冒険中/446130?
- 服装について指摘される。男の子の心理がよく分からない。悩む。
スカートの防壁の甘さのほうが、私にとっては気になるところなんだけれど。見せたくないものを隠すための物としては、防御性能は低いと思う。
- 弟の部屋から女の子の声と、にゃんにゃん言う弟の声が聞こえてくる。
……………ハル本当に将来大丈夫だろうか。
- 下着が飛んでいった。しかも拾われてしまったらしい。さらには届けて来られて、流石に赤面してしまった。不覚。
17にもなって何を小娘のような反応を、と自分で思う。 それにしても何かしらの陰謀を感じてしまう。流石に下着は無用心に外から目に付かないところで干しているのに、何故? ……派手なものではなく普通の上下非セットの下着でよかったと思うし、そのせいで気づかなかったことは悪いとも言える。
- それに加えてハロルトに色々と生意気にも心配をされてしまう。
無用心な姉への逆説的な巣立ちの表現だろうか?なんにせよ精神的な成熟の表れならば姉としては嬉しい成長である。 ただ、流石に行き遅れの可能性にまで心配されてしまうとは思わなかった。昔からあまり恋や愛だのの話をハロルトにしたりしなかったからだろう。 異性に声を掛けられること事態は少ないとは言わないけれど、あまりそういう一過性の気持ちに答えようと思うほど、切迫しているわけでもないだけ、という言い訳染みたことを書いておこう。 負け惜しみではない。
- まあ、遅まきながら去年、16にして初の失恋も体験したことだし、弟を安心させるために男の子の一人や二人、
関係が恋愛に発展しなくても仲良くしているところをみせておくべきかな、と思ったりもする。学校で男子に声かけてみよう。
- そういえば、最近弟の部屋へ入っていくエキセントリックな子がいる。
刺激しないように話題には出してはいないのだけど、中々に可愛い子を連れ込んでいるのだなと姉心で部屋の中を覗いてみた。 ……どうも、弟には女の子の心を察する力が足りないように思えてしまう。それどころじゃないんだろうけど、あれは……流石に……。 ただ、それを姉としてどうにかできるとは到底思えないし、場合によっては更に距離を置かれてしまう可能性や、 その子との仲にも水を注しかねないので、のほほんと見守ることにしよう。 たまには姉をお休みしてもいいはずだろうし。
- ……早いとこ、私も彼氏を造ろうと思う。
今度実家に帰ったときにでも、母と父の馴れ初めでも聞いてみようと思う。 多分苦々しい顔をして、それでも真剣に悩んでいる娘の言葉には答えてくれる両親だと、信じているから。
- G.A 187/2/14 Rhythm
- ハロルトの話をしようと思う。
私が語るのは、多分お門違いだと、また弟を怒らせることになるであろうことは容易に想像がつくけれど。 -- リズム
- 一歳違いの弟を生んだ両親の思惑は、私の推し量るところではないと思ってはいる。
どんな思惑があれど、弟という存在が私に齎した幸福は、目的ではなく結果であるべきだと思うから。
ともあれ、私が自我を自覚した頃には既にハロルトという名前の弟は傍にいたし、多分これからも居続けるのであるとは思う。 弟がどう思おうが、弟にどう思われようが、私がハロルト・デューラーの姉であることは、揺るぎない事実であるから。
- それなりに幸福な家庭であったと、私は少なくとも自覚している。
父、ウルリヒ・デューラーは寡黙で、特に幸福を演出する「良き父」ではなく、 母リッツ・デューラーもまたそれに追従するのみの「母」ではあったけれど、私自身は両親と不仲だった覚えもないし、 何よりそういった整然とした家庭の形の中に、綻びのように生まれる笑顔というのは、それなりに味わい深かったと思う。 何より、私にとっては父が母を、母が父を愛していることが伝わってくることが、何よりも自分の支えとなった。 子は鎹というが、鎹は扉とドアの距離が近くなくては機能しない。そういう意味では、父と母は適度な距離感で夫婦だったと、娘の私は偉そうにも品評するのである。
- ただ、ハロルトと、父ウルリヒの仲は険悪とまでは行かないが、それなりに姉として娘として思うことはあった。
父の蔵書の中にエディプスコンプレックスについての本も存在していたので、思春期の息子が父親を憎む感情というのは私も理解できているつもりだ。 でも、ハロルトと父への感情は、少しだけそれを逸脱した感情であったとも、私は思う。
弟は、先天的な病を患っていた。 病というのは不適当だろう。それは正常に作用しなかった力の発露であったのだろうし。 ポリモーフ、Polymorph。その詳しくを父に聞いたことはない。明確なルールを持たない我が家の中で、それを暗黙にしておくことが唯一のルールであったように思えるから。 弟は、その力の発露に悩まされていた。
- その力の本質は、体組織を別の形に変容させることにあるらしい。
父はその力によって、死地より戻ったのだと、母は珍しく寂しげに俯いて笑い私に語った。 良く泣き、表情の曇りがちな母が、本当に喋りたくないときは「笑う」ことを知っていたので、二度とその話題を出すことはなかったけれど。
父が受動的に生命の危機によって顕現するその力は、弟にとってはいつ発動するか分からない時限爆弾となっていた。 刃物も、切りたいときにだけ鞘から抜ければ便利な道具であるが、常に抜き身であればそれはただの凶器でしかない。 故にハロルトはこの力を忌み、力の原因となった父親を忌み、疎んだ。 多分始まりは、そんなところではなかっただろうかと、私は思う。
- 多分。
私が語るのはお門違いだと、また弟を怒らせることになるであろうことは容易に想像がつくけれど。
学園という庭を通じて、弟に変化があること。 そして私の行く先に、弟の苦難を乗り越えるための助力となる何かがあることを祈り、今日も眠りにつくのである。
- G.A 186/10/1 Rhythm
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