ツジガミ家出身 エイジ 289596 †
ID: | 289596 |
名前: | エイジ |
出身家: | ツジガミ |
年齢: | 18+5 |
性別: | |
前職: | |
理由: | |
状態: | |
方針: | |
難易度: | |
信頼性: | |
一回目 | ステータス/戦歴 |
二回目 | ステータス/戦歴 |
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設定 †
辻神栄治
西暦2009年の日本から来た何の変哲もない高校生
少しばかり冷めていて、少しばかり幼かった彼は典型的なニヒリストでシニシストであり、典型的な中二病患者だった
面白半分でやった魔道書の転移魔術を発動してしまい、こっちの世界に飛ばされてきた
今こそ普通の中流家庭だったが、もともとはそれなりに名のある旧家の出だった彼にはたまたま魔術の素養があったのだ
最初こそ驚いたが、この世界の情勢を、この世界に住む人々をみて、彼は歓喜した
ああ、自分はやっとあの糞つまらない現実から開放されたのだと
- どこにでもいる普通の無気力な学生
- 一人称は被ってると「俺」、本音でしゃべってると「僕」になる
- 元々僕が一人称だったが、なんかいい年こいて一人称が「僕」なのはかっこ悪いと思って無理矢理「俺」にしている
- こっちに来てからよく視界の端に女性が映るようになった。栄治の通っていた学校の制服を着てる黒髪の女性でカナという名前だということを栄治は知っている。なぜ知っているのかは知らない
- 栄治はエロゲの主人公みたいな髪型をした普通人
- カナは黒髪のセミロング。スレンダーボディ
- 二回目
手記 †
一年目、4月 †
夢か、それとも現実か……些細な問題だ
僕にとってはどうでもいい
僕という主観はこの世界を認識した。僕という主観はこの世界を受け入れた
僕にはカナもいる。何も悩むことはない
カナは「栄治の思うままに生きれば良いわ。ここはその為にある世界だもの」と言っていた
どこまで本当かは知らないが、どうでもいい。あんな忌々しい女に言われなくても、僕は僕の思うままに生きるつもりだ
生き続けるかどうかは知らないが
一年目、5月 †
冒険者の仕事とやらは危険な仕事だった
色々とあるが、その殆どは害獣、害種を駆逐する仕事……だが、給料は格別だ
一回の仕事で一ヶ月楽に暮らせるほどの金が手に入る
カナは「ちゃんとできて安心したわ。平和な世界にずっといた栄治には荷が重いんじゃないかと心配したのだけれど」などとまったく心配していない風にいっていた
ふん、好きに云っていろ。僕は躊躇わない。それを殺すのが仕事というなら殺すだけだ
やれと云われて仕方なくやる学校の課題と大差などない
淡々と、機械のようにこなすだけだ
一月一回の課題で一ヶ月この妙な世界で暮らすことができる
そう考えれば、安い代価さ……
一年目、6月 †
ああ、きっと、これは夢なんだろう
僕は昔から悪夢をよく見る。悪夢ばかりを見ている
むしろ、僕が生きてきたこれまでこそがすべて悪夢だ
だからこれだってタチの悪い悪夢に違いない
そうじゃなきゃ、僕がゾンビに食われて死んだりなんてするわけない
僕の腕が捥がれて咀嚼される。僕の足が折られて貪られる
普通の学生に過ぎない僕は普通に化け物に襲われて死ぬ
ああ、でも、僕は何処までも普通だから、きっとこれも夢なんだろう
「ええ、そうよ栄治。全部夢、全部夢なの。だって、これはアナタの望んだ世界だから」
魔女が囁く。淫靡な声で僕の耳朶を舐める
「アナタは死なないわ。いえ、私が死なせないわ、だって……だって、アナタが死んでしまったら」
魔女は嗤う。嗤って、僕の頬を撫でる
「折角の人形遊びが台無しになってしまうじゃない?」
――
僕はいつもの安宿で眠っていた
横ではカナが気持ちよさそうに眠っている。ああ、やっぱり夢か
そうだよ、僕が死ぬわけない
だって、僕は
ふつうのがくせいなんだもの
一年目、7月 †
結構な数の日本人を見かける
そのだいたいが望んできたわけじゃないあたり、作為的にこっちに来てる奴はそんなにいないようだ
……まぁ、僕の場合は作為的ではないとはいえ、望み通りの結果にはなったわけだが……
それはそうと、「はじめての」冒険にいってきた
冒険者の仕事とやらは危険な仕事だった
色々とあるが、その殆どは害獣、害種を駆逐する仕事……だが、給料は格別だ
一回の仕事で一ヶ月楽に暮らせるほどの金が手に入る
カナは「ちゃんとできて安心したわ。平和な世界にずっといた栄治には荷が重いんじゃないかと心配したのだけれど」などとまったく心配していない風にいっていた
ふん、好きに云っていろ。僕は躊躇わない。それを殺すのが仕事というなら殺すだけだ
やれと云われて仕方なくやる学校の課題と大差などない
淡々と、機械のようにこなすだけだ
一月一回の課題で一ヶ月この妙な世界で暮らすことができる
そう考えれば、安い代価さ……
一年目、8月 †
仕事で古ぼけた指輪を手に入れた。魔導器とかいう奴らしい
現実に魔術が使える魔術媒体とやらは初めて持ったが、思いのほか僕とは相性がよく、冒険者に登録した際に支給された剣などよりも遥かに上手く使いこなすことができた
カナは「栄治の家系は元々そういうもの使ってた家系だから、上手に使えるのよ。いわば才能ね」などと囃していた
そういえば、僕がこっちにきた切っ掛けは実家の蔵の奥にしまってあった魔導書とやらの術式を面白半分で試してみたからだったな……自信過剰は好みではないのだが、これは確かに才能といえば才能なのかもしれない
しかし、属性は光か……こればかりはどうにも性に合わないが、まぁ贅沢はいっていられないか
一年目、9月 †
今回は仕事でロングボウとやらを手に入れた。ようするに弓である
剣道は少しかじっていたが……あいにくと、弓道は未経験だ。仕事ではあまり役に立ちそうにない
カナは「まぁ、もらえないよりはマシじゃない? 何か使える方法でも探したら?」とかどうでもよさそうにいっていた
まぁ、確かにそうだな。使えないと断ずる前に何かしらで使う手段でも講じるとするか……
……
……
……当面は物干し竿だな……
一年目、10月 †
特に何もない月だった
……やれやれ、異世界とは言っても、半年もたってしまえば慣れてしまうものだな
カナは「あなたの望んだ世界だもの。あなたが変化を望まなければ変化なんてしないわ」とかなんとかわけの分からないことを言っていたが……ったく、僕にどうしろってんだよ……
異世界に来ようが何しようが、結局僕はただの学生だぞ?
一年目、11月 †
光の魔術の扱いもすっかり慣れてきた今日この頃
この町で不自由することもなくなってきた。退屈で人は死なないが……退屈によって生まれる緊張の緩みで人は死ぬ
これもまた由々しき問題だ
カナは「少しくらい余裕があったほうがいい」とか言っているが、僕は余裕をもてるほどの力なんて持ってない
いつでも全力全快、なんて非効率的なことはしないが、それなりの労力は割かねば生きていくことは難しい……
一年目、12月 †
リリィはやけにカナの事を気にしていた
そういえば、僕はカナについて特に何か考えたことはないが……よくよく考えてみれば、何故今までアイツについて考えなかったのか不思議になるくらいにアイツは不自然な存在だ
アイツは僕のことを知っているが、僕はアイツについてほとんど知らない
知ってるのはそれこそ名前くらいだ
しかも、アイツと知り合ったのはこっちに来てから……いや、こっちに来る前からも知っていたような気が……でも、僕がこっちに来たのは僕の使った魔術が暴走したせいで……
……まぁ、なんでもいい
カナは「どうでもいいじゃないそんなこと」といつもはぐらかすが、この意見にだけは僕も賛成だ
本当に、至極どうでもいい
アイツが何者か知ったところで何の意味もない。僕はこの世界にいれればそれで……いや、元の世界にさえ戻らないで済むならそれでいい
……あんな、疑心暗鬼の跋扈する俗物の住処に戻ってたまるか
一年目、1月 †
最近、仕事もすっかり軌道に乗ってきた
モンスターの討伐も手馴れたものだ。最近は返り血も気にしなくなった
カナは「そうやって人は殺し合いにも慣れていくの。でも、気にすることはないわ。元来、この地上で最も獰猛で残忍な生物が人間なんですもの。極々自然なことだわ」だのなんだのと垂れていた
別に僕はもともと殺しについて特に感慨は持っていない
仕事だからする。それだけだ
第一、死ぬ生きる程度でいちいち人は騒ぎすぎだ……こっちじゃどうなのかしらないが、僕の世界には人間なんてうん十億人もいた。数人死んだ程度でどうのこうの騒ぐなんて、神経質にも程がある
こっちはそれほど命について気にしてるようでもないみたいだし、そういう意味でもすごし易い土地だ
一年目、2月 †
遭遇、駆除、遭遇、駆除、遭遇、駆除……
人は何処に行っても本質は変わらないようだ。人は理解できないものや少しでも害のあるものに対して一切容赦しない
この討伐依頼とやらは害虫の駆除に似ている
ふと、小さいころ、うちの軒先に巣を作って駆除された蜂の巣を思い出した
カナは「まったく同じことよ。害虫もモンスターも人からみれば変わらないわ」といっていた
珍しく、僕も同意見だった
一年目、3月 †
全く、カナの奴……急にあんなことを……
何が「いいじゃない、減るもんじゃなし」だ……
仕事も退屈だったし、碌な事がない……今月は最悪の月だ……
二年目、4月 †
こちらに来て、一年の歳月が流れた
こっちの生活にもすっかり慣れ、今となってはむしろ元の世界の生活を思い出すほうが困難になる有様だ
……ま、積極的に忘れようとしていたから、という理由もあるが……
さて、それはともかく、魔術の扱いもだいぶ洗練されてきたせいか、冒険者ギルドから光魔術師と名乗ることを許された
カナは「認められたといっても入門者扱いでしょ? 可愛い可愛いヒヨコさんであることに違いなんてないわ」と相変わらずの憎まれ口をたたいていたが……まぁ事実なので不問とする……
二年目、5月 †
冒険者ギルドから一人前として認められた
もうすっかりいっぱしの冒険者として認められたと思うと、自立できた気がして少し嬉しい
僕は現実世界で子供に甘んじていることが嫌で嫌で仕方がなかったから、尚更だ
子供は嫌だ。子供には何の権利もない。子供には束縛しかない……周りはしらないが、少なくとも僕の居た環境は間違いなくそうだった
カナの奴は「そんな泣き言をいつまでものたまっているから栄治は子供なのよ」とか言っていた……五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い!
お前に僕の何がわかる、お前に僕の苦悩の何が……!
お前みたいな(ここから先は文字が異様に汚くなっていて読めない)
二年目、6月 †
雑音、雑音、雑音、すべてが雑音
ああ、雑音が消えるのは気分がいい。少しずつ雑音が消えていくのは気分がいい
今日はあの女の雑音が聞こえない
いいことだ、たまにはそれもいいことだ
どうせ、またすぐに聞こえてくるのだ。たまには聞こえないほうが気分がいい
でもどうせ聞こえてくる
どうせすぐに聞こえてくる
「当たり前じゃない。私は消えないわ。あなたがここにいる限り」
ほら、また聞こえてきた
二年目、7月 †
デスロックが飯を食いに来た以外には特に何もない月だった
デスロック……カナの知り合いらしいが、不思議な少女だ。死神らしいという噂を聞いた覚えがあるが、見た目からとてもそうには……いや、見た目でどうのこうの言うなんて此処じゃあ意味のないことだったな
カナは「死神と知り合いってことは、もうすぐ栄治も連れて行かれちゃうのかしらね?」と実に愉快そうに言っていた
ふん、まぁでも、本当に彼女が死神なのだとすれば、死後を任せることができて丁度良いかもしれない
これも一種の未来への投資という奴だろうか?
死ぬ前から地獄の銀行に預金したがる金持ちの話を思い出した
二年目、8月 †
トーコちゃん……不思議な女の子だ
あの子からは年相応ではない何かを感じる
そう何かを……だが、その何かが何なのか、僕にはわからない……
カナは「あら、栄治、恋かしら?」などと囃していたが……まさかな
二年目、9月 †
魔女は語る
「迷う必要はないわ、躊躇う必要もないわ、アナタはアナタの思うままでいればいい」
迷ってもいないし躊躇ってもいない。僕は僕の思うままに生きている
「ならそのままでいいのよ。気にする必要はないわ。悩む必要もないわ。この会話もすぐに忘れればいいわ」
いわれなくても忘れる
ほら、もう忘れた
二年目、10月 †
先日は酒場で色々と不本意な異名をつけられた
だが、その中で紀貫之の土佐日記の一節に似た句が語られたことには驚きを隠せなかった
まさかこんな異世界で故郷の古典を……いや、まぁそれだけ身近ってことなんだろう
考えてみれば、俺はこちらにきて公用語にも困っていないしな……ほんと、なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだろう?
カナは「そりゃあそうよ。アナタの望んだ世界だもの。アナタが意思疎通の手段に困るわけないじゃない」などと相変わらず的を得ない事をいっていたが、まぁ、いつもの事なので気にしない事にした
二年目、11月 †
東雲……同じ日本人の男だが、なんなんだ奴は……?
言い知れない何かを、得体の知れない何かを奴からは感じる……役に立ちそうな男ではあるが、一体奴は何を知っている?
カナは「さぁねぇ? 私ってほら、人によってはものすごく嫌われるみたいだし」とかいっていた
別にお前のことは聞いていない
二年目、12月 †
「疑う必要なんてないのよ、栄治」
「迷う必要なんてないのよ、栄治」
「アナタはアナタの思うままに生きればそれでいいの」
二年目、1月 †
冒険者ギルドから光魔術初級者を名乗ることを許された
カナは「ふぅん、少しはマシになったってことじゃないの?」と、相変わらずの憎まれ口をたたいていたが、無視した
別にお前に認められる必要はない
僕を認めるのは僕だけだ。お前じゃない
二年目、2月 †
退屈な日常
退屈な依頼
退屈なこの世界
でも、それでも、この世界は僕のいた世界よりもマシだ
「ええ、その通りよ栄治。ここはあんな世界とは根本から違うのよ」
そうか、それならよかった
二年目、3月 †
冒険者ギルドから熟練の冒険者であると認められた
これでもう冒険者として信頼されるだけの実績を積んだということになる
もうこっちでの生活に困ることもないだろう
カナは「手に職ついた感じじゃない、おめでとう栄治」と、珍しく褒めてくれた
不吉だ……もうすぐ僕死ぬのだろうか……
三年目、4月 †
こちらに来て三年の月日が流れ、気がつけば僕も二十歳
異世界で成人してしまった。まぁ、戻る気もないからいいのだが……
そういえば、トーコちゃんがなんと年上だということがわかった……驚きだ……
カナは「女の年なんてわからないもんよ」なんていっていたが……
そういうレベルじゃないだろあれ……
三年目、5月 †
ガラにもなく、昔の事を思い出した
昔の事というほど、僕は歳をとっているわけでもないが、それだって自分の過去は過去だ
5年も前の話になればもう僕にとっては大昔の話である。なにせ人生の4分の1だ
5年前……まだ、僕が15の中学生で、まだ真夏の沼の底のような息苦しい環境の中でひぃひぃ息をしていたあの頃
まだ、あの頃の僕には野心があって、あの頃の僕には夢があった
どんな夢だったのかはもう思い出せない。結構当時は思いつめていたのだが、今覚えていないのだから、存外にどうでもいい夢だったのだろう
あと、あの頃はまだ結構笑って居たような気がする
だいたいは苦笑いだった。渋々笑っていた。だが、それはいつものように、そういう空気だから笑うわけではなく、一応、心から渋々笑っていた
それは苦笑いだったけど、確かに僕が心の底から笑っている瞬間だった
そう、僕はいつも苦笑していた。あの子の隣で
あの子が隣でいつも笑って
――――――――
……夢を見ていた。長い夢を
どんな夢だったのか思い出せないが、結構長く夢を見ていたように思う
まぁ、でも夢なんてそんなもんだろう。見ている最中は文字通り夢中になっているものだが、醒めてしまえば結局、そんなものは脳の電気信号が見せる幻に過ぎない
「不機嫌そうな寝起き顔ね、栄治。なんだか、すっきり眠れなかったようだけど、大丈夫かしら?」
ベッドの横に腰掛けた魔女が笑う。クスクスと、僕を嘲笑う
だから、僕は苦笑して、それに返答してやる
「お前に心配されるようじゃいよいよ大丈夫じゃないかもな」
と
三年目、6月 †
不思議なものを探したいと思った
見たこともないものを見たいと思った
いや、思っていた
今の僕はどうなんだろう
何かを探したいと思っているだろうか
何かを見たいと思っているだろうか
探したことを後悔したことと、見てしまったことを後悔したことは山ほどあったが……その逆は、久しく覚えていない
カナは「人の創造した世界には人が想像したものしかないわ。本当に新鮮なものなんてそうそうあるわけないじゃない」と、嘲笑して僕にいった
僕は反論ができなかった
三年目、7月 †
冒険者ギルドで光魔術中級者と名乗ることを許された
もう魔術師としては一端として認められたということだろう
カナは「まぁ、中の下ってところでしょう。栄治らしくていいんじゃないの?」などと相変わらずの事をのたまっていた
まぁ、素直に褒められても気持ちが悪いし、これでいい
三年目、8月 †
仕事で斧を手に入れた……が、重い
平均から見れば些か貧弱な僕には少し辛い武器だ
カナに「いいじゃない、薪割りにでも使えば」と言われ、とりあえずそのとおりに使っている
……というより、それ以外に使い道がない……まぁ、いいか。斧は元々、武器じゃなくて日用品だしな……
三年目、9月 †
初めて護衛依頼をやらを受けてみた
人間を相手にすることもある依頼だと聞いて少し興味を持っていたが、今回はゴブリンやコボルドなどしか出ず、普段の討伐依頼とさしてかわらない内容だった
カナは「人間が出なくて残念だったわね」といっていたが……無視しておいた
三年目、10月 †
護衛の仕事は存外に面白くない仕事だ
どうも、僕は誰かを守るということには向いていないらしく、気乗りがしない
カナは「そりゃそうよ。だって栄治は自分の身を守るのに、自分の存在を守るのに精一杯じゃない」とかいっていた
大きなお世話だ
三年目、11月 †
巨大蟻の討伐とやらをした。これも存外に面白くない
ここ最近、微妙な仕事ばかりだ
そういえば、魔女が来た。箒に乗った本物っぽい魔女だ
魔女らしく傲慢で高慢ちきな感じだったのが印象深かったのを覚えている
カナは珍しく何もいわなかった。こっちの魔女は魔女で思うところでもあるのだろうか
まぁ、どうでもいいが
三年目、12月 †
行方不明になったと聞いていた東雲さんが戻ってきたと聞いた
まぁ、あのおっさんが死ぬとも思っていなかったし、それ自体は不思議でもないが、カナがそれを教えたということがなんだか妙だ
徹底して他人には無関心な口の奴なんだけどな……
それについて言及するとカナは「気まぐれよ。ただの気まぐれ」と答えた
面倒なのでそれ以上は言及しなかった
三年目、1月 †
本屋で哲学書を読んだ。何処の世界でもどうでもいいことに一生頭を悩ませる好事家というのはいるようだ
斜め読みした感想では、この世界の哲学も僕の居た世界の哲学と大差ないというのが正直なところだ
「全ては等しく無意味で無価値よ栄治。でも、等しく無意味で無価値だからこそ、全てに等しく意味があって価値がある……と、いい替える楽観主義者も世の中にはたくさんいるようね」
僕はその考えに対しては懐疑的だ。反転した意味が必ずしも同一になるとは限らない
無意味なものは無意味なままだ。全てが無意味なら全ては無意味なままで、全て無意味で等しく無意味だからって等しく意味が生まれるって理屈にはならないと僕は思う
まぁ、思うだけだ
実際はどうなのかなんて知らないし、興味もない
哲学なんて所詮は飯事。考えたって答えは出ないし、出す必要も無い
そんなもんだ
三年目、2月 †
「望みなさい、栄治。まずはそれからよ」
うるさい
三年目、3月 †
逃げ出せればそれでよかったのかもしれない
僕はただ逃げ出しただけなのかもしれない
でもいい、それでいい
立ち向かうのなんて真っ平だ
戦うのなんて真っ平だ
逃げて逃げて逃げて逃げ切るんだ
「ええ、そうよ、戦う必要なんてないわ栄治。弱虫の貴方はそうやってずっと世の中から逃げていればいいのよ」
うるさい
四年目、4月 †
こちらに来て4年の歳月が流れた
最早特に感慨はない。慣れたものだ
そういえば、冒険者ギルドから怪物ハンターの称号を与えられた
カナが「怪物をモンスターと言い換えると……」と、言っていたが、そこから先は言わせないように口を塞いだ
四年目、5月 †
冒険者ギルドから光魔術上級者を名乗ることを許された
もう光魔術の扱いは殆ど自分のものに出来たと言えるだろう
カナは「考えてみれば、光って栄治らしいかもね。真っ白で薄っぺらくて」とほざいていた
うるさい
四年目、6月 †
「考えることなんてやめちゃえばいいのに」
うるさい
四年目、7月 †
「何したってだめよ、栄治は栄治なんだもの。でも、それでいいの。もっと見苦しく足掻いて」
うるさい
四年目、8月 †
「変わらない変わらない、変わらないことを望むのね栄治。いえ、望んでないのかしら? 望まないから変わらないのかしら? どうなのかしら?」
うるさい
四年目、9月 †
「死んだように生きるだけなら誰でもできるわよね」
うるさい
四年目、10月 †
小さい頃、僕は猫になりたかった
一日中寝てばかりで、暇になれば遊んでいる気侭な猫になりたかった
「つまりは逃げ出したかったのね」
うるさい
四年目、11月 †
冒険者ギルドから練達の冒険者であると認められた
まぁ、僕の居た世界でも四年半以上も同じ仕事をしていれば一応、その道の最低限のプロくらいには認識してもらえるし、順当なところだろう
カナは「もうこっちで骨を埋めれば?」といっていた
別にどうでもよかったので無視した
四年目、12月 †
久しぶりにデスロックを見た
僕が出歩かないせいだろうが、他人と話をするのは久しぶりだったのでなんだか懐かしい気分になった
カナに「ま、栄治って友達少ないもんねー」と嗤われた
本当のことだったので無視した
四年目、1月 †
雲は何処から来るのだろうか
雲はいつ水に戻るのだろうか
小さい頃はそんなことを漠然と良く考えていた
そういえば、空が青い理由を僕はまだ知らない
知る必要もないのかもしれない
カナは「栄治、青好きでしょ? だから空は青いのよ」といっていた
鼻で笑って返した
四年目、2月 †
ウルフハンターの称号を得た
横文字にするとそれっぽいが、ようは野犬駆除だ
大したことではない
カナは「バカっぽくて素敵じゃない」と笑っていた
ほっとけ
四年目、3月 †
現実からの逃避手段を、僕は向こうに居た頃いつも探していた
しかし、いざ真の意味で現実から逃避してみると、不思議な感覚だ
ここは現実ではない。だが、今の僕にとっては確かな現実だ
こっちにはこっちのルールがあり、柵があり、苦悩がある
それを辛いと僕は思わないが、それでも、逃避した先すら現実の一部であると否応にも思い知らされる
「逃げて逃げて逃げた先が、袋小路じゃないことでも祈るといいんじゃない?」
馬鹿なことをいうな
逃げた先はいつだってどん詰まりだ
それだって、僕は逃げるしかない
逃げることしか、力の無い僕にはできないのだから
五年目、4月 †
気がつけば、五年たっていた
現実だったらもう大学もあがっている年齢だ
まぁ、こっちにきてしまえばそんなことは今更どうでもいい
カナが「ママのランチがそろそろ恋しいんじゃないの?」などとほざいたので睨み返しておいた
僕には母なんていない。いや、アレを母だなんて思ったことは生涯一度だってない
五年目、5月 †
とても出来の良いメイスとやらを拾った
が、僕は肉体労働は専門外だし……
デスロックは剣が欲しいとかいってたな。僕も出来れば剣のほうがいいや
使い道色々あるし
カナは「また物干し竿にでもすれば?」と、提案する
そうしようと僕も思った
五年目、6月 †
酔っ払いに絡まれて殴られた
別に応戦しても良かったのだが、近くに憲兵がいたので話がこじれる前にそちらに引渡し、事なきを得た
暴力沙汰は第三者の介入でだいたい終わる
こうやって見ると、現実もこっちもやっぱり大差はないんだな
カナが「別にボコボコにしちゃってもよかったんじゃないの?」といったので、
「腕力には自信がないんでね」と苦笑して返しておいた
五年目、7月 †
久しぶりに東雲さんと会った
相変わらず元気そうで、相変わらず少し変わったおっさんだった
カナには「貴方も十分変わってるとおもうけど?」と言われた
そんなことない。俺は普通さ
救い難いほどに
五年目、8月 †
分からない
分からない
分からないよ
「そう」
そう
五年目、9月 †
周囲から懐が暖かい野郎だといわれるようになった
まぁ、確かに、もう当面の生活費に困ることもないだろう
いつまでも貸家なのもあれだし、そろそろ一戸建てくらい買ってもいいかもしれない
カナが「ついに一国一城の主ってわけね。元の世界だったら絶対ありえないわよ?」と笑って言う
そういえばそうだな
もうすっかり忘れてたけど、僕はここから見れば他所の世界から来た人間だった
まぁ、なんでもいい
ふつうのがくせい †
「ふふふ、あなたはもう少し自信を持ってもいいのよ栄治?」>
<「黙れ魔女。自信過剰は好みじゃない」
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間違いは正せば済む話だ