ノウス家出身 ラグ 418633 Edit

ID:420815
名前:ラグ
出身家:ノウス
年齢:18
性別:
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前職:
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理由:
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状態:
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方針:
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難易度:
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信頼性:
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その他:ステータス/戦歴Edit
状態:
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企画:企画/幼馴染

全滅だ

思った以上に冷静にそう判断し、判断した後、抵抗を止めた
相手の巨大な爪が、自分の全存在の小ささを嘲笑うように振り下ろされる
抵抗してもしなくても、人間などに防ぎようがない
青年は目を瞑らず、視線を逸らさず、自分の命の終わりを、自分自身で見届けようと思った
もう、自分以外誰もいないのだから

瞬時に、巨大な魔物の上半身が霧散する
魔物の体液と肉片の雨を浴びながら、青年は全ての力が抜けるような感じを覚えた
前の時もそうだった 止めを刺されそうになると、こうして最後には魔物の方が絶命する
見えない何かの力によって

だが青年はその力の正体を知っていた 今は見えなくとも、以前に一度、それを見ているからだ
それで充分だった

いる

青年は膝をついて頭を下げた
「ごめんなさい…」
毎日毎晩、寝る前に欠かすことのなかった懺悔を、今この場でも行った
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」

――だからもう、許して下さい――
――どうか、終りにして下さい――

あの日、初めて遺体を犠牲にしたあの時から、彼はずっと贖罪の日々を送っていた
出来るだけ苦難の道を進むように
出来るだけ幸福を求めないように
それでも人の精神では耐えられるはずもなく、彼は無意識に救いを求めるように自身の故郷に帰ってきた
しかしそれが、更なる苦難の道となったのは皮肉なことだった
目の前にある幸せをつかめない
仮につかんだとしても、それはあまりにも離し難く、強く握りすぎて、自身の手で砕いてしまうだろう
それもまた贖罪かと、彼はとうの昔に諦めていた
ただ、自分に再び言葉をかけてくれた、幼馴染み達には本当に申し訳なく思っていた

青年は幽鬼のようにゆらりゆらりとぐるりを見回し、洞窟特有の湿った岩盤を見つめていた
今や暗闇に染まっている濃い茶色の瞳は、やがて大きく見開かれた

いる

岩盤に何かが盛り上がったような模様が見える
人の顔だった
老若男女の大勢の顔の中の目の部分が、一点に青年を見つめている
知っている顔だった
忘れるはずもない
自分の命乞いの為に、狂人に差し出した遺体の持ち主だ
青年はその内、一体の遺体の顔を思い出す
どんなに力を込めても、決して閉じられることのないまぶた
どんなに角度を変えても、じっとこちらを見つめている濁った視線
いま青年を見つめている視線は、その時と全く同じだった
犠牲にされたその日から、この魂はずっと青年を見つめていたのだ

見つめられる中、彼の表情はわずかに破顔していった
彼らの姿を初めてみた時は、館の主をこの手にかけた時だった
彼らは一人一人、乗り移ったように自分の右腕を動かして、手に持った斧を館の主に叩きつけた
何百人という死者が、一人一度ずつ、館の主を砕いていったのだ
自分はそれを初めから終わりまで見届けた
館の主は生前の形をほとんどなくしていた 後で見つけた人間が、果たしてあれを元人間だったと判断できたのかも怪しい
彼らの姿を見たのはそれっきりだった

そして今、目の前にその彼らがいる
あの時と同じ視線で、今、自分を見ている
魔物に殺されるなど、この死者達は許してはくれないのだ
苦しんで苦しんで、そして最後に、あの館の主と同じように
青年は立ち上がった
そして両手を仰いだ
静寂に満ちた洞窟内で、何かがはじける音が響いた

最後の言葉を発する間はなかった
いや、青年は何も言わなかったかもしれない
悔いはない
彼の望みは、もう既に叶えられていたのだから


もう一度、友達に会いたい


故郷を離れてから帰ってくるまで、狂気に満ちた日々の中、自身も狂っていく中で
彼の精神を支えていた、ただ一つの願いだった

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Last-modified: 2010-09-27 Mon 16:30:46 JST (4960d)