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 遠く窓の彼方、海に浸かる太陽から、黄金の波が寄せるのをシシトは見た。
 極彩の空、極彩の海、コテージの闇に、低く鋭い光が射す。黄昏の光。トワイライト・ビーチの、永遠の夕焼け。逆光の中、星の如き煌きが、解いた彼女の髪に宿る。揺れて、踊り。太陽の煤に塗れる陰の中。そこだけが光を帯び、浮き上がって見えた。
 シシトは唾を飲んだ。
 背を向けてベッドに座る彼女の髪から、編み込まれていた香気が溢れる。女の香気だ。いかなる花より男を惑わし、いかなる輝石も褪せて思える、生まれついての魔性。南洋の果実よりも濃密で、鮮やかで、乳菓子よりも柔くなめらかな、甘く痺れるような匂い。ただ息を吸うだけで、鼻の奥から思考に靄が滑り込む。
 極上の女だった。若く瑞々しい、薄紅を宿したハリのある白皙の肌。鼻の高い西方風の顔立ちながらも、黒いシースルーショーツも露な、真紅のミニチャイナを不足なく着こなす。振り返る顔に、大きな青い瞳が悪戯げに細められ。口元には、慈しむような微笑みが浮かんだ。
 逆光の陰の中、彼女の小さな口が開いた。
「緊張してる?」
 余裕たっぷりの顔つきで彼女は、セルミネは、シシトを誘った。シシトとて、もはや少年ではない。若くとも多くの女を知った、一端の男である。けれども、彼女の前では無垢な子犬にも似ていた。紫と灰銀の髪を戴く顔は、心臓の高鳴りに縛られてどこか強張り。しかし西日に赤らみを隠された表情は、期待と不安の間に揺れ動いている。
 相手は並ならぬ女なのだ。致し方ないことだった。多くの点において、セルミネは彼にとって高嶺の花である。想い人の母であり、上役の妻であり、親交ある組織の幹部でもあり。接点は多くとも、およそ『そういう関係』を持つ相手とするには、彼女から直々の意地悪をされる事があったにせよ、難しいことだと言わざるをえなかった。
 それだけに、この機会はシシトにとって降り湧いた幸運であり、そして些か不可解なものであった。



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 何の事もない、ただの組織単位の旅行であったはずだ。二つの親しい組織が合同で行う、成員に対する慰安として、トワイライト・ビーチへの旅行はとり行われた。永遠に黄昏れるセレブリティ・リゾート、微睡みの浜辺と知られる平穏の地に、シシトも素直な興味を抱いたことを今でもよく覚えている。
 ただそこに、彼の想い人が居なかったことは少なくない心残りであった。セルミネの娘にして、上役の娘でもある彼女は、世に知られたトップ・アダルト・モデルであり、その関係で都合がつかなかったのだ。
 写真集から彼女を知り、愛し憧れた経緯のある以上、その事は仕方ないことだと思っているし。むしろ、その新たに出るだろう写真集に対して、大きな期待さえも抱いている。それでもやはり、本人が居ないことは深く惜しまれた。ファンからセックスフレンドにまで手を届かせた身としては、このリゾートで彼女と過ごすことを切に願ったものである。
 それを忘れようと、一日目は組織の別な女と過ごした翌日。つまり今日、二日目の便宜上の夜を迎えようとした頃。樹状の桟橋の片隅。彼の水上コテージを訪ねるものがあった。
「こんばんは。シシト君」
 夕食を終えて少しした、気だるく物寂しい時間。その時のシシトは温もりのあてもなく、南風も冷えるような孤独に浸っていたのだが、心当たりのない呼び鈴に破られ、訝しげにベッドから身を起こしたものだった。
 扉を開けると、太陽が立っているようにシシトは錯覚した。
 黄昏よりも赤く、その光よりも黄金に煌めく、一人の女がそこに立っていたのだ。
「セルミネさん? あの、こんばんは、どうかしましたか?」
 それが、セルミネだった。
「もしかしてだけれど、今日は一人?」
「えっ!? あっ、はい! 特に、誰とも予定は無いですね……」
「そう。それなら、ちょっと上がらせてもらっていいかしら?」
 シシトは迷った。自信がなかったのだ。コテージにセルミネを上げて、きちんと理性を保てるのかどうか。彼女の用事が何かはしらないが、穏便にそれを済ませられるかどうか。
 昨日の内に、出すものは大分出したつもりである。しかしトワイライト・ビーチの雰囲気のせいか、素晴らしい女たちに囲まれる環境のせいか、どうしても性欲を持て余しがちだった。
 既に精力が大分回復した自覚もある。男の本能と肉の主張に抗えるものか、それについて断言することは出来ない。こう言ってはなんだが、彼女は自分よりも弱者だ。組織的な立場ではなく、肉体的な強さにおいて彼女に劣るところはないだろう。一発済ませてしまったあとなら、こちらの脱力もあって分からないが、それでは既に遅いのである。
「いや、あの」
「ここがまずいなら、私のコテージに来る? 桟橋ごとの貸し切りだから、一応私の分もあるもの」
「ええっ!? その、ちょっと待って下さい。まずどういう用事か、聞いてもいいですか?」
「そうね……なんとなく、貴方が心配してることもわかるし。まずは安心させてあげるのが先かしら」
 さっ、と。セルミネは周囲を検めた。人目をはばかるという風ではなかったが、一応は聞き耳を気にしては居るようだった。
 要領を得ない態度である。シシトには、用事の予測がつかなかった。今のような素振りをするような用事とは、一体どのようなものなのか。
 つい、じっとセルミネを見つめて。向き直った青い目と目が合い、照れくさくてシシトは思わず視線をそらした。セルミネの小さな笑い声が聞こえた。
「今夜、一緒に過ごさない?」



3 Edit




 シシトの自己に対する危惧は、ごく正確なものであると言えた。彼女が中に入った途端にがっつかなかったのは、自分を誉めてやりたかったが。それは戸惑いから来る臆病にも思えて複雑だった。自分が果たして押し切られたのか、選択したのか、その判断も覚束ない。
 少なくとも、セルミネが自分のベッドに腰掛けて髪を解くに至ったのは、目に見えて紛れもない事実であった。
 彼女の言ったことが思い出される。
「何があったのかは、今この状況が全てよ。シシト君なら、なんとなく予想がつくんじゃない?」
 そのとおりだった。シシトはセルミネと、彼女の夫との夫婦関係についてよく知っている。これまで見てきた諸々の材料を元にして考えてみれば、なんとなく予想がつかないではなかった。
「相手をしてあげて、ってね」
 それを言ったのは彼女の夫に間違いなかった。彼女たち夫婦の間では、そういうこともあるのだ。そしてセルミネは夫に従順で、その言葉に従いシシトを訪ねてきたのだろう。セルミネには緊張も気負いも、一切見られない。彼女は元娼婦だという。そのための余裕だろうか。シシトにはわからなかった。セルミネの夫は一人だが、セルミネは夫の唯一の妻ではない。それでも最初の夫人だし、二人はとても仲睦まじいのである。彼女の気持ちを知るのは、大きな難事であった。
 セルミネがヒールを脱ぎ、ベッドに上がった。淡桃の長手袋が、ベッドシーツと擦れ合って小気味よい音を立てる。
 これまで見たことのない姿に、シシトの男根は惜しげない漲りを見せていた。彼女が髪を解いてベッドに上る姿など、見る機会のあるはずもなかったのだ。リゾートということで、軽く柔らかなズボンを選んだ過去の自分に感謝した。高く張られたテントから雄々しさがうかがい知れて、堅いズボンでは痛みを伴ったのは明らかだった。
「緊張してるかと言えば、その、少し。緊張しています」
 小さなベッドだ。ダブルには違いなかったが、部屋の広さに対してはそう思えた。あるいはセルミネが乗っているせいだろうか。昨日も一人で過ごしたわけではないが、思い出してみればそのように思える。一人で寝るには過ぎたものだが、二人で寝るには些か手狭だ。シシトは美しい景色に潜む、人の下世話さを垣間見たような気がした。
「ふふっ。とても、少しには見えないけれど」
 身を乗り出したセルミネの細指が、ズボン越しにシシトの裏筋をなぞりあげた。長手袋の生地と、ズボンの生地とが擦れあって、独特の痺れに似た震えを男根へと伝える。
 精液の辿る道筋を追いかけるようにされると、ただそれだけで輸精管が広がるような錯覚をシシトは覚えた。根本から鈴口へかけてのゆっくりと時間を使った愛撫は、精液と共に背筋の官能をゾクゾクとわななかせ。昇り詰めようとする気配は危うささえも覚えて、思わず仰け反り後ずさるほどのものであった。
 脈打ち、催促するような自身の愚息に、いよいよシシトは逆らえなくなった。
 他ならぬ彼女の夫がそれを許し、いや、そうするように言っているのだから、躊躇う理由など無いではないか。
 ここでどうにか追い返して、それで自分は満足するのか?
 何か他のもので補填が出来るのか?
 出来ないはずだ。心は既に決まっていて、それにどう折り合いを付けるかだけが今の自分の課題なのだ。そしてそれも、実際のところは問題ではなかったのだ。問題だと思っていたから、問題だったに過ぎない。
 彼女も避妊は十分にしているだろう。ならむしろ、自分の欲望に忠実になる方が良い。避妊していることさえも忘れて、自分を騙して盛り上がるほうが楽しそうである。
 自己に暗示する。
 孕ませるつもりでやろう。
 夫の居る女性を孕ませるのだ。想い人の母を孕ませるのだ。彼女の弟か妹を作ってみせる。人生は明日も知れぬもの。作れる時に作らなければ。彼女を孕ませる。僕の子供を産んで欲しい。
「セルミネさんっ」
 一歩引いた分をすぐに埋めて、シシトはベッドに上がり、セルミネを押し倒しのしかかった。窓を閉める必要はなかった。そこから見えるのは、海と空と太陽だけだからである。
 西日の中で、彼と彼女は深い口付けを交わした。着衣のままに、二人は互いの体をまさぐりあった。唇の間に唾液がぬるついた水音を立て、南洋の風に汗ばんだ肌がしっとりと吸い付き合う。
 果実の味がするキスだった。酒精もいくらか感じられた。彼女もリゾートを楽しんでいたのだろう。そしてどちらでもない味が、きっと彼女自身の味なのだ。舌と舌が結びついて、触れ合う唇の隙間から混ざりあった唾液が溢れ、セルミネの頬を伝った。彼女の匂いと自分の匂いが濃密に混ざり合い、魂をとろかす。自身の体とセルミネの肉に挟まれ、怒張の高ぶりは暴発寸前に高まっていた。
 ハッとなって、シシトはにわかに体を離した。いくらなんでも衣服の中で射精をするのは憚られた。女の前でそんな姿を晒すのは男の矜持が許さなかったし、何よりあまりにもったいなかった。せめても彼女の肌を汚さなければ、射精の甲斐もない。
 セルミネをまたぐ格好で、シシトは衣服の全てを脱ぎ捨てた。体面を繕う余裕はなかった。時間にして数秒の間のことだったろう。ラフで軽い格好では妥当なところである。
「まあ……」
 顕になった猛りを目にして、セルミネもつばを飲んだようだった。上気して、頬が淫らな朱に染まる。
 シシトの愛らしさすらある顔立ちに反して、やや紡錘がかった形の逸物は大きく。張り詰めて反り返り、自身のへそをも突いていた。尖端から先走りが雫となってこぼれ、その刺激にもヒク突いてセルミネの前で揺れる。立ち上る濃厚な雄の匂い。絞り出すような透明の液の流れは逸物の根本についても留まらず、滾々と湧いて陰嚢から滴らんばかりだった。
 セルミネの真紅のミニチャイナに手をかけて、襟元のチャイナボタンを外した。セルミネはただそれを見守っていた。体のラインをなぞって指を這わせながら、襟元から腋へ、腋から脇腹へ、結び紐のボタンをすべて解き、果実の皮を向くようにセルミネから剥いだ。
 真白い果肉に、目も眩むようだった。黒いシースルーブラに隠された最後の果肉は、透けてその全容を半ば明らかにしていた。
 これが経産婦の肉体なのか? じぃんと、シシトの心は叩かれた鐘のように震えた。広い尻に、確かなくびれ。母性を宿しながら、女性性を強くする二つの乳房と。シミひとつ無い、無垢の柔肌。そのいずれもが宝物と呼ぶに相応しい一品で、シシトは震えながら手を伸ばした。
 ブラ越しに乳房へ触れる。しっかりと支える硬さと、シースルーの手触り越しに、乳房そのものの柔さが掌へぬくもりを伝えてきた。心の不安を欲望で埋め立て、安心とする淫らな感触。頬を撫でるように包み込み、持ち上げるように愛撫して、掴んで感触を微に入り細に入り確かめると。直に触りたいという欲望が、油を放ったように燃え上がった。
 フロントホックに指をかけ、ブラを解いた。被さるのみとなった二つのカップを退けると、待望のものがついに顔を見せた。淡色のつぶらな乳頭を戴く、二山の白い果実。カップを退けるだけでもかすかに揺れ、重力に甘えて座りながらも澄ましたように立っている。きちんと子供を育て上げた、母性の証の一つ。孕ませるに足る女の証明が、そこにあった。
「ああ……」
 思わず漏れた声と同時に、シシトの手が触れた。汗ばんで吸い付く男と女の肌。燃えるような熱は果たしてどちらが帯びているのか。先の感動を繰り返すように包み、愛撫して、掴んだ。ブラ越しとは格別の快楽が、シシトの手を縫い付けた。もう二度と、ここから離れられないのではないか。そんな妄想が、錯覚が、喜びに溺れる意識の裡で息づき。けれども目の前の物に抗うことなどできなかった。
「もうっ。胸だけでいいの?」
 セルミネの細い人差し指が、シシトの唇に触れた。顎を伝い、首を下がり、胴をくすぐって。性感に跳ねる体をなぞり、やがて男根へとたどり着く。
 それでシシトは、ようやく正体を取り戻せた。
 乳房から名残惜しげに手指は離れて、黒いショーツに引っかかる。ここだ。このセックスは、お互い産まれたままの姿になって、ようやく始まる。その決意とともに、心臓の高ぶりの導くまま、シシトはゆっくりと手前に引いた。
 整えられた、金色の小さな茂み。そして、それを冠と戴く魅惑のクレヴァス。ショーツを引きながらセルミネの上から退くと、セルミネは足を上げてシシトの手を助けた。黒いショーツは爪先を離れて、もはや彼の手の内にあった。彼はそれを脇に放った。
「夜の時間は長いから……まずは一度、落ち着くのがいいかしら」
 セルミネは軽く腰を浮かせて、自らの左脚を掴み高く掲げた。右半身を下に、右の肘をついて、側位の体勢をとる。持ち上げた脚に引っ張られてクレヴァスが露わになり、僅かに綻ぶさまをシシトに見せつけた。
「どう思う? シシト君……?」
 緊張か、舌なめずりか。気づけば口に溜まっていた唾液を飲み下し。彼は獣になった。
 股の内から外へ掻くように、シシトは掲げられた左脚を右脇に抱えた。体全体を脚の間に割り込ませて、狙いすましたように尖端を秘裂へとあてがう。先走りと秘裂の潤みが互いを濡らし合い、欲望のカクテルとなって雫をセルミネの尻に伝わせた。
 深く息を吸い。再びのしかかるように、シシトは体を前に押し込む。唇を触れ合わせて舌を差し込むと同時、その剛直で女の穴を大きく割り開いた。
「んん……っ」
 甘く喉を鳴らし、セルミネの体が震えた。支えの右手に左手を重ねてつかむと、彼女も応えるように指の間へ指を入れて、恋人のように手を繋ぐ。シシトに抱えられた左脚から手は離れて、彼の背を強く掴んだ。
 蝶や鳥が蜜を求めて、花にその口を挿すように。熱くヌメる蜜の底へ、彼のものは潜り込んだ。
 道が拓かれる。これまでは知らなかった小径を、野太い棍を持って、左右から柔肉に押されながら、濡れつつに押し入っていく。
 深く深く、若い『男』が、『女』の底を探して深く。ついに尖端が繁殖の器官の扉を叩くと、彼は『男』を根本まで詰め込んで開こうと試み、力強く押し上げた。二人の股が密着して、陰毛が絡み合う。今、二人は一つのものとなった。
「ああ……大きい……っ!」
 耐え難い名器だった。そして淫らな穴だった。夫のものでない性器を受け入れて、そこに多様な遺伝子の確保を求めているようだった。膣肉が癒着を試みるように収縮し、シシトの男根を包み込む。スポンジを握るように愛液は染み出して、貴方こそが主人だとでも言うようにその表面を洗った。溢れ出した液がシシトの陰嚢とセルミネの尻を濡らし、それぞれの陰毛を一層にきらめかせた。
 逸る息子を、シシトは厳しく躾けなくてはならなかった。息子は今にも泣き出しそうで、そのグズる感情は彼自身にもよくわかったが、今はまだその時ではないのだ。頑なな息子に言い聞かせるのは並大抵のことではなかったが、シシトはしばしの時間を用いてそれをしとげた。ジリジリと、血流が肉の内側を削るように思えてたまらなかった。その血脈を体の外へ、この女の血脈と絡み合って出て、新たに作り上げようとする働きだった。
 上と下で共に深く口付け。全身を密着させながら、膝と腰を使いセルミネの胎内を一度掻き回すと。シシトは彼女の娘や多くの女によって磨かれた、練達した槍の実力を存分に振るい始めた。
「あっあっあっあっあっ……あっあっあっんんっ……!」
 深く刺した槍は抜けなくなる。戦士たちの知るところを、シシトもまた知っていた。セルミネの締め付けは強く、一歩間違えれば囚われてしまうだろう。けれども彼は巧みに肉の戒めから抜けては、激しく彼女を攻め立てて啼かせた。いっそ乱暴なまでのピストン。それは諸刃の剣である。吸い付く媚肉はそれだけに強く刺激を受け、そこから抜け出そうとすれば男根も同じだ。
 もう少し、もう少しだ。シシトはセルミネとリズムを合わせた。口を吸い合っての呼吸は苦しみを伴うが、しかし最も相手のリズムを捉えられる。覆いかぶさり、枕へ押し付ける程にキスを深めて、彼女の口に蓋をする。
 高まり来る射精感を、今度ばかりは止めたりなどしなかった。下腹に満ちていた力が、そこに甘んじていた生命の熱量が、迂遠な経路を通って体の末端に移動していくのを、シシトは確かに感じた。
 これを注ぐのだ。彼女の、セルミネの子宮に。卵子を狙い撃って仕留め、子宮壁に押し付ける。僕と彼女の子供だ。それが彼女の体の一部を占めて、膣を辿って産まれ、この乳房に吸い付くのだ。
 妄想が最後のひと押しとなって、シシトはたまらず唇を離した。強烈な多幸感の中で背筋が反り返り、可能な限り尖端で子宮口を押し上げる。
「射精るっ……!」
 単純な構造の水鉄砲のように、体の全体が精液を押し出したかのようだった。シシトの肉体を作る全ての筋肉が、セルミネを孕ませるために動員される。
 痛々しいまでに膨れた鈴口から、白濁がセルミネの膣内にほとばしった。子宮口をこじ開け、直接に胎内へと注ぎ、輸精管を震わせる粘液の感触に、シシトは絶頂の中で絶頂を味わう。
 セルミネも胎内を焼き尽くすような熱を浴びて、反り返りながら絶頂した、フルフルと震えて、シシトと音叉のように共鳴しあった。
 時間にして十秒。いや、もっとだろうか。二人の喉から漏れる、掠れた喘ぎだけの静かな時間が過ぎた。
 緩やかに両者の反りは戻り、再び重なり合って、セルミネの乳房がシシトを受け止める。唇は自然と重ねられて、余韻を楽しむように舌と舌とが互いをくすぐりあった。
「……落ち着いた?」
 唇の離れた刹那、息を切らせながらもセルミネはシシトの耳元で囁いた。
 シシトは一瞬の逡巡を見せたが頷き、セルミネの耳元に口を寄せて言った。
「セルミネさん……孕んでください。僕の子供を、産んで欲しい……」
 シシトはまだ満足していなかった。満足したくはなかった。射精に静まろうとする精神をなお高ぶらせて、言い聞かせるようにその言葉を編んだ。自己への催眠である。しかし意識と無意識の合意が、その言葉には宿っていた。
「貴女の子宮を僕と貴女の子供が占めて、膣から産まれて、乳を吸うのを見てみたい……」
 力はまだ漲っている。彼に眠る、人という獣の性が、萎えることを許さない。
「ふふっ……困った子ね」
 セルミネはそう言うとシシトの頬に口づけ、頭をなでた。



4 Edit




 絶頂の余韻に浸るけだるい時間が、幾ばくが過ぎた。南洋の風に、激しい運動に、触れ合うものの体温に。体は自然と汗が浮いて、共にしとどに濡れていた。
 シシトはセルミネに覆いかぶさってがっしりと抱きつき。首筋に顔を埋め、深呼吸を繰り返す。女と、その汗の匂いが、肺一杯に満ちた。愛しい匂いだった。
 気づけば、自然と腰は動き出していた。萎えぬまま抜かれぬままになっていた剛直が、再び女の穴をほじくり返す。さっきとは打って変わった、緩やかなピストン。精液と愛液の混合物、ラブカクテルが新たな潤滑となって、にゅるにゅるとした感触はやがて泡立ち、じゅぷじゅぷと鳴き声を上げるようになった。
 体力の心配はなかった。彼女が心得る房中の術の賜物だった。命の種と育みの場を媒介にする気脈操作の術が、セルミネとその交合者の体調を万全にし、彼女の避妊を確かなものにしている。
「シシトくん……」
 セルミネの身じろぎがシシトの腕にも伝わってきたが、男の腕力に拘束された女はあまりにも非力だった。今や彼女は、シシトのための穴と言ってよかった。
 最高の穴だ。自分のものでないからこそ最高なのだ。そういう気持ちがシシトにはよくわかった。これまで今ひとつ判然としなかった気持ちの一つに、整理がついたような気さえもした。
 こう言ってしまってはなんだが、想い人は公共物だ。
 自分が楽しむことも出来るが、彼女はより多くの人を楽しませることを良しとする。
 しかしセルミネはそうでない。かつて彼女も娼婦だったと言うが、今は夫のためのものだ。属するところの明らかなるもの。その味わいは本来味わえぬもの。だからこそ、故にこそ、美味。禁断の味は、禁断故に美味なのだ。
 いかにも、だからといって想い人の価値が下がるわけではない。想い人には想い人の味わいがある。ただ味の分類が明確になっただけだ。そして新しい刺激は、いつだってそれだけで鮮烈なものなのだ。
 シシトは夢中になった。溺れることの楽しさを知る故に、そしてまた、より深く知った故に。その腰を徐々に早めていった。
「んっ……離して頂戴……痛いわ……」
 とろけた脳が正確に解するはずもなかった。入力はあらぬ方向へと散逸し、性欲の出力に神経は専念する。
 首筋に吸い付いて、口を大きく開けて、しゃぶりつき、歯を立てた。ジュルジュルと下品な音を立ててセルミネの肌を、汗を吸って飲み込み、舌を這わせて味わい尽くす。
「んんんっ!」
 獣が食らいつき、貪るような感触に、セルミネは軽く反り返った。
 より密着する男と女。腹と腹が呼吸ごとに押し合って、弾むように寄せては返す。
 動きやすい場所を求めたシシトの脚が、セルミネの脚を広く押し開いた。およそ百八十度。完全に広げられた股に、シシトの剛直が休みなく突き立てられて白濁があふれかえる。淫臭は窓から抜ける風に散っていったが、それでも掃ききれぬほど、二人の周りに満ちて濃かった。自身が放った精液をシシトのカリ首は掻き出して、熟れきった子宮を小突く。身動き一つままならない囚われの中にありながら、セルミネは法悦の呻きを上げた。
 原初の聖性すら見いだせるようだった。
 西日に照らされ、一つになった肉塊が蠢くは、かつて生命の広がりを試みるべく、始められた創命の儀式。今はただそこに喜びを見出すのみでも、喜びは人の性なれば、それを求めるもまた聖なるかな。
「んっ……そんなに、孕ませたい……?」
 セルミネの纏う空気の変化に、シシトは腰の動きを抑えた。彼女が何を言わんとしているのか。にわかに緩んだ抵抗に期待を込めて、聞き逃すことのないように。
 もとより彼女は、シシトを満足させるために来たのだ。夫に命ぜられ、その身に宿る燻りを受けとめるために。
 ならば次に続きそうな言葉も、自ずと察しがついてくる。故にシシトは妄想の度合いを高めた。今の自分は、彼女が操る言葉の奇術にかかろうとしている。ならばなおのこと、疑うのをやめるに越したことはない。
「良いわ」
 彼女が笑った。
「子宮の予定は暫く空いてるの……あの人には、内緒よ」
 嘘だ。この場限りの、ムードのためのスパイス。そうでしか無い。察している。
 しかし。
 フウッ、と。獣が走り出す間際の吐息で、セルミネの耳元をくすぐる。優しい嘘が、自分で思う以上の火をつけたようだった。
「あっ! あっ! あっ! 激しっ……!」
 緩やかだった加速は急な勾配を描き、温まった燃焼装置のようにピストンは激しくなった。もどかしげにセルミネの拘束を解いて、シシトの両手は広い腰を掴む。経産婦のたっぷりとした量感。それでいて崩れぬラインを崩そうとするかのように、赤く跡を残すほどの強さで新たにセルミネを囚えた。
「セルミネさんっ、セルミネさんっ、セルミネさん……っ!」
 息も絶え絶えにシシトは名を呼んで、出し抜けにセルミネの両足首を掴んだ。
 開脚は高々と掲げられて、黄昏の中で美しさを明らかにする。結合部が焼けた光の中で明らかになり、シシトのものが力強く根本まで埋め込まれると、突如としてその動きを止めた。
「うああっ!」
 シシトの総身がブルリと震えた。尖端から滾る熱が体を抜け出て、全ての体温を失うのでは無いかと思うほどだった。夥しい精虫の蠢きが、尿道を震わせながら押し広げ。組み敷いた女の粘膜へと降り掛かっていく。
 否応なく、セルミネも絶頂に高められた。放たれた精液の熱が、女を黙らせているはずもなかった。
 セルミネの胎内が雄の、シシトの匂いで満たされていく。他の雄の匂いを埋め立てて塗りつぶそうとするように、激しい奔流がなだれ込んで、射精しながらにピストンが始まって擦り込み始めた。
「あっ、シシトくん、駄目っ。そんな、射精しながら」
 絶頂の痺れに、セルミネは先手を取り逃した。射精中でもなお動こうとするシシトの胆力は、激しい性欲に後押しされるものである。それは若さであった。
 セルミネは彼の若さに流されるまま、繋がったまま、両足首を掴まれた脚を巧みに操られ、股を閉ざされたかと思えば、ベッドの上を滑るように引かれて、気づけばうつ伏せになっていた。
 腰に手がまわり、引き上げられて浮く。跪いた脚へシシトの脚が絡まるように重なり、足首へ足首を引っ掛けるように封じた。
 ほとんど一瞬の内に、後背位が出来上がっていた。
 ついさっきまで腹で触れ合っていた二人の肌が、今度は背中と腹とで触れ合う形になった。シシトが後ろから覆いかぶさり、その体重でもってセルミネの体を押さえ込む。両の手が受け皿のように乳房へと回され、握りつぶさんばかりに指を埋めて揉みしだいた。
 セルミネのうなじにシシトの鼻息がかかり、やがて鼻先は金の髪をかき分け、猫がそうするようにうなじへとしゃぶりつく。そしてまた猫のように、セルミネは抵抗の力を失ったようだった。
 二人の肌は汗に塗れて、摩擦の具合が吸い付くような音をもたらした。シシトの下腹がセルミネの尻へと叩きつけられるたび、肉のぶつかりあう高い音と湿った音が続く。汗ばんだ肌の激しい出会いと、離れていく物寂しい別れ。
 二つの音は、互いに互いを高め合うようだった。物寂しいゆえに、接する喜びは高くなり。接する喜び故に、物寂しさも高くなる。
 それは、淫らな交合の中で産まれた二人の子供と言って良かった。
「んっ! んっ! んんっ! すごい、すごいわ、シシトくんっ!」
 加速度的に、二人の交わりは激しさを増していく。既に獣へと還った男につられて、セルミネもただの女に戻ろうとしていた。
 男から完全に囚われたと言う事実が、彼女の性感を刺激したのだろうか。熱に浮かれたシシトには考えが及ばないことだ。
 ただ、美味だった。彼女の肌が、汗が、美味だった。肌のなめらかなことと言えば、這わせた舌から性感を覚えるほどで。彼女の生きている温もりが、シシトの喉を通るのは初めての快楽だった。
 強く吸って、首筋にキスマークを残す。征服の証。それを目で確認すると、性欲はますますに盛り上がった。
 舌で味わい、鼻で味わい、目で味わい、耳で味わい、そして男根で味わう。五感の全てから入力される、セルミネという女の信号。
 汗の塩気は甘みを引き立て、酒の匂いが薫香を飾り、乱れる姿は美貌に色添え、たまらぬ快楽が声を輝かせる。そして男への求めが粘膜と肌をより柔くし、男に汚す悦びを教え込むようだった。
「来てっ! 中に、一杯……! 孕ませて頂戴っ!」
 ほとんど連射の体を取りながら、シシトはたやすく絶頂に達した。それを早漏と揶揄することは出来ないだろう。
 高められた妄想、それを裏打ちする関係、極上の女体と、女からの激しい求め……その上で長く堪えられる男など、居るはずもない。
 腰をブルブルと震わせながら、シシトは三度目の射精に臨んだ。三度目にもなりながら、精の減量は認められなかった。
 セルミネの胎が溢れかえる。深々と打ち込まれ、ぎっちりと埋めるシシトの絶倫との隙間から、強い粘性を持った白濁が漏れて結合部からシーツへと滴り落ちた。隙間を抜けていく精液の感触に、シシトはさらなる射精を引き出されるようにさえ感じた。それほどに、彼の出したものは濃厚だった。
 長い、長い射精だった。ぼとり、ぼとりと、音を立てながら精液は溢れかえり続けて、結合部の下に小さな精液溜まりが出来ていた。
 それが一回り大きくなる頃、力尽きるようにシシトの射精は終わった。繋がったまま、セルミネを押しつぶすように腰を下げさせ、彼女の腹の下に精液溜まりを敷く。金の陰毛が、白濁の中に浸かった。寝バックの姿勢に落ち着くと、シシトはセルミネと頭を並べた。両手はまだ、乳房の下にあるままだった。



5 Edit




「……落ち着いた?」
「……はい」
 全身がけだるかった。彼女の体を下敷きにして、今は達成感に酔いしれ、休息に身を委ねたかった。
 暖かく、柔らかく、滑らかで。そして美しく、芳しい彼女は、最高の寝具でもあった。
 想い人とそっくりだった。いや、想い人が彼女とそっくりなのか。彼女を抱いて眠る時、抱いたまま朝を迎えた時。決まって最高の目覚めを得られるのだ。それと同じものを、シシトはセルミネにも感じた。
 ゆるゆると、体を起こす。眠るにしても何にしても、このまま下敷きというのはセルミネにとって具合は良くないだろう。それとも、男に組み敷かれたまま眠り、そして目覚めるのは、彼女にとって悦びだったりするのだろうか。
「うっ……!」
 セルミネの収縮した膣から、尿道に残る精液を搾り取られるのが感じられた。獣のような高ぶりは抜けて出たが、シシトのそれが萎えたわけではなかった。腰を引いて抜こうとすれば、媚肉が吸い付いて追いすがってくる。ぎっちりとハマって隙間ないことは、胎が空になるのを拒むようですらあった。
 それでも、力を込めてシシトは腰を引いた。名残惜しいのは間違いなかったが、今は少し休憩が必要なのだ。自分にも、彼女にも。その気になれば休みなくできるはずであるが、セックスは時々間隙を要することがあるものだ。雰囲気や、プレイを変えるために。
 ボッ、ブボボッと。空気が混ざり込み、泡立ち濁った下品な音を交えつつ、ようやくの思いでシシトとセルミネは一つから二つへと戻った。
 両者の性器は真っ白に染まっていた。セルミネに至っては半ば精液溜まりに沈み、輪郭さえも明らかではなかった。
 これを自分がやったのだと思うと、やり過ぎたかと思う一方。えも言われぬ誇らしさが、シシトの胸を熱くした。
「ふふっ、真っ白ね」
 それも束の間。セルミネもゆっくり体を起こして正面を向くと、M字に股を広げながらシシトの男根に満足げな笑みを見せた。
 彼女もまた、自分からこれだけ搾り取ったのだと誇らしく思っているのだろうか。それは彼女のみぞ知ることだが、そうであるならば積極的で嬉しいことである。
 しかしそれよりも今は、セルミネの有様がシシトの目をさらった。
 下腹部にへばりつき、金の陰毛に絡みきった精液溜まりの残滓。
 その陰毛と絡み合い、あるいは太ももにへばりつく、紫がかった自分の陰毛。
 そして強く揉み過ぎたのか、少し形を崩してしまった乳房と、そこに残る赤い手形。
 自分の刻んだセックスの名残が、この上なく所有欲を満たしてくれた。
「どうしたの? ……あら、しっかり残っちゃってるわね。シシトくんの孕ませたい気持ち」
 シシトの視線に気づいて、セルミネは自身の体を見下ろすと、呆れたように言った。
「……ねえ、まだ欲しい? 私との……赤ちゃん」
 ドロドロになったM字開脚の中心から、ごぽりと精液が流れ出す。ぽっかりとシシトの形にあいた膣穴から、シシトの出したものが這い落ちて、その緩慢な様は胎内にとどまろうとあがくように見えた。この人から母親になって欲しいと、「もしも」の世界で子供になっていたものが訴えかけてくるようだった。
 弁えている。弁えているからこそ妄想は濃く強く。射精の放心に乗せて、シシトは「もしも」の世界を思った。
 飽きのこない夢だった。この交合でセルミネが妊娠した世界は、いくらでも想像できる。今まさに彼女の股からこぼれ落ちてくる精液の、その中の精子の一つが、確かに自分と彼女の子供になっていた世界。
 セルミネへ言葉を返す代わりに、シシトは行動で示した。M字開脚の間に手を伸ばして、溢れ出る精液を掬い上げると、それをセルミネの膣内へ注ぎ直す。掌で膣に蓋をし、それ以上の漏出を押しとどめて、シシトはセルミネと口付けた。
「そんなに……?」
「はい」
「何人が良いかしら」
「何人でも」
 三度の射精は現実へと引き戻した。だが彼女とのセックスは、ここからが本番だ。想い人とのセックスから、シシトはそれを思い出す。想い人に躾けられたのか、それとももっと強く、調教されてしまったのだろうか。萎えない男根はそれに慣れきった証左だった。
 再び夢想へと沈む。夢と現実の境が曖昧になる懸念は、考えるだけ無粋なことだ。
 夢見るままに、シシトはセルミネとの子供を望み続けた。想い人と重なる時、彼女との子供を望むように。
 彼女たち母娘には世話になりっぱなしだ。これはその恩返しでもあり、あるいは、もっと世話になろうとする堕落であり。ゆえにこそ、何にも増して心地よい。
 男根に滑らかな刺激が走る。セルミネの手がシシトの根本から這い上がって、べっとりと全体に張り付いた精液を拭い取っていた。
 やんわりと、膣を塞ぐ手が退けられて。拭い取った精液まみれの彼女の手が、代わりにそこに蓋をした。
 指の間に絡み合う、濃厚で粘着く精液を手ずからに押し込みながら、セルミネは寝転がる。M字開脚はそのまま彼女の下腿を支える柱となり。腰を浮かせて、その隙間に多くの枕を挟みこむと、それを頼みに脚は軽く伸ばされて、弓なりの姿勢に安定した。
「これなら、溢れることはないわね」
 下腹部についた精液だまりの跡も拭い取って、シシトの陰毛ごと膣に詰め込みながら、セルミネは言った。
 完全に止められたわけではないだろう。それほどに、シシトが出した精液の量は多かった。だが重力を味方につけたのは確かなようで、下になった子宮へと精液は流れていく。シシトの形をした穴の奥に、白濁が溜まっているのが外からでもよく見えた。
「セルミネさん、そこまで……」
「良いのよ。貴方の情熱に、私もあてられたみたい。そうだ、まだこびりついてるでしょ? 口で綺麗にしてあげる」
「は、はいっ!」
 命ぜられた子犬のように、シシトはセルミネの顔の傍に跪いた。子犬と呼ぶにはあまりに大きく、そして獰猛な獣であったが、本能が満たされて今は牙が抜けていた。既に生え変わりの牙が顔を覗かせ、次の突き立てる機会を伺っていても、まだ首輪と鎖のついた飼われものに過ぎず。それは女から指導される、若いツバメの典型であった。
「もっとこっち、それじゃ届かないわ」
「これくらい、でしょうか?」
「もっとよ。そうね、顔に乗っていいわ」
「顔に!?」
「ええ。むしろ、シックスナインに近いかしら。私のアソコはとても舐められる状態じゃないでしょうけれど」
「……良いんですね?」
「もちろん。さあ、いらっしゃいな」
 心臓の鼓動に追い立てられ、シシトは決心した。それは肉体の求めに応じるものであったが、すなわちにして積極的な決断であった。
 仰向けになったセルミネの顔を膝立ちで跨ぎ、足を広げ、腰を低くして、位置と高さとを調節する。拭われてなお精液の残滓を残す男根が、筆のように彼女の顔をなぞりもした。
「すっ、すみません」
「いいのよ、気にしないで」
 時には幹が触れて、精液の残滓が白い肌にあとを残し。とめどない先走りが一本の線を引くと、溢れ出す生臭い液が彼女の頬を伝って、金の髪にまで流れていく。
 姿勢を決める幾度かの試行錯誤の後、シシトはセルミネが言ったようにシックスナインの姿勢で落ち着いた。眼下にセルミネの膣が在る。立ち上る匂いは大凡、精液の匂いだ。自分の男根から噴き出し、彼女の内側を染めたもの。その臭気によって、彼女の腰回りは完全に埋め尽くされていた。飛沫となった愛液が下腹や、腿にまで飛んでいたが、それは濃い精液の匂いに打ち負けているようだった。
「準備はいい?」
「ん……はい」
 男根を掴まれる感触に、シシトは自分とセルミネの体の隙間から、彼女の顔を覗き込んだ。彼女の手がシシトの男根を掴んで、待ち受けるように小さく唇が開かれていた。
 ゆっくりと、腰を下ろす。彼女の手がレールになって、表面をこすられながら、シシトの男根はセルミネの口へと侵入を果たした。
 深かった。熱いヌメリが亀頭からまず包み込んで、蠢く舌が男根の上面を蠕動するように這い回る。それはやがて純粋な粘膜の感触に変わって、尖端が口の中を過ぎたことを悟った。
 膝を滑らせて、シシトはわずかに後退した。セルミネの顔がゆっくりと上向きになり、喉が反り返る姿勢を取り始めたのが感触でわかった。シックスナインの姿勢では全てを望みえない。けれども今、彼女の粘膜を押し広げる感覚が、確かに自分の男根から伝わってくる。
 きっと彼女の喉は、自分の男根の形に膨れているだろう。ディープスロートだ。ついに、シシトの男根が根本まで埋まり。陰嚢に空気の流れを覚えた。彼女の呼吸だ。鼻から出入りする空気の流れが陰嚢をくすぐる。また同時に、彼女の顔に触れるのが分かった。もう少し体重をかけると、陰嚢が完全に接した。
「ん、んんっ」
 セルミネが呻いた。さすがの彼女も、この姿勢は少し辛いのかもしれない。
 しかしシシトからしてみれば、それどころではなかった。陰嚢が彼女の顔に触れているという背徳が、たちまちに獣の本能を呼び戻していた。
 互いの急所を掴んでいるという危うさも、そこには在るだろう。自分は男根を彼女の歯の奥に入れて、彼女は喉を自分の男根に抑えられている。オーラルセックスでありながら、しかし死に近い、故にこそ生を意識する快楽。性本能を満たしながら、生を意識するという性の喜びが、シシトの背筋を駆け上がってやまない。
 ゆっくりと、シシトは動き出した。本能的なものだった。彼女の喉は性器と認めるに十分すぎて、膣へ挿入したのと同じように、射精するべく腰が自ずと律動を始める。
 楽しみ、味わうように緩慢に腰を引き。亀頭が舌に触れると、慣らすようにゆっくりと挿れ直す。
 セルミネの荒い呼吸音が聞こえる。やはり喉にまで男根が入ると、多少なりとも呼吸に障りがあるのだろう。多少の躊躇がシシトの心に生じたが、快感がそれに勝った。
「セルミネさん、少し、早くします」
 繰り返す挿抜が加速する。緩やかな加速だ。彼女の喉の肉が柔らいで、調子が出てきたと判断すると、シシトの腰は徐々に叩きつけるような動きへと変わっていく。
 遠慮はなかった。セルミネならば受け入れてくれるはずだ。その確信があった。彼女たち母娘がもっている回復力、生命力についてはよく知っている。多少の無茶なら彼女たちには問題ない。
 調子に乗っているという自覚はある。けれどもやはり、陰嚢が彼女の顔を叩き、男根が喉を広げる感触はたまらなかった。
 自分にもサディストの才能があったのだろうか? そうも思うほど、セルミネの荒い呼吸も、シシトを強く興奮させた。
 彼女の呼吸、彼女の苦悶、彼女の奉仕、そして背徳。一突きの度に押し寄せてくる絶頂の諸要素。
 締め付けてくる喉と舌と、苦悶の呻きの震えとに、シシトは徐々に動きを緩めた。絶頂は目の前にあり、少しでも楽しもうとする故の動きであった。それも儚く。
「あっ、くっ!」
 そっと、シシトは深く男根を埋めて止まり。イッた。
 食道に注ぎ込まれる、生命の精髄。脈動とともに放たれるそれはやはり濃く粘つき、むせ返るほどの臭いでセルミネの腹を満たした。
 彼女も喉で絶頂に至ったのか、全身が震えていた。胸のあたりに精液の熱を感じたのが引き金だろうか。心臓に火をつける炎か、あるいは燃える炎に注がれる油になればいいと、シシトは絞るように股へ力を込め、射精を助けた。
 幾ばくの後に射精がとまり、シシトは緩慢な動作で腰を引いた。セルミネの舌と唇が表面を洗って、尿道に残る精液を吸い出すと、引き出された男根に精液の名残は欠片もなく。唾液にまみれて煌きを帯びるさまは、男が磨かれたと言っても良かった。



6 Edit




「んっ……お腹、熱いわ。じんわり、ぽかぽかしちゃってる」
 シシトの陰毛を咥えながら、横たわるセルミネは唇を舐めた。
 息を整えてセルミネから離れると、シシトは座り込んでそれを見ていた。
 多くのものをやり遂げた気分がある。充実した気だるさに満ち足りて、次はどうしようかと天井を仰いだ。竿を清めて仕切り直したはいいが、今の状態で何が出来るだろう。パイズリ、というのも良かったが。彼女の上から降りたばかりで、もう一度またぐというのも何か違うように思えた。
 些細な事ではあるだろう。しかし流れというのもつい意識してしまうもので、それはそれでセックスをより良いものにしようという気持ちの現れでもある。
 率直な気持ちを述べるのなら、もう一度挿れたい。喉も良かったが、やはり女への劣情は膣に集約されるように思う。本能の後押しを受けるせいだろうか。この愛しい女の膣を見ると、それだけで男根は力の漲りを得るのだ。
「セルミネさん」
「なぁに?」
「膝立ちになって、脚を開いてもらえますか?」
「いいけれど……中身、出ちゃうわよ」
「良いんです」
「そう。それじゃあ待ってね……」
 起き上がろうとするセルミネに、シシトも寄り添って手を貸した。こういう時は欲望に対して素直になるものだ。流れだとかを意識はしてみても、やはり最後は欲望の矛先に思考は行き着く。そしてそれこそが最高の快楽をもたらすものだ。
 セルミネが膝立ちになると、真後ろにピッタリと寄り添い、尻の谷間に猛る男根を収めた。
 重力に従って、重々しく膣内の精液が動き出す。ドロリとした白濁が開いた膣からのっそりと流れ出し、彼女の股から垂れ下がり始め。シシトは手を皿に、それを受け止めた。
「どうするつもり?」
「こうするつもりですよ」
 自身の精液がたっぷり掌に溜まると、シシトはまず、セルミネの乳房にそれを塗り込み始めた。右の乳房を鷲掴みにして揉み込み、裏乳も横乳も余すこと無く。すっかり自分の精液でコーティングすると、左胸も同様に精液を塗り込める。
 精液が足りなくなると再び受け止め、シシトの手はセルミネの胴を這い回った。腹に、尻に、脇腹に、腋窩に。出る量が減ると左手が子宮の位置を押して、右手が膣を掻き回してこそぎ取る。西日を受けて精液がテラテラと淫らな煌きを帯びると、あたかも水着を着ているかのようにその塗装は浮かび上がった。
「んっ……」
 薄く広がった精液は徐々に乾いて、パリパリとも、バリバリとも感じる、独特の感触をそこに作った。
「これで、セルミネさんは僕のものだ」
 後ろからセルミネを優しく包容する。両腕を拘束しながら、左手が乳房を揉んで、右手が膣をほじくった。行為の間、溢れ続ける先走りがセルミネの尻の谷間を汚し、べとつかせた。
 セルミネの首筋が、シシトのお気に入りになっていた。キスの雨を降らせ、食いつき、舐めて啜った。そこに血の巡りを感じて、すなわちセルミネの命を感じると、下腹からせり上がる情動が心臓の鼓動と結びつき、興奮の高まることは緩やかにして際限もない。
「シシトくんって、思ったよりっ、スキモノなのね……」
「セルミネさんが、とても魅力的だからです。今僕が何を考えてるか、わかりますか?」
「ううん。何、考えてるの、かしらっ……!」
「排卵誘発剤とか、セルミネさんの避妊を外す方法とか、そういうのをもっと研究しておけばよかったなとか……ああっ、いっそ、セルミネさんが相手をするだけじゃなく、妊娠まで、許してくれないだろうか……っ!」
 シシトの脚が、膝立ちするセルミネの股に割り込む。腰を低くし、正座に近い体勢になると、当然男根も尻の谷間から外れた。
 未だ精液をこぼすセルミネの膣に、シシトは狙いを定めた。セルミネの両手首を掴み、自分の精液をその大本に浴びながら、姿勢を高く戻していく。男根はたやすく、セルミネの膣にねじ込まれた。受け入れに抵抗はない。手を引いてセルミネの姿勢を下げながらに、シシトは自分の体勢を高くしていく。相反する動きの男女は、自然と子宮を持ち上げる結果をもたらした。
「ううっ」
 小さく美しい形の唇を歪めて、セルミネは呻いた。
 腰を突き出す形になる挿入体勢は、手をひかれるセルミネに仰け反る姿勢を強いる。反り返るたおやかな喉へシシトがすぐさま食いつき、呼吸のもたらす振動を唇で楽しみながら、その呻きに耳を傾けて目を細めた。
 乳房を見下ろし、弄ぶように器用に腰を動かして、シシトは素早く突いた。持ち上げる動きに合わせてセルミネの腕を引き、動きを抑えながら最も深くなるリズムを実現する。乳房は上下の動きに合わせて激しく揺れ、欲する景観を得られてシシトは満足げに動きを変えた。
 下腹に触れるセルミネの尻の柔さ。首から顔を離せば、二人の間に視線を落としてその変形を目で楽しむ。素早さは一時鳴りを潜め、力強さが先になった。焦らすようにゆっくりと男根が引き出されると、次の瞬間に最奥まで一気に押し込む。
「ああっ!」
 セルミネが甲高い声を上げると、尻の感触と共に、より高い声を出させるのが新たな目標に据わった。
「ああっ!」
 長く深い、力強いピストン。じゃじゃ馬馴らしとばかりに両の腕でセルミネを操り、弓なりの体へ肉棒を打ち込む。
 泣くように濡れそぼる膣内に、動きはそのまま加速がついていく。
「ああっ! ああっ! ああっ!」
 共に仰け反るセックスは激しい動きとともに反りを増し、やがて倒れ込んで仰臥の形に移った。シシトを下に、セルミネを上にした、仰向けの二人がそのまま重なる体位は、女体を晒すに最適なものの一つだ。今は他に晒す相手も鏡もなかったが、全身にセルミネを感じてシシトには心地よかった。
 真っ直ぐになったセルミネの脚にシシトの脚が絡みつき、ピストンにスパートがかかる。両手は手首を離れ、背後から羽交い締めする形へと変わり、自由になった肘から先で二人の手が重なった。
「んんんっ! ああっ! あああっ!」
 シシトの脚が絡みつきながらも、セルミネの脚がピンと突っ張った。絶頂したようだった。シシトの上でセルミネは強く仰け反り、シシトも追いかけて仰け反り、男根を深く埋めると、同じく絶頂した。
 シシトの頭の横でセルミネの頭が、そして全身が、絶頂に痙攣していた。乳房がフルフルと小刻みに揺れて、溢れ出す精液がシシトの男根を伝い滴る。
 弓なりの時間は、時間にして恐らく数秒だったろう。セルミネの体重がかかると、シシトも体をベッドに預けた。それでもまだ、男根は脈動を止めていなかった。必ずやこの女を孕ませるという渇望の元、女が孕んだと確信するまで射精をやめる気が無いようですらあった。
「セルミネさん……壊れて、しまったようです。射精が止まりません……きっと、貴女が孕んでくれるまで」
 絡めた指を外し、乳房をこねくり回す。脱力したセルミネの体に、射精しながら男根が出入りした。彼女の重みが心地よかった。
「そう……」
 息も絶え絶えに、セルミネは短く答えた。気だるげに振り向いてシシトの頬にキスをすると、快楽に蕩けた顔で笑った。
「とても……エッチな子が産まれそうね……ふふ」
 セルミネの右手が、シシトの右手に重なった。乳房をこねる手はそれに応えて導きに従い、セルミネの下腹へと移った。子宮の位置である。二人の手が重なったまま、子供の頭を撫でるようにそこを擦った。射精の勢いが、にわかに強まったようだった。



7 Edit




 いつまでも続くように思われた射精だったが、長い時間の末に未練がましく終わった。
 具体的な時間はわからない。時計などという無粋なものは、トワイライト・ビーチには不要だからだ。永遠の黄昏は黄昏のまま、夢とロマンの幻を与えてくれ、それに浸るのがトワイライト・ビーチの楽しみ方だった。
「ねえ」
 シシトはセルミネを掛けて、セルミネはシシトを敷いて。
 互いを肉布団に微睡み、下腹を擦る穏やかな時間も、既にどれほどとなったろうか。
 先に声をかけたのはセルミネだった。
「はい」
「お風呂、どうかしら? この辺りで一度、体を綺麗にしてもいいと思うわ」
「……良いですね。綺麗にしてください」
「ええ。こちらこそお願いね」
 手をついて、セルミネが体を起こす。腰を浮かせばヌルつく長い魚類のように、シシトの男根が彼女の胎内から全貌を見せた。
 乾く暇とてない股座周りは、二人共がグチャグチャにぬかるんで粘つき。何本もの太い粘液の糸が橋をかけて、特に尖端から子宮口につながる白い糸は、一等太くプルプルとして活きが良かった。それも、シシトが膣を抜ける感触に男根をヒクつかせると、撃ち出されてセルミネの陰核からぶら下がり、子宮口と陰核を結ぶ淫らなチェーンピアスとなった。
「あはっ、すごい有様ね。こんなになったのは久しぶり」
 セルミネがベッドを降り、シシトも追いかけてベッドを降りる。若い男の手が女の尻をまさぐり、腰を抱いて自身の方へと寄せ、片時も彼女から離れたくないとばかりに下腹へ滑らせると、膣に指を入れて束縛しながら精液を掻き出し、彼女の腿を汚した。
「だめよ、シシトくん。歩きにくいわ……」
「ああっ。その、つい」
「お風呂に行ったら思う存分掻き出してちょうだい。お腹が重たいのは本当なんだから」
 コテージの浴室はそこまで広いものでもないが、一人で使うことを前提にすれば十分な規模である。
 密やかで閉ざされた空間は外の世界と隔絶し、天窓照明の下で波の音さえも遠く、静寂が空気とともに停滞して冷たい。寝室よりもずっと小さな空間は男女の距離を必然に詰めて、触れ合うことに消極的な理由をもたらし。消極という言い訳と、吐息さえも反響する独立性が、心を大胆にせしめて盛り上げるようだった。
 セルミネがシャワーコックをひねる。温かで細かに千切れた水が、高くシャワーヘッドから降り注ぎ二人を洗った。
 シシトの股間からラヴカクテルが。セルミネの全身から塗りたくられた全てが。足を伝って床に流れて去っていく。
「ほら、こうやって」
 セルミネの方からシシトに触れた。股間周りに手を滑らせ、陰毛にこびり付く残滓を流し、陰嚢を撫でて隅から隅まで。目立たず深いところにまで指を滑らせる。
 倣って、シシトもセルミネを愛撫した。乳房と尻を揉み洗い、脇腹から腿のラインをなぞった。
 雨の中で二人は踊った。ボディソープが注がれて泡立ち、白を紛れさせて、共に肌を伝い落ちた。裸のチークダンスは茹だるような熱情を帯びていく。立ったままに密着して洗い残しを探り、余すところの無いようにと何度となく調べ合う。
 やがて残るものもなくなり、ただシシトがセルミネを好きにした証の手形が各所に残るばかりとなると、そっとセルミネは離れた。
「それじゃ、そろそろお願い……」
 セルミネが壁に両手をつき、ピンと足を伸ばして開くと、誘うように瑞々しい桃尻を突き出す。股間の中心で秘裂がシャワーと快感に潤み、今この時もシシトの精液が滲むように溢れていた。
 シシトはつばを飲んで、シャワーを止めた。もったいぶるようにセルミネの背後でしゃがみ、尻に手をおいて魅惑の弾力とハリを楽しむ。右手が二本の指を立て、予告も躊躇もなくセルミネの秘裂に割り入った。
 完全に熟れて熱を帯びた膣肉がシシトの指を迎える。指を磨く襞も肉付きもきめ細かく、自分の精液やセルミネの愛液に塗れて粘り、どこからどこまでが肉なのかすら見失いかねない。中で左右に広げてみても、この角度では闇に沈んで全容は明らかでなかった。
 手始めにまず指二本を曲げて鈎のようにし、ボルチオを刺激しながら引き抜いてみる。
「ああっ……!」
 セルミネの全身が震えて、白濁が一塊になって掻き出された。
 シシトは面食らった。自分が出したものに違いなかったが、ここまで濃くて粘るとは。
 スライムか何かに触れたような気分だった。あるいは、自分が豚にでもなったかのようでもある。豚の精液は雌の胎内で固まり、精液が出てくるのを阻むという。自分の精液もいつの間にか妙な特徴を得ていたのだろうか。
 物思いにふけりながらも、シシトは作業を続けた。一掻きごとにセルミネは甘く鳴きながら全身を震わせ、その度に股間から白い塊が落ちていく。時には連鎖するように、白濁の塊が別の塊を引き連れてくることもあった。
 事は順調に続いていたが、程なくしてシシトは限界を感じた。セルミネの膣は深く、指では限界がある。最奥、子宮口にへばりつく精液を指で掻き出すのは現実的でない。子宮まで入ったものは仕方ないが、ここはいけないこともないはずである。
 決断は早かった。指二本を引き抜いて、尻の支えに回した。
「一番奥にあるのが中々取れません……適した物を使いますね」
「ええ、ご自由に。どうするかはシシトくんにおまかせするから」
 尻に両手が置かれた時点で、セルミネは承知したのだろう。股を更に大きく開いて招いた。シシトもすぐ、それに応えた。
「あ、っん……」
 本番は通算にして六度目となるだろうか。いや、一度はフェラだったから、五度目になるはずである。既にシシトは中出しする気で満々だった。カリでもって奥の精液を掻き出すつもりなのも確かだが、ついでにやってしまってもいいだろう。
 精液による潤滑は失われていたが、掻き出しから得る快感が愛液による滑りをもたらしていた。完熟の肉も指に耕されて柔く、シシトのそれに合っていた形も今は少し変わっており、その差異が男根への刺激となる。
 食われていると評するのがぴったりだった。掻き出す事が食前の酒や前菜となり、メインディッシュへの食欲を増していたに違いない。媚肉はきつく吸い付いて、舌が舐り尽くすように複雑な動きでシシトを扱き上げて止まらず。そこが舌鼓を打つのを聞いたような気さえもした。
 尻をつかむ両手についつい力がこもり、尻にも手の跡が残る。こちらからも食い尽くしてやるとばかりに強く押し込み、先程大きな絶頂をもたらした実績を買って、長いストロークを再び試みた。
 劣情の燃焼が、シシトの腰を動かす。『男』という内燃機関はフルに稼働し、裸の肉体に比類なき力を与えて止まらない。
 狭く固い室内に、肌のぶつかりあう音が響いた。セルミネの嬌声だけが、そこに介在した。
「あんっ! あっ! あっ! んんっ!」
 ベッドの上も良かったが、浴室の良さも自己暗示するシシトにはありがたかった。
 世界に自分とセルミネだけが居る錯覚に囚われて、妄想が加速する。一人用としているコテージの、一人用としている浴室で、一組の男女が止まらないセックスにふけること。自分たちしか残らなかった何かのあとに、両者の過去がどうであったとかを度外視出来る状況で、人類の存続という大義名分のために崇高な行為としてセックスする白昼夢。
 掻き出される精液が飛び散っても、それを気にするだけの余裕はなかった。清めたばかりの二人の股は、既に精液と愛液にまみれていた。
 我慢の限界が近づいてくる。歯を食いしばってシシトはこらえた。セルミネとセックスを続ける内に、あちらを先に絶頂させることへのこだわりが生じていた。
 女に負けるとかどうとか、そういう事を気にするのは元々シシトの性分ではない。しかし鎌首をもたげた征服欲が、先に絶頂させることと屈服させることとの小さな結びつきを見出していたのだった。
「あっ! ああっ! い、くっ……!」
 大声で叫びながらセルミネは絶頂した。媚肉が手を引くようにシシトの絶頂を招いて、悦びの内に彼は応えた。
「くっ、僕も……!」
 掻き出して清めた穴が、再び白に汚されていく。しかし見ようによっては、これこそが清めでもあるのかもしれない。
 男の精を受けることによって、女は孕むのだ。孕むことによって聖性を帯び、女は聖なるものとなる。男に精を注がれることによって、女は聖なるものとして清められる。
 創命の儀式は、洗礼の儀式でもあるのか。シシトはセルミネの胎内の奥まで、自身の精液で清めることを望んだ。女に与えられる男からの洗礼。受精し着床した男の要素を得た卵と繋がり、赤子とつながって女は男の一部となるのかもしれない。
 無論それは、射精を煽り立てるための妄想に過ぎなかったが。
 しかし効果は覿面だった。
 膣はたちまちの内に半固体の精液で満たされ、勢いづいた悪漢のように子宮深くまで押し入った。膣から精液の全てを出すことは出来ようが、子宮に入ったものは暫く彼女の中に残り続けるだろう。少なくともトワイライト・ビーチで過ごす残りの日数、彼女はシシトの精液の残滓を子宮にこびりつかせながら過ごすわけだ。
 彼女の夫のことは、もちろん頭をよぎった。だがそれは忘れておくことにした。重要な人物ではあるが、セックスの最中に思い出すものでもない。二人分の精液を子宮に蓄える女……そんな女であると思うのも乙なものではあろう。けれども今は匂いが、肌触りが、口に残る後味が。全てを押し流してくれもする。
 股座に第二の心臓が宿り、危地に見舞われたかのような射精だった。二人の性器の隙間から溢れ出す精液が床に溜まって、覗き込むとシシトは腰を振った。
 精液を掻き出すという名目は、もはや名目以上の力はなかった。射精は既に止まっていたが、次なる射精への準備を男根が始めているのを、シシトは頼もしい思いと共に感じていた。
「んっ……ふむっ、んんっ……んんっ……」
 余韻にうつむくセルミネの体が、垂れ下がる髪と乳房が、ピストンの深さに合わせて揺れている。
 彼女の白い背中が、そこに浮かぶ筋肉のラインが、一突きごとに弾んで、シシトを招いているようだった。
 シシトは応えて、一歩踏み出した。より深い挿入と、彼女とのふれあいを求めて、下腹部で尻を押す。力負けしたセルミネの体が前進して、壁へすがりつくように上体を寄せると、シシトは更に一歩押した。
 一歩。
 また一歩。
 セルミネの上体が起き上がり、乳房が壁へと押し付けられる。その背中に、シシトもまた迫っていた。
 精液溜まりを後に残して、シシトはセルミネを冷たい壁との間に挟み込んだ。
「冷たいわ、シシトくん……っ」
 構わずにシシトは腰を振り続けた。顔をセルミネの後頭部に埋めて、深く息を吸った。上体を押し付けてなお突き出された尻に下腹を叩きつけながら、頭と頭が触れ合って背中と腹の間に空間を作る。もどかしい隙間だった。まるで自分と彼女の関係を表すようで。
 関係。
 一体どういう関係だろうか。
 風呂場に移ったことで、多少なりとも気分が変わったのか。自己暗示に綻びが生じたのか。ふと、気にかかった。
 知れたことだ。これまでも何度となく考えたではないか。
 シシトにすれば想い人の母。セルミネにすれば娘の友達。ただそれだけのことだ。
 だが、なら、何故にここまで興奮するのだろう。シシトは正直言って、このセックスが始まってから心の奥底が驚きっぱなしだった。ここまで激しいセックスは、想い人に対してさえしたことがない。想い人とする時よりも激しい劣情を、セルミネに対してぶつけている。自分にこれほどの獣が眠っていたなんて、思いもしなかった。
 弁えていないのだろうか。それとも、本心からセルミネに惚れてしまったのだろうか。
 いけないことだ。彼女は真実、伴侶の居る身なのだ。今でこそ彼女の夫の許しをもって行為に及んでいるが、思いを深めるきっかけを持つことは危険に過ぎる。
 それにそもそも、どうなのだろう。惚れているのだろうか。いや、もちろん彼女が男を惹きつけてやまない女性なのはわかっている。きっと自分も惚れているに違いない。
 だけれども。
 きっとそれは思慕や恋慕とは違う感情なのだ。そうなのだと思う。男として女に溺れている。多分それが正解なのだ。
 想い人に対して持っている、彼女とのプレイに恥ずかしくも持ち込んでしまう、恋人としての在り方ではない。肉体の全力を引き出し、引き出されてしまう、どこまでも生物的な欲望の発露。先程から自分が囚われている生殖への渇望が、セルミネに対して抱いている気持ちなのだ。
 それはもしかしたら、道筋が違うだけで同じ思いなのかもしれないけれど。
 セックスフレンド。
 唐突に、そんな言葉が浮き上がった。想い人のことを考えたせいだろうか。彼女との関係もセックスフレンドと言って間違いはない。悲しいことだが事実だ。弁えているが、切なさはある。
 セックスフレンド。
 セックスフレンド。
 熱に浮いて、阿呆のように口を半ば開き、セルミネを攻めながらシシトは思う。
 セックスフレンド……考えてみれば、それはそれで素敵なことである。想い人とそうであるから切ないに過ぎない。それそのものは、悪くないことだ。セックスを楽しめる親しい間柄のものが居るなんて。
 シシトは、はたと気がついた。
 セルミネ。
 彼女の体は、どれくらい空いているのだろう。仕事が忙しくてそこまで暇はないように思える。けれども彼女の持っている技術を考えるに、肉体的な疲労はいくらでもクリアできるのではないだろうか。
 あまりに希望的観測が過ぎるかもしれない。これは、色々と調べて見る必要がある。なんなら彼女に直接聞いてみても良いかもしれない。
 そして仕事を抜きにした場合は、どうだろう。彼女は人妻だ。家にいる限り、そこには家族がいる。
 本当に、そうだろうか?
 彼女の子供たちは、シシトの想い人を含めて自立していると聞くし、夫は他にも妻が居るのだ。
 そうだ、家族の在ることは、かつての姿だ。今や家に家族が居るとは限らず、また家族に束縛されないことも示している。
 ひいては自分も、想い人とは都合のつかないことのほうが多いのだ。
 もしも夫が、しばらく他の妻のところに行っているとしたなら……。
 それに夫は、セルミネがシシトに抱かれるよう言ったのだ。シシトとセルミネのセックスを許しているのだ。
 拡大解釈だ。実際は一度きりのことだろう。だが、考えは止まらなかった。自分が一人でいる時間と、彼女が一人でいる時間を、有意義に重ね合わせることは出来るんじゃないだろうか、と。
 セルミネとセックスフレンドになる。
 それはとても刺激的で、途轍もなく良いアイデアに思えた。
「ああっ、セルミネっ、さんっ!」
 思いの丈をぶつけようとして、しかしその大きさのために言葉では収まらなかった。
 思考の間に盛り上がった熱は白濁として再び噴き出し、セルミネの中で溢れかえりながらも生殖の筋肉は躍動して止まらない。射精しながらに男根が次の射精を意識する。食いしばった歯が呼吸を濾して、透明で淀んだ音を立てた。力強く掴んだ手が、セルミネの腰を引き寄せた。
 取り憑かれたように、シシトはセルミネを貪った。事実、取り憑かれているのだろう。彼女を孕ませるという夢ではなく、セックスフレンドという手の届きそうな発想に。
 そしてその発想は、ともすれば夢に手を届かせる階ではないかと、期待を抱いても居る。
 流石に、一年もセルミネが放って置かれるようなことはないだろうが。
 それでもこの夢を見る機会が増えるのなら、これほど魅力的なことなど無いように思えた。
 巡る巡る、妄想は廻る。
 輸精管の中を精液も廻る。
 セルミネに注がれた命の種が、彼女の胎内で気脈へと還元される。
 繋がったシシトへもそれは流れて、再び精液として作り出される。
 次の射精へと、シシトは腰を奔らせた。未だ射精は途切れていなかったが、男根は準備が整っていた。持続する勃起と射精の脈動が自分自身を傷つけかねない、危険な領域への到達。常ならば、そう言える。
 セルミネとの、更には彼女の娘や、以下血族の女子との交合では、必ずしもそうとはいえない。気脈操作による肉体の回復が、男根へとかかる諸々の負担にも及ぶからである。
 先の射精の長い尻尾を捕らえるように、次の射精が始まった。
 極めて長い一度の射精とも見紛う、女に対する執念と妄想の結実であった。
 途切れかかった噴流は再び勢いづき、シシトとセルミネの腰回りがぬめる白濁で染まる。結びついた諸々の液体が雫となり、セルミネの脚を伝い落ちた。
 ビクビクと震えるセルミネの体。締め付ける膣は絶頂の証。白い奔流が媚肉を穿つように叩くと、媚肉の側でも吸い上げる。
 パン! と。シシトはトドメとばかりに腰を叩きつけ、セルミネの尻を波打たせた。
 決意を込めた一撃だった。
「はぁぁ……ああっ……あああ……」
 絶頂の上に絶頂を極めたか。シシトが先の射精の尾を捉えたように、セルミネも絶頂に絶頂が重なったのかもしれなかった。荒い息の中、震えとともにビブラートする、か細く甘い声が混じっている。
 熱い体を掻き抱き、密着する肌と肌。乳房を掴んで揉みしだくと、腰を回して精液を膣壁に塗り込んだ。
 シシトはまだ、セルミネを離すつもりはなかった。腕の中に捕えたままクルリと一回転して、今度は自分が壁側になる。
 壁の冷たさがゾクリと沁みる。セルミネの温もりは確かに残っていたが、繋がったまま背凭れて床に腰を下ろすと、新鮮な冷たさが尻にも背にも広がって跳ねそうになるほどだった。火照った肌が殊更にそう思わせた。
 セルミネの温もりだけが、それを抑えてくれた。
 伸ばした足と足が重なり触れ合う。股の間の床に、白い帯がゆっくりと流れていった。
「……セルミネ、さん」
 セルミネは応えなかった。快感に伴う、意味のない呼び声と思ったのか。
「セルミネ、さん。少し、良いですか?」
「……何、かしら……?」
 立ち上る匂いを肺にいっぱい吸って、一拍おいてからシシトは口を開いた。
「セックスフレンドに、なりませんか……?」
「……続けて」
「僕達、相性がイイというか……何かとちょうどいいと思うんです。相手の方を、非難するつもりはないですけど。僕の場合、彼女はグラビアの撮影とか、他の男の所に居て、体が空いてるというのは結構あるし。セルミネさんも、旦那さんは他にも奥さんが居て、そっちの方に暫く泊まるとか、あるでしょう。そんな、ちょっと寂しい時が重なったりとか、良いと思うんです。僕達」
 上がった呼吸を整えながら、セルミネは空を見た。固唾をのみ、シシトは待つ。胸の中で暴れまわる心臓は、セックスのためにそうなのか、それとも不安のためにそうなのか、わからなくなった。
 長い時間のように思われた。シシトとセルミネの肌が触れ合う場所で、じっとりと湧き出す互いの汗が混じり合い、僅かな隙間をも埋めるようだった。
 一呼吸。二呼吸。どれほどの呼吸を繰り返したものか、もはやわからない。
 人の熱から生じる蒸気が、鼻の奥まで満ちていた。
「ちょっと、落ち着きましょうか」
 横顔を見せて、セルミネは言った。
「こういう事は、しっかり顔を突き合わせて話すべきだと思うの」



8 Edit




 風呂を後に、バスローブを羽織りながら、シシトはセルミネの股を見た。
 白濁はまだ彼女の内腿へと流れていたが、それもすぐにバスローブで隠れてしまった。
 今度こそキチンと膣内から精液を掻き出したはずだったが、やはりその全てが取り切れたわけではない。シシト自身、取り切れなくするつもりで射精したのである。本気を込めた種付けは、子宮に足跡を残したはずだ。
「ベッドは使えないわね。シーツがドロドロで冷たくなって、気分良くは出来ないわ。剥いでしまえば出来るけど、それでやったら眠ることも出来ないし」
 事によっては、いや、恐らく、このまま眠らぬままに夜を明かす可能性の方が高いのではないかと、望むようにシシトは思った。
 もちろん明日の予定に色々と響いてしまうだろうが、しかしそこも彼女の房中の術でなんとかなるのではないかと、これまた期待に似た願いを抱いてもいる。
 全てが想像のとおりに行くとすればだが、ベッドの状態など気にする必要は無いんじゃないか。
 そりゃまあ、冷たくなった精液や愛液や、汗やら何やら諸々の上で転げ回るというのはご遠慮願いたいところであるが。
 しかし睡眠環境について考えることは、シシトの希望を遠ざけるようで憚られた。
 そもそもにして、スペアのシーツが何処かにしまっていたりしないものだろうか。そんなふうな思いで、あたりを見てみたりもする。けれどもそれらしい収納は見当たらないし、布の存在を見て取ることもない。
 ふと、シシトは気がついた。そういえば、シーツの交換などはこのコテージ群、ホテルの側で行っているのであり、客がその辺りについて触れることはない。言い換えれば、出来ないのだ。
 なるほど、セルミネも気にするわけである。連絡すれば替えのシーツを持ってきてくれるかもしれないが、それで従業員を招き入れてしまうのは興ざめだ。
 つまり替えを用意する手立てはない。そして流石に、ベッドの本体まで汚すというのは躊躇われる。
 ひょっとすれば、ベッドごと入れ替えるという剛毅なことまでするかもしれないが、シシトにはそこまでセレブな思考をすることは出来ない。
 眠るにせよ、眠らないにせよ、確かにベッドで続きというのは現実的でないようである。
 思考が現実へと戻ってきたせいか、セルミネが眠ることを前提しているのにも、段々と理解が及んできた。他ならぬ、心あたりがあるのだ。
 想い人とのセックスにて、眠らずに明かしたこともある。
 その日、眠った時と同じパフォーマンスを発揮できたかと言えば、そうではない。彼女らの房中の術は、肉体的な問題を多くの点で解決してくれるが、眠った時に行われるような脳の情報処理まではしてくれないのだ。
 やはり、眠らないわけにはいかないらしい。残念だがしかたないことである。続きは時間を気にしながら励む他ないだろう。時計がないから、感覚でということになるが。
 あるいは、彼女がセックスフレンドの話を了承してくれるのを祈るばかりだ。
 一度の機会に余裕が無いなら、回数を増やせばいい。
 さっき言ったようなチャンスは実際の所、どれくらいあるかわかったものではない。
 それでも、言ったことに関して嘘はないのである。シシトの偽らざる気持ちを言ったつもりだった。
「ここにしましょうか」
 セルミネが見つけたのは、海を望むリビングスペースのソファだった。
 奥行きがあり、柔らかで、素肌にチクリとすることのない生地の、シシトの生活圏では到底お目にかかることのない代物である。
 そこへ持ち出してきたバスタオルを投げ掛けて、セルミネは苦笑した。
「ベッドでもこうしておくべきだったわね。でも……今回は準備してたら、ムードがなくなってたと思わない? それはそれで、ムードが出てたかしら」
 シシトも苦笑を返し、肩をすくめた。
「あはは、どうでしょう。少なくとも……僕はどちらにしても、しないなんてことはなかったと思います。貴女の、セルミネさんのことは、前から抱きたいと思ってました」
「そうだと思ってたわ。シシトくんのことは、結構からかってた憶えがあるもの。貴方の妄想の中で、私はどれだけ抱かれたのかしらね?」
「それはもう……自分でも見当がつかないくらい」
「ふふっ。こうして実際にやってみて、その頻度は減るのか、それともむしろ増えるのか。興味深いところね……シシトくん、座ってくれる? 浅めにね」
「はい」
 頷き、シシトはセルミネの指示の通りに腰を下ろした。奥行きに対してあまり深くは体を預けず、足を伸ばす。上体は倒して背中を預け、首だけを起こしながら楽な姿勢を求めた。
 シシトが落ち着いたと見てか、セルミネもソファに登った。
 膝立ちでシシトの脚を跨ぎ、バスローブを分けて力強い男根を露出させると、自らのバスローブも開いて交合の跡も新たな秘裂をさらけ出す。
 どれほどに深くまで撃ち込まれたものか。止め処なく精液の溢れるその穴を男根の上に据えて、セルミネはゆっくりと腰を下ろした。
 先程抜いてから、まだ十分と経ってはいるまい。シシトの男根をセルミネの膣はすんなりと受け入れ、すっかり飲み込むと上体をシシトに預けた。互いの顔が、間近に突き合わされた。
「それで、セックスフレンドだったかしら」
「ええ。僕の言いたいことは、さっき言ったとおりです。お互いの隙間の時間……実際にはどれくらいあるかわかりませんけれど、それを二人で有意義に使いたい」
「有意義に、ね」
「有意義だと思います。普段では出来ない生活が、出来るはずです」
「それはシシトくんだけ、だったりしない?」
「……そうは、しません。僕もセルミネさんを満足させます。満足できるようにします」
 波が打ち寄せる。
 コテージを支える床下の柱に当たって、あぶくが渦巻いて音を立てた。
 風が吹いていた。
 眠たげな太陽に暖められて、リビングで気だるげにとぐろを巻いた。
 影は長く固い。
 彼方の海で浮かぶ光は、それ以上浮かびも沈みもせず、泳ぐこともない。
 男と女は見つめ合って。
 互いの吐息と鼓動だけを手がかりに、時の流れていくのを横目に見ている。
「そう」
 先に視線をそらしたのは、セルミネの方だった。
 まぶたを閉じて、頭もシシトの体に委ねると、その重みがシシトの肩にかかる。
「考えておくわ」
「セルミネさん」
「そんなに答えを急ぎたい? 眠りを跨ぎましょう。時間が教えてくれることもあるわ」
 シシトは言葉に詰まった。
 見た目では計り知れないセルミネの経験だとか、それに対する反発だとか。
 口にしたいことはいくらでもあったが、女性に対して歳の話をするのは、こんな時でもする気にはなれなかったし。不用意な反発を言葉にするのも、あまりに子供じみているような気がしてプライドが許さなかった。
 体のいいあしらいをされたのだと、そう捉えることも出来る。東の国では実際にこういうやり方もあると聞く。
 それでも、言葉の上で希望は残っているのが、シシトの舌を痺れさせた。本当に考える時間が欲しいのかもしれない。
 どちらだろうか。
 セルミネは教養人だ。そう言うあしらいをするかもしれない。けれども教養人故に、曖昧なあしらいを避ける可能性はある。
 曖昧なあしらいには、曖昧ゆえの隙がある。考えておくと言ったのなら、後に考えの経路を尋ねられた場合、答えられなければ嘘つきのそしりを免れないだろう。
 いや、考えてみれば結局は同一なのだ。
 体のいいあしらいであるにせよ、本当に考えるつもりであるにせよ、どちらも考えることはある。そしてもしも拒まれたのなら、主観的にはどちらとも取ることは出来るのだ。シシトの心持ち次第なのだ。
 うん、と言ってくれるのでなければ、その時はシシトの心が試される。それは広さか、あるいは強さか。そこまでは、シシトにはわからなかったが。
「ずるいです」
「ええ、私はずるい女よ。知らなかった?」
「今はもう、知っていますよ」
「そうね。ふふっ」
 忘れはしまい。
 だが、心を囚われるべきでもない。
 明日は明日の風が吹くと言うではないか。
 色好い返事を期待しよう。諦めも用意しておこう。
 悲しみに耐えられるように。より大きな喜びを得られるように。
「続き、いいですか」
「ええ、いらっしゃいな」
 セルミネのバスローブに手を滑り込ませ、シシトは尻を掴んで揉みしだき、そして撫で回した。しなだれかかったセルミネごと体を起こすと、持ち上げてソファに組み敷き。結合は解かぬまま、ゆっくりと深く、子宮を突き上げる。
 潮の匂いに混ざって、花の香りがした気がした。風が遠くから運んできたのか。それとも、今まさに下から立ち上ってきたのか。シシトにはわからなかった。
 出処を探すように、シシトの手がセルミネの襟元をつかむ。バスローブの胸元を引き下ろし、ぷるんと揺れる二つの山を、花の香りを呼び起こそうとするように小さく弾いた。
 汗ばんだ女の、生々しい匂いが立ち上った。心の求めるものではなかったが、しかし体は求めていた。
 セルミネの片腿を跨ぎ、もう片方の腿を腋にゆっくりと抱え込んで、互いの脚で十字を作ると、強く静かに腰を押し込む。激しい情念をしかし、じっくりと刷り込もうとするように。時間をかけた前後の運動で、精液の満ちた子宮に訴えかけた。
 肉棒の表面で膣の刺激全てを味わい尽くし。そして女には肉棒の全てを味わい尽くさせるように。根本まで飲み込ませると左右に振って、ネジを締めるように小さく腰を回す。
 引けばカリ首で全てを持ち出そうとするように、肉襞の全てに引っ掛けて膣肉を手前に引き寄せた。セルミネの股はしっかりとシシトの男根に吸いつき、膣口をすぼめて尖らせる。
 動きを止めて、深く息を吐きながら、シシトは再び腰を押した。そして同じようにして、腰を引いた。
 これまでにない静かなセックスだった。
 しかしだからこそ、二人は今日最も深い繋がりを得ているのを意識する。
 肉棒をせり上がる欲望は緩やかで、故に力強くシシトを後押しした。快楽と性欲と緊張に伴う、全身を覆う独特の、痺れにも似た筋肉の熱い弛緩が、男根に全精力が集中していることを示していた。
 血流の同調、気の合一、鼓動の一致……お互いに、お互いの精神を覗き込もうとする動きが、それをもたらすのかもしれない。
 その瞳の奥で何を考えているのか知ろうとして、無意識が相手と同じものになろうとする。相手と同一のものになれば、その心の中さえも同一になれるかもしれないと、儚くも希望して。
 それは全く、無駄な行いではないだろう。心の同一は見込めなくとも、肉体は一体となりうる。肌と肌とが、肉と肉とが、障壁ではなくそれを至上とする関係を求めればこそ、宿る疼きは高められて頂へ登り上がらんとする。
 愛ではなく、執念なのだ。自らに宿るモノを再確認して、シシトは深いところでほっと息をついた。
 彼女の肉に対する執念であり、その心を得ようとする愛ではない。肉体の主導する、繁殖への甘く心地よい苦しみであって。成就すべきではない願望への、消しきれぬ切ない痛みではないのだ。
 それが良かった。いや、それで良かった。
 これでこそ、肉の快楽に集中できる。肌の触れ合いから生じる親密の夢に、耽溺しうるというものだ。
 努めて、シシトは腰を早めなかった。吸い寄せるような媚肉の快楽に骨が折れる思いだったが、シシトは屈する事無くじっくりとセルミネを焦熱の刑に処した。
 結合部から、粘膜の接触面からじわじわと熱が蝕んで、骨の髄まで沁みていく。
 亀頭の尖端、鈴口から裏筋を辿り、陰嚢の中心をなぞって、会陰から前立腺へと女の味が伝わっていくのを感じた。
 男は女に注ぐだけでなく、女からも何かを吸い取っているのだと、思わずには居られなかった。
「うっ……!」
 尖端を子宮口に安置し、シシトは放精した。
 骨を廻るような疼きが、骨のない肉の棒に集まり、人の精髄を解き放つ。四方を肉に阻まれた銃口の先は、必然的に前方の空間へ粘液を撃ち出し。弾丸は奥の壁に着弾して張り付き、べっとりと厚く塗り重ねられた。
 続くこと、およそ二十秒。その間、二人は言葉もなく、ただ見つめ合っていた。



9 Edit




 夜は明けたのか?
 シシトにはわからなかった。
 結局寝ずの晩を越していたのなら、今日という日を寝て過ごすことになるかもしれない。自分も、彼女も。
 だがそれも、悪いものではないように思えた。彼女の時間を、自分のわがままで歪めたのだとしたら、そこに邪悪な喜びを見いだせるからだ。
 無論、決して褒められたことではない。しかし自分のセックスで女が動けなくなるのは、男としてどこか誇らしくもあった。
 常の優しさが戻り始めて、それに耽溺することはできなかったが、薄くとも楽しむことはできる。
 時間は忘れた。
 このまま疲れて眠ってしまうか、朝になって迎えが扉を叩くか。その両方が起きるまで。セルミネとのセックスを止めたくはなかった。
「……夕日」
「ええ」
「夕日、綺麗、ですね」
「ふふっ。そうね、とても、綺麗だと思うわ」
 何を言えば良いのかわからなくて、思わずこぼれた言葉に意味はなかった。ただ正直な、今の気持ちだった。
 トワイライト・ビーチの、海に浸かり微睡む太陽。
 赤い光に塗れて、汗に濡れたセルミネの肢体は煌めき、影を孕んでいた。それが、たまらなく美しかった。
「お返事」
 思いがけない自分の言葉に、シシトは息を飲む。
 言うつもりのなかったことを、気づけば喉から取り落としていた。
 唇を噤もうとして。
「お返事、待っています」
 しかし、口は閉じきらなかった。
 女々しいと、自分でも思う。こんなことを言うなど。
 セルミネは何も言わず。ただシシトを抱きしめ。
 シシトは女々しさを誤魔化すように、再び雄々しく腰を振り始めた。



   終


Last-modified: 2018-02-10 Sat 01:32:31 JST (2267d)