ARA/0002
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- ◆SIDE ノエ --
- (寮の自室に戻ると、自分宛の荷物が届いており まず添付されていた手紙を開封する)
お師様から…でも、わざわざ対話水晶を使わずに手紙って… この荷物も、何か重要なものなのかな… (箱の中身はそれほど重くないのを確認し)…えーと、極秘任務……です?(ごくり…) -- ノエ
- 指定した日時、以下の場所へ潜入せよ…尚、この任務は極秘であるため正体が知られる事は決して許されない…(小声で便箋の内容を読み上げる…頬を伝う冷や汗)
潜入に必要な変装セットは同梱したので、活用するといいでしょう ……へ、変装!? 何かこう、国家間の陰謀的なあれこれに知らない間に巻き込まれてますか僕…! ん?でもこの住所って……え、学院内…? (荷物を開けて、中を確認する…衣類のようだ)……えぇーっ!?(そして日時の確認のためカレンダーを見る)………お師様、これは一体…。 -- ノエ
- ◆SIDE マルレーネ --
- (ザリアライト魔石。古代文明で幅広く利用されていた事からその名がつけられたが、その正しい使用法を知るものは殆ど居ない)
(一般的な魔石と同じ使い方では、魔石本来の能力を引き出すことができず…結果として二流の魔石と評されることになる) (ズィマーで遺跡の発掘調査が行われた際に、他の魔石も生活の中で利用されていた形跡があった。だというのに敢えて効率の悪いザリアライトを、採掘量だけを理由に主流とするだろうか?) (その疑問には早くから行き当っていた そして、ある仮説に辿り着く。) -- マルレーネ
- (ザリアライトはそもそも、他の魔石と比べて物質的に不安定なのだ。無理にマナを注ぎ込もうとすれば、容易く砕けてしまう)
(では、安定化させる方法を古代人は知っていたのではないだろうか。2年前、偶然発見された地下祭壇から、無傷の杖が回収された) (高純度のザリアライトを主体とし、他に4色の魔石が取り付けられた奇妙な杖。 考古学は専門外であるが、魔導器となれば話は別。鑑定依頼がマルレーネに回ってきたという訳だ) (確かに杖に見える…が、それを手に魔法を行使しようとしても ただの木の棒を握っているかのように何らの効果を及ぼさないのだ) -- マルレーネ
- (魔導器として認識されない。そんな現象があるものなのか…しかし現に起きているのも事実… ズィマーの様々な魔術師に使わせてみたが結果は同じ)
(後を絶たぬ、無謀な弟子入り志願の者たちにも握らせてみたが…魔導器なしの状態とまるで変わらない) (長期間放置されていたものゆえに、機能が死んでいる可能性もあった。杖についたレバーを動かせば、ザリアライトは取り外せる) (どうやら魔石そのものを交換できるシステムになっているようだ…そこで、他の魔石に付け替えて、杖として使用できないか実験してみた) (しかし結果は同様。魔導器として魔法の起点にはなり得ないという事が分かった…ならばこれは何なのか?) -- マルレーネ
- (ただの祭祀用の道具かもしれない。だが、魔石の使用自体がブロックされる必要性がそこに無い…)
(そうしている内、スープはすっかり冷めてしまった) (気分転換にと夕食をとりにきたレストランで、相変わらず思索に耽ってしまう。まずは食事を済まそう…スプーンを手に取った時のことだ) ん……(椅子に立てかけておいた例の杖に、肘をぶつけてしまった) -- マルレーネ
- 「あ……大丈夫ですか、お客様…」(給仕係の少年が、倒れかけた杖を支え…椅子に戻す)
(彼の手の中にある間、杖のザリアライトが煌々と輝いた。これまで一度も反応しなかった杖が、眠りから覚めたのだ) 君……! ボクの弟子になりませんか…いやーぁ、なって貰いますよーぉ!(全ての謎を解く鍵の、それが最初の一歩だった。) 「え、えぇぇぇっ…!?」(この時の給仕が、ノエ・マルベール…12歳の時のことであった) -- マルレーネ
- ◆SIDE ??? --
- (シグレと名乗る白狸がジアリウスに降り立ったのは王国歴270年。誰に召喚されたのでもない、自分の意思で渡ってきた)
(ゼイム北西部、ケーグル伯爵領の森奥深くで人目を避けるようにひっそりと暮らしていた) (4年経った頃、森の瘴気溜まりから魔族が現れ、人界を侵略していった…最初はただ、自らに振りかかる火の粉を払うだけ) (こちらを脅かさない限り手出しはしなかったが、魔界の軍勢は無差別に蹂躙を繰り返す。その内に気が付いた) (狩猟や採集を行うより、魔族を倒して奪った物資で人間たちと取引する方が危険はあれど実入りも大きいことに) --
- (ぼろぼろのキモノを纏い、カタナを提げたシグレを、ゼイムの民も最初は異様なものとして見ていた)
(しかしその白狸が自領の防衛に陰ながら大きく貢献していたことを知ったケーグル伯爵は、ある取引を持ち掛けた) 「我々人間側の指揮下で魔王軍と戦ってくれるならば、望みの褒美を出そう。」 (シグレは少し逡巡し、こう答えた) …あの森を頂戴、全部。 (伯爵は快諾した。瘴気が溜まりやすい場所など、戦後も魔物が湧きかねず管理の手間は馬鹿にならないのだから) --
- (人間の軍と行動を共にするようになってすぐ、シグレはこの世界で使われる「魔法」なるものに興味をそそられた)
(自らの使う妖術と似た性質に見えて、大きく異なるそれを知ることは 魔界の軍勢を相手取る上でも重要だった) (魔法の基礎を教えてくれたのは、同じ部隊のメールローという男だった。数か月後、彼は防衛戦の折に戦死してしまった) (その頃には、自らの妖術と魔法の概念を混ぜた「結晶魔法」を確立し…シグレの戦果は更に積みあがって行く…) (軍の士気高揚のため、格好の宣伝材料となったシグレだが…一つ問題点があった) (出自も明らかでない、家名も無い兵士では宣伝効果も薄い。そこで家名が必要になり…こう名乗った) (シグレ・メールロー。魔法の師である彼の家名を消さぬために、忘れないために。) --
- (そんな折だった、各地でその名を轟かす「勇者」と出会ったのは)
(まだ若い青年でありながら、勇者と持て囃されて調子づくでもなく 真っ直ぐな性格には好感を抱いた) 「████████、████████████?」 違います、シグネじゃなくてシグレ…! 「██…████、████?」 もう、じゃあそれでいいですよ…トーマ君には難しい発音のようですし (ただでさえ異世界から来たという彼に、ジアリウスとも違う更なる異世界の名前は馴染みが薄かったのかもしれない) (結局名前は間違えられたままだったが…勇者の活躍により、押され気味だったゼイムの戦線は攻勢に移ることができた) (ゼイムに留まる自分と違い、各地を転戦する彼と再び会う事など無いだろう。その時はそう思っていた) (しかし、遠からずその予想は裏切られる事となる。 共闘とは、まったく逆の形で…) --
- (パキィン、という甲高い音と共に宙を舞う愛刀「狭霧」の刀身。剣の腕での実力差は明らかだった)
(たった数回打ち合っただけで、こうも追い詰められるとは。これが勇者の実力か…それでも彼の剣には躊躇いが見えた) 「████████████████、████████!? ██████、████…!」 (憂いを帯びた表情は、かつて共闘した者の豹変をいまだ信じられない様子であった) 何故…ですって? ヒューマンがどれほど度し難いのか、理解してしまったからです。されど魔族の肩を持つ理由もなし…だから今のボクは、双方の敵。 あぁ、この目…ですか? あなた方流に言えば…名誉の負傷。右目が無いと不便なので…貰いました。ええと…何て言いましたっけ? 魔界の将軍の一人……もう名前は忘れてしまいました。 (失った右目の代わりに、敵から抉り出した魔族の目。その金色の魔眼を見開いて見せる) …そうだ、聞きたかったんですよトーマ君。 今のボクは、あなたからどう見えるのか。魔族?人類? --
- (格下であれば、その魔眼と視線が合うだけで発狂させることさえ容易い。だが彼はまるで動じなかった)
「██████████…█████!!」 あなたにもいずれ分かるはず…いつか必ず、裏切られる。 (柄だけになった狭霧に、紫水晶の刀身を生成し…再び構えをとる 同時に複数の魔法を発動させながら語る。自身の身に何が起きたのかを) --
- (戦況もだいぶ有利に傾いてきた頃、ある特別任務が与えられた。)
(戦線後方のある村は、魔族が人間に扮して諜報活動や破壊工作などの拠点に利用されているという) (残念ながら村民は全て犠牲になり、全員魔族と入れ替わっている ゆえに奇襲で全滅するべし) …愚かな話です、謀られていたのはボクの方だったなんて。 --
- (何の抵抗もなく、作戦はあっという間に遂行できた。村民に魔族など一人も居なかったという事実を除けば)
(情報に誤りがあった訳ではない、意図的に誤情報を流され…シグレ・メールローは突然の乱心により民間人の虐殺をしたという結果が残った) (この世界で生まれた者ならいざ知らず、異世界出身のシグレには人間と魔族の判別がつかない。そこを利用されてしまった) (勝利が間近になってきて、ケーグル伯爵は急に領地を譲るのが惜しくなった。というのも、希少魔石の鉱床があの森の奥で発見されたためだ) (そこで一計を案じた。実力で排除するのが困難であれば、人類の敵としてしまえばいい。魔族ともども葬られればそれでよし) --
- 世間では…味方の制止を振り切り、ボクが独断でやった事にされてるそうです。
あの森が欲しいのは…魔石なんかの為じゃないのに。放置すればいつでも魔界からの橋頭保にできる…それだけ危険な地だから 誰かが封じておかなきゃ、また何度でもこの戦争が起きる…幾ら説明しても、誰も耳を貸しませんでした。 当然…ですよね、狂人の戯言としか受け取られませんから。
「█████████████……███、█████…」 …なのでゼイム帝国軍のシグレは死にました。そうですね…今のボクはさしずめ、石英の魔女…シグネ・メールローとでも名乗りましょうか。 --
- (公式の記録では、この二人の戦いはその後半日に渡り続くも決着がつかず…その後、終戦まで石英の魔女の出現報告は無い) --
- ◆SIDE ノエ --
- (入学して約一か月。寮の自室で便箋にペンを走らせる…机の脇には、ゼイムから持ってきたデ・フェールの魔導書。)
(だけど、便箋に書き記されるのはただの数字の羅列。 ところどころにスペースが開く以外、記入されていくのは文字ではなく ひたすらに数字) -- ノエ
- (どうしてこんな事になったのかというと、話は4月にまで遡る…)
(王国歴499年4月 ゼイム帝国ズィマー リートフェルト家別邸にて) ほ、本当にやらなきゃいけないんですか…?(手渡された魔導書と、目の前の相手を交互に見て困惑の表情) -- ノエ
- 当然だ。父上はこの件に関して緘口令を敷き、兄上や俺にさえ話そうとしない。しかしファウゼンは何か事情を知っているであろう。
近頃は市井でも不穏な動きがあると聞く…よって、父上とファウゼンの企みを暴くのであれば、貴様が適任と言えよう? (傲岸不遜を絵に描いたような態度を崩さず、紅の衣装に身を包んだ鹿人の少年…リシャルト・リートフェルトは告げた) -- リシャルト
- た、企みって…お師様はそんな悪い事とか考えてないですって!リシャ…ちょっとそれは穿った見方というか…
お師様のことはともかく、御父上のことは信じてあげてもいいのではないでしょうか… (たまたま歳が近かったこともあり、お師様と一緒に挨拶に出向くうち…僕はリートフェルト家の次男、リシャルトと仲良くなった) (といっても、彼の唯我独尊ぶりは度を越したもので…たとえ友人であってもこんな態度。親しくない人が相手ならもっと酷い有様だ) -- ノエ
- ではあの爆発をどう説明する?対外的には魔族が突如現れるも、偶然居合わせたファウゼンと貴様が撃破…魔族は最後の力を振り絞って自爆した…という事だったな?
(トントンと机を叩きながら事の経緯を辿る)…何も考えぬ愚物どもはそれで騙せよう。俺が見るに、あれは遺物絡みであろう…でなくば、説明がつかんからな 俺の危惧するところは…万一にも父上がファウゼンと共謀し、あの力を独占し、現皇帝への謀反など考えていた場合だ(軍事力によるクーデター。その下準備としての情報統制…) -- リシャルト
- う、そ、それは…… じゃあ、そんな企みはないっていう証拠が出せればいいわけ、ですよね…
もしそんな兆候があったら、僕がこの杖の調査を終えた時点で…何らかの動きがあるはず、ですから…。 で……(改めて机の上に、魔導書を置き)……何でそれで、この魔導書が必要になるんです? -- ノエ
- ブックサイファーも知らぬのか、世話の焼ける奴だ。よくそれでファウゼンの弟子が務まるものだな?(全く同じ、初版本を並べるように置く)
手紙は暗号でやり取りする。俺と貴様以外では意味が分からぬようにな…(ぱらぱらとページを捲り)この本が暗号と復号のための鍵だ…なくすなよ? 本の記述内の単語を、ページ数や行、文字の順番を指定するために数列を用いる。 紅の兵団の諜報員の間では基本中の基本だ 本来はそこに解読用のコードを更に付け加えるが、貴様が理解できなくては意味もない 今回はシンプルに行くとするか -- リシャルト
- (以上、回想おしまい)
はぁ……お師様からも、ゼイム出身の生徒からそれとなく色々探る様にって言われてるのに…(書き終えた便箋を封筒に入れ、魔導書を本棚に戻す) どうして僕が二重スパイみたいな真似をしなきゃいけないんだろう…?(封書を投函するために、自室を後にした) -- ノエ
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