澄み渡る空は青く、中天に輝く太陽は大きく、遮るもの無く目に眩しい。
それはそうだろう、実際に私達と太陽との間に遮るものは何もないのだ。ここでは雲は足の下にあり、
太陽の光を浴びて白く輝く雲海が広がり、私達のいる場所はその上を小舟のようにゆく一機の輸送機の中なのだから。
「……なぁなんで俺らは絵一枚盗むのにお空の上を飛んでるんだろうなぁ」
「ダニエルの旦那ぁ、もう何度も説明したでしょう?今回狙う富豪の館は辺り一帯を勢力範囲にしてる。
盗人がその範囲に入ったことがバレたら狙いのお宝は仕舞い込まれ、警備は蟻の子一匹入れねぇくらい厳重になっちまう」
「だからその中にある高山の更に裏側に空からエントリーして、山を密かに降りて館へと隠密で接近するんです。
…これ、もう5回くらい話してますよアルバさん」
アルバさんの言葉を引き継ぎ、そう言う。ダニエルさんだってもう分かっているには違いないのだが、ダダをコネているのだろう。
彼も数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろうが、まさか地上からの監視に引っかからないくらいの高高度からの
ダイビングなどはしたこともないだろう。苦虫を噛み潰すような絶妙な表情をしてるのは酒が抜けているからだけではないのは直分かる。
それと似たような顔をしているのは圃人の青年。こちらは更に青ざめている。
「今更だけどさぁ、僕も前線行かなきゃいけないってちょっと無理あると思うんだよね。
ネットワーク的に孤立してるのは分かる、分かるよ。でもさあ、ギークの仕事じゃないと思うんだよなぁ…!」
「仕方あるまい。中継システムを組めるくらいの余裕があればそうしてやりたいが今回もそれは無理だからな。
俺たちで守ってやるから安心しろ。だが…もちろん自助努力も怠るんじゃないぞ。お前の超精度カメラが肝だ」
圃人さんを気遣いながらも、油断はさせないように締める所は締める只人さん。その佇まいは現場指揮官として充分な風格を感じさせる。
「…現地付いたらアイス作ってあげる。魔術で」「あ、それならボクも欲しいネ。かき氷でも良いヨ」
などとフォローになってないフォローをするのは森人ちゃん。その横で特に緊張もなく気楽そうに言うのはジェンだ。
このチームを正式に結成した頃に比べたら随分ジェンも背が伸びた。結成当時は森人ちゃんと似たようなものだったのに、
今や普通にその背丈を追い越してしまっている。元からかなり大きめに作ってある外套が小さくなってきて
仕立て直しをしなければいけないと頭を悩ませていたけども。あの独自技術が満載の外套を直せる業者などそうは居まい。
もう三年も経ったのだ、チームに流れる空気も一体感のある心地よい物となっている。
「はいはい!私語はそこまで!」そうするとアルバさんがぱんぱんと手を叩きチームを引き締める。
「もうすぐ空中浮遊旅行の時間だ。改めて言うが俺とアマレットは勢力圏外からこの輸送機で後方支援と指示を担当。
ちっこいのの魔術支援で山を降りたら、ジェンを斥候兼陽動にして先行させて、お前が隊の先頭及び指揮。
オタク野郎を中心にして守りつつ、ダニエルの旦那は後方で殿を頼みますわ。
その後はアマレットは全員のモニタを監視してくれ。比喩無しで毛ほども違和感があったら俺に報告頼む」
そこまでアルバさんが言って全員を確認。皆良い面構えをしている。自身満々に頷けば、
オートパイロットにしていた輸送機のコクピットへとアルバさんが二つの尻尾をふりふり戻って、スイッチオン。
ばかり、と輸送機の後方隔壁が開き、ひゅごう、と機内の空気がもっていかれ、冷たい空気が満ちる。
「GOGOGO!さあ、ミッションスタートだ!今回も完璧に守ってるつもりの間抜け共に吠え面かかせてやろうぜ!」
そうして、皆が次々と大空へと飛び出していく。ダニエルさんと圃人は最後の抵抗をしていたが、
苦労人の只人さんに押されて渋々と床を蹴って飛んだ。なんか二人共カエルが潰されたような声をしてたが忘れよう。
私はそれを最後まで見守って事前に決められた自分の持ち場へとすばやくつく。
本日もチームアルバの華麗な仕事の始まりだ。締まっていこう。
「へェ、それで無事、超国宝級の大天才の未公開絵画をゲットしたって?」
幾つもある彼のセーフハウスの一つ、そこで忙しい日々の合間を縫って現れたハローさんに事の顛末を話す。
「元々、その存在を長年噂されてたんですが、実在だけが分からなかった絵でした。私も鑑定士の真似事するために
その画家さんの絵の勉強すっごくしましたよ…それ自体もアルバさんの指示でしたが」
「やるねェアルバさん。あっちも頑張ってるってことだねェ。うちも見習…うまでもなく働いてるな」
嬉しそうに言いつつ苦笑するハローさん。大金庫の件の時に多くの人員を吸収した彼は、幹部の中でも一際存在感の大きい人物になっている。
幹部になる前から仕事の振り方は人一倍上手かったが、それでも追いつき切れないほど仕事はあるだろうに
実際会ったりするとその余裕の笑みと親しみやすさは変わらず、この人完璧超人か何かなんだろうかという思いは今でも変わらない。
「んでも館にゃ美女は居なかったけどな!一体俺はいつになったら女スパイとのロマンスを味わえるというのか!」
「ボクもちょと暴れ足りなかったネ。身を隠すのはこれ以上なく上手くいったケド、欲求不満ヨ」
「はいはい、ダニエルの旦那にゃ後でおすすめの可愛い子いるお店紹介するからそれで我慢してくださいよ。
そしてジェンには朗報だ、ちょうど今、こっちでも大きめのヤマがあってねェ。三人を呼んだのもその仕事を頼みたくてさ」
三人に差し出される書類の束、それをさっと目を通せばその依頼主は意外な人物で。
「そう、タウラージの旦那からうちに回ってきた仕事だよ、特に処理する人間を指定された訳じゃないけど、三人に頼みたくてねェ。
知ってるかなァ?今あの旦那、街の表側の方でも結構な顔になっててね、近々選挙に打って出て政界に出ようって腹さ」
内容自体は一瞬で覚えたが、それを咀嚼すれば、ファミリーと明確に敵対してはいないものの、
お互い触れないようにしていた裏社会の組織が、ちょうどタウラージさんがが出馬する選挙に対立候補を擁立したとのことだ。
そこで、タウラージさんからの依頼はその対立候補の妨害、もしくは背後組織の弱体化とのこと。
背後組織は相当の武闘派であり既にタウラージさん以外の有力な立候補者が不自然な失脚をしていることが分かっているそう。
その手段は、暴力。それでいてその事は表社会の存在には気づかせていない狡猾さもある。一筋縄ではいかない相手だ。
「この仕事を上手くこなせばタウラージの旦那に恩が出来る。そして無事政界の深い所に食い込めばファミリーとしても
更にこの街でやりやすくなるって訳だねェ。どう?出来そうかなァ?」
「ええ、出来ます。私達なら。それに…タウラージさんにはまだ返しきれてない恩もありますしね」
「その辺は気にしなくてもいいと思うけどねェ。ま、いいか。OK、ならそう返事しとくよ。三人共頑張ってねェ」
頭を下げて私達はセーフハウスのハローさんの部屋を出た。それを笑って見送りながら懐から男が煙草を取り出す。
「あ、残り一本しか無いわ。…まいったな、また煙草値上がりしたってのに。喫煙者にゃ厳しい世情だねェ…」
しゅぼ、と最後の一本に火を付けて煙を肺に吸い込み、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
三人に頼んだ仕事が成功すれば表社会に太いパイプが出来て、今でも大きすぎるほど大きい男の影響力は更に広がる。
それはもはや、この街を裏と表から牛耳っているのに等しくもあるような。
「……ボス、目指しちゃおっかなァ……」
また紫煙が吐き出された。男の考え事は…その一本が吸い終わる頃には決まるだろう。
「サーモンサンドとアールグレイのセット、入りました。アマレットさんお願いしますね」
シスター喫茶『クルトゥーラ』の厨房に声がかかる。定番のセットの一つの注文だ。
「はーい!セット頂きました!ちょっとお待ちくださーい!」
忙しなく厨房を行きかいながら返事をする。その間にもこの間入った新人の子に紅茶の淹れ方の指導をする。
お昼時の忙しい時間帯。注文は飛ぶように舞い込んで、自らの任された厨房という戦場で機関銃のように料理を作り出す。
「ふふ、今日もお客さんがいっぱいです。この大量に集った視線…心躍りますね。
今日はちょっと派手にラメ入りぱんつを履いてみたんですよ、目立ちますしこれなら注目間違いなし」
「ああ…だからですかティアナさんからの注文が多いのは……。それはいいんですけど注文間違えないでくださいね?」
「大丈夫ですよ、この前は聖水プレイだかをご注文のお初のお客様がいらっしゃいましたが、
きちんと聖水を頭からかけてあげましたから。…あのお客さん、すごく喜んでましたね。うちじゃタダみたいなものなのに」
不思議そうに首をかしげる彼女に苦笑で答える。そのお客は期待とは裏腹に随分と清められて帰っていっただろう。
元より清楚な色気を持ち合わせていたのに更に大人びた色気を備えた近頃のティアナさんは同じ女性の私から見ても相当に魅力的だ。
このクルトゥーラの事やティアナさんのことをよく知らなければそういう邪念で来店し声をかける気持ちも分からないでもない。
「ちょっと……またボクナンパされたんだけド…あいつら目が腐ってるのネ?あ、ダージリン入ったヨ」
「あらあら、風紀が少々乱れてますね。これはよろしくありません。一応ここ、神の家の一部ですし」
そんな事を一番風紀を乱してる人が朗らかに言う。割と長い付き合いになってるけど、ティアナさんの考えは未だに掴みきれてない所がある。
背が伸びたジェンは私から見れば結構男の子っぽくなってると思うんだけど、中性的な顔つきはまだまだ残っているので、
ジェン用に肌を出さずに、なおかつ可愛らしく、それでいて清楚さを感じられるようにアレンジされたシスター服を着ていると
勘違いする人は多い。大体のお客さんはやっぱりティアナさんに目を取られるのだが、それでも彼女の奇抜な服装に慣れると
他にも目が行くということのようだ。そういう意味では、ある種他のジャンルになっている所はある。
「あん?聖水割りおかわり?駄目だ駄目だ、真っ昼間のこの時間からそんなに呑んでんじゃねぇよ!俺だって控えてんのによ!」
カウンターにも設けられた調理スペースに陣取って、若干他とは客層が違うお客さんを相手しているダニエルさんが言う。
一応ちゃんとシスター服は着ているものの、やってることはほぼバーテンだ。相手をしているのも昼間からお酒を呑んでるような人ばかり。
酒飲みこそ酒を知る、ということなのかダニエルさんの作るお酒は結構評判が良く、昼間の今こそ客は少ないが夜になると
お酒を呑みにくるようなお客が多くなる。そうなるとティアナさんの無防備なお尻に手を出そうとしたりとかするお客さんも居て
そんな時はカウンターを乗り越えてダニエルさんが拳を出したり酷い時には模擬弾を撃ったりしてお仕置きする。
なので呑みの方の常連客の間での合言葉は"酒飲みシスターにすね毛を出させるな"
……そうやって暴れるダニエルさんのスカートから処理してない毛が見える事にげんなりしたお客さんが言い出したらしい。なんともはや。
「ん、サーモンサンドとアールグレイ!あがりました!」
「はい、確かに。もう少しすればランチの時間も終わりです。あと一息ですよ」
そんなこんなで近くの港から直送のサーモンと、聖水を使って育てられた野菜を挟んだサンドが
出来上がったので、紅茶を淹れてティアナさんに渡す。彼女はそれを受け取りホールへと戻っていく。
目にも眩しいお尻と太ももをいつのものように惜しげもなく大公開したまま。
…もう見慣れたけど、よくこの店衛生法とか風俗法に引っかかってないなとか思う。
「っと、ダージリンだっけ?今すぐ淹れるね、まってね!」
ぼんやり考えてる暇は無い。ひとまずはあと15分を乗り切らなければ。
お腹を空かせたお客さんが待っているのだ。
「はぁーーー、疲れたー…ただいまー…」
遅めの夕刻。そろそろ陽が落ちる時間帯。どやどやっと、私とダニエルさんとジェンが古ぼけたビルへと帰ってくる。
以前は事務所だったそこは、今は別の調度品が備えられ、ロビーにへと変わっている。
そこに備え付けられたテーブルと、椅子。その椅子に座っていた病的を越えて陶器に近いほどの白い肌に、
薄紫色のボリュームのある髪、そしてあの彼女とは違う赤い瞳を眠そうに閉じかけている少女が、は、と私達に気づく。
「おー……お帰りみんなー……カカラちゃんもう少しで二度寝しちゃうところだったわー……」
瞼をこすりこすり、むにゃむにゃとパジャマ姿で言う少女。少し前にいつものようにキカラさんに病院に焼き肉を奢りに行ったダニエルさんが、
『なんか押し付けられた…』といきなり連れて帰ってきたキカラさんの分身、カカラちゃんだ。
最初はダニエルさんがキカラさんを攫ってきたのか、と驚いたがどうにも聞く所によれば魔王になったマートさんの力で
カカラちゃん以外にもキカラさんが増えて、カカラちゃんはその一人…ということ、らしい。理解に苦しむ。
とはいえ、実際、殆どカカラちゃんはキカラさんと一緒の見た目だったけど、最近はマシになってきたとはいえ病的に色が白い
キカラさんよりも肌白く、彼女の瞳と違う色の赤い瞳を持っていて、そして、
「うへへへ……それじゃおはようのカカラちゃんにご飯がほしいなー…おなかぺっこぺこでさー…」
ごめんねー、と謝りながら袖をまくり、腕を差し出しカカラちゃんの口元へ持っていく。私の細い腕を少しの間ぼーっと見ていたが
直にカカラちゃんは口を空けてかぷ、と腕に噛み付く。
「んっ……あっ……」
ちくりとした痛み。注射器よりは痛く、包丁を扱い間違い刺してしまった時よりは全然痛くない痛みが走る。
そしてちゅうちゅう、とこちらが痛くないように気を使って優しくカカラちゃんが血を吸っている。
そう、彼女は吸血鬼のキカラさん。有名な吸血鬼カーミラに因んでカカラちゃんと呼んでいる、正真正銘の吸血鬼だ。
「ぷはっ…ありがとねー。輸血パックも飲んでたんだけどそれだけだと力が出なくてさー」
口元から私の血がつう、と一筋垂れている。まだ眠気が抜けきらないのだろう、それを苦笑して拭いてやる。
そしてジェンも傷だらけの二の腕まで袖をまくり、差し出し、同じ様に彼女に血を与える。
「……ジェンくんの血はちょっと甘い気がするなー。お菓子食べ過ぎじゃない?血糖値荒ぶりすぎじゃない?」
「余計なお世話ネ。…うちだけじゃなくマートにも色々食べさせてもらってるからかネー…なんでもお取り寄せするシ…
まさか部屋に居ながらにして世界一周お菓子の旅が出来るとハ、このジェンの目を持ってしてモ…!」
控えねば、みたいな顔して袖を戻すジェン。彼女が来た最初は露骨に嫌そうな顔をしていたものの、
肌を見せても構わないというくらいには気を許したようだ。そうしてダニエルさんの腕にもかぷり、と噛み付き、
「おっちゃんの血は相変わらず不味いな!!ってお酒控えるんじゃなかったのかー!アルコールの味するぞ!」
「うっせぇ!デカい仕事片付いた後なんだからそん時くらい飲んでもいいだろ!」
大分血を吸ったのと、時間的に遅くなってきたので元気になるカカラちゃん。
彼女が来て、だいたい皆で傷が消える頃に血をあげるローテーションが始まったその時から、カカラちゃんは
ダニエルさんの血が不味い不味いとずっと言っている。でもカカラちゃんがダニエルさんの番を飛ばしたことは一回も無く、
そんなに不味いならとダニエルさんが輸血パックで済ませようとすると拒否した。なんでだろう。
「こうやってちゃんと定期的にチェックしないとおっちゃん隠れて酒飲むからなー!健康になるだの言ってただろー?
それなら一足先に健康になっちゃったカカラちゃんが先達として見とかないけませんわー!!」
「え、なにそのパイセン面。つってもお前キカラと同い年じゃねーか!っつーか厳密にはゼロ歳じゃねーか!
そんな赤ん坊に偉そうな面されっほど俺ぁ落ちぶれてないんですけぉーー?ばぶばぶー?」
「そ、そういうとこだぞおっちゃん!!カカラちゃんの真心を無碍にするとは…アラフォー死すべし!天誅ー!!」
「ぎゃーーー!?」
あ、ダニエルさんが死んだ。思いっきり血を吸われてちょっとしなびてるけどお酒飲んどけば大丈夫だろう。たぶん。
「ふっ…また虚しい勝利だった…敗北を知りたい。敗北の味ってなんだ。ビターチョコレート味か」
などとカカラちゃんが勝ち誇りつつ仁王立ちをしていれば、ふと気付いたように|
「あ、今度はみんなどんなお仕事してきたん?ビックリドッキリ大冒険?」
その赤い瞳を好奇心いっぱいにして聞いてきた。吸血鬼となり健康?になって、ベッドに縛られることはなくなった
彼女だけども、その代わり日の光には弱くなってしまったし、食事も主に血と制限がついてしまった。
誰にも止められることはなくなったし、食べ物も元から制限されてたしと彼女は笑っていたが、
そんな彼女の好奇心だけでもと満たしてあげられるよう、こうして仕事の話などは良くしてた。
「………でね、すっごい細かい所まで見れるカメラ越しに、贋作の絵を見破ったりとかしてー」
「マジでかアマレットちゃんパないねー!あー私も何か仕事したいなー!今の私に向いてるような夜のお仕事!
…待って待って今の無し!響きが悪い!それになーカカラちゃんが夜の衣装を身に纏ったら皆を魅了しちゃうしなーー!」
「没有」「ないわ」
「ゲフゥ!!」
「あ!カカラちゃんまた血吐いた!!お、落ち着いて落ち着いてね、ハローさんに今度何か仕事貰ってきて
カカラちゃんに合うようなお仕事探してくるからね、最初は簡単なやつからー、慣れてきたら私達と一緒にお仕事しよ、ね?」
慌ててタオルを持ってきてカカラちゃんが自分のパジャマにぶち撒けてしまった血を拭こうとする。
カカラちゃんは皆に貰った血がもったいないってパジャマからちゅーちゅー吸ってたけど止めておいた。また吸えばいいのだと。
「オイ大丈夫かカカラよ。お前さん明日ガアラとジェロームん所のガラガラ組だかでキカラ定例会とかに行くんじゃねぇっけ?」
「いっけね!そういやそうだったわー!元気ちょっとは残しとかないとな!!」
「それじゃとりあえずカカラちゃんの部屋行って着替えようっか。
ふふふふふ…カカラちゃんに似合うと思って買っておいた服があるんだぁ……」
ねっとり笑う。カカラちゃん微妙な笑み浮かべる。私がっつり肩を掴む。逃さないよ?
「アマレットもアマレットで銀河のトコでケーネ呼んデ第何回だかの良い女とは会議するんじゃなかったッケ?」
とジェンが聞いてくる。が、それには自信有り気な微笑みを返す。
「……ふふーん、もうその会議、私には必要なくなりそうだからねー」
そう、それはつまりそういうことで。
「はぁ!?初めて聞いたぞそれ!!おい何処の馬の骨だ!下手な骨だったらぶち折ってやる!」
「フフ…おめでト。そこの飲んだくれは黙るネ。うるさいネ」
ジェンが気を利かせて?ダニエルさんを鉄ハリセンで沈めておいてくれた。
「あははっ、今は秘密です」
桜色のルージュを引いた唇に指をあて、内緒のポーズでその場を納め、ロビーからカカラちゃんを部屋に連れて行く。
階段を登る途中、途中の窓で夕日が完全に沈んだのが見えた。今日が終わりの準備を始めるのだ。
そうしてしばらくすれば、明日が始まり、朝が来る。今まで来たように、明日も、明後日も同じ様に、いつだって。
今日みたいな騒ぎが始まっては終わり、また始まるのだろう。それを思い、微笑みを漏らし階段を上がる。
さあ、昨日は終わった、明日への準備を始めよう、今を楽しむための準備を。
陽はまた登り繰り返していくのだから。
+
| | 『アンダーワークSS』
|
【襲い来るは獣の爪。濡れて光るは人の牙。】
ぱん。最初は、銃声から始まった。
ファミリーの仕切る街のある区画、開発途中で頓挫した建物が並び立つ町並み。
太陽の輝く中、昼間でも殆ど人気の無いその街とも呼べぬような町並みの中で遠方から一発の銃声が響き渡る。
「……………始まった……よ…………」
工事途中の一際高いビルの屋上。
桃色の髪をした少女が銃声と、その大本を無表情で確認し、口元につけた何かに対しそっと呟くように語りかけた。
「…………了解………移動を……開始する………」
それは通信機、此度の襲撃に際し用意されたものだ。互いに連携を取るためにいつかのヤクザ抗争でも使われた物。
「ドーニャ気をつけてねェ。そこ足場悪いから。でも出来る限り迅速に、だけど怪我はしないこと」
「………うん…分かった………」
通信機から聞こえる慣れた男の声に、短く答え、少女は屋上から姿を消す。
それと入れ替わりになるように、もう一発、路上に乾いた銃声。
「ひぇぇぇ!!たぁぁすけぇぇぇてぇぇぇ!ころぉされぇぇるぅぅーーー!」
続いて響くのは酒焼けした胴間声。間の抜けたどこか一本調子のそれが響けば、
それよりはだいぶ小さく、だが確かに獣のような唸り声が、幾つも、幾つも後を追う。
「ダニエルの旦那ァ……舞台俳優とは言わないけどせめてお遊戯会くらいは頼みますよォ。大根過ぎ」
「うっせぇわ!逃げながらやってるにしちゃマシだろ!」
通信機に小声で叫ぶという器用な事をしながら、よれた黒のスーツと中折帽の男が寂れた通りを走る。
その向かう方向には、廃墟と化して長い時間が経ったであろう、大型ショッピングセンターが鎮座していた。
時折後ろを振り返りながら発砲し、無駄にデカい声で棒読みの命乞いなどしながら懸命に走る。
「…奴らが本格的に頭悪くて助かったねェこりゃ」
呆れたように通信機の向こう側から声がする。
もはや構ってられないのか、男が建物の入口をばたばたと抜ければ、続いて抜けるは獣の姿。
いや、人の形をした獣人達だ。そのうちの幾人かはダニエルの拳銃により血を流しているが、
駆ける速度が落ちて後ろに下がるのみで男を追うことをやめようとはしない。
「やばいーー、俺たちの隠し拠点まで逃げちまったーー」
はぁァー、と通信機から長いため息が漏れた。
「最悪一歩手前のモンだったが旦那は仕事をしてくれた。次は頼むよォ"黒騎士"。ヒザキの旦那の紹介だ、期待してる」
かつては客で賑わっただろうショッピングモールのエントランスホール。
今は埃の積もった薄暗いそこに、全身から異様な圧力を放つ、黒い鎧の姿があった。
通信機からの声に返答もなく、さながら影のように佇む鎧とは対象的に、騒々しく走り込んでくるダニエルの姿。
その背後から襲い来る、肉に飢えた獣人達の波を、闇色に染まった兜の奥から見つめている。
よれたスーツの男が僅かに訝しげな顔でその横を駆け抜け通り過ぎる。こいつに任せていいのか、そんな顔をして。
そのままエントランスを突っ切って、男が建物の奥へと消えた時。戦端は開かれた。
「ガルルルルルルルルァァァァァァァアア!」
獣の咆哮。狼の獣人であろう先頭の大柄な獣人が吠えた。下手な鎧などベニヤの如くぶち抜く強靭な獣の筋力を持って、
狼獣人が鋭い爪を振り下ろす。が。鋼鉄の柱を叩いたような鈍い音。黒騎士が棒立ちのまま片腕を持ち上げ、
自身の倍近くはあるであろう獣人の爪を腕ごと受け止めたのだ。
「…………」
眼前の人間が言葉一つ上げず難なく受け止めたことにひるむ獣人。その隙を逃す程黒騎士は甘くなかった。
即座に受け止めた腕を逆に握り返し、絞るように捻る。肘から腱がブチブチと音を立て切れる音、ごきり、と骨が外れる音がする。
痛みに悶絶する狼獣人が悲鳴を上げようとするその瞬間。車がノンブレーキで人間にぶち当たったような音。
黒騎士が空いていた拳で獣人の胴体を殴ったのだ。その拳には…紫電の輝き。
とうとう最後まで声を出せず放物線を描いて大柄な獣人が壁にぶち当たった時、周囲の獣人が黒騎士へと飛びかかる。
一閃、中空に雷が走る。煌めいたのは黒騎士の上段回し蹴り、力だけではなく技の研鑽を感じさせるそれが残光を残し走った。
数人まとめて弾き飛ばされ、蹴りの当たった場所からはぶすぶすと獣毛が焼ける音と肉の焦げた嫌な匂いがする。
続けて左右から突っ込んでくる獣人、それを視認すらせず両手を振り上げ、左右それぞれに雷の刃と化した手刀を振り下ろす。
切り裂かれた胴体からは血が流れ出し、またその傷口は焼け焦げたように黒ずみ、獣人たちは仰向けに倒れ。
それを一顧だにせず黒騎士は次の獲物を探すかのように辺りを睥睨する。先頭集団の出鼻は挫いたが足の速さの差異で、
大量に残っている後続集団はぞくぞくと入り口から現れてくる。
集団と向かい合い、待ちきれないという風に前傾姿勢となり電光を途切れ途切れに鎧から弾けさせる黒騎士の姿。
黒騎士の役目は堰だ。この唸り声と獣臭と殺意で出来た波を止めるための堰。
獣人が一人、走り込んできた勢いのまま飛びかかり、そのあぎとを大きく開き黒騎士の鎧ごと噛み千切らんとするが…、
その牙は空を切り、力なく閉じる。その背中から生えた、雷迸る鎧われた黒腕によって。
腹を貫通した黒騎士の突き上げた腕から滴り落ちる血を浴びて、特殊ミスリル銀製の鎧は血で彩られる。
その光景は獣人たちが捕食者たる時間は終わったのだと告げるように、狩られるのは、お前たちだとでも言いたげに。
エントランスホールの奥、短い連絡通路を経てあるのはエントランスホールの何倍もの広さを持つ大きな多目的ホール。
上を見れば吹き抜けになっており、青い空から降り注ぐ太陽が今は電灯の切れた建物にとって唯一の照明だ。
その多目的ホールの中心で、ゆらり、と背景の一部が揺らぐ。まるで世界の一部分の薄皮を剥がしたように。
「そろそろ俺の出番かねェ。あーあー、黒騎士の奴元気にやっちゃってくれてまァ」
揺らぎの裏から現れたのは緑の髪色の男、ハローだ。多目的ホールの中心から連絡通路を通して見えるエントランスホールでは、
黒騎士が薄暗いエントランスホールを紫電で照らしながら獣人の集団に対し獅子奮迅の活躍を見せている。
だが、しかし『光学迷彩』で様子を伺っていた最初に比べて僅かに動きに陰りが見え始めている。
事前に聞いた情報通りだ、黒騎士はあくまで一対一における戦闘に強みがあるのであって、多対一の戦いを得手とする訳ではない。
それでもあの働きを見せるのだから、基礎的なスペックの高さが伺われる。
「もういい黒騎士。一旦引いて抑えに回ってくれ」
通信機に向かって言うハロー。それに呼応するように紫電が一際膨らみ、弾けた。目くらましを兼ねた放電だ。
獣人たちは視界を潰され、敵を見失った。そこへ一際高く鳴らされる、指笛の音が響く。
「ハロー、どうも。幹部さまはここだよ」
一斉に、数え切れぬ程の獣の眼光が男を射抜くように向けられる。黒騎士によって暖められた敵意は、
あからさまな誘導にも容易に引っかかる。しかもそれが、目標とする組織の幹部であればなおのことだ。
「…ドーニャ、あと頼む。タイミングは任せた」
通信機に呟けば連絡通路に体をぶつけ合いながら殺到する獣の群れ。興奮に任せて次々と響く獣の咆哮。
それらを眺めて男はへらっと笑い。
「押さない、駆けない、喋らない。おかしって習わなかったかなァ?」
余裕たっぷりにそう告げた。
多目的ホールの中央の男ただ一点に群がる獣人達、空から見下ろせばまるで砂糖に群がる蟻のようだが、
その一人一人が、精鋭として再構成されたベスティアの、普通の人間など息も切らさず捻り潰して見せる屈強な獣人達だ。
例え世間の裏側に身を置くファミリーの戦闘員だろうと瞬く間に肉の塊に変えるだろうことは想像に難くない。
本来、ならば。
「目には目を、歯に歯を、獣には獣を、ってねェ!」
ハローが吠える。異能開放、『人狼変化』。男の全身が緑色の獣毛に覆われ、肉体がごきりごきりと音を立てて変化していく。
迫る獣人の爪が唸る。それを獣の反応で躱し、即座に手刀のように揃えた爪で切って捨てる。
だがその瞬間にさらなる爪の一撃がハローへと襲い来る。数が違う、一撃を入れる間に相手は倍以上の手数で圧倒してくる。
『硬質化』を発動。緑の獣毛のみならず、屈強に変化した肉体が鉄のように硬くなる。
スーツを切り裂さかれたものの迫っていた爪は弾いたが、僅か毛の先ほどの傷が付く。サイカが行う程の硬質化ではないためだ。
それでも人狼としての再生力が直に血を止め、傷としてはなんの問題もない。しかし男の頬からは一筋の汗が流れる。
「少し甘く見てたか、前に潰した拠点の奴らとは訳が違うな…!」
力を込めて振り抜かれた次なる爪が、腹を割いて硬質化を突破し血が溢れ出す。
迫る爪はもはや降り注ぐ雨のように断続的に襲いかかり、止まる気配は微塵もない。
埒が明かぬと『狂化』で腹の傷を超再生、反応速度を上げて、こちらも爪と蹴りの回転を上げて対抗。
更には懐から抜いた愛用の銃でろくに狙いもつけず「こいつらの足を止める」思いを込めて拳銃を連射。
あらぬ方向に発射されたはずの弾が全て獣人達の足へと食い込み、少なからぬ獣人の動きが鈍ったのを確認して、
間髪入れず、『太陽光熱発電』。一瞬だが、強く太陽光を放射し目を潰し、獣人達をひるませる。そして、
「憧れのスターが眩しかったか?そんじゃ…喰ら、えええっ!!!」
叫ぶ。充分すぎる程に引きつけた獣人達の群れに向けて『貫く物』全開発動。
ハローを中心として放射線状に伸びた大量の棘が、両手の数に軽く余る獣人たちを貫いて放たれる。
そうして崩れ落ちる獣人の壁…だが、その奥から、仲間の血に狂気を帯び始めた獣の眼差しが、幾つも、幾つも。
「やれやれ…結局今日もいつものハードワークだねェ」
それでも、その笑みは、消えない。
獣人達の爪や牙で服のところどころが破れ、緑色の獣毛を晒す男をホールの中三階から見つめる緑色の瞳があった。
その瞳は、自分がよく知る男が獣に変わり、次々と異能を繰り出す様に少なからぬ衝撃を受けたようであったが、
自らに課せられた使命を忘れるほど、腑抜けた少女ではなかった。
男が立案し、己自身に課した役割は言わば楔。敵をこの多目的ホールに集中させ、足止めする物。
そして、彼が少女に課した役割は目。全ての敵が、その楔に縫い留められることを確認する物。
近隣のビルの屋上から持ち前の健脚で移動し、所定の位置で監視を続けていたが、作戦も大詰めだ。
「……………あと………少し…………」
ハローが熊らしき獣人の丸太の如くの腕の攻撃を受けてよろけた。思わず腰が浮きかけるがそれを止める。
ここで男を助けに行くのは自分のすべきことではないと、自分自身を制する。
桜色をした唇を噛んで、銃を構え直し彼ではなくホール全体、それをしっかりと見つめ直す。
ハローが立てた作戦そのものを台無しにしてしまう行為だけは、しないとばかりに。
「………………!」
棘の攻撃を受けて血を流していた獣人が獣人ならではのタフさでそれでも後退し、ホールから逃げようとする。
迷わず小銃の引き金を引き、逃げようとした獣人の足を狙いすまして撃つ。
よほど良いところに入ったのかそれで獣人は逃げるのを諦めてしまう。敵の逃走を許さないのも少女の役目だ。
エントランスホールで堰き止められた獣人はもはや数少ない。あと一人、あと一人が中央へと進めば。
ここが正念場、この機を逃せばこの作戦の全てが無へと帰す。
タイミングを間違えればあらゆる要素が崩れ去り、皆が危険に晒されることになるだろう。
じりじりと高まる緊張の中、その圧力に確かに耐え、緑色の瞳は静かに戦場を展望し見つめ続ける。そして、
「来た……ガアラ…………今………」
通信機に語りかける。街に入り込んだベスティアの構成員、残る一人、
それが連絡通路から躍り出たのをしかとその目で捕らえ、最後のトリガーは引かれた。
「……………ハロー、脱出を…………」
即座に続けて語りかける。その瞬間、緑色の獣人は、ドーニャもよく知る男の姿へと戻り、
しかしその手から見知らぬ液体状の触手を伸ばしてホールの中階へとひとっ飛びに飛んでいった。
「レディーーーーーーース・アンド・ジェントルメン。毛むくじゃらノ皆々様方────」
その時、場違いに底抜けに明るい少女の声が多目的ホールに響き渡る。
「ガラガラ会場へ ヨウコソーーーーーーーー!!!」
ぴょん、と多目的ホールの中五階、落ちれば怪我ではすまないような高さの手すりに気軽に立つ灰金色の髪の少女。
しかしそんな足場のことなどまったく気にせず、眼下で何事かとぽかんとしている獣人たちを見下ろして。
「アレ? 拍手がないデスネ? ここは今カラ巻き起こるガラガラスペクタクルに胸湧き立ち歓喜に咽ぶトコデスヨ?」
小首を傾げて可愛らしく呟くガアラ。その段になってようやく呆気にとられていた獣人達が、彼女も敵の一人なのだと気づく。
中五階の手すりの奥に潜み、ドーニャからの合図をただひたすら待っていた、最後の一人なのだと。
「マァいいデスカ それではガラガラ スッタァット!」
勢いよく言って、自らの頭の上の取っ手を掴み、ぐるぐると回し始めるガアラ。
それとほぼ同時に少女のの背後に歪んだ円形の、少女の身長とほぼ同じ大きさの"ガラガラ"が虚空から現れる。
そのガラガラは、取っ手に連動し何を軸にしているのか全く不明な挙動で中空で時計回りに回り続け…、
ぽん、と間の抜けた音と共に玉がガラガラから飛び出す。それは黄色と白と黒がマーブル模様に入り混じった、不思議な色だった。
「ムム…コレは外れデース! 皆サマ残念でしター」
玉が生まれた瞬間、獣人達の頭上に彼ら全てをすっぽりと包み込む影が落ちる。
「でもマァ… 当たりと言ってモ 良イ 外れカモ?」
少女が見上げる視線の先、吹き抜けの多目的ホールの空を埋め尽くすようにあったのは、
クッキーの外壁、飴で出来た窓、チョコで出来た外枠、キャンディのノブ。ホワイトシュガーでコーティングされた屋根、
そんな甘い甘いお菓子で全てが出来た、三階建ほどのビルだった。
吹き抜けの中空にガアラの異能によって生まれたお菓子のビルは直に重力に引かれ、空気を軋ませ落ちていく。
その下に居た数十人の獣人達、その頭上へと。加速をつけて真っ逆さまに。
先程とは違う意味で唖然とする獣人達、もはや今からでは全力で逃げようと逃れる術は無い。
「ドーゾドーゾ遠慮ナク お腹イッパイ 食べてくださいネ」
楽しそうにウィンク一つ、茶目っ気たっぷりに少女が言った時、
多目的ホール…いやショッピングセンター全体を揺るがすような轟音が鳴り響いた。
崩れ去ったお菓子のビルが作ったお菓子の瓦礫の山、その中で獣人たちが呻いている。
如何なお菓子とはいえ、ビル三階分の大質量、それを真上から食らっては獣人たちもひとたまりもなかったのだ。
それでも、虫の息とは言え生き残っているのは獣人のタフさ故か、大当たりを引いて普通のビルを落とされなかった運の良さ故か。
「…こいつは俺たちにとっても当たりかもねェ。これなら尋問相手もよりどりみどりだ」
いつの間にか戻ってきていたハローが、ボロボロのスーツのままでお菓子の山の前に立っている。
「当たりトハ 見る者にヨッテ 姿を変えル万華鏡… 奥が深いものなのデス」
とことこと歩いてくるガアラ、それに続いてドーニャも現れて
「…………ガアラ……適当……言ってない…………?」
無表情のまま突っ込みを入れるドーニャ。彼女に向かってにひ、と笑いかけるガアラ。
「とりあえず…このお菓子の山、どうしようかねェ……食べる?」
少女二人に一応聞いてみるハロー。それを受けてふりふりと拒否の首振りをする二人。
「だよねェー」
そうして奇跡的に壊れていなかった携帯端末をスーツから取り出し配下の部下へと後始末の指令を出すハロー。
その様子を後詰としてエントランスホールに控えていた黒騎士は言葉もなく見つめた後、闇に消えるように姿を消し、
「……ありゃぁツマミにゃならねぇなー…」
走りすぎて体を起こすのも苦労するほど疲労困憊になり、家具売り場の薄汚れたベッドへと
倒れっぱなしだった飲んだくれの男は、懐から酒の小瓶を取り出して一人勝手に勝利の美酒を味わっていたのだった。
【参加者】
ドーニャ
ガアラ
ハロー
黒騎士
ダニエル
※備考※
・ドーニャ:戦場の把握の際ハローの異能を目撃
・黒騎士:後詰に入った際ハローの異能を目撃
・ダニエル:ベッドに寝転がる際ハローの異能を目撃
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