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初めて人を殺したのは二十歳の誕生日だった。 別に感情的になってやったことじゃねぇし、これでもいろいろ考えた末に出した答えだ。 だが、こうでもしなきゃ気持ちが収まらないってのは確かにあった。 死ななきゃ分からないやつはこの世には飽きるほどいる。 あいつもその一人だったってわけだ。 かといって街に留まるのは皆の迷惑になると思ってその日のうちにこっそり街を出た。 勘付いてたのか門を出た時どこからともなく金貨の入った袋が投げつけられた。 返そうと思ったがそうしてる暇も無かったので仕方がなく頂くことにした。 今後のことも考えなきゃいけねぇし、どうしたらいいのかもさっぱりだった。 そんなときよく文句を言ってたジジイの言葉を思い出した。 「冒険者とは気楽なもんだ、わしらはこうして日々の生活もやっとだというのに……」 その分命張ってんじゃねーかとその時は思ったが……。 「そう言う手もあったか」 確かに気楽なもんだと自嘲した。
いつごろだったかは忘れたが、気が付けば圧政により生活は苦しいものになっていた。 そんな中食い繋げながら親友と剣の稽古をしていたものだ。 「今は苦しいかもしれないが、いずれはこの街を圧政から開放してみせるさ」 いつも親友は俺に理想を語ってくれた。 騎士団に入団して中から変えていく。 まさに夢物語だった。 「中から変えていくだなんて絶対に無理だ」 いつも否定するが、親友には揺ぎ無い決意が宿っていた。 その後、二十歳を迎えた親友は騎士団へと入団した。
騎士団に入団した親友は鎧を俺に見せつける。 「どうだ、似合ってるだろう?」 得意げに笑みを浮かべる親友に俺は。 「似合ってねぇよ」 つい憎まれ口を叩く。 それを分かってか親友は笑みを返す。 確かに凛々しい顔立ちに相まって似合いすぎるほどであった。 「とは言っても、私はまだスタート地点にも立ってはいない。まだ何も始まってないんだ」 その言葉とともに拳を握りしめる親友を見て俺は。 「でも進むしかねぇんだろ?」 俺にとって最大の激励を送る。 「あぁ、期待しててくれ」 「楽しみにしてるさ」 その時は俺も少しは期待していた。 期待をしちまったんだ……。
久々に顔を見せた親友は憂いた顔をしていた。 「どうした。現実でも見せられたか?」 そうそううまくいくとは思ってはいなかった。 「その通りだ。思った通りにはいかないものだな」 ため息をつく親友を見て。 「諦めちまうのか?」 叱咤を。 「諦めるわけがないだろう」 返ってくる言葉を知りながら。 「その意気だ。俺も二十歳になったら騎士団に入って手伝うさ」 何かの助けになればと思って。 変えたいのは俺の意志でもあって……。 「その言葉、感謝する」 微笑み返す親友。 「そうだ、久々に二人で剣の稽古をしないか?」 その提案に俺は。 「もちろん。とことん付き合うぜ」 打ちのめされるのを知りながら、軽く返事を返すのだった。