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悦楽を只享受した第二の生は、狂戦士の爪により終演を見る 主との繋がりを断たれた使い魔に、魔力を生み出す術は無い。 殺戮を繰り返し、外部から取り込むのも『らしく』ないと彼は思った。 ならば、最後も自分らしく迎えよう。 人と変わらぬ身になっても尚、戦場を探し歩み出す。 本来交じり得ない刃を交え、紡ぎ得ない言葉を紡ぎ、残し得ない何かを残す。 幕引きを終えた彼の心魂には、只々蒼穹が広がっていた。
英霊とは、民草に語れ継がれたり、伝承として名を残したり、そういった概念が具現化したものである。 彼は現在から見て、比較的新しい時代の人間であったが、英霊として成立するのは更に100年も後のこと。 民話として周辺諸国にて人気を博すことになる彼だが、その実、存外ちっぽけな人間であった。 名家の出と大衆が羨むほどの出自ではあれど、若かりし頃はその重圧に苛まれ、運命を呪う日も少なくなかったという。 兵士の間で語り草になるほどの武術など、必要にかられて身に付けた物であって、天賦の才とは断じて違うものである。 平民に生まれたならば、精々コックか考古学者。それも儲からない類の、路傍の石と評していいほどの凡人だっただろう。 事実、幼少期の彼の周りには、何もかもがあったが、彼自身には語るべき物など何もなかった。 切欠は故郷から遥か彼方……この街で起こった出来事が全てとも言える。 始めは小さな輪でも、この街を去る頃には次第に大きく、ちっぽけな彼一人が抱えるには過ぎた代物だったのだろう。 それに追われるように彼もまた、必要に応じて大きく、期待以上の人間になろうと、役割を勤め上げていく。 故郷へ凱旋するころには、かつての面影はなく……今尚語り継がれる、あの姿がそこにはあった。