名簿/499634
- セックス! --
- 【6話】 --
- ――あるところに、グンロズの身体より大きな大きな湖があり、グンロズはしばらくそこに身を寄せていました。
その湖畔はまるで海に見紛う程大きく、湖畔線には沢山の種類の花が咲き乱れ、動物が遊び、鳥たちが集まる楽園のような場所でした。 グンロズはその場所を大層気に入り、温かな気候も相まって、しばらくはそこを根城にするつもりでした。 --
- ある日、温かな日差しでグンロズがうつらうつらしていると、誰かの声が聞こえて来ました。
人里から少し離れていたそこへ、近くの村から子供達が遊びに来ていたのでした。 その村でも、最近その湖にグンロズが住み始めたことは知られていたので、大人たちは子供たちにその湖へは近寄らないように言っておいたのですが、 子供の好奇心は押さえつけられれば強くなってしまうもので、男女入り乱れた五人ほどの子供は、言いつけを破って湖畔線で遊んでいました。 --
- グンロズは、その子供たちが何をしているのかが気になり、目を擦ってからその様子を眺めていました。
子供たちは湖畔に咲き乱れる花の中から、何かを探してはそれを編んだり束にしたりして何かを作っていました。 それは少し離れたところからグンロズの視界では何をしているのかは分かりませんでしたが、楽しそうな様子だけは伝わってきて、グンロズはにこりと微笑みました。 --
陽が落ち始め、子供たちが帰った後、グンロズはゆっくりと立ち上がって子供たちが遊んでいた湖畔線へと歩いて行き、 そこで何をしていたかを調べてみました。 彼女の大きな大きな指で湖畔線をなぞると、指先に編まれた花冠を見つけました。 まさかそんなものが落ちているとはグンロズは思わなかったので、力いっぱい摘み上げてしまい、その花冠はボロボロと崩れてしまいました。 グンロズは、少しだけ悲しそうな顔をしました。 --
- グンロズは、その崩れてしまった花冠を、湖畔の花で直そうとしてみました。
ですが、グンロズにとってそれは極小の針の穴に糸を通すような作業でしたし、何より彼女は不器用だったので、すぐに花冠は完全に壊れてしまい、元には戻りませんでした。 日が落ちた後、月の灯で一から花冠を作ってみようと、その指先で花を摘んでみたり、爪の先で編んでみたり、一生懸命頑張りました。 でも、無理なものは無理でした。何回編もうが、何回詰もうが、彼女が最初に手にとった花冠は再現できませんでした。 --
やがて、夜通しそれを行なっていたグンロズは眠くなってしまい、湖畔で横になって眠りました。 彼女が掘り返した湖畔線は、土をひっくり返したようになっており、グンロズの身体を大きく汚しましたが、それも気にならない程にグンロズは疲れていたのです。
翌朝、また遊びに来た子供たちは驚きました。 昨日自分たちが遊んでいた湖畔線に、大きな女の子が寝ていることに気づいたからです。 周囲は穴を掘ったように花ごと土がひっくり返されており、無茶苦茶に結ばれた花同士は不器用にも花冠のような形をしてそこらじゅうに転がっていました。 子供たちは思いました。きっとグンロズは、仲間に入れて欲しかったのだろうなと。 だから子供たちは、グンロズを起こさないように周囲で静かに静かに遊び始めました。 --
グンロズが再び目を覚ますと、もう既に日は傾いていました。 目をこすりながら起きると、寝る直前まで弄っていた土が目に入り、グンロズは痛い痛いと大きく袖で目をこすりました。 ぼんやりとした視界で、グンロズはあるものを見つけて、びっくりしました。 グンロズの周囲に、彼女が中心となるような花の輪が作られていたのです。 きっと、昨日遊んでいた子供たちが、起きたグンロズがびっくりするようにと、一日掛けて作ってくれたのだとグンロズは気づきました。 グンロズは、心が温かくなるのを感じました。 嬉しくなって、その花輪の中心で踊り出しました。 その姿は、遠くから見ればまるで湖畔線で遊ぶ、ただの女の子のように見えました。 グンロズは踊り疲れると、その場に座り込み、にこりと笑うと、花輪ごと湖畔を叩き潰しました。 --
【6話 終わり】 --
- 【5話】 --
- ――あるところに、おじいさんとおばあさんがおりましたので、叩き潰しました。 --
- 【4話】 --
- ――あるところに、金持ちの三兄弟がおりました。
彼らは生まれた時から富豪の息子であり、優秀な才能も持ち合わせていたので、何一つ望むことが出来ず、退屈な暮らしをしていました。 ある日、長男が次男と三男を夜遅くに起こしました。次男と三男は文句を言いながらも屋敷の外へと付き合うと、そこには大きな大きな女の子がいました。 遠目に見ても分かる程の大きさの女の子の姿を見て、三兄弟は生まれて初めてそれを欲しいと思いました。 --
- しかし、彼女には噂がありました。
彼女はその外見に似合わず、凶暴な性質を有しており、目に付く物全てを叩き潰す凶悪な巨人であると。 三兄弟はだから互いに協定を結び、彼女を見るだけに留め、側には近寄らないことにしました。 --
長男は、彼女を見やすいように自分の屋敷に展望台を作りました。 その展望台は高く、次男と三男の部屋から彼女の一部を隠すように作られていたので、二人の弟は憤慨しました。 長男はその様子を笑い、見るだけに留めるという協定には違反していないだろうと彼ら逆に窘めました。 --
- 次男は、檻を作りました。彼女と屋敷を覆うようなそれは、彼女を外に出さないための物であり、独占欲の強い次男らしい建築物でした。
長男と三男は憤慨しました。 長男は次男に言います。あれでは、まるで見世物だと。彼女は自由であればこそ彼女なのだと。 三男は次男に言います。もし彼女が気分を害したとき、噂通りの女の子なら僕らは叩き潰されてしまうと。 ですが次男はどこ吹く風で、彼女を檻の中に閉じ込めると、それこそが自分の愛なのだと二人をあざ笑いました。 --
- 三男は壁を作りました。三兄弟の中では一番臆病だったので、グンロズを欲していた彼ですが、同時に彼女がとても怖い存在であると思っていたからです。
その壁は、グンロズだけでなく、三兄弟の屋敷それぞれを覆う形で作られました。 この頃には、長男と次男のグンロズに対する思いは大きくズレてしまい、度々それが諍いの種になっていたので、それを防ぐための壁でもあったのです。 いつしか、三兄弟は同じ物を愛しながら、別々の方向を向いて生きていくことになってしまいました。 --
ある日、長男はこっそりとグンロズに会いに行きました。 グンロズは彼に気づくと、にこりと微笑みました。 長男はグンロズに向けて言います。 「もし可能ならば、私達兄弟の前からいなくなってくれないか」と。 その言葉は彼の本心ではありませんでしたが、彼が望むことではありました。 「二度と、君を欲しいと思えない程遠く、遠くに行ってくれたら、きっとまた私たちはやり直せる」と。 長男は、グンロズに恋焦がれていたのと同じくらい、兄弟のことを愛していたのです。 --
- 長男の後ろで、檻が開く音がしました。
振り返ると、そこには真夜中にもかかわらず次男の姿があり、彼が彼の作った檻を開く音でした。 「……俺達には、過ぎた存在だったのかもな」 次男は、どこか憑き物が落ちたような顔で長男に言うと、グンロズに長男と同じことを言いました。 「どうか、俺達が二度と君を欲しいと思えないほど遠くに、自由に羽ばたいてくれ。そうすれば、少なくとも俺達は君を忘れられる。 三男はきっと俺達を恨むだろうけれど、恨まれながらでも俺達兄はあいつを支えて三人でやっていけるんだ」と。 その言葉に、グンロズはにこりと微笑み、立ち上がるとゆっくりと檻を出て行きました。 --
- グンロズが屋敷を後にしようとすると、三男が起きてきたのかその様子を見咎めました。
長男と次男はしまったと思いました。私達二人はある程度覚悟を決めてここに来たが、三男にはまだそれがないはずだと。 三男はグンロズに追いつくと、大声で「行かないで」と叫びました。 長男と次男は、苦しそうな顔でそれを見守ることにしました。 --
- 「お願いだよ、行かないで。
まだ、君にはやってもらいたいことがあるんだ」 三男は怯えながらも、その言葉を口にしました。 臆病な三男にとっては、それを口にするのは長男や次男以上の勇気がいりましたが、震えながらもしっかりと伝えます。 「君がもし、噂通りの巨人の女の子なら、僕が僕の屋敷に作った壁を、壊していって欲しいんだ。 僕は兄達が争うのが怖かった。君がここから去るというのなら、きっとまた三人でやっていけるから」と。 グンロズは、立ち止まり、少しだけ何かを考えるように俯くと、にこりと微笑みました。 三男の言葉が届いたのか、グンロズは屋敷へと戻り、言葉通りに屋敷の壁を叩き潰しました。 --
- その様子を、三兄弟は眺めていました。
長男は思いました。本当に欲しかった物は、既に手に入れていたのだと。 次男は思いました。本当に欲しかった物は、これから手に入れていくのだと。 三男は思いました。本当に欲しい物は、三人でなら手に入るのだと。 グンロズは、その三兄弟が手を取り合う様を見て、にこりと笑うと、屋敷と三兄弟を叩き潰しました。 --
【4話 終わり】 --
- 【3話】 --
- ――あるところに、ラクダを売る行商人がいました。
行商人には、年の違う三人の子供がいました。 行商人は、そろそろ自分の息子達に自身の財産であるラクダを分配する必要があると思い、頭を悩ませていました。 彼の三人の息子に、それぞれ行商人が持つラクダ全体の1/2、1/3、1/9を分け与えたいと思っていました。 ですが、彼の持つラクダは全部で17頭、2でも、3でも、9でも割り切れなかったのです。 --
- そこに、グンロズが通りがかりました。
彼女は偶然、群れから逸れた1頭のラクダを従えていたので、 その事情を聞き、にこりと微笑むと、ラクダを全て叩き潰しました。 --
【3話 終わり】 --
- 【2話】 --
- ――あるところに、画家がいました。
画家とは言いますが、彼の描いた絵が世の中で認められたことはまだありませんでした。 何年も咲かない才能に苦悩し、何度も筆を折ろうと思っては、中途半端に諦めきれない夢にしがみついていました。 それくらい貧乏な彼だったので、その日も、空腹を紛らわせる為に画材を持って湖畔へと出てみたところ、 そこには先客がおり、しかもそれは湖畔と同じくらい大きな女の子でした。 --
- 画家はそこで寝ていた女の子……グンロズなのですが、彼女を見て閃きました。
彼女を仔細にスケッチすれば、きっと非日常的な情景を描くことが出来、きっとその絵画は他人にも認められると。 彼は画材を取り出すと、湖畔の側で座って寝ているグンロズをスケッチし、何枚かの絵を完成させました。 それを街へと持ち帰ると、直ぐにその足で画商店に行き、目利きの利く画商に見てもらうことにしました。 --
- 彼は、その絵に自信があったのですが、いかんせんそれまで半端に暮らしてきたせいで、その絵は価格が付く程ではなく、画家はいつも通りに絵を抱えたまま画商店から出てくることになりました。
画家の頭の中には、画商が最後に言った、売れる絵を持ってきてくれという言葉がずっと渦巻いていました。
行く宛もないので、湖畔に戻ってくると、グンロズはまだそこでぼーっと空を眺めていました。 彼女は大きさに比例するように緩やかな動作でしか動くことをせず、無防備に座ったままでした。 画家は思いました。売れる絵が必要とされているなら、売れる絵を描いてやろうではないかと。 --
- グンロズは身体が大きかったですから、例えば服の隙間から様々な物が見えていましたし、
それを気にする様子もありませんでしたから、角度を変えれば殿方を喜ばせるような情景を沢山見る事が出来ました。 画家は、その様子を仔細にスケッチし、それを画商へと持ち込むと、それは彼が久々に手にする自分の絵で得たお金に変わりました。 彼はその日から、グンロズを題材とした春画を毎日のように描いては、それを日銭へと変えて行きました。 --
そんなある日、画家は思いました。 毎日の生活は驚くほどに豊かになってはいるけれど、それは無防備な彼女から自分が搾取した金子ではないのかと。 そういう一方的なお金の流れこそ、自分が嫌がり、また絵の腕で覆そうと思っていたものではないのかと。 画家は、無性に自分の行為が恥ずかしくなり、グンロズの元へと走りました。 グンロズは相変わらず湖畔におり、画家が近づいてくると気づいたように顔を上げました。 --
- 「すまない。君に許可も取らずに、僕は恥知らずだった。
今すぐには無理かもしれないが、売ってお金に変えた君の絵は、必ず回収する。 どうか許してくれ、大きな君」
画家はそう言うと、深々と頭を下げました。 グンロズはその様子を見て、にこりと微笑むと、画家を叩き潰しました。 --
【2話 終わり】 --
- 【1話】
- ――あるところに、身体がとても大きな女の子がいました。
彼女はどこに座っていても、彼女の住む街から見る事が出来る程大きな体をしていました。 彼女は他の誰よりも大きかったせいで、もちろん住む場所も着る服も何一つ持っていませんでした。 不憫に思った町の人は、彼女に二つの贈り物をしました。 風雨、寒暖から身を守れる服と、神話になぞらえたグンロズという名前を、彼女に送ったのです。 --
- そうして、街の一員となったグンロズでしたが、平和な時は長くは続きませんでした。
彼女を軍事的に利用出来ると踏んだ隣の国が、彼女を捕縛しようと大勢の軍隊を寄越したのです。 村人達は、抵抗しました。 今まで当たり前のように村の入り口で外敵を寄せ付けないようにしてくれた村の守り神を、戦争の道具にはされたくなかったからです。 ですが、彼我の力の差は圧倒的でした。 そこには争いという物すら起こらず、最初から決まっていたかのように、グンロズは軍隊によって捕まってしまいました。 --
村人が悔しそうに見守る中、捕縛されたグンロズは何かを決したように立ち上がり、拘束を解きました。 今まで、ずっと座っているのを見ていただけの村人は驚きましたし、懐柔は容易だと思っていた軍隊も驚きました。 そこからの争いは、さらに争いと呼べる物ではありませんでした。 グンロズが大きく手を振り上げ、それを振り下ろすだけで、騎馬も、戦車も、大砲も、何もかもが叩き潰れました。 軍隊はボロボロに疲弊し、直ぐにグンロズの捕縛を中止して自国へと引き返していきました。 --
- グンロズはその様子をぼんやりと眺めた後、少しだけ汚れた服を綺麗に払いました。
村人はグンロズと離れずに済むと大喜びでした。 この街の守り神は、いつまでもこの村と共にあると、手を叩いて喜びました。 グンロズはその様子を見て、にこりと微笑むと、その村を叩き潰しました。
【1話 終わり】 --
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