『エスペラント。帰ってきたら、お前はカポ・レジームだ』
団の荷物を、子飼いの商人を通して運ばせる中。 虎まで放っての波状攻撃。要するに計画的な襲撃だ。 最後の最後。そこまでは、一人残らず、叩き潰した。 同行している冒険者の連中も、まぁ、それなりにやるやつらだった。 油だかオイルだか、そんな名前のキャラかぶりは気に食わなかったが、それでもだ。 それでも、そこに死体になって転がるほどじゃあ、なかった。 悪くない面子だった。―――終わったら一緒に飲んでも良かった。 悪くない計画だった。―――余程の事がない限りは問題なかった。 運が悪いだけだった。―――余程が起こった。ただ、それだけだ。 まぁ、確かに。 うちの団の手に入れたのも、あやふやな情報だった。 だからこそ、子飼いのチンピラじゃなくて、俺が出た。 結果がこれだ。参った話だ、どうなってんだ。 いや。 単純な話だ。俺が親父の期待に添えなかった。 にやついた笑みを浮かべている、敵の親玉の姿が眼に入る。 気にくわねえ。ぶっ殺してやる。 気にくわねえ。ぶっ殺してやる。 気にくわねえ。ぶっ殺してやる。 でも、あぁ、糞。 腹から何かが零れ落ちやがる。 だから。 お前らが欲しいのは積荷なんだろう? 親父の、弱みになる、これなんだろう? だったらよぉ。 俺が親父に怒鳴られるだけで、親父を守れるなら。 安いもんじゃねえか。 なぁ? 折れた奥歯を地べたに吐き捨てる。 拳を握った。 ごぅ、と音を立てて、燃え上がる。 これが俺だ。 俺の炎だ。誰にも負けねえ。負けなかった。 普段は拳だけ。そして今、炎は俺の肩口から。 耐火性のスーツを貫いた、傷口からも吹き上がる。 勢いの良い炎を見て、盗賊どもが、一歩後ずさった。 思わず、歯を剥いて笑う。 くつくつと喉を鳴らす。 それを見て、盗賊団の親玉が、子飼いに特攻を命じて。 バァカ。おせえよ。 べぇ、と舌を出した。 俺の身体が、瘧を起こしたように震える。 炎。炎。炎。身体の全てから迸る。 結局の所、普段の俺は、留まっていたのだ。 混ざりもの。魔物と人の。落とし子。 人ではない。炎を出す人などいない。 魔物でもない。この身はそんなに頑丈ではない。 だから。中途半端で。 普通に考えればわかる話。 肉体の生み出す熱量を、全て炎に転化する。 赤熱細胞が勢い良く駆動して。 熱は俺の身体を焼く。 水の比熱は高い。少しの炎では、人の身体は燃え尽きない。 ましてや頑丈な混ざりものであれば。 だから、拳に炎を纏わせて。俺はそれを振るってきた。 けれど。所詮は混ざりものなのだ。 親父の作ってくれたスーツを残して。 俺の全てが、燃えている。 揺らぐ。揺らぐ。視界が揺らぐ。 炎の生み出した陽炎か。 それとも、体液が沸騰しているのか。 面白い。なんだか、笑えてきた。 呵呵大笑。 同時。ごぅ、と火柱が上がる。 背後の積荷を巻き込んで。燃える。燃えている。 憤怒の表情の、敵。おもしれえ。 俺の怒りと、どっちがでかい? 焼き尽くす。全てを。 燃える。燃えている。 何が燃えているのか。 俺の中にあった全てが。 何を燃やしているのか。 きっとそれは、生まれた日から。 自分の中にずっとあった、何か。 俺の炎。母の身を焼いたのと同じ。 人を焼くための力。悲しい目の母。 けれど。けれど。けれど。けれど。けれど。 なぁ、親父。これでよかったんだろう?
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