リンドバーグ家出身 エリア・リンドバーグ 261695 †
Helia Lindbergh ( G.E.99 - 121 ) †
修正 差分
それから †
その日も、屋敷は常と変わらぬ静謐と喧騒につつまれていた
使用人が一人欠けた程度では何一つとして変わりはしない、そもそも消えた使用人とてそうあれかしと望んでいたはずだ
冒険者かぶれの素人が遭難することはこの地方ではさほど珍しくもなく、やがて職務規定にしたがい「故人」の私室も整理された
秘密めいていた私生活も何のことはなく、遺品は全てかき集めても鞄一つに収まる程度しか見当たらなかったらしい
そうして、風変わりな女中の物語はあまりにあっけない幕引きを迎えた
・・・
退室していくメイドへ鷹揚な仕草で謝意を表しつつ、仕事机に放り出したままの新聞に視線を落とす
私の悩みの種、と言っては失礼…いや、私にはその権利があるはずの「あのお方」が中央に戻られて一週間が過ぎた
お堅いはずの『デイリー・パラダイム』紙、その一面に大書されたセンセーショナルな見出しにあやうく珈琲を吹きそうになる
東洋のインチキ魔術に溺れて失踪していた爺様がずっと若返った姿で現れたんだ、世間様が騒ぐのも無理はないか
珈琲は久方ぶりのブラックだ これからは私の胃も順調に回復していくだろうし、胃薬に別れを告げる日もそう遠くはあるまい
それも全て、これからはあのお方が後ろ盾になって下さると思えば悪くない投資だった
まあ綺麗どころのメイドが一人いなくなってしまったのは少々、心残りではあるのだが……
…っと、い、いかん、不用意に思い出した所為でまた胃が…!
・・・
男がよろめきながら出て行き、人気の無くなった部屋にしんとした静寂が戻る
小春日和の陽射しを浴び、紙上にプリントされた白黒写真の人物は微笑んでいる様にも見えた