フランシス家出身 ティーナ・ティアナリントン 267580 †湖畔の小さな魔女の家
主が旅立つ際綺麗さっぱり片付けられた其処に手紙が一通おいてある この手紙を読んで下さった方へ・・・ 旅に・・出る事にしました、過去の私を探す旅です 実を言いますと・・・私の最初の記憶は十にも満たない頃、師の屋敷から始まるのです・・・ 私は、何処で生まれたのか、両親はどんな方だったのか・・・本当の名前はなんというのか・・・それを知りたい 今更そんな事をしてどうなる物でも無いのですが・・・最近、その事がどうしても気になってしまうのです ・・・このような形でお別れになってしまう事を、どうかお許し下さい 辛い時、挫けてしまった時、皆さんに支えてもらえた事をとても感謝しております それだけに・・・長らく音信不通になってしまった・・・ 恩を仇で返すような自らの行動が、恥ずかしくて顔を見せる事が出来ないのです 最後まで不甲斐ない私を、どうか許してください 今まで、ありがとうございました Tina Tiernarington
最新の3件を表示しています。 コメントページを参照 澄んだ湖のほとりに小さな小屋が建っている(コメントは上へ) †//コメントアウト †
何時かの何処か、誰かの物語 †魔女が来た
それ程大きくは無い村だ、その噂は瞬く間に広がった ウチの村は僕が生まれるよりずっと前はそれはそれは立派な町だったそうだが魔女の襲撃に遭って滅びかけたのだそうだ そんな経緯もあって魔女が来た時、年寄り連中はこぞって彼女を追い出そうとしたようだ でもその魔女・・・緑のローブを着た変な魔女は特に気を悪くした風も無く、出て行く前に記録を見せて欲しいと言った かつての魔女の襲撃で、行方不明になった人の記録だ 爺さんの話では、何でもかつての魔女は町から適当な女の子を何人か見繕って連れ去ろうとし、 それに抵抗した住人が気に入らないと壊滅的な打撃を与えたのだそうだ だから村にはその事件で死んだ人の物とは別に、魔女に連れ去られた子達の名前を彫った石碑がある 石碑に案内された緑の魔女は、そこにある名前をゆっくり丁寧に、何処か懐かしむ様な目で見ていき・・・ やがて一つの名前に目を留めると 「・・・見つかる物ですね」 そう、呟いた 数週間後 あれから魔女は村はずれの湖畔に小屋を建て、其処に住み始めた 一応村の敷地からは離れているから出て行ったと言えなくも無い 爺さん達は屁理屈だと怒り、絶対に近づかないように言っていたけれど僕たちにとっては格好の遊び場が出来たような気分だった 魔女退治だ、と意気込んで小屋の見える辺りまで行っては魔女を見て逃げ帰る。 肝試しと言われれば其処までだが俺たちにとってはまるで冒険に出ているような楽しさがあった 何度目かの冒険の時、俺たちは魔女の魔法を目撃した 魔女が使っていたのは物語に出てくるような杖ではなく楽器だったがその音色にあわせて泥の人形に家事や畑仕事をさせていたのだ 仲間の何人かは驚いて逃げてしまったが、僕はそのとても楽しそうな・・・でも何処か寂しそうな音色に思わず聞き入ってしまっていた 仲間が逃げたときに立てた音で彼女は僕たちがいることに気付き、演奏をやめて此方に微笑みかけてきた 何かに疲れたようなその笑顔を僕は見ていることができなくなり気付いたときには村に向かって走っていた 数ヵ月後 その日以来、徐々に魔女と接触を持つ子供達が出てくるようになった 初めは恐る恐るといった風ではあったが何度か通ううちに慣れてきたのだろう「魔女さん」と妙な愛称で呼ぶようになっていた 流石に此処まで来ると気が気では無いのか、爺さん達が扇動して魔女を退治しようとし始めた 村の力自慢から冒険者まで、色々な人たちが意気揚々と乗り込んだが・・・皆次の日には泥まみれで逃げ帰ってくる 遂には爺さん自ら赴き、お金を出すから出て行ってくれと懇願する事態になったが 魔女はやんわりとお金は要らない事、危害を加えるつもりは無い事、貴方達には残念な事だが自分は此処に居たいのだという事を伝えたそうだ 元々裕福な村でもない、あれを追い払える様なレベルの冒険者を雇う事は出来そうになかった 爺さんはその事を毎日毎日悔しそうに語っていた 数年後 魔女は村に大分溶け込んだようだ あんな事があったせいか暫くは腫れ物に触れるように魔女の話題は禁止されていたが 彼女の処方する薬がとてもよく利く事、怪我の治療ができる事、そして村には医者と呼べる人物がいなかった事も手伝い徐々に受け入れられていったようだ 爺さんは最期まであの魔女についてあれこれ言っていたが、あの様子を見るに自分の腰も魔女の薬のおかげでよくなっていた事に気付いていなかったようだ 子供たちの中には彼女から魔法を教えてもらっている子もいるようだ 初めのうちは薬の知識は教えても魔法に関しては「私が弟子と呼ぶのは一人だけです」と断っていたが、 何度も頼まれる内に少しずつだが教えるようになっていた・・・存外押しに弱いらしい ・・・子供達が泥人形をこねてゴーレムを作っている、魔女はその様子を椅子に座りながら嬉しそうに眺めている 俺はかねてからの計画を実行してみる事にした、彼女にそっと近づくと此方に気付いたのか顔を向けようとする、其処で --------さん 囁いた名前は彼女が普段名乗る名とは違っていた、だが驚いたような彼女の顔を見るに、どうやら正解だったようだ 魔女が来てからというもの、かつての事を思い出すのか爺さんは毎日のようにぼやいていた まだ幼かった、自分の名前もしっかりと言えず愛称の筈のティナティナを自分の名前だと思い込んでいた、あんな愛らしい子を攫うなんて・・・と 魔女に育てられたせいか、髪の色も目の色も顔つきも、ウチの親族とは何一つ同じ点は無い・・・でも何故だろう、どういう訳かその人がそうであると直感できた 爺さんは・・・気付けなかったのだろうか?それとも、認めたくなかっただけなのだろうか? 村から出て行くように懇願しにいったあの日が、爺さんと魔女が直接会った最後の日だった・・・今思えば、あの日から爺さんは少しおかしかった気がする 爺さんは・・・ 十数年後 ずっと・・・後ろ向きで歩いた人生でした・・・ 綺麗な物、楽しかった事・・・切ない事、辛い事・・・みんなみんな、振り返らずにはいられませんでした だから・・後ろを向いて歩いていたんです・・・ それじゃぁ転んじまうぞ また、立てばいいじゃないですか 怪我をするかもしれない 私、治療には自信があったりしますよ? 真直ぐ歩けないんじゃないか? ・・・なんとか、なるものですよ・・・支えてくれる人もいましたし ソイツには前を向くように言われなかったのか? 言われました、・・・・でも、やっぱり見ずにはいられなかった 誰かにぶつかるかもしれない それは困りますね・・・また、後ろを見る理由が増えます 我侭な話だ、全然建設的じゃない。自己愛が過ぎるといつか飽きられるぞ そうですね・・・何よりも自分の為にやりたい事をやる、助けたい人を助ける、恋いしたい人に恋する、守りたい人を守る、でもいつもいつも空回りして・・・その度に後ろを見ていた・・・ それが、この泥の魔女、ティーナ・ティアナリントンの物語。なんですよ・・・ 数十年後 綺麗な夕陽が拝める小高い丘の上に、彼女の墓はある Fin |