名簿/435655
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- (あきらと別れて未だ森の中を走り続けている)
(それほど時間を取られた訳でもないのに、未だみうの後姿を見つけることが出来ない)
(あるいは行く手を遮る結晶、みうが生み出したそれが方向感覚や距離感を狂わせているのだろうか……)
(他にも、はぐれたレオン、キャロットやひなの事も気がかりではあったが、今はまず一度そうと決めた事を成し遂げる事こそが第一)
(そう考え、ただひたすらにこっちと思う方向へと向かう、そして……黒い花嫁の姿をその目に捉えた) -- ヒメカ
- (ひなを連れて、黒い水晶の道を踏破する事しばし)
(疲れたと言いたくなる程度には魔剣を振るい続けてきたが、それに文句を言う事もなく進み続けてきた)
(その努力はようやく、遠目に探し求めていた少女の姿を見つけた事で報われた)
…やっと見つけた! 合流に随分手間取ったなぁ……ヒメカ!
(丁度、ヒメカが黒いみうの姿を捉えた頃。横合いから声をかける。レオンの位置からまだみうは見えていない) -- レオン
- (誰にも気づかれないくらいごく僅かに耳が揺れた)
(誰よりも先に分かったから みうがいる、と)
(近づけば近づくほど 嫌な予感が確信に変わっていった)
(もう見なくても分かる)
(彼女は堕ちてしまっている…)
(道中はもちろんのこと、合流したヒメカにも声をかけられずただ黙って俯いている) -- ひな
- (黒の花嫁は足を止めない)
(誰にも何にも邪魔されずに歩む 皆に背を向けて)
(あきらがヒメカを通したこと)
(ヒメカが追ってきていること)
(レオンが追ってきていること)
(ヒナもいること)
(全てがどうでもよかった)
(もう語るべき言葉なんて何もないし、足を止める理由にもならない)
(ただ時が過ぎるのを待てばいい)
(周囲を包む霧のように黒に染まった指先の感覚がない)
(こうして、消えていくのを待てばいい)
(叶わない願い、もう思い出すことすら出来ない、を待つ時はとおに過ぎ去ったのだ) -- 黒の花嫁
- レオくん!(みうと逆方向から近づいて来る人が見知った幼馴染みだと分かって表情が輝いた、そしてその後ろにももう一人)
それにひなちゃん、よかった無事だったんだ……(みうを警戒しつつ二人に駆け寄るヒメカ、しかしそれを喜ぶ時間も場面でもない)
(恐らくひなは全て分かっているのだろう、みうを見る事もなく俯き加減で黙り込んでしまっているのがその証左に思えた)
(その前にしゃがみこみ、ゆっくりと)ね、ひなちゃん、私はみうちゃんを助けたい、みうちゃんにはほっといてって言われたけど
それでもやっぱり一緒に戦った仲間だし、幼馴染みだし……そりゃあここ十数年の間の話だけど、それでも大事な友達だから
だから教えて、そして手を尽くしてあげて、そして
(ここで終わりにしよう、そう口にした、それは一字一句同じでも含まれる意味合いはまるで違う、ひなの手を取って祈る様に) -- ヒメカ
- (こちらに来るヒメカが、若干何かに警戒しながら来た事で、ようやく気づいた事があった)
(ひなが沈黙を守っていた理由がわかる。理解させられたというか)
みう、だよなあれ…一体何がどうなったんだ…!?
(「こちらは無視してどこかを目指しているように思えるけど…あの黒く染まった状態は…」)
(ヒメカがひなに語りかけるのを聞きながら、説得に添えるように軽く頷く)
みうとちなと別れてから何があったかわからんが…状況がやばくても出来る事は全部やろう
手遅れになる前に何があったのか教えてくれ
(レオンも事情は掴めていないが、ヒメカもひなも何か知っていて、みうを助けようとするだろう。それを手助けするだけだと単純に考えている) -- レオン
- (目の端にでも黒い姿が映ってしまうのが怖くて伏せていた視界に少女が舞い込んだ)
でも……(みうが望むなら。 ちなが止められなかったのなら。)
(握られたてが暖かい、どうやら気づかないうちに冷え切っていたようで)
(諦めの言葉は両の手と一緒に包み込まれてしまった)
(少女は微塵も「ダメ」とは思っていなかったから)
(感じていてもそれを上回る希望を持ち続けていたから)
……ここまで付き合ってきたんだもんね 最期の最後で諦めるなんて、したくないよね
(自分にしかわからない、自分にだけ言い聞かせる)
(もう随分と弱まってしまって ちなとみうに付き合えるのもきっとこれが最後の1回)
(思えば何度繰り返してもここまで付き合ってくれるような友が傍にいてくれたのは初めてかもしれない)
(彼らなら、ちなとみうの過去も受け止めてくれるかもしれない)
それじゃあ、お話を始めようか
一人の少女と一人の妖精のお話
童話みたいに甘くてふわふわしたお話ではないけれど…二人がずっと隠してきた、最初のお話を
(みうの背中にちらりと視線を向けた後にすぐにレオンとイストに目配せした)
(悠長に語る時間は残されていない、二人の力が必要だ) -- ひな
- (レオンの言葉に軽く頷く、いまみうがどんな状況なのかそれを教えずともあのままにしておいていいはずが無い、それが二人の、今三人となった共通の思いである事に疑いはなく)
私もね、どんなに力があっても、どんなに力を振るっても、懸命にあがいてもダメだった、そんな経験があるよ……そして諦めてしまった事もある、でも……私は今ここにこうして居る
これって周りのみんなが諦めなかったから、何とかしようと思ってくれたからだと思うんだ……
だから、みうちゃんが諦観に囚われようと、それを良しとしない人がいればきっと何とかなる、ううん、何とかする、まだやれることがあるなら尚更
(ひなの視線の意味を理解すると、ヒメカからもレオンに対して頷きかける、知ってしまったら向き合う事から逃れられないだろう、だが、そんな事はもうとっくに、ここに来ることを決めた時に) -- ヒメカ
- 任せとけ。時間がかけてられないって事なら一つ、臨場感を増していこうか
(ひなとヒメカの頷きを得て、改めて魔剣を握りなおすと、ひなに、そして黒いみうに向け。最後に地面に突き立てた)
普段は使用禁止の力だ…皆引き込まれすぎるなよ
(魔剣が、魔剣としての力を発揮するために周囲から力を収集する。そしてレオンが魔剣のトリガーを引く)
(その意思。イストリアの歌うような声が響いた)
『覚えていますか?』
『過ぎしあの頃』
『今もいつまでも』
『忘れえぬ 日々』
(響く声が終わる頃には、周囲を巻き込んで風景が変わる)
(記憶を司る魔剣「追憶」の力が語られるべき物語を、より精緻に引き出し始めた) -- レオン
- (今まで何の反応も見せなかった花嫁が、レオンが剣を地に付きたてた瞬間に振り向いた)
(それはひどい憎悪の表情で……)
いや…やだ………やめて!!!!!!!!!!!
知らないで…………っ 見ないで!!!!!!! -- 黒の花嫁
- (みうが手を伸ばしたのが見えた、が、彼女を置き去りに風景は切り替わる)
(これならば邪魔されることもないだろう もう既にイストリアの力の領域内… みうと言えど簡単に手出しできるとは思えない)
(できたら、これを見終わった後も今までと同じように二人に接して欲しい)
(思ったけれどこんな言葉はきっと必要ないから飲み込んだ)
あ………
(懐かしい。 過ぎ去った日々が目の前を…身体全体を包む)
(言うなれば360度映し出されるスクリーンをやや浮いた視点から俯瞰している、そんな感じだ)
(これならば語る必要もあるまい 百聞は一見に如かず)
すごいね。 ここまでとは思わなかった。 …あはは、イストってすごかったんだ
(ちょうど一つ前のみうとちなが映し出されているのを、遠い過去でも見るような目で眺めながら呟いた)
(二人は今と同じような見目で、今と同じように仲良く過ごしていた)
(だがやがてみうは幼子へ、赤子へ、そして消滅。 ちなの深い悲しみ、絶望、絶望、そして、次へ。)
もっともっと……もっとだよ
気の遠くなるような時間を二人は繰り返してる
繰り返してるんだ、何度も何度も そしていつも最後は悲しい終わり
二人はなぜこんなことを繰り返すようになったのか? 真実はもっと…深くて…暗い…………
(イストリアに先を促す 一番初めの記憶へと 遠い彼方の追憶へと) -- ひな
- (過去を暴く、という行為に対する反応としては頷ける、しかしそれにしても強すぎる憎悪に目を見張り)
…悪いな。ここは強引に行かせて貰うぜ…文句は元に戻ったら聞いてやるから
(そう言い残し、彼女達の過去を視る)
(追憶の紡ぎ出す過去の情景に、魔剣の使い手はやはり驚いた顔を見せる)
(一方、魔剣自身の反応はなく。しかし促しに答えるかのように。紡ぐ過去は核心へ、彼方へと進み続けた) -- レオン
- (淡々と紡がれる過去の物語)
(幾度目かの終わりを迎えることには気づくことがあるだろう)
(ひとつ、終わりはいつもみうの死であること)
(ひとつ、みうに比べていくらか寿命が長いちなだが妖精と呼ばれる割には寿命が短いこと)
(ひとつ、転生を繰り返すたびに二人はほとんどの記憶を失うこと 特にみうは顕著であること)
(ひとつ、ひなは転生していないこと)
(数えるのも億劫になるくらい生と死を繰り返した頃)
…これが始まりの物語
私も…実際に見るのは、初めて、かな…… 聞いただけだし
(ひなが二人の傍にいるようになったのは、ちなが最初の死を迎える間近になった頃から ちなはことの始まりを覚えていたしひなに伝えたからこそひなは覚えていたが、この目で見るのは初めてだ)
……………………………………………………………
(映し出された追憶は、安っぽい映画のような展開で、故に生々しく、故に陰惨だった)
(少女の淡く美しかった恋心は色を変え濁り嫉妬を生み出す)
(膨れ上がった嫉妬は風習を利用し妖精を殺した)
(妖精は少女を呪い)
(かくして二人は廻り続ける)
(後悔と懺悔だけを抱えて)
……………………………………………………………
これが最初。 本当の、最初
目を逸らしたくなるような真実
みうはちなを殺した。 そのことを謝りたい。
ちなはみうを呪った。 その呪いを解きたい。 -- ひな
- (ここにあるのはみうとちな、そしてひなが歩んできた歴史……存在そのものの証左)
(その記憶に、過去に踏み入ると言う事は、それ相応の覚悟を試されると同意だ)
覚悟なら、もう……とっくに決めてる、だから……
(ちなが言い掛けたその言葉の意味を正確に読み取り、大丈夫と言葉なく語りかけ、そして全てをこの目で見届けようと)
(イストが解放した力の只中に、その身を踊らせる)
…………
……
(幾度となく転生し同じ結末を迎えるみうとちな、彼女たちの姿はそのままに時間と場所だけを変えたリプレイを見ているかのよう)
(二人の二重螺旋はくっつく事も離れる事もなく底へ底へと渦を巻く、そしてその最初、えにしの始まり)
そっか……
(始まりは嫉妬、どうしようもないほどの愛情の裏返し、そして呪い、奪われた事に対する憎悪の念)
(でも、そう……みうもちなもそれを悔い謝りたいと思っている、ただその機会が訪れなかっただけ)
(それを知る事が出来ただけで十分、例えそれをお互いに打ち明け、結果として駄目であっても、それでも伝える事に意味があるはずだ、と) -- ヒメカ
- (あまりにもやるせない話だった)
(そして、共感や理解よりも先に怒りがたった。どうして、彼女らに誰も手を伸ばさなかったのかと)
(それが不可能に近いことを理解していても感情はそういうものだった。見ていて歯痒い程に同じ結末を繰り返し続けるループに覚えたものは、それだけ)
(彼女らの問題はきっと2人きりでは解決できない。外からの介入がいる…今がそのチャンスのはずだと横にいるヒメカを見)
(そして、全員が過去から醒める)
…来るぞ。だから行こう
(過去に浸りきる事は許されていない。この後の展開は分かっている…というようにいつでも動ける構えを取った) -- レオン
- ちながかけた「生命の呪い」はちなの力じゃない
だから呪いをかけるためにちなにも代償が必要だった
それははちな自身の命
(不自然に短い寿命は呪いの代償だったのだ)
(しかし代償はそれだけに止まらない)
(誰も知らずにこっそりと奪われ続けているものがもう一つ、ある)
(みうとちなの二人へ与える外部からの影響度だ)
(誰もかれも彼女たちの本質に触れることはできないように)
(この不幸な輪廻が永遠に廻り続けるように)
(隠されているのは絶望だけ)
(追憶が終わる)
(誰も完璧に覚えていることができなかった記憶)
(二人は同じ位置を廻っていたわけではない そう ヒメカが感じたとおり少しずつ壊れて螺旋を描く)
(繰り返すたびに忘れていく)
(繰り返すたびに失われていく)
(それでも廻り続けたのは心の底では二人が諦めていないからだと解釈するのは都合のよすぎる話だろうか)
きっと、みうは…すごく怒ってるから。
大変だと、思うけれど…お願い、目を覚まさせてあげて。
(イストリアの領域が解けつつある)
(それだけで自分たちがどれほどの憎悪に包まれているか分かる)
(黒の花嫁は待ち構えている)
(おぞましい過去を目撃した二人を、消すために) -- ひな
- (記憶の旅から戻ってきたヒメカとレオンは闇色の結晶に包まれていた)
(戻ってきたことすら疑ってしまうような一面の闇)
(とても狭い空間に二人押し込められている)
(ふと二人の髪を何かが撫でた)
(さらさらと柔らかく優しい………花嫁のヴェールだ)
何も知らなくて良かったのに。
(空間に花嫁の声が響き渡る 反響が大きすぎて居場所はつかめない)
(もしかしたらもうみうの掌の内なのかもしれない)
何も言わなくていいよ。
さようなら。
(一方的な別れの言葉は尾を引いて何度も響いた)
(次いで、圧迫)
(僅かにあった隙間は結晶に埋め尽くされて)
(闇色の結晶は二人を同化しはじめて)
(溶かされていく)
(身体も、意識も) -- 黒の花嫁
- (ぎしっ、闇色の結晶が軋むような音を立てる度、痛みにも似た感覚が体を突き抜ける)
(同化されているのだ、肉体の痛覚を刺激されているものもあるだろう、しかしその実はみうの心の痛み、今にも張り裂けてしまいそうな感情の奔流)
(少なくともヒメカはそう理解した、それが正解かどうかは知らない、ただそう感じたのだ)
知らなくていいわけがない、知って、より強くそう思ったよ……いっ!あぅ……
(ヒメカが言葉を発する度、五月蠅いとでも言わん分かりに結晶が締め上げる、何も口に出すなと)
知らなければ知らないままでいた方が、確かにいい過去なのかもしれない……でも、でもね、私は少してもみうちゃんの事が知りたかった
(イストリアが見せた過去の追憶とひなの言葉、そして何よりも自身の意思がそれを拒む)
(例えそれで向けられたのが恨みであり怒りであり殺意だとしても……だって、ようやく黒の花嫁となったみうが正面から向き合ってくれたのだから)
(その煩わしい声の元を潰そうとヒメカの顔に結晶が殺到しそのまま覆われ……そしてそれはひび割れ砕け、粉々に散った)
(ヒメカの体を侵食していたものもまた同じ、それは黒と相対する白がその浸透を阻んだからに他ならない)
レオくん!手を!
(自らの中に潜んでいた魔女サリサの魂を浄化した力、それを身に纏い取り込まれようとしていたレオンへと手を伸ばす) -- ヒメカ
- (過去から醒めたはずなのに、既に周囲が黒く、暗い)
(『レオン、早く脱出しないと持たない!』)
(気付けたのは魔剣の警告のおかげで、しかし遅い)
怒ってるのは分かってるがいきなりすぎるだろうが!
(既に体の半分以上が黒い結晶に覆われていて)
(『干渉力で対抗するにはエネルギー量が違いすぎる…!』)
知らなくていい事も、言わないでいい事もあるもんか…!
(諦めない。という意志だけではしかし、首まで黒い結晶で埋まり。あとわずかという所で)
…!(ヒメカの声を聞いた)
(「左腕に干渉力を集中させろ!『やってみる!』)
(全てが黒に。意識も包まれる直前。助けにきた少女の声を頼りに手を伸ばした)
ヒメカは……そこかッ!!(左腕だけ、黒の結晶化から解き放たれ…ヒメカの手を掴む!) -- レオン
- (黒に染められた空間の中だ、レオンの左腕はすぐに見つかり、握られた互いの手に温もりが分かち合われる)
(瞬間、ヒメカの体を纏っていた光によりレオンの全身が結晶から解き放たれた)
よかった、間に合って
(さっきの自分と同じ、レオンを蝕んでいた黒い結晶体は粉々に砕け細かい破片となって消えていく)
(それを寂しげな瞳で見ながら、心から安心したような声でそう口にした)
(結晶がみうの心だとしたら、私の心では壊すだけ、本当の意味で溶かし綺麗にするには他の、何よりも向き合いたいと思っている彼女の心が必要なはずだから)
まずここから脱出しないとね、みうちゃんを何とかするにしてもその場所が分からないと……
(レオンの目を見る、そして視線は上へ、闇の結晶で作られた空を突き破ってまずはこの懐の中から飛び出そうと) -- ヒメカ
- (黒い結晶はみうの心)
(黒い結晶はみうの身体)
(砕かれれば戻らない 失われればそれきり)
(でももう痛くないから)
(何も感じないから)
(闇の中でヒメカの輝きが煌めく 飲まれそうになっては反発するようにきらきらと)
(飲まれてしまえばいいのに)
(そうしたらヒメカもレオンもずっと一緒にいられるのに)
(違う 二人の姿なんて見ないで済むのに)
(上に逃げるというのなら 上へ 上へ 闇の結晶を伸ばす)
(下からも右からも左からも闇の結晶は襲いかかり、その都度ヒメカに砕かれる)
(いたちごっこの様にただただ引き延ばされてい空間)
(空間の果てを見つけるよりもさきに 花嫁の長いヴェールにヒメカが触れた) -- 黒の花嫁
- (ヒメカの手の温もりを感じてすぐ、開放感。どうやら命は拾えたらしい)
…助かった…ってまだ来るぞ!?
(容赦なく鬩ぎ合う、光と闇の中)
(傍観者だからこそ、その僅かな違和感に気付いた)
(『ここは、私が記憶を引きずり出したせいかみうさんの心象風景…いえ、この濃度だと心象世界…のようね』)
(イストの判断に聞くと、レオンの直感が閃いた。目があい、そして上を向いたヒメカを、手を握る力を強くしてこちらに注意を促す)
…待った、ヒメカ。ヴェールって顔を隠すためのものだったよな…?
ここはきっとみうの心の中だ…もしかしたら、俺達が見つけなきゃいけないものがあるかもしれない
(信じたい。この真っ黒な物がみうの心の全てではないと。過去の全てが悲劇に塗れていたとしても、今回の人生で出来た自分達と過ごした経験が、何か白い心を残していないかと) -- レオン
- (空を蹴り上へ上へと、この空間の果てを見つけるためレオンの手を引いて駆け上る)
(それを逃すまいとするかの如く、捕まえようとするかの如く、結晶の腕が二人を追いそのつどヒメカの光に砕かれた)
(上が駄目なら左、それでも駄目なら右、しかし何処まで行っても果てなど無くただただ暗闇が続くだけ)
(僅かに生まれた焦燥の心、だがそれは、タイミングよく話し掛けられたレオンの声によって消え去る)
え?あ、うん、ヴェールは花嫁が顔を隠すものだけど……もしかしてさっきの
(一瞬感じたふわりとした感覚が蘇る、目で見通せない暗闇の中で黒のヴェールを、引いてはそれに隠された何かを見つけるのは至難だが)
そっか、わかった……!ここがみうちゃんの心を具現化した空間だとしたら、もしかしたら鍵になる何かがあるかもしれない
ううんあるはず、まずここから出てそしてちなちゃんを助ける、そこまで見えてるんだからここで躓くわけには行かない
(問題は感知に関しては得意ではないと言う事、みうちゃんがそれを隠すであろう事を考えても私では力不足……となれば)
(暗闇の中、間近でないと見えないレオンの目を見て、そして頼む、その間は私が守る、と) -- ヒメカ
- (こんなにも何もないところで、二人は一体何に希望を抱いているというのだろうか)
(早く諦めればいいのに)
(希望なんて辛いだけ)
(私の心は闇だけに満たされている)
(音もない光もない果てもない闇の中、二人はさ迷うことになるだろう)
(やがてどちらが上でどちらが下なのかすら分からない)
(自分が進んでいるのか止まっているのか 概念すらも曖昧に溶かされていく)
(何もない)
(ここには何もない)
(幾度となく繰り返された短い生は黒く淀んで底なし沼)
(伸ばされた優しい手も 僅かだけれど楽しかった日々も 何も 何も)
(本当に?)
(笑い合った日々は無駄だった?)
(圧倒的な負の感情の前に押しつぶされて消え去った?)
(その程度でしかなかった???)
ううん。 私は、いるよ。
もう殆ど残ってないけど、ここに、いるの。
(手を繋いで闇を進む二人…前も後ろも不確定でも進む意思があればそれは進むということ)
(二人に消えそうな微かな声が届く) -- 黒の花嫁
- ああ。力づくで出たって仕方ない…と思うわけだ。ちなを探す前に落し物しておくのも、な
ったく。その台詞、本当は俺が言いたいのになぁ
(ヒメカの近づいた視線から言いたいことを読み取るとそんな風にぼやく。だが、逡巡や迷いはない)
(今は、2人でベストを尽くす事)
(先ほど、一瞬だけ聞こえたような声に耳を澄ませる)
イスト、防御はいいから全力でみうを探す…記憶を司る魔剣のお前なら出来るだろ。やるぞ!
(何もない泥のように濃い、粘る中でひたすら意志を探す)
(負の感情に押し潰されそうになりながらも、繋いだ手の温もりがそれから護ってくれる)
(曖昧に方向を示唆しながら進む中で。ついに届いた)
聞こえた…ヒメカ、あっちに手を!
(届いた声の方向を確かめて。魔剣を持つ手でより正確に位置を示した。微かな声の在り処を) -- レオン
- へへ、ごめんね?美味しい台詞取っちゃって
(ほんの少しだけ舌を出す仕草、しかし軽口もそこまで)
(レオンとイストが探査に集中している間、その邪魔をさせるわけにはいかない)
(二人を飲み込もうと絶え間なく押し寄せる黒い心の結晶、たとえ本意ではなくても今はそれの浸透を防がなければならないのだから)
(甲高い破砕の音は心が砕ける証左、はやく、はやく、みうちゃんがみうちゃんでいられる内に……急いで)
(心の声を体現するかのように、ぎゅ、と繋がれた手に力が篭る、そして)
みうちゃん──!
(微かに、今にも消え去りそうな、それでも自らの存在を誇示する声が聞こえたのは、レオンが魔剣を指し示したのとほぼ同時)
(黒い霧を掻き分けるように、レオンと繋いだ逆の手を懸命にその方向へと伸ばす、それは雲をつかむかのようにたどたどしいものだが、それでも確実に…) -- ヒメカ
- (黒の花嫁にはもうみうの姿は見えないのか、特別な妨害はない)
(かといって浸食が止まるわけでもなく)
(ヒメカも、レオンも、残されたちっぽけなみうも わけ隔てなく均等に侵食を進めている)
(じわじわと 確実に 如何に防いでいるといってもこの場にとどまり続けることは自身のためにも、みうのためにも、良くないことだろう)
(こんな黒い沼の底に助けにくる人がいるなんて思っていなかった、な)
(なんて、嘘)
(きっとヒメカ達ならくるかもって思ってた)
(私はそれに甘えているのかも)
(悪い子、だね)
(届いた声に、伸ばされた手に 手を伸ばして………)
(伸ばしたはずの手はヒメカに届かない)
……あらら。
(そっか、もうないんだ 肘から先は溶けて消えてしまったみたい)
(多分すごく痛いんだと思うけれどもう麻痺してしまって分からないから ちょっと困った笑みを浮かべた)
(じゃあ、もう一度呼ぼうか 手が短くなってしまっていても 届くように)
ヒメカ………
(先のない腕を二人に向けて伸ばす 強く握れば壊れてしまいそうだが、微かな温度がヒメカの指先に触れる)
-- みう
- あ……!
(はっとして顔を上げる、見つめるは何かに触れた自分の指先、真っ暗で何もないはずのそこに今確かに、そして……)
みう、ちゃん……
(間違いなく聞こえた、聞き間違うはずのない懐かしい声)
(視覚を聴覚を、そして触覚を、すべての感覚を総動員してそこを視れば真っ暗な空間だったはずの場所に少女の姿が浮かび上がる)
(ただ漠然と「見よう」と思っただけでは見つからないはずだ、それほどまでに侵食され希薄に感じられる幼馴染の姿を見て)……よかった……
(伸ばした腕を顔へ回しゆっくりとその頭を抱きしめる、よかったと何度その耳元で繰り返したか)
(信じて願っていた事のひとつがこうして報われた、その喜びを噛み締めながら)
レオくん、みうちゃんだよ……見つけなくちゃいけないもの、見つかったよ……
(そしてレオンの手を引きその髪に触れさせる) -- ヒメカ
- あんなに小さくなりやがって…ったく。
(心配半分、安堵半分。ヒメカの声が聞こえると、視覚以外でもみうが居るのを確認できた。剣を一旦鞘に収めて)
(しばらく困った笑顔のみうを抱き締めてよかった、と繰り返すヒメカとを見守っていた)
見つかったな…よかったな、ヒメカ。みうも心配かけやがって…
(触れた髪の感触にこちらも少し笑い…最初に、その安堵がら離れた。彼女らを導く感知役として)
こうなったらもう、ここには用は無い。出口を見つけて外に出るぞ!
(まだ、最初の一歩を皆で踏んだだけ。やる事は残っていると示した) -- レオン
- (二人に触れられているのか、感触はないけれど 心は触れ合っているんだと思う こんなにも、暖かい)
こんなところまで、きてくれて…ありがとう
本当はもっとたくさんお礼を言いたいんだけれど、今はこれだけにしておくね
…最初の私が、落ち着いたときに ちゃんとお礼を言いたいから
ええと……恥ずかしいけど、全部、見ちゃったんだよね?
何があって、どうして、こうなったのか、知っちゃったんだよね?
私…えっと、ヒメカやレオンが知ってる私にとってはもう遠すぎて誰か違う人の過去みたいにしか感じられないのだけれど、最初の私にとってはそうもいかないみたいで
もう全部終わらせようって、そういう風に思っちゃってるみたい
だから 止めなきゃ
レオンの言うとおり、まず外にでなきゃいけない ここは…最初のわたしの心の中の一部にすぎないんだよ
出口は私が教えてあげるね?
でも私は心の欠片で、このままじゃ外に出られない… お願い、私を外に連れて行って。 そして、ちなを探して…………
(言い残してみうの意識体は小さな白い結晶になってヒメカの掌に収まった)
(たったこれだけ これだけが残っている)
(結晶は仄かに煌めいて 出口となる方角を指示している…) -- みう
- (みうの髪を手櫛で梳きながら、うん、うん、と頷くヒメカ、それはお礼に対しての返事か、それとも止めなきゃとの決意に対しての頷きか、あるいは)
いいの、みうちゃんは気にしないで、って言っても……気にしちゃうよね普通は、でも私達は幼馴染みで友達だもん、それ以上の理由はいらないよ
確かに十年くらいの付き合いで、繰り返して重ねてきた物に比べたら取るに足りないかもしれないけど、でも、その気持ちは私達の行動で全部だから……
(助けられるかもしれない、そんな縋るような想い、それが実を結ぶ為の尾を掴めたとの実感か)
うん、止めようみうちゃん、もうこんな事は繰り返しちゃダメだから、ここで……
(手のひらに収まった仄かに輝く白い結晶を優しく指で包み込む、レオンの受け売りではないがその小ささに胸が締め付けられる思いだ)
(そしてそれと同時にとてつもない重みも感じる、ジグソーパズルを構成するピースは小さいが一つとして欠けては完成しない、その欠片こそが今この手の中にある)
みんなで止めよう……!
(手から零れる光に誘われるままに、三人で黒い結晶に覆われたその空間の出口へと向かっていく) -- ヒメカ
- (永遠に続くかのような闇の中)
(時間の感覚も空間の感覚も薄らいでく)
(進んでいる、出口に近づいている そんな気は全くしない)
(もしかしたらずっと同じ場所に止まっているのではないか)
(そう錯覚しそうな完璧な闇)
(みうだった結晶が心許無く指す方角だけが頼り)
(それでも決して疑わないのだろう)
(自分たちが出口に向かって進んでいるのだということを)
(そうして幾許かの時が流れ視界は急激に晴れた)
(元の場所、暗い森の中)
(それでも明るいと感じるのは先ほどまでの闇の中の方がよっぽど暗かったからだろう) -- 黒の花嫁
- !!
よかった、二人とも! 無事だったんだね
あの後どこにもいなくなったから心配して…… 何処に行ってたの、なんて聞かないよ
みうが、やったんでしょう?
とにかく無事でよかった
(動かず騒がず 只管に二人が戻ることを信じて待ち続けていたようだ) -- ひな
- (例えるならそれは眠りから覚めるかのような感覚、夜の大気、森の空気、そして微かに匂う瘴気が体を包み込み覚醒を促す)
(目を見開けばそこは紛う事なき蔵瀬の森、そして耳朶を響かせるのはひなの声だ)
(首をめぐらせればすぐに見つけられるだろう彼女の元へ、レオンとみうと共に駆け寄る)
うん、心配掛けてごめんねひなちゃん……でも、おかげでみうちゃんを見つけられた
(そう口にしつつ右手を開いて見せれば、果たしてひなは狼狽するであろうか、みうの意識が宿った小さな欠片それが今のみうだと言うことに)
ひなちゃん、みうちゃんの事をお願いね?私はちなちゃんを、結晶の中に閉じ込められてるちなちゃんを助け出すから
そうしたら……
(後はみんなの心次第だよ、とひなに背を向ける)
レオくん、みんなの事守ってね?あと、私がどうなっても信じて欲しい、もう二度と無駄に命を投げ出したりはしないから -- ヒメカ
- (進んでいる気がしない。闇の中。しかし停滞はしていないと信じながら魔剣の感覚に頼ることしばし)
(「もう少し…抜ける。脱出よ!」)
…っ!! 明るい…いや、違うな(薄暗闇を「明るい」と感じ、少しして慣れてそうではないと思い返した)
ひなは引きずりこまれてなかったんだな…俺達が消えてからどれくらい経った?
(時間の流れがここと違う可能性もある、確認のために問いかけた)
(そして、ヒメカの言葉を隣で聞いていた)
ちなの方は俺が探そうかと思ってたが…いいのか?
(現実側のみうが、黙ってみているというのも考え辛い。みうを止めに回るか、ちなを探しに回るかどちらがいいかの確認)
(どちらも確実に出来るとはいえない難事だ。だが、それでも)
任せとけ…それも今更だよ。どうなったって、ちゃんとヒメカを連れ帰るために来たんだぞ、俺は
(みうと一緒にこの場に来たときの事。そして、それよりずっと前に何度も見舞った記憶を脳裏に過ぎらせ)
信じてるし、皆も守るから。どんと任せて全力出してこい
(自分には決定打というものが恐らくない。せめて、後顧の憂いを失くしてやるために。しっかりとそう告げた) -- レオン
- (皆が戻り、そして異常もないことを確認して安堵の表情を浮かべた)
本当になんともないみたいで………よかった
………なんて、ごめん 薄々こうなるだろうってことは、わかってたんだ
私がなんともないのは、もう知ってるから
でも知らない二人がこのことを知ったら、怒るなんて分かりきってた
それでもっ!! 無事だろうって思ったんだ だってこんなとこまで来てくれるような人たちがこんなところでくたばりそうもないしね
時間にしたら消えてたのは5分くらいかな
(あの出来事はみうの外では僅かな時間のことでしかなかったようだ)
(小さく小さくなったみうの欠片を見て悲しいような嬉しいような表情を浮かべる)
もうこれだけしか残ってない ううん、こんなにも残ってるっていうべきかな
今回のみうは、頑張ってる…こうして支えてくれる人たちが諦めないでいてくれるから頑張れるんだね
うん みうのことは任せて。 絶対に手放したり諦めたりしない
今暴れているほうのみうもできるだけ足止めするから…… だから、よろしくね (ヒメカの背に信頼の声を掛ける)
(引き留めることは、ない) -- ひな
- (地面は黒く波打ち嵐の海原のようである。森の木々は樹液をヘドと吐き出し枯れよじれた針金のようである。)
(夜空は今満天の極彩色に輝き、あらゆる放射線と恒星からの風を吹きつける慈悲なき奇跡なき、原初の暴威に覆われた。)
(うねり狂う嵐の大地を平原のように歩き。病み死んだ木々の中を新緑の芽吹く春を知らせるように歩き。)
(天蓋する病巣のような夜空を柔く陽光注ぐ晴空のように仰ぎ見た。)
(その者は矢巫鳴あきら、黒い大地から病んだ梢を裂いて狂乱の深銀河への扉を開かんとする狂信者。)
あっはぁ、本当にどこまでも人間らしい人たちだ。生き残りたいのなら遮二無二ボクを殺せばいいのに。
友を救いたいのなら、総ての思いを汲んで今ココで終わりにしてあげればいいのに。
そのどちらも選べない、何が最善かも分からない、なんて愛すべき凡庸でしょうか。
(くるりくるりと、地面にも壁にも一切その動きを干渉されない黒い剣を振り回してあきらは恍惚と笑った。)
扉が開けば何もかも終りなのに。
一度黒き魔の沼に落ちた少女はもはや魔女、その魔女についさっき引導を渡したばかりだというのに
心が力の源である以上、あなた達は奇跡を願わざるをえない。希望と失望は等価値の地平にあることから目を遠ざけて!
(あきらが剣を投げ捨てた。もはや不要だと言う様に。狂乱銀河の照らす空のした、黒い森の影の中へ黒い剣は消えた。)
それこそ、我欲を盲目の教義で塗りつぶした人間の行いですよ。そんなもの、ああ・・・そんなものボクらはもう何万年も聞き飽きた。
今のあなた方では滅びも生も等価値の次元でしか存在しえない。
もはや用済みです。さようなら、奇跡を願った少女達。さようなら、神にもなりえると信じた愚か者達。
(崩れた石段にあきらが足をかけた。黒く波打つ大地を裂いて、病んだ梢を照らして一直線に、山の麓から山頂までを繋ぐ光。)
(濃緑色のそのラインは歪に曲がりながら一直線、山頂から病巣のように毒々しく光る銀河へと伸びる巨大な門へと続く参道だった。)
神は唯畏れを抱かせる絶対者、神への願いとは根源の恐怖に同じ。・・・そう、そしてそれはココに、ココだけにある。
(崩れた石段を乱れない足取りであきらは昇っていく。それは厳粛なる産みの儀式。)
相争いなさい、人の業の内で。もはやあなた達の手はボクには届かない。
(喧騒たる下界を離れ天上へと昇りゆくように、歩むごとに足取りも軽くあきらは昇り行く。) -- あきら
- (妨げるものはそもそも何一つ無く、もはや意に介する必要も無い…残すは次なる舞台へ昇華するだけ)
(人で言い現すならば喜悦だろうか…満ち足りた彼が逸りながらも、一段づつ愉しむように)
(参道であり産道を昇る途上、何も存在しない空間に何かがいた……大きく小さな、歪つに光る翳が) --
- おや、誰かが追ってくるのなら。彼女等以外には無いと思っていましたが。
(濃緑色にぬめる石段の上で、足をとめてあきらは翳を一瞥した) -- あきら
- そうかい?あの子達が追いつくかは兎も角として、何時だってボクはキミ達の傍に居たんだけれど……それに。
(存在しない何かはそう応えて)
キミの折角の晴れの舞台、誰かが…一人くらい見届けなきゃね?ほら、行かなくちゃ。
(足を止めなくても話はできる。進まないと勿体無いよ……そう寧ろ急かすように呟いた) --
- (あきらは、いつものように微笑を浮かべた。
人を幻惑し、甘く妖艶ですらあったあきらの微笑。
整った童女のような相貌には憔悴が掘り込まれ。微笑みは今、口を血で濡らし
牙を剥いた獣のようだった。
言われるまでもないというように、あきらは、ゆるりと石段に足をかける)
--
- あなた達の事は、最後までボクにもよく分かりませんでしたね。
曰くありげに、少女達に力を与えながら。ボクが彼女らをめちゃくちゃにして
しまうのを只見ていたというのですから…ふふっ。 -- あきら
- (さながら全てを取り去って、残った剥き出しの貌……その一段先から応える誰からでもない無音の声)
そうなのかい?まあ、時にはそんな事もあるのかもね……身内どころか隣人の事すらよく判らない世の中だから
ボクはただの『終着点』に過ぎないし……第一、ボクはとても非力なんだ。
与えたなんてとんでもない…切欠に過ぎないんだよ。彼女達は今も『自力』で此処まで辿ったのだから
(アレでまだ這い上がる意思があるのなら、遅かれ早かれ自ずと辿り着くよ…と) --
- ………。 -- あきら
- (笑みを消したあきらの、黒い瞳の奥で藍色が揺れた) --
あはぁっ…まるで彼女らの終わりがここじゃないみたく言いますね…。
世界は今掛値なしに終ろうとしているというのに。随分と悠長じゃないですか -- あきら
- あくまで可能性の話さ……そういえばさっきボクの事がよく解らないと言っていたね?実はボクもキミがよく判らないんだ…
実際此処までキミはよく観察して、一部の揺らぎもないくらいに彼女達を把握して繰ってきたのだろうけど
終ぞあの子達を『理解』は出来なかったんじゃないかい?だってキミからしたら取るに足らぬ、対等には程遠い存在なのだから……解り様がない。
それ以前の問題だから…けどね?よく考えてみたんだろうか。想像も付かないという事を……悠長にしていられる事なのか
ほら、また足が止まっている……いいのかい?急がなくて… --
- ………今更、意味のない話しです。 -- あきら
- (そういいながら、あきらは掌を握る。その手には何も無い。
黒剣はさっき投げ捨てたことを、あきらは思い出した。そう今はもう必要が無
いから。
自嘲した、何を苛立つ必要があろうか。笑みを張り付かせたまま、意に介さ
ずという風に段をのぼっていく) --
ボクは理解などしていませんよ。最初からただ『見た』だけです。
人の姿が、パレットにぶちまけた絵の具のように見えるんですよ…無秩序にま
ざりあうその色相が、彼女らが後生大事に抱える心という奴なのでしょう。
配色は無限通り、という意味では想像もつかないというのは正しいかもしれま
せんね。けれど…所詮、絵の具は絵の具ですよ。 -- あきら
- (今度は足を止めず、あきらはゆるりと石段を登り、見えざる気配の横に並ぶ) --
- 無為かい?…ま、幕間の箸休め位にはなると思えばさ。
(全ての幕引き目前の今、キミの話を聞くのも中々興味深いものだよ…と応えながら次の段へと、無音が軽やかに跳ねて)
色相で捉えているのかー……観え方が違うとは不思議なものだよね。何がって、そりゃ…
(前方の何もない、誰もいない空間…陽炎のように揺れる白い翳が振り向き、あきらを覗く気配がした)
キミはこんなにも人間らしいのに、さ? --
- (何もない、空ろな空間と話しをするあきらの姿は、まるで自問自答のようで
もある。
あきらが無言で睨む先には、荘厳と醜悪を重ね合わせて、自らの狂気に身を
捩る扉だけが見えた。その扉が開くだけで。何が起こったのかすら知らぬまま
人類の文明も歴史も、営々と血と肉と精をもって繋いだ一切が閉ざされる。
地を這っていた蟻が、気付かぬまま人に踏み潰されるのと同じ理でもって
そうなるのだ。
そして、それを成したのは。扉を開かんとしているのは、あきらである。
何の葛藤も躊躇もなく、人類の滅亡などただの副作用に過ぎないと、狂気の扉
を描き出し、今まさに開こうとしている。
人を人とも思わねばこそである。だが目の前の翳は、そんなあきらを人であ
あると言う。
足を止め笑みを消し、あきらは、何も無い空隙を睨んだ。どこまでも黒い暗
い瞳が怒りに揺れていた) --
- …腹が立ちますね、何が一番癇に障るって…。まるでボクの口真似のような
その語り口が最高に不快ですよ。 -- あきら
- いやー怖い眼だなぁ……折角の記念日に、気分を害したかい?それなら睨んだだけで人ぐらい殺せてしまいそうだよ。
実際キミの妹…になるのかな?あの『えな』という名の。彼女ならそれも出来てしまうのだろうけれど
するかどうかはまた別の話だろうね……だって彼女は神様みたいなものだし --
- (横目で見上げる参道の上、一足先にえなと黒い巨大な犬が、居た。
えなは相変わらず恍惚と安穏を併せたような、とらえどころの無い微笑を浮
かべている。華美な着物を羽織っただけの肢体を、象よりも巨大で闇よりも黒
い犬の腹にもたれかけて、長いふさふさした犬の毛をひっこぬいていた。
黒犬は迷惑そうに巨大な目を開けて、耳を立てた)
(今にも世界は死に絶えようというのに、暢気であった。
そして段を上がる度に憔悴していくあきらとも、対称である。
視線を戻したあきらが呻く様に呟く) --
…何が言いたいのですか。 -- あきら
- 実の所は察しは付いてるんじゃないのかい?
神は何も望まない…いや、そもそもキミに何も期待していないって。
(キミとは違ってアレはそういうモノじゃないかな?と) --
- 近しいのは寧ろその目に映る、無秩序にまざりあう泥濘……ああして足掻く『彼女達』。
赤の他人の方がよっぽどキミに似てるのさ。同じ胎から産まれ堕ちた者より……ね、可笑しいだろう? --
- (その時あきらは、全身を湿った手で頭からつま先までベタベタと指紋をつけ
られるような不快を感じた。
握った手の中に剣が、無いのは分かっている。だから今は拳を握ったのだ) --
軽々しく語って欲しくないですね。地に這う人が、鉄すらその手に持たなかっ
た時、石と祈りによって捕らえられたモノ。
星霜の彼方より来り、世界に揺蕩うカクリミの理へ、絶望的なまでの力でも
って竿を刺す純粋無垢なる絶対支配者…。
その『神』が!幾千万もの願いを、幾千万もの時の間に聞き続けた。
…結果がボクなのですよ。
人に捕らえられ、その力を願われるまま奪われ続けた!だから、人に奪われた
モノを取り返すため、少しだけ人に近しい分身を産み落とした。
…それがボクですよ。偶然なんかじゃない、必然によってボクはここに居る
それも神の必然によってね! --
(故に黙れと、その不快な含み笑いを止めろと。あきらは無意識のうちに言っ
て居た。相手は姿も形も見えない、ただの『声』だというのに。
言い返す程に、殉教者然とした仮面を、剥がされていくというのに。
まるで気付かぬまま。拳すら振り上げてあきらは叫んでいた。
その手には、もう何にも阻まれない、するどい黒剣は無いのに) --
- いやはやご立派、だよね。御題目は……自分でもそう信じ込んでいるくらいだ
(どれほど拒絶しても、その誰でもない声が止む事はない…苛め責めるというより、まるで些細な過ちを窘めるように)
宿願担うキミは他と違うのかな?特別かい?必然とやらに選ばれたのかな?……いいや、残念ながら。
ありふれたものだよ……『彼女』とは違って、ね?
(非情というよりは淡的な言葉、そこには鏡面の如く温もりはなく。ただ現実を付き付ける……遥か高みの、『えな』の姿が) --
- 『彼女』達はそもそも意にも介してないのさ……だってそうだろう?キミだって知っているじゃないか
絶望的なまでの力の主。瞬きやそれこそ寝返りを打つ位でも、この世の全てをひっくり返せるんだから。
だからそれは全部……キミの願いなんだよ
誰にも依らず己の手で、誰の助力もなしで、独力で大願を成し遂げたいと思っていたから……彼女は今も、キミを見守っている --
- (無言のまま、握り締めた拳だけを見下ろしていた。
あきらは震える拳を開くと、ゆっくりそれを横へ差し出した。何か合図でもす
かのように) --
- …コロマル。 -- あきら
- (あきらが、呟いた瞬間。濃緑色の石段が硝子のように砕けて飛び散った。
遥かな参道の山頂に居た黒い犬が、一瞬で駆け寄り巨大な前足で抉ったのだ。
巨大な牙の間から発せられる唸り声は、遠方に響く雷鳴のようだ) --
- ああ、そうですとも。すこし浮かれすぎて忘れていました…。
今あなた達に出来るのは、こうやって少しでもボクの不興を煽ることだけだ。
…なまじ言葉が通うというのも、時々厄介なことだ。
彼女らにも…そしてお前のような者ですら、ボクを自分達の延長線にあるモノ
だと無意識に考えさせてしまうのだから。 -- あきら
- そうかい?それは残念……だけど遊興としては十分だったかな。
(圧倒的な黒狗の、あきらの意一つで終わるはずの白い陰…まるで気付いていないかのように。飄々と自然で)
……ほら、急がないと。頼みのコロマルくんが困ってるよ?
ああ、そうだ。この先必要になったらボクを呼んだらいい。何時だってキミ達の傍らに居るのだからね?
ボクならきっと、キミの望みを……
(見えざる声があきらへ向けて続ける言葉は、最後まで聞かずとも想像に難くない……その嗤う様な声も。存在を掻き消そうと、恐らくは無くならない)
『願いを叶えてあげられるだろうから』 --
- (あきらが命じる前に忠実なる猟犬は、凄まじい咆哮を放った。
その声は聞こえず、粉々になって吹き飛ばされていく石段の欠片と、なぎ倒さ
れた黒い森の痛々しい傷跡だけで視認された。
火口よりも赤い口の奥から、遠雷のような唸りが二重三重となって響く) --
- …行こう、コロマル。 -- あきら
- (背丈よりも高い、黒犬の肩を撫でるとあきらは、再び石段を登り始めた。
その鼓膜は、いまだに黒犬の咆哮によって痺れている。
ジィンと痺れる耳鳴りの中で、嗤うように、囁きかける言葉が繰り返す) --
- 願いは今叶う…ボクが実現したのだから… -- あきら
- (あきらは、耳鳴りのやまない耳を押さえた。
山頂の扉へと歩むその足元で、石段が砕けて遥か下へと落ちていった) --
- (クロカントの言葉に、『キャロット』は笑う。哀れみを込めた笑みで)
あなたもご苦労様ね。こんな子のためにわざわざこんなところにまで
でもね、もうおしまいなの。夢を見る時間はおしまい。あなたが見ていたキャロット・メディルは全部、夢
(キャロットは俯いたまま。クロカントを見ようとしない。『キャロット』は言葉を止めない。)
この子は夢。わたしが見た、哀れで儚い夢。愛されたい、輝きたい。そう願った、おろかな夢…。でも、それも、もうおしまい・・・!
(蹲るキャロットの首に手をかける『キャロット』。キャロットは抵抗さえしない。)
さぁ、今度はあなたが影になるの。そして・・・わたしが・・・!
うぐぅ・・・!あ・・・あああ・・・!(必死に抵抗するが、すっかり弱りきったキャロットに振り払う力はない。)
くろ・・・ちゃん・・・たすけ・・・て!(涙を溜め、必死に助けを求めている。クロカントへ向かって、手を・・・・!) -- キャロット
- ……なんなのその笑い方。その台詞。気に食わないんだけど
(腸が煮えくり返る気持ちを抑えながら嘲笑いを返す。隠しきれない怒りと無理矢理貼りつけた嘲笑で歪んだ顔はあまり見れた物ではなかった)
夢?……夢じゃ、ない。…っ夢なんかじゃない!キャロットだって言う割に、あんた何も分かってない!
最初はそりゃ夢だったかもね。あんたが望んだ、夢だったのかも知れない。
あたしは…自分が思ってる以上に、あの子の事を知らないから。……ううん、目先の事だけでいっつもいっぱいで、知ろうとしなかったから。
…でもね、あの子は自分で夢からキャロットになったんだ。…望んで、そこから何もしなかったあんたとは、違う
…それを今更自分に返せってのは、虫が良すぎるんじゃないの。えぇ?
(少し珍しくよく回る自分の口に、自分の事ながら感心して思わず笑いが零れた。思わずこのままトントン拍子で事が運んで、メデタシメデタシ、まで想像してしまいそうになる。けれど『キャロット』へと喋った通り、自分はキャロットの事を少し 知らなさ過ぎる。自分こそがキャロットだと語る『キャロット』相手には分が悪すぎた)
(戦う事が出来ない自分が使える力はそれだけだった。口で言い包められればと考えたが、難しいようだ)
(『考えろ、考えろ……!』と頭を回しかけた所で、状況の変化に気付き、2人の元へと向かう)
(…助けて、と、確かにキャロットは言った)
(…ならば自分に出来る事を)
っまにあえ……!
(『キャロット』を跨った体から剥がす様に、間へ体を割り込めようと、飛び掛かるように地を蹴った) -- クロカント