名簿/512829

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    • (日の射さない路地裏に、白色の光が奔る。魔書を手に、その力を行使した故の結果だ)
      (人の腕を何本か束ねたほどの太さの光柱は、路地裏に身を翻した黒尽くめのすぐ側を抜け、その先の壁にぶち当たる。じゅっ、とものが焦げる音が静かに響いた)
      • な、なんだ、なんだよお前ぇ! なんで俺を襲って…!!(本の持ち主が、錯乱したままにわめく。頬のこけた、貧弱そうな男だ)
        (今にも転びそうな危なっかしい足取りで、彼は路地裏を駆けていく)
        (その背中を見やってから、黒尽くめも身を隠していた横道から飛び出した)
        (そのまま、魔導書の持ち主を―今回の標的を追っていく)
      • (首だけで振り返り、自分を追ってくる相手を認めた読み手が、再び本を開く)
        (その途端、彼の周囲に幾つもの白い球体が生まれた。それは次々と身を伸ばし―光条となって、追っ手を打ち抜こうとする)
        《光主の軌跡》…!(相手の持つ魔書、その名を忌々しげにつぶやく。その時には黒尽くめはすでに、すぐ側の壁を蹴り上がっていた)
        (壁を二、三度蹴って昇った勢いのまま、宙返り。コートが翻るときには、そのすぐ真下を、幾つもの光柱が駆け抜けていた)
        (足をくじくことなく着地し、すぐに追跡を再開する。今の回避行動で、再び目標との距離が開いてしまっていた)
        …読み手に文字通り、光を操る力を与える禁書、か(囁く言葉には、若干の苛立ちが感じられる)
      • …このままだと埒が開かんか(比較的入り組んだ造りをしているこの路地裏に追い込んだのはいいが、思いのほか手こずらされる。このままではおめおめと取り逃がすかもしれぬ―)
        …逃がすものか。光を支配する、人の手に余る奇跡を為し得る禁書、《光主の軌跡》―焚書に処す。
        (祈るように、断ち切るように、告げる。そして黒尽くめは足を止め―)
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      • はっ…はっ…!(何度も転びかけながら、ただひたすらに前へと走る。その成果が、今目の前に開かれようとしていた)
        (路地の終着。日の射す大通りへの出口が、そこにある。生気の失せかけた顔に、みるみると赤らみが戻っていく)
        や、やった…逃げられる…!(人が大勢行きかうその通りまで出てしまえば、追跡者も完全に振り切れる。あとはこの街を離れてしまえば、命の危機とは決別できる!)
        (他に失うものも多いが、この本さえ無事であればどこでだって生きていけるだろう。ああ、でも次はもっとひっそりと生きていかなければ、またこんなふうに追われることになる―)
        (加速した思考を垂れ流すままに、男は恍惚とした表情のまま、通りへと足を踏み出した)
      • (その直後。ずばん、という、若干間の抜けた音が響いた)
        (薄い紙に向かって、硬い棒を突きこんだ時の音。それをさらに大きくしたような、そんな印象を受ける音)
        …え?(呆けた声をあげ、男が自分の胸元を見る。大事に本を抱えていたはずの、その胸元を)
      • (そこには、空洞があった。縁が僅かに黒煙を上げる、拳大の空洞だ)
        (見れば、抱えていたはずの手首から先ごと、本も消失していた。僅かに先を見れば、地面には、黒い穴が一つ。やはり、僅かに黒煙をたなびかせている)
        (それを認識した途端、口元から何かが溢れ出た。赤々とした鮮血を吐きながら、身を傾かせていく)
        (背後から、本ごと撃ち抜かれたのかと、そう理解した直後。彼の意識は永遠に途絶えた)
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      • (人が血を噴き出しながら倒れ、そして燃え始める。それを目の当たりにした通行人たちの悲鳴が連鎖していく。その光景を、黒尽くめはスコープで眺めていた)
        (僅かな呼吸の後、伏せていた身を起こし、立ち上がる。そしてそのまま屋根から飛び降り、走り出した)
      • (ことは単純な話。視界を確保できる高い位置に陣取り、長杖にて目標を補足、狙撃した。それだけのこと)
        (背表紙を回収できなかったことは、後であの老人にぐちぐちと文句を言われることだろう。だが、それよりも、禁書を野放しにすることのほうが、男には耐えられない責め苦に等しかった)
        ……(一瞬だけ、振り返る。建物の壁に遮られ、そこから見えるものは何一つとしてなかった)
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  • オ。ナイスデザイン(肩にあしらわれた紋章に目をキラキラさせる少女)
    ヤギと火だなんて素敵だわ。 でも、黒ヤギさんの口元に本って何だか不安になるわね -- グラナーテ
    • (長尺の杖を肩に預けたまま、ちらりと少女に視線を向ける。すぐに視線を前へ戻し)
      …悪魔か。もとより、この紋はそういう意味のものだ…不安を覚えるのなら、それが正しい(そう、細い声で囁く) -- 《ブレイズ》
      • やっぱり、食べてしまうの? 黒ヤギのイメージといえばすっかり、あの童謡の黒ヤギよね…(トトッと歩み寄り)
        書の持つイメージは一杯あるわね(並んで歩く) 本そのものだったり、閉じられた秘密だったり、学業のことだったり -- グラナーテ
      • …あるいは、悪魔の使い…もしくはそのもの、だな(お前の縁類だ、とは口中でつぶやいて。隣を並んで歩く気配をそのままに、気遣うことなく自らのペースで、歩いていく)
        …後世に伝え残すべきものを記すものでもある、な。そしてその中には、決して残してはならないものもある―。 -- 《ブレイズ》
      • 書はニンゲンの生み出すものじゃない。全てを消すか、全て残してしまえばいいのに。…ニンゲンは、子を選ぶの?(とてとて、と早足の気配)
        消された子もニンゲンの生み出したものなら…ニンゲンが居る限りまた生まれてくるわよ? -- グラナーテ
      • …この黒山羊が喰らうのは、歴史書や学術書では、ない。人がその普通の生涯で生み出すものではない。
        火を宿す黒山羊が喰らうのは…魔を記した書物。読み手を狂わせ、破滅させる狂気の書。それだけだ―(声音に宿るのは、怨嗟。呪祷。どろりとしたねばつきを持つ昏いものを、男は確かに覗かせる)
        その手の魔書は、おおよそただの人の手から生まれない。人外、人知を超えたものが記し、ばらまくものが大半だ。
        だから―それらがいる限り、魔書は世界にばら撒かれ続ける、というのが正しいだろう。 -- 《ブレイズ》
      • 人知を超えたアーティファクト。ニンゲンの手では生み出せず、ニンゲンを魅了し… 時に、相争わせしめるモノ(ふと、先ごろ魔王から賜った神酒を思い出す)
        そうした人ならざるものからのラブレターを、だいなしにしちゃう象徴なのね。この黒ヤギさんは(歩きながら、そっと肩の紋章に触れようと手を伸ばす) -- グラナーテ
      • (反応は、即座だった)
        触れるな!(身を翻すようにして、その手を、自らの手の甲で打ち払う。それも、遠慮のない勢いで) -- 《ブレイズ》
      • あっ… (ずべっ、と道端に転がるトロい少女悪魔。受身も取れず、暫くしてからゆっくり身を起こして砂埃を払う)
        神聖なものだったの?悪魔が触っちゃダメ、みたいな(ごめんなさい。と謝って) それとか、私が触ると火傷しちゃうから気を使ってくれたとか -- グラナーテ
      • (呼吸は、荒い。担いでいた長尺杖を突きつけようと、腕に力を込めた瞬間―その、あまりにも的外れな言葉に、気勢を削がれた)
        (そのどちらでもない、とばかりに首を緩く振り)…名も知らない、初対面のものに、気安く触れられるのが、気に食わん。…お前を気遣う道理もない。
        (心にもないことを言うなと、自分の中の本心があきれ返るのを無視して、告げた) -- 《ブレイズ》
      • デリケートな場所なのね(わかったような、わからないような) 私も、よっぽど親しい人じゃないと耳を触られるのは嫌だもの
        (わかるわ… と独り頷く。山羊角の下の山羊耳がぴこぴこと動く) こういうときは… 距離を置きなおして、お友達からよね
        この街のマジックショップでお手伝いをしているの。悪魔のグラナーテよ(にっこり笑って) 今日のところは、自己紹介だけで帰るわ
        それじゃ。またね(不意に現れ声をかけてきたときと同様に、今度は突然雑踏の中にかき消えた) -- グラナーテ
      • (妙におかしなことを言われた気がしたが、その内容に気づくまでに若干の時間がかかった)
        おい、友達とは―(どういう意味だ、という言葉も、すでに消えた悪魔へは届かない)
        ……(不意に伸ばしていた腕を曲げ、自分の顔を手で覆う。しばらくの間、男はそこから離れず、立ち尽くし続けていた) -- 《ブレイズ》
  • (淀んだ瞳のまま、手当のための包帯を自分で巻いていく)
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    • (市街の中央から僅かに逸れた位置。気まぐれを起こしでもしない限り、人の立ち入ることのない寂れた通り)
      (そのうちの一つの建物の前で、黒尽くめは足を止めた。躊躇もなく、ドアを押し開けば、錆びついた鐘の音が鳴る)
      (一室、というよりは、廊下と表現したほうがいいだろう、その場所。左右を、本がぎっしりと詰め込まれた棚で飾られたその廊下の一番奥に、人がいた)
      …おや、お早い御着きで(足早に歩み寄ってくる黒尽くめを見て笑う人物は、初老と呼んで差し支えない男だった。白髪交じりの、ぼさぼさとした髪を指で掻き回しながら、続いて言葉を口にする)
      それで、首尾の方はどうかのぅ?
      • (問われた黒尽くめが返すのは、言葉ではなく、動作だった)
        (黒いコートの懐から取り出したものを、カウンターの上へと乗せる。…見るも無残に焼け焦げた、本の表紙の欠片)
        (それを見た老人は、嬉々とした表情を浮かべ、その破片を手に取った)
        おお、確かに確かに! 『帝王令状』に間違いない!! この黒表紙に、紛れもない金の装丁…噂の通りの煌びやかさじゃ!
      • (それを見る黒尽くめの表情は、帽子の下からでも冷ややかなものだと判別できた)
        (焦げた表紙を興奮した様子で撫で続ける老人へと、短く言葉を放つ)
        …それで、次は。
      • (対する老人のほうは、黒尽くめとは違い、表情の変化は露骨だった。不機嫌を隠そうともせずに黒尽くめを見上げ、睨み返す)
        なんじゃいせっかちな。少しは浸らせんかまったく…。
        しばらくは休んどけ、どうせすぐに忙しくなるじゃろうて。…報酬はいつものように届けさせるからの。
      • …わかった(一度だけ頷いて、黒尽くめが踵を返す。その態度の素っ気なさに、逆にあっけにとられるのは老人のほうだ)
        ちょっ、なんじゃい本当にせっかちな! お前も『焚書官』なら、きちんと情報をじゃな―!
      • 『焚書官』なら、やることは一つだ。…魔導書を燃やせればそれでいい。
        (振り返ることなく、言い放つ。結局そのまま、黒尽くめはその建物から出ていった)
        (再び鳴り響いた音が消えてから、老人は掛けていた眼鏡の位置を直して、ぼやく)
        まったく、あの男は…まあ、扱いやすくて助かるがのぅ。しかしそうなると、次はどうしたものか…やはりアレを狙わせるか? いやそれとも前々から情報だけは掴んでおったアレも捨てがたい…。
        (焼けた表紙の残骸を指で撫でながら、老人は自分の思考に没頭する。暗がりの中、その姿は無邪気な子供のようにも見えるのだった)
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  • (―深夜。街の中心部からは少し離れた場所にある、特権階級の集う住宅街の一角)
    (建ち並ぶ豪奢な造りの建物、その中でも一際大きなもの。その中の一室で、事は起きていた)
    • (明かりのない暗がり。普段ならば客人を大勢招き、お抱えの楽団による優雅な伴奏に身を委ね、舞踏を嗜むのであろうその大広間に、しかし今ある人影は二つのみだ)
      (一つは、恰幅のいい中年の男。寝起きの直後だったのだろうか、やや質素にも思える寝間着を着た彼は、その右腕で何かを抱え持っていた。荒い呼吸を繰り返し、額の汗をぬぐう様は、彼の内面を如実に物語っている)
      (もう一つは、暗がりの中にあってなおも暗い色彩を持つ、長身痩躯。目深に被った帽子の下の表情は見えないまま)
      ―それが、『帝王令状』か。手に持ったものが放つ言葉は、それがどんな悪法だろうと、絶対遵守されるものとなる―相違ないな?
      • (言葉を受けて唸るのは、何か―一冊の本を抱え持つ男のほうだ)
        一体何者だ貴様、なぜこの本のことを知っている!?(相手の視線から隠そうと、書を自分の腹で覆い隠すようにしながら、言葉を飛ばす)
        (しかし、それに答える言葉はない。代わりに響くのは、硬い一音だった)
        (長身痩躯の男が背負っていた、彼の背丈と同じほどはあろう、長物。それが床を突き、奏でた音だ。はらり、とそれを覆っていた布が解け、落ちていけば―その裏側から現れるのは、杖にも似た、しかし無骨な外見を持つ棒のようなもの)
        (それを右の手腕で払い、掲げ、腰だめに構える。中ほどから現れたグリップを握り、そこでようやく、帽子の男は口を開いた)
        『帝王令状』、人心を歪め支配する悪書―焚書に処す。
      • (その言葉が、切っ掛けだった)
        焚書官…! そうか、貴様があの、焚書官か!
        (得心の叫びとともに、本を持つ男が身を翻した。抱え隠していた書を再び手に取ると、それを開き、再び言葉を発する)
        『そこを動くな!』

        (その叫びが響いた直後、長杖を携えた男が、微かに息を呑んだ。突き出された黒い杖が、カタカタと震える。その様子を、本を携えたままの男が、嘲笑混じりに眺める)
      • は…ははは…! 何が焚書官だ、こんなものか!
        びびらせおって…真正面から何をするつもりだった?(恐怖から逃れた反動か、愉悦を過剰に滲ませた表情で、本の持ち主は嘲りを繰り返す。首元を弄り呼吸を落ち着かせてから、男はさらに『帝王令状』による命令を繰り出す)
        このまま放置しておくわけにもいかんな…『自害しろ、ここで死ね』。
      • (その効果は、覿面だった。告げられた男の左腕が、少しずつ動いていく。黒いコートの内側に潜った左手は、肉厚のナイフを握り締めていた。その切っ先が、徐々に、持ち主の首へと近づいていく。体の自由を奪われることに全力で抵抗しているのだろう、その進みは微々たるものだ)
        (だが、それも時間の問題だろうと、そう考える読み手の耳に飛び込んできたのは、現状にはそぐわない、落ち着いた秒読みだった)
        3…2…1…ゼロ。
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      • (爆音が、轟いた)
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      • (大広間の一角。通常であれば、楽団が並ぶであろうスペースから、炎が噴き上がった。それは瞬く間に床を、壁を嘗め尽くし、拡がり続けていく。熱気と煌々とした光が、空間を満たし始めていった)
        な、何だ、何が…!?(突然のことに余裕をなくし、狼狽える館の主。再び吹き荒れた爆風に身をあおられ、首を振り―その胸元に押し当てられたものに気が付いた。炎の照り返しを受けて煌く、黒い長杖)
        (杖の担い手は、淡々とした口調で呟く)
        …状況の変化で意識が逸れれば、魔導書は途端に効力を失う。お前も例から洩れなかったな。
      • (貴様、という言葉が最後まで言い切られたかどうか)
        (広間は、噴き上がり続ける炎に塗れ、崩れていく。その炎の宴は、朝日が昇るまでの間、途切れることなく続いていた―)

        (後日―)
        (爆発物による人為的な火災により倒壊したその建物から、死体が一つ見つかった)
        (死体が建物の主であることがわかると、近隣の人々はこぞって囃し立てた)
        (横暴に振る舞うあの男への当然の仕打ちだ、あるいは誰かがとうとう耐えきれずに手を下したのだ、と、そのほとんどがゴシップめいたものだったという)
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  • (長杖を抱えて部屋の隅。僅かに俯き、じっとしている) -- 《ブレイズ》
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  • 動くにはまだ舞台が整ってない感じではてさて。

Last-modified: 2014-06-18 Wed 23:08:38 JST (3152d)