ロックハート家出身 テッド 365120 †
依頼に失敗し、這這の体で住処の廃倉庫に辿り着いた時、テッドを待っていたのは 束の間の休息ではなく、長らく捜し求めていた敵の存在だった。 テッドの乗るゴーレムより一回り程大きいそれは、正しくアーキテクトの残した手紙に記された、兄弟機その物であった。 6〜7m程もある巨躯のゴーレムで旅をする冒険者……目立たぬ訳が無い。 ゴーレム乗りの噂を聞き付けた兄弟機の乗者… 今では一国の王と成り果てたその男は、機を駆って、自らゴーレム討伐へと赴いたのだ。 兄弟機は、幾許かの砲兵を引き連れて廃倉庫を封鎖し、待ち伏せていたが テッドのゴーレムを見るや、一斉に砲を撃ち放ち、辺りを砲煙で黒く霞ませた。 仇の姿を見咎めたテッドは、砲撃の豪雨の中、背に負っていた得物を抜き放ち、損害も構わずに駆ける。 誇り高く、健やかなる運命は、ついに我がものにあらず。 我ならず望み、我ならず望みを失いね。 砲兵を蹴散らし、兄弟機たる巨躯のゴーレムと幾度か打ち合うテッド。 しかして、機の性能か、はたまた経験の差か、或いはその両方か。 碌に傷を負わせる事叶わず、ストラティO.T.Sは膝を折った。 頼みの綱であった魔力開放時の姿でさえ、魔力備蓄量の少なさから、兄弟機から片腕をもぎ取るが精々であった。 「やはりこのゴーレムは素晴らしいな。同型相手でさえ引けを取らぬ。 向こうであの女に伝えておけ。この功績は賞賛に値すると」 隻腕でありながら、易々と身の丈を越す巨剣を担ぎ、ゆっくりとテッドの機へと歩み寄る。 万事休す。もはやテッドに打つ手など無かった。 いいや、本当に無かったか? ふと、絶望の淵で、他に打つ手があった事を思い出す。 全ては、アーキテクトの手紙に記されていた。 「もしトロル型を倒す事が不可能であるならば、せめてこの機だけでも破壊してくれる事を望む。 機内にて操作を行い、動力の魔力炉を暴走させれば、数分後に機の半身は粉々に砕けちるだろう」 テッドの手は、慌しく座席の両脇、そしてその後ろを弄った。 不意に、弄る指先に、何かの出っ張りが触れる。指でなぞれば、それが文字である事が分かった。 emeth 確かに、そう掘り込まれている。 指先は、文字を辿って、頭文字のeの上へと滑り、そこで止まった。 き、と機内正面に映し出される外の光景を見やり、機を見計らう。 兄弟機は、相変わらずのらりくらりと、ゆっくり近付いて来る。 正に王者の風格だ。 もう、皆には会えないんだろうな……。 相手が十分な距離に近付くのを待ちながら、不意にそんな思いが脳裏を過ぎる。 けど、お前と一緒なら良い気がするよ。 テッドは一人、寂しげに微笑んで、酷使し尽されたゴーレムを労わる様に、操縦桿を撫で付けた。 程なく、兄弟機は、ストラティO.T.Sの目の前へと達した。 「……自分で伝えなよ、王様!」 eの上に宛がった指に力を入れ、その文字を押し込む。 eの字は、そのままスイッチになっていて、ごり、と音を立てて奥へと捻じ込まれた。 躊躇わず、弦を鳴らし 悲しみを歌え。 運命の強き一撃は、力ある者をすらうち砕くが故に。 激震と衝撃音、そして魔力放出によるオーロラは、その夜、ゴールデンロア地方のあらゆる地で観測できたと言う。 かくて、アーキテクトの願いは達せられた。
街外れの廃倉庫跡 †
&color(#7a4546){ }; 最新の3件を表示しています。 コメントページを参照 ゴーレムについて †
??? †
記憶 †何処かの倉庫なのか、或いは獣を囲う牢なのか。 ノイズ混じりに映し出される白黒の景色の中、一組の男女の言い争いが聞える。 「先に通達した通りだ。その「兵卒型」は廃棄しろ。今は件の新型に注力すれば良い」 「ですが…」 「木偶人形は一機で良いと言っている。もし他国にでも流出したら、貴様、どうするつもりだ? この力を持つのは我が国だけで良い。従えぬのなら、貴様も廃棄するまでだがな」 言葉を吐き捨て、男はその牢を後にする。 後に残されるは、二人の言い争いを見ている何者かと、ローブ姿の女…。 「…全く、分かっておらんな、あの男…」 男が出て行った後、女は一人ごちる。 「目先の力ばかりに捕らわれ、成長する事を放棄している…愚かしい事だ。 …兵卒とは進歩する物だ。力を蓄え、十人長、百人長…やがては一軍を率いる将軍にすらなりうる。 …なぁ?」 女は見据える何者かに振り返り、口元に薄い笑みを浮かべた。 映像は一度ノイズに侵食され、途切れる。 次に再び視界が戻った時、其処は先程とは全く別の光景…。 今度は、先程のローブ姿の女に見下ろされていた。 「…こんな所に置き去りにする事…許してくれ」 視界が徐々に狭まって行く。今度はノイズによる侵食では無く…土が被せられているのだ。 「お前程の巨躯を連れて、あの男から逃げ果せるのは容易ではない。 一度この鉱山に埋めておくが…必ず、何時か掘り出してやる。今は…許せ」 やがて視界は土砂で埋まり、再び暗黒の中へと落ちる。 次に映し出された映像は、どうやら最初の傍観者の視線では無い様だった。 高い位置から、あのローブの女を見下ろしている。 女の周りには、幾人もの鉱夫の死体…そしてその向こうには、燃え上がる鉱山街が望める。 「さて…我が国から機密を盗み出した咎、此処で注いで貰おうか」 高い視線から女を見下ろし、さも楽しげに言葉を紡ぐは、あの男の声だ。 「…どの道、「トロル型」が完成し次第、処分するつもりだったのだろうが」 怒気を込めた女の声。男はその声に、一層調子を良くしたらしく、高らかに言い放つ。 「最期に良い仕事をしたな。素晴らしい力だ…街一つ滅ぼすに、傷一つ負わぬ。 この機を造り上げた事のみを誇りに、逝くが良い」 男の声と共に、長大な剣が振り上げられ…やがて女の頭上に振り下ろされた。 映像は再び最初の傍観者へと戻る。どうやら先程とは少しばかり時間が前の様だ。 土砂で覆われ、埋もれていた視界に、徐々に、徐々に光が戻って行く。 やがて眼前の土砂が取り払われた時、其処に写るは、土で薄汚れた少年の姿だった。 「…んぇ?」 鶴嘴で掘り起こす作業の手を休め、ぐいと傍観者に顔を近付ける。 「おっちゃん! 何か凄ぇのが出たー!」 やがて頓狂な声を上げ、共に作業していた鉱夫達の元へと駆けて行く…。 映像はまた其処で途切れた。いや…記録を始めたのだ。 掘り起こした者との、新たな記録を。
このゴーレム、ストラティO.T.Sを見付けた者へ。 この手紙を紐解く時、私は恐らく既にこの世に居ないだろう。 私はある国の要請によって、二機のゴーレムを造り上げた。一機はこのストラティO.T.S。 もう一機は、この機の兄弟と言うべきゴーレム、トロル型だ。 ゴーレムを設計させた男は、その力を使い、王権を奪い、隣国を併合する事を目論んでいる。 私は計らずとも、その陰謀に加担してしまった訳だ。 恐らくはこの手紙が読まれている頃には達成されている事だろう。 その事自体に対しては、然したる罪悪感も無い。だが、唯一つ、心残りが有る。 この二機のゴーレムの事だ。これ程の力、やはり人が持つべきではない。 力は何れ道を誤らせる。この二機を造らせた男の様に。 この手紙を読む者に、一つ頼みがある。既に死したる者の戯言だ。勿論強制するつもりは無い。 頼みとは、件のトロル型を破壊する事だ。先も書いたが、やはり人の手に有るべきでは無いだろう。 しかし、トロル型は、O.T.Sとは桁違いの力を持つ。このままでは勝ち目は無い。 望みがあるとすれば、O.T.Sの成長能力だ。 この機に乗り続けているならば分かるだろうが、O.T.Sは、経験の蓄積によって、自らを常時最適化して行く。 この機能で十分に経験を蓄えれば、何れはトロル型すら凌駕する事が可能だろう。 更に望みをもう一つ。O.T.Sの追加兵装だ。これは私が各地に赴き隠蔽した。 隠蔽した装備の幾つかを捜す間に、O.T.Sは十分な経験を蓄積できる筈だ。 先程も書いたが、これは強制ではない。 だが、もしトロル型に挑むとするならば、心してくれ。 恐らく、トロル型に搭乗するのはあの男…既に王権を奪っているであろう、一国の国王だ。 王を殺す事がどれ程の大罪か、想像に難くない筈だ。 それでも挑むと言うならば、草葉の陰から幸運を祈ろう。 もしトロル型を倒す事が不可能であるならば、せめてこの機だけでも破壊してくれる事を望む。 機内にて操作を行い、動力の魔力炉を暴走させれば、数分後に機の半身は粉々に砕けちるだろう。 これも強制ではない…心ある者が、この機を見付けてくれた事を祈る。
ゴーレムに宿る何か † |