日記の終わり † 
さかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなとりさかなさかな
とりさかなさかなさかなさかなさかなさかなとりさかなとりとりさかなさかなさかな
さかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかなさかな
（以下日記の最後までさかなと稀にとりがびっしり書かれている）
日記の終盤 †
私が私として記せる最後のページをここに記す。
今日の絶叫回数21回、最高記録を更新だ。
自分一人では処理しきれない、それどころか整理出来ない感情が日に日に増えていく。
今では正負のどちらでさえ私のストレスになってしまっているのだろう。
現状既に精神の限界は超えてしまっているがそれでもまだこうして紙の上に自身を残す事は出来るが、
まずそう遠くなく私の人格というものは崩壊してしまう筈だ。
そうなれば待っているのは死だ。
それだけは避けなければならない、生き延び成さなければならない。
壊れてしまう前に保存しなければ。
最低限の自我となるまで切り分け、単語と結びつけ、封印する。
古代呪術やサラリーマン、幾つかの秘密機関で行われる精神を単純化させる方法の応用だ。
生存への効率化と私という存在の保存を同時に行い少しでも可能性を増やす。
復帰には最低でも自分以外の誰かが必要だという点が致命的だが仕方がない。
現状ゼロとしか感じられない可能性を考慮する時点で破綻しているようなものなのだ。
本当にやりたくない手段だが躊躇えば躊躇う程手遅れになってしまう。
時折神に祈りたくなる程に自身を試す事はあるが恐らく生涯これを超える事は無いだろう。
こんな姿を見られればやっと神の愛に気付いたかとアネモネ君に言われるかも知れないが。
ただそれでも人と出会える事を祈りたい。
日記の中盤 †
漂流開始から280日目
やるべき事があるというのは精神衛生上効果があるのは理解していたが、
極めて単調な日々に於いてはこれ以上無いほどの娯楽とすら言えるだろう。
魚を釣り鳥をスリングで打ち落とす、これらに四苦八苦している内はまだ良かった。
僅かにでも心に隙が出来れば即座に上達の為の苦心へと転換させられたからだ。
ルーチンワークと化してくればどうしても避けていた思考が生まれてきてしまう。
この星に知性体は居るのか？意思疎通は可能なのか？…絶滅した世界なのでは？
比較的浅い海域でこの星に文明が存在していた事実は確認出来ている。
火山帯に見られる特殊な劈開性を持つ鉱物によって自然に生み出される疑似的な痕跡ではない、
間違いなく目的を持って造られた本物の文明の跡だ。
知性体の痕跡、それも人型の、今どうしようも無く会いたい存在の過去の実証。
だがそれは同時にどうしようもない可能性を思考の片隅に発生させてしまう。
この星は何らかの理由によって極端な海面上昇を引き起こし大絶滅を起こした。
プレートテクトニクスか、隕石か、強大な超常の存在によるものか。
根拠など何1つ無い妄想が膨らみ続け私の頭の中を埋め尽くそうとしていく。
危険な兆候だ、魔族として人間より遥かに耐性のある筈の絶望の先触れが私の心を撫でている。
何より証拠の無い推論は考古学者として最も避けなければならない行為だ、対処しなければならない。
時折得られる漂着物や得られる生物的な素材を以てより複雑な道具の製造など目的を作る。
余計な思考を排し現状からでも帰還の可能性を模索出来ないか始めよう。
引き続き星の位置も調査し続けなければ。
星の並びをまるで知らないこの世界では鍵を使う事が出来ない。
あの夢想の世界で出来た皮肉屋の友人は笑うかも知れないな。
今君は忌み嫌う狂気の世界に希望を見出しているぞ、と。
そうであろうとも決して諦めてはならない。
日記の序盤 †
成功だ！今回は流石に死ぬかと思った！しかし私は成功した！！！
3万mか？落下までの時間からそれ以上あったかも知れない。
正直2mでも落ち方が悪いと死ぬ自信があるが最低でもその15000倍以上という事だ！
結果としてはマントに仕舞っておいた多くの道具を使い捨てる羽目になったが、
それでもこの惑星に無事着水出来た事は正に奇跡と努力の結晶と呼ぶべき偉業だろう。
だが問題は此処からだ、落下していく最中に地平線まで眺めたが私はこの光景を知らない。
広大な南方海域と思ったが南方ならば小島群がこの高度からなら何処かで確認出来る筈。
何よりこの太陽の位置でこの気温は有り得ない。
インシュマカ王国の沈没船をサルベージする為に1年滞在した時はもっと暖かかった。
単純に局所的な気候変動の可能性を考えるべきなのだろうが、
転移した経緯から幾つかの最悪の可能性を考える必要が出てきたかも知れない。
幸い適当に失敬しておいた軍用圧縮型脱出艇は無事に膨らみ私に不安定ながら休む場所を提供してくれている。
まずは魔力の回復に努めた後にこの星が私の故郷であるかを確認しよう。
今更夢の世界から夢の世界に移ったなどという事もあるまいだろうし。
結局何があったの？ †
長い間漂流しすぎてあかんかった。
優しい魔女に拾って貰って賭けに大勝利。
でも頭まだかなりあかん。
魔女って？ †
海ばかりのこの時代に於いて謎の巨大な農業船を営む妙齢の謎の魔女。
主にオリーブの栽培をしており定期的に船団に食用油と食用オリーブを卸していく。
魔女の由来は永く生きていると噂される程に船も魔女もその姿を変える事が無く、
何より契約の下1つ奪い1つ与える魔法を用いる事があるというおとぎ話じみた噂がある為。
海を脱出艇で漂っていた言葉も喋れない男を拾いこの世界の基本的な文化を与えた。
ガリガリの状態からモリモリ食べてドンドン覚えて健康になる男にちょっと驚きつつ、
人並みに生きられる状態になった男を送り出してくれた優しい魔女。
農業船である為働き手は置いておいても問題ないのに送り出したのは、
大昔不幸にしてしまった子を思い出す程男から陸の香りがした為。
その名はヒメロペー、かつては西方に姉妹達と住んでいたと語る。
金色の髪と白く美しい肌、人の心を掻き乱す蠱惑的な声を持つ。
一見健康そうな乙女に見えるが足が悪いのか常に杖を突いて移動している。
フレーバーテキスト的な存在なので今後出てくる事はあんまり無い。
十指術 †
記憶を取り戻す事でこの男独自の魔術発動方法を使えるようになった。
指を一本立てれば着火、人差し指と親指を立てれば火の銃、そこに中指を加えれば火のライフル。
そう定義付ける事で魔力を込めるだけで無詠唱の術式を可能としている。
ただし実用的な威力と言えるのは指四本からでそこまでは銃のが手っ取り早く強い。
魔族という人体とは異なる魔力寄りの生物だからこそ出来る技ではあるが、
そもそも高等な魔族ならそんな事しなくても考えるだけで魔術が使える事が多い。
そのため低級な魔族のこの男らしい涙ぐましい努力の結果である。
指の本数だけ威力と魔力消費量が跳ね上がる為十本全部使うのは秘中の秘。
でも良く死にかけるので結構使っている。
バルザイの偃月刀 †
この世界とも男の元居た世界とも異なるドリームランドという人類の普遍的無意識に存在する世界。
そこに住まうバルザイという賢者が編み出したアーティファクト。
様々な儀式や外なる神との交信を可能とする強大な力を秘めているという。
その割には作り方は結構簡単。
ラジエルの書 †
斑の迷宮踏破後の男が入手に成功した全知の書とも呼ばれるアーティファクト。
人類祖に与えられ以降様々な者が受け継ぎ最後は十の指輪の王の元を最後に消息を絶った伝説上の書物。
後世この一部を書き写した魔術書は無数に存在するものの男の見付けた物はその原典であり、
唯一の神を崇める宗教にとって神の与えた物的証拠という超弩級の歴史的発見物。
この書物を巡り様々な陰謀が張り巡らされ無数に起きた争いを疎んだ男によってこの星の深海にマント毎捨てられた。
具体的に何があったの？ †
斑の迷宮踏破以前に十字教にとって屈指の聖遺物の居場所を示すというメダリオンを友人から命を以て託され、
斑の迷宮踏破以降にその聖遺物の探索に入り幾つもの組織と遺跡内で争いながら確保に成功。
ただし完全に包囲されていた為その聖遺物である全知の書を使い星辰を揃える呪文を用いて銀の鍵でドリームランドへと渡った。
その後小腹が空いたのでバナナを食べた後皮を投げ捨て、
全知の書を誰の手にも渡らない場所に投棄する為ドリームランドの友人であり、
機械化された世界から渡ってきたというニール・ティックトックという半機半人の時計職人兼冒険者と共に窮極の門へと挑戦。
見事副王謁見を果たしがらくた山と呼ばれる極めて奇妙な地への座標へと至る門を創造して貰うものの、
時空間の捻れたドリームランドで捨てたバナナの皮が時と空間を超えて男の足元を強襲。
滑って門に変な角度で突入した為平行世界のそれも上空3万mというこの海洋世界とのファーストコンタクトを済ませた。
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