名簿/435655
- (銅瓦が夜空を埋める星に照らされて金色に輝く。朱塗りの軒柱が伸びて黄色・黒)
(緑・白・赤、五色に染められた垂れ布が下がっている。) (鳥居が傾ぎ、濃緑に輝く石畳がめくれ上がった境内。その奥、拝殿の濡れ縁に) (赤い着物の少女、えなが柱にもたれて座していた。赤子を胸に抱くようにヒメカを) (抱いて、目を閉じて優しく撫で続けている。濡れ縁の下には象のように巨大な) (黒犬がこちらも目を閉じて寝そべっていた。まるで周りの騒ぎなど何も無いかのようだ。) --
- (そんな外界と隔離されたかのような空間に、荒れ果てた石畳を踏みしめながら何者かが進入する)
(しかし……足音どころかその姿形すら見えないであろう、それでも一歩また一歩えなが抱えるヒメカに向かい確実に近づくナニか) (その者にとって、目的のものを抱えるのが何者かであるなど些事でしかないのだ) (えなの周りの空間が軋む、余計な邪魔が入らぬようにとヒメカの体ごとえなを自らの結界に取り込みはじめる) --
- (寝そべっていた犬が燃え盛る赤の瞳を開く。難儀そうにゆっくりと頭をもたげた。)
(えなはヒメカを愛撫する手を止めて、瞳を開く。やさしい藍色の瞳が、見るとも無しに) (近づいてくる者の方へ向けられた。)
(えなのまわりの煌びやかな色彩が、ひどく濁った色に塗りつぶされていく。) 欲しい、これがホシイ・・・私は私、ずっとそのまま・・・ここはいや・・・? (座したまま、どこか歪な場所へと囲われるえな。その周りにひらひら、黒い蝶が舞いはじめた。) (蝶がえなの赤い着物に止まると染み込むように黒い蝶の模様になる。)
(いつしか、ヒメカとえなのまわりは黒い蝶の群れに囲まれていた。蝶が次々にえなに纏いつく。) (赤い着物が、黒い衣装へと変じた。肌蹴て羽織る振袖衣装を鎖と金具で止めた姿) (足元に引きずる、墨を流したような黒髪と同じ色の着物。胸に赤い蝶の模様がひとつだけある。) (くろい鎖の下に緩やかに膨らむ乳房と胸骨のくぼみがのぞく。) (しわや影の一つも無く、なだらかな腹部が晒され。崩してすわる裸足の足が投げ出されている。)
・・・あはっ (えなが小さく笑うと、前髪にとめた金の装飾がわずかに金鳴いた。) -- えな
- (そこは黒く赤く、入り混じり蠢き、変化し流転する世界)
(しかし濁から清への変化はなく死から生への流転もない、ただただ同じを繰り返すだけの閉じた世界) (体現する世界の主、央にその巨躯を晒しえなが抱えるヒメカの体、そしてその魂を眼窩に捉える) オオオオオオオオオオオ (それは歓喜かあるいは悲哀の咆哮か、それに応じ肉の蔦としか思えない歪で醜悪な塊が鎌首を上げた)
(ある意味より純粋な存在といえるえなを汚そうと、数えるのも馬鹿らしくなるほどの魔女の使い魔が一斉に襲い掛かる) (その扇情的な姿もまた使い魔達の欲望をあおるエッセンスだ) --
- (ギクシャクとあるいは跳ね飛びながら、迫る使い魔の群れの前から飛びのく。一瞬前までえなとヒメカが)
(居たばしょを使い魔の群れが雪崩れのように打った。) だめだよ、あげない (いつの間にか、えなの背後に燃え盛るような黒く流れる毛をもつ巨犬が居た。) (その口に傷つけないようにヒメカの体を咥えている。)
お願いされてるの、あなたのお願いは聞けない (えなが腰につけたあきらのものより短い、黒い剣を引き抜いた。) ごめんね (腕を伸ばして、黒い剣を真っ直ぐ前に突き出した。その瞬間、剣が開いた。) (黒い刀身が三つに分割し、前へとせり出す。黒い刀身はただの鞘に過ぎない。) (その下に覗く本物の刃が青く揺らめいた。)
(黒い刀身の殻の隙間から、無数に、蒼い縄が飛び出した。) (重たい鎖を引きずる音を立てながら、縄は縦横無人に走る。) (使い魔達を打ち据え、貫き、絡み取り、握りつぶす。赤と黒に彩られた混濁の世界に) (蒼い鎖と楔を打ち込みながら、縦横に張り巡らされていく。世界を侵食していく。)
(それが黒い剣の本当の使い方だ。あきらには鞘から抜くことすらできない) (剣を少女は微笑みを浮かべたまま、片手で操る。) -- えな
- (重なり潰れ交わり合った肉蔦の口と思しき孔、ぐちゅと歪むそこからぼたりぼたりと粘液が零れた)
(避けられたとしてもそれを悲観するいは及ばない、ここは閉じられた空間、いつまでも逃げ切れるものではない事を知っている) (そう言わんばかりに、ぞぞぞぞと結界内を埋め尽くす蔦は津波のように雪崩れかかる、そして弾け散った) (黒き剣より伸びる青い縄、波を受けなお砕けない大岩の様にそこに在る)
(えなの言葉の意味など知らない、その行動の目的など知ろうとも思わない、欲しい物を手に入れるただ其れだけの為に魔女は力を振るう) (撃ち払われるならそれ以上の数で押す、極めて単純な行動原理に基づき肉の使い魔は狭い世界に溢れる、地を覆い尽くすがごとく)
(えなの蒼と魔女の赤、お互いが互いを喰い荒らし拮抗する、だがそれは一瞬) (魔女の世界に打ち込まれた蒼の楔は、紅の波を悉く撃ち払いその範囲を広げていく、ゆっくりと確実に) (紅の世界が軋む音、それは悲鳴、外の世界には薄靄の如く魔女とえなの姿が影として投影されているだろう、それは次第に濃く実体を帯びる) --
- (ましろの案内に従って走り着いた場所は、異形の戦場だった)
……あれは……?(目の前で広がる、薄ぼんやりとした靄のような。しかし威圧を感じる空間は) 『………境界が揺らいでる………何か出て来るわよ』 (ついに実像を帯び始めた怪異は…)…肉の塊と触手…まさかあれが…(サリサだったものなのか、と思い) ……ッ!!!(対峙しているのは少女に見える。そして、その後ろに巨大な、巨大な…巨犬が咥えている、探し続けてきた物を、ついに見つけた) -- レオン
(剣を構えたまま、えなはレオンの視線をたどり、ヒメカを見る。) (ただ見ただけで、何も言わなかった。黒い剣から伸びた縄がぶつっと解けて地へもぐりこむ。)) (視線を歪な肉塊―魔女と化したサリサへ戻と、相変わらずの微笑みのまま、一言だけ。) コロマル (淦と蒼が交じり合い、茫洋とした幻のような世界に、少女の柔い声がした。)
(ヒメカを咥えた巨大な黒犬が無言で身構えた。) (次の瞬間、金襴をたたえた社が、二つに割れた。地下から突き出た巨大な樹・・・) (何本もの樹木が絡み合いながら、急速に広がっていく森に飲みこまれる。) (巨木の群れはあっというまにサリサの背丈をも越えて、木々が傾ぐ音を立てながら) (急速に枝葉を伸ばしいき、幹でもって社の残骸を石畳を破砕する。)
(貪欲に養分を求める、闇を抱いた根が下等生物の触腕のごとく伸び) (サリサへと迫っていく。根を貼り岩をも砕きやがてその地を総て自分達の苗床とする) (植物の強靭な生命力と、動物的な暴力が合わさって、その樹はすべてを侵し砕き喰らう。)
(どんどん競りあがっていく巨木の根の上に立つえな、その横に破壊を逃れ黒い犬が着地した。) -- えな
- (一方の魔女は何も変わらない、その眼窩は絶えず黒犬に咥えられている少女の体から反らされる事はなく)
(自らの世界が砕けようと、えなの力を目の当たりにしようと、ただ己の失った心のままにまっすぐ前進を開始する) (その足跡に湧き上がるは肉の使い魔、巨木の根に突き刺され養分を吸われ枯れ果てようと、後から後から際限なく)
(どん、と魔女の巨躯が揺らいだ、見れば一本の木の根がその体を貫いている) (そしてそれは二本三本と数を増し根を張り、その体を覆うとその場に縫い付ける) オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ (魔女が吠えた、存在そのものを吸い上げるかのように震え脈動しより深くまで食指を伸ばす根、それを打ち払うべく夜の空を仰ぐ)
(そこに光はひとつの点、それは急速に大きさを増し大気の震えと轟音を伴い、えなが作り出した樹海めがけ一直線に) (質量を持って質量を打ち払わんと巨木の幹を穿つ) --
- (えながこちらを見ている、もっともその目から何を訴えているのかは分からない、だが確かな事は)
ヒメカの魂はちゃんと戻ったみたいだね、でもあのままじゃ目覚めそうに無い、というより目覚めたら逆に危険だ、うわわっ! と、とにかくあの二人が戦ってるのなら好都合だよ、巻き込まれないように何とかヒメカの近くまで寄って、最悪僕が中に戻って蹴り起こしてくるからさ (片や巨大な木、片や巨大な石、それらが周りのことなど考えずに襲ってくるのだからたまらない)あ、あとは任せた!(それだけを言い残してしゅるんと姿を消すましろだ) -- ましろ
- ヒメカ…!(視界の中に映るほど近くに。しかし、状況的な距離は限りなく遠く)
『レオン、見てばっかじゃなくて対応しないと死ぬわよ!』(魔剣の叱咤と援護を受けながら、余波しかない、しかし現実に脅威として遅い来る枝葉を斬り払い) 狙われてたら即死級だな…魂は戻ったのか、そうか…(巨犬の口の中。どういう意図か分からないが食われてはたまらない) ……だぁッ!(頭を粉砕しそうな大きさの岩を身を縮めてかわして、ましろに頷いた)OK、この手で起こすまでが俺の仕事だ… 行くぞ!(一直線には進め無い。あの破壊の渦の中を突っ切る選択肢は捨て、迂回して死を免れながら巨犬の方に走りだした) -- レオン
- (魔女の一撃が巨木を打つ。巨木同士が絡み合い、お互いの幹に根を生やし)
(枝葉を交わらせて伸びる樹木の山が揺れた。) (蒼い葉が辺りに降り注ぎ、夜空を光の穴でふさぐ星々をカーテンのよう覆った。)
(まるで、海の中にいるようだ。美しく暗い藍色の夜の海・・・底知れず深い深淵) (お互いを喰らいあう肉塊と巨木の間にも蒼い葉が降り注ぐ。) (それはレオンにも降り注ぐが、見えているのに体に触れると幻のように透けて) (動きの邪魔にはならない。それはこの樹海の主、えなにとっても同じようで。)
(シンッと金属質な音が響いた。再び黒い剣が三つに割れ、中身の刀身を晒す。) 色んな声・・・信じて、分かって、離さないで・・・苦しくて、痛くて・・・ ごめんね、やっぱりお願いは聞けない (開いた黒の剣の下で蒼く光っていた刃が、赤黒い溶岩のような色に変わった。) (黒い犬がヒメカを咥えたまま激動する樹の根を別の場所へと移動する。) (それは偶然レオン達の居る近くの方で・・・。)
(次の瞬間、溶鉄を吹き上げたような輝きが上がった。) (藍の海の中を、白熱し燃え上がる溶岩にのってえなが、サリサであったもの目掛けて) (駆け下りる!) -- えな
- (蒼き樹海に降り注ぐ赤々と焼けた岩、木々をなぎ倒し根を砕き蒼の中に紅の炎を灯らせる)
(まるで世界の終わりを思わせるような色模様、夜の闇を茜色に染め上げる火の粉はもはや失われた魔女の心を語る物か) (樹山と化したそこに置いてなお赤々とした色を保つ魔女の領域は、今尚蒼葉の侵入を頑なに拒む)
ぐゅるん
(何の前触れも無く魔女の巨体が身じろいだ、えなの力によるものではない、魔女自らがその落ち窪んだ眼窩に捉える物を変えたのだ) (その先に見据えるは木々を駆け上がるレオンの姿、邪魔をする者とより積極的に奪う者、どちらがよりその失われた心を掻き毟るのか)
(答えはすぐに出た、叫びのままに心のままに、天を覆い尽くした木の葉を掻き分け星界より来たるは夜を貫く閃光) (雪崩を打って襲い来るえなの横を掠め、レオンと黒犬の間に正確に、数えるのも馬鹿らしくなるだけの命中必死な石が降り注ぐ) (より熱くより紅い、魔女の領域のそれすら埋め尽くそうと下り落ちる奔流、厚く濃い溶岩が間近に迫ろうとも見据える者は変わらない) --
- ッ…! せぇっ!(呼吸を整えて、気を充溢させ、極近くに盛り上がってきた木を足場に跳躍する)
(いける。派手な魔剣の技を使う体力は大部分失ったものの、武芸としての軽功は使えた) 『…この青い葉は…?』(最初は避けようと思ったが、それをするまでもなくすり抜けて以来無視している。正体は掴めないが今は無視するしかないだろうという魔剣の思考) 問題はあれからどうやってヒメカを掻っ攫……ッ!?(巨大さが虚仮脅しに見えない巨犬を前に、さてどう近付くかと。樹木を蹴り…) くそっ……近付けねえ…!(流星のような石礫の群れに思わず足を止めた。蜂の巣にされるわけにはいかない…少なくとも、彼女を目覚めさせるまでは。突撃できる間隙を目を凝らして伺い) -- レオン
(満天を覆っていた星が赤く燃え盛りながら落ちて来る。蒼い葉の雨が降り、滲んだサファイア色の樹海は深度をましていく。) (激動しながら二つの色が世界を塗りつぶしていく。威圧するようにあった巨大な扉も) (黒々とした森の姿も今はみえない。)
(燃え盛る岩が樹海の根に降り注ぐ。巨大な黒犬は咥えていたヒメカの体を自らの) (腹の下に入れるとその場に伏せた。降りかかる岩を避けるよりもそうした方が) (身のためだと知っているかのように・・・。)
(激動する赤と蒼の間に新しい色が加えられた。魔女へと殺到したいた燃え盛る溶岩) (のオレンジ色が黄色へと光度をあげてやがてまばゆく白熱へと回帰していく。) (えながレオンたちの頭上、魔女の前の中空で足を止めた。) (白い輝きの上に立ち黒と赤の剣を輝きの中に羽を指先に乗せるように立てる。) (その瞬間・・・極限まで白く滾った溶岩がえなを中心に真円に広がった。) (音すら光に眩んだかのような一瞬。黒々とした大地の上、無限に薄く引き伸ばされた) (光の回転盤が現れた。山が切り裂かれ、樹海は両断され、その円盤の中へ引き込まれ) (ゆっくりと沈殿しながら蒸発していく。) -- えな
- (妖精の輪を思わせる円盤に引き込まれ擦り潰され消えていくのは、何もえなが生み出した樹海だけではない)
(そこに足を置く魔女も、それが呼び出した使い魔もまた同様) (使い魔が蠢きのたうち肉の焼け焦げる焼ける臭いを放つ、それすら逃すまいと白熱の池は全てを貪欲に飲み込んでいく、ずぶずぶと)
(ここに至っても尚魔女はえなを見ていない、自らの体半分呑まれようとその目は自らの望みを奪おうとするレオンに向けられたまま) (何かを求めるように手を伸ばし……やがてその手を最後に魔女は消える) (そんなものは始めから居なかったように炎の紅も何もかも一切が、えなの世界に塗り潰されていく……) --
- (暗い、とても暗い……深い、とても深い……)
(果てしなく沈んで行く様な気もするし、ゆらゆらと流されている感じもする) (全ての感覚が曖昧で、それでいて歪で……これが夢なのか現実なのかも分からない)
(だから考える、考える、どうすれば良いのかどうしたら良いのか、でも、答えは見つからない) (出口の無い迷路を歩く如く、有るか無いか分からない答えを求め何度も何度も同じ所をぐるぐると) (時折見つかる彼女の記憶の断片を頼りに、少しずつ少しずつ手がかりを見つけながら)
(でもやっぱり答えは見つけられない、考えるだけではダメなのだろうか、それとも一人なのがいけないのだろうか) (ずきり、と何処かが痛んだ、痛いのは嫌だ痛いのは怖い、死ぬのも嫌だ死ぬのも怖い、そして何より自分が自分で無くなるのが嫌だ) (心が混ざりあい混濁し混沌を作る、道を示す光はまだ見えてこない……) -- ???
- あいつ…こっちが狙いか…いや、こっちというか(見えている魔女となったサリサ、恐らく求めるものが同じなのだ。競争相手というわけか)
だったらここまで着て負けてられないだろ… 『レオン、上に…!』(えなの姿が頭上に。こちらは眼中にないように見えるが…) …なんにせよ魔女と戦ってるなら有難く行かせてもらうだけだ…今度こそ。行こう! (再び強く。足元を蹴り飛ばして黒い犬の方を見れば) ちょ、潰し……(違う、潰すなら足でやればいいしそれ以前に害するなら飲み込めばいい)…ともかく…ヒメカ!(生じた疑問を迷いだと振り切る様に。黒い犬の…正確にはその下にいるヒメカの下に駆ける、名前を呼びながら) -- レオン
- (ヒメカを守る黒犬とレオンの頭上高く真っ白な円盤が広がる。まるで太陽が間近にあるかのような輝き。)
(吸い込む空気が肺腑を焼くように熱い。蒼い巨木の樹海が、降り注ぐ蒼い葉が、魔女の使い魔達が、) (魔女の体の欠片が、炎上する。白熱する天盤に照らされて。)
(そんな中を、駆け抜けるレオンの前で黒犬が立ち上がった。そしてただ1度だけ。) (吼えた。) (あるいは吼えたように見えたかもしれない。舞い踊る火の粉が辺りから吹き飛ばされる。) (無音の衝撃、あるいは百万の獣が上げる雄たけび。耳ではなく、心の芯を揺さぶるような咆哮が響いた。) (巨大な口が開く、真っ赤な口の中で、その一つで人の腕ほどありそうな牙の列が鈍く光る。)
(自らの体を盾にしながら、ヒメカの眠りを妨げようとする何者も近づけさせまいと) (しているかのようだ。) --
- (消えた、そう、魔女とその使い魔達は消えた、白熱する円盤に照らし燃やし尽くされ跡形も無く)
(だが……未だこの場に残るその濃厚な気配、体が消えても尚残り続ける思念、あるいは怨念、あるいは呪い)
''ズ……ン'
(陽光にも似た光に照らされた巨木が揺れた、気のせい、ではない、二度三度とその大きさを次第に増して大地に根を張るそれが揺るぐ) (眼下に遠い大地を見れば、黒としか形容できないナニかが幹に爪を立てながら上へ上へと、黒犬の居座る枝を根元から握り潰し) (レオンが足場としているそこも同様に、何もかもを地面に投げ捨てるべく)
(傾いた枝葉の上、ヒメカの体が重力に引かれるままに黒犬の腹から滑り出た) --
- (走る。走る、目的のヒメカに向かって…その途中で)
……ッ!!(黒犬の咆哮が轟いた。実際に衝撃波を伴っていたら、吹き飛ばされていただろうと確信出来るほどの) (だが、咄嗟に樹に魔剣を突き立てて盾にしようとしたのは踏ん張るためではなく) (心の芯を揺さぶられ、恐怖した事を誤魔化すため。ああ、踏ん張るという表現は正しかった…逃げ出さないために、という意味で) くっ…ここで止まるくらいなら…ここまで来てない!(恐れを無理矢理抑え込んで。ヒメカを助けるのだと顔を上げたその時に) 『…レオン、樹が揺れてる!』 な……あっ!(魔女の干渉と共に、滑り落ちていく。ヒメカの姿が見えて) ヒメカーーーーー!(呼ぶ。跳躍する、ヒメカが落ちていきそうな方向へ。飛べる身でなくともこの手が届けと。この一瞬だけ黒犬の事も忘却して) -- レオン
- (揺らぐ大樹の枝、枝とは言えその幅は街の大通りよりも広い、だが一歩脇道へ出ればそこは奈落、幾重にも重なった枝葉により底は見えないが無防備で落ちれば命は無いだろう)
(そしてそこへと向かうヒメカの体に手を差し伸べるのは何もレオンだけではなく、吠えた黒犬が大樹を登り来る魔女が自らの使命や目的のために) ドゥン(その時巨大な枝が大きく撓った、黒犬がその巨体を生かし自らを引き絞られた矢の如く、空中に投げだされた形になったヒメカめがけ一足で飛びかかったのだ) (だがすんでの所でレオンの手がヒメカの寝間着を掴みそのまま掠め取る、その背後で牙が噛みあう獰猛な音が聞こえ、襟首を掴みぶら下げる形になったレオンは辛うじて枝の上に) (体勢は十分ではない、奪還を狙う者達はすぐにでも迫ってくるだろう) --
- 『レオン、後ろから黒犬が来る…!』
(魔剣の警告と、ほぼ同時に更に足を蹴りだして、手を伸ばせば) (手に引っ掛かった寝巻の襟首が掴めた。背後でガチン、と聞こえた音に反応して息を飲むが) …来い!(犬にではなく。ヒメカを引っ張り上げる声だ、右腕一本でヒメカを引っ張り上げ、左腕で抱えながら枝の上を転がり) (だん、と体のバネだけで跳ね、着地する。向きは黒犬の方を向いて) やっと取り返したぞ…聞こえてるかヒメカ(視線は向けていない、それでも声をかけた) 『…状況は最悪ね。あれに狙われ続けるとしたら…』(ヒメカを抱えながら戦う。いや、逃げる。相当な難業になるだろう…状況をひっくり返す一手が無ければ) -- レオン
- (レオンの前に黒犬の巨体、足元には巨木の根が深く根を張り刻んだ深い谷を這い上ってくる何か。)
(黒犬が鳴動する巨木の断崖の上で低く身構える。力に耐え切れずその足元で巨木の根が陥没した。) (そこへ降りてくる者がもう一つ・・・)
(粉雪のように舞い落ちる白い光が、蒼い巨木の幹や葉に触れて燃え上がる。) (魔女の巨体を両断した白熱する環は、泡が弾けるように散って残滓を降らせていた。) (白熱する粉雪の中に、長すぎる髪と着物の裾が扇状に、灼熱の上昇気流を孕んで) (優美な鳥の羽のように広がった。)
(えなが降りてきた。頭の上に着地された黒犬が待てと命じられたように目を伏せて頭を下げる。) (えなは相変わらずの人懐っこい笑顔をレオンに向ける。一瞬だけ緊迫が弛緩するような空気) (しかし、えなの手に握られた黒い剣が立てた硬質な金属音と、覗かせる蒼い刀身。) (事態はさらに最悪の場面へと転じる。) (黒犬の巨体ではヒメカごと噛み砕いてしまうかもしれないから。つまりそういう事なのだろう) (それが誰であれ、何であれ・・・今は決して連れ出すことを許さない。そういう事なのだ。) -- えな
- (何もかもが曖昧な場所で、彼女の願いと望み、苦悩と絶望の断片を見る)
(そしてそれ故の妬み、怒り、羨望、そして希望、それらが渦巻き混ざり合う黒い手が再び捕縛するべく迫ってくる) (それともう二つ、無色にして万色の見えざる手、暖かく懐かしいただ私を必要としてくれるそれだけの掌)
(レオンに抱えられるヒメカの手がそっと重ねられる、しかし未だ目覚める気配はない、無意識の所業だろうか) -- ???
- (気を読め。いかな化け物でも先読みさえできれば逃げるだけはなんとかなる。そうだと信じて呼吸を整え…)
『……レオン。あの子が…!』(緊迫した魔剣の声が。注意を黒犬から、別のモノに移させた) ……ッ(笑みだけを見ればとても害のあるように見えない少女。だが、その手に握る剣が、青い刀身が示すのは) (直感する…アレには勝てない。剣術の術理や、魔剣の異能で覆せる領域外に居る存在だ、アレは) …いや、絶対絶命かなこれは(それでも軽口が叩けたのは。左腕で離すまいと抱きしめ続ける彼女のおかげか) (ヒメカの手が偶然か。そっと重なった。それで、意思を決め) (枝から落ちる様にずり、落ち切る前で思い切り蹴り飛ばした。その場から逃げる為だけの落下による逃避行) …なぁ、ヒメカ(すぐにも攻撃がくるだろう、落下の最中に意識は穏やかに声をかける) …目が覚めても大変だろうけどさ、辛い事があったのも又聞きだけど聞いたし。でも…俺の我儘だけど(それでも) ヒメカには眼を覚まして元気で笑ってて欲しい。だから…残酷でも頼む。起きろヒメカ、お前を必要としてる皆が、帰りを待ってる(いや、皆を理由にするんじゃなくて素直に) 眠ってれば安心かもしれないけど…そこじゃ一人きりだろう…? 戻って来いよ…ここに俺は居るから! (最後はもう支離滅裂だと自覚しているが。とにかく戻ってきて欲しい一心で呼びかける。落下しながら、どこまで彼女を連れて逃げられるかも気にせず) -- レオン
- (蒼い葉の雨が灼熱の粉雪に燃やされる、花畑の上を竜巻が通った時のような、赤と青と白と、)
(鮮やかな色の吹雪が、奈落の底へ続く暗闇の断崖の上を舞う。) (荒々しく、生命の存在を脅かす幻想的な空間を、包み捕らえるかのように) (ひときわ鮮烈な蒼い網が広がった。えなの持つ剣を中心に。蛇腹上の刃が無限に伸びていく) -- えな
- (上から襲い来るは蜘蛛の巣の如き網、捕獲目的との分析はそれに触れた木々が粉々に裁断される様子を見れば間違いと分かるだろう)
(そして下からはレオンとヒメカを待ち構える魔女、顔の三つの穴を大きく見開きながら、黒く歪な手で包み込むように……!) (いかに落下の速度が速いとはいえ、方向も何も変えることが出来ない状態でいかほどの事が出来ると言うのだろう) (今の二人にとって、目前に近づく魔女の腕と後背に迫る邪神の抱擁、どちらに捕まるのが早いか、それだけの問題でしかない) (そしてそれは遠くない未来の確定事項のように確実に……)
ごめん……
(不意にそんな言葉が聞こえた、次の瞬間レオンの視界が徐々に白く白く塗りつぶされる) (時間が止まったようだった、魔女の手は眼前で何かに阻まれるようにその動きを止める、えなの網も同様に、自分の体すら宙にとどまっている) (視線を傍らに向ければ、空と同じ色の髪をした少女が魔女に向かい祈るような仕草で)
ごめんね
(それはその場に居るすべての存在に対しての言葉、音は同じであってもそれに込められた意図は様々に) -- ヒメカ
- (今にも、引き絞られ、その内の総てを切り刻まんとしていた、蒼い蜘蛛の巣が音もなく千切れた)
(毒々しいほど鮮やかだった、吹雪の色も淡い蒼色となって、静かに、谷底へ落ちていく。) (嵐が凪いでいた。黒い殻に包まれたの蒼い刃を握って、えなは何も言わない。ただ、見ていた。) -- えな
- (何も全くの無策で落ちたわけではない。魔剣から風を再現すれば短時間の飛行は可能だ。その準備はイストが整えていた)
…やっぱきついかね…!(自分が倒れても魔剣を使ってヒメカだけは逃がす…少なくとも眼下の魔女にだけはやれない。上からの攻撃で自分がやられても…) ……ッ!?(覚悟を決めてヒメカを抱えていない手に魔剣を呼んだ所で……) (視界が白に染まった) (眩い訳でもなく。ただ、白く…しかし。目を焼かない白。だからすぐ眼を開いて確認したのだ) (そこにいた。抱えているはずの少女が祈るような仕草で確かに意思を言葉として放ったのだ) ……(涙が出るくらい嬉しかった。だが、まだそれには速い…だから万感を込めた最初の言葉は単純でいい) おはよう。ここからいい朝にしていこうか(謝る必要はないと言外に告げる様に謝罪に対する言葉は無く。ただ新たな道標を) -- レオン
- ……うんおはよう、色々と迷惑かけちゃってごめんね?(顔は魔女を見据えたまま何となく照れくさそうに)
全部知ってるよ、レオ君がサリサ、さんと会ってから……たぶんあの中で眠りながら見ていたんだと思う、それと (えなに顔を向け)あきら、ちゃんの事も(そして魔女と向き合う)私の弱さを本気で怒って馬鹿にして、それだけの辛酸を舐めた少女がいた事も
ウオオオオオオオオォォォッ!
(魔女は吠える、その肉体を無数の蛇のようにしならせヒメカの結界を叩きのめした、手に入らなければ壊れてしまえそう言わんばかりに)
ごめんね、私は自分のやるべきことを見つけたから貴方の所へ行くことはできないんだ そして、たくさんたくさん考えたけど……まだ方法は見つからない、でもいつか絶対に見つけてみせるから、だからそれまで……!
(何を思ったか結界の中から足を踏み出し、一歩、二歩、魔女の攻撃その悉くがヒメカに届かず霧散する中をまっすぐに) (トン、とその場で軽く足を揃え飛ぶ、瞬間雷光が煌き天から地へ降る龍の如く、ヒメカの体が舞い魔女を貫く)
それまで、せめて眠って……今度は私が包み込む番だから……
(両手に抱えられる鈍く光る濁った珠、おそらくそれが魔女の魂なのだろう、それを自らの中へと仕舞い込み……) (残る魔女だったモノが塵となり崩れ闇の中に溶けていく) -- ヒメカ
(蒼い巨樹の断崖から魔女のサリサの気配が消えた。残ったのは狂気の渦中に居ることを) (忘れさせる静ひつな空気だけだ。) (塔のごとく聳えた巨樹の根は奈落の闇の底へ根を下ろし。絡み合った幹は岩壁のように連なっている。) (仰ぎ見る夜空は極彩色に燃え盛る銀河。以前としてそこは異界の大景観だった。) (しかし満ちる空気は静ひつな森の中と同じ穏やかさで・・・。) (その森の主は静かに黒い短剣を下げた。身に纏った黒の衣装から無数に異形の黒蝶が飛び立つ、)
(ヒメカが目覚めてから、2人をただ見ていたえなが、赤い着物の裾に風を孕ませて、) (黒犬の頭からふわりとヒメカの横へ降りた。) もういいの? (あきらと同じ、ただ瞳に宿る藍色の光だけはあきらと違い優しい微笑みを向ける) -- えな
- (静かに息を吐く、先ほどまでの喧騒が嘘の様に静まりかえったそこで、細部が変化した衣装に身を包みながら)
うん、もういいよ (横からかけられた声にそう答えながらえなに振り向く、敵意も何もなくごく当たり前に) もういいの、やらなきゃならない事、見つかったから、そしてそれは私がやらないと駄目な事なんだ…… (しかし表情は対照的に、麓へ視線を向け眉根を寄せる、そこには大切な友達が今も戦っているはず) だから、行くね?(寂しそうな申し訳なさそうな顔で、レオンとえなに視線を向ける) -- ヒメカ
- (眼下で、サリサが消えていく…謝る事はしなかった。助けられなかった事に申し訳なさはあったけれど)
(ただ、もうこういうものを見ないでいい様になりたいと。なろうと、消えていく様を見て心に刻んだ) (改めて落ち着いて、視点を上げれば異界の風景。必死になっていたとはいえ、改めて見るのはこれが最初だったと気付く) (そして周囲が余りに穏やかになっていたから。付近まで降りて来る少女に緊張する事がなかったのだろう。ただ、ヒメカとのやりとりを見守り) そこは行こう? にしてくれよ(申し訳なさそうな顔を見て首を振る。ヒメカがみやったのは麓…自分には感知できないがそこにみう達がまだいるのだろう) 露払いくらいしてやれるし…ここまできたら最後まで見届けたいんだ(自分は本来外野。関わるべき運命になかったとして。ヒメカの顔を見上げ) だいたい。そんな顔してる奴をほっとくためにきたんじゃない(しがみついたままで格好つかないなと思いながらそう告げる) -- レオン
- (2人の言葉を聞いて、えなはうなずくように笑ったまま目を伏せる。)
(黒い蝶の最後の1匹が胸元から飛び去って、えなは赤い着物姿に戻っていた。) (巨木の枝に腰掛ける、黒い犬がその側に伏せた。) (えなの優しい藍色の瞳は今はもう誰のことも見ていない・・・) (願われなければ何もすることはない、そういうかのように黒犬の頭の毛に手を埋めて弄んでいる)
(何を感じとったのか、最後にひとつだけつぶやいた) あきちゃんは目を覚ますだろうからって言ってたよ。 -- えな
- (その声にようやく気付いたのかビキっと固まるヒメカ、ぎこちなく指が震えその手が振るわれるかと思いきや、程なくして力が抜ける)
あははごめんねレオ君、行こうと言わずともついて来てくれるかと思ってたから……ええとその、一応寝てた頃の事覚えてるし……うん、ありがと とりあえず、振り解いたりしないのは信頼の証と思って欲しいかな、なんてー……いつまでくっついてるのか、と言いたい気分でもあるけど (こほんと咳払い、そして再度えなに振りかえる) そっか、信頼、されてるのかな?ちょっと複雑な気分だけど……でも、あきらちゃんに負けるつもりはないから (気負いのない表情で前を向く、もう後ろを振り返る必要はない、不可視の足場を踏み越えて滑りひたすらに下へ下へ) -- ヒメカ
- ……む(ヒメカの微妙な挙動にあ、やべぇ落とされるかなと思ったら…そうでもなかった)
だったら行くね? なんて一人で行きそうな事言うなよ…全く…え、覚えてたのか…(別にもう隠す程の事もないのだが、やはり気恥かしさを感じ) 問答無用じゃなかっただけかなり嬉しいもんだ。そこまで言われる前に離れるよ、あの辺で降ろしてくれ…ちょっと残念だけどな(久しぶりの会話に若干緊張を解きつつ) (最後にちらりとえなを見た。結局、彼女は何なのか分からなかったが…)…ま、いいか (足場の確保出来る場所まで着た時点でヒメカから手を離すと、ヒメカの後を追って山を跳躍して降りていった) -- レオン
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