しろこさんが風邪ひいた Edit

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    • 【2015/11/17】
      • 海辺の村は、冬が長いらしい。
         だから、今ぐらいの時期には、もう初雪の降るのも珍しくないそうで。頭上に、灰鼠の群
        れが仰向けに浮かんでいるような空色と、吐く息の白い朝は、11月というより真冬の
        ようである。
      • 「クレハさーん、どーですか!?今何m行きました!?」 -- アトイ
      •  縁側の柱に捕まりながら、アトイは、庭に立つクレハに向かって叫ぶ。見えない力に引
        っ張られてるかのように、腰はじりじりと庭の方へでようとしていて、柱を持つ手はプル
        プルと震えていた。。
      • 「えっと…ここで7メートルと…50センチね…?
        アトイさん大丈夫…? こっちもかなりプルプルしてるけど……」 -- クレハ
      • クレハはデジタル表示された数字を読み上げると
        ぷるぷると震えながら右肩にしがみつくミニドラの頭を撫でた
        その瞳は潤み、まるで拾ってきた仔猫の様だ。。
      • 「ま、まだなんとか大丈夫ですー!」 -- アトイ
      •  人形のように長い黒髪の先端がロールしたツインテールで、フリルのついたゴス和装な
        アトイが、朝っぱらから柱にへばりついてぷるぷるしている。どこからどうみても妙な感
        じしかないが、遊んでいるわけではない。
      • 「ふぅふぅ……もうちょっと行ってみましょう。なんだかやれる気がします……!」。-- アトイ
      • 「う、うーん…アトイさんがそう言うのなら……」 -- クレハ
      • アトイがやれる気がすると言うのはやれる時
        ならばその意思を尊重せねばなるまい
        クレハは大きく頷くとレーザー測量計を持ち上げ
        アトイの様子を見ながら一歩一歩とゆっくり後退して行く
      • 「大丈夫、アトイさんなら出来る……」 -- クレハ
      • 先よりも震えの大きくなったミニドラの頭をまたそっと撫でた。。
      •  チワワ38匹分ほどの震えをしながら、クレハの肩でミニドラがミィーと鳴く。
      • 「おおお……ッ比類なき不安感が駆け上ってきますぅ!!あ、クレハさんその辺でスト
        ップ、ストーップ!」 -- アトイ
      •  測量計で測りながら、クレハが後ろ向きに玄関の門から外へでると。
      • 「クレハちゃんおはよー」 -- アミ
      •  毛糸のマフラーを巻いた長い金髪の少女が、歩きながら声をかけた。アミだ。。
      • 「わかったわ…あ、アミちゃんおはよう…? おっとっと……」 -- クレハ
      • 足を止めると同時に突然アミに声をかけられれば
        クレハはバランスを崩し尻餅をつきそうになってしまう
        しかし測量計の支柱を支えになんとか堪えた。目に入った数値は9mと38cm
      • 「おはよーなの、あれ?ミニドラちゃん震えてる、寒いの?」 -- ロワナ
      • そこへさらにロワナ登場、挨拶と同時に軽くジャンプし
        クレハの肩のミニドラを手袋の手でひょいと持ち上げた
      • 「あ……」。。 -- クレハ
      • 「ぬぅぁあああああああああああ!!!!!???!!11!」 -- アトイ
      •  距離計を持ったクレハの、さらに後方でミニドラが抱き上げられた瞬間。アトイは、
        陸上選手並のみごとなフォームで、垣根をハードルの如く飛び越えながら、風呂に落と
        された猫並の悲鳴をあげた。


      • 「一体何してたのアトイちゃん達?」 -- アミ
      •  ロワナの腕の中のミニドラの顎を、手袋の指でつまみ擦りながらアミが言う。
         アトイは縁側に後ろ手をついて腰掛けて、アミとロワナはその前に立っている。2人の
        間から、庭端の岩場とその先の海が見えた。
      • 「あったかいものどうぞ
        そうね、特訓なんだけど…どう説明したらいいのかしら……」 -- クレハ
      • 台所から戻ったクレハがカップの載ったトレイを置きながらアトイに視線を向けた
        カップの中身はココア、ほかほかとした湯気が温かさを感じさせる
      • 「あったかいものどうも、特訓?」 -- ロワナ
      • ミニドラの頭を撫でていたロワナがクレハの言葉に首を傾げた。。
      • 「あー、前に言いませんでしたっけ。私ドラゴンから離れすぎると比類なき不安感に襲
        われるんですよ。ちょっと弱点っぽいので、離れられる距離を伸ばそうとですね」 -- アトイ
      •  言いながら、アトイは、両手で持ったカップをふぅふぅ、と吹く。
      • 「そういえば前にも聞いたことあるような……どのくらいいけるのー?」 -- アミ
      •  そう言いながら、アミが、ミニドラを抱えるロワナに目配せするものだから。
      • 「試そうとするのはやめてくださいね!?さっきみたいな事になりますので!」 -- アトイ
      •  じりじり、と距離を開けようとするロワナに、マジ勘弁して!とアトイは首を横にふ
        りなさる。。
      • 「わ、逃げたの?」 -- ロワナ
      • ミニドラは風切り音と共に飛び上がると
        クレハの背中にへばりつき警戒する様な瞳で顔をのぞかせた
      • 「あらあら?まぁ、そう言う事だから…あまりアトイさんを苛めないでね?」 -- クレハ
      • 「むぅ、わかったの。でも、そんなに怯えなくてもいいのにー」 -- ロワナ
      • ロワナは頬を膨らませながらクレハの言葉に頷くと
        両手で持ったカップからココアを一口啜った
      • 「あははっ、そう言えば…二人共今日はどうしたの…?」 -- クレハ
      • 「「あ! あのね、あのね、今日はね、今日はね」」
      • クレハの問いかけに姉妹ははっとした様な顔となり
        ほぼ同時に口を開いた、絶妙にハモって輪唱になるのでよく聞き取れない。
      • アミとロワナは、同じタイミングで顔を見合わせる。そして。顔も声も双子のようにそ
        っくりな2人が、左右から。「しろこさんがねー」とロワナが言えば、「今朝ねー」とアミ
        が続けるので、なんだかバイノーラル音声のようになって。
        (ステレオみたい……)と、アトイとクレハの思考もシンクロした。



      •  見るからに寒々しい灰色の雲が被さる灰緑色の海が、右手側にある。しかし冬の海とは
        言っても海辺の村は入江の中にあるから、波は穏やかだ。
         アトイとクレハ、アミとロワナ達は、連れ立って緩い坂道を登っていく。
      • 「風邪で倒れるとは、体調管理とかもしっかりしてそうな雰囲気でしたのにね」 -- アトイ
      • 「しろこさん大丈夫かなー?……あれ、そういえばアトイちゃんお見舞いに持ってくやつ
        はー?」 -- アミ
      • 「ちゃんと持ってきてますよ」 -- アトイ
      •  一見して手ぶらなアトイが、袂に手を突っ込むと外国語の書かれたカラフルな缶が一つ二つ……。
      • 「コレが薬草入りのお茶で、バナナと桃と、バナナと桃のゼリーと、料理用のバナナとド
        ライピーチの蜂蜜漬けと、あとこれが海藻と貝を干した奴で煎じて飲むと風邪に効くそう
        です。それからこれがまるごとバナナ(バナナが木に生ってる状態まるごとの意、大体20房)」 -- アトイ
      • 「どこに持ってたの!?」。 -- アミ
      • 「ふふっ、女性の袂は不思議収納空間だから
        ミニドラの方からも出るわよ、食べる…?」 -- クレハ
      • 「女性の神秘? おおっ?」 -- ロワナ
      • クレハの肩に乗ったミニドラが身を振るうと
        翼の裏付近からコロンコロンと飴ちゃんが二個飛び出してきた。。
      •  まるごとバナナ(バナナが木に※略)を両腕で抱えるアミに、ロワナが飴玉を一つ口に放
        りこんでやる。
         飴玉は口に入り、一抱えほどあるまるごとバナナ(略)はアトイの袂に吸い込まれた。
      • 「んっ変わった味ー?え、醤油……?でもすごーい……いーにおーい!」 -- アミ
      •  包み紙を見てみると、濃い紅茶色の地にやっぱり見慣れない外国語が書いてある。
      • 「もしかして外国のお菓子なのー?このお茶とかも」 -- アミ
      •  飴玉で頬をぽっこりさせながら、アミが首をかしげる。
      • 「そうですよ」。 -- アトイ
      • 「アトイちゃんならドラゴンでひとっ飛びだもんね
        毎日でも旅行に行けちゃうの!」 -- ロワナ
      • ロワナもまたハムスターの様に頬を膨らませながら首を傾げる
      • 「あー…行けるには行けるけれど……
        どちらかと言うとお仕事でこう言うのを…ね…?」 -- クレハ
      • 飴玉にはしゃぐ姉妹に笑みを向けた後
        クレハはアトイの方へと視線を向けた。。
      • 「そっか、ここに越してくるまえ冒険者してたって!」 -- アミ
      • 「それもしてましたが、私本業が個人通販ですので、外国のもの等も色々扱ってるんです
        よ。ドラゴンで飛ばずとも私は遍在できますからねー」 -- アトイ
      •  アトイがちょっと得意げに言うと。
      • 「アトイちゃん……お仕事してたんだー」 -- アミ
      • 「いつもおうちにいるからー……」 -- ロワナ
      • 「私の事ニートだと思ってたんですか!?」 -- アトイ
      •  アミとロワナは顔を見合わせて、てひひっと笑ってごまかす。
      • 「…ま、そう思われても仕方ないか……」 -- クレハ
      • クレハは自分の額に指を当てながら溜息した
        実際、姉妹の良く見るアトイは縁側でごろごろしているか
        ちゃぶ台で茶を啜っているかだ
      • 「そっかそっかアトイちゃんちゃんとお仕事してるんだ」 -- ロワナ
      • 「えらいえらい」 -- アミ
      • 姉妹はこくこく頷くとアトイの左右から頭を撫でなさった。。
      • アトイは、ため息つく寸前みたいな表情を頭の上のミニドラと一緒に浮かべた。。



      • ここは村の中で唯一の食事処
        地中海的伝統的な外観ながらも、寂れた海辺の村から浮くモダンとハイカラさは何か奇妙な感覚を覚えさせる
        リーン。その食事処のドアベルが鳴った
        涼やかな鐘と共に食事処の扉が開き、その奥から箒を持ったメイドさんが顔を出した
        黒のメイド服を纏い白いヘッドドレスを頭に乗せた、人形の様な顔つきの、長い長い金髪のメイドさんだ
        メイドさんは空を見上げると、小さな吐息と共に白い息を吐いた
      • 「今日は曇りですか…温かい物が多く必要とされそうな気がします……」 -- しろこ
      • 温かい物、身を温め心を温める物
        ココア、スープ、ホットレモネード…布団、毛布……
        開店を示す吊り看板をCLOSEからOPENへと裏返しながら呟く
        しかし、毛布と呟いた所でメイドさんはハッとなり首を左右に振った
      • 「いけませんね…こんな調子では……
        少し遅くなりましたが、仕事を始めましょう……」 -- しろこ
      • 呟いて箒をもち直すと店の前を左右に見渡す
        やはりと言うか風に飛ばされてきた枯れ葉がわがもの顔で鎮座している
        これは掃除のし甲斐がありそうだ
        そうメイドさんが思った時、風が吹いた、冷たい冷たい北風
      • 「………」 -- しろこ
      • そしてメイドさんことしろこさんはそのままバタリと倒れなさった。。
      • そこへ……。
      • 「大体ですね、私は神様業も兼業してるわけなので結構忙しいんですよ?」 -- アトイ
      • 「あははーわかってるってー……あれ、お店開いてる?ってしろこさーん!?」 -- アミ
      •  OPENになってる店の看板に、アミが首をかしげると、テラスデッキの脇で落ち葉に埋
        もれて白黒と金っぽいものが……。倒れ伏したしろこさんではないか。。
      • 「しろこさーん!? あれー? 今日は閉店だったのにー!」 -- ロワナ
      • アミとロワナは小走りにしろこさんの元へと駆けて行く
        パタパタと言う足音、それを聞いてもしろこさんは倒れ伏したままで
      • 「え?しろこさん!?何事?」 -- クレハ
      • 姉妹を追う様にクレハも駆けだす
        この寒空の下、微動だしないしろこさん、これはただ事ではないと。。
      • 「「あわわわったいへんだー!」」
      •  と声をシンクロさせながら、アミとロワナがしろこさんの上から落ち葉を払いのけ。
      • 「ふたりともまずは落ちついてください、はいちょっと離れて」 -- アトイ
      •  アトイは、袂から先端にチョークがついた棒きれを出すとそれで、しろこさんを囲って地
        面に線を引く。
      • 「地面に線…魔法陣!?回復魔法だね!」 -- アミ
      • 「そっか!アトイちゃん冒険者だったし、神様だもんね!」 -- ロワナ
      • 「いえ、現場確保ですっ!」。 -- アトイ
      • 「あ!刑事ドラマで見た事あるの、あれかー」 -- ロワナ
      • ロワナがおおっと感心した声を上げた
      • 「もう…アトイさんふざけないの…ミニドラもそれしまう……」 -- クレハ
      • クレハは溜息しながらアトイを軽くぽこりと小突き
        窘められたミニドラは張り巡らそうとしていたKEEPOUTテープを巻き戻し始めた
      • 「んー…呼吸はあるみたいね…でも……」。。 -- クレハ
      • 「あーあー、やっぱり無理しちゃってー」 -- くろこ
      • しろこさんを助け起こそうとすると後ろから声がした。しろこさんのお店の隣にある純
        和風な古民家、その改造された1階部分のコンビニの戸を開けて、黒いエナメル質なロン
        グコートを着たくろこさんが顔を出している。
         ちなみにくろこさんちは村で唯一の商店であり、コートは真夏でも着ている。
      • 「くろこさん」 -- アトイ
      • 「んーおはよー。はいはい、しろこは今朝みゃー先生に寝てなさいって言われたでしょー」 -- くろこ
      • くろこさんはしゃがみ込むと、しろこさんの脇を抱えて持ち上げる。
         長い水色のツインテールが地面について、落ち葉がくっついたので、アトイはつまんで
        ぽいと投げた。。
      • 「みゃー先生に…? それなのにこんな寒い中に……」 -- クレハ
      • 「うん、だから今日はお店お休みだと思ってたの」 -- ロワナ
      • アミとロワナは顔を見わせると「ねー」と頷いた
      • 「……はっ? くろこ? それに皆様おはようございます…!
        あ、お店の方は……あ……」 -- しろこ
      • やっと目を覚ましたしろこさんだが
        身を正そうとすれば、ぐらりと足元が揺れまた倒れそうになってしまい
        そこをまたくろこさんに支えられる事に。。
      • 「朝方から具合悪かったんですね。さすがにお休みした方が……」 -- アトイ
      •  クレハの横でミニドラを頭に乗せたアトイも、うんうん、と頷いて。
        くろこさんはちょっと困ったような顔をする。
      • 「そうよ、今日くらいはやすんでも……」 -- クレハ
      • 「なの!具合の悪い時は休むのが大切」 -- ロワナ
      • 「だから布団の中へ戻って!」 -- アミ
      • それぞれに投げかける言葉は違うが、言いたい事は皆一緒
        今日はゆっくりと休み、養生すべきだと、しかし……
      • 「いえ、メイドとして仕事を休むわけには……」 -- しろこ
      • しろこさんは首を左右に振り、そう告げた。。
      • 「しろこのはただのコスプレじゃない」 -- くろこ
      •  ため息まじりにくろこさんが言う。
      • 「ああ、コスプレだったんですか。ずっと着てるので制服かなにかかと」。 -- アトイ
      • 「私もずっと、普通にメイドさんだと思っていたわ……」 -- クレハ
      • 「にゃー…コスプレだったんだ」。。 -- ロワナ
      • 「ほぅほぅ」 -- アミ
      • 「と……とにかく、今お店開けますので……」 -- しろこ
      •  熱っぽい顔をさらに赤くさせてしろこさんは、お店の中へと入ってしまった。
         チリンチリンとドアベルが、コロコロとした音を立てて揺れる。
      • 「朝からさーあの調子なんだよねー」 -- くろこ
      •  また困り顔でくろこさんが言うと、ため息が大きな白い息になった。
      • 「意外とがんこなところあるのですねぃ。……なんか静かですね」 -- アトイ
      •  アトイは、テラスデッキを登って戸に手をかけた。ドアベルが鳴って、中を覗き込むと……。
        また倒れてるー!と一同の心の声がシンクロする。
      • 「アトイさんもまたいたずらしないの……!」 -- クレハ
      • 「あ、はい」 -- アトイ
      •  クレハにつっこまれて、アトイはチョークを袂にしまった。




    •  外は、相変わらず日差しの無い冬の曇り空。だけど、お店の中は、暖炉のおかげで梁の
      むき出しな高い吹き抜けの天井があっても、春の陽気だ。
      • 「おぉーういいですねぇやっぱ似合いますねぇクレハさん!はいちょっとくるって回って
        目線をこっちへ」 -- アトイ
      • 「クレハちゃんカワイイ!」 -- アミ
      • 「カワイイ!!!」 -- ロワナ
      •  アトイは、スマホカメラのシャッターをカッシャーカッシャーと押しまくり。アミと
        ロワナも揃ってはしゃいだ声を上げる。。
      • 「も、もう…みんなはしゃぎすぎ…!」 -- クレハ
      • 両腕をぐっと降ろしたクレハの胸でネクタイが跳ねた
      • 「だってだって本当に可愛いだもん、ねー?」 -- ロワナ
      • 「ねー」 -- アミ
      • 顔を見合わせるとユニゾンするように語り頷く姉妹
      • 「うー…メイド服自体は初めてではないのだけど」 -- クレハ
      • 今のクレハはメイド服を身に纏っていた
        紺を基調にしたメイド服
        肩は大きく膨らんだふわふわパフスリーブ、エプロンの裾にはフリルの装飾が
        頭にはヘッドドレスが乗り、そして首元を飾るネクタイはクレハの胸のサイズを強調する様に垂れて
        どれも気合いの入った作りなのはしろこさんのこだわりか -- クレハ
      • 「そう褒められるとなんか恥ずかしいわね……」 -- クレハ
      • 初めてではないが、アトイ以外の人前でさらにこう言う場で着るのは何か気恥ずかしいものがあった
      •  いつもは、しろこさんがお店の制服のように着ているメイド服にクレハが、袖を通して
        いる。
      • 「大丈夫です!よく似あってます!それにしろこさんのためですから!」-- アトイ
      •  ぐっと親指を立てながらアトイが頷く。
         倒れたしろこさんを、ベッドまで運んだものの、お店の事が気になって休むに休めないという。
        しろこさんを安らかに眠らせるため、じゃあ今日は私達が代わりにお店やる!とアミと
        ロワナが言い出したのがきっかけで。
         どうもそういうことになってしまったので、こうも形から入ってみてるわけである。。
      • 「ありがとう、でも…こんなにぴったりなメイド服があるなんてね……
        私はこれでいいとして、アミちゃんとロワナちゃんのは…?」 -- クレハ
      • アトイの言葉に自分を納得させるクレハ
        しかしクレハの規格外のバストに合うメイド服はあったが
        小学生のお子様であるアミロワに合うサイズはあるのだろうかと。。
      • 「私のも必要ですー」 -- アトイ
      •  そう言いながらアトイがキッチンの奥にある戸の方に声をかけると。
      • 「おう、あるよ」 -- くろこ
      •  ひょっこりと顔を出したくろこさんがこっちゃおいでと手招きする。
         キッチンの奥には広めな廊下があって、芋や米、麦なんかの袋が階段下に積まれた
        バックヤード兼更衣室になっていて、廊下を挟んで向こう側にもう一室業務用オーブンの
        置かれた部屋がある。
         アミもロワナも、馴染みなお店の初めて見る裏側に興味津々で。オーブンの部屋の方を覗
        き見たりして。階段の上からくろこさんに声をかけられ、そっちに向き直り。
      • 「子供用の2着は見っけたんだけどねぇ」 -- くろこ
      • くろこさんの手には、普段しろこさんが着ているのを小さくさらにかわいくしたような
        メイド服がある。
      • 「わー…かわいい!着てイイの!?」 -- アミ
      •  そう言いながらアミはもう上着に手をかけて脱いでるんだから問答無用である。
         柔そうなおなかと、細いへそまで覗かせて服から頭を抜くと、男の子みたいなTシャツ
        の上に、長い髪がはらはらと落ちる。ついでにそのままスカートのホックを片手で外して、
        もう片手でメイド服を受け取ろうとしたのだから、スカートが足元に引っかかってちょっ
        とつんのめった。
         そんなに着たかったのかメイド服。。
      • 「アミったらはしゃぎすぎなのー、わお…? おっとっと」 -- ロワナ
      • アミを窘めるロワナだが、やはりテンションが上がっていたのか
        着替え始めた途端、同じ様に転びそうになってしまった
      • 「ああ、もう…二人共落ちついて…? ほらパンツずれそうよ…?
        でも…こんな小さいサイズまで……」 -- クレハ
      • 「…くろこと私が小さい時の物です……
        でもくろこは全然着てくれなくて……」 -- しろこ
      • 皆の背後からボソリとした声が聞こえた
        振り向けばそこにはドアの隙間から顔を覗かせるしろこさんの姿が
        普段からテンション低めのしろこさんの声が、今日はまるで幽霊の様だ。。
      •  廊下の小さな窓の薄暗がりで見たものだから、体調不良でやややつれた顔は本気で幽鬼
        じみて、みんな思わず息を飲んだ。
         それでなくても、お人形さんっぽい顔立ちのしろこさんは、普段から無言で立ち尽くし
        ているだけでもなんというか眼力とかすごいので余計である。
      • 「いや、あのね。昔から言ってるけど友達でペアルックとか普通やらないって」 -- くろこ
      • 「そうですか?けっこう普通だと思いますよ」 -- アトイ
      •  ちょっと呆れたように返すくろこさんにアトイが即答で返したので。
      • 「え」 -- くろこ
      •  思わず周りを見回してみるくろこさんに、アトイとクレハとしろこさんが、うんうん
        と頷いて居て。アミロワはメイド服を着てお互いにきゃっきゃっとはしゃいでる。
      • 「……うん、まぁいいや。とりあえずしろこはちゃんと寝てなさいって」 -- くろこ
      •  くろこさんは、フリルつきの寝間着を着たしろこさんが羽織ったカーディガンをかけ直
        すと、回れ右させて背中を押しなさる。
      • 「それでくろこさん、私の分はー……」 -- アトイ
      • 「あー、子供服サイズのは昔の奴だから。アトイちゃんコスプレの服いっぱい持ってた
        でしょ、メイド服無いん?」 -- くろこ
      • 「あいにくクリーニング中で」。 -- アトイ
      • 「この機会にくろこも…ああ……」 -- しろこ
      • 「…私達に任せて、しろこさんはしっかりやすんでください…?
        ふぅ…で、アトイさん大丈夫なの…?」 -- クレハ
      • 引っこんで行くしろこさんを見送ると
        クレハはアトイの方へと向き直り問い尋ねた
        大丈夫なの?とは異能の事だ。アトイの料理スキルは極めて絶望的だが
        異能を使う事により、達人に相当するスキルを獲得する事が出来る
        しかし、その異能を発動するには衣装が必要となる
        今回の場合ならば「メイド服」が。。
      • 「アトイちゃんお揃いできないのー?」 -- ロワナ
      • 「のー?」 -- アミ
      •  両手を恋人つなぎにしたアミとロワナが声を揃えてこっちを見てくる。クレハが着てい
        るメイド服よりちょっと丈の短いスカートで、腰元には大きなリボン。
      • 「3人揃うと食事処兼居酒屋というよりメイド喫茶みたいですね。ふぅむ……。あ、そうだ
        しろこさん、しろこさんのメイド服借りていいですか?」 -- アトイ
      •  ちょっと考えたアトイがそう言うと、くろこさんに抱えられたしろこさんがいいよーと
        いう風に手を振る。
      • 「いよしっ」 -- アトイ
      • アトイは、袂からハサミと布紐を取り出し、針に通した糸を口の端に咥えた。そしてまっ
        たくサイズオーバーなしろこさんのメイド服をばさりっと抱える。。
      • 「アトイさん何するの…? もしかして…作りなおすの…?」 -- クレハ
      • 「糸と針?」 -- ロワナ
      • 「アトイちゃんお裁縫出来たんだ?」 -- アミ
      • アトイの行動に三人は目をパチクリとした
        ぽかんとしたままの三人の前、テキパキと手を動かして行くアトイ。。
      • 「まさか、仕立て直すわけにも行きませんが」 -- アトイ
      •  しゅるりっと着物の帯を解き、ミニドラに咥えさせると肌襦袢も一緒に着物と一緒に脱ぎ
        落として。ショーツと足袋だけというちょっとマニアックな格好になりつつ、メイド服のスカー
        トに両腕を突っ込んで、バンザイするように頭の上に掲げると。
         細い首の根本にえくぼのような鎖骨のくぼみができて、薄い胸板は連動して伸びをする
        猫のようになめらかに反る。そして、すっぽりとメイド服の中に入ると……。
      • 「ちょっとここをこうして、ここはこんなで……」 -- アトイ
      •  当然、袖も丈もぶかぶかであるのだが。 ロングスカートの制服を、ミニスカートにす
        る女子高生等の容量で、腰の辺にいくらか巻き上げ、それでも余るところは裾を持ち上げ
        てシュシュのようなリボンで、パレオのように腰の辺に固定した。袖のところもいくらか上へ上げてきゅっ
        とリボンで結んで止め。そして、慣れた手つきでコルセットのように着物の帯をメイド服
        の上から結んでエプロンに腕を通すと…。
      • 「はい出来た−!」 -- アトイ
      •  縫ったり切ったりしたわけでもないのに、シックなメイド服は、和風ミニに変形した。
         ちょっとダボついているが、そこは見た目JSなアトイである。あどけなさは魅力の内だ。。
      • 「ほぉ…これはこれは……
        後で元に戻す事も出来るし、凄いわアトイさん…!」 -- クレハ
      • 最低限の細工で最大限の効果を。その手際の良さに思わず拍手するクレハ
        普段見慣れたメイド服も愛らしいが、和風ミニな姿はまた新鮮な物があって
      • 「アトイちゃんもメイド服なのー…メイド服かな?」 -- ロワナ
      • 「細かい事は気にしなーい!」 -- アミ
      • アミとロワナはアトイの右と左からそれぞれ腕を組むと
        踊る様にクルクルと回りなさる。。
      • 「ぶっちゃけ可愛ければそれでいいのでーす。あははは」 -- アトイ
      •  狭い更衣室で3人は、よくもクルクルとよく回るものである。ゲージの中を駆けまわる
        鼠やハムスターのようである。が、しかしさすがに狭すぎたのか。アトイは足を絡ませて
        すてんっと転んでしまう。
      • 「お、おしりが……あたっ」 -- アトイ
      •  その上棚から落ちたじゃがいもが、ぽてんっと頭の上に落ちた。。
      • 「アトイさんったらもう子供なんだか…あ…大丈夫…?」 -- クレハ
      • 「うわっ?お芋?」 -- ロワナ
      • 回る三人に和んでいたクレハだが、アトイが転ぶと慌てて駆け寄り無事を確認し
        落ちて来たジャガイモはアトイの頭で跳ね、きょとんとするロワナの手の中に収まった。。
      • 「アハハ!アトイちゃん、パンモロしてるー」 -- アミ
      •  タイトなミニにしたスカートですっ転べばそうもなろう。アミは、口元に手をあてておどけたように笑った。
      • 「もう、仕事中は転ばない様にしないといけないわね、ふふっ」 -- クレハ
      • 頻繁にJSのパンモロがあっては喫茶店が危ない店になる
        クレハは微笑むとアトイに手を伸ばし立たせてやる。。
      • 「えへへー、転んでお皿とか割っちゃったらしろこさんに怒られちゃうもんねー?」 -- ロワナ
      •  お芋を両手で包んだロワナがかわいく笑って
      • 「よっ、と。大丈夫です!私の異能の中でもメイドさんは一番習熟したスキルなのです!」 -- アトイ
      •  クレハの手を取って立ち上がると、アトイは、ぐっと握りこぶしのポーズでニヤッと笑
        い返した。。


      • ガチャーン(←お皿の割れる音)
      • 「アトイちゃん……」 -- アミ
      • 「わかってます!3枚目だということはわかってます!」 -- アトイ
      •  ブッダフェイスは3タイムまでなので、きっと次割ったらはしろこさんが快復し寝床を
        払った暁には、アトイが病院のベッド送りである。
         アミを手で制して、アトイはしゃがみ込む。
      • 「今日はなんか妙に調子が悪いですね……まさか私も風邪?そんなまさか……。
        あっイタッがっ!?ヅッぅああッ痛っタ〜〜〜〜〜ッッッ!?」 -- アトイ
      •  床に散らばった皿の欠片を拾おうとして、指をチクリッと切ったアトイは、思わず頭を
        上げ後頭部をカウンターテーブルに強打し、頭を抱えてうずくまった。
        ゴスンッと杵で、餅を突いたような重たい打撲音であった。
      • 「アトイさん大丈…ああ…? 落ちていて…!
        破片は私が片付けるから、アミちゃんロワナちゃん奥から救急箱もってきて」 -- クレハ
      • 「はーい」
      • ピタゴラスイッチの様に転がるアトイを落ちつかせながら
        クレハはアミとロワナに指示を出した
        テコテコとバックヤードの方へと駆けて行く姉妹
      • 「うーん、やっぱりいつものメイド服でないとダメなのかしら……」 -- クレハ
      • 皿の破片を袋に纏めながらクレハは呟いた
        アトイの異能スキル「【幾千の貌】(コーディネイター)」は
        衣装を身につける事により、職業の達人となる事の出来るスキルだ
        それが先からのアトイを見るにどうにも機能していない様にも見えて。。
      • 「メイドっぽい格好で可愛ければどんな服でも、力は出せてたはずなのですが……」 -- アトイ
      • 指先をちゅーっと吸いながらアトイは首をかしげる。
         アトイ自身の実感では、スキルが発動していない気はしてないのだが。
      • 「はい!救急箱!」 -- アミ
      • 「はい、どうもー」 -- アトイ
      •  アミが滑り込んで来て、箱から絆創膏を取ると指に巻く。その時、カタカタと沸騰した
        鍋の蓋が揺れる音がした。
      • 「あっやっば!お鍋お鍋!」 -- アトイ
      •  慌ててアトイはコンロの前に駆け込む、吹きこぼれは済んでのところでセーフである。
      • 「この仕込みスープは大事ですからねぇ。えーあとはお砂糖をと……」 -- アトイ
      • 「アトイちゃん、それラインパウダー」 -- ロワナ
      • 「なんで石灰がキッチンにあるんです!?」 -- アトイ
      •  ロワナに突っ込まれてアトイは、あわてて手を止めた。グラウンドに白線を引くあいつがな
        ぜ台所に居るのだろう。
      • 「ねーねークレハちゃん、あれってさー」 -- アミ
      •  救急箱を持ったまま、アミがクレハにぽつりと。
      • 「うーん…もしかしたらそうなのかしら…?」 -- クレハ
      • アトイを椅子に座らせるとアミの言葉に首を捻り唸りながら鍋を覗きこんだ
        ロワナが制した事で石灰は鍋には落ちおらず
        これならばとアトイに代わりクレハが鍋に砂糖と投入し味を確認した
      • 「…ふぅ、味は大丈夫ね…もう少し煮込んだら仕込みは完了よ…さて」 -- クレハ
      • クレハは一息入れるとちょこんと椅子に腰かけるアトイの方へと向き直った
        三人の視線がアトイへと集まる
      • 「アミちゃんもそう思う…?」 -- クレハ
      • 「うん、ロワナも同じ事を思ってる」 -- アミ
      • 「アトイちゃんのアレって多分そうなの」 -- ロワナ
      • 三人の言葉にただただキョトンとするばかりのアトイ
        そして三人は頷き合うと同時に口を開いた
      • 「「「ドジっ子メイド?」」」。。
      • 「……えー、まさかそんなピンポイントな属性が」 -- アトイ
      •  苦笑いしながら、アトイは台に肘をついてよりかかろうとして……肘をつきそこねて椅
        子から転げ落ちる。
      • 「ミ゛ィ゛ッ!」
      •  下敷きになったミニドラが、潰れた小虫のような声を出した。。




  •  

    • 緊急会議アトイさんが役にたたない。
      • 「まさかドジッ子メイドになる衣装があるなんて…」 -- アトイ
      • アトイは鼻の頭に貼った絆創膏を掻いた。
        クレハとアトイはテーブル席から椅子を寄せて、アミとロワナはカウンター席に座り、4人
        で額を付きあわせて相談中である。
      • 「うーん…まったくの想定外ね…?」 -- クレハ
      • 「えっぐべねてくと…? そんなの作った事ないよー」 -- アミ
      • 「難しいメニューはアトイちゃんが頼りだったの」 -- ロワナ
      • アミが側にあったメニュー表を手にとり広げると皆が覗きこんだ
        しろこさんの手作りと思われるメニュー表には
        トーストやサンドイッチ等、聞きなれたメニューに混じり
        家では普段口にしない様な品も多数掲載されていて。。
      • 「この村、海辺と山の方で文化の違う人たちが暮らしてますからメニュー幅広いんです
        よね。それにしろこさんの料理って、シンプルそうに見えてかなり手が込んでて……」 -- アトイ
      •  ピンチである。最近ほぼ主婦なクレハはもちろん、アミとロワナも小学生離れした家事
        スキルの持ち主だが、プロの仕事は次元が違う。
      • 「………本当に困ったわ…投げだしたくはないけれど……
        お客様に不味い料理は出せないわ……」 -- クレハ
      • そう言うとクレハは両手を上げた後ガクリと首を項垂れた
        とりあえず作れはするかもしれない
        しかし安定した味を出す事は極めて困難で、しかも百種近くある
        流石にこれは自分達に出来る限界を越えている
      • 「しろこさん凄すぎるの、毎日こんなに作ってるんだよねー」 -- ロワナ
      • 「うん。…うーでも、豊富すぎるメニューも困りものだよー」 -- アミ
      • ロワナの言葉にアミは頷いてから唸り声を上げた。。
      • 「まー大丈夫じゃないですかー?スキル自体は発動してますしー。このお店のメニューは
        全部食べてますし、しろこさんのレシピメモもありますしー 」 -- アトイ
      •  そう軽く言いながらメモを取り出して見せるアトイの手は絆創膏だらけで、一層不安を誘う。
         一応できる、しかし今のアトイはドジっ子メイド属性のせいでミスが多すぎる。ドジッ
        子は遠目で見ているからカワイイのであって、仲間がドジッ子なのは洒落にならないと
        3人とも早くも実感し始めていて。。
      • 「ダメよ!」 -- クレハ
      • だからクレハはアトイの言葉に却下する言葉を投げた
        クレハには珍しい強めの物言いにアミとロワナの目は丸くなりぽかんとしている
      • 「ああ…ごめんなさい、でもね今のアトイさんに任せる事は出来ないわ…?
        ほら、ドジッ子メイドって時に被害を広げるものだから……」
      • ここまでの被害はアトイにのみに留まっている
        しかし、もしこのまま開店すれば被害はお客にまで広がる可能性もあって。。
      • 「あー……すっぽぬけた包丁が飛んできた時は、一瞬死んだかなって思ったよー」 -- アミ
      •  苦笑いするアミの後で、包丁が壁に刺さったままである。脳天をかすめて髪の分け目の
        ちょうど真ん中を包丁が飛んだ瞬間、アミは、首を亀のようにすくめながら、割れてない?
        私まだ頭割れてない??と本気で尋ねたものだ。
      • 「うぐ……おっしゃるとおりで……。そうなると……私はホールの方へ回って、お料理は
        3人にお任せがいいでしょうか。レシピは完璧に分かってるのでアドバイスはできます」 -- アトイ
      •  注文を取り間違えるとかお冷をぶっかけるとかしそうだが、客に包丁投げてしまうよりは
        マシである。。
      • 「う、うーん…そうね、まずはそれで様子を見ましょうか……
        さて、アトイさんのドジっ子問題はそれで行くとして…話を戻しましょうか」 -- クレハ
      • 戻しましょうとは、豊富な種類あるメニューに対しどう対応するかだ
        それに関してはまったくの解決を見ていなかった。。
      • 「どうしよう?」 -- ロワナ
      • 「どうするー?」 -- アミ
      •  アミとロワナが見つめ合って困った顔をして。
      • 「今日はお天気悪いし、雪でも降りそうですし。お客さんも少ないのではないでしょうか」。 -- アトイ
      • 「冷え込みも強くなってきたし…皆コタツが恋しくなるわよね…多分」 -- クレハ
      • クレハはむしろ寒い方が好みだが
        普通の人間ならば寒さよりも温かい場所を好み
        用事が無ければ外出も控えるだろうと。。
      • 「忙しくならなければきっと大丈夫でしょう。では!色々慎重に……開店といきましょうか!」 -- アトイ
      •  不安を払うように立ち上がると、アトイは明るくそう言った。。


      • 「えーと3番テーブルがベーコンチャウダーとカルヴァドス、2番が魚煮付け日替わり……
        あ、あれどの席が2番で3番でしたっけ??あっ牛すね煮込みですかーもう少々お待ち
        を……30分くらい前に頼んでる……マジっすか!?ただいますぐに……オゥ゛!?」 -- アトイ
      • 足をもつれさせたアトイはビターンと床に転がった。。
      • 「2番テーブルは手前よ…! 向こうの角から順番に…ああ…? アトイさん大丈夫…!?」 -- クレハ
      • 「かるばどすってなんだっけー!? アトイちゃんがまた転んだのー!」 -- ロワナ
      • 「お魚をオリーブオイルで、だっけ? アトイちゃん何度目ー!?」 -- アミ
      • 四人は戦場を駆ける兵士(ソルジャー)の如く混乱の中にあった
        アトイとクレハの読みは外れ、開店し10分としないうちに店内は満席状態となり
        四人は客への対応にてんてこ舞いする事となった
        さらにドジッ子スキルを発動させるアトイ、これが混乱に拍車をかけている
        ちなみにカルヴァドスは蒸留酒の事であり、オリーブオイルで合えるのはカルパッチョだ。。
      • 「何にもねぇとこでよくそんな転べんなぁ」
      •  カウンターでビールを片手に立ち飲みしてたおっさんが言った。最初の方こそ大丈夫
        か?とか聞かれていたが、心配を通り越してすでに呆れの域である。
      • 「へぅぅ……私は大丈夫です……」 -- アトイ
      •  へろへろと立ち上るアトイ、なんだかセリフ回しまでドジっ子めいてきた。
      • 「どうしてこんなに大混雑なのでしょう……お昼前なのに……ロワナちゃん後ろの棚の2段目
        の右から3番目の瓶です。アミちゃん、醤油・酒大さじ3とみりんは1です。あと壷に入ってる特製タレも少々です」 -- アトイ
      •  アミとロワナは返事もそこそこに、カウンターの中をわたわたと再び駆け始めて。
      • 「冬は畑も暇だしね、大体みんなここに集まってくるさね」
      • 「オメー春も夏も呑んでてカミさんにケツ蹴られてんじゃねぇか、ああアトイちゃんおか
        わりもらうよ、ああいいよ自分で注ぐから」
      •  カウンター越しに、白髪交じりの男が笑って手を上げながら慣れた様子でボトルを取り
        に行く。
         小さな村のことだ、お客は大体顔ぐらいは知ってる人たちばかりなので。アトイ達が
        しろこさんのピンチヒッターしていても、一向に気兼ねしない。それはありがたいが、
        知った顔だけに臨時雇だからと気を使ってくれるわけでもない。
         ありがたいやら、もう少しなんというか手心をというか……。
      •  そうこうしてる内に、また1人お客が入ってきて。
      • 「いらっしゃいませー」 -- アトイ
      •  迷うこと無く奥のテーブル席に座った、顎ヒゲのご老人の元に、アトイは転ばないよう
        に気をつけながら駆け寄った。
         混んでても奥のその席だけ皆開けてあるあたり、リザーブ席なのだろうか?誰にも臆す
        ることなく彼は堂々と椅子に腰掛け、ハンチング帽子を取ると机の左手に置いた。
      • 「ご注文はー……」 -- アトイ
      • 「いつものやつだよ」
      • 「えと……」 -- アトイ
      •  アトイは困惑した。この人だれだろう、もしかしたら合うのも初めてかも知れない。
      • 「すいません、しろこさんが今日おやすみで……えへー」 -- アトイ
      • 「……ふぅん」
      •  そういうと、顎ひげを撫でながらご老人はメニューを開き。
      • 「わしぁ、いつも何てやつ頼んでたっけ」
      • 「え、ええー……どれでしたっけ……??」 -- アトイ
      •  そんなん言われても困る。困った。この忙しいのに注文取るだけで手間取った。
      • 「……あ、私心読めるんだから、それで注文確かめればよかったじゃないですか……!」 -- アトイ
      •  アトイが気づいたのは、ようやく注文取ってキッチンに戻ってきてからである。。
      • 「アトイちゃんおつかれさまー」
      • 「ただいまー次はどれー?」
      • 戻ってきたアトイの前から後ろへロワナが通過して行き
        後ろから前へとアミが通過して行った
        いや、アミが前からでロワナが後ろからか?
        ぴょんぴょんと跳ねまわる姉妹はまるで不思議の国のウサギの様で
      • 「あ、アトイさん丁度良かった…そっちの火を……
        やっぱりこっちのジャガイモを剥いて…やっぱり火を……」 -- クレハ
      • 混乱するアトイが顔を上げれば
        カウンター内をクレハが行き来する姿が目に入った
        肉と野菜を煮ながら、さらにジャガイモとニンジンを剥いて斬って
        明らかに仕事のキャパシティをオーバーしている
      • 「嬢ちゃん達、そんなに急がなくてもいいぞー
        今日の俺達はヒマ人だからなー」
      • 「若い子の元気なとこ見てるだけでワシは満足さー」
      • 客達の声が飛んでくる、それは笑い声となり
        さらに合唱となった笑い声が店内に響く
        気の良い客達、しかしそれだからこそ待たせてしまうのは申し訳なくもあり。。
      • 「えへへー、へへ……」 -- アトイ
      •  曖昧に笑って頭を掻きながら、アトイはキッチンカウンターの裏へと身をかがめて。
      • 「はい!集合ー!作戦会議です!」 -- アトイ
      •  小声でアミロワちゃん達とクレハを呼ぶ。。
      • 「え?何ー…? 今すぐじゃないとダメ…?」 -- クレハ
      • アトイの呼びかけに
        クレハは忙しい時の母親達の様な台詞を呟き振り向き
      • 「作戦会議?なになに?」 -- ロワナ
      • 「本日のミッションなんです?」 -- アミ
      • その一方でアミとロワナは作戦会議と言う言葉に惹かれたのか
        ぴょんっと即座に集まってきた。。
      • 「ちょっとこのままだとヤバイです、午前中でこんな忙しいのにこれからランチタイムで
        すよ!」 -- アトイ
      •  しゃがんで額を突き合わせるようにしながらアトイはアミとロワナの顔を交互に見な
        がら言う。
      • 「しろこさんのお店こんなに忙しかったんだねぇ、いつも人いるなーとは思ってたけど」 -- ロワナ
      • 「でも大丈夫じゃなーい?みんな優しいから大目にみてくれるよ!」 -- アミ
      •  気楽そうにそう言うアミに、アトイは、手で小さくばってんを作りながら。
      • 「だめです!やるからには完璧でないと私のプライドが許しません!今はメイドさんな
        ので異能の力とは言え、プロはプロなのです!」 -- アトイ
      • 「ドジッ子だけどねぃ」 -- アミ
      •  アミがにぃっと笑って、ロワナもちょっと苦笑い。。
      • 「これが普段ならばアトイさんを可愛いしてあげたいのだけど…ふぅ」 -- クレハ
      • 姉妹が微笑む横でクレハは大きく溜息した
        その手は忙しくジャガイモを剥き続けていて。。
      • 「いやーはっは、これ着てないと私、なぜか食材を炭にしちゃいますからねぇ」 -- アトイ
      •  アミとロワナは、冗談だと思って笑って居るが真実なのでクレハさんはまたため息つき
        なさった。
      • 「でも大変なのはそうかもねー。メニューも多いし……いっぺんに作れないよー」 -- アミ
      • 「しろこさんいつもどうやって作ってるんだろうー?」 -- ロワナ
      •  お店のキッチンは業務用なのだが、それをもってしても昼酒目当てにやってきた年配の
        酔客相手もなかなか難しいところがあった。
         ランチメニューは魚に肉に、煮込み料理から揚げ物まで、かなりの品目に及ぶ。アトイ
        なら作り方自体はわかるが、何をどれだけ作っておけばいいのか、冷めないように出すに
        はどういう順番で作るのが効率的なのか。知り得ているのはしろこさんだけである。。
      • 「ふぅ…やっぱり経験値の差は大きいわよね……」 -- クレハ
      • クレハは三度目の溜息をすると剥き終えたジャガイモを網籠に置き
        そして新しいジャガイモを手にとり剥きはじめた
      • 「料理なら私達だってたくさん作ってるのにー」 -- ロワナ
      • 「それなら私も、だけど…やっぱり相手にする人数よ……
        私がアトイさんの好みを把握している様に
        アミちゃんロワナちゃんはお祖父さんの好みを知ってる
        しろこさんはきっとそれと同じ様に、ここに来るお客さんの好みを把握してる……」 -- クレハ
      • クレハはアミとロワナを見、そしてアトイを見るとそう告げた。
        そう、誰がどの様な物を好み、どれほどの量を食べるのか
        それらを知っているならば複数の調理を効率よくすすめる事も可能であろうと
        しかもそれは二人三人の分ではない、ここにやってくる人数分である。。
      • 「つまり……しろこさんはこの村の胃袋を牛耳っている……っ!」 -- アミ
      • 「メイドさんってすごいんだねぇ……!」 -- ロワナ
      • 「私も、自分のメイド服さえあれば……くっ!」 -- アトイ
      •  拳を握るアミロワ達の中で、メイドさんへの評価が鯉の如く遡上してゆく。
      • 「でもほんとどうしましょうかクレハさん。このままだと確実にキャパオーバーです。
        シェフの服でも持ってればよかったのですが……」 -- アトイ
      •  アトイにしては珍しく弱気だ、クレハにせっせとじゃがいもを渡して居たミニドラも
        がっくりと肩を落とす。。
      • 「猫の手も借りたいとはまさにこの事ね…猫…?
        ああ…アオイさんよ…!アオイさんに頼めないかしら…?」 -- クレハ
      • ジャガイモを剥く手を止めミニドラを撫でながらクレハは呟き
        そして『猫』と発した所で思い出し閃く
        猫を連れた少女を、夢の世界に暮らす少女を、アオイの存在を
        そして思う、アオイの不思議パワーを借りることは出来ないかと。。
      • 「ええーアオイの奴ですかぁ……?」 -- アトイ
      •  アトイは露骨に嫌だと言いたそうな顔をしたが、クレハにお願いされてしまうと嫌とは
        言えない。
      • 「アオイちゃんって、夏にあったアトイちゃんの妹の」 -- ロワナ
      • 「でっかい潜水艦の子!」 -- アミ
      •  あと、引きこもり体質の、とアミとロワナ達は顔を見合わせて頷きあった。
      •  アオイはコミュ障の非リア系(現実に居ないの意)少女である。しかしその能力は、
        アトイにも勝るとも劣らないのだから、助っ人としては頼もしい事この上ない。
      • 「んー……しかし、自分の内面世界との連絡ってどうしたものでしょうか。まぁ奴は私を
        通してこちら側をいつも見ているようなので、クレハさん直々のご指名なら勝手に出てき
        そうですが……」 -- アトイ
      •  アトイがそう言った時、新しいじゃがいもを取ろうとしたクレハの指に、かさりっと何
        か紙片が当たり。。
      • 「ん、色々と難しいのはわかるけれど…今は……あら…?」 -- クレハ
      • クレハは手に当たった紙片をひょいと指でつまみ上げるとしみじみと見つめる
        紙片は角を揃える様に丁寧に畳まれており
        それは畳んだ者の性格を表している様にも思えて
        紙片を見つめるうちクレハの胸には何か予感の様な物が沸き上がり
        やがて確信へと代わり期待と共に紙片を広げ開いた
      • 「………」 -- クレハ
      • 「クレハちゃんどしたの?」 -- ロワナ
      • 「どしたの?」 -- アミ
      • 紙片を開いた直後から半目状態で固まっていたクレハ
        姉妹が呼びかけると無言のまま広げた紙片をアミロワナ
        そしてアトイの方へと向けた

      • 『接客業と営業だけは、クレハさんのお願いでも嫌です。(死にます)』 アオイ

      •  MS明朝体の文字が紙片にプリントされていた。アオイの部分は、やたらかわいい感じの
        サインになっていた。
      • 「……夏にあった時も、お祭りで吐きそうになってたもんね」 -- アミ
      • 「吐いてたよね……人が多すぎて」 -- ロワナ
      • 「クレハさんのお願い断るとか、あいつほんとに私の半身なんですかね?」。 -- アトイ
      • 「ふぅ…言わないであげて……」 -- クレハ
      • クレハは本日何度目かの溜息をした後
        皆を制するとさらに言葉を続ける
      • 「アオイさんの気持ちも良く分かるのよ…昔の私がそうだったから……」 -- クレハ
      • 『嫌です』の文字に思わず固まってしまったが
        数年前まで視線恐怖症だったクレハにアオイを強く言う事は出来ない。。
      • 「クレハさんってば、アオイの奴には妙に甘いんですから、もう」 -- アトイ
      •  アトイはそう言うが事実は二人平等に同じくらいダダ甘なので、ただのヤキモチである。
      • 「どうしよう……他に頼れそうな人いるかなー?」 -- アミ
      •  アミがロワナな方を見ながら困った顔をする。。
      • 「拗ねない拗ねない、でも本当に困ったわね……」 -- クレハ
      • クレハはアトイの頭を撫でながらぼやく様に呟いた
      • 「じゃあネオンちゃんとおばあちゃんは?」 -- ロワナ
      • 「えっと…幽霊に接客をお願いするのはちょっとどうかと思うわ…?」 -- クレハ
      • 「だよねー」 -- ロワナ
      • ロワナは山の屋敷に暮らす幽霊姉妹の名をあげた
        ちなみにおばあちゃんとはレインの事でアミとロワナにとっては祖母にあたる。。
      • 「もういっそ私が分身……」 -- アトイ
      •  今のアトイさんだとドジッ子が2倍になるだけである。
      • 「おーい、こっち注文したいんだけどー」
      •  カウンター越しに声がかけられた。解決をみないままタイムアップである。
      • 「あっはーい、ただいま……ッと!ぉぉう!?」 -- アトイ
      •  立ち上がろうとして、アトイはわたわたと腕を振りながらぐらぐらと揺れて……。。
      • 「アトイちゃんまたー!?」 -- ロワナ
      • 「おたすけもう…せなーい!?」 -- アミ
      • 転びそうになったアトイを慌ててアミとロワナが支えようとするが
        勢いは止まらず、アミとロワナへと転びが連鎖してしまう
      • 「そっちは…あ…?」 -- クレハ
      • そっちには火にかかった鍋がある
        これは危険とクレハが手を伸ばすが
        クレハの手よりも先に三人を支える者があった
      • 「…メイドの仕事は常に冷静にそして確実にですよ……」 -- しろこ
      • 「「「「貴女は…!!」」」」
      • しろこさんだ、ベッドで寝ているはずのしろこさんがここにいた
        しかも寝間着でなくいつものメイド服を纏った姿だ
        彼女は皆に笑みを向けると凛と背筋を伸ばし作業に取り掛かかる

      • 「いけませんね……
        注文を律儀に受けた順にこなしていては処理がたまるばかりです」 -- しろこ
      • しろこさんは壁に貼られたオーダー表を見つめるとそう呟いてから張り直し始めた
      • 「まずサンドイッチはとにかく急ぎ小腹を満たしたいと言う方です……
        逆にカツ丼はしっかり食べて午後に備えたい方で…時間に余裕のある方です……
        そうそう…コーヒーの注文は来たら優先的に…飲み物のあるとなしでは
        待ち時間の感じ方がかなり違うものです…それと……」 -- しろこ
      • 四人が唖然とする前、しろこさんはテキパキと指示を飛ばし
        そして効率の良いオーダー処理方法を説明して行く
        これが先まで病で倒れそうだった人間なのだろうか?
        四人はただただ驚くばかりで。。
      • 「やっぱりしろこさんは凄いです!」 -- アトイ
      • 「これが本物のプロメイドさん!」 -- アミ
      • 「これでもう大丈夫だね!」 -- ロワナ
      • 見事な仕事っぷりにしろこさんをお休みさせる目的を忘れて、アトイとアミとロワナは
        両手を挙げてはしゃぎだす。みんな相当テンパってたんですね。。
      • 「一時はどうなる事かと思ったけれど…これで一安心ね……」 -- クレハ
      • 「休んでいる暇はありませんよ…遅れた分……
        誠心誠意のサービスでお客様に満足を……」 -- しろこ
      • 「はーい、わかってます…あっ!?、どうかしまし……」 -- クレハ
      • クレハもまた皆と同じ様にテンパっていたのだろう
        先程まで硬く引き締まっていた口元が僅かに緩んでいる
        しかしその安心も長くは続かなかった
        しろこさんの動きが急に止まった、それこそ人形の様にピタリと。。
      •  そして、パタリと倒れてしまわれたものだから。
      • 「「「「しろこさーん!?」」」」
      •  また4人の声がぴったりハモってしまった。
         オイオイオイ大丈夫か?等と店内がちょっとざわついて。
      • 「んもー、トイレ行った隙に抜け出したりしてー」 -- くろこ
      •  店の奥から出てきたくろこさんが、両脇を抱えて抱き上げた。
      •  そしてくろこさんは首をシャフ度にこちらに向け
        『そんな訳だから、後はうまくやってね』と短く告げ
        しろこさんをお姫様抱っこしそそくさと場を後にした
      • 「「「「………」」」」
      • 後に残るは呆気にとられたままの四人とざわめく客人達

      • 「……あーえっと……」 -- クレハ
      • 最初に我に返ったのはクレハだった
        しかし、得に何か策がある訳でもなく
        どうしようか…と言う視線をアトイに向ける。。
      •  アトイは、肩をすくめながら右手と左手の手のひらを上にする、お手上げである。
      • 「やれるだけやってみましょうか。もうじきお昼なのでこんどこそ覚悟を決めましょう
        ……。ランチメニューたしか15品位ありましたよね……」 -- アトイ
      •  お客で来る分には実に楽しみであるが、作るとなると少し気の遠くなる思いがして。
      • 「1番人気メニュー感謝デー!ってことで、ランチメニュー1品のみとか!」 -- アミ
      • 「怒られますよ、お客さん達に」 -- アトイ
      • 「1番人気メニューが今ならワンコイン100円!これでみんなワンコインメニューを頼む
        からそれだけつくればおっけーだよ!」 -- アミ
      • 「怒られますよしろこさんに……」 -- アトイ
      •  無茶なことを言うアミに、アトイと肩の上のミニドラがいやいやそれは無い……という風に首を横にふる。
      • 「うーん……別な人頼んでみるー?」 -- ロワナ
      • 「うーん……料理が得意で接客も得意そうな……
        ママ…は、無理か…連れて来るわけにはいかないものね……」 -- クレハ
      • 切羽詰まり困った時に思い浮かぶのは母親の顔
        しかし、クレハの母レヴィアが暮らすのは北方の遠い地
        アトイならば一瞬の距離だが、わざわざ連れてくるのは躊躇われて。。
      • 「クレハちゃんママかぁー」 -- アミ
      • 「夏以来ですねー」 -- アトイ
      • 「今頃何してるのかなぁ……」 -- ロワナ
      •  アトイとアミロワナそしてミニドラが、なんだか湯にでも浸かったような顔をして意識を遠くに飛
        ばして居る、おかーさんの癒やし効果かあるいは現実逃避か。
      • 「私もお腹すいたなー……クレハママのお料理すごい美味しかったよねーあのステーキ」 -- アミ
      • 「あー砂トカゲの肉ですねー。私もあれ好きですよー高級食材として扱われる地域もあ
        るんですよー」 -- アトイ
      • 「ほわ…高級食材なんだ、あのお肉美味しいもんね」 -- ロワナ
      • 「へぇ〜みんな大好きなんだねぇあのお肉ぅ〜……あっ!」-- アミ
      •  突然、アミが、くわっと目を見開いて覚醒した顔をした。
         何だ何だとアトイ達のみならず、客の視線まで集まった。




    • 「よっ…と」
      • 控えめな掛け声と共に木製の扉が小さく開かれ
        空いた空間にレザーコートの黒い肩が滑り込んできた
        それに追随する様に頭から伸びた水色のツインテールが揺れる
        レザーコートの肩は木の扉をさらに大きく開くと
        身を四分の一回し背中で扉を押す様にしながら、横歩きに扉をくぐって行った
        不自然な動きなのは両手が塞がっているから
        レザーコートの少女の両手には別の少女…メイドさんがお姫様抱っこされ眠っている
        金の髪に白い肌のメイドさん、目を閉じた顔は人形の様だ
      • さてレザーコートの少女ことくろこさんは
        メイドさんことしろこさんをお姫様だっこしたままベッドの側へと慎重に歩を進めて行く
        それなりの広さある部屋なのだが、フローリングの床は無造作に置かれた生地や型紙がちらかり
        踏めば二人もろとも滑って転んでしまいそうだ
        普段ならばそこそこに片付いている部屋、しかし今日はしろこさんが体調崩したゆえにこの様な事に
        クリームの壁を見れば制作中であろう何かのコスチュームが二着
        一方は自分用だろうか?と考えてくろこさんは苦笑を浮かべた
      •   不意に、うでの中のしろこさんがガクッと30センチ程下がる、床の上の生地を踏んで
        くろこさんの左足が滑る!
      • 「とっ……!っと!」 -- くろこ
      •  あわや転倒というところで、右足を軸に回転してバランスを撮り直す。長いツインテ
        ールが体操のリボンのようになびいて、机の上の花瓶の花のぎりぎりのところを通り過ぎる。
      • 「そい!」 -- くろこ
      •  そしてベッドにしろこさんを投げ込んだ、ベッドにぽふんっと柔らかい音を立てて着
        地する。。
      • 「……ん…」 -- しろこ
      • しろこさんの口から吐息の様な声が零れた
        起きたのかとくろこさんが慌てて顔を覗きこむが
        呼吸音が聞こえるばかりで起きる気配はない
        しかし時折混じる苦しげな息は
        しろこさんの体調が未だ回復していない事を告げて。。
      •  目を覚ましたら、また寝床から抜けだして無理をしそうだ。このまま大人しく寝ててく
        れればいいのだが……。
      • 「ふむ……」 -- くろこ
      •  しろこさんはメイド服のままで、寝間着はベッド脇の椅子の背にかけてある。
      • 「手のかかる……」 -- くろこ
      •  くろこさんはピンクの猫足スタンプ柄なパジャマを手に取った。。
      • 視線を戻すとそこにはやはり眠ったままのしろこさん
        ここでくろこさんは既視感の様な物を覚えて首を傾げ、それはすぐに思い当たった
        それは当然の事、つい数刻前にもしろこさんを手伝いパジャマに着換えさせたのだから
      • 「まったく、ね」 -- くろこ
      • くろこさんは苦笑を浮かべると、しろこさんの背とベッドの間に手を差し込み
        そのままぐっと力を込めしろこさんの身を起こした。。
  •  メイド服は手作りなので既成品より体にぴったりとしていて、無理に脱がす訳にはい
    かない。エプロンのリボンを解くと、長い後ろ髪を分けて、肩から胸に垂らしてやり背中の
    ファスナーを引き下げる。
     もともと色素の薄い彼女の背中は白くて、雪の積もった雪原のよう、でも触れると人肌の
    暖かさがあって、雪を乗せれば即座に溶けてしまう熱を帯びていた。
     腕を袖から抜くように脱がす。厚手のメイド服の中からするすると白いところが出てく
    る。くろこさんは殻から引き出される白い蟹の身みたいだなとか思った。。
  • くろこさんは思う「後で蟹料理をお願いしよう」と
    二度目となる着替えこのくらいの我儘は許されるだろう
    そんな事を思いながらもう片方の腕を袖から抜けば
    やがてしろこさんの上半身は下着だけの姿となった
    ブラとキャミソールが一体となったキャミソールブラと呼ばれるタイプの下着
    色は単色の白だが細かな刺繍が質の良さを感じさせる
    ここでくろこさんの手が止まった
    キャミソールを脱がしメイド服から下半身を抜くにはまた手間がかかる、と
  • 「……ん…ううん……」 -- しろこ
  • しろこさんの口から吐息の様な声が漏れた
    くろこさんが手を止めたまま顔を覗きこめば
    やがてしろこさんの目が薄く開いた。。
  • 「あ、起きた?」 -- くろこ
  •  ぼうっとするしろこさんに、両手をあげろとジェスチャーするくろこさん。
    ふわふわと両手をあげるしろこさんの頭からパジャマをかぶせて。
  • 「ほれ、下は自分ではきなさいな」。 -- くろこ
  • 「……ん」 -- しろこ
  • こくりと頷くとしろこさんは緩慢な動きでメイド服から下半身を抜き
    パジャマのズボンを手にとった、そして履こうするのだが
    視点が定まらないのか足がズボンの口に入らない。。
  •  ベッドの横に腰掛けて、見ていたくろこさんが。
  • 「そんなにふらふらなのに、無茶するからだよ」 -- くろこ
  •  叱るでも呆れるでも無く、ちょっと母親みたいな口調になりながら手伝って穿かせると
    しろこさんは、またベッドに倒れるように寝転んだ。
     その上に掛け布団を引き上げると、くろこさんはベッドの脇に椅子を引いて座る。。
  • 「……むぅ……」 -- しろこ
  • 唸る様な声を上げながら布団の中へと収まるしろこさん
    先から言葉の少ないしろこさんだが、それでも瞳は口ほどに物を言い
    布団から顔を半分出した状態でじっとくろこさんを見つめて
  • 「うん、今度は何?」 -- くろこ
  •  ベッド脇に大量に積まれた、外国語ラベルのバナナやモモの加工品の数々や、赤い包み
    紙の飴玉をみていたりしたが。
  • くろこさんがそれに気付き声をかければ
    しろこさんは半分の顔のままで口を開き問い尋ねた
  • 「…お店は…よいのですか…?」 -- しろこ
  • お店とはしろこさんの食事処の隣に並んで建つ店舗
    この村で唯一の商店の事であり
    この時間のくろこさんはそこで店番をしているはずだった。。
  • 「親父が店番してるからいいの。……そんなに見てもだめだかんね。ちゃんと寝ないと治
    らないんだから」 -- くろこ
  •  じーっと懇願するような視線を送りつづけるしろこさんにきっぱりというと、くろこ
    さんはふいっと横を向いて足を組んだ。
     逃げ出さないように見張り番である。。
  • 「…そう…ですか……」 -- しろこ
  • じっと見つめるしろこさんはどこか仔猫の様にも見えて
    くろこさんが視線を逸らしてもじっと見つめたままで
  • 「……あの…寝ますので…下の………」
  • やがて観念したのかしろこさんは布団に顔を沈めると
    布団の中からぽつぽつと言葉を紡いだ。。
  • 「ふむ」 -- くろこ
  • ちらっと視線を上に向けて、ゆっくりと立ち上がる。念押ししなくても、観念して大人
    しく寝てるだろうってことはわかったから。
  • 「お店の方は任せといて、私もよく手伝ってたんだし」 -- くろこ
  •  くろこさんがお店と言う場合は、しろこさんのお店の事で。戸を開けながら、背中越しに笑う。
  • 「………ありがとう……くろこ……」 -- しろこ
  • しろこさんは布団から顔を半分出すと
    出て行こうとする背中にそう言葉を投げかけた
    聞き取るのがやっとなほどに小さな声。。
  •  振り返ると、扉を締める前にくろこさんはもう一度ちいさく笑った。。



  • 「おまちどうさまー!へいっいらっしゃいませー!クレハさん限定二人前ですー!」 -- アトイ
    •  くろこさんが階下に降りて店の扉を開いた途端に、アトイのツインテールが目
      の前を跳ねるように通り過ぎていった。
       ランチタイム、なんだかいつもよりさらに人口密度が高い気がする。そんな中を小さな
      アトイが独楽に乗ったネズミのように、走り回って居て、またコケるのではなかろうか、
      案の定なにもないところで蹴躓いてバランスを崩し料理の皿が宙に浮くが。
    • 「はい!」 -- アミ
    • 「はい!」 -- ロワナ
    •  息ぴったりなタイミングでアミとロワナが、皿とアトイをキャッチ。なんか拍手とか
      起こった。
    • 「すごい大賑わいだねーなんかあったの?」 -- くろこ
    •  コートを脱ぎながらくろこはキッチンのクレハの方を見た。。
    • 「はいはーい…♪ 二つ追加ね…?
      あ、くろこさん…はい…限定メニューが売れに売れちゃって」 -- クレハ
    • クレハはアトイに返答すると壁にオーダー表を張り
      振り向き際にコンロに乗ったフライパン三つの火を調整し
      続けてくろこさんに応対しながら肉の塊をドンっとまな板に置いた。
      実に手際が良い、クレハだけではないアミもロワナも
      そしてドジっ子だったアトイもうまく立ち回っていた。。
    • 「限定メニュー?」 -- くろこ
    • 「はい!これです!今日限定!砂トカゲステーキランチ!!」 -- アトイ
    • 「んぐっんっ……もぐもぐ……おいひぃっ!」 -- くろこ
    •  いつも割りと低テンション気味なくろこさんが、目を丸くして驚いた。アトイにねじ
      込まれた大きな肉は牛肉のような風味と食感でありながら魚の身のようにさくさくと柔ら
      かい。雑誌くらい分厚いマンガ肉の輪切りみたいなのが1皿分デーン、と乗っているがそ
      れが全く多すぎるような気がしない。スクッ……メリッ……モニュッモニュッ……と某
      格闘漫画の飯シーンのような擬音であっさり食べられてしまいそうだ。
    • 「あれでもこんなお肉在庫にあったっけ?」 -- くろこ
    • 「あー…うん、えっと…アトイさんが海外の商品とか取り扱っていて……
      それで、こう言うお肉も…ね…?」 -- クレハ
    • クレハはそう言ってアトイの方へと視線を向けた
      確かにアトイは海外の物品を商品として扱ってはいるが
      砂トカゲの生息地は数千から数万km離れた砂漠地帯や乾燥地帯
      そんな地にすむ生物の肉をこんな簡単に入手できるわけはなく
      つまりはアトイの超パワーを駆使しての個人輸入だ
      それを何も知らぬくろこさんに言えるはずも無く……。。
    • 「ふぅ〜ん」 -- くろこ
    •  少し焦るクレハの内心を知ってか知らずかくろこさんは鷹揚に頷くと。
    • 「アトイちゃんって仕事してたんだ」 -- くろこ
    • 「くろこさんまで私をニートだと思ってらした!?」 -- アトイ
    •  まぁともかくこの砂トカゲ、肉自体が極上なのでただ焼くだけでとても美味しい。
      そしてこの脂を揚げ油にすれば甘くまろやかで干したキノコにも似た不思議な風味が癖
      になるし、皮に近い身をジャーキーのようにしてサラダに混ぜてもいい。
    • 「なーるほど、皆これ頼んでるから上手いこと回せてるのね」。 -- くろこ
    • 「そう言う事…!
      …なんだけど、予想以上に注文が殺到しちゃって……」 -- クレハ
    • 言わずとも察してくれたくろこさんに感謝しつつクレハはコクリと頷いた
      しかし、それは直ぐに苦笑へと代わる
    • 「クレハちゃん限定もう一個追加なのー!」 -- ロワナ
    • 「こっちは限定フライドポテトおかわりだってー!」 -- アミ
    • クレハはアミとロワナに大きく返答すると
      視線をくろこさんに戻し肩を竦めた
      ちなみに限定フライドポテトは砂のトカゲの脂で揚げたポテトで
      飲兵衛達の最高のパートーナーとなっていた。。
    • 「よーし、それじゃあ私も手伝うわー」 -- くろこ
    •  くろこさんは腕まくりするとエプロンをかけた。
    • 「アトイちゃんお肉なくなっちゃったー!」 -- アミ
    •  バックヤード入り口のドアからアミが顔を出して、叫んだものだから皆の注目がそち
      らの方へ。
    • 「しょーがねーですねー、ちょっとお待ちをー」 -- アトイ
    • 「はい持ってきましたよー!」 -- アトイ
    •  バックヤードに入っていったはずのアトイが、次の瞬間!お店の入り口で元気よく声
      をはりあげているではないか。
       しかも頭上にはソファ位ありそうな肉の塊を抱えて居て、店内の視線を釘付けである。
    • 「ああーえーと……」 -- アトイ
    •  思わず一瞬静まり返る店内。そこへ、すすっとロワナが寄ってきて頭の上からふぁさり
      とテーブルクロスをアトイにかけた、クロスの下で隠れてしゃがんでいるように徐々にクロス
      の高さが低くなっていき……。
    • 「3・2・1……はい!」 -- ロワナ
    •  ロワナがクロスを取り去ると、巨大なお肉塊だけが残されている。
    • 「イリュージョンです!……とぉっっと!?」 -- アトイ
    •  皆が振り返ると、アトイは店の奥の方の椅子の上でポーズをとっていた。コケて落ちた。
       思わぬ余興に、笑いと拍手が起こる。。
    • 「…あははっ…皆様お楽しみいただけましたかぁ…?」 -- クレハ
    • クレハは落ちたアトイを助け起こすとやけくそ気味な笑顔と共に手を振り
      そしてアトイ共に床にデンっと鎮座する肉塊をバックヤードへと運びこんだ。。
    • 「すっごいお肉の塊だねー」 -- くろこ
    •  牛や豚の場合、人が座れるくらいの塊ともなれば生前の姿がなんとなく分かるもので
      ある。しかし、この砂トカゲの肉塊は肉塊としか言いようがなく、どこの部位の肉かもよ
      くわからない。きっと超巨大な生き物なのだ。というか何kgあるのだこの肉。
    • 「ふぅー……こんだけあれば、とうぶん困らないでしょう」 -- アトイ
    •  額を拭うアトイと、その頭の上のミニドラを、肉の塊と交互に見ながら
    • 「ねーねーアトイちゃん、さっきの本とに手品?」 -- くろこ
    •  不意にくろこさんがそんなこと言ったので、アトイとクレハとアミとロワナは4人同じ
      姿勢で並んで固まって。
    • 「て、手品ですよ?私得意なんです!ねー?」 -- アトイ
    •  ねー?と同じタイミングで皆顔を見合わせて頷いた。
       アトイさんが実は神様だってことは、まだみんなには内緒だよ。
    • 「へー、おもしろそう」 -- くろこ
    •  そう言ってにこっとするくろこさんの手の中で、黒い棒のような物がジャッコンッッ!
      と雄々しい音を立てて角ばって黒いクールな未来デザインに変わった。
       肉抜きされた携帯手斧、あるいはバイオでメガな感じ。
    • 「何ですその斧!?」 -- アトイ
    • 「お肉切り分けるんでしょー?ああ大丈夫綺麗な奴だから」 -- くろこ
    •  そう言って、くろこさんは斧を振るってスパスパと肉塊をブロック肉に切り分けていく。
       巨大なナタを振りかぶって、細長い南国のスイカを輪切りにしていく様にちょっと似て
      いる。……この人も大概何者なんだろう。。
    • 「えーっと……
      うん、作業を進めましょう…あ、大きな脂身はそっちの鍋にお願い溶かして油にするから」 -- クレハ
    • その光景に思わずぽかんっと呆けてしまったクレハだが
      店側の扉から聞こえてくる客達のざわめきを聞けば我へと返り
      止めていた手を忙しく動かし始めた
      くろこさんの切り分けた肉をさらに仕分けて行く
      ステーキ用、スープ用、さらに脂身等へと
      そして直ぐに使わない肉は布で軽く拭いてからラップをかけ冷蔵庫へと……
    • 「肉の蓄えは十分か?」 -- アミ
    • 「十分なの!どんどん料理してお出しするの!」 -- ロワナ
    • 「ええ、お昼も近いわ、ここからが踏ん張りどころね」。。 -- クレハ
    • 「まっかせて、私これでも昔はここでよく手伝ってたんだから」 -- くろこ
    •  そういうくろこさんも頼もしい。肉片のこびりついた斧を担いでるのはちょっと怖い。
    • 「よーしそれでは張り切っていきますよー!」 -- アトイ
    •  5人で拳を突き上げ声を揃えた。




    • 「砂定5(砂トカゲステーキ定食5個の意味)盛り3ー!(大盛り3名様の意味)」 -- アミ
      •  注文を取ったアミが、キッチンへ向けていい声で注文を飛ばしなさる。
         アミは、肺活量が大きいらしい、双子みたいな姉のロワナより大きな声を出せるようで。
      • 「クレハちゃん、この3つあと1分で出せるからねー」 -- ロワナ
      •  ロワナは、フライパンを次々と振るってグローブみたいな大きなお肉を連続でひっくり返し
        ていく。彼女は手先の器用さに才があるようだ。。
      • 「おっけー…♪
        アミちゃん、くろこさんこの限定ポテト7番と3番テーブルにお願い」 -- クレハ
      • アミとロワナに返事をしながら揚げていたポテトを網杓子で掬い上げると
        ザッと脂を切ってから皿に盛りつけ塩を振る
        この塩もまた砂漠の岩からとれる特製の岩塩だ。。
      • 「はーいよ」 -- くろこ
      • 「はーい!」 -- アミ
      •  くろこさんは、空いた皿を器用に腕に積むと。人で狭くなった通路をステップを踏むよ
        うに軽やかに進む。アミは、その横をはしゃぐ子犬のように右に左に大忙しだ。
      • 「若い子がいっぱいってのはいいねぇ。アミちゃん明日からも働きなよ」
      • 「えー?へへーどうしようかなぁ?」
      • 「明日ぁ学校だろう」--宗右衛門
      •  客のおじさんに、おだてられてによによしていたアミは、横で砂トカゲ肉の塊を一握り
        ほどの大きさに豪快に切る宗右衛門おじいちゃんに突っ込まれたり。
      •  そして、お店の奥の席。ランチタイムで賑やかな店内で1人マイペースに呑んでいた
        顎ひげのご老人が、横を通りがかったアトイを呼び止めて。
      • 「はい、おかわりはこちらでよろしかったですかー?」 -- アトイ
      • とん、とリキュールの瓶を置くアトイさん。
      • 「ああ、よくわかったね」
      • 「へへー」 -- アトイ
      •  アトイさんは得意気に笑った。心を読んでることは内緒である。。
      • 「うん、全部いい感じに回っているわ…っと」 -- クレハ
      • 「なのー…っと…♪」 -- ロワナ
      • ホール内をぴょんぴょん跳ね回るアミ、そしてくろこさん
        ドジっ子ながらもうまく立ち回るアトイ
        彼女らを見ればクレハの口元は自然に笑みの形となる
        それでも調理する手は止めず
        手首のスナップを効かせフライパンの肉を跳ね上げひっくり返すと
        ロワナの用意した皿へと肉を移す、これまたナイスコンビネーションだ
      • 「しろこさんは?」
      • 「あら?貴女は…?」 -- クレハ
      • 突然の様にその女性(ひと)は現れた
        黒髪に褐色の肌、瞑想する様な…眠そうともとれる瞳の女性(ひと)
        カウンター席に腰かけクレハ、そしてロワナを見上げている。。
      •  すぅっと眠たそうな目はさらに細くなり、連動してお口は大きく開く。あくびだ。
      • 「お昼お願い…」
      •  眠そうというか実際眠いのだろう、柳腰の腰よりも長い黒髪で、地味な服の下からでも
        主張の派手な胸元はクレハといい勝負であり、控えめに行ってものすごい美人だ。
         しかし動き出すと、寝返りを打ってベッドから転げ落ちたあとすまし顔する猫みたい
        である。
         浮世離れした雰囲気の目立つ人だ、この村にこんな人いただろうか?
      • 「はいはーい、ご注文はなんですかー?」 -- アトイ
      •  すぐそばの喧騒が少し遠のいたような、不思議な空気にヒョコリっとアトイさんが割り
        込んできて。
      • 「……んー」
      •  肘をカウンターについてお姉さんはまた眠たそうな瞳をアトイに向けて……。
      • 「……」
      • 「……」 -- アトイ
      • 「…………」
      • 「目開けたまま寝てません?」 -- アトイ
      •  お姉さんは、首をガクッとした後ふるふると小さく横に振った。。
      • 「寝てるか寝てないかは私が決める事……
        それよりお昼はまだ?」
      • 「えーっと…今なら限定メニューの砂トカゲのステーキがお勧めですが…?」 -- クレハ
      • お姉さんの言葉にアトイはクレハに視線を向ける、どうしましょう?と
        それを受け、クレハは限定メニューを提案してみた
      • 「肉は食べないわ、でも肉が嫌いと言う訳ではないの
        砂トカゲの肉は食べた事あるから」
      • 今度はクレハからアトイへと視線を向けた、どうしましょう?と。。
      • 「そうするとー確か普通のメニューにお野菜だけなのとかも……」 -- アトイ
      •  クレハに頷くと、アトイさんはメニューを開く。
      • 「あれ」
      • 「ん、ああ。砂トカゲ脂のフライドポテトですねぃ。ジューシィなトカゲ風味です」 -- アトイ
      •  アトイが差し出す開かれたメニューの方でなく隣の席の山盛りフライドポテトをお姉
        さんが指差して。
      • 「チョモランマ!」
      • 「山盛りですね!」 -- アトイ
      • 「脂……マシマシ……」
      • 「かしこまりました!」 -- アトイ
      • なんか普通に通じてるし。もしかしてアトイさんと波長が合う人なのだろうか。。
      • 「………はっ?
        えっと…限定フライドポテト山盛りで脂多目ね…しばしお待ちを……」 -- クレハ
      • 二人のやりとりに思わずぽかんとしてしまったクレハだが
        我に返ると注文を復唱し、調理に取りかかった。




    •  ランチタイムが終わると、料理のサービスは一旦夜までお休みである。最後まで残っていたマイ
      ペースな顎ひげのご老人が入り口の戸を開くと空は、厚い雲に覆われていた。一足先に日が暮れ
      たようである。赤ら顔の彼は、ひげより白い息を吐いた。
      • 「まーいどー、またねーじぃちゃん」 -- くろこ
      •  くろこさんがその背中にひらひらと手を振る。足元を冷たい風が通り抜けた。
         暖炉で薪の燃える音と、キッチンでクレハが洗い物をする音がよく響く。
         アトイさんは、キッチンの横でせっせと芋を剥いては籠に放り込み。アミとロワナは、
        店の端と端から、小走りにモップをかけて真ん中で合流すると、モップを持ったままく
        るりと回って、1つの椅子に背中をくっつけて座り込んだ。ぴったり左右対称な動きでちょ
        っとダンスなようだ。
      • 「はぁーやっと終わったー」 -- アミ
      • 「お掃除できたよー」 -- ロワナ
      •  アミとロワナがため息混じりにそう言うと
      • 「おつかれさまですーでもこれから夜の仕込みですからねー……。おっいけね、また刃欠
        けちゃった」 -- アトイ
      •  ドジッて指じゃなくてナイフの方にダメージをあたえるアトイである。硬い。。
      • 「アミちゃんロワナちゃんお疲れ様…こっちももうすぐ終わるから、そしたらお茶に……
        ああー…壊した分、後でセラミックナイフのセットでも…持ってきた方がいいかもしれないわね……」 -- クレハ
      • 洗い物を進めながらクレハは皆との会話に笑みと苦笑を見せる
        食器の数こそ多いが普段の家事で慣れた作業、その手際は良い
        だからなのかそこにいるのが当たり前の様な感覚さえ覚える
        クレハだけでない皆がそうだ、これも大きな仕事を達成したからなのだろうか
      • ふとくろこさんが振り向いた、それにつられる様に皆も同じ方向へと向いた
        そこにはしろこさんの姿、パジャマの上に大きめの白のショールを羽織り
        扉の影から顔を覗かせていた。。
      • 「また起きだしてるし」 -- くろこ
      •  いたずらっこを見咎めた時のように頬をむくれさせて、くろこさんは、すぐにその側へ歩みより。
        寝てなきゃだめでしょー、かなりよくなりましたから…等と言い合い初め。その様子を
        アトイがなんだか微笑ましく見てるのに気づいて。
      • 「アトイちゃん何よ」 -- くろこ
      • 「いやーくろこさんが怒ったとこ初めてみたなぁと」 -- アトイ
      •  普段、滅多なことじゃ飄々としたスタンスを崩さない人であるのだから。
      • 「別に怒ってないし……。それより、本当に大丈夫なの?」 -- くろこ
      •  照れたのか、くろこさんはちょっと前髪をつまみ上げたりして。それもごまかすように
        自分としろこさんの額に手を当ててみたり。。
      • 「…だから…本当に大丈夫です……」 -- しろこ
      • もう一度繰り返す様に言うしろこさんだが、その言葉に苛立ち等は無く
        くろこさんが心配するのを素直に受け止めている様だ
        そんな二人を見てアミとロワナは「仲良しさんだねー」「なのー」と頷いている
      • 「それで…お店の方は……」 -- しろこ
      • くろこさんの手にそっと自分の手を添えると小声でそう問い尋ねた
        やはりと言うか、体調が落ちついて真っ先に気になるのは店の様子らしい。。
      • 「大丈夫、みんながちゃんとやってくれたって」 -- くろこ
      •  そう小さく答えてから。
      • 「メニューとか増えたりしたけどね」。 -- くろこ
      • 「メニューが増えた…ですか…?」 -- しろこ
      • 「これなのー!」 -- ロワナ
      • しろこさんが首を傾げるより先にロワナそしてアミが飛び出してきた
        ロワナの掲げる手にはグローブ程のサイズの肉の載った皿
        皿の上には勿論砂トカゲのステーキ、冷えてしまっているがその香りは変わる事なく
      • 「これが…増えたメニュー…?」。。 -- しろこ
      • 「仕入れ元は私なのでご心配なく。まぁ細かい説明は後でゆっくりしましょう」 -- アトイ
      •  まかない用にと作っておいたが食べそこねた奴である。
      • 「砂トカゲ肉は滋養強壮の薬として珍重されることもあるので、風邪にはうってつけで
        しょう。ささっひとまずお座りくださいな。今温めますので」
      •  そう言うとアトイは椅子を引き、ミニドラはお皿の上を飛ぶ、かぱっと開いた小さな口
        の中に豆粒ほどの光球が生まれて……。
      • 「おぅっ!アトイちゃんまぶしいっ!熱いっ!」 -- ロワナ
      •  ドラゴンブレスである。。
      • 「おっとっと…私が皿を持つわ…?」 -- クレハ
      • 「はうぁーバトンタッチなのー」 -- ロワナ
      • ロワナが皿を落とすより先にクレハが鍋掴みの手で皿を受けとめた
        そんなクレハさんはいつの間にやら対閃光防御な眼鏡をかけておられる
      • 「これは良い香りです…でも、この大きさは…今の私には……」 -- しろこ
      • 「ああ…そうね、病み上がりには少し大きいかも…?
        じゃあ食べ易いサイズで新しく…どうかしら…?」 -- クレハ
      • ドラゴンブレスの再加熱で肉は白い湯気を上げる程に温まり
        舞う香りもより濃厚となった。しかし食欲をそそる香りでも
        病み上がりの胃にグローブサイズの肉は大きすぎる
      • 「ええ、是非お願いします……、代わりにとは言ってはなんですが……
        冷蔵庫にあるケーキをどれでもお好きな物を…召し上がってください……」 -- しろこ
      • そう言ってしろこさんは食材保存とは別の、スイーツ保管用の冷蔵庫へと視線を向けた
        仕事の間、アミとロワナがずっと気になっていた冷蔵庫だ。。
      • 「ケーキ!やった!お昼食べそこねてたから超食べたい!」 -- アミ
      • 「しろこさんちのケーキ大好きー!」 -- ロワナ
      •  お好きなだけどうぞ、と付け加えられればアミロワ達はハイタッチして走りだし。
      • 「あー!私もまかないはケーキがいいです!めっちゃ糖分ほしいー!したっけ私はお茶等煎
        れてきましょう。ええ、風邪に効く奴ですよおみやげのふふふ……」 -- アトイ
      •  アトイはキッチンへ。。
      • 「うん、お茶の方はお願いするわね?私はお肉の方を……
        しろこさんとくろこさんは…席の方で待っていてください」 -- クレハ
      • クレハもキッチンへと
      • 「あいよ。うん?
        アトイちゃんもケーキなら、こっちは私が食べちゃおうかな?」 -- くろこ
      • こっちとは先程ミニドラが再加熱したお肉の事だ
        ホカホカと湯気が上がるのをまた冷やしてしまうのは実に勿体ない
        アトイの「いいですよー」の声を待ち
        くろこさんは肉の皿を手にしろこさんと一緒に席の方へと移動した。。
      •  しろこさんの向かい側に座ると、くろこさんはすぐにナイフとフォークを手に取る。
      • 「ふむふむ、朝から食べてないの差し引いてもやっぱりこのお肉すごいわ……」 -- くろこ
      •  大きな塊を頬張って、小さくうなずきながら皿を見つめるくろこさん。。
      • 「はい…名だけは聞いた事が…あったのですが……」 -- しろこ
      • くろこさんの対面に腰かけたしろこさんがコクリと頷く
        ゆったりペースなその動きは
        病み上がりゆえかいつにも増して人形の様だ
        それでも朝からと比べれば随分と回復した様に見える
      • 「………」。。 -- しろこ
      • 「ん、どしたの?やっぱ一口居る?」 -- くろこ
      •  豪快にお肉を口に放り込んでたくろこさんが、かぶりつこうとしていたお肉塊から顔
        をあげる。。
      • 「……いえ」 -- しろこ
      • 一言だけ返答すると静かに首を振ってから、右手をスッとくろこさんの方へと伸ばし
        皿へと落ちかけていたツインテールを背の方へと逃がしてやった
      • 「………」 -- しろこ
      • 「…世の中って…上手く出来ているのですね……」 -- しろこ
      • 席に座り直すと、呟く様な口調で言う。。
      • 「んー?何が?」 -- くろこ
      •  改めてお肉を頬張りながらくろこさんは、そう聞き返して。。
      • 「…私が居なくても…店は上手く回るのですね……
        感謝がある一方で…何か切ないような……」 -- しろこ
      • 両肘をテーブルに突き、顔の前で指を合わせる様にしながら
        静かにそしてゆっくりとしろこさんは言葉を紡いだ。。
      •   横を見ると、少し離れてキッチンの方で賑やかに仕事をしているクレハやアトイ達が
        居て。そこは普段、しろこの立っている場所である。
      • 「ちょっとやそっとじゃ諦めらんないからだと思うよ」 -- くろこ
      •  唇に付いたソースを、ペロッと舐めて親指でこすりながらくろこさんはそう言って。
      • 「しろこが作ってるこの場所が、みんな好きすぎて、何か困りごとがあったら、おとなし
        くなんてしてないで自分たちもなんとかしに行こうって思うくらい」 -- くろこ
      • 「それに、このステーキ人気だったけど、今日はしろこが作ってるんじゃないのって、
        何度も聞かれたし」。 -- くろこ
      • 「………」 -- しろこ
      • 顔の前で合わせていた指をテーブルに降ろすと、しろこさんは目を閉じ黙した
        じっと動きを止めて、起きているのか…生きているのかすらわからないほどに
        聞こえるのはアミとロワナの笑い声、そしてキッチンからの火と油の音のみ
        そんな状態が数分あるいは数十秒か続いた後……
      • 「あったかいですね……」 -- しろこ
      • しろこさんはそう短く呟いた
        目を閉じたまま、じっと動きを止めたまま
        それでも顔の表情はどこか柔らかくて。。
      •  友達のような家族のような……そんな関係よりももう一歩分近いから分かる温もり。
        背中合わせにいて、背がくっつく程なのに、煩わしくは無い不思議。
      • 「そうね」 -- くろこ
      •  くろこさんも、少し笑うようにそう言って。。
      • その顔につられる様、しろこさんの表情もさらに柔らかくなり
      • 「……私も…ここが……」 -- しろこ
      • 「雪なのー!」 -- ロワナ
      • 「ゆひはふってひたー!」 -- アミ
      • しろこさんが何か言いかけた所へアミとロワナの飛び上がる様な声が響いた
        ちなみにアミは口にケーキを頬張ったままである、よほど興奮したのであろう。
        とにかく、木枠の窓へと視線をやれば縦横に区切られた灰色の風景に
        この冬初となろう雪達が舞い降りて来るのが見えて。。
      • 「おー、降りそうだなーって思ってたらやっぱりねー」 -- くろこ
      •  椅子の背もたれに肘をかけて、後ろへ向きながら窓の外を見る。
         雪は、堰き止められていたのがどっと吹き出すように、あっという間に本降りになった。。
      • 「これは積もりそうです……
        明日も温かい物を用意しないと……」 -- しろこ
      • 肩にかけていたショールで身を包む様にしながら
        しろこさんが呟き、その言葉にくろこさんはクスリと笑みを浮かべた
      • 「雪! 積もるかしら、積もるわよね♪…あ、お待たせ」 -- クレハ
      • そこへポニテを犬の尻尾の様に揺らしながらクレハさんがやってきた
        手には女性の片手の平ほどのサイズの砂トカゲステーキの載った皿
        フライドポテトの代わりにポテトサラダが添えられている。。
      • 「アミロワちゃん達ってばテンション上がりすぎですねー。ここ割りと雪の多い場所だ
        ったはずですが。それでも楽しいものなんですねー……うぉっ!?めっちゃ降ってる!
        すっげぃ!」 -- アトイ
      •  ティーポットとカップを乗せたお盆を頭に乗せて持ってきたアトイは、テンション上
        がって窓辺へダッシュ!お盆はミニドラが代わって頭に掲げて飛んで居たが、突然、ビ
        クッと痙攣して墜落したので、お盆は慌ててクレハがキャッチすることに。例の安心圏外距離
        に勢い余って出てしまったらしい。
         8m程離れたところで、ミニドラとアトイが、ひぃひぃ言いながら抱き合っていた。。
      • 「皆さん元気ですね……あ、美味しい…?」 -- しろこ
      • 窓に貼りつき大はしゃぎのアミロワナ、そしてアトイとミニドラを撫でるクレハ
        四人を見ながらしろこさんは口元を小さな笑みの形にし
        何気に運ばれてきたステーキの一片を口へと運び、驚きの言葉を口にした。。
      •  風邪っぴきにも躊躇なくアトイ達が、ステーキをお出しした理由がよく分かる、そんな
        不思議な肉である。
      • 「いいよねそれ、アトイちゃんが扱ってるんだって。うちの店にも卸してもらおうかしら」 -- くろこ
      •  言いながら、くろこさんはポットから湯気の立つ渋い赤色をしたお茶をカップに注ぐ。。
      • 「ええ…是非レギュラーメニューにしたいです……
        それに…他の料理も試してみたい……
        くろこの所に卸してもらえるならば…この店でも扱い易くなります……」 -- しろこ
      • 小さく切ったステーキをまた口へと運びながらしろこさんはコクリと頷いた。
        複数の店舗で纏め買いすれば原価率を下げ皆に安く料理を提供する事が出来る
        そんな事を考えながらしろこさんは紙ナフキンにペンを走らせる、どうやら新メニューの様だ。。
      • 「今夜は雪も止まないだろうし、明日また考えなさいな」 -- くろこ
      •  カップをしろこさんの方におきながらそう言って。。
      • 「…あ、そうですね…つい……」 -- しろこ
      • くろこさんの言葉に照れる様な表情を見せると置かれたカップを手にとり
        そして口元へと寄せればハーブの香りが心地良く鼻腔を刺激する
        アトイの持ってきた薬草入りのお茶だ
      • 「これは良い香りです……」 -- しろこ
      • そんな事を呟き窓へと視線をやれば
        降りしきる雪はますます強くなり、それは夜の冷え込みを予感させて
        それでもきっと村の人々は店へと足を運んでくれるのだろう
        雪にはしゃぐアミとロワナ、ケーキを突きはじめたアトイとクレハ
        そしてくろこ…皆が居れば今日はきっといつも以上のおもてなしが出来るだろう
        こんな雪の中でも多くの人達がやってくる、それは予感としてあり
        そんな事を思えば心はますます温かくなり
        しろこさんは手にしたカップから茶を啜り、また口を笑みにするのでした。。

    • しろこさんが風邪ひいた…了-- ▲【戻る】

雪がたくさん降ったので Edit


  •  空と地上とが、同じ色になっていた。灰色がかった厚い雲から真っ白な雪が降り続き、
    降りてくる間だけ姿を見せて、いつの間にか、鈍い白色をした地面のどこかへ消えていく。
     アトイとクレハの家の、縁側から見える山並みも村も白く埋もれて区別が付かず。雪
    の積もらない海だけが、濃い灰色をしている。
     吹雪いているわけではない、ただ後から後から、雪は止めどなく降りてくる
    • 「んふふ、どんどん積もって行くわね…♪」 -- クレハ
      • 縁側から足を延ばしていたクレハが雪を蹴った
        弾け飛んだ雪は前方へと飛び散り、そして再び白の中へと戻って行く
        蹴った事で抉れた雪面は、止まる事無く降る雪にすぐに隠される
        クレハの表情はとても楽しそうだ。語る言葉には笑みが混じり、垂れる髪も尻尾の様にふわふわと揺れる
        普通の人間にとっては寒さ震える日でも、クレハにとっては最高の日和なのだ。。
      • 「昨日からずっと降ってますからね」 -- アトイ
      •  開け放った戸の縦框に背を預けて、アトイが頷く。半分あぐら組んで、片足は縁側から
        外へ出している。素足だ、しかもいつものミニスカ和装で生足だ。その足の間に一升徳利を
        抱えて雪見酒と洒落こんでいる。杯を干した唇から漏れる吐息は盛大に白い。
      • 「なんだか故郷を思い出すわ……」 -- クレハ
      • 雪に足を浸しながら目を閉じるクレハ
        常人ならば凍傷を起こしそうであるが、極海の生まれであるクレハにとって心地良い冷たさなのだ
        アトイもまたクレハと同じ様にこの雪と寒さを満喫している様に見える
        そう、常人ならば見るだけで寒さに震えそうな格好だが、竜神であるアトイにとって凍結した海も溶岩の火山もスーパー銭湯の様な癒しの空間なのだ。。
      • 「クレハさんの実家ほんとに大雪原って感じでしたからね。おかーさんの所へは一昨年
        行ったっきりでしたか、なんだかんだと去年の暮れから忙しかったのでつい行きそびれて
        ましたねぇ」 -- アトイ
      •  雪の中をパタパタと飛んでいたミニドラが、クレハの膝の上に着地する。。
      • 「夏にママに来てもらったけれど…また近いうちに帰りたいかも……」 -- クレハ
      • 膝に着地したミニドラを仔猫の様に撫でながら小さく頷いた
        この村からクレハの故郷まで船と陸路で数日かかる程に遠いが
        ミニドラが巨大化すれば数時間とかからずに到着する事が出来る
        それゆえに若干ずぼらになっていた部分もあるのかもしれない。。
      • 「はい!お任せください!お正月にでも行きましょう!
        あ、クレハさんちの方だとクリスマスの方が家族で集まる感じですかね?」。 -- アトイ
      • 「うーん、家族でと言うより…一族で集まる感じかしら…?
        ブルーウォーターの一族は皆血縁者みたいなものだし……」 -- クレハ
      • クレハが語る様にブルーウォーターの一族は長老…ヴァイアを祖とする一族でもあり
        その血に連なる枝分かれの血縁者が多い事は容易に想像できて。。
      • 「一族大集合…というと集まる時はあの村の人全員集合って感じになるんですか。
        それはなんかお祭りみたいで楽しそうですね」 -- アトイ
      •  アトイさんはお祭り騒ぎが大好きである。。
      • 「ええ♪人がたーくさん集まるし…海の中でも大勢の人魚達が集まるのよ…?
        ……私はママの後ろに隠れている事が多かったけれど……」 -- クレハ
      • 恥ずかしい思い出もあるのか、照れ隠しに膝に乗ったミニドラが縦横に伸ばされている
        楽しいと同時に人見知りしていたクレハには大変なイベントでもあった様だ。。
      • 「小さい頃のクレハさんってばそういうの苦手そうでしたもんねへへへっ。クレハさんの
        お友達も可愛い子多かったですから、今度はぜひ行きましょう」 -- アトイ
      •  飲み干した盃を置くと、クレハの横に座ってもたれかかる。ほんのり上気した顔でちょ
        っとだらしないにへっとした顔しておる。
         雪はまだまだ降り続く、部屋の明かりは点けて居ないから雪あかりのある窓辺だけが
        黒い枠で切り取ったように白い。。
      • 「今はもう大丈夫…だと思うから……
        今度は堂々と参加して…って、アトイさんったら…すぐそれなんだからー……」 -- クレハ
      • 学園そしてアトイとの生活を経て対人関係には慣れて来た様だが、やはり若干の不安もあって
        それでも挑戦しようと言う気持ちが出るのは、やはり肝が据わって来た証拠なのだろう
        そしてアトイがだらしない顔を見せればミニドラでアトイをポコリ、ヌイグルミ扱いだこれ?
        二人のやりとりとは無関係に雪は止まる事無く、それどころか量が増えて来たような気さえする。。
      • 「えへへぇ。それにしても本当によく降りますね。初雪でいきなりこれとはなかなか極端です。
         アミロワちゃん達も、降りすぎで休校になってびっくりしたって言ってましたっけ」。 -- アトイ
      • 「学校や街の方はそうでも無かったのに、少し離れるだけでこんなにも違うのね……
        あー、流石にこの積もり方で子供の足にはね…二人共今日は遊びにも出れなさそうだわ……」 -- クレハ
      • 雪は既に膝下まで埋もれるほどに積もっている、除雪も無くこの中を登校せよと言うのは酷な話であろう。。
      • 「一行に止む気配もありませんからねー」 -- アトイ
      •  そう呑気に言いながら、アトイは徳利を持ち上げて。
      • 「ふむ、こんなに雪でみんな閉じこもっちゃってるなら、こっそり流氷でも持ってきち
        ゃいます?」 -- アトイ
      •  ほんのりと酔いが回ってるせいか、そんなことも言い出す。。
      • 「あ、いいかもしれないわね…?お祖父さん達が漁に出る時までに消せばいいし……」 -- クレハ
      • 酔ってはいないがノリノリで了承するクレハさん、久しぶりに見る大雪でテンション上がり気味なのかもしれない
        実際、アトイならばこの近海を流氷の海にし、そしてまた元の海に戻す事も可能だろう。。
      • 「ではそうしましょうか」 -- アトイ
      •  そうは言っても、アトイは、クレハの隣に侍ったまま立ち上がる様子も無く。杯を干す
        ともう一杯注いで左手で横に差し出した。それを、横に立っていた誰かが受け取る。
         アトイだ、瞬きで一瞬目を閉じる程の間に、アトイが2人に増えている。
      • 「それじゃ、ちょっと行ってきますよ」
        「はい行ってらっしゃい」 -- アトイ
      •  酒を飲み干したもうひとりのアトイが、雪の中を家のすぐ側の海へ向かって歩き出す。。
      • 「いってらっしゃい、大きめの氷がいいな……」 -- クレハ
      • 流石にもう慣れたもので、アトイが急に増えても驚かないクレハさん
        ミニドラを抱っこしたまま手を振る姿は、旦那を見送る奥さんの様でもあり。。
      • 「ふふっクレハさんがいつになくはしゃいでますねぃ。持ってくるのは日が暮れてからに
        なるので、先に夕飯にしませんかー?少しお腹が空いてきましたので」。 -- アトイ

  • 土鍋から湯気が立ち上る。掘り炬燵テーブルの中央にはカセットコンロが置かれその上に土鍋
    今日の晩ご飯は鍋、白菜豆腐白身魚に貝類等々、海の幸と山の幸をふんだんに使った鍋だ
    アトイとクレハにとって冬の寒さはむしろ心地良い物だが、雪の日ならばと言う事で鍋料理になったのだ
    • 「ん、もう煮えたわね…食べて大丈夫よ…♪」。。
      • 「待ってる間に本格的にお腹すきました!わーい!いただきまー……熱ッ!」 -- アトイ
      •  卓に乗っていたミニドラが、豆腐を口いっぱいに頬張った瞬間、横のアトイと一緒に口
        を押さえた。。
      • 「ああ…もう、お約束を忘れない…そんなアトイさんが好きよ」 -- クレハ
      • 豆腐の熱さに悶えるアトイとミニドラに苦笑しつつ、水の入ったコップを渡してやる
        凍結した海も溶岩の火山も平気なのに、なぜか熱々の豆腐やたこ焼きには負けると言う
        これまた愉快な話である。お約束と言う因果の成せる技なのだろうか?。。
      • 「んぐっ…ふぃーどうしても丸呑みする癖は抜けないのですよ」 -- アトイ
      •  冷水で事無きを得て、気を取り直して牡蠣を取る。養殖物で、養殖場はすぐ近所の採れ
        たてだ。大ぶりな身が口の中で破けると心地よい海の味がする。
      • 「あはーこっちはいい具合です」 -- アトイ
      • 「うん、ゆっくりと食べましょう…?では私も……」 -- クレハ
      • 鍋から取り上げた牡蠣をふーっと息で冷ましてから口へと運ぶ
        ぷりぷりとした食感は噛めばふわりと舌にのせればとろりと
        そして喉へはちゅるりと落ちて行く。まさに新鮮な食材ならではだ
      • 「はふぅ…♪、鍋にして正解だったわね……
        豆腐も少し冷ましてから食べると美味しいわよ…?」 -- クレハ
      • そう言ってふーっと息で冷ました豆腐をミニドラに食べさせてやる。。
      • 「はーい、あーんっ!いいですねぇえへへ。染みこんだおだしとクレハさんの隠し味で
        最高です!」 -- アトイ
      •  ミニドラが小さな口を大きく開いて豆腐を飲み込むと、アトイさんは牡蠣の時より蕩け
        たような顔をした。。
      • 「ありがと…♪ 嬉しいからもっと食べさせちゃう…♪」 -- クレハ
      • 口元を笑みにしながら言うと、今度は白子をふーふーとしてからミニドラの口へ
        自分が食べるよりも蕩けるアトイと
        ちゅるりと食材を飲みこむミニドラにテンションが上がるクレハさん。。
      • 「ぷはーそして白子とお酒の組み合わせも最高ですね!クレハさんも一杯どうですー?」 -- アトイ
      •  口が2つあるというのは便利なものだ、ミニドラで白子をもきゅもきゅしつつ、アトイ
        の方は盃を干して、徳利を持ち上げる。。
      • 「喜んでもらえてなによりだわ…♪ ええ、せっかくだし私もいただこうかしら…?」 -- クレハ
      • 飲む量こそアトイには負けるがクレハもまた飲める口であり
        雪景色に鍋と来たのならばここは飲むべきと、アトイの方へ盃を差し出し。。
      • 「はいどうぞー、ずっと私が抱えてたので完璧な人肌ですよ」 -- アトイ
      •  アトイがずっと徳利を抱えていたのは、自分の体温でお燗していたというわけだ。
        暖房はつけないから、冷蔵庫並に冷えるのだ。鍋の湯気が露天温泉のように湯気をあげる。。
      • 「アトイさんの温もりね、とっとっと…では、いただきます、んー…♪」 -- クレハ
      • 盃に酒がなみなみと注がれ、それを零さぬ様に口元へと運び一気に飲み干した
        舌を撫で喉をきゅっと引き締め身を熱くする様な感覚がたまらない。。
      • 「いい飲みっぷりですねぃ」 -- アトイ
      •  そう言いつつ、アトイも、もう一杯注いで一息に流し込む。くつくつと賑やかな音を立
        てる鍋は箸も杯も進んでしまう。。
      • 「ふふっ、アトイさんに鍛えられたもの?でも…飲み過ぎない様にしないといけないわね……
        せっかくの雪の夜だし、酔って寝てしまったら勿体ないわ……」 -- クレハ
      • やはりそう言いつつ杯を進めてしまうクレハさん、元々飲める体質だったのだろう
        さてさて、そんな風に飲んで食べればやがて鍋の中も空へと近づいて行き……。。
      • 「ん、そろそろきたかな」 -- アトイ
      •  お玉で鍋の底の方を浚っていたアトイが、後ろを振り返る。
         冬の短い陽は、いつ夕暮れであったかわからぬ間に夜となっていた。窓の外は真っ暗で
        部屋の明かりに照らされた雪が降っているのだけが見える。。
      • 「そろそろ…? あ、いつの間にか日が落ちていたのね……」 -- クレハ
      • 顔をほんのり朱に染めながらアトイの言葉に首を傾げ、そして同じ方向へと視線をやった
        夜の中、灯に照らされた雪達はその勢いを衰えさせる事無く降り続けている。。
      •  縁側に歩み寄ると、アトイは、からりと戸を開いた。少し風も出ているのか雪が一片
        二片足元に落ちてくる。
         戸を開けても、外は隣家の明かりすらおぼつかない闇である。電灯の明かりが届く庭
        の範囲だけが白く浮かび上がり。雪のすだれの向こうの真っ暗闇に、村の周りを囲う湾に
        立つ小さな灯台の明かりが蛍のように儚く浮かんでいた。
      • 「あ、やっぱり来たー」 -- アトイ
      •  しかし、アトイの目にはその闇の向こう側が見えてる。
      • 「クレハさん、沖の方に流氷来ましたから、食後の運動とでも行きましょうか。
         …それにしても、あれ月夜の晩だったら夜中に出会ったら翌日寺に駆け込むとか言われ
        ますね。自分ながら、なかなかセンス尖ったことしてます」。 -- アトイ
      • 「あ、来たのね…って、アトイさん流氷をもってきたのよね…?」 -- クレハ
      • クレハの目では闇の向こう側を見る事は出来ないが
        アトイの言葉を聞けば流氷がやって来た事を知り。そして、それがただの流氷ではない事を察した。。
      • 「まぁ行ってみればわかります。ふひっ」 -- アトイ
      •  アトイはにんまりとした。

  •  村を囲う湾の側まで氷山がくると。局地的に北極が出現したようになった。雪の降りし
    きる真っ黒な海面がにわかに煌めいて緑の光を発する。不知火の上にでも立ったかの
    ように辺をほんのりと照らしているのは海中の発光生物だ。

    • 「氷だけじゃなくて色々持って来ちゃったようですね私」 -- アトイ
      • 「名前分かんないけど、なんかほら面がおっさんっぽい一角獣とか。あと白くまとかも居ますよ私」 -- アトイ
      • 「おごふっ!」 -- アトイ
      •  自分の分身と話していたアトイの腹に無邪気な仔白くまのパンチが刺さる!
        ボーリングのピンめいてふっとんだアトイは、分身と激突して一人に戻った。。
      • 「お約束を忘れない…そんなアトイさんが好きよ……」 -- クレハ
      • ふっとぶアトイを視線で追いながら呟く様に告げて
        氷山へと視線を戻すとその山頂部を仰ぎ見た。なんか氷鳥系の何かが飛びまわっています?
      • 「生体系をまるっと持って来ちゃったみたいね…? 温かくなったら戻してあげましょ…♪」
      • また呟くと両手を広げ走って行くクレハさん。。
      •  ほんのりと緑色に染まる氷原は、バスケコートより広く大氷原の箱庭のようだ。
      • 「まぁ返す時はすぐ戻せますのでー……シロクマ(母)さん私は食べないでくださいよほ
        んと頼みます」 -- アトイ
      •  アトイはベロンベロンとシロクマに舐められまくる。
      • 「それはともかく、どうですかクレハさーんなかなかいいでしょう」。 -- アトイ
      • 「うん、最高…ひゃあー…!?あははっ楽しいー…♪」 -- クレハ
      • 走りまわっていたクレハがつるっと滑って転んだ、そしてそのままズザーっと滑っていなさる
        その後ろを雪見大福の様なアザラシの子供達が一緒に滑って行く。。
      • 「クレハさんめっちゃはしゃいでますねー!雪ますます強くなってますけど
        大丈夫ですかー?」。 -- アトイ
      • 「だって楽しいんだもの、だからこのくらい全然平気よー…♪」 -- クレハ
      • 今度はスケートをする様に両手と片足を上げたポーズ滑って行くクレハさん
        その後ろをさらに増えたアザラシの子供達が続く。どっから沸いてきました?
        とにかく、寒冷地人魚の血を引くクレハにとってこの位の雪は全く問題無い様だ。。
      • まるで子供のようなはしゃぎっぷりである。
      • 「ふふっ本当にクレハさんは雪と氷の海の人魚なのですね」 -- アトイ
      •  アトイが袖にたすき掛けすると、どっからとも無くスコップにツルハシにチェーンソー
        に大鎚小槌…いろんな工具が落ちてきて地面に突き立つ。
      • 「滑り台とか欲しいですよね、ゲストも多いのでどうせだからダンスホール風に改造して
        やりましょうかバーカウンターも必要ですね!」 -- アトイ
      •  アトイの横で、雪男が大量に酒瓶の入った風呂敷を抱えてサムズアップ。
      • 「よっしゃやるぞー!」 -- アトイ
      •  クレハを追ってアトイはかけ出した。


      •  赤い朝日が真っ白な氷原に反射してすごい眩しい。
      • 「お…あれ?いつの間にか朝に……」 -- アトイ
      •  頭の中に重たくアルコールの残留するのを感じながら、アトイは起きだして。
        イグルーの小さな出口をくぐり抜けた。
      • 「おー……?」 -- アトイ
      •  冷たい海風に前髪が揺らされる。
         朝日に照らされる氷山の上に、ダンスステージがあり、ウォータースライダーならぬア
        イススライダーと氷のピサの斜塔が大きな長い影を落としていた。
         横を見ると自由の女神氷像が猿の惑星めいて氷原から半身をつきだし、その下のバーでは、
        雪男とシロクマが酒瓶をだいてひっくり返っていた。
      • 「……」 -- アトイ
      •  アトイは側に落ちていた氷のジョッキを取ると、中で寝ていたペンギンを出して。
        キンッキンッに冷えたミネラルウォーターを注いで飲む。
         氷山ウォーターは体に染み渡る…。
      • 「…うにゅ……」 -- クレハ
      • アトイの視界の片隅で何かが動いた、毛玉の山だ
        アザラシの仔にシロクマの仔、そして白いカピパラの様な物が寄り集まって出来た毛玉の山
        その中央付近に金色の尻尾がぴこぴこと揺れている、見覚えのあるそれはクレハのポニテ
        どうやら色々な小動物に懐かれ遊んでいるうちにそのまま眠ってしまったようだ。。
      • 「おはようございますクレハさん」 -- アトイ
      •  もっふもふな白い山から、アザラシの仔をどかしてクレハの頭を掘り出す。。
      • 「ふぁぁぁ…? アトイさんおはようなのです…次はモアイがいいです……」 -- クレハ
      • 寝起きが悪いの相変わらずの様で、開ききらぬ目のまま頭をゆらゆら
        それでもクレハの言葉を聞けば昨晩アトイが酔いのままに色々やらかしたのが想像できる
        そんなクレハの頭に仔アザラシの一匹がよじよじと昇って来た…ご注文はあざらしですか?。。
      • 「カワイイなぁもう」 -- アトイ
      • カッシャーとスマホカメラのシャッターを切るアトイさんも寝癖などはねて居る。
      • 「それはそうとクレハさん、起きてくださーい」 -- アトイ
      • クレハさんを揺するアトイさん。。
      • 「うーあー揺らさないでー…とりあえず、お水を一杯……」 -- クレハ
      • アトイが揺すれば、揺れる頭にしがみつく仔あざらし
        そしてふわんふわん揺れるクレハさんのお胸、長周期振動。。
      • 「クレハさんも呑み過ぎとは珍しいですね」 -- アトイ
      •  懐から取り出した蛇口をその辺の氷の塊にぶっさすと、蛇口からキンッキンッに冷えた
        氷山ウォーターがほとばしる。
      • 「はい、どうぞ。ところで私昨日の最後らへんの記憶が吹っ飛んでるんですが…。
        クレハさんに雪もっと降らせてーってお願いされたのはおぼろげに覚えてるんですが…」 -- アトイ
      •  氷ジョッキを白いもふもふに埋もれたクレハに差し出す。。
      • 「ん、昨晩は楽しかったから…ありがと…♪」 -- クレハ
      • 普段はアトイを止めに回るクレハがこの有様、昨晩のお祭騒ぎの激しさがさらに想像出来る
        アトイから氷ジョッキを受け取ると、キンッキンッに冷えた氷山ウォーターを一気に飲み干した
      • 「むぃーいい冷え具合…♪ やっと目が覚めて来たわ……
        えっと、昨晩の事ね…正直、私も記憶が曖昧なのよ…踊って、なんか宴会芸をして……後、世界遺産がどうのとか…?」
      • 氷山ウォーター効果でやっと目が大きく開いたクレハさん。ついでに目覚めた小動物達ももふもふと動き始めた
        しかしそれでも記憶の曖昧さはアトイと同様で、語られる断片的な記憶はどれも繋がりと要領を得ない。。
      • 「宴会芸…花鳥風月がどうとか……んっ……んん?」 -- アトイ
      •  失われた記憶を求めてスマホを操作したアトイは、マッドでマックスなコスプレをして
        怒りのアイスロードを動物たちと疾走する自分達の写真を見て本気で首をひねった。
      • 「ま、まぁ…ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかなーって感じですね!
         いつの間にか知らないとこまで流れちゃったみたいですし」 -- アトイ
      •  アトイが向いた先には、南極の岬の如く真っ白で分厚い雪にすっぽり覆われた陸地だけ
        があり。見知った建物や地形の一つも見当たらない。見当たらないはずだが…。。
      • 「ま、まぁ…概ねいつも通りよね、うん…!
        そう言えばそうね…全部真っ白で……」 -- クレハ
      • 怪しい記憶の扉が開きかけたが今はこっちに置く
        ぐるりと周囲を見渡してもあるのは氷と海と遠くの真っ白な陸地のみ
      • 「太陽はあっちから昇ったから…南はあっちで…北はそっち…?
        …うん…? あの山…なんか見覚えあるような……」 -- クレハ
      • 太陽の位置を基準に指差し確認で方位を確認してみると
        北を指差した所でクレハの動きが止まった。確かに雪に覆われた陸地ではあるが
        朝日を浴びる山々の形には見覚えがあって……。。
      • 「…あれ、あの遠くに見えるのってアミロワちゃんのおじいちゃんの漁船では…」 -- アトイ
      • そしてアトイさんは見慣れた船を発見した。
         思い出す。クレハにお願いされたアトイはお願いされては仕方ないですねーと赤ら顔で
        応え、天候を操作して一昨日から降り続いていた雪を大増量したのだ。
         アトイとクレハは、別に漂流していたわけではなかった。ただ、雪に埋もれただけであ
        る。自分たちの家もご近所も港も畑も村ごと何もかも。
      • 「あ…っ」 -- アトイ
      •  色々思い出したアトイの顔色は、二日酔いも合わさって雪のごとく白くなった。
      • 「まってまってまって…じゃあ、私達の家は…?」 -- クレハ
      • 今度は山の位置を基準に建物の位置を確認し始めた
        白い丘の様なものは恐らく学校、少し手前にある白い丘は恐らくアミちゃんロワナちゃん達の家
        そして200mほど西にある白い丘が我が家…のはず
        ここから見える村の全てが真っ白の雪で覆われ埋もれていた。。
      • 「あの、その…えと……ちょっと片付けて来ますね!!」 -- アトイ
      •  白いを通り越して若干青ざめたアトイの背後、雪の中から起きだしたドラゴンが大きな
        影を雪原に落とす!
         アフロのヅラと、星条旗ビキニを着ているのはこのさい気にしない。。
      • 「あ…私も行くわ…! みんなまたね…?」 -- クレハ
      • アトイを追う様にクレハもアフロ星条旗ビキニドラゴンに飛び乗った
        そんな二人と一匹を名残惜しそうに見送る、仔アザラシ白熊の親子、雪男…その他のみなさん。。
      •  雪を巻き上げてドラゴンは飛び立ち。
         海辺の村のこの冬最初の雪は、規格外の大雪となり。そして、突発的な竜巻に雪のほと
        んどは吹き飛ばされてほとんど雪は残らなかったという。
         特に屋根の上に積もった雪が重点的に取り除かれ、竜巻の被害は皆無だったので。
        後々まで村人達の語り草になったのであった。




Last-modified: 2016-01-29 Fri 06:23:44 JST (1769d)