -- ロワナ
      • 皆が頷く中、アミとロワナだけがまた微妙な表情をしていた。。
      • みんなは、新顔幽霊の正体を、伝承の怪物に求めているようである。
        それは見当違いだが、笑い飛ばすような気にもなれない。
      •  アミロワは、例によって、その怪物とも顔見知りなのである。
         しかし、友達というほど仲がいいわけではない。
      • 「山のお化けは、モンスターとかが正体じゃないのー?」 -- すみちゃん
      •  そう言ったのはすみちゃんである。
         モンスターでも獣でもない何かが山に潜んでいると、概ね信じられ
        てはいるが、目撃情報や記録が曖昧なことが多く、実際に怪物の姿を
        残した物的証拠がほぼ無いのであるから。
         扱い的にはUMAのようなものである。
      • 「まぁまぁ、大昔、村にモンスターが現れてた頃もあるけど。
         そういうのを退治した記録は一杯残ってるんだ」 -- 兄貴
      •  兄貴が、古代遺跡から発掘された電話帳といった雰囲気の、古い分
        厚い本を取り出した。
      • 「それも、87年前の、コボルトを1匹退治したの以降は出てこない」 -- 兄貴
      •  ついでに言うと、狼をモンスターに入れるなら、その後も何件かは
        被害の報告があるが。その後山狩りをして狼を何匹狩ったとか写真と
        一緒に記されていた。
      • 「その中で、20数年前に起きた羊が大量に殺された事件だけは、証拠
        になる足跡も、目撃情報も全然なくて。
         羊達は、血だけ抜き取られたようになって死んでたって書いてある
        から。明らかに他の被害報告と異なってるんだ」
      •  しかも、記録をよく読み返すと、同様の事件は、実は周期的に起き
        ているのだと、兄貴は言った。
      • 「たぶん、この家畜の被害記録に出てくる詳細不明の全部か、あるいは
        大部分が、山の怪物の仕業だと思うんだ。
        この村や隣の街が大きくなってくにつれて、モンスターや狼の話は、どん
        どん減ってるのに。
         詳細不明の事件だけは20〜30年置きに必ず出てくる……。
         20数年前の事件の前にも、もちろん」-- 兄貴
      • 「な?間違いねぇって。山の怪物は一見人のように見えることもあるって
        聞いたことあるし。 きっと化けてんだよ」 -- オリバー
      •  兄貴が本を閉じると、オリバーがすげぇ楽しそうに言った。
        家畜を襲う怪物が実在したら、山側で牧畜してる自分ちが危なそうものであるが。。
      • 「うー……」 -- ロワナ
      • ロワナの指がわきわきとしている
        ネオンと怪物は別の存在
        そのどちらとも知り合いである姉妹だからこそ知りえる真実
        だからこそ皆のやりとりにもどかしさを感じる。。
      • 「んー……」 -- アミ
      •  アミの方は椅子の座面に両手をつけて、微妙に体を揺らして……。
         どうしたものかと思案する二人を余所に、クラスメイト達は、幽霊
        じゃなくて実はUMA!?いやまてそうなると妖怪の線も……。なんかもう
        山のお化け屋敷関係なくない?実は宇宙人!等々……好き勝手に言っ
        ておられる。
         そして流れは、そんなら皆でお化け屋敷に確かめに行ってみようか、
        という事になり……。
      • 「あ、あの!」 -- アミ
      •  不意に声をあげたアミに、皆の視線が集まった。
      • 「アミ急にどしたの? それにロワナも?」 -- すみちゃん
      • 「あ、えっと……」 -- ロワナ
      • アミの強い感情がロワナに伝わり肩がビクリと震えた
        ロワナにはわかる、アミが声を上げた理由を
        なぜなら姉妹は同じ事を考え同じ気持ちだったから
        それは、真実を伝えたい、怪物の事を、ネオンの事を
        そしてなにより、彼らと彼女達がこの世界に存在すると言う事を
      • 「アミ……」 -- ロワナ
      • 沈黙の中、アミとロワナは視線を合わせると頷きあった。。
      • 「私達もね、知ってる事あるんだ……」 -- アミ
      •  ちぃ姉や兄貴達の話に続くように、アミがそう言うと。
      • 「ほんとー?どんなどんな?やっぱりあの子は幽霊だよね!」 -- すみちゃん
      • 「いやぁ、怪物だって」 -- オリバー
      • 「……ひきこもり」 -- しらせ
      • 「宇宙人という説も捨てがたい」 -- 兄貴
      • 等など、それぞれに興味津々に食いついてきて。。
      • 「わーわー? みんな落ちついてなの?
        んっと、わかりやすい所からかなー」 -- ロワナ
      • 一斉に言葉を浴びせかける皆を制しつつ
        もう一度アミの方を見ると、頷きあい
        そして一呼吸してからゆっくりと静かに語り始めた
      • 「えっとまず…屋敷に幽霊が住んでるのはあってるの
        それと…ひきこもりもあってるかなー? あ、それは片方の子ね?」
      • 「片方の子?」 -- すみちゃん
      • 「うん、ネオ…幽霊さんは双子の姉妹なの」 -- ロワナ
      • すみちゃんの質問にこくりと頷くとアミの方を見、また頷いた
        ネオンとレインの名を伏せたのはまず基本的な所からと言う理由だ。。
      • 「双子の姉妹で、お姉さんの方が髪が長くて、妹の髪は短いの。
        どっちも金髪で。山のお化け屋敷に住んでたの……えーと、50年前」 -- アミ
      • 「やっぱり幽霊さんだったんだー!」 -- すみちゃん
      •  いえーい、とすみちゃんとちぃ姉がハイタッチ。変わって、オリバー
        やサム達の男の子組は若干不満そうである。しらせ君は相変わらずの
        ポーカーフェイスだ。
      • 「妹の方は、えーと……地下の……んや、その、火事で死んじゃって」。 -- アミ
      • 「火事で!?」
      • すみちゃんとちぃ姉がユニゾンする様に驚きの声を上げ
        オリバとサム、そして兄貴は続きをせがむ様に身を乗り出してきた
      • 「わ?順番に行くから落ちついてなの?
        だから最近までちょっとやさぐれて屋敷に引き籠ってい…ニャッ?」- ロワナ
      • 誰かに頭を叩かれ、ロワナは猫の様な声を上げた
        振り向けばそこにはムスっとした顔のネオンが浮かんでる。。
      •  幽霊は、自分の話をされると寄って来るものであることよ。
        っていうか蔵の屋敷の幽霊もそうだったけど、みんな暇なのだろうか。
      • 「……初めて聞く話だなー、アミ達はその話どこで聞いたんだ?」 -- サム
      • 「そうだよなー、お化け屋敷は、別に燃えた跡とかねぇし。なんか証拠
        とかあんの?」 -- オリバー
      •  サムとオリバーが、どうなのと?という視線を向けてくる。アミのすぐ横
        にいるネオンのことは見えてないようで。
      • 「えーと……」 -- アミ
      • (まぁいいわよ、好きになさい)
        と言うように、ネオンは肩を竦めてみせた。
         今日は、着物ではなく、カジュアルなカントリー風ドレスだった。
      • 「えーとね……、この話は、直接聞いたことだから」 -- アミ
      •  そう言って、アミはネオンの手を握り。もう片方の手でロワナと手
        をつなぐ。。
      • 「なにしてんの?」 -- ちはや
      • 「私の手を握ってほしいの、その方が手っ取り早いから
        あ、みんなもどんどん繋いでほしいの」 -- ロワナ
      • 「ん〜?繋げばいいのね?」 -- ちはや
      • 「なんか楽しそう!」 -- すみちゃん
      • ロワナの手をちぃ姉の手が握り
        ちぃ姉のもう片方の手をすみちゃんが握った
        さらにその手をしらせ君が握り、サム、オリバー、兄貴と続く
        いわゆる数珠繋ぎと言う奴だ

        そして最後に空いた兄貴の手を誰かが握った……。。
      • 「これで、みんなにも見えてるかな」 -- アミ
      •  アミが、そう言った瞬間。クラスメイト8人の輪の中に、知らない誰
        かが紛れ込んでいるのを全員が視認した。
      • 「あ、あれ……え?」
        「ッ!」
        「おおぅ……」
        「宇宙人……っぽくはないな……あっどうも」
      •  みんなが、次々に驚きの声を上げ、一番端に居た兄貴はいつの間に
        か手をつないでいた、少し年上に見える少女が微笑んできて、はにか
        んで頭を下げた。
         自分たちが今しがたまで、噂していた当の幽霊達、ご本人の登場で
        ある。クラスメイト達が驚き、そして固まってしまって。
      • 「みんなが言ってた、幽霊さん。ネオンちゃんと、レインおばあちゃん
        なの」 -- アミ
      • 「え、おばあちゃん…って」 -- ちはや
      •  アミの言葉に、ちぃ姉が、アミロワ達と、幽霊を見比べる。
         全員同じ髪の色と瞳をしていて、はっきり姿の見える今ならわかる。
        幽霊たちは明らかにアミロワと同じ特徴の顔をしていた。。
      • 「はい、私がロワナとアミのおばあちゃんのレインですわ
        いつも孫がお世話になっています」 -- レイン
      • 生徒達とそう年も離れていないであろう少女は、そう自己紹介をした。
        金の長い髪に淡い色の着物姿、その穏やかな笑みは育ちの良さを感じさせる
        そんなお嬢様を絵に描いた様な少女が、自らをおばあちゃんだと言うのだから
        誰もが驚かずにはいられない。。
      • 「どーも、姉さまの妹で、お化け屋敷の幽霊で山の怪物のネオンよ
         宇宙人じゃないわよ?」 -- ネオン
      •  『お化け屋敷』のところを強調しつつ、ネオンも自己紹介。
         輪になったクラスメイトの皆は、微妙に居心地悪そうにご挨拶を返
        しなさった。
         突然現れた二人が、人間じゃないのを誰も疑わなかった。だって半分
        透けて居るのだし。
         幽霊の正体、怪物説を唱えいてた男子共は超苦笑いした。
      • 「えーと……」 -- ちはや
      • 「うーんと……」 -- すみちゃん
      •  顔を見合わせたちぃ姉とすみちゃんが、もじもじと頷きあった。
         ニコニコとしたままのレインと、若干むすっとしているネオンを、
        交互に見たりして。
         話しの種にしてたご本人が目の前にいるのだから、色々聞きたい事は
        当然あるのだが。何も聞けずに、アミロワの方へ視線を向けて。
      • 「うん、まぁ……その、私達もね……みんなに内緒にしてた事とかあ
        るんだ」 -- アミ
      •  そう、アミが言って。。
      • 「だから、この機会に全部話しちゃうね?」 -- ロワナ
      • さらにロワナが続けた。
        そんな姉妹をネオンとレインはじっと見つめる事で問い尋ねた
        『本当にそれでいいのか?』…と
        だが既にレインにもネオンにもわかっていた、姉妹の決意を
        なぜなら姉妹は自分達と同じ血を引く者だから
      • 「うん、大丈夫なの」 -- ロワナ
      • 皆が静かに見守るなか、アミとロワナはネオンとレインに大きく頷くと
        二人口を揃えて、大きな声で告げた
      • 「「私達、幽霊さんとお話出来るの!」」。。
      •  一瞬静まり返り、そして誰からともなく。
      • 「あ、やっぱり」
      •  そんな反応が帰ってきて。今度はアミロワ達がちょっと驚いた。
      • 「そうじゃないかなぁって、前から思ってた」 -- ちはや
      •  そう言ったのはちぃ姉で。
      • 「よく誰も居ないところに声かけたり
        してたしな」
        「ナ」
      •  オリバーとサムもそう言って頷き合い。。
      • 「多分最初に気付いたのはワタシよね!」 -- すみちゃん
      • 「いやいや皆同じくらいにだろう?…だが
        そうかそうか、やっぱりそうなんだな」 -- 兄貴
      • すみちゃんは自慢げに胸を張り、兄貴はすみちゃんを窘めると腕を組んで頷いた
        皆が頷き納得する中、アミロワだけが唖然とした顔をしていた
      • 「えっと…これって???」 -- ロワナ
      • ロワナがぽかんっとした表情のままにアミを見れば
        アミもまた似た様な表情でぽかんとしておられる
        先までの自分達の気持ちはなんだったのかと。。
      • 「ロワナが授業中居眠りしてる時とか、白い手が代わりに問題解いたり
        してたしな」 -- オリバー
      • 「頭がなくて、足が妙に多い真っ黒な犬?にアミが後つけられてた時は
        さすがに大人に相談した方がいいかなとか思ったけど」 -- ちはや
      • 「気づいてたんなら言ってよー!?」 -- アミ
      •  内緒にしていたはずが、知らぬは自分たちばかりなり。
         アミは思わず逆ギレ気味に両手をあげた、アミにちぃ姉がちょっと
        身を引きながら。
      • 「え、ごめん、やっぱあの犬??はまずかったの?」 -- ちはや
      • 「それは、夜中庭によく来る子だからいいのー!」 -- アミ
      • 「……大丈夫なのそれ……」 -- ちはや
      • 「全然大丈夫なの
        たまにたくさん出てくるけど」 -- ロワナ
      • 「たくさん出てくるんだ……」 -- すみちゃん
      • アミとロワナの語る話に素直に関心する生徒達。。
      • 「なぁお前らさ、やっぱ他の幽霊とも話したことあんの?」 -- サム
      •  学校のとか、村のあちこちで目撃される色々な方々の事である。
         サムが身を乗り出して聞いてくる。興味津々である。
      • 「ん、まぁ……。ちぃ姉達が話してた怪談の人とか……。
         ほんとは双子の姉妹じゃなくて、9人兄弟だったとか……」-- アミ
      • 「子沢山だ!?」 -- ちはや
      •  蔵の家の怪談では、夫婦は子宝に恵まれなかったはずであるが。
        以外な史実に驚くちぃ姉。
      • 「双子の姉妹じゃなくて、そっくりだけど兄と妹の双子だったとか。
        お兄ちゃんの方はおとのこだったとか……」 -- アミ
      • 「え、うん、お兄ちゃんなんだから男の子だよね」 -- ちはや
      • 「妹の方が、親の決めた結婚が嫌で、お兄ちゃんと入れ替わって逃げ
        ようとしたんだけど。
         お兄ちゃんはそのまま、妹ちゃんの婚約相手と結婚しちゃったとか」 -- アミ
      • 「どういう事!?」 -- ちはや
      •  男の娘。。
      • 「んー説明するより、当人に会う方がいいかも?」 -- ロワナ
      • 「当人?ほわぁ!?」 -- ちはや
      • 言うが早いか、先程の怪談の時にはいなかった姉
        正確には兄が天井からスッと降りて来た
        見た目には古風な和美人
        華の着物を纏い長い黒髪をふわふわと空に舞わせ、それは某水母な艦むすの様で
      • 「マジだ…喉仏ある」 -- 兄貴
      • 皆がその儚げな美しさに見惚れる中
        ボソリと呟いた兄貴の指摘に姉兄様はムッと頬を膨らませなさった。。
      • 「痛ッいたた!頬つままれてる!?な、なんで!?」 -- 兄貴
      •  姉兄様の幽霊につねられる兄貴君。
         今まで見えては居ても、こんなにはっきり実在を感じたことは無い。
      • 「それが、この子達が秘密にしてた力の一端ね」 -- ネオン
      •  にやり、としながらネオンが腕組みをしながら言った。
         もうみんな手を繋いで居ないのに、薄暗くなった教室の中で、その姿
        は薄く光を纏ってはっきりと見えていて。
      • 「あなた達、気軽に遊び場にしてくれてるようだけど。
         気をつけなさいよ……?あの館と山には、怪物が居るんだから」 -- ネオン
      •  ネオンの背から、黒い樹の根が生えて。意地悪げに笑いながら
        サムとオリバー達の頬をツンツン、とつつく。
      • 「触手!?ヒッ!じゃあやっぱり、言い伝えの怪物って本とに……」 -- オリバー
      • 「別に、家畜や人を襲う趣味は無いけどね?……おぅッ」。-- ネオン
      • ぺちり
        ラスボスの様な黒い空気をかもしだしていたネオンの頭が叩かれた
        振り向けば、ネオンの姉である所のレインがむぅっと頬を膨らませている
      • 「もう、ネオンだめでしょう?そう言う意地悪をしてわ」 -- レイン
      • そう言いながらレインはネオンとオリバー達の間に入ると
        笑みを浮かべてから黒い触手をむんずっと掴んだ
      • 「ごめんなさいね? この子ずっと引き籠りさんだったから……
        少し人付き合いが下手だけど、本当はいい子なのよ?
        それと……
        悪い力の類は私達でなんとかしているから、心配しなくても大丈夫ですわ、ね?」-- レイン
      • レインは黒い根をふにふにとしながらネオンを見
        そして山側の方へ視線をやると真剣な横顔となり
        それから生徒達の方へと視線を戻すとまた笑みを見せた
        温かい笑み。彼女が幽霊である事を忘れそうになる、全てを包み込む様な笑み
        それは、彼女がアミとロワナのおばあちゃんであると言う事を納得させて。。
      • 「んぬにに……。ん、まぁ姉様の言う通りよ」 -- ネオン
      •  ふにふにされていた黒い根をひっこめてネオンが言った。それから、
        アミとロワナの肩に手を置いて。
      • 「だから、あなた達まで背負い込むことは無いわ。不安だったんでしょ
        自分たちの血に隠された秘密を知ってしまって」 -- ネオン
      •  手を繋げば、触れ合えばわかる。彼女達にはその力があるのだから。
        邪神を崇拝し、復活させようとしていた一族の血を引くということ。
        そして、邪神と繋がる巫女の力を生まれながらに刻まれているという
        こと。
         その力は、何世代、何百年にも渡り編まれた、呪いのような力であ
        ること。邪神は、今も村の地下深くで、死のごとき長い眠りの内にあって
        やがて必ず目を覚ますということ。
         それが、アミとロワナ達のかかえた不安で。
      • 「今は、私や姉様がいる、ヴァイアも守ってくれているし。気にくわ
        ないけどアイツもまぁ役に立ってるし」 -- ネオン
      •  ネオンは、そう、二人に優しく言った。
         アミとロワナは、肩に置かれた手を握り返す。
      • 「しっかしすごいよなぁ。幽霊と話せるだけじゃなくてこうやって呼
        び出せちゃうなんて。
         なんか魔法使いとか……巫女さん?みたいだ」 -- 兄貴
      •  場の空気が和らぎ、改めて、兄貴が、姉兄様の幽霊の方を見ながら
        言う。。
      • 兄貴の視線に姉兄様がポッと頬を染めなさった
        仕草が妙に色っぽい
      • 「ツァっ!?」 -- 兄貴
      • 「兄貴気にいられたみたいなの♪…んー……」 -- ロワナ
      • 思わず飛び退く兄貴を見ながらロワナは考える
        ネオンもレインも心配するなとは言ったが
        本当にそれで良いのだろうか…と。。
      • 「あはーっこれ面白いねぇ。これだと心霊スポット巡りとか、もっと
        楽しそう。もっと早く二人の力を教えて貰えばよかったなー」 -- ちはや
      •  指先をすり抜ける人魂を撫でながら、ちぃ姉は楽しげである。
      • 「んと、みんな仲良くしてくれる人たちばっかりじゃないから。
        気をつけないとだめだけど……」 -- アミ
      • 「そういうのも、お話できるならすぐ分かるじゃない」 -- ちはや
      •  見れば、兄貴は姉兄様に指先で撫で回されて、苦笑いしていたり。
         サムとオリバー達は、ネオンの黒い根をカッケェ……と言いながら
        覗きこんで。しらせ君等は、輪になって飛ぶ人魂に囲まれたりしてい
        なさる。
         アミは、ロワナの方を向いて、ちょっと笑った。
         これも、良いのかもしれない。そんな風に思った。。

  •  教室の中は、ずいぶんと賑やかになってしまった。
     普段生徒数8人の教室に、人が増えたわけではないのだが、人以外なら
    ひしめき合っているのだ。

     いつの間にか教室は、幽霊だらけである。

    • 「おお……こっちのは岬の上にたつ人影で……。あっちの人は、御札
      だらけの空き家の人……」-- すみちゃん
      • 「ひっ!?天井にでっかい影が!?」 -- ちはや
      • 「夕方に山の上を横切って通ってく人だね……人ではないか」 -- アミ
      •  驚くすみちゃんやちぃ姉に、アミが説明した。
         晴れた夕焼けに、山よりも高い人影が赤い空に投影されたように現
        れて、ゆっくりと山の方へ歩いてすぅ…、と消えて行く事がある。
         同じ場所から見ていても、見える人と見えない人、あるいは見える時
        と見えない時があったりする。
         教室の天井一杯に現れた人の頭部の影の中に、切り絵のような目が
        くわっ、と開いて、影は薄れて消えていった。
      • 「なんかもう、お化け屋敷みたい!今まで見えては居てもこんなに近く
        で見れたのは初めてじゃない」 -- ちはや
      •  ちぃ姉は楽しそうだ。。
      • 「こんなに賑やかな教室はじめてかも?」 -- すみちゃん
      • すみちゃんも楽しそうだ
        ちぃ姉とすみちゃんだけでない、誰もが大いにはしゃいでいる
        それも当然の事
        小さな学校ではあるが各教室には30人程の生徒が入れる広さがある
        しかし現在の生徒総数は8人、ここ十数年の間でも生徒数が10人を越えた事は無く
        今の生徒達の中に教室に人がひしめきあうのを見た者はいない
        だから誰もが賑やかなこの教室にテンションが上がっているのだ
      • 「いいよね!
        …ところでこの子…降りないんだけど……」 -- すみちゃん
      • 「うん、都会の学校になったみたいなの、ふに?」 -- ロワナ
      • ふいにテンションを下げたすみちゃんの指差す先
        頭の上に毛玉の様な物体が鎮座している
      • 「あーその子はぺとぺとさんだよ、飽きたら降りると思うの」 -- ロワナ
      • 「飽きたらって……」 -- すみちゃん
      • 人にくっつく妖怪ぺとぺとさんだ
        ロワナの言葉にすみちゃんはがっくり肩を落としなさった。。
      • 「幽霊って……見えてはいたけど、それだけだと本当の所はよく分から
        ないものなんだなぁ。
         見えてすら居ない人も結構いたし……」 -- 兄貴
      •  そう言ったのは、蔵の家の怪談の、姉兄様にからかわれてちょっと困
        り気味の兄貴君である。
         ウブな男の子の反応が楽しいのか、姉兄様は、振り袖の袖口で、こ
        そぐったりしておられる。
      • 「ふっ、人の身には見えないモノの方が、世界のほとんどなのよ」 -- ネオン
      •  背中から生やした黒い樹の根で、サムとオリバーを絡めとりながら
        ネオンが腰に手をあてながら笑った。
      •  「おほぅっなんだこれおもしれー」
         「すげー、怪獣の触手だぜー」
      •  絡められた二人とも楽しそうな。
      • 「アミとロワナが居ると、それがこんなに触れるくらいに近くなっち
        ゃうんだねー。
         あはっ、でもこれじゃみんな知り合いになっちゃって、怖い話しとか
        はなくなっちゃうかな」 -- ちはや
      •  すみちゃんの頭上の毛玉をいじりながら、ちぃ姉が言うと。
      • 「怖い人?いっぱいいるよ?」 -- アミ
      • 「えっ」 -- ちはや
      • 「寧ろお話できる人の方が少ないの」 -- ロワナ
      •  振り返るちぃ姉に、アミとロワナが頷いて。だから、ちぃ姉は。
      • 「え、だって、蔵の家のお話も、ほんとは全然違う話しみたいだし。
         実は、村の怪談とか怖いこと全然ないんじゃ……」 -- ちはや
      • 「蔵の家の話しはねー。全然違う人のお話と混ざってるの。
         病気だったのか家の事情だったのか分からないけど。生まれてから
        死ぬまで蔵に閉じ込められてた女の人はいるの」 -- アミ
      • 「えっ……」 -- ちはや
      •  アミの語りに、思わずちぃ姉も、他のみんなもぞくりっとした。
         そんな話しは、聞いたことがなくて。死者と話しができるアミロワが
        言うのなら、作り話などではないのだから。
      • 「とても悲しそうで、苦しそうで、首に縄で絞めた跡があって。たぶん
        自殺しちゃったんだと思うけど……。
         声かけても、答えてくれないお姉さん居るんだよねぇ」 -- アミ
      • 「それ…が、もしかして本当の蔵の家のお話……」 -- ちはや
      • 「ううん、だって、その人が閉じ込められてた蔵はもう無いし。
        双子さんちとは全然ちがくて……あっそうそう!ちぃ姉んちの辺りに
        その蔵あったんだよ!」 -- アミ
      • 「えっ!?」。 -- ちはや
      • 「んっと……
        ちぃ姉の家の向かいに小さなおじぞうさんあるよね?」 -- ロワナ
      • その問いかけにちぃ姉は無言のままこくこくと頷いた、その顔は幽霊の様に青褪めている
        ロワナが語る様、ちぃ姉の家から小道を挟んで向かいに小さなお地蔵様がある
        祖母や母は時折花や饅頭を供える事があったが、ちぃ姉自身は深く気にした事は無かった
      • 「あのおじぞうさん、多分……
        幽霊さんのためにおかれたんじゃないかな……」 -- ロワナ
      • ちぃ姉の先祖か幽霊の関係者か
        あるいは誰か霊感持ちえる者が慰めのために置いたのだろうと。。
      • 「ちょっ!?すみちゃん!?さりげなく私から距離とらないで!
         私がとり憑かれてるわけじゃないし!今までそんな幽霊見たことな
        いし!」 -- ちはや
      • 「居るって分かったら、これから見えるようになるかもな」 -- サム
      • 「ナ」 -- オリバー
      •  思わぬ事実の発覚に慌てるちぃ姉に、サムとオリバーが息を合わせて
        脅かすような声をだし。ネオンは、まぁ気づかなければわからなかっ
        たって事はよくあるわね。さらりとそう言う。
      • 「あわわ……んひゅぅ!?」 -- ちはや
      •  突然、バンッバンッ、と窓が叩かれる音が響いた。
         全員が、恐る恐る窓の方へ向くと……カーテン越しに、薄く何かの
        影が映っている。
         やがて、雲に切れ間が覗いたのだろう。窓に差す光が強まれば、天井に
        届きそうな程、大きな人影がはっきりと現れて……。
         息をする音も消え去る、ただ、セミの声だけが強く聞こえてきた。
         耳元で響いているかのような、季節外れの喧騒だけが、教室を支配
        した……。。

  •  虫の音に合わせて、夜空の星が揺れ、瞬いているようだった。
     ランプの灯るテラス席からは、音色を奏でる虫達の潜む草むらは、闇
    に沈んで見えないが。遠く波の音と混ざってその声は、よく響く。

     しろこさんのお店であった。さっきまで残っていた夕陽の明かりは、
    気がつけば完全に消えて、辺りはもう夜である。
     ソアとミア達は仕事終わりに、ここで食事をという事になり。そこへ
    アトイやクレハもやってきて。食事からなんとなく流れで飲み会へと
    移行していた。
     酒に弱くないのが二人、無類の酒好きが二人という内訳である。止
    めようのない流れであった。。

    • 「ミアちゃんはみつからないし、生徒達には驚かれるし……
      散々な一日だったのよ…うー」 -- ソア先生
      • 「それは本当に申し訳ない事を…はぁ……」 -- クレハ
      • ソアは拗ねる様に語るとグラスに注がれた果実酒を一気に飲み干した
        普段の酒量は少なめなソアも、今日はそのペースが早い
        飲まずにはいられないと言う心境なのであろう。
        それも仕方の無い事で、さらにそうなった原因の一端を……
        むしろほとんど全てが自分達にあるクレハとアトイは強く言えない。。
      • 「村中走り回ってたとは思わなかったわ」 -- ミア
      •  その上、戻ってきた時に、カーテン越しに映った大きなソアの影を、
        生徒たちにお化けと誤認されて本気で悲鳴上げられたのだという。
         ミアは、グラスを手に持ったまま、ちょっとニヤけている。
      • 「しかしミア先生がすぐに駆けつけて、見事に仕事を果たしてくれた
        おかげで私達も大変助かりましたので……はい」 -- アトイ
      •  うんうん、と頷きながらアトイが言うと、ソアに若干恨みっぽい視線
        を向けられたので、ピンクのナースキャップの上に乗ってるミニドラと
        一緒に目を逸らした。何故か、着ている服までナースっぽいコスチュ
        ームであった。
      • 「ミアちゃんがんばったのね〜…でも、一言くらいあっても〜
        あ、白子さんおかわり〜」 -- ソア先生
      • 「…はい、しばらくお待ちを」 -- しろこ
      • ソアの呼びかけに店内から白子さんの返事が聞こえた
      • 「ん、メモくらい置いて行けば良かったかもしれないわね…?」 -- クレハ
      • クレハはそう呟きながら目を逸らしたミニドラの尻尾を指で突く。
        先程ミアから聞いた話によると
        ソアはミアの姿を見つけるや否や泣きながら抱きついたと言う
        それほどにミアの事を心配していたのだろう。。
      •  ちなみにその時、ミアは若干鯖折り状態になった。
      • 「急にオペが入っちゃったからね。まぁ拗ねないで、今日は私のおごり
        でいいからさ」 -- ミア
      •  ミアが言うと。
      • 「あー、急を要するとはいえ、連れてっちゃったのは私なので、お礼も
        兼ねまして私が……あ、しろこさん私もお代わりでおねがいします」 -- アトイ
      •  アトイは、おかわりを持ってきたしろこさんに、空のボトルを差し
        出した。これがお代わりの1本目では無い。
         多分自己負担分だけ払っても、アトイの酒代が全体の8割くらい〆る
        から端からおごりと似たようなものであろう。。
      • 「わはーい、今日は一杯飲むー」 -- ソア先生
      • 「…おまたせしました……
        …売上が伸びるのは嬉しいのですが……」 -- しろこ
      • 「大丈夫大丈夫
        アトイさん飲んだ分はちゃんと働いてるから……」 -- クレハ
      • 白子さんはいつもの調子で淡々と呟きながら
        ソアのお代わりと一緒にアトイのお代わりも一緒に置いた
        アトイのお代わりも一緒なのは常連客だからこそだろう
        しかし今心配なのはアトイの懐よりもソアの方かもしれない。。
      •  グラスを干すソアは、いつもより若干ハイペースである。そして顔
        が赤い。
         ミアを探して村を3周も走った疲労と、無事再会できた安堵から、酔い
        が回っているのかもしれない。
         このまま程よく酔って、ぐっすり眠って。今日保健室で見た事をす
        っかり忘れてしまってくれれば安心であろうと。そう思いながらアトイ
        も、新しいボトルからワインをグラスに注ぐ。。
      • 「だから〜ミアちゃんはいつもいつも………」 -- ソア先生
      • 「ふぅ…今日は飲んで…ゆっくり休むのがいいと思います」 -- クレハ
      • 「だ〜か〜ら〜……」 -- ソア先生
      • 愚痴を連ねるソアの舌は既に酔っ払いのそれであり
        瞼も半分ほど落ちかけ、もはや酔い落ちるのは時間の問題
        ソアを除く誰もがそう思った時
      • 「…で、みんなどこに行ってたの…?」 -- ソア先生
      • 「ほわっ!?」 -- クレハ
      • ソアの背がシャキっと伸びあがった
        瞼も全開となり、その輝きは好奇心に満ちている。。
      • 「むぁ?」 -- くろこ
      •  クレハの声に、ベンチシートに埋まるようにして寝てたくろこさんが
        顔をあげた。
         この人、酒好きな癖に飲むと大体すぐ寝る。……また寝た。
      • 「だから言ったじゃない、ちょっと私の古い知り合いのとこ。
         先方の事情があるから、今は話せないんだけど……」 -- ミア
      •  そう言ったのはミアである。この先生、よくだらし無い姿が目撃され
        るけど、しっかりしている時は呑んで居ても、背筋も伸びて出来る大人
        の女性という風であり。。
      • そんなミアをソアの瞳が鋭く捉え
        じっと見つめた後にまた口を開いた
      • 「…やっぱり何か隠してる〜
        ミアちゃんが饒舌な時って何か隠してる時だもん
        背筋も伸びてるし」 -- ソア先生
      • 普段からは想像出来ぬソアのツッコミの言葉にクレハの瞳が丸くり
        ついでにアトイの頭に乗ったミニドラの目も丸くなった
        ミアへ皆の視線が集まる「そうなのか?」と。。
      • 「なーにーよー、それじゃ私が普段抜けてるみたいじゃないー。
        ……まぁ大体あってるけど、あんたこそ昔っから、ゆるーい雰囲気な癖
        に時々妙に鋭く食いついてくるんだから」 -- ミア
      •  ソアの、赤くなった頬をミアがむにむに、と引っ張った。やっぱり
        この人も大概酔っている。。
      • 「ほへーほわかさないでー(ごまかさないでー)」 -- ソア先生
      • 頬を伸ばされたながらソアは抗議の視線を向ける
        友人同士、親友同士であるからこそ隠しごとはしないでほしいと。。
      • 「んー……」 -- ミア
      •  で、ほっぺたを伸ばしながらミアは、アトイを振り返り。
         どうする?と目配せして。
         アトイは、グラスを両手で抱えたまま、ふるふると首を横を振った。
        ダメッ!よして!堪忍して!って感じで。横でクレハも苦笑い。
         悪いことはしてないのだが、今はもう少しだけ内緒にしていて欲しい
        事があるわけで。
      • 「んふぅー。
         ねぇ、それよりさ。やっぱり、怪獣は本とに居たわよー」 -- ミア
      •  唐突にそんな事言い出した。。
      • 「かいひゅう…?」 -- ソア先生
      • ミアの言葉にソアは目をパチクリとし
        そして顔を振り摘まんでいた指を払うと
        ずいっとミアの方へと顔を寄せる
      • 「あの夜の?まだ言ってるー……」 -- ソア先生
      • あの夜とはアトイが暴れたあの夜の事であり、怪獣とは当然アトイの事だ
        故にミアの言う事は真実だ、しかし村の周囲に怪獣の様な生物が存在した記録は無く
        常識で考えれば、酔っ払いの戯言にしか聞こえない
        二人の間に沈黙の時間が続き
        驚きと気まずい空気にミニドラも尻尾を立てたまま固まっている
      • 「……本当に?」 -- ソア先生
      • 先に口を開いたのはソアだった。。
      • 「へへー、あれはねでーっかいドラゴンだったわ。それで、実は近所に
        住んでたのよ」 -- ミア
      •  慌てた顔で白衣の裾を引っ張るアトイを、やんわりと手で止めて。
        ミアは、笑いながら。
      • 「今日はそいつのお願いでお仕事しに行ったんだけど。
        噂になったら大騒ぎになるから内緒にしてって頼まれたのよ。
        患者のプライバシーは守らなきゃ。
        ああ、でも……」。。
      • 「ドラゴン?ドラゴンってあの……
        でっかくて空を飛んで炎を吐いたり、お姫様を攫う?…でも?」 -- ソア先生
      • ドラゴン。それはこの世界の多くの人々が知るであろう最強存在の一角であり
        当然の様にソアの知識にもあるし、学生時代に歴史や幻獣の講義の中でも学んだ
        その最強存在が近所に住むとはどういう事だろう?
        どう言う関わりを持ってミアへ仕事を依頼したのだろう?
        驚きと同時に好奇心がソアの心をわくわくとさせ話の続きを待ち望ませる
      • その一方で事情の全てを知るクレハは顔を伏せ
        笑いを噛み殺している。。
      • 「意外と気さくな子だったから、近いうちにソアも逢えると思うよ」 -- ミア
      •  そう言って、グラスの中身を干すと、クレハとアトイ達にウィンクしてみせる。。
      • 「そうなんだ〜ミアちゃんが言うならば本当にいい子なのね〜……
        早く会いたいな〜……………すぅ……」 -- ソア先生
      • ミアの言葉に笑みを浮かべるとソアの動きがピタリと止まった
        そして聞こえてくるのは小さな寝息
      • 「…あ、あれ…? ソア先生寝ちゃいました…?」。。 -- クレハ
      • 「寝ちゃいましたね……」 -- アトイ
      •  アトイは、ふぅ、と息をつくように言って。
      • 「大丈夫よ」 -- ミア
      • 「はい?」 -- アトイ
      •  不意に、ミアは、やんわりアトイの頭を撫でて。
      • 「私もそんなに驚かなかったでしょ」 -- ミア
      •  だから、そんなに自分の正体や人の目を恐れなくてもいいのだと。
      • 「ふむ……」 -- アトイ
      •  撫でられながら、アトイは俯くようにグラスに口をつける。
      • 「ところで、アトイちゃんってなんか大人っぽいって思ってたけど。
        こうしてみると、ほんと子供みたいよね」-- ミア
      • 「まぁ実年齢はまだ5歳ですから。
        私の正体を知れば、普段かけている改変の力の効力も弱まりますので」 -- アトイ
      • 「5歳……」 -- ミア
      • 「これでもドラゴンで神様ですので。おや」 -- アトイ
      •  グラスの中身を飲み込んで、不意に店の前の道の方へアトイは顔を
        向けた。。
      • 「こんばんわなのーみゃー先生、アトイちゃんクレハちゃん
        ねてるのはソア先生かな?」 -- ロワナ
      • 夜道の向こうから少女が二人、金の髪をゆらしながらやってくる
        その少し後方には顔に皺を刻んだ老人の姿。。
      • 「アミちゃんロワちゃんこんばんわ……
        あ、万丈さんこんばんわ -- クレハ
      • 「アミロワちゃん達に万丈さん、こんばんわ」 -- アトイ
      • 「みゃー先生こんばんわー!」 -- アミ
      •  ミアが挨拶すると、アミが元気よく返事をして宗右衛門は、小さく
        頭を下げて答えた。
      • 「おぅ、くろこさんも寝てる……女子会……飲み会?」 -- アミ
      •  アミが首をかしげて。
      • 「いや、普通に夕食ですよ」 -- アトイ
      •  そういう割に、テーブルの上には空の皿より空き瓶の方が多い気が
        する、いや、気のせいではない。
      • 「まだ時間も早ぇのに、飲み過ぎじゃぁねぇかお前さん……その……
        あれでもだな」 -- 宗右衛門
      •  宗右衛門がアトイとミアを見比べると。
      • 「あ、みゃーせんせいも、もう私の正体知ってるので」 -- アトイ
      • 「そうか」 -- 宗右衛門
      • 「はーい、まぁ医者の私が見てるから大丈夫よ」 -- ミア
      •  ミアはひらひらと手を振る。。
      • 「ふふっ、ソア先生も寝てしまったし…気楽に行きましょう…?」 -- クレハ
      • テーブルを見、驚く宗右衛門の顔にくすくすと微笑むクレハ
        宗右衛門は驚きを心配へと変えるが
        この中でまだアトイの正体を知らぬソアは夢の世界の住人だ
      • 「万丈さんいらっしゃいませ……
        お席の方はどうしますか…?」 -- しろこ
      • アトイ達へのお代わりと運びながら万丈一家に頭を垂れる白子さん
        そして問いかけは、店内席にするかテラス席にするかという事
      • 「みんなと一緒がいいの!」 -- ロワナ
      • 「では…テーブルを移動させましょう…?
        手を貸していただけますか…?」。。 -- しろこ
      • 「はいはい、私やりますよーこっちは大丈夫ですしろこさん」 -- アトイ
      •  テラス席のテーブルは結構な重量物なのだが。小学生のアミロワと
        同じ体格なアトイは、ひょいっ、と持ち上げて。机を2つくっつけて
        並べた。
      • 「万丈さん達も、アトイちゃん達の秘密知ってるって事は……。
         あ、じゃあ今日の事話してもいいのかな?」 -- ミア
      • 「ふに、何かあったの?」 -- ロワナ
      • 「あ、そういえば今日お昼にアトイちゃんが学校きてたの!」 -- アミ
      •  運んできた椅子に、腰掛けながら、アミとロワナは身を乗り出す。
         ミアは、脱いだ白衣をソアに掛けながら、しろこさんが店の奥へ入
        るのを確認して。
      • 「へへー、実はね、今日海の底でくじらのおかーさんの怪我を治療
        したのよ」 -- ミア
      •  自慢気に、ミアが言うと、アミとロワナはおおーっと目を輝かせ。。
      • 「くじらのおかーさん?おっきいの?会いたい!」 -- ロワナ
      • 「うん!海の底、私もいきたーい」 -- アミ
      • ロワナが両手を広げれば、アミはアトイの身をぶんぶんと揺する
        凄い食い付きっぷりだ。。
      • 「ええー……。いやまぁ別に連れて行ってもいいですが。
         私があちこち見まわったりするのは別に遊んでるわけじゃ……」 -- アトイ
      •  困ったように、アトイはクレハの方を見たりして。。
      • 「うん…? いいんじゃないかしら……」 -- クレハ
      • いつの間に取ったのか、クレハはミニドラをふにふにと伸ばしながら短く言葉を返す
        見ればクレハの顔もほんのり朱に染まり酔いが回りつつあるのが見てとれる。。
      •  クレハが、いいと言ってしまえば。アトイが止めるわけは無くて。
        きっと、いずれ近いうちにアミロワ達も、海の底の底で。海の母と会う
        事になるのだろう。
      • 「すごく綺麗なヒトなのよ」 -- ミア
      •  ミアは、楽しげに笑って。
      • 「……まぁ、危なくねぇようにな」 -- 宗右衛門
      •  宗右衛門は、渋いイイ声でそう言った。
         程なく、しろこさんがアミロワ達にもグラスを持ってきてくれて。
         何にかは知らないけれど、乾杯でもしようかなんて話しにもなって。




      • グラスの打ち合わさる澄んだ音が星空へと吸い込まれていく
        続き聞こえるのは笑い声
        幼い声に年を重ねた声、聞こえる声は様々で
        そんな声を聞き微笑む姿が屋根の上にも
        それは薄く儚げな二人の少女の姿
        その身は儚げ、されどその瞳は温かさをもって宴を見守っている

      • 「ふふっ、みんな楽しそうですわ
        私達もかんぱいする?」 -- レイン
      • 少女の一人が隣の少女へと笑みを向けた
        向けた先に座るのは鏡合わせの様に自分と似た姿の少女。。
      • 「姉様まで呑気ですわね、まぁアイツが何をしたかわからないけれど
        地下の粘体も静かになりはじめましたし」 -- ネオン
      •  そういうネオンも、ちゃっかりとグラスを2つ持っている。
         下のお店の厨房からこっそり拝借してきたのだ。。
      • 「憂いが無い時こそ呑気に楽しむ時、ね?
        あ、ネオンないすですわ」 -- レイン
      • 楽しめる時には楽しむ
        幽霊となった今だからこそより理解する事が出来る。
        ネオンからグラスを受け取ればにっこりと微笑み
        そしてレインの方はいずこからか酒のボトルを取り出した。。
      • 「あ、あの姉様それお酒では、私はコーラの方を……」 -- ネオン
      •  一応双子なのだが、歳をとってから亡くなったレインと違って享年15
        歳なネオンは、50年以上生きて?いても酒を飲んだこと等はなく。。
      • 「そうよお酒よ? ネオンもせっかくだから飲みましょうよ
        ほら…ずっと一緒に飲む機会なんて無かったし……」 -- レイン
      • レインはそう言うとネオンのグラスにトクトクとボトルから透明な液体を注ぐ
        濃い濃度のアルコール臭、ウォッカだ
        この村近辺では酒と言えばワイン等の果実酒を作っている家が多いが
        一部の家では同じ果実を原料とし蒸留酒を作っている家もあった
        それが既に注がれてあったコーラと混ざり即席のカクテルとなる。。
      • 「お姉さま!?」 -- ネオン
      •  手の中でシュワシュワ、と泡立つロシアンコークと、にこにこと楽
        しそうな姉を、ネオンは交互に見る。
         ウォッカって確か燃えるくらい強いお酒ではなかっただろうか?
         一抹の不安がネオンの胸中をよぎるが……。レインのグラスにはなみ
        なみとストーレートのウォッカが注がれていて。
        (姉様がお酒に強いなら、双子の私も大丈夫でしょう……)
         ネオンは、そっとグラスを持ち上げて。
      • 「では、乾杯しましょう姉様」。。
      • 「ええ、乾杯しましょう
        ふふっ嬉しいわ、ネオンと乾杯をする日がくるなんて」 -- レイン
      • 成人となる前に悲劇の別れとなってしまった姉妹
        それが再会し酒を酌み交わす
        幽霊にはなってしまったが、それはとても嬉しい事で
        姉妹は笑みと共にグラスを掲げ宣言する
      • 「かんぱーい♪」。。 -- レイン
      • 「かんぱーい♪」 -- ネオン
      •  楽しげに声を和して、グラスをあわせて、二人は笑い会う。
         そして、一口にぐいっと飲み込んで。
      • 「ッ!?あっツ!げっほ!?ゴホォ!げふぅ!」 -- ネオン
      •  ネオンは盛大に咽た。

    • ゆうれいびより了-- ▲【戻る】

夜の散歩に行った Edit


  •  縁側の戸を全開にしているから、波の音も虫の鳴く声も遠慮なく入
    って来た。
     少しずつ、実の成るように日に日に膨らんでいく月が、山の端あたりに
    浮かんでいて。今は半月から腹が少し出たところであろうか。
     月の細かった頃には、夜風にもまだ夏が残っていたけれど、今は
    潮風に秋が溶け込んでいた。
     風呂あがりの肌を、少し冷たい風が撫でる。
     縁側に足を投げ出して座っていたアトイの横で、不意に虫の声が大
    きくなった。
     横を見れば、鈴虫が縁側の上に乗って鳴いていたのだ。
     鈴虫は、ドラゴンに食われた。
    • 「部屋にいる鈴虫の声って妙に大きく聞こえるのよね…あ、まだ鳴いてる」 -- クレハ
      • クレハはひょいとミニドラを持ちあげるとそのお腹に耳を当てた
        かすかではあるがリーンリーンと鈴虫の鳴く声が聞こえた
        なぜ耳を当てたかと言うと…なんとなくである。。
      • 「目の前に来たので、おもわず飲み込みましたが。なかなかしぶとい
        やつですね」 -- アトイ
      •  Tシャツに短パンで、完全に寛ぎモードなアトイさんが言う。
      • 「しかし、本とに季節があっという間に変わって驚きですよ。
         海のおかーさんも無事回復したようです」。
      • 「…変な物を飲み込んでお腹壊したりしないでね…?」 -- クレハ
      • ミニドラを膝にのせると微笑みながら言った
        クレハの方は大きめのTシャツと下着のみの姿だ
        Tシャツにはなぜかごま油!と書いてある
      • 「あ…うん、おかーさんが回復したからなのかしらね…?
        海からの風も柔らかくなった気がするわ」 -- クレハ
      • 柔らかな夜風に髪を遊ばせクレハこくりと頷いた
        おかーさんのとは海の母とも呼ばれる超巨大鯨の事だ。。
      •  どれだけ超巨大かと言えば、彼女が、回遊することで海流が生まれ。
        気候や環境に影響を及ぼす程である。ほんとにデカイんだ。
         海のおかーさんが、怪我のために夏から寝込んで居た。そのせいか、
        海辺の村でも、例年より季節の変わるのが遅かったらしい。
         アトイたちは、つい先日、おかーさんの怪我の治療を手伝ったりし
        たのだ。
      • 「元気になってくれたようなら、なによりですよ」 -- アトイ
      •  そう言って、クレハの膝に甘えて、ゴロンと畳に寝っ転がる。。
      • 「ええ、そうね…あっ…?ふふっ」 -- クレハ
      • アトイがクレハの膝を枕にすると同時に
        ミニドラはクレハの胸に乗った、サイズは先より小さくなっている。
        クレハが膝枕をすると胸のサイズの影響で顔が見え辛くなるのだが
        ミニドラとアトイは視覚を共有しているので
        これで大丈夫なのだそうだ。。
      • 「しかしなんだか、久々に、こうして二人だけで静かな夜を過ごしてる
        気がしますよ」。 -- アトイ
      • 「ここ最近色々とあったものね…でも、静かすぎて力抜けちゃう」 -- クレハ
      • そう言ってクレハが背筋の力を抜けば猫背気味となり
        そしてアトイの顔は圧迫されのであった。。
      • 「顔の上におっぱいがあふぇふぇふぇふぇ」 -- アトイ
      •  ご満悦である。
      • 「まぁ、このぐらいもふもふ、のんびりしてるのも悪くないというか。
        私何もしないをするの好きですから。もふもふ」。
      • 「あ、つい…でも大丈夫そうね?…んっ」 -- クレハ
      • アトイがもふもふとすれば、クレハの豊かすぎる胸はふわんふわん揺れる
        胸の上にのったミニドラはウォーターベッド状態だ
      • 「まぁ、この位の方が私達の日常らしいわよね」
      • 揺られるミニドラを指で突きニコニコするクレハさん。。
      • 「そういえば……。私クレハさんと暮らすのが人生の目的なので。仕事も一番
        二人の時間を取りやすいよう自営業で通販業選んだのに。
         気がついたら神様する事になったり……」 -- アトイ
      •  ミニドラは突く指に首を絡め甘えている。。
      • 「うーん…トラブル体質みたいなものなのかしら…?
        その気はないのに、どんどん厄介事が舞い込んでくるみたいな……」 -- クレハ
      • 指をミニドラに遊ばせながらここ最近の事を思い返す
        夏からここ最近までどうにも人生ハードモードに入っている様にも感じ
      • 「だからこそ二人きりの時間を大事にしないと…!」。。 -- クレハ
      • 「まったくです!」 -- アトイ
      •  そう言いつつ、アトイは身体を起こして、今度はクレハに寄りかか
        るように座った。
         そして、クレハの背に、子象程の大きさになったドラゴンが寝そべ
        って。腿のあたりで、畳に顎をつける。片方の目だけ開いて、撫でて
        くれ、とせがんでいるような犬みたいな顔をしていると。
         恐ろしげなウロコ面なのに、妙に愛嬌がある。。
      • 「ふふっ、甘えん坊さんなんだから……
        ミニドラサイズも可愛いけれど…このくらいのサイズもいいわね」 -- クレハ
      • アトイとドラゴン、二人のアトイ達に挟まれご満悦の表情を浮かべるクレハ
        子象サイズでもドラゴンを見れば多くの人は驚き腰を抜かす事だろう
        しかしクレハ驚く事無く、むしろ喜び微笑みさえする
        クレハはドラゴンの頭に手を添えると柔らかくなでる
        一見硬く冷たく見える鱗だが、その温かく吸いつく様な感触は触れた者にしかわからない。。
      • 「普段がいつも小さいので、たまに羽を伸ばしたくもなったりするの
        ですよ。
         あーそうそう、その角の間の付け根あたりいいです」 -- アトイ
      •  ドラゴンは目を閉じて、頭をなでられる。
      • 「はふぅー……。今年の15夜もそろそろですねぇ」。 -- アトイ
      • 「んーこのあたりかしら?」 -- クレハ
      • アトイが望む位置を指先でくすぐる様に撫でてみれば
        ドラゴンの喉が猫の様にごろごろと鳴った
      • 「可愛い…♪ ん?あ…お月見ね……
        今年は月見だんごでも作ってみようかしら……」。。 -- クレハ
      • 「ふむふむ、去年はお月見はしなかったし……。せっかくこんなに縁
        側をバッチリ作った家に越したのですから。
         風情を楽しみ尽くしたいものですとも。
         それに、うちのロケーション、目の前には海、遠くには湾を囲う山
        の峰ですから。
         はっきり行って景勝地です!」
      •  後は、松の並木等もあれば良い。。
      • 「ええ、山にかかる月は風情があるし……
        海に光を落とす月も素敵よね……」 -- クレハ
      • ドラゴンに頬を擦り寄せながら目を閉じる
        月だけなく星の数も街中より多く感じるのは空気が澄んでいるからなのだろう。。
      • 「海の月、と書いてクラゲでしたっけ。
         月の光は、海面から見ると帯のように見えるのですが。空から見
        ると、海に、まんまるで、大きな光るクラゲの浮かんでいるように見
        えるのですよね」 -- アトイ
      •  アトイがそう言うと、ドラゴンは深呼吸するような長い息を吐く。
        それから、長い舌で、ぺろり、と鼻を舐めた。。
      • 「海の中から見る月も素敵よ…ふわふわと揺れて
        千切れたり…繋がったり……くすぐったい、んふふっ…♪」 -- クレハ
      • 夢想するように目を閉じていたがドラゴンが鼻を舐めれば
        微笑んで鼻と鼻を擦り合わせた。。
      • 「はい、くすぐったいです」 -- アトイ
      •  アトイも、くすくすっと笑う。
         大きさが変わっても、ドラゴンはアトイの一部だから。クレハの鼻
        先の感触も分かる。。
      • 「もう知ってはいるけれど、面白いわよね……
        ドラゴンの方をすりすりしても、アトイさんの方をすりすりしても
        感覚が共有されるのだから…じゃあこうすると?」 -- クレハ
      • それぞれの腕でドラゴンの頭とアトイの頭を抱き寄せると
        両方にすりすりしたり。。
      • 「抱えられてるのは、私とドラゴンの部分ですが。
         クレハさんをかかえて挟んでいるような感じになります。ふふり」 -- アトイ
      •  ドラゴンは、しっぽの先をごきげんそうに、揺らす。。
      • 「うーん…やっぱり不思議……
        じゃあ…こうするとどんな感じ…?」 -- クレハ
      • そう言うと抱擁を解いて揺れる尻尾の方へと手を伸ばし撫でてみる
        今のアトイ本体にはないパーツだ。。
      • 「ふぅ〜む」 -- アトイ
      •  アトイは、ちょっと上を見てから考えると。
      • 「たぶん、クレハさんの中で一番近いだろう感触はこれですね」 -- アトイ
      •  クレハの長い髪を一房掬い上げて指先にからめて巻きつけた。
      • 「髪自体には、感覚は無いですよね。想像してみてください。この髪
        の毛の先……身体から離れた部分につま先ぐらいの感覚があるとしたら
        ……私のドラゴンの部分の感覚ってそんな感じです。」 -- アトイ
      •  そうして、クレハの長い髪を、そっと引いて毛を口元に当て、にへっ
        と笑う。。
      • 「ん……」 -- クレハ
      • 頭皮にくすぐったさを感じ身を捩る
        しかしそれは頭皮の感覚であり、髪の毛の感覚では無い
        アトイとドラゴンの感覚の関係は髪の末端にまで感覚がある様な
        髪の末端とはドラゴンでありそこに自身がある様な……
      • 「なんとなくわかったような…わからないような……」 -- クレハ
      • ドラゴンの尻尾をにぎにぎとしながら曖昧に返事をした。。
      • 「ふふっ、まぁ、クレハさんの身体に繋がってないのに身体の一部な
        んて部分は無いですからね。
         私は、生まれた時からこれなので。逆に、手足や胴体頭が、一組しか
        無いというのが、あまり想像できないのですが」 -- アトイ
      •  クレハの髪を手で梳きながら。
      • 「自分のつむじや背中も、私は直接見られますからねー……。
         そういえば、クレハさんは、以前私の力でドラゴンフォームにも成
        れたのだから。私と同じように身体の一部のドラゴンを呼び出す事も
        できるかもですね」。 -- アトイ
      • 「うん…理屈はわかるのだけど…無い物の感覚はわかり辛いかも…?」 -- クレハ
      • クレハは髪を梳かれる心地良い感触に身を任せながら苦笑を浮かべた
        無い物の感覚と言うのはどう説明されても、想像以上の事はわからぬわけで
        それは仕方のない事なのだろう
        しかし続くアトイの言葉にクレハはきょとんとした
      • 「私が尻尾を生やしたり、翼を生やしたり…?
        あー…あの時は無我夢中だったから気にしなかったけれど
        そう言う方法もあったわね…?」
      • 二人の遭遇した過去の事件において、クレハはアトイの力を借り
        ドラゴンフォームへと転身した事があったのだ、しかし……
      • 「ん、でも気軽に出来ないのが難点ね……」 -- クレハ
      • ドラゴンの尻尾を抱き枕の様に抱えるとこくこくと頷いた
        あのドラゴンフォームはクレハの限界を越えた力を得る事になるので
        身体への負担と疲労も大きいのだ。。
      • 「言ってみれば超必殺技ですからね。
        ……気軽に言ってみたけど、ドラゴンフォームはちょっと気をつけな
        いと……って、思う所もありますね、はい」 -- アトイ
      •  アトイは、ちょっと横を向いて、ふすーと息をつく。。
      • 「使わないに越した事はないわね……ん?
        まだ気にしてる…? 夏の事……」 -- クレハ
      • まだとは言ったが、夏の「あの事件」からは一ヶ月も経っていない
        気持ちを整理し記憶が過去になるにはまだ時間を要するのだろう
      • 「むぃー……うん!」 -- クレハ
      • クレハ少し考えた後、抱きしめていた尻尾から手を離し
        ドラゴンの頭の方に手を回し、ぎゅむっと胸に埋める様に抱きしめた
        アトイでなくあえてドラゴンの方を抱きしめたのは
        ドラゴンの方が感情に素直な気がしたからで。。
      • 「クレハさん?」 -- アトイ
      •  ちょっと不思議そうに、アトイとドラゴンは、同時に瞬きして、
        クレハを見たりして。すぐに、小さく笑顔になって。
      • 「……あったかいですね」 -- アトイ
      •  目を閉じて、アトイはドラゴンにもたれ掛かって。クレハの腕の中で
        ドラゴンも大きな瞳を閉じる。
         そして、ドラゴンは、尻尾と長い首で、アトイとクレハを包み込んで、
        そのまま、静かな息だけをした。

  •  波の音が、聞こえる。
     ぼんやりと目を開けて、アトイはまずそう思った。いつの間にか眠
    って居たらしい。
     まだ半分夢に浸かっているような頭の中に、波音や虫の声、つけっ
    放しの電灯の明かりが入ってきて。徐々に、現実が輪郭を取り戻して
    いく。
    • 「ふぁ……」 -- アトイ
      •  アトイとドラゴンは同時にあくびをした。
         ぼぉーっとしながら、隣のクレハに、またよりかかる。
      • 「…ふにゅ」 -- クレハ
      • アトイとドラゴンが寄り掛かればクレハは空気の抜ける様な寝息を発する。
        クレハは極めて寝起きが悪く
        アトイ達が目を覚ますよりもワンテンポ遅れる事が多い。。
      •  んっ、と息を吐いて、アトイは伸びを一つ。
         覚醒はしたものの、すぐに動き出す気は無い。布団もかけずに窓全
        開で微睡んでしまったが。別に寒くて目が覚めたわけではない。
      • 「時間はー……あら、半端な時間ですね」 -- アトイ
      •  スマホを見ると、時刻は少し真夜中といった頃で。
         早寝には遅すぎる、夜更かしするならまだこれから……。
         そんな宙ぶらりんな時間帯。。
      • 「んー…?」 -- クレハ
      • クレハの目がぼんやりと開いたまだ夢うつつの狭間なのか視点は定まらず
        それでもアトイの姿の捉えれば小さく首を傾げ
        そして手繰り寄せる様にアトイの首に手を回した
        ドラゴンの方は既にクレハの腕の中にあり抱き枕の様になっている。。
      • 「クレハさん……あ、まだ寝てますか」 -- アトイ
      •  クレハの朝のスロースターターっぷりはアトイもよくわかってるし。
         朝じゃないのに、急いで起こす理由など無いのだし。クレハの腕の中
        にむぎゅっ、と収まるアトイさん。。
      • 「…にゅー…起きてるー」 -- クレハ
      • アトイが呼びかければ猫の様にもぞもぞとするクレハ
        もぞもぞとする度、髪がドラゴンの鼻っ先やアトイの頬に触れるので
        少しくすぐったいかもしれない。。
      • 「はい、おはようござ……ふぁ…っ……へっぶし!」 -- アトイ
      •  アトイと一緒にドラゴンが、クシャミをした。クレハの髪は舞い上
        げられて、庭の草むらを吹き抜けた風が揺らす。虫共の声が一瞬止
        まった。。
      • 「ひゃんっ…!?」 -- クレハ
      • ダブルで炸裂するクシャミに驚き
        当然の様に飛び起きるクレハさんであった
      • 「…アトイさんおはよう…!? 嵐来た…?」 -- クレハ
      • 目をぱちくりとしながらクレハアトイとドラゴンを交互見た
        くしゃみの衝撃で髪はボサボサである。。
      • 「ああー……いえ、ちょっと私がクシャミしただけですので」 -- アトイ
      •  そう言いつつ、クレハの髪を撫でて整えるように手櫛で梳く。。
      • 「あー…くしゃみ、納得…ん……」 -- クレハ
      • アトイのクシャミならばあの勢いにも納得とクレハはこくこくと頷き
        そして髪を梳かれる心地良い感触に身を任せる
        そして抱きしめたドラゴンをふにふにもふもふ。。
      • 「ドラゴンがこの大きさですからね」 -- アトイ
      •  二人がソファのように寄りかかっていたドラゴンの背を、ぺちぺち、
         と叩きながら言う。でっかいドラゴンは、長い舌で鼻を一舐めして
        鼻息を鳴らした。。
      • 「何か壊したりしないように注意しないといけないわね、ふふっ」 -- クレハ
      • クレハはドラゴンの頬を指で撫でるとクスリと微笑んだ
        自分が原因とは気付いていません
      • 「んー…今何時かしら…? 月が高いわね……」-- クレハ
      • 首を突き出し空をみやれば
        山の端をほどにあった月は天頂付近へと差し掛かり
        それなりの時間居眠りしていた事を示している。。
      • 「もうすぐ日付が変わるころですねー」 -- アトイ
      •  大きく口を開けて、アトイがあくびすると、ドラゴンもまたシンクロ
        した。
      • 「ふむ」 -- アトイ
      •  アトイが一つ頷くと、ドラゴンは、首を持ち上げて電灯の紐を引っ張
        った。一瞬の真っ暗闇の中で、波の音だけが耳に聞こえて。やがて、
        波音が、張り付いていた暗闇を洗い流したように。半月の控えめな明
        りの下に、庭も海も浮かび上がってきて。
      • 「はぁ……」 -- クレハ
      • その情景の美しさにクレハは小さく吐息した
        村の夜は月の明るさを教えてくれる
        夜の中でも遠くの山の輪郭を、草木の形を
        そして隣にいるアトイとドラゴンの形を見せてくれる
        その中で、キラリと宝石が光った
        それは月光(つきひかり)に反射するアトイとドラゴンの瞳。。
      • 「いい明かりですねぇ、以前に住んでいた倉庫ハウスも、海が近くて
        街からは少し遠くて。夜空が綺麗でしたけれど」 -- アトイ
      •  この村は、もっと空が近く感じる、と。言わずとも分かる。。
      • 「ほんと…月に手が届きそう……」 -- クレハ
      • クレハはやおら立ち上がると素足のまま庭へと出
        そして背を逸らす様にしながら月へと手を伸ばした
        降り注ぐ月の光は金の髪をキラキラと輝かせ
        布地一枚通し豊かな身体のラインを浮き上がらせて。。
      • 「私もちょっとやってみましょうか。んー……おやっ実際何かに手が
        届いたようですよ?月にしてはとても柔らかく」 -- アトイ
      •  クレハと一緒になって、背を反らせて腕を上にあげるアトイさん。
        その手はむにょん、とクレハの胸を下から持ち上げる。。
      • 「わっ…あ? アトイさんったらぁ〜」 -- クレハ
      • 重量感あふれるその胸は布地を通しても手にしっとり吸いつく様で
        この胸を自由に出来るのは恋人であるアトイだけの特権であろう
        そして持ち上げた胸の向こうにはクレハの顔
        アトイの不意打ちに半分驚き半分微笑んで。。
      • 「いやぁ〜、私なんだか最近、やけにシリアスな役回りばかりだった気
        がして。ちょっと足りてないかなぁって、スキンシップとか。はっは
        っは」 -- アトイ
      •  ひとしきりぽよんぽよんした後、アトイは、クレハの腰に手を回し
        て寄り添うにように横に立つ。
         身長差が20cm以上あるので、アトイがクレハの方へ頭を傾けるよう
        にすると微妙におっぱいを頭で押上ているようになるが、無論わざと
        である。。
      • 「アトイさん…私の胸好きよね、ふふっ…♪」 -- クレハ
      • 波打つようにふわんふわんと揺れる胸
        頭に乗せた感触は大きめの水風船の様で。。
      • 「大好きですとも!最近は手触りだけでなく揺れる気配でクレハさん
        だと気づける程になりましたよ」 -- アトイ
      •  半分冗談、半分は本気である。。
      • 「私もストレートに言ってくれるアトイさんが好きよ…♪」 -- クレハ
      • クレハはアトイの背に手を回すとその場でくるんくるんと回る
        アトイの頭の上に乗った旨もたゆんたゆん揺れる。。
      • 「自分に正直、それがアトイさんです。
        ……足音が、こんなに大きく聞こえます」 -- アトイ
      •  (あと胸が揺れる音も)
      • 「夜空はこんなにも明るくて、そして地上は私達と海だけのように静か
        なのです」。。 -- アトイ
      • 「ん、本当に静かね……
        すっかり目も覚めてしまったし…少し散歩に出てみる…?」 -- クレハ
      • 回る速度を緩めると空を見上げながら呟き
        そしてアトイの方へと視点を落とす
        揺れる胸の合間からアトイの姿が見え隠れ。。
      • 「そうですね、久々に二人きりの時間を楽しむのなら、今がまさにうってつけでしょう」 -- アトイ
      • 「決まりね! あ…サンダルはかないと……」 -- クレハ
      • クレハ大きく頷くと抱擁を解いた
        素足のまま庭へと出てしまったが、散歩に出るならば履物が必要と。。
      • 「いえ、そのままがよろしいでしょう」 -- アトイ
      •  アトイがそう言うと、クレハの尻に何か大きなものが当たる。
         ドラゴンだ、さっきまでソファー代わりにしていた小象程の大きさ
        のドラゴンが、背を低くして、クレハの後ろにかがんでいる。
      • 「夜のお散歩なら、ゆっくりと歩きましょうか。月でも眺めつつ」。。 -- アトイ
      • 「ドラゴンで夜のドライブね…行きましょう…♪」 -- クレハ
      • 考えてみればドラゴンの背に乗ってのナイトフライトは何度もした事があった
        しかし背にのり地を歩む、ナイトドライブはまだした事がなく
        だからクレハは頷くとドラゴンの背へと腰掛けた。。

  •  土の道の先にある、木柱の街灯が一つ。
     そして、村を囲う岬の入り口にある小さな灯台の明かりと、見上げる
    山の影の中にある、針の先のような人家の窓明り。
     それだけが、地上にある明かりだが、暗いと感じるようなことはな
    かった。
     半月の明かりと、そして星がみっしりと満天を覆っている。
     秋の透明な大気を通して、夏の頃より星明かりが多く地上へ注いで
    いるようである。

    • 「万丈さんや、他の漁師さんたちも、流石にまだ寝ていますね」 -- アトイ
      •  ドラゴンの背に横すわりをしながら、アトイがそう言う。。
      • 「早起きの漁師さん達も…流石にこの時間は眠っていると思うわ…?」 -- クレハ
      • アトイの隣で同じ様に横すわりに腰かけたクレハはそう言葉を返した。
        漁師達の朝は早い。日が昇るよりも早く起き、支度をし沖へと出て行く
        しかし今は朝と呼ぶには遠い、まだまだ夜と呼ぶのが相応しい時間帯。。
      • 「ここ、はじめて来た時の事とか、思い出しちゃいますね」 -- アトイ
      •  二人だけしか、存在しないような静寂の中だから、ふとアトイは、
        クレハの方へ向いて。。
      • 「ここに初めて来た日もこんな静かな日だったわね……」 -- クレハ
      • 誰もいないのかと思えるほどに静かな村
        それが二人が最初に抱いた村への感想だった
        しかし村に住み始めた事で気付いた
        小さな灯の一つ一つが営みの光であり
        村人たちが日々を生きている光なのだと。。
      • 「ええ、空き家ばかりで、とても寂れた感じで。もしかしたら朝や夜に
        は世界で、人は私達二人だけになってしまった気分が味わえるんじゃ
        ないかって。そんなふうに言ってたりもしましたね」 -- アトイ
      • 「でも、今は……ふふっ、みんなを起こさないように、足音を立てな
        いようにそっと枕元を歩いている気分ですよ」 -- アトイ
      •  口元に人差し指を当てて、アトイは無邪気に笑った。。
      • 「うん、今はそっと静かに…ね…?」 -- クレハ
      • アトイと合わせ鏡の様にクレハも口元に人差し指を当て微笑む
        そして二人視線を交わすとより強く笑いあう
        しかしすぐにはっとし口を噤み苦笑に
        だって今さっき静かにと言ったばかりなのだから。。
      •  ドラゴンは、大きさの割には小さな足音を、眠くなるようなテンポで
        繰り返しながらゆっくりと歩いて行く。
         アミとロワナの家の前を通り過ぎる。当然明かりはついておらず、
        あの姉妹も今は仲良く眠っているのだろう。
      • 「これだけ静かだと、耳を澄ましていると寝言きこえてきたりして」 -- アトイ
      • 「寝言…うーん、どれどれ……」 -- クレハ
      • そう言うとクレハは耳に広げた手をあて目を閉じて
      • 「あ、お互いの名を言ってる…仲良しさんね〜」。。
      • 「あの二人なら寝言で会話もできそうです。へへっ……おや?」 -- アトイ
      •  アトイがちょっと笑うと、ドラゴンが首をかしげるように耳を傾け。
      • 「実際会話してるような。『ロワナー』『おっす、おらアンパンマン……』
        『ちがうナリよキテレツ……』って何話してるんでしょうこれ」。 -- アトイ
      • 「…色々と混じっていそうね…夢って時々カオスだから…ふふっ」 -- クレハ
      • クレハのは冗談であったが、アトイは実際に聞こえているのだろう
        そして姉妹の見ているであろう夢の断片に
        アオイと出会った夢の事を思い出す、あれも多分にカオスであったと。。
      • 「……クレハさん、今アオイの事考えてませんでした?」 -- アトイ
      •  不意に、アトイはクレハを覗き込みながらそう言った。。
      • 「はひ…?」 -- クレハ
      • アトイの指摘にクレハは変な声をあげた、不意打ちによる驚きの声だ
        そして踊る様なポーズで固まった。とてもわかりやすいクレハさんだ。。
      • 「あ、やっぱり。だめですよー、夜にあいつの噂してるとイキナリ出て
        くるかもしれません。忘れた頃に出てくるし、流し台の下とか冷蔵庫の
        隙間とかから出てきそうなんですから」 -- アトイ
      •  1匹見たら30匹居るとでもいいたそうである。。
      • 「アトイさん…相変わらずアオイさんに関しては敏感ね……
        でも、いくらなんでも……」 -- クレハ
      • アトイの鼻を指で突きながらクスクスと笑うも
        多少は気になるのか周囲をぐるりと見渡してみたり
        実際、アオイの登場はいつもと突然であったから。。
      • 「んっ……あいつは、どちらかと言えば実体が3割、概念が7割ですから
        こういう、ですね。魔法やお化けが踊っていそうな、不思議があっても
        不思議じゃないような夜には、しゃしゃりでて来やすいんです」 -- アトイ
      •  今は二人きりでお散歩だから、邪魔されたくない気持ちがつよくて。
         アトイは、クレハの腕を引き寄せてぎゅっとする。。
      • 「ん、でも気にしすぎない方がいいかもしれないわよ…?
        ほらアオイさん…アトイさんに意地悪するの好きだから…んっ」 -- クレハ
      • アトイとアオイの関係は複雑であり密接だ
        クレハとしてはアトイもアオイも大事な存在であるが
        今宵はアトイと二人の時間を過ごしたくもあり
        だからぎゅっとするとアトイをこちらからもぎゅっと抱きしめる。。
      • 「むむっそうですね……では何か別の事でも考えますか……」 -- アトイ
      • 「うん。じゃあそうね…気分を変える意味で別の場所に行ってみる…?」 -- クレハ
      • 場所を変えれば気分も変わる
        ドラゴンの足ならばどこにでも行く事が可能だろう。。
      • 「ふむ、では……」 -- アトイ
      •  アトイは、顔を上げて海の反対側、村の山側の方を見上げた。
         闇の中に、丘の上に作られた畑や、牧草地の広がるのが見えた。
         村の岸辺に寄せる、緩慢な波音が、月光で色づいたような。ゆるく、
        うねりながら、背後にそびえる山影の裾へ登っていく大地である。。
      • 「あっちの方にはあまり行った事が無かったわね……」 -- クレハ
      • アトイの視線を追う様にクレハも山影を見上げた
        クレハが人魚と言う事もあって海側へは良く行くが
        山側の方へはあまり行った事がなかった
        少し前にネオンやレインの暮らす屋敷へ行ったが、実際その程度だ。。
      • 「知り合いもみんな海側の人達が多いですからね、よくよくと時間をか
        けてめぐってみたりすると。なかなか趣があるのですよ」 -- アトイ
      •  ドラゴンは、緩いスイッチバックの坂道を登っていく。
         しばらくドラゴンの背に揺られて振り返れば、
        アトイとクレハの家のある海は、大分目線の下にある。
      • 「満月になれば、もっと見晴らしもよさそうですねぃ」。 -- アトイ
      • 「でも、このくらいの明るさの方が…村の灯が良く見えるわ……」 -- クレハ
      • 見降ろす闇の中にポツポツとまばらに灯が見える
        それは先程まで地上で見ていた家々の灯
        都会の夜でも溢れん光の洪水と異なり
        村の灯は高い山からでも数えるほどしか見えない
        そんな中でひときわ明るく見えるのは白子さんの店だ。。
      • 「意外と夜更かしさんが多いですねぇ♪白子さんのところはまだ営業中
        でしょうか」 -- アトイ
      •  アトイは楽しげに言う。村で唯一のレストランは今日も繁盛してい
        るようだ。。
      • 「お店で寝ちゃう人もいるみたいだし…白子さんも大変ね、ふふっ」 -- クレハ
      • 実体験である
        アトイとクレハも白子さんの店で朝を向けた事が何度かあった。。
      • 「田舎だから、お店しまるのも大概早いと思っていたのですが。
         白子さんの所は、終業時間が、お客さんが居る限りなんですよね」 -- アトイ
      •  ゆるゆる、とドラゴンの背に揺られながら。
      • 「……ああ、だから最近白子さん、私に飲み過ぎないでくださいねって
        念押しする回数増えたんですかね……」 -- アトイ
      •  アトイはウワバミではあるが、潰れるまで呑むことがしばしばであった。。
      • 「…アトイさん…自覚なかったんだ……」 -- クレハ
      • アトイの言葉にクレハは自分の額に指をあて溜息した。。
      • 「あそこは美味しいお酒が飲めますから……」 -- アトイ
      •  だから長居してしまうのも仕方ない。
         ふと、ドラゴンが顔を上げた。。
      • 「…わかるけれど…あまり白子さんに迷惑をかけないように…ね…?
        ん、どうしたの…?」 -- クレハ
      • ドラゴンが何かに反応した
        しかしその視線の先を見ても闇があるばかりで。。
      • 「お酒の話しを居ていたら、香ってくるぶどうの香りに気を惹かれて
        しまいましたね。
         ソア先生んちの畑のものですねぃこれは」 -- アトイ
      •  そうは言うが、ここからソアの家まではかなり距離がある。。
      • 「ん〜…私には全然わからないわ……
        行ってみる…? どんな畑なのか気になるし……」 -- クレハ
      • 鼻をスンスンとしても、クレハには木々の香りしか感じられないが
        ドラゴンの嗅覚は人間よりも遥かに優れる事はクレハも良く知っている。。
      • 「そういえば…クレハさんは、春に教会の大掃除で来て以来ですね、
        山側は。あの頃はまだ花の時期でしたか」 -- アトイ
      •  ぶどうのである。ソアの家は、教会の近くで。教会は、村背後の山
        の中に建っている。
      • 「ちなみに、教会へ行くのと、反対の山道に入ると、レインさんのご
        実家ですね」 -- アトイ
      •  ネオンの家である。。
      • 「あ、大掃除からもう半年くらい前になるのね……
        そっか…ソア先生の家はあの付近に」 -- クレハ
      • クレハはソアの家の方を見て
        それからネオンレイン姉妹の屋敷の方を見た
      • 「二人ならこの時間も起きていそうだけど……
        また今度にして、今はソア先生の家の方へ行ってみましょう」。。 -- クレハ
      • 「懸命です、あの屋敷、きっと夜中はお化けとかうようよしてますよ。
        ぬっへっへ」。。 -- アトイ
      • 「〜…!」 -- クレハ
      • その言葉にクレハは髪の毛が逆立つ様なマンガ的表現でゾワリと震えた
        アトイの言う様にあの家は幽霊の暮らす館であり邪神にも関わる場所である
        こんな時間に行くのは飛んでもないはなしであった。。


      • 「ちょうど、ここから一望できますね」 -- アトイ
      •  しばらく、細い山道を進んでいたドラゴンが、藪をつっきって崖の
        際に立った。
         閉じていた目を開いた時みたく、目の前に光景が広がる。
         月明かりの中で、一面に蒼い霜の降りたようなブドウの畑が広がっ
        ていた。微かに香っていた甘い香りは、しずしずと降り落ちる月光に
        溶けこんだように、濃密に漂っていた。。
      • 「すっご……ーい…! まさに葡萄の洪水ね……」 -- クレハ
      • クレハはその光景を見た瞬間、息を溜めそして驚きの声を上げた
        海生まれの港育ちのクレハ、しかも雪の地生まれ
        こんなに広大な葡萄農園なんてこれまで見た事が無くて
        雫を纏い月光に輝く葡萄はまさに黒い真珠か宝石の様で。。
      • 「ええっここからソア先生んちの美味しいワインが作られるわけです」 -- アトイ
      •  クレハとは別な理由で、アトイさんもうっとりである。。
      • 「どれだけの量のワインになるのかしらね…ふふっ」 -- クレハ
      • ソアの家のワインの味はアトイもクレハも良く知っている
        この葡萄農園を見れば、あの味にも納得だ。。
      • 「収穫の頃にまた来たいわね…ワイン蔵なんかもあるのかしら…?」。。 -- クレハ
      •  半月の灯りだけでは、畑の向こう側にあるだろう、ソアの家の建物
        は闇に沈んでみえない。
      • 「もうじきですね。収穫期は、家の手伝いと学校でもう大変なのよ…っ
        て前にソア先生が珍しくぼやいてましたね。
         逆に、みゃー先生は珍しくやる気出して手伝いにくるそうです」 -- アトイ
      •  ドラゴンが、静かに羽を広げ始める。。
      • 「ふふっ、理由は大体想像がつくわね…おっ?」 -- クレハ
      • ミアが飲兵衛なのは二人も良く知る所であった。
        笑みを交わしあう二人を背にのせたままドラゴンが大きく羽を広げる
        今のサイズでも羽が広がりきればその両翼は10m近くとなる。。
      • 「ここが村の一番外側のところですから。今度は下って行きましょうか」 -- アトイ
      •  アトイがそう言った時には、もうドラゴンの足は崖から離れている。
        飛ぶというより、浮かぶと言った風に、月光に照らされたブドウ畑
        の上を羽を広げたままドラゴンはふわり、と舞った。。
      • 「なら今度は海の方ね!」 -- クレハ
      • 山から海へ。ドラゴンならば夜の村の全て見る事が出来る
        アトイが頷くと同時にゆるかにGがかかる。。
      •  長い髪が、緩やかな風に持ち上げられるのを感じて。すぐに吹いて
        くるに包まれて一体となったような心持ちに変わった。
         見えない透明な道の上で、自転車をゆっくり漕いでいるような、
        そんな速度である。
         ドラゴンが、ブドウ畑の上を通り過ぎると。葉が音もなく揺れる。
         アトイいわく、飛ばせば超音速でも超光速でも出せるのだという。
         そして、こんな飛び方も出来るのだ。
         すれすれでもない、高すぎもしない、夜にてふてふ、と遊ぶ蝶の目
        の高さで。ブドウ畑の丘を通り過ぎると、小さな崖を飛び出して風車
        の羽の間をくぐり抜けた。
         長い、長い斜面の牧草地を下っていく。。
      • 「いい風来てる……」 -- クレハ
      • なでる様な風が頬を撫で髪を緩やかになびかせ
        ドラゴンは広い牧草地を紙飛行機の様に滑空して行く
        夜露を纏った牧草は月の光にキラキラと輝く
        そんな牧草の海の中で星が煌めいた
        ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ
        狐だ
        何処から紛れ込んだであろう狐の親子がこちらを見上げ
        そして走りさっていった。。
      •  学校の屋根の上に、ドラゴンが足をつけて緩やかに跳んだ。
         そのまま、村の海辺に広がる瓦屋根の家の上を飛び越えて。アトイ達
        の家を、遠目に過ぎて……村を囲う湾の上で滑るようにカーブを描く。
      • 「歩くと山越えしないとだめで、めんどうですが飛ぶとすぐ着きますね」 -- アトイ
      •  ドラゴンから飛び降りたアトイが、さくっ、と音を鳴らして砂浜を
        踏んだ。
      • 「空も陸も両方知っているからこそよね…っと…!」 -- クレハ
      • そう言いながらクレハはドラゴンの背からぴょんっと飛び降りる
        柔らかな砂が足裏を撫で、Tシャツがふわりと捲れた。。
      • 「……むふぅ♡」 -- アトイ
      •  捲れたクレハのシャツが、ふわり、とアトイの顔にかかる。下から頭
        を突き上げて腹とシャツの間にアトイが浮上。。
      • 「わっ?もうアトイさんったら…仔猫みたい♪」 -- クレハ
      • 猫は狭い所に入りたがる
        クレハはTシャツの中に入ったアトイをぎゅうっと抱きしめた
        先も抱きしめたが、今度は直接の素肌。。
      • 「せっかくです、泳ぎませんか?」 -- アトイ
      •  クレハのシャツの裾を掴むと、バンザイして上に持ち上げた。形の
        良いおっぱいがまろびでちゃうくらいまでぐいーっと。。
      • 「海に来たのなら当然よ…わわっ…?」 -- クレハ
      • その勢いに水風船の如く上下に暴れるクレハのおっぱい
        揺れるでなくまさに暴れるであった。。
      • 「ぬっへっへー」 -- アトイ
      •  そのまま、クレハを下着だけな姿に剥いてしまうと。アトイもシ
        ャツを捲って脱いだ。すとん、と砂浜に落ちた短パンから足を抜く。
         クレハに比べれば、まったく未発達な子供の身体である。しかし、
        咲きかけた花の柔蕾が、それだけで美しさを感じさせるのに似た、歪
        みたる所の欠片もない身体である。
         滴る月明かりに、濡れたような肌の上へ、さらさら、と黒い髪が降
        り落ちる。。
      • 「うふふっ…♪」 -- クレハ
      • クレハの身体が成熟した人魚の誘惑される美しさであるならば
        アトイの身体は幼き妖精の様な無垢な見惚れる美しさであろうか?
        月と星の光を浴び黒い髪を纏うその姿から
        誰が恒星の力を秘めた竜神と想像できようか。。
      • 「プライベートビーチのような感じですね。今の時期に、この時間に
        わざわざ浜まで来るような人も居ないでしょう」 -- アトイ
      •  アトイは、両腕を伸ばして、背を逸らす。。
      • 「うん、二人だけの海…!
        前に無人島に行った時の事を思い出すわ」 -- クレハ
      • そう言ってクレハも同じ様に大きく背を逸らす。また揺れた
        前とはアトイがTVの影響を受けて無人島へと飛んだ時の事だ
        あの時も、今と同じ様に二人きりで全裸に近い状態だった。。
      • 「あはー、去年の五月でしたね。あ、そうだこの浜の地下にも海底洞窟通してみましょうか」 -- アトイ
      •  素足を波に洗わせながら、アトイがクレハの方を振り返る。。
      • 「地下に…? 大丈夫かしら…ほらここの地下って……」 -- クレハ
      • アトイが振り返ればそこにはグイーンと近づいてくるクレハの胸が。。
      • 「ああー、あの黒いネバネバですか?あれは掘ったら温泉噴き出してく
        るよりもずっと深い場所にありますからね、ざっと70000mってところじゃ
        ないですかね?こないだ見てきました、それにー……」 -- アトイ
      •  クレハの腰に腕を回して、お腹に抱きついて、胸をむにゅぅ、と。。
      • 「70000m…って、見て来たんだ、流石アトイさんね、それに…?」 -- クレハ
      • もっちり吸いつく様にアトイに密着するクレハのお腹と胸。。
      • 「んーなんというか。あれが生物なのかただの物質なのか。モンスター
        のような怪物なのか、もっと高次元の概念的な存在なのか……」 -- アトイ
      •  クレハの胸元にうまるようにして、うーん……?と首をひねり。
      • 「ただ、間違いなく私や長老様の側に近いモノです。在り方は大分異質
        なのですが。
         まぁ……むやみに掘り出して、あれこれしないかぎり。普通の人は
        気づきもしないようなモノではある……。そんな属性ですねアレ」。。 -- アトイ
      • 「うーん…アトイさんも扱いに困る物ならば、無理に触れない方がいいわね……」 -- クレハ
      • まさに触らぬ神にたたりなし
        納得するとクレハな納得する様にこくこくと頷いた
        そしてドラゴンにも手招きをする。。
      • 「そういう事です。難しい話しはまた今度にでもしましょう!」 -- アトイ
      •  手招きに応じて、ドラゴンが、一つ羽ばたいて浮かんだ。そして、
         どぼんっ、と音を立てて。クレハ達の直ぐ側の海に飛沫を上げて飛
        び込む。舞い上がった雫が、月を反射して、暗闇の中でいくつも、き
        らっ、と光ってはすぐに消えて。
      • 「うん!
        あはっ♪ 豪快なスプラッシュね」 -- クレハ
      • 人魚の血を引くクレハは水に濡れる事が大好きだ
        月の光を浴び煌めく飛沫を浴びながら満面の笑みを浮かべ
        ドラゴンの首にぎゅむぅっと抱きついた。。
      •  クレハの身体は、そのまま首に持ち上げられる。
      • 「少し沖へ行きましょうか。そのまま背中にどうぞ」 -- アトイ
      •  アトイは、ドラゴンのしっぽの付け根辺りに跨った。ふたりともも
        うずぶ濡れだ。。
      • 「行きましょう
        なんだか由良百合で泳いだ時の事を思い出すわ……」 -- クレハ
      • ドラゴンの首でポールダンスする様にクルリとするとそのまま背にに腰かける。。
      • 「私は、あそこの海鮮丼とBBQとごま団子と……魚のゼリー寄せ的な奴がまた食べた
        いですねぇ」 -- アトイ
      •  時刻が夜食が欲しくなる時間だからか、アトイが思い出したのは全部食べ物の事ば
        かりである。
      • 「あそこはどうやら重なりあいの中にある別の宇宙のようなので、私でも気軽には行
        けないのが残念です」 -- アトイ
      •  クレハの背中にぴっとりと、くっついて、アトイは頬ずりする。。
      • 「私は異人通りのワッフルがなつかしいわ……」 -- クレハ
      • アトイが食べ物の話をすればクレハも自然と食べ物の事を思い出してしまう
      • 「ん、アオイさんに引きずり込んでもらうしか……
        あ、こんな話をするとアオイさんが顔を出してしまうわね…ふふっ」 -- クレハ
      • 背中に頬ずりを受けながらクレハはクスクスと微笑んだ。。
      • 「アオイの奴に頼るのだけは嫌です!」 -- アトイ
      • そういって、クレハの肉付きの良い身体に、後ろからむぎゅう、としがみついて。不意
        に、静かに海の上を進んでいたドラゴンが転覆した。海中に放り出された二人の頭の上で
        海面に浮かぶ付きがクラゲのようにゆらゆらと揺れて。。
      • 「うんうん、わかってるって…わ…?」 -- クレハ
      • 不意の転覆に思わず驚きの声を上げてしまったクレハだが
        人魚の血を引く彼女が溺れる様な事は無い。
        水に潜れば即座にその身は人魚の下半身となる。。
      •  そのクレハの周りを、衛星のようにアトイがくるりと一回りして前に回りこみ、手のひ
        らを合わせて両手を繋ぎ合った。
         重力から開放されて、宙を舞う心持ちだ。ぶどう畑の上をゆったりと舞ったのと、同じ
        ように。アトイとクレハの身体も、髪も夜の海の中でふわふわと、揺れ動く。
          真っ暗な海の底の方から、不意に海流がせり上がる。クジラ並に大きくなったドラゴ
        ンが、二人の横をゆったりと泳いだ。その身体から湧き上がるように光が溢れる。緑色の
        小さな丸い光の群れ。無数の蛍が、逆向きの吹雪のように、海中から海面へと、ふわり
        ふわりと、湧き上がり、アトイとクレハ達も包み込む。。
      • 蛍に囲まれながらアトイとクレハはくるくると舞い続ける
        手を合わせ、互いの瞳を見つめながら回り続ける
        ただそれだけの事が楽しくて嬉しくて心が満たされる
        二人の下に潜り込んだドラゴンが海水ごと二人を持ちあげた
      • 海面が大きく盛り上がり、アトイとクレハは夜空へと舞い上がる
        月と星の光を浴びた飛沫が二人を照らし出す
        まるで星の海を漂うな不思議な感覚。。
      •  再び、二人は飛沫を上げて海へと飛び込んだ。
         さっきよりも、深いところまで、身体は沈んでいく。
         ドラゴンが振りまく光の粒が、波に揺れて、発光性の微生物の群れのように漂い
        ながら緑色に光っている。そこへ、海面から浸透するように月の青色が降りてきた。
         暗い筈の夜の海中は、電飾を纏ったように光で満ちて。小さな浜辺へ続く、海底
        の丘の反対側を見れば、遥か外洋へと続く深い海が見たわせた。
         ちょうど、海辺の村を山の上から見渡した時のように、海底の山脈のいただきか
        ら、幽かな灯りに浮かび上がる大地を遠望するような光景である。
         少し、その景色に見とれていると。不意に、アトイは手を引かれて。。
      • 手を引いたのは勿論クレハ
        アトイに笑みを向けると尾びれをひらめかせ、飛ぶように海底山脈の上を進んで行く
        その後ろにはドラゴンが続き、さらに光に惹かれた魚達の群れがそれに付き従う
        海中の電飾パレード、それはまるで巨大な海竜の様でもあり
        ただただ自由に心の向くままに海の中を進んで行く。。
      • 「ちょっと、派手にしすぎてしまいましたかね」 -- アトイ
      •  少し苦笑いしながら、クレハに手を引かれて泳ぎながら、アトイが言う。。
      • 「ふふっ、これでもおとなしいくらいだわ…?
        私達にとっての派手は世界がひっくり返るくらいのものだもの…?」 -- クレハ
      • 楽しい。言葉にせずともわかるほどにクレハの顔は笑顔だ
        確かに派手ではあるが、見る者が無ければそれは二人だけの物だ。。
      •  普段なら、アトイにツッコミ入れる事の方が多いクレハまで、なんだか浮かれているよ
        うに見えて。まぁアトイだって少し過ぎる位に楽しくなければ、ここまではやらない。
         アトイの力は、悪戯と楽しむためにだけ遠慮無しだ。
      • 「はい!」-- アトイ
      •  アトイが笑い返すと、二人の横をドラゴンがすり抜けて浮上していく。そのまま海面
        から大きく、尾の先が出るほどに跳んで。海水はドラゴンに巻き上げられて、海面から
        高い光の柱となって立ち上がって、宙で身を翻したドラゴンに従い、夜空に大きな光の孤
        を描いた。。
      • 「綺麗…まるで月への橋みたい……」 -- クレハ
      • 光の孤は海の中から見ると月へと至るアーチの様にも見えて。。
      •  不意にアーチの輪郭が揺らいで、大きな影が落ちてくる。
         ドラゴンの飛び込んだ拍子に、光の粒が花火のように海の中を広がった。
         激しい海流に、流されそうになるクレハの手を、今度はアトイが握って。もう
        片手で、上がってきたドラゴンの角を掴んだ。。 -- アトイ
      • 乱れ舞う光の中、アトイはクレハの手を引き腕の中へと抱き寄せる
        そして角を掴んだ手を強く握りしめればドラゴンを再度上昇させ夜空へと舞い上がる
        高く高く舞い上がれば、地上は遠くなり、村の光がその隣の街の光が
        多くの光を見渡せるほどの高さへと舞い上がり
        海の底から天空高く、二人の散歩は大きく広がっていき
        そして木の葉が落ちる様に緩やかに落下し、懐かしき村へと戻るのだった。。



      •  朝焼けの光が、波間を輝かせて、山の斜面を黄金の光で照らす。
         海面から、にゅっと丸い頭が2つ突き出た。ぬらぬらして灰色で丸いイルカだ。
        「夜の、アトイの奴のシワザだったのな」
        「ナ」
         2匹は、そう言うと頷きエケケッと鳴いて海へ潜った。彼らの見ていた浜辺に、
        アトイとクレハが、また、踞ったドラゴンの腹に抱かれて眠っている。寄り添う二人の足
        元に、波が小さく揺れて。朝日は、静かに注がれていた。

    • 夜の散歩に行った了-- ▲【戻る】

海辺の村のハロウィンは… Edit


  • 「クリスマスに実家帰ったら変な儀式に参加させられて強制SAN値チェック入
    る小説は魔宴でしたかねー」

    •  HPラヴクラフトの短編である。セイラムの魔女裁判に着想を得て、魔女の子孫達が
      ユールの日(クリスマス)に邪神崇拝の儀式を行うホラー小説だった、確か。
       うろ覚え気味だし、別に直接関係がある話でもない。だって今日はクリスマスで
      もないし。海辺の村でもクリスマスは普通に祝うようなのは、ここ最近、アミロワ
      のご近所姉妹の話題にクリスマスの事がちょくちょく登るようになって居ること
      で確認済である。
       ただ、何故か。そのひとつ前のお祭りの事は誰も話題にしようとしなかった。
      • 「山の上には立派な教会なども建ってますし、子供らもああいうイベントには目ざ
        といのではと思ってたのですがねー?」 -- アトイ
      •  そう言いつつ、夜道を歩く。
      • 「…んー、知っていてもやり方を知らないとか……」 -- クレハ
      • アトイの隣を歩くクレハが曖昧に言葉を返す
        その声には震えが混じり、両手はアトイの左手を強く握りしめていた。。
      • 「ですよねー、ハロウィンの夜は、お化け出るから戸締まりして家を出ないって。
         そりゃ明らかになんかちがいますよねーえへっへっへ」 -- アトイ
      •  不思議な事だが、海辺の村のハロウィンは、夜は絶対に家から出ないのが決まりらしい。
        誰に話を聞いても同じ答えが帰ってきたし、村で唯一の商店と飲食店を営む、くろこさん
        としろこさんも、今日は夕方に店じまいだという。
      •  アトイは、笑いながらクレハと繋いだ手を揺らした。反対の手にはランタンが揺れる。
         ほんとにお化けが出るなら見に行きましょう。そんなわけで、アトイとクレハは
        今、暗い夜道を歩いていた。
         アトイは、この村の守護神であるからというのが半分、もう半分は当然面白そうだ
        からである。お化けとか苦手なクレハも、仕方なしにアトイに付き合わされて……。
         曇りがちな夜空に星はほとんど見えず、黒い煙に巻かれるようにして月が、朧な
        光を放っている。輪郭がはっきりしないせいか、今夜の月は嫌に大きく見えた。
      • 「はて、それにしても暗いですね?まだ7時位のはずですが……」 -- アトイ
      •  アトイは、肩のドラゴンにランタンを咥えさせて飛ばしてみた。丸い明りが暗闇の中で、
        ぽつんと浮かぶ。周囲に家の窓明かりの一つも見えない。
      • 「…わかりそうなのは…お化けのコスプレをする事くらいかしら……
        あ…そうね。日が落ちるのが早くなったとはいえ、この間の夜よりもずっと暗い気が……」 -- クレハ
      • つい先日、二人は夜の散歩をしたばかりだった、だから気付く
        あの日の夜は星と月、村の仄かな灯、夜でも多くの光を感じる事が出来た
        それが今日はどうした事であろう、妙に闇を感じてしまう。。
      •  ランタンの丸い明りの先で、急に、真っ暗闇が円錐形に裂けたように見えた。傘のつい
        た電球が、不意に灯ったのだ。かしいだ木製街灯の明りの下、誰かが立っている。
      • 「あれ、アミじゃないですか」 -- アトイ
      •  見慣れた金髪の少女は、双子のような姉妹のどっちかのようである。
      • 「…ん?ロワナの方だったかな。はーい、こんばんわー。今夜は家からでないのではー?」 -- アトイ
      •  アトイは、笑って手を振るがしかし、黙ったまま答えてくれない。
         街灯の明りが、消えた。同時に少女の姿も掻き消えて。暗がりの向こう
        からキィキィと音を立てて、何かが近づいてくる。
         ランタンの明りは、音の主の元まで届かない。
      • 「こん…あれ…?」 -- クレハ
      • その夢幻(ゆめまぼろし)の様な出来事に
        挨拶の言葉は途中で止まり、代わりに疑問の言葉が出てしまう
        そして近づいてくる何か、その音の元へと視線を向けて。。
      •  音はどんどん前方より近づいてくるのに、いつまで待っても何もでてこずに。
         不意に、ぽんっとクレハの肩に手が置かれた。。
      • 「…変ね………!?%$*#!1!!?」 -- クレハ
      • 緊張のゲージが急激に上昇する中での不意打ち
        クレハは声にならない悲鳴を上げ、そして固まった。。
      • 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
      •   悲鳴を飲み込んだクレハの代わりに、肩に手を置いた人が絶叫した。顎が外れて足元
        まで開いた口で、風が虚を吹くような音を立てる。
         音を立てているのは真っ黒なその喉だけだろうか、眼窩もそげた鼻も死体に穴をうがっ
        たような黒い空洞が開いているばかりで。
      • 「ぬぁぁ!?なんですかこいつらー!?」 -- アトイ
      •  アトイまで悲鳴をあげていた。いつの間にか、二人は行列のまっただ中に居たのだ。
         首無しの人や、骸骨までは、まだそれが何なのか分かったが、脚が人の手をして跳ね
        る机だの、2つの花をくっつけて無理やり一つにしたような奇形の花、獣の頭から虫の足が
        生えたものがカサカサと這うのはもうなんといっていいのやら。
         夜空の中に、山よりも高い白いナメクジ状のナニカが直立して丸い頭を揺らしながら遠
        景の中を移動している。
      • 「って、私をどこに持ってくつもりですか!?あっちょっクレハさーん!?」 -- アトイ
      •  わけのわからぬ者共に胴上げされながら、アトイはどんどんクレハの側から引き離され
        ていく。。
      • 「なななななななに…何事、誰、誰さん…?」 -- クレハ
      • ぐるりと周囲を見渡せば、そこには不可思議な者達が行列を成していた
        タイヤが歩き、箪笥は踊り、犬の様な物がニャーと鳴く
        悪夢と妄想をドラッグで煮込んで煮詰めて抽出した
        じっと見つめていると頭痛を起こしそうになる姿をした者達のパレード
        クレハは恐怖する事よりも先に困惑し混乱していた
        そんな中、クレハを唯一現実へと繋ぎ留める声が聞こえた
      • 「はわっ…アトイさん…!?」 -- クレハ
      • アトイの声だ
        アトイが不可思議で奇妙奇天烈な者達の手と足とナニカによって運ばれて行くではないか。。
      • 「ちょっ……このっ!こらっ!太ももにぬるぬるした舌を巻きつかせて、スカートを腰の
        辺りまでたくし上げするんじゃ……えっ……これ、舌じゃないんです?えええ……」 -- アトイ
      •  困惑しながら、太陽のごとく燦然とした光につつまれ、アトイのドラゴンが10m以上の
        巨体に変化した!
      • 「ちょっと手荒ですが……どいてもらいますよ!」 -- アトイ
      •  ドラゴンは牙に引っ掛けていたランタンを飲み込み、口中に光を発した。極小の恒星
        を生み出すアトイのドラゴンブレスだ。
         しかし、その猛烈な光は一行に闇を照らしてくれない。まるで黒い板に描いた白い点
        のようで。上も下も分からない真っ暗闇の中に、長々と長蛇する奇っ怪なモノ共の行列
        を浮かび上がらせるだけである。
      • 「え……?」 -- アトイ
      •  再び困惑、そして、アトイのドラゴンに、箒のような髪の小さな魔女が集ってその口を
        リボンで縛り上げ、ついでにアトイもラッピングされて、えっさえっさと運ばれていって
        しまう。。
      • 「はいー…? ラッピング?ナンデラッピング?」 -- クレハ
      • 理解が追いつかない。無敵の竜であるアトイがファンシーに翻弄されている
        これは夢?幻? いや、今は考えている時では無い、動く時
      • 「えーい、アトイさんまってー…ひゃ…? わっ!? ごめんなさい……」 -- クレハ
      • だからクレハはアトイを追い走りだそうとした…が
        行列を掻き分け様とした右手が柔らかい物体に触れた
        見れば胴体にニヤニヤ顔を張りつけたクラゲが浮かんでいる
        さらに左手が硬い物に触れる、そちらは「目」が「目」なサイコロだ
        もはや常識的な知識では理解が追いつかない
        それでもクレハはそれらに頭を垂れつつ、アトイを追い走り始めた。。
      •  骨を鳴らして踊る骸骨を背で押して、振り返った拍子に口が開きすぎた人とまた顔を
        合わせ。悲鳴を飲み込み、行列を搔き分け先を急ぐと。先頭を歩く少女の背が見える。
         彼女の周りを、顔を彫られたカブとカボチャが跳ねまわり、行列を先導するように
        金髪の少女が歩いて行く。。
      • 「はぁはぁ…あの子が行列の先頭かしら……」 -- クレハ
      • 走りに走り、息を切らし額に髪を張りつかせ
        ついに先頭にまで来てしまった
        ここまで争い事が無かったのは幸いか
      • 「えっと、あの……」 -- クレハ
      • カボチャ達にぶつからぬ様にし
        さらに歩を進めれば、先導する少女に声をかけようと手を伸ばす
        いつかどこかで見た事のある様な背……。。
      •  突然、クレハは横から手を引っ張られる。
      • 「こっち!こっちですクレハさん!」 -- アトイ
      •  頭にリボンを引っ掛けたアトイであった。。
      • 「ふわっ…アトイさん…!?」 -- クレハ
      • 伸ばした手が声と共に引っ張られた
        手を引っ張ったのはアトイ、拉致されたはずのアトイだ
      • 「アトイさん無事だったのね…?」 -- クレハ
      • 心配しつつアトイの身体にペタペタと触れた
        ここまでの非現実感、目の前のアトイも実は幻なのではと。。
      • 「大丈夫、本物です!もーやだあいつら、話も通じないしノリもあいません!
        私達は家に帰らせてもらいましょう!さっこっちへ……」 -- アトイ
      •  草むらに身を潜めて、小声で言いながらアトイはクレハの手を引いて小走りに駆け出す。。
      • 「良かった…ええ、アトイさんが無事ならこんな所から早く逃げましょう
        頭がおかしくなりそう……」 -- クレハ
      • アトイが嘆く様な相手、この先何が起こるか想像も出来ない
        ならば逃げるのが今は最善手だろう
        クレハはアトイに手を引かれるままに行列から逃れようと……。。
      • 「……あれ?なんでこんな所に……」 -- アトイ
      •  足音を忍ばせて、家への道を急いだつもりだったのに、何故か周りは墓地である。
         ちなみに、アトイ達の家と村の墓地は、海側と山側で正反対の場所にあるのだが……。
      • 「あ、これは予想ついてきましたよ。そろそろ来るんじゃないですかね?あ、もうそろ
        そろ?あっほら来たー!」 -- アトイ
      •  夜霧の中に林立する墓標、その下の地面がもこもこと動き出し。
         次々と不健康そうな方々が這い出してきた!その顔色は土気色を通り越して土と同
        化しかけている。。
      • 「…奇遇ね、私も予想が…ほら来たー…!?」 -- クレハ
      • アトイにしがみつき固まるクレハ
        二人の目の前で、今は亡き世界的ポップシンガーのホラーソング的映像が展開されつつあった
        歌でも歌えば彼らは踊り出すのだろうか?そんな事を思うも足はガクガクと震えるばかりで。。
      • 「行きましょう!絶対普通のゾンビじゃねぇですよ!おぅっと!すいませ……」 -- アトイ
      •  震えるクレハの尻をドラゴンで押しながら、走りだそうとした矢先、誰かとぶつかっ
        て足を止める。
         古風な貴族めいた装束の、長身な男性で、彼は腐ってはないようだったが、その肩か
        ら、銀縁の丸メガネをかけた頭が、金色の長髪をなびかせて落ちていったので、アトイは
        スルーした。
      • 「あいつら何気に足はえーっすね!?スリラー踊りながらなのにはえーっすね!?」。 -- アトイ
      • 「最近のゾンビは早いって聞いていたけれど…早く無くてもいいのにー…!」 -- クレハ
      • ステップを踏みながらとは思えぬ速度で迫って来る怪異の群れ
        クレハは半分泣き声になりながらひたすら走る
      • 「そうだ!空よ!空に逃げましょう!」。。 -- クレハ
      • 「そうでした!」 -- アトイ
      •  走りながら、アトイのドラゴンが巨大化して、横をすり抜け様にその両手で二人の体
        を掴み宙へと駆け上がる。
      • 「ひぃー……もういっそこのまま村の外まで飛んでいっちゃいましょう」 -- アトイ
      •  とはいうものの、煙の中に突っ込んだようで、周囲はよく見えず、不気味な赤い月の
        明りだけを頼りに翼をはためかせて。
      • 「あれ、月が増えました?」 -- アトイ
      •  と見えた瞬間、月の横に並んだ光が、人魂のように尾を引いて飛んで来て、けたたま
        しい哄笑を引き連れて、カボチャのランタンが乱舞する。
      • 「うわっととと!?」 -- アトイ
      •  激突しそうになって慌てて急旋回、顔のすぐ横をカボチャがかすめて飛び退る。。
      • 「わわっ…? どこにこんなにカボチャがあったのよー…!?」 -- クレハ
      • 笑い顔の中に炎を灯したカボチャ達の群れは上下左右から
        ドラゴンが急旋回をする度、素早く回り込みその行き先を阻んでくる
      • 「アトイさん荒っぽいけどブレス行っちゃって…!」 -- クレハ
      • この状況、ドラゴンブレスがどれほどの効果があるかわからぬが
        道を切り開くくらいは出来ようとの提案だ。。
      • 「おおお!本気の奴やっちめぇやすよ!私は飛びながら火を吐く伝統的ドラゴン
        っぽいことだって……!」 -- アトイ
      •  アトイの頭に飛んできたカボチャがすぽっとハマった。
      •  ドラゴンの頭にもハマっていた。ドラゴンは、空中で錐揉みして真っ逆さまに落ちて
        いく!
      • 「クレハさん……無事ですか?」 -- アトイ
      •  2つに割れたカボチャが地面に転がって、中からうんざりした表情のアトイの顔が出
        てきた。。
      • 「私は無事よ〜……」 -- クレハ
      • クレハはドラゴンの翼に猫の様にぶら下がっていた。。
      • 「うむむ…、どうやらゾンビもジャックオーなランタンも巻けたようですが……」 -- アトイ
      • クレハに手を貸しながら周囲を確認すると、なんだか見覚えがないこともない。
        不気味に不自然に暗いことは変わらなかったが、二人が墜落したその場所は。
      • 「白子さんのお店です……」 -- アトイ
      •  地中海の農家風な作りの、明るい壁色の小さなレストランが暗がりの中に、ひっそ
        りと佇んでいた。窓と、看板に明りが灯っている……。
      • 「あれ、でも今日は休業では……まぁ、いいや避難させてもらいましょう……」。 -- アトイ
      • 「ありがと…うん、とりあえず行ってみましょう……」 -- クレハ
      • クレハはアトイの手を借り地面に降りると、身体に付いた埃を払いながらこくりと頷いた
        若干の不安を感じないでもないが、多少でも知っている場所に退避したい
        そんな心理が二人の足を白子さんの店へと向けさせた
      • 「…夜分遅くにすみません…白子さーん……おっ…!?」 -- クレハ
      • やはりと言うか店の扉には「CLOSED」のプレートがかかっている
        しかし、呼びかけながら回したノブの手ごたえは軽くて。。
      • 「おじゃましまーす……白子さん?」 -- アトイ
      •  明りのついた店内は、外の混沌とは無縁な静けさで満たされていた。ただ、静寂で
        はなくて静かなピアノの曲をBGMに小気味良い調理の音がしている。
      • 「あ、れあの……白子さんはいないんです?」 -- アトイ
      • 「こんばんわ、お嬢さん方。今夜は特別に、お店を貸し切りにさせてもらっているんだ」
      • ワイシャツを袖まくりした初老の紳士が、エプロンを外すのをアトイは困惑顔でじっ
        と見て……
      • (人……ですよね?なんか見覚えある気がするのですが……) -- アトイ
      •  頭の上に乗せたミニドラの口を、クレハの耳元に寄せてこそこそっと耳打ち。。
      • (…うん…記憶のどこかに…こう危ない感じで……) -- クレハ
      • クレハはこくこくと頷きながら小声で言葉を返した
        直接の面識ではなく、記憶のどこかに引っかかる様な
        そんな曖昧で、それでいて危険を感じる記憶。。
      • 「どうぞ中へ、実は今夜はパーティだったんだが。招待客は一緒に料理を味わえ
        なくなってしまった。よければ、代わりに楽しんでいって欲しい」
      •  ふと、なんだか甘い香りがした。焦がしたバターと砂糖にも似ている。けれども、菓子
        の、まとわりつくような甘さではない。
      • 「今夜のために、少し遊び心を取り入れた料理を、とおもって。新鮮な肉とカブを
        カボチャでブレゼにしてみた」
      •  テーブルの上には、鍋ほどもあるカボチャが、置かれていて芳醇な香りを放っていた。
      • 「さあ」
      •  謎の紳士に促されて、ゴルドベルグのアリアが流れる店内へとアトイ達は入り、椅子
        を引かれれば言われるままになんでか着席してしまった。
         カボチャが鍋のように開かれて、中で煮られていた肉が、二人の前の皿に取り分けら
        れていく。
         腹の空く香りのする、芸術品のようにその肉は皿の中で得も言われぬ香りを放っている
        のだが……。フォークを手に取りかけたところで、アトイは、男の横にあるものが気にな
        った。
         シーツで覆いをされた、ワゴン台……1個だけ手術室から持ってきたような、場違い感
        がどうにも気になって。
         ミニドラがシーツを咥えて、覆いを取り去った。
         切り分けられた肉の塊と、鍋にされたカボチャのように頭蓋を開けられた人の生首が、
        青白い顔でまぶたを閉じていて。
         男が、おもむろに、ワゴンの上の肉切り包丁を持ち上げたものだから。
      • 「クレハさん……クレハさん……!」 -- アトイ
      •  生首を見て、固まっていたアトイは、思わずクレハの肩をめっちゃ揺すった。。
      • 「……きゅ〜……」 -- クレハ
      • アトイが揺すれば、クレハ首振り人形の様にぐらぐらと揺れる
        わかりやすいほどに気を失っていました。。
      • 「クレハさーん!?」 -- アトイ
      • 椅子を蹴ってアトイはクレハを抱きかかえると、戸口へ向かって走った。
      • 「ひっ!?」 -- アトイ
      •  戸口の柱に、肉切り包丁が突き刺さったのに驚き、つんのめるようにして外へと転が
        り出す。
      • 「誰かに似てると思ったらアンソニー・ホプキンスにそっくりじゃねぇですかあのおっさ
        ん!クレハさん!しっかり!しっかりして!逃げないと私達がハロウィンのごちそうにさ
        れちゃいますよ!」
      •  ぺちぺちっとクレハの頬を叩きながら、アトイはちょっと泣きそうである。。
      • 「う、うーん………はっ?
        私はどこ? ここは誰? 貴女はアトイさん…?」 -- クレハ
      • アトイが頬を叩いてやっと目を覚ますクレハ
        これまたわかりやすい程に寝ぼけてなさる
      • 「思い出した…! 逃げないと…足音が……
        とりあえず…うちの方へ…!」 -- クレハ
      • しかしすぐに状況を思い出せば
        アトイに抱きかかえられたまま我が家の方を指差す
        闇の向こうからは足音が聞こえてくる
        駆け足で無く、歩く足音、なのにそれは確実に近づいて来ていて。。
      •  真っ暗な道の中を、クレハを抱えたまま全速力でアトイは走った。
         道の両側で首吊り死体をぶら下げた並木が大口開けてゲタゲタと笑っていたり、吊られ
        た死体も釣られて笑っていたりして。暗がりに浮かぶ家々の窓には、不気味な影が踊り狂
        い。庭では、群衆が不気味な炎に礼拝し、萎黄病さながらのぎらつく光の中で緑色のねば
        ねばしたしょくぶつを掴みとっては、それを水の中に投げ込むのだった。
         見上げた夜空には、月の周りから黒い雲がどいて月は目玉になって地上を青白く照らし
        ながら睨めつけていたので、見なきゃよかったと心底思う。
      • 「はひぃ……やっと家に、付きました……」 -- アトイ
      •  どこをどう走ったのか。ようよう家にたどり着いてアトイはクレハを下ろす。
         念の為、生け垣に身を隠しながらそっと中の様子を伺って……。
      • 「……知らないおじさん達が庭で全裸で宴会してる……ッッ!」 -- アトイ
      •  アトイは、絶望的な声をだしながら顔を両手で覆った。。
      • 「もーいやー…ママの所に帰るー……」 -- クレハ
      • クレハもまたアトイの隣でぺたりと座りこんで泣きそうな声を上げる
        この村の中でもっとも安全と思われた我が家がこの有様
        他にどこに逃げる場所があろうか
      • 「…あ、あそこなら……」
      • そんな絶望感が心を占めかけた時、アトイとクレハはほぼ同時に声を上げた
        まだあった、退避出来得る場所が。。
      • 「神社!ですよ!」「神社よ!」
  •  二人は同時に叫ぶと、わたわたと駆け出した。よっぽど全速力だったのだろう、もうほ
    ぼノータイムで、隣の家よりも近い場所にある、小さな社の鳥居をくぐった。本殿の戸を
    開け放って中に転がり込み、ばたんっと戸をしめて閂をかけ、ついでに板を打ち付けてや
    った。
  • 「はぁはぁ……。こ、ここなら祭神は私自身ですし、元々は長老様の力が通じていた神域
    です……。お化けも妖怪も滅多なことでは入ってこれない筈です……」 -- アトイ
  •  トンカチを持った手で、額を拭いながらアトイが振り返る。ロウソクの明りに二人の影
    が揺れた。。
  • 「はぁ…もう走れないわ……」 -- クレハ
  • アトイに手を引かれるように走ってきたクレハだが
    疲労は限界に達しており、これ以上動くのは無理とばかりにアトイにもたれかかった
  • 「後は祈るしか…この場合アトイさんを応援するのがいいのかしら…?」 -- クレハ
  • 一応の安全を確保し心に余裕が出来たのか
    クレハは冗談めかす様に言うとクスリと微笑んだ。。
  • 「えへぇーさすがに、ここまでくれば……」 -- アトイ
  •  突然、バンッと扉が強く叩かれて。アトイは、びくりっと背をすくめた。。
  • 「ひゃ…!?」 -- クレハ
  • クレハは悲鳴をあげかけて慌てて飲み込み
    代わりにアトイに強くしがみついた
    腰が抜けかけたまま半泣きで扉を見、それからアトイを見上げた。。
  • 「だ、大丈夫……だいじょうぶ……」 -- アトイ
  •  一瞬の静寂。バンッバンッと扉から壁から屋根に至るまで、霰が打ち付けられるような
    音を立て。窓を無数の手がベタベタと叩く。けたたましい哄笑と共に、中は4畳半程度の
    大きさしかない社は、大海に投げ込まれた小舟のごとく揺さぶられる。
  • 「あああああーもーいやぁー!!」 -- アトイ
  •  ロウソクは掻き消えて、アトイとクレハは暗闇の中で抱き合って震えた。


  •  いつの間にか、窓の外は明るくなっていて。聞き慣れた波の音と雀の鳴き声がしてきて。
     チッチチチッと鳴いて飛び去っていく小さな影が、すりガラス1枚向こう側に見えた。
  • 「……朝……ですよね?」 -- アトイ
  •  目の下に隈を作ったアトイがのそのそと起きだして……。。
  • 「…多分……」 -- クレハ
  • 同じく目の下に隈を作ったクレハがもそもそと起き上がった
    金の髪はあの騒動の後そのままなので乱れ放題だ。。
  •  アトイは、恐る恐る扉を開いて、隙間から外を覗いて差し込んできた黄色い朝日が眩し
    くて目を細めた。
     そして、戸を開いてしばし、軒先をぼけっと見上げてから、クレハと手をつなぐと濡縁
    から階段を降りて外へと出る。
     冷たい風が、二人の乱れた髪を弄び、紅葉した枝の葉を揺らした。
     結局、一晩中抱き合って震えていたらいつの間にか朝になっていた。ぐったりしながら、
    周囲を見回してもすっかり秋めいた、長閑な田舎村の風景があるばかりで、それ以外は何
    もない。
  • 「……ん、あれ……アミですか?」 -- アトイ
  •  ふと、しょぼしょぼする目をこすりながら、アトイは道の向こうから歩いてくる金髪の
    少女を見る。。
  • 「んー…あるいはロワナちゃんかも…?」 -- クレハ
  • 太陽の眩しさとまだ開ききらぬ視界では、二人の特徴である金髪を捉えるのがやっとで
    それでもと挨拶代わりに手を上げてみる。。
  •  少女は小さく手を振りながら、側までやってきたので。
  • 「あーおはようございます……。珍しいですね今朝はお一人ですか?」 -- アトイ
  •  まだ少し、夢に片足突っ込んだようにぼんやりとした不安があったが、見知った友人
    の姿に、寝起きの体の体温があがっていくように現実感が、頭のなかに戻ってくる。
  • 「どうしたの?アトイちゃんにクレハちゃんも」
  •  首をかしげて、少女が問うと。
  • 「いやぁ……昨日?ですね。ハロウィンには本当にお化けが出ると聞いたからちょっと見
    に出たら……」 -- アトイ
  •  言って、アトイとクレハは顔を見合わせてため息をつく。
  • 「お外に出ちゃってたんだ」
  • 「ええ……」 -- アトイ
  • 「ちゃんと帰ってこれた?」
  •  突然、少女は、妙なことを言った。アトイとクレハは現にこうしてここに居るし。二人
    の家はすぐ見えるところにあるのに。
  • 「え?」 -- アトイ
  •  アトイが、少女の方へ向き直った瞬間。
     明りは消えた。


Last-modified: 2016-02-19 Fri 04:54:28 JST (1739d)