IG/0026

  • (丸い月が煌々と世界を照らし、冷たい光が降り注ぐ。しかし人工の明かりでライトアップされ、存在感を示す場所がある)
    (そこは夜の伊上パーク。従業員を含め、一般人の人払いは既に完了している。辺りに気配を消し潜むは血臥崎の血族)
    (獣の鳴き声一つ響かぬ静かな夜。一見、もはや何事も起こらず穏やか朝を迎えるのだろうと感じられるような、そんな夜)
    (知る者にとっては…そして、幾多の戦いをくぐり抜け、鋭敏なる感覚を備えた者にとっては、それを否定するモノが彼方から近づくのがわかる)
    (強い強い負の気配。まるで黒い月が世界に現れたかのような隠しもしない地を撫ぜるようなマイナスの圧力)
    (生きとし生けるもの全てを贄とし、嬲り、踏み躙る。その存在基底概念の欠片を振りまいて、虚飾の光へ誘われるように)
    (狂宴の夜は、まだ始まったばかり。朝までは、まだ、遠い)
    -- 啜る者 2020-06-03 (水) 21:14:57
    • (全てが黒く塗りつぶされていくような夜。月明かりなどものともしない圧倒的な害意が降り注ぐ中)
      (事が行われる前の狩場で必然的に訪れる静寂が、ある一角では何の遠慮呵責も無しに打ち破られていた)
      『今夜秘密のカジノにおいでよ♪ たまにゃ無謀な遊びに酔い痴れ♪』
      『堕ちていくような気分は慣れたら怖いよ♪ 癖になりそなエ・ク・ス・タ・シー♪』
      (恐怖の館の前で、夜闇に白髪を舞わせながら歌に興じている女は、憚ることなく伸び伸びと)
      (迫りくる負の気配を感じ取ってもなお、歌声が止むことはない)
      『ロ・シ・アン♪ ロシアン・ルーレット♪ 今すぐ心に白黒つーけてー♪』
      (ひゅるひゅると回転する鉄棹。闇夜に溶け込む黒い得物が、夜魔の髪を風圧で散らし、黒と白が闇に躍る) -- 夜魔霧子 2020-06-04 (木) 02:22:01
      • (強大な負の気配は、伊上パークへ近づけば雲が散るようにぶわりと広がる。それは、斃すべき怪異を月とするならば星)
        (瞳を赤く染め、獣臭を放ち唸り声を上げる狼、耳障りな鳴き声を立てる蝙蝠、そして…血を啜る存在へと変わってしまった、人)
        (大小様々な凶星が、音無き遊園地を取り囲み覆い尽くさんとする。そうして、黒い月は、ゆっくりと睥睨するように降りゆき)
        『…チッ、夜魔、聞こえるか!爺さんは誘導に成功したが奴も分かってやがった!眷属に下僕に全部全部勢揃いだ!
         糞、エルダー級まで混じってやがる!悪ぃが他からの支援はしばらく期待できねぇと思ってくれ、…死ぬなよ!』
        (作戦総指揮でもある総痍の声で通信が飛ぶ。その声には既に闘争の音が含まれている。男が雄叫びを上げた後通信は切れた)
        (そうして、偽りの恐怖を齎すホラーハウスへと、真なる恐怖を齎す存在がふわり、と舞い降りた)
        (ゴシック調のドレスを身にまとい、艶やかな長い金髪を風に揺らし、紅い紅い瞳を楽しそうに歪ませる、白い肌の少女の姿)
        (蝙蝠の翼を広げていたそれは、す、と翼を収め、闇に唄う女を視界に収めると、にこり、と微笑んで)
        あら…ロマンティックグレーのパートナーを追いかけて来てみれば、貴方も壁の花なのかしら。
        ひとりきりのダンスなんて寂しいものだわ。よろしければ、私と踊りましょうか?
        (満月の夜の住人。常人ならば見るだけで失神してもおかしくないような悍ましき圧力を発する存在が)
        (あどけない少女の姿で、優雅で気品あふれる動作でスカートの端をつまみ、軽くおじぎをして夜魔へと挨拶を)
        -- 啜る者 2020-06-04 (木) 21:27:23
      • 大小さまざまな闇の気配。四方八方に点在する昏い輝きを感じ取れば、通信の声に口笛を鳴らす。
        ゴミどもが雁首揃えて殺し間にやってくる。纏めて掃除の良い機会だ。
        三日月に引き結んだ唇が、哄笑を転がして通信に応える。
        「こっちの台詞だ」
        『……言い方! そちらこそ気を付けて、でしょ』
        総痍の通信と入れ違い様に、インカムからは九龍にいる相棒の声が流れてくる。

        会話を楽しむ暇も無く、現れた闇の住人へと視線を流す。
        両者の紅い瞳がぶつかり合えば、少女の微笑みに夜魔は唇を歪ませる。
        「袖にされて可愛そうだね。テメーみてぇな、ちんくしゃのガキが相手にされるかよ」
        私の様にセクシーな大人の女が好みなんだよ、と放言を続けて、鉄棹をくるくると回転させる。
        心地よい風切り音を周囲に残し、鉄棹の先がお辞儀をする少女に向けられると、夜魔の体から黒い霧がジワリと染み出す。
        「OK Let's dance」
        少女が放つプレッシャーに対峙するようにして、夜魔の紅い双眸がひときわ輝きを増した。
        その刹那、夜魔の姿が掻き消える。周囲の闇に溶け込むように、姿ばかりか気配も絶える。
        転瞬、少女の背後に音も無く人影が躍り出る。
        虚空から突如として現れ出づる夜魔は、手にした随心鉄棹で一直線に突きを繰り出す。
        神速で繰り出される刺突は、背後から少女の心臓を食い破らんと、音も無く放たれた。 -- 夜魔霧子 2020-06-05 (金) 01:14:40
      • うふふ…下品ね、貴方。でもそういうのも…嫌いじゃないわ(口元が緩むように結ばれる。その桜色の唇からは、二本の、白い牙)
        (そうして夜魔が舞踏に応じれば、くすくすと楽しそうに笑って…その白い白い、彼女にも負けぬ白い手を伸ばす)
        (それはダンスの相手の、手を取るように。恭しく…蠱惑的に差し出され、ふ、とその身をくるりと捻る。それはまさに、踊るように)
        随分と荒々しいテンポね。育ちが知れるわよ(彼女が姿も気配も消し去る、その寸前。女を前にしてなお、吸血鬼は既に背を向けようと)
        それに、そんなに物欲しそうにしていたら、笑われてしまうわ(笑みを崩さぬまま、突き出された棍へと小さく白い掌を添えて脇へ受け流す)
        (彼女の放つ殺気、それを読み取った吸血鬼は、先の先に近い動きをする。それは、とてもとてもよく知った心地よい風のようなもの)
        (そうして動きのまま更に身を捻る。受け流した手とは別のもう片方を、根を握る手を取るように。触れれば鋼鉄さえねじ切る、吸血鬼としての異常腕力を持って白い手が伸びる)
        -- 啜る者 2020-06-05 (金) 01:59:46
      • 事前に展開させていた霧から霧への瞬間移動。夜魔が不意打ちに用いたのは、高位吸血鬼が持つという『影渡り』に近しい。
        同じく夜の住人である吸血鬼にとり、力の流れも読みやすく、殺気が一つとなれば予測も容易い。
        「お生憎様、これが九龍流さ。殺しの舞まで自国基準か? 西洋人」
        根が受け流され、迫りくる白い魔手を見れば、少女の顎先を下から打ち抜く様に左足で蹴り上げを放つ。
        蹴りの勢いに乗せてバク宙をキメると、空中から鉄棹の三連撃を放つ。
        不安定な姿勢からは考えられぬ速度と重さで鉄棹は振るわれ、少女の頭を吹き飛ばさんと黒鉄が叩きこまれる。
        「……あー、あー、本命はこっちに来てますよー。どーぞ」
        一連の動作の最中、全員に聞こえるようオープンチャンネルでインカムに呼びかける。
        少女と相対する時とは打って変わり、実に暢気な声色で。 -- 夜魔霧子 2020-06-05 (金) 02:39:59
      • 九龍?もう、中華思想にも恐れ入るわね。本国から売り渡された身で天下が我に有りなんて考えが抜けきらないんだから。
        (伸び上がる左足は、すい、と小首を傾げて躱す。ビロードのような長い金髪が幾本か切れ、月光を受けて煌めき舞う)
        貴方、私に似てとても可愛らしいのだけど…お仕置きが必要ね(少女は既に、彼女の性質を己の同類に近いと見抜いている)
        (その魂の奥底まで覗くような紅い瞳が輝く。彼女の紅い瞳と、同じように。…動きが変わる。遊びのように踊る動きが、殺すための物に)
        (そして、中空から曲芸のように振るわれる棍は、一つ、ばちん、とドレス越しに分かる細い右腕を振るい叩きつけて弾く)
        (二つ、同じように左腕で受け止めれば、みしり、と少女の骨身が軋む。その重さに僅か瞠目するも、三つ)
        (両腕を防御に回し無防備に見える頭に、尋常ならざる鉄棍の逃れ得ぬ先端が迫る、が…)
        (ぶわ、と頭が瞬間的に割れた。それは變化。吸血鬼の下僕たる蝙蝠に身を変えて、即座に散る)
        (夜魔の棍はそのまま蝙蝠を何匹か打ち落ちし霧散させるも、少女にとっては爪を切った程度の痛痒にもならぬ)
        あはは、貴方は曲芸師なのかしら?さあ、もっともっと芸を見せて頂戴。
        (そのまま、散った蝙蝠たちが、弾丸のように夜魔へと飛ぶ。その間に少女は頭を再構成し楽しそうに笑っている)
        『……マジかよ!チッ、こっちも手が離せねぇ!遠慮は要らねぇ、ぶち殺してやんな!』
        (などと、物騒に電波に乗る、そんな声を知ってか知らずか、楽しそうに、楽しそうに)
        -- 啜る者 2020-06-05 (金) 03:09:29
      • 「ははは。我らが至上と思い上がる東西列国のバカどもが天上で綱引きしてる。それが九龍のクソッタレな現実だ」
        長く混乱の最中にある故郷の政治情勢を嘲笑いながら、夜魔の体から黒い霧がまた染み出てくる。
        飛来する蝙蝠に向けて誘うように手を翳し、黒い霧が指向性を持って瞬時に実体のある影を作り出す。
        「我がサーカス団を是非ご覧下さい。ワニ女もお見せしましょう」
        お気に入りの歌の一節を口ずさみ、黒霧で形成された影が大口を開ける様に割れて、蝙蝠に食らいつく。
        影鰐の(アギト)が捕食した蝙蝠をすり潰し、さらなる獲物を求めて、再生中の少女に大口を開けて襲い掛かる。
        「がんばれ♥ がんばれ♥」
        己が生み出した影の獣にか。あるいは通信先への誰かにか。
        電波には場違いなほど明るくふざけた応援の言葉が流れていく。 -- 夜魔霧子 2020-06-05 (金) 03:47:05
      • (蝙蝠が鰐に食われていく。それを…変わらず楽しそうに眺める少女。己に迫るも無造作に、がぶり、と治り切る前の頭を噛ませて)
        (がし、と両腕でその鰐の首を掴み万力のような力でねじ切る。牙の突き立てられた少女の顔の穴も、きき、と蝙蝠が蠢き埋めてしまう)
        ふふ、私の味はどうだった?少し取られてしまったけれど…素晴らしいわ。貴方も下僕を使うのね。もっと仲良くなりたくなってきたわ。
        ああ、貴方は血を飲むのかしら、心臓を喰らうのかしら、そしてお人形さんにして楽しむのかしら!
        (頭を完全に再生し、滑るようにして近づく少女。その一見、歩くような一歩一歩は影が伸びるように)
        (夜魔が先程行った霧の移動、それと似た性質の移動。影渡りと親しい、影跳びとでも言うべきような、異形の歩法)
        (周囲の影を利用し実質の距離を僅かに縮めるそれは闇の力を用いた縮地に近い)
        …貴方の味を教えて?(凄まじい速さで距離を詰めた少女は手を伸ばし女を狙う。その肉を抉るようにして、赤く伸びた爪を刃と成して)
        (もはや完全に夜魔を獲物と見定めたその紅い目はきらきらと輝いて。それは、高慢に、傲然に、そして、食欲に満ち満ちていて)
        『うっせぇ!気が散る!』(その直前に男の声。苛立たしげな内容とは裏腹に、声に続いて何かを振るった音は、より力強く)
        -- 啜る者 2020-06-05 (金) 04:19:29
      • 「ドブみてーな味だった」
        文字通り霧散していく影鰐を横目に、互いの写し身を通じて触れた闇の気。
        どこまでも堕ちていき飲み込まれそうな漆黒の塊。生者を汚し、同種を虜とする、深淵の魅惑。
        これは随心鉄棹が無ければ危なかった。
        内心で肝を冷やしながら、鉄棹を媒介として僅かばかりに吸った邪気を神気へと転ずる。
        「お前友達いないだろ? 私には友達必要ありません勘違い孤高系ぼっちオーラがヤベーから」
        同類と見られるのはご勘弁、と侮蔑の視線で舌を出し、途方もない速さで迫りくる怪物に身構える。
        突き出される凶暴な腕を、低く身構えた姿勢から振り上げた鉄棹で弾き上げ、手元で反転させた根の先端を少女の脾腹目掛けて突き入れる。
        「苦痛。恐怖。絶望。死。たっぷりと味わせてやる」
        と同時に、夜魔の影から滑るようにして現れる黒い霧。
        四方を取り囲むように展開された霧が、複数の鋭い錐へと変じていき、全方位から穿たんと少女に殺到する。 -- 夜魔霧子 2020-06-05 (金) 04:58:08
      • (少女を迎え撃つは精妙たるカウンター。力を増した棍は弾き上げる動作にもそれだけで、めきりと白く細い腕を軋ませて)
        (突進した勢いは止められず、続く棍の一撃は、腹を強かに打ちその衝撃は内蔵をかき回し破裂させるかのよう)
        んっ……(少女が一声呻く。膨大なる犠牲者の血を啜り上げた魔力を持ってしても、その盃は無限ではなく、再生に力も使う)
        (變化の間に合わぬ打たれた腹は捻じれ疼き、さしもの少女にも少々痛みを感じさせた、が)
        だから貴方に友達になってもらうのよ。私の選ばれた眷属として、永遠にね。
        (僅か歪んだ笑顔で、にこりと笑う。すぐさま現れた黒い錐は、腕を振るうようにして大量の蝙蝠を生み出す)
        (重なり壁となった蝙蝠に次々と突き立つ錐。しかしその幾つかは蝙蝠を貫通し少女へと突き立つが、棍の一撃ほどではなし)
        (食らうに任せて後ろへと強引に退く。そうしてホラーハウスの入り口まで下がり、その骸骨のオブジェに、が、と手をかけて)
        …それともミンチにしてあげてから肉人形にしてあげるのもいいわね(直径5mはありそうなそれを、夜魔へと投げる)
        (そうして内臓の再生までの時間を稼ぐべく、影跳びを持って距離を離しパーク中央へ向かう橋を渡っていく)
        -- 啜る者 2020-06-05 (金) 05:31:17
      • 「それ奴隷って言うんだよ? 友達いな過ぎて定義ガバっちゃったかな? オラッ! 死ね!」
        繰り出される錐が蝙蝠を散らし、距離を取った少女を逃すまいと、矢のように射出される。
        いくつかは残る蝙蝠に阻まれ、残存する錐も少女が投げつけてきた巨大なオブジョにあっけなく散らされる。
        「剛力招来!」
        随心鉄棹を握る手に力を込めて念じれば、流れ出る神気を妖力に変え、総身に力が漲る。
        投擲された大質量の物体を蹴り飛ばし、恐怖の館の壁面には巨大な骸骨が軋みを上げてめり込んだ。
        その間隙を衝いて遠ざかっていく気配を追撃すべく、夜魔は全力で駆けだす。

        「……目標はパーク中央に移動していまーす。追ってまーす。状況はいかがでしょーか?」
        まだ標的の少女は余力を残している。相手は真祖に比肩する最上位の吸血鬼。
        長年に渡って滅びを逃れ、狡知を秘める夜の住人が、どんな手を隠し持っているか分かったものではない。
        胸の内に焦燥を覚えながらも、追跡の足は加速を続け、パーク中央に繋がる橋を飛ぶようにして渡っていく。 -- 夜魔霧子 2020-06-05 (金) 06:11:05
      • 『全体として眷属共の七割の討滅を確認。未だ戦闘状況は続行中だが…ひとまず俺の担当区域は掃討した。今向かう!』
        (男の声が応える。走りながらの応答なのだろう、声が揺れている。そうして、パーク中央へと夜魔が向かえば…)

        (そこには闇夜にライトアップされた観覧車を見上げ、ふ、と細く笑う少女。それを背負うようにして夜魔へ向き直る)
        …残念ね。貴方となら友達になれると思っていたのに。私によく似て…とても強い貴方。
        貴方も夜に生きるモノでしょう。人の命を啜るモノでしょう。それが、人に手を貸し同族である私に歯向かう。
        (そこまで言えば初めて…悲しそうな顔な顔を浮かべる。それは失望でもあり、決別の表情。とてつもなく一方的なそれは傲慢さ故)
        名前を聞いておきましょうか。私はフランシス。…フランシス・ヴァーニー。
        (吸血鬼が真名を明かす、その意味。今より相争う相手に名乗るそれは、必殺の意思を告げる死刑宣告だ)
        よろしくね、そして…さようなら(右手を掲げる。観覧車へと突き上げるように。そして続けて…)
        (光が、生まれた。観覧車を照らし上げるそれは、暖かな陽光のよう。光を受けて放射線状に光を反射する観覧車は戯画的な太陽にも見え)
        (それは異能。少女が吸血鬼であってなお、陽光の元へ身を現せた理由。闇の住人ながらに偽りの陽光操る力持つデイウォーカー)
        (そうして光が収束する。振り下ろし掌を突き出したそこから、輝く一閃が夜を切り裂いて撃ち出された)
        -- 吸血鬼フランシス 2020-06-05 (金) 06:33:50
      • 「早くこねーと金髪ロリ吸血鬼のツラ拝めねーよ?」
        私が消しちまうからな、と嘯いて余裕を見せておくが、その胸中は穏やかならず。
        逸る心に鼓動は速まり、月が照らす闇の中で飛び交う影が、パーク中央に降り立つ。

        「御冗談。私が生きるは昼夜を問わず、人・魔・妖、隔てなく喰らい、敵味方は種族を問わず」
        人工の光輪を背に受ける欺瞞と虚飾に満ちた少女の姿に、決然とした瞳を向けて。
        「好きなヤツの味方をし、気に食わないヤツはブッ飛ばす。簡単な話さ」
        相対する吸血鬼の名乗りを受ければ、ひゅるひゅると風切り音を立てて随心鉄棹を構え直す。
        名を問われる。それは不安定で半端な存在の夜魔にとり、十全なる力を発揮する為の階梯となる。
        「さぁ御覧じ所! これは泡沫夢現雲散霧消! 悪鬼妖魔神(あっき・あやかし・まじん)を喰らう!! 陰陽両面 跳梁跋扈! 九龍が護法『久』也!!」
        そのものの本質である「力有る名」を認識することにより、外界の地にて妖魔神の類は飛躍的に力を増す。
        透徹した視線の輝きが、虚構の光を使役する吸血鬼を捉える。その眼差しと共に鉄棹が一直線に向けられる。
        「吸血悪鬼 滅殺乱討! 仮初の永劫に囚われしものよ! その身と魂魄、罪業と共に滅する!」
        夜闇を切り裂く虚の光。その軌道上に随心鉄棹の切っ先が違わず定められ、黒鉄が清浄なる気で覆われる。
        「随心鉄棹! 一閃ノ光!」
        光輝を宿す切っ先が、向かい来る虚光を打ち破り、一直線に吸血鬼へと伸びていく。
        伸縮自在。変幻自在。鉄棹に秘められたる力が、光に比肩する速さで悪鬼を討ち滅ぼさんと放たれる。 -- 2020-06-05 (金) 18:11:27
      • (彼女の力が増したのを感じる。本当に、本当に残念に思う。自身に迫りうるその圧倒的な存在の力、永遠の夜を生きる相手に相応しき力)
        (だが…だからこそ、同時に湧き上がる思いがある。渇望。吸血鬼における根源基底。彼女のその白い皮膚を食い破り、吸い尽くしたい。飲み尽くしたい)
        (並び立てぬのならいっそ全てを。この身の内に。きっとそれはとても芳しく……新たなる高みへと自身を登らせてくれるに違いない、と)
        …素晴らしいわ。素晴らしいわ素晴らしいわ素晴らしいわ!久!貴方を私にしてあげる!!
        (少女が、嗤った。光から影が生まれるように、少女の全身から闇が滲む。それは、抑えていた魔力を開放しその小さな身に収まりきらぬ余剰出力が生み出す現象)
        (久が伸ばした神鉄模した棍の先端が、異能の陽光を打ち破る。真なる光こそここに有りと光差すように伸びたそれは少女の二の腕を吹き飛ばし切り落とす)
        (ああ、今はしかしその痛みさえも心地よい。浄化された気によりバターのように少女の身を裂き、苛む痛みこそが心地よい)
        (恍惚の表情さえ浮かべながら腕を吹き飛ばされた勢いで後方へと小さな体が飛ぶ。あわや観覧車に激突かと思われるも、柱へと降り立ち)
        (落とされた腕を再生しつつ残った腕を振り上げた。煌めく光。虚飾の閃光は刃の如く伸びて、大上段に久を頭から真っ二つに切り落とさんと)
        (そして少女が微笑む。切り落とされた腕、それは気配を欺瞞しながら久の死角に飛んでいる。ほぼ同時に、腕のみのその掌が光を生み……)
        -- 吸血鬼フランシス 2020-06-05 (金) 20:06:25
      • (そこへ、走り込んでくる影。既に体の各所から血を流し、汗と混じらせて疾風のように現れるは夜魔のよく知る男)
        …後ろが、お留守だぜ!!(異能により隆起した血管を浮かべた頬を歪ませて、鋭い犬歯を見せて笑う)
        (バスタードソードのように長大に、幅広く變化している黒剣を突き出し、切り落とされた腕からの光線を受けて逸らす)
        (返す刀で腕へと黒剣を振るう。さすれば分たれた腕はひとたまりも無く霧散して、男は夜魔の元へと)
        へっ、悪ぃ、電車が遅延してて遅れたわ(などと軽口を叩く…血臥崎総痍の姿があった)
        -- 総痍 2020-06-05 (金) 20:06:50
      • 「貴方に私をあげる、だったら喜んでお引き受けさせて頂こう」
        到底叶うハズもない仮定を吐き捨て、深い闇から放たれる光に視線を走らす。
        「随心鉄棹! 流光ノ斬!」
        叫びに呼応した鉄棹が、一瞬でその姿を変ずる。
        流れる水のように波打つ随心鉄棹が、上段に振りかざされる閃光の刃に向けて、しなる鞭のように繰り出される。
        絡みつく鞭打が偽光の潮流を飲み込み、その光は宵闇に露と消えていく。
        先の一撃を見た上にしては、やけに単調で工夫が無いと訝しみつつも、柱の上に立つフランシスに意識は向けられ……。

        「色男。遅延証明書は貰ってきたか?」
        意識と五感の外にあった吸血鬼の不意打ちを、見事に迎撃した総痍に軽口を返して微笑む。
        これは不味かった。相手に飲まれかけているな。
        己の頬をびしゃりと打ち、総痍に向けて挑発するような瞳を向ける。
        「ついてこれるか? 上手く合わせろ」
        言うや否や、根の形に戻っていた随心鉄棹を凄まじい速度で、フランシスに投擲する。
        ほぼ同時に久の姿が闇に消え、一瞬で観覧車の一つに降り立つと、双眸を光らせて吸血鬼に躍りかかる。
        不安定な足場の中で、霧を纏わせた手足から、拳打蹴撃の嵐がフランシスに見舞われる。
        霧を纏うは相手に直接触れぬよう防御の狙い。相手に致命打を与えようという動きではなく、強引に隙を作り出そうと手足が振るわれる。 -- 2020-06-05 (金) 20:55:43
      • (少女の眉がぴくりと動く。新たなる闖入者を睨みつけてその紅い瞳が苛立たしげに細くなっていく)
        …乙女の睦み合いに茶々を入れるなんて、無粋にも程があるわ。貴男は要らない。肉の一片まで消し去ってあげる。
        (久に向けるのとは全く別種の蔑むような声色。冷たく響くそれは、鼠に呟くがように)
        (襲い来る久こそが我が最愛と、視線を戻した瞬間に奔る鉄棍。もはや安易には受けられぬのと大きく身を翻せば)
        (そこに雨霰の如くに降り注ぐ打撃の嵐。既に再生した腕を振るいながら弾き、その動きと合わせて蝙蝠を生む)
        (先程よりも強靭に生み出されたそれらは、しかして怪力乱神と化した久の拳の前には木板の如し)
        ふふ…情熱的ね!(愉悦の声色とともに術式が組まれる。それは氷の魔術。蝙蝠が氷の鎧纏い、彼女の拳を防ぎきらんと見え)
        -- 吸血鬼フランシス 2020-06-05 (金) 21:33:57
      • (既に男は走っていた。夜魔がついてこいと言った、ならばそれだけで充分だ。と)
        (吸血鬼からの迎撃など全く考えぬ走り、見るものが見ればただの猪武者にしか思えぬそれも、彼女ならばこそ)
        (柱を蹴りながら飛び上がり、一陣の風となって二人へと迫る。吸血鬼は夜魔の対処に精一杯だ、今ならば)
        てめぇは一人でおねんねしてな!!(黒剣を突き出すように前へ。狙うは心臓、その一点)
        (体ごと砲弾のように飛び込んで、一気に黒剣を奔らせ、突き込んだ、が)
        -- 総痍 2020-06-05 (金) 21:34:19
      • (人としての賢しさを残す少女は久の怒涛の連撃に違和感を覚える。明らかにそれは仕留めに来ていない)
        (つまりそれには狙いがある。その気付いた瞬間、視界の端に取るに足らぬ人間の姿)
        ……人ッ間ンン!(白い牙をぎりと、歯噛みする。そうして強引に久の打撃を振り払い、その腕へと超硬度を果たす氷を纏う)
        (刹那の間、ぎりぎりで二人のコンビネーションに割り込むことに成功した氷の腕は、男の黒剣を僅か逸らすことに成功したが)
        ぐふっ…!(心臓、そのすぐ脇に突き立った怪異を刃と成した異形の剣はかすかながら心の臓を傷つけた)
        (それは、吸血鬼の最大の弱点。もはやなりふり構わぬと全身から蝙蝠と氷の錐を撃ち出し更に観覧車を昇って逃げる)
        -- 吸血鬼フランシス 2020-06-05 (金) 21:34:36
      • 繰り出す打撃は音すらも置き去りにし、二人の超常の間には嵐のような暴風が吹き荒れる。
        きつい、きつい、きつい、きつい。
        歯を食いしばって氷の礫と化した数多の蝙蝠を打ち払い、吸血鬼に打撃を加えようと試みる。が、氷の鎧はフランシス手ずからによるもの。
        触れた先からこちらの魂まで凍りつかせようと侵食してくる闇の気が、随心鉄棹を手放した身には相当に応えている。
        地力ならばあちらが一枚上手。だがこちらには手札がもう一枚あるのだ、と不敵に笑う。
        「やったれソーイ!」
        限界に近い乱打戦でフランシスの圧が一瞬で膨れ上がる。
        均衡は崩れ、吸血鬼が力任せに振るった腕が、久の右腕を弾けさせる。
        肘から先が消失し、霧で傷口を修復しながら、吸血鬼の胸に突き立った黒剣をしかと見る。
        「……やったか!?」
        が、なおも膨れ上がる闇と魔力に舌打ちし、急いで霧を展開させる。
        フランシスと距離が近い総痍を庇うように身を躍らせて、迫りくる蝙蝠と氷の錐を己の拳足で撃ち落とす。
        足りない右手を補うように硬質化させた黒い霧を弾丸のように射出させ、雲霞の如く降り注ぐ飛来物を迎撃するも、氷錐の一本が久の脇腹に突き刺さる。
        ぐっと短く呻いて片膝を着き、突き刺さった錐を黒霧に侵食させて溶かしつつ、傍らの総痍に語りかける。
        「……先、行け。勝ち筋は用意している」
        フランシスが距離を取っていった上方を左手で指差し、弱々しく呟く。
        右手はまだ再生の途上にあり、肘から先は黒い霧で覆われ、脇腹からは血が流れ出している。
        そのか細い声とは裏腹に、瞳は闘志に紅く燃え、口元には微笑を散らしている。 -- 2020-06-06 (土) 00:11:25
      • (黒衣の少女が飛ぶ。観覧車の柱をへこませつつ、めきめきと軋むその構造など気にもしないと上へ、上へと)
        …なんなの!同族ならいざ知らず、人間が!人間がぁ!!(命に関わる傷を受けたからか少女には気品も優雅さも欠片ほどにも無くなっている)
        (纏う闇がぶわりと膨れ上がれば、そこから生まれるは、長い牙を備えた虎、獰猛な口腔を広げる熊、そして、獣の王たる、竜)
        (少女などひとのみにしてしまいそうな凶獣たちが、重力を無視するかのように観覧車に降り立ち二人へと立ちはだかる)
        -- 吸血鬼フランシス 2020-06-06 (土) 00:52:50
      • (手応えはあった、が、足りなかった。歯噛みしながらも少女を見上げる。隣には膝を付く…夜魔の姿)
        阿呆ゥ!余計な真似してんじゃねぇ!(叫ぶも、その声には心配の色。己の不覚を一瞬、悔やむも…)
        (彼女のか細い声。それは、そんなものなど必要としていない。それを理解し、ひとつ、頷く)
        …任せとけ。お先に行くぜ!(吠えると同時…長期戦を考えて抑えていた異能の出力を幾段階も上げる。ここが正念場と)
        (途端、男の生気が溢れ出す。今までの異能の出力ではありえないような強大な、正の気配)
        (全身から溢れ、木刀に吸われる血に…きらきらと白い輝きが混じりだした。それは夜闇の中、煌く星のように)
        (荼枳尼天法による高揚感が身を支配する。引き換えにそれは、使用後立ち上がるのも難しい程の消耗を強いるだろう)
        (だが、しかしここが正念場だ、豊穣なる血を吸い込み黒を通り越して闇そのものかのようになった深淵の剣を、構える)
        (妖木が怪異を喰らい討ち果たす力を今までの比ではない程に高め、握りしめて、夜魔から視線を外し、上を見上げて)
        (だんっ、と柱を蹴り、跳ねるどころではなく飛ぶがように吸血鬼を追う男。剣を振りかざし…)
        邪魔なんだよ!てめぇらは!(一閃にて下僕たる咆哮あげる虎を切り捨て、返す剣で豪腕を振るう熊を切り捨て、上方へと)
        -- 総痍 2020-06-06 (土) 00:53:11
      • 「ンフーフ。激した姿は可愛らしいじゃないかフランシス」
        軽口を刻む女の額に脂汗が滲む。闇から生じる凶獣たちに目を細め、傍らの怒声にふっと大きく息を吐く。
        「任せたよ。ソーイ」
        右腕の再生が終わり、調子を確かめる様に手を握りしめる。腹部の傷は再生途上。痛みを無視して立ち上がる。
        任せた、か。
        自身で紡いだその言葉に驚きを覚える。一人で戦い続けてきた女には、戦いの際に誰かに任せることなど、一度も無かった。
        存外心地の良いものだ。
        宵闇を照らす白い輝き。星彩を思わる命の輝き。形成された黒剣は見惚れるほどに深く美しい。
        その剣を振るう男の力強さに引っ張られるように、久の心が熱くざわめいた。
        「超力招来!」
        ぱんっと両手を打ち合わせ、総身から漲る力を糧に、鋭い視線が注ぐ先には翼をはためかせる竜。
        虎を斬り捨てる男を横目に、霧を渡る女は瞬時にして竜の背に飛び乗る。
        「剛力!」
        口元に獰猛な笑みを浮かべて竜の翼を掻き抱く。熱烈に。情熱的に。腕に籠る力が増す。
        「招来!」
        叫びと共に竜の翼は捥がれ、突き抜けるような蹴り足が竜の頭に見舞われる。
        羽ばたく力を失った竜は、観覧車の支柱にめり込んで、彼方の闇に消えていく。
        蹴り飛ばした反動で、一気に空を駆け上がると、一足先に標的を視界に収めて口笛を吹く。
        「飛竜乗雲! 騰蛇遊霧!」
        随心鉄棹を手放した身体に残る妖力を全て搔き集めて、フランシスの周囲に黒霧を展開させる。
        吸血鬼を取り囲むように出現した霧は、四方八方から殺気をまき散らし、今にも獲物に襲い掛かろうと硬質化した錐の先をちらつかせている。
        再生の暇は与えない。更なる奥の手を潜ませつつも、総痍の動きを注視して必殺の機を伺う。 -- 2020-06-06 (土) 01:36:07
      • (舌打ち。魔力を高め術式を即座に編み上げ、周囲を取り囲む錐には同量の氷の槍持て当たる)
        (一瞬にて氷の針鼠のようになった少女から撃ち出され次々と迎撃されていく黒霧による錐)
        (久の今ある妖力を注ぎ込んだそれを撃ち落とすは容易ではなく、削り取られるように魔力が減っていく)
        (しかし、胸の傷の再生は果たした。観覧車の最上部、戦いの余波で軋み所々が軋む構造の、円を描く登頂へ)
        (そこで追ってくる二人のヒトを、人の暖かさ無き冷たい目で見下ろし、見上げ、紅い目が輝きを強め、意思を決める)
        ……もう、いいわ。もうどうでもいい。もう何も要らない。友達も、贄も、人間も、何もかも!
        ぜんぶぜんぶ……消えちゃえ!!(子供のように、叫んだ。ともすれば、この少女の本質だったのかもしれない。そんな、駄々っ子のような叫び)
        (少女の手が中空へ掌を上にして差し出される。その手に輝く光。先程も見た異能の力による偽りの陽光だ)
        (それは一筋の光であったが……徐々に徐々に、光量が上がっていく。もはや直視も難しい程に溢れていけば)
        (掌から、その手に掴み取れそうな程の小さな白い光球が生まれた。それは、太陽。今は月の光となり反射するだけの、地球の裏側の存在)
        (蛇のような炎のプロミネンスや、ゴマ粒のような黒点さえも備えたそれは、異能による異形の太陽)
        (電飾による虚飾の光も、冷たき満月の光も、全てを呑み込むように怪しき陽光は埋め尽くし照らし上げる)
        『手のひらを太陽に』(Palm la soare)
        (そして、掌から脱出するように、偽りの太陽が撃ち出される。それは、超々高エネルギーの塊)
        (莫大な魔力と、膨大なる異能の出力によって生み出された、あらゆるをその果てしなき熱量で吹き飛ばす爆弾)
        (かつての己が主を、絶対であったはずの主を、その座から消し飛ばした異能の名を呟いた)
        -- 吸血鬼フランシス 2020-06-06 (土) 02:13:45
      • (嫌な予感がした。吸血鬼はまだ力を失ったわけではない。なのに追い詰められるように観覧車の上へと逃げるのは何故だ?)
        (長年の戦闘経験が、囁いた。"狙いやすくする"ためだ。と)
        (竜は夜魔が倒した、眷属も一族が掃討するだろう。ならばもはや残るは吸血鬼ただ一人)
        (後を省みる必要はもはやなし。観覧車の構造を歪ませて飛びながら、更に、更に、異能の出力を上げる)
        (戦いが終わった後の反動などもう考えない。全身から流れる血は、輝きを増す)
        (かすかに己の持つ深淵の剣に、赤黒い色と、白い色の何か糸のようなものが結ばれているのを幻視する)
        ………夜魔ァ!!!俺たちなら……勝てる!!!(叫んだ。己が頼りにしたその女に。彼女の肌のように白く、真昼のような、その、場所で)
        -- 総痍 2020-06-06 (土) 02:14:14
      • 少女の叫びが胸を打つ。その姿形も言動も全てが虚飾に塗れていた女の真実を初めて見た気がした。
        求め乞う、痛切な意が透けて見える裏返しの言葉を、振り払うように瞳を伏せる。
        再び瞳を開けば冷徹な紅い輝きが、標的を見定める。
        大技を前に動きを止めた吸血鬼。収斂する闇の力に、びりびりと肌が泡立つ。
        機は訪れた。怖気を飲み込み、フランシスに向けて手を翳す。
        「神殺・魔殺・妖殺・鬼殺──霊魂導手!」
        霧散していく黒霧の中から現れ出づるは随心鉄棹。
        その身を分かち、8つの黒鉄がフランシスを取り囲むように観覧車の登頂へと突き刺さる。
        随心鉄棹は変幻自在。所有者の分身ともいえる霧の中に潜ませる取り出すも容易。
        「陰の世界は豊都の獄 離と坎の一対は扉 剛化め封ずる八卦の象!」
        異形の太陽が生み出される最中、その周囲八方から随心鉄棹が光輝を放つ。
        少女の手から生ずる白光と並び立つように、8対の鉄棹が眩耀たる輝きを発する。
        「妖魔降伏蕩魔天尊!」
        少女の掌から疑似太陽が打ち出された瞬間、随心鉄棹から一際強い光が天に伸び、光の壁が形成される。
        その輝きは光輝燦爛。鉄棹に秘められた莫大な神気が解放され、光の奔流が虚ろなる太陽を包み込む。
        いかなる異能をも打ち消す不壊の兵装。その能力の真髄が、遺憾なく振るわれれば、純粋魔力の結晶すら泡と消える。
        「ソーイ! 勝つぞ!」
        一夜の相棒に力強く返して、追撃を促す。
        観覧車の最上部から光が消えた。偽りの光も、霊妙なる光も……その裏に潜む作られた闇も。
        最高位の対魔結界が全ての虚飾を取り払い、残るは吸血鬼の女ただ一人。 -- 2020-06-06 (土) 03:14:52
      • ああ…あ……ああ!!ああ!!!(己が生み出した太陽が、消える。消えてしまう)
        (どんなものだってこれで消してきた。ただの貧しい人間であった頃も、邪魔なものは消してきた)
        (神気放つ輝きが、お前はどこまでも偽りなのだと見せつけるように降り注いでくる)
        (差し伸べたままの手のひらが随心鉄棹の輝きに透ける。白い白いそこには流れない血潮)
        (もういつだったか細かくは思い出せない、主だった吸血鬼に噛まれた時から止まったままの、二度と動かない心臓)
        (私が悪いのか、必要だった物は奪い、必要でない物は消してきた。ただそれを繰り返しただけだ。一人で、たった一人きりで)
        あぁ……だから、ダメだったのかな…。……私は一度だって……分かち合い、与えなかった…。
        (一人の人と、一人の人のような者。自分を追い詰めた、二人を見つめ、どこか呆然としたように呟く)
        (己のほどんどの力を注ぎ込んだ太陽は、露と消えた。それでも最上位の吸血鬼たる体躯だけで十分に力はあった)
        (だけど。だけど、もう。どこまでも一人だった自分は、敵わない気がして)
        (罪を自覚した少女は、罰を受け入れるように己に迫る男を見た)
        -- 吸血鬼フランシス 2020-06-06 (土) 04:02:09
      • (神鉄作る八卦陣の光を受けて輝きを増し続ける流血。滝のように大量に溢れゆく。それは人間一人から流れるにはおかしいほどの)
        (その全てを吸い、飲み尽くし深淵の剣は変じていく。大振りな剣身は崩れるように小さく、元の…木刀のように)
        (童女のような声が辺りに響く。高らかに笑い蕩ける声、それはとても嬉しそうに、楽しそうに、この世の春かとはしゃぐように)
        (闇の気配はなおそのままに、悍ましき気配が入り交じる。それは…死。命あるもの、形あるもの全てに訪れる終わり)
        (大妖がその内に溜め込んだ数え切れぬ程の人の、怪異の、命の消えゆく概念を、強く結んだ縁を持ちて刃へと成す)
        (刃は、灰色に。滅びを具現化したかのようなそれは、触れるもの全てを滅し尽くす終焉の刃)
        (周囲の空間さえ僅かづつ滅ぼし、歪ませて見せるその刃を掲げ、構え、光消えた闇の中を、男は奔る)
        (灰は灰に、塵は塵に、土は土に。終わりを告げる刃を振りかざし、吸血鬼へ、人ならぬ人、血を啜る者へ)
        …本当の眠りを、くれてやる(刃を、突いた。黒衣纏うその小さく薄い胸へと)
        (その、生あらず鼓動せず、しかして嘘の人生を永遠に孤独に紡ぎ続ける、哀しき心臓へと)
        (それは当たり違わず心臓を貫いて、滅びの概念がその胸の内を一瞬でことごとく崩していく)
        (断末魔の声さえ滅ぼしたかのように声もなく吸血鬼は、灰にも、塵にも、土にもなれずその一欠片さえ溶けるように消えた)

        (男が、刃を突き出したままの姿勢で、固まっている。灰の刃は徐々に色を変え、黒へ、赤黒へと戻って)
        (そうしてばたりとゴンドラの屋根の上へ倒れる。時を同じくして…めきめきめき、と観覧車から嫌な音が鳴り響いた)
        (もはや耐えきれないとばかりに轟々と音立て倒れゆく観覧車。男の身は血に濡れて滑るようにゴンドラの屋根から落ちていく)
        -- 総痍 2020-06-06 (土) 04:04:03
      • 事が全て終わろうとする間際。その最後に零した少女の言葉に、女は自身の陰を見た。
        あの少女はかつての私だ。喰らうことしか知らず、周囲に流されるまま命を吸い続けてきた愚かな黒社会の飼い犬。
        その言葉がもっと前に聞けていたならば。
        振るわれる灰色の刃が少女に吸い込まれていく中、もう決して訪れることのない夢想を浮かべ、訪れる滅びに目を見開く。
        全ては遅きに失した。仮定になど意味はない。己に出来る事は少女の最期をしかと心に刻むだけだ。
        終焉の刃が齎す滅びは、その少女の痕跡一つすら残さず、辺りに残るは激戦の余韻のみ。

        その言葉がもっと前に聞けていたならば。
        私は君を守るために他の全てを敵に回していたのかもしれない。

        「……やれやれ。人が造りし輪廻の揺り籠も滅びの時だ」
        崩壊の予兆をそこかしこで表している観覧車。同じところをひたすら回り続ける永遠の寓意。
        ゴンドラに倒れた男を担いで、漆黒の空へと躍り出る中、崩壊していく観覧車の登頂部に視線を投げる。
        「そして仮初の永久も終わる。皮肉だねフランシス」
        二つの永劫が滅びを迎える。
        そんな感傷を胸に抱いて静かに地に降り立つ夜魔は、インカムの周波数を合わせて呼びかける。
        「標的を無事討滅した御宅のソーイ君、グースカ寝てます。どーぞ」
        お姫様抱っこで抱きかかえている男の頬を、ぴしりぴしりと軽く平手で打ちながら、その口元に微笑を湛え。
        「私だって疲れてるんだぞ。今すぐ眠りたいくらいに」 -- 夜魔霧子 2020-06-07 (日) 03:27:53
      • (夢を見ていたように思う。背中合わせで誰かと戦う夢だ。夢の中の自分は強敵に立ち向かい傷だらけになっている)
        (今にも膝を付きそうな程なのだが、不思議と倒れる気はしない。きっと、背中の誰かのおかげなのだと思う)
        (小学四年生のあの時に、木刀を取ってから、ずっとここまで突っ走ってきた)
        (戦って、戦って、戦った。後悔はしていないが、違う道があったのではないかと思うことはある)
        (でも、その背中を思うと、やはり己の走ってきた道が、己の道だったのだと思えた)
        (任せられる背中がある、振り向く必要もなく前を見つめられる。それはなんて…素晴らしい)

        ………いてーけども(頬を打つ感触に、朧気だった意識が急速に戻った。見上げれば、月。丸い丸い、輝かしい満月)
        (身をを苛むような偽りの陽光ではない、火照った体を冷やし、包んでくれるように、冷たくて白い、心休まる光)
        (その中に、微笑み。紅い瞳が、こちらを見ている。自分がどんな格好でいるか気付いて、少し恥ずかしくなった)
        (ああ、でも。よかった。彼女も無事であった。そのことに心から安堵した)
        …そいつはご苦労さん。俺も全く同感だ。駅前にホテルが取ってある。シケ込んで熱いシャワーといこうや。
        (くつくつと、くつくつと楽しそうに笑う。それだけで体が痛むも、この痛みこそが自分なのだと思う)
        (そして痛む腕を伸ばして、彼女の手を取った。それは暖かく…血の通った、生きる者の手)
        ……本当にありがとう。あんたのおかげだよ。先輩。
        (万感の感謝を込めて呟いた。心地よい夜風が吹く、異能の陽光でかき回された空気が、霧を生む)
        (そうして、二人の姿はもやの中に消えていき…血の饗宴は終わりを告げた)

        (きっと、自分は戦い続ける。息絶えるその時までずっと)
        (だけども、一人ではないのだろう。誰かと肩を並べ、誰かの前に立ち、誰かに背を任せて戦うのだろう)
        (そうなのであれば、孤独に立ち続けるだけではないのであれば)
        (満身創痍なのだろうと、戦える)
        -- 総痍 2020-06-07 (日) 19:08:32
  • (稲穂県伊上市…暖かな陽光に照らされる街には一見、変わった様子はない)
    (どこかの店で異能が暴発して窓ガラスが全て吹き飛んだやら、どこぞの怪異が川の色を一時だけ七色にしただとか)
    (そんな良くある、それでいて何事もない穏やかで騒がしい町並みに見えた。一見、は)
    (しかしそのありふれた輝きの下、どうしても生まれてしまう暗がりに、確かに何かが蠢いているのだ)
    (その闇に潜む何かは、この街で今もなお、その牙を突き立てる相手を求めている)
    (一滴の雫が生み出したさざなみのような異変は、幾つかの円を生み出し、ひっそりと広がって)
    (例えばそれは、来院する貧血を訴える患者の増加。例年の統計に照らし合わせたその増加数は一割にも満たぬ)
    (例えばそれは、路地で出会った臆病であるはずの鼠が逃げなかったこと。たまたま変わり者の鼠もいるだろう)
    (例えばそれは、……大きな麦わら帽子を被った、病的なまでに白い肌の、微笑む少女)
    -- 2020-05-07 (木) 22:07:09
    • (強い日差しの元、町を徘徊するのは仕事着の黒いサマースーツに身を包む『探し屋』だ)
      (普段と変わらぬ町並みを、茫洋とした表情で眺める姿は普段と変わらない様子に見える)
      (しかし、現状の彼の気配は普段のそれとは違う、気を張った様相だ。彼は今『怪異』を探しているからだ)
      (その彼の閉じた瞳の前に、一見変わらぬ様子の、だが、それとは違う異様な光景が写る)
      (自分の目の前に立って、微笑む少女。それはいい…問題はその病的なまでに白い肌と、自分を見ても気味悪がらない様子)
      (そして何より少女から感じる普通ではない気配を『探し屋』の感が感じ取っていた)
      …君、大丈夫?(と、声をかけたのは、心配ではなく探りだ) -- 2020-05-07 (木) 23:19:21
      • (ふわりと、どこか現し世にその身を置かぬような儚げな動きで、黒のシンプルなワンピースを纏った少女は首をかしげる)
        (陽光を跳ね返し煌めく金色の長い髪は、その動作で揺らめいて宙に遊び、それ自体が舞う光そのもののように)
        …あら?私がそんなに大丈夫じゃないように見えるのかしら?(くすり、くすり、とおかしげに少女は笑う)
        ええ、大丈夫と言えば大丈夫だし、大丈夫じゃないと言えば大丈夫ではないのだけど……(また、細い首を傾ける。その首筋は、白く、白く)
        私などよりも…あなたの方が大丈夫ではないのではなくて?…ねぇ、あなた…まるでここに居ないみたいだわ。
        (じ、と血のように赤い瞳が彼を見据える。その瞳には魅了の力などは込められてはいない、それなのに、彼の閉じた瞼のその奥を覗き込むように)
        -- 啜る者 2020-05-07 (木) 23:37:44
      • (常日頃から茫洋とした様子の男は笑う少女ににこやかに笑い返す)
        …あはは、お若いのに凄い洞察力…(実際の所少女の見た目に意味などないのだが、ぼんやりとそう返す)
        (赤い瞳に見つめられ微妙に首を傾げる)…ん?ここに居ない男に随分熱い視線を送るんだね
        (覗き込まれた本人は怪しい視線を気にする様子もなく。どころか少女の首を掴んで持ち上げようと手を伸ばす) -- 2020-05-07 (木) 23:50:06
      • ふふ…お褒め頂きありがとう、でも女の子に年の話はいただけないわ。もしかしたら私はあなたよりずっと年上かもしれないのだしね?
        (くすり、くすり、と微笑む。少女の歳は見た所13〜14歳と言ったところか。長いまつげを瞬かせて、歩み寄る彼をその赤い目で見守る)
        …ええ、私、面白い子は好きだもの。どこにでも居るようななんでもない子も好きだし、つまらない子もそれはそれで好きだけど、ね。
        (少女は動かない。こちらへ延びた手にも反応せず、させるがままに首を掴ませた。少女の体重は見た目のままだ、持ち上げようとすれば容易だろう)
        特に……こうやって会ったばかりの女性にすぐに素敵なチョーカーをプレゼントしてくれるような子はね。
        (首を掴まれたまま…少女は微笑む。くすり、くすり、と。楽しそうに、楽しそうに)
        -- 啜る者 2020-05-08 (金) 00:04:54
      • (投げかけられる言葉をすべて無視してそのまま少女を持ち上げ、マジマジと首筋を調べる)
        ふむ…見た所、首筋に傷跡は無いな…『犠牲者』じゃなくて『僕』か『仲間』か…。ねぇ、君のご主人はどこにいるの?
        (事情を知らないものが見たら警察に通報しかねない事を平然と行いつつ、少女を釣った状態のままで『探し屋』は質問を投げかける) -- 2020-05-08 (金) 00:13:34
      • あら…残念。そうやって強引なのも嫌いじゃないのだけれど。口説き文句としては赤点をつけざるを得ないわね。
        (紅を引いたように真っ赤な薄い唇を、不満そうに結びながら釣られたまま、彼の手にゆっくりと自らの手を伸ばす)
        (同じく赤い爪を備えたその細く細く、白い指先で見下ろしていた暁のサマースーツの腕を掴み…)
        はあ……そうなるのね。そろそろかとは思ってたけれど…思ってたより早かったわ。
        (握りしめんとする。その力、万力の如し。巨大な工作機械を思わせるような握力は、分厚い鋼鉄さえ即座にへし曲げるような握力を持ち)
        …私の主人は、遠い遠い海の果て。古いお城で眠っているわ。人を縛り付けるのが好きな人でね…飽きたから眠ってもらったの。永遠に。
        -- 啜る者 2020-05-08 (金) 00:30:33
      • (万力の如き力はそのまま正しく少女を掴んだ腕をへし折り、彼女を地面に戻した)
        (自分の折れ曲がった腕を一瞥して、「不味ったかな。『当たり』を引いちゃったかも」と内心眉を寄せる、依頼の内容は逃げられないよう気を付ける事だったからだ)
        (痛みの様相が全くないのは、彼が特殊な体質なせいだが)あ〜そうなの?ごめんごめん、もしかして人違いかも(と、腕が折れた状態でなんとも間の抜けたカバーをしようとする) -- 2020-05-08 (金) 00:41:19
      • (すとん、と少女が地面に降り立つ。ふわ、と帽子が、ワンピースの裾が、髪が浮かんで揺れて)
        人違いなんて野暮なこと言わないで、面白い人。私を探しに来たのでしょう?嬉しいわ。
        (全く痛みを感じて居ない様子を見て興味を引かれたのか、今度は自分から身を寄せる)
        (つ、と滑るように。重力を感じさせない動き。遊ぶようにくるりと一回転すれば、麦わら帽子を上げて…)
        (その赤い瞳を、流れるように周囲の人並みに向ける。瞳は紅く妖しく輝いて…魅了の視線で、"これはなんでも無いのだ"と思わせる)
        あなたの主人は…市営怪異対策部隊かしら、それとも欧州から追ってきたヴァンパイア・ハンター?
        それとも…ふふ、血臥崎のと言ってたわね、この間のおじいちゃんかしらね(舞うように彼の無事なもう片方の手を取ろうとする)
        (それはまるで、ワルツを踊るパートナーの手を取る、しとやかな淑女のように)
        -- 啜る者 2020-05-08 (金) 01:18:32
      • 僕の主人は僕自身だよ…(眠たげに短く息を吐く)
        (なんとも仕方がなさそうな動作で手を伸ばし、白蝋のごとき少女の繊手を手に取り)
        …それで?次はキスでもしてくれるのかな?(言いつつ、緩やかに顔を近づけ) -- 2020-05-08 (金) 22:18:40
      • いいえ…踊りましょう。軽やかに、そして激しく(近づいた顔の、彼の唇にそっと指を当てれば)
        (掴んだ手に力が籠もる……先程男が少女を持ち上げたのとはとても比較にならないような勢いで、持ち上げ…いや、引っこ抜き、そのまま地面へと叩きつけんと)
        (何も抵抗が無ければ、そのまま男の体は何度も何度も、同じように叩きつけられるだろう。周囲の人影はそれを異常だとも思わない)
        -- 啜る者 2020-05-08 (金) 22:34:00
      • (通常の人間の何十倍と言われるほどの膂力を誇る吸血鬼の力をまともに振るわれ、抵抗もできず地面に叩きつけられる)
        (そしてそのまま何度となく振り上げ、打ちおろされ、また振り上げられる)
        (その光景は人形を振り回す幼い少女のよう、魅了された周囲の人々にはまさしくその通りに写ったのかもしれない)
        (しかし、振るわれているのは人形ではなく、人。体中の骨という骨が折れる音がこだまし、周囲に反響する)
        (ひとしきり遊び疲れた子供のように少女の動きが止まれば、かつて人間だったものは、見るも無残なぼろ雑巾と化していた) -- 2020-05-08 (金) 23:24:30
      • (どずん、と店先に敷き詰められた石畳のタイルが割れる)
        (どずん、と太陽の熱を吸収して柔らかくなったアスファルトがひしゃげる)
        (何度も、何度も低く鈍い音がして辺りには地面の揺れさえ伝わり、通行人もそれに脚を取られそうになるも小石に躓いたようにしか思っていない)
        あら…いけない。踊りすぎてしまったかしら。いけないわ、久しぶりすぎて楽しくなってしまって。ごめんなさいね。
        (くすり、くすりと微笑めば、爽やかなサマースーツを散々な様にして倒れ伏した彼に向かって、中空に手を差し伸べて)
        それでは次はディナータイムよ。そうしてお互いをよく知った私達に貴方はひざまずくの、キスは…その時にね。
        (空に差し出された手が、突如ほつれる。その腕が千々に乱れたかと思えば…それは何匹もの何匹もの蝙蝠へと變化した)
        (そうして倒れ伏した彼を蝙蝠たちは脚で掴み、羽ばたかせて強制的に立たせる。磔のようになった彼に少女はそっと近づく)
        ああ…面白い人。どこか儚い貴方は…きっと、わたあめのような味がするのでしょうね。
        (嬉しそうに赤い唇を開き、口を開ける。その暗い暗い口内には鋭く白く長い牙が映え…彼の首筋にそれを埋めようと)
        -- 啜る者 2020-05-08 (金) 23:49:33
      • (吸血鬼に負けず劣らずの病的なまでに白い首筋、そこにブツリと付きたてられた少女の姿を持った吸血鬼の乱杭歯)
        (血を啜る音が聞こえてきそうな光景だが、彼女の口の流れ込んでくるのは血潮などではなく『夢』)
        (『眠り男』の体内にはそれが満たされているのか、口内に虹色の液体とも気体ともつかないそれが溢れて来る)
        (それに触れたものは、ぼやけて、透け、やがてはそれと同じく『夢』となってこの世界から消えてしまうだろう、ましてや飲み込みなどしたら) -- 2020-05-09 (土) 00:30:16
      • (身長差のある彼に、少しだけ背伸びして無抵抗な彼の首元にすっと顔を埋める)
        (それはそこだけを切り取れば仲睦まじい恋人同士の、他愛もない愛情を交わすやりとりに見えたろう)
        (だが、魅了されていない何かが見るならば、蝙蝠に磔にされたボロボロの男が異質な少女に捕食される様だ)
        (ぷつ、と彼の白い肌に尖った牙を突き立て、そこから溢れるものへと舌を差し出す)
        (それはとても不思議で恍惚で溶けてふっと消えてしまいそうな────)

        (とさ、と軽い音を立てて少女が仰向けに倒れた)
        (その首から上は、存在しない。麦わら帽子も艶めいた金髪も赤い瞳も白い牙も、何もかもが、存在しない)
        (断面から血を垂れ流し、黒いワンピースを纏った細く白い少女の体はぴくりとも動かない)
        (本体の異常に連動したのか蝙蝠は消え、霧散していく。陽光は全てをつまびらかに照らし出している)
        -- 啜る者 2020-05-09 (土) 00:48:26
      • (何時間が経ったのか、陽が傾き始め夕方に差し掛かろうという時合に打ち捨てられたぼろ布だった物がヨロヨロと起き上がる)
        (暁 春だ。ボロボロになった衣服はそのまま、眠たそうな顔で周囲を見回す姿は、何時もと変わった様子が無い)
        (傷つけられた箇所は跡形もなく消えている。『眠り男』とはそういった類のものなのだろう)
        あちゃ…(隣に横たわる少女の首なし死体を見つけのんびりとその言葉を口にした)
        …流石にこれで滅びる類の物じゃないだろうけど…逃げない保証がないなぁ…どう釈明しようかな
        (首から上は逃げ延び生存していると判断して「困りましたね」と頭を掻きつつ立ち上がり、一応証拠品足りえる遺体を調査しはじめる) -- 2020-05-09 (土) 01:07:40
      • (時が過ぎ、男が起き上がる。その間も少女の首なしの体はぴくりとも動かない)
        (本当に、ぴくりとも。彼がその間に体を観察していれば気づいたかもしれない、あまりにも、時が止まったように動かない)
        (それは風にそよいで良いはずのワンピースの裾が止まったように…いや、止まっているのだ)
        (そして体からは奇妙なことに彼が先程、感じ取っていた異質である気配が全く感じられない)
        (しかしそれは…彼が調査のために触れた瞬間に、動き始める。まるで時を巻き戻したかのように、ぎゅるり、と)
        (流れ出したはずの首からの血は体へ戻り、バネで弾いたようにして体が突然中空に跳ね、そのまま回転して後方へと飛ぶ)
        (ある地点で直立した姿でびたり、と止まれば…首元から蝙蝠が湧き上がり、先程まであった少女の頭と全く同じものとなる)
        ……お遊びが過ぎたわ。まさか凍結まで使うことになるなんて。…本当に面白い人ね。
        (それは危機的状況になった際を想定し、一時的に自らの一切の疑似生命反応、魔力反応、異存在反応を止める特殊な魔術)
        (今まで5年間もの間、入念な追跡を逃れ切った理由の一つであり…擬態の一つ)
        (その顔にもはや笑みはない。格下だと思っていた相手に自身の存在の一割弱を消し飛ばされたのだ)
        …貴方、名前を聞かせてもらってもよろしいかしら?
        (ましてや、暗がりの奥深くに設えた棺ではなくこのような往来で回復のためにも擬態までしなければならなかった屈辱)
        (紡がれた問いは、遊びではない。彼を明確に脅威として認識したが故のそれだった)
        -- 啜る者 2020-05-09 (土) 04:47:53
      • 凍結…へぇ(凄いものを見たな、という表情)
        ん?ん〜…(本来ならば目標である『怪異』相手に名前を名乗る無駄をしたりはしないが)
        (現状の彼にとって脅威なのは、目の前の少女より自分の依頼をこなせない事だった、だから答えた)
        田中太郎です(にっこり微笑む。『探し屋』と知られないようにしているつもりだが、間の抜けた回答だ -- 2020-05-10 (日) 00:08:28
      • (形のいい眉を上げて真紅の目を細める。訝しげに彼を見つめるも…僅かに微笑みを漏らし)
        田中太郎…ね、新大陸風に言えばジョン・ドゥとでも呼べばいいのかしら?
        (流石に人の間で長年潜伏を続けていた怪異だ、そのふざけた名前の意味などすぐに察したが)
        いいわ、覚えておいてあげる。貴方のその名と、この世に二つとない奇妙な味をね。
        なら私は……そうね、ドラキュラとでも名乗っておきましょうか。
        (少しは余裕を取り戻したのか、楽しそうにそう名乗る。無論、真の名などではない)
        (彼程の底の読めない相手に自ら高い危険を犯すほど、もはや彼を侮ってはいないゆえに)
        でも…そうね。丁度いいわ、一つ教えてあげる、面白い人。…私は、私に屈辱を与えた者を許さない。
        私の主人だった者、私に短くとも不愉快な眠りを与えた血臥崎の老人、……そして、貴方。
        そう遠くないうちに、この地で教えてあげるわ、貴方達は所詮…私に捧げられる贄でしかないことに。
        (くすり、くすりと微笑む。その笑みは…今までで一番、楽しそうに、嬉しそうに)
        -- 啜る者 2020-05-10 (日) 01:42:36
      • ドラキュラねぇ…カーミラって答えた方がしっくりきそうだけど(「実の所男?」と首を捻り)
        そっか、じゃあ僕の事追いかけてくれるの?…嬉しいなぁ(笑って返す。この言葉の真意は女性に追いかけられる事に対してではなく、追いかけられる限りは標的が逃げる事は無いという事実に対してだ)
        (だから笑っている。彼はどこまでも依頼の事を考えていた)
        うん、楽しみに待ってるよ。今度は歓迎の準備もしておくから、必ず来てよエリザベート
        (目の前の少女を伝説の女吸血鬼のモデルとなった人物の名前で呼び、同じように笑い返した)
        じゃ、今日はもう行くね?歓迎の準備しなきゃいけないから(そう言って無防備に背中を向けるとその場を立ち去ろうと歩き出す) -- 2020-05-10 (日) 02:15:03
      • あら嫌だわ。カーミラは好みじゃないの、あんな弱々しい女は私には相応しくないわ。
        (頬に手をあて冗談めかして微笑み言う。傍目に見れば、気さくに談笑する男女に見えるだろう。その実はとても歪なものでも)
        (そうして彼が背中を向けるも…それには特に反応せず、静かに見守り、見送る)
        ああ、でもブラッド・バスは無くてもいいわ、そんな勿体ないことをするなら、全て飲み干したいから。
        その変わりに……情熱的に、お願いしたいわね。熱く熱く燃え上がるような愛を込めて…!
        (うっとりと、恍惚な表情をその白い白い肌に浮かべて、自分自身の細い身を抱きしめるようにして言う)
        また会いましょう。面白い人。今度は貴方の"中身"を全て全て…消し尽くしてあげるわ。
        (そう呟き、静かに黒いワンピースのスカートを左右に開いて優雅なカーテシーを)
        (俯かせた麦わら帽子が上る前に……少女の姿は、彼女自身の影の中にとぷん、と沈み…その影も石畳の隙間へと消え去った)
        -- 啜る者 2020-05-10 (日) 02:56:50
  • -- 2020-05-07 (木) 21:29:43
  • (どこかの部屋が映っている。少し斜めになっている映像。その部屋は整然としており、物自体が少ない印象を受ける生活感のない部屋だ)
    (そこに、女性の手が映り込む。所々に絆創膏が貼られているが、すらりと伸びた指先、赤く塗られたマニュキュアは扇情感を煽るもの)
    ……これで撮影できているのかな。何度もやり直すのは手間だが…撮れていないならば練習として考えればいいだろう。
    (ぐっ、と映像が曲がる。そうして映り込むのはさらりとした黒髪をストレートボブに伸ばし、その手には紫煙を漂わせる紙巻き煙草)
    (視点が少し下がれば白衣をきっちりと着込んだ黒シャツの上へ纏い、赤い赤い紅を引いたどこか退廃的な雰囲気を思わせる女性の姿だ)
    さて、恐らく大多数の方たちにはお初にお目にかかると思われる。市立矢間岡高校の臨時養護教諭を務める血臥崎彩禍だ。
    逆にこの動画のリンク元のサイトではお馴染みではあるのだが…あそこは私が管理運営しているからね。記名式ではないからやはりこれがお初になるだろう。
    このような形態で情報を届けるのはウチでは初の試みだ。昨今の動画サイトの隆盛は知らなくもなかったんだが、やはりああいうのは若い子のものだろう、と考えていてね。
    …しかしねぇ、可愛い我が甥にそれでは時代に置いていかれる、今どきはTVに出るような芸能人だって配信をやる時代だと諭されてね。
    こうして遅ればせながら時代へ追いつこうと試みている次第さ(そこまで言って、煙草を咥える。ちりちりと葉が燃え、先端が赤くなる)
    (気だるそうに白い煙を細く長く吐く)……いずれは配信なぞにも手を出すかもしれないが、年寄りの冷水になるといけない。様子を見てぼちぼちやらせてもらうとしよう。
    (くつくつと、知るものが見れば何処かの男子高校生によく似た風に忍び笑い、とんとん、と画面外で煙草の灰を落とす仕草をする)
    -- 血臥崎彩禍 2020-05-28 (木) 23:12:08
    • では…記念すべき初回は怪異の直接情報ではないが、近頃広まっているある話についてだ。
      それこそは、『黒い色は幸運を呼び、持っていれば運気を招く』。そんな話を諸君らはどこかで耳にしたことはないだろうか?
      なに、知らなければ知らないでいいのだ、なら私の話を聞き、そうでなくとも知人や友人に聞いてみるといい。
      古来より、色というものに人は在る種の印象、イメージを抱いている。
      分かりやすい所でいえば白は清潔で神聖、赤はめでたく、情熱的……人は個々人で度合いが違うとは言え、
      それらの色を見れば人間なら誰しもが皆そういう印象を覚える………ということは"無い"。

      例えばだが、同じ白で言っても白は不吉を表し死を連想させるというベトナムのような例もあるし、
      赤は世界的に要警戒のシンボルであったり、先の世界大戦においては万人が平等と主張する某国を象徴する色でもあった。
      ここまで言えば理知的なる諸君らは分かっただろう。結局は色に対する印象は、その文化に左右される部分が大きい。
      ふふ…我が国では何故か…ピンクが性的興奮をそそる。なんていった風にね。ちなみにこれは他の国ではほぼ当てはまらない。
      私個人ならば…やはり真っ赤な、血のような赤なのだが…(ここで僅か恍惚な表情を浮かべるも、煙草の火が消えていることに気づけば、また一本咥え、火をつける)

      一応、浅学ながら私の専門として色彩の生理的作用についても述べさせてもらうが、
      今の所は、例えば赤色には血圧収縮と拡張を促し体温を高め、唾液分泌量を増加し心臓の脈動促進、血圧上昇を促すことが実験で確認されている。
      ただし、その実験でも生理的影響については個人差が大きくどの項目においても有意差が認められた項目は少なく、
      個々の時間経過による結果も不安定で顕著な影響は認められず、あくまでもその傾向がある、という程度の域を出ない結果となっている。
      …それに、先も言ったようにこの実験は被実験体の文化的影響を切り離せていない(んー、と呟きながら奈良女子大学、などと書かれた手元の資料を眺め)

      つまるところ…敢えて語弊を押し通して言うならば色そのものが何をもたらすかというのは結局のところ後付なんだ。
      だからこそ、それは充分に情報が広がれば変わりうる。変わってしまう。
      さてここまでが前フリだ。そうなると怪異狩りの諸君、もしくはそれに連なる怪異という存在に興味を抱くような諸兄には思い当たることがあるのではないだろうか?
      そう、我々は、"情報が、現実を変えうることを知っている"。つまりは前述たる情報が広まることを知っていれば"利用ができる"。
      (にやり、と薄く笑い、カメラへと空いた手を広げて扇動するように、大仰に腕をゆっくりと振るう)
      どうか、積極的に動画を見てくれた視聴者は、この話を広めてほしい。そして、各々が得手とする獲物を黒色に塗るなり、
      装備を黒色で統一するなりをするといい。それはきっと諸君らを助ける。規模に差こそあるかもしれないが、なあに、恐らく今より悪くなることはない。
      もしそうなったならばぜひコメントをしてくれ。それは上書きされ塗られる新鮮な認識よりも、移りゆく文化がぼんやりと規定した印象の方が強くあるということだ。
      それはそれで興味深い事象であるし、発生したならばその追跡調査も行いたい。それなりの報酬は約束しよう。

      と、いうことで今回の動画は血臥崎流の今週のラッキーカラーのお知らせとなる。ま、今週ではなく来月になるかもしれないが、
      そしてそれは…もしかしたらずっと続くのかもしれないが……またそれも、とても面白い題材だ(煙草を咥え、紫煙を吐きつつ腕を組む)

      ……そう言えば、風水的には黒色は水の気に属し運気を取り込み留め、金運を高め、自身の格をも高める効果があるとされている。
      これも遥かな古代中国から、その十数億人もの人たちに信じられ実行され伝えられていたことだが……もしかすれば、この"噂"は、既に実行済みなのかもしれないぞ?
      (楽しそうに笑って……カメラへと手を伸ばす。がた、と画面が揺れて黒いYシャツ越しの豊かな胸に迫って…真っ黒になった) -- 血臥崎彩禍 2020-05-28 (木) 23:12:47

Last-modified: 2020-06-07 Sun 19:08:32 JST (1421d)