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| | 彼は斯くして彼女になった
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- (某所で交わされた会話より抜粋)
- …アタシと、歳の離れたアタシの妹は全身の力をゆっくりとゆっくりと奪われて死ぬ「血の呪い」にかかっていたの。アタシは必死に戦ったわ。解呪のできる聖者を探して飛び回り、奪われる力を補うように体を鍛えた。呪われた血を半分捨てて、親族の血を輸血して薄めることも試した。アタシが呪いを克服できれば、妹もきっと…ってガムシャラになってね
でも新しい血を体に入れてもすぐに呪われた血に穢されてしまうし、古い邪神のものらしい呪いは解呪が難しくて…聖者のアテも尽き、進行を遅らせる程度にしかならなかった筋肉はいつか重く纏わりつく枷になり…とうとうアタシは旅先の宿で起き上がることさえ出来なくなったの その時にはもう妹もこの世に居なかったから…アタシは全てを観念して呪いが心臓を止める時を待っていたわ。最初から全てを諦めて、せめて妹のそばに居てやるんだった…って後悔しながらね
- 瞼を動かすのも億劫になった頃よ。アタシの噂を聞いたって、宿に一人の魔法使いが訪ねてきたの。アタシを助けられるかもしれないって。その方法は、アタシの血を…いいえ、涙に至るまで一滴残らず全ての水分を「血の代用をする液状の魔物」と置き換えること。それをしてなお、呪いが魔物をも侵すかもしれないし…弱りきったアタシが魔物を受け止めきれずに終わるかもしれない。賭けだったわ
アタシはもう戦いたくなかった。呪いにばかりか魔物にまで身を穢されて、それでも死ぬかもしれないのなら…生き延びても、魔物と半ば一つになって今と異なる自分へと変わってしまうなら…運命を受け入れたアタシのまま、妹のことを考えながら死ぬほうがいいって。重い息の下からそう言ったの 魔法使いのほうも、宿主になる人間がそれでは試すまでもなく魔物を飼い慣らすことはできないだろう…って、諦めたみたいに言ったわ …ね?似てるでしょ。アタシたち(再び言葉を切って、静かに微笑む) そうそう、結局呪いは克服できたのか。だったわね(促され、話を続ける)…魔法使いが去ろうとしたとき、アタシ妹の言葉を思い出したの 旅立つアタシを送り出すとき「いつか呪いを克服したら色んな国を旅したい」って、「同じような悩みで困っている人が居たら力になってあげたい」って、言ってたわ それでアタシは、それまでのアタシであることを辞めたの。妹のぶんまで生きたくなって(どこか照れたような顔で笑って) 郷里にはダリオって男のお墓が建ってるわ。アタシは今のアタシになって、妹の代わりに世界をフラフラと旅してるの。これで、姐さんのお話はお終い(どっとはらい。と手を振る仕草)
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