あるところにとても強くて恐ろしい黒の魔術師がいました
幸せというものをいままで感じたことがない黒の魔術師は
ある時とても優しくて温かな娘に出会いました
娘の純な心に触れた黒の魔術師は、初めて愛を知り、そして愛に跪きました
結婚式を明日に控えた日、娘は死にました
絶望の闇に沈んだ黒の魔術師は
愛を憎み、愛を捨てました
黒の館 †
ガブリエル>名簿/黒の魔術師
修正
黒の魔術師 †
- ガブリエル・ブラック
- 闇の魔法を極めた稀代の大魔術師
過去に力のまま暴虐を振るっていたが、マゼンタという娘に恋をして人の心を持った
結婚式を迎えることなくマゼンタが死に、その心は深い闇の淵にたゆたう
だが、その心にはまだ、わずかに温かなものが
- 全身真っ黒の服とマント 大きな蝙蝠のような印象を与える立ち姿
- 黒髪は腰まで
- 死人のように輝きを失っている黒い瞳
- 剣のような杖
- 長身
- CV中田譲治
- 意外と若い
- 街の外れある一面黒塗りの館に居を構える
- 養成校教師
黒の記憶 †
始まりはある雪の降る冬の日の事
路地裏に佇む一人の花売り娘
冬に花など売れるはずも無く、凍える手を今日もさする
そこへ通りかかる一人の貴族
欲ばかりが深い恥知らず
「なんと美しい娘だ、私のものにおなり」
娘は拒んだ
「私が売っているものは花だけなのです」
貴族は怒りで顔を真っ赤に染め上げた
「ならば腕ずくでさらうまで」
そこにやってきたのは影と見まごうばかりの黒い男
上から下まで黒尽くめ
愛や温もりなどには縁がない
悪名高き大魔法使い
その日は特に機嫌が悪かった
自慢の髭を毟り取られ、一目散に逃げていく哀れな貴族
娘は黒の魔術師に礼を言う
「助けていただいたご恩は忘れません お礼に花を差し上げます」
「礼など不要 花などいらぬ」
そう吐き捨てて去っていった
† † †
次の日、娘は黒の魔術師の屋敷を訪れた
受けた恩は返さねばならぬ
「花などいらぬ、消えうせろ」
差し出された一輪の花を投げ捨てて、黒の魔術師は恐ろしい声でそういった
けれども娘は次の日もやってきた なんど追い払ってもやってきた
差し出しては捨て、差し出しては捨てのくりかえし
季節は廻り、何度目かの春が来て、ついに根負けした黒の魔術師
初めて花を受け取ると、この上ない笑顔を娘は見せた
その笑顔は、魔術師の心の氷を溶かしていった
さらにいくつかの春が過ぎたある日の事
黒の魔術師は娘に花を一輪差し出し、愛を打ち明けた
娘は微笑み、愛を受け止めた
† † †
結婚式の前の日に、娘は街へと出かけた
その日は風が強かった
少女は買ってもらったばかりの帽子を拾おうとしただけだった
御者は一刻も早く主を迎えに行かなければならなかった
魔術師がたどり着くと、娘は道に体を投げ出し、目を閉じていた
名を呼んでも目を覚まさなかった
胸に抱いても、頬に手を寄せても、娘は目を覚まさなかった
獣の声を上げ、魔術師は喚いた
泣き方は知らなかった
涙の代わりにただ叫んだ
雲から差し込む太陽をかきむしるように両手を伸ばし
この世を創った者に向かって叫んだ
「そこにいるのか」
「そこから私を哂っているのか」
「これで貴様は気が済んだのか」
「貴様には絞めてやれる首があるのか」
「奪うのなら、何故与えた!」
声が枯れても、拳が割れても、そう叫んでいた
娘の名はマゼンタ
魔術師の名は
ガブリエル・ブラック
闇を覗く †