名簿/475302

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  • (木造の建物で唯一光源を確保できるのはたった一つの天窓であった)
    (そこから降り注ぐ陽の光を感じ取っても、今が朝なのか昼なのかも判断出来ないほど、思考は霞がかり、瞳にも活力の一片すら見えなかった)
    (普通の部屋ならば棚やら箪笥やらが壁に寄り添うように並んでいるのだろうが、この部屋にとってそれは無用の長物である)
    (故に普通の部屋よりも広く感じ取られるが、それは風が余計に通り過ぎ、寒々として陰湿な空気を作っているにすぎない)

    (身に付ける服は小袖のみ 服はあるがそれすら着る力はもうとっくに失せている)
    (香油をしたためた黄楊櫛によって作られた艶やかな髪も既に生気がなく、そもそも櫛自体ないので乱れたままであった)
    (喉に通る食事量も日に日に減っているように、ここに来る前のふっくらとした健康的な頬はげっそりとやつれ果てていた)
    (まだ半年すらも経っていないにも関わらず、彼女は遠に変容としていた)

    (こうしてただ生きていることの何と虚しいことか 蛇の生殺しとはこのようなことかもしれない)
    (じんわりとじっくりと逃げられぬこの心身をゆっくりと壊死させていくのだ)
    (もう日を数えることも辛すぎる これでまだ半分どころか四半すら経過していなければ、自分は間違いなく発狂してしまうことだろう)
    (最近では寝台から箱まで行く道のりすらも辛く、寝具を傍に寄せて箱の前で横になっていた)
    (時が来れば箱は勝手に開く まどろむ意識の中、ただそれだけが、時の経過を知らせてくれた)
    -- 鳳釵 2013-03-08 (金) 21:56:39
    • (天窓から落ちる光の角度が垂直になる。それは太陽がこの小屋の真上に来た証であり、時刻が正午を迎えたということでもある)
      (だが果たして彼女はそれに気づいているだろうか、否、気付くだけの気力を持ち得ているだろうか)
      (ぴくりとも動かぬ横たわった彼女の姿は、長年の寝台暮らしが板についてしまった重度の病人のようだ)
      (いや、口がさがない者がもしそれを見やればこう言ったかもしない)
      (まるで死体のようだ、と)

      (気を払ったのは転送の前後、収容所から鳳釵の囚われる場所へ移る時だ。術の相性上、士龍のかけた隠身の術は問題ないとは考えていたが)
      (この身を箸置きたらしめている変化の術は異国の物。転送の術、小屋の結界と干渉しあい万が一には転送そのものが上手くいかない可能性があった)
      (それを防ぐためにも、より綿密に、より影響の少ないよう術の精度を高めることに集中していた)
      (だから己も気が付かなかった。いつの間にか暗い箱の中が明るい日の日差しで埋まっていたことに)

      (無事転送が上手くいったことにほっとしながら、既に空いていた箱の中から周囲の状況を感覚する)
      (箱の中の盆に乗った料理には異常なし。あの料理人たちが食べやすく作り上げた料理も無事だ)
      (小屋の中を探れば、家具の類が殆ど無い殺風景な光景に唖然とし、そして納得もした。一見普通の小屋に見えてもやはりここは牢獄なのだ)
      (人、人はどうだ。もし鳳釵以外に刑を守る誰かが居るのであれば簡単に姿を現すことはできぬ)
      (部屋に立つ人の姿は無い。無いが鳳釵の姿も小さな机とその前にある簡素な椅子にさえ見受けられない)
      (どこにいるのかと思ったその時、気付く。寝具に寝る人の姿を。箱のすぐ側に居たその人物に気付くのが遅れたのは何故か)
      (それは、陽の気の塊のようだった彼女の姿が、見る影もなく生気を感じさせなかったからだ)
      …鳳釵、様、ですよね?(一瞬、箸置きの姿のまま呆けたように疑問の声を漏らしてしまったのも…無理らしからぬ事だろう)
      -- ムジナ 2013-03-08 (金) 22:42:14
      • (夢と現の間で、意識は海の藻屑のように揺れ動きながら、箱が開いた事に気づくのにも暫しの時が必要だった)
        (寝具から無理やり引き離すように起き上がったその身体は、無残にやせ衰えているが小袖姿からでも見て取れた)
        (半ば無意識のように開く箱に向かって手を伸ばす ここに来てからずっとそうしていた日課なのだ 意識などしなくても身体は反応していく)
        (痛々しいほどに細まった指が、箱に触れた途端ぴくりと止まった)
        (耳朶を打つその音は、既に遠い昔の過去の記憶となっていた 故に最初それが一体何なのか理解するのに酷く時間がかかってしまった)

        ―声―

        (それは声だと、ようやく判明できた 自分に向けられる声など、幾日ぶりだろうか)
        (しかしどこから発せられているのかが判らない 目の前にあるのはいつもと変わらない食事だ 量が少ないのは逆に有難かった 食べられず残すのはどうしても嫌な性分だからだ)

        ―待って…待って この声は―

        (記憶の引き出しに大事にしまっていた情報を、気力を込めて引っ張りだす この声は確か 確か 確か確か確か……)
        ………ムジナ?
        (その声は泣いているようにか細く震えていた 長い年月を経てようやく声帯を震わせたように心許ないが、確かにその者の名を呼び そして)

        (そしてその後、その声帯を力の限り震わせ、絹が引き裂かれるような甲高い叫び声が上げられた)
        見ないでっ 見ないで! 見ないでええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
        (頭をかきむしり絶叫し、その声の主から出来る限り遠のくように後ずさる その際にも顔や身体を必死に隠し、背を向けてうずくまってしまった)
        -- 鳳釵 2013-03-08 (金) 23:11:55
      • (投げかけた問いは虚空に消えたかのように響かない。からくり仕掛けの人形のぜんまいが切れたかのように彼女の動きが止まる)
        (その間も訝しげに彼女の様子を観察したことによって、問いの答えを待たずとも確信を得ることは出来た、出来たが)
        (間違いなく同じ人物であるが、人はここまで変われるのかと唖然とする有り様であった)
        (輝きを放っていた瞳は鈍く濁り、岩をも砕く腕は細くやせ衰え、上質の絹のようであった栗色の髪は潤いを無くし枯れ草の如く)

        …お久しぶりでございます。鳳釵様(力の無い声で己の名を呼ばれ、箸置きの姿から獣の姿へと身を戻し、姿を現す)
        (そしてそのまま深い礼をしようとしたが…、狂乱したかのような鳳釵の様子にびくりと身を震わせその動きを止める)
        ほ、鳳釵様?大丈夫です、私です、ムジナですよ!(ともしや彼女を怖がらせてしまったのかと慌てて声をかけながらも、はた、とその言葉に気付き)
        …見てはおりませぬ。安心してください(そう言い、小さな背を向けて、ぺたりと床に座る。既に彼女の姿は十二分に見てしまっているが、それは口に出していい事ではあるまい)
        (そうして、背と背を向けた状態のまま、彼女には見えぬ獣の顔が、義憤に歪む。ここまで、ここまで彼らは彼女を追い込んだのか、と)
        -- ムジナ 2013-03-08 (金) 23:42:36
      • (女の哀調を帯びた叫びが響き渡るも、それらを無情に吸い取っていくかのように、部屋の中は微塵も変わることはない それはそのままこの国の姿勢とも見て取れた)
        (やがて叫び声は啜り泣きに代わる 身体の芯から凍えさせるほどに悲しく絶望的な泣き声に)
        (激しい慟哭が静かに収まっていく 泣くことで残っていた気力すらも使い果たしてしまったのだろうか)
        …ムジナ(か細い声がゆっくりと振り返った 床にぺたりと座っている小さな背中が目に入る)
        (先程の自分の言葉を忠実に守ってくれているのだろう その優しさにまた涙が滲み出てきそうになった)
        (袖を顔の前に上げ、見せないようにしながらも、懐かしく温かいあの頼もしい獣の姿を、今一度この目で確かめ、触れたい気持ちが膨れ上がる)
        ムジナがいるってことは、静次くんが……らんぞー君が来ているの?
        -- 鳳釵 2013-03-09 (土) 00:09:02
      • (小さな獣の背中と痩せた女の背中が向けられたままの奇妙な光景に、やがて泣き声が響き出す。それは地の底から響くよう)
        (寒々しい部屋の温度が、更に下がったかと思えるような時をただじっと耐える。その涙を今すぐに止められぬ己の身を呪いながら)
        …はい(背から聞こえるその声のなんと細いことか。触れては折れてしまいそうなその儚さに眉根をまた顰める)
        ええ、お二人とも儀丁へ参られております。鳳釵様がと士龍様が伝えてくださった言葉に答えるため…鳳釵様の力になるために。
        (そう、小さなこの身では彼女の涙を止められないかもしれないが、携えた言葉なら違うだろう。それは確実に彼女の力になってくれるはずだ)
        士龍様…そして史繧様にも御協力頂き、なんとか私めだけがここにたどり着きました。…史繧様も鳳釵様の事、心配していましたよ。
        (しばしの時を共に過ごした身だ、伊達や酔狂であの男が手を貸した訳ではないことはよくわかっている。本人は口が裂けようともそんなことは言うまいが)
        -- ムジナ 2013-03-09 (土) 00:38:35
      • (小さな背中が語りだすその言葉に、濁った瞳からは今までと違う涙が溢れ出してきた)
        らんぞー君…来て、くれたんだ(私の為に、愛しいあの人が来てくれた 片時も忘れずに、今もはっきりと思い出せる)
        (太陽のように眩しく輝かしい笑顔に、全ての悩みを吹き飛ばしてくれる快活な笑い声 この身体をいつも大切に包み込んでくれた胸元の硬さ、温かさ 何よりも優しい言葉を惜しみなく与えてくれたあの声)
        らんぞー君……(会いたい 会いたくて堪らない 朝目覚め夜寝るまで、ずっと彼の存在を感じられたあの頃に戻りたい)
        (愛する人の名を何度も呟きながら、また床に埋もれるように身を沈める 彼が来てくれた嬉しさと、会えない寂しさ そして)
        (今は、その姿を思い出すと同時に、この惨めな姿を見られているような苦痛に見舞われる 彼にだけは、こんな姿を一目でも見られたくはなかった)

        …史繧様(ムジナの最後の言葉に、ふと鸚鵡返しにつぶやく)
        ……そう、史繧様が(何か納得したかのようにそれだけ言って、暫し沈黙が続いた)

        ムジナ 貴方はみんなにこう伝えて
        (彼はあの人達の使者だ それなら私は礼儀を持って迎えたい 弱々しくなった身体で何とか姿勢を整え、一度深く呼吸をし、丹田に力を込めて)
        『来てくれて、有難う 私は絶対に、負けないから』
        (そうだ 負けない 負けるわけにはいかない ここで挫けたら今までの自分は全く意味を無くしてしまうではないか)
        (言い終え、力のこもらない身体を懸命に動かし、背を向けるムジナに近づいていく)
        (やがてすぐ目の前まで来れば、その小さな背にそっと両手を伸ばし、その身体を抱き上げた)
        (こんなに重かっただろうか 正直持ち上げるだけでも一苦労だった 小さく頼もしく温かいその身体を、以前のようにそっと抱きしめる)
        ムジナも、来てくれて有難う…嬉しかったよ
        (頬ずりするようにそう囁き、か細い腕で力の限り抱きしめる その腕の力は以前とは比べ物にならないほどか弱かった)
        (抱きしめ、目を閉じ、その温かさを一心に身体に染み込ませる それはまさに、彼の人の温もりに等しかった)
        -- 鳳釵 2013-03-09 (土) 01:07:47
      • (輝き。今まで聞いていた彼女の声が黒く薄汚れた小石のものであるのならば、今背に響くその呟きには宝石のような輝きが響いて取れる)
        (己が主人の片割れを呼ぶその声には確かな暖かさが宿り、一つそれが響くたびに冷たい小屋の中に人肌の温もりを与える)
        (よかった。これだけでも、これだけでも我らが来た意味はあった。そう思いながら乱蔵、静次、士龍、史繧の顔を次々に思い浮かべる)
        (そして史繧の名が呼ばれた時、その声には違う色があった。昔馴染みだったという彼の行動に、腑に落ちる所があったのだろう)
        (ほらな?と今にも言いそうな彼のにやけ顔を思い浮かべていれば、以前のような張りのある声が聞こえてきて)
        …確かに。鳳釵様のお言葉このムジナが頂戴致しました。この身に変えてもしかとお伝え致します(こちらも彼女に相応しく、気を込めた返答をし)
        (そしてじっと彼女の言葉を反芻し、これが彼女の覚悟なのだと深く受け止める。この刑罰が並大抵の物でないことは、今の彼女を見ればすぐ分かる)
        (しかしそれでも、彼女は立ち向かい、前を見つめ続けることを選んだ。重い…重い言葉だ)

        (そうしていると、ふいに身体が彼女の手に掴まれ、ゆっくりと持ち上げられる。その弱々しげな力に少し心配になってしまうが)
        (ふわりと抱かれ、頭越しに見上げる彼女の言葉に目を細め、思う。例え千人力の力が失われようとも、彼女は彼女だ。以前と同じ、夏鳳釵なのだ)
        有難う御座います…その言葉が、私の誇りです(人の役に立つこと、それが今の己の生き甲斐であり、存在理由。彼女がこの身を必要としてくれる、それが何よりも、嬉しい)
        (そして、彼女の頬に己の短く滑らかな毛で覆われた小さな額をさらさらと擦りつけ、ひょいと顔を持ち上げてぺろりと頬を舐めた。獣なりの…親愛の情を込めて)
        -- ムジナ 2013-03-09 (土) 21:53:26
      • (頬をくすぐる滑らかな毛並みと、チロリと舐める舌の感触がくすぐったく、思わず口元がほころんだ)
        (笑みを浮かべるなど幾日ぶりだろうか ここに来て以来誰とも会わず、ただ苦痛を耐えるばかりの日々にすり減らされた神経が徐々に回復していくのが判る)
        ムジナ…もう少し、もう少しでいいから傍にいて
        (先程まで力強く言った手前、甘えを吐くのはいささか居心地悪い感じもしたが、この思わぬ僥倖はすぐには離し難かった)
        (ムジナを通して彼の人を感じる この日向の匂いは彼とよく散歩した匂いに似ている この温もりは手を繋いだ時に感じた幸せを思い出す)
        (思えば思うほどに恋焦がれ、再会叶わぬ現実があまりにも辛い しかしそれでもすがりたかった 今の彼女には、その僅かな幸せすらも喉から手が出るほどに欲していたのだ)
        -- 鳳釵 2013-03-09 (土) 22:27:11
      • (彼女が笑ってくれた。やつれた頬で浮かべるその笑みはそれでも花のように咲きこちらを暖かな気持ちにさせてくれる。不思議な笑みだ)
        大丈夫ですよ…ムジナはここにおります(小さな己の身を抱くその力は弱く、ともすれば己を取り落としそうになってしまいそうだが)
        (そんなことは問題ない。彼女がそうしたいのであれば、幾らでもこの身を任せようと、深く身を預けた)
        そう、史繧様もですが…士龍様も大層身を案じておられました。そして…私はいつでもお前の味方だ、とも。
        (そうして、士龍から預かった彼女への言葉を伝える。涼やかで優しげな空気を持つ士龍の、深い憂いを込めた瞳を思い出しながら)
        (刑を受けている彼女自身を除けば、彼こそはもっともこの刑罰を知る者であったろう。それに己が妹をかけねばならなかった心情、察して余りある)
        -- ムジナ 2013-03-09 (土) 22:47:21
      • 本当? 本当に…?(胸の中に身を委ねるように寄り添うムジナを、より一層大切に抱きしめ、自身も頬ずり、その温もりを深くこの身に染み込ませる)
        (そして笑みは更に深まり、それに喜ぶムジナの思いも感じ取る 自分もまだ笑えるということが嬉しかった あの人も私が笑うと喜んでくれたものだ)
        (すでに食事の意志はない 何よりのご馳走がこの胸の中にある それを一心に、存分に味わいつつも、ムジナの言葉にはっと表情が揺らぐ)
        お兄ちゃんが…そんなことを
        (自分は彼からすれば家を捨てたと思われても仕方ない だがそれでも味方になってくれる 兄はいつもそうだった いつまでも慈悲深く、私を肯定してくれる)
        (きっと減刑も頼んだことだろう 命を取られないのは兄のおかげだろう 自分は彼の恩に全て報いることが出来るのだろうか)
        (たとえ全て返しきれなくとも、出来る限りの恩は返していきたい)
        ここを出たら、真っ先にお礼にいかないとね(ムジナの温もりに少し余裕が出てきたのか、小さな額を指で撫でながら微笑む)
        お兄ちゃんはね、昔から私になんでもしてくれたの 勉強もそう いっぱい色んなことを教えてくれた
        私はあの頃幼かったから、その半分の意味も判らなかったけど、でも不思議なの 覚えられないと思っていたものも、こんな時に思い出すことがあるの
        (あれは古来の歌だったか 昔の人の心情は誰にでも等しく、そして各人各様だと)
        (しかし古から伝わる歌というのは、より多くの人が共感できるものであり、秀逸なものであるのだと)
        -- 鳳釵 2013-03-09 (土) 23:13:15
      • ええ、鳳釵様の事を宜しくと頼まれました。…良いお兄様ですね(隠身の術を施された際、箸置きの身に触れられた士龍の指の感触を思い出す)
        (あの指先も、今己の額を撫でているような優しくて繊細な指先であった。やはり兄妹はそんな所も似るのだろうか…己の知る兄弟は正反対であるが)
        私も礼をしなければなりませんね…ここに私が入ることが出来たのは士龍様の術のおかげでもありますから(彼女の浮かべる微笑みに、自分も幾分か表情を緩ませ)
        きっとそれは士龍様の教え方が良かったのかもしれませんね、その教えはひととき分からずとも、鳳釵様の血となり肉となってるんですよ。
        (それは首を傾げる小さな鳳釵に若き士龍が根気良く丁寧に教授を行う姿が脳裏に浮かぶようで。思わずくすりと小さな笑みが浮かぶ)
        あ、あと…静次様からも鳳釵様に言伝が。…気を強く持ってほしい、諦めなければ道はいつか開く。とのこと。それと…
        雪音が寂しがっていた。料理の続きを教えてくれるのを楽しみに待っている…だそうです(その言葉を言った時の静次のなんとも複雑な表情を思い起こしながら言う)
        (鳳釵が故郷に帰り何かしらの罰を受けねばならぬことは向江国の一部の人間は知っていることだが、その刑罰の内容を具体的に知るものはほぼ居ない)
        (それを知るのは基本的には乱蔵と静次のみ。まさか雪音もこれほど苛烈な責めを受けているとは露知らず、だが心配を掛けたくなく伝えられずにいたが故の表情だった)
        -- ムジナ 2013-03-09 (土) 23:48:44
      • 全然覚えられないからね、毎日毎日、あれこれ工夫して理解させようとしていたの
        (四苦八苦する兄の困った姿を思い出し、悪いと思いつつもまた頬が緩む 武力を持たざる兄は、その代わりとして、いやそれ以上の知識と知恵を己に身につけようと必死だった)
        (そして理解を深める為には、人に教えるというのもまた一つの手である 姉は元から賢かったので、専らその相手は妹である自分だった)
        おかげで…少しだけでも気を紛らわせることが出来るけどね
        (脳内に仕舞った知識の数々を、無作為に選んでは浮かべて時を潰す それが彼女の意識を崩壊から救っている光明でもあった)

        うん…諦めない 今はとにかく強くなくちゃ…静次君にもお礼言っておいてね ムジナを使いにしてくれて、本当に嬉しかったって…ん? 雪音が
        (そういえば、密かに雪音から料理の指南を受け持ったことがある やはり好きな人に美味しい物を味わい、喜んで貰いたいと思うのは恋する女として当然のこと)
        (自分も全く料理が出来なかった頃のことを思い出しながら、まずは簡単な物から教えていくことにした)
        (しかし、充分に教えるには時間が足りない 中途半端な期間でしか教えられず、それが心残りでもあった)
        (そして彼女は、自分の近況を知ってはいまい 静次もそんなことを言う人ではない 伝えていればこのような伝言はなかっただろう)
        …静次君は何か好きだったかな やっぱり静次君が好きなものを中心に作った方がいいよね
        (ムジナを抱きしめ、少しいたずらめいた声で囁く 彼女に自分の近況を伝えるべきではない 余計な心配も不安もさせるべきではない)
        それは雪音が一番知ってるかな? 今度会えるまで用意していてねって言っておいて
        ……その時は、全て終わっているだろうから、もう何も心配することなんてないんだから

        (今度会える時は、私はきっと幸せに笑っていることだろう その幸せだけでいい 終わったことを蒸し返すこともあるまい)
        (それは雪音を疎外している訳ではない むしろ逆なのだ 私がいま現在苦痛に喘いでいるという事を、あまり誰それと知られたくはなかった)
        (それを知られれば、同情や哀れみの目で見られるかもしれない 友にそのような目で見られるのは、あまりにも惨めすぎる)
        (そんなものはいらない 自分がいちばん欲しいのは、あの頃と変わらぬ日常 友が家族が愛する人が、何の憂慮もなく微笑み暮らしている日々 それだけなのだから)
        -- 鳳釵 2013-03-10 (日) 00:16:46
      • …承知致しました。私も鳳釵様のお役に立てて大変嬉しく思います(式としての役目を果たせることもだが、自分自身の思いも込め、言う)
        (役割が無くとも、もし自分が式で無かったとしても…きっと自分は嬉しく思っただろう。この自らを抱く暖かく優しい腕の持ち主に喜んでもらえたなら)
        そうですねぇ…静次様は魚がお好きでいらっしゃいます。とは言いましても油の多いものはあまりお召しにはなっておられないようですが。
        (きゅう、と抱き締められながらも小首を傾げて記憶を掘り起こしながら言う。この辺りは雪音もよく知っていることだ)
        そう言えば、鳳釵様が旅立たれた後、静次様が一度おっしゃっていたことがあります。最近の雪音の飯は食えぬこともなくなってきた、と。
        あれは今思えば鳳釵様のご指南のおかげだったんですね(などと言う。昔から己も時折雪音の料理は相伴に預かることもあったため、その味は知っている)
        (茶目っ気のある声で言う彼女の声に、ふふ、と笑いながらも、続く祈りめいた呟きに、静かに言葉を途切らせる)
        (先ほどの彼女の行動、そして今の言葉に、彼女の気持ちは否が応にも察せられてしまう。ならば雪音には余計なことは伝えまい)
        (しかし乱蔵は、乱蔵にはどこまで真実を伝えるべきなのだろうか。心身共に困憊した彼女の姿を。そう考えた時、癖のある赤毛をなびかせた三白眼の顔が脳裏に浮かび)
        …鳳釵様は…(呟いたものの、迷うように言葉を止めたが、しかし)…鳳釵様は、今の御自身を乱蔵様には見られたくはありませんか?(とつぶらな瞳で見上げ、問いかけた)
        -- ムジナ 2013-03-10 (日) 01:07:36
      • お魚かぁ でも油物が駄目なら揚げ物も駄目かな? でもみぞれ和えやお酢のあんかけならさっぱりして食べられそうだし…
        (かつて冒険者の街で培った料理の数々を思い浮かべる その日、何を作ろうかと考えるも、最初に思い浮かべるのは、何を喜んでくれるだろうかということ)
        静次君の好きな物と、雪音の好きな物を一緒に作るの そうすればお互い美味しく食べられるでしょ それに…
        (自分の好きな食べ物を相手も好きになってもらえるのもまた嬉しいものだ そうして美味しいものは分かち合っていけば、その心はより一層近くなるというもの)
        本当? 雪音も頑張っているんだねぇ いつか私よりも美味しくなっちゃうかもね
        (それが一番だと教えた身としては、雪音の上達は自分のことのように嬉しい)
        でも静次君 そんなにしょっちゅう雪音のご飯食べてるんだ
        (微笑ましい様子でころころと笑う ただひとつ 美味しいと言ってもらいたいが為に頑張る彼女の姿が今も目に浮かぶ)

        (あの頃は毎日が晴天のような輝きに満ちていた まさか自分がこんな姿になるとは夢にも思わぬ心地よく暖かい日々 何もかもが懐かしい)
        (昔の自分と今の自分は、もう、全く違う人間のように思える 今も自分を見つめるこの小さな獣にも、果たしてどう映っているのか)
        (微笑んではいるが、寂しく悲しい気持ちを瞳に含ませ、ムジナの小さな瞳に向かって応えた)
        こんな姿見たら、百年の恋も冷めちゃうかも なんて らんぞー君なら絶対に言わないし思わないだろうけど
        …男の人はどんなに傷だらけでボロボロになろうとも、立派に戦っているのなら関係ないよね
        でもね 女は違うの 出来る事なら醜くなった姿を好きな人に見られたくない それは死んでも辛いと思う
        (心配されるのも想ってくれるのも嬉しい だがそれとこれとは別の感情なのだ 心の底から会いたいと思う気持ちと見られたくないという相反する気持ちが、どちらに傾くともなく心にのしかかる)
        -- 鳳釵 2013-03-10 (日) 20:19:52
      • (こけた頬で寂しく微笑む鳳釵に、胸が痛くなる。やはり、問うてはいけなかったろうか。己は辛いことを聞いてしまったのかもしれない)
        (しかし、それでも彼女には聞いておきたかった。何故ならそれは、大事なことだと思ったから)
        …私にはよくわかりません。確かに鳳釵様はお元気をなくしておられますが、それも務めを全うしているが故のこと。
        (己が雄であるからかが理由であるかは分からない。式になる以前、野の獣であった際につがいが居れば少しは分かったのだろうか。雪音なら…たぶん分かるのだろう)
        (見上げる。そこにはやせ衰え骨さえ浮いて見える体、生気を失い張りのない肌、乱雑に乱れ潤いの無い髪、目元には深い隈が刻まれ、唇は目に見えてがさがさだ)
        でも…これだけは分かります。辛い責務から逃げず、立ち向かった鳳釵様は…美しいと思います。きっと乱蔵様も、そう思うはずです。
        (獣の顔を人が簡単には見分けられぬように、己には人の美醜はよく分からない。それでも、心の在りようは分かる。それは己が主人に与えて貰ったものでもある)
        (これほどまでに憔悴してなお、耐え続ける彼女を尊いと思った。その気持ちは己のよく知るあの男も同じだろうと)
        それに…、乱蔵様は、鳳釵様のその苦しみも背負いたいと願うはずです。…あの人はそういう人ですから。
        (それは鳳釵は望まぬことなのかもしれない。だがそれでこそ、共に歩み過ごす者、つがいというものではないだろうか)

        (そして、ちろりと己を撫ぜる荒れた指を舐め、彼女の腕からすとりと床に降り、彼女に向かい合うように床に座る)
        では…乱蔵様からの言伝をお伝いしたいかと思います。あまり長くは持ちませんが…。
        (鳳釵には分からぬであろうことを呟きながら、目を静かに閉じ僅かにうつむいて念を集中する、少しの間違いもないように)
        (一拍の時が過ぎ、小さな獣の身よりも遥かに大きい白い煙が巻き起こる。更に一拍。煙が広がり、薄まって、その奥には人の姿が)
        (東国の衣装に身を包み、長い癖のある赤毛を後ろに纏め、一房の前髪を前に垂らし、薄い微笑みを浮かべ、黒目の小さい三白眼で彼女を優しげに見つめる男の姿が)
        (それは忘れたくとも忘れられぬであろう、今はここに在らず、しかし常に心共に在る、彼の人の姿であった)
        -- ムジナ 2013-03-10 (日) 21:51:07
      • ふふっ…そうかもね 私も実は判らないの この気持ちをどう説明すればいいのか
        (女心は複雑ともいうが当の女にも理解できないことばかりだ それを男に理解させようというのがそもそも無謀というもの これはムジナが獣だからという問題ではなかった)
        …ありがとう そう言ってもらえると楽になれるよ うん らんぞー君もそう言ってくれるだろうね
        あの人はいつも、自分の事よりも周りの事なんだもの…見習わなきゃって思うくらいに
        (自分がいつもと少し違うと見れば、すぐにどうしたかと訊ねてくれる 悩んでいれば共に悩み、辛ければその辛さを分かち合おうとしてくれる)
        (それが判っているからこそ、尚更彼に会うのが怖い この姿を見られること以上に、この苦しみを彼に味わせる事になるのではと)
        (彼はこの刑の内容を聞いたからこそムジナを遣わしたのだろう だがその後どうするのか、まさか残りを引き受けるなどと言うつもりでは)
        (そんな不安に駆られていれば、腕の中に埋もれていた温もりがするりと離れる)
        (思わず名残惜しい表情になれば、床にちょんと座り自身を見上げるその瞳が、今までと違うことに気づいた)
        …ムジナ?(小首を傾げると、件の男の名前にドキリと胸が踊った 彼はどんな事を伝えようとしているのだろう しかし長くは持たないとはどういう意味なのか)
        (疑念を持ちつつ見守っていると、予想以上の煙が巻き起こり驚愕に仰け反る 今までムジナの变化を見てきたことはあるが、これほど多くの煙が出た所など見たことはなかった)

        …ああ(その姿を目に留めた瞬間、小さく声が漏れでた この時生まれた一瞬の感情が果たして何だったのか、後の彼女すらも理解できていない)
        (呆け、力なく座り込んだ自分を見下ろす男の目 柔らかく笑みを作る自信に満ち溢れた口元 魁偉なる身体に纏うのは記憶に一番焼きつく東国の服 それに映える赤い紅い髪)
        (―らんぞー君― そう叫ぼうとした 叫んで抱きしめ、心の底から泣きつきたかった 今にも思いの丈をぶつけるかのように、くしゃりとその表情が歪んだ)
        (枯れ枝のように細まった腕を震わせながら持ち上げ、既の所で懸命に引き戻す 触れてしまえば瞬時に消えてしまう幻のように思えたからだ)
        (それにまだ言伝を聞いていない 夢では決して見られぬ愛しい人の声を、今一度聞くことが出来るのならば、どれほどの時間がかかっても待って見せよう)
        (もう鳳釵は自分の姿を隠す意志はなかった この心身ともにくたびれ果てたこの姿を晒そうとも、得られる物に価値があると思ったのだ)
        -- 鳳釵 2013-03-10 (日) 22:29:22
      • (喜びとも驚きともつかない様子を見せる彼女の様子を見ながら、獣の時とは比較にならない大きさの身を折り、そっと床に膝を揃えて座り、彼女に視線を合わせる)
        (己のよく知る人間であれば、人に化けることはさして難しくない。しかし、今は一見普通の小屋に見えて術の塊であるようなこの牢獄に居る、あまり派手には動けない)
        (更には術の気配を抑えこむ隠身の術がかかった状態だ。物に比べて生きる人の姿になるにはそれなりの術力を必要とする。数分も維持できれば上等だろう)
        (ここに来る前に乱蔵に教えられた言葉を思い起こし反芻する。慣れぬ言葉故に覚えるのは手間だったが、その分しっかりと記憶してきた)
        (そうして静かに口を開き、聞こえぬことのないようにひとつひとつ、はっきりと、低く落ち着いた乱蔵の声で、詞が滑り出す)

        朝覚君不居重知
        昼舌馴染味思恋
        夜月登見望只独
        願信不迷共掌合

        (それは彼女には馴染みのある響きだろう。その詩を形作るのは大陸の言葉。静次と共に儀丁の書物を読み漁る中多少なりとも身につけた儀丁の言葉だ)
        (乱蔵が慣れぬ書物の扱いに四苦八苦し、静次に迷惑をかけていたのを横目でよく見たのを覚えている)

        ──朝に目が覚めて貴方が居ないことをまた知る
          昼、身に馴染んだあの味が恋しくなる
          夜には月が昇れど、それを見望むのはただ独り
          それでも願い信じ迷わない、共に手を取り合えることを──

        (一息に言い切り、ふう、と軽く息をつく。発音は間違えていなかったろうか、何度も練習し、大陸の言葉に詳しい静次にも聞いてもらった、問題ないとは思うが)
        (彼女の様子を改めて伺う、乱蔵の思いは、詞は伝わったろうか。彼がこの詩を己に教えていた時の様子を思い出す、慈しみ、優しげに語る姿を)
        (奇しくも、その姿は写身のように幻の身に現れていた。それはまるで本物の赤毛男が今この場に現れ語りかけているかのように)
        -- ムジナ 2013-03-10 (日) 23:06:54
      • (今のムジナがどれほどの苦労を重ねて、今の姿を保っているのか、それは鳳釵には考えもつかないほどの労力を強いていることだろう)
        (たとえそれを知っていたとしても、今の彼女にはただ見守るだけでしかないのもまた事実であるのだが)
        (座り、何かを吟味するように、物々しい様子でこちらを見るムジナ、いや乱蔵の姿を目に焼き付ける)
        (ああ、貴方はどんな言葉を私に聞かせてくれるのか 貴方はどんな思いで私を待ってくれるているのか)
        (じっと見守り、両手を胸の前で組み合わせる 祈りにも似た姿で救いを求めるように哀願の表情を向ける)

        (そして聞こえた 彼の声が、彼の言葉が、彼の気持ちが)
        (彼は信じてくれている 必ず帰ってくると言った自分の言葉を胸に待っていてくれている 再び手を取り合える日を共に信じ、耐えているのだ)
        (胸の前にあった両手が口元まで持ち上がり、手も口もわなわなと震え、滂沱の涙となる)
        (どうしてこの人の言葉は私の心に響いてくるのか 嗚咽を噛み殺してその言葉の一字一句を心のなかで何度も繰り返す)
        (やがて涙も落ち着いた頃、ふうと一つため息をつき、袖で涙を拭った)…こんな詩聞いたことない これ、らんぞー君が作ったの?(私だって作ったことないのにと、感心と喜びに顔が綻ぶ)
        (彼は勉学は苦手な部類だったはずだ それなのにここまで見事な詩を作ってくれたとは この気持ちに私はどうやって応えよう)
        こんな状態じゃ、すぐに詩は作れないから、せめて思い出した詩で返すね
        (もう一度、今度は深く呼吸を整え、そっと目を瞑る 己の今の意志を伝えるに、良い詩を一片を探し出し)

        汎彼柏舟(汎たる彼の柏舟)
        亦汎其流(亦た汎として其れ流る)
        我心匪石(我が心 石に匪ず)
        不可轉也(轉がす可からざる也)

        …水に浮かぶ小舟はただ流れていくだけ それでも、私の心は石ではないから、転がすことは出来ない

        (この詩は様々な解釈に分かれる 憂いを抱えた寂しい詩だというが、今の自分はその逆の解釈をしていた)
        私は生まれてからずっと、ただ周りに流されているだけだった 儀丁の宗家として生まれ、それを全うすることだけしか考えなかった
        それすらもできなくて、どうしようもない自分が情けなかった…
        あの頃の私は、真に心があったのかももう思い出せないけど、それでも確固たる物じゃなくて、流されるだけの心しか持っていなかったと思うの
        (言葉と共に、視線はどんどん床に向かっていく)
        (貴人の人生に一個人の感情はあまり意味をなさない しかしそれでも、感情というものは自分の意志を確立する大事な要素だ それを蔑ろにして、どうして誇り高く生きられようか)
        (それを教えてくれたのは、偏に目の前のこの人に他ならない 視線を上げ、身を乗り出し、彼の人の手を握り締める)
        (両の手は、記憶に等しく暖かく頼もしく愛おしかった)
        でも、今の私の心は、ただ流されるだけじゃない らんぞー君に会えて、やっと私の心は固まることが出来たの
        この国は私にとって、天にも等しく大きなものだけど、それでも私の心を転がすことは出来ない
        全部…全部の貴方のおかげだよ(有難うと言って言葉を締める 今、確実に目の前にいる彼に向かって)
        -- 鳳釵 2013-03-11 (月) 00:27:22
      • (…良かった。彼の言葉は、彼女に伝えたかった思いは確かに伝わったようだ)
        (彼女の様子を見て、安心したように目を伏せると、しばし間を置き、涙を流す彼女の前に静かに時を過ごす)
        (そして前を向き彼女が紡ぐ詞に耳を傾け、しかとこの詩と言葉も伝えねばなるまいと僅かな吐息さえ逃さぬよう耳に収める)
        (暖かい。この暖かさも伝えられれば良いのにと思いながら彼女の両の手の暖かさを感じる。それは先ほど抱かれた手よりも暖かく)

        (本来は決してありえない、彼と彼女の僅かな幻の再会の時を、それでも彼女に心に留めて欲しいと願う)
        (この時はきっと、きっと彼女の力になってくれるはずだと、それを届けるのが己の違えぬ責務であるから)
        …それと、もうひとつ。
        (そろそろ時が来る、この優しくも穏やかな短い時が終わる時が来る。限界が近づいてきたことを感じながら呟く)
        また酒を酌み交わそう。二人、月の元で。
        (快活な笑みを浮かべ言う。その直後、微かに浮かべた照れたような苦笑めいた笑みは、僅かに漏れてしまった自分自身の笑みだ)
        (本当に酒が好きなんだな、と、そしてそれ以上に…この娘がどうしようもなく好きなのだな、と)
        (…仕方ないではないか、この言葉を紡いだ時の乱蔵の様子は、かつて一度も見たことがない程、決意と慈愛に満ち溢れていたのだから)
        (そして、やるべきことをやり遂げた満足感を感じながら、写身の赤毛男の姿は白い煙と共に掻き消える、そして後に残るは狸が一尾)

        …私が託された言葉は以上です(そう言うと、ぺこりと小さな頭を下げて鳳釵に礼をする)
        (そうして、疲れたようにぱたりと床に伏せ、身を横たえる。全てが終わった訳ではないが、少々力が抜けてしまった)
        鳳釵様のお言葉も、何があろうとも皆様にお伝えします。ご心配ならず…(としばらくへたり込んでいたが)
        …そうだ(何か思いついたように一つ呟き、とてとてと鳳釵に近寄り、その手元まで登る)
        私からは、これを(その手元で白い煙が小さく弾け、次の瞬間現れていたのは朱塗りの半月を描く櫛)
        女性の心はよく分かりません。よく分かりません…けど、ね(それでも、他の誰でもなく自分自身が彼女の力になりたいと、思った)
        -- ムジナ 2013-03-11 (月) 01:11:35
      • (もっと言いたいこと、伝えたい事はあった しかしこの心の中から泉のように湧き上がる感情を全て吐き出すのは至難の業であった)
        (しかし今はこれだけでいい 続きはまた…また今度 今はこの生き写しの彼を堪能しよう この思いがけない喜びを、しかと心に留めよう)
        (ムジナを通じて彼に思いを届けるのだ そうすれば、直に会えなくとも、繋がることは出来る)
        ? もうひとつ
        (なんだろうとまた小首を傾げるも、告げられた次の言葉に思わず吹き出してしまった それは奇しくもムジナが思わず浮かべた笑みと同じであった)
        もう…らんぞー君てば(それでも実に嬉しそうに笑った 喜び、幸せ、笑い、それらが活力源のように彼女の顔に生気か戻っていく)
        うん 今度は、最後までね
        (もう離れる心配もなく、酒を堪能した後も最後までずっと傍に、夜が明けるまで傍に…)

        (そんな幸せな未来図を思い浮かべでいれば、目の前の光景は霧のように掻き消え、そして霧散していった)
        ありがとうムジナ…私のこれまで見た夢の中で、最高の夢だったよ
        (名残惜しい気持ちは勿論あったが、いつまでもそれに浸っている訳にも行かない 今は強くならなければ、この苦難は乗り越えられないのだ)
        (改めてムジナにお礼を言い、くったりとしているムジナを再び抱き上げようと思えば、その前にムジナの方から近寄り)
        …わ(またまた思いがけない贈り物に目を輝かせてしまった それは目にも鮮やかな朱色の櫛 先程見た男の髪と同じ色であった)
        何からなにまで…有難う(目尻に浮かぶ涙をそっと袖で拭いつつ、大切に櫛を持ち上げ、頭頂部からすっと静かに下ろす)
        (本来ならば髪か櫛自体に香油を塗るなりして滑り易くしなければ、この傷んだ髪を更に傷つけてしまうことだろう)
        (だがその櫛はムジナの思いに寄るものなのか、どんな櫛よりも滑らかに髪を梳き、乱れを整えていった)
        (すーっ すーっ と流れていけば、みるみる内に髪には艶が現れ、昔日の面影が蘇る 波のように豊かな栗色の髪に包まれ、その表情は実に誇らしかった)
        (私は本当に、色々な人の真心によって生かされているのだ それに恥じない生き方をするのが私の恩返しだ)
        (改めてそう実感する瞳は、強い意志と燃えるような情熱に満ち溢れていた それはあの荒神に立ち向かった瞳と同じ輝きを持っていた)

        大道直如髪(大道 直きこと髪の如く)
        春日佳氣多(春日 佳気多し)
        五陵貴公子(五陵の貴公子)
        雙雙嗚玉珂(双双 玉珂を鳴らす)

        【都大路は髪の毛のごとくまっすぐにどこまでも続く 春の日はうらうらと、めでたい気が豊かに漂う
         その中を五陵に住む貴公子たちが、二人ずつ連れだって、馬のくつわ飾りを鳴らしながら馳せて行く】
        (あの春の日のように、また二人で馬のくつわを鳴らしてあの国を巡ろう)
        (あの人が生まれ、あの人が愛する国 私の愛する国を この生涯をかけても返しきれぬ大恩のある国を)
        -- 鳳釵 2013-03-11 (月) 23:45:09
  • (見るものが居れば十分に光が入っておらず、寒々しくさえ感じる石の廊下に、少々違和感を覚えたかもしれない)
    (一陣の風のように過ぎ去るは茶褐色の小さな姿、生命の姿似合わぬ石造りのその場所を一つの命が駆け抜けていく)
    (角を曲がるたびにその先の気配を探り、人の気配がないことを確認して進んでいるも、隠れる場所の殆どないこの廊下を進むには細心の注意が必要だ)
    (速く、疾く、だが静かに、音もなく。もし人の目があろうとも、風が吹いただけであろうと勘違いさせるほどに場になじみ進むのだ)
    (ひやりと足の裏に感じる石の冷たさが、今はただ有難い。熱くなった身体を冷まし、そして何より音が立たぬ)
    (そうして幾度かの角を曲がり、道をゆけば厨房の在るはずの所に一つの戸が既に僅かに開いているのを見つける。なんと幸運なことか、この身で戸を開けるのはちと苦労だ)
    (戸から漏れる水の気配と食べ物の匂い、間違いなくここが目指していた場所だ、だがしかしなんと不運なことか)
    (そこからは料理人であろう人の気配も合わせて漏れ出ている。それは当然考えうる事態であるが…ひとまず、身を壁に寄せ、気配を殺し、その不運の隙を扉越しにちろりと伺う)
    -- ムジナ 2013-03-02 (土) 22:12:58
    • (収容所とは言え、そこに務めている全ての人間が気配探知の優れた者ではない)
      (ある者は事務能力を買われた者、ある者はただ配属された者、ある者はただ空きの職場だった為に潜り込めた者 その系統は様々だ)
      (件の厨房内の料理人達の動機は更に区分けされる ある者はやはり腕を買われ、ある者は自ら望み、ある者は普通の食堂では働けない脛に傷持つ経歴等など)
      (その厨房の一人の料理人は、元々この施設で食事を提供『される』側であった その後に出所し様々な『体験』を経て因果に習い今度は職人としてこの施設に務めていた)
      (彼は入り口の扉に一番近い場所で、食材の確認を行なっていた 一枚の紙を手に持ち覗きこみ、数を数えているのだろうか真っ白な棚を開けて何やらブツブツつぶやいている)
      (不意に、その視線が扉の方へと向かった 正確にはムジナの潜む扉の下である)
      (何か視界の端に動くものを捉えた 視界の端は色まで把握することは出来ないが、動いた位置からしてネズミではと警戒したらしい)
      (ネズミが入るような管理の甘い場所ではない それでも用心に用心を重ねるに越したことはないだろう)
      (しかし一般人よりも幾多の修羅場をくぐり抜けたであろうその瞳でも、式であるムジナの姿を捉えるにはいささか凡人過ぎる) -- 2013-03-02 (土) 22:38:47
      • (そろりそろりと扉から中の様子を計り知ろうと壁から扉へと身を捩り近寄っていく。さすれば厨房の様子もだんだんと分かってくる)
        (かつてない集中力を持って耳を張り、鼻を嗅ぎ分け、神経を研ぎ澄まし、体毛の一本一本を持って大気を読み解いていく)
        (一人、二人、三人…いや四人か。空気の流れ、足音、床から伝わってくる振動、果てはそれぞれが放ち吸う吐息の音さえ聞き分けて当たりをつける)
        (あとはそれぞれの位置関係をと、より詳細な情報を視界から得るために扉からじりじりと身を乗り出せば、こまごまと動きまわる人間が小さな瞳に映り…)
        (瞬間。即座に身を引き、気配を殺しに殺し切る。中の様子を伺った正にその時、一番近くの棚の前に居た人間がこちらを向こうとしていた)
        (反応がぎりぎり間に合ったため姿は見られていないはずだ、はずだが、呼吸の変化から何かを疑わしく思っているだろうことは分かる)
        (ここは忍の一文字。ここで気配を露わにしてしまってはあの料理人は扉の向こう側まで確認しようとするはずだ)
        (しかし、以前廊下から別の誰かがひょっこり現れる可能性もある。その重圧にひしひしと耐えながら短くも長い時が過ぎていく)

        (…どうやら、わざわざ外に出るまでもないと判断されたのか、呼吸が通常時に戻ったようだ。改めて、そしてより慎重に中を覗く)
        (今度は誰も扉の方向に注意を払っていないことを確認し…ここが好機と、するりと音もなく素早く扉から中へと入り込み)
        (一気呵成に、棚へと駆け上り、その勢いのまま宙へ。狙いは…数多くの調理用の大きな菜箸が束のようにつきたてられている箸立て)
        (そこへ微かに白い煙を纏いながら箸の一本と変化し、飛び込む。獣の姿よりは感覚が鈍るが、部屋の中に入り込んでしまえば観察は思うがままだ)
        (かくして狙い通り、一匹の狸は一本の箸となって箸立てにつきたてられたが…じゃらん。とその拍子に箸の並びが崩れ音を立てた)
        (飛び込む勢いを見誤ったのだ。流せぬ冷や汗を心の中でだらだらと流しながら、箸の姿で狸はおおいに身をこわばらせる)
        -- ムジナ 2013-03-02 (土) 23:32:38
      • (暫く様子を見ていたが、そのまま何かが横切ることもなく、それにいつまでも時間を取る訳にもいかないので、男の視線は早々に元に戻る)
        (厨房の中には、一番声を張り上げている一人の女性がいた キビキビと他の三人に指示を出している所を見ると、その女性がこの中での一番の責任者 料理長といったところか)
        (しかし厨房監督としては優秀でも、式を捉えるのは流石に無理がある 恐るべき速さで箸立てに向かうムジナを目で確認できた者は一人もいなかった)
        (しかし、目で追えずともその音は誰の耳にも届いた 瞬間、料理長の視線がキッとその箸立てに向かう)
        誰 乱暴に扱わない(叱り飛ばす口調ではないが、その声からはその何倍もの叱責が含まれている 残り三人は一斉に首を横に振るが、誰がやったかはこの際関係なかった)
        (しかし、直ぐに気を取り直して調理を再開する 多くの収容者に提供する為には、時間は一秒でも惜しい)
        (広い台の上には、多くの盆とすでに半分ほど食材が盛られた食器が並んでいた)
        (明らかに安物の色の褪せた盆が一番多く、逆に漆が塗られたような光沢のある盆が一番少ない 少ないというよりたった一つしかなかった)
        例の所の食事が出来上がるから運んで(料理長が漆塗りの盆を指さし、先程扉近くにいた男に指示を出す)
        量が昨日より少なくありませんか?(男が訝しげにそう言う 他の収容者用に盛られた食事より、その漆塗りの食事は半分しかなかった)
        (しかし料理長はいいのと返す)その分食べやすくしてあるから

        (彼女の食事量は日に日に減ってきている それは食欲が無いというのもあるが、食べる時間がかかっているからだ)
        (食べる気力と物を噛む力が減れば、その分食事の時間は増えていく しかしこの施設内での食事には時間制限があり、時間が来れば問答無用で下げられるのだ)
        (過酷な刑罰を受けている受刑者は、その内普通の料理では間に合わなくなる 故になるべく柔らかく小さく切られた料理が提供されていた)
        (しかしその内その料理すらも食べられなくなるくらい、衰弱していくのだろう)
        (日々の食事摂取量を記録していけば、その量の減り具合が、そのまま当人の衰弱していく様を表していた) -- 2013-03-03 (日) 00:12:02
      • (無機物に変化していたことをこれほどまでに感謝したことはない。もしこの身が生身であれば明らかにその様子は誰が見てもおかしかったであろうから)
        (そうして箸の姿で戦々恐々と事態の推移を伺っていたが、どうやらここの長であろう女性が場を収めてくれたようだ)
        (心の中でふう、と胸をなでおろし、冷静になって厨房内の様子を見てみれば、随分と皆忙しく働き回っている)
        (さもありなん、棚の前にある広い台の上にはずらりと大量の盆が並んでいる。これだけの量を四人で作り切るにはのんびりと事を運んでいては無理だろう)
        (自然、忙しさから厨房内への注意は薄れるのは道理。幸運中の不幸の、幸運か。と仔細に観察を続ければ一つ、明らかに格の違う盆があることに気付く)
        (ぴんと来た。史繧ほどではないにしろ、鳳釵は間違いなく貴人だ。囚人とは言え貴人に迂闊な物を出す訳にも行かないだろう)
        (更には'例の所'という物言い。通常の牢ではなく、何か特別な場所を示す言い方だ。つまりは…)
        (台だけではなく、周囲に感覚を走らせる。であれば、あるはずだ、立派な盆と対を成すそれなりのモノである食器が)
        (…見つけた。自分が化けた菜箸の収まる箸立てと同じ棚、先ほどこちらに気付きかけた男が点検をしていた棚に、明確に他とは物が違う食器類がある)
        (その食器類を入念に観察し、あとは…機を見つけるのみ)
        (一人の男は大きな魚をまな板の上で捌いている。一人の男は油が満たされた鍋の前に立ち、揚げ具合を伺っている)
        (そして長である女性は大きな鍋の上に乗った蒸し器をじっと見つめ動かない。蒸し物は外からは素材の様子が分からないため、火加減に繊細な感覚を必要とする)
        (自分が機を神経を尖らせ伺うように、彼女も料理の機を感覚を凝らし伺っているのだ。そして、ある瞬間彼女は動き、蒸し器を空け、そして最後の一人の男がその料理を受け取るため、彼女の元へと向かう)
        (己の機は…ここだ。即座に変化を解き、上等な食器類へ向かい、その物を掴むには不釣合いな手を器用に動かし、その中の鶴を象った箸置きを取る)
        (そして急いで己が潜んでいた箸立ての中にそっと放り込み、次の瞬間、その箸置きに変化し、箸置きがあった場所へ入り込む)
        (この間、僅かふた呼吸。魚の背肉が切りとられ、揚げ物が鍋の底から浮かび上がり、蒸した料理が受け渡された短い時間の間に神業とも言える素早さで行われた)
        (綱渡りに綱渡りだったが…ここまでは上手くいった。箸立ての中の箸置きもしばらくは見つからないだろう。後は…天に運を任せるしかない)

        (そうして箸から箸置きへと身を変え、大人しく身を沈め改めて己が並ぶ盆の料理を見ていればその量の少なさに気付く)
        (己の知る向江国の彼女は、実に健啖であった。あの量の数倍はぺろりと平らげていただろう)
        (彼女は…元気なのだろうか。その身を案じ、今は生身ならぬこの身が力になれればと、思いを巡らせた)
        -- ムジナ 2013-03-03 (日) 01:10:06
  • (そこは白の色が朽ち果て、風化していくような寒々しい石の建造物で出来ていた)
    (州邑の建物は基本木造であり、それを踏まえればこの建物の異様な強固さが更に強調されよう)
    恭家の者が見えたと伝えろ(入り口付近の監視員にそう一言伝え、後は行けと顎で指図するのは一人の男)
    (身の丈は小物だがその態度はどこまでも天高く、しかし一切の不自然さも感じさせないのは生粋の王家の人間として教育されたからであろうか)
    (恭家の名前と史繧の姿に驚愕する監視員はすぐさま奥へと走り去り、間もなく一人の男を連れて戻ってきた)
    恭家のお方にこのような場所に立たせてしまい、真に面目ありません(すぐさま応接間へと案内する男 その男は鳳釵をあの小屋へと案内した執行人であった)
    (冷たい石の廊下を幾度か曲がり、ついたその部屋はこれまた飾り気の無い殺風景な部屋であった このような場所の仕事で豪奢にしても意味はないと言うことなのだろうか)
    (ついてすぐにお茶も用意され、ようやく執行人は切り出した)
    -- 史繧 2013-02-16 (土) 23:53:50
    • ここの主任を勤めております 宋 矛光(そう むこう)と申します 以後お見知り置きを…
      して、恭家のお方がこのような場所へお越しいただくとか、何かこちらの不手際がございましたか? -- 2013-02-16 (土) 23:54:06
      • (不安そうに眉を顰める矛光に、史繧はふるふると首を横に振り)
        いや? 特に問題はない だが見えない所まで把握は出来ないからな ちょいと抜き打ち検査に来たまでよ
        (どんな相手であろうと王家の人間にとっては皆同じ格下だ 乱蔵や静次の時と似たような態度でさらりと要求した)
        -- 史繧 2013-02-16 (土) 23:54:25
      • …検査 で、ございますか? 何故…(このような時にとその目が光る 王家と親戚筋の鳳釵を捕らえているこの時に、わざわざそんなことを言い出すとは)
        (しかも検査などと今まで一度たりともしたことはない おそらく検査とは表向きで何か仕掛けるつもりか あの夏家の当主のように)
        …いくら恭家のご命令とはいえ、いきなり検査というのは しかもわざわざ足を運ばれるというのは、恐れながら色々と問題かと こちらはただの施設では有りませぬ故
        (そこにまで足を運ばせるつもりはないが、ここには凶悪な犯罪者も収容している もし万が一何かがあれば自分の首一つでは済まされない)
        (矛光の猜疑心に満ち溢れた瞳が史繧を隈なく見据える 一見史繧は手ぶらで服にも特に変わった所は見えない 袖口や耳元に鈍く輝く装飾品も妙な物ではなさそうだ)
        (ではあの服の中に何か隠し持っているのか 本来ならば入り口で服装の中を全て検査するのだが、やはり王家の人間にそのようなことをするのは躊躇われる しかし規則は規則だ) -- 2013-02-16 (土) 23:55:04
      • (石の作りの温もりのない、調度品など必要最低限しかない人間味の薄いその部屋に、佇むは男が二人。方や尊大な姿勢を微塵たりとも崩さぬ若い男、方や人の粗を見るのに慣れた目の男)
        (その二人の男がやりとりをしている間、それを聴くものがもう一人…いや一匹居ることを誰が思い描くであろうか。それを思い描けるのはこの場ではただ一人のみ)
        …ちょ、ちょっと史繧様っ、いくらなんでも強引過ぎませんか。もっとこう…上手い方便というかなんというか…(蚊が囁くような声が響く、しかしそれは極々小さい範囲で、小さな音で)
        (気づいているのは史繧だけであろう、その音が響いているのは史繧の耳たぶを一部覆い、鈍い輝きを見せる銀鈍色の耳飾りから)
        (それは西洋の甲冑を模したような作りであり、派手すぎず、かと言って地味すぎず、適度な存在感を示していた)
        (変化をしたままでも外界の様子は概ね分かる。尋常の物体ではないが故に出来ることだが、だからこそここに来るまでも道中史繧の行動に冷や冷やさせられた)
        (士龍に改めて隠遁の術をかけ直してもらった今は、余程の術師ではないかぎりその耳飾りが妖しの存在であるということは分かるまい。だが、用心に用心をして越したことはない)
        (何しろ、これは自分たちにとって危ない橋ではあるが、だからといって史繧にとってもそれは大きく変わりはしないのだから)
        -- ムジナ 2013-02-17 (日) 00:54:21
      • (矛光の視線が痛いほどこちらを見据えてるのが判る 警戒するのも無理は無い いきなりやってきて中を見せろではあまりにも強引すぎる)
        (現に自分にしか聞こえないほどの小さな小さなその声までも抗議している 銀色の耳飾りだからかその叫び声は金属じみた高い声であった)
        (だが自分はあくまでその強引さで押し通すつもりであった 頬杖をついた手が耳元を、耳飾りを一度撫でる まあ俺に任せておけと言わんばかりに)
        (口角を持ち上げた後、徐に立ち上がり、イスに座る矛光を見下ろす)まずこっちの検査が先だって目だな
        (言うなり、羽織る上着を脱ぎ捨てる 厚手でゆったりとした服の下からは、薄手の白い修練着が身につけられ、その下には鍛えぬかれた筋肉がよく判る)
        -- 史繧 2013-02-17 (日) 01:19:45
      • (矛光はぎょっとして目を見開いた 州邑では男女問わず伴侶以外の肌を見るのは無礼である しかも相手は自分よりも天に近い貴人だ そんな人物の肌を見るなど本来あってはならない)
        (いや、違う この方が言いたいのはそんな事ではない もし彼が服を脱いだ後、何もなかったらどうなる)
        (王家の人間に無礼を働き恥をかかせたとあっては、ますます自分の命だけでは済まされない)
        判りました! 判りましたからそれ以上はお止め下さいませ!
        (椅子から立ち上がり、その場で土下座をして矛光は懇願する 最初からこうやって脅迫まがいなことをして強引に許可を取るつもりだったのだ)
        (判っていたことだが、これでは越権行為も甚だしい ぎりっと歯を噛み締める音を寸前で止めながら、史繧が服を着るまで顔を上げられなかった) -- 2013-02-17 (日) 01:20:01
      • (鼻歌交じりに上着を着ながら、史繧は尚を矛光を見下ろし勝利の笑みを浮かべた)
        ではひと通りどこで何をやってるのか地図なんかあれば助かるな なに、ケチをつける訳じゃあない 日常の仕事ぶりを見せてくれるだけで充分だ
        (ゆるゆると持ち上げる矛光の疲労の顔を涼しげに流し、ほとんど声もなく口元も動かさずに耳についたムジナに告げる)
        ほら見ろ 大丈夫だっただろうが まぁ俺にかかりゃ楽勝よ
        (振り向きもせず前を歩く矛光の背中を見ながら、また軽く耳飾りを一撫でした)
        -- 史繧 2013-02-17 (日) 01:20:16
      • (どちらにしろこの身では、史繧に全てを任せざるを得ない、恐々として顛末を見守っていると史繧は上着を脱ぎ、それに大いに慌てふためく矛光)
        (もし、ムジナが耳飾りの姿でなく、獣の身のままであったなら、大層驚いて目を見開いていたことだろう。まあ、目を見開く獣が居ればそれも相当珍しいものだが)
        (押し切った。それも何も考えなしに押し切った訳ではなく、きちんと自分の立場、相手の立場、そして自分の行動の意味も把握した上での寄り切りだ)
        (ただ生まれと地位に乗っかって不遜な態度が身についた良い所の坊ちゃんかと思っていたが…どうも己も見方を変える必要がありそうだ)
        (だが、誰にも聞こえぬ程にほんの僅かに銀の身体に耳たぶ越しに伝わってくる史繧の得意げな声と、してやったりと己を撫ぜるその手つきに、己を噛んだ歯の痛みを思い出して若干のいらつきを覚え)
        上手く行ったからいいですがそれでも強引すぎます…そういう強引な所、ちょっと乱蔵様に似てますね(と史繧と殴り合っていたよく知る顔を思い出して、皮肉めいた小さな響きが耳飾りを震わせた)
        -- ムジナ 2013-02-17 (日) 22:22:29
      • (ムジナの反応、思考が耳飾りの微量な振動として伝わってくる 困惑と安堵とそして苛立ち そのどれもが今の史繧にとっては心地よい)
        (しかしその後に告げられた言葉に誰が見ても判るくらいの渋面を作りあげ)
        …今のは中々良い嫌味だったぞムジナ いやなんでもない 早く行け
        (史繧の不穏な空気が伝わったのか、矛光が一度こちらに振り向いてくるのを制し先を促す)
        (その後ついた場所は詰所のような場所であった 一つの棚から取り出したのは簡易な地図であり正確さに欠ける)
        -- 史繧 2013-02-17 (日) 22:50:24
      • …検査と申されてもやはり全てを見せる訳には参りません ですので見せられる場所の制限をかけたいのですが宜しいでしょうか?
        (そう言って提示する場所は比較的近い場所の範囲であった ここ以外の詰所や保管庫、資料庫、そして厨房)
        (もとよりこの方の目的の場所は判ってる そこさえ許可していれば文句はないだろうと、矛光は半ばやけくそのような気持ちで提示した)
        そして、私ももちろんお供致します この建物は慣れてない者には複雑です 地図があれども万が一ということもござりますれば -- 2013-02-17 (日) 22:50:44
      • ふむ まぁ当然だな よし判った ではひとまず見学と行こうか
        (矛光の心中は充分に把握している 目当ての場所しか行く気はないのだろうと、その鋭い瞳の中で叫んでいるのが聞こえてくるようだ)
        (先程よりも愛想よく笑いながら、地図を持ち上げて場所を確認する 厨房はここから右に出て突き当りまでまっすぐ そして更に右奥に突き進み、左の角を曲がった先であった)
        (自分が確認すると言うよりも、耳元にいるムジナに見せつけるようにじっくりと目を通しながら、覚えたか? と確認の囁きを飛ばす)
        俺は反対の方向に行くから、お前はあいつが出た後すぐに離れて行け ぬかるなよ
        (ひとまず先に目を通す場所を矛光と確認しつつ、道案内がてら先に行けと命ずる 行き先はこの部屋から出て左のもう1つの詰所だ)
        (史繧が何かを仕掛けようとしているは判っているが、それをどのようにどの機会に仕掛けるのかまでは判らない 訝しげな瞳で見つめた後、ゆっくりと矛光は一人と一匹に背を向け、扉をくぐり左へと向かった)
        -- 史繧 2013-02-17 (日) 22:51:04
      • (耳飾りならぬ己の感覚に、史繧が苦虫を噛み潰したかのような渋い顔をしたのがよく分かる。その反応に何やらすっとした気分になってしまい)
        あは、お褒めに預かり恐悦です(などと軽口まで飛び出す。…もちろん矛光が道を行き、こちらを見てない時に、こっそりと)
        (思ったよりもこの男は傲慢でもないし、恐ろしい人間でもないのかもしれない。王たる血を引くものとはいえ、人は人なのだ。主たる静次や…乱蔵のような)
        (そして地図の保管された詰所にたどり着き、見ているこっちがその態度ではちと無作法にあたらぬだろうかと心配になるような少々投げやりな様子で地図が示される)
        (とはいえ、矛光という男、職務には意外にも勤勉な男のようだ。それとも史繧の強引な策が警戒心を高めてしまったか、流石に単独での調査は許してくれないらしい)
        (さて、どうするか、と一考を案じていれば、地図が己に示されるように史繧によって広げられる。瞬間的にその意図を察し、睨めつけるように地図を確認し)
        …確かに。万事承知致しました。お任せください(人が人であるならば、獣ならざるこの身は式、人に使われるものだ)
        (矛光が通路の左に向かい、こちらに背を向けた瞬間、史繧の耳元で小さく白い煙が起こり、そこから細心の注意を持って音も立てず床に降り立つ)
        (そして、ぐい、と己から見れば山のように大きな史繧を見上げ、一瞬だけ視線を合わせる。その小石のような眼に浮かぶのは誇り、式としての誇り)
        (静次の信頼を背負い、乱蔵の信頼を背負い、士龍の信頼を背負い、そして史繧の思いを背負ったその小さな背は史繧達に背を向け、見るも鮮やかな走りで通路を走り去った)
        -- ムジナ 2013-02-17 (日) 23:51:06
      • (走り去るムジナの姿は、あまりにも素早く常人の目では追えないほどであった そこがムジナがただの獣ではなく式であると物語っている)
        (見下ろし見つめるムジナの眼に、良い眼だと思わず声を掛けたくなった それほどまでにムジナの眼の輝きは眩しいほどであった)
        (それは己の全存在をかけ、達成してみせるという自信と誇り 自分を信じ託してくれた者に対する感謝と尊敬の念)
        (果たして、自分の為にあのような眼を持つものがこの国にいるのだろうか)
        (そんなことをふと思いついた自分のバカバカしさを鼻で笑いながら、史繧もまたムジナに背を向け矛光の後を追う)
        (矛光の背を見つめるその瞳は、暗く静かであった)
        -- 史繧 2013-02-18 (月) 00:08:29
  • (緑の少ない土地でも虫の音色はどこでも似たようなもの 闇夜に紛れてその音色は、三人の男たちの会話を邪魔しない程度に響かせていた)
    やはり最大の問題はどう中に入るかですね 私が入るのはもう困難でしょうから難しいですし、かと言ってお二方をお通しするのはあからさま過ぎます
    下手をすれば鳳釵を脱獄させる手引きをするのではと警戒されてしまうことでしょうし
    (もう何度繰り返した意見か、しかしその先が見いだせない 誰でも入れるような場所ではない故、相応の人間でなければならない)
    (ちらりと脳裏に一つの手段が現れるが、さすがにそれは現実味は無いなと心の中で却下した その手段が使えるのならばそもそもこんな大事になってはいまい)
    …申し訳ありません せっかくお越し頂いたのに、大して役にも立てず
    (ふと弱気につぶやく 自分よりも彼らの焦燥は如何ばかりか 特に乱蔵の心中を思えばこうして無駄に時間を潰していること自体が、拷問にも等しいというのに)
    -- 士龍 2013-02-03 (日) 23:34:34
    • (風情があると言ってさえいい、時折虫の声が響くのみの静かな夜のしじまの中、似つかわしくない厳しい顔を浮かべて口を開く)
      …士龍殿を含め私達は此方側の役人にもっとも警戒されているでしょうからね…直接の対面は元より無理であろうとは思っていましたが…
      (士龍も忙しい合間を縫って良案を求める打ち合わせを重ねてくれるものの、出る結論は概ね変わらない)
      (ムジナを使うにしろ、対術の備えがあるような所では一筋縄ではいかない。あくまでムジナは間諜でも密偵でもなく、単独では術をすり抜けることなど出来ない)
      (今回の件に向いてはいるのは確かだがその力を活かす糸口が掴めない。己自身の力であれば結界破りの術そのものは心得が無くはないものの、誰にも知られぬようにとは難しい)
      (ましてや、鳳釵が囚われているのは己が扱う術とは違う体系を持った別種の術系統で編まれた檻だ、真正面から挑んでも破れるかどうか)
      危険は高まりますが…人を介するのはいかがでしょうか。協力の意思があり、なおかつそれなりの地位を持ち、何よりも信用のおける者に心当たりは?
      (口にしながらも、それが得難いであろう人材であることは分かっている。もし居るのであれば既に幾度も繰り返したこの会合の俎上に上がっているだろうから)
      -- 静次 2013-02-04 (月) 01:04:48
      • (現在、鳳釵がいる牢獄という名の小屋へ唯一接触できるのは、諸々の日常品を送り届ける為の『箱』のみである)
        (その箱はこの儀丁の収容施設の中にあり、それに近づけられるのはごく一部の人間だけだ そこまで速やかに辿り着こうとするだけでも問題は山積みである)
        (静次の言葉に何度となく頷く 頷くが、それは了承の頷きではなく一意見として受け取っておくという意味だった)
        鳳釵への刑罰を最終的に決めるのは国の意志 つまり現王の決定なのです それに異を唱えるような行いは等しく反逆としてみなされる恐れがあります
        …私の場合は、刑罰の具体的な内容を確認する為に、直に執行者代表と会いに行き、その隙をついて手紙を交わしました
        これも、バレればとんでもないことになりますが(言って士龍は思わず苦笑する きっとバレていたことだろう だが運良く見逃してもらえたのは、この刑が重すぎると執行人も実感している何よりの証拠だった)
        (しかし、それも二度は無い どれほど理不尽な命令でも従うのが国仕えとしての役目だ これ以上の違反行為を見逃すはずはない)
        協力の意志のある方は、有難いことに何人かおります そしてその方たちはほぼ全てにおいて信頼のおける頼もしいお方達です ですが…
        (視線が下に落ちる、瞼から覗くまつげが彼の瞳を覆い隠す)この問題に立ち向かえるほどの地位というと、いささか難しいものでして
        それに、現時点で鳳釵の為に動き、その中で一番地位の高い者と言えば…私になります
        (自分の地位でもどうしようもない 自分より上の位置の人間を動かすとなればかなり困難を極めよう)

        (手詰まり感をひしひしと感じていたその時、遠くの方からこちらに近づく気配を感じた 一人ではなく複数だ おそらく二人)
        (士龍は徐に顔を上げた 一人の気配は至って平穏であり感じ慣れた人間だった この屋敷に使える侍女が茶を持ってきているのだろう)
        (だがそれなら一人で充分だ なぜ複数いるのだろう もう一人の気配は誰だ なぜ意図的に隠すようにしているのだろうか)
        (やがて二人の気配はこの部屋のふすまの前まで来て、その場に座り込み、コンコンと床を叩いた 普通ならば失礼しますと一言声をかけるのが礼儀だが、この侍女は決して礼に欠けたことをしているつもりではなかった)
        (士龍はその音を聞き、目の前の二人に一度目配せをし、失礼と軽く頭を下げてふすまに向かった)
        -- 士龍 2013-02-04 (月) 22:17:43
      • (目を伏せ腕を組み、議論をかわす二人の邪魔にならぬように思案する)
        (もちろん、二人に任せ切りにするつもりも毛頭ないが、この二人なら己が無い頭を捻るより良い手を考えてくれるだろうと)
        (しかし、その二人を持ってしても成功の可能性が高い現実的な策は生まれず、淀んだ空気がなおも重さを増し、泥沼に嵌っているかのような感覚に陥る)
        (何か打つ手はないのか、何か出来ることは。諦めは足を止める。及ばなくとも動き続けるのだ、彼女もまた、足を止めてはいないのだから)

        む…(赤毛男にしては随分と深く考え込んでいたのだろう、硬い何かが木の床を叩く軽い音が響くまで、気配が近寄っていたことさえ気づいていなかった)
        (一人…いや二人。常から気配を感じ取る修行を行なっていなければ、もう一人の気配は分からなかったかもしれない程に弱い)
        (無言でこちらへ視線をやる士龍に目だけで答えて、ふう、と溜息をつく。何者かは分からないが、一時物思いに耽るのは中断だ)
        -- 乱蔵 2013-02-09 (土) 22:58:12
      • (ふすまの前でしゃがみ、どうぞと静かに言葉をかける ふすまが三度分けてゆっくりと開けられたその先には、士龍の予想どおり一人の女性がいた)
        (士龍の顔を見て困惑気味のその女性は、ちらちらと後ろの方へと目配せをする 夜の闇が濃く落ちるその中に、一人の影がうっすらと見えた)
        (それが誰なのか気づいた瞬間、口を少し開けて呆気にとられる その様子を気にも止めずに、ずかずかとその人物は部屋の中に入ってきた)
        -- 士龍 2013-02-09 (土) 23:19:25
      • よう夜分遅くまでご苦労なこった(それは昼間にあったあの男であった 部屋の明かりを受け昼間と違ったふてぶてしさを漂わせながら、許可もなく先程士龍のいた場所に座った)
        で? 何か妙案でも思いついたか ってそんな面じゃなさそうだな(あぐらをかきながらにやにやと乱蔵を見やる その右手に掲げる盆の上には2つの湯気をあげる湯のみがあった)
        (盆を目の前の畳の上に置き、一つの湯のみをとってゆっくりと口につける 周りの目などどうでもいいと言いたげな態度は何を考えているのか)
        -- 史繧 2013-02-09 (土) 23:19:55
      • (また意識が少し遠退きかけたが、瞬時に気合を入れて振り返る)何を…!
        (そんな言葉も彼にとっては馬耳東風であるのは判っている しかし士龍は昼間よりも少しキツメに言葉を続けた)
        何故貴方がここに来るのですか この方達の心中もお察し下さい 貴方のその態度は目に余ります!
        (そんな士龍の後ろで、先程の侍女が乱蔵と静次の前にお茶を差し出しながら、オロオロと二人を見守っていた 自分があの男を連れてきてしまったばかりにという思いが、哀れなほど顔に浮かんでいる)
        (それでも一言も言葉を発しないのは、一介の侍女が言葉をかけるのは無礼という風でもなさそうであった)
        (むしろ、かけたくてもかけられないといった方が正しいように見える)
        -- 士龍 2013-02-09 (土) 23:20:15
      • (現れた史繧の顔を見て驚いたものの、すぐに眉をしかめる。なるほどこれなら確かに気配が薄かった理由は分かる。分かるが)
        なんじゃ、誰かと思えばまたおぬしか。かっ!おぬしの顔を見ては妙案など出てもどこかへ引っ込んでしまうわ(などと言い胡散臭げな視線を向ける)
        (まるで元からそこに居たかのように茶を飲む史繧。まさか手ずから茶を入れるような殊勝な男でもあるまい、恐らくは使いの侍女の入れた茶であろうに)
        もしやとは思うが邪魔をしにきた訳ではないじゃろうな、時と場合によっては今度は拳だけでは済みはせぬぞ(僅かに怒りさえ滲ませるような声を低く響かせた)
        -- 乱蔵 2013-02-09 (土) 23:55:31
      • (ぴりぴりとした気配を帯び始める赤毛男とは対照的に、突然の闖入者に対しても目を僅かに細めただけで、冷静に思考を巡らせて状況を観察する)
        (史繧と言ったか、昼間の時もそうだったが、こちらをあざ笑うような態度を取っているものの、実行力のある妨害をする訳ではない)
        (加えて、彼自身が語った通り、どうやら史繧は鳳釵の縁者であるらしい。そして、彼の値踏みするような視線は己よりも乱蔵へ乱蔵へと向けられている)
        (やれやれ、と内心嘆息する。傍から見ていればよく見えるものだ。さしずめ、彼女のもう一人の'兄'…いや'男'だろうか?)
        史繧様におかれましてはご機嫌麗しく…などと宣っても御満足はして頂けないでしょうね。…乱蔵、少し落ち着け(と窘めるような声を放つ。昼間のような騒ぎにはしたくない)
        -- 静次 2013-02-09 (土) 23:55:56
      • (乱蔵の訝しげな態度も想定の範囲内 むしろ予想通りといったように相手の怒りを涼しげに受け流す)
        いやいや機嫌はすこぶるいいぞ 殊勝な奴は嫌いではない
        だがお前 そんな態度していいのか? 俺は邪魔するどころか助けてやろうっていうのに
        -- 史繧 2013-02-10 (日) 00:24:51
      • (恐縮する侍女に一変優しげに声をかけて退出させ、再び史繧を見つめる目が今度は驚愕に見開かれる)
        …まさか ご冗談はお止め下さい
        (彼が助け舟を出すなど天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていたような顔で、冗談にしては質が悪すぎると非難する眼差しを送る)
        どうして今更そんなことを なぜ今になってそんなことを言い出すのですか
        (非難と、そして乱蔵と似ているようで全く異質な怒りを遠慮容赦なくぶつける これくらいで史繧に届く訳がないと判っていても)
        -- 士龍 2013-02-10 (日) 00:25:15
      • 冗談じゃねぇよ ようはあの収容所に入ればいいんだろ? なら簡単だ なにせ俺は王族だからな! 特例だってあるんだよ
        (あぐらをかきながらふんぞり返るその姿は、この中で一番体格が小さい史繧では少し滑稽に見える しかしさすがは王族なのか確かに威厳らしきものはあった)
        それに今更だと? 違うな 俺はこいつらを待っていたんだよ
        俺がさっさと鳳釵の手引きをすればこいつらのやることが無くなっちまうだろうが 俺は優しいからな こいつらにも役目を与えてやったまでよ
        (王家の権威をちらつかせれば確かに特例として入ることは出来よう 彼はそれを存分に使うつもりである 充分に越権行為となるがさして問題に思ってはなさそうだった)
        -- 史繧 2013-02-10 (日) 00:25:35
      • ……その話、真か。もし嘘や出任せでワシらを惑わそうとしているのであれば…本当にただでは済まぬぞ(赤毛男の三白眼の瞳がすう、と細まる)
        (場を見極めようとしていた静次とは違う、そこには別の意味が込められている。それと時をほぼ同じくして、赤毛男の気配が、ぶわり、と増す)
        (静かな夜の気配を僅かに彩っていた虫の音の声が絶える。考えられた造りによって肌に心地よく感じる程度だった部屋の空気が冷える)
        (辺りを鮮烈な鋭い意が引き裂き、気の弱いものであればその場にへたり込み動けなくなるような強く重い威圧感が振り撒かれる)
        (一見、居住まいを正しく座している赤毛男から放たれるは、殺気。この男が纏うことはそうそう無い暗く冷たい気配)
        (迂闊な言葉、胡乱な行動を取れば即座に、ただちに背の大木刀が太刀走り、その骨を微塵に砕くであろうことを確信させよう)
        心して答えよ、その言葉、相違、あるまいな(一句一句、力と、意を込めて問う。確かに、確実に目の前の男へ届くように)
        -- 乱蔵 2013-02-10 (日) 01:33:18
      • (士龍が先ほどとは別の意味で狼狽するのを見る。それはそうだろう、それが出来るのであれば自分たちを待たずにして策を進めることができる)
        (確かこの国の王は史繧と同程度。若い王であり、史繧も同様にまた若いが直系であればそのくらいの権限を持つことは不思議ではない)
        (見た目からは少々不似合いだが、史繧が王族であることは士龍が保証済みだ。話だけであれば疑う要素はあまりないが…)
        (そこまで考えた時、乱蔵から別人のような冷たい気配が放たれる。自分にしてもこんな乱蔵を見たことは殆ど無い)
        (その刃の上に裸足で立つが如くの殺気に、ひやりと冷や汗が背中を伝うのを感じるが…先の発言とは逆に乱蔵を抑えるようなことはしない)
        (…これで、史繧を試せるかもしれない。史繧を知らぬ我らに取っては史繧の申し出は喉から手が出る程に掴みたいものだが、だからこそ読めぬ史繧の本意を探らねばならない)
        (すなわち、目の前の男は、王族でありながらにして、何故禁を犯すことを躊躇わないのか、という問いの答えを)
        -- 静次 2013-02-10 (日) 01:33:43
      • (怒りはあった 戸惑いもあった 史繧の考えが判らない こんな要件を安易に口にするとは少々どころではなくその神経が判らない)
        (更に詰問しようとするが、それをする前に身体が硬直してしまった)
        (乱蔵から発せられる禍々しい殺気 体内の血液まで凍りつきそうなほどの気配)
        (自分に向けられている訳ではないが、それでも心臓を鷲掴みにされたような圧迫感により、少したじろいでしまった)
        (彼は本気だ その対応いかんでは本気で叩き殺すつもりだ そして自分はそれを抑えることが出来るのだろうか 士龍は本気で悩んだ)
        -- 士龍 2013-02-10 (日) 02:08:35
      • (部屋の中が暗くなる 明かりの火が弱まった訳ではない 乱蔵の発する気があまりにも増し、この部屋全体を覆い尽くさんとしているのだ)
        (この部屋が離れであろうとさすがにこれほどの気を発すれば、何事かと家人が来てしまうかもしれないなど、この男にはもうそんな事すらどうでもいいのだろう)
        (それほどまでに真剣なのだ 己の全存在をかけて挑んでいるのだ それを踏み躙り嘲り笑う者は、報いを受けても致し方ない)
        (どんな刃よりも鋭さを持った乱蔵の視線を、史繧は受け流すことはなくありのまま受け入れた 先程までのにやけた笑いは影を潜め、その顔から表情というものが全て流れ落ちていった)
        愚問だ 俺に二言はない(まるで狼に喉笛を食い破られる寸前のような心境の中、史繧ははっきりと力強く乱蔵の問いに応える)
        俺は鳳釵の為に手を貸すんだ お前たちを助ける為じゃあない だからお前らに貸しを作ったなんて微塵も思ってないから安心しろよ
        さあ何をしてほしい 言ってみろよ この俺に
        (乱蔵の威圧に屈することなく、かといって跳ね除けるでもない 彼は全てを受け止めるつもりだ 乱蔵の鳳釵に対する想いも全て)
        -- 史繧 2013-02-10 (日) 02:10:39
      • (僅かな切れ目が入ればその瞬間弾け飛んでしまいそうな一触即発の張り詰めた空気の中、身震いさえも許さないと薄く刃物のように閉じられた瞳が史繧を射抜く)
        (常に浮かんでいた人を馬鹿にしたような笑みは消え、その瞳にも嘲笑の色は無くなる。暴風にも似た殺気の渦の中、諦めの境地に達しているかようであったが)
        …そうか。ならばおぬしの言葉。信じよう(己の意を全て受け止め、胸を張り意思の籠もった言葉を放つ史繧には、大きな度量があった。王族という重責に絶えるに値する器が)
        (そしてこの押しつぶされそうな圧力の元、彼がホウサの名を呼ぶ中には確かに親しみがあった。ならば、それを信じよう)
        (彼女に連なり、助けたいと願うなら、それは志を同じくする同志であるのだから)
        (ふ、と一つ息をつく。その瞬間部屋を満たしていた凍てつくような殺気は掻き消え、先刻までの部屋へと戻っていた)
        -- 乱蔵 2013-02-10 (日) 23:36:47
      • (殺気が収まった瞬間、内心で胸を撫で下ろす。随分と肝が冷えたが、結果的には良かったようだ。ある種の賭けではあったが…)
        (いつの間にか袖の中に潜め、符を掴んでいた手を戻す。万が一の時があれば決死の覚悟で止めに入るつもりであったが、杞憂に終わったようだ)
        …貸しなどと。史繧様の助力、誠に痛み入ります(なるほどこうして見れば、その精悍な面持ちは王族の威厳を湛えている)
        我々が考えていましたのは鳳釵殿に言葉を届ける方法。一人重い責め苦に耐える鳳釵殿に取ってはひとつの言葉が強い支えになってくれましょう。
        さりとて派手な動きをすれば史繧様の身にも危険が及ぶでしょう。そこで、史繧様にはひとつ、取るに足らぬ品物を運んで頂ければ恐悦にて。
        -- 静次 2013-02-10 (日) 23:37:11
      • (一瞬でも動けば切り裂かれてしまいそうな威圧感の中、士龍はただ黙って成り行きを見守っていた)
        (本来ならば、自分はもうこの時すでに乱蔵を止めなければならないはずだ 王家の人間に対し、これほどの殺意を向かわせること自体問題なのである 自分は儀丁の人間として乱蔵を抗議する立場にある)
        (だが出来なかった 今この二人の間に入り込むなど出来やしない 自分にはその資格がない)
        (情けないことだが、事が起きた時に対処するので精一杯であった)
        (しかしそれも最悪な事態は避けられたようで内心ほっとする どうやら史繧も真面目に取り組んでくれるようだ)
        …史繧様 私の方からもお願い致します どうかこの方達の願いをお聞き届け下さい
        -- 士龍 2013-02-11 (月) 00:10:36
      • (息も詰まるほどの圧迫感も、次第に波が引くように消えていった 少ししてまた虫の音が耳に届く頃には、先程までの事がまるで夢のように感じられる)
        (それでも史繧の表情が戻ってくることはなかった 楊慎とはまた違った無表情の中には、どんな事象すらも受け止め素早く的確に対処する心構えが見て取れる)
        (これもまた王家として生まれた者の常なのか 彼の中に潜むものは、明らかに一般市民のそれとは異質なものであった)
        判った 確かに届けよう で? 何を運べばいいんだ あまり嵩張るのは無理だぞ
        (彼の服は士龍と比べ袖も懐も狭い ゆったりとはしているがそれでも大きなものは隠し切れないだろう)
        -- 史繧 2013-02-11 (月) 00:10:53
      • (士龍の内心もありありと分かる。同じような立場であれば己はどう行動してだろうか、下手に手を出して全てをぶち壊しにしていたかもしれない)
        (禍転じて福と為す。そうそうはない機会だ、これを逃してはもはや二度と鳳釵への繋ぎを持つ機会はあるまい)
        (しかし、いくら王族であり、恐らくは型破りな気風を持つ史繧と言えども、そうそう何度とは同じ事はできまい、下手な手を打つことは避けなければならぬ)
        そうですね…(言葉を返しつつも熟慮する。以前話した際には皿などが話にあがったが、かさの問題を抜きにしても大きなものはそれだけ損傷の危険が高い)
        (だとすると小さければ小さいだけいいが、ムジナが化けられる物の大きさには大きいもの、小さいものそれぞれ限界がある)
        (強度も本物には劣り、仮に損傷すればその時点で変化の術は解けてしまう。運搬の利便性を考えればやはり小さいものの方がいいだろう)
        では…箸置きなどは如何でしょう(改めて一枚の符を指先に挟み、符を取り出す。それは静次の掌の上で煙と共に狸の姿を取り、そして主の意を得たりとその場でくるんと飛び跳ね)
        (また掌に落ちる頃には滑らかな陶器の肌を持つ鯉を象った小さな箸置きとなっていた)…この者が、きっと鳳釵殿の一助になってくれます。史繧様は何かお伝えすることは?
        -- 静次 2013-02-11 (月) 01:08:40
      • (懇願というよりも悲痛な表情の士龍に判った判ったと片手を振りながら、静次の言葉に耳に傾けた)
        (てっきり手紙か何かだと思っていたが、箸置きという言葉に眉根を寄せる そんなもので何をどう伝えろというのか)
        (今度はこちらが訝しげに視線を送ると、静次の取り出す符から飛び出す狸にほうと無意識に声を上げる)
        (続けて見事な陶器の箸置きとなった狸をしげしげと見つめ)んー…そうだなぁ いや、俺からの言伝は止めておこう そちらのだけで充分だろうよ
        (軽く首を振って片手を前に突き出しながら、ちらりと士龍の方を見やった)
        -- 史繧 2013-02-11 (月) 20:07:21
      • (あの狸はあの時のと、向江国で別れた時に感じていた気配の正体に思わず顔が綻ぶ その見事な变化の姿に史繧と同じく感嘆しつつ)
        …では『私はいつでも、お前の味方だ』と そう伝えて下さいますか
        (静次の掌に落ちるそれを見つめ、鳳釵の顔を思い浮かべながらぽつりと告げる)
        (その顔は今の鳳釵の顔ではなく、まだ幼く無邪気な笑顔の頃の顔であった)
        -- 士龍 2013-02-11 (月) 20:07:40
      • (一見見ただけでは、いやしっかりと見ても見ただけでは本物との違いは分かるまい)
        (史繧と士龍の視線を受ける箸置きは先刻の変化の瞬間を見ていなければただの箸置きにしか思えないだろう)
        (変化する物にもよるが、ムジナがよく見、知り、構造が単純であるほど変化後の完成度は高くなる。その点、箸置き程度であれば造作も無いこと)
        (術力に対する鋭敏な感覚を持つ者であれば、微かに漂う術力にそれが尋常の物でないことに気づけるかもしれないが…)
        (感心した声を出す史繧とどこか懐かしげな表情を見せる士龍にこくりと頷いて答えて、箸置きに視線を向け)
        …確かに聞いたな?(掌の上の箸置きに語りかける。すると箸置きは答えるようにころりと掌の中で転げた)
        しかと士龍殿のお言葉もお伝え致します。ああ、それともうひとつ。万全には万全を期してこの箸置きに隠身の術をかけてくださいますか。
        私にも覚えがない訳ではありませんが、こちらの術を抜けるならば、こちらの術が相応しかろうと考えます。
        (…それに、術師としては己よりも士龍の方が数段高みに居よう。そう思いながら士龍を見て言いつつ、史繧の差し出した手に箸置きを渡す)
        …この者はムジナと申します。どうぞ良しなに(言えば、史繧の掌でころり、とまた箸置きが転げる。『宜しくお願い致します』とでも言いたげに)
        -- 静次 2013-02-11 (月) 23:16:41
      • (ムジナの姿もだったが、その小さな箸置きの姿もまた愛らしい 無表情の史繧の掌に乗せられたそれに微笑みながら、心得たとばかりに姿勢を正す)
        (人差し指と中指を立てながら、その箸置きに向かい瞬時に複雑な紋を宙に描き、最後にすっとその箸置きに指を添えた)
        (とたん じわじわとその輪郭が朧気になっていく まるで霧に包まれたようにその姿はかき消されていった)
        (やがて徐々にまたその姿を見せた時には、今まで僅かに漂っていた妖気という妖気がすっかり取り払われており、そこにあるのはただの箸置きとしか認識できなくなっていた)
        ムジナ 鳳釵を宜しく頼む 出来るだけあの子を励ましておくれ
        (この思いを鳳釵に届けるようと、慈しむように史繧の掌に声をかけた)
        -- 士龍 2013-02-11 (月) 23:55:07
      • (一見ただの箸置きだが、傾けてもいないのにコロリと動く様はまさしく变化の類だと判るだろう)
        (しかし重さといい質感といい微妙な鯉の見事な彫り具合といい、中々洗練された变化であった)
        (静次の提案も最もだと、己の掌に乗せられたそれを、黙って士龍の前に掲げる 自分はあまり術の類は好まず才能もない こういうのは彼が適任だ)
        (喜んで術をかけた後、その箸置きから立ち込める妖気はすっかり祓い清められたように何も残っていなかった)
        (しかも術をかけられたという痕跡すらも感じられない ムジナは今、完璧に箸置きと化すことに成功したのである)
        よし、一応確かめてみるか(もう片方の手で箸置きをつまみ上げる 指の腹から伝わるひやりとした感触はまごうかたなき箸置きであり)
        (そして躊躇なくガリッとそれに噛み付いた)
        -- 史繧 2013-02-11 (月) 23:55:32
      • あきゃぁっ!?(史繧が口元に箸置きを運び噛み付いた途端、ぼわ、と白い煙ならぬ煙が小さく発生し部屋に甲高い悲鳴が響き渡る)
        な、な、なにをするんですかあっ!痛いです怖いです恐ろしいですっ!(そしてそのまま史繧の手から飛び出し、くるくると宙にて元の狸の姿に戻り叫び)
        (てし、と床に降り立ち、すぐさまそのふわりと膨らんだ尻尾を抱えて丸くなってしまう。ムジナの変化の術は損傷を受ければ強制的にその術を解かれてしまい、強度は本物に劣る)
        (つまり、史繧のやたらに健康そうな白い歯なら陶器よりも脆い箸置きの表面を傷つけるのは造作もなかったということだ)
        -- ムジナ 2013-02-12 (火) 00:58:49
      • (士龍の繊細で緻密な術に、実に鮮やかと見惚れていれば史繧が物珍しそうに箸置きを掲げたのに反応するのが遅れてしまった)
        …史繧様?(と止める間もあればこそ、史繧は箸置きに噛み付き、ムジナが一瞬の内に元の姿に戻り丸くなってしまう)
        (どうやら乱暴に解かれた変化の術に巻き込まれる形で隠身の術も解かれてしまったらしいムジナはその毛並みを晒して床で怯えた気を放っている)
        (ぷるぷると震え尻尾を抱えているところから見るに、どうやら尻尾に当たる場所を噛まれてしまったらしい)
        …史繧様、ご説明が遅れましたが変化をしたムジナの身は丁寧に扱われること願います。ご覧の通り、傷を負いますと変化が解けてしまいますれば。
        (こちらの説明も遅かったが、史繧の予想のつかない行動にも驚いた。一筋縄ではいかない人物かと思っていたが、いやはや相当のようだ)
        -- 静次 2013-02-12 (火) 00:59:55
      • 何やってんですかぁっ!(ムジナと被るように叫びながらすぐさま救出しようと手を伸ばすも、弾かれるように飛び跳ねその手は虚しく宙を握る)
        (丸くなるムジナに哀れみと謝罪の念を込めた眼差しを送りつつ、向江国の二人に向かって土下座しながら)
        あああすみませんすみませんすみません 決して巫山戯ている訳ではありませんので平にご容赦
        -- 士龍 2013-02-12 (火) 22:23:28
      • あ(掌から飛び出すように逃げるムジナに呆れるような声で)
        おいおいおい…こんくらいで解けるたぁちょっと根性足りねぇなおい(床で丸くなるムジナを見守りながら、全く悪びれた様子もなくそう言い放つ)
        (真に呆れ返りたいのはこっちだと言わんばかりの士龍を軽く流しながら、ムジナに近づき少々乱暴にその背をわしゃわしゃと撫で付け)
        よーしよしよし 衝撃が来ないようにすりゃいいんだろ ほら、ついてこい
        (丁寧とは言いがたい動作で丸まったムジナの首根っこを掴み、そのままふすまの方へと歩み寄り)
        んじゃ、明日さっそく行ってみるわ(一度振り返り、そう言い残して返事も聞かずにその場を後にした)
        -- 史繧 2013-02-12 (火) 22:23:52
      • (飄々と部屋を退室する史繧の背中を見送り、改めて平身低頭で詫び言を繰り返した)
        いや本当…本当に申し訳ありません しかし先程言っていた通り、前言を撤回するようなお方ではありませんので、これは私が保証致します
        ……あとで、ムジナの好きなものを用意させて頂きます
        (あの怯えようで一晩史繧と共に過ごさなければならないムジナに、心の底から陳謝し、彼の者の無事の帰還を祈らずにはいられなかった)
        -- 士龍 2013-02-12 (火) 22:24:14
  • (向江国の兄弟が来てからもどかしく数日が過ぎ去った 彼らの心中を思うとやり切れない思いに囚われるが、しかし未だ妙案が出てこないのではどうしようもない)
    (彼らの心を少しでも晴らし、その際に良い考えが浮かべばと、その日彼らを夏家の道場に招くことにした)
    (道場は夏家の敷地内の中で北側に位置している 屋敷から庭へと渡り、その間を貫くように作られた長い石廊下を踏みしめていけば、やがて遠くに見えるその建物を目に捉えることが出来た)
    (分厚い木の心地よい温もりが、直に伝わって来るような雰囲気と、武を志す者にとって心身を鍛えるための一種澄んだ空気が満ち溢れている)
    (その場所は、父親が師範として日々儀丁の軍人を鍛え上げている聖域でもあった)
    (父に会わせるつもりもあったが、ここは鳳釵が幼い頃から慣れ親しんだ場所 その場所をぜひ乱蔵に感じてほしかったのだ)

    (士龍を先頭に、妹が毎日歩んだ道のりを歩き、角度は違うもののまっすぐに見つめ、志を高めていったその建物に近づいていけば、ふいに道場の扉がキイと音を立てて開かれる)
    (おや? と士龍は怪訝そうな顔をした この時間はまだ弟子たちの出入りはないはずだ ゆっくりと落ち着いて見てもらおうとわざわざこの時間を選んだというのに)
    (すっと自然の流れのように開けられた扉の奥から、一人の男が姿を表した時、もし士龍の表情をこの兄弟が見ていたら、きっと驚き呆気に取られたことだろう)
    (それほど彼にとってその人物は想定外であったようだ まるで苦虫を噛み潰したような表情で「し…っ!」と思わず声を漏らしてしまったほどに)
    -- 士龍 2013-01-27 (日) 00:18:25
    • (じりじりと躙り寄る焦りに置き火に身を焦がされるような思いになりながらも、それを強い意思で持って抑えこむ)
      (焦りは禁物だ、己は術には明るくないが、静次と士龍が膝を突き合わせて得た結論が、今の備えでは足りないという事実だ)
      (それを強行しようとしては、彼女に思いを伝えられぬだけではない、事が大きくなり全てが台無しになる可能性が高くなる)
      (固く結んだ口元を引き絞り行く先を見る。そこにあるのはある種の慣れ親しんだ空気。戦いに身を置き切磋琢磨するための場所)
      (自分も考え詰めであろうに、こちらの思いを察して気分を変えようとしてくれた士龍の心遣いに感謝し、出来るならば素振りの一つもさせて貰おうかと思った矢先)
      (前に立つ士龍から聞いたこともない響きの声が漏れ、驚きそちらに視線をやる。さすればそこにあった横顔は同じく今まで見たこともないような表情で)
      …士龍殿?一体どうしたことじゃ?(何事かと、ふ、と士龍の視線を追えば、そこには一人の見知らぬ男。少なくともこの数日間の滞在では見なかった顔だ)
      -- 乱蔵 2013-01-27 (日) 00:50:50
      • (その男は扉を開けた瞬間、目の前の三人の男たちをしばらく無言で交互に見据えた)
        (いかにも動きやすそうな灰色の袖の細い服に身を包み、手には黒光りする六尺棒を握り締めている その握りは瞬時に素早く反応できるよう、どこまでも柔らかかった)
        (三人よりも幾分背が低いが、その眼光は三人の中でも、特に乱蔵と同じように力のこもった眼差しをしていた 茶色の瞳はやがて士龍を無視して向江の兄弟たちに、特に乱蔵に注がれる)
        (全身を観察するというよりも、睨めつけるといった感じで頭の天辺から足の先まで無遠慮にじろじろと見つめ、やがてにやりと口角が持ち上がった)

        士龍よ そいつらか 東国からの客人は ほうほう聞いたのよりやはり直に見た方が判りやすいな
        (にやにやと笑う顔はまるで挑発するかのように絶えず二人に注がれる 士龍よりも少し若い顔立ちだが若さ故の挑発でもなさそうだ)
        (硬直し、乱蔵の質問にも答えられない士龍を他所に、顎に指をかけてもう一度観察を再開する 失礼極まる態度であるが、彼は全く意に介さず珍しい赤毛をまじまじと見続けていた)
        -- 2013-01-27 (日) 01:26:24
      • (士龍の反応に呆気にとられたが、その反応をもたらしたのは目の前のこの男なのは明白だ。一体何者なのであろうか)
        (手に持つ六尺棒の使い込まれよう、それを持つ手の握り、それだけでも灰色の服を纏う男の腕前はある程度は図れる…これは'使える'手合いだ)
        (この場所に居たことからして、夏家の門人であるのだろうかと想像はつくが、にしてはその視線は少々礼を逸し過ぎている)
        (睨め回すようにこちらを見るその視線も、以前の己ならどこ吹く風と思えていただろうが、胸の内に押さえた焦燥が心を毛羽立たせ、そこに嫌らしげな笑みが一々引っ掛かる)
        (横目で隣の静次を見やれば、こちらに浮かんでいるのは当惑の色。恐らくは静次も現在のこの状況を掴みかねており、どう対処すべきか迷っているのだろう)
        ふうむ、見るのは構わんが、おぬし目が悪いのか?それともこの赤毛がそんなに珍しいか?…どれ、ではよぉく見せてやろうかの。
        (いいだろう、乗ってやる。言葉を放ちながら、士龍を背に置いて男の前に歩み出し、ずい、ずい、と身を乗り出して男と攻撃的な視線を真正面からカチ合わせる)
        (七割の意識は男の棒を持つ手に。三割の意識は己の大木刀に。棒術の使い手相手に棒を見ていては話しにならぬ、その手元にこそ、その者が操る業があるのだ)
        (ぴりぴりと剣呑立つ空気を二人の間に圧縮しながら、一歩、一歩、赤毛の尾っぽを揺らしてゆっくりと石畳の上を赤毛男が男に近づいていく)
        -- 乱蔵 2013-01-27 (日) 22:21:22
      • (近づくにつれ、攻撃できる間合いが変化していく 相手はあの櫂のような巨大な木刀 対するこちらはそれよりは貧弱に見える六尺棒)
        (どちらもその長さから間合いは広範囲となるが、棒の方が短い分相手が間合い入る方が早いだろう)
        (しかし灰色の服の男は悠々とした顔で姿勢を崩さず、だらりと腕を下に落としていた)
        (乱蔵が己の間合いの中に灰色の男を捉える)
        (これからどうあがいても、戦闘態勢に入り乱蔵を迎撃しようとするのはもはや不可能であった)
        (しかし男はそれでも何一つ変わらない 表情は相変わらず相手を小馬鹿にするような皮肉めいたもので、これでは乱蔵に叩きつけられても仕方のない状況であった)
        -- 2013-01-27 (日) 22:54:59
      • お待ち下さい!(すでに破裂しそうな圧縮された不穏な空気を吹き飛ばすような声が響く ようやく意識を取り戻した士龍だ)
        (彼にしては珍しく慌てふためいた様子で二人の間に駆け寄り)ここで諍いはお止め下さい!
        (鬼気迫る勢いは、この諍いを止める為ならば己の全力をも解放すると告げている)
        (こんな所で自国の人間と向江国の人間が争うことになれば余計面倒なことになる 直に手を出していなくともそれは関係ない)
        (士龍を間に挟んだことで、姿の見えなくなった灰色の服の男側から盛大な舌打ちが響いた瞬間、キッと士龍が視線で諌めた)
        -- 士龍 2013-01-27 (日) 22:55:18
      • (歩きながらも、相手の間合いを図る。こちらから手を出すつもりはないが、間合いとしてはこちらの方が僅かに広いか)
        (それにも関わらず男の態度は微塵も変ること無く、まるで近所のやんちゃ坊主を見るような顔でこちらを眺めている)
        (赤毛男の意識に描く半円の中に男が入り込む。そしてそれは男も気づいたはずだ。だが)
        かっ!まだ良く見えておらぬか。触っても構わんぞ。…できるものなら(男は動かない。では、更にもう一歩。その一歩を踏み込もうとした時)
        っと…(半歩踏み込んだ所で士龍が彼に似合わぬ声で叫びながら駆け込んできた。たたらを踏むように足を止める)
        いやいや、何を慌てる士龍殿。ただワシらは親睦を深めようとしていただけじゃぞ?(などと軽口を叩きつつ、流石に士龍の手前、ここまでかと肩を竦め)
        (そして少々憮然とした顔になりながらも闘気を治め、士龍の向こう側の男へと改めて問いかける)…で。おぬしは何が気に喰わぬのかの?
        -- 乱蔵 2013-01-27 (日) 23:32:49
      • はっ そちらは親睦深めるのにいちいちそんな殺気立てるのかよ 物騒な所だね全く
        (士龍を邪魔だと言わんばかりに押しのけ、再び乱蔵と対面する 鳳釵よりは高いがそれでも乱蔵の頭半分ほど低い だか下から見上げるその視線には見下されているという意識は微塵もなかった)
        別に気に喰わないことなんてないが、あんたもこんなケチな挑発に乗ってみすみす向かって来るなよ
        まぁ俺としちゃ、一発でも殴ってくれりゃ、その後盛大に慰謝料ふっかけられたのになぁ思ったけど
        (盛大という言葉が強調される その意味を乱蔵は果たして悟っただろうか)
        (そしてそれこそ、乱蔵の逆鱗に触れるということをこの男は理解しているのだろうか)
        (乱蔵と鳳釵が文字通り命をかけて守った物を、命をかけたものにこそ相応しい報酬を、この男はこんな下らないことで頂こうと言っているのだ)
        -- 2013-01-27 (日) 23:55:37
      • (士龍を脇にのけ、こちらを見るその視線はどこまでいっても侮りと嘲りの色しか見せない。それが心のささくれにじくりを痛みを与えるが)
        …折角歓迎してくれているのじゃ、答えずには悪いであろう?(ここで揉めては相手の思う壺。努めて平静を保つようにする)
        (だが続く言葉に、傷口に塩を塗りこまれたような鋭く、そして強い痛みの如き怒りが湧き上がる)
        ほう…それはそれは…しかし(そして、残りの半歩を踏み込む。身を捻るように。その半歩で脇へと押しのけられた士龍の前に移動し、その視線を塞ぐ)
        (そうして士龍の側からは見えない死角が生まれ、その中で小さくまた踏み込み、脱力した腕を鞭のようにしならせる)
        (抜きはしない。いくらなんでも獲物を振るっては士龍の顔に泥を塗るどころの騒ぎではなくなってしまうだろうから)
        (しかし、しかしだ。灸の一つぐらいは据えさえてもらおう。この男は、己だけならまだしも、彼女をも侮辱するようなことを宣った)
        慰謝料は…要らぬのではないかの!(一連の動作は最速をもって行われる。しならせた腕によって拳は加速され加速され、小さな半円を描いてひゅう、と男の顎を狙う)
        (並の武人であれば疾風のようなその動きに顎を弾かれ、痛みを感じる間もなく失神し、何事があったかさえも気づかぬであろう)
        -- 乱蔵 2013-01-28 (月) 00:40:59
      • (士龍の青ざめた顔が視界の端に確認できる 予想通り、自分はこの男を怒らせることに成功したようだ)
        (乱蔵の立ち位置と士龍の立ち位置を図れば、彼がこれから何をしようとしているのかはすぐに把握できた)
        (そして男は更ににたりと微笑む 壮絶な笑みを輝かせながらその時を今か今かと待ちわびていた)
        (彼も武人ならばここで得物を振るうなど馬鹿な真似はしないだろう ならば他の得物は一つしかない 己の身体だ)
        (視線は乱蔵の目から離さず、まっすぐ見据えたまま、やはり男は微動だにしなかった)
        (乱蔵の一喝と共に振るわれる拳が、風を切って男の顎に迫る)

        (その瞬間 男の下半身に力が篭り、くわっと見開いた目にも力が宿る)
        (衝撃が広がる 遅れたように音が広がる 乱蔵の拳は見事男の顎を打っていた)
        (つまり、打ち抜くことは出来なかったのだ)
        (ぎしぃという音が静かにこだまする 男が歯を噛み締め再度にたりと微笑む その笑い方は狼が口角を持ち上げ歯をむき出す様に似ていた)
        (普通これほどの衝撃を受け、なおかつ歯をかみしめていれば砕けていてもおかしくはなかったが、男の歯は噛み締めすり減ったくらいで収まっていた)
        (吹き飛ばされるのを防ぐ為の両足が、ずりずりと石畳をこすっている)
        …くっ くくくくく(地の底から響くような笑い声を上げながら、男はゆっくりとその拳から離れていった)
        くはははははははっ よく俺を殴った このまま何もしないなんざ男じゃねぇな!
        (恐ろしいほどの威力を頭部に叩きこまれたというのに、男の声には張りがあった そしてその横ではまるで代わりのように士龍が盛大に頭を抱えていた)
        -- 2013-01-28 (月) 01:19:23
      • (まず最初に感じたのは違和感。顎を打ち抜き、振り抜かれるはずの拳がびたりと止まった感覚。まるで大地に根を下ろした木を打ったかのような重い手応え)
        (ぎしり、と肉の軋む音が聞こえたのは男の首からか、それとも己の腕からか分からない。己よりも小兵の男が、我が意を得たりと牙を剥くが如く笑う)
        (男の身のこなし、体つきから避けられるかもしれないとは思っていた、しかしまともに真正面から喰らい、しかも耐え抜くとは)
        …痛い目を見せてやろうかと思うたが…喜ばせてしもうたようじゃの(こうも見事に受け止められてはもはや士龍の目も誤魔化せない)
        (少々開き直ったような表情で高笑いしている男をを睨み、片手を差し出して指先をくい、くい、と自分に向けて誘うように引く)
        …で、まさか殴られるだけで済ますような奴が男とは言うまいな?(一泡吹かせてやらねば気に食わない、一見無防備にも見える姿で赤毛男がぎらりと鷹の目のような視線を男に向ける)
        -- 乱蔵 2013-02-02 (土) 23:47:47
      • (今度は乱蔵からの誘いの様子に、笑みを一旦消してちらりと見据える)
        (体格差と身長差を考慮すれば、必然的に狙うはやはり相手の顎 真下からの直撃が一番無難である)
        (殴られた事実などまるでなかったかのように、平時と変わらぬ動作で男はゆらりと構える)
        (その構えは鳳釵の構えと酷似していた)
        (乱蔵が鷹の目ならばこちらは鷲の目 猛禽類の視線が交差する中、拳がうなりをあげて風を切る)
        (それは真っ直ぐに乱蔵の顎へと向かっていた 遠慮も躊躇も何もない 乱蔵の策すらも考慮していない、ただひたすらに己をぶつけていっているだけであった)
        -- 2013-02-03 (日) 00:20:30
      • (睨み合う二人の横、士龍の側で静次が似たような格好をしている。違う点があるとすれば、そこには長年の経験から来る諦めの境地があったことか)
        (そして、男が構える。これで逃げるようであれば構う価値もない小物であろうと見限ったであろうが、なかなかどうして)
        (堂に入ったその構えに既視感を覚えた。その構えはよく知っている。恐らくは、秋津の業の次に慣れ親しみ、傍にあったもの)
        (そこから繰り出される突きも、またよく知ったもの。今から殴られようというのに、ほんの僅かの間だけ、懐かしいとさえ思ってしまう)
        (男が迫る。構えを見る赤毛男は動きを見せない。男が腕を伸ばす。思い巡らす赤毛男は構えない)
        (男の拳が顎へと唸りをあげる。その段になって、ようやく、もはや避けることなど不可能な距離で赤毛男が僅かに動く)
        (ごっ、と鈍く重い響きが空気を揺らす。かくして男の拳は赤毛男の身を打つこと叶った。叶ったが)
        …どうじゃ。赤毛の触り心地は(その拳が打ったのはざんばらの前髪垂れる額。赤毛男は一瞬のうちに顎を引き額で持って拳を迎え打ったのだ)
        (にやりと僅かに笑うも、防御を捨てたその行動は赤毛男の頭を揺らし意識を揺らす。しかし、歯を食いしばり身動ぐ様子など見せない。見せてたまるものかと不敵に笑った)
        -- 乱蔵 2013-02-03 (日) 00:56:12
      • (己の拳が乱蔵の元へ届く前から、男は確信していた)
        (この男は避けはしまい 先程の自分のように、相手の力を己の身に叩きこませるだろう)
        (そして必ず耐えぬく お前の力などで自分は倒れはしまいぞとみせつけるように)
        (だがそれでも構わないと男は会心の笑みを持って拳を走らせた 耐えぬいてみろ これで倒れるような男が鳳釵を救えるか)
        (拳の軌道はもはや完全に乱蔵を捉えていた ここから回避は事実上不可能だと誰もが思うほどに迫る それでも乱蔵の姿勢は一切ぶれず、ただこの拳を待ち構えるのみであった)
        (一瞬の間 それは動く)
        (男の目が驚愕に見開かれる 避けるような男ではないと思っていたが、その顎は予想に反して拳を逸らした)
        (瞬時に猛烈な怒りを感じたが、次の乱蔵の行動に虚をつかれた思いであった)
        (衝撃が音を立てて広がっていく その後を追うようにはらりと赤い髪が打ち付けた拳に降りかかった)
        (乱蔵の言葉が耳に入るも、男にとってそれはもうどうでもいいことであった つまらなそうに拳を引き、相手の笑みにふんと鼻をならし)
        …恰好つけやがって(それだけいって拗ねたようにそっぽを向いた)
        -- 2013-02-03 (日) 01:27:03
      • (今しかないと再度士龍が二人の間に割って入る)もう充分でしょう これ以上はお止め下さい
        秋津殿、真に失礼いたしました 我が国の非礼を何卒お許し下されませ
        (こんな騒ぎで両国に亀裂が走るなどもっての他 平身低頭で謝罪する士龍の後ろで、件の男が喧嘩両成敗だろと涼しげにいいながら顎を撫でた 先程乱蔵に殴られた箇所であった)
        -- 士龍 2013-02-03 (日) 01:27:31
      • (いっその事、男の拳を潰してやろうかという狙いもあったが、鍛えられた男の業がそれを成させてはくれなかった。予想以上に、伸びた)
        (とはいえ額を拳でしこたま殴ったのだ、棒使い専門なら指の一本や二本おかしくしても良さそうだがその様子もない。体術も相応に収めているのだろう)
        (もしくは先の構えを見るにこの男も気を操るか…いけ好かぬ、と余震の残る頭を一つ振り、こちらが恐縮するような声をあげる士龍にひらひらと手を振って)
        ワシのことはまだいい、しかしホウサ殿のことを軽んじるような発言は…二度は許さぬぞ(言ってぎろりと飄々とした様子の男を睨む)
        -- 乱蔵 2013-02-03 (日) 02:03:48
      • こちらこそ申し訳もありません。この馬鹿の蛮行、平にご容赦ください(心底呆れたといった表情のまま静次が頭を下げる。いつもならここまでではないが…間が悪かったかと内心嘆息し)
        …しかし、そちらの御仁の振る舞いも少々目に余りますね。士龍殿はご存知のようですが…お聞かせ願えますでしょうか(と、非難とまでは行かずとも、説明の義務があるであろうといった視線で士龍へ問う)
        (今も悪びれもなく佇むこの男に真っ当に話が聞けるとはとても思えない。どうも様子からするに我らを追い出そうとしている訳でもなさそうではあるが…)
        -- 静次 2013-02-03 (日) 02:04:10
      • 別に軽んじちゃいねぇよ(拗ねた様子から一変、またにやにやと挑発するような笑みで乱蔵の睨みを跳ね返す)
        鳳釵が選んだ男がどれほどのもんか見てやろうと思ったんだが、こいつぁとんだキザ野郎だわ はっ いけ好かねぇ
        (相手に聞こえるのもお構いなしに、いやむしろ聞かせるように悪態をつく その態度は静次が言うように少々どころではなく目に余り、不遜の態度にも年季が入っていた)
        (士龍が静次の問いに少し口をつぐみ困惑している中、男がぐいと一歩前にでる)
        まぁそちらの名前すら知っているのに、こっちが名乗らないではさすがに無礼だったな
        俺の名は恭 史繧(きょう しうん) 現王の弟に当たる王族で、夏 黄麟の最も期待する弟子であり
        (己の名に如何に誇りを持っているかをみせつけるように胸を反らして名乗り上げた後、今度は探るような目つきで乱蔵を見つめ)
        鳳釵が阿釵(アチャイ)と呼ばれていた頃からの知り合いよ
        (言うだけ言って、何故か勝ち誇ったような笑顔で踵を返し、後は知らぬと言わんばかりにその場を後にした)
        -- 史繧 2013-02-03 (日) 02:34:12
      • (士龍が口をつぐんでいたのは、史繧が王族であったからでもあり、更に言えば、州邑では王の兄弟が何人いるかというのは基本的に表にあまり公表しないものであった)
        (それも含めてこの場で言うべきかと悩んでいた所、史繧があっさりとバラしてしまい、慌てたのも後の祭り 後は肩を落として脱力するばかりであった)
        …申し訳ありません お騒がせしました(史繧が立ち去った後に残された士龍は、力なくもう一度頭を下げ)
        失礼ついでにお願い致します 今のことは何卒ご内密に 王家の人間が城外でウロウロしていたなどと知れたら色いいろと問題が
        (心なしか一気にやつれた顔になる士龍に、彼のこれまで苦難がありありと想像できる 下手に王家に近い存在であったばかりに、史繧のような存在の後始末なども引き受けているのだろう)
        ああそれと…アチャイというのはですね、ここでは幼女の名を呼ぶ時に名前の前に阿とつけるのです そちらでも小さい子にちゃんを付けたりするでしょう? あれと似たようなものですね
        (つまり史繧は鳳釵の幼い頃からの知り合いということを強調したかったのだろう それを考慮すれば先程の史繧の笑みはこう解釈できた)
        (『お前よりも俺の方が鳳釵と過ごした年数は長いんだよ』と)
        -- 士龍 2013-02-03 (日) 02:34:29
  • (儀丁の中心都市の中で南側に位置する場所は夏家の所有する土地であった)
    (夏家の屋敷は全体的に紅を基調とした作りが特徴であり、広さも秋津家の屋敷以上にある)
    (秋の気配が更に色濃くなっていく晴れの日、黒枠の円障子窓から見える外は、所々に秋の彩りが見え隠れてしていた)
    (しかし、雄大な自然の中で生きた人間の目には、その自然はあまりにもお粗末に感じたものだろう)
    (本来ならば春から夏の間に満ちた自然の恵みを、余すこと無く開放する季節だろう)
    (だが木々の緑よりもむき出しの地面の方が圧倒的に広い山々が、その無残さを象徴していた)
    (荒れ果てた大地に佇む大都市 その姿は異様な雰囲気を纏っていた)

    (屋敷の中でも離れに位置する場所に案内される 他の部屋とは違いその一角は畳座敷であった 竿縁天井の美しい木目は元々の素材の良さもあるが、長年の年月がそれをより一層深めている)
    (その天井と鴨居の間に彫り刻まれた欄間は、様々な植物が織り成しており、この部分だけ自然豊かに満ちていた)
    (この事から、彼らの為に特別に用意した部屋というわけではなく、初めから組み込まれていた部屋というのが判る)
    (しかしこの部屋まで来る道のりは、石畳のむき出しな通路に添って設けられた透かし彫りの花窓 漆黒の方卓に寄り添う圏椅に 花台の上に乗せられた植木鉢にも細かい装飾が掘られ、あの春間もひとつ欲しがりそうな高級感があった)
    (そんな通路を行き過ぎ、たどり着いたこの部屋は、違和感を感じるのも仕方ないかもしれない)
    -- 2013-01-06 (日) 20:51:08
    • (士龍の訪問に伴い、こちらも儀丁への訪問を行いたいと伝えたのがひと月前。その許可が降り、足の早い船を飛ばしやってきた地)
      (この地を訪れることになったのは、以前から彼女の故郷として見てみたかったというのもあるが、春間の一言が止めだった)
      (人から伝え聞いた話だけではない、儀丁のありのままの姿をこの目で確かめる必要性を強く感じたのだ)
      (そして、その儀丁が今、目の前にある。それは有り体に言ってしまえば砂上の楼閣のように見えた)
      …話には聞いていたが…これほどまでとは(乾いた土が舞い上がり、時折砂嵐のような風が吹き、木々はぽつりぽつりと細い幹を晒している)
      (生命の声がここでは殆ど聞こえない。鳥はここに来るまでにも数えるほどしか目撃せず、獣に至っては終ぞ遭遇することがなかった)
      (これでは確かに輸入に頼り日々の糧を得ていく必要もあろうと納得できた。…あの兄妹の強さの理由が一つ、分かった気がした)
      -- 乱蔵 2013-01-06 (日) 21:45:41
      • (案内の者に連れられ、事前の取り決め通り夏家の屋敷に移動する。朱く彩られたその屋敷は荒れた地に浮かび上がるような強い存在感を示している)
        (大陸のものらしい意匠が凝らされた屋敷の中を進んでいけば、こちらの物に詳しくなくとも分かる一級品の数々が所々に見受けられる)
        (勇壮な龍が青色で描かれた白磁の壺。飛び立つ鳥を表したのだろう、今にも空へと舞い上がりそうな翡翠で彫られた生き生きとした鷹の彫刻)
        (なるほど、儀丁に夏家ありは伊達ではない、と多少身を強張らせながら廊下を進む。懐の一枚の符に、大人しくしておいてくれよ、と念じながら)
        失礼致します(そうして案内が辿り着いたのは一つの部屋だった。さあどんな部屋かとある種の期待を持っていればそこはまるで向江国にあるような部屋であり)
        …案内、有難う御座います(案内人に礼を言って旅荷物を下ろし、座して身を休める。東国の文化がこちらに入っているのは知っていたが、見事なものだ、と思いながら)
        -- 静次 2013-01-06 (日) 21:46:00
      • (二人が腰を落ち着けてから少し経った後に士龍が一人やって来る 先日訪れた時よりも少し華美となった姿は、この当家の主としての威厳の現れであろうか)
        (二人の前に座り、にこりと微笑んで一礼するその姿は、手本のように優雅であった)
        遠路はるばる、ようこそおいで下さいました 後ほど宴の間へご案内いたしますので、その間に少しでも旅の疲れを癒して下さいませ
        (聡明であるが和やかな笑顔は二人を真に歓迎するという意味なのか、以前の気迫は影を潜めている)
        (今眼の前に要るのは、この荒涼とした地の運命に真向から立ち向かおうとする、強い意志をもった一人の青年であった)
        (ふと、その視線が天井に向けられる 他の部屋とは違うその作りを見て、その口元は苦笑に形を変えた)
        驚かれたことでしょう この部屋は見ての通り東国の客間を参考にして作っております 取り入れたというよりも…ほぼ模倣と言った方がいいでしょうね
        (その声には深い悲哀が込められていた 自分の国にはもう独自の文化はなく、あるのは記憶にのみ残ったあやふやな文化と、他国を真似て作らせたまがい物の文化しかない)
        お二方とも、この部屋のほうが少なくとも落ち着けるのではと思いましたが、ご不快のほどがありましたらどうぞお許し下さい
        すぐにでも別の部屋を用意させますので、ご遠慮なくお申し付け下さいませ
        (可能な限り正確に作ってはいるものの、自国の文化の猿真似を見せられ、怒りを顕にする者もいる この場合は吉と出るか凶と出るか)
        -- 士龍 2013-01-06 (日) 22:16:49
      • (うっかりすれば東国に戻ってきたように思えてしまうその部屋の造りに見惚れ、安らいでいれば見知った青年がやってくる)
        こちらこそ世話になるの。かたじけない(身を正し実直な一礼を返す。再び目にした彼は向江国で見た時よりも角が取れ、穏やかに見えた)
        (自分の家にいることがか、それとも我らを受け入れてくれた証だろうかと考え、恐らく両者であろうと結論づけて)
        おお、この部屋におるとまるでここが我が家のようじゃ。実に見事な物じゃ(うんうん、と頷いて感心する、が)
        …いやいや、士龍殿のもてなしの心遣いをそんな風に思うはずもなかろう。この造りは元からの物ではないかもしれんが(とぐるりと部屋を見回し)
        ここまで立派にできておれば胸を張って自慢してもええと思うぞ(州邑の中では東国に近いとは言え、よくもここまで再現したものだと赤毛男は言う)
        -- 乱蔵 2013-01-06 (日) 23:16:50
      • …(乱蔵の言葉を無言で聞く。その声は素直な感嘆の声であるものの、聞く士龍にしてみれば複雑であろう)
        (何しろ自ら模倣とさえ呼ぶ代物だ、それをそう言えるのはこの国でも数少ないのだろうが、知っているからには心から誇るのは難しいだろう)
        宴まで催して頂けるとは、感謝の極みでございます。しかし、大変失礼な物言いだとは思いますが…少々気が引けますね。
        (話に聞いている上に、道中のこの国の有り様を見ればおおいに飲んで食べてというのは何か悪い気がしてしまう)
        (土地は痩せてはいても貿易による富はあり、そこまで食うものには困らないのだろうが気分の問題だ)
        (目の前に居るのは儀丁でも屈指の貴人、その歓待を断ろう訳もないが、そんな言葉が出てきてしまう。ある意味では士龍に少々心を許した発言だ)
        (これが儀丁の他の貴人であれば己はただ黙して歓待を受け、その度合いによってこの国にとっての向江国の重要性を静かに測っていたろうから)
        -- 静次 2013-01-06 (日) 23:17:29
      • そのように仰って下さるのでしたら…ではごゆるりとお寛ぎ下さいませ
        (感謝を表すようにもう一度頭を下げれば、静次の複雑そうな言葉に首を横にふる)
        逆です お客人を心ゆくまで歓待するのがこの国の習わし そのように感じてしまわないように務めるのが当主である私の役目なのですが…
        (視線は自然に窓の外に向けられる あの日向江国で見た、目にも鮮やかな緑の数々に比べれば、雲泥の差とはこのことか)
        確かにこれを見てはどんな贅も色あせて見えましょう しかし鳳釵はそちらの歓待を受けた身
        ならば我が家がそちらを心より持て成すのは自然の理ではありませぬか 受けた恩を返さぬでは我が夏家の名折れ、どうか僅かな間だけでもお受け下さいませ
        (乱蔵の言葉も静次の言葉も純粋に嬉しかったが、やはり複雑な気持ちも湧いてでた この国の、この大陸の現状を知ればそれも止むなし しかし客人に気を遣わせる様ではいけない)
        宴の準備が整うまで、少し屋敷を回って見ますか? お疲れのようでしたらこのままお休み下さっても構いませぬが
        -- 士龍 2013-01-06 (日) 23:35:23
      • (首を振り、気遣わしげに話す士龍に、やはり少し言い過ぎたか、と反省する。彼も彼で感謝を感じてくれていたのだ)
        (だとするなら余す所なくそれを受けるのが礼儀であろう。と、ここに居る間は素直に世話になろう、と考えて)
        承知致しました。先の言葉は忘れて頂きたく思います(と礼を返すと共に、士龍の言葉にああ、と一つ相槌を上げ)
        間があるようでしたら、早速ではありますが…士龍殿にひとつ、ご相談を宜しいですか?
        (と、話を切り出す。今回の渡航に当って、事前に送った文に書いたのは夏家への訪問を行い国の視察を行いたい旨だけ)
        (今士龍に伝えようとしていることについて触れなかったのは、仮に士龍以外の人間の目に止まった際に問題が波及するのを避けたためだ)
        -- 静次 2013-01-07 (月) 00:13:59
      • (充分に辺りの気配を探り、使用人を含め人の気配が無いことを確認する。楊慎ほどの使い手が他にも潜んでいる可能性も考慮しつつ、入念に)
        (ある意味、これが本題でもあるが、このことは士龍以外の何者にも知られてはならない。あの護衛二人であれば問題はないのだろうが、万が一もある)
        …願わくば、士龍殿に協力を求めたい(その声は抑えて静かに。だが意思の籠もった言葉として赤毛男の口から発せられる)
        -- 乱蔵 2013-01-07 (月) 00:14:47
      • はい では心ゆくまでご堪能下されませ
        (お互いに妙な気遣いをしていては先に進めない ほっと安堵の溜息をつくも、すぐにその表情が硬くなる)
        相談、と申しますと?
        (彼らがここに来る目的は様々な意味があると、こちらも充分想像はついている 何より一番の目的が目的では、それも含めて呑気に宴を楽しめなかろうと思っていたのだが…)
        協力ですか…(潜められた声の調子に合わせるようにこちらも声を落とす 自然とその眼光は鋭くなり、口元固く結ばれた)
        鳳釵のことですね(先手を打ちながらも、彼らがどのような手段に出るのか心配になる 荒事ならば全力で止めたいが、可能な限りは手を結ぶつもりでいた)
        -- 士龍 2013-01-07 (月) 00:28:36
      • (士龍の言葉に、こちらも口元を固く結び、無言で頷いて答える。強制など出来る立場ではないが、聞いてもらえねばここから梃子でも動かないといった風に)
        出来うるならば…ホウサ殿との面会を求めたい。それが叶わなくば、せめて言葉を届けるだけでも(がらりと雰囲気の変わった士龍に、こちらも真剣そのものの瞳で言う)
        (心折れそうになっていた己に、彼女の言葉は再び立ち上がる力をくれた。なのであれば、己も苦しむ彼女に力をあげたい)
        (そして僅かなりともその支えになり、また出会う日への気力となって欲しい。そうしてこそ、また笑顔で微笑む日が訪れると願って)
        -- 乱蔵 2013-01-07 (月) 01:02:48
      • (こちらの法制度がどうなっているかの詳細は分からないが、罪の度合いによれど通常、受刑者には面会を行える権利がある)
        (もしそれが難しくとも手紙を出すことは可能なこともある。が、恐らく鳳釵の刑罰から考えうるに両者共に行うのは厳しいであろうことは想像がつく)
        (死罪ではないとはいえ、それにほぼ準ずるような厳しい罰だ。彼女が手紙を送れたのも、相当危ない橋を渡っていたのは間違いない)
        こちらも、出来ることは何でも行います。相応には準備をしてきました(そう言い、懐に収めた数々の符に意識を移す)
        -- 静次 2013-01-07 (月) 01:03:08
      • (目をつむり腕を組み、二人の声を耳にする その想いをひしひしと感じ取りながら、一人深く感動する)
        そこまでして…(そこまでして妹のことを 彼らにとって妹はそれほどかけがえ無い存在になっていたのか)
        今回の刑は外界とはほとんど干渉できません 唯一出来るとすれば日常的なものを送るだけしか…
        鳳釵の手紙も、きわどいながらも何とか交わせたことですが、二度も同じ手は使えぬでしょう
        (鳳釵のいる場所の特定は自分も不可能であった 唯一の接点が結べる場所も本来ならば自分が立ち入れる場所ではない)
        (それが出来たのは、多少力技ではあるが自分の術で無理やり押し進んだにすぎない)
        (恐らく自分はそれで二度と立ち入ることは出来ないだろう 次があるとは思えずああいう手段をとってしまったが、このような展開になるのならば早まったかと後悔した)
        接触の機会も難しいですが…一応そちらの準備の内容を伺っても宜しいですか?
        (彼らがどのような手段を用いるつもりだろうか 荒事はあちらも避けたいはずなら、やはり術の類か)
        (そう予想していれば、静次の注意が自身に向けられ、やはりかと確信した)
        -- 士龍 2013-01-07 (月) 23:53:15
      • (士龍の言葉を聞き、その内容を吟味する。手紙を送ることはやはりかなりの無理を押したようだ。となれば同じ手を使うのは危険だ)
        (同じ業を二度使えば見切られるように、罠を出し抜くのも同じ手を使えばそれだけ難易度は上がるのは当然の理)
        (ぐるりと頭を回し考えこんで)むう…日用品であれば送れなくはないのかの。では皿に一筆をしたためて紛れ込ませればどうかの?
        -- 乱蔵 2013-01-26 (土) 22:51:36
      • …それでは手紙を送っているのと同じではないか。いくら生活必需品とは言え検閲の手がまったく入らぬことは考えにくい。そうでしょう士龍殿。
        (もしそうなのであれば士龍も手紙のやり取り程度造作も無いことだったに違いない。水飲みに紙切れでも潜ませれば充分に可能なことだ)
        ならば…私の用意した準備は…、'これ'です(懐に手をやりながら言葉を続けて、引きぬく。その指先に挟まれているのは十数枚に及ぶ符)
        聞いていたな、ムジナ。お前の出番だ(ひとりでにずらりと扇のように開いたその一枚一枚は、似たようでいて全て違う、力ある言霊が記されており)
        (静次の令を受けてその中の一枚がひらりと指先から抜け落ちる。そして宙にて雲にも似た白煙を纏い床に落ちる頃には、そこに一匹の獣が現れていた)
        -- 静次 2013-01-26 (土) 22:52:07
      • ふう…。承知致しました静次様。何か物に化ければ宜しいのですね?(きびきびと答えて、まるで狭所から開放された猫のように全身を伸ばし目を細める)
        (役割によって形は違うものの、己は普段は符に封じられることは殆ど無い身だ。まかり間違っても静次の封は式に苦痛を与えないが、やはり気分が違う)
        -- ムジナ 2013-01-26 (土) 22:52:26
      • (静次の仕草を観察していれば、懐から取り出されたと同時に力を帯びた複数の符が確認できた)
        式ですか…(目の前で一枚の符が花びらのようにひらりと舞い落ちたと同時に、煙をあげたその中から一匹の獣が姿を表した)
        (变化の術を持った式というのは士龍の知識にも充分に入っている 連絡用・隠密用として使われる式ならばこのような小動物が確かに都合が良い)
        (しかし士龍の瞳から懸念の色は消えることはなかった せっかくの策だがあの小屋という名の牢屋内ではいささか力不足であるとその目が告げている)
        …私はあまり式の類は使いませんが、それでもある程度の数は扱えます
        この儀丁内では私よりももっと式の扱いに長けた人もおりましょう そしてもしその人達が何らかの重罪を犯し、同じ牢に入れられたとします
        …そういう者たちも想定してあの牢は使われております つまり、術力などで脱獄できないよう、術力自体を封印する作用や、術力の込められた道具などをはじき出す作用が
        (それさえ無ければ今まで士龍が何らかの力で干渉できただろう しかし残念ながらそれも全て無効とされてしまい、あのような手段を取ることしか出来なかったのだ)
        …申し訳ありませんが、その策を使うにはまだ不充分のようです ですがあなた方の使いならば、あの子の為にもなりましょう
        ぜひその式を使う為にも、もう少し時間を下さいませ(乱蔵・静次・ムジナを順に見つめ、そう言い終えて静かに頭を下げた)
        (彼らのご好意を無駄にしてはならない それは妹に対しての裏切りに他ならない)
        (だがどうすればいい どうすればこの式を無事あの牢の中に入れられるのか 思案に曇る顔もほんの一瞬だけで、士龍はすぐに立ち上がり、その場を後にした)
        (何か方法はあるはずだ 私の力で解決出来ぬのならば、誰か他の者の手を借りてはどうだ)
        (だがそんな人物がどこにいる 自分に友好的で危険も顧みず、こんな大それたことに手を貸してくれる人など…一体にどこに―)
        -- 士龍 2013-01-26 (土) 23:46:52
  • (もうどれくらい経ったのだろうか 数えても辛いだけだと悟り、どうにか今日と明日を乗り越えようと、ただひたすらそれだけを心に秘める)
    (この小屋の中には本当に何もなかった 現実逃避できるものが何もない せめて掃除はと思っていたが、全ての部屋は翌日になると綺麗に片付いていた)
    (何もさせてもらえないということが、これほど辛いことだとは思わなかった せめて何かをしていれば気も紛れようが、徹底してその何かを排除している)
    (気を抜けば意識が飛んでしまいそうになりながら、出来ることといったら椅子に座って物思いに耽ることぐらいであった)

    (思い出すのはやはり乱蔵と過ごした輝かしい日々ばかり 養成校の時のこと、共に暮らしていた部屋、彼の故郷の素晴らしさ そのほんの一部だけでも、涙が出るほどに美しかった)
    (彼と交わした言葉の一つ一つを思い出そうとする 彼と触れ合う肌の温かさを思い出そうとする 彼が与えてくれた愛情を、胸にしまったその全てを確かめようとする)
    (だが過去の出来事が幸せであればあるほど、現状の酷さかより深まるばかりであった 泣いても虚しいだけだと理解しているのに、毎日毎日涙が出ない日はなかった)
    (耐えよう それしかない 一生ここにいる訳ではない 一年我慢すればいい)
    (でも と己の腕を手で擦る 震える手に衣擦れの音が耳に響く)
    (果たして終わっても、昔の私のように過ごせるだろうか)
    (元の自分をもう思い出せない この苦しみを知らない自分にもうもう戻れない 私はこんなにも変わってしまった)
    (果たして再び乱蔵と相まみえたとしても、前のように笑い合えるのだろうか)
    -- 鳳釵 2012-12-23 (日) 21:44:51
    • (今日も夜が訪れる 虫の声が更に眠気を誘うも、歯を食いしばりながら堪えていた)
      (眠りたくない でも人間は眠らないと死んでしまう ならば意識が無くなるぎりぎりまで起きているのだ それならば悪夢に苦しむ回数は減るだろう)
      (たとえ悪夢の苦しみから逃れようとも、眠気を堪える苦しみもまた辛いものであった 何をするにも眠気が優先して何もしたくない だが眠りたくない その繰り返しのみで一日が終わる)
      (こんな状態で、私は生きていると言えるのだろうか 椅子の背もたれにぐたりと身体を委ねながら、やがて空は紫紺の色から黄金色の朝日が顔を出そうとしていた)

      (―やっと一日が過ぎた…― 朦朧とする意識でそれだけを実感しながら、のろのろと箱の前に移動する)
      (あと半刻で食事がやってくる だが箱の中にあるのは僅かな時間だけ 取りそびれたら食事は抜きになってしまう)
      (しかし移動速度も極端に落ちた身体では、事前に待機して置かないと間に合わない 箱にもたれかかりながらその時が来るまでじっとしていた)
      (やがて朝餉の時刻となり、箱を徐に開け、その動作のまま暫く固まっていた)
      (食事以外に何かが入っている)
      (取り出すと、それは紙と筆であった 筆の先には木製の蓋がしてあり、開けると既に墨で黒く染まっていた)
      (紙にも既に文が記されている 朧気な意識だが何とかそれを読み取ることが出来た)

      (『後日立つ』)
      -- 鳳釵 2012-12-23 (日) 22:13:59
      • (それは昔から見慣れていた兄の手蹟であったと理解した時、様々な感情が爆発しそうになった)
        (後日立つということは、兄が向江国に行くということに違いない それ以外でわざわざこうして伝言を残すことなどしないだろう)
        (外部のものとの交流も不可能だと言われていた この手紙を送ることもきっと難儀をしたことだろう)
        (しかしその為だけではない 兄が私の言葉を欲しがっている のんびりしている時間はない 兄が今いる場所を想定すれば、きっと早く立ち去らなければならないはずだ)
        (向江国へ、彼らに伝える言葉を書かなければ)
        (辛い苦しい悲しい痛い辛い怖い辛い 辛い辛い辛い辛い辛い辛い)
        (考えはぐるぐると周る 喉元まで出かかる感情の嵐をこの紙に綴りたい 兄に対しても 彼に対しても)
        (荒い息を吐きながら、筆を持つ手が震えて何度も取り落とす 紙に向かって書こうとするも、ぶるぶると震えて定まらない)
        (ここは嫌だ もう嫌だ 貴方の元へ帰りたい 貴方の胸の中で眠り続けたい 貴方と触れ合いたい もう二度と離れたくない)

        (どれほどの時が経ったのかも判らない それでも僅かに残った気力を振り絞りながら、紙にサラサラと文字を落とす そして何度もその一文を眺めていた)
        (やがて箱の中にそれを収めたあと、箱はバタンと勝手に閉じられた 食器の回収時間が来たのだ 結局朝餉は食べられなかったが、今日は別の意味でもう食欲も湧かなかった)

        らんぞー君…(閉じられた蓋を見つめ、自分の書いた紙が無事彼に渡ることを切に祈う)
        私…頑張るからね(私の願いはその手紙に全て込めた その為にも私は挫ける訳にはいかない)
        (―たとえ変わってしまっても、彼ならばきっと……―そう心に誓った瞬間、その瞳には僅かに炎が宿っていた)
        (それは赤く力強く、愛しい人の髪の色に似ていた)
        -- 鳳釵 2012-12-23 (日) 22:18:05
  • (兄から刑のことを聞いて丁度一週間後 訪れたのは遠い遠い山の奥にある一軒の小屋であった)
    (森と言っても州邑に緑豊かな大地というのは極わずかしかない その地も寺などの神聖なる場所だけだ 後はまばらではあるがほどほどに緑のある地だけであった)
    (州邑には山が多い 広大な大地の四割が山である 昔はもっと多かったそうだが、山を崩して海を埋め立て立地を確保する国が増え、現状は更に荒れた大地が広がる事になった)
    (豊富な海産物が取れる海を狭め、何故わざわざ荒廃の大地を広げたのか、その理由を知るものは少ない)

    (目隠しをされ荷車に乗って随分と移動した このままどこか遠くの場所で暗殺されるのではと警戒していたが、着いた先が平凡な小屋なので拍子抜けしてしまったのは言うまでもない)
    (しかし周りの深い森の風景と、殺風景すぎる木造の小屋の中を見て、徐々に胸騒ぎを覚えていった)
    (簡素な安物の寝台と小さな机と椅子 飾りなど尽く撤去されたのか、むき出しの木造物は何の温かみも与えなかった 机の上には大きめな水差しと湯のみが既に置かれている)
    (寝室と居間は一緒 後は湯浴み場と厠だけ そこに最初の違和感を覚えた)
    (―水場がない―)
    (乱蔵と共に暮らしていた時、そこはある意味自分の空間出会った 彼はあまり料理をしなかった為、そこはほとんど自分が使っていたものだ)
    (身近すぎるほどの空間が、この小屋にはなかった これでは食事はどうするのだろう まさか誰かか毎日運んでくるのだろうか)
    (鳳釵の疑問をすぐに察したのか、供していた執行人が、部屋の隅にある一つの箱を指さした)
    -- 鳳釵 2012-12-10 (月) 22:18:15
    • (あまりの違和感さに、逆に目に入らなかったようだ 赤い生地に金の縁取りをされた、両手を回して丁度くらいの少し大きめの箱が置かれてあった 無機質な部屋とは対照的な装飾が更に違和感を増している)
      (どうやらこの箱から必要なものが出てくるようだ 食事は決まった時間にこの箱の中に入っており、使った食器はまた箱に戻せばいいと言われた)
      (湯浴み場のお湯も規定の時間になれば満たされるそうだ 厠の水は定期的に流れているらしい)
      (水差しも空になればあの箱の中に戻せばすぐに満たされて戻ってくるようだ)
      (術に疎い鳳釵にもようやく理解できた あの箱自体に術が施されているのだ 使用しているのは空間を司る式なのだろう)
      (空間を操る術には転移や縮歩といったものがある 要は距離という概念を取っ払った術だ 繋げたい箇所に受け手と送り手を置いておけば光の早さで物質を転送できる)
      …服も?(箪笥もないのではこのまま着たきりスズメという事になる 罪人の立場ではあるが、それは流石にあんまりだと抗議したくなった)
      (だがそれもこの箱から毎日服が送られてるので何の問題もないという それでも、何か必要なものがあった場合、どうやって連絡すれば良いのかと訊ねる)
      (執行人の瞳が少し細められた 罪人がどこに連絡をするというのか なんの為の禁固刑かとその目が非難しているのが良く判る)
      (基本的には何も望まない それでも何が起こるか判らないから、連絡手段だけでもと懇願すれば、上に検討してもらうと返されただけであった)
      (あまり期待しないほうが良いかもしれない 諦め、視線を外して改めて中を見回した)
      (同じ木造建築でも、ここまで違うのかと愕然とする 乱蔵の屋敷の温かい木の温もりが恋しかった 一番恋しいのはもちろん彼の温もりであったが)
      (やがて鳳釵を置いて全てのものがその場から立ち去り、完全に一人きりとなってしまった)
      (森の中だというのに鳥の声もあまりしない 向江国の森の中の煌くような木樹の眩しさや美しい鳥の鳴き声が懐かしい)
      (あの森が生で溢れていたのなら、ここは死の森だと言われても信じてしまいそうだった)

      (―こんな所に一年も…―)

      (そこまで考え、首を横に降った 命があっただけまだマシだ 過酷な奉仕作業を与えられた訳でもない たかが一年この小屋にいるだけだ むしろ減刑とみていいだろう)
      (早くこの刑を終えて、本格的に向江国との交流を深める為に兄に進言しよう)
      (そうすればもう一度会える 必ず会ってみせる 彼の為に私はここで頑張らなければ)

      (だが彼女は自分の考えが実に愚かだったと、初日の夜から思い知らされた)
      -- 鳳釵 2012-12-10 (月) 22:33:53
      • (最初、自分がようやく目を覚ましていることに気づいたのは、実際に目覚めて数分後のことであった)
        (喉が痛いほどヒリヒリする 口の端も開きすぎて血が滲んでいた)
        (自分はどうやら、ずっと叫んでいたようだ)

        (何か恐ろしい夢を見たらしい らしいというのはそれが全く覚えていないからだ だがこの体や心に刻みつけられた生々しい恐怖は、波が引いていくようにゆっくりとしか薄れていってくれない)
        (青ざめた顔で窓から差し込む月明かりの中、そろそろと机に向かって水差しから湯のみへと水を注ぎ、そして一気にそれをあおった)
        (ゆっくりと飲んでいれば、震える手によって水が溢れてしまいそうだからだ)
        (覚えていなくて本当に良かった…覚えていればきっとこれ以上の恐怖だっただろう 深く深くため息をついて、椅子を引き寄せ腰掛ける)
        (もう今日は眠れそうにない このまま起きて朝を迎えてしまおうか どうせ明日が来ても何もすることはないのだ 眠くなったら昼寝をしてしまえばいい)

        (顔をゆっくり上げた先に、窓から月が見える 藍色の空に浮かぶ白い三日月は、他国で学んだ死神のカマのようにも見えた)
        (…あの人がいないと、月もそんな風にしか見えない 共に見た月の美しさは、やっぱりあの人がもたらしてくれたものだったのか)
        (会いたい気持ちが更に膨れ上がり、涙が滲み落ちそうになるのをこらえ、勢いをつけて首を左右に振った)
        (初日からこんな事でどうする 気をしっかり持って置かなければ、この先とても保っていられはしまい)

        ―何があろうと、気をしっかり持つのだぞ―

        (ここに来る前、最後に会った兄の声が呼び起こされた 姉はともかく結局父とも会うことが叶わなかったが、それも含めて兄は一層親身に自分を励ましてくれた)
        (兄の期待に応える為にも、自分はこの刑を乗り越えなくてはならない)
        (兄は見事に試練を乗り越えた 私の試練はまさに今なのだ 絶対に乗り越えて見せる 私たちの未来の為に)
        (あんな悪夢を見たのは、きっと慣れない場所にきた不安からだろう 罪人として閉じ込められた恐怖が呼び起こしたにすぎない ならば早く慣れてしまえば)
        (誰もいないというのは、逆に煩わしさもないということだ 何もない部屋だがそれでも探せば何かあるかもしれない)
        (そうと決まれば明日から探してみよう 何かやることを見つければ不安も紛れていくことだろう)
        -- 鳳釵 2012-12-10 (月) 22:55:35
      • (しかし彼女の認識は甘かった)
        (初日は不安からくるものだと思った 二日目はまだ慣れていないからだと思った)
        (だが三日目、四日目 果ては一週間と続けば、流石の彼女もおかしいことに気づいた)
        (寝ても悪夢のせいですぐ目覚めてしまう為、まとまった睡眠が取れずに徐々に食欲も落ちいていき、次いで身体に力が入らなくなってくる)

        (―これは…何?―)

        (壁にもたれかかるようにぐったりと座っている姿は、既にやつれているのが目に見えて判る)
        (目の下の隈は言うに及ばず、食が細くなったせいか、肌や髪のツヤが少しかすれていた)
        (眠りたいのに眠りたくないという心理状況により、睡眠以外のことを考える余力があまりない 何かしようと思っても、睡眠不足の脳と身体では何をするにも億劫になっていた)
        (それでも湯浴みをかかさないのは女性としての最後の一線か しかしその行為はゆっくりとやせ細る自分の身体を直視してしまう事により逆効果であった)
        (食欲はないが無理やり飲み込むことにより、消化が悪くなり体調も悪くなっていく だが不思議と頭痛や腹痛といった症状や、風邪などによる病気にかかることはなかった)

        (病気にならないのは有難かったが、それでもこの悪夢を何とかする方法が思い浮かばない 眠りたくないと思っていても、身体は睡眠を求めて眠りについてしまうのだ)
        (不眠症の人間が何日も寝ていないというが、あれは実際には無意識の内に眠っているのである 鳳釵も意識して眠らないようにしているが、それでも一瞬の緊張の緩みにより、脳が眠りに入ってしまう)
        (そしてすぐに悪夢によって叫び起こされ、恐怖に身を縮める日々が毎日続いた)
        (私は許されてはいなかった ただの禁固刑ではない これはこういう刑罰なのだ)
        (たとえ記憶になくとも恐怖の渦に叩き落され、もがくように這い上がる思いなど一度で充分だ)
        (しかし実際には毎日続いている きっと刑が終わるまでこれは続くのだろう この苦しみを味わうことが、私の贖罪なのだ)

        (―こんな所に一年も…―)

        (ここに来た時と同じ言葉を心中で吐いたが、その思いは雲泥の差であった 今思えばそんなちっぽけな事に絶望していた自分が腹ただしい)
        (私…このままじゃ、どうなってしまうの?)
        らんぞー君……(救いを求めたのか、希望を求めたのか、最愛の人の名を何度も何度も呟いた ここに来て、一ヶ月の頃であった)
        -- 鳳釵 2012-12-10 (月) 23:18:18
  • (静かな夜がまたやってくる 兄の仕事が終わり、自分の話しを聞きに訪れる時間もそろそろだ)
    (暫くの後、かつかつと廊下を渡る音が静寂の屋敷の中に響き渡る 用意しておいたお茶の準備をし、朱色の扉より来訪する兄に向かって、薄闇の中微笑んだ)
    お疲れ様 おにい…兄様(言い直しながら、一度目のお湯を捨て、再度お湯を注いで暫く蒸らし、小さな湯のみにお茶を注ぐ 琥珀色のお茶からは爽やかな香りが漂ってきた)
    -- 鳳釵 2012-11-30 (金) 21:51:58
    • (転移の術を身につけている為、移動にはさして苦労はないが、こうも毎日行き来するというのも落ち着かないものだ だが屋敷で静かに待つ妹を思えば、そんな考えはすぐに消し去った)
      (入る前から部屋の中の気配を感じる 士龍は武人ではないが武人の心得は持っている 足の捌き方から気配の読み取りまで父や姉に徹底的に仕込まれたおかげだ)
      (扉を開けると少し明かりを落とした宵闇の中、これまた鮮やかな朱の衣を来た妹が、お茶を用意して待っていてくれた)
      (その姿に一瞬目を奪われる 兄弟の中で一番母に似たのはこの妹だった 暗くなるまで勉学に励み、湯浴みをして部屋に戻れば、母はこうして温かい茶を用意しながら就寝の準備を整えていた)
      (これで結婚し妻となり母となれば、ますますその母性の輝きは増すばかりだろう それが叶う日は果たしていつの日か)
      どちらでも構わないよ(軽く笑いながら席につく この鼻孔をくすぐる爽快な香りを楽しみ、一口口にすれば舌に広がるのは甘さであった)
      美味いな 甜茶か 一日の終わりには甘いものがほしくなるな それにしても鳳釵がお茶を淹れられるようになるとは、少しは成長できたようだな
      (そう言って今度は先取よりも高らかに笑ったが、目の前の妹から睨まれすぐにその笑いを収めた)
      -- 士龍 2012-11-30 (金) 21:52:21
      • (同じく甜茶の甘さを楽しんでいれば、兄の余計な一言に思わずむっとしてじろりと睨みつける)お茶なら家出る前にも淹れられてたもん!
        (姉がもしこの切り返しを見ていれば、だからお前はまだ子供なんだと嗜めたことだろう 気を取り直して昨日の続きを再開する どこまで行ったか少し思い出しながら)
        えぇっ…と 向江国の様子から、だったっけ? 周りの国とは地理的に戦を仕掛けられることもなければ、こちらから仕掛けることもないんで、すごく平和だったよ
        春だったからお花も緑も凄く綺麗で、特に凄いのはやっぱりあの御神木!(身振り手振りでその壮大さ、雄大さ、絶景さを物語る)
        (その激しさを見ても決して誇大に言っているのではない事は、まだ目にしていない士龍にも充分理解できたことだろう)
        -- 鳳釵 2012-11-30 (金) 21:52:39
      • (妹の話しを聞きながら、その言葉の端々の無意識の一言も聞き逃すことはなかった 妹にとっては気に留めないことであっても、自分には大きな収穫となる事もありえるのだ)
        (しかし妹の話だけでは不充分すぎる やはり現地の調査に長けた者を派遣できれば)
        ……もし、お前の名を出せば、例えば私でもその国に歓迎されるだろうか
        (半ばそう願いを込めてぽつりと呟く 派遣できるものでも誰でも良いという訳ではないだろう 向江国が親しんでいるのは鳳釵なのだ ならば鳳釵に親しい一族の誰かが行くのが適切ではないか)
        (…誰か適切な者をと試行錯誤を繰り返し、最終的にはやはり自分が一番都合が良いのではと到達する 実兄であれば少しは警戒も解かれるだろうし、一応これでも上位の人間だ 失礼には当たるまい)
        -- 士龍 2012-11-30 (金) 21:53:23
      • (向江国の緑豊かさ、人々の穏やかさ温かさ、食べ物の美味さなどをひとしきり話し終えた後、小さく呟く兄の言葉に一瞬きょとんとした顔になったかと思えば、すぐに目を輝かせて身を乗り出した)
        行ってくれるの!? お兄ちゃんが!?(うっかりまた昔の口調に戻っていたがそんなことはもうどうでも良かった まずは第一の目標である向江国に大きな関心を持たせることは出来たようだ)
        (そこは特に難しいとは思っていなかった 向江国はあの御神木がある この州邑ならばその御神木の素晴らしさを知れば居ても立ってもいられなくなることだろうし、それに兄ならば自分よりも以前から知っていたことだろう)
        (だが兄自ら赴くとは思っていなかった 誰か外交に適した者を数名選んで派遣しながら様子を見ると思っていたのだが、これは思わぬ収穫だ)
        じゃあ、手紙とか渡してもいい? 秋津家の人たちには本当にお世話になったの 無事に故郷についた事とかを知らせたいの
        (そして何よりも一番に、彼の元へ自分の安否を届けたい 私は大丈夫だからと言葉だけでも彼の元へ届けたかった)
        -- 鳳釵 2012-11-30 (金) 21:54:15
      • (興奮冷めやらぬ妹を黙って片手で制止させ、お茶をまた一口飲む こくりと飲み込む音が静寂に満ちた部屋にこだまするようだった)
        もちろん、お前がご厄介になった御礼は充分にさせてもらうつもりだ だがお前はその前にやらなければならない事がある それは判っているだろう?
        (静かな口調で穏やかに語りかけるが、これから話し合い内容はとても穏やかとは程遠いものだった)
        (闇の中でも判る青ざめた妹の顔に胸が痛む 実の妹に対し、罰を下さなければならない己が忌まわしい)
        お前には一年間の禁固刑が言い渡された 所定の場所に赴きそこで一年間誰にも会わず、一歩も外に出てはならない 出れば罪は更に重くなると思いなさい
        -- 士龍 2012-11-30 (金) 21:54:44
  • (深夜、明かりの下で積み重なりすぎた本が長い長い影を作る それに構わず士龍は東国の関連する書物を読んでいた)
    (鳳釵の語る話はにわかには信じがたいものがあり、確認を込めて改めて東国にある向江国の情報を事細かに集めていた所だった)
    (かの国へはしばしば貿易と言う名の交流もあるが、それは国全体ではなくごくごく一部の一族との取引だ おおっぴらに貿易を行なっては他の周辺諸国が警戒してしまう)
    (なにせ儀丁が行う取引は、茶器や織物、装飾品といったものから、鉱物や武具類なども取り扱っている 大々的にそんなものを取引しては、すわ戦かと周りが色めきだってしまう)
    (それに向江国はよその国と争うことはない 戦いがあるとすればそれは人に害をなす人外の者であった)
    (故に取引に使われる物も特殊な力を込めた物が多かったが、力を誤れば充分に危険なものも含まれていた)

    (向江国の御神木のことも知っている もといあの存在が我が国にどれほどの実りを授けてくれるのか、想像すらも出来ない)
    (あの樹に目をつけないものはいなかった しかし手を出してしまっては、それはすなわち東国に侵略行為を行うという事 それは避けなければならない)
    (州邑でも海にほど近い国は、近隣の大陸とは一触即発の危機に陥ることもしばしばであったが、儀丁の相手は件の東国であった)
    (海を挟んで領海を侵略した、されたの小競り合いが幾度かあったが、それも全て何とか沈静化している お互いの国はなるべくなら争いは避けたいのだ)
    (なにせ儀丁の後ろには、いつこちらに牙を向くか分からない国がいくつかあり、相手の国は州邑でしか取れない貴重品を手に入れ、独自の財産を築いている、東国でも特殊な国なのである)
    (お互いの利益の為にも、争いなどもっての他であった)

    (取引先を増やしたいのはやまやまだが、下手に接触し相手を刺激するべきではない)
    (ましてや向江国のような神域のある国では、尚更触れると痛いしっぺ返しを食らうやもしれない)
    (東国はこちらとはまた独自の神聖なるものを大事にする民だ 州邑の人間はその領域の緑豊かな大地を、ただ指を加えて見ているしかなかった)

    (だが それに触れる機会が、向こうから訪れた)

    (好機逸すべからず 震える手が本を揺らし文字が少し読みづらくなる だがそれを気にかけるだけの意識はそこにはなかった あるのは頭の中で繰り広がる様々な計算だ)
    (この好機をどう対処するべきか 思いも寄らぬ事態だが、今こそわが手腕を振るう時ではないか)
    (しかし懸念もあった 鳳釵は人当たりが良い だからこそ向江国の人たちとも、その秋津乱蔵という御仁とも難なく付き合えたのだろう)
    (だが、私相手では果たしてどうだろうか)
    -- 士龍? 2012-11-29 (木) 22:38:57
  • (波の音が近い)
    (港の街のとある宿屋の一室 返事を待ちながら鳳釵はじっと窓の風景を眺めていた)
    (夏の海は空よりも濃厚な青さをたたえ、商業用の船から個人用の船までずらりと並んでは次々と離着岸を繰り返している)
    (あのどれか数隻が故郷への乗り継ぎ船かと思うと複雑な気持ちになった)

    (やがて手紙が来たとの知らせに席を立ち、手紙の中身を拝見する 兄の筆跡だった すぐに迎えの船を寄越すとのこと)
    (中身を確認した後すぐに手紙を燃やして今日はそのまままた一晩泊まった)
    (明朝早くより数人の迎えが訪れる 内一人は兄だった)
    (数年経っても兄の様子は変わっていない いや、少し焦燥感を感じさせる表情をしていた)
    (対して自分は結構変わったようで、一目見た兄は一瞬目を見開き、すぐに気を取り直して迎えの船へと促し港を去る)
    (こうして完全に、彼の故郷のある東国の地を離れたのだった)
    -- 鳳釵 2012-11-28 (水) 21:19:41
    • (妹を伴い、儀丁の国の端、夏家の別荘まで移動する 堂々と自家に入れないのは、表向き妹は現在病の身で療養の為によそで暮らしていることとなっているからだ)
      (まさか夏家の人間が無断で国を、大陸を出ていったなどと公言は出来まい 感づいている人間はちらほらいるが直接言う人間はいないのはどう言った腹積もりか)
      (家を出て一度も連絡も無く、このまま帰ってこないのかもしれないと思っていた矢先、妹からの思わぬ手紙を秘密裏に渡され驚愕したのは仕方ないことだろう)
      (妹の身が安全であったことにまず安堵したと共に、何事か起こったからの連絡かと深刻な面持ちで中身を確認すれば、故郷に帰るので迎えの船がほしいということだった)
      (それも仕方ないことだった 現在鳳釵はまだ儀丁にいる事になっているからだ 手続きを取っては色々厄介なことになる)
      (正規の手続きが取れない場合を見越して、上の位の物は各々の家でこうして隠密の連絡を取る手段を持っているのだ)

      疲れただろう 今日はひとまず休みなさい(いたわりの言葉をかけながら、日当たりの良い場所へ案内する ここは昔家族で来た際、鳳釵が選んだのと同じ部屋であった)
      (赤の基調になるべく明るい色合いの家具がこじんまりと並んでいる ごちゃごちゃした飾り付けは夏家の家には合わない 昔と変わらぬその部屋に、鳳釵も少し安心したようだった)
      色々と聞くこともあるが、それはまた明日にしよう まだ万全ではないのなら一週間後にしようか?
      (なるべく穏やかに提案していたが、内心憂鬱さで溢れそうだった 妹が帰ってきたということは 彼女は罰を甘んじて受けるということなのだろう)
      (鳳釵が帰ってくることを、慶季渓に嫁いだ姉にも連絡を入れたが、帰ってきた返事は直球であった『厳罰に処すべき』)
      (脱国の罰ならばどれほど過酷なものなのだろうか 妹も具体的には知らないまでも、軽いものではないのは理解しているだろう)
      (その内心が漏れてしまったのか、目の前で寝台に腰掛けて大人しくしていた鳳釵が、困ったような申し訳ないような顔でこちらを見ていることにようやく気づいた)

      大丈夫だから(厳罰ではあっても処刑などはない 最悪そんな判決が降ろうとも自分の全てをもって不問にする 身内贔屓だと言われようとも、妹は殺されるほどの罪を犯してはいないのだ)
      (仮に自分が脱国したとすれば、その可能性も高まるだろう 自分は国の重臣として様々な内情を知っている だが妹はほとんど何も知らないのだ 教えていなかったのもあるし、教える前に出ていってしまったのだから)
      -- 士龍 2012-11-28 (水) 21:20:05
      • (船を乗り継いで再び故郷の大陸に足を踏み入れた瞬間、感極まり思わず泣きそうになったのは自分でも驚いた どんな事があろうとも、やはり自分は故郷が恋しかったのだろう 再び戻れた事に、心から歓喜していた)
        (そのまま向かった先は儀丁の都にある夏家の屋敷ではなく、別荘として昔何度か訪れた場所であった それも想定していた為、すんなりと受け入れる 舗装された場所を馬で乗り継ぎ、深い森の中に立てられた見覚えのある屋敷を目に、周りの風景も観察する)
        (変わっていない 出ていった時と今の風景は何一つ変わっていない 今は緑があるが、少し行けば荒野が広がる荒れた大地 あの向江国のどこまでも広がる緑とは雲泥の差だった)
        (別荘に到着し、昔使っていた部屋へと通される 綺麗に掃除がしてあり、机や椅子、窓の枠や棚が、綺麗な赤い色の部屋が子供の頃から好きだった)
        (寝台に腰掛けると、兄は目の前に移動し二言三言言葉をかける これも昔から変わらない、相手を落ち着かせる声音にまた安堵する)

        (だが、兄の表情の冴えなさに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった)

        (きっと自分が出ていった後、必死に処理してきたことだろう ただでさえ立場上目立ったことをしては命取りとなるのに 自分のせいで随分迷惑をかけてしまった)
        (兄だけではない、父にも、姉にも、私は償いきれない罪を犯してしまった)
        (大丈夫だからというその一言に、薄く微笑んで、うんと一言応えるだけしか出来ない 少しでも罪を償えるのならば、どんな罰でも甘んじて受けよう)
        (だがその前に、聞いてもらいたいことがある)
        …お兄ちゃん 聞いてほしいことがあるの
        私、儀丁を離れて色んな場所に行って、色んな人と出会ったの みんな良い人たちでね 私、本当にお世話になったの
        (そこで一旦言葉を止め、暫しの沈黙の後再び口を開いた)
        その内の一人のことで…どうしても聞いてほしいことがあるの 罰を受ける前に どうしても
        -- 鳳釵 2012-11-28 (水) 21:20:35
      • (妹の口が開けば、静かにそれを聞いていた 聞き返したりせずに彼女の言い分をひとまず全て聞くために)
        そうか…機会があればぜひ御礼をしたいのだが、世界中にいるとなると大変だな(軽く笑いながらも、次の言葉に片眉が少し持ち上がる)
        その人と何か約束をしたのか? すぐに入用ならば聞くが…今はとりあえず休みなさい 罰は下るとしてもその前にまだまだ時間があるのだからな
        (何事だろうか 何か大切な約束をしたのだろうか それとも思い出話を聞かせたいだけなのだろうか それにしても深刻な顔だ、ならばただの思い出話とはいかないだろう)
        (だがそれも全て、ひとまず休養を取ってからにせねば 朦朧とした意識では出来ることも出来はしまい)
        (湯浴みをし、食事を取らせ、今夜は休ませることにした 明日にまた聞けば良い だが問題は、一日で終わるような話ではないと、薄々とだが感づいてはいた…)
        -- 士龍 2012-11-28 (水) 21:20:52

Last-modified: 2013-03-11 Mon 23:45:09 JST (4152d)