ヒーローモドキ家出身 妖狐 389113 †
「…いや、驚いたわ。あんた見たいなんもおったんやね」
打ち付けられた遺跡の壁に背を凭せ、正面からゆっくりと歩いて来る脅威に目を向ける。 それは死を連想させるシルエット。死神と呼ぶに相応しい姿をした怪人であった。 こつ、こつ、と一歩一歩歩み寄る死神を見据えながら、腰に手を回す。其処にある筈のバックルは、無い。 腰に手を回す動作を見てか、死神は、つ、と、極自然な動作で、片手を顔の高さまで持ち上げる。 其処の手には、さっきまで葉子の腰に回されていたベルト。どうやら最初の交戦中に奪い取っていたらしい。 死神は徐にベルトを地面に放り投げれば、ミシリと音を立ててそれを踏み付けた。 ベルトは一瞬、青白い火花を上げ、四散する。 その残骸を踏み越えれば、死神はまた一歩と葉子へと迫って行く。 さて、万策尽き果てたかと、諦めを込めた微笑を浮かべ。 元々改造人間であるが故に、生身のままでも戦えない事も無いが、変身状態を易々と打破る相手に通用する筈も無い。 ……改造人間? 「あぁ……せやった、せやった」 不意にその事を思い出し、今度は苦笑した。何故そんな事すら忘れていたのか… 確かに、ベルトを手にして以来、随分長い間、封じ込めてはいたのだが。 「何でこないな事忘れとったんやろ? ウチ、今までヒトのつもりでいたんか」 自嘲気味に微笑すれば、凭せていた壁から、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。 死神はそれを見れば立ち止まる。直ぐに仕掛けてこない辺り、勝者の余裕ゆえか。 「……二度とならんで済むと思とったんやけどなぁ……。 兄ィちゃん。ええもの見したったるよ」 死神を見据えれば、ぱむ、と柏手一つ。正面で両手を組めば、変身、と小さく呟いた。 刹那、体の内側から、叩き付ける様に膨れ上がる内圧。その衝撃は、深手を負ったその身には耐え難い物だった。 吐血に傷口からの大出血。意識を失いそうになりながらも、どうにか堪え、身体構造が書き換わって行く感覚に身を預ける。 恐らくは、今生最後の変身。人でもライダーでも無く。怪人としての自分への。 やがて、内圧がゆっくりと終息し、姿を現す、異形。 「……貴様、化物か?」 一部始終を目撃した死神は、抑揚の効かぬ声で初めて声を放った。 「アンタに言われとぉ無いわ。 ……ウチな、こない姿でも正義の味方やねん。 せやから、アンタ見たいなん、放っとけへんねん。難儀やけどな。 ……ちう訳でや。第二ラウンドやで、兄ィちゃん」 携えた槍で地面を一度、こん、と叩き鳴らせばそれを構え、死神へと言い放つ。 糸を張り詰めた様な暫しの沈黙を置き、両者は向かい合い……やがて、遺跡を伝う水滴が落ちる音と共に、闘争は始まった。 あぶらげちょーらい †最新の3件を表示しています。 コメントページを参照 来客 †
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